特表2015-521194(P2015-521194A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-521194(P2015-521194A)
(43)【公表日】2015年7月27日
(54)【発明の名称】前庭毒性を処置するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20150701BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20150701BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150701BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20150701BHJP
   A61K 31/4164 20060101ALI20150701BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61P27/16
   A61P35/00
   A61P39/02
   A61K31/4164
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-514510(P2015-514510)
(86)(22)【出願日】2013年5月30日
(85)【翻訳文提出日】2015年1月16日
(86)【国際出願番号】EP2013061205
(87)【国際公開番号】WO2013178763
(87)【国際公開日】20131205
(31)【優先権主張番号】61/653,074
(32)【優先日】2012年5月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12194915.0
(32)【優先日】2012年11月29日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】514203579
【氏名又は名称】センソリオン
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ガボヤード−ニアイ,ソフィー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA06
4C084ZA34
4C084ZB26
4C084ZC37
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA06
4C086ZA34
4C086ZB26
4C086ZC37
(57)【要約】
本発明は、白金剤誘発性前庭毒性の処置における使用のための、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内の白金剤の蓄積を減ずるかまたは防ぐ化合物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金剤誘発性前庭毒性の処置における使用のための、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内の白金剤の蓄積を減ずるかまたは防ぐ化合物。
【請求項2】
前記前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンの、保護、生存または再生を促進する、請求項1に記載の白金剤誘発性前庭毒性の処置における使用のための化合物
【請求項3】
前記白金剤が、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン、テトラプラチン、トランスプラチン、ネダプラチン、オルマプラチン、PtCl2[R,R−DACH]、ピリプラチン、ZD0473、BBR3464またはPt−1C3である、請求項1または2の何れか1項に記載の白金剤誘発性前庭毒性の処置における使用のための化合物。
【請求項4】
前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンを通じて白金剤流動を調節するか、または前庭細胞および/または前庭一次ニューロンにおける白金剤の流入または取り込みを減ずるかもしくは減少させるか、または前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンにおける白金剤の流出を減ずるかもしくは増加させる、請求項1から3の何れか1項に記載の白金剤誘発性前庭毒性の処置における使用のための化合物。
【請求項5】
OCT(有機カチオン輸送体)阻害剤、CTR(銅輸送体)阻害剤、MATE(多剤および毒放出、multidrug and toxin extrusion)輸送体活性化因子、MRP(多剤耐性関連タンパク質)輸送体活性化因子またはATP7AまたはATP7B輸送体活性化因子である、請求項1から3の何れか1項に記載の白金剤誘発性前庭毒性の処置における使用のための化合物。
【請求項6】
シメチジン、リナグリプチン、アマンタジン、メマンチン、アグマチン、クロルプロマジン、ドキセピン、エルロチニブ、ゲフィチニブ、メトホルミン、アミトリプチリン、カルベジロール、クロロキン、クロニジン、デスロララチジン(desloraratidine)、ジフェンヒドラミン、ジソピラミド、フェンフルラミン、フレカイニド、フルラゼパム、イミプラミン、臭化イプラトロピウム、レボメタドン、メフロキン、メキシレチン、プロパフェノン、プロプラノロール、キニジン、シブトラミン、タモキシフェン、トリメトプリム、ベラパミル、イマチニブおよび6β−ヒドロキシコルチゾール、コラーゲン/β1インテグリン、リポ多糖(LPS)、硫酸銅、4−フェニル酪酸(4−PBA)またはクルクミンである、請求項1から3の何れか1項に記載の白金剤誘発性前庭毒性の処置における使用のための化合物。
【請求項7】
