(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-523231(P2015-523231A)
(43)【公表日】2015年8月13日
(54)【発明の名称】原子力環境において耐酸化性である多層材料
(51)【国際特許分類】
B32B 15/01 20060101AFI20150717BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20150717BHJP
G21D 1/00 20060101ALI20150717BHJP
G21C 3/06 20060101ALI20150717BHJP
G21C 3/34 20060101ALI20150717BHJP
G21C 3/60 20060101ALI20150717BHJP
【FI】
B32B15/01 Z
C23C28/00 A
G21D1/00 W
G21C3/06 G
G21C3/34 Y
G21C3/60
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2015-507576(P2015-507576)
(86)(22)【出願日】2013年4月17日
(85)【翻訳文提出日】2014年12月11日
(86)【国際出願番号】FR2013050849
(87)【国際公開番号】WO2013160587
(87)【国際公開日】20131031
(31)【優先権主張番号】1253887
(32)【優先日】2012年4月26日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】513155611
【氏名又は名称】コミサーリャ ア レナジー アトミック エー オー エナジー アルタナティブ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】ル フレム,マリオン
(72)【発明者】
【氏名】デュクロ,セドリック
(72)【発明者】
【氏名】ソンシェット,フレデリック
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AB13B
4F100AB19A
4F100AB31B
4F100BA13
4F100EH66
4F100GB90
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4K044AA06
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4K044AB03
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4K044BB06
4K044BC02
4K044CA13
4K044CA14
(57)【要約】
多層コーティングで覆われているジルコニウム系基板を含む多層材料であり、クロム、クロム合金またはNb−Cr−Ti系の三元合金から選択される同一または異なる物質で構成される金属層を含む多層コーティング。
そのような材料は、原子炉の事故状態での酸化に対して改善された耐性を有する。
本発明はまた、多層コーティング、多層材料または前記多層コーティングで完全にまたは部分的に構成される部分、ならびに、例えばマグネトロン陰極スパッタリング法などの多層材料を製造するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層コーティングで覆われているジルコニウム系基板を含む多層材料であって、前記多層コーティングが、クロム、クロム合金またはNb−Cr−Ti系の三元合金から選択される同一または異なる物質で構成される金属層を含む、多層材料。
【請求項2】
前記多層コーティングが、クロム、クロム合金またはNb−Cr−Ti系の三元合金から選択される同一または異なる物質で構成される前記金属層からなる、請求項1に記載の多層材料。
【請求項3】
前記多層コーティングが、2〜2000の金属層を含む、請求項1または2に記載の多層材料。
【請求項4】
前記多層コーティングが、2〜1000の金属層を含む、請求項3に記載の多層材料。
【請求項5】
前記多層コーティングが、2〜50の金属層を含む、請求項4に記載の多層材料。
【請求項6】
前記金属層の各々が、少なくとも3nmの厚さを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項7】
前記金属層の各々が、3nm〜1μmの厚さを有する、請求項6に記載の多層材料。
【請求項8】
前記金属層の累積厚さが、6nm〜10μmである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項9】
前記多層コーティングが、その各々が少なくとも100nmの厚さを有する少なくとも10の金属層を含み、前記金属層の累積厚さが1μm〜6μmである、請求項8に記載の多層材料。
【請求項10】
クロムまたはクロム合金で構成される前記金属層が、ケイ素またはイットリウムから選択される少なくとも1つの化学元素を含有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項11】
ケイ素またはイットリウムが、0.1〜20at%の含有量で存在する、請求項10に記載の多層材料。
【請求項12】
前記Nb−Cr−Ti系の三元合金が、原子百分率で50%〜75%のニオブ、5%〜15%のクロムおよび20%〜35%のチタンを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項13】
Nb−Cr−Ti系の三元合金で構成される前記1または複数の金属層が、5nm〜500nmの厚さを有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項14】
前記金属層が、i)クロムおよび/またはクロム合金で構成される1以上の層、およびii)Nb−Cr−Ti系の三元合金で構成される1以上の層である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項15】
クロムまたはクロム合金で構成される金属中間結合層が、前記ジルコニウム系基板と接触している、請求項14に記載の多層材料。
【請求項16】
前記金属層が全てクロムおよび/またはクロム合金で構成されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項17】
前記金属層が全て前記Nb−Cr−Ti系の三元合金で構成されている、請求項1〜9、12〜13のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項18】
前記ジルコニウム系基板が、ジルコニウムからなるかまたはジルカロイ−2、ジルカロイ−4、ジルロ(Zirlo)またはM5から選択されるジルコニウム合金からなる、請求項1〜17のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項19】
前記ジルカロイ−2ジルコニウム合金が、重量で1.20%〜1.70%のSn;0.07%〜0.20%のFe;0.05%〜1.15%のCr;0.03%〜0.08%のNi;900ppm〜1500ppmのOを含み;残りはジルコニウムである、請求項18に記載の多層材料。
【請求項20】
前記ジルカロイ−4ジルコニウム合金が、重量で1.20%〜1.70%のSn;0.18%〜0.24%のFe;0.07%〜1.13%のCr;900ppm〜1500ppmのO;0.007%未満のNiを含み;残りはジルコニウムである、請求項18に記載の多層材料。
【請求項21】
前記ジルロ(Zirlo)ジルコニウム合金が、重量で0.5%〜2.0%のNb;0.7%〜1.5%のSn;0.07%〜0.28%のFe、Ni、Crから選択される少なくとも1つの元素;最大200ppmのCを含み;残りはジルコニウムである、請求項18に記載の多層材料。
【請求項22】
前記M5ジルコニウム合金が、重量で0.8%〜1.2%のニオブ;0.090%〜0.149%の酸素を含み;残りはジルコニウムである、請求項18に記載の多層材料。
【請求項23】
Nb−Cr−Ti系の三元合金で完全にまたは部分的に構成される金属層を含む多層コーティング。
【請求項24】
前記金属層が、i)クロムおよび/またはクロム合金で構成される1以上の層、およびii)Nb−Cr−Ti系の三元合金で構成される1以上の層である、請求項23に記載の多層コーティング。
【請求項25】
クロムまたはクロム合金で構成される外側の結合層をさらに含む、請求項23または24に記載の多層コーティング。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれか一項に記載の前記多層材料または前記多層コーティングで完全にまたは部分的に構成される部分であって、原子炉の構成部品である部分。
【請求項27】
前記部分が、核燃料被覆管、案内管、スペーサーグリッドまたは板状燃料である、請求項26に記載の部分。
【請求項28】
