(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-520797(P2015-520797A)
(43)【公表日】2015年7月23日
(54)【発明の名称】犠牲カソード防食を提供するコーティングを備えた鋼板、こうした鋼板を用いる部品の製造方法、および得られた部品
(51)【国際特許分類】
C23C 2/12 20060101AFI20150630BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20150630BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20150630BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20150630BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20150630BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20150630BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20150630BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20150630BHJP
【FI】
C23C2/12
C21D9/00 A
C21D1/18 C
C22C21/00 K
C22C18/04
C22C38/00 301T
C22C38/60
C23C2/40
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-506274(P2015-506274)
(86)(22)【出願日】2012年4月17日
(85)【翻訳文提出日】2014年12月10日
(86)【国際出願番号】FR2012000149
(87)【国際公開番号】WO2013156688
(87)【国際公開日】20131024
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN
(71)【出願人】
【識別番号】510215651
【氏名又は名称】アルセロルミタル・インベステイガシオン・イ・デサロジヨ・エセ・エレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレイ,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】シャサーニュ,ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】チョルル,ベリル
【テーマコード(参考)】
4K027
4K042
【Fターム(参考)】
4K027AA02
4K027AA05
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4K042DA01
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD01
4K042DE02
(57)【要約】
本発明は、5から50重量%の亜鉛、0.1から15重量%のケイ素および場合により10重量%までのマグネシウムおよび累積含有量で0.3重量%までの追加の元素を含み、さらに0.1重量%から5重量%のスズ、0.01重量%から0.5重量%のインジウム、およびこれらの組み合わせから選択される防食元素を含み、残余は、アルミニウムおよび残留元素または不可避の不純物からなる犠牲カソード防食層を備えた鋼板に関する。本発明はさらに、ホットまたはコールドスタンピングによる部品の作製方法およびこれによって得ることができる部品に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼板であって、前記犠牲カソード防食コーティングは、5から50重量%の亜鉛、0.1から15重量%のケイ素、および場合により10重量%までのマグネシウム、および累積含有量として0.3重量%までの追加の元素を含み、さらに0.1重量%から5重量%のスズ、0.01重量%から0.5重量%のインジウム、およびこれらの組み合わせから選択される防食元素を含み、残余はアルミニウムまたは残留元素または不可避の不純物からなる、鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載の犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼板であって、防食元素が、1重量%から3重量%のスズである、鋼板。
【請求項3】
請求項1に記載の犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼板であって、防食元素が、0.02重量%から0.1重量%のインジウムである、鋼板。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼板であって、コーティングが、20から40重量%の亜鉛、および場合により1から10重量%の濃度でマグネシウムを含む、鋼板。