白金剤誘発性前庭毒性の処置における使用のための、請求項1から6の何れか1項に記載の、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内の白金剤の蓄積を減ずるかまたは防ぐ化合物を含む、医薬組成物または薬物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金剤誘発性前庭毒性を処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内耳は、2個の感覚器が側頭骨に付いている脊椎動物の耳の最深部である:
・聴覚機能に専ら関与する蝸牛は、外耳からの音圧パターンを電気化学インパルスに変換し、この電気化学インパルスは聴覚神経を介して脳に伝達される。蝸牛は、内耳の前面領域を構成し、これは、機械感覚性有毛細胞および支持細胞を含むコルチ器官を含有する。
・前庭器官は平衡、加速および重力に専ら関与する。この器官は、蝸牛とは全く異なる機能を有し、その機能は、運動時に脳に情報を伝達して、視覚および自己受容情報と連携して平衡機能を達成するために、頭部の直線および角加速度を検出することに存する。前庭器官は、半規管が蝸牛の近くで収束する、内耳の後部領域である。前庭器官は、前部膨大部稜、水平膨大部稜、後部膨大部稜、卵形嚢および球形嚢と呼ばれる感覚上皮を含有する。これは、機械的作用を電位に変換する機械感覚性有毛細胞および支持細胞からも構成される。
【0003】
これらの2つの器官は同じタイプの細胞から構成されるものの、それらの明らかに異なる形態および機能から、それらの作用の基礎となる分子および細胞機能の違いが示唆される。前庭器官および蝸牛は器官依存的な違いを示す。実際に、両器官で発現される一部の受容体またはタンパク質は、両器官において異なる生理学的機構を促進する。例えば、ニューロトロフィン因子は、発生中および成体哺乳動物において完全に特異な発現を有し、NT3は蝸牛で選択的に発現され、BDNFは殆ど前庭に限られる(概論についてはFritschら、2004を参照)。
【0004】
ヌル突然変異体などのBDNFおよび/またはNT3の欠損は、基本的にBDNFが欠けている場合、前庭器官の細胞に影響を与え、一方で蝸牛の細胞上での影響は、実際にはNT3発現が損なわれるまで顕著にならない(Fritzsch B.ら、2004 Prog.Brain Res.146:265−278)。
【0005】
別の例において、一部の病態学的突然変異(例えばTMPRSS3の結果、DFNB8/10が生じる。)は、小児において重篤で早発性の難聴を誘発するが、成人では前庭機能の遅延および軽度の喪失しか起こらない(Fasquelleら、2011)。
【0006】
まとめると、蝸牛と前庭との間のこのような構造的、機能的、発生学的または病態学的相違は、この特殊な感覚器に非常に特異的なので、前庭治療処置に対する研究につながる。
【0007】
白金剤は、最も活性のある抗癌剤であり、広いスペクトルのヒト悪性腫瘍の管理において、単剤としてまたは他の細胞毒性剤および/または放射線療法と組み合わせて使用される。白金誘導体前庭毒性または前庭毒性は、前庭/平衡化機能障害につながる。Schaefferら(Cancer 1981,47:857−859)は、シスプラチン療法後の前庭毒性の最初のヒトの症例を記載した。
【0008】
蝸牛と前庭との間の相違の別の例として、アミノグリコシドも蝸牛または前庭の何れかに対して選択的に毒性であることがよく記載されており:アミカシン、ネオマイシンおよびジヒドロストレプトマイシンは蝸牛毒性がより強い傾向があり、一方でゲンタマイシンおよびストレプトマイシンは、前庭感覚上皮を標的する傾向がより強い(概論についてはXieら、2011を参照)。
【0009】
したがって、本発明は、白金剤により誘発される前庭毒性を特異的に処置するための化合物を提供することを目標とする。
【発明の概要】
【0010】
本発明のある目的は、白金剤誘発性前庭毒性の処置における使用のための、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内の白金剤の蓄積を減ずるかまたは防ぐ化合物である。
【0011】
ある実施形態において、この化合物は、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンの保護、生存または再生を促進する。
【0012】
別の実施形態において、白金剤は、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン、テトラプラチン、トランスプラチン、ネダプラチン、オルマプラチン、PtCl2[R,R−DACH]、ピリプラチン、ZD0473、BBR3464またはPt−1C3である。
【0013】
別の実施形態において、この化合物は、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンを通じて白金剤流動を調節するか、または前庭細胞および/または前庭一次ニューロンでの白金剤の流入もしくは取り込みを減ずるかもしくは減少させるか、または前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンにおける白金剤の流出を減ずるかまたは増加させる。
【0014】
別の実施形態において、この化合物は、OCT(有機カチオン輸送体)阻害剤、CTR(銅輸送体)阻害剤、MATE(多剤および毒放出(multidrug and toxin extrusion))輸送体活性化因子、MRP(多剤耐性関連タンパク質)輸送体活性化因子またはATP7AまたはATP7B輸送体活性化因子である。
【0015】
