(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-522923(P2015-522923A)
(43)【公表日】2015年8月6日
(54)【発明の名称】電子ビームを発生させるための装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/30 20060101AFI20150710BHJP
【FI】
H01J37/30 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-518902(P2015-518902)
(86)(22)【出願日】2013年3月12日
(85)【翻訳文提出日】2015年3月6日
(86)【国際出願番号】EP2013055039
(87)【国際公開番号】WO2014009028
(87)【国際公開日】20140116
(31)【優先権主張番号】102012013593.9
(32)【優先日】2012年7月7日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102012108888.8
(32)【優先日】2012年9月20日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102012110627.4
(32)【優先日】2012年11月6日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】502383340
【氏名又は名称】リモ パテントフェルヴァルトゥング ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲー
【氏名又は名称原語表記】LIMO Patentverwaltung GmbH & Co.KG
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】リソチェンコ,フィタリーユ
【テーマコード(参考)】
5C034
【Fターム(参考)】
5C034AB03
(57)【要約】
電子ビーム(4)を発生させるための装置(20)であって、熱陰極(1)と、陰極電極(2)と、開口部(6)を有し、該開口部を、該装置(20)で発生した電子ビーム(4)が入射し通過することが可能である陽極電極(3)であって、該装置(20)の動作中、陰極電極(2)と陽極電極(3)との間に、熱陰極(1)から生じる電子を加速するための電圧が印加される、陽極電極(3)と、陽極電極(3)の開口部に入射して通過した電子ビーム(4)を偏向することが可能である、偏向手段とを含み、偏向手段は、電子ビーム(4)を反射することが可能であり、および/または電子ビーム(4)の伝播方向に対して傾斜した偏向面(9)を有する、少なくとも1つの偏向電極(8,12)を含んでなる、装置(20)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビーム(4,4’)を発生させるための装置(20,21,22,22’)であって、
熱陰極(1)と、
陰極電極(2)と、
開口部(6)を有し、該開口部を、該装置(20,21,22,22’)で発生した電子ビーム(4,4’)が入射し通過することが可能である陽極電極(3)であって、該装置の動作中、陰極電極(2)と陽極電極(3)との間に、熱陰極(1)から生じる電子を加速するための電圧が印加される、陽極電極(3)と、
陽極電極(3)の開口部に入射して通過した電子ビーム(4,4’)を偏向することが可能である、偏向手段とを含み、
偏向手段は、電子ビーム(4,4’)を反射することが可能であり、および/または電子ビーム(4,4’)の伝播方向に対して傾斜した偏向面(9)を有する、少なくとも1つの偏向電極(8,12)を含んでなることを特徴とする装置(20,21,22,22’)。
【請求項2】
少なくとも1つの偏向電極(8,12)の偏向面(9)上の法線は、熱陰極(1)と少なくとも1つの陽極電極(3)中の開口部(6)との結合線と、0°〜90°の間の角(β)をなし、好ましくは、20°〜70°の間の角(β)、特に、30°〜60°の間の角(β)、たとえば45°の角(β)をなすことを特徴とする、請求項1に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項3】
陰極電極(2)と同じ電位にある少なくとも1つの偏向電極(8,2)は、特に陰極電極(2)と同じ電圧源(7)に接続されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項4】
該装置(20,21,22,22’)は、追加電極(10,13)を有し、該追加電極は、少なくとも1つの偏向電極(8,12)とは反対の陽電位を有し、少なくとも1つの偏向電極(8,12)との相互作用に応じて電子を加速することが可能であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項5】
少なくとも1つの偏向電極(8,12)の偏向面(9)は、曲面、特に、凹曲面であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項6】
