特表2015-518577(P2015-518577A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-518577(P2015-518577A)
(43)【公表日】2015年7月2日
(54)【発明の名称】ポジ型平版印刷版原版
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/095 20060101AFI20150605BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20150605BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20150605BHJP
   G03F 7/32 20060101ALI20150605BHJP
   C08F 220/60 20060101ALI20150605BHJP
   C08F 222/40 20060101ALI20150605BHJP
【FI】
   G03F7/095
   G03F7/00 503
   G03F7/004 505
   G03F7/32
   C08F220/60
   C08F222/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2015-503412(P2015-503412)
(86)(22)【出願日】2013年3月22日
(85)【翻訳文提出日】2014年9月25日
(86)【国際出願番号】US2013033449
(87)【国際公開番号】WO2013148495
(87)【国際公開日】20131003
(31)【優先権主張番号】13/430,798
(32)【優先日】2012年3月27日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】590000846
【氏名又は名称】イーストマン コダック カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】セリン・サヴァリア−ハウク
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト・ハウク
(72)【発明者】
【氏名】レネ・ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ディートマー・フランク
【テーマコード(参考)】
2H125
2H196
4J100
【Fターム(参考)】
2H125AM10P
2H125AM32P
2H125AM36P
2H125AM38P
2H125AM39P
2H125AM57N
2H125AM64P
2H125AM67P
2H125AM80P
2H125AM86P
2H125AN10P
2H125AN32P
2H125AN39P
2H125AN44P
2H125AN54P
2H125AN66P
2H125AN92P
2H125AP01P
2H125AP11P
2H125BA02P
2H125BA12P
2H125BA17P
2H125BA20P
2H125BA33P
2H125CA04
2H125CB01
2H125CC03
2H125CC30
2H125CD02P
2H125CD06P
2H125CD08P
2H125CD09P
2H125CD38
2H196AA06
2H196BA11
2H196EA02
2H196EA04
2H196EA23
2H196GA13
2H196KA03
2H196KA06
4J100AJ02R
4J100AM02S
4J100AM21P
4J100AM21T
4J100AM48Q
4J100BA05T
4J100BC73P
4J100CA03
4J100CA10
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA38
(57)【要約】
ポジ型多層平版印刷版原版は、基板上に配置された内部画像形成性層を有する。この内部画像形成性層は、総内部画像形成性層乾燥重量基準で少なくとも50重量%及び最大で97重量%の総量で存在する1種又は複数の第1の高分子バインダーを含む。原版はまた、内部画像形成性層上に配置されたインク受容性外部画像形成性層も有し、このインク受容性外部画像形成性層は、第1の高分子バインダーとは異なる1種又は複数の第2の高分子バインダーを含む。1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々は、少なくとも200000の重量平均分子量を有し、少なくとも4の多分散度を有することもできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性表面を有する基板及び前記基板上に配置された2つ以上の層を含むポジ型平版印刷版原版であって、
前記層の少なくとも1つは赤外線吸収剤を含み、
前記2つ以上の層は
前記基板上に配置された内部画像形成性層であって、総内部画像形成性層乾燥重量基準で少なくとも50重量%及び最大で97重量%の総量で存在する1種又は複数の第1の高分子バインダーを含む内部画像形成性層と、
前記内部画像形成性層上に配置されたインク受容性外部画像形成性層であって、前記第1の高分子バインダーとは異なる1種又は複数の第2の高分子バインダーを含むインク受容性外部画像形成性層とを含み、
前記1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々が少なくとも200000の重量平均分子量を有する、ポジ型平版印刷版原版。
【請求項2】
前記1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々が少なくとも4の多分散度を有する、請求項1記載のポジ型平版印刷版原版。
【請求項3】
前記1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々が少なくとも200000〜600000の重量平均分子量を有し、且つ、少なくとも4〜10.5の多分散度を有する、請求項1記載のポジ型平版印刷版原版。
【請求項4】
前記1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々がポリマー1g当たり少なくとも40meq KOHの酸価を有し、
前記第1の高分子バインダーの少なくとも1種は以下の群のエチレン性不飽和重合性モノマーの1つ又は複数に由来する、ポリマー鎖に沿ってランダムに分布した繰り返し単位を含む:
a)N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド又はアルコキシメチル(アルキル)アクリレート、
b)ペンダントシアノ基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、
c)ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、
d)1個又は複数のカルボキシ、スルホ又はホスホ基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、及び
e)構造(D1)〜構造(D4)により表されるエチレン性不飽和重合性モノマー:
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(式中、
R1及びR2は独立に、水素又はアルキル、アルケニル、フェニル、ハロ、アルコキシ若しくはアシルオキシ基であるか、或いは、R1及びR2は共に、これらが結合している炭素原子と共に環を形成することができ、
R3及びR4は独立に、水素又はアルキル、フェニル若しくはハロ基であり、
R5はアルキル、アルケニル、シクロアルキル又はフェニル基であり、
R6〜R9は独立に、水素又はアルキル、アルケニル、フェニル、ハロ、アルコキシ、アシル若しくはアシルオキシ基であり、
R10は水素又はアルキル、フェニル若しくはヒドロキシ基である)、
請求項1記載のポジ型平版印刷版原版。
【請求項5】
前記1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々がポリマー1g当たり65meq KOHからポリマー1g当たり最大で130meq KOHの酸価を有し、
前記第1の高分子バインダーの少なくとも1種が、少なくとも:
N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド若しくはアルコキシメチル(アルキル)アクリレート、又は
ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー
に由来する繰り返し単位を含む、請求項4に記載の原版。
【請求項6】
前記第1の高分子バインダーの少なくとも1種が、全ポリマー繰り返し単位基準で少なくとも5重量%及び最大で30重量%の、1種又は複数のN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返しを含む、請求項5に記載の原版。
【請求項7】
前記第1の高分子バインダーの少なくとも1種が、
N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド若しくはアルコキシメチル(アルキル)アクリレート、及び
ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー
の両方に由来する繰り返し単位を含む、請求項4に記載の原版。
【請求項8】
前記インク受容性外部画像形成性層が、少なくとも1種の酸性ポリウレタン、少なくとも1種のカルボキシ官能化フェノール樹脂、及び、少なくとも1種の酸性ポリウレタンと少なくとも1種のカルボキシ官能化フェノール樹脂の組み合わせからなる群から選択される第2の高分子バインダーを含む、請求項1に記載の原版。
【請求項9】
前記赤外線吸収剤が、少なくとも0.5重量%及び最大で25重量%の量で存在する、請求項1に記載の原版。
【請求項10】
前記赤外線吸収剤が前記内部画像形成性層中にのみ存在する、請求項1に記載の原版。
【請求項11】
前記内部画像形成性層及び前記インク受容性外部画像形成性層が赤外線に露光すると、赤外線への露光前よりも12.5以下のpHを有する現像液で除去可能となる、請求項1に記載の原版。
【請求項12】
前記1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々が2−ブトキシエタノールの80重量%水溶液又はジアセトンアルコールの80重量%水溶液のいずれかに25℃で24時間攪拌すると、100mg/g未満の溶解度を有する、請求項1に記載の原版。
【請求項13】
1)前記1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々が少なくとも200000〜600000の重量平均分子量を有し、且つ、少なくとも4〜10.5の多分散度を有し、
2)前記1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々がポリマー1g当たり少なくとも40meq KOHの酸価を有し、
前記第1の高分子バインダーの少なくとも1種は以下の群のエチレン性不飽和重合性モノマーの1つ又は複数に由来する、ポリマー鎖に沿ってランダムに分布した繰り返し単位を含み:
a)N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド又はアルコキシメチル(アルキル)アクリレート、
b)ペンダントシアノ基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、
c)ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、
d)1個又は複数のカルボキシ、スルホ又はホスホ基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、及び
e)構造(D1)〜構造(D4)により表されるエチレン性不飽和重合性モノマー:
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
(式中、
R1及びR2は独立に、水素又はアルキル、アルケニル、フェニル、ハロ、アルコキシ若しくはアシルオキシ基であるか、或いは、R1及びR2は共に、これらが結合している炭素原子と共に環を形成することができ、
R3及びR4は独立に、水素又はアルキル、フェニル若しくはハロ基であり、
R5はアルキル、アルケニル、シクロアルキル又はフェニル基であり、
R6〜R9は独立に、水素又はアルキル、アルケニル、フェニル、ハロ、アルコキシ、アシル若しくはアシルオキシ基であり、
R10は水素又はアルキル、フェニル若しくはヒドロキシ基である)、
3)前記インク受容性外部画像形成性層は、少なくとも2種の第2の高分子バインダーを含み、その少なくとも一方は酸性ポリウレタンであり、その少なくとも他方はカルボキシ官能化フェノール樹脂であり、
4)前記赤外線吸収剤が、少なくとも0.5重量%及び最大で25重量%の量で存在し、
5)前記赤外線吸収剤が、前記内部画像形成性層中にのみ存在し、
6)前記内部画像形成性層及び前記外部画像形成性層を赤外線に露光すると、これらが赤外線への露光前よりも12.5以下のpHを有する現像液で除去可能となり、
7)基板はアルミニウム含有基板である、
請求項1に記載の原版。
【請求項14】
請求項1に記載のポジ型平版印刷版原版を赤外線に画像様に露光し、それによって前記内部画像形成性層及び前記インク受容性外部画像形成性層中に露光及び非露光領域を有する画像化原版を形成する工程と、
前記画像化原版を処理して前記内部画像形成性層及び前記インク受容性外部画像形成性層の前記露光領域を除去し、平版印刷版を形成する工程と
