(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-520521(P2015-520521A)
(43)【公表日】2015年7月16日
(54)【発明の名称】薄膜ソーラセル用のNaxIn1SyClzバッファ層を有する層システム
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0216 20140101AFI20150619BHJP
H01L 31/0749 20120101ALI20150619BHJP
H01L 31/072 20120101ALI20150619BHJP
【FI】
H01L31/04 240
H01L31/06 460
H01L31/06 400
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-517741(P2015-517741)
(86)(22)【出願日】2013年6月19日
(85)【翻訳文提出日】2014年12月19日
(86)【国際出願番号】EP2013062703
(87)【国際公開番号】WO2013189968
(87)【国際公開日】20131227
(31)【優先権主張番号】12172699.6
(32)【優先日】2012年6月20日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】512212885
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
【氏名又は名称原語表記】Saint−Gobain Glass France
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ハップ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヨースト
(72)【発明者】
【氏名】イェアク パルム
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ポールナー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ダリボア
(72)【発明者】
【氏名】ローラント ディートミュラー
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA07
5F151AA10
5F151BA11
5F151DA20
(57)【要約】
本発明は、薄膜ソーラセル用の層システム(1)に関しており、この層システム(1)は、カルコゲナイド化合物半導体を含む吸収層(4)と、この吸収層(4)上に配置されているバッファ層(5)とを有しており、このバッファ層(5)には、Na
xIn
1S
yCl
zが含まれており、ただし0.05≦x<0.2または0.2<x≦0.5,1≦y<2かつ0.6≦x/z<1.4である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜ソーラセル(100)用の層システム(1)において、
該層システム(1)は、
カルコゲナイド化合物半導体を含む吸収層(4)と、
当該吸収層(4)上に配置されているバッファ層(5)とを有しており、
前記バッファ層(5)には、NaxIn1SyClzが含まれており、ただし
0.05≦x<0.2 または 0.2<x≦0.5,
0.6≦x/z≦1.4 かつ
1≦y≦2および
である、
ことを特徴とする層システム(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の層システム(1)において、
0.1≦x<0.2または0.2<x≦0.3
である、
ことを特徴とする層システム(1)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の層システム(1)において、
0.8≦x/z≦1.2
である、
ことを特徴とする層システム(1)。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の層システム(1)において、
1.3≦y≦1.5
である、
ことを特徴とする層システム(1)。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の層システム(1)において、
前記バッファ層(5)は、10nm〜100nmの、有利には20nm〜60nmの層厚を有する、
ことを特徴とする層システム(1)。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の層システム(1)において、
前記バッファ層(5)は、物質量割合が10atom%以下の酸素を含有する、および/または、物質量割合が10atom%以下の銅を含有する、
ことを特徴とする層システム(1)。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の層システム(1)において、
前記バッファ層(5)におけるナトリウムおよび塩素の割合は、一定でない深さプロフィールを有する、
ことを特徴とする層システム(1)。
【請求項8】
請求項7に記載の層システム(1)において、
前記バッファ層(5)におけるナトリウムおよび塩素の物質量の割合は、前記バッファ層(5)の前記吸収層(4)側を向いた表面から内部に向かって減少するグラジエントを有する、
ことを特徴とする層システム(1)。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の層システム(1)において、
前記カルコゲナイド化合物半導体は、Cu2ZnSn(S,Se)4,Cu(In,Ga,Al)(S,Se)2および有利にはCuInSe2,CuInS2,Cu(In,Ga)Se2またはCu(In,Ga)(S,Se)2が含まれている、
ことを特徴とする層システム(1)。
【請求項10】
薄膜ソーラセル(100)において、