熱陰極(1)は、フィラメントとして形成され、電子ビーム(4,4’)の伝播方向に対して垂直に設定される長手方向に延び、電子ビーム(4,4’)の線形横断面が達成され、この場合、この線形横断面の長手方向は、熱陰極(1)を形成するフィラメントの長手方向に対して平行に設定されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項7】
熱陰極(1)として機能するフィラメントおよび/または陰極電極(2)および/または陽極電極(3)および/または少なくとも1つの偏向電極(8,12)および/または追加電極(10,13)は、熱陰極(1)を形成するフィラメントの長手方向に各片に区分されることを特徴とする、請求項6に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項8】
陰極電極(2)および/または陽極電極(3)および/または少なくとも1つの偏向電極(8,12)および/または追加電極(10,13)は、熱陰極(1)を形成するフィラメントの長手方向に、横断面の変化なく延びることを特徴とする、請求項6または7に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項9】
陰極電極(2)および/または陽極電極(3)および/または少なくとも1つの偏向電極(8,12)および/または追加電極(10,13)は、熱陰極(1)を形成するフィラメントの長手方向に、少なくとも1つの構造体を有し、該構造体は、電子ビーム(4,4’)を線形横断面の長手方向に変調させることが可能であることを特徴とする、請求項6または7に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項10】
少なくとも1つの偏向電極(8,12)の偏向面(9)は、移動可能である、特に、傾斜可能であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項11】
熱陰極(1)、陰極電極(2)および陽極電極(3)の構成および/または制御は、ピアス形電子銃の構成および/または制御に相当することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項12】
偏向手段は、2つの互いに対向する電極(15,16)を有し、該電極の間には交流電圧が印加され、該電極によって、電子ビーム(4,4’)を、電子ビーム(4)のビームプロファイルを適切に形成することが可能であるように偏向することが可能であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の、または請求項1の上位概念に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項13】
交流電圧は、10kHzより大きな周波数、好ましくは25kHz〜75kHz、特に40kHz〜60kHz、たとえば50kHzの周波数を有することを特徴とする、請求項12に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項14】
該装置(20,21,22,22’)は、加熱手段を含み、該加熱手段は、少なくとも1つの偏向電極(8,12)を加熱することが可能であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の、または請求項1の上位概念に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項15】
出射側の偏向電極(12)が、加熱手段によって加熱されることが可能であることを特徴とする、請求項14に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項16】
加熱手段は、電流源であって、加熱のために、電流が、少なくとも1つの偏向電極(8,12)を流れることが可能である電流源を含むことを特徴とする、請求項14または15に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項17】
加工されるべき加工対象物(25)からの気化粒子が、熱陰極(1)、陰極電極(2)、陽極電極(3)、または偏向電極(8)の領域に到達することができないように配設されてなるカバー手段(19)を含むことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の、または請求項1の上位概念に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項18】
該装置(20,21,22,22’)は、互いに間隔をあけた帯状体(23,23’)に区分された線形横断面を有する、電子ビーム(4,4’)を生じさせることが可能であるように構成されてなる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の、または請求項1の上位概念に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項19】