【請求項5】
請求項4に記載の犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼板であって、コーティングが、20から30重量%の亜鉛、および場合により3から6重量%の濃度でマグネシウムを含む、鋼板。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼板であって、コーティングが、8重量%から12重量%のケイ素を含む、鋼板。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼板であって、コーティングが、残留元素として、2から5重量%の濃度の鉄を含む、鋼板。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼板であって、鋼が、重量%で、0.15%<C<0.5%、0.5%<Mn<3%、0.1%<ケイ素<0.5%、Cr<1%、Ni<0.1%、Cu<0.1%、Ti<0.2%、Al<0.1%、P<0.1%、S<0.05%、0.0005%<B<0.08%を含み、残余が鋼の加工処理による鉄および不可避の不純物からなる、鋼板。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼板であって、コーティングが10μmから50μmの厚さを有する、鋼板。
【請求項10】
コーティングが溶融めっきによって得られる、請求項1から9のいずれかに記載の犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼板。
【請求項11】
以下からなる工程を記載の順序で実施することを含む、犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼部品の作製方法であって:
−請求項1から10のいずれかに記載の予めコーティングされた鋼板を獲得する工程、次いで
−前記鋼板を切断してブランクを得る工程、次いで
−このブランクを非防食性雰囲気中で、840℃から950℃のオーステナイト化温度Tmまで加熱する工程、次いで
−このブランクをこの温度Tmで1分から8分の時間tmの間、保持する工程、次いで
−ブランクをホットスタンピングして、コーティングされた鋼部品を得て、これを、鋼のマイクロ構造が、マルテンサイトおよびベイナイトから選択される少なくとも1つの構成要素を含むような割合で冷却する工程、
−温度Tm、時間tm、先のコーティングの厚さおよび防食元素、亜鉛および場合によりマグネシウムの濃度が、前記部品のコーティングの上方部分中の鉄の最終平均含有量が75重量%未満になるように選択される、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、先行コーティングの厚さが27μm以上であり、前記コーティングのスズ含有量が1重量%以上であり、および前記コーティングの亜鉛含有量が20重量%以上である、方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の方法によって得ることができる犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼部品。
【請求項14】
請求項1から10のいずれかに記載の鋼板のコールドスタンピングによって得ることができる犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、この用途に限定されないが、特に自動車部品の作製用の犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、二重のバリアおよびカソード防食という理由で、亜鉛または亜鉛合金コーティングのみが腐食に対して高度な防食を提供する。バリア効果は、鋼表面にコーティングを適用することによって得られ、これによって鋼と腐食性媒体との間の接触を防止するが、これはコーティングの性質および基板の性質に独立している。一方で、犠牲カソード防食は、亜鉛が、鋼よりも卑である金属であることおよび腐食条件下では亜鉛が鋼よりも先に消費されるという事実に基づく。このカソード防食は、鋼が腐食性雰囲気に直接曝される区域、例えば切断縁部、または鋼が裸であるおよび周囲の亜鉛がコーティングされていない区域での攻撃の前に消費される損傷区域において、特に重要である。
【0003】
これにもかかわらず、低融点のために、亜鉛は揮発する危険性があるので、部品を溶接しなければならない場合には問題が生じる。この問題を是正するために可能性としての1つの方法は、コーティングの厚さを低下させることであるが、これは表面を腐食に対して保護する時間長さを制限する。加えて、鋼板が、特にホットスタンピングによりプレスハードニングされるべきである場合に、コーティングから伝搬する鋼のマイクロクラックの形成が観察される。同様に、亜鉛で先にコーティングされた特定の部品のペインティング、および次のプレスハードニングは、部品の表面において脆弱な酸化物層の存在のために、リン酸亜鉛コーティングの前にサンドブラスティング操作を必要とする。
