特表2015-526497(P2015-526497A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2015-526497肺高血圧症の治療のためのベータ−3アドレナリン受容体アゴニストの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-526497(P2015-526497A)
(43)【公表日】2015年9月10日
(54)【発明の名称】肺高血圧症の治療のためのベータ−3アドレナリン受容体アゴニストの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20150814BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20150814BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20150814BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20150814BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20150814BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20150814BHJP
   A61K 31/195 20060101ALI20150814BHJP
   A61K 31/36 20060101ALI20150814BHJP
   A61K 31/426 20060101ALI20150814BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150814BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61P11/00
   A61P9/12
   A61K31/137
   A61K31/196
   A61K31/216
   A61K31/195
   A61K31/36
   A61K31/426
   A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-529082(P2015-529082)
(86)(22)【出願日】2013年8月28日
(85)【翻訳文提出日】2015年4月27日
(86)【国際出願番号】ES2013070611
(87)【国際公開番号】WO2014033343
(87)【国際公開日】20140306
(31)【優先権主張番号】P201231343
(32)【優先日】2012年8月29日
(33)【優先権主張国】ES
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】515057883
【氏名又は名称】フンダシオン セントロ ナショナル デ インベスティガシオネス カルディオバスキュラレス カルロス テルセーロ (セエネイセ)
(71)【出願人】
【識別番号】513295630
【氏名又は名称】ホスピタル クリニック デ バルセロナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イバニェス カベサ ボルハ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア−アルバレス アナ
(72)【発明者】
【氏名】フステル カルジャ バレンティン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA16
4C084MA17
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA52
4C084MA55
4C084NA14
4C084ZA422
4C084ZA592
4C084ZC192
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA13
4C086BC82
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA09
4C086MA10
4C086NA14
4C086ZA42
4C086ZA59
4C086ZC19
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA07
4C206FA10
4C206FA31
4C206KA01
4C206KA04
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA13
4C206MA14
4C206NA14
4C206ZA42
4C206ZA59
4C206ZC19
(57)【要約】
本発明は、肺高血圧症の治療及び/又は予防に対するベータ−3アドレナリン受容体の選択的アゴニストの使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺高血圧症の治療及び/又は予防のために用いられる選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニスト化合物。
【請求項2】
前記選択的アゴニストが、
BRL37344、
CL316243、
AZ002、
BMS187257、
L−755507、
L−750355、
FR−149175、
GW427353(ソラベグロン)、
YM178(ミラベグロン)、
CR58611、
SR58611A(アミベグロン)、
SR59104A及び
SR59119A、
並びにそれらの薬学的に許容可能な塩からなる化合物群より選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記選択的アゴニストがフェニルエタノールアミンである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記選択的アゴニストが下記一般式:
【化1】
(式中、Rは水素又はハロゲンを表し、Rは任意に置換されていてもよいアラルキル又は
【化2】
から選択されるラジカルである)
を有する化合物である、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
がメタ位の塩素である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
が、任意にフェニル置換されていてもよい1−メチル−2−フェニルエチルラジカルである、請求項4に記載の化合物。
【請求項7】
前記選択的アゴニストがCL316243及びBRL37344、又はそれらの薬学的に許容可能な塩から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
前記選択的アゴニストがナトリウム塩の形態のBRL37344である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
が水素である、請求項4に記載の化合物。
【請求項10】
が任意にフェニル置換されていてもよい2−フェニルエチルラジカルである、請求項4に記載の化合物。
【請求項11】
前記選択的アゴニストがYM178(ミラベグロン)又はその塩である、請求項9又は10に記載の化合物。
【請求項12】
前記選択的アゴニストがGW427353(ソラベグロン)及びSR58611A(アミベグロン)、又はそれらの薬学的に許容可能な塩から選択される、請求項2〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医学分野に含まれ、より具体的には、肺高血圧症の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
正常値を超える平均肺動脈圧(PAP)の増加として定義される肺高血圧症(PH)は、肺血管抵抗(PVR)の増加及び右心室(RV)機能の進行性の低下を特徴とする一連の疾患を包含する(非特許文献1)。この点について、ほとんどの研究はヒトにおける典型的な平均PAPが約12mmHg〜15mmHgであることを考慮して、25mmHgを超える平均PAP値についてのPHに言及している。
【0003】
PHの原因は多く存在し、PHは5つの群、すなわち、肺動脈性高血圧症(PAH)、左心疾患に起因するPH、肺疾患に起因するPH、慢性血栓塞栓性PH、及び未知又は多因子起源のPHに分類されている。他の群と異なり、左心疾患に起因するPHは後毛細血管起源であり、肺毛細血管圧の増加を特徴とする。
【0004】
集団におけるPHの発生率は高く、高い罹患率及び死亡率と関連する。左室機能障害(孤立性の拡張期又は収縮期)を伴う患者のおよそ3分の2がPHを発症する。
【0005】
現在、PHに対する治療は存在しない。新たな薬理学的治療法の開発における進歩は、最も頻度の低いサブグループ(100万人に6症例の有病率)である原発性PHに焦点を絞ってきた。このサブグループでは、第一選択治療はカルシウムアンタゴニストであり、これは1%の症例で長期に亘って有効であるに過ぎない。プロスタグランジン(非特許文献2)、5−ホスホジエステラーゼ阻害剤(非特許文献3)又はエンドセリン受容体アンタゴニスト(非特許文献4)等の血管拡張剤を使用する他の治療は、より高い割合の患者において利益をもたらすが、それらの臨床上及び血行力学的な効果は少ない(2%〜10%の平均PAHの減少)。さらに、これらの治療は、左心室の病態に起因する肺高血圧症(最も頻繁である)にも、残りの肺高血圧症群においても一般的に一貫した効率性を証明していない。
【0006】
心血管疾患の分野では、β3アドレナリン受容体に関してはほとんど研究されていない。これらの受容体の刺激は、一酸化窒素の産生及び血管緊張の弛緩と関連する。ラット肺試料を用いる研究では、β3アドレナリン受容体の刺激は、用量依存的な弛緩をもたらした(非特許文献5)。イヌから摘出された肺動脈環の機能性研究では、β1、β2及びβ3のアドレナリン受容体の選択的刺激による弛緩の増加が観察された(非特許文献6)。しかしながら、対照マウス及び低酸素誘導性PHを伴うマウスから肺動脈を摘出する別の研究では、β3受容体の選択的刺激による弛緩の増加は観察されなかった(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】McLaughlin VV, Archer SL, Badesch DB, Barst RJ, Farber HW, Lindner JR, Mathier MA, McGoon MD, Park MH, Rosenson RS, Rubin LJ, Tapson VF, Varga J, Harrington RA, Anderson JL, Bates ER, Bridges CR, Eisenberg MJ, Ferrari VA, Grines CL, Hlatky MA, Jacobs AK, Kaul S, Lichtenberg RC, Moliterno DJ, Mukherjee D, Pohost GM, Schofield RS, Shubrooks SJ, Stein JH, Tracy CM, Weitz HH, Wesley DJ. ACCF/AHA 2009 expert consensus document on pulmonary hypertension: a report of the American College of Cardiology Foundation Task Force on Expert Consensus Documents and the American Heart Association: developed in collaboration with the American College of Chest Physicians, American Thoracic Society, Inc., and the Pulmonary Hypertension Association. Circulation 2009;119:2250-2294.