請求項18に従った2つの装置(20,21,22,22’)のシステムであって、各装置(20,21,22,22’)は、作業領域において連続線が生じ、連続線において、第1の装置(22)の帯状体(23)が、第2の装置(22’)の帯状体(23’)と交換されるように、第1の装置(22)の帯状体(23)が、第2の装置(22’)の帯状体(23’)に対してずれるように配設されてなることを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に従った電子ビームを発生させるための装置、および2つのかかる装置のシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
かかる装置はよく知られており、たとえば、ピアス形電子銃として形成することが可能である。通常、電子ビームの静電偏向を引き起し得る、ビームを横断する方向に互いに対向する2つの電極が、偏向手段として機能する。この場合、短所として、達成可能な最大偏向角が、この種の静電偏向の場合およそ7°の範囲内であるということがある。より大きな偏向角が望ましく、なぜなら偏向角が大きくなれば適切な装置の構成を小さくすることが可能となるからである。
【0003】
さらにまた、電子ビームのビームプロファイルは、簡単な手段によって形成可能であることが望ましい。
【発明の概要】
【0004】
本発明の根底にある課題は、より大きな偏向角を実現させ、および/または電子ビームのビームプロファイルを簡単な手段で形成することが可能であり、および/または保守を多く必要とせずに動作し、および/または比較的長い、もしくは比較的強度が高い線を発生させることが可能である、導入部において述べたタイプの装置を提供することである。
【0005】
これは、発明に従えば、請求項1、および/または請求項12、および/または請求項14、および/または請求項17、および/または請求項18の特徴を有する、導入部で述べたタイプの装置によって達成される。下位の請求項は、発明の好ましい実施形態に関する。
【0006】
請求項1に従えば、偏向手段は、電子ビームを反射することが可能であり、および/または電子ビームの伝播方向に対して傾斜した偏向面を有する偏向電極を含んでなる。ミラーにおける反射に対応する、偏向電極における反射のために、非常に大きな偏向角、たとえば0°〜180°が可能となる。
【0007】
この場合、偏向電極の偏向面上の法線は、熱陰極と陽極電極中の開口部との結合線と、0°〜90°の間の角をなし、好ましくは、20°〜70°、特に、30°〜60°、たとえば45°をなす。45°の角度の場合、偏向角は90°になる。
【0008】
好ましくは、陰極電極と同じ電位にある偏向電極は、特に陰極電極と同じ電圧源に接続されている。同じ電圧源に接続することによって、偏向電極からの電子は、可能な限り完全に阻止されることが保証される。
【0009】
さらにまた、該装置は、追加電極を有し、該追加電極は、偏向電極とは反対の陽電位を有し、偏向電極との相互作用に応じて電子を加速することが可能である。このような方法で、阻止された電子を、該追加電極の方に加速することが可能である。この追加電極は、したがって、加速が所望の偏向角で行われるように配設しなければならない。
【0010】
請求項12に従えば、偏向手段は、互いに対向する2つの電極を有し、該電極の間には交流電圧が印加され、該電極によって、電子ビームを、そのビームプロファイルを適切に形成することが可能であるように偏向することが可能である。交流電圧は、10kHzより大きな周波数、好ましくは、25kHz〜75kHz、特に、40kHz〜60kHz、たとえば50kHzの周波数を有すればよい。
【0011】
2つの互いに対向する電極は、交流電圧の周波数が比較的高いので、加工されるべき加工対象物上により高速で電子ビームをあちこち動かすことが可能である。特に、この場合、加工対象物表面のいくつかの領域に、他の領域よりも長く電子ビームを当てるために、交流電圧に目的に合うように影響を及ぼすことが可能である。
【0012】
特に、電子ビームから伝達される熱エネルギに起因する変化が、電子ビームによって加工対象物に付与れるべき場合には、加工対象物上の電子ビームの効果的なビームプロファイルが、より高い速度で、加工対象物上をあちこち動かされる電子ビームの平均的な強度分布に対応する。熱工程は通常、加工対象物上の電子ビームの移動よりも時間を要するからである。また、2つの電極と制御交流電圧によって、目的に適合した有効な、電子ビームのビームプロファイルを選択または形成することも可能である。
【0013】
請求項14に従えば、装置は加熱手段を含み、該加熱手段は、少なくとも1つの偏向電極を加熱することが可能である。このことは、特に、電子ビームで、加工対象物が部分的に溶かされ、したがって気化粒子が発散されるように、加工対象物が加工される場合には意味がある。この気化粒子は、偏向電極上に、特に、装置の出射側偏向電極上に沈下する。加熱装置によって、少なくとも1つの、特に、出射側の偏向電極が、偏向電極上に沈下された、加工対象物の粒子が、再び気化する、または、再び偏向電極から離れるように加熱される。
【0014】
その場合、加熱手段は、典型的には、電流源を備え、該電流源は、加熱のために、少なくとも1つの偏向電極に電流が流れさせることが可能である。しかしながら、他の加熱手段、たとえば、少なくとも1つの偏向電極に隣接して設けられる放射ヒータを設けてもよい。
【0015】