該薄膜ソーラセル(100)には、
基板(2)と、
当該基板(2)上に配置されている背面電極(3)と、
当該背面電極(3)上に配置されている、請求項1から9までのいずれか1項に記載の層システム(1)と、
当該層システム(1)上に配置されている前面電極(7)とを有する、
ことを特徴とする薄膜ソーラセル(100)。
【請求項11】
請求項10に記載の薄膜ソーラセル(100)において、
前記バッファ層(5)と前記前面電極(7)との間に第2バッファ層(6)が配置されており、
当該第2バッファ層(6)は、有利にはドーピングされていない酸化亜鉛および/またはドーピングされていない亜鉛酸化マグネシウムが含まれている、
ことを特徴とする薄膜ソーラセル(100)。
【請求項12】
薄膜ソーラセル(100)用の層システム(1)を作製する方法において、
a) カルコゲナイド化合物半導体を含有する吸収層(4)を準備するステップと、
b) 当該吸収層(4)上にバッファ層(5)を配置するステップとを有しており、
当該バッファ層(5)には、NaxIn1SyClzが含まれており、ただし
0.05≦x<0.2または0.2<x≦0.5,
0.6≦x/z≦1.4かつ
1≦y≦2である、
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、
ステップb)において、有利には原子層堆積法(ALD)、イオン層ガス蒸着法(ILGAR)、スプレー熱分解法、化学蒸着法(CVD)または物理蒸着法(PVD)、スパッタリング、熱蒸着法または電子ビーム蒸着法によって塩化ナトリウムおよび硫化インジウムを前記吸収層(4)にデポジットし、殊に有利には塩化ナトリウム用蒸発源(8)および硫化インジウム用蒸発源(9)の独立した複数の蒸発源からデポジットする、
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法において、
前記吸収層(4)が、インライン方式または回転方式で、少なくとも1つの塩化ナトリウムの蒸気ビーム(11)および少なくとも1つの硫化インジウム(12)の蒸気ビームの前を通過するようにし、
複数の前記蒸気ビーム(11,12)は有利には部分的に重なっている、
ことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の層システム(1)の使用方法において、
薄膜ソーラセル(100)またはソーラセルモジュールに使用する、
ことを特徴とする使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜ソーラセル用の層システムおよび層システムを作製する方法に関する。
【0002】
ソーラセルおよびソーラモジュール用の薄膜システムは十分に公知であり、基板および被着される複数の材料に応じ、種々異なる実施形態で市場に出回っている。これらの材料は、入射する太陽光スペクトルが最大限に利用されるように選択される。物理特性および技術的な取り扱い易さにより、非晶質の、マクイロモルフまたは多結晶のケイ素、テルル化カドミウム(CdTe)、ヒ化ガリウム(GaAs)、銅−インジウム−(ガリウム)−セレニド−スルフィド(Cu(In,Ga)(S,Se)
2)、銅−亜鉛−すず−スルホ−セレニド(黄錫亜鉛鉱のグループに属するCZTS)ならびに有機半導体がソーラセルには殊に有利である。五元半導体Cu(In,Ga)(S,Se)
2は、黄銅鉱半導体のグループに属しており、これはCIS(銅インジウムジセレニドまたは銅インジウムスルフィド)またはCIGS(銅インジウムガリウムジセレニド、銅インジウムガリウムジスルフィドまたは銅インジウムガリウムジスルホセレニド)と称される。Sは、略称CIGSにおいてセレン、硫黄または2つのカルコゲンの混合物を表し得る。
【0003】
Cu(In,Ga)(S,Se)
2ベースの最新の薄膜ソーラセルおよびソーラモジュールには、p導電型のCu(In,Ga)(S,Se)
2吸収層と、n導電型の前面電極との間にバッファ層が必要である。この前面電極には一般的に酸化亜鉛(ZnO)が含まれている。今日の知識によれば、このバッファ層により、吸収材料と前面電極との間の電子的な適合化が可能になる。さらにこのバッファ層により、DCマグネトロンスパッタリングによって前面電極をデポジットする後続のプロセスステップにおいて、スパッタリングによる損傷に対する保護が得られる。付加的に上記のバッファ層は、p型半導体とn型半導体との間に高抵抗の中間層を形成することにより、電子的に良好な導電性領域から良好でない導電性領域への電流の流出を阻止する。
【0004】
従来、最も多かったのは、硫化カドミウム(CdS)をバッファ層として使用することである。セルの良好な効率が得られるようにするため、硫化カドミウムはこれまで化学溶液析出法(CBD法)において湿式化学的にデポジットされている。しかしながらこれに伴う欠点は、この湿式化学法が、Cu(In,Ga)(S,Se)
2薄膜ソーラセルの今日における製造のプロセス手順に良好には適合しないことである。
【0005】
CdSバッファ層の別の欠点は、これが有毒の重金属であるカドミウムを含有していることである。これにより、例えば排水の廃棄処理時など、製造プロセスにおいて安全のために多大な予防対策を講じなければならないため、一層製造コストが高くなってしまう。この生成物の廃棄処理は、顧客に対して一層高いコストを生じさせてしまう。なぜならばメーカは地域の法律制定に応じて、この生成物の回収、廃棄処理またはリサイクルを強制され得るからである。これによって発生するコストは、顧客に転嫁されることになる。
【0006】
このため、Cu(In,Ga)(S,Se)
2半導体系からなる種々異なる吸収体に対し、硫化カドミウム製のバッファに変わる種々異なる選択肢がテストされており、例えば、スパッタリングされたZnMgO、CBDによってデポジットしたZn(S,OH)、CBDによってデポジットしたIn(O,OH)、および、硫化インジウムなどがテストされており、これらは原子層堆積法(ALD)、イオン層ガス蒸着法(ILGAR)、スプレー熱分解法、または熱蒸着もしくはスパッタリングのような物理蒸着法(PVD)によってデポジットされる。