【0004】
自動車部品の製造のために一般に使用される金属コーティングの他の系は、アルミニウムおよびケイ素に基づくコーティングの系である。これらのコーティングは、金属間Al−Si−Feの層の存在のために変形する場合にも鋼にマイクロクラック形成を生じず、ペインティングのために良好な適合性を有する。これらはバリア効果によって防食を得ることが可能であり、溶接可能でもあるが、カソード防食を提供しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このため本発明の目的は、特にスタンピングによる加工処理の前後に、腐食に対する高度な防食を示す利用可能なコーティングされた鋼板を製造することによって、先行技術のコーティングの欠点を是正することである。鋼板は、特にホットスタンピングによるプレスハードニング用である場合、鋼においてマイクロクラックの伝搬に対する抵抗性を有し、好ましくはプレスハードニングを進める熱処理の間の時間および温度の観点で可能性として最大の利用ウィンドウを有することも望ましい。
【0006】
表面カソード防食の点において、本目的は、鋼の電気化学電位よりも少なくとも50mV負である電気化学電位、即ち飽和カロメル電極(SCE)に対して−0.75Vの最小値を達成することである。しかし、−1.4V、またはさらには−1.25Vの値未満になることは望ましくなく、これはコーティングの過剰に迅速な消費をもたらし、最終的に鋼が防食される時間長さを短縮する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このために、本発明の目的は、5から50重量%の亜鉛、0.1から15重量%のケイ素、および場合により10重量%までのマグネシウム、ならびに累積濃度で0.3重量%までの追加の元素を含み、さらに0.1重量%から5重量%のスズ、および0.01重量%から0.5重量%のインジウム、およびこれらの組み合わせから選択されるべき1つの防食元素を含み、残余はアルミニウムおよび残留元素または不可避の不純物からなる犠牲カソード防食コーティングを備える鋼板である。
【0008】
本発明によって特許請求される鋼板はまた、以下の特徴を、個々にまたは組み合わせて組み込むことができる:
−コーティングの防食元素は、1重量%から3重量%のスズである、
−コーティングの防食元素は、0.02重量%から0.1重量%のインジウムである、
−コーティングは、20から40重量%の亜鉛、および場合により1から10重量%の濃度のマグネシウムを含む、
−コーティングは、20から30重量%の亜鉛、および場合により3から6重量%の濃度でマグネシウムを含む、
−コーティングは、8重量%から12重量%のケイ素を含む、
−コーティングは、残留元素として2から5重量%濃度の鉄を含む、
−鋼板は、重量%で、0.15%<C<0.5%、0.5%<Mn<3%、0.1%<ケイ素<0.5%、Cr<1%、Ni<0.1%、Cu<0.1%、Ti<0.2%、Al<0.1%、P<0.1%、S<0.05%、0.0005%<B<0.08%、残りは、鉄および鋼の加工処理による不可避の不純物からなる、
−コーティングは、10μmから50μmの厚さを有する、
−コーティングは、溶融めっきによって得られる。
【0009】
本発明の追加の目的は、犠牲カソード防食コーティングを備えた鋼部品の作製のための方法からなり、この方法は、この順序で行われ、以下からなる工程を含む:
−本発明によって特許請求され、予めコーティングされた鋼板の獲得工程、次いで
−鋼板を切断して、ブランクを得る工程、次いで
−非防食性雰囲気中のブランクを840℃から950℃のオーステナイト化温度Tmまで加熱する工程、
−この温度Tmにてブランクを、1分から8分の間の長さ保持する工程、次いで
−ブランクをホットスタンピングして、コーティングされた鋼部品を得て、これを、鋼のマイクロ構造が、マルテンサイトおよびベイナイトから選択される少なくとも1つの構成成分を含むような割合で冷却する工程、
−ここで温度Tm、時間tm、先行コーティングの厚さおよびこの防食性元素の濃度、ならびに亜鉛および場合によりマグネシウムの濃度は、この部品のコーティングの上方部分における鉄の最終平均濃度が75重量%未満となるように選択される。
【0010】
1つの好ましい実施形態において、先行するコーティングの厚さは、27μm以上であり、このスズ含有量が1重量%以上であり、この亜鉛含有量は、20重量%以上である。
【0011】
