(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-526435(P2015-526435A)
(43)【公表日】2015年9月10日
(54)【発明の名称】抗体成分と血液脳関門を通過するポリペプチドと細胞毒とを含むコンジュゲート
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20150814BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20150814BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20150814BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20150814BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20150814BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20150814BHJP
A61K 47/48 20060101ALI20150814BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20150814BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20150814BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20150814BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20150814BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20150814BHJP
A61K 31/407 20060101ALI20150814BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20150814BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20150814BHJP
【FI】
C07K19/00ZNA
C07K7/06
C07K7/08
C07K16/28
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61K45/00
A61K47/48
A61K31/337
A61K31/4745
A61K31/704
A61K37/02
A61K31/519
A61K31/407
A61P35/00
A61K31/513
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2015-526846(P2015-526846)
(86)(22)【出願日】2013年8月14日
(85)【翻訳文提出日】2015年3月20日
(86)【国際出願番号】CA2013050625
(87)【国際公開番号】WO2014026286
(87)【国際公開日】20140220
(31)【優先権主張番号】61/682,991
(32)【優先日】2012年8月14日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/865,071
(32)【優先日】2013年8月12日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】514137791
【氏名又は名称】アンジオケム インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100169579
【弁理士】
【氏名又は名称】村林 望
(72)【発明者】
【氏名】カステーニュ,ジャン−ポール
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ガオチアン
(72)【発明者】
【氏名】シュ,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】デミュール,ミシェル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076BB13
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF02
4C084AA17
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4C086AA01
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4C086BC42
4C086CB03
4C086CB05
4C086CB09
4C086EA10
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045BA10
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA40
4H045BA51
4H045DA56
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、抗体-ポリペプチド-細胞毒コンジュゲート並びに該コンジュゲートを作製、包装及び使用する方法に関する。ポリペプチドは、クニッツ型プロテアーゼ阻害物質又は血液脳関門を横切る及び/若しくはCNSの外側の癌細胞の中へのコンジュゲートの輸送を容易にするその誘導体であり得、抗体成分は、CNS内又は末梢腫瘍中の標的と選択的に結合して、細胞傷害性薬剤を標的(例えば、腫瘍又は癌細胞)に向ける。コンジュゲートは、抗体成分とポリペプチドとの間にリンカーを含むこと、ポリペプチド及びそれとコンジュゲートする細胞傷害性薬剤の数、コンジュゲート内の実体が互いに結合する位置、及びコンジュゲートのより大きい構成によりさらに定義できる。改変ポリペプチド(例えば、抗体成分ではなく細胞傷害性薬剤とコンジュゲートしたポリペプチド)、医薬組成物、キット(例えば、改変ポリペプチドとまだコンジュゲートしていない抗体とを含む)、並びにコンジュゲートを作製及び使用する方法も本発明の特徴である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体成分と、ポリペプチドと、細胞傷害性薬剤とを含むタンパク質コンジュゲートであって、該ポリペプチドが、アミノ酸配列Lys-Arg-Asn-Asn-Phe-Lys(配列番号123)又はその生物活性類似体を含む、前記タンパク質コンジュゲート。
【請求項2】
抗体成分とポリペプチドとの間及び/又はポリペプチドと細胞傷害性薬剤との間にリンカーをさらに含む、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項3】
リンカーが、ホモ官能性リンカー又はヘテロ官能性リンカーである、請求項2に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
ホモ官能性リンカーが、1級アミン、チオール基、ヒドロキシル基又は炭水化物と反応するそれぞれ2、3又は4つの反応性基を含むホモ2官能性、ホモ3官能性又はホモ4官能性リンカーであり、ヘテロ官能性リンカーが、1級アミン、チオール基、ヒドロキシル基又は炭水化物と反応する少なくとも1つの反応性基を含むヘテロ2官能性、ヘテロ3官能性又はヘテロ4官能性リンカーである、請求項3に記載のタンパク質コンジュゲート。
【請求項5】
リンカーが、1級アミンと反応できる基及びチオール基と反応できる基を含むヘテロ2官能性、ヘテロ3官能性又はヘテロ4官能性リンカーである、請求項4に記載のタンパク質コンジュゲート。
【請求項6】
リンカーが、モノフルオロシクロオクチン(MFCO)、ビシクロ[6.1.0]ノニン(BCN)、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)、N-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート(SATA)、N-スクシンイミジル-S-アセチルチオプロピオネート(SATP)又はN-ヒドロキシ-スクシンイミド(NHS)である、請求項2に記載のタンパク質コンジュゲート。
【請求項7】
ポリペプチドが、アミノ酸配列Thr1-Phe2-Phe3-Tyr4-Gly5-Gly6-Cys7-Arg8-Gly9-Lys10-Arg11-Asn12-Asn13-Phe14-Lys15-Thr16-Glu17-Glu18-Tyr19(配列番号67)若しくはその類似体又はThr1-Phe2-Phe3-Tyr4-Gly5-Gly6-Ser7-Arg8-Gly9-Lys10-Arg11-Asn12-Asn13-Phe14-Lys15-Thr16-Glu17-Glu18-Tyr19(配列番号97)若しくはその類似体を含む、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項8】
Cys7、Lys10及びLys15を含む少なくとも13アミノ酸残基が不変異である配列番号67の類似体、又はSer7、Lys10及びLys15を含む少なくとも13アミノ酸残基が不変異である配列番号97の類似体を含む、請求項7に記載のコンジュゲート。
【請求項9】
配列番号67の類似体又は配列番号97の類似体において、Asn12がGlnで置換され、Asn13がGlnで置換され、及び/又はPhe14がTyr若しくはTrpで置換されている、請求項8に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
類似体が、配列Phe3-Tyr4-Gly5-Gly6-Cys7/Ser7-Arg8-Gly9-Lys10-Arg11-Asn12-Asn13-Phe14-Lys15-Thr16-Glu17-Glu18-Tyr19-Cys(配列番号118)、Gly5-Gly6-Ser7-Arg8-Gly9-Lys10-Arg11-Asn12-Asn13-Phe14-Lys15-Thr16-Glu17-Glu18-Tyr19-Cys(配列番号119)、Ser7-Arg8-Gly9-Lys10-Arg11-Asn12-Asn13-Phe14-Lys15-Thr16-Glu17-Glu18-Tyr19-Cys(配列番号120)、Gly9-Lys10-Arg11-Asn12-Asn13-Phe14-Lys15-Thr16-Glu17-Glu18-Tyr19-Cys(配列番号121)、又はLys10-Arg11-Asn12-Asn13-Phe14-Lys15-Tyr19-Cys(配列番号122)を含む、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
ポリペプチドが、少なくとも1つのD型のアミノ酸残基を含む、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項12】
1〜10のポリペプチドと1つの抗体成分とを含む、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項13】
1〜6のポリペプチドを含む、請求項12に記載のコンジュゲート。
【請求項14】
ポリペプチド及び細胞傷害性薬剤が、1:1〜1:3(ポリペプチド:細胞傷害性薬剤)の比で存在する、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項15】
各ポリペプチドが、少なくとも1つのリンカーを介して抗体成分に連結している、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項16】
抗体成分が、4量体抗体又はその生物活性バリアントである、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項17】
抗体成分が、単鎖抗体(scFv)、Fab断片又はF(ab')2断片である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項18】
抗体成分が、ヒト、キメラ若しくはヒト化抗体又はそれらの生物活性バリアントを含む、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項19】
抗体成分が、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項20】
4量体抗体、その生物活性バリアント、scFv、Fab断片又はF(ab')2断片が、増殖因子受容体又はインターロイキン受容体と特異的に結合する、請求項16又は17に記載のコンジュゲート。
【請求項21】
増殖因子受容体が、上皮増殖ファミリー受容体(EGFR)ファミリーのメンバーである、請求項20に記載のコンジュゲート。
【請求項22】
抗体成分が、トラスツズマブ、セツキシマブ若しくはパニツムマブ又はその生物活性バリアントである、請求項21に記載のコンジュゲート。
【請求項23】
増殖因子受容体が、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)である、請求項20に記載のコンジュゲート。
【請求項24】
インターロイキン受容体が、IL-2受容体である、請求項20に記載のコンジュゲート。
【請求項25】
抗体成分が、バシリキシマブ、ダクリズマブ又はその生物活性バリアントである、請求項24に記載のコンジュゲート。
【請求項26】
インターロイキン受容体が、IL-6受容体である、請求項20に記載のコンジュゲート。
【請求項27】
抗体成分が、トシリズマブ又はその生物活性バリアントである、請求項26に記載のコンジュゲート。
【請求項28】
増殖因子受容体が、TNF-α受容体である、請求項20に記載のコンジュゲート。
【請求項29】
抗体成分が、抗癌剤又は抗炎症剤である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項30】
細胞傷害性薬剤が、タキサン、アルカロイド、アントラサイクリン、オーリスタチン、葉酸代謝拮抗剤、カリチアマイシン、デュオカルマイシン、マイトマイシン、ピリミジン類似体又はミタンシンの誘導体である、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項31】
タキサンが、ドセタキセルである、請求項30に記載のコンジュゲート。
【請求項32】
アルカロイドが、ビンカアルカロイドであり、アントラサイクリンが、ドキソルビシンであり、オーリスタチンが、モノメチルオーリスタチンE(MMAE)であり、葉酸代謝拮抗剤が、メトトレキセート又はアミノプテリンであり、カリチアマイシンが、カリチアマイシンγ1であり、デュオカルマイシンが、アドゼレシン、ビゼレシン又はカルゼレシンであり、マイトマイシンが、マイトマイシンCであり、ピリミジン類似体が、フルオロウラシルであり、ミタンシンの誘導体が、ミタンシノイドである、請求項30に記載のコンジュゲート。
【請求項33】
マイタンシノイドが、アンサマイトシン、メルタンシン又はエムタンシンである、請求項32に記載のコンジュゲート。
【請求項34】
抗体成分、ポリペプチド及び細胞傷害性薬剤が、直鎖状コンジュゲートとして連結している、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項35】
抗体成分、ポリペプチド及び細胞傷害性薬剤が、デンドリマー状コンジュゲートとして連結している、請求項1に記載のコンジュゲート。
【請求項36】
請求項1に記載のコンジュゲートと薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項37】
静脈内投与用に製剤化されている、請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項38】
癌に罹患している患者を処置する方法であって、
処置を必要とする患者を同定することと、
治療有効量の請求項36に記載の医薬組成物を患者に投与することと
を含む、前記方法。
【請求項39】