前記多層材料または前記コーティングが、前記部分の外部表面を覆っている、請求項26または27に記載の部分。
【請求項29】
原子力環境における事故状態での耐酸化性を改善するための、請求項1〜28のいずれか一項に記載の多層材料、多層コーティングまたは部分の使用。
【請求項30】
ジルコニウム系基板が、クロム、クロム合金またはNb−Cr−Ti系の三元合金から選択される同一または異なる物質で構成される金属層を含む多層コーティングで覆われる工程を含む、請求項1〜22のいずれか一項に記載の多層材料を製造するための方法。
【請求項31】
前記基板が、順次蒸着を実施することによって覆われる、請求項30に記載の製造方法。
【請求項32】
前記順次蒸着が、580℃までの温度で実行される、請求項31または32に記載の製造方法。
【請求項33】
前記基板が、化学的蒸着またはパルス電解の実施によって覆われる、請求項31〜33のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項34】
前記基板が、物理的蒸着の実施によって覆われる、請求項31〜33のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項35】
前記物理的蒸着の実施が、陰極スパッタリングである、請求項34に記載の製造方法。
【請求項36】
前記陰極スパッタリングが、マグネトロン型のものである、請求項35に記載の製造方法。
【請求項37】
前記陰極スパッタリングが、板状カソードおよび板状ターゲット、または円筒カソードおよび基板を含有する中空ターゲットを用いて実施される、請求項35または36に記載の製造方法。
【請求項38】
物理的蒸着が、50℃〜700℃の温度で実施される、請求項34〜37のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項39】
物理的蒸着が、200℃〜600℃の温度で実施される、請求項38に記載の製造方法。
【請求項40】
物理的蒸着が、200℃〜450℃の温度で実施される、請求項39に記載の製造方法。
【請求項41】
請求項30〜40のいずれか一項に記載の製造方法によって得られる多層材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力分野で用いられる材料、特に原子炉の事故の間に遭遇する物理化学的状態に対し、できる限り良好な耐性を有することを目的とする材料の分野に関する。
【0002】
本発明は特に、そのような材料、そのコーティング、該材料またはコーティングを含む部分、その使用、ならびに該材料を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
使用状態において、加圧水型原子炉(PWR)の冷却液は、190barに加圧され、360℃の最大温度に達する水である。
【0004】
そのような条件において、核燃料被覆管を構成しているジルコニウム合金は、冷却液と接触して酸化する。
【0005】
生じる酸化物は脆いため、被覆管の耐用年数は、酸化物の許容可能な最大厚さによってある程度限られる。それ以上に、核燃料の最適な閉じ込めを確保する目的で良好な機械的性質を保証するには、丈夫で延性のあるジルコニウム合金の残留厚さは不十分である。
【0006】
そのため、公称条件下での酸化を制限することは、被覆管の耐用年数を増加させ、そのため、二酸化ウランの燃焼部分を改善することを可能にする。
【0007】
この目的のため、燃料供給業者は、公称条件下での腐食に対する耐性の高い新しい合金、例えばAreva−NP社の合金M5(商標)などを開発した。
【0008】
これらの開発は、公称条件下で起こるジルコニウム合金被覆管の低温酸化に対する耐性を改善することを可能にしたが、それらは事故状態で遭遇する高温酸化に対する耐性の明白な増加をもたらさない。
【0009】
高温とは、通常700℃超、特に800℃〜1200℃の間である。例えばRIA型(反応度事故)またはLOCA型(冷却材喪失事故)の仮定上の事故シナリオの場合に、あるいは消費済燃料貯蔵プールの排水の状態でさえも、これらの温度に到達する。そのような温度では、冷却液は蒸気の形態である。
【0010】
下に詳述されるように、高温酸化は低温酸化よりも被覆管(燃料閉じ込めの最初の遮断層)の劣化をより促進し、関連するリスクをより大きくするので、はるかに重大である。これらのリスクは、数ある中でも、以下のようなリスクである:
−水素の放出;
−酸化、またはさらに特定の条件での被覆管の水素化による、高温での被覆管の脆化;
−原子炉心を安全にするための水の大量供給中の急な温度降下に起因する、クエンチング時の被覆管の脆化;
−クエンチングまたは冷却後、例えば事故後メンテナンスの作業の場合などの被覆管の低い機械的強度。
【0011】
そのため、これらのリスクを考慮に入れると、例として水を冷却液として使用する原子炉の安全性を改善するために、被覆管の高温酸化をできる限り制限することが不可欠である。
【0012】
これまでの研究では、使用状態で遭遇するよりも高い温度に付されたジルコニウム合金の耐酸化性を改善することを目的としている。しかし、事故状態で遭遇する温度は考慮に入れられていない。
【0013】
仏国特許第1493040A号は、ジルコニウム合金をクロムの層でコーティングすることを提案する。この単層コーティングは、600℃の温度の気圧での二酸化炭素中で、ジルコニウム合金を酸化から保護することを可能にするとして提示される。しかし、下で実験的に示されるように、提案されるコーティングは、高温酸化をあまり制限することができない。
【0014】
さらに留意するべきは、試験した条件では、どんな場合も、600℃を上回る温度でのジルコニウム合金の耐蝕性の予測ができないことである。
【0015】
この予測性の欠如は、事故状態での酸化に対する解決策を見つけることが、新しい研究分野を調査することを必要とするという事実に起因する。実際に、下に詳述されるように、高温酸化の物理化学的状態および機構は、600℃以下の温度での酸化のそれとは基本的に異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】仏国特許第1493040A号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そのため、本発明の目的の一つは、数ある中でも、事故状態で、ジルコニウム系核燃料被覆管の酸化に対して著しく改善された耐性を提供し、その一方で、使用状態で、この被覆管の耐酸化性を保つかまたは改善さえすることのできる材料を提案することにより、上記の欠点を回避し、減弱し、かつ/または遅延させることである。
【0018】
本発明の別の目的は、事故状態での酸化の後に、材料の機械的性質、例えばその延性およびその機械的強度などを改善することである。
【0019】
本発明の別の目的は、水素ガス(水素リスク)または被覆管に拡散する水素(水素化物による脆化)の生成を低下させることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、従って、多層コーティングで覆われているジルコニウム系基板を含む多層材料に関し、該多層コーティングは、クロム、クロム合金またはNb−Cr−Ti系の三元合金から選択される同一または異なる物質で構成される金属層を含む。
【0021】
本発明の本説明において、特に明記されない限り、組成の百分率は、原子百分率で表される。
【0022】
さらに、下に言及される金属材料(その中でも、ジルコニウム、クロムまたはそれらの合金、および/またはNb−Cr−Ti系の三元合金)は、製造に由来する回避できない不純物を含有する可能性がある。これらの不純物の性質および含有量は、通常、とりわけ原子力分野で使用される工業用金属材料の不純物に典型的な性質および含有量であり、そのため、この産業の仕様要件に特に適合している。通常、回避できない不純物の含有量は200ppm未満、好ましくは100ppm未満、さらにより好ましくは50ppm未満である。
【0023】
ここで、「含む」、「含有する」、「組み込む」、「が含まれる」などの動詞およびその活用形はオープンタームであり、そのため、これらの用語の後に述べられた初期の要素(複数も可)および/または工程(複数も可)に加えられる追加の要素(複数も可)および/または工程(複数も可)の存在を排除しない。しかし、これらのオープンタームは、さらに、その他すべてを除いて、初期の要素(複数も可)および/または工程(複数も可)だけが意図される特定の実施形態にさらに関する;その場合、オープンタームは、クローズドタームである「からなる」、「で構成される」およびその活用形にさらに関する。
【0024】
従って、本発明の多層材料は、多層コーティングで覆われているジルコニウム系基板を含み、多層コーティングは、クロム、クロム合金またはNb−Cr−Ti系の三元合金から選択される同一または異なる物質で構成される金属層からなる。
【0025】