【0007】
しかしながらこれらの材料はまだ、Cu(In,Ga)(S,Se)
2をベースとしたソーラセル用のバッファとして商用利用には適していない。なぜならばこれらの材料は、CdSバッファ層による効率と同じ効率には達していないからである。この効率は、ソーラセルが形成する電力に対する入射するパワーの比を表すものであり、小面積上の実験的なセル用のCdSバッファ層に対しては約20%までの、また、大面積モジュール用のCdSバッファ層に対しては10%と15%との間の値をとる。さらに択一的なバッファ層は、これが光、熱および/または水分に曝されると、効率の劣化、大きな不安定性またはヒステリシス作用を示してしまうである。
【0008】
CdSバッファ層の別の欠点は、硫化カドミウムが、約2.4eVで電子が直接遷移する直接遷移型半導体であることによる。したがってCu(In,Ga)(S,Se)
2/CdS/ZnOソーラセルでは、すでに数10nmのCdS層厚において入射光が大きく吸収されるのである。電気的な収量についてみると、バッファ層で吸収される光は消失したとの同じである。なぜならば、形成された荷電担体はこの層においてすぐに再結合され、またヘテロ接合のこの領域および上記のバッファ材料には再結合中心部として作用する結晶欠陥が存在するからである。この結果、ソーラセルの効率は低下してしまうため、薄膜ソーラセルには不利である。
【0009】
硫化インジウムベースのバッファ層を有する層システムは、例えば、WO 2009/141132 A2から公知である。この層システムは、硫化インジウムからなるバッファ層に関連して、CIGS系の黄銅鉱吸収体からなり、殊にCu(In,Ga)(S,Se)
2からなる。硫化インジウム(In
vS
w)バッファ層は、例えば、v/(v+w)=41%ないし43%のややインジウム豊富な組成を有する。この硫化インジウムバッファ層は、種々異なる非湿式法によってデポジットすることができ、例えば、熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオン層ガス反応法(ILGAR),陰極スパッタリング法(スパッタリング)、原子層堆積法(ALD)またはスプレー熱分解によってデポジット可能である。
【0010】
しかしながら上記の層システムおよび製造方法のこれまでの発展において示されたのは、硫化インジウムバッファ層を有するソーラセルの効率が、CdSバッファ層を有するソーラセルより低いことである。
【0011】
Iver Lauermann等による”Synchrotron-based spectroscopy for the characterization of surfaces and interfaces in chalcopyrite thin-film solar cells”,Solar Energy Materials And Solar Cells,Elsevier Science Publishers,Amsterdam,NL,Vol.95,No.6,2010年12月17日の第1495〜1508頁には、Naを含有するバッファ層を有する層システムが示されているが、Na含有量は、本発明が請求する範囲外にある。本発明が請求する範囲は、Lauermann等の装置によっては達成することができない。
【0012】
Baer M.等による"Deposition of In
2S
3 on Cu(In,Ga)(S,Se)
2 thin film solar cell absorbers by spray ion layer gas reaction: Evidence of strong interfacial diffusion",Applied Physics Letters,AIP,American Institute of Physics,Melville,NY,US,Vol.90,No.13,2007年3月29日,第132118-1〜132118-3頁には、Naを含有するバッファ層を有する層システムが示されているが、Na含有量は、本発明が請求する範囲外にある。本発明が請求する範囲は、Baer等の装置によっては達成することができない。
【0013】
したがって本発明の課題は、製造がコスト的に有利でありかつ環境に負荷をかけずかつ高い効率および高い安定性を有する、バッファ層を備えた、カルコゲナイド化合物半導体ベースの層システムを提供することであり、またその製造がコスト的に有利であり、かつ、環境に負荷をかけないようにする。
【0014】
この課題は、本発明により、請求項1に記載した層システムによって解決される。本発明の有利な発展形態は従属請求項に記載されている。
【0015】
本発明にはさらに、薄膜ソーラセル用の層システムを作製する方法が含まれている。
【0016】
本発明による層システムの使用方法は、別の請求項に記載されている。
【0017】
本発明による層システムには少なくとも、
− カルコゲナイド化合物半導体を含む吸収層と、
− この吸収層上に配置されているバッファ層とを有しており、このバッファ層には、Na
xIn
1S
yCl
zが含まれており、ただし0.05≦x<0.2または0.2<x≦0.5,1≦y≦2および0.6≦x/z≦1.4である。
【0018】
本発明による層システムでは、ナトリウム含有量に対し、値x=0.2は除外されている。
【0019】
本発明の発明者の研究によって驚愕的にも示されたように、硫化インジウムを含有するバッファ層にナトリウムおよび塩素を添加することにより、ソーラセルの効率が格段に増大することを測定することができた。
【0020】
上記のバッファ層の元素はそれぞれ、種々異なる酸化ステップにおいて存在し得るため、以下では特に明示的に断らないかぎり、すべての酸化ステップを元素の名前で統一的に示すことにする。したがって、例えば、ナトリウムとは、元素のナトリウム、ナトリウムイオンならびに化合物におけるナトリウムのことであると理解されたい。
