(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-526512(P2015-526512A)
(43)【公表日】2015年9月10日
(54)【発明の名称】胃食道逆流性疾患治療用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20150814BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20150814BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20150814BHJP
A61K 31/7016 20060101ALI20150814BHJP
A61K 31/70 20060101ALI20150814BHJP
A61K 31/732 20060101ALI20150814BHJP
A61K 31/719 20060101ALI20150814BHJP
A61K 31/733 20060101ALI20150814BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20150814BHJP
【FI】
A61K45/06
A61K31/4439
A61K31/702
A61K31/7016
A61K31/70
A61K31/732
A61K31/719
A61K31/733
A61P1/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-529748(P2015-529748)
(86)(22)【出願日】2013年8月22日
(85)【翻訳文提出日】2015年3月12日
(86)【国際出願番号】RU2013000738
(87)【国際公開番号】WO2014035295
(87)【国際公開日】20140306
(31)【優先権主張番号】2012137067
(32)【優先日】2012年8月30日
(33)【優先権主張国】RU
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】515038169
【氏名又は名称】ディコヴスキー、アレクサンダー ヴァディミロビッチ
【氏名又は名称原語表記】DIKOVSKIY,Alexander Vladimirovich
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】ディコヴスキー、アレクサンダー ヴァディミロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ラセブニック、レオニード ボリソヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ボロディン、デミトリィ スタニスラボヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ベロヴァ、エレナ ヴァレンティノヴァナ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA18
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC39
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4C086MA41
4C086MA43
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZC75
(57)【要約】
製薬産業に関係し、胃食道逆流性疾患治療用の医薬組成物を提供する。少なくとも1種のプロトンポンプ阻害剤と少なくとも1種のプレバイオティクスとから成り、この組成物中のプロトンポンプ阻害剤の含有量は0.05〜0.25%w/w、プレバイオティクスは10〜95%w/w、賦形剤は最高100%w/wからの差引残分である。ヘリコバクター ピロリ菌のトランスロケーションが防止され、H.ピロリ菌を検出し、細菌根絶治療を行う必要がなくなり、プロトンポンプ阻害剤を使用した長期にわたる療法の安全性が改善され、また胃粘膜の萎縮及び胃がん発症リスクが回避される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のプロトンポンプ阻害剤と少なくとも1種のプレバイオティクスとを含有し、
以下の組成物成分含有量(%w/w):
プロトンポンプ阻害剤=0.05〜25
プレバイオティクス=10〜95
賦形剤=100から上記の差引残分
である
ことを特徴とする胃食道逆流性疾患治療用の医薬組成物。
【請求項2】
脂肪族アルコール類、すなわちキシリトール、ソルビトール、ラクチトールのプレバイオティクスを含有する又は二糖及び三糖類、すなわちラクツロース、ラクトスクロース、メリビオース、キシロビオース、スタキオース、ラフィノースのプレバイオティクスを含有する又はオリゴ糖類、すなわちフラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖のプレバイオティクスを含有する又は多糖類、すなわちアラビノガラクタン、ペクチン、プルラン、イヌリンのプレバイオティクスを含有する
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
以下の群:オメプラゾール、パントプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エスオメプラゾール及びデクスランソプラゾールのプロトンポンプ阻害剤を含有する