別の実施形態において、この化合物は、シメチジン、リナグリプチン、アグマチン、クロルプロマジン、ドキセピン、エルロチニブ、ゲフィチニブ、メトホルミン、アミトリプチリン、カルベジロール、クロロキン、クロニジン、デスロララチジン(desloraratidine)、ジフェンヒドラミン、ジソピラミド、フェンフルラミン、フレカイニド、フルラゼパム、イミプラミン、臭化イプラトロピウム、レボメタドン、メフロキン、メキシレチン、プロパフェノン、プロプラノロール、キニジン、シブトラミン、タモキシフェン、トリメトプリム、ベラパミル、イマチニブおよび6β−ヒドロキシコルチゾール、コラーゲン/β1インテグリン、リポ多糖(LPS)、硫酸銅、4−フェニル酪酸(4−PBA)またはクルクミンである。
【0016】
本発明の別の目的は、白金剤誘発性前庭毒性の処置における使用のための、本明細書中上記で記載されるような、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内の白金剤の蓄積を減ずるかまたは防ぐ化合物を含む、医薬組成物または薬物である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】OCT2およびMATE1発現および局在化。
図2】OCT1、OCT2、CTR1、CTR2、MATE1、ATP7A、ATP7B発現。
図3】シスプラチン誘導性前庭毒性におけるシメチジンのインビトロの影響
図4】シスプラチン誘導性前庭毒性におけるシメチジンのインビボの影響
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、白金剤誘発性前庭毒性の処置を必要とする対象において白金剤誘発性前庭毒性を処置するための方法であって、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内の白金剤の蓄積を減じ/防ぐ治療的有効量の化合物の対象への投与を含む方法に関する。
【0019】
本発明の別の目的は、白金剤誘発性前庭毒性を処置するための、またはそれの処置における使用のための、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内の白金剤の蓄積を減じ/防ぐ化合物である。
【0020】
本明細書中で使用される場合、前庭毒性は、前庭障害に至る前庭機能の低下を指す。この低下は、前庭有毛細胞、好ましくは前庭有毛細胞白金剤誘発性損傷、傷害または喪失および/または前庭における白金剤誘発性病変によるものであり得る。
【0021】
前庭毒性を評価するための手段としては、縦断的主観的評価、前庭眼振記録法(VNG)、前庭動眼反射(VOR)評価、筋原性反射および頭部インパルス検査(HIT)が挙げられるが限定されない。
【0022】
本明細書中で使用される場合、「処置」という用語は、器官、組織または細胞機能の欠損または不在と関連する少なくとも1つの悪影響または疾患の症状、障害または状態を防ぐか(すなわち起こらないようにする)、軽減するかまたは緩和することを指す。したがって、本発明の目的は、前庭末端器官の機能性または機能性の一部を保護するかまたは回復させることによって、前庭毒性の終了または対象の状態の改善を提供することである。本発明はまた、何らかの病変出現を予防することまたは既に存在する病変の悪化を予防することも目的とする。
【0023】
したがって、本発明は、白金剤で処置されるかまたは処置しようとする対象において前庭神経回路網または前庭機能性を処置し、保護し、再生させるかまたは前庭毒性を予防するための方法を提供する。本発明の化合物は、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンの保護、生存または再生を促進するために投与され得る。
【0024】
本明細書中で使用される場合、「対象」という用語は、哺乳動物、例えばげっ歯類、ネコ、イヌおよび霊長類などをいう。好ましくは、本発明による対象はヒトである。
【0025】
本明細書中で使用される場合、白金剤は、白金に基づく薬物、例えばシスプラチン(シス−ジアンミンジクロロ白金(II))、カルボプラチン(シス−ジアンミン−1,1−シクロブタン−ジカルボキシラート白金(II))、オキサリプラチン(トランス−L−ジアミノシクロヘキサン−オキサロート(oxaloto)白金(II))、サトラプラチン(JM216(ビス−アセタート−アンミンジクロロ−シクロヘキシルアミン白金(IV)およびJM118(シス−アンミンジクロロ−シクロヘキシルアミン白金(II))、ピコプラチン(シス−アンミンジクロロ,2−メチルピリジン白金(II))、テトラプラチン(シス−ジアンミンテトラクロロ白金(IV))、トランスプラチン(トランス−ジアンミンジクロロ白金(II))、ネダプラチン(シス−ジアンミン−グリコラート白金(II))、オルマプラチン(トランス−L−1,2−ジアミノシクロヘキサン−テトラクロロ白金(IV))、PtCl2[R,R−DACH](1,2−ジアンミンシクロヘキサン−ジクロロ白金(II))、ピリプラチン(シス−ジアンミン(ピリジン)−クロロ白金(II))、ZD0473、BBR3464、Pt−1C3などを指す。
【0026】
本発明のある実施形態において、前庭有毛細胞内の白金剤の蓄積を減ずる化合物は、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内の白金剤の蓄積を減少させる化合物である。
【0027】
化合物が有毛細胞内の白金剤の蓄積を減ずるか否かを判定するための方法の例は次のものである:
前庭外植片の器官型3D培養物を有毛細胞致死用量のシスプラチンとともに48時間温置する。免疫組織化学および定量的分析としての形態計測を用いてシスプラチン毒性による有毛細胞喪失を評価する。ミオシンVIIA発現の標識化を用いて有毛細胞体を染色し、一方でアクチンを発現する毛束は、蛍光複合化ファロイジンを用いて標識する。トンネル法を使用してアポトーシス性細胞を評価する。有毛細胞、毛束およびアポトーシス性細胞の数を定量する。
【0028】
本発明の別の実施形態において、本化合物は、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンを通じた白金剤流動を調節する。
【0029】