【0021】
上記の添え字xは、バッファ層におけるインジウムの物質量に対するナトリウムの物質量の比を示しており、ソーラセルの効率にとって重要である。純粋な硫化インジウムバッファ層と比較した効率の大きな増大は、すでに0.05≦x≦0.5の範囲ですでに測定可能である。
【0022】
本発明による層システムの有利な実施形態では、0.1≦x<0.2または0.2<x≦0.3である。これらの値に対し、約15%までの殊に高い効率を測定することができた。
【0023】
上記のバッファ層におけるナトリウムの最適な量は、上記の吸収層におけるナトリウムの全体量よりも格段に多い。しかしながら吸収層におけるナトリウムの量は、製造プロセスに依存する。吸収層からのナトリウムは比較的可動性を有する。発明者が出発点としたのは、ナトリウムおよび塩素を同時に提供することにより、ナトリウムがバッファ層において結合することである。バッファ層にナトリウムが存在することによって同時に、吸収層からバッファ層へのナトリウムの拡散が阻止される。
【0024】
添え字yは1ないし2の値をとる。添え字yは、インジウムの物質量に対する硫黄の物質量の比を示す。本発明による層システムの有利な実施形態では、1.3≦y≦1.5である。これらの値に対し、殊に高い効率を測定できた。殊に高い効率は、わずかにインジウム豊富なバッファ層に対して測定できた。ここでインジウム豊富とは、硫黄に対するインジウムの相対的な割合が、In
2S
3の化学量論的比における相対的な割合よりも大きく、ひいてはy<1.5が成り立つことを意味する。本発明の別の有利な実施形態において上記のバッファ層は非晶質に構成される。
【0025】
比x/zは、0.6ないし1.4であり、有利には0.8ないし1.2である。これらの値に対し、殊に高い効率を測定することができた。塩化ナトリウムを構成するナトリウムおよび塩素を添加する場合、比x/zはほぼ1である。わずかに高いナトリウムの割合は、例えば、上記の吸収層またはガラス基板からのナトリウムの拡散によって生じ得る。
【0026】
0.05≦x≦0.5の範囲に対し、バッファ層における塩化ナトリウムの物質量の割合は、約2atom%〜20atom%である。例えば、バッファ層における塩化ナトリウムの物質量は、x=0.2,y=1.4およびx/z=1に対して約7.1atom%である。ここでatom%の物質量割合とは、バッファ層のすべての元素の物理量の合計を基準にした、ある物質の物質量の割合のことである。
【0027】
本発明によるバッファ層の有利な実施形態において、層厚は10nm〜100nmであり、有利には20nm〜60nmである。
【0028】
別の有利な実施形態において、本発明によるバッファ層は、≦10atom%の物質量割合の酸素を含有する。例示的に使用される材料の硫化インジウムおよび塩化ナトリウムは吸湿性であるため、酸素は不純物になり得る。酸素は、コーティング装置からの残留水蒸気を介して持ち込まれることもあり得る。バッファ層における酸素の物質量の割合を≦10atom%とすることにより、ソーラセルの高い効率を保証することができる。
【0029】
別の有利な実施形態において、本発明によるバッファ層は、物質量割合が≦10atom%の銅を含有する。銅は吸収層からバッファ層内に拡散し得る。しかしながら大量の銅が拡散することは不利である。なぜならば、バッファ層のバンドギャップが銅によって低減されるからである。これにより、バッファ層における光の吸収が増大し、ひいては効率が低下する。発明者の実験によって示されたように、バッファ層にナトリウムを使用することによって有利にも、バッファ層への銅の拡散が阻止される。このことは、ナトリウムおよび銅が硫化インジウム格子において同じ場所を取り、これらの場所がナトリウムによって占有されるという事実によって説明することができる。バッファ層における銅の物質量割合が≦10atom%であることにより、ソーラセルの高い効率を保証することができる。
【0030】
本発明による層構造体の有利な実施形態において、バッファ層は、ナトリウム、塩素、インジウム、硫黄、酸素および銅以外の元素を大きな割合では有しない。このことが意味するのは、バッファ層が、例えば炭素のような別の元素を有さず、作製技術的に避けることのできない別の元素が最大で≦1atom%でしか含まれないことである。これにより、ソーラセルの高い効率を保証することができる。
【0031】
本発明による層システムの有利な実施形態において、バッファ層におけるナトリウムおよび塩素の局所的な割合は、一定でない深さプロフィールを有する。本発明における深さプロフィールとは、上記の層構造体の層に垂直な方向のこと、すなわち、この層構造体の個々の層の厚さ方向に平行な方向のことである。殊にバッファ層におけるナトリウムおよび塩素の割合は、バッファ層の吸収層側を向いた表面から内部に向かって減少するグラジエントを有する。バッファ層全体における個々の元素の物質量割合は、本発明で請求される範囲のままである。
【0032】
本発明による層システムの有利な実施形態において、上記の吸収層にはカルコゲナイド化合物半導体としてCu
2ZnSn(S,Se)
4もしくはCu(In,Ga,Al)(S,Se)
2および有利にはCuInSe
2,CuInS
2,Cu(In,Ga)Se
2もしくはCu(In,Ga)(S,Se)
2が含まれている。本発明による層システムの別の有利な実施形態において吸収層は、実質的にカルコゲナイド化合物半導体Cu
2ZnSn(S,Se)
4もしくはCu(In,Ga,Al)(S,Se)
2および有利にはCuInSe
2,CuInS
2,Cu(In,Ga)Se
2もしくはCu(In,Ga)(S,Se)
2からなる。
【0033】
本発明の別の態様にはソーラセルと、殊に本発明による層システムを有する薄膜ソーラセルと、このソーラセルを含むソーラセルモジュールとが含まれている。
【0034】
本発明による薄膜ソーラセルには少なくとも、