【非特許文献2】Barst RJ, Rubin LJ, Long WA, McGoon MD, Rich S, Badesch DB, Groves BM, Tapson VF, Bourge RC, Brundage BH, et al. A comparison of continuous intravenous epoprostenol (prostacyclin) with conventional therapy for primary pulmonary hypertension. The Primary Pulmonary Hypertension Study Group. N Engl J Med. 1996 Feb 1;334(5):296-302. PubMed PMID: 8532025.
【非特許文献3】Nazzareno Galie, M.D., Hossein A. Ghofrani, M.D., Adam Torbicki, M.D., Robyn J. Barst, M.D., Lewis J. Rubin, M.D., David Badesch, M.D., Thomas Fleming, Ph.D., Tamiza Parpia, Ph.D., Gary Burgess, M.D., Angelo Branzi, M.D., Friedrich Grimminger, M.D., Marcin Kurzyna, M.D., and Gerald Simonneau, M.D., for the Sildenafil Use in Pulmonary Arterial Hypertension (SUPER) Study Group. Sildenafil Citrate Therapy for Pulmonary Arterial Hypertension. N Engl J Med 2005;353:2148-57.
【非特許文献4】Richard N Channick, Gerald Simonneau, Olivier Sitbon, Ivan M Robbins, Adaani Frost, Victor F Tapson, David B Badesch, Sebastien Roux, Maurizio Rainisio, Frederic Bodin, Lewis J Rubin. Effects of the dual endothelin-receptor antagonist bosentan in patients with pulmonary hypertension: a randomised placebo-controlled study. Lancet 2001; 358: 1119-23.
【非特許文献5】Dumas M, Dumas J-P, Bardou M, Rochette L, Advenier C, Giudicelli J-F (1998) Influence of β-adrenoceptor agonists on the pulmonary circulation. Effects of a β3-adrenoceptor antagonist, SR 59230A. Eur J Pharmacol 348:223-228.
【非特許文献6】Tagaya E, Tamaoki J, Takemura H, Isono K, Nagai A (1999) Atypical adrenoceptor-mediated relaxation of canine pulmonary artery through a cyclic adenosine monophosphate-dependent pathway. Lung 177:321-332.
【非特許文献7】Leblais V, Estelle D, Fresquet F, Begueret H, Bellance N, Banquet S, Allieres C, Leroux L, Desgranges C, Gadeau A, Muller B (2008) β-adrenergic relaxation in pulmonary arteries: preservation of the endothelial nitric oxide-dependent β2 component in pulmonary hypertension. Cardiovasc Res 77: 202-210.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
肺高血圧症を治療するという課題はいまだ十分な解決からほど遠く、そのため、上記疾患を治療する新たな治療法を開発する必要が今なお存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ベータ−3アドレナリン受容体の選択的刺激が肺高血圧症(PH)において有利な効果を有することを見出すのに成功した。したがって、慢性PH及び急性PHのモデルにおける選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストの投与が該疾患に対して好ましい応答、すなわち、肺動脈圧の低下、酸素飽和度の増加、肺血管抵抗の低下等を導くことが観察された。同様に、この疾患で一般的に使用される他の血管拡張剤と比べて、選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストは、体血圧又は心拍数に著しい変化を生じないため、体循環に対する有害な副作用の可能性が最小限に抑えられる。
【0010】
したがって、一態様では、本発明は、PHの治療及び/又は予防のための医薬品の調製のための選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストの使用に関する。
【0011】
別の態様では、本発明は、PHの治療及び/又は予防のために用いられる選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストに関する。
【0012】
別の態様では、本発明は、PHの治療及び/又は予防のための選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストの使用に関する。
【0013】