患者が、ヒト患者である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
癌が、原発性又は続発性腫瘍である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
原発性又は続発性腫瘍が、患者の脳又は脊髄内にある、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
癌が、HER-2の発現を伴う、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
癌が、乳癌、卵巣癌、肺癌又は胃癌である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
癌が、上皮増殖因子受容体の発現を伴う、請求項38に記載の方法。
【請求項45】
癌が、頭頚部癌又は大腸癌である、請求項44に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2012年8月14日に出願された米国出願第61/682,991号の出願日の利益と、2013年8月12日に出願された米国出願第61/865,071号の出願日の利益とを主張する。これらの仮出願の一方又は両方の優先権を主張するいずれの後続の出願日の米国通常出願及び/又は米国特許の目的のために、これらの仮出願の内容は、本明細書に参照によりその全体が組み込まれている。
【0002】
発明の分野
本発明は、1種以上のクニッツ型プロテアーゼ阻害物質(例えば、アプロチニン)又はその誘導体(例えば、アプロチニン由来ポリペプチド)が抗体成分及び細胞傷害性薬剤と本明細書に記載する様式でコンジュゲートしたタンパク質コンジュゲート、使用のために該コンジュゲートを合成する方法、該コンジュゲートを含む生理的に許容される組成物、並びに本明細書に記載するように癌を処置するために該コンジュゲートを患者に投与する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
脳は、2つの関門系、血液脳関門(BBB)及び血液脳脊髄液関門(BCSFB)により、毒性の可能性がある摂取された物質への曝露から保護されている。これらの関門は、有害物質(例えば、偶然摂取された毒)から中枢神経系(CNS)を保護するが、これらは、治療用タンパク質が、脳及び脊髄に近づくことも妨げるので、CNSの障害を処置する際に大きな障害となる。一般的な規則として、約500ダルトンよりも小さい親油性分子だけがBBBを通過する。CNS疾患の動物研究において見込みのある結果を示す多くの薬物はこれよりもかなり大きく、タンパク質治療薬は、このようなサイズ及び複雑さの薬物に対する脳毛細血管内皮壁の透過性がごくわずかであるので、一般的にCNSから完全に排除される。神経腫又は神経膠腫のいずれであっても、脳癌の患者の処置は特に難しい。いくらか悪性であれば、ほとんどの患者の生存は、手術による切除、放射線治療及び/又は全身化学療法を行っても、1年未満である。
【0004】
CNSへのタンパク質治療薬の送達を増進するために現在遂行されている方策は、全般的に3つの範疇に分けることができる。第1の範疇は、薬物の脳室内への直接投与、及びBBBを一次的に乱す高浸透圧性溶液の頚動脈内注入のような侵襲的な手順を含む。第2の範疇は、BBBを通るタンパク質の脂質溶解性を増加させることを狙いとする薬理学に基づく方策を含む。第3の範疇は、BBBに関するベクター又は受容体を標的にする送達媒体として作用するタンパク質と治療剤とを結合させる送達レジームを含む。この第3のアプローチは、特異性及び有効性が高く、不利な影響が最小限であり、広く用いることができるという利点がある。
【0005】
CNSの外側では、疾患細胞のみに治療剤を標的化して送達することがいまだに広く困難である。全身化学療法は、ある種の癌の処置には効果的であるが、多くのその他の癌の処置には失敗している。なぜなら、腫瘍成長の制御を達成するために必要な用量はしばしば非常に高いので、許容できない全身毒性を引き起こすからである。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様では、本発明は、抗体成分と、1種以上のクニッツ型プロテアーゼ阻害物質(例えばアプロチニン)又はその誘導体(例えば、アプロチニン由来ポリペプチド)と、細胞傷害性薬剤とを含むタンパク質コンジュゲートを特徴とする。タンパク質コンジュゲートは、抗体成分とポリペプチドとの間にリンカーを含むこと、ポリペプチドと細胞傷害性薬剤との間にリンカーを含むこと、及びコンジュゲート内の抗体成分とポリペプチドと細胞傷害性薬剤との構成によりさらに定義できる。よって、一実施形態では、本発明は、抗体成分と、ポリペプチドと、細胞傷害性薬剤とを含むタンパク質コンジュゲートであって、ポリペプチドが、アミノ酸配列Lys-Arg-Asn-Asn-Phe-Lys(配列番号123)又はその生物活性類似体を含むタンパク質コンジュゲートを特徴とする。全般的に、コンジュゲートは、本質的に直鎖状(タンパク質構成成分の3次構造が許容する限り)又は分岐鎖状であり得る。以下にさらに記載するように、直鎖状の構成は、コンジュゲートの構成部分を互いに直接又は2官能性リンカーを用いてつなぐことにより達成され、分岐鎖状の構成は、3つ以上の官能性置換基を有する少なくとも1つのリンカー(例えば、1つの抗体成分と2つのポリペプチドとを連結する3官能性リンカー又は例えば、1つの抗体と3つのポリペプチドとを連結する4官能性リンカー)を含めることにより達成される。よって、本明細書に記載するコンジュゲートは、抗体成分とポリペプチドとの間及び/又はポリペプチドと細胞傷害性薬剤との間にリンカーを含むことができる。リンカーがホモ官能性リンカーである場合、これは、それぞれ2、3又は4つの反応性基を含むホモ2官能性、ホモ3官能性又はホモ4官能性リンカーであり得、これらの反応性基(又は置換基)は、1級アミン、チオール基、ヒドロキシル基又は炭水化物と反応できる。リンカーがヘテロ官能性リンカーである場合、これは、1級アミン、チオール基、ヒドロキシル基又は炭水化物と反応する少なくとも1つの反応性基(置換基としても知られる)を含むヘテロ2官能性、ヘテロ3官能性又はヘテロ4官能性リンカーであり得る。4つより多い反応性基を有するリンカー(例えば、5〜10の反応性基)を用いることもできる。より具体的に、タンパク質コンジュゲートは、リンカーとして、モノフルオロシクロオクチン(MFCO)、ビシクロ[6.1.0]ノニン(BCN)、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)、N-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート(SATA)、N-スクシンイミジル-S-アセチルチオプロピオネート(SATP)又はN-ヒドロキシ-スクシンイミド(NHS)を含むことができる。
【0007】
ポリペプチドは以下にさらに記載するが、本発明者らは、本発明のタンパク質コンジュゲートが、アミノ酸配列Thr
1-Phe
2-Phe
3-Tyr
4-Gly
5-Gly
6-Cys
7-Arg
8-Gly
9-Lys
10-Arg
11-Asn
12-Asn
13-Phe
14-Lys
15-Thr
16-Glu
17-Glu
18-Tyr
19(配列番号67)若しくはその類似体又はThr
1-Phe
2-Phe
3-Tyr
4-Gly
5-Gly
6-Ser
7-Arg
8-Gly
9-Lys
10-Arg
11-Asn
12-Asn
13-Phe
14-Lys
15-Thr
16-Glu
17-Glu
18-Tyr
19(配列番号97)若しくはその類似体を含むポリペプチドを含むことができることをここに記載する。文脈がそうでないと明確に示さない限り、構成部分(例えば、特定する配列)を含むポリペプチドのような本明細書に記載する組成物は、構成部分だけ(例えば、ポリペプチドの場合に特定された配列だけ)又は構成部分とその他のもの(例えば、ポリペプチドの場合に特定された配列と一方又は両方の末端にさらなる残基)を含むことができる。ポリペプチドが本明細書に記載する特定の配列(参照ポリペプチド)の類似体である場合、参照ポリペプチド中のシステイン、セリン及びリジン残基の1つ以上が不変異のままであり得る。例えば、コンジュゲートが配列番号67の類似体を含む場合、Cys
7、Lys
10及びLys
15を含む少なくとも13アミノ酸残基が不変異のままであり得る。コンジュゲートが配列番号97の類似体を含む場合、Ser
7、Lys
10及びLys
15を含む少なくとも13アミノ酸残基が不変異のままであり得る。配列番号67又は配列番号97の類似体において、Asn
12はGlnで置換でき、Asn
13はGlnで置換でき、及び/又はPhe
14はTyr若しくはTrpで置換できる。類似体は、例えば、配列Phe
3-Tyr
4-Gly
5-Gly
6-Cys
7/Ser
7-Arg
8-Gly
9-Lys
10-Arg
11-Asn
12-Asn
13-Phe
14-Lys
15-Thr
16-Glu
17-Glu
18-Tyr
19-Cys(配列番号118)、Gly
5-Gly
6-Ser
7-Arg
8-Gly
9-Lys
10-Arg
11-Asn
12-Asn
13-Phe
14-Lys
15-Thr
16-Glu
17-Glu
18-Tyr
19-Cys(配列番号119)、Ser
7-Arg
8-Gly
9-Lys
10-Arg
11-Asn
12-Asn
13-Phe
14-Lys
15-Thr
16-Glu
17-Glu
18-Tyr
19-Cys(配列番号120)、Gly
9-Lys
10-Arg
11-Asn
12-Asn
13-Phe
14-Lys
15-Thr
16-Glu
17-Glu
18-Tyr
19-Cys(配列番号121)、又はLys
10-Arg
11-Asn
12-Asn
13-Phe
14-Lys
15-Tyr
19-Cys(配列番号122)を含むことができる。これらのポリペプチドのいずれにおいても、少なくとも1つのアミノ酸残基がD型で存在できる。
【0008】
構成部分の数に関して、コンジュゲートは、抗体成分よりも多くのポリペプチドを含むことができる(以下の可能性のある構成についての記載を参照されたい)。いくつかの実施形態では、コンジュゲートは、1〜10のポリペプチドと1つの抗体成分とを含むことができ、抗体成分に対するポリペプチドの比は、1:1〜10:1であり得る(以下の記載に従って他の比が可能である)。いくつかの実施形態では、コンジュゲートは、1〜6のポリペプチドを含む。ポリペプチド及び細胞傷害性薬剤は、1:1〜1:3(ポリペプチド:細胞傷害性薬剤)の比で存在できる。
【0009】
各ポリペプチドは、少なくとも1つのリンカーを介して抗体成分に連結でき、該抗体成分は、4量体抗体又はその生物活性バリアントであり得る。例えば、抗体成分は、単鎖抗体(scFv)、Fab断片又はF(ab')2断片であり得、ヒト、キメラ若しくはヒト化抗体又はそれらの生物活性バリアントであり得、及び/又はモノクローナル若しくはポリクローナル抗体であり得る(又はそれらに由来できる)。抗体成分が特異的に結合する標的に関して、標的は、増殖因子受容体又はインターロイキン受容体であり得る。例えば、増殖因子受容体は、上皮増殖ファミリー受容体(EGFR)ファミリーであり得、抗体成分は、トラスツズマブ、セツキシマブ若しくはパニツムマブ又はその生物活性バリアントであり得る。他の実施形態では、増殖因子受容体は、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)であり得る。他の実施形態では、インターロイキン受容体は、IL-2受容体(この場合、抗体成分は、例えばバシリキシマブ、ダクリズマブ又はその生物活性バリアントであり得る)又はIL-6受容体(この場合、抗体成分は、例えばトシリズマブ又はその生物活性バリアントであり得る)であり得る。他の実施形態では、増殖因子受容体は、TNF-α受容体である。より一般的に、抗体成分は、抗癌剤又は抗炎症剤であり得る。
【0010】
細胞傷害性薬剤は、タキサン(例えば、ドセタキセル又はその活性バリアント)、アルカロイド(例えば、ビンカアルカロイド)、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン)、オーリスタチン(例えば、モノメチルオーリスタチンE(MMAE))、葉酸代謝拮抗剤(例えば、メトトレキセート又はアミノプテリン)、カリチアマイシン(例えば、カリチアマイシンγ1)、デュオカルマイシン(例えば、アドゼレシン、ビゼレシン又はカルゼレシン)、マイトマイシン(例えば、マイトマイシンC)、ピリミジン類似体(例えば、フルオロウラシル)又はミタンシン(mytansine)の誘導体(例えば、アンサマイトシン、メルタンシン又はエムタンシン(emtansine)のようなミタンシノイド(mytansinoid))であり得る。
【0011】
上記のように、抗体成分とポリペプチドと細胞傷害性薬剤とは、直鎖状コンジュゲートとして連結するか、又はデンドリマー状コンジュゲートとして構成できる。
【0012】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載するコンジュゲートと薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を特徴とする。これらの組成物は、静脈内投与用に製剤化できる。
【0013】
別の態様では、本発明は、癌に罹患している患者を処置する方法を特徴とする。この方法は、処置を必要とする患者(例えば、原発性又は続発性腫瘍のヒト患者(例えば、患者の脳又は脊髄内の腫瘍))を同定するステップを含むことができ、本明細書に記載するタンパク質コンジュゲートを含む治療有効量の医薬組成物を患者に投与するステップを含む。患者の癌は、HER-2の発現を伴い得る(例えば、乳癌、卵巣癌、肺癌又は胃癌)。患者の癌は、上皮増殖因子受容体の発現を伴い得る(例えば、頭頚部癌又は大腸癌)。
【0014】
本発明は、本明細書に記載するコンジュゲートを生成する方法、コンジュゲートを含む医薬組成物を生成する方法、並びに癌、炎症及び本明細書に記載する特定の癌を含む疾患の処置におけるこれらのコンジュゲート及び組成物の使用も特徴とする。処置の方法のいずれも、「使用」の方法として構成できる。したがって、本発明は、医薬品の調製における本明細書に記載するタンパク質コンジュゲートの使用、及び疾患又は障害(癌、炎症及び本明細書に記載する特定の癌を含む)の処置のための医薬品の調製における本明細書に記載するタンパク質コンジュゲートの使用を特徴とする。
【0015】
本発明者らは、「タンパク質コンジュゲート」という用語を用いて、分子的にカップリングした(例えば、共有結合)部分で形成されるアミノ酸に基づく化合物のことをいう。本発明では、部分は、選択した標的と特異的に結合する抗体成分と、血液脳関門を横切る及び/又は標的細胞中へのコンジュゲートの輸送を容易にするクニッツ型プロテアーゼ阻害物質(例えばアプロチニン)又はその誘導体(例えば、アプロチニン由来ポリペプチド)と、細胞傷害性薬剤とを含む。読みやすくするために、本発明者らは、クニッツ型プロテアーゼ阻害物質又はその誘導体を「ポリペプチド」と称する。「アミノ酸に基づく化合物」は、主に(しかし必ずしも排他的にではない)アミノ酸残基を含むものである。上記のように、タンパク質コンジュゲートは、化合物(又はそうでなければアミノ酸又はタンパク質に対して化学的実体として認識される)であり得るリンカーを含むことができる。細胞傷害性薬剤も化合物であり得る。このようなコンジュゲートは、抗体成分及びポリペプチドはアミノ酸で構成されるであろうが、リンカー及び細胞傷害性薬剤は化学的実体であり得るので、主に(しかし必ずしも排他的にではない)アミノ酸残基を含み得る。以下にさらに記載するように、いくつかの実施形態では、細胞毒もタンパク質であり得、このことにより、アミノ酸で形成されるコンジュゲートの割合が増加する。タンパク質コンジュゲートは、タンパク質であるか又はそうでない検出剤も含んでよい。例えば、検出剤は、蛍光体、蛍光タンパク質、放射性同位体、色素などであり得る。本発明は、検出剤を検出して、例えば、CNS内又はCNSの外部の別の組織若しくは細胞型内の腫瘍若しくは癌細胞へのコンジュゲートの送達を分析する方法を包含する。