先行技術の材料と対照的に、本発明の多層材料は、原子炉事故中に制限された酸化しか受けない。その状態は、数ある中でも、700℃を上回る温度、一般に700℃〜1200℃の間の温度、あるいは場合によっては800℃〜1200℃の間または1000℃〜1200℃の間の温度さえも特徴とする。この耐酸化性は、数ある中でも、水素の放出または取り込みを制限し、この材料で部分的にまたは完全に構成される部分、例えば核燃料被覆管の脆性を低下させることを可能にする。
【0026】
物理化学的な現象の存在と、事故状態に特有であり、そのため使用状態での既存の溶液の適用を許容しないジルコニウム構造の存在にも関わらず、上述のような結果を得ることができた。これらの物理化学的な現象およびジルコニウム構造は、ジルコニウム合金に関して下に詳述されるが、これはジルコニウムそれ自体に置き換え可能である。
【0027】
事故状況では、核燃料被覆管を構成しているジルコニウム合金は、700℃を上回る温度(あるいは800℃を上回るかまたは1000℃を上回る温度でさえ)だけでなく、合金中の酸素の拡散にも起因する一連の変態を受ける。そこから生じる具体的な状態は、数ある中でも、次の通りである:
−水素化:これは、公称条件でまたは特定の事故状態で核燃料被覆管の中に起こる現象である。水素化作用は、次の一続きの反応(1)および(2)から生じる:核燃料被覆管に含まれるジルコニウムは、反応
(1)Zr+2H
2O −> ZrO
2+2H
2
に従って加圧水または蒸気によって酸化され、その後、このように放出された水素は被覆管のジルコニウム合金の中に拡散し、まだ酸化していない被覆管のジルコニウムと、反応
(2)Zr+xH −> ZrH
X
に従って水素化物を形成することができる。
【0028】
下付文字「
X」は、可変性の化学量論をもつ水素化物が形成されうることを示し、この下付文字は特に2に等しい。
【0029】
全水素含量および/または温度に応じて、一部または全部の水素は沈殿し、残りは固溶体の中に残る(ジルコニウム−α結晶格子に挿入される)。
【0030】
例えば、20℃では、ほぼすべての水素が水素化物の形態で沈殿するのに対して、それらの溶解は高温(一般に600℃超)で完全でありうる。
【0031】
固溶体中の水素は、特に水素化ジルコニウムの沈殿の形態では、ジルコニウム合金の延性を低下させる欠点と、そのために低温での脆化を含む被覆管の脆化を引き起こすという欠点を有する。本発明者らが高い燃焼部分に到達することを目的とする場合には、この脆化はなお一層恐れるべきである。その理由は、これらの部分に関して、反応(1)に従って酸化したジルコニウムの割合の増加と、そのため、反応(2)に従って生じた水素化物の量の増加が見出されるためである。次に、それは通常、被覆管の安全性および完全性の判定基準に関して禁止レベルの通常の工業用合金の腐食を導き、使用後の輸送および貯蔵の問題を提起する。
【0032】
公称条件では見出されるが、事故状態では水素化作用は、通常、約1000℃でのみ見出される。この現象は、「分離」と呼ばれ、酸化速度論の増加に関連しているが、まだ完全に解明されていない。それは、正方形のZrO
2の単斜ZrO
2への可逆性変態に恐らく関係する、Zr/ZrO
2界面で生じる応力の存在に関係する、ZrO
2相での亀裂および/または多孔性の出現から生じる。この水素取り込みの結果は、公称条件におけるのと同じように、クエンチング中または低温に戻った後にその破損を導く可能性のある、約1000℃での材料の脆化である。
【0033】
−水素の放出:ジルコニウム合金の表面の水性の腐食は、通常、水分子の解離を導く。得られる水素ラジカルの生成は、ジルコニウム合金の水素化を導く。現在、典型的なLOCAの条件、すなわち1050℃を上回る温度への15〜30分間の曝露に対して、この水素化作用は、水素分子(H
2)のかなりの放出に置き換えられる。
【0034】
−「Zr−β」構造:低温のジルコニウム合金のα相(六方最密充填結晶構造の「Zr−α」と命名)は、一般に、合金、加熱速度、水素H
2の含有量などに応じて変動する700℃〜1000℃の温度域でβ相(体心立方結晶構造の「Zr−β」と命名)に変態する。
【0035】
Zr−α構造からZr−β立方構造への移行時に、合金は局部的な寸法変化を受ける。
【0036】
これらの変化は、他のものの中でもそれらの膨張係数の不適合性のために、ジルコニウム系基板を覆うためのコーティングの機械的性質には経験的に好ましくない。
【0037】
これらの付着の問題は、化学種の拡散の機構によって強調される。これはZr−β相でのほうがZr−α相よりも速く、基板とそのコーティングとの間の界面を変更する可能性がある。
【0038】
−「Zr−α(O)」の形成:拡散の加速には、使用状態で起こることとは対照的に、ジルコニウム合金の表面のZrO
2の外層の形成後にも、酸素がZr−β相でのその進行を継続するという結果も有する。
【0039】
次に、酸化はZrO
2の外層の下で酸素がその固溶限界に達するまで続く。固溶限界はZr−βにおいて比較的低く、一般に1100℃で1重量%未満である。
【0040】
Zr−βは、次に、Zr−α(O)固溶体に変態する。これは、2〜7重量%の間の酸素を固溶体中に含有することができるが、低温ではZrO
2しか生じない。
【0041】
そのため、1000℃を上回る温度でのジルコニウム合金の酸化の間に、3つの層:ZrO
2、Zr−α(O)およびZr−βが共存する。
【0042】
原子炉安全系の起動で炉心が冠水した後、燃料被覆管はクエンチングを受ける。残りのZr−βは再びZr−αに変態し、高温で生じる酸素の豊富なZr−α(O)とそれを区別するためにZr−ex−βと呼ばれる。それらの部分として、ZrO2およびZr−α(O)相は変化しないままである。
【0043】
次いで、クエンチングの終わりに、被覆管の外面から内面に次の連続する層:ZrO
2、Zr−α(O)、Zr−α(O)+Zr−ex−β、Zr−ex−βがある。
【0044】
相ZrO
2、Zr−α(O)(または、酸素含有量が高い場合には、Zr−ex−βでさえ)の存在は、被覆管を構成するジルコニウム合金の脆化を引き起こす。これは、高温とクエンチング中の両方で、またはクエンチ後の取り扱い操作中に、核分裂性物質の閉じ込めの破裂のリスクをもたらす。燃料棒の複数の破砕の場合には、冷却を許容する幾何学的形状を失う中で、これらの燃料棒集合体を冷却する困難さも生じる。
【0045】
−異なる構造のZrO
2酸化物:中温度での単斜晶から、ZrO
2酸化物は約1050℃〜1100℃で正方形相に変態する。これにより、ZrO
2酸化物の層に不安定現象が引き起こされ、特定の酸化機構(「分離」現象、特に約1000℃)が導かれる。得られる内部応力は、経験的に、ジルコニウム系基板とそのコーティングとの間の良好な付着に好ましくない。
【0046】
事故状態に固有のこの状況にもかかわらず、本発明者らはそのような状態でも改善された耐酸化性を有する多層材料を開発することができた。予想外にも、この材料は、Zr−β構造に起因する局部的な寸法変化、拡散の機構の加速およびZrO
2酸化物の層における不安定現象にもかかわらず、その多層コーティングがジルコニウム系基板に良好な付着を示すというさらなる利点を有する。また、それは水素化に対して良好な耐性を有する。
【0047】
下に記載される実施例において実証されるように、本発明の多層材料のこれらの特性は、特定の構造および特定の組成の組合せに起因する。
【0048】
多層材料の構造とは、少なくとも2つの金属層の重ね合わせから生じるコーティングが、同一組成の単層コーティングと比較して、酸化に対する耐性、または水素化に対する耐性さえも改善することを可能にする多層コーティングを形成するような構造である。
【0049】
多層材料は、同等の全体的な化学組成をもつ単層材料とは、数ある中でも層間の界面の存在によって異なる。この界面は、通常、原子スケールで微細構造の乱れに一致するような界面である。それは例えば、高解像度の透過型電子顕微鏡(TEM)、EXAFS(広域X線吸収微細構造分光法)などの微細特性決定のための技法を用いて同定される。
【0050】
多層材料は、通常、異なる単層の順次蒸着のための方法によって得られる。
【0051】
多層の特徴に加えて、多層材料の構造は、次のような構造でありうる:
−多層コーティングは、2〜2000の金属層、好ましくは2〜1000、さらにより好ましくは2〜50の金属層を含み、かつ/または;
−金属層の各々は、少なくとも3nm、好ましくは3nm〜1μmの厚さを有し、かつ/または;
−金属層の累積厚さは、6nm〜10μmである。金属層の累積厚さが薄いことにより、原子炉心の中性子挙動に対する影響を制限することが可能になる。
【0052】
特に明記しない限り、10μmを越えない累積厚さとは、コーティングの総厚が10μmよりも大きい、一般に1μm〜20μmである本発明による多層材料を作成することを排除しないことに注意されねばならない。例えば、金属層に加えて、多層コーティングは、少なくとも1つのさらなる特性をそれに与えるために、コーティングの2つの層間に、またはコーティングの表面の上に置かれた1以上のさらなる層を含むことができる。
【0053】