− 基板と、
− この基板上に配置されている背面電極と、
− この背面電極上に配置されている本発明の層システムと、
− 第2バッファ層上に配置されている前面電極とを有する。
【0035】
上記の基板は有利には金属、ガラス、プラスチックまたはセラミック基板であり、ガラスが好適である。しかしながら別の透明な基板材料を、例えばプラスチックを使用することも可能である。
【0036】
上記の背面電極には、有利にはモリブデン(Mo)または別の金属が含まれている。この背面電極の有利な実施形態において、背面電極は、上記の吸収層に隣接するモリブデン部分層と、このモリブデン部分層に隣接する窒化ケイ素(SiN)部分層とを有する。このような背面電極システムは、例えば、EP 1356528 A1から公知である。
【0037】
上記の前面電極には有利には透明導電性酸化物(TCO)が、殊に有利にはアルミニウム、ガリウムまたはホウ素がドーピンクされた酸化亜鉛および/またはインジウム酸化すず(ITO)が含まれる。
【0038】
本発明によるソーラセルの有利な実施形態では、上記のバッファ層と前面電極との間に第2バッファ層が配置されている。この第2バッファ層には有利には、ドーピングされていない酸化亜鉛および/またはドーピングされていない亜鉛酸化マグネシウムが含まれている。
【0039】
本発明にはさらに、本発明による層システムを作製する方法が含まれており、
ここでは少なくとも、
a) 吸収層を準備するステップと、
b) この吸収層の上にバッファ層を配置するステップとを有しており、このバッファ層には、Na
xIn
1S
yCl
zが含まれており、ただし0.05≦x<0.2または0.2<x≦0.5,0.6≦x/z≦1.4および1≦y≦2である。
【0040】
好適には上記の吸収層は、RTP("rapid thermal processing")プロセスにおいて基板の背面電極上に被着される。Cu(In,Ga)(S,Se)
2吸収層に対し、まず背面電極を有する上記の基板上に前駆体層をデポジットする。この前駆体層には、スパッタリングによって被着される銅、インジウムおよびガリウム元素が含有されている。この前駆体層によってコーティングする際には、例えばEP 715 358 B1から公知のように所期のナトリウム調量を前駆体層に入れる。さらに前駆体層にはセレン元素が含まれており、これは熱蒸着によって被着される。これらのプロセスにおいて基板温度は100℃未満であるため、上記の元素は実質的に金属合金のままであり、またセレン元素は未反応のままである。引き続いて上記の前駆体層は、硫黄含有雰囲気中でRTP(rapid thermal processing)法で反応して、Cu(In,Ga)(S,Se)
2黄銅鉱半導体になる。
【0041】
バッファ層を作製するためには基本的に、塩素に対するナトリウムの比ならびに硫化インジウムの割合に対する塩化ナトリウムの割合の比を制御可能なすべての化学的・物理的なデポジット法が適している。
【0042】
本発明によるバッファ層は有利には、原子層堆積法(ALD)、イオン層ガス蒸着法(ILGAR)、スプレー熱分解法、化学蒸着法(CVD)または物理蒸着法(PVD)により、上記の吸収層上に被着される。本発明によるバッファ層は有利には、スパッタリング(陰極スパッタリング)、熱蒸着法または電子ビーム蒸着法によってデポジットされ、殊に有利には塩化ナトリウムおよび硫化インジウム用の別の複数の蒸発源からデポジットされる。硫化インジウムは、インジウムおよび硫黄用の別の複数の蒸発源から蒸着されるかまたはIn
2S
3化合物半導体材料を有する1つの蒸発源から蒸着することが可能である。硫黄蒸発源との組み合わせで別の硫化インジウム(In
5S
6/S
7またはInS)も可能である。
【0043】
本発明によるバッファ層は有利には真空法によってデポジットされる。この真空法は、真空中では酸素または水酸化物の取り込みが阻止されるという特別な利点を有する。バッファ層における水酸化物の成分は、熱および光が作用した際の効率の過渡的な状態に影響を及ぼすと推測される。さらに真空法は、この方法を湿式化学を不要にすることができ、標準真空コーティング装置を使用できるという利点を有するのである。
【0044】
本発明による方法の殊に有利実施形態において、塩化ナトリウムは第1の蒸発源から、また硫化インジウム(In
2S
3)は別の第2の蒸発源から蒸発する。これらのデポジット源の配置は有利には、上記の蒸発源の蒸気ビームが重なるようにされる。本発明における蒸気ビームとは、蒸発源の排出口の前の領域であって、蒸発速度および均一性の点から基板上に蒸着される材料のデポジットに技術的に適している領域のことである。上記の蒸発源は、例えば、熱蒸発器、抵抗加熱部、電子ビーム蒸発器またはリニア蒸発器のるつぼ、蒸発セルまたはボートである。
【0045】
本発明による方法の有利な実施形態では、インライン方式または回転方式において、塩化ナトリウムの蒸気ビーム、ならびに、硫化インジウムもしくはインジウムおよび硫黄の蒸気ビームの前を通過するように上記の吸収層を案内する。上記の蒸気ビームは有利には完全に重なっているかまたは部分的に重なっている。
【0046】
本発明による方法の択一的な実施形態では、第2ステップb)において、まず塩化ナトリウム化合物を上記の吸収層上にデポジットする。例えば、蒸発セルから塩化ナトリウムを蒸発させる。蒸発する塩化ナトリウムの量は、絞りを開閉することにより、または温度制御によって制御される。引き続いて別のステップにおいて、有利には真空遮断なしに、塩化ナトリウムがコーティングされた吸収層上に、硫化インジウムからなるバッファ層をデポジットする。
【0047】
本発明の別の態様には、薄膜ソーラセルまたはソーラセルモジュールに本発明による層システムを使用する方法が含まれている。
【0048】
以下では図面および実施例に基づいて本発明を詳しく説明する。この図面は完全に縮尺通りではない。本発明は、この図面によって制限されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】本発明による層システムを有する本発明の薄膜ソーラセルの概略断面図である。