別の態様では、本発明は、PHの治療及び/又は予防のために用いられる、少なくとも1種の選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストと少なくとも1種の薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬品又は医薬組成物に関する。
【0014】
本発明の別の態様は、PHを治療及び/又は予防する方法であり、この方法は、このタイプの治療又は予防を必要とする患者に治療的有効量の選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストを投与することを含む。
【0015】
これらの態様及びそれらの好ましい実施形態もまた、下記の詳細な説明及び特許請求の範囲において更に定義される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】急性PHを伴う10匹の動物における平均PAP(A)、心拍出量(B)及びPVR(C)の処置前及び10分間の処置後の変化(プラセボを実線で表し、BRL37344を点線で表す)を示す図である。
図2】後毛細血管性慢性PHにおける平均PAP、PVR、心拍出量及び動脈血酸素飽和度(平均±標準誤差)に対するBRL37344の投与の効果を示す図である。
図3】慢性前毛細血管性PHにおける平均PAP及び動脈血酸素飽和度(平均±標準誤差)に対するBRL37344の投与の効果を示す図である。
図4】処置開始から14日後の後毛細血管性慢性PHを伴う8匹の動物におけるPVRの初期状態に対する変化を示す図である(プラセボを実線で表し、BRL37344を点線で表す)。
図5】処置開始から14日後の後毛細血管性慢性PHを伴う8匹の動物におけるPVRの初期状態に対する変化を示す図である(プラセボを実線で表し、ミラベグロンを点線で表す)。
図6】ヒト肺動脈におけるβ3受容体の免疫蛍光を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、よく知られた一群の生物学的に活性な化合物、すなわち選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストがヒトを含む哺乳動物における肺高血圧症(PH)の治療及び/又は予防を目的とする医薬品の調製に有用であることを見出した。
【0018】
より簡潔な説明を提供するため、本明細書に提示される定量的表現の一部は、「約」の用語によって修飾されない。「約」の用語が明白に使用されているか否かに関わらず、本明細書において与えられる任意の量は、実際の所与の値を指すことが意図され、また、かかる所与の値に対する実験及び/又は計測の条件に起因する等量及び近似値を含む、当該技術分野における一般的なノウハウに基づいて合理的に推定され得るかかる所与の値に対する近似値を指すことが意図されることが理解される。
【0019】
簡略化する目的で、「選択的β3アゴニスト」、「選択的ベータ−3アゴニスト」又は同様の表現が、「選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニスト」を指すため本明細書で使用される。
【0020】
一般的に、アゴニストは、受容体に結合する分子であり、固有の効果を有するため、受容体と接触すると受容体の基礎活性を高める。本発明では、選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストは、ベータ−1受容体及びベータ−2受容体と比較してベータ−3受容体に対して優先的な受容体活性化作用(agonism)を呈する化合物として理解される。したがって、選択的ベータ−3アゴニストは、ベータ−1受容体及びベータ−2受容体に対するよりも低い濃度でベータ−3受容体アゴニストのように挙動する。また、選択的ベータ−3アゴニストは、ベータ−3受容体アゴニスト様に挙動し、かつベータ−1及びベータ−2の受容体アンタゴニスト様に挙動する化合物を含む。
【0021】
本発明における有用な化合物のベータ−3受容体に対する選択性は、ベータ−1受容体及びベータ−2受容体と比べて明らかに高いことが好ましい。好ましい実施形態では、本発明による選択的β3アゴニストは、他のベータアドレナリン受容体に対して、約10倍以上高い、より好ましくは約100倍以上高い、更に好ましくは約1000倍高いベータ−3受容体に対する選択性を示す。本発明の目的について、選択的β3アゴニストは他のベータアドレナリン受容体に対して「無限に」高い(約10000倍以上)ベータ−3受容体に対する選択性を示すことがより一層好ましい。好ましい特定の実施形態では、選択的β3アゴニストはβ3受容体、β1受容体及びβ2受容体に対して、それぞれ、約287nM/1750nM/1120nMのKiの阻害定数及び/又は18nM/10000nMより高い/10000nMより高いEC50の平均有効濃度値を示す。選択的ベータ−3受容体活性化作用を示す具体的な化合物の能力は、慣用技術により容易に評価され得る。受容体リガンド結合アッセイに関する一般的な参照文献として、例えば、Masood N. Khan, John W. Findlay (2010). Ligand-Binding Assays:Development, Validation, and Implementation in the Drug Development Arena、http://ncgcweb.nhgri.nih.gov/guidance/manual_toc.htmlにおいて利用可能なJohn Wiley & Sons; Assay Guidance Manual Version 5.0, 2008: Eli Lilly and Company and NIH Chemical Genomics Centerが挙げられる。
【0022】
本発明において有用な選択的ベータ−3アゴニストの代表的な例としては、
BRL37344、
CL316243、
AZ002、
BMS187257、
L−755507、
L−750355、
FR−149175、
GW427353(ソラベグロン(Solabegron))、
YM178(ミラベグロン)、
CR58611、
SR58611A(アミベグロン)、
SR59104A、
SR59119A、
及びそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書で言及される任意の化合物は、かかる具体的化合物、及び或る特定の変形又は形態を表そうとするものである。したがって、本発明において有用な化合物は、例えば、中性型、塩基性型若しくは酸性型、塩の形態、好ましくは生理学的に許容可能な塩、溶媒和物若しくは多形体の形態、及び/又は種々の異性体であってもよい。
【0024】
「塩」の用語は、本発明により使用される任意の形態の活性な化合物として理解されるべきであり、該化合物がイオン形態であるか又は帯電し、対イオン(カチオン又はアニオン)に連結されているか又は溶液中にある。また、この定義は、第四級アンモニウム塩並びに他の分子及びイオンとの活性な分子錯体、とりわけイオン相互作用により形成される錯体を含む。上記定義は、とりわけ生理学的に許容可能な塩を含み、この用語は、「薬理学的に許容可能な塩」又は「薬学的に許容可能な塩」と同等であると理解されるべきである。
【0025】
「生理学的に許容可能な塩」又は「薬学的に許容可能な塩」の表現は、とりわけ、本発明との関連で、生理学的に許容な酸と形成される塩(上記に定義される)、すなわち、とりわけそれらがヒト及び/又は哺乳動物で使用される場合には、生理学的に許容な有機酸若しくは無機酸と特定の活性な化合物との塩、又はとりわけそれらがヒト及び/又は哺乳動物で使用される場合には、少なくとも1つの生理学的に許容なカチオン、好ましくは無機カチオンと特定の活性な化合物との塩のいずれかであると理解される。特定の生理学的に許容な酸塩の例は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、臭化水素酸塩、一臭化水素酸塩、一塩酸塩若しくは塩酸塩、メチオジド、メタンスルホン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、マンデル酸、フマル酸、乳酸、クエン酸、グルタミン酸、馬尿酸、ピクリン酸及び/又はアスパラギン酸の塩である。特定の生理学的に許容な塩基塩の例は、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩並びにNHとの塩である。
【0026】
本発明によれば、「溶媒和物」の用語は、非共有結合により別の分子(通常は極性溶媒)に結合している本発明による任意の形態の活性な化合物を意味すると理解されるべきであり、とりわけ、例えば、水和物及びメタノレート等のアルコレートを含む。
【0027】
選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストのプロドラッグである任意の化合物もまた本発明の範囲に含まれる。「プロドラッグ」の用語は、その単語の最も広い意味で使用され、in vivoで本発明の化合物へと変換される誘導体を包含する。プロドラッグの例として、これらに限定されないが、生加水分解性(biohydrolyzable)アミド、生加水分解性エステル、生加水分解性カルバメート、生加水分解性炭酸塩、生加水分解性ウレイド及び生加水分解性リン酸塩アナログ等の生加水分解性残基を含む選択的ベータ−3アゴニスト化合物の誘導体及び代謝産物が挙げられる。官能性カルボキシル基を有する化合物のプロドラッグは、カルボン酸の低級アルキルエステルであることが好ましい。カルボン酸エステルは、分子中に存在するいずれかのカルボン酸残基をエステル化することにより好適に形成される。プロドラッグは、通常、Burguerの"Medicinal Chemistry and Drug Discovery 6th ed."(Donald J. Abraham ed. 2001, Wiley)、"Design and Applications of Prodrugs"(H. Bundgaard ed., 1985, Harwood Academic Publishers)及びKrogsgaard-Larsen et al.の"Textbook of Drug Design and Discovery" Taylor & Francis(April 2002)に記載されるようなよく知られた方法を使用して調製することができる。
【0028】
本発明で有用な選択的ベータ−3アゴニストは、キラル中心の存在に応じて光学異性体、又は多重結合の存在に応じて幾何異性体(例えば、Z体、E体)を含んでもよい。個々の異性体、エナンチオマー又はジアステレオアイソマー及びラセミ混合物等のそれらの混合物は、本発明の範囲に含まれる。
【0029】
さらに、本明細書で言及される任意の化合物は、互変異性体として存在してもよい。具体的には、互変異性体の用語は、平衡にある化合物の2以上の構造異性体の1つであり、或る異性体形態から別の異性体形態へと容易に変換されるものを指す。一般的な互変異性体対は、アミン−イミン、アミド−イミド酸、ケト−エノール、ラクタム−ラクチム等である。
【0030】
また、別段の指定がない限り、本発明の化合物は、同位体標識された形態、すなわち、1又は複数の同位体濃縮原子の存在のみが異なる化合物を含むと理解される。例えば、ジュウテリウム原子又はトリチウム原子によって少なくとも1つの水素原子が置換されている以外、又は13C又は14C濃縮炭素によって少なくとも1つの炭素が置換されている以外、又は15N濃縮窒素によって少なくとも1つの窒素が置換されている以外は本構造を有する化合物は、本発明の範囲に含まれる。
【0031】
本発明と関連して選択的ベータ−3アゴニストは、薬学的に許容可能であるか、又は実質的に純粋な形態であることが好ましい。薬学的に許容可能な形態は、とりわけ、希釈剤及びビヒクル等の典型的な薬学的添加剤を排除して薬学的に許容可能な純度レベルを有し、通常の用量レベルで毒性とされるいかなる原料も含まないと理解される。有効成分に関する純度レベルは、好ましくは50%より高く、より好ましくは70%より高く、最も好ましくは90%より高い。好ましい実施形態では、選択的ベータ−3アゴニストの純度が95%より高い。
【0032】
以上のように、「薬学的に許容可能なプロドラッグ、溶媒和物又は塩」の表現は、レシピエントに投与された後、(直接的に又は間接的に)選択的ベータ−3アゴニストを提供することができる、任意の塩、溶媒和物又は任意の他の化合物を指す。薬学的に許容可能ではないプロドラッグ、溶媒和物及び塩もまた、それらが薬学的に許容可能なプロドラッグ、溶媒和物及び塩の調製に有用となり得る限り、本発明の範囲に含まれる。プロドラッグ、溶媒和物及び塩は、当該技術分野で既知の方法により調製することができる。
【0033】