【0016】
さらに明確にするために、本発明者らは、抗体成分及びポリペプチドが互いに異なることを記載する。さらに、いずれのタンパク質コンジュゲートも、1つより多いポリペプチドを含むことができ、2、3、4つ以上のポリペプチドは、同じであるか(すなわち同一アミノ酸配列を有し得る)、又は互いに異なっていてよい(すなわち抗体成分にコンジュゲートしたポリペプチドは異なるアミノ酸配列を有してよい)。本発明の組成物及び方法に関して、本発明者らは、「含む(comprising)」を意味するために「含む(include(s))」という用語を用いる。いずれの場合でも、文脈がそうでないことを特に示さない限り、本発明の組成物、その構成部分(例えば、抗体成分及びポリペプチド)及び本発明の方法は、記載する要素又はステップを含むか又はそれらからなることができる。例えば、任意の実施形態では、所定のポリペプチドは、記載する配列(例えば、配列番号67、97、117又は123)を含むか又はそれからなることができる。
【0017】
上記のように、本発明のタンパク質コンジュゲートは、本明細書に記載するポリペプチド又はその生物活性類似体若しくは断片を含むことができる。本発明者らは、所定のポリペプチドに関して「生物活性」という用語を用いて、生理的背景において有用となる十分な活性(例えば、受容体結合活性)を保持するそのポリペプチドの類似体又は断片を意味する。例えば、所定のポリペプチドが、それが含まれるタンパク質コンジュゲートのBBBを横切っての輸送を容易にする場合、そのポリペプチドの類似体又は断片は、同じ又は同等の条件下でBBBを横切ってコンジュゲートを輸送する能力を有する場合に、生物活性である。このような特性のいずれも(例えば、受容体結合、細胞内在化又はBBB通過)、in vivo又はex vivoモデルで試験でき、参照するポリペプチドの生物活性類似体及び断片は、参照するポリペプチドよりも多少効果的であることがある。特に、断片又は類似体の有効性は、所望の結果を達成するために十分に高いままである限り(例えば、それが含まれるコンジュゲートが臨床的に有益な結果を達成する限り)、参照するポリペプチドのものよりも低くてよい。
【0018】
参照するポリペプチドの「断片」は、参照するポリペプチドの連続又は隣接する部分である(例えば、10アミノ酸長のポリペプチドの断片は、そのポリペプチド内で2〜9の隣接する残基のいずれでもあり得る)。参照するポリペプチドの「類似体」は、参照するポリペプチド又はその一部分の配列と同一でないが類似の配列を有する任意のポリペプチドである。よって、アミノ酸残基の1つ以上のアミノ酸置換、付加又は欠失(又はそれらの任意の組み合わせ)を含むポリペプチドは、参照するポリペプチドの類似体であり、断片は類似体の1種である。本発明のタンパク質コンジュゲートに適切に含まれるポリペプチドの断片及び類似体について、以下にさらに記載する。
【0019】
BBB透過性に加えて、本発明のタンパク質コンジュゲートは、以下の利点の1つ以上、すなわち投与濃度にて沈殿が全く又はほとんどない、凍結-融解安定性、及び高い溶解性(溶液中で、あったとしてもほとんど凝集物を生じない)を有することができる。抗体成分は、その標的に対して(コンジュゲートしていない形態での親和性と比べて)高い親和性を保持することもできる。例えば、抗体成分は、コンジュゲートしていない場合の部分の親和性の約3倍以内の標的に対する親和性を有することができる。タンパク質コンジュゲートH43(angiopep-2ポリペプチドと、HER2と特異的に結合する抗体とを含む)を用いる研究において、本発明者らは、コンジュゲートしていない抗体成分の親和性が1.3nMであったところ、2.2nMの親和性を観察した。細胞毒を含めることは、癌性細胞が抗体処置に対して抵抗性になる事象において特に有利である。本発明の組成物及び方法のその他の特徴及び利点は、以下の記載、図面及び特許請求の範囲に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1-1】本発明のタンパク質コンジュゲートに組み込むことができる代表的なポリペプチドを示す表である。
【
図2】抗体成分(灰色の卵型で左に示す)が、細胞傷害性薬剤に次いでコンジュゲートしたポリペプチドにコンジュゲートできる4つの様式を示す図である。
図2(a)(一番上)では、コンジュゲーションは、クリックケミストリーにより達成される。抗体成分に連結したシクロオクチンは、ポリペプチドのN末端にてアジド基と反応する。(シクロオクチンがポリペプチドに連結しており、抗体がアジドを含むように改変すれば、2つの反応性置換基を逆にできる。)
図2(b)〜2(d)では、抗体は、反応性チオール基を介してポリペプチドにつながれている。
図2(b)では、ポリペプチドは、N末端にチオール基(C-SH)を保有し、これは、Mal-AMCHC-OSu(トランス-N-スクシンイミジル4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、アミン及びチオール反応性を有するヘテロ2官能性架橋剤)又はSPDP(N-スクシンイミジル3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオネート)のようなマレイミド含有リンカーと反応できる。タンパク質コンジュゲートのポリペプチド部分は
図2(b)に示すようにチオール基を含むように改変できるが、コンジュゲートは、代わりに、チオール保有抗体成分を、ポリペプチドと結合したチオール反応性リンカーと反応させることにより形成できる。
図2(c)では、ポリペプチドから伸びるピリジニルジスルフィド基が、チオール保有抗体成分と反応する。
図2(d)では、ポリペプチドから伸びるマレイミド含有リンカーが、チオール保有抗体成分と反応する。細胞傷害性薬剤は、ポリペプチド内のリジン残基と脂肪族リンカーを介してコンジュゲートし、ポリペプチドとアミド結合し、細胞傷害性薬剤とエステル結合する。
【
図3】単一の細胞傷害性薬剤がチオール反応性リンカーを介して代表的なポリペプチドのチオール改変C末端とコンジュゲートするコンジュゲーションスキームを示す。抗体は、ポリペプチドとアジド含有N末端との反応を見越してシクロオクチンに連結させるが、抗体とポリペプチドとは、
図2(b)〜2(d)に示すものを含む本明細書に記載する任意の様式で連結できる。
【
図4】本発明のコンジュゲートをデンドリマー状の形態に構成できる3つの方法を示す。
図2(a)でのように、抗体とポリペプチドとは、クリック反応によりつながれるように構成される。アルキル(C
1〜C
6アルキル)を含む単一の枝は、抗体成分から枝のコア(式IにおけるX
コア)になる(枝がコアから伸びる)第1の枝成分まで伸びる。
図4(a)〜4(c)では、コンジュゲートの分岐鎖状部分は、4本の枝を有し、これら4つは全て2コピーの細胞傷害性薬剤に連結したポリペプチドで終結してよい(ポリペプチドがコンジュゲートにピリジニルジスルフィド結合により連結する4(b)、ポリペプチドがコンジュゲートにマレイミド-ヘキサン酸により連結する4(c)でのように)。代わりに、4つの枝のうちの2つの枝はポリペプチドで終結してよく、残りの2つは細胞傷害性薬剤で終結してよい(4(a)でのように)。
【
図5】本発明のコンジュゲートをデンドリマー状の形態に構成できる3つのさらなる方法を示す。
図5(a)及び5(b)では、抗体成分は、デンドリマーコア成分(ここから2つの枝が伸びる)に連結する。それぞれの枝の端は、ポリペプチドに連結した細胞毒である。
図5(c)では、4つの枝が中央コアから伸び、1つの枝の末端は抗体成分に連結し、残りの3つの枝の末端はポリペプチドに連結した細胞毒に連結する。
【
図6】薬物を改変ポリペプチドにコンジュゲートするためのスキームである(N
3An
2-(SuDoce)
2)。
【
図7】BT-474細胞で行った細胞傷害性アッセイの結果を示す線グラフである。細胞を、ANG 4043及びYG-51-42-A1で5日間処理した。前者は、HER2と結合する抗体と配列番号97により示されるポリペプチド(Angiopep-2(An2))とを含むコンジュゲートである。後者は、同じ抗体とアプロチニン由来ポリペプチドと細胞傷害性薬剤であるドセタキセルとを含むコンジュゲートである。ANG4043についてのIC
50は2.228nMであったが、YG-51-42-A1についてのIC
50は0.297nMだけであった。
【
図8a-d】本発明のコンジュゲートに含めることができる分岐構造を含むコンジュゲートの一部分を示す。コンジュゲートは、この図に示すポリペプチド又は本明細書に記載する別のポリペプチドを、本明細書に記載する1種以上の抗体成分及び細胞毒と一緒に含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
CNSの処置において有用である可能性がある薬物の大部分はBBBを横切らず、この長年にわたる問題に対してほとんど努力が払われていないことは驚くことである。世界のCNS薬物開発の99%より多くが、薬物発見自体に向けられ、1%未満の努力だけが送達を改善することに向けられていると見積もられる。脳癌を含む多くの深刻で費用がかかり衰弱させるCNS障害のための信頼できる有効性を有する処置はない。よって、効果的な薬剤を見出すことだけでなく、それらの薬剤を脳及び脊髄にうまく送達することについて実質的で対処されていない必要性が存在する。多くのタイプの癌について最も見込みがある新しい処置には、治療用抗体が含まれる。しかし、それらのサイズのために、治療用抗体は、CNSに送達することが最も難しい薬剤の一つである。本発明者らの研究は、アプロチニン由来ポリペプチドにコンジュゲートした抗体をより効果的にCNSに送達でき、さらに、このようなコンジュゲートの治療上の利益が、細胞毒を含めることにより癌に罹患した患者について増進できることを示す。本発明との関係において、抗体成分とポリペプチドと細胞傷害性薬剤とを含むコンジュゲートは、抗体成分単独(すなわち、ポリペプチドにコンジュゲートしていない)で血液脳関門を横切るよりもBBBを横切る程度が大きい。輸送における差は、BBBのex vivoモデルでも観察できる。よって、本発明のコンジュゲート中のポリペプチドは、個体の血液脳関門を横切って抗体成分及び細胞傷害性薬剤を輸送するために有用であり、それにより得られるCNSへのアクセスの改善により、以前には可能でなかった方法でのCNS癌の処置において抗体成分及び細胞傷害性薬剤を用いることが可能になる。これもまた本明細書に記載するように、本発明のコンジュゲートは、原発性又は続発性のいずれかの腫瘍がCNSの外側で発展した癌の処置においても有用である。
【0022】
本発明は、薬物送達についての生理学に基づく方策を用いる本発明者らの以前の研究の延長である。ここで、コンジュゲートは、さらなる治療上の利益をもたらす細胞傷害性薬剤をさらに含む。多くの抗体は腫瘍又は癌細胞に対する選択性を示しているが、ヒト患者における治療上の有効性が低いためにそれらの臨床的な使用は限定されている。同様に、癌の処置のための既知の細胞毒は、それらの毒性プロファイルのために臨床的な使用が限定されている。本発明のコンジュゲートは、許容される安全性パラメータ内でCNS及び他の場所における治療用薬物送達及び癌の処置を改善する。よって、本発明のコンジュゲートの利点は、BBB、優先的にはCNS及びその他の組織の両方における標的腫瘍及び/又は癌細胞を横切る能力と、治療有効濃度の細胞傷害性薬剤をこれらの細胞に最終的に送達する能力との組み合わせである。本明細書に記載するタンパク質コンジュゲートは、血液脳関門(BBB)を横切ることができるだけでなく、それが保有する細胞毒を、胸部、大腸、肝臓、肺、脾臓、腎臓、卵巣及び筋肉を含む特定の末梢型の細胞に送達する効率を増進することもできる。より一般的に、本発明のコンジュゲートは、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP1)を発現する任意の細胞又は組織を標的にすることができる。この受容体は、LDL受容体ファミリーのメンバーであり、該ファミリーは、LRP2(メガリンとしても知られる)も含み、これは、BBBの内皮細胞を横切るリガンドの輸送を媒介する(Shibataら、2000、Itoら、2006、Bellら、2007)。より具体的には、LRP2は、上皮細胞の細胞膜にてマルチリガンド結合受容体として働き、リガンドのエンドサイトーシスを媒介して経細胞輸送を導く。以下の段落では、本発明者らは、本発明のタンパク質コンジュゲートの構成部分についてまず記載し、次いで、それらを構成できる方法、及びそのような構成において有用なリンカーについて記載する。
【0023】
ポリペプチド:アプロチニンは、クニッツ型(すなわち、KPIドメインを含有する)のプロテアーゼ阻害物質である。これは、LRP1及びLRP2のリガンドであり、in vitro研究により、アプロチニンが哺乳動物BBBを模倣する細胞層を横切ることが示されている。経細胞輸送の正確な分子機構は不明であり、本発明はいずれの特定の分子機構により機能するタンパク質コンジュゲートにも限定されないが、アプロチニン及びアプロチニン由来ポリペプチドを含む本明細書に記載するポリペプチドは、LDL受容体ファミリーの受容体と相互作用すると考えられる。本発明者らは、アプロチニンポリペプチドとは違うが、ある程度の構造的及び機能的類似性を保持するポリペプチドを同定した。例えば、本発明者らは、ともに19アミノ酸のポリペプチドを同定し、これらのうちで本発明のコンジュゲート内で有用な6アミノ酸のポリペプチドを同定した。19アミノ酸ポリペプチドは、アプロチニン(配列番号126)の残基32〜50に相当し、配列Xaa
1-Phe-Xaa
3-Tyr-Gly-Gly-Xaa
7-Xaa
8-Xaa
9-Lys-Xaa
11-Asn-Asn-Xaa
14-Lys-Xaa
16-Xaa
17-Xaa
18-Xaa
19(配列番号128)(式中、Xaa
1はThr、Pro又はSerであり、Xaa
3はVal、Gln、Phe又はTyrであり、Xaa
7はCys又はSerであり、Xaa
8はArg、Met、Gly又はLeuであり、Xaa
9はGly又はAlaであり、Xaa
11はGly、Arg又はLysであり、Xaa
14はPhe又はTyrであり、Xaa
16はThr、Arg又はSerであり、Xaa
17はGly又はAlaであり、Xaa
18はLys又はGluであり、Xaa
19はGly、Tyr又はAspである)と一致する。
図1の配列番号1〜61は、配列番号126と一致する。6アミノ酸ポリペプチドは、アプロチニン(配列番号126)の残基41〜46に相当し、配列Lys-Arg-Xaa
3-Xaa
4-Xaa
5-Lys(配列番号106)(式中、Xaa
3はAsn、Ser、Thr又はGlnであり、Xaa
4はAsn、Ser、Thr又はGlnであり、Xaa
5はPhe又はTyrである)と一致する。例えば、本明細書に記載するコンジュゲートは、配列Lys-Arg-Asn-Asn-Phe-Lys(配列番号123)を含むポリペプチドを含むことができる。
【0024】
本発明のコンジュゲートに組み込まれるポリペプチドは、約6〜60アミノ酸残基を含むか又はそれからなることができ、有用なポリペプチドは、配列番号106又は128と一致する配列を含むか又はそれからなることができる。任意の所定のポリペプチドは、アプロチニン配列とある程度の相同性又は同一性(例えば、70〜100%の相同性又は同一性)を示すことができ、約10のリジン及び/又はアルギニン残基を含むことができ、約4以下の負荷電残基(例えば、約4以下のアスパラギン酸又はグルタミン酸残基)を含有することができ、約3(例えば、2〜4(両端含む))の分子内(例えば、ジスルフィド)結合を含むことができ、並びに/又はねじれたβヘアピン及び/若しくはC末端αヘリックスを含むことができる。より長い有用なポリペプチドは、配列番号98及び126を含む。
【0025】
コンジュゲート内のポリペプチドは、本明細書に具体的に記載する配列(例えば、配列番号67若しくは97に示す配列又は