本発明の追加の目的は、特に自動車産業において使用することを意図する、本発明によって特許請求される方法によって、または本発明によって特許請求されるコールドスタンピングによって得ることができる犠牲カソード防食性コーティングを備えた部品からなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、非限定例によって例示される特定の実施形態を参照して以下により詳細に記載される。
【0013】
示されるように、本発明は、まず、スズ、インジウムおよびこれらの組み合わせから選択される防食性元素を含むコーティングを備えた鋼板に関する。
【0014】
市場でのこれらそれぞれの利用可能性に照らして、0.1重量%から5重量%まで、好ましくは0.5重量%から4重量%、より好ましくは1重量%から3重量%、またはさらには1重量%から2重量%のパーセンテージでのスズの使用が好ましい。しかし、スズよりも防食能が高いインジウムの使用も考慮できる。これは、0.01重量%から0.5重量%、好ましくは0.02重量%から0.1重量%、最も好ましくは0.05重量%から0.1重量%の濃度で、単独で使用することもでき、またはスズに加えて使用することもできる。
【0015】
本発明によって特許請求される鋼板のコーティングはまた、5から50重量%の亜鉛、および場合により10重量%までのマグネシウムを含む。本発明者らは、これらの元素が、上述の防食元素と関連して、塩化物イオンを含有するまたは含有しない環境において、鋼に関連するコーティングの電気化学電位を低下できることを見出した。このため本発明の特許請求されたコーティングは、犠牲カソード防食を提供する。
【0016】
亜鉛を使用するのが好ましく、この防食効果は、マグネシウムの場合よりも大きく、これは酸化性が低いので使用するのがより容易である。加えて、1から10重量%またはさらには3から6重量%のマグネシウムと関連して、10から40重量%、20から40重量%、またはさらには20から30重量%の亜鉛の使用が好ましい。
【0017】
本発明によって特許請求される鋼板のコーティングはまた、0.1重量%から15重量%、好ましくは0.5重量%から15重量%、最も好ましくは1重量%から15重量%、またはさらには8重量%から12重量%の、特に高温酸化に対する高度な耐性を鋼板に与えることができる元素であるケイ素を含む。ケイ素の存在により、コーティングのフレーキングの危険性がなく、650℃まで鋼板を使用することができる。加えて、ケイ素は、ホットティップコーティング中に、コーティングの接着性および形成性を低減する金属間層である金属間鉄−亜鉛の厚い層の形成を防止できる。8重量%を超えるケイ素含有量の存在はまた、鋼板を、プレスハードニング、特にホットスタンピングによる形成のためにとりわけ好適にする。8%から12%の量のケイ素の使用が好ましい。15重量%を超える濃度は、コーティングの特性、特に腐食耐性特性を悪化させ得る一次ケイ素を形成するので望ましくない。
【0018】
本発明によって特許請求される鋼板のコーティングはまた、累積濃度において、0.3重量%まで、好ましくは0.1重量%まで、またはさらには0.05重量%未満の追加の元素、例えばSb、Pb、Ti、Ca、Mn、La、Ce、Cr、Ni、ZrまたはBiを含むことができる。これらの異なる元素は、特にコーティングの腐食抵抗またはさらには、例えばこの脆弱性または接着性を改善することが可能であり得ることができる。コーティングの特徴に対するこれらの元素の効果について詳しい当業者は、一般に20ppmから50ppmである、この効果に対して適切な割合において、求める追加の目的の機能としてこれらを使用する方法を承知している。これらの元素は、本発明のフレームワークにおいて求める原理特性を干渉しないことが検証されている。
【0019】
本発明によって特許請求された鋼板のコーティングはまた、特に鋼ストリップの通過によって生じる溶融亜鉛めっき浴の汚染から生じる残留元素および不可避の不純物、またはこれらの浴にフィードするために使用されるインゴットもしくは真空蒸着工程に供給するために使用されるインゴットから生じる不純物を含み得る。残留元素として特に鉄を挙げることができ、これは溶融めっきコーティング浴中、5重量%まで、一般に2から4重量%の量で存在し得る。
【0020】
最後に、本発明によって特許請求される鋼板のコーティングは、アルミニウムを含み、この含有量は、約20重量%から約90重量%であることができる。この元素は、バリア効果によって鋼板の腐食に対して防食を与えることができる。これは、コーティングの溶融温度および蒸発温度を上昇させるので、特にホットスタンピングのために、広範囲の時間および温度にわたってより容易に鋼板を使用できるようになる。これは、鋼板の組成および/または一片の最終マイクロ構造が高温および/または長期間でのオーステナイト化を行う必要がある場合に特に好適であることができる。
【0021】
このため、本発明によって特許請求される部品に必要とされる特性に依存して、コーティング中の主要元素が亜鉛またはアルミニウムであり得ることが理解される。
【0022】