を含む、平版印刷版を製造する方法。
【請求項15】
前記画像様露光と前記処理との間に原版の中間処理が存在しない、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記処理が少なくとも6及び最高で12.5のpHを有する処理液を使用して行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記処理が少なくとも7及び最高で13.5のpHを有する処理液を使用して行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記画像様露光及び前記処理後、前記平版印刷版が室温より上の温度で少なくとも1分間焼き付けられる又は前記平版印刷版が赤外線に均一に露光される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
請求項13に記載のポジ型平版印刷版原版を赤外線に画像様に露光し、それによって前記内部画像形成性層及び前記インク受容性外部画像形成性層中に露光及び非露光領域を有する画像化原版を形成する工程と、
前記画像化原版を処理して前記内部画像形成性層及び前記インク受容性外部画像形成性層の前記露光領域を除去し、平版印刷版を形成する工程と
を含む、平版印刷版を製造する方法。
【請求項20】
親水性表面を有する基板及び前記基板上に配置された2つ以上の層を含み、
前記層の少なくとも1つは赤外線吸収剤を含み、
前記2つ以上の層は
前記基板上に配置された内部画像形成性層であって、総内部画像形成性層乾燥重量基準で少なくとも50重量%及び最大で97重量%の総量で存在する1種又は複数の第1の高分子バインダーを含む内部画像形成性層と、
前記内部画像形成性層上に配置されたインク受容性外部画像形成性層であって、前記第1の高分子バインダーとは異なる1種又は複数の第2の高分子バインダーを含むインク受容性外部画像形成性層とを含み、
前記1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々は少なくとも200000の重量平均分子量及び少なくとも4の多分散度を有し、
前記内部画像形成性層及び前記インク受容性外部画像形成性層は非露光領域でのみ前記基板上に存在する一方で、前記内部画像形成性層及び前記インク受容性外部画像形成性層は露光領域では除去されて前記基板の前記親水性表面を露出している、
平版印刷版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その後本発明の方法に使用して改善した耐刷性等の改善した特性を有する平版印刷版を提供することができる多層ポジ型平版印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の、すなわち、「ウェット」平版印刷では、画像部として知られているインク受容性領域が親水性表面上に形成される。表面を水で湿らせ、インクを塗布すると、親水性領域は水を保持し、インクをはじき、インク受容性領域はインクを受容し、水をはじく。インクは、画像が再生される材料の表面に運ばれる。例えば、インクは最初に中間ブランケットに運ばれ、今度はこれが、インクを画像が再生される材料の表面に運ぶために使用される。
【0003】
平版印刷版を調製するために有用な画像形成性要素は、典型的には基板の親水性表面上に塗布された1つ又は複数の画像形成性層を含む。画像形成性層は、適当なバインダーに分散され得る1種又は複数の放射(光)感受性成分を含む。或いは、放射感受性成分がバインダー材料であってもよい。画像化後、画像形成性層の画像化領域又は非画像化領域が適当な現像液により除去され、基板の下にある親水性表面が明らかになる。画像化領域が除去される場合、要素はポジ型とみなされる。逆に、非画像化領域が除去される場合、要素はネガ型とみなされる。各例で、インク受容性のままである画像形成性層(すなわち、画像部)の領域、及び現像工程により明らかになる親水性表面の領域が水及び水溶液、典型的には湿し水を受容し、インクをはじく。
【0004】
直接デジタル又は熱画像化が、その環境光に対する安定性のために印刷業界でますます重要になってきている。平版印刷版を調製するための画像形成性要素は、熱又は赤外線に感受性となるよう設計されており、より一般的にはコンピュータ内の画像のデジタルコピーからのシグナルに応じて画像化する赤外レーザーダイオード、プレートセッターのサーマルヘッドを使用して露光することができる。この「コンピュータ・トゥ・プレート」技術が一般的に、マスキングフィルムを使用して要素を画像化する前者の技術に取って代わっている。
【0005】
これらの画像化技術は、画像化層(複数可)の露光(ポジ型)又は非露光(ネガ型)領域を除去するためにアルカリ性現像液の使用を要する。IRイメージング用に設計されたポジ型平版印刷版原版のいくつかの例では、赤外線感受性吸収化合物(IR染料等)を含む組成物が阻害し、他の溶解阻害剤がコーティングをアルカリ性現像液に不溶性にし、IR露光領域にのみ可溶性にする。
【0006】
ポジ型平版印刷版原版への米国特許第7544462号明細書(Levanonら)及び米国特許出願公開第2011/0059399号明細書(Levanonら)に記載されているポリ(ビニルアセタール)樹脂の使用が良好な耐刷性をもたらすことは周知であるが、平版現像及び印刷に使用されるもの等の溶剤への耐性を改善することがなお必要とされている。例えば、嵩高いエステル基をポリ(ビニルアセタール)骨格のビニルアルコール単位上に導入することにより、平版印刷分野における耐溶剤性を改善するための多くの努力がなされてきた。この努力により耐溶剤性が改善され得る。しかしながら、これにより得られた平版印刷版の耐刷性が減少するおそれがある。したがって、一方の特性を提供することができるものは他方の特性を損なうおそれがあるために、耐刷性と耐溶剤性の両方を提供することは困難である。
【0007】
平版印刷版が焼付性を有することができるようにするためには、例えば、レゾール樹脂についての高い耐溶剤性が必要とされる。ポリ(ビニルアセタール)樹脂は、同じ所望の特性を有するものを一貫して製造することが困難であることも分かっている。換言すれば、バッチ間の不均一性が存在するおそれがあり、これにより樹脂を使用して平版印刷版原版を製造する前に樹脂の各バッチを予備試験することが必要となる。
【0008】
平版印刷業界の従業者は、温和な条件下での良好な画質、フォトスピード、耐溶剤性、焼付性、及びポジ型平版印刷版原版における改善した耐刷性の所望の特性を提供するポリマーを製造しようと多くの時間を費やしてきた。
【0009】
米国特許第7824840号明細書(Patelら)は、二層ポジ型平版印刷版原版に使用するためのコポリマーを記載している。主要な高分子バインダーは、少なくとも40の酸価を有し、1種又は複数のN−アルコキシメチル(アルキル)アクリルアミド又はアルコキシメチル(アルキル)アクリレートに由来する繰り返し単位、アクリロニトリル等のペンダントシアノ基を有する1種又は複数のエチレン性不飽和重合性モノマーに由来する繰り返し単位、及び1個又は複数のカルボキシ、スルホン酸又はリン酸基を有する繰り返し単位を含む。
【0010】
米国特許出願公開第2011/0097666号明細書(Savariar−Hauckら)は、米国特許第7824840号明細書(上記)に記載されているものと類似のポリマーを記載しているが、このポリマー中の酸性繰り返し単位は、なお一層の耐溶剤性及び焼付性を提供する1H−テトラゾール基を有する。
【0011】
当分野のこれらの進歩にもかかわらず、耐溶剤性を損失することなくポジ型平版印刷版原版の耐刷性を改善することが依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第7544462号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0059399号明細書
【特許文献3】米国特許第7824840号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2011/0097666号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、親水性表面を有する基板及び基板上に配置された2つ以上の層を含むポジ型平版印刷版原版であって、層の少なくとも1つは赤外線吸収剤を含み、
2つ以上の層は
基板上に配置された内部画像形成性層であって、総内部画像形成性層乾燥重量基準で少なくとも50重量%及び最大で97重量%の総量で存在する1種又は複数の第1の高分子バインダーを含む内部画像形成性層と、
内部画像形成性層上に配置されたインク受容性外部画像形成性層であって、第1の高分子バインダーとは異なる1種又は複数の第2の高分子バインダーを含むインク受容性外部画像形成性層とを含み、
第1の1種又は複数の高分子バインダーの各々は少なくとも200000の重量平均分子量を有するポジ型平版印刷版原版を提供する。
【0014】
本発明のいくつかの原版では、
1)1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々は少なくとも200000及び最大で600000の重量平均分子量、ならびに少なくとも4及び最大で10.5の多分散度を有し、
2)1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々はポリマー1g当たり少なくとも40meq KOHの酸価を有し、第1の高分子バインダーの少なくとも1種は以下の群のエチレン性不飽和重合性モノマーの1つ又は複数に由来する、ポリマー鎖に沿ってランダムに分布した繰り返し単位を含み:
a)N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド又はアルコキシメチル(アルキル)アクリレート、
b)ペンダントシアノ基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、
c)ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、
d)1個又は複数のカルボキシ、スルホ又はホスホ基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、及び
e)構造(D1)〜構造(D4)により表されるエチレン性不飽和重合性モノマー:
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
【0019】
(式中、R1及びR2は独立に、水素又はアルキル、アルケニル、フェニル、ハロ、アルコキシ若しくはアシルオキシ基である、或いはR1及びR2は共にこれらが結合している炭素原子と共に環を形成することができ、
R3及びR4は独立に、水素又はアルキル、フェニル若しくはハロ基であり、
R5はアルキル、アルケニル、シクロアルキル又はフェニル基であり、
R6〜R9は独立に、水素又はアルキル、アルケニル、フェニル、ハロ、アルコキシ、アシル若しくはアシルオキシ基であり、
R10は水素又はアルキル、フェニル若しくはヒドロキシ基である)、
3)インク受容性外部画像形成性層は、少なくとも2種の第2の高分子バインダーを含み、その少なくとも一方は酸性ポリウレタンであり、その少なくとも他方はカルボキシ官能化フェノール樹脂であり、
4)赤外線吸収剤は、少なくとも0.5重量%及び最大で25重量%の量で存在し、
5)赤外線吸収剤は、内部画像形成性層中にのみ存在し、
6)内部画像形成性層及び外部画像形成性層を赤外線に露光すると、これらが赤外線への露光前よりも12.5以下のpHを有する現像液に除去可能になり、
7)基板はアルミニウム含有基板である。
【0020】
本発明はまた、
本発明のポジ型平版印刷版原版(例えば、上記)を赤外線に画像様に露光し、それによって内部画像形成性層及びインク受容性外部画像形成性層中に露光及び非露光領域を有する画像化原版を形成する工程と、
画像化原版を処理して内部画像形成性層及びインク受容性外部画像形成性層の露光領域を除去し、平版印刷版を形成する工程と
を含む、平版印刷版を製造する方法を提供する。
【0021】
更に、本発明は、親水性表面を有する基板及び基板上に配置された2つ以上の層を含む平版印刷版であって、層の少なくとも1つは赤外線吸収剤を含み、
2つ以上の層は
基板上に配置された内部画像形成性層であって、総内部画像形成性層乾燥重量基準で少なくとも50重量%及び最大で97重量%の総量で存在する1種又は複数の第1の高分子バインダーを含む内部画像形成性層と、
内部画像形成性層上に配置されたインク受容性外部画像形成性層であって、第1の高分子バインダーとは異なる1種又は複数の第2の高分子バインダーを含むインク受容性外部画像形成性層とを含み、
1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々は少なくとも200000の重量平均分子量及び少なくとも4の多分散度を有し、
内部画像形成性層及びインク受容性外部画像形成性層は非露光領域でのみ基板上に存在する一方で、内部画像形成性層及びインク受容性外部画像形成性層は露光領域では除去されて基板の親水性表面を露出している、
平版印刷版を提供する。
【0022】
特定の分子量と、いくつかの実施形態では、特定の多分散度の両方を有するよう設計された特定のポリマーは、所望の耐溶剤性を維持しながら、改善した耐刷性を有する多層ポジ型平版印刷版原版を提供することが分かった。これらの有用なポリマーは印刷面を形成しない下(内部)画像形成性層に組み込まれる。これらの所望の特性は、予備反応条件ならびに溶媒等の合成のための反応物質、温度、重合性モノマー及び重合開始剤濃度の賢明な選択によりポリマーに設計される。例えば、反応条件に応じたN−ヒドロキシ又はアルコキシメチル(メタ)アクリルアミドを含むモノマーの混合物の共重合により、所望の高分子量及び高い多分散度を有する分枝ポリマーが形成される傾向があることが分かった。