図1の表に示すその他の任意のアプロチニン由来ポリペプチド)を有する(からなる)か又は含んでよい(include/comprise)か、又はこれらはこれらの参照配列のいずれかの生物活性断片又は類似体であってよい。断片は、より少ない隣接するアミノ酸残基を有する(N又はC末端から1つ以上のアミノ酸が欠失する)ことにより参照配列とは異なるが、類似体は、少なくとも1つのさらなるアミノ酸残基又は少なくとも1つのアミノ酸置換を含むことにより参照配列とは異なる。さらなるアミノ酸残基は、N末端、C末端、参照ポリペプチド(例えば、配列番号117)の両端の間の位置、又はこれらの位置の任意の組み合わせに付加できる。類似体は、参照配列より短くてよい(すなわち、これは、1つ以上のアミノ酸残基の欠失を含んでよい)が、本発明者らは、「類似体」という用語を用いて、N及び/又はC末端アミノ酸残基の単純な欠失だけでなく参照配列から何らかの形で異なるバリアントを意味する。類似体がアミノ酸残基の置換を含む場合、置換は、保存的又は非保存的と考えることができる。保存置換は、以下の群内でのものである:Ser、Thr及びCys、Leu、Ile及びVal、Glu及びAsp、Lys及びArg、Phe、Tyr及びTrp、並びにGln、Asn、Glu、Asp及びHis。保存置換は、BLAST(ベーシックローカルアラインメントサーチツール(Basic Local Alignment Search Tool))アルゴリズム、BLOSUM置換行列(例えば、BLOSUM 62行列)又はPAM置換:p行列(例えば、PAM 250行列)によっても定義されることがある。
【0026】
参照配列が19アミノ酸残基を有する場合(例えば、配列番号126と一致するポリペプチド)、その生物活性断片は、6〜18の隣接する残基(両端含む)を有してよく、その生物活性類似体は、1〜13アミノ酸置換、1つ以上のアミノ酸付加(例えば、参照ポリペプチドの長さを約50〜60アミノ酸残基まで増やすN及び/又はC末端での残基の付加)、又はこのような置換及び付加の組み合わせを有してよい。上記のように、類似体(断片に対して)の場合、少なくとも1つの置換及び/又は少なくとも1つの付加がある場合、少なくとも1つの欠失もあることがある。
【0027】
第1ポリペプチド(例えば、アプロチニン又は
図1に列挙する別のポリペプチドのような参照ポリペプチド)と第2ポリペプチドとの間の類似性の程度は、同等の位置で同一である残基のパーセンテージとして表すことができる。本発明のコンジュゲートにおいて有用なポリペプチドは、参照ポリペプチドと少なくとも35%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%又は98%同一であり得る。例えば、タンパク質コンジュゲート内のポリペプチドは、配列番号1〜105及び107〜123からなる群から選択される配列と少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、90%、95%又は98%)同一であるアミノ酸配列を有することができる。現在までの本発明者らの研究は、好ましいポリペプチドが、Angiopep-1(配列番号67)、Angiopep-2(An2)(配列番号97)、Cys-Angiopep-2(CysAn2)(配列番号113)、Angiopep-2-Cys(配列番号114)又は逆向きAngiopep-2(配列番号127)のアミノ酸配列を有するか又は含むであろうことを示唆する。
【0028】
ポリペプチド内のアミノ酸残基は、標準的なα-アミノ酸の形態のものであり得、D型、L型又はこれら2種の鏡像異性形態の混合であり得る。当該技術において知られるように、グリシン以外の全てのα-アミノ酸は、2種の鏡像異性形態のいずれかで存在し得、一方又は両方の形態を本発明のポリペプチド及びタンパク質コンジュゲートの抗体成分に組み込むことができる。L型のアミノ酸残基の代わりにD型のアミノ酸残基で置換することにより、より安定なポリペプチドが作製されることがある。例えば、10位及び/又は15位(又はアプロチニン由来ポリペプチドの類似体中の同等の位置)にてL-リジンの代わりにD-リジンを採用することにより、アプロチニン由来ポリペプチドの安定性を増加でき、全てのこのようなD-リジン含有ポリペプチドを用いることは、本発明の範囲内である。同様に、このようなポリペプチドのN末端及び/又はC末端にてD型のアミノ酸を採用することにより、in vivo安定性が増加する。なぜなら、ペプチダーゼはD-アミノ酸を基質として用いることができないからである(Powellら、Pharm. Res. 10:1268〜1273頁、1993)。ポリペプチドは、L-アミノ酸を含有するポリペプチドと比べて逆向きの配列で並んだD型のアミノ酸残基を含有する逆向きDポリペプチドとして構成することもできる。L-アミノ酸ポリペプチドのC末端残基は、D-アミノ酸ポリペプチドのN末端になり、逆も真である。逆向きD-ポリペプチドは、同じ3次元立体構造を保持し、よって、対応するL-アミノ酸ポリペプチドと同じ活性を保持するが、安定性が増加しているので、治療有効性を大きくすることができる(Brady及びDodson、Nature 368:692〜693頁、1994並びにJamesonら、Nature 368:744〜746頁、1994)。ポリペプチドは、例えばジスルフィドブリッジを形成するシステイン残基の付加により「拘束」することもできる(Rizoら、Ann. Rev. Biochem. 61:387〜418頁、1992を参照されたい)。いずれの実施形態でも、ポリペプチドは、環状ポリペプチドであり得る。
【0029】
それらの調製に関して、タンパク質コンジュゲート中で有用なポリペプチドは、核酸からタンパク質を生成するために日常的に用いられる合成法及び組換え技術を含む当該技術において既知の任意の方法により生成できる。得られるポリペプチドは、さらなる使用時まで未精製又は単離若しくは実質的に精製された形態で貯蔵してよい。例えば、ポリペプチドは、本発明のタンパク質コンジュゲートを作製するための以下に記載する方法において用いるまで貯蔵できる。化学合成は、例えば固相合成により達成でき、組換え技術は、生物学的細胞(例えば、原核生物又は真核生物の細胞)中のベクター構築物からの発現を含み得る。具体的なアミノ酸残基をコードするコドンは、当該技術において公知であり(例えば「Biochemistry」第3版、1988、Lubert Stryer、Stanford University、W.H. Freeman and Company、New-Yorkを参照されたい)、コドン最適化の方法も公知である。アプロチニン類似体をコードする例示的なヌクレオチド配列を配列番号106に示し、これは、GenBankで受託番号X04666の下で見出すことができる。この配列は、配列番号98で見出されるバリンの代わりに16位(配列番号106によりコードされるアミノ酸配列に関して)にリジンを有するアプロチニン類似体をコードする。配列番号106のヌクレオチド配列中に、当該技術において知られる方法により変異を導入して、16位にバリンを有する配列番号98のペプチドを生成してよい。
【0030】
タンパク質コンジュゲートに含めるための本明細書に記載するポリペプチドは、ポリペプチドが発現される細胞内で又は化学改変によりex vivoのいずれかで翻訳後改変されてよい。例えば、本明細書に記載するポリペプチドは、peg化、アセチル化、アシル化、アミド化、酸化、環化及び/又はスルホン化できる。
【0031】
組み込まれるアミノ酸残基の鏡像異性形態がポリペプチドの安定性を変化できることとちょうど同じように、アプロチニン由来ポリペプチドの長さ及び内容を改変して、電荷又は極性、親水性又は疎水性、バイオアベイラビリティ及びコンジュゲーション特性のような特徴を最適化できる。例えば、塩基性/正荷電でないか又は正電荷がより低い(例えばpKaにより決定されるように)1つ以上のアミノ酸(例えば、1から約3までのアミノ酸残基)を欠失することにより正電荷を促進できる。代わりに又はさらに、塩基性/正荷電であるか又は正電荷が置き換えられる残基よりも高い(例えば、pKaにより決定されるように)1つ以上のアミノ酸(例えば、1から約3までのアミノ酸残基)を付加することにより正電荷を促進できる。当業者は、天然に存在する残基が、主にそれらの側鎖の特性に帰する、認識された共通の特性を有することを認識するであろう。以下の情報を所望により用いて、アプロチニン由来ポリペプチドの特性を改変できる。疎水性を増加させるために、ノルロイシン、メチオニン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン及びフェニルアラニンを組み込むことができる。中性又は親水性を増加させるために、システイン、セリン及びトレオニンを組み込むことができる。酸性又は負電荷を増加させるために、アスパラギン酸又はグルタミン酸を組み込むことができる。塩基性を促進するために、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、リジン及びアルギニンを組み込むことができる。鎖の配向に影響する残基は、グリシン及びプロリンを含む。芳香族側鎖を有する残基は、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン及びヒスチジンを含む。ポリペプチドは、よって、少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、25、35、50、75、100、200若しくは500アミノ酸の範囲を有するか若しくは有する長さで、又はこれらの数の間の任意の長さ若しくは範囲の長さで本明細書に記載するように変動できる。
【0032】
図1に示す参照配列では、アミノ酸残基は、天然に存在するものである。これらの配列の生物活性類似体は、しかし、1つ以上の天然に存在しない残基を含むことができる。例えば、これらは、セレノシステイン(例えば、セレノ-L-システイン)を任意の位置に(例えば、7位にてシステインの代わりに)を含むことがある。多くのその他の「非天然」アミノ酸置換は、当該技術において知られており、Sigma Aldrich化学会社のような商業的な供給源から入手可能である。天然に存在しないアミノ酸の例は、ほとんどの場合D-アミノ酸、システインの硫黄原子と結合したアセチルアミノメチル基を有するアミノ酸残基、peg化アミノ酸、並びに式NH
2(CH
2)
nCOOH(式中、nは2〜6(両端含まず(neutral))である)のオメガアミノ酸、サルコシン、t-ブチルアラニン、t-ブチルグリシン、N-メチルイソロイシン及びノルロイシンのような非極性アミノ酸を含む。フェニルグリシンは、Trp、Tyr又はPheを置換してよい。シトルリン及びメチオニンスルホキシドは中性非極性であり、システイン酸は酸性であり、オルニチンは塩基性である。プロリンは、ヒドロキシプロリンで置換してよく、プロリンの特性を与える立体構造を保持する。本発明のタンパク質コンジュゲートは、このような残基を含むポリペプチド及び抗体成分を包含する。様々な鏡像異性体を含めること、翻訳後改変、「非天然」残基を含めることなどのような改変又は特徴に本発明者らが言及する場合、その改変又は特徴は、アプロチニン由来ポリペプチドとして本明細書に記載するコンジュゲートの一部において、抗体成分において、又はコンジュゲートの任意のその他のアミノ酸含有部分(例えば、検出可能標識)において存在してよいことが理解されよう。
【0033】
参照にするポリペプチドの生物活性断片又は類似体の厳密な配列又は特徴に関わらず、そのバリアントは、参照にする配列の能力に比べてBBBを横切って抗体成分を輸送する能力が同等、低減又は増進されていることがある。例えば、ポリペプチドが、参照にするポリペプチド(例えば、配列番号67、97又は117)の生物活性バリアントである場合、コンジュゲートした抗体成分をバリアントが輸送する能力は、参照にするポリペプチドに比べて、少なくとも又は約5%(例えば、少なくとも又は約5%、10%、20%、25%、35%、50%、60%、70%、75%、80%、90%又は95%)低減されることがある。ポリペプチドが、参照にするポリペプチド(例えば、配列番号67、97又は117)の生物活性バリアントである場合、コンジュゲートした抗体成分をバリアントが輸送する能力は、参照にするポリペプチドに比べて、少なくとも又は約5%(例えば、少なくとも又は約5%、10%、25%、50%、100%、200%、500%又は1000%)増進されることがある。上記のように、活性は変動できるが、参照にするポリペプチドの生物活性断片又は類似体は、有利な結果(例えば、投与される患者又は平均して患者の群における臨床的に有利な結果)を達成するために十分に活性があるものである。有利な結果は、有利な処置又は診断手順であってよい。
【0034】
上記のように、ポリペプチドは、配列番号117の19アミノ酸のうち少なくとも13が不変異のままである配列番号117の断片又は類似体であり得る。特に、配列番号117の類似体は、K
10及び/又はK
15が不変異のままである配列を含むことができる。いくつかの実施形態では、Asn
12は、別のアミノ酸残基(例えばGln)で置換され、Asn
13は、別のアミノ酸残基(例えばGln)で置換され、及び/又はPhe
14は、別のアミノ酸残基(例えば、Tyr又はTrp)で置換される。特定の実施形態では、ポリペプチドは、配列番号118、配列番号119、配列番号120、配列番号121又は配列番号122の配列を含むことができる。
【0035】
ポリペプチドが配列番号117の断片である場合、又はポリペプチドが配列番号117の断片を含む配列番号117の類似体である場合、断片は、配列番号117の6〜18の隣接するアミノ酸残基と同一の少なくとも6アミノ酸残基(例えば6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18アミノ酸残基)の長さを有してよい。本発明に従って、断片は、Lys
10-Arg
11-Asn
12-Asn
13-Phe
14-Lys
15(配列番号123)であり得る。配列番号17の生物活性類似体は、10位及び15位のリジン残基が不変異である配列、又は10位及び15位のリジン残基並びに16位のアルギニン残基が不変異である配列を有する(からなる)か又は含む(include/comprise)ことができる。後者の場合、生物活性類似体は、式Lys-Arg-Xaa
3-Xaa
4-Xaa
5-Lys(配列番号106)と一致する配列を有するか又は含むことがある。Xaa
3はAsn又はGlnであり得、Xaa
4はAsn又はGlnであり得、Xaa
5はPhe、Tyr又はTrpであり得る。上記の配列、すなわち配列番号123は、配列番号106の包括的な式と一致する。Xaa
3、Xaa
4及びXaa
5が選択される本明細書に記載するその他のポリペプチドと同様に、これらは、保存置換であり得る(すなわち、隣接するAsn残基は、独立して、Gln、Glu、Asp又はHisで置き換えることができ、Pheは、Tyr又はTrpで置き換えることができる)。Xaa
3、Xaa
4及びXaa
5は、鏡像異性形態で変動することもでき、天然に存在しないアミノ酸残基であってもよく、又は本明細書に記載する別の特性若しくは特徴に基づいて選択できる。
【0036】
抗体成分:ポリペプチド(例えば、アプロチニン由来ポリペプチド)に加えて、本発明のタンパク質コンジュゲートは、抗体成分又はその生物活性バリアントを含む。上記のように、抗体成分は、天然に発現された抗体(例えば、4量体抗体)又はその生物活性バリアントであり得る。抗体成分は、天然に存在しない抗体(例えば、単鎖抗体又はダイアボディ)又はその生物活性バリアントでもあり得る。バリアントは、限定することなく、天然に存在する抗体の断片(例えば、4量体抗体等のFab断片又はF(ab')2断片)、scFv若しくはダイアボディの断片、又は4量体抗体、scFv、ダイアボディのバリアント若しくは1つ以上のアミノ酸残基の付加及び/若しくは置換により異なるその断片を含む。抗体成分は、例えばジ-ダイアボディとしてさらに工学的に操作されることができる。
【0037】
当該技術において周知であるように、ある種の抗体断片は、「全長」抗体の酵素処理により作製できる。パパインを用いる消化は、2つの同一Fab断片(それぞれは単一抗原結合部位を有する)と残りのFc断片とを生成する。Fab断片は、軽鎖の定常ドメインと重鎖のC