コーティングの厚さは、好ましくは10μmから50μm未満である。10μm未満では、腐食に対するストリップの防食は不十分であり得る。50μmを超えると、腐食に対する防食は、特に自動車分野において必要とされるレベルを超える。加えて、この範囲の厚さを有するコーティングが顕著な温度増大におよび/または長期間供される場合、コーティングの上方部分は、溶融し、炉のローラ上またはスタンピングダイ中に進み得るという危険性があり、これによりコーティングが損傷する。
【0023】
本発明によって特許請求される鋼板のために使用される鋼に関して、鋼のタイプは、コーティングが十分に接着できる限り、重要ではない。
【0024】
しかし、高度の機械的強度を必要とする特定用途、例えば自動車のための構造部品に関して、部品が使用される条件に依存して、500から1600MPaの引張強度を有する部品を可能にする組成を有する鋼が好ましい。
【0025】
この強度範囲において、特に以下の重量%:0.15%<C<0.5%、0.5%<Mn<3%、0.1%<Si<0.5%、Cr<1%、Ni<0,1%、Cu<0,1%、Ti<0.2%、Al<0.1%、P<0.1%、S<0.05%、0.0005%<B<0.08%を含む鋼組成の使用が好ましく、残余は、鉄および鋼の加工処理から得られる不可避の不純物からなる。市販の鋼の例の1つは、22MnB5である。
【0026】
所望のレベルの強度が500MPaのオーダーである場合、0.040%≦C≦0.100%、0.80%≦Mn≦2.00%、Si≦0.30%、S≦0.005%、P≦0.030%、0.010%≦Al≦0.070%、0.015%≦Nb≦0.100%、0.030%≦Ti≦0.080%、N≦0.009%、Cu≦0.100%、Ni≦0.100%、Cr≦0.100%、Mo≦0.100%、Ca≦0.006%を含む鋼組成を使用するのが好ましく、残りは、鉄および鋼の加工処理から得られる不可避の不純物からなる。
【0027】
鋼板は、例えば0.7mmから3mm未満で変動し得る所望の最終厚さに依存して、熱間圧延によって作製でき、場合により冷間再圧延できる。
【0028】
これらは、例えば、いずれかの好適な手段、例えば電析方法、または真空蒸着方法または大気圧に近い圧力下での蒸着、例えばスパッタリングマグネトロン、冷プラズマまたは真空蒸発によって、コーティングできるが、溶融金属の浴において溶融めっきコーティング方法によってこれらを得るのが好ましい。表面カソード防食が、他のコーティング方法によって得られるコーティングの場合よりも溶融めっきによって得られるコーティングの場合により大きいことに留意する。
【0029】
本発明によって特許請求される鋼板は、次いで構造および作製されるべき部品に適切ないずれかの方法、例えばコールドスタンピングを用いて形成できる。
【0030】
しかし、本発明によって特許請求される鋼板は、ホットスタンピングによるプレスハードニング部品の作製にとりわけ好適である。
【0031】
この方法は、予めコーティングされている本発明によって特許請求される鋼板を得る工程、次いで鋼板を切断してブランクを得る工程からなる。次いでこのブランクは、非防食性雰囲気下にて炉中で840℃から950℃未満、好ましくは880℃から930℃未満のオーステナイト化温度Tmまで加熱され、次いでこの温度Tmでのブランクを1分から8分未満、好ましくは4分から6分未満での期間保持する。
【0032】
温度Tmおよび保持時間tmは、鋼の性質だけでなく、スタンピングされるべき鋼板の厚さにも依存し、これは全体が成形前のオーステナイト化範囲でなければならない。温度Tmが高くなるにつれて、保持時間tmが短くなり、この逆も同様である。加えて、温度が増大する割合も、これらのパラメータに影響し、これによって高い割合の増大(例えば毎秒30℃を超える。)も保持時間tmを短縮できる。
【0033】
次いでブランクは、ホットスタンピングダイに移され、スタンピングされる。得られた部品は、次いでスタンピングダイ自体において、または特定の冷却ダイに移動した後で冷却される。
【0034】
冷却割合は、すべての場合において、鋼の組成の関数として制御され、結果としてホットスタンピングの完了時のこの最終的なマイクロ構造は、マルテンサイトおよびベイナイトから選択される少なくとも1つの構成要素を含み、所望レベルの機械的強度を得る。
【0035】
コーティングされたおよびホットスタンピングされた部品が実際に犠牲カソード防食を有することを保証するために必須のポイントは、温度Tm、時間tm、先のコーティングの厚さおよびこの防食元素、亜鉛および場合によりマグネシウムの濃度を調節することであり、こうして、部品のコーティングの上方部分における鉄の最終平均濃度が75重量%未満、好ましくは50重量%未満、またはさらには30重量%未満になる。この上方部品は、少なくとも5μmの厚さを有する。
【0036】
オーステナイト化温度Tmまで加熱する効果の下で、基板由来の鉄は、先に適用されたコーティングに拡散し、この電気化学電位が増大する。故に、満足するカソード防食を維持するために、部品の最終コーティングの上方部分において平均鉄含有量を制限することが必要である。