【0023】
一般的に、非常に高い分子量のポリマーは、「剥離型」現像及び乏しい画像解像度等の平版印刷版の問題を引き起こすおそれがある。「剥離型」現像という用語は、現像において溶解除去するよりもむしろ多数の粒子としてコーティングをはがす又は持ち上げることを指す。この効果により、持ち上げられた材料が処理装置のローラー上に再堆積する問題が起こるおそれがある。高い多分散度のポリマーを使用することの利点は、高分子量分画が長い耐刷性に寄与し、低分子量分画が耐溶剤特性を損失することなく良好な現像性を維持することである。
【0024】
本発明の利点のさらなる詳細は、以下に提供する説明及び実施例を検討することにより明らかになるだろう。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
文脈上他の意味に解釈すべき場合を除いて、本明細書で使用する場合、「平版印刷版原版」、「ポジ型平版印刷版原版」、「原版」及び「多層ポジ型平版印刷版原版」という用語は、本発明の実施形態への言及であることが意図されている。
【0026】
「支持体」という用語は、本明細書において、種々の層が適切にコーティング又は塗布された親水性物品を指す「基板」を調製するためにその後処理されるアルミニウム含有材料(ウェブ、シート、箔又は他の形態)を指すために使用される。
【0027】
更に、文脈上他の意味に解釈すべき場合を除いて、本発明の方法に使用される原版中の種々の層又は現像(処理)液の成分等の本明細書に記載される種々の成分は、これらの成分の1種又は複数を指す。したがって、単数形「a」、「an」又は「the」は、必ずしも単一成分のみを指すことを意図しておらず、複数指示対象も含むことができる。
【0028】
本出願で明確に定義されていない用語は、当業者により一般的に受け入れられる意味を有すると理解されるべきである。用語の解釈が用語を本文脈中で無意味又は本質的に無意味にする場合、この用語の定義は標準的な辞書からとられるべきである。
【0029】
本明細書で特定される種々の範囲の数値の使用は、特に明示的に指定されない限り、あたかも表示範囲内の最小及び最大値の前に共に単語「約」があるかのように、近似とみなされる。このように、表示範囲の上及び下のわずかな変動を使用してその範囲内の値と実質的に同じ結果を達成することができる。更に、これらの範囲の開示は、最小値と最大値との間の全ての値を含む連続範囲を意図されている。
【0030】
特に明示しない限り、百分率は、組成物若しくは層の乾燥重量によるパーセント又は溶液の固形分%を指す。
【0031】
本明細書で使用する場合、「赤外線吸収剤」という用語は、700nm以上で始まる放射光の波長に感受性であり、堆積している層中で光子を熱に変換することができる化合物を指す。
【0032】
本明細書で使用する場合、「赤外」という用語は、少なくとも700nm以上のλmaxを有する放射光を指す。ほとんどの例で、「赤外」という用語は、本明細書において少なくとも700nm及び最大で1400nmであると定義される電磁スペクトルの「近赤外」領域を指すために使用される。
【0033】
ポリマーに関する用語について定義を明確化するために、国際純正応用化学連合(「IUPAC」)により出版されている「Glossary of Basic Terms in Polymer Science」、Pure Appl. Chem. 68、2287〜2311(1996)を参照すべきである。しかしながら、本明細書に明示的に示される定義が支配するとみなされるべきである。
【0034】
特に明示しない限り、例えば、異なる定義を有する第1の高分子バインダーに関連して、「ポリマー」及び「高分子」という用語はオリゴマーを含む高及び低分子量ポリマーを指し、ホモポリマー及びコポリマーを含む。
【0035】
「コポリマー」という用語は、ポリマー骨格に沿ったランダムな順序の2種以上の異なるモノマーに由来するポリマーを指す。すなわち、これらは、ブロックコポリマーが指定されない限り、ポリマー鎖に沿ったランダムな順序の異なる化学構造を有する繰り返し単位を含む。
【0036】
「骨格」という用語は、複数のペンダント基が結合することができるポリマー中の原子の鎖を指す。このような骨格の例には、1種又は複数のエチレン性不飽和重合性モノマーの重合から得られる「全炭素」骨格がある。しかしながら、他の骨格はヘテロ原子を含むことができ、ここではポリマーが縮合反応又はある他の手段により形成される。
【0037】
基板
ポジ型平版印刷版原版中に存在する2つ以上の層は、適当な基板上に配置される。多くの実施形態では、内部画像形成性層及びインク受容性外部画像形成性層が唯一の層であり、これらは基板の直接上に(隣接して)配置される。
【0038】
基板は一般的に、画像化側に塗布された画像形成性層(複数可)よりも親水性の親水性表面を有する。基板は、平版印刷版等の原版を調製するために従来使用されている任意の材料で構成され得る支持体を含む。これは通常、シート、フィルム又は箔(又はウェブ)の形態であり、カラー記録がフルカラー画像を登録するように使用の条件下で強く、安定で、可撓性で、寸法変化に耐性である。典型的には、支持体は、高分子フィルム(ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、セルロースエステルポリマー及びポリスチレンフィルム等)、ガラス、セラミック、金属シート若しくは箔、又は薄板紙(樹脂塗工及び金属蒸着紙を含む)、又はこれらの材料のいずれかの積層(ポリエステルフィルム上へのアルミ箔の積層等)を含む任意の自己支持形材料であり得る。金属支持体には、アルミニウム、銅、亜鉛、チタン及びこれらの合金のシート又は箔が含まれる。
【0039】
高分子フィルム支持体を、親水性を強化するために「下塗り」層により片方又は両方の平面上を修飾することができる、或いは紙支持体も平坦度を強化するために同様に塗工することができる。下塗り層材料の例としては、それだけに限らないが、アルコキシシラン、アミノ−プロピルトリエトキシシラン、グリシジオキシプロピルトリエトキシシラン及びエポキシ官能性ポリマー、ならびにハロゲン化銀写真フィルムに使用されている従来の親水性下塗り材料(ゼラチンならびに他の天然及び合成親水コロイドならびに塩化ビニリデンコポリマーを含むビニルポリマー等)が挙げられる。
【0040】
1つの有用な基板は、物理的(機械的)粒化、電気化学的粒化又は化学的粒化によるある種の粗化、通常は引き続いて陽極酸化を含む、当分野で既知の技術を使用して処理され得るアルミニウム支持体で構成されている。アルミニウム支持体は、物理的又は電気化学的粒化により粗化され、次いで、リン酸又は硫酸及び従来手順を使用して陽極酸化され得る。有用な親水性平版印刷基板は、平版印刷のための親水性表面を提供する、電気化学的に粒化され、硫酸又はリン酸で陽極酸化されたアルミニウム支持体である。
【0041】
アルミニウム支持体の硫酸陽極酸化は一般的に、少なくとも1.5g/m2及び最大で5g/m2、より典型的には少なくとも3g/m2及び最大で4.3g/m2の表面上の酸化物重量(被覆度)を提供する。リン酸陽極酸化は一般的に、少なくとも1.5g/m2から最大で5g/m2、より典型的には少なくとも1g/m2及び最大で3g/m2の表面上の酸化物重量を提供する。
【0042】
中間層は、親水性を高めるために、例えば、ケイ酸塩、デキストリン、フッ化カルシウムジルコニウム、ヘキサフルオロケイ酸、ポリ(ビニルホスホン酸)(PVPA)、ビニルホスホン酸コポリマー、ポリ[(メタ)アクリル酸]又はアクリル酸コポリマーでアルミニウム支持体を後処理することにより形成することができる。なお更に、アルミニウム支持体を、無機フッ化物(PF)を更に含有することができるリン酸塩溶液で処理することができる。アルミニウム支持体を、表面親水性を改善するために既知の手順を使用して電気化学的に粒化し、硫酸−陽極酸化し、PVPA又はPFで処理することができる。
【0043】
基板はまた、最外面での円柱状細孔の直径が円柱状細孔の平均直径の少なくとも90%となるように外面に円柱状細孔を提供するためにアルカリ性又は酸性細孔拡幅溶液でも処理された粒化及び硫酸陽極酸化アルミニウム含有支持体を含む。この基板は、粒化され、硫酸陽極酸化され、処理されたアルミニウム含有支持体の直接上に配置された親水性層を更に含むことができ、親水性層は、カルボン酸側鎖を有する非架橋親水性ポリマーを含む。前記基板のさらなる詳細及びこれらを提供する方法は、同時係属の本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第13/221936号明細書(Hayashiにより2011年8月31日に出願)に提供されている。
【0044】
基板の厚さは様々であり得るが、印刷からの摩耗に耐えるのに十分であり、字枠を巻くのに十分薄くなるべきである。有用な実施形態には、少なくとも100μm及び最大で700μmの厚さを有する処理アルミ箔が含まれる。
【0045】
基板の後側(非画像化側)を帯電防止剤、滑性層又は艶消し層でコーティングして原版の取り扱い及び「感触」を改善することができる。
【0046】
内部画像形成性層
内部画像形成性層は、インク受容性外部画像形成性層と基板との間に配置される。典型的には、この層は基板(上記の任意の親水性コーティングを含む)の直接上に配置される。内部画像形成性層は、一般的に、赤外線への露光前よりも、適当な処理液(例えば、pH12.5以下の処理液又は現像液)を使用して除去可能な1種又は複数の第1の高分子バインダーを含む。更に、第1の高分子バインダーは通常、インク受容性外部画像形成性層をコーティングするために使用される溶媒(複数可)に不溶性であるので、結果として内部画像形成性層を溶解することなく、インク受容性外部画像形成性層を内部画像形成性層上にコーティングすることができる。所望であれば、これらの第1の高分子バインダーの混合物を内部画像形成性層に使用することができる。このような第1の高分子バインダーは一般的に、総乾燥内部画像形成性層重量基準で少なくとも50重量%、一般的に少なくとも80重量%及び最大で97重量%の量で内部画像形成性層中に存在する。
【0047】
1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々は、ゲル浸透クロマトグラフィー(ポリスチレン標準)により測定される、少なくとも200000及び最大で600000の重量平均分子量(Mw)、典型的には少なくとも300000及び最大で450000の重量平均分子量を有する。
【0048】
更に、1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々は、少なくとも4及び最大で10.5、典型的には少なくとも4.5及び最大で8の多分散度を有することができる。多分散度は、重量平均ポリマー分子量(Mw)と数平均ポリマー分子量(Mn)の比、すなわち、Mw/Mnとして定義される。
【0049】
更に、1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々は、滴定により測定される、ポリマー1g当たり少なくとも40meq KOHの酸価、典型的にはポリマー1g当たり少なくとも65meq KOH及びポリマー1g当たり最大で130meq KOHの酸価を有する。
【0050】
第1の高分子バインダーの少なくとも1種は、以下の群のエチレン性不飽和重合性モノマーの1つ又は複数に由来する、ポリマー鎖に沿ってランダムに分布した繰り返し単位を含む:
a)N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド又はアルコキシメチル(アルキル)アクリレート(「アルキル」は置換及び非置換メチル及びエチル基を含む)、
b)ペンダントシアノ基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、
c)ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、
d)1個又は複数のカルボキシ、スルホ又はホスホ基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、及び
e)構造(D1)〜構造(D4)により表されるエチレン性不飽和重合性モノマー:
【0051】
【化5】
【0052】
【化6】
【0053】
【化7】
【0054】
【化8】
【0055】
構造(D1)〜構造(D3)中のR1及びR2基は独立に、水素、又は置換若しくは非置換、直鎖若しくは分枝アルキル(1〜20個の炭素原子)、置換若しくは非置換アルケニル(2〜20個の炭素原子)、置換若しくは非置換フェニル、ハロ、アルコキシ(1〜20個の炭素原子)、アシル、又はアシルオキシ基である、或いはR1及びR2は共にこれらが結合している炭素原子と共に置換若しくは非置換環(少なくとも5個の原子が環を形成する)を形成することができる。これらの基上の任意の置換基は、当業者に容易に明らかになるだろう。典型的には、R1及びR2基は独立に、水素、又は1〜4個の炭素原子を有する置換若しくは非置換アルキル基(メチル、エチル、イソ−プロピル及びt−ブチル基等)である。
【0056】
構造(D1)〜構造(D3)中のR3及びR4基は独立に、水素、又は置換若しくは非置換アルキル(1〜20個の炭素原子)、置換若しくは非置換フェニル、又はハロ基である。典型的には、R3及びR4基は独立に、1〜6個の炭素原子を有する置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換フェニル基、及びクロロ基である。