H1ドメインも含有する。対照的に、ペプシンでの消化は、2つの抗原結合部位を有し、抗原をまだ架橋できるF(ab')
2断片を生じる。本発明のコンジュゲートに組み込まれる抗体成分は、これらの酵素を用いる消化により作製できるか又は他の方法により生成できる。
【0038】
これもまた組み込むことができるFab'断片は、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステイン残基を含むさらなる残基をC
H1ドメインのC末端に含むことによりFab断片とは異なる。定常ドメインのシステイン残基は、遊離チオール基を保有し、これは、本明細書に記載するコンジュゲーション反応に参加できる。F(ab')
2抗体断片は、ヒンジ領域中のシステイン残基により連結したFab'断片の対である。抗体断片のその他の化学的カップリングも当該技術において知られており、本発明において有用である。
【0039】
Fv領域は、1つの重鎖と1つの軽鎖可変ドメインとからなる完全抗原認識結合部位を含有する最小限の断片である。各可変ドメインの3つのCDRが相互作用して、V
H-V
L2量体の表面上の抗原結合部位を規定する。一括して、6つのCDRが抗体に抗原結合特異性を与える。当該技術において知られていようが、「単鎖」抗体又は「scFv」断片は、抗体のV
H及びV
Lドメインが、抗原を認識して抗原と結合する単一ポリペプチド鎖中に含まれる場合に形成される単鎖Fvバリアントである。典型的に、単鎖抗体は、scFvが抗原結合のための所望の3次元構造を形成できるようにするV
HドメインとV
Lドメインとの間のポリペプチドリンカーを含む(例えばThe Pharmacology of Monoclonal Antibodies中のPluckthun、Rosenburg及びMoore編、Springer-Verlag、New York、113:269〜315頁、1994を参照されたい)。
【0040】
他の実施形態では、抗体成分は、ダイアボディであり得る。ダイアボディは、2つの抗原結合部位を有する小型抗体断片である。各断片は、V
Lドメインと連なったV
Hドメインを含有する。しかし、ドメイン間のリンカーは短すぎて同じ鎖上のドメイン間の対形成を可能にしないので、連結したV
H-V
Lドメインは、別の鎖の相補ドメインと対形成せざるを得ず、そのことにより2つの抗原結合部位が創出される。ダイアボディは、例えばEP404,097、WO93/11161及びHollingerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444〜6448頁、1993に、より完全に記載されている。
【0041】
その他の実施形態では、抗体成分は、直鎖状抗体であり得る。この場合、抗体成分は、抗原結合領域の対を形成する直列Fdセグメントの対(VH-CH1-VH-CH1)から形成される。直鎖状抗体は、例えばZapataら、1995、Protein Eng. 8(10):1057〜1062頁、1995に記載されるように2重特異性又は1重特異性であり得る。
【0042】
標的に関して、抗体成分(例えば、クラス(すなわちIgGクラス又は別のクラスのもの)及びヒト、ヒト化、キメラ、ポリクローナル、モノクローナルであるか若しくは本明細書に記載する任意のその他の属性若しくは特徴を有するかに関わらず、4量体抗体、その生物活性バリアント、scFv、Fab断片、Fab'断片若しくはF(ab')2断片又はそれらの生物活性バリアント)は、ジスプラシック(dysplasic)細胞、腫瘍細胞又は悪性細胞(例えば、腫瘍抗原)の細胞表面に発現される抗原及び増殖因子受容体又はサイトカイン受容体(例えば、インターロイキン受容体)と特異的に結合できる。増殖因子受容体は、上皮増殖因子(EGF)ファミリーのメンバーと結合する受容体であり得る。EGFファミリーのタンパク質についての受容体の例は、EGF受容体(EGFR)、ヘパリン結合EGF様増殖因子受容体(HB-EGFR)、アンフィレギュリン受容体(AR)、エピレギュリン受容体(EPR)、エピゲン(epigen)受容体、ベータセルリン受容体及びニューレギュリンについての受容体(例えばニューレギュリン1、ニューレギュリン2、ニューレギュリン3又はニューレギュリン4についての受容体)を含む。本発明は、そのように限定されないが、EGFRを標的にする場合、抗体成分は、トラスツズマブ、セツキシマブ若しくはパニツムマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ若しくはパニツムマブの重鎖及び軽鎖の可変領域を含むscFv、又はこれらの4量体若しくは単鎖抗体の生物活性バリアントであり得る。例えば、トラスツズマブ、セツキシマブ又はパニツムマブのFab又はF(ab')2断片。他の実施形態では、増殖因子受容体は、血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーのメンバーが結合する受容体であり得る。VEGFファミリーのタンパク質を標的にする受容体の例は、VEGF受容体(VEGFR、例えばVEGF-A、VEGF-B、VEGF-C又はVEGF-Dについての受容体)又は胎盤増殖因子(PGFR)についての受容体を含む。上記のように、本発明のタンパク質コンジュゲート中の抗体成分についてのその他の適切な標的は、腫瘍壊死因子(TNF)ファミリーのメンバーについてのものを含むサイトカイン受容体である。これらの受容体は、TNFが結合するもの(TNF-α又はカケクチンとしても知られる)、リンホトキシン-α(LT-α)、T細胞抗原gp39(CD40L)、FASL、4-1BBL、OX40L及びTNF関連アポトーシス誘発リガンド(TRAIL)を含む。標的にされる受容体がインターロイキン受容体である場合、抗体成分は、インターロイキン-2(IL-2)又はインターロイキン-6(IL-6)受容体と特異的に結合できる。本発明は、そのように限定されないが、抗体成分がIL-2についての受容体を標的にする場合、抗体成分は、バシリキシマブ若しくはダクリズマブ、バシリキシマブ若しくはダクリズマブの重鎖及び軽鎖の可変領域を含むscFv、又は4量体若しくは単鎖抗体の生物活性バリアントであり得る。例えば、抗体成分は、バシリキシマブ又はダクリズマブのFab又はF(ab')2断片であり得る。同様に、抗体成分がIL-6についての受容体を標的にする場合、抗体成分は、トシリズマブ、トシリズマブの重鎖及び軽鎖の可変領域を含むscFv、又はこの4量体若しくは単鎖抗体の生物活性バリアント(例えば、トシリズマブのFab又はF(ab')2断片)であり得る。機能に関して、抗体成分は、抗癌剤又は抗炎症剤であり得る。
【0043】
以下の実施例に記載するもののいくつかを含む現在までの本発明者らの研究のいくつかは、ヒト上皮増殖因子2(HER2)/neu受容体と高い親和性で結合するマウスからヒト化したモノクローナル抗体であるトラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))を用いて行った。トラスツズマブは、乳癌の処置についてFDA承認を受けている。HER2/neu受容体は、既知のリガンドがないオーファン受容体と考えられている。しかし、これは腫瘍細胞の表面で発現され、細胞周期進行、細胞生存、細胞増殖及び細胞運動性のような重要な細胞プロセスを調節する。トラスツズマブ又はHER2と選択的に結合する任意の抗体成分は、ある種の腫瘍について臨床的に適切なバイオマーカーであり得る。治療的に、トラスツズマブがHER受容体と結合する場合、トラスツズマブは、成長及び分裂する細胞の能力を阻害するだけでなく、宿主の免疫系による破壊のために細胞に印もつける。
【0044】
細胞毒:広く多様な細胞傷害性薬剤を本発明のコンジュゲートに組み込むことができる。これらは、タキサン(イチイ(Taxus)属の植物により生成されるジテルペン)、特に抗癌剤として現在処方されているタキサン(Taxol(登録商標)(パクリタキセル)及びTaxotere(登録商標)(ドセタキセル)及びJevtana(登録商標)(カバジタキセル)を含む)を含む、微小管を標的にする細胞毒を含む。パクリタキセル及びドセタキセルは、本発明のコンジュゲートを用いて処置できる患者を処置するための抗悪性腫瘍薬として現在処方されている(例えば、肺癌、乳癌、頭頚部の有棘細胞癌並びに食道、胃及び大腸癌)。エポチロン(例えば、エポチロンA、B、C、D、E又はF)及びエリブリンのような微小管を標的にする非タキサン薬剤も組み込むことができる。
【0045】
その他の有用な細胞傷害性薬剤は、アルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン及びビノレルビンのようなビンカアルカロイド)、アルキル化剤(例えばシクロホスファミド、メクロレタミン、クロラムブシル又はメルファン(melphan))、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン及びバルルビシン)、オーリスタチン(例えば、モノメチルオーリスタチンE(MMAE)、葉酸代謝拮抗剤(例えば、メトトレキセート又はアミノプテリン)、カリチアマイシン(例えば、カリチアマイシンγ1)、デュオカルマイシン(例えば、アドゼレシン、ビゼレシン又はカルゼレシン)、マイトマイシン(例えば、マイトマイシンC)、ピリミジン類似体(例えば、フルオロウラシル)又はミタンシンの誘導体(例えば、アンサマイトシン、メルタンシン又はエムタンシンのようなミタンシノイド)を含む。
【0046】
細胞毒は、ドキソルビシン、メトトレキセート、マイトマイシン、フルオロウラシル及びビンカアルカロイドのような一般的に効力がより低いと考えられるものであり得る(Senter、Curr. Opin. Chem. Biol. 13:235〜244頁、2009)。オーリスタチン(例えば、モノメチルオーリスタチン(MMAE))、マイタンシノイド(アンサマイトシン、メルタンシン又はエムタンシンのようなマイタンシンの誘導体)又はカリチアマイシン(カリチアマイシンγ1のようなエンジイン抗生物質のクラス)のようなより効力が高い細胞毒も採用できる。
【0047】
構成:抗体成分、細胞傷害性薬剤、リンカー及びポリペプチドを含む所定のコンジュゲートの各部分は、独立して選択できる。つまり、本明細書に記載するリンカーのいずれも、本明細書に記載する任意のポリペプチド及び細胞傷害性薬剤を、本明細書に記載する任意の抗体成分にコンジュゲートするために用いることができる(但し、当業者が理解するであろうように、連結する構成部分は、適合する反応性置換基を含む)。コンジュゲートは、次いで、CNS癌又はその他の癌の処置のために患者に抗体成分及び細胞傷害性薬剤を送達するために用いることができる。本発明者らは、抗体成分を「第1作用物質」、細胞毒を「第2作用物質」ということがある。第1作用物質が抗体であり、第2作用物質が小分子薬物(例えば、細胞毒)である場合、抗体成分と小分子薬物(例えば、細胞毒)との組み合わせは、疾患(例えば、癌)のための併用治療である。検出可能なマーカーを含めると、本発明のコンジュゲートは、造影剤として用いることもでき、抗体成分が結合する標的及び/又はポリペプチドが親和性を有する受容体の分布をマッピングするための手段を提供できる。
【0048】
具体的な構成は以下でさらに論じるが、本発明者らは、所定のタンパク質コンジュゲートが各抗体成分に対して1つ以上のポリペプチド部分(例えば、コンジュゲート内の各抗体に対して1〜512のポリペプチド)、そしてポリペプチドに対して1つ以上の細胞傷害性薬剤(例えば、ポリペプチドあたり1〜3の細胞傷害性薬剤)を含むことができることを記載しておく。上記のように、所定のタンパク質コンジュゲートは、単一抗体成分を含む可能性があるが、互いに同一又は互いに異なる2つ以上(例えば2、3又は4)を含むことがある。異なる場合、抗体成分は、特異的に同じ標的又は異なる標的と結合してよい。本発明のコンジュゲートの構成部分は、様々な様式で構成できる。全般的に、コンジュゲートは、抗体成分が少なくとも1つのポリペプチドに連結し、これが次いで少なくとも1つの細胞傷害性薬剤に連結している本質的に直鎖状の形態であると仮定できる。代わりに、コンジュゲートは、1つ以上の枝が抗体成分からある点にて伸びているデンドリマーにおいて見られるような分岐鎖状の構成を有することができる。本発明のコンジュゲートが分岐鎖状部分を含む場合、本発明者らは、抗体成分を含めることにより完全な対称デンドリマー形態が可能でないことを理解しつつ、コンジュゲートを「デンドリマーコンジュゲート」ということがある。デンドリマー状コンジュゲートは、式I:
【0049】
【化1】
(式中、Dは、デンドリマーコンジュゲートのコア成分(X
コア)に直接的(例えば、抗体成分上の改変残基とX
コアとの間の結合により)又は間接的(例えば、抗体成分をX
コアにつなげる2官能性リンカーにより)に連結する抗体成分である)として構築できる。X
コア及びX
枝はともにコンジュゲートのある部分を別の部分につなげるので、本発明者らは、これらの部分をより単純に「リンカー」ということもある。コア成分の複雑さは変動でき、利用可能な伸長点pの数は、2から6(両端を含む)までで変動する。各伸長点pは、X
コアと同様に様々な複雑さを有する枝成分X
枝(各X
枝は2から4つの枝bを有する)で終結できる(そしてX
枝につなげることができる)。X
nthは、n個の表面の枝の1つであり、l(1から5まで(両端を含む)の整数である)は、X
枝成分の連続層の数である。lが1である場合、各X
枝は、X
コアと結合する。lが1より大きい場合、第1のX
枝から離れた各X
枝は、別のX
枝と結合する。表面の枝に関して、X
nthは、デンドリマーのn個の表面の枝の1つである。n=p(b)
l、nは典型的に≦512(例えば≦500、≦400、≦300、≦200、≦50、≦10又は≦8の枝)である。説明すると、以下のとおりである。伸長点pが2つあり、lが1であり、各X枝から2つの枝bがある場合、X
nthは4である。伸長点pが3つあり、lが1であり、各X枝から3つの枝bがある場合、X
nthは9である、などである。A
mは、表面の枝X
nthと結合している本明細書に記載するポリペプチドである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドA
mの数は、表面の枝の数以下である。なぜなら、各表面の枝がポリペプチドにつながれ、いくつかの表面の枝は、いずれのさらなる成分も有さないか、又は細胞傷害性薬剤D'に直接つながれることができる(すなわち、いくつかの表面の枝では、A
mで表されるポリペプチドは存在しない)からである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドA
mの数は、表面の枝の数より多い。なぜなら、各表面の枝が第1ポリペプチドにつながれることができ、これが同じ又は異なる種類の第2ポリペプチドと、尾-頭又は頭-尾の構成で融合されるからである。細胞傷害性薬剤D'は、1つ以上のA
mと結合するか、又は上記のように、1つ以上のX
nthと直接結合して1つ以上(しかし全てではない)のA
mを置き換えることがある。デンドリマーコンジュゲート中のD'の数は、3つまでの細胞傷害性薬剤を各ポリペプチドにつなげることができるので、ポリペプチドの数の3倍までであり得る。D、D'及びA
mを除くデンドリマーの分子量は、≦500キロダルトン(例えば≦500、≦400、≦300、≦200、≦100、≦50又は≦20キロダルトン)である。
【0050】
X
コア又はX
枝として採用されるリンカーは、同じ又は異なることができ、X
コア又はX
枝として2官能性リンカーを採用することにより、複雑さがより少ないデンドリマーコンジュゲートを作製できる。X
コアが2官能性リンカーである場合、pは1であり、X
コアから複数の伸長により生じるであろう複雑さがない。この配置を以下の式に示し、コンジュゲートの残りの部分については上記のとおりである。
【0052】
この構成のバリアントでは、X
コアは存在せず、この場合、抗体成分がX
枝と直接つながれる。X
コアよりもむしろX
枝が2官能性リンカーである場合、bは1であり、X