請求項17に従えば、装置はカバー手段を有し、カバー手段は、加工されるべき加工対象物からの気化粒子が、熱陰極、陰極電極、陽極電極、または偏向電極の領域に達することができないように配設される。
【0016】
請求項18に従えば、装置は、電子ビームであって、互いに間隔をあけた帯状体に区分された線形横断面を有する電子ビームを生じさせることが可能であるように構成されてなる。このことは、特に、2つのかかる装置から、請求項19に従ったシステムが構成される場合には有利であることを示し、この場合、これらの装置は、作業面において連続線が生じ、連続線において、第1の装置の帯状体が、第2の装置の帯状体と交換されるように、第1の装置の帯状体が、第2の装置の帯状体に対してずれるように配設される。このような方法で、より長い、またはより高強度の線を生じさせることが可能となる。
【0017】
本発明のさらなる特徴と利点は、添付の図を参照して、以下の好適な実施形態についての説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】発明に従った装置の第1の実施形態の概略図である。
【
図2】位置座標Xに対する、各時間間隔t
1〜t
Nに関する電子ビームの作業平面における強度を示す概略図である。
【
図3】電子ビームの強度の時間に関する平均化を表している、
図2に対応する概略図である。
【
図4】発明に従った装置の第2の実施形態の部分概略平面図である。
【
図6】発明に従った装置の第3の実施形態の斜視図である。
【
図7】発明に従った装置の第4の実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図において、同じもしくは機能的に同じ、パーツまたは要素は、同じ参照符号が付与されている。
図4および
図5においては、いずれもデカルト座標系が用いられている。
【0020】
記載された装置の場合、2、3の、または、特に、すべてのパーツを真空状態に配設可能である。そのために必要なハウジングは、前記の各図に示していない、または完全には図示していない。
【0021】
図1に示した装置20は、熱陰極1と、陰極電極2と、陽極電極3とを含む。これらのパーツに関して、装置20は、実質的にピアス形電子銃に相当する。該装置は電子ビーム4を発生させることが可能である。
【0022】
熱陰極1は、フィラメントとして形成され、
図1の図面平面(紙面)内において延びる、または、電子ビーム4の伝播方向に対して垂直に設定される長手方向に延びる。かかる形態によって、電子ビームの線形横断面が達成され、この場合、この線形横断面の長手方向は、熱陰極1を形成するフィラメントの長手方向に対して平行に設定される。
【0023】
熱陰極1は、図示されない電圧手段によって、電流が熱陰極1を流れ、この電流によって熱陰極1が加熱されることになる。その場合、熱陰極1は、少なくとも部分的に陰極電極2と同じ電位にある。
【0024】
陰極電極は、パーツ5を含み、各パーツ5は熱陰極1から延び、それぞれが互いになす角αは70°〜110°、たとえばおよそ90°である。両パーツ5は、特にその横断面が変化することなく、
図1の図面平面(紙面)内に延びる。
【0025】
しかしながら、陰極電極2、または陰極電極2のパーツ5は、熱陰極1を形成するフィラメントの長手方向に、構造体を有し、該構造体は、電子ビーム4を線形横断面の長手方向に変調させることが可能である。
【0026】
陽極電極3は、開口部6を有し、該開口部を、熱陰極1から出射される電子ビーム4が入射し通過することが可能である。開口部6は、特に、矩形であり、線形電子ビームを通過させるために、
図1の図面平面(紙面)内に延びるその長手方向の寸法は、その短手方向の寸法よりも大きい。
【0027】
装置20が稼働している時、陰極電極2と陽極電極3との間には、熱陰極1から生じる電子を加速するための、
図1に概略的に図示された電圧源7によって生じる電圧が印加される。この電圧は、たとえば、1kV〜10kVにすることが可能である。その場合、マイナス極の陰極電極2とプラス極の陽極電極3とは、電圧源7と結合され、特に、陽極電極3は、さらにグラウンドに結合される。
【0028】
装置20は、さらにまた、偏向手段として機能する偏向電極8を含み、該偏向電極8は、陽極電極3の後ろの電子ビーム4のビーム経路に配設される。偏向電極8の電子ビーム4に向けられた側は、偏向面9として機能する。この偏向面9は、電子ビーム4の伝播方向と角βをなし、この角は、図示された実施形態においてはおよそ45°である。したがって、入射点における法線と電子ビームとの間の入射角γも45°となる。
【0029】
偏向電極8は、負の電位にあり、特に、陰極電極2と同じ負の電位にある。好ましくは、偏向電極8は、陽極電極2と同じ電圧源7の負の極と結合される。したがって、電子ビームの電子は、偏向電極8で静止状態に達する。
【0030】
装置20は、さらにまた、偏向電極8の後ろにおける電子ビーム4の伝播方向に追加電極10を含み、該電極10は、電子ビーム4を通過させるための、開口部6に対応する開口部11を有している。追加電極10は、グラウンド結合され、したがって、偏向電極8とは逆に、正の電位を有している。よって、偏向電極で阻止された、電子ビーム4の電子は、追加電極10によって、追加電極10の方向に加速され、開口部11を通過する。
【0031】