【0057】
構造(D2)中、R5は置換若しくは非置換アルキル(1〜20個の炭素原子)、アルケニル(2〜20個の炭素原子)、シクロアルキル(環内に5〜10個の炭素原子)、又はフェニル基である。典型的には、R5はメチル、エチル又はベンジル基である。
【0058】
構造(D3)及び(D4)中のR6〜R9基は独立に、水素、又は置換若しくは非置換アルキル(1〜20個の炭素原子)、アルケニル(2〜20個の炭素原子)、アルコキシ(1〜20個の炭素原子)、又はフェニル基、ハロ、アシル、又はアシルオキシ基である。典型的には、R6〜R9は独立に、水素、メチル又はエチル基である。
【0059】
構造(D4)中、R10は置換若しくは非置換アルキル(1〜20個の炭素原子)、又はフェニル基、又はヒドロキシ基である。典型的には、R10は置換若しくは非置換フェニル基である。
【0060】
a)群の繰り返し単位を提供することができるエチレン性不飽和重合性モノマーには、それだけに限らないが、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−イソ−プロポキシメチルメタクリルアミド、N−n−ブトキシメチルメタクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、イソ−プロポキシメチルメタクリレート、N−シクロヘキソキシメチルメタクリルアミド、フェノキシメチルメタクリレート、N−イソブトキシメタクリルアミド、N−t−ブトキシメタクリルアミド、N−エチルヘキシルオキシメタクリルアミド、N−メトキシメチルアクリレート、N−シクロヘキシルオキシメチルアクリルアミド、フェノキシメチルアクリレート及びN−エトキシメチルアクリレートが含まれる。
【0061】
b)群の繰り返し単位を提供することができるエチレン性不飽和重合性モノマーには、それだけに限らないが、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、p−シアノスチレン等のシアノスチレン、及びエチル−2−シアノメチルメタクリレート等のシアノ(メタ)アクリレートが含まれる。
【0062】
c)群の繰り返し単位を提供することができるエチレン性不飽和重合性モノマーには、それだけに限らないが、ペンダント1H−テトラゾール基及び1個又は複数のエチレン性不飽和フリーラジカル重合性基を有するエチレン性不飽和重合性モノマーが含まれる。アルカリ性溶液中、テトラゾール基は、以下の式(1):
【0063】
【化9】
【0064】
(式中、X1は非高分子の残り又はポリマー骨格に結合した結合基を表す)
に示されるように1位で水素原子を失う。多くの実施形態(全てではない)で、1H−テトラゾールは5位で窒素に結合している。1H−テトラゾール基は、−C(=O)−NR1−、−NR1−、−NR1−(C=O)−NR2−、−S−、−OCO(=O)−若しくはCH=N−基、又はこれらの組み合わせを含む結合基Lを通して高分子バインダー骨格の一部を形成するエチレン性不飽和基に結合し得る。特に有用な結合基には、−C(=O)−NR1−及びNR1−(C=O)−NR2−が含まれる。言及する結合基は、骨格に直接結合することができる、又は結合鎖中最大で30個の原子を有する有機基を通して結合することができる。
【0065】
この種の有用なエチレン性不飽和重合性モノマーの例は、米国特許出願公開第2009/0142695号明細書(Baumannら)の表A中にA1〜A8として同定される。
【0066】
或いは、1H−テトラゾール基は、高分子バインダーが形成された後に高分子バインダーに導入することができる。例えば、1H−テトラゾール基は、1H−テトラゾール−5−アミン中のアミン基について反応性官能基を既に有するポリマーに導入することができる。このような反応性ポリマーの例は、上に示されるように反応性イソシアナト基、(メタ)アクリレート基、エポキシ基、ニトリル基、ハロメチル基、ジカルボン酸の環状無水物、又は反応性アルデヒド若しくはケトン基を有する。このような反応性ポリマーの典型的な例は、イソシアナトエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、(メタ)アクリロニトリル、クロロメチル化スチレン、無水マレイン酸、及びメチルビニルケトンに由来するものである。例えば、1H−テトラゾール−5−アミンと反応することができる(メタ)アクリレート官能化ポリマーは、典型的には、例えば、−OH基と(メタ)アクリル酸クロライドの反応による、又はβ−ハロゲノ置換プロピオン酸基の導入に続く脱ハロゲン化水素により、(メタ)アクリル酸官能基をポリマーに導入することにより製造される。
【0067】
d)群の繰り返し単位を提供することができるエチレン性不飽和重合性モノマーには、それだけに限らないが、(メタ)アクリル酸、カルボキシスチレン、N−カルボキシフェニル(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリロイルアルキルホスフェートが含まれる。
【0068】
e)群の繰り返し単位を提供することができるエチレン性不飽和重合性モノマーには、それだけに限らないが、スチレン、メタクリレート、メタクリルアミド、N−フェニルマレイミド、イソ−プロピル(メタ)アクリルアミド及び無水マレイン酸、(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリルアミドが含まれる。他の可能性は当業者に容易に明らかになるだろう。
【0069】
第1の高分子バインダー中、a)群のエチレン性不飽和重合性モノマーの1種又は複数に由来する繰り返し単位の量は、少なくとも5mol%及び最大で30mol%、典型的には少なくとも8mol%及び最大で20mol%である。b)群のエチレン性不飽和重合性モノマーの1種又は複数に由来する繰り返し単位の量は、少なくとも40mol%及び最大で80mol%、典型的には少なくとも55mol%及び最大で70mol%である。c)群のエチレン性不飽和重合性モノマーの1種又は複数に由来する繰り返し単位の量は、0mol%及び存在する場合には最大で30mol%、典型的には少なくとも5mol%及び最大で15mol%である。d)群のエチレン性不飽和重合性モノマーの1種又は複数に由来する繰り返し単位の量は、0mol%及び存在する場合には最大で30mol%、典型的には少なくとも2mol%及び最大で10mol%である。更に、e)群のエチレン性不飽和重合性モノマーの1種又は複数に由来する繰り返し単位の量は、少なくとも5mol%及び最大で40mol%、典型的には少なくとも8mol%及び最大で20mol%である。これらの量の全ては、特定の第1の高分子バインダー中の繰り返し単位の総モルに基づく。
【0070】
いくつかの実施形態では、1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々は、ポリマー1g当たり少なくとも65meq KOH及びポリマー1g当たり最大で130meq KOHの酸価を有し、第1の高分子バインダーの少なくとも1種は、少なくとも
N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド若しくはアルコキシメチル(アルキル)アクリレート、又は
ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー
に由来する繰り返し単位を含む。
【0071】
更に他の実施形態では、第1の高分子バインダーの少なくとも1種は、
N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド又はアルコキシメチル(アルキル)アクリレートと
ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー
の両方に由来する繰り返し単位を含む。
【0072】
例えば、本発明の原版のいくつかの実施形態では、第1の高分子バインダーの少なくとも1種は、全ポリマー繰り返し単位基準で少なくとも5重量%及び最大で30重量%の、1種又は複数のN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返しを含む。
【0073】
1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々は、2−ブトキシエタノールの80重量%水溶液又はジアセトンアルコールの80重量%水溶液のいずれかに25℃で24時間攪拌すると、100mg/g未満の溶解度を有する。
【0074】
これらの第1の高分子バインダーは、既知の合成乳化重合手順ならびに容易に入手可能な若しくは調製されるエチレン性不飽和重合性モノマー、重合開始剤及び乳化界面活性剤を使用して調製することができる。
【0075】
内部画像形成性層はまた、上に定義される第1の高分子バインダーとは組成が異なる1種又は複数の高分子バインダーを含むこともできる。これらはまた、インク受容性外部画像形成性層について以下に記載する第2の高分子バインダーとも異なる。このような「第2の」高分子バインダーは、少なくとも3重量%及び最大で30重量%の量で内部画像形成性層中に存在することができる。このような第2の高分子バインダーには、それだけに限らないが、オリゴマー、ポリウレタン、アクリルコポリマー、ポリ(ビニルアセタール)、ノボラック及びレゾール等のフェノール系バインダー、セルロースエステル、無水マレイン酸コポリマー、ならびにマレイミドコポリマーが含まれ得る。
【0076】
ほとんどの実施形態では、内部画像形成性層は、少なくとも700及び最大で1400、典型的には少なくとも700及び最大で1200nmの放射光を吸収する赤外線吸収剤を更に含む。ほとんどの実施形態では、赤外線吸収剤は、内部画像形成性層中にのみ存在する。赤外線吸収剤は、化合物が位置する層の総乾燥重量基準で一般的に少なくとも0.5%及び最大で30%、典型的には少なくとも3重量%及び最大で25重量%の量で多層平版印刷版原版中に存在することができる。使用される所与の化合物の特定の量は、当業者により容易に決定され得るだろう。
【0077】
有用な赤外線吸収剤には、それだけに限らないが、アゾ染料、スクアリリウム染料、クロコネート染料、トリアリールアミン染料、チオアゾリウム染料、インドリウム染料、オキソノール染料、オキサゾリウム染料、シアニン染料、メロシアニン染料、フタロシアニン染料、インドシアニン染料、インドトリカルボシアニン染料、オキサトリカルボシアニン染料、チオシアニン染料、チアトリカルボシアニン染料、クリプトシアニン染料、ナフタロシアニン染料、ポリアニリン染料、ポリピロール染料、ポリチオフェン染料、カルコゲノピリロアリーリデン及びビ(カルコゲノピリロ)ポリメチン染料、オキシインドリジン染料、ピリリウム染料、ピラゾリンアゾ染料、オキサジン染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、キノンイミン染料、メチン染料、アリールメチン染料、スクアリン染料、オキサゾール染料、クロコニン染料、ポルフィリン染料、ならびに前記染料クラスの任意の置換又はイオン形が含まれる。適当な染料はまた、米国特許第5208135号明細書(Patelら)、第6153356号明細書(Uranoら)、第6264920号明細書(Achilefuら)、第6309792号明細書(Hauckら)、第6569603号明細書(上記)、第6787281号明細書(Taoら)、第7135271号明細書(Kawaushiら)及び欧州特許第1182033A2号明細書(上記)にも記載されている。赤外線吸収N−アルキル硫酸シアニン染料は、例えば、米国特許第7018775号明細書(Tao)に記載されている。適当なシアニン染料の1つのクラスの一般的な説明は、国際公開第2004/101280号パンフレット(Munnellyら)の段落[0026]の式により示される。
【0078】
IR染料を有する低分子量IR吸収染料に加えて、ポリマーに結合した発色団を使用することもできる。更に、IR染料カチオンも使用することができる。すなわち、このカチオンは、側鎖にカルボキシ、スルホ、ホスホ又はホスホノ基を含むポリマーとイオン的に相互作用する染料塩のIR吸収部分である。
【0079】
近赤外吸収シアニン染料も有用であり、これらは例えば、米国特許第6309792号明細書(Hauckら)、第6264920号明細書(Achilefuら)、第6153356号明細書(Uranoら)及び第5496903号明細書(Watanabeら)に記載されている。適当な染料は、従来法及び出発材料を使用して形成することができる、又はAmerican Dye Source(Baie D'Urfe、ケベック、カナダ)及びFEW Chemicals(ドイツ)を含む種々の商業的供給源から得ることができる。近赤外ダイオードレーザービームに有用な他の染料は、米国特許第4973572号明細書(DeBoer)に記載されている。
【0080】
内部画像形成性層の乾燥コーティング重量は、少なくとも0.5g/m2及び最大で2.5g/m2である。
【0081】
インク受容性外部画像形成性層
インク受容性外部画像形成性層は内部層上に配置され、ほとんどの実施形態で、内部画像形成性層とインク受容性外部画像形成性層との間に中間層は存在しない。
【0082】