【0037】
そうするために、温度Tmおよび/または保持時間tmを制限できる。鉄の拡散フロントがコーティングの表面に到達するのを防止するために、先行コーティングの厚さを増大することもできる。この点に関して、27μm以上、好ましくは30μm以上、またはさらには35μm以上の先行コーティング厚さを有する鋼板の使用が好ましい。
【0038】
最終コーティングのカソード防食能の損失を制限するために、先行コーティング中の防食性元素、亜鉛および場合によりマグネシウムの含有量も増大できる。
【0039】
当業者は、いかなる場合でも、鋼の性質を考慮もして、本発明によって必要とされる品質のために、これらの異なるパラメータを適合して、プレスハードニングされたコーティング鋼部品、特にホットスタンピング部品を得ることができる。
【実施例】
【0040】
試験は、本発明の特定の実施形態を例示するために行われた。
【0041】
試験
【0042】
[実施例1]
Al−Si−Zn−In−Feコーティング
試験は、22MnB5の冷間圧延された鋼板(1.5mm厚さ)を用いて行われ、これは20重量%の亜鉛、10重量%のケイ素、3重量%の鉄、0.1重量%のインジウムを含み、残りはアルミニウムおよび不可避の不純物からなり、この厚さは約15μmである溶融めっきコーティングを備えた。
【0043】
これらの鋼板は、飽和カロメル電極を参照して5%のNaCl環境において従来の電気化学測定に供された。
【0044】
コーティングされた鋼板の電気化学電位は−0.95V/SCEであることに留意した。故に、本発明によって特許請求された鋼板は、犠牲カソード防食を有する。同じ測定条件下、同一であったが、亜鉛もインジウムも含んでいないコーティングを備えた鋼板は、−0.70V/SCEの電気化学電位を有していたことを検証したが、これは鋼に対してカソード防食を提供しない。
【0045】
ホットスタンピング後の残留防食を評価するために、追加の試験は、本発明によって特許請求される鋼板(これは先に使用されたものと同一であった。)を、変動する時間長さの間、900℃の温度まで加熱することからなっていた。3分間処理された鋼板の電気化学電位は、依然として−0.95V/SCEであることが観察され、これによって犠牲カソード防食の保持が示された。この加工処理温度を超えて、5μmの厚さにわたるコーティングの上方部分の平均鉄含有量は75重量%を超え、電気化学電位は、−0.70V/SCEに降下する。
【0046】
コーティングから鋼板へのマイクロクラックの伝搬に関して、厚い金属間層の形成は、鋼−コーティング界面で観察され、金属間層は、依然としてオーステナイト化の完了時に存在している。
【0047】
[実施例2]
Al−Si−Zn−Mg−Sn−Feコーティング
試験は、10重量%のケイ素、10重量%の亜鉛、6重量%のマグネシウム、3重量%の鉄および0.1重量%のスズを含み、残りはアルミニウム、および不可避の不純物であり、この平均厚さは17μmである溶融めっきコーティングを備えた1.5mm厚さの冷間圧延22MnB5鋼板を用いて行った。
【0048】
これらの鋼板は、飽和カロメル電極を参照して、5%のNaCl環境中、従来の電気化学測定に供した。
【0049】
コーティングされた鋼板の電気化学電位は−0.95V/SCEであるが、10%のケイ素を含有し、残りはアルミニウムおよび不可避の不純物からなるコーティングを備えた同一の鋼板の電気化学電位は−0.70V/SCEであることに留意した。故に、本発明によって特許請求された鋼板は、犠牲カソード防食を有する。
【0050】
ホットスタンピング後の残留防食を評価するために、追加の試験は、先に使用されたものと同一である本発明によって特許請求される鋼板を900℃の温度まで変動時間長さの間加熱することからなっていた。2分間処理された鋼板の電気化学電位は依然として−0.95V/SCEであることが観察され、これによって犠牲カソード防食の保持を示された。この加工処置温度を超えると、5μmの厚さにわたるコーティングの上方部分の平均鉄含有量は、75重量%を超え、電気化学電位は−0.70V/SCEに降下する。
【0051】
次いで、27μmの平均厚さを有するコーティングの使用が、このカソード防食を保持しながら、900℃で5分間までオーステナイト化期間Tmを延長できることが検証された。
【0052】
コーティングから鋼板へのマイクロクラックの伝搬に関して、厚い金属間層の形成は、鋼−コーティング界面で観察され、金属間層は、依然としてオーステナイト化の終了時に存在している。
【0053】
[実施例3]
InありまたはInなしのAl−Zn−Si−Sn−Feコーティング
同様の追加の試験を、溶融めっきコーティングを備えた冷間圧延された22MnB5鋼板(1.5mm厚さ)を用いて行ったが、この特徴を、以下の表に示し、この厚さは約32μである。
【0054】
【表1】
【0055】
これらの試験の結果は、本発明によって求められる特性が実際に達成されていることを確認する。
【国際調査報告】