本発明の特定の実施形態では、選択的ベータ−3アゴニストは、フェニルエタノールアミン(2−アミノ−1−フェニルエタノール)に由来する化合物から選択される。
【0034】
より具体的には、選択的ベータ−3アゴニストは、下記一般式:
【化1】
(式中、R及びRは以下に詳述される様々な意味を表すことができる。)を有するフェニルエタノールアミンに由来する化合物から選択される。
【0035】
更に特定の実施形態では、Rは水素及びハロゲン(F、Cl、Br又はI)から選択され、ハロゲンは塩素であることが好ましい。Rは任意の位置(オルト、メタ又はパラ)であってもよく、好ましい実施形態ではRはメタ位にある。
【0036】
更に特定の別の実施形態では、Rはアリール部分及び/又はアルキル部分で置換可能なアラルキルであるか、又は以下から選択されるラジカルである。
【化2】
【0037】
特定のRラジカルを以下に示す。
【化3】
【0038】
好ましい実施形態では、Rはメタ位の塩素を表し、Rは任意にフェニル置換されていてもよい1−メチル−2−フェニルエチルラジカルである。
【0039】
別の好ましい実施形態では、Rは水素を表し、Rは任意にフェニル置換されていてもよい2−フェニルエチルラジカルである。
【0040】
好ましい実施形態では、本発明で使用されるアゴニストは、欧州特許第023385号明細書及び文献Drugs of the Future, Vol. 16, 797-800 (1991)に記載される、BRL37344([4−[(2R)−2−[[(2R)−2−(3−クロロフェニル)−2−ヒドロキシエチル]アミノ]プロピル]フェニル]酢酸)として同定される化合物であり、以下の分子式を有する。
【化4】
【0041】
化合物BRL37344は、ナトリウム塩の形態(CAS番号127299−93−8)で商業的に入手することができる、強力かつ選択的なベータ−3アドレナリン受容体アゴニストである(β3受容体、β1受容体及びβ2受容体に対するKi値がそれぞれ287nM、1750nM及び1120nMである)。
【化5】
【0042】
本発明の別の実施形態では、CL316243として知られる化合物が好ましく、前記化合物は欧州特許第0455006号明細書及び文献J. Med. Chem., Vol. 35, 3081-3084 (1992)に記載され、以下の分子式を有する。
【化6】
【0043】
化合物CL316243は、ジナトリウム塩の形態(151126−84−0)で商業的に入手することができる、強力かつ選択的なベータ−3アドレナリン受容体アゴニスト(EC50=3nM;β1及びβ2よりも5桁大きい選択性)である。
【化7】
【0044】
別の好ましい実施形態では、本発明で使用されるアゴニストはYM178(ミラベグロン)又はその塩である。ミラベグロンは、過活動膀胱の治療用に市販される化合物であり、以下の分子式を有する。
【化8】
【0045】
別の好ましい実施形態では、本発明で使用されるアゴニストはGW427353(ソラベグロン)又はその塩、例えばその塩酸塩である。ソラベグロンは、以下の分子式を有する。
【化9】
【0046】
別の好ましい実施形態では、本発明で使用されるアゴニストはSR58611A(アミベグロン)又はその塩である。アミベグロンは、以下の分子式を有する抗うつ剤である。
【化10】
【0047】
化合物BRL37344及びベータ−3アドレナリン受容体に対して受容体活性化作用を示す更なる化合物を記載する他の文献は、米国特許出願公開第20040242485号明細書、米国特許第4873240号明細書、米国特許第4880834号明細書、米国特許第5002946号明細書、米国特許第5087626号明細書、米国特許第5236951号明細書、米国特許第5578638号明細書、米国特許第6172099号明細書、米国特許第6187809号明細書である。
【0048】
ベータ−3アドレナリン受容体に対して選択的アゴニスト活性を示すことが知られている更なる化合物は、例えば、米国特許第4396627号明細書、米国特許第4478849号明細書、米国特許第4999377号明細書、米国特許第5153210号明細書、国際公開第98/32753号、国際公開第97/46556号、国際公開第97/37646号、国際公開第97/15549号、国際公開第97/25311号、国際公開第96/16938号、国際公開第95/29159号、国際公開第02/06276号、欧州特許第427480号明細書、欧州特許第659737号明細書、欧州特許第801060号明細書、欧州特許第714883号明細書、欧州特許第764632号明細書、欧州特許第764640号明細書、欧州特許第827746号明細書、米国特許第5561142号明細書、米国特許第5705515号明細書、米国特許第5436257号明細書、米国特許第5578620号明細書及び米国特許第6537994号明細書等の特許文献に記載される。
【0049】
当業者であれば、或る化合物が本発明の目的に有用であるかどうかを容易に決定することができる。したがって、上述のように、或る化合物が良好な選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストであるかどうかを判断するのに適した従来法が存在する。さらに、ベータ−1/ベータ−2受容体に対するベータ−3アゴニスト活性及びベータ−3受容体選択性のいずれの決定も、上述の特許及び特許出願、とりわけ国際公開第98/32753号、国際公開第97/46556号、欧州特許第764632号明細書、欧州特許第764640号明細書、及び欧州特許第827746号明細書に記載されるようなこれまでに確立された特異的機能性アッセイに従って評価することができる。
【0050】
上述のように、選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストは商業的に入手可能であり、及び/又は、例えば上述の特許及び特許出願に記載されるような既知の方法によって調製することができる。
【0051】
医薬組成物
本発明者らは、選択的ベータ−3アゴニストの投与が肺動脈圧、また肺血管抵抗の顕著な低下を可能とすること、同様に酸素飽和度の増加を可能とすることを種々のシナリオで実証した。更なる利点として、心拍出量にも体血圧にも顕著な変化は観察されず、肺高血圧症の治療に使用される他の血管拡張剤と比べて体循環に有害な可能性のある副作用が非常に低いことを意味する。
【0052】