1つの金属層の厚さ、これらの金属層の数および累積厚さは、相互依存的なパラメータであるので、3番目を決定するためにはこれらのパラメータの2つが定義されればよい。従って、例えば、各々3nmの金属層の累積厚さが10μmである場合、これは層の数が3334であることを意味する。
【0054】
好ましくは、事故状態での耐酸化性をさらに改善するために、多層コーティングは、その各々が少なくとも100nmの厚さを有する少なくとも10の金属層を含み、その金属層の累積厚さは1μm〜6μmである。
【0055】
その組成に関して、本発明の多層材料は、多層コーティングの全部または一部を構成する金属層が、クロム、クロム合金またはNb−Cr−Ti系の三元合金から選択される同一または異なる物質で構成されるような材料である。多層コーティングは、同一または異なる組成をもつ層で構成されることができるので、いくつかの実施形態が可能である。
【0056】
本発明の多層材料の第1の実施形態によれば、多層コーティングは複合材料である。つまり、金属層は様々な組成からなる。それは例えば「Cr/Nb−Cr−Ti」と命名される多層コーティングであり、その金属層は、クロム系の物質(クロムおよび/またはクロム合金)と、Nb−Cr−Ti系の三元合金で構成されている。従って、金属層は、i)クロムおよび/またはクロム合金で構成される1以上の層およびii)Nb−Cr−Ti系の三元合金で構成される1以上の層である。
【0057】
様々な組成をもつ層は、複合材料多層コーティング中に変動する割合で存在し、それらが互い違いになるかまたは無作為の順序になるように配置されてよい。しかし、クロムまたはクロム合金で構成される、中間結合層と呼ばれる金属層は、通常、ジルコニウム系基板と接触している金属層であり、それは基板と良好な付着および適合性を示す。
【0058】
第2の実施形態によれば、多層コーティングは過半数のクロム含有量を有する。つまり、金属層は、全てクロムおよび/またはクロム合金で構成され、「Cr/Cr」と命名される多層コーティングを形成する。そのようなコーティングを備えた多層材料は、事故状態での酸化に対して特に耐性であることが証明された。
【0059】
第3の実施形態によれば、多層コーティングは過半数に達しないクロム含有量を有する。つまり、金属層は、全てNb−Cr−Ti系の三元合金で構成され、「Nb−Cr−Ti/Nb−Cr−Ti」と命名される多層コーティングを形成する。
【0060】
好ましくは、これらの実施形態に関して:
−クロム合金は、80〜99at%のクロムで構成され、および/または;
−クロムまたはクロム合金で構成される金属層は、ケイ素またはイットリウムから選択される少なくとも1つの化学元素を含有し、例えば0.1〜20at%の含有量で存在するそのような元素は、耐蝕性のさらなる改善を与えることができ、かつ/または;
−Nb−Cr−Ti系の三元合金で構成される1または複数の金属層は、さらなる延性を与える。その時、中性子捕獲または流動下の活性化の問題を制限するために、それらは通常、厚さが薄い(好ましくは5nm〜500nmである)。
【0061】
Nb−Cr−Ti系の三元合金は、この種類の合金を表示するために当業者によって使用される名称であるが、これは確定した命名法または化学量論に一致しない。このNb−Cr−Ti系の三元合金は、例えば出版物「D.L.DAVIDSON,K.S.CHAN,and D.L.ANTON,The Effects on Fracture Toughness of Ductile−Phase Composition and Morphology in Nb−Cr−Ti and Nb−Si In Situ Composites,METALLURGICAL AND MATEERIALS TRANSACTIONS A,27A(1996)3007−3018」に記載されている。それは、例えば、原子百分率で50%〜75%のニオブ、5%〜15%のクロムおよび20%〜35%のチタンを含むことができる。これは重量で65%〜85%のニオブ、3%〜11%のクロムおよび12%〜24%のチタンを含む三元合金に等しい。
【0062】
基板の組成に関して、それはジルコニウム系である、すなわち、それは50〜100at%の間のジルコニウムを含有する。そのため、基板は、ジルコニウムまたはジルコニウム合金の基板である。ジルコニウム合金は、ジルカロイ−2、ジルカロイ−4、ジルロ(Zirlo)(商標)またはM5(商標)から選択されてよい。これらのジルコニウム合金は、原子力分野の当業者に周知である。これらの合金の組成は、それらが例えば、重量で:
−ジルカロイ−2合金:1.20%〜1.70%のSn;0.07%〜0.20%のFe;0.05%〜1.15%のCr;0.03%〜0.08%のNi;900ppm〜1500ppmのO;残りはジルコニウム
−ジルカロイ−4合金:1.20%〜1.70%のSn;0.18%〜0.24%のFe;0.07%〜1.13%のCr;900ppm〜1500ppmのO;0.007%未満のNi;残りはジルコニウム
−ジルロ(Zirlo)合金:0.5%〜2.0%のNb;0.7%〜1.5%のSn;0.07%〜0.28%の、Fe、Ni、Crから選択される少なくとも1つの元素;200ppmまでのC;残りはジルコニウム
−M5合金:0.8%〜1.2%のニオブ;0.090%〜0.149%の酸素;残りはジルコニウム
を含むような組成である。
【0063】
基板は、通常、大きな塊状の要素を構成する。この大きな塊状の要素は、コーティングが全くない場合があり、例えば原子炉の構成部品、例えば核燃料被覆管、案内管、スペーサーグリッドまたは板状燃料などを構成する。
【0064】
本発明はまた、Nb−Cr−Ti系の三元合金で完全にまたは部分的に構成される金属層を含むような多層コーティングに関する。
【0065】
全ての金属層が、Nb−Cr−Ti系の三元合金で構成される場合、それは「Nb−Cr−Ti/Nb−Cr−Ti」と命名される、過半数に達しないクロム含有量の多層コーティングである。
【0066】
金属層の一部がNb−Cr−Ti系の三元合金で構成される場合、複合多層コーティングは、例えば、金属層が、i)クロムおよび/またはクロム合金で構成される1以上の層およびii)Nb−Cr−Ti系の三元合金で構成される1以上の層(「Cr/Nb−Cr−Ti」と命名される多層コーティング)であるようなコーティングである。
【0067】
本発明の多層コーティングは少なくとも2つの層を含み、必要であればその上に外側の結合層を含む。この結合層は、多層コーティングの一面に配置されて、その後の基板との結合を促進する。それは、好ましくは、クロムまたはクロム合金で構成され、それには基板がジルコニウムまたはジルコニウム合金で構成される場合も含まれる。この外側の結合層は、基板が多層コーティングとともに提供される場合に、中間結合層を構成することになる。
【0068】
本発明の多層コーティングは、多層材料について上に記載される変形形態、その中でも、その構造および/またはその組成に関する変形形態の1以上に従うものであってよい。
【0069】
適用可能である場合、本発明の多層コーティングは、例えば多層コーティングを500℃〜600℃の温度に加熱することにより実行される、拡散による集合などのプロセスによって、基板の上に堆積させることができる。
【0070】
本発明はまた、上に定義されるような本発明の多層材料または多層コーティングで完全にまたは部分的に構成される部分にも関する。該部分は、原子炉、例えば加圧水型原子炉(「PWR」)、沸騰水型原子炉(「BWR」)または第四世代原子炉の構成部品である。
【0071】
前記部分は、例えば、核燃料被覆管または案内管などの管状部分、スペーサーグリッドまたは板状燃料(例えばFNR−G型の高速中性子炉向け)である。
【0072】
好ましくは、多層材料またはコーティングは、該部分の外面を覆う。
【0073】
本発明はまた、原子力環境における事故状態でのジルコニウム系基板の耐酸化性を改良するための、先行する請求項のいずれか一項に記載の多層材料、多層コーティングまたは部分のの使用にも関する。
【0074】
本発明はまた、ジルコニウム系基板を、クロム、クロム合金またはNb−Cr−Ti系の三元合金から選択される同一または異なる物質で構成される金属層を含む多層コーティングで覆う工程を含む、上に定義されるような多層材料を、特にこの材料の1以上の変形形態で、製造するための方法にも関する。
【0075】
好ましくは、前記基板は、金属層の順次蒸着、すなわち、金属層を次々と堆積させる堆積法を実施することによって多層コーティングで覆われる。このため、順次蒸着は、金属層の各々の堆積を分離し、その間は堆積が止む、少なくとも1つの休止時間を含む。
【0076】
多種多様な順次蒸着の技法を想定することができる。
【0077】
例えば、順次蒸着の技法は、生成される多層コーティングが、密封性に重要な欠陥なく、堆積法が実行される基板または下側の金属層を覆うために十分に濃く、下側の金属層の構造および通常の特性が特に影響を受けていないような方法で選択されてよい。この目的のため、物理的蒸着(PVD)、化学的蒸着(CVD)または電着(例えばパルス電解による)の実施を用いる順次蒸着を実行することによって、基板を覆うことができる。