インク受容性外部画像形成性層は、内部画像形成性層について上記の1種又は複数の第1の高分子バインダーとは化学組成が異なる1種又は複数の第2の高分子バインダーを含む。有用な第2の高分子バインダーには、それだけに限らないが、ポリ(ビニルフェノール)又はその誘導体が含まれる。このようなポリマーはまた、ポリマー分子骨格に組み込まれた若しくはポリマー骨格にぶらさがった(側鎖)カルボン酸(カルボキシ)、スルホン酸(スルホ)、ホスホン酸(ホスホノ)又はリン酸基等のペンダント酸性基を含むことができる。他の有用な追加のフェノール系ポリマーには、それだけに限らないが、ペンダントフェノール基を有するノボラック樹脂、レゾール樹脂、ポリ(ビニルアセタール)、及びこれらの樹脂のいずれかの混合物(1種又は複数のノボラック樹脂と1種又は複数のレゾール樹脂の混合物等)が含まれる。一般的に、このような樹脂は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等の従来手順を使用して測定される、少なくとも3000及び最大で200000、典型的には少なくとも6000及び最大で100000の数平均分子量を有する。典型的なノボラック樹脂には、それだけに限らないが、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−クレゾール−ホルムアルデヒド樹脂、p−t−ブチルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂及びピロガロール−アセトン樹脂、例えば、従来条件を使用してm−クレゾール又はm、p−クレゾール混合物とホルムアルデヒドを反応させることにより調製されるノボラック樹脂が含まれる。例えば、いくつかの有用なノボラック樹脂には、それだけに限らないが、少なくとも4000等のより高い分子量を有するキシレノール−クレゾール樹脂、例えば、SPN400、SPN420、SPN460及びVPN1100(AZ Electronicsから入手可能)ならびにEP25D40G及びEP25D50G(実施例について以下に記載)が含まれる。
【0083】
他の有用な第2の高分子バインダーには、フェノール性水酸基を有するポリビニル化合物が含まれ、ポリ(ヒドロキシスチレン)及びヒドロキシスチレンの繰り返し単位を含有するコポリマーならびに置換ヒドロキシスチレンの繰り返し単位を含有するポリマー及びコポリマーが含まれる。例えば、米国特許第5554719号明細書(Sounik)及び第6551738号明細書(Ohsawaら)ならびに米国特許出願公開第2003/0050191号明細書(Bhattら)、第2005/0051053号明細書(Wisnudelら)及び第2008/2008/0008956号明細書(Levanonら)に記載されている4−ヒドロキシスチレンに由来する複数の分枝ヒドロキシスチレン繰り返し単位を有する分枝ポリ(ヒドロキシスチレン)も有用である。例えば、このような分枝ヒドロキシスチレンポリマーは、4−ヒドロキシスチレン等のヒドロキシスチレンに由来する繰り返し単位を含み、この繰り返し単位は、ヒドロキシ基に対してオルト位の反復ヒドロキシスチレン単位(4−ヒドロキシスチレン単位等)で更に置換されている。これらの分枝ポリマーは、少なくとも1000及び最大で30000の重量平均分子量(Mw)を有することができる。更に、これらのポリマーは、2未満の多分散度を有することができる。分枝ポリ(ヒドロキシスチレン)は、非分枝ヒドロキシスチレン繰り返し単位を有するホモポリマー又はコポリマーであり得る。
【0084】
別の群の有用な第2の高分子バインダーは、一般的にビニルフェノールモノマー、すなわち、置換又は非置換ビニルフェノールの重合により得られるポリ(ビニルフェノール)及びその誘導体である。いくつかのビニルフェノールコポリマーは、欧州特許第1669803A号明細書(Barclayら)に記載されている。
【0085】
インク受容性外部画像形成性層中の更に他の有用な第2の高分子バインダーは、少なくとも1種の酸性ポリウレタン、少なくとも1種のカルボキシ官能化フェノール樹脂(カルボキシ官能化ノボラック若しくはレゾール)、及び少なくとも1種の酸性ポリウレタンと少なくとも1種のカルボキシ官能化フェノール樹脂(上記)の組み合わせからなる群から選択される。例えば、ノボラック及びレゾール中のフェノール基をクロロ酢酸でエーテル化して官能性カルボキシル基を得ることができる。このような官能化樹脂のさらなる詳細は、例えば、米国特許第7582407号明細書(Savariar−Hauckら)に提供され、この特許は、いくつかの有用な官能化ノボラック及びレゾールを記載している。官能性酸性基は樹脂骨格からぶらさがっていてもよいし、樹脂骨格の一部として組み込まれていてもよい。特に有用な官能化樹脂は、カルボキシ官能化ノボラック及びカルボキシ官能化レゾールである。
【0086】
他の有用な第2の高分子バインダーには、米国特許第7163777号明細書(Rayら)、第7260653号明細書(Huangら)、第7241556号明細書(Saraiyaら)及び第7781148号明細書(Savariar−Hauckら)ならびに米国特許出願公開第2007/0065737号明細書(Kitsonら)及び第2009/0186301号明細書(Rayら)に記載されているポリ(ビニルアセタール)が含まれる。
【0087】
多くの実施形態では、インク受容性外部画像性層は、赤外線吸収剤を実質的に含まない(これらの化合物のいずれも故意にこの層に組み込まれておらず、わずかな量しか他の層からこの層に拡散しないことを意味する)。しかしながら、他の実施形態では、赤外線吸収剤が例えば、欧州特許第1439058A2号明細書(Watanabeら)及び欧州特許第1738901A1号明細書(Lingierら)に記載されているようにインク受容性外部画像形成性層と内部画像形成性層の両方にあってもよいし、赤外線吸収剤が2つの画像形成性層の間の中間層に位置してもよいし、又は赤外線吸収剤は3つの言及されている層のいずれか若しくは全てにあってもよい。
【0088】
インク受容性外部画像形成性層はまた、例えば、エチルバイオレット、クリスタルバイオレット、マラカイトグリーン、ブリリアントグリーン、ビクトリアブルーB、ビクトリアブルーR及びビクトリアピュアブルーBO等のトリアリールメタン染料を含む、米国特許第6294311号明細書(Shimazuら)に記載されている着色剤も含むことができる。これらの化合物は、現像画像形成性要素中の非露光領域を露光領域と区別するコントラスト染料として作用することができる。インク受容性外部画像形成性層は、場合によりコントラスト染料、焼出し染料、コーティング界面活性剤、分散助剤、湿潤剤、殺生物剤、粘度上昇剤、乾燥剤、消泡剤、保存剤及び抗酸化剤を含むことができる。
【0089】
それだけに限らないが、コーティング界面活性剤、分散助剤、湿潤剤、殺生物剤、粘度上昇剤、乾燥剤、消泡剤、保存剤及び抗酸化剤を含む他の材料がインク受容性外部画像形成性層中に存在してもよい。このような材料は、当業者に容易に明らかになる量で組み込まれ得る。例えば、以下の刊行物は、ポジ型平版印刷版原版に有用なインク受容性外部画像形成性層のための任意の成分を記載している:欧州特許第1543046号明細書(Timpeら)、国際公開第2004/081662号パンフレット(Memeteaら)、米国特許第6255033号明細書(Levanonら)、第6280899号明細書(Hoareら)、第6391524号明細書(Yatesら)、第6485890号明細書(Hoareら)、第6558869号明細書(Hearsonら)、第6706466号明細書(Parsonsら)、第6541181号明細書(Levanonら)、第7223506号明細書(Kitsonら)、第7247418号明細書(Saraiyaら)、第7270930号明細書(Hauckら)、第7279263号明細書(Goodin)及び第7399576号明細書(Levanon)、欧州特許第1627732号明細書(Hatanakaら)ならびに米国特許出願公開第2005/0214677号明細書(Nagashima)、第2004/0013965号明細書(Memeteaら)、第2005/0003296号明細書(Memeteaら)及び第2005/0214678号明細書(Nagashima)。
【0090】
インク受容性外部画像形成性層は、1種又は複数の現像性向上化合物を更に含むことができる。「現像性向上化合物」は、インク受容性外部画像形成性層に添加すると、有機化合物の排除を除いて、露光領域中の同じインク受容性外部画像形成性層を完全に除去するのに要する最小露光エネルギーに対して、インク受容性外部画像形成性層のために選択される適当な現像液中で露光領域中のこの層を完全に除去するのに要する最小露光エネルギーを低下させる有機化合物である。この差は、使用する特定の有機化合物及び画像形成性層組成に依存する。更に、このような有機化合物はまた、特定のインク受容性外部画像形成性層のために選択される露光赤外線を実質的に吸収しないことを特徴とし、一般的に1000g/mol未満の分子量を有することができる。
【0091】
カルボン酸又は環状酸無水物、スルホン酸、スルフィン酸、アルキル硫酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸エステル、フェノール、スルホンアミド又はスルホンイミド等の酸性現像性向上化合物(ADEC)がインク受容性外部画像形成性層中に存在してもよい。このような化合物の代表的な例は、米国特許出願公開第2005/0214677号明細書(Levanonら)の[0030]〜[0036]に提供されている。
【0092】
インク受容性外部画像形成性層はまた、米国特許出願公開第2009/0162783号明細書に記載されている1種又は複数の現像性向上化合物(DEC)を含有する現像性向上組成物を含むこともできる。更に他の有用な現像性向上化合物はまた、以下の構造(DEC1):
[HO−C(=O)]m−B−A−[N(R4)(R5)]n
(DEC1
(構造DEC1のR4及びR5は独立に、水素又は置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換シクロアルキル基、又は置換若しくは非置換アリール基であり、Aは−[N(R4)(R5)]nに直接結合している置換又は非置換フェニレンを含む有機結合基であり、Bは単結合又は鎖中に少なくとも1個の炭素、酸素、硫黄若しくは窒素原子を有する有機結合基であり、mは1又は2の整数であり、nは1又は2の整数である)
を使用してこの刊行物に記載されている。「B」有機結合基は、Bがアリーレン基を含有する必要がないことを除いてAが上に定義されるのと同じように定義することができ、通常、Bは存在する場合、Aとは異なる。
【0093】
上記1種又は複数の現像性向上化合物は、少なくとも1重量%及び最大で30重量%、典型的には少なくとも2重量%及び最大で20重量%の量でインク受容性外部画像形成性層中に存在することができる。
【0094】
平版印刷版原版は、従来のコーティング又は積層法を使用して、内部画像形成性層配合物を基板の表面上に順次塗布する工程と、次いで、インク受容性外部画像形成性層配合物を内部画像形成性層上に塗布する工程とにより調製することができる。例えば、配合物に異なるコーティング溶液を使用することにより、2種の配合物の相互混合を回避することが重要である。
【0095】
内部画像形成性層及びインク受容性外部画像形成性層は、所望の成分を適当なコーティング溶媒(複数可)に分散又は溶解することにより形成することができ、得られた配合物は、スピンコーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティング、ダイコーティング、スロットコーティング、バーコーティング、ワイヤロッドコーティング、ローラーコーティング又は押出機ホッパーコーティング等の適当な装置及び手順を使用して基板に順次又は同時に塗布される。配合物を噴霧技術によって塗布することもできる。
【0096】
両配合物をコーティングするために使用する溶媒の選択は、第1及び第2の高分子バインダー、他の高分子材料、ならびに配合物中の他の成分の性質に依存する。インク受容性外部画像形成性層配合物を塗布する際に、内部画像形成性層及びインク受容性外部画像形成性層配合物が混合すること、又は内部画像形成性層が溶解することを防ぐために、インク受容性外部画像形成性層配合物を、内部画像形成性層の第1の高分子バインダー(複数可)が不溶性である溶媒からコーティングすべきである。
【0097】
一般的に、内部画像形成性層配合物は、メチルエチルケトン(MEK)、1−メトキシ−2−プロピルアセテート(PMA)、γ−ブチロラクトン(BLO)及び水の溶媒混合物、MEK、BLO、水及び1−メトキシプロパン−2−オール(Dowanol(登録商標)PM若しくはPGMEとしても知られている)の混合物、ジエチルケトン(DEK)、水、乳酸メチル及びBLOの混合物、DEK、水及び乳酸メチルの混合物、又は乳酸メチル、メタノール及びジオキソランの混合物からコーティングされる。
【0098】
インク受容性外部画像形成性層配合物は、内部画像形成性層を溶解しない溶媒又は溶媒混合物からコーティングされ得る。この目的のための典型的な溶媒には、それだけに限らないが、酢酸ブチル、酢酸イソ−ブチル、メチルイソ−ブチルケトン、DEK、1−メトキシ−2−プロピルアセテート(PMA)、イソ−プロピルアルコール、PGME及びこれらの混合物が含まれる。
【0099】
インク受容性外部画像形成性層についての乾燥コーティング重量は、少なくとも0.5g/m2及び最大で3.5g/m2、典型的には少なくとも1g/m2及び最大で2.5g/m2となり得る。
【0100】
層を乾燥させた後、得られた平版印刷版原版を、乾燥した層からの水分除去を阻害する条件下で、少なくとも40℃及び最高で90℃で少なくとも4時間(例えば、少なくとも20時間)の熱処理により更に「調整」することができる。例えば、熱処理は、少なくとも50℃及び最高で70℃で少なくとも24時間行われる。熱処理中、平版印刷版原版は、原版からの水分除去の有効な障壁となる遮水シート材料に包まれる若しくは入れられる、又は相対湿度が少なくとも25%に制御された環境中で原版の熱処理が行われる。更に、遮水シート材料で原版の縁の周りを密封することができ、遮水シート材料は原版の縁の周りを密閉する高分子フィルム又は金属箔である。