枝からの複数の伸長により生じるであろう複雑さがない。この配置を以下の式に示し、コンジュゲートの残りの部分については上記のとおりである。
【0054】
デンドリマー状コンジュゲートのある利点は、複数のポリペプチド及び/又は細胞毒がコンジュゲートできる複数の表面官能基が含まれることである。デンドリマー状コンジュゲートの複雑さを変更できることにより、タンパク質コンジュゲートの様々な構成部分を適応させ得る。X
コア及びX
枝がともに2官能性リンカーである場合、コンジュゲートは、直鎖状であり、デンドリマー状でない。
【0055】
デンドリマーを合成する方法は当該技術において周知であり、デンドリマーの分岐鎖状部分(X
コア及びX
枝成分)も、様々な数の枝の層を有するものを供給業者から購入できる。デンドリマーは、分岐的合成又は集束的合成のいずれかの既知の方法により構築できる。前者では、デンドリマーをそのコアから組み立てて、一連の反応により外側に伸長させる。後者では、小分子からデンドリマーを組み立てて、反応が内向きに進むので構造の末梢で終わる。各アプローチの利点は、当該技術において認識されている。代わりに、デンドリマーは、ディールス-アルダー反応、チオール-イン反応及びアジド-アルキン反応を採用するクリックケミストリーにより合成できる。
【0056】
任意の所定のデンドリマーは、コア及び枝の中に異なる官能基を有して、溶解性、熱安定性及び特定の用途のための化合物の結合のような特性を制御するように合成できる。合成プロセスは、サイズ、枝の数、コアからの枝の層の数及び様々な反応性基の結合のための末端枝の官能基を厳密に制御することもできる。
【0057】
コンジュゲートのデンドリマー部分は、コア成分として、プロパルギルアミン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、ペンタエリスリトール、テトラフェニルメタン、アジド-プロピル(アルキル)アミン、ヒドロキシエチル(アルキル)アミン、トリメソイルクロリド、ジアミノヘキサン、ジアミノブタン、シスタミン、プロピレンジアミン及び上記のもののいずれかの誘導体を含んでよい。これらのコア成分は、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーを合成するために用いることができる。リジンも、コア成分として用いてポリリジンデンドリマーを合成できる。代わりに、化合物は、プロピレンイミンを含んで、POPAMデンドリマーを合成できる。
【0058】
本発明のコンジュゲートは、枝成分として、プロパルギルアミン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、ペンタエリスリトール、プロピルアミン、プロピレンイミン、アジド-プロピル(アルキル)アミン、ヒドロキシエチル(アルキル)アミン、テトラフェニルメタン、トリメソイルクロリド、ジアミノヘキサン、ジアミノブタン、シスタミン、プロピレンジアミン及びリジン又は上記のもののいずれか1つの誘導体を有することができる。
【0059】
デンドリマーの表面の枝は、適当な反応性基で誘導体化したポリペプチドとのコンジュゲーションのために官能化できる。例えば、表面の枝は、N-スクシンイミジル3-2-ピリジルジチオ(SPDP)のようなリンカーで官能化してデンドリマー-ピリジル-ジスルフィド中間体を作製し、これを次いでシステイン残基(又はその他の-SH保有基)を含有するポリペプチドと反応させることができる。代わりに、デンドリマーの表面の枝は、リンカーN-スクシンイミジルS-アセチルチオアセテート(SATA)又はN-スクシンイミジル-S-アセチルチオプロピオネート(SATP)で官能化してデンドリマー-スルフヒドリル中間体を作製し、これをマレイミドで誘導体化したポリペプチドと反応させることができる。SATA及びSATPは、アミンに対して反応性であり、保護されたスルフヒドリル基を付加して、アミンから硫黄へのコンジュゲーションをもたらす(以下にさらに記載するとおり)。
【0060】
リンカー:本発明の組成物内の所定のリンカーは、切断可能な連結(例えば、チオエステル連結)又は切断不可能な連結(例えば、マレイミド連結)をもたらすことができる。例えば、細胞傷害性タンパク質は、ポリペプチド中のリジン残基及び/又はポリペプチドのアミノ末端に存在する改変遊離アミンと反応するリンカーと結合できる。よって、本発明のコンジュゲートにおいて有用なリンカーは、抗体成分とコンジュゲートするポリペプチド又は改変ポリペプチド上の1級アミンと反応性の基を含むことができる。より具体的には、リンカーは、モノフルオロシクロオクチン(MFCO)、ビシクロ[6.1.0]ノニン(BCN)、N-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート(SATA)、N-スクシンイミジル-S-アセチルチオプロピオネート(SATP)、マレイミド及びジベンゾシクロオクチンエステル(DBCOエステル)からなる群から選択できる。所定のリンカー内で有用なシクロオクチンは、OCT、ALO、MOFO、DIFO、DIBO、BARAC、DIBAC及びDIMACを含む。
【0061】
コンジュゲートの成分は、様々な連結基(リンカー)、例えば、スルフヒドリル基、アミノ基(アミン)又は任意の適当な反応性基によりコンジュゲートできる。リンカーは、共有結合であり得る。本発明のコンジュゲートにおいて有用なホモ2官能性及びヘテロ2官能性クロスリンカー(コンジュゲーション剤)は、多くの商業的な供給源から入手可能である。当該技術において知られているが、本発明者らは、ホモ2官能性クロスリンカー中の反応性基が、同一であり、リンカーの正反対の端にある(例えば、クロスリンカーのスペーサアーム)ことを簡単に記載しておく。これらは、1ステップ化学的架橋を用いて反応を完了できるので作業が簡便であり、2量体及び多量体を形成することが望まれるところで組み立てることができる。ヘテロ2官能性クロスリンカーは、2つの異なる基を有し、このことによりコンジュゲーションが2ステップ反応として進行することが可能になる。これらのリンカーも、異なる種類のスペーサアームの異なる長さで商業的に入手可能である。コンジュゲーションは、1級アミン基(例えば、リジン残基上)とスルフヒドリル基(例えば、システイン残基上)との間で進みうる。同じ又は異なる反応性基の数がより多いリンカーを用いて、2つより多い実体を連結できる。例えば、ホモ又はヘテロ3官能性リンカーは、1つの抗体成分と2つのポリペプチドとを連結できる。
【0062】
商業的に入手可能なホモ2官能性クロスリンカーは、BSOCOES(ビス(2-[スクシンイミドオキシカルボニルオキシ]エチル)スルホン、DPDPB(1,4-ジ-(3'-[2ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ブタン、DSS(ジスクシンイミジルスベレート)、DST(ジスクシンイミジルタルタレート)、スルホDST(スルホジスクシンイミジルタルタレート)、DSP(ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、DTSSP(3,3'-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)、EGS(エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート))、及びBASED(ビス(β-[4-アジドサリチルアミド]-エチル)ジスルフィドヨウ素化可能)を含む。
【0063】
架橋のために利用可能な部位は、ポリペプチド上で見出すことができる。リンカー基は、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又は20の炭素原子を、例えば脂肪族鎖中に有するフレキシブルアームであってよいか又は該アームを含んでよい。脂肪族リンカーを
図2に示す(例えば、ポリペプチドとのアミド結合及び細胞傷害性薬剤とのエステル結合を有する)。上記のように、脂肪族リンカーを用いる場合、これは、長さ(例えばC
1〜C
20)及びそれが含む化学的な部分(例えば、アミノ基又はカルバメート)に関して変動してよい。一般的に、短いアームを有すると考えられるリンカーは、<2炭素の炭素鎖を有する。中程度のサイズのアームは、2〜5炭素原子の炭素鎖を有し、長いアームのリンカーは、鎖中に6つ以上の炭素を有する。例示的なリンカーは、ピリジンジスルフィド、チオスルホネート、ビニルスルホネート、イソシアネート、イミドエステル、ジアジン、ヒドラジン、チオール、カルボン酸、マルチペプチドリンカー及びアセチレンを含む。代わりに、用いることができるその他のリンカーは、BS
3[ビス(スルホスクシンイミジル)-スベレート](これは、近づくことができる1級アミンを標的にするホモ2官能性N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステルである)、NHS/EDC(N-ヒドロキシスクシンイミド及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(NHS/EDCは、1級アミン基とカルボキシル基とのコンジュゲーションを可能にする)、スルホ-EMCS([N-ε-マレイミドカプロン酸]ヒドラジド(スルホ-EMCSは、スルフヒドリル及びアミノ基に対して反応性があるヘテロ2官能性反応性基である)、ヒドラジド(ほとんどのタンパク質は、露出した炭水化物を含有し、ヒドラジドは、カルボキシル基と1級アミンとを連結するために有用な試薬である)を含む。ホモ又はヘテロ2官能性クロスリンカーとの架橋のために利用可能な領域は、本発明のポリペプチド上で見出すことができる。別の有用なリンカーは、SATA(N-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート)であり、これは、アミンに対して反応性があり、保護されたスルフヒドリル基を付加する。用いる方法に関して、抗体成分とポリペプチドとのコンジュゲーションのプロセスは、好ましくは、免疫特異性又は免疫反応性のような抗体成分の重要な特徴を変更又は変化させない。ホモ2官能性アミン特異的クロスリンカーは、1級アミンの選択的コンジュゲーションについてNHS-エステル及びイミドエステル反応性基に依存でき、切断可能であってよい。
【0064】
共有結合を形成するために、ヒドロキシル部分がペプチドを改変するために要求されるレベルにて生理的に許容される場合、化学的反応性基として、広く多様な活性カルボキシル基(例えば、エステル)を用いることができる。具体的な作用剤は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N-ヒドロキシ-スルホスクシンイミド(スルホ-NHS)、マレイミド-ベンゾイル-スクシンイミド(MBS)、ガンマ-マレイミド-ブチリルオキシスクシンイミドエステル(GMBS)、マレイミドプロピオン酸(MPA)、マレイミドヘキサン酸(MHA)及びマレイミドウンデカン酸(MUA)を含む。
【0065】
1級アミンは、NHSエステルの主な標的である。近づくことができるα-アミン基は、タンパク質のN末端に存在し、リジンのε-アミンは、NHSエステルと反応する。よって、本発明の化合物は、ペプチドのN末端又はリジンのε-アミンにコンジュゲートしたNHSエステルを有するリンカーを含むことができる。アミド結合は、NHSエステルが1級アミンと反応してN-ヒドロキシスクシンイミドを遊離する場合に形成される。本発明者らは、反応性基を含有するこれらのスクシンイミドを、より単純にスクシンイミジル基ということがある。いくつかの実施形態では、タンパク質上の官能基は、チオール基であり、化学的反応性基は、ガンマ-マレイミド-ブチルアミド(GMBA又はMPA)のようなマレイミド含有基である。このようなマレイミド含有基は、本明細書においてマレイド(maleido)基ということがある。
【0066】
マレイミド基は、反応混合物のpHが6.5〜7.4である場合に、ペプチド上のスルフヒドリル基について最も選択的である。pH7.0では、マレイミド基とスルフヒドリル(例えば、血清アルブミン又はIgGのようなタンパク質上のチオール基)との反応の速度は、アミンとの反応速度よりも1000倍速い。よって、マレイミド基とスルフヒドリルとの間に安定なチオエーテル連結を形成できる。したがって、本発明の化合物は、ポリペプチドのスルフヒドリル基にコンジュゲートしたマレイミド基を有するリンカーを含むことができる。アミンからアミンへのリンカーは、NHSエステル、イミドエステルなどを含み、これらの例を以下の表に列挙する。
【0068】
リンカーは、以下の表に列挙するようなマレイミド及びピリジルジチオールのようなスルフヒドリルからスルフヒドリルへのリンカーであってもよい。
【0070】
リンカーは、NHSエステル/マリエミド(maliemide)化合物を含むアミンからスルフヒドリルへのリンカーであってもよい。これらの化合物の例を、以下の表に示す。
【0072】
リンカーは、アミノ基及び非選択的実体と反応できる。このようなリンカーは、NHSエステル/アリールアジド及びNHSエステル/ジアジリンリンカーを含み、これらの例を以下の表に列挙する。
【0074】
例示的なアミンからカルボキシルへのリンカーは、カルボジイミド化合物(例えば、DCC(N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド)及びEDC(1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド))を含む。例示的なスルフヒドリルから非選択的な基へのリンカーは、ピリジルジチオール/アリールアジド化合物(例えば、APDP((N-[4-(p-アジドサリチルアミド)ブチル]-3'-(2'-ピリジルジチオ)プロピオンアミド))を含む。例示的なスルフヒドリルから炭水化物へのリンカーは、マレイミド/ヒドラジド化合物(例えば、BMPH(N-[β-マレイミドプロピオン酸]ヒドラジド)、EMCH([N-ε-マレイミドカプロン酸]ヒドラジド)、MPBH4-(4-N-マレイミドフェニル)酪酸ヒドラジド)及びKMUH(N-[κ-マレイミドウンデカン酸]ヒドラジド))及びピリジルジチオール/ヒドラジド化合物(例えば、PDPH(3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド))を含む。例示的な炭水化物から非選択的な基へのリンカーは、ヒドラジド/アリールアジド化合物(例えば、ABH(p-アジドベンゾイルヒドラジド))を含む。例示的なヒドロキシルからスルフヒドリルへのリンカーは、イソシアネート/マレイミド化合物(例えば、(N-[p-マレイミドフェニル]イソシアネート))を含む。例示的なアミンからDNAへのリンカーは、NHSエステル/ソラレン化合物(例えば、SPB(スクシンイミジル-[4-(ソラレン-8-イルオキシ)]-ブチレート))を含む。
【0075】
タンパク質コンジュゲート中の様々な複雑さの分岐点を作製するために、リンカーは、3〜7つの実体を連結できるものであり得る。
【0077】
TMEA及びTSATは、それらのマレイミド基によりスルフヒドリル基に到達する。THPPのヒドロキシル基及びカルボキシ基は、1級又は2級アミンと反応できる。その他の有用なリンカーは、式Y=C=N-Q-A-C(O)-Z(式中、Qは、ホモ芳香族環系又はヘテロ芳香族環系であり、Aは、単結合又は非置換若しくは置換された2価のC
1〜30橋かけ基であり、Yは、O又はSであり、Zは、Cl、Br、I、N
3、N-スクシンイミジルオキシ、イミダゾリル、1-ベンゾ-トリアゾールイルオキシ、OAr(ここで、Arは、電子欠損活性化アリール基である)又はOC(O)R(ここで、Rは、-A-Q-N=C=Y又はC
4〜20の3級アルキルである)である)と一致する(米国特許第4,680,338号を参照されたい)。
【0079】
【化4】
(式中、R
1は、H、C
1〜6アルキル、C
2〜6アルケニル、C
6〜12アリール若しくはアラルキル又はこれらが2価の有機-O-、-S-若しくは
【0080】
【化5】
(ここで、R'は、C
1〜6アルキルである)連結部分とカップリングしたものであり、R
2は、H、C
1〜12アルキル、C
6〜12アリール又はC