45°の角度下にある偏向電極8の偏向面9の配設方向に基づいて、追加電極10も、偏向電極8に対して同様に45°の角度をなすよう方向づけられる。したがって、追加電極10は、陽極電極3に対して垂直に配設される。電子ビーム4は、したがって、偏向面9に対して90°偏向される。特に、偏向電極8は、追加電極10と共に、ミラーにおける反射の場合のように、入射角γが出射角δに同じである、電子ビーム4のためのミラーのように作用する。
【0032】
偏向電極8の偏向面9は、電子ビーム4に対して図示された45°の角度とは異なる角度で配設することも可能である。その場合には、それに対応して、追加電極10は、入射角γが、出射角δに対応するように、異なった方向付けおよび配設をしなければならない。
【0033】
さらにまた、偏向電極8は、動作中に他の偏向方向が選択可能なように、方向転換可能に構成することも可能である。たとえば、このためにステッピングモータまたは圧電素子を利用可能である。偏向電極8の移動に対応して、追加電極10も移動させることが必要である。
【0034】
さらにまた、偏向電極8の偏向面9は、電子ビーム4を集束させるために、曲面、特に、凹曲面としてもよい。
【0035】
図1においては、追加電極10の後方に、たとえば、追加偏向電極12が配設され、その追加偏向電極の後方に、開口部14を有する、さらなる追加電極13が設けられる。追加偏向電極12とさらなる追加電極13とによって、電子ビーム4は、もう一度90°偏向される。追加偏向電極12とさらなる追加電極13とを断念することも可能である。他方、1つの偏向電極と追加電極とからなる、2以上の偏向ユニットを設けることも可能である。
【0036】
陰極電極2または陰極電極2の部分は、線形横断面の長手方向に、電子ビーム4を変調させるために、熱陰極1を形成するフィラメントの長手方向に構造体を含む場合には、陽極電極3および/または偏向電極8,12および/または追加電極10,13も、熱陰極1を形成するフィラメントの長手方向に適切な構造体を含むことが可能である。
【0037】
任意であるが、2つの追加電極12,13の後方には、平板コンデンサとして働く電極15,16であって、交流電圧が印加される電極15,16が設けられる。対応の電圧源は図示されていない。交流電圧は、たとえば、10kHzより大きい周波数、好ましくは25kHz〜75kHz、特に、40kHz〜60kHz、たとえば、50kHzの周波数を有することが可能である。2つの追加電極は省略することも可能である。これらは、以下においてより詳細に説明しているように、電子ビーム4のビームプロファイルの形成に寄与しているだけである。ビーム形成を望まないのであれば、これら2つの追加電極12,13を省略してもよい。
【0038】
平板コンデンサとして作用する電極15,16は、交流電圧の周波数が比較的高いので、高速の電子ビーム4を、加工すべき加工対象物(図示せず)上であちこち動かすことが可能である。特に、この場合、加工対象物表面のいくつかの領域には他の領域よりも長く電子ビーム4を当てるために、交流電圧に目的に合うように影響を及ぼすことが可能である。
【0039】
図2は、典型例としての狭い電子ビームを示しており、該電子ビームは、加工対象物上の位置座標Xについて動かされ、該位置座標は、たとえば、電子ビームラインの横断面の長手方向に対して垂直な方向に対応する。その場合、
図2においては、上方に向かって電子ビーム4の強度が高くなっている。特に、電子ビーム4が、対応する位置座標Xを有する領域上に照射される、時間間隔t
1〜t
Nにおける各強度分布が示されている。
【0040】
図3は、
図2に対応する概略図であり、図において、電子ビームの強度の時間に関する平均化が表されている。特に、加工対象物に、電子ビーム4によって、電子ビームから伝達される熱エネルギに起因する変化を付与すべき場合には、
図3に示した、典型的で、平均的な強度分布17が、加工対象物上の電子ビーム4の効果的ビームプロファイルに相当する。熱工程は通常、加工対象物上の電子ビーム4の移動よりも時間を要するからである。
【0041】
また、平板コンデンサとして機能する2つの電極15,16、および制御交流電圧を介して、電子ビーム4の、目的に適合した、効果的なビームプロファイルを選択することも、かかるプロファイルを形成することも可能である。
図3は、任意に選んだ例を示しているだけであり、他のビームプロファイル形成も可能である。
【0042】
非常に長い電子ビームラインを生じさせるべき場合には、熱陰極1として機能するフィラメントおよび/または陰極電極2および/または陽極電極3および/または偏向電極8,12および/または追加電極10,13は、熱陰極1を形成するフィラメントの長手方向に各片に区分されてもよい。
【0043】
図4および
図5に図示された装置21の実施形態は、第1の実施形態とは異なり、第2の偏向電極12が、x−y平面からの電子ビーム4が装置からz方向上方へ反射されるように配設されてなる点において異なっている。電子ビーム4は、ここでは円で概略的に示しているだけであるが、詳細には、線形形状の横断面を有している。この場合、z方向における、第2の偏向電極12において反射する前と、x方向における、第2の偏向電極12において反射した後とのラインが延びている。
【0044】