本発明の別の実施形態において、本化合物は、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンにおける白金剤の流入もしくは取り込みを減ずるかまたは減少させる。
【0030】
本発明の別の実施形態において、本化合物は、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンにおける白金剤の流出を減ずるかまたは増加させる。
【0031】
本発明のある実施形態において、本化合物は、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンにおける白金剤のOCT(有機カチオン輸送体)介在性取り込みの阻害剤である。
【0032】
本発明のある実施形態において、このOCT阻害剤は、それぞれSLC22A1、SLC22A2およびSLC22A3によりコードされる、OCT1、OCT2および/またはOCT3の阻害である。好ましくは、このOCT阻害剤はOCT2阻害剤である。
【0033】
本明細書中で使用される場合、「白金剤のOCT介在性取り込みの阻害剤」という用語は、有毛細胞および/または前庭一次ニューロンによる白金剤の輸送を阻害するか、減ずるかまたは防ぐ、何らかの化合物を指す。例えば、本化合物は、OCTの輸送体機能の阻害剤であり得る。別の例は、OCTの基質である化合物であり、これは、この化合物がOCTと相互作用し、白金剤との競合に入り、それによって前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内での白金剤の取り込みを減少させるかまたは阻害することを意味する。
【0034】
有毛細胞における白金剤のOCT介在性取り込みの阻害剤の例としては、シメチジン、リナグリプチン、アグマチン、クロルプロマジン、ドキセピン、エルロチニブ、ゲフィチニブ、メトホルミン、アミトリプチリン、カルベジロール、クロロキン、クロニジン、デスロララチジン(desloraratidine)、ジフェンヒドラミン、ジソピラミド、フェンフルラミン、フレカイニド、フルラゼパム、イミプラミン、臭化イプラトロピウム、レボメタドン、メフロキン、メキシレチン、プロパフェノン、プロプラノロール、キニジン、シブトラミン、タモキシフェン、トリメトプリム、ベラパミル、イマチニブ、6β−ヒドロキシコルチゾール、アマンタジン、メマンチンが挙げられるが限定されない。本発明のある実施形態において、この前庭有毛細胞における白金剤のOCT介在性取り込みの阻害剤はシメチジンではない。
【0035】
本発明のある実施形態において、前庭有毛細胞における白金剤のOCT介在性取り込みの阻害剤は、シメチジンである。
【0036】
本発明のある実施形態において、前庭有毛細胞における白金剤のOCT介在性取り込みの阻害剤は、アマンタジンである。
【0037】
本発明のある実施形態において、前庭有毛細胞における白金剤のOCT介在性取り込みの阻害剤は、メマンチンである。
【0038】
本発明のある実施形態において、前庭有毛細胞における白金剤のOCT介在性取り込みの阻害剤は、リナグリプチンである。
【0039】
化合物が前庭有毛細胞における白金剤のOCT介在性取り込みの阻害剤であるか否かを判定するための方法の例は次のものである:
前庭外植片の器官型3D培養物を有毛細胞致死用量のシスプラチンと48時間温置する。シスプラチンと競合することによって様々なOCT阻害剤/基質が有毛細胞喪失を減少させる能力は、免疫組織化学および定量的分析としての形態計測を使用して評価する。比較では、OCT関連を評価するためにシメチジン競合を使用した。
【0040】
本発明の別の実施形態において、本化合物は、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンにおける白金剤のCTR(銅輸送体)介在性取り込みの阻害剤である。
【0041】
本発明のある実施形態において、このCTR阻害剤は、それぞれSLC31A1およびSLC31A2によりコードされるCTR1および/またはCTR2の阻害剤である。好ましくは、このCTR阻害剤はCTR1阻害剤である。
【0042】
本明細書中で使用される場合、「白金剤のCTR介在性取り込みの阻害剤」という用語は、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンにおける白金剤の輸送を、阻害するか、減ずるかまたは防ぐ何らかの化合物を指す。例えば、本化合物は、CTRの輸送体機能の阻害剤であり得る。別の例は、CTRの基質である化合物であり、これは、この化合物が、CTRと相互作用し、白金剤との競合に入り、それによって前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内での白金剤の取り込みを減少させるかまたは阻害することを意味する。
【0043】
前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンにおける白金剤のCTR介在性取り込みの阻害剤の例としては、硫酸銅が挙げられるが限定されない。
【0044】
化合物が前庭有毛細胞における白金剤のCTR介在性取り込みの阻害剤であるか否かを判定するための方法の例は次のものである:
前庭外植片の器官型3D培養物を有毛細胞致死用量のシスプラチンと48時間温置する。シスプラチンと競合することによって様々なCTR阻害剤/基質が有毛細胞喪失を減少させる能力は、免疫組織化学および定量的分析としての形態計測を使用して評価する。比較では、CTR関連を評価するために硫酸銅競合を使用した。
【0045】
本発明の別の実施形態において、本化合物は、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンにおける白金剤のMATE(多剤および毒放出、multidrug and toxin extrusion)輸送体介在性流出または排出の活性化因子である。
【0046】