6〜12アラルキルであり、R
3は、
【0081】
【化6】
又は隣接窒素の孤立電子対を非局在化させることができる別の化学構造であり、R
4は、R
3をペプチドベクター又は薬剤に連結させることができるペンダント反応性基である)を有する(米国特許第5,306,809号を参照されたい)。
【0082】
本発明のコンジュゲート中で有用な所定のリンカーは、少なくとも1つのアミノ酸残基も含んでよく、少なくとも又は約2、3、4、5、6、7、10、15、20、25、30、40又は50アミノ酸残基のペプチドであり得る。リンカーが単一アミノ酸残基である場合、これは、任意の天然に若しくは非天然に存在するアミノ酸(例えばGly、Cys、Lys、Glu又はAsp)又は2つのこのような残基を含むジペプチド(例えば、Gly-Lys)であり得る。リンカーが短いペプチドである場合、これは、配列[Gly-Gly-Gly-Gly-Ser]
n(配列番号129)(ここで、nは、1から6まで(両端含む)の整数である)を有するペプチド(米国特許第7,271,149号を参照されたい)のようなグリシンリッチペプチド(これは、柔軟になる傾向がある)又はセリンリッチペプチドリンカー(米国特許第5,525,491号を参照されたい)であり得る。セリンリッチペプチドリンカーは、式[X-X-X-X-Gly]
y(配列番号130)(ここで、2つまでのXは、Thrであり、残りのXは、Serであり、yは、1から5まで(両端含む)の整数である)(例えば、Ser-Ser-Ser-Ser-Gly(配列番号131)(ここで、yは、1より大きい))のものを含む。その他のリンカーは、剛直なリンカー(例えば、PAPAP(配列番号132)及び(PT)
nP(配列番号133)(ここで、nは、2、3、4、5、6又は7である))及びαヘリックスリンカー(例えば、A(EAAAK)
nA(配列番号134)(ここで、nは、1、2、3、4又は5である))を含む。リンカーがコハク酸である場合、その一方のカルボキシル基は、アミノ酸残基のアミノ基とアミド結合を形成してよく、その他方のカルボキシル基は、例えば、ペプチド又は置換基のアミノ基とアミド結合を形成してよい。リンカーがLys、Glu又はAspである場合、そのカルボキシル基は、アミノ酸残基のアミノ基とアミド結合を形成してよく、そのアミノ基は、例えば、置換基のカルボキシル基とアミド結合を形成してよい。Lysをリンカーとして用いる場合、Lysのε-アミノ基と置換基との間にさらなるリンカーを挿入してよい。さらなるリンカーは、コハク酸であってよく、これは、Lysのε-アミノ基及び置換基中に存在するアミノ基とアミド結合を形成できる。一実施形態では、さらなるリンカーは、Glu又はAsp(例えば、Lysのε-アミノ基とアミド結合を、そして置換基中に存在するカルボキシル基と別のアミド結合を形成するもの)であり、つまり、置換基は、N
ε-アシル化リジン残基である。
【0083】
ペプチドリンカーは、分岐鎖状ポリペプチドであってもよい。例示的な分岐鎖状ペプチドリンカーは、米国特許第6,759,509号に記載されている。このようなリンカーは、式:
【0084】
【化7】
[式中、Aは、チオール受容体であり、Wは、橋かけ部分であり、cは、0から1の整数であり、aは、2から12の整数であり、Qは、O、NH又はN-低級アルキルであり、pは、0又は1の整数であり、dは、0又は1の整数であり、Eは、多価原子であり、それぞれのbは、1から10の整数であり、それぞれのXは、式:
-CO-Y-Z
m-G
n
(式中、Yは、L型の2つのアミノ酸残基であり、Zは、1つ又は2つのアミノ酸残基であり、mは、0又は1の整数であり、Gは、自己犠牲スペーサであり、nは、0又は1の整数であるが、但し、nが0であるならば、-Y-Z
mは、Ala-Leu-Ala-Leu又はGly-Phe-Leu-Glyである)のものであるか、又はそれぞれのXは、以下の式のものである:
【0085】
【化8】
(式中、それぞれのX
1は、式-CO-Y-Z
m-G
n(ここで、Y、Z、Q、E、G、m、d、p、a、b及びnは、上で定義したとおりである)のものであるか、又はそれぞれのX
1は、以下の式のものである)
【0086】
【化9】
(式中、それぞれのX
2は、式-CO-Y-Z
m-G
n(ここで、Y、Z、G、Q、E、m、d、p、a、b及びnは、上で定義したとおりである)のものであるか、又はそれぞれのX
2は、以下の式のものである)
【0087】
【化10】
(式中、それぞれのX
3は、式-CO-Y-Z
m-G
n(ここで、Y、Z、G、Q、E、m、d、p、a、b及びnは、上で定義したとおりである)のものであるか、又はそれぞれのX
3は、以下の式のものである)
【0088】
【化11】
(式中、それぞれのX
4は、式-CO-Y-Z
m-G
n(ここで、Y、Z、G、Q、E、m、d、p、a、b及びnは、上で定義したとおりである)のものである)]のものを含む。
【0089】
分岐鎖状リンカーは、中間自己犠牲スペーサ部分(G)を採用してよく、これは、薬剤又はペプチドベクターと分岐鎖状ペプチドリンカーとを一緒に共有的に連結する。自己犠牲スペーサは、2つの化学部分を一緒に共有的に連結でき、前記間隔をあけた化学部分の一方を、3つの部分を有する分子から酵素による切断により遊離させることができる2官能性化学部分であり得る(例えば、本明細書に記載する任意の適当なリンカー)。ある種の実施形態では、Gは、間隔をあけ、薬剤又はペプチドベクターとペプチドリンカーとを一緒に共有的に連結する自己犠牲スペーサ部分(ここで、スペーサは、T部分を介して(以下の式で用いるように、「T」は、薬剤又はペプチドベクター中にすでに含有される求核原子である)ペプチドベクター又は薬剤に連結する)であり、これは、
【0090】
【化12】
(ここで、Tは、O、N又はSである)、-HN-R
1-COT(ここで、Tは、O、N又はSであり、R
1は、C
1〜5アルキルである)、
【0091】
【化13】
(ここで、Tは、O、N又はSであり、R
2は、H又はC
1〜5アルキルである)、
【0092】
【化14】
(ここで、Tは、O、N又はSである)又は
【0093】
【化15】
(ここで、Tは、O、N又はSである)で表すことができる。好ましいGは、PABC(p-アミノベンジル-カルバモイル)、GABA(γ-アミノ酪酸)、α,α-ジメチルGABA及びβ,β-ジメチルGABAを含む。
【0094】
分岐鎖状リンカーでは、チオール受容体「A」は、ペプチドベクター又は薬剤と、ペプチドベクター又は薬剤に由来する硫黄原子により連結する。チオール受容体は、例えば、α-置換アセチル基であり得る。このような基は、式:
【0095】
【化16】
(式中、Yは、Cl、Br、I、メシレート、トシレートなどのような脱離基である)を有する。チオール受容体がアルファ-置換アセチル基であるならば、リガンドとの連結後のチオール付加物は、結合-S-CH
2-を形成する。好ましくは、チオール受容体は、マイケル付加受容体である。本発明の代表的なマイケル付加受容体は、式
【0096】
【化17】
を有する。リガンドのチオール基の連結後に、マイケル付加受容体は、マイケル付加物、例えば
【0097】
【化18】
(ここで、Lは、薬剤又はペプチドベクターである)になる。
【0098】
橋かけ基「W」は、間隔をあけた2つの化学部分を一緒に共有的に連結して安定な3つの部分を有する分子を形成できる2官能性化学部分である。橋かけ基の例は、S. S. Wong、Chemistry of Protein Conjugation and Crosslinking. CRC Press、Florida、(1991)、並びにG. E. Means及びR. E. Feeney、Bioconiugate Chemistry、第1巻、2〜12頁(1990)(これらの開示は、本明細書に参照により組み込まれている)に記載されている。Wは、チオール受容体をケト部分に共有的に連結させることができる。例示的な橋かけ基は、式-(CH
2)
f-(Z)
g-(CH
2)
h-(式中、fは、0から10であり、hは、0から10であり、gは、0又は1であり(但し、gが0であるならば、f+hは、1から10である)、Zは、S、O、NH、SO
2、フェニル、ナフチル、ポリエチレングリコール、3から10の炭素原子を含有する脂環式炭化水素環又は3から6の炭素原子とO、N若しくはSから選択される1つ若しくは2つのヘテロ原子とを含有するヘテロ芳香族炭化水素環である)を有する。好ましい脂環式部分は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどを含む。好ましいヘテロ芳香族部分は、ピリジル、ポリエチレングリコール(1〜20の反復単位)、フラニル、ピラニル、ピリミジニル、ピラジニル、ピリダジニル、オキサジニル、ピロリル、チアゾリル、モルホリニルなどを含む。橋かけ基では、gが0である場合、f+hは、2から6の整数(例えば、2から4、例えば2)であることが好ましい。gが1である場合、fは、0、1又は2であり、hは、0、1又は2であることが好ましい。チオール受容体とカップリングした好ましい橋かけ基は、PierceカタログE-12、E-13、E-14、E-15、E-16及びE-17頁(1992)に示されている。
【0099】
改変ポリペプチド:本発明のタンパク質コンジュゲートに組み込まれるポリペプチドのいずれも、本明細書に記載するリンカーと化学的に相互作用するように、又は該リンカーを含むように改変できる。これらの改変ポリペプチド及びペプチド-リンカー構築物は、本発明の範囲内であり、抗体(例えば、リンカーと結合した抗体成分)又は細胞毒とのコンジュゲーションのプロセスを完了するための使用説明書を含むキットの構成成分として包装してよい。例えば、ポリペプチドは、抗体成分と結合したリンカー中のアルキンと反応するN
3アジド基を含むように改変できる(そして逆も当てはまる、ポリペプチドは、アルキンを含むリンカーと結合でき、これが、抗体成分から伸びるアジド基と反応する)。他の実施形態では、そして説明のためにのみ、ポリペプチドは、N末端、C末端又はその両方にて、例えばMal-AMCHC-OSu又はSPDPのようなマレイミド含有リンカーとの反応のためにシステイン残基又はその他のチオール保有部分(例えばC-SH)を含むように改変できる。上記のように、タンパク質コンジュゲートに組み込まれるポリペプチドは、細胞傷害性薬剤とコンジュゲートでき、細胞傷害性薬剤とコンジュゲートしたポリペプチドは、本発明の範囲内である。
【0100】
抗体-ポリペプチド-細胞毒コンジュゲート及びそれらを作製する方法:好ましいコンジュゲーション技術は、クロスリンカーSATA及びクリックケミストリーを適用することを含む。SATAは、2つの分子(例えば、抗体成分とポリペプチド部分)を連結するための共有結合の形成を容易にするヘテロ2官能性クロスリンカーである。スクシンイミジルエステルは、1級アミンと反応して、チオール基を分子中に導入し、次いで、アセチル基を除去することにより、スルフヒドリルを作製する。チオール基は、ジスルフィド結合を介して2つの部分を一緒に連結するための標的をもたらす。SATAを採用することの利点の1つは、改変分子を後のコンジュゲーション反応のために長期間貯蔵できることである。なぜなら、スルフヒドリル基を保護された形態(この形態は、本発明の範囲内である)で付加できるからである。
【0101】
上記のように、銅を用いないクリックケミストリー技術を用いて本明細書に記載するコンジュゲートを生成してよい。クリックケミストリーは、広く適用することができ、立体特異的であり、穏やかな条件(例えば、生理的条件)下で高い収率の生成物を生成できるモジュール反応と一般的に理解されている。クリックケミストリーは、4つのクラスの化学変換を包含すると記載されている。第1のものは、尿素、チオ尿素、オキシムエーテル、ヒドラゾン、アミド及び芳香族複素環を形成するもののような非アルドール型カルボニル化学反応である。第2の変換は、求核置換反応であり、ここでは、歪んだ複素環求電子試薬(例えば、エポキシド、アジリジン及びアジリジニウムイオン)内の環が開環される。第3のものでは、マイケル付加、エポキシ化、アジリジン化(aziridation)及びジヒドロキシル化のようなC-C多重結合に対する付加反応が生じ、第4のものは、1,3-双極子付加環化及びディールス-アルダー反応のような付加環化反応である。5員環トリアゾールを形成するアルキン及びアジドの1,3-双極子付加環化(1,3-ヒュスゲン反応)は、クリック反応の特定の例である。Guddehalli Parameswarappy、Sharavathi、「Bifunctional cyclooctines in copper-free click chemistry for applications in radionuclide chemistry nd 4-Alkylpyridine derivatives in intramolecular dearomatization and heterocycle synethsis」、論文、University of Iowa、2011.http://ir.uiowa.edu/etd/2710を参照されたい。クリックケミストリー法は、高収率をもたらす生成方法において毒性が高い触媒である銅を用いることがある。予備的なコンジュゲーション反応は、しかし、本発明のコンジュゲート中のポリペプチドの全体的な組み込みは非常に低かった(6%)ことを示した。コンジュゲートは、また、不安定であり、生成物の沈殿が観察された。よって、クリックケミストリーを用いるコンジュゲーションステップを最適化して、銅を用いないようにした。簡単に述べると、ステップ1は、コンジュゲーションのための活性化基と、中間体の精製及び透析を含む。このステップのために、第1成分(例えば、抗体又は抗体断片)をリンカーと反応させて、第1成分-リンカー中間体(例えば、抗体-又は抗体断片-リンカー中間体)を作製する。次に、コンジュゲーションのための活性基(すなわちアルキン)を有するリンカーと、第2成分(例えば、アジドを有するポリペプチド)とが反応して、所望のコンジュゲートを形成する(これは、さらに精製できる)。この第2ステップは、適切な基(アルキン及びアジド部分)の間の反応が、室温にて24時間以内に、タンパク質を変性することなく起こるので、効率的である。この手順のいずれのステップも、作製される分子の生物活性に干渉しない。
【0102】
代わりに、ポリペプチド部分は、酸化プロセスにより抗体成分の炭水化物部分に結合又はコンジュゲートさせてよい。炭水化物酸化の方法は、化学的又は酵素的であり得る。炭水化物部分は、抗体のFc領域、Fab又はFab'断片にあることができる。抗体成分のFc領域の酸化は、アルデヒドを生成するための既知の方法を用いて行うことができる。酸化剤は、過ヨウ素酸、パラ過ヨウ素酸、メタ過ヨウ素酸ナトリウム及びメタ過ヨウ素酸カリウムからなる群から選択できる。このステップの後に、1級アミン、2級アミン、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、ヒドラジド、フェニルヒドラジン、セミカルバジド又はチオセミカルバジドのようなアンモニア誘導体からなる群から選択されるアミン基との反応を行う。酵素的方法は、抗体分子の炭水化物部分を、酸素の存在下にガラクトースオキシデート(oxidate)のような酵素と反応させてアルデヒドを形成することを含む。
【0103】
本発明の化合物の製造:本発明は、本明細書に記載するタンパク質コンジュゲートを合成する方法を特徴とする。デンドリマーは、表面の枝上の反応性基を介して複数のポリペプチドとコンジュゲートできる。例えば、デンドリマーをN-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネートと反応させて、デンドリマー-ピリジル-ジスルフィド中間体を形成し、次いでその中間体を、システイン残基を含有するポリペプチドと反応させて、ポリペプチドをそれぞれの表面の枝に結合させることができる。代わりに、デンドリマーをN-スクシンイミジルS-アセチルチオアセテートと反応させてデンドリマー-スルフヒドリル中間体を形成した後に、ポリペプチドのマレイミド誘導体と反応させて、デンドリマー-ポリペプチド複合体を形成できる。
【0104】