【0078】
多層材料の製造の間、ジルコニウム系基板は、好ましくは、その製造中にそれが経験した最後の熱処理の温度よりも高い温度に付すべきではない。例えば、順次蒸着は、Zr−Nb合金の再結晶状態に推奨されるように、高くても580℃の温度で実行される。このことは、基板の特性、例えば機械的性質に悪影響を及ぼす可能性のある、Zr−β相への部分的変態などの冶金学的変更を回避することを可能にする。
【0079】
そのため、PVDによる堆積を使用することが通常好ましい。それは、PVDが多層コーティングを中温で、一般に50℃〜700℃で急速に生成することを可能にするためである。好ましくは、物理的蒸着は、200℃〜600℃、好ましくは200℃〜450℃の温度で実行される。
【0080】
好ましくは、物理的蒸着は、陰極スパッタリングである。
【0081】
陰極スパッタリングは、高電圧下で加速した希ガスイオンによる衝撃の間に、ターゲット材料から原子を放出することにより薄層を形成することからなる。放出された原子は、次に金属蒸気を形成し、それは基板の表面で濃縮してコーティングを形成する。
【0082】
陰極スパッタリングは、板状カソードおよび板状ターゲット、または円筒カソードおよび基板を含有する中空ターゲットを用いて実行することができる。
【0083】
好ましくは、陰極スパッタリングはマグネトロン型のものである。マグネトロンは、ターゲットの近傍のイオン密度を増加させるためにターゲットの下方に位置する一組の永久磁石である。マグネトロンの作用により、低い圧力で放電を維持することが可能になり、従って、スパッタリング品質が改善される。
【0084】
マグネトロン陰極スパッタリングは、現在、急速で再現性のある方法であり、濃いコーティングを生成することを可能にする。それは当業者に馴染みがあり、例えば、文献「Techniques de l’ingenieur, pulverisation cathodique magnetron」[Engineering techniques, magnetron cathodic sputtering],Reference M1654に記載されている。
【0085】
本発明はまた、本発明の製造方法により得られるかまたは得ることのできる多層材料にも関する。
【0086】
本発明のその他の目的、特徴および利点は、これから、添付される
図1〜22を参照して、限定されない例証として記載される、以下の本発明の方法の特定の実施形態の説明に明記される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【
図1】
図1は、Cr単層コーティングを施したジルカロイ−4の基板からなる材料の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【
図2】
図2は、Cr/Cr多層コーティングを施したジルカロイ−4の基板からなる材料の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【
図3】
図3は、Nb−Cr−Ti単層コーティングを施したジルカロイ−4の基板からなる材料の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【
図4】
図4は、Cr/Nb−Cr−Ti多層コーティングを施したジルカロイ−4の基板からなる材料の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【
図5】
図5は、単層もしくは多層コーティングを含むまたは含まないジルカロイ−4の基板からなる材料の、時間を関数とした、公称条件下での重量増加のグラフである。
【
図6】
図6は、単層もしくは多層コーティングを含むまたは含まないジルカロイ−4の基板からなる材料の850秒後の、事故状態での重量増加を示す図表である。
【
図7】
図7は、コーティングを含まないジルカロイ−4の基板からなる材料について、この重量増加を示す、研磨片の光学顕微鏡検査の顕微鏡写真を示す図である。
【
図8】
図8は、Nb−Cr−Ti単層コーティングを含むジルカロイ−4の基板からなる材料について、この重量増加を示す、研磨片の光学顕微鏡検査の顕微鏡写真を示す図である。
【
図9】
図9は、基準M600のCr/Nb−Cr−Ti多層コーティングを含むジルカロイ−4の基板からなる材料について、この重量増加を示す、研磨片の光学顕微鏡検査の顕微鏡写真を示す図である。
【
図10】
図10は、基準M1000のCr/Nb−Cr−Ti多層コーティングを含むジルカロイ−4の基板からなる材料について、この重量増加を示す、研磨片の光学顕微鏡検査の顕微鏡写真を示す図である。
【
図11】
図11は、Cr単層コーティングを含むジルカロイ−4の基板からなる材料について、この重量増加を示す、研磨片の光学顕微鏡検査の顕微鏡写真を示す図である。
【
図12】
図12は、Cr/Cr多層コーティングを含むジルカロイ−4の基板からなる材料について、この重量増加を示す、研磨片の光学顕微鏡検査の顕微鏡写真を示す図である。
【
図13】
図13は、公称条件下で酸化を受けた後の、コーティングを含まないジルカロイ−4の基板からなる材料の研磨片の光学顕微鏡検査により得られた顕微鏡写真を示す図である。
【
図14】
図14は、公称条件下の後に事故状態で酸化を受けた後の、コーティングを含まないジルカロイ−4の基板からなる材料の研磨片の光学顕微鏡検査により得られた顕微鏡写真を示す図である。
【
図15】
図15は、公称条件下の後に事故状態で酸化を受けた後の、Cr単層コーティングを含むジルカロイ−4の基板からなる材料の研磨片の光学顕微鏡検査により得られた顕微鏡写真を示す図である。
【
図16】
図16は、公称条件下で酸化を受けた後の、Cr/Cr多層コーティングを含むジルカロイ−4の基板からなる材料の研磨片の光学顕微鏡検査により得られた顕微鏡写真を示す図である。
【
図17】
図17は、公称条件下の後に事故状態で酸化を受けた後の、Cr/Cr多層コーティングを含むジルカロイ−4の基板からなる材料の研磨片の光学顕微鏡検査により得られた顕微鏡写真を示す図である。
【
図18】
図18は、
図17の中に示されていない、コーティングが亀裂を有する区域の
図17の材料の顕微鏡写真を示す図である。
【
図19】
図19は、コーティングを含まないジルカロイ−4、ならびにCr/Nb−Cr−Tiを含むジルカロイ−4およびCr/Cr多層コーティングを含むジルカロイ−4の試験片に加えた応力の関数としての、室温での曲げ歪を示す図である。
【
図20】
図20は、コーティングを含まないジルカロイ−4(
図20)の基板からなる材料について、1000℃の蒸気下15000秒後の酸化を示すSEM画像を示す図である。
【
図21】
図21は、Cr/Cr多層コーティングを施したジルカロイ−4(
図21)の基板からなる材料について、1000℃の蒸気下15000秒後の酸化を示すSEM画像を示す図である。
【
図22】
図22は、コーティングを含まないジルカロイ−4(直線1)およびCr/Cr多層コーティングを施したジルカロイ−4(直線2)の基板からなる材料について、経時的な重量増加の進展を示す、この酸化の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0088】
以下の実施例では、様々な材料をジルカロイ−4の基板への堆積によって製造する:
i)クロムまたはNb−Cr−Ti系の三元合金で構成される対照単層コーティング、および
ii)クロム(Cr/Cr)の層、またはクロムの層と、Nb−Cr−Ti系の三元合金(Cr/Nb−Cr−Ti)の層が交替になっている本発明による多層コーティング。
【0089】
全てのコーティングは同様の厚さを有する。
【0090】
選択されるNb−Cr−Ti系の三元合金は、合金Nb67%Cr10%Ti23%であり、その式は原子百分率で表される。
【0091】
材料の酸化および水素化に対する耐性、構造特性および機械的性質はPWR型の原子炉に関して遭遇する状態を代表する条件に従って、公称条件下での前酸化を伴ってまたは伴わずに、公称条件下(360℃、190barの水)および、LOCA型(1100℃、蒸気)の事故を代表する条件で試験される。
【0092】
構造分析は、特に、研磨片の光学顕微鏡分析によって実施される。この目的のため、分析される材料のプレートは、研磨のために樹脂に包埋する前に、白金コーティング(フラッシュ)および金コーティング(電解)でそれらを覆うことによって調製される。これらの白金および金の保護コーティングは、酸化によって脆弱になった単層もしくは多層PVDコーティングが、研磨中に剥離することを防ぐ。それらはまた、電子伝導によって顕微鏡の画質を改善することも可能にする。これらの保護コーティングは、それらが十分に明瞭に見える場合に顕微鏡写真に示される。
【0093】
1.本発明による多層材料、および比較のために生成した材料の製造