【0101】
いくつかの実施形態では、この熱処理を、少なくとも100の同じ平版印刷版原版を含む
スタックで、又は原版がコイル若しくはウェブの形態である場合に行うことができる。スタックに調整する場合、個々の原版を適当な合紙によって分離することができる。合紙を、包装、輸送及び消費者による使用中の調整後に画像形成性要素間に維持することができる。いくつかの実施形態では熱処理は必要とされない。
【0102】
画像化条件
使用中、平版印刷版原版は、少なくとも700nm及び最大で1400nmの波長で特定の感受性を提供する原版中に存在する赤外線吸収剤に応じて、放射光を曝射する適当な源に露光される。いくつかの実施形態では、画像様露光が、少なくとも700nm及び最大で1250nmの範囲の放射を使用して行われる。
【0103】
例えば、画像化は、赤外線発生レーザー(又はこのようなレーザーの配列)からの画像化又は露光放射を使用して行うことができる。画像化はまた、所望であれば同時に複数の波長の画像化放射を使用して行うこともできる。平版印刷版原版を露光するために使用するレーザーは通常、ダイオードレーザーシステムの信頼性及び低保守性のためにダイオードレーザーであるが、ガス又は固体状態レーザー等の他のレーザーを使用することもできる。レーザー画像化のためのパワー、強度及び露光時間の組み合わせは当業者に容易に明らかになり、いくつかの有用なレーザー画像化装置が業界で入手可能である。
【0104】
画像化装置を平台型記録器又はドラム記録器として構成することができ、平版印刷版原版はドラムの内部又は外部円筒面に取り付けられる。有用な画像化装置の例は、830nmの波長の近赤外線を放射するレーザーダイオードを含有する、Eastman Kodak Companyから入手可能なKodak(登録商標)Trendsetterプレートセッターのモデルとして入手可能である。他の適当な画像化源には、1064nmの波長で作動するCrescent 42T Platesetter(Gerber Scientific、シカゴ、ILから入手可能)及び810nmの波長で作動するScreen PlateRite 4300シリーズ若しくは8600シリーズプレートセッター(Screen USA、シカゴ、ILから入手可能)が含まれる。
【0105】
赤外線による画像化は、原版中の画像形成性層の感受性に応じて一般的に少なくとも30mJ/cm2及び最大で1000mJ/cm2、典型的には少なくとも50mJ/cm2及び最大で500mJ/cm2の画像化エネルギーで行うことができる。これらのプレートセッターでは、Magnus 800プレートセッター(Eastman Kodak Company)の「表面深さ」パラメータ又はPlateRite 4300プレートセッター(Dainippon Screen Company)の「焦点」パラメータ等の任意の画像化パラメータは、段階的画像化工程において露光領域と非露光領域との間のコントラスト差を観察することにより決定される。段階的画像化平版印刷版原版等を使用することにより、印刷の短縮が可能になり、得られる印刷物はまた前記画像化パラメータを決定するのに有用となる。
【0106】
レーザー画像化が本発明の実施で望まれるが、画像様様式で熱エネルギーを提供する任意の他の手段により熱画像化を提供することができる。例えば、画像化は、例えば、米国特許第5488025号明細書(Martinら)に記載されている「熱印刷」として知られているものにおける感熱性ヘッド(サーマルプリントヘッド)を使用して達成することができる。サーマルプリントヘッドは商業的に入手可能である(例えば、Fujitsu Thermal Head FTP−040 MCS001及びTDK Thermal Head F415 HH7−1089)。
【0107】
現像及び印刷
画像化後、画像化平版印刷版原版を、本明細書に記載する適当な処理液、例えば、水又はアルカリ性処理液を使用して「オフプレス(off−press)」処理することができる。ポジ型平版印刷版原版を画像化及び処理する場合、画像形成性層と任意の中間層の両方の画像化(露光)領域が処理中に除去される一方で、非露光領域は残り、露光領域下の親水性基板が明らかになる。
【0108】
現像オフプレスは、「手動」現像、「ディップ」現像として知られているもの又は自動現像装置(処理装置)による処理を使用して達成することができる。「手動」現像の場合、現像は、適当な処理液(下記)を十分に含浸させたスポンジ又はコットンパッドで画像化原版全体を擦り、引き続いて水ですすぐことにより行われる。「ディップ」現像は、適当な処理液を含有するタンク又はトレイに攪拌下で少なくとも10秒及び最大で60秒(特に少なくとも20秒及び最大で40秒)間、画像化原版を浸漬し、引き続いてスポンジ又はコットンパッドで擦る又は擦らないで水ですすぐことを伴う。自動現像装置の使用は周知であり、一般的には現像液若しくは処理液を現像タンクにポンプ輸送する又はこれをスプレーノズルから排出することを含む。画像化原版は、適当な様式で現像液と接触される。装置はまた、適当な摩擦機構(例えば、ブラシ又はローラー)及び適当な数の搬送用ローラーも含むことができる。いくつかの現像装置はレーザー露光手段を含み、装置が画像化部及び現像部に分けられる。
【0109】
水性アルカリ性現像液と有機溶媒含有現像液又は処理液の両方を使用することができる。いくつかの有用な現像液は、例えば、米国特許第7507526号明細書(Millerら)及び第7316894号明細書(Millerら)に記載されている。現像液は一般的に、界面活性剤、キレート剤(エチレンジアミン四酢酸の塩等)、有機溶媒(ベンジルアルコール等)及びアルカリ性成分(無機メタケイ酸塩、有機メタケイ酸塩、水酸化物及び重炭酸塩等)を含む。
【0110】
有用なアルカリ性水性現像液には、3000 Developer、9000 Developer、GOLDSTAR Developer、GREENSTAR Developer、ThermalPro Developer、PROTHERM Developer、MX1813 Developer及びMX1710 Developer(全てEastman Kodak Company から入手可能)が含まれる。これらの組成物も一般的に、界面活性剤、キレート剤(エチレンジアミン四酢酸の塩等)、及びアルカリ性成分(無機メタケイ酸塩、有機メタケイ酸塩、水酸化物及び重炭酸塩等)を含む。
【0111】
有機溶媒含有現像液は一般的に、水と混和性の1種又は複数の有機溶媒の単相処理液である。有用な有機溶媒には、フェノールとエチレンオキシド及びプロピレンオキシドの反応生成物[エチレングリコールフェニルエーテル(フェノキシエタノール)等]、ベンジルアルコール、エチレングリコール及びプロピレングリコールと6個以下の炭素原子を有する酸のエステル、ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコール及びプロピレングリコールと6個以下の炭素原子を有するアルキル基のエーテル、例えば、2−エチルエタノール及び2−ブトキシエタノールが含まれる。有機溶媒(複数可)は一般的に、総現像液重量基準で少なくとも0.5重量%及び最大で15重量%の量で存在する。有機溶媒含有現像液は、pHが中性、アルカリ性又はわずかに酸性(例えば、pH5)であることができ、典型的には、現像液はpHがアルカリ性である。代表的な有機溶媒含有現像液には、ND−1 Developer、Developer 980、Developer 1080、2 in 1 Developer、955 Developer、D29 Developer(下記)及び956 Developer(全てEastman Kodak Companyから入手可能)が含まれる。
【0112】
処理液(現像液)は、少なくとも3及び最高で13.5、典型的には少なくとも7及び最高で13.5のpHを有することができる。
【0113】
本発明の方法のいくつかの有用な実施形態では、現像に使用される処理液は、12.5以下のpH及び6ほど低くてもよいpHを有する。典型的には、pHは少なくとも7及び最高で13.5又は少なくとも7.5及び最高で12である。この低pH処理液は、少なくとも0.001重量%及び最大で1重量%の、複素環の1位に四級窒素を有する複素環部分を有する水溶性又は水分散性非IR感受性化合物を含むことができる。この化合物はまた、複素環に結合した1個又は複数の電子供与性置換基を有し、この電子供与性置換基の少なくとも1個は2位に結合している。これらの化合物の量は、少なくとも0.1重量%及び最大で0.8重量%となり得る。これらの化合物は、本明細書において時々処理液のための「添加剤」と称される。
【0114】
より具体的には、水溶性又は水分散性化合物は、複素環の2位にジアルキルアミノフェニル又は3−インドリル基を有する。このような化合物の例には、それだけに限らないが、チオフラビンT、アストラゾンオレンジG及びベーシックバイオレット16が含まれる。
【0115】
したがって、赤外線への露光後、内部画像形成性層及びインク受容性外部画像形成性層の露光領域は、赤外線への露光前よりも12.5以下のpHを有する処理液に除去可能になる。
【0116】
更に、本発明に有用な処理液は、少なくとも0.01重量%の以下の任意の1種又は複数を更に含むことができる:アニオン性若しくは非イオン性界面活性剤、アルカノールアミン、有機溶媒、有機ホスホン酸又はアニオン性界面活性剤とは異なるポリカルボン酸若しくはその塩、ならびに平版印刷版の画像化及び処理表面上に保護コーティングを提供する親水性フィルム形成ポリマー。例えば、少なくとも0.01重量%及び最大で15重量%の1種又は複数の親水性フィルム形成ポリマーが処理液中に存在することができる。
【0117】
更に、処理液は、最大で8重量%(総処理液重量基準)の1種又は複数の有機溶媒(下記)を含むこともできる。有用な有機溶媒には、フェノールとエチレンオキシド及びプロピレンオキシドの反応生成物[エチレングリコールフェニルエーテル(フェノキシエタノール)等]、ベンジルアルコール、エチレングリコール及びプロピレングリコールと6個以下の炭素原子を有する酸のエステル、ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコール及びプロピレングリコールと6個以下の炭素原子を有するアルキル基のエーテル、例えば、2−エチルエタノール及び2−ブトキシエタノールが含まれる。
【0118】
処理液は、好ましくはケイ酸塩及びメタケイ酸塩、及び水酸化物を含まない(これらの化合物のいずれも故意に処理液に添加されておらず、処理液は2重量%未満の前記化合物を含むことを意味する)。
【0119】
いくつかの実施形態では、処理液は、少なくとも8.5及び最大で11.5のpHを有し、少なくとも0.1重量%及び最大で0.8重量%のチオフラビンT、アストラゾンオレンジG及びベーシックバイオレット16の1種又は複数を含み、処理液は本質的にケイ酸塩及びメタケイ酸塩を含まず、少なくとも0.1重量%及び最大で5重量%のアルカノールアミン、有機ホスホン酸、又はアニオン性界面活性剤とは異なるポリカルボン酸若しくはその塩、又は保護コーティングを形成するための親水性フィルム形成ポリマー、或いはこれらの混合物を更に含む。
【0120】
処理液は、本発明により使用される添加剤に加えて、外部層の現像液攻撃を抑制する現像液可溶性化合物である「コーティング攻撃抑制剤」として作用することができる1種又は複数の界面活性剤を更に含むことができる。「現像液可溶性」は、剤(複数可)の十分量が処理液に溶解して処理液による攻撃を抑制することを意味する。典型的には、コーティング攻撃抑制剤は、繰り返し−(CH2−CHRa−O−)−単位(Raは水素又はメチル若しくはエチル基である)を含む現像液可溶性ポリエトキシ化、ポリプロポキシ化又はポリブトキシ化化合物である。この種の代表的な化合物には、それだけに限らないが、言及する繰り返し単位を有するポリグリコール及び重縮合生成物が含まれる。このような化合物及び代表的な供給源、商品名若しくは調製法の例は、例えば、米国特許第6649324号明細書(Fiebagら)に記載されている。
【0121】
本発明の他の有用な処理液は、例えば、米国特許出願公開第2009−0197052号明細書(Levanonら)に記載されているように、ケイ酸塩を含まない炭酸塩処理液に上記「添加剤」を混合することにより調製することができる。同様に、「添加剤」を、例えば、米国特許出願公開第2009−0291387号明細書(Levanonら)及び第2010−0047723号明細書(Levanonら)に記載されているように、有機溶媒、有機アミン、アニオン性界面活性剤又はこれらの組み合わせを含有する炭酸塩処理液と混合することができる。有用な有機アミンには、その共役酸が9より大きいpKa及び150℃より高い沸点を有するものが含まれる。このような有機アミンは、少なくとも0.03N又は少なくとも0.03N及び最大で1.5Nの量で存在することができ、これらにはエタノールアミン、4−アミノピリジン、1,5−ジアミノペンタン、4−(2−アミノエチル)フェノール、1−エフェドリン、2−(エチルアミノ)エタノール、3−アミノ−1−プロパノール及び2−(2−アミノエチルアミノ)エタノールが含まれる。さらなる詳細は言及した米国特許出願公開第2010−0047723号明細書に提供される。
【0122】
いくつかの実施形態では、処理液は、炭酸塩、有機溶媒、及び複素環の1位に四級窒素を有する複素環部分を有する水溶性若しくは水分散性非IR感受性化合物から本質的になる。したがって、前記液は、現像に意味のある効果を与える他の化合物を含有しない。
【0123】