したがって、本発明により、肺高血圧症(PH)に対する広範囲な治療剤としての選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストの使用が提案される。したがって、得られた結果は、任意の病因のPHの治療及び/又は予防における選択的ベータ−3アゴニストの計り知れない有用性を証明する。本発明との関連でPHはいかなるタイプでもよく、すなわち、肺動脈性高血圧症(PAH)、左心疾患に起因するPH、肺疾患に起因するPH、慢性血栓塞栓性PH及び未知又は多因子起源のPHであってもよい。
【0053】
特定の実施形態によれば、本発明は、急性PHの治療及び/又は予防のための選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストの使用に関する。別の特定の実施形態によれば、本発明は、慢性PHの治療及び/又は予防のための選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストの使用に関する。更に特定の実施形態では、本発明は、急性肺血栓塞栓症シナリオのもとでの選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストの使用に関する。
【0054】
選択的ベータ−3アドレナリン受容体アゴニストと薬学的に許容可能な賦形剤とを含むPHの治療及び/又は予防のための医薬品又は医薬組成物が本発明により提供される。
【0055】
医薬組成物の例として、経口、局所又は非経口投与用の任意の固体(錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤等)又は液体(液剤、懸濁剤又は乳剤)の組成物が挙げられる。
【0056】
「賦形剤」の用語は、有効成分以外の薬理学的化合物の構成成分を指す(欧州医薬品庁EMAによる定義)。賦形剤は、「担体、アジュバント及び/又はビヒクル」を含むことが好ましい。担体は、薬物投与及び有効性を改善するため、物質が組み込まれる形態である。薬物担体は、in vivoで薬物の作用を延長するため、薬物代謝を低減するため、及び薬物毒性を低減するために制御放出技術等の薬物投与系において使用される。また、担体は、薬理学的標的の作用部位に対する薬物投与の有効性を増加するための設計に使用される(アメリカ国立医学図書館。国立保健機構)。アジュバントは、薬理学的製品の製剤に添加される予想可能な方式で有効成分の作用に影響を及ぼす物質である。ビヒクルは、好ましくはいかなる治療作用も伴わない、医薬品の投与のため体積を与える手段として使用される賦形剤又は物質である(Stedman's Medical Spellchecker, (c) 2006 Lippincott Williams & Wilkins)。かかる薬学的担体、アジュバント又はビヒクルは、無菌液、例えば水及び石油、又はピーナッツ油、ダイズ油、鉱物油、ゴマ油等の動物性、植物性若しくは合成起源の油を含む油、賦形剤、崩壊剤、湿潤剤又は希釈剤であってもよい。好適な薬学的担体は、E.W. Martin による"Remington's Pharmaceutical Sciences"に記載される。これらの賦形剤の選択及び使用される量は、医薬組成物の適用形態に依存する。
【0057】
ヒト及び動物の1日投与量は、各種に基づく因子、又は年齢、性別、体重若しくは疾患の程度等の他の因子により変化し得る。ヒトに対する1日投与量は、1ミリグラム〜2000ミリグラム、好ましくは1ミリグラム〜1500ミリグラム、より好ましくは1ミリグラム〜1000ミリグラムの範囲で有効成分を1日1回又は1日数回投与できることが好ましい。
【0058】
製剤は、スペイン、欧州又は米国の薬局方、又は同様の参照文書、例えば、C. Fauli i Trilloによる"Tratado de Farmacia Galenica" 10th Edition, 1993, Luzan 5, S.A. de Edicionesに記載されるような従来法に従って調製することができる。
【0059】
本発明の化合物及び組成物を他の薬物と共に使用して、併用療法を提供することができる。他の薬物は、同じ組成物の一部であってもよく、又は同時に若しくは異なる時に投与される別々の組成物として提供されてもよい。
【0060】
本明細書で使用される「治療するため、処置するため」、「治療すること、処置すること」及び「治療、処置」の用語は、一般的に、被験体におけるPHの根絶、消失、回復、緩和、調節又は制御を含む。
【0061】
本明細書で使用される「予防」、「予防すること」、「予防の」、「予防するため」及び予防法の用語は、所与の物質の被験体におけるPHの発病又は発症を妨げる、最小化する又は難しくする能力を指す。
【0062】
本発明との関連で「被験体」又は「患者」の用語は、任意の動物、とりわけ脊椎動物、好ましくはマウス、ラット、ウマ、ブタ、ウサギ、ネコ、ヒツジ、イヌ、ウシ、ヒト等の哺乳動物を含む。好ましい実施形態では、哺乳動物はブタ又はヒトである。別のより好ましい実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0063】
本発明は、単なる例示に過ぎず、本発明を限定するものではないとされるべき下記実施例により、以下に説明される。
【実施例】
【0064】
方法
実験モデルの作製
急性PH:
麻酔し、挿管して40%FiOで酸素供給された2ヶ月齢の健康なブタ(体重約30kg)10匹において、血圧、心拍数(HR)、酸素飽和度、またPAPを継続的にモニターし、スワン−ガンツカテーテルを使用する熱希釈法によって心拍出量(CO)の計測を反復して行いながら、大腿静脈経路によってマイクロスフェア(Sephadex G50 coarse;ドイツ国フライブルグのPharmacia Biotech)の懸濁物を用いた肺塞栓形成により急性PHを作製した。平均PAPの40mmHg以上の増加を引き起こし10分間安定に維持するのに必要な用量を投与した。その際、動物を無作為化し、特異的β3アゴニストBRL37344(5μg/Kg)又は生理食塩水(ビヒクル)を与えた。
【0065】
慢性PH:
一般的な集団において広範囲のPHを再現する目的で、慢性PHの2つの実験モデル、すなわち、臨床群1、3、4及び5を表す前毛細血管モデル、並びに臨床群2(改訂WHO分類)を特性評価する後毛細血管モデルを開発した。
【0066】
前毛細血管性PHモデル