マグネトロン陰極スパッタリングの技法は、上述の材料を製造するために用いられる。
【0094】
45mm×14mm×1.2mmの寸法をもつジルカロイ−4のプレートを、強アルカリ溶液で脱脂し、水ですすぎ、アセトン浴中で超音波によって30分間洗浄し、次にエタノールですすぎ、焼付ける。
【0095】
次にそれらを陰極スパッタリング反応器に入れ、4Paのアルゴン分圧および600Vの分極電圧で動作させ、現場で洗浄する。
【0096】
ジルカロイ−4の各プレートの両面で、純粋なクロムの、またはNb67%Cr10%Ti23%の単層コーティング、ならびに対応する多層コーティング(Cr/CrまたはCr/Nb67%Cr10%Ti23%)を、クロムターゲットの、ならびに適した割合のニオブ、クロムおよびチタンの挿入物を有する複合ターゲットの陰極スパッタリングにより200℃で堆積させる。
【0097】
アルゴン分圧は0.5Paであり、それは通常、0.05Pa〜2Paの間である。
【0098】
分極電圧は−100Vである。それは一般に、−10V〜−400Vの間である。
【0099】
その付着を促進するため、Nb−Cr−Ti単層コーティングは、ジルカロイ−4を覆うクロムの500−nm結合層の上に作成される。特にコーティングが少ししか層を含まない場合に、コーティングの全体的な組成へのその影響を制限するために、結合層の厚さを減らすことができる。
【0100】
Cr/Cr多層コーティングは、堆積の間に数回マグネトロン放電を中断することによって作成され、各放電は休止時間によって区切られている。
【0101】
Cr/Nb−Cr−Ti多層コーティングは、サンプルをCrのそしてNb−Cr−Tiの各ターゲットの反対側に交互に通すことにより生成され、固定された各ターゲットに相対する放出時間を所望の周期「λ」の関数として固定した。容器(enclosure)中の金属前駆体の運動学は、多層コーティングを形成する各基本層の厚さの正確な制御を可能にする。この制御は、3nmの層厚さから出発することが可能である。
【0102】
マグネトロン陰極スパッタリングの運転条件および得られるコーティングの特徴を表1に示す。周期は、Cr/Cr多層コーティングに関して、クロムの層の作成に対応するか、または、Cr/Nb−Cr−Ti多層コーティングに関して、連続的に堆積させたCrの層およびNb−Cr−Tiの層の付加から得られるモチーフに対応する。
【0104】
コーティングの微細構造は、研磨片のSEMによって観察される。それは
図1〜4に表され、ジルカロイ−4の基板およびクロムの層およびNb−Cr−Tiの層を示す。
【0105】
Cr/Cr多層コーティングの14層間の界面は、
図4の画像では目に見えない。しかし、それらは透過型電子顕微鏡(TEM)などの高解像度技法を用いて可視化することができる。
【0106】
図4に示されるCr/Nb−Cr−Ti多層コーティングは、周期λ=2×300nm(表1中の基準M600)を有するコーティングであり、
図2は1つの同じ周期に2つの層が存在することを示す。淡灰色層および濃灰色層は、それぞれ、Nb−Cr−Ti合金の層およびクロムの層に相当する。
【0107】
これらの画像は、コーティングが稠密であり、均一な厚さをもち、界面にあまり欠陥がなく、ジルカロイ−4の基板に対して良好な付着を有することを明らかにする。
【0108】
2.公称条件(T=360℃)での腐食および微細構造の測定
それらの耐酸化性を評価するため、実施例1で作成したコーティングを施したジルコニウム系プレート(基準M1000のCr/Nb−Cr−Ti多層コーティングをもつプレートを除く)を、その環境がPWR型の原子炉の公称動作での状態を代表するオートクレーブの中に60日間残す。
【0109】
比較目的のため、コーティングを含むプレートと厚さが同様の、コーティングを含まないジルカロイ−4の対照プレートを加える。
【0110】
オートクレーブ中の環境は、650ppmのホウ素および10ppmのリチウムを含有し、360℃に加熱し、190barに加圧した水である。
【0111】
10日および30日の中間停止により、様々なプレートの酸素取込みを反映する、重量増加を測定することが可能となる。
【0112】
図5に示される60日までの重量増加の結果は、クロムを含有する単層および多層コーティングが全て、コーティングを含まないジルカロイ−4の対照プレートと比較して、公称条件下で耐酸化性の著しい改善を導くことを示す。
【0113】
Cr単層コーティングと比較して、酸化に対する露出が60日未満である場合、公称条件下での耐酸化性は、Cr/Cr多層コーティングに関しては類似しているか、または2つのCr/Nb−Cr−Ti多層コーティング(基準N10−200℃およびN100−200℃)に関しては高くさえある。
【0114】
これらの結果は、ジルカロイ−4プレートの上の酸化物の層の厚さを測定することにより確認され、それはコーティングを含まないジルコニア(ZrO2)の1.8μmから、下にある基板の酸化ジルコニウム形成を妨げる多層コーティングを含む酸化クロム(Cr
2O
3)の0.4μm未満までであり、コーティングに存在する亀裂の反対側の酸化の可能性は除く。
【0115】
さらに、研磨片(ここでは再現されていない)の光学顕微鏡検査における顕微鏡写真を、Cr/Nb−Cr−Ti多層コーティングを含むジルカロイ−4のプレート(表1中の基準M600)の部分で撮る。それらにより、コーティングを含まない対照プレートに見出されたZrO
2の形成をこのコーティングが妨げることが確認される。この特性は、酸素に対する拡散障壁を構成し、多層コーティングの下でZrO
2の形成を制限するかまたは妨げさえする、コーティングの表面に厚さ100nmの酸化クロム(Cr
2O
3)の保護層を形成することで得られる。
【0116】
そのため、Crコーティングを含む単層材料と比較して、Cr/CrまたはCr/Nb−Cr−Tiコーティングを含む多層材料は、公称条件下で良好な耐酸化性を保つか、またはCr/Nb−Cr−Tiコーティングについてそれを改善しさえすると思われる。
【0117】
3.蒸気下の事故状態(T=1100℃)での850秒後の腐食および微細構造の測定
実施例1で作成したジルコニウム系プレートの事故状態での耐酸化性を評価するために試験を実施する。
【0118】
状態は、事故の間に核燃料被覆管の温度が急速に上昇して800℃を上回る、または1050℃さえも上回り、1200℃に達しさえもする可能性があり、その後炉心を再び冠水させる目的で保安用スプリンクラーからの水によるクエンチングの後に急激に低下するLOCA型の事故の状態である。この試験の状態は、安全性の算定において考慮されるLOCA事故のエンベロープの状態に相当する。
【0119】
プレートは、アルミナ棒の端部で保持された後、蒸気中での酸化を可能にする炉によって1100℃まで加熱された蒸気の循環のある容器の中に850秒間入れられる。
【0120】
次に、プレートは、室温の水を満たしたクエンチング浴の中に落とされる。浴の底部には、プレートの落下を弱めるクッションおよびクエンチングの熱衝撃に続く脆化を受けた相の剥脱の場合にプレートから離れるようになる粒子を回収するための白布が備えられている。
【0121】
3.1.重量増加の測定
酸化したプレートおよび剥脱した断片を秤量して、プレートの中に拡散した酸素の量に起因する重量増加を求める。
【0122】
測定は、コーティングを含まないジルカロイ−4プレートについて1回反復し、Cr/Nb−Cr−Ti多層コーティング(基準M600)およびCr/Cr多層コーティングを含むプレートについて2回反復する。1つの同じプレートの値の得られる差は実験による散乱に起因する。
【0123】
測定した重量増加は、表2に提示され、
図6の図表に示される。
【0125】
これらのデータは、Cr/Nb−Cr−TiおよびCr/Cr多層コーティングが、コーティングのないものと比較してだけでなく、対応するCrまたはNb−Cr−Ti単層コーティングと比較しても著しく、事故状態での耐酸化性を改善することを示唆する。
【0126】
この耐性は、少なくとも10の層を含有する(そしてそのため、最小層厚が100nm、好ましくは100nm〜500nmである)多層コーティングに、より特に、基準M600(10周期)のCr/Nb−Cr−Ti多層コーティングおよびCr/Cr多層コーティングについて、特に改善される。
【0127】
それにもかかわらず注意されるべきことは、ジルカロイ−4の酸化のレベルを評価するために、重量増加は、コーティングを含まないジルカロイ−4の場合に酸素取込みと直接相互に関係づけることができるが(既知割合のZrO2およびZr−α(O)の形成)、コーティングの酸化もこの重量増加に著しく貢献するので、コーティングされた試験片の事故状態ではこれは経験的に可能でないという点である。
【0128】
しかし、そのような相関関係は、コーティングの非常に制限された酸化を考えると公称条件では可能である。
【0129】
3.2.酸化した層の構造および厚さの測定
その上、コーティングを含むプレートにおけるZrO
2およびZr−α(O)相の厚さは、研磨片の光学顕微鏡検査によるミクロ構造試験を用いることにより評価される。