処理液(又は現像液)は、擦り付け、噴霧、噴射、ディッピング、浸漬、スロットダイコーティング(例えば、Maruyamaらの米国特許第6478483号明細書の図1及び図2参照)又はリバースロールコーティング(Kuruiらの米国特許第5887214号明細書の図4に記載)により、或いは外部層を処理液で払拭する又は外部層をローラー、含浸パッド若しくは塗布器と接触させることにより、画像化原版に塗布することができる。例えば、画像化原版に処理液を塗ることができる、又は例えば、欧州特許第1788431A2号明細書(上記)の[0124]及び米国特許第6992688号明細書(Shimazuら)に記載されているように噴霧ノズルシステムを使用して非露光領域を除去するのに十分な力で画像化表面を噴霧することによりかける若しくは塗布することができる。上記のように、画像化原版を処理液に浸漬し、手又は装置で擦り付けることができる。後部コーティングの除去を助けるために、ブラシローラー又は他の機械部品を処理中に後部コーティングと接触して配置することができる。或いは、処理液を、十分な力を使用してスプレーバーを使用して噴霧することができる。
【0124】
処理液を塗布しながら画像化原版を擦り付ける又は塗るための少なくとも1つのローラーを有する適当な装置中の処理装置(又はステーション)で処理液を塗布することもできる。残留処理液を、(例えば、スキージ若しくはニップローラーを使用して)除去することができる、又はすすぎ工程なしに得られた平版印刷版上に残すことができる。過剰な処理液は、タンクに回収し、数回使用することができ、必要に応じて貯蔵所から補充することができる。処理液補充液は、処理に使用するものと同じ濃度であってもよいし、又は濃縮型で供給し、適当な時に水で希釈してもよい。
【0125】
ほとんどの実施形態では、画像様露光と処理手順との間に平版印刷版原版の中間処理は存在しない。
【0126】
オフプレス現像後、得られた平版印刷版を、ブランケット又はUV若しくは可視放射光へのフラッド様露光を用いて又は用いないで欧州特許第1588220号明細書(Machuelら)に記載されているようにポストベーク又はクイックベークすることができる。或いは、ブランケット(均一)UV又は可視放射光露光をポストベーク操作なしに行うことができる。例えば、画像化及び処理平版印刷版を、室温より上の(25℃超)温度で少なくとも1分間焼き付ける又は赤外線に均一に露光することができる。
【0127】
画像化及び現像平版印刷版を適当な印刷機に載せることにより印刷を行うことができる。平版印刷版は一般的に、適当なクランプ又は他の把持具を使用して印刷機に固定される。いったん印刷版が印刷機に固定されたら、平版印刷インク及び湿し水を平版印刷版の印刷面に塗布することにより印刷が行われる。湿し水は画像化及び処理工程により明らかにされた親水性基板の表面に吸収され、インクはインク受容性外部画像形成性層の残っている非露光領域に吸収される。次いで、インクが適当な受容材料(布、紙、金属、ガラス又はプラスチック等)に運ばれてその上に所望の画像刷を提供する。所望であれば、中間「ブランケット」ローラーを使用してインクを平版印刷版から受容材料(例えば、用紙)まで運ぶことができる。所望であれば、従来の洗浄手段を使用して、平版印刷版を刷の間に洗浄することができる。
【0128】
本発明は、少なくとも以下の実施形態及びその組み合わせを提供するが、特徴の他の組み合わせも、当業者が本開示の教示から認識するので本発明の範囲内にあるとみなされる:
1.親水性表面を有する基板及び基板上に配置された2つ以上の層を含むポジ型平版印刷版原版であって、層の少なくとも1つは赤外線吸収剤を含み、
2つ以上の層は
基板上に配置された内部画像形成性層であって、総内部画像形成性層乾燥重量基準で少なくとも50重量%及び最大で97重量%の総量で存在する1種又は複数の第1の高分子バインダーを含む内部画像形成性層と、
内部画像形成性層上に配置されたインク受容性外部画像形成性層であって、第1の高分子バインダーとは異なる1種又は複数の第2の高分子バインダーを含むインク受容性外部画像形成性層とを含み、
1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々は少なくとも200000の重量平均分子量を有するポジ型平版印刷版原版。
2.1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々が少なくとも4の多分散度を有する、実施形態1に記載の原版。
3.1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々が少なくとも200000及び最大で600000の重量平均分子量、ならびに少なくとも4及び最大で10.5の多分散度を有する、実施形態1又は2に記載の原版。
4.1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々がポリマー1g当たり少なくとも40meq KOHの酸価を有し、第1の高分子バインダーの少なくとも1種は以下の群のエチレン性不飽和重合性モノマーの1つ又は複数に由来する、ポリマー鎖に沿ってランダムに分布した繰り返し単位を含む:
a)N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド又はアルコキシメチル(アルキル)アクリレート、
b)ペンダントシアノ基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、
c)ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、
d)1個又は複数のカルボキシ、スルホ又はホスホ基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、及び
e)構造(D1)〜構造(D4)により表されるエチレン性不飽和重合性モノマー:
【0129】
【化10】
【0130】
【化11】
【0131】
【化12】
【0132】
【化13】
【0133】
(式中、R1及びR2は独立に、水素又はアルキル、アルケニル、フェニル、ハロ、アルコキシ若しくはアシルオキシ基である、或いはR1及びR2は共にこれらが結合している炭素原子と共に環を形成することができ、
R3及びR4は独立に、水素又はアルキル、フェニル若しくはハロ基であり、
R5はアルキル、アルケニル、シクロアルキル又はフェニル基であり、
R6〜R9は独立に、水素又はアルキル、アルケニル、フェニル、ハロ、アルコキシ、アシル若しくはアシルオキシ基であり、
R10は水素又はアルキル、フェニル若しくはヒドロキシ基である)
実施形態1から3のいずれかに記載の原版。
5.1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々がポリマー1g当たり65meq KOHからポリマー1g当たり最大で130meq KOHの酸価を有し、第1の高分子バインダーの少なくとも1種が、少なくとも:
a)N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド又はアルコキシメチル(アルキル)アクリレート、及び
c)ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー
に由来する繰り返し単位を含む、実施形態1から4のいずれかに記載の原版。
6.少なくとも1種の第1の高分子バインダーが
a)N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド又はアルコキシメチル(アルキル)アクリレートと
c)ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー
の両方に由来する繰り返し単位を含む、実施形態1から4のいずれかに記載の原版。
7.第1の高分子バインダーの少なくとも1種が、全ポリマー繰り返し単位基準で少なくとも5重量%及び最大で30重量%の、1種又は複数のN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド由来の繰り返しを含む、実施形態1から6のいずれかに記載の原版。
8.インク受容性外部画像形成性層が少なくとも1種の酸性ポリウレタン、少なくとも1種のカルボキシ官能化フェノール樹脂、及び少なくとも1種の酸性ポリウレタンと少なくとも1種のカルボキシ官能化フェノール樹脂の組み合わせからなる群から選択される第2の高分子バインダーを含む、実施形態1から7のいずれかに記載の原版。
9.赤外線吸収剤が少なくとも0.5重量%及び最大で30重量%の量で存在する、実施形態1から8のいずれかに記載の原版。
10.赤外線吸収剤が内部画像形成性層中にのみ存在する、実施形態1から9のいずれかに記載の原版。
11.内部画像形成性層及びインク受容性外部画像形成性層が赤外線に露光すると、赤外線への露光前よりも12.5以下のpHを有する現像液に除去可能になる、実施形態1から10のいずれかに記載の原版。
12.1種又は複数の第1の高分子バインダーの各々が2−ブトキシエタノールの80重量%水溶液又はジアセトンアルコールの80重量%水溶液のいずれかに25℃で24時間攪拌すると、100mg/g未満の溶解度を有する、実施形態1から11のいずれかに記載の原版。
13.基板がアルミニウム含有基板である、実施形態1から12のいずれかに記載の原版。
14.実施形態1から13のいずれかに記載のポジ型平版印刷版原版を赤外線に画像様に露光し、それによって内部画像形成性層及びインク受容性外部画像形成性層中に露光及び非露光領域を有する画像化原版を形成する工程と、
画像化原版を処理して内部画像形成性層及びインク受容性外部画像形成性層の露光領域を除去し、平版印刷版を形成する工程と
を含む、平版印刷版を製造する方法。
15.画像様露光と処理との間に原版の中間処理が存在しない、実施形態14に記載の方法。
16.処理が少なくとも6及び最高で12.5のpHを有する処理液を使用して行われる、実施形態14又は15に記載の方法。
17.処理が少なくとも7及び最高で13.5のpHを有する処理液を使用して行われる、実施形態14又は15に記載の方法。
18.画像様露光及び処理後、平版印刷版が室温より上の温度で少なくとも1分間焼き付けられる又は平版印刷版が赤外線に均一に露光される、実施形態14から17のいずれかに記載の方法。
19.実施形態14から18のいずれかから調製した平版印刷版。
【0134】
以下の実施例は、本発明の実施を説明するために提供されるものであり、何ら限定的であることを意図されていない。
【実施例】
【0135】
以下の材料を以下の実施例に使用した:
【0136】
エチルバイオレットは割当C.I.42600(CAS2390−59−2、λmax=596nm)であり、p−(CH3CH2)2NC6H4)3CClの式を有する。
【0137】
DEKはジエチルケトンを表す。
【0138】
IR染料KAN165493は以下の式で表され、Eastman Kodak Company(Rochester、NY)から得ることができる:
【0139】
【化14】
【0140】
PMAは1−メトキシ−2−プロピルアセテートを表す。
【0141】
BLOはγ−ブチロラクトンである。
【0142】
Byk(登録商標)307はByk Chemie(Wallingford、CT)から入手可能なポリエトキシ化ジメチルポリシロキサンコポリマーである。
【0143】
D11は、以下の構造を有する、PCAS(Longjumeau、フランス)により供給される、エタンアミニウム、N−[4−[[4−(ジエチルアミノ)フェニル][4−(エチルアミノ)−1−ナフタレニル]メチレン]−2,5−シクロヘキサジエン−1−イリデン]−N−エチル−の5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシベンゼンスルホン酸との塩(1:1)である:
【0144】
【化15】
【0145】
Co1030はEvoniks(ドイツ)製のナノ粒子分散体である。
【0146】
ポリマーAはSPN562に基づく酸性ノボラック(フェノール基がクロロ酢酸でエーテル化されている)であった;理論AN=70、Mw=5600。SPN562はAZ Chemicals(ドイツ)製のm−クレゾールの44重量%溶液である。
【0147】
基板Aは電気化学的に粒化され、陽極酸化され、ポリ(ビニルホスホン酸)による処理に供された0.3mmゲージアルミニウムシートであった。
【0148】
溶媒混合物Aは、45/20/10/10/15重量比のMEK:PMA:BLO:H2O:ジオキサレンの混合物であった。
【0149】
溶媒混合物Bは、45:10:45重量比のMEK、Dowanol(登録商標)PMA及びDowanol(登録商標)PMの混合物であった。
【0150】
現像液Aは、重量部、790gの水、23gのジエタノールアミン、50gのEthylan(商標)HB4、335gのLugalvan(登録商標)BNO12、50gのAmphotensid B5、48gのPluronic(登録商標)PE6400、5.1gのリン酸(85重量%)及び0.4gのAstrazon(登録商標)Orange Gを混合することにより製造される低pH(pH=10.3)現像液である。
【0151】
ポリウレタン樹脂は、既知の条件を使用して調製したジメチロールプロピオン酸/ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン/1,6−ヘキサンジオール/Polyfox(登録商標)PF6320(Omnova製)/4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートで構成されていた。
【0152】
SWORD Ultraは、商業的に入手可能なポジ型多層平版印刷版原版(Eastman Kodak Company)である。