本発明のある実施形態において、このMATE輸送体活性化因子は、それぞれSLC47A1、SLC47A2およびSLC47A2によりコードされる、MATE1、MATE2および/またはMATE2−Kの活性化因子である。好ましくは、このMATE輸送体活性化因子はMATE2である。好ましくは、このMATE輸送体活性化因子はMATE1である。
【0047】
本明細書中で使用される場合、「白金剤のMATE輸送体介在性流出の活性化因子」という用語は、有毛細胞からの白金剤の流出または排出を活性化するかまたは増加させる何らかの化合物を指す。例えば、本化合物は、MATE輸送体の輸送体機能または発現の活性化因子であり得る。
【0048】
前庭有毛細胞における白金剤のMATE輸送体介在性流出の活性化因子の例としては、MATE発現を向上させる薬物活性化核内受容体転写因子、AhR、CAR、PXR、PPARαおよびNrf2が挙げられるが限定されない。
【0049】
化合物が前庭有毛細胞における白金剤のMATE輸送体介在性流出の活性化因子であるか否かを判定するための方法の例は次のものである:
前庭外植片の器官型3D培養物を有毛細胞致死用量のシスプラチンと48時間温置する。様々なMATE活性化因子がシスプラチン放出を促進することによって有毛細胞喪失を減少させる能力は、免疫組織化学および定量的分析としての形態計測を使用して評価する。
【0050】
本化合物は、本発明の別の実施形態において、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンにおける白金剤のMRP(多剤耐性関連タンパク質)輸送体介在性流出または排出の活性化因子である。
【0051】
本発明のある実施形態において、このMRP輸送体活性化因子は、MRP1、MRP2、MRP3、MRP4、MRP5、MRP6、MRP7および/またはMRP8の活性化因子である。好ましくは、MRP輸送体活性化因子はMRP2である。好ましくは、このMRP輸送体活性化因子はMRP1である。
【0052】
本明細書中で使用される場合、「白金剤のMRP輸送体介在性流出の活性化因子」という用語は、有毛細胞からの白金剤の流出または排出を活性化するかまたは増加させる何らかの化合物を指す。例えば、本化合物は、MRP輸送体の輸送体機能の活性化因子であり得る。
【0053】
前庭有毛細胞における白金剤のMRP輸送体−介在性の流出の活性化因子の例としては、核内受容体転写因子の活性化を介してMRP発現を誘発する薬理学的薬剤および内因性分子が挙げられるが限定されない。この薬剤または分子の例としては、コラーゲン/β1インテグリン、リポ多糖(LPS)が挙げられるが限定されない。MRP2活性化因子の例としては、プロベネシド、ベンジルペニシリン、エストロン−3−硫酸、タウロコール酸、エズリン、グルココルチコイド、例えばコルチゾール、デキサメタゾン、トリアムシノロンアセトニドおよびRU486が挙げられるが限定されない。MRP1活性化因子の例としては、エピカテキンおよびインターロイキン、例えばIL−6が挙げられるが限定されない。
【0054】
化合物が前庭有毛細胞における白金剤のMRP輸送体介在性流出の活性化因子であるか否かを判定するための方法の例は次のものである:
前庭外植片の器官型3D培養物を有毛細胞致死用量のシスプラチンと48時間温置する。様々なMRP活性化因子がシスプラチン放出を促進することによって有毛細胞喪失を減少させる能力は、免疫組織化学および定量的分析としての形態計測を使用して評価する。
【0055】
本発明の別の実施形態において、本化合物は、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロンにおける白金剤のATP7AまたはATP7B介在性流出または排出の活性化因子である。
【0056】
本明細書中で使用される場合、「白金剤のATP7AまたはATP7B介在性流出の活性化因子」という用語は、有毛細胞からの白金剤の流出または排出を活性化するかまたは増加させる何らかの化合物を指す。例えば、本化合物は、ATP7AまたはATP7B輸送体の輸送体機能の活性化因子であり得る。
【0057】
前庭有毛細胞における白金剤のATP7AまたはATP7B介在性流出の活性化因子の例としては、硫酸銅、4−フェニル酪酸(4−PBA)およびクルクミンが挙げられるが限定されない。
【0058】
化合物が、有毛細胞における白金剤のATP7AまたはATP7B介在性流出の活性化因子であるか否かを判定するための方法の例は次のものである:
前庭外植片の器官型3D培養物を有毛細胞致死用量のシスプラチンと48時間温置する。様々なATP7AまたはATP7B活性化因子がシスプラチン放出を促進することによって有毛細胞喪失を減少させる能力は、免疫組織化学および定量的分析としての形態計測を使用して評価する。比較には、CTR関連を評価するために硫酸銅競合を使用した。
【0059】
本発明によると、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内の白金剤の蓄積を減ずる化合物は、下記で定められるような医薬組成物の形態で投与され得る。
【0060】
好ましくは、本化合物は治療的有効量で投与される。
【0061】
本発明の化合物および組成物の1日総使用量は、健全な医学的判断の範囲内で担当医により決定されることを理解されたい。何れかの特定の患者に対する具体的な治療的有効用量レベルは、処置している障害および障害の重症度;使用される具体的な化合物の活性;使用される具体的な組成、患者の年齢、体重、総体的健康状態、性別および食事;投与時間、投与経路および使用される具体的な化合物の排出速度;処置期間;使用される具体的な阻害剤と組み合わせてまたは同時に使用される薬物;および医学の技術分野で周知の類似の要因などを含む様々な要因に依存する。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要とされるレベルよりも低いレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは、十分に当技術分野の技術の範囲内である。しかし、生成物の1日投与量は、0.01から1,000mg/成人/日まで幅広く変動し得る。好ましくは、本組成物は、処置しようとする患者に対する投与量の症状による調整のために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250および500mgの活性成分を含有する。