【0130】
得られる顕微鏡写真は、コーティングを含まないプレート(
図7)、およびNb−Cr−Ti単層コーティングを含むプレート(
図8)、Cr/Nb−Cr−Ti多層コーティングを含むプレート(基準M600:
図9;基準M1000:
図10)、Cr単層コーティングを含むプレート(
図11)および1100℃で最も小さい重量増加を導いたCr/Cr多層コーティングを含むプレート(
図12)の事故状態での酸化の後の微細構造を示す。
【0131】
各々の図は、以下の連続する層を有する微細構造を明らかにする:
−
図7:ZrO
2の外層、Zr−α(O)の層、ジルカロイ−4の基板;
−
図8:白金および金の外層、部分的に酸化したCr/Nb−Cr−Ti多層コーティング、脆弱な相の存在に起因する研磨中の剥離に相当する暗色帯、Zr−α(O)の層、ジルカロイ−4の基板;
−
図9および10:部分的に酸化したCr/Nb−Cr−Ti多層コーティング(
図10では金からなる明瞭な外層を含む)、ジルカロイ−4の基板の所々で針の形態のZr−α(O)が100μm未満の突出長さで伸びているZr−α(O)の層(その存在は一例として
図9に範囲が定められている)、ジルカロイ−4の基板;
−
図11:部分的に酸化したクロムのコーティング、ジルカロイ−4の基板の所々で針の形態のZr−α(O)が100μm未満の突出長さで伸びているZr−α(O)の層、ジルカロイ−4の基板;
−
図12:Cr/Cr多層コーティングの酸化から生じるCr
2O
3の外層、しっかりしたCr/Cr多層コーティング、ジルカロイ−4の基板。
【0132】
そのため、Cr/Nb−Cr−TiおよびCr/Cr多層コーティング(
図9、10および12)は、脆弱な酸化物ZrO
2の形成を妨げるが、この酸化物はコーティングされていないプレートを60μmの厚さまで覆う(
図7)。
【0133】
Cr/CrまたはCr/Nb−Cr−Ti多層コーティングを使用することによる、事故状態でのジルカロイ−4の耐酸化性の改善も、ZrO
2の層の厚さおよびZr−α(O)の層の等価厚さを測定することにより、および6つのプレートで測定された酸化したジルカロイ−4の等価厚さを求めることにより、確認される。これらの測定値を表3に提示する。それらは、酸化したプレートの部分の濃度プロフィールのCastaingマイクロプローブ(WDSアッセイ)による補完的分析によって確証される。
【0134】
この表中で、Zr−α(O)の等価厚さは、Zr−α(O)の層の厚さに、Zr−α(O)針の面積に等しい面積の層の厚さを加えたものと一致する。
【0135】
酸化したジルカロイ−4(すなわち、酸素の浸透によって脆弱になったジルカロイ−4)の等価厚さは、次式から計算される:
酸化したジルカロイ−4の等価厚さ=Zr−α(O)の等価厚さ+ZrO2の厚さ/1.56
【0136】
1.56の値を有するこのピリング・ベッドワース係数は、ジルコニウムのZrO2への酸化の密度変化を反映する。
【0137】
表3から、Cr/Cr多層コーティングが良好な密封性を示すことが分かる。酸素がジルカロイ−4へいくらか浸透しているとはいえ、この浸透はZr−α(O)が現れるには不十分であるためである。
【0139】
たとえ微細構造のより細かい観察によって、Cr/Nb−Cr−Ti(M600)およびCr/Crコーティングがそれぞれ約2μmの部分的に酸化した層(それぞれ、クロムとニオブの混合酸化物の層、および酸化クロムの層)を有することが示されるとしても、これらの酸化した層は下にあるジルカロイ−4の酸化に関して保護的かつ犠牲的役割を有する。
【0140】
3.3.酸素含有量の測定
研磨片のWDSアッセイを用いて、クエンチングの後に得られるZr−ex−β層中の酸素の重量による含有量も、プレートの中心で400μmの距離にわたって測定する。
【0141】
表4に表される測定値は、ジルコニウム合金の酸素含有量が多層コーティング存在のために著しく低下していることを示す。
【0143】
この酸素含有量が0.4重量%を上回る場合、ex−β相は20℃で脆弱な挙動をとるという欠点を有するので、これは特に有利である。
【0144】
ZrO
2およびZr−α(O)層の厚さの劇的な低下と組み合わせると、Cr/Nb−Cr−Tiおよび特にCr/Cr多層コーティングを含む材料は、そのため、ジルコニウム系核燃料被覆管の中心での延性を確保することができる。そのような特性は、LOCAに関係する安全性判定基準を満たすために、被覆管のクエンチング中およびクエンチング後の挙動に関して明白である。
【0145】
3.4.多層特徴の影響
表2、3および4中のデータは、同等組成の単層コーティングの代わりに多層コーティングを使用することによる、事故状態での酸化に対するジルカロイ−4の基板の耐性の非常に著しい改善を明らかに示す。
【0146】
この改善は、
−Nb−Cr−Ti単層コーティング(
図8)またはCr/Nb−Cr−Ti多層コーティング(基準M600:
図9と、程度は少ないが基準M1000:
図10)を含むジルカロイ−4の基板、
−Cr単層コーティング(
図11)または、基板の耐酸化性が合計と思われるCr/Cr多層コーティング(
図12)を含むジルカロイ−4の基板:
の微細構造を比較することによっても説明される。
【0147】
4.公称条件下および事故状態での組成の影響
本発明の多層コーティングの組成の影響を判断するため、窒化チタンおよびアルミニウムとチタンの混合窒化物に基づくTiN/AlTiN多層コーティングを施したジルカロイ−4の基板からなるプレートを調製する。3.4μmの総厚をもつTiN/AlTiN多層コーティングは、200nmの厚さをもつTiNの下層で構成され、この下層には、3μmの累積厚さを有する、約7nmの厚さをもつAlTiNまたはTiNの400を超える交互の層、次に200nmの厚さをもつAlTiNの最終層が重ねられている。
【0148】
この多層コーティングを、公称条件下および事故状態で、実施例2および3のプロトコールに従って試験する。ジルコニウム合金の基板の耐酸化性は、公称条件下でのTiN/AlTiNコーティングによって改善されるが、事故状態では改善は見出されない。
【0149】
800秒後の約10mg/cm
2の重量増加および3000秒後の18mg/cm
2の重量増加、ならびに形成された酸化物の厚さは、コーティングを含まないジルカロイ−4のプレートに実際に匹敵する。
【0150】
実施例3の様々な測定値は、事故状態での耐酸化性を改善することを可能にするのは、本発明の多層材料の構造および組成の組合せであることを示す。
【0151】
5.公称条件下(T=360℃)での前酸化の後の蒸気下の事故状態(T=1100℃)での腐食および微細構造の測定
LOCA型の仮定上の事故シナリオは、運転中の核燃料被覆管の寿命のどんな段階でも、そのため、いくらかの低温酸化の後に、起こる可能性がある.
【0152】
以下の測定値は、事故状態での酸化に対する保護に関して、Cr/Nb−Cr−Ti多層コーティング、Cr単層コーティングおよびCr/Cr多層コーティングの効力への公称条件下での前酸化の効果を評価することを目的とする。
【0153】
この目的のため、以下のプレートを、実施例2(公称条件)に従って、次に実施例3(事故状態)に従って連続的に酸化および測定のプロトコールに付す:
−コーティングを含まないジルカロイ−4のプレート;
−Cr単層コーティングを含むジルカロイ−4のプレート;
−Cr/Cr多層コーティングを含むジルカロイ−4のプレート;
−Cr/Nb−Cr−Ti多層コーティング(基準M600)を含むジルカロイ−4のプレート。
【0154】
5.1.酸化した層の構造および厚さの測定
研磨片の光学顕微鏡検査によって得た顕微鏡写真を
図13〜18に再現する。それらは、プレートの表面で公称条件下で形成される前酸化物(pre−oxide)(ZrO
2またはCr
2O
3)の層の存在が、事故状態でのその後の酸化に僅かな影響しか及ぼさないことを示す。
【0155】
これまでのように、ZrO
2の層は、公称条件下でコーティングを含まないジルカロイ−4のプレートの表面に生じる(
図13)。次に、この酸化物の層は事故状態で顕著に濃くなり、62μmの厚さをもつZr−α(O)の下にある層の形成を伴う(
図14)。この挙動は、事故状態のみの酸化の挙動に類似する。
【0156】
Cr単層コーティングを含むジルカロイ−4のプレートに関して、Cr
2O
3の層は、公称条件下で表面に生じる(図示せず)。事故状態では(
図15)、Cr
2O
3の層は濃くなり(1.5μmの濃灰色層)、Crの未酸化層はなお存在するが(2μmの白層)、もはや保護的ではなく、約20μmのZrO
2の層の形態で基板および約60μmのZr−α(O)の下にある層の酸化を導く。
【0157】
Cr/Cr多層コーティングを含むジルカロイ−4のプレートに関して、Cr
2O
3の層は、公称条件下で表面に生じる(
図16)。コーティングの亀裂(稀な欠陥)の反対側に、ZrO
2の島が生じる可能性があり、厚さはコーティングを含まない材料に匹敵する。事故状態では、下にあるCr/Cr多層コーティングがまだかなりの厚さを保持し(