【0153】
樹脂の合成:
表Iに示す樹脂を合成するために、以下の一般的手順に従った。
【0154】
モノマー、開始剤及び溶媒の予備混合物を製造し、窒素を流した。予備混合物の4分の1を、攪拌、温度監視、還流を備えた500mL 4つ首丸底フラスコに添加し、次いで、窒素でパージしながら80℃に加熱した。予備混合物の残りを3時間にわたってゆっくり添加した。6.5時間の総反応時間後、得られた反応混合物を冷却させ、得られたポリマーを水中に沈殿させ、濾過し、水で洗浄した。得られたポリマーを40℃で2日間乾燥させた。「モノマー供給濃度」を、総モノマー重量(グラム)÷モノマー、溶媒及び開始剤の総重量(グラム)として計算し、百分率として表した。
【0155】
【表1A】
【表1B】
【0156】
平版印刷版原版1〜9を以下の通り調製した:
【0157】
底部(内部画像形成性)層(「BL」)1〜9を、表IIに示す2.3gの樹脂、0.15gのIR染料、0.038gのD11を37.5gの溶媒混合物Aに溶解することにより調製した配合物を基板Aの上に塗布し、コーティング配合物を135℃で45秒間乾燥させて1.35g/m2の内部画像形成性層についての乾燥コーティング重量を得ることにより調製した。
【0158】
上部(外部画像形成性)層配合物1を、6.9gのポリマーA、0.59gのポリウレタン樹脂、0.007gのエチルバイオレット、0.12gのByk(登録商標)307及び0.35gのCo1030を32gの溶媒混合物Bに溶解させることにより調製した。
【0159】
平版印刷版原版1〜9を、上部層配合物を表IIで以下に示す底部層配合物BL1〜BL9上にコーティングしてそれぞれ0.58g/m2のコーティング重量を有する外部画像形成性層を得ることにより調製した。
【0160】
各平版印刷版原版を50℃で1日調整した。
【0161】
以下の性能評価を行った:
【0162】
フォトスピード及びリッジ:
フォトスピードを評価するために、各平版印刷版原版を、Kodak(登録商標)Trendsetter 800 Quantumイメージセッター(39mJ/cm2〜102mJ/cm2)を使用して1Wの工程で、4W〜16Wで固体及び8×8チェッカーボードを含むテストパターンにより画像化した。画像化原版を、現像液Aを使用して25℃及び1500mm/分でKodak T−HDプロセッサー(Eastman Kodak)において現像した。次いで、得られた平版印刷版をクリアポイント及び画像アタック(リッジとして目に見える)について評価した。全ての平版印刷版が、65mJ/cm2と80mJ/cm2との間のクリアポイントを示し、現像中にリッジ又は剥離兆候を示すことなく良好な画像品質及び解像度を示した。
【0163】
耐溶剤性:
耐溶剤性を、以下の強印刷室溶剤の溶剤/水の80:20混合物、ブチルセロソルブ(BC)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPME)及びジアセトンアルコール(DAA)中で5分後の平版印刷版原版の重量浸漬損失を測定することにより決定した。
【0164】
各原版を浸漬した5分後の損失百分率を以下の表IIに記録している。内部画像形成性層中の樹脂1〜5は、極めて低分子量を有する場合(この場合、耐性は悪化した)を除いて、概して印刷室化学物質に対して極めて良好な耐性を提供した。
【0165】
耐刷性:
平版印刷版原版1〜11から得た平版印刷版の耐刷性を、固体とスクリーン領域の両方での画像摩耗を探し、基準としてSword Ultra平版印刷版を使用することにより評価した。基準平版印刷版と比較した百分率としての各平版印刷版について得られた耐刷性を以下の表IIに示す。
【0166】
表IIに示す内部画像形成性層に使用した樹脂の相対分子量(相対MW)は、ポリスチレン標準を使用してゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。
【0167】
【表2】
【0168】
表IIに示す結果は、平版印刷版原版が全て良好な耐溶剤性を示すことを示している。しかしながら、内部画像形成性層が200000を超える分子量を有する樹脂を含む本発明により調製した平版印刷版原版のみが、低分子量のポリマーを使用した場合と比べてはるかに長い耐刷性をもたらした。一般的に、画像化層の現像液への溶解が遅く、スクリーン領域に詰まった影をもたらすおそれがあるので、原版中の高分子量樹脂は、乏しい画像化速度及び解像度をもたらすおそれがある。しかしながら、本発明により使用する樹脂は、これらの問題を引き起こさず、画像化速度が有意には低下しなかった。
【0169】
比較例1では、樹脂1Aを比較的低い初期エチレン性不飽和重合性モノマー供給濃度を含有する溶液で調製した。結果として、成長するフリーラジカルの、重合中に形成されているポリマー鎖への十分な連鎖移動反応がなく、実施例1に使用した高分子量樹脂1Bに対して低い分子量樹脂1Aをもたらした。低分子量樹脂の使用は、実施例1の平版印刷版(原版2)と比べて比較例1の平版印刷版(原版1)について短い耐刷性をもたらした。
【0170】
同様に、低い初期モノマー供給濃度で調製した樹脂2Aは、高い初期モノマー供給濃度で調製した樹脂2Bを含有する実施例2の平版印刷版(原版4)と比べて低い分子量を有し、得られた比較例2の平版印刷版は短い耐刷性(原版3)を示した。
【0171】
比較例3及び4では、ポリマーを調製するために使用するエチレン性不飽和重合性モノマーの1つとしてのN−メトキシメチルメタクリルアミドが存在しないので、樹脂3A及び3Bは発明実施例2に使用する樹脂2Bよりも低い分子量を有した。この特定のモノマーを省略することにより、成長しているフリーラジカルからポリマー鎖への連鎖移動反応があまりなくなった。更に、エチレン性不飽和重合性モノマー濃度の樹脂3A及び3Bへの影響は、樹脂2A及び2Bへの影響ほど大きくなかった。
【0172】
したがって、同様の反応条件下での骨格中にN−メトキシメチルメタクリルアミドに由来する繰り返し単位を欠くポリマーは、このような繰り返し単位を含むポリマーほど高いポリマー分子量を提供しないことが予想外に分かった。N−メトキシメチル反応性繰り返し単位部位は、溶媒に対するモノマー供給が高く、連鎖移動反応がメトキシメチル官能基に起こり得る反応条件下で分枝を可能にすると考えられる。これらの場合、分枝のレベルが高いことを示す高い多分散度が得られ、これにより本明細書に記載する所望の結果がもたらされ得ることに留意する。
【0173】
モノマー供給濃度の影響は、原版(原版8)中に樹脂4Bを含有する実施例3と比べた、原版(原版7)中に樹脂4Aを含有する比較例5でも示されている。(低い初期モノマー供給で得られた)樹脂4Aを含有する比較例5の平版印刷版は、(高い初期モノマー供給で得られた)高分子量樹脂4Bを含有する実施例3の平版印刷版と比べて劣った耐刷性を示した。
【0174】
本発明の実施例では、内部画像形成性層に使用する樹脂が、高い分枝レベルを示す高い多分散度を有していたことに留意すべきである。しかしながら、比較例6の原版は、樹脂1A及び樹脂1Bの混合物を含有しており、高い多分散度及び低い平均分子量を有する混合物を提供した。比較例6の平版印刷版は、良好な耐刷性を提供する高い多分散度ではないことを示す乏しい耐刷性を示した。所望のモノマー供給条件下で本発明により調製した樹脂は、高い多分散度により示される高い分枝を有する高分子量のポリマーをもたらし、得られた平版印刷版に長い耐刷性をもたらした。
【0175】
本発明をその特定の好ましい実施形態を特に参照して詳細に記載してきたが、変形及び修正を本発明の精神及び範囲内で行うことができることが理解されるだろう。
【手続補正書】
【提出日】2014年9月30日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性表面を有する基板および前記基板上に配置された2つ以上の層を含むポジ型平版印刷版原版であって、
前記層の少なくとも1つは赤外線吸収剤を含み、
前記2つ以上の層は
前記基板上に配置された内部画像形成性層であって、総内部画像形成性層乾燥重量基準で少なくとも50重量%および最大で97重量%の総量で存在する1種または複数の第1の高分子バインダーを含む内部画像形成性層と、
前記内部画像形成性層上に配置されたインク受容性外部画像形成性層であって、前記第1の高分子バインダーとは異なる1種または複数の第2の高分子バインダーを含むインク受容性外部画像形成性層とを含み、
前記1種または複数の第1の高分子バインダーの各々は少なくとも200000の重量平均分子量を有し、
前記1種または複数の第1の高分子バインダーの各々は少なくとも4の多分散度を有し、
前記1種または複数の第1の高分子バインダーの各々はポリマー1g当たり少なくとも40meq KOHの酸価を有し、前記第1の高分子バインダーの少なくとも1種は以下の群のエチレン性不飽和重合性モノマーの1つまたは複数に由来する、ポリマー鎖に沿ってランダムに分布した繰り返し単位を含む:
a)N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドまたはアルコキシメチル(アルキル)アクリレート、
b)ペンダントシアノ基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、
c)ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、
d)1個または複数のカルボキシ、スルホまたはホスホ基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー、および
e)構造(D1)〜構造(D4)により表されるエチレン性不飽和重合性モノマー:
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
(式中、R1およびR2は独立に、水素またはアルキル、アルケニル、フェニル、ハロ、アルコキシもしくはアシルオキシ基であるか、あるいは、R1およびR2は共に、これらが結合している炭素原子と共に環を形成することができ、
R3およびR4は独立に、水素またはアルキル、フェニルもしくはハロ基であり、
R5はアルキル、アルケニル、シクロアルキルまたはフェニル基であり、
R6〜R9は独立に、水素またはアルキル、アルケニル、フェニル、ハロ、アルコキシ、アシルもしくはアシルオキシ基であり、
R10は水素またはアルキル、フェニルもしくはヒドロキシ基である)、
ポジ型平版印刷版原版。
【請求項2】
前記1種または複数の第1の高分子バインダーの各々がポリマー1g当たり65meq KOHからポリマー1g当たり最大で130meq KOHの酸価を有し、前記第1の高分子バインダーの少なくとも1種が、少なくとも:
N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドもしくはアルコキシメチル(アルキル)アクリレート、または
ペンダント1H−テトラゾール基を有するエチレン性不飽和重合性モノマー
に由来する繰り返し単位を含む、請求項1に記載の原版。
【請求項3】
前記赤外線吸収剤が前記内部画像形成性層中にのみ存在する、請求項1または2に記載の原版。
【請求項4】
前記1種または複数の第1の高分子バインダーの各々が2−ブトキシエタノールの80重量%水溶液またはジアセトンアルコールの80重量%水溶液のいずれかに25℃で24時間攪拌すると、100mg/g未満の溶解度を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の原版。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のポジ型平版印刷版原版を赤外線に画像様に露光し、それによって前記内部画像形成性層および前記インク受容性外部画像形成性層中に露光および非露光領域を有する画像化原版を形成するステップと、
前記画像化原版を処理して前記内部画像形成性層および前記インク受容性外部画像形成性層の前記露光領域を除去し、平版印刷版を形成するステップと
を含む、平版印刷版を製造する方法。
【請求項6】
前記処理が少なくとも6および最高で12.5のpHを有する処理液を使用して行われる、または前記処理が少なくとも7および最高で13.5のpHを有する処理液を使用して行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記画像様露光および処理後、前記平版印刷版が室温より上の温度で少なくとも1分間焼き付けられるまたは前記平版印刷版が赤外線に均一に露光される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
親水性表面を有する基板および前記基板上に配置された2つ以上の層を含み、
前記層の少なくとも1つは赤外線吸収剤を含み、
前記2つ以上の層は
前記基板上に配置された内部画像形成性層であって、総内部画像形成性層乾燥重量基準で少なくとも50重量%および最大で97重量%の総量で存在する1種または複数の第1の高分子バインダーを含む内部画像形成性層と、
前記内部画像形成性層上に配置されたインク受容性外部画像形成性層であって、前記第1の高分子バインダーとは異なる1種または複数の第2の高分子バインダーを含むインク受容性外部画像形成性層とを含み、
前記1種または複数の第1の高分子バインダーの各々は少なくとも200000の重量平均分子量および少なくとも4の多分散度を有し、
前記内部画像形成性層および前記インク受容性外部画像形成性層は非露光領域でのみ前記基板上に存在する一方で、前記内部画像形成性層および前記インク受容性外部画像形成性層は露光領域では除去されて前記基板の前記親水性表面を露出している、
請求項5から7のいずれか一項に記載の方法を使用して調製した平版印刷版。
【国際調査報告】