【
図2】比較例と共に、本発明による層システムにおける効率の測定値を示す線図である。
【
図3】本発明による層システムにおける効率の測定値(A)および電圧の測定値(B)を示す線図である。
【
図4】本発明によるバッファ層における塩素に対するナトリウムの比の測定値を示す線図である。
【
図5】本発明による層システムにおける塩素に対するナトリウムの比の測定値を示す線図である。
【
図6】本発明による層システムの一発展形態の概略断面図である。
【
図7】本発明による方法ステップの実施例を示す線図である。
【
図8】本発明によるバッファ層を作製するためのインライン方式の概略図である。
【
図9】本発明によるバッファ層を作製するための回転方式の概略図である。
【0050】
図1では、本発明による層システム1を有する本発明の薄膜ソーラセル100の有利な実施例が、極めて概略的に断面図で示されている。薄膜ソーラセル100には、基板2および背面電極3が含まれている。背面電極3上には本発明による層システム1が配置されている。本発明による層システム1には、吸収層4およびバッファ層5が含まれている。層システム1上には第2バッファ層6および前面電極7が配置されている。
【0051】
基板2はここでは、例えば、有機ガラスから構成されているが、十分な強度と、薄膜ソーラセル100を作製する際に実行されるプロセスステップに対して不活性な特性とを有する別の絶縁材料も同様に使用することでき、例えばプラスチック、殊にポリマまたは金属、殊に金属合金も使用可能である。上記の層厚および固有の材料特性に応じて、基板2は、硬質プレートまたはフレキシブルシートとして構成することができる。この実施例において、基板2の層厚は、例えば1mmないし5mmである。
【0052】
基板の2の光入射側の表面には背面電極3が配置されている。背面電極3は、例えば、光を通さない金属から構成される。この背面電極は、例えば、蒸着または磁場支援された陰極スパッタリングによって基板2上にデポジットすることができる。背面電極3は、例えば、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)から、またはこのような金属を、例えばモリブデン(Mo)を有する多層システムから構成される。背面電極3の層厚はここでは1μm未満であり、有利には300nmないし600nmの範囲にあり、例えば500nmである。背面電極3は、薄膜ソーラセル100の背面コンタクトとして使用される。基板2と背面電極3との間にはアルカリバリアを配置することができ、これは例えばSi
3N
4,SiONまたはSiCNからなる。このアルカリバリアは
図1において詳細には示されていない。
【0053】
背面電極3上には本発明による層システム1が配置されている。層システム1には、例えばCu(In,Ga)(S,Se)
2からなる吸収層が含まれており、この層は背面電極3に直接載置されている。Cu(In,Ga)(S,Se)
2からなる吸収層4は、例えば、冒頭に説明したRTPプロセスにおいてデポジットされる。吸収層4は、例えば、1.5μmの厚さを有する。
【0054】
吸収層4上にはバッファ層5が配置されている。バッファ層5には、例えばNa
xIn
1S
yCl
zが含まれており、ただし0.05≦x<0.2または0.2<x≦0.5、1.3≦y≦1.5および0.6≦x/z≦1.4であり、例えばNa
0.2In
1S
1.4Cl
0.2である。バッファ層5の層厚は、20nmないしは60nmであり、例えば30nmである。
【0055】
バッファ層5の上には第2バッファ層6を配置することができる。このバッファ層6には、例えば、ドーピングされていない酸化亜鉛(i−ZnO)が含まれている。第2バッファ層6の上には、前面電極7が配置されており、この前面電極は、前面コンタクトとして使用され、可視スペクトル領域のビームに対して透過性を有する(「窓層」)。前面電極7対して一般的には、ドーピングされた金属酸化物(TCO=Transparent Conductive Oxide)が使用され、例えばn導電型の、アルミニウムがドーピングされた酸化亜鉛(ZnO)、ホウ素(B)がドーピングされた酸化亜鉛(ZnO)、またはガリウム(Ga)がドーピングされた酸化亜鉛(ZnO)が使用される。前面電極7の層厚は、例えば、約300ないし1500nmである。周囲環境の影響から保護するため、前面電極7上には、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレンビニルアセテート(EVA)またはDNPからなるプラスチック層(カプセル封止シート)を被着することができる。さらに太陽光に対して透明なカバープレートを設けることができ、このカバープレートは、わずかに鉄を含有するエクストラホワイトガラス(フロントガラス)から構成され、例えば1ないし4mmの厚さを有する。
【0056】
薄膜ソーラセルまたは薄膜ソーラモジュールの上で説明した構造は、例えば、市販の薄膜ソーラセルまたは薄膜ソーラモジュールから当業者によく知られており、またすでに特許文献の数多くの刊行物に、例えばDE 19956735 B4にすでに詳しく説明されている。
【0057】
図1に示した基板構成では、背面電極3は基板2に隣接している。明らかであるのは、基板2が透明でありかつ光入射側とは反対側を向いた基板2の表面に前面電極7が配置される上層式の基板構成も層システム1が有し得ることである。
【0058】
層システム1は、組み込み式の直列接続薄膜ソーラセル100を作製するために使用可能であり、ここでは層システム1、背面電極3および前面電極7は、公知のように種々異なる構造線(背面電極に対する「P1」、前面電極/背面電極コンタクトに対する「P2」および前面電極を分離するための「P3」)によって構造化される。
【0059】