【0062】
本化合物は、治療組成物を形成させるために、医薬的に許容可能な賦形剤および場合によっては持続放出マトリクス、例えば生体分解性ポリマーなど、と組み合わせ得る。
【0063】
「医薬的に」または「医薬的に許容可能な」という用語は、適切なように、哺乳動物、特にヒトに投与したときに有害なアレルギー性または他の都合の悪い反応を生じさせない分子実体および組成物を指す。医薬的に許容可能な担体または賦形剤は、あらゆるタイプの無毒性の、固形、半固形もしくは液体充填剤、希釈剤、カプセル化材料または処方補助剤を指す。
【0064】
本発明の医薬組成物において、有効成分は単独でまたは別の有効成分と組み合わせて、単位投与形態で、従来の医薬支持剤との混合物として、動物およびヒトに投与し得る。適切な単位投与形態は、経口経路形態、例えば錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒剤および経口縣濁液または溶液、舌下およびバッカル錠投与形態、エアゾール剤、埋め込み剤、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経真皮、くも膜下腔内および鼻腔内投与形態および直腸投与形態を含む。
【0065】
好ましくは、本医薬組成物は、注射可能である処方物に対して医薬的に許容可能なビヒクルを含有する。これらは、場合に応じて、滅菌水または生理食塩水を添加すると注射可能な溶液を構成できる、特に等張性、無菌性、塩溶液(リン酸一ナトリウムまたは二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウムまたはマグネシウムなどまたはこのような塩の混合物)または乾燥、特に凍結乾燥された組成物であり得る。
【0066】
注射用の用途に適切な医薬形態としては、滅菌水溶液または分散液;ゴマ油、ピーナツ油または水性プロピレングリコールを含む処方物;および滅菌注射溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末が挙げられる。全ての場合において、形態は、滅菌性でなければならず、注射器で容易に吸い取り可能な程度に流動性でなければならない。これは、製造および保管の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の混入作用が防がれねばならない。
【0067】
遊離塩基または医薬的に許容可能な塩として本発明の化合物を含む溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水の中で調製され得る。分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中および油中でも調製され得る。保管および使用の通常の条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐために保存剤を含有する。
【0068】
本発明の化合物は、中性または塩形態で組成物に処方され得る。医薬的に許容可能な塩としては、(タンパク質の遊離アミノ基とともに形成される)酸付加塩が挙げられ、これは、例えば塩酸もしくはリン酸などの無機酸または、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸を用いて形成される。遊離カルボキシル基を用いて形成される塩はまた、無機塩基、例えば、水酸化ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムまたは鉄など、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基にも由来し得る。
【0069】
担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、適切なそれらの混合物および植物油を含有する溶媒または分散媒でもあり得る。例えば、レシチンなどコーティングの使用によって、分散液の場合は必要な粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、適正な流動性が維持され得る。様々な抗細菌および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって、微生物の作用が妨げられ得る。多くの場合において、等張剤、例えば糖類または塩化ナトリウムを含むことが望ましい。吸収を遅延させる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物における使用によって、注射用組成物の持続的吸収をもたらし得る。
【0070】
滅菌注射用溶液は、上述の様々な他の成分とともに適切な溶媒中で必要とされる量で活性成分を組み込み、必要に応じて、それに続いて濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散液は、基本的な分散媒および上述のものからの必要とされる他の成分を含有する滅菌ビヒクルに様々な滅菌済み活性成分を組み込むことによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、既に滅菌ろ過したその溶液から活性成分と何らかのさらなる所望成分の粉末を生じさせる、真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0071】