直径300ミクロンの合成マイクロスフェア(Sephadex G50 coarse;ドイツ国フライブルグのPharmacia Biotech)による肺動脈塞栓形成により、以前に記載されたモデル(Bernd W. Bottiger, MD; Johann Motsch, MD; Joachim Dorsam, MD; UlfMieck, MD; Andre Gries, MD, forg Weimann, MD; and Eike Martin, MD. Inhaled Nitric Oxide Selectively Decreases Pulmonary Artery Pressure and Pulmonary Vascular Resistance Following Acute Massive Pulmonary Microembolism in Piglets. CHEST1996; 110:1041-47)の変型である前毛細血管性PHモデルを作製した。
【0067】
3ヶ月齢の大型の白ブタであるスース・スクローファ(Sus scrofa)種(体重約40kg)においてプロトコルを開始した。一般的な麻酔及び鎮痛の後、心臓モニタリング及び経口気管内挿管のもと、経皮内穿刺により心臓血行力学実験室において大腿の静脈及び動脈をカニューレ処置した。静脈アクセスにより、継続的にPAPを記録するため、また肺毛細血管圧及び心拍出量を定量するためモニターに接続されたスワン−ガンツカテーテルを肺動脈(PA)の主な血管枝の1つに留置した。動脈経路は、体血圧の継続的な記録を可能とした。静脈アクセスは、肺動脈循環にマイクロスフェアを投与する役割を果たした。200mlの生理食塩水中の500mgのマイクロスフェアにより溶液を調製し、約20分で40mmHgより高い持続性平均PAPに達するのに必要な量を投与した。慢性PH(安静時に平均PAPが25mmgより高い)を作製するまで毎週(3〜5の塞栓形成)本方法を繰り返した。動物に対して2ヶ月の追跡調査を行った。追跡調査の終わりに動物を安楽死させ、組織学的分析のため心臓を摘除した。肺で観察された病理組織学的病変は、ヒトにおける動脈性PH又は慢性血管塞栓性PHで示される病変、すなわち、中膜の肥大及び血管周囲線維症を伴う動脈内皮の増殖、血管閉塞、及び血管瘤又は叢状病変等の複合病変を再現するものである。
【0068】
後毛細血管性PHモデル
4週齢の子ブタ(体重約10kg)の主肺静脈の非拘束性外科的締結により後毛細血管性PHモデルを作製した。この静脈は、肺質量の約80%を形成する両方の肺下葉から血液を排出する。鎮痛及び全身麻酔により、心臓モニタリング及び経口気管内挿管のもと、右外頸静脈及び総頸動脈を外科的切開により位置決定した。継続的にPAP、肺毛細血管圧及び心拍出量をモニターするためスワン−ガンツカテーテルを、静脈アクセスを通して導入した。また、動脈経路は、外科的介入の間の体血圧をモニターする役割を果たした。第5肋間腔を通る右側方開胸により、左心房に入る直前の肺静脈合流点の安静時直径に合わせて5mm幅のポリエステルバンドを血管の周りに留置することによって主肺静脈の非拘束性締結を行った。本方法は、手術直後の肺静脈狭窄がないため術後の急性肺水腫の発症を抑制したが、むしろ動物が成長するにつれて肺水腫が進行する。したがって、これは進行性PHモデル(追跡調査を通して重症度が高まる)である。本実験では、手術の4週間後にRVの拡張及び肥大と関連し、周術期死亡のない顕著なPHが観察された(平均PAP=35±5mmHg)。追跡調査の終わりに動物を安楽死させ、組織学的分析のため心臓を摘除した。観察された組織学的病変は、左心疾患又は肺静脈の先天性狭窄に起因するPHの病変を再現するものであり、肺実質における動脈及び静脈の血管リモデリング、内膜増殖及び初期PA中膜肥大、並びにRVにおける明らかな心筋細胞の肥大を含み、更に線維化及び心筋組織崩壊の増加が見られる。
【0069】
右心カテーテル法
ヒトと厳密に同じ方法論を使用して右心カテーテル法により血行力学検討を行った。PHが発生すると、β3アゴニストの投与前(basally)と投与後とに以下のパラメーター、すなわち、PAP、肺毛細血管圧及び右心房圧を2回定量した。熱希釈法技法により心拍出量を定量した。5回の計測を行い、最高及び最低の測定を排除した後に3回の計測の平均を検討した。大腿動脈を通してピッグテールカテーテルを左心室内に留置することにより左心室拡張終期圧を求めた。平均PAPと左心室拡張終期圧との差を心拍出量で除して肺血管抵抗を算出し、Wood単位で表した。
【0070】
心臓カテーテル法に先立って、熱希釈法によって計測される心拍出量を無効にする可能性がある著しい血管疾患又は心内シャントがないことを確認するため心エコー図を行った。
【0071】
β3アゴニストの投与
BRL37344(ナトリウム塩の形態)の単回投与の効果を評価するため、静脈内経路により生理食塩水で希釈された5μg/1Kgの薬物を全ての症例に投与した。この用量は、全身性の血行力学的な合併症を生じない最大用量を選択することが意図された(可能性のある副作用を回避するため)予備検討の後に確立された。急性PHにおいて投与の10分後、及び慢性PHにおいて投与の20分後に上記薬物の効果を評価した。
【0072】
BRL37344投与の慢性効果を評価するため、後毛細血管性PHを伴う動物のコホートをBRL37344又はプラセボ(生理食塩水)に無作為化した。内頸静脈に挿入された血管カテーテルに連結された皮下浸透圧ポンプ(アルゼット(ALZET)(登録商標)2ml)を全ての動物に埋め込んだ。BRL37344に無作為化した、これらの動物に、14日間に亘り10μg/Kg/日の用量を与えた。2週間の追跡調査の後、血行力学的変化を盲検的に評価した。
【0073】
ミラベグロンによる処置の慢性効果を評価するため、全ての症例において12時間毎に50mgの錠剤を経口投与した。全ての動物に対する固定用量は、異なる病態(このエンティティにおいて試験されたことがないためPHではない)についてヒトで使用される用量に基づき、何らの有害作用も生じなかった。神経因性膀胱の治療に使用される用量は、25mg/日〜50mg/日であるのに対し、心不全におけるこの薬物の効果を評価するために計画された本実験("Beta 3 Agonist Treatment in Heart Failure (Beat-HF) NCT01876433"を参照されたい)では、予想される初回用量は25mg/12時間であり、最大150mg/12時間までで用量設定される。50mg/12時間の用量は、副作用プロファイルが良好であることを知りながら、有効性試験を行うことができる患者を容易に推定することができる平均用量とすることが意図される。