図17)、ジルカロイ−4の内層の酸化を妨げるので、Cr
2O
3の層はその後、有利に犠牲的な保護的役割を果たし続けている間に濃くなる。注目すべきは、Cr/Nb−Cr−Ti多層コーティング(顕微鏡写真は再現していない)の挙動がCr/Cr多層コーティングの挙動に類似していることである。
【0158】
酸化の唯一の徴候は、最初のCr/Cr多層コーティングに存在する少数の稀な亀裂の反対側に位置するものである:公称条件下で生じて
図16中に示されるZrO
2の小さい島は、事故状態でZrO
2およびZr−α(O)の島(
図18中で破線で区切られている)を生じる。これは、ジルカロイ−4の耐酸化性において多層コーティングによって果たされる主要な役割を示す。
【0159】
表5は、様々なプレートについて、公称条件下での前酸化のない(実施例3)または前酸化のある(実施例4)、事故状態で酸化したジルカロイ−4の等価厚さを示す。
【0160】
微細構造の所見および表5により、公称条件下での前酸化が、事故状態でのジルカロイ−4の基板の酸化に対する保護に関して、Cr/Nb−Cr−TiおよびCr/Cr多層コーティングのその後の効力に影響を及ぼさないことが確認される。
【0162】
Cr/Crコーティングを含む多層材料に見出される酸化は、特に、コーティングに亀裂が存在することに起因し、この亀裂は、
図16および18に説明されるように、この亀裂の反対側に酸素の拡散およびジルカロイ−4の酸化を許容する。
【0163】
5.2.多層の特徴の影響
表5中のデータ、ならびにCr単層コーティングを含むジルカロイ−4(
図15)またはCr/Cr多層コーティングを含むジルカロイ−4(
図17)の基板の微細構造の比較により、同等の組成の単層コーティングと比較して、多層コーティングが公称条件下およびその後の事故状態での酸化に対する基板の耐性を改善することを可能にすることが確認される。
【0164】
6.1100℃での酸化の後の機械的性質
事故状態に付された、または事故の後のクエンチング中またはクエンチング後の核燃料被覆管の残留延性は、この層の酸素含有量が20℃で0.4重量%の最大含有量よりも低いままである条件で、Zr−ex−βの残留層の厚さによって本質的に与えられる。
【0165】
それらの残留延性を評価するために、コーティングを含まないジルカロイ−4およびCr/Nb−Cr−Ti多層コーティングを含むジルカロイ−4(基準M600)およびCr/Cr多層コーティングを含むジルカロイ−4の、25mm〜45mm×3mm×1mmの寸法の試験片を、実施例3に従う事故状態の酸化を受けたプレートから得る。次に、それらの機械的強度を室温で三点曲げ試験で試験する。
【0166】
得られる応力/歪曲線を
図19に再現する。
【0167】
それらは、弾性領域を越えて、コーティングを含まないジルカロイ−4の試験片がいくらかの歪を示すことを示す。ZrO
2およびZr−α(O)の連続する亀裂によって引き起こされる不安定性は、材料の破壊を徐々に導くが、下にある残留延性ジルカロイ−4の変形を受け入れ、試験片の完全な破損を回避することを可能にする。
【0168】
多層コーティングを含むジルカロイ−4の試験片に関して、それらは少なくとも同程度の大きさの破損のない変形を示し、その一方で、脆弱な相の表面剥がれの現象を回避する。Cr/Cr多層コーティングを含むジルカロイ−4の試験片は特に、42MPa〜47MPaに達しうる応力に対して5〜6mmの撓みを有するので、顕著に改善された機械的強度を有する。
【0169】
この機械的強度の改善は、クエンチングの前後の核燃料被覆管の良好な機械的挙動に決定的に重要であると証明されうる。
【0170】
7.蒸気下15000秒後の事故状態(T=1000℃)での腐食および水素取込みの測定
7.1.腐食の測定
コーティングを含まないおよびCr/Cr多層コーティングを含むジルカロイ−4の基板を含むプレートを、1000℃で15000秒間酸化する。
【0171】
1000℃の温度は、表面に形成されうるZrO
2の層の不安定性を引き起こす範囲内である。
【0172】
プレートの重量増加の経時的変化を、
図20および21、ならびに、
図22中のグラフと一致する表6に示す。
【0174】
各々の図は、以下の連続する層を有する微細構造を明らかにする:
−
図20:ZrO
2の外層、Zr−α(O)の層、ジルカロイ−4の基板;
−
図21:金の外層、Cr
2O
3の層、Cr/Cr多層コーティング、Zr−α(O)の層、ジルカロイ−4の基板。
【0175】
これらのデータは、事故状態での15000秒の酸化の後でさえ、酸化物の形成から生じる重量増加が、なおCr/Cr多層コーティングによって非常に制限されていることを明らかにする。
【0176】
この挙動は、微細構造の観察により確認される。微細構造の観察により、Cr/Cr多層コーティングを含むジルカロイ−4の基板のZr−α(O)層の厚さが(
図21)、コーティングを含まないもの(
図20)と比較して薄いことが示され、コーティングを含まないものは、脆弱な相の存在およびZrO
2層の形成に起因する研磨中のZr−α(O)層の部分的剥離をさらにに示す。
【0177】
さらに、15000秒の酸化の後に、プレートの表面の画像(ここでは再現されていない)は、コーティングを含まないプレートの表面だけが、ZrO
2の低い機械的強度に関係する顕著な剥脱を提示することを示す。Cr/Cr多層コーティングを含むプレートは、その部分について、いかなるスポーリングも示さない。
【0178】
7.2.水素取込みの測定
溶解した水素の含有量を求めるため、プレートを600℃に加熱して、生じた全ての水素化物を溶解させる。
【0179】
熱量測定を用いて、水素含有量を次に冷却後の水素化物の沈澱の発熱ピークの積分により測定する。
【0181】
測定した水素含有量は、事故状態での酸化の間の水素化に対する耐性の、Cr/Cr多層コーティングを含む材料によって供給される増加を示す。
【0182】
8.結論
前述の実施例は、ジルコニウム系基板を、クロム、クロム合金またはNb−Cr−Ti系の三元合金から選択される同一または異なる物質で構成される金属層を含む、本発明による多層コーティングでコーティングすることが、次の利点を提供することを実証する:
−公称条件下:特に多層コーティング層の一部または全部がニオブ合金で構成される場合の、ジルコニウム系基板の酸化および/または水素化(その中でも、脆化を引き起こすZrO
2相の形成)の制限またはさらには防止;
−事故状態下(公称条件下での前酸化を含むまたは含まない):Zr−α(O)の形成の制限または防止、あるいはZrO
2の形成の完全な防止(これらの酸化物は両方ともジルコニウム系基板の脆化を引き起こす可能性があるため);酸化後のジルコニウム系基板の残留延性および機械的強度を改善するための、Zr−ex−β層中の酸素の濃度の低下;ならびに、これも被覆管の脆化を導く可能性のある、水素取込みの低減。特に、同一または同様の組成の単層コーティングの代わりに多層コーティングを使用することが、ジルコニウム系基板の耐酸化性を改善することに注意するべきである。
【0183】
上述の利点から、ジルコニウム系核燃料被覆管を製造するための本発明による多層材料の使用には、事故、例えばLOCA型の事故の間および事故後にこの被覆管の挙動について重要な実質的結果があるということになる:
−水素の取込みまたはかなりの生成に関連する被覆管の急速な分解を導く酸化の起こり得る暴走を妨げるかまたは少なくとも遅延させるための、高温酸化の緩徐化;
−被覆管の機械的性質の重要な利益、その中でもクエンチング中およびクエンチング後のより良好な挙動による被覆管の残留延性の増加をもたらす、高温酸化に対する耐性の改善。現在、世界中の原子力安全性に係る当局の大部分は、LOCA型の事故の後の原子炉心の多少の長期の冷却を保証するための限度を満たすために超えてはならない重大な酸化の程度を規定している。本発明の多層材料の使用は、観察される猶予期間および重大な酸化温度のレベルで限度を得ることを可能にする。このことは、緊急冷却のための安全系の単純化の可能性および/または原子炉の管理におけるより大きい柔軟性を予見することを可能にする;
−バルーニングの間にその構造を保存し、ロッド間経路の目詰まりの程度の問題について安全限界を得るための、核燃料被覆管の機械的強度の増加。
【0184】
さらに、事故状態のほかに、本発明の多層材料は、
−使用状態の被覆管の一般的機械的性質;
−燃料棒の重量;
−ほとんど捕獲されずに所望によりコーティングを使用することを可能にする中性子挙動;
−産業上の利用への移動を容易にする証明された堆積法の使用;
−核燃料被覆管の、およびそのために原子炉心の現在および/または将来の幾何学的形状
にあまり影響を及ぼさないという利点も有する。このことは、本発明の多層材料が、コンパクトであるかどうかにかかわらず、耐酸化性の向上を必要とする、原子力推進のための、より一般には、原子炉心または原子力蒸気発生器のための、様々な種類の原子炉(PWR、BWR、FNR、など)の炉心での使用に考慮されることを可能にする。
【国際調査報告】