単に概略的に図示された第2の偏向電極12は、x方向においては、y方向よりも長くすることが可能である。さらにまた、第2の偏向電極12の場合、曲がった、特に凹状に曲がった電極である。概略的に示されているだけの第1の偏向電極8も、電子ビーム4の横断面が線形であるので、x方向よりもz方向の方が長い。さらにまた、第1の偏向電極8の場合も曲がっている、特に凹状に曲がっている。
【0045】
発明に従った装置21の、
図4および
図5に示した実施形態の場合、さらに加熱手段が設けられている。加えて、装置21は、図示されていない電流源を備えており、該電流源は、第2の偏向電極12と、第2の偏向電極12を電流が流れるように結合されている。この電流は、加工されるべき加工対象物の粒子の沈積を気化させるために十分に高い温度まで偏向電極12を加熱するのに十分な大きさでなければならない。
【0046】
発明に従った装置22の、
図6に示した第3の実施形態は、線形横断面を有する電子ビーム4を発生させることが可能である。
図6において、ハウジング18の一部が示されており、該ハウジングから、板状形状のカバー手段19が第2の偏向電極12まで延びている。これらの板状カバー手段19は、加工されるべき加工対象物からの気化粒子が、熱陰極1、陰極電極2、陽極電極3、または偏向電極8の領域に達することを防止する。
【0047】
同時に、第2の実施形態の場合のように、第2の偏向電極12のために加熱手段を設けることが可能である。この第3の実施形態の場合においても、第2の偏向電極12は、加工されるべき加工対象物の粒子の沈積を気化させるために、十分に高い温度に加熱されることが可能である。
【0048】
図示7および
図8において図示された、発明に従った装置の第4の実施形態は、実質的には、
図6に従った2つの装置22,22’の構成に対応する。これらの装置22,22’は、各電子ビーム4,4’が加工されるべき加工対象物25上で重畳するように構成されてなる。このことは、
図8において詳細に示しており、2つの装置22,22’が、線形または帯状の横断面を有する電子ビーム4,4’を生じさせることが読み取れる。
【0049】
その場合、装置22,22’は、電子ビーム4,4’の線形横断面の線長方向において、互いに間隔をあけた帯状体23,23’が配設されるように構成されてなる。帯状体23,23’間の間隙24,24’は、帯状体23,23’と同じ大きさである。さらにまた、第1の装置22の帯状体23は、連続線であって、その連続線において、第1の装置22の帯状体23が第2の装置22’の帯状体23’と交換される連続線が、加工対象物25上に生じるように、第2の装置22’の帯状体23’に対して互いにずらされる。
【手続補正書】
【提出日】2015年5月25日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビーム(4,4’)を発生させるための装置(20,21,22,22’)であって、
熱陰極(1)と、
陰極電極(2)と、
開口部(6)を有し、該開口部を、該装置(20,21,22,22’)で発生した電子ビーム(4,4’)が入射し通過することが可能である陽極電極(3)であって、該装置の動作中、陰極電極(2)と陽極電極(3)との間に、熱陰極(1)から生じる電子を加速するための電圧が印加される、陽極電極(3)と、
陽極電極(3)の開口部に入射して通過した電子ビーム(4,4’)を偏向することが可能である、偏向手段とを含み、
偏向手段は、電子ビーム(4,4’)を反射することが可能であり、および/または電子ビーム(4,4’)の伝播方向に対して傾斜した偏向面(9)を有する、少なくとも1つの偏向電極(8,12)を含んでなり、
少なくとも1つの偏向電極(8,2)は、陰極電極(2)と同じ電位にあることを特徴とする装置(20,21,22,22’)。
【請求項2】
少なくとも1つの偏向電極(8,12)の偏向面(9)上の法線は、熱陰極(1)と少なくとも1つの陽極電極(3)中の開口部(6)との結合線と、0°〜90°の間の角(β)をなし、好ましくは、20°〜70°の間の角(β)、特に、30°〜60°の間の角(β)、たとえば45°の角(β)をなすことを特徴とする、請求項1に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項3】
少なくとも1つの偏向電極(8,2)は、陰極電極(2)と同じ電圧源(7)に接続されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項4】
該装置(20,21,22,22’)は、追加電極(10,13)を有し、該追加電極は、少なくとも1つの偏向電極(8,12)とは反対の陽電位を有し、少なくとも1つの偏向電極(8,12)との相互作用に応じて電子を加速することが可能であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項5】
少なくとも1つの偏向電極(8,12)の偏向面(9)は、曲面、特に、凹曲面であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項6】
熱陰極(1)は、フィラメントとして形成され、電子ビーム(4,4’)の伝播方向に対して垂直に設定される長手方向に延び、電子ビーム(4,4’)の線形横断面が達成され、この場合、この線形横断面の長手方向は、熱陰極(1)を形成するフィラメントの長手方向に対して平行に設定されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項7】