処方時、溶液は、投与処方物と適合する方式で、治療的に有効な量で投与される。この処方物は、上記のタイプの注射用溶液など、様々な剤形で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなども使用し得る。
【0072】
水溶液中での非経口投与の場合、例えば、この溶液は、必要に応じて適切に緩衝化されるべきであり、十分な塩水またはグルコースで液体希釈剤を最初に等張にすべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に特に適切である。これに関連して、使用し得る滅菌水媒体は、本開示に照らして当業者にとって公知である。例えば、1回分の投与量を1mLの等張NaCl溶液中で溶解し得、1000mLの皮下注入液に添加するかまたは提案される点滴の位置で注入し得る。投与量の幾分かの変動が処置している対象の状態に依存して必ず起こる。いずれにしても、投与責任者が個々の対象に対する適切な用量を決定する。
【0073】
静脈内または筋肉内注射など、非経口投与用に処方される本発明の化合物に加えて、他の医薬的に許容可能な形態としては、例えば経口投与のための錠剤または他の固形物;リポソーム性処方物;時間放出カプセル;および現在使用されている何らかの他の形態が挙げられる。
【0074】
特定の実施形態において、本発明の化合物は、内耳において鼓膜を通じて直接投与され得る。この投与方式は、前庭における直接および長期効果を導入するために好まれ得る。したがって、好ましい実施形態において、本発明の化合物は、内耳での本化合物の長時間放出を可能にするゲル処方物中で投与される。
【0075】
本発明のある実施形態において、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内の白金剤の蓄積を減ずる化合物は、白金剤と同時に投与される。
【0076】
本発明の別の実施形態において、前庭有毛細胞および/または前庭一次ニューロン内の白金剤の蓄積を減ずる化合物は、白金剤の投与の前に投与される。
【0077】
本発明を次の図面および実施例によってさらに説明する。しかし、これらの実施例および図面は、本発明の範囲を何ら限定するものと解釈すべきものではない。
(実施例)
【0078】
本発明を次の実施例によってさらに説明する。
材料および方法
RT−PCR
【0079】
様々な器官を摘出する前に過剰量のペントバルビタール(i.p.)によって成体ラットを屠殺した。成体ラットから切り出した直後に腎臓、蝸牛および脾臓(陽性および陰性組織対照)前庭神経節および感覚上皮を液体窒素中で瞬間凍結した。単回実験の場合、少なくとも12個の前庭神経節および1個の脾臓を使用して、TRIzol(RiboPure,Ambion,Austin,TX,USA)およびクロロホルムとともに標準的プロトコールを用いてトータルRNAを抽出した。0.5から1mgのトータルRNA DNAse処理(Qiagen,Courtaboeuf,France)およびOligo(dT)プライマー(Kit Quantitect reverse transcription,Qiagen)を用いてファーストストランドcDNA合成(逆転写、RT)を行った。42℃で1時間、続いて95℃で2分間反応を行った。1から2mLのRT反応材料を用いてPCRを行った。増幅は、脾臓および前庭神経節に対して、95℃で30秒、プライマー特異的なアニーリング温度(58から60℃)で30秒および72℃で1分間を35サイクル行うというものであった。72℃で7分間、最終伸長を行った。選択的に配列特異的なプライマーを用いてRTを行い、臭化エチジウム(10%)を含有する2%アガロースゲル上でPCR産物(1mL)を分解した。3回の異なる(2回の独立した)実験で結果を得て、直接的な配列決定によってPCR産物を同定した。フリーのNCBI/プライマー−Blastソフトウェアを用いてラット配列から決定する場合、ゲノムDNAの混入によって発明者らの結果を誤って解釈することを避けるために、イントロン−エクソン境界にわたってプライマーセットを設計した。脾臓組織における品質についてプライマーを体系的に試験した。OCT1に対するプライマー:フォワード:AAGCACACCGTCATCCTGAT(配列番号1)、リバース:CCAGGTTCTCTGCTTCTTCA(配列番号2);OCT2に対して:フォワード:GCCAGTGCATGAGGTATGAA(配列番号3)、リバース:AGTTGGGAATCACATAGGCC(配列番号4);MATE1に対して:フォワード:ATACGGGAGCCAGAACTTGA(配列番号5)、リバース:GTTGACAAGGTTAGCAGCGA(配列番号6);CTR1に対して:フォワード:TCATCATCCTGAGCCTTGTC(配列番号7)、リバース:GACTGGATGAGATGTCCCTA(配列番号8)、CTR2に対して:フォワード:GTATGAGGGCATCAAGGTTG(配列番号9)、リバース:CTTCATCTCAGTCACCAGGA(配列番号10);MRP1に対して:フォワード:AACATTGCTACAAGGCGGTG(配列番号11)、リバース:CTTTGACTCCTTCCCTAAAC(配列番号12);MRP2に対して:フォワード:ACTTGGTCGTCTTCTGTTCC(配列番号13)、リバース:GAGGCAACATCTATCCCATC(配列番号14);ATP7Aに対して:フォワード:AGCAGCAGATTGGGAAAGTG(配列番号15)、リバース:CAGTGGAGCAGTAACAGTCA(配列番号16);ATP7Bに対して:フォワード:TCATCCTGGTGGTTGCCATA(配列番号17)、リバース:CTTGATGATGTCACCTCGCT(配列番号18)。
OCT2発現、免疫細胞化学
【0080】