図2には、従来技術による2つの比較例と、本発明による層システム1とを有する、薄膜ソーラセル100の効率のグラフが示されている。本発明による実施例には、
図1に示した構造による薄膜ソーラセル100が含まれている。薄膜ソーラセル100には、ガラス製の基板2と、Si
3N
4バリア層およびモリブデン層からなる背面電極3とが含まれている。背面電極3上には、Cu(In,Ga)(S,Se)
2からなる吸収層4が配置されており、この吸収層は上で説明したRTPプロセスにしたがってデポジットされている。吸収層4上にはNa
xIn
1S
yCl
zバッファ層5が配置されている。バッファ層5の層厚は50nmである。バッファ層5上には、100nmの厚さの第2バッファ層6が配置されており、このバッファ層には、ドーピングされていない酸化亜鉛が含まれている。第2バッファ層6上には1200nmの厚さの前面電極7が配置されており、この前面電極にはn導電型の酸化亜鉛が含まれている。薄膜ソーラセル100の面積は1.4cm
2である。本発明によるNa
xIn
1S
yCl
zバッファ層を有するこれらのセルは、NaClから得られる6.5atom%のNaで形成されている。硫黄およびインジウムの物理量の比yは、約1.35である。ナトリウムおよびインジウムの物理量の比xは約0.18である。経験的には、ナトリウムおよび塩素の物理量の比x/zは、バッファ層5を塩化ナトリウムから作製する際には約1.0である。薄膜ソーラセル100の特性曲線データは、582mVの高い開放電圧V
ocおよび70.8%の良好な曲線因子FFを示している。測定によって14.2%の平均効率と、14.5%の最大効率とが得られた。この平均効率はそれぞれ
図2の黒いバーによって示されている。比較例1には、従来技術によるCdSバッファ層が含まれている。比較例1における測定により、13.6%の平均効率と、14.2%の最大効率とが得られた。比較例2には、出発材料に由来する不純物として<0.5atom%のハロゲン含有量を有しかつインジウムからなる従来技術のバッファ層が含まれている。比較例2における測定により、13.1%の平均効率と、13.6%の最大効率とが得られた。
図2には示されているのは、本発明による実施例が、従来技術による比較例1および2よりも格段に大きい最大効率と、格段に大きい平均効率とを有することである。
【0060】
図3Aには上記の効率の測定値が、また
図3Bには上記の開放電圧の測定値が添え字xに依存して、すなわち、ナトリウムおよびインジウムの物理量の比に依存して示されている。ここでは従来技術による層構造体においてx=0である場合の上記の測定値が比較例として使用されており、ここではバッファ層5にナトリウムは含有されていない。この比較例の効率は、約9.7%であり、開放電圧512mVである。0.1≦x<0.2および0.2<x≦0.3である本発明による層構造体1に対して、予想に反し、12.9%ないし13.4%の範囲の格段に高い効率と、540mVないし578mVの範囲の格段に高い開放電圧とを測定することができた。本発明による層構造体1により、上記の比較例によりも格段に高い効率が示されたのである。
【0061】
図4には、ラザフォード後方散乱法(RBS)による塩素に対するナトリウムの物理量の比x/zの測定値が示されている。この比を分析するため、塩化ナトリウムによって硫化インジウムをコーバー蒸着することにより、約40nmの層厚を有する薄いバッファ層を作製した。比x/zは、バッファ層5におけるナトリウムの物理量のatom%の割合についてプロットされている。0.3atom%から9atom%に至るナトリウムの物理量の割合における大きな変化幅に対し、比x/zはわずかにしか変化しない。例えば、5atom%のナトリウム割合に対する比x/zは、約1.01であり、9atom%のナトリウム割合に対する比x/zは、約1.06である。ここから推論されるのは、塩化ナトリウムを蒸発させることにより、ナトリウムおよび塩素が、硫化インジウムにおいて、出発材料である塩化ナトリウムとほぼ同じ比で取り込まれることである。値1からの比x/zの偏差は、測定または作製エラーによって発生し得る。なぜならば殊に上記の層は吸湿性であり、また約40nmと極めて薄いからである。
【0062】
図5には、本発明による薄膜ソーラセル100における種々異なる量のナトリウムについて、塩素に対するナトリウムの比が示されている。このためにモリブデン背面電極3と、Cu(In,Ga)(S,Se)
2吸収層4と、Na
xIn
1S
yCl
zバッファ層5と、ZnO前面電極とを有する薄膜ソーラセル100を作製し、バッファ層5におけるナトリウム量を変化させた。引き続いて薄膜ソーラセル100を2次イオン質量分析法(SIMS)によって検査した。すべてのセルを通してエレメントプロフィールを記録して、計数率を積算した。垂直軸にはナトリウム/塩素に対するSIMS計数率比がプロットされている。水平軸には吸収層4のナトリウム量を差し引いたナトリウム計数率がプロセットされている。
図5には、種々異なる量で入れられたナトリウムに対し、ナトリウム/塩素のほぼ一定の計数率比が示されている。ナトリウムおよび塩素の比は、測定精度範囲において一定であり、入れられたナトリウム割合には依存しない。このことは、吸収層4におけるナトリウムの割合が、バッファ層5におけるナトリウムの割合に比べて小さく、吸収層4または基板2からはバッファ層5にナトリウムがまったく拡散しないかまたはわずかにしか拡散しないことによって説明することができる。同時にバッファ層5からのナトリウムの離脱拡散は行われないかまた行われたとしてもわずかである。
図5に示した比の値は、物理量比ではなく任意単位で示されている。これは上記の計数率は校正されていないためである。
【0063】
図6には、本発明による層構造体1を有する本発明の薄膜ソーラセル100の択一的な実施形態が示されている。基板2,背面電極3,吸収層4,第2バッファ層6および前面電極7は、
図1の実施例と同じである。バッファ層5は、バッファ層5の層深さsについて、塩素割合のグラジエントを有する。この塩素割合は、酸化ステップに依存しない、バッファ層5にあるすべての塩素原子の割合を示している。