デンドリマー-ポリペプチド複合体を、次いで、上記の第1作用物質と反応させて、得られたデンドリマー-ポリペプチド-第1作用物質複合体を、薬学的に許容される形態(例えば、薬学的に許容される塩として)で生成できる。
【0105】
代わりに、まず、デンドリマーを、官能基(例えば、アジド)を介して抗体成分と反応させ、得られたデンドリマー-抗体成分複合体の表面の枝を官能化して、表面の枝の末端に細胞毒又はポリペプチドに連結した細胞毒を結合させることができる。
【0106】
本発明のコンジュゲートを製造する方法は、上記のリンカーのいずれかをデンドリマーと結合させた後に、ポリペプチド又は抗体成分を結合させることをさらに含んでよい。
【0107】
評価:本発明のタンパク質コンジュゲートは、任意のいくつかの方法で評価できる。例えば、タンパク質コンジュゲートは、BBB透過性について(in situ脳灌流により又は米国特許第7,557,182号に記載されるモデルのようなBBBのex vivoモデルにおいて試験して)、その標的に対する抗体成分の親和性について、細胞傷害性について(例えば、BT-474[
3H]-チミジン取り込みにより)、in vitroでの溶解性及び/又は安定性について、純度について(例えば、低レベルのコンジュゲートしていない抗体成分及び低レベルのタンパク質凝集体は、ゲル分離及びウェスタンブロッティングにより確認できる)、並びにin vivoでの安定性及び組織分布について(例えば、経時的な血漿レベル及びイメージングアッセイにより組織分布を測定することにより)評価できる。
【0108】
本明細書に記載するコンジュゲートの合成に関する本発明の方法は、コンジュゲートの薬学的に許容される塩を生成するように容易に改変できる。このような塩を含む医薬組成物及びそれらの投与方法は、よって、本発明の範囲内である。
【0109】
医薬組成物:本発明は、治療有効量の本発明のタンパク質コンジュゲートを含有する医薬組成物も特徴とする。組成物は、任意の様々な投与の経路による投与用に製剤化でき、投与の経路に依存して変動し得る1種以上の生理的に許容される賦形剤を含むことができる。本発明者らは、「賦形剤」という用語を、「担体」又は「希釈剤」とよばれることもあるものを含む任意の化合物又は物質を広く意味するために用いる。薬学的及び生理的に許容される組成物の調製は、一般的に、当該技術における通常の手順と考えられ、当業者は、多数の権威に手引きを求めることができる。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Philadelphia、PA、第17版、1985を参考にできる。薬物送達のための方法の簡単なレビューについて、例えば、Langer(Science 249:1527〜1533頁、1990)を参照されたい。
【0110】
本発明の医薬組成物は、経口又は非経口投与用に調製できるが、本発明者らは、非経口投与が好まれると予期する(簡便性のためではなく、活性薬学的成分(ここでは、抗体成分及び/又は細胞毒)の送達を最適化するため)。非経口投与用に調製される医薬組成物は、静脈内(又は動脈内)、筋内、皮下、腹腔内、経粘膜(例えば、鼻内、膣内又は直腸)又は経皮(例えば外用)投与用に調製されるものを含む。エアロゾル吸入も企図され、本発明のコンジュゲートを送達するために用いることができる。よって、本発明は、許容される担体、好ましくは水、緩衝液、生理食塩水、緩衝生理食塩水(例えばPBS)などのような水性担体に溶解又は懸濁されたタンパク質コンジュゲートを含む非経口投与用の組成物を提供する。pH調節及び緩衝剤、等張性調節剤、湿潤剤、洗浄剤などのような含まれる1種以上の賦形剤は、生理的条件に近づける助けとなることができる。組成物が固体成分を含む場合(それらが経口投与用である場合など)、1種以上の賦形剤は、結合剤又は充填剤として作用できる(例えば、錠剤、カプセル剤などの製剤用に)。組成物が皮膚又は粘膜表面への適用のために製剤化される場合、1種以上の賦形剤は、クリーム、軟膏剤などの製剤用の溶剤又は乳化剤であり得る。
【0111】
医薬組成物は、滅菌されていてよい。これらは、従来の滅菌技術により滅菌されるか、又は滅菌ろ過されてよい。水溶液は、そのまま用いるために包装されるか又は凍結乾燥されてよく、本発明に包含される凍結乾燥調製物は、投与前に滅菌水性担体と組み合わされる。医薬組成物のpHは、典型的に、3から11の間(例えば、約5から9の間)又は6から8の間(例えば、約7から8の間)である。いくつかの実施形態では、医薬組成物のpHは、約7.0から7.5の間である。固体の形態で得られる組成物は、錠剤又はカプセル剤の密閉包装中でのように複数の単回用量単位(それぞれが一定量の上記の薬剤を含有する)で包装できる。固体の形態の組成物は、局所適用クリーム又は軟膏剤のために設計された絞ることができるチューブのような融通のきく量のための容器に包装することもできる。
【0112】
処置(治療)の方法:上記の医薬組成物は、治療有効量のタンパク質コンジュゲートを含むように製剤化できる。治療用の投与は、予防用の適用を包含する。遺伝子検査及びその他の予後予測の方法に基づいて、患者を担当する医師は、CNS癌についての臨床的に決定された素因又は高い感受性(非常に高い感受性である場合もある)を患者が有する場合に、予防的投与を選択できる。本発明の医薬組成物は、対象(例えば、ヒト患者)に、臨床疾患の発症を遅らせるか、低減するか又は好ましくは妨げるために十分な量で投与できる。治療的適用において、組成物は、CNS癌に既に罹患している対象(例えば、ヒト患者)に、徴候若しくは症状を少なくとも部分的に改善するか、又は状態の症状、その合併症若しくは成り行きの進行を阻害する(そして好ましくは停止する)ために十分な量で投与される。この目的を達成するために適当な量を、「治療有効量」と定義する。治療有効量の医薬組成物は、治癒を達成する量であり得るが、この結果は、達成され得るいくつかのもののうちの単に1つである。上記のように、治療有効量は、癌の発症若しくは進行を遅らせるか、妨害するか若しくは妨げるか、又は癌若しくは癌の症状が改善される処置をもたらす量を含む。1種以上の症状は、重症度がより低いことがある。回復は、処置された個体において加速されることがある。
【0113】
この使用のために有効な量は、CNS癌の重症度並びに対象の体重及び全身状態に依存し得るが、一般的に、対象あたり1回の用量投与あたり約0.05μgから約1000μgまで(例えば、0.5〜100μg)に等しい量の抗体-ポリペプチド-細胞毒コンジュゲートの範囲である。初回投与及び追加投与のための適切なレジームは、典型的に、初回投与と、1回以上の毎時、毎日、毎週又は毎月の間隔でその後投与する、その後の反復用量である。例えば、対象は、1週間あたり1回以上(例えば、1週間あたり2、3、4、5、6又は7回以上)で用量あたり、コンジュゲートしていない抗体成分と比較して、約0.05から1,000μgに等しい用量の範囲でタンパク質コンジュゲートを受けることができる。例えば、対象は、1週間あたり0.1から2,500μg(例えば2,000、1,500、1,000、500、100、10、1、0.5又は0.1μg)の用量を受けることができる。対象は、2又は3週間ごとに1回、用量あたり0.1から3,000μgの範囲の本発明のコンジュゲートを受けることもできる。対象は、毎週2mg/kgを受けることもできる(コンジュゲート又は抗体成分の重量に基づいて算出した重量を用いて)。
【0114】
本発明の医薬組成物中の全有効量の抗体-ポリペプチド-細胞毒コンジュゲートは、急速投与として若しくは比較的短い期間にわたる注入により単回用量として哺乳動物に投与できるか、又はより長い期間にわたって複数回用量が投与される分割処置プロトコールを用いて投与できる(例えば4〜6、8〜12、14〜16若しくは18〜24時間ごと、又は2〜4日、1〜2週間若しくは1カ月に1回の投与)。代わりに、血中の治療有効濃度を維持するために十分な連続静脈内注入が企図される。
【0115】
本発明の組成物内に存在し、本発明の方法において用いて哺乳動物(例えばヒト)に施与される1種以上の薬剤の治療有効量は、年齢、体重及びその他の一般的な条件(上記のような)における個別の差を考慮して当業者が決定できる。本発明の抗体-ポリペプチド-細胞毒コンジュゲートは、BBBを横切る能力が増進しているので、抗体成分の投与量は、コンジュゲートしていない場合の抗体成分の有効用量より低いことが可能である。例えば、抗体成分の投与量は、同じ又は同等のコンジュゲートしていない薬剤を用いて治療効果のために必要とされる用量の約90%、75%、50%、40%、30%、20%、15%、12%、10%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%又は0.1%以下であり得る。
【0116】
治療有効量は、当業者が経験的に決定することもできる。例えば、本発明の医薬組成物の単回又は複数回投与のいずれも、処置する医師が選択した投与量レベル及び投与のタイミング又はパターンで行うことができる。用量及び投与計画は、対象の疾患又は状態の重症度(これは、臨床家又はその他の熟練のある健康管理専門家が一般的に行う方法に従って処置の経過中にわたってモニタリングできる)に基づいて決定及び調節できる。
【0117】
キット:本発明のキットは、上記の組成物と適切な使用説明書(書面及び/又は聴覚、視覚若しくは視聴覚の資料として提供されるもののいずれか)の任意の組み合わせを含むことができる。一実施形態では、キットは、使用のための使用説明書と一緒に包装された医薬組成物又はその前駆体と、場合によって、投与のための調製及び/又は組成物の投与において組成物を操作する際に有用な任意のデバイスとを含む。例えば、本発明のキットは、希釈剤、手袋、バイアル又はその他の容器、ピペット、針、注射器、管、スタンド、スパチュラ、滅菌生地又は布、陽性及び/又は陰性対照などの任意の1種以上を含むことができる。別の実施形態では、本発明のキットは、タンパク質コンジュゲートを作製するために有用な組成物及び試薬を含む。例えば、キットは、抗体成分、リンカー、リンカーと結合した抗体成分、ポリペプチド、リンカーと反応できる化学実体及び/又は改変ポリペプチドの1種以上を含むことができる。例えば、一実施形態では、キットは、抗体成分と、リンカーと、リンカーと反応できる化学実体と、ポリペプチドとを含むことができる。他の実施形態では、キットは、リンカーと結合した抗体成分と、改変ポリペプチドとを含むことができる。組成物を投与するために有用なキットと同様に、組成物を作製する際に有用なキットは、希釈剤、手袋、バイアル又はその他の容器、ピペット、針、注射器、管、スタンド、スパチュラ、滅菌生地又は布、陽性及び/又は陰性対照などの1種以上を含むことができる。リンカーを抗体成分又はポリペプチドと結合させるため、ポリペプチドを改変するため、リンカーと結合した抗体成分を改変ポリペプチドとコンジュゲートするため(又はその逆、抗体成分をリンカーと結合したポリペプチドとコンジュゲートするため)、又はタンパク質コンジュゲートを精製及び試験するために有用な任意の試薬も含むことができる。上記のように、リンカーと結合した抗体成分及び改変ポリペプチドは、本発明の特徴的な組成物である。
【実施例】
【0118】
[実施例1]コンジュゲート抗HER2 mAb-[MFCO-An2-(SuDoce)
2]
nの合成
本発明のポリペプチドを細胞傷害性薬剤にコンジュゲートするためのスキームを
図6に示す。このスキームは、N
3An2-(SuDoce)
2を作製するためのAngiopep2(An2)とドセタキセル(Doce)との間のコンジュゲーションの例である。中間体DoceSuOHを作製するために、DIEA(0.21ml、1.2mmol)を、ドセタキセル(0.81g、1.0mmol)及び無水コハク酸(105mg、1.05mmol)のDCM(7ml)中の懸濁液に撹拌しながら滴加した。混合物を室温にて撹拌し、UPLCによりモニタリングした。2時間後に、反応は完了した。溶剤を除去し、得られた残渣をDMF(2ml)に溶解した。溶液を、0.05%ギ酸を含む水中の30% MeCN(6ml)で希釈し、精製のためにフェニル42mlカラムに直ちに載せた。DoceSuOHは、凍結乾燥後に白色の粉末として得られた(0.68g、75%)、UPLC純度>95%。N
3An2-(SuDoce)
2を作製するために、DIEA(0.012ml、0.07mmol)を、DoceSuOH(31mg、0.034mmol)及びHATU(14mg、0.037mmol)のDMF(0.8ml)中の溶液に5℃にて撹拌しながら滴加した。混合物を5℃から室温まで30分間撹拌し、次いで、アジドAngpep-2(53mg、0.017mmol)のDMSO(0.2ml)及びDMF(0.5ml)中の溶液を加えた。混合物を室温にて30分間撹拌した。HPLCにより反応が完了したことが示された。反応混合物を、分取HPLC(H
2O及び0.05% FA中の30%から60%のMeCN)を用いて精製して、凍結乾燥後に白色の粉末としてN
3An2-(SuDoce)
2(32mg、45%)を得た、UPLC純度>95%。
【0119】
本発明者らは、次いで、
図3、4及び5に示すようにN
3An2-(SuDoce)
2を抗HER2モノクローナル抗体にコンジュゲートした。コンジュゲートの抗体-リンカー部分(抗HER2 mAb-MFCO
n)を作製するために、MFCO(2.0mg、6.9μmol)をDMSO(1ml)に溶解し、0.07ml(0.48μmol、8eq)の溶液を、トラスツズマブのPBS緩衝溶液(5mg/ml、1.8ml)に移した。溶液のpHを、2塩基性リン酸塩溶液を用いて8.0に調節した。混合物を振とうし、室温にて3時間反応させた。改変抗体成分を過剰の小分子から、20mMリン酸塩緩衝液pH7.0で溶出する塩交換カラムを用いて精製した。タンパク質を含有する画分を集め、アミコン遠心フィルタ(MWCO 10,000)を用いて緩衝液をクエン酸塩/リン酸塩緩衝液pH5.0(それぞれ25mM、50mM)に交換した。3mlの最終溶液を得て、ブラッドフォードアッセイにより、2.7mg/mlの濃度、90%の収率が得られた。活性化トラスツズマブと呼ぶことがある抗体-リンカーを、次いで、コンジュゲートのポリペプチド-細胞毒部分にコンジュゲートして、抗HER2 mAb-[MFCO-An2-(SuDoce)
2]
n構築物を作製した。より具体的には、活性化トラスツズマブ(8.1mg、3ml、0.046μmol)を、酢酸塩緩衝液(pH5)で8mlに希釈し、tween 80(0.008ml)を加え、ボルテックスして均質な溶液を得た。N
3An2(DoceSu)
2(2.2mg、8当量)のDMSO(0.3ml)中の溶液を室温にて加えた。混合物を振とうし、室温にて2日間貯蔵した。過剰の小分子を、アミコン遠心フィルタ(MWCO 10,000)及びクエン酸塩/リン酸塩緩衝液pH5.0(それぞれ25mM、50mM)を4回用いて除去した。3mlの最終溶液を得て、濃度は2.8mg/mlであり、定量Maldi-tof分析により質量が162000であることが示され、これは、約3分子のN
3An2-(SuDoce)
2が抗HER2 mAbとコンジュゲートしたことを示した。
【0120】
[実施例2]細胞傷害性アッセイ
チミジン取り込みアッセイを用いる細胞増殖。BT-474腫瘍細胞を、白色96ウェルプレート(Perkin Elmer、USA)中で、ウェルあたり7500細胞の密度で培養した。まず、細胞を24h、血清除去培地中で同調させた。漸増濃度の抗HER2-Angiopep-2コンジュゲート(ANG4043)又は抗HER2-Angiopep-2-(ドセタキセル)2と細胞を5日間インキュベートした後に、完全培地を吸引し、細胞を4h、37℃/5%CO
2にて、2.5μCi/mLの[メチル-3H]-チミジン(Perkin Elmer、USA)を含有する完全培地中でパルス標識した。細胞を洗浄し、固定し、乾燥させた後に、Perkin Elmerからのシンチレーション液Microscint 0を加えた。24h後に、プレートを、プレートリーダーTopCount(Perkin Elmer、USA)を用いて読み取り、トリチウム摂取を決定した。取り込まれた[3H]-チミジンを、各薬物濃度についてプロットした。結果を
図7に示す。
【国際調査報告】