成体(12週齢、Long Evansラット)をペントバルビタール(0.4%)で深麻酔し、次いでヘパリンPBS(0.01M)、続いて固定液(4%パラホルムアルデヒド、1%ピクリン酸、5%スクロース入り)を経心的に灌流させた。側頭骨を同じ液で後固定し、その後、前庭上皮をPBS中で切り出した。前庭末端器官を4%アガロース中で包埋し、ビブラトーム(HM650V、Microm)で40μm厚の切片を作製した。浮遊切片を最初に4%TritonX−100で透過処理し、0.5%魚ゼラチン、0.5%TritonX−100および1%BSAのブロッキング溶液中での予温置段階によって非特異的な結合を防いだ。次に、一次抗体:ブロッキング溶液中で希釈したモノクローナルマウス抗OCT2(1:200;Sigma−Aldrich)とともに試料を温置した。対照実験の場合、試験した一次抗体を省き、一方、次の手順は不変であった。Alexa488−複合化ファロイジン(Fisher Scientific,Illkirch,France)でのアクチン染色と組み合わせて、ブロッキング溶液中のAlexa594−蛍光二次抗体(1:700)で特異的な標識を明らかにした。レーザー走査共焦点顕微鏡(LSM5 LIVE DUO,Zeiss)で試料を観察した。Adobe Photoshopソフトウェア(San Jose,CA)を用いて最終的な画像処理を行った。対照反応を観察し、染色した切片に対して使用されたパラメーターにより処理した。
インビトロのラット卵形嚢の器官型3D培養物
【0081】
前庭末端器官を動物から無菌的に摘出した。感覚および非感覚上皮から構成される外植片をラミニン(10μg/mL)被覆ガラスカバースリップ上の5μLの成長因子低減マトリゲル上に置いた。これらの調製物を95%/5%O/CO雰囲気中、飽和湿度で37℃にて30分間温置した。次に、N2混合物(2%)を補給したDMEMおよびF12(50%/50%v/v)培地中で外植片を培養した。4日ごとに培地を新たなものと交換した。インビトロで7日後(7DIV)、シメチジン(1000μM)ありまたはなしで、シスプラチン(100または1000μM)とともに卵形嚢を48時間温置した。次に処理した培養物をPAF4%で1時間固定した。Alex488−複合化ファロイジン(1:700)を用いて、毛束の標識を一晩処理した。PBSですすいだ後、培養物をMoviol(Calbiochem)に取り付けた。標識を観察し、アポトーム顕微鏡(Zeiss)を用いて画像デジタル処理した。ImageJソフトウェアを用いて卵形嚢あたりの毛束を定量した。SigmaPlotソフトウェア(Systatソフトウェア)で統計学的解析を行った。Adobe Photoshopソフトウェアで最終画像処理を行った。
【0082】
インビボでの前庭挙動の誘発性障害
それぞれ、正常挙動(0等級)から最大の検出前庭機能低下(4等級)の範囲で0から4のスケールで前庭障害に関連する挙動をスコア化した。前庭障害を格付けするために、7回の異なる試験を連続的にスコア化し、合計した:1−首振り(異常な断続的頸部後方進展);2−旋回(旋回がないものから動物の腰部周囲での強迫的な回転にわたる、常同運動);3−後方突進(前庭障害を反映する典型的な後方歩行);4−尾懸垂反射(通常は地面に到達しようと前肢進展を誘発する。片側障害の結果、身体の軸回転が起こる。);5−接触阻止反射(通常は、背部が地面に触れるとき、背臥位で金属グリッド上のホールドグリップを動物が放すようになるが;全身方向基準(full body orientation reference)が欠如している前庭障害の場合、動物は背臥位でグリッド上のグリップを保持し続ける。);6−空中立ち直り反射(背臥位から落下した場合、ラットは必ず全4肢で着地する;前庭機能不全によって、最大レベルの障害では正常な身体の立て直し力が減弱し、フォームクッション上に40cmの高さから落下したとき、動物が背部から着地するようになる。);7−頭位傾斜。シスプラチン(50μL、2mg/mL)の経鼓膜注射後の前庭障害についてラットをスコア化し、注射後4から336時間評価した(図1)。平均(±sem)としてスコアを表した。予防処置の場合、シスプラチンの経鼓膜注射の4時間前に、シメチジンの注射(i.p.、12mg/kg)を行った。偽処置動物には、損傷4時間前に塩水(i.p)を与えた。
結果
OCT2およびMATE1発現、免疫細胞化学
【0083】
陽性および陰性組織対照(陽性:rein=腎臓;Co=蝸牛)(陰性対照:rate=脾臓)と比較した場合、一次神経節(gang)および感覚上皮(E.S.)の両方において前庭末端器官でOCT2およびMATE1 mARNが発現される。配列決定によって、RT−PCRの結果を確認した(図1A、B)。免疫組織化学によってOCT2の発現が特異的に明らかになり、成体ラットの、膨大部稜および平衡斑の両方の前庭有毛細胞(矢印)において、および一次前庭ニューロン(矢じり)に局在していた(図1C)。
【0084】
OCT1、OCT2、CTR1、CTR2、MATE1、MRP1、MRP2、ATP7AおよびATP7B発現。
陽性(腎臓=rein)および陰性(逆転写酵素なし=RT−)組織対照と比較した場合、一次神経節および感覚上皮の両方で、前庭末端器官においてOCT1、OCT2、CTR1、CTR2、MATE1、MRP1、ATP7AおよびATP7B mARNが発現され、一次神経節においてMRP2が発現される。配列決定によって、RT−PCRの結果を確認した(図2)。
インビトロでのシメチジン予防
【0085】
インビトロで、シスプラチンの48時間温置によって、前庭有毛細胞喪失が誘導される。インビトロで、シメチジンとの同時処置によって、前庭有毛細胞喪失が減少する(図3)。
インビボでのシメチジン予防
シメチジンの全身注射による成体ラットの前処理(t−4時間)によって、シスプラチンにより誘発される前庭毒性および行動障害が減少する。損傷48時間後すぐに保護効果が観察され、それから数日間持続する(図4)。
図1A
図1B
図1C
図2-1】
図2-2】
図3
図4
【配列表】
2015521194000001.app
【国際調査報告】