【0074】
統計学的解析
連続変数を平均±SDとして表し、定性変数を頻度(%)として表す。処置前及び処置後の値(急性PH及び慢性PHの両方において)の間の差として算出された変数の変化に関する介入群間の比較を、ウィルコクソン検定により行った。変数の分散に従って、慢性PHにおける血行力学パラメーターに対するβ3アゴニストの単回投与の効果の評価を対データに対するスチューデントT検定又はウィルコクソン検定により行った。P<0.05の値を有意とした。
【0075】
結果
1.肺塞栓症に起因する急性PHにおけるBRL37344の単回投与の効果
肺塞栓形成後の動物のベースライン特性は、β3アゴニストBRL37344(5μg/Kg)又はプラセボ(表1)に無作為化された群間で相違しなかった。
【0076】
【表1】
【0077】
投与の10分後、BRL37344で処置された群は、有意なPAPm(−13.0±4.5対−3.8±4.2;p=0.008)、PVR(−6.5±2.4対−0.4±1.3;p=0.008)の減少、及びCOの増加(0.62±0.53対−0.20±0.31;p=0.008)を示した。図1は、これら3つのパラメーターの個別の値を示す。HR(−4.4±14.1対−3.0±7.1;p=0.84)又は平均体血圧(−4.6±8.0対1.0±7.4;p=0.31)の変化に有意差は観察されなかった。
【0078】
2.慢性の前毛細血管性PH及び後毛細血管性PHにおけるBRL37344の単回投与の効果
慢性後毛細血管性PH(心疾患と関連する)において、選択的β3アドレナリンアゴニストBRL37344の投与は、平均PAPの30%の減少と関連した(図2)。平均PAPは、37.6±9.8mmHgから28.8±9.8mmHgに減少した(p<0.001)。収縮期肺血圧の23%の減少(50.6±15.5mmHgから38.9±9.9mmHg、p<0.001)も観察された。
【0079】
上記アゴニストの投与は、心拍出量の18%の増加(3.29±0.9L/分から3.90±1.5L/分、p=0.07)、肺血管抵抗の36%の減少(10.0±4.3Wood単位から6.4±3.2Wood単位、p=0.002)及び酸素飽和度の3.2%の増加(90.88±2.64%から93.75±3.01%、p=0.001)とも関連した。
【0080】
最後に、選択的β3アドレナリンアゴニストの投与後、全血圧(85.7±13.9mmHgから79.9±6.9mmHg、p=0.11)にも、又は心拍数(83.8±21.1bpmから87.8±16.8bpm、p=0.20)にも有意な変化は観察されなかった。
【0081】
同様に、前毛細血管性慢性PHモデルにおいて、選択的β3アドレナリンアゴニストBRL37344の投与は、体血圧及び心拍数における顕著な変化を伴わずに、平均PAPの32%の減少(29.5±2.1mmHgから20.0±5.7mmHg)、収縮期PAPの25%の減少(37.5±6.4mmHgから28.0±8.5mmHg)及び酸素飽和度の2%の増加と関連した(図3)。
【0082】
3.後毛細血管性慢性PHにおけるBRL37344による慢性血管内処置の効果:盲検無作為化実験による検討
上述の通り下肺静脈の合流点の外科的狭窄により8匹のブタで慢性PHを生じた。頸静脈に挿入されたカテーテルに連結されたアルゼット(登録商標)浸透圧ポンプにより、14日間に亘って投与されるBRL37344(10μg/Kg/日)対生理食塩水に動物を無作為化した。処置の前及び後に右心カテーテル法を行った。
【0083】
肺塞栓形成後の動物のベースライン特性は、β3アゴニストBRL37344又はプラセボに無作為化された群間で相違しなかった(表2)。
【0084】
【表2】
【0085】
14日後、β3アゴニストBRL37344による慢性治療は、プラセボに比べて肺血管抵抗(PVR)の有意な減少をもたらした(−1.2±1.6WU対+1.3±1.2WU、p=0.042、図4)。β3アゴニストで処置された群とプラセボで処置された群で平均体血圧(2.3±6.9mmHg対−4.3±7.0mmHg、p=0.25)又は心拍数(−8.2±15.1bpm対3.0±28.2bpm;p=0.49)の変化に有意差は観察されなかった。
【0086】
4.後毛細血管性慢性PHにおけるミラベグロンによる慢性経口処置の効果:盲検無作為化実験による検討
後毛細血管性慢性PHを伴う動物の別のコホートを、ミラベグロン(ミラベトリック(Myrbetriq)(登録商標)50mg/12時間)による14日間の慢性治療とプラセボとに無作為化した。処置前及び処置後に右心特性評価を行った。中間分析(N=4)では、対照群におけるPVRの増加に比べて、β3アゴニストで処置された群において14日後にPVRの減少が観察された(図5)。
【0087】
5.ヒト肺動脈の免疫蛍光法
主肺動脈試料を心臓移植レシピエント及びドナーから得た。β3受容体に特異的な2つの一次抗体(CAPG及びMAPW)を使用した。核を青色に染色するDAPI、及び一次抗体を認識して赤色に染色する二次抗体AF647をフルオロフォアとして使用した。Zeiss LSM700共焦点顕微鏡を使用した。
【0088】
中膜及び内皮におけるβ3アドレナリン受容体の存在が、ドナー及びレシピエントの主PAにおいて見られた。上記結果は、2つの抗β3特異的抗体により再現された(図6)。
【0089】
考察
広範囲の慢性PHでは、β3アゴニストによる治療はPAP及び肺血管抵抗の有意な減少をもたらした。これらの効果は、体血圧又は心拍数に有意な変化が見出されることなく観察され、体循環に対する有害な副作用の可能性が非常に低い(この疾患で使用される他の血管拡張剤と比べて)ことを示唆する。
【0090】
また、肺動脈圧が急に増加する状況で、BRL37344の投与が非常に重要な急性のPAP減少をもたらしたことが観察され、治療選択肢が非常に少ない致命的な急患である急性肺血栓塞栓症シナリオに選択的β3アゴニストが役立つ可能性があることを示唆する。
【0091】
したがって、選択的ベータ−3アドレナリンアゴニストの投与は、異なる病因の急性及び慢性PHの両方に対する有効な治療であると結論づけることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】