【0064】
図7には、本発明による方法の流れ図が示されている。第1のステップでは、吸収層4が、例えばCu(In,Ga)(S,Se)
2半導体材料から準備される。第2のステップでは、ナトリウムおよび塩素から、例えば塩化ナトリウムから、および、硫化インジウムからバッファ層5がデポジットされる。バッファ層5における個々の成分の比は、例えば蒸発速度を制御することによって制御され、例えば絞りまたは温度制御によって制御される。
【0065】
別のプロセスステップでは、第2バッファ層6および前面電極7をバッファ層5にデポジットすることができる。さらに層構造体1を結線または接触接続して薄膜ソーラセル100またはソーラモジュールにすることができる。
【0066】
図8には、Na
xIn
1S
yCl
zからなる本発明のバッファ層5を作製するためのインライン方式が略示されている。背面電極3および吸収層4を有する基板2は、インライン方式で、例えば2つの塩化ナトリウム蒸発源8および2つの硫化インジウム蒸発源9の蒸気ビーム11,12の前を通過するように案内される。搬送方向は、参照符号10を付した矢印によって示されている。蒸発源8,9は交互に配置されており、ナトリウム蒸発源8の蒸気ビーム11と、硫化インジウム蒸発源9の蒸気ビーム12とは重なっている。これにより、吸収層4は、複数の薄層の塩化ナトリウムおよび硫化インジウムによってコーティングされてこれらが混合される。塩化ナトリウム蒸発源8および硫化インジウム蒸発源9は、例えば蒸発セルであり、この蒸発セルからは塩化ナトリウムないしは硫化インジウムが加熱蒸発する。択一的には、ナトリウム、塩素、インジウムおよび硫黄の物質量の割合の比を制御できるのであれば、バッファ層5をデポジットするのに適した蒸気ビーム11,12を形成する別の任意の形態が適している。択一的な蒸発源は、例えば、リニア蒸発器のボートまたは電子ビーム蒸発器のるつぼである。
【0067】
本発明の方法を実施するための択一的な装置では、塩化ナトリウム8および硫化インジウム9の複数の蒸発源が2次元的に交互に配置され、例えば市松模様配置で交互に配置される。
【0068】
図9には、本発明による方法の別の択一的な実施形態が回転方式の例で示されている。背面電極3および吸収層4を有する基板2は、例えば試料メリーゴーラウンドのような回転可能な試料支持体13上に配置される。試料支持体13の下側には交互に配置された塩化ナトリウムの蒸発源8および硫化インジウムの蒸発源9が設けられている。本発明によるバッファ層5をデポジットする間、試料支持体13は回転される。これによって基板2は、蒸気ビーム11,12内を運動してコーティングされる。
【0069】
塩化ナトリウムを有する蒸発源8および硫化インジウムを有する蒸発源9を使用し、回転可能な試料支持体13上で基板2が回転する実験室におけるプロセスにおいても、基板2がリニアに送られる工業的なインライン方式においても共に、蒸発速度および蒸発源8,9の配置を選択して、吸収層4がまず高い割合の塩化ナトリウムでコーティングされるようにすることが可能である。このことは、
図6に示したように、吸収層4との境界面においてバッファ層5に有利な塩素グラジエントが形成されること結び付き得る。
【0070】
塩化ナトリウムから得られるナトリウムおよび塩素を硫化インジウムバッファ層5に入れることは、複数の特別な利点を有する。塩化ナトリウムは無害であり、コスト的に有利であり、またすでに述べたように熱方式によって容易に被着することができる。加熱蒸発時には塩化ナトリウムはNaCl分子として蒸発し、ナトリウムと塩素とに解離しない。このことは、蒸発中に有害かつ腐食性の塩素が発生しないという特別な利点を有する。
【0071】
上記のように塩化ナトリウムから得られるナトリウムおよび塩素を入れることにより、付加的な製造技術的な利点が得られる。ここではただ1つの物質を蒸発するだけでよく、例えばNaCl/In
2S
3のような考えられ得る混合物質に比べて上記のプロセスが極めて簡単になる。例えばナトリウムの蒸気圧曲線は、例えば、C.T.Ewing,K.H.Stern,"Equilibrium Vaporization Rates and Vapor Pressures of Solid and Liquid Sodium Chloride, Potassium Chloride, Potassium Bromide, Cesium Iodide, and Lithium Fluoride",J.Phys. Chem.,1974,78,20,1998−2005から公知であり、加熱蒸発プロセスは温度を介して容易に制御可能である。さらに塩化ナトリウムを蒸発するための装置は、既存の加熱式硫化インジウムコーティング装置に容易に組み込むことができる。
【0072】
上記の実施例から明らかになったのは、本発明により、薄膜ソーラセルにおいて従来使用されていたCdSバッファ層ないしは択一的なバッファ層の欠点を克服できたことであり、またこれによって形成される薄膜ソーラセルの効率および安定性も極めて良好であるまたは一層良好になる。同時に上記の製造方法はコスト的に有利であり、効率的であり、また環境にフレンドリである。
【0073】
ここで示されたのは、本発明による層システムにより、従来のCdSバッファ層の場合に匹敵するような良好なソーラセル特性が得られることである。本発明による構造により、14.5%までの効率を得られたが、このことは当業者に予想のつかないものであり、驚愕に値するものであった。
【符号の説明】
【0074】
1 層システム、 2 基板、 3 背面電極、 4 吸収層、 5 バッファ層、 6 第2バッファ層、 7 前面電極、 8 塩化ナトリウム蒸発源、 9 硫化インジウム蒸発源、 10 搬送方向、 11 塩化ナトリウム蒸気ビーム、 12 硫化インジウム蒸気ビーム、 13 試料支持体、 100 薄膜ソーラセル、 s 層深さ
【国際調査報告】