熱陰極(1)として機能するフィラメントおよび/または陰極電極(2)および/または陽極電極(3)および/または少なくとも1つの偏向電極(8,12)および/または追加電極(10,13)は、熱陰極(1)を形成するフィラメントの長手方向に各片に区分されることを特徴とする、請求項6に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項8】
陰極電極(2)および/または陽極電極(3)および/または少なくとも1つの偏向電極(8,12)および/または追加電極(10,13)は、熱陰極(1)を形成するフィラメントの長手方向に、横断面の変化なく延びることを特徴とする、請求項6または7に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項9】
陰極電極(2)および/または陽極電極(3)および/または少なくとも1つの偏向電極(8,12)および/または追加電極(10,13)は、熱陰極(1)を形成するフィラメントの長手方向に、少なくとも1つの構造体を有し、該構造体は、電子ビーム(4,4’)を線形横断面の長手方向に変調させることが可能であることを特徴とする、請求項6または7に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項10】
少なくとも1つの偏向電極(8,12)の偏向面(9)は、移動可能である、特に、傾斜可能であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項11】
熱陰極(1)、陰極電極(2)および陽極電極(3)の構成および/または制御は、ピアス形電子銃の構成および/または制御に相当することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項12】
偏向手段は、2つの互いに対向する電極(15,16)を有し、該電極の間には交流電圧が印加され、該電極によって、電子ビーム(4,4’)を、電子ビーム(4)のビームプロファイルを適切に形成することが可能であるように偏向することが可能であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の、または請求項1の上位概念に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項13】
交流電圧は、10kHzより大きな周波数、好ましくは25kHz〜75kHz、特に40kHz〜60kHz、たとえば50kHzの周波数を有することを特徴とする、請求項12に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項14】
該装置(20,21,22,22’)は、加熱手段を含み、該加熱手段は、少なくとも1つの偏向電極(8,12)を加熱することが可能であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の、または請求項1の上位概念に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項15】
出射側の偏向電極(12)が、加熱手段によって加熱されることが可能であることを特徴とする、請求項14に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項16】
加熱手段は、電流源であって、加熱のために、電流が、少なくとも1つの偏向電極(8,12)を流れることが可能である電流源を含むことを特徴とする、請求項14または15に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項17】
加工されるべき加工対象物(25)からの気化粒子が、熱陰極(1)、陰極電極(2)、陽極電極(3)、または偏向電極(8)の領域に到達することができないように配設されてなるカバー手段(19)を含むことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の、または請求項1の上位概念に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項18】
該装置(20,21,22,22’)は、互いに間隔をあけた帯状体(23,23’)に区分された線形横断面を有する、電子ビーム(4,4’)を生じさせることが可能であるように構成されてなる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の、または請求項1の上位概念に記載の装置(20,21,22,22’)。
【請求項19】
請求項18に従った2つの装置(20,21,22,22’)のシステムであって、各装置(20,21,22,22’)は、作業領域において連続線が生じ、連続線において、第1の装置(22)の帯状体(23)が、第2の装置(22’)の帯状体(23’)と交換されるように、第1の装置(22)の帯状体(23)が、第2の装置(22’)の帯状体(23’)に対してずれるように配設されてなることを特徴とするシステム。
【国際調査報告】