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
経口剤形:経口懸濁液、経口溶液、カプセル、錠剤、粉末、サシェ、ペレット、顆粒で形成される
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
H.ピロリ菌の存在が、細菌の胃前庭部から胃体部へのトランスロケーションに関連したリスクを防止するためのその根絶を必要とせず、少なくとも1日1回、疾患の形態によって決定される4週間以上である期間にわたって、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物「プロトンポンプ阻害剤+プレバイオティクス」を腸に投与する
ことを特徴とする胃食道逆流性疾患の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学及び薬理学、すなわち胃食道逆流性疾患(GERD)治療のための製剤−医薬組成物(薬組成物(pharmcomposition))に関する。
【背景技術】
【0002】
胃食道逆流性疾患は慢性の再発性疾患である。食道・胃・十二指腸領域の運動−排除機能が損なわれることで胃又は十二指腸の内容物が食道に戻ってしまう(逆流)ことを特徴とし、患者を悩ます症状及び/又は合併症の発生となって表れる(酸依存性及びヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)菌関連疾患の診断及び治療基準(第4回モスクワ会議)。非特許文献1。)
【0003】
この疾患は、胃腸器官で最もよく起きる機能障害である。疫学的な調査から、GERDの有病率(直近12カ月以内に胸焼け及び/又は逆流が1週間に1回以上)は欧州、南北アメリカ諸国において10〜20%、アジアで5%、モスクワで最高23.6%、ロシアでは13.3%であることが判明している(MEGREの調査)。
【0004】
現在、H.ピロリ菌への感染及びH.ピロリ菌の除菌は共にGERDに無関係であるとされているが、集団におけるH.ピロリ菌感染率とGERD有病率との間には逆相関が認められることから、H.ピロリ菌がある種の「保護」的な役割を果たしている可能性がある。しかしながら、プロトンポンプ阻害剤(PPI)を使用して酸産生を大きく、長期にわたって薬剤的に抑制すると、H.ピロリ菌は胃前庭部から胃体部へと広がる(トランスロケーション)。これが胃の特殊な腺の喪失過程を加速させ、萎縮性胃炎、またおそらくは胃がんの発症につながる可能性がある。したがって、長期にわたる抗分泌治療を必要とする(通常は逆流性食道炎及びバレット食道において)GERD患者をH.ピロリ菌感染の有無について診断し、H.ピロリ菌が検出されたら除菌する(マーストリヒト−4コンセンサス(2012)、酸依存性疾患の診断及び治療についての第4回モスクワ合意(2010))。このようなアプローチの妥当性は、様々な集団におけるH.ピロリ菌への高い感染率に関連している。H.ピロリ菌は地球上の人口のほぼ半数の胃内に存在していると証明されている(非特許文献2)。
【0005】
つまり、GERDを治療するためにH.ピロリ菌を除菌する必要があるのではなく、細菌のトランスロケーションの防止とその結果としての炎症の広がり及び胃粘膜の萎縮の防止を目的としており、これが今度は胃がんの発症を防止する。
【0006】
現在、H.ピロリ菌根絶療法の標準的なレジメンでは、2〜3種類の抗生物質を同時に服用する(マーストリヒト−4(非特許文献3))。
【0007】
このような療法は著しい副作用を伴うことが多い。診療において抗生物質が広く用いられているため(抗生物質は細菌根絶治療レジメンの根幹をなす)、世界中の人々がこれらの抗菌剤への耐性を強めつつあり、用いる根絶スキームの有効性が低下している。このような状況において、GERD患者の治療から抗生物質を用いた療法を排除できることは、臨床的に極めて重要である。
【0008】
従来技術から、GERD治療へのPPIの使用が公知である(特許文献1〜3)。
【0009】
診療にPPIを導入してから、世界におけるその使用量は年々増加しつつある。PPIの使用量の増加に加えて、長期にわたるPPI投与を必要とする患者の数も増大している。これに関し、治療安全性の問題は大きな関心事項である。PPIを長期にわたって摂取することの潜在的なリスクは、様々な形で酸産生の長期にわたる抑制、消化機能障害及び食品と共に口に入る病原体の不活性化に関係している。これがPPI療法が細菌性腸管感染症及び腸内細菌異常増殖症候群発症のリスクの高さに関連している理由である。
【0010】
保護酸バリアが低下すると、口腔及び上気道の細菌は胃、次に小腸に定着できるようになる(Parfenov A.I.,2002)。例えば、健康な人間が20mgのオメプラゾールを毎日服用すると、十二指腸及び空腸内の細菌量は約2桁、増加することは公知である(S.J.Lewis et al.,1996)。
【0011】
従来技術から、プロトンポンプ阻害剤(PPI)及びプレバイオティクスを含有する組成物を胃潰瘍及び十二指腸の治療に適用することは公知である(特許文献4〜5)。この特許は、この組成物をGERD治療に適用する可能性を明らかにはしていない。この特許に記載の投薬レジメン(2〜4週間の短期)では潰瘍性疾患を効果的に治療できるものの、GERD患者を長期にわたって治療する場合(少なくとも8週間)に萎縮過程及び胃がんの発症を防止しない。
【0012】
GERD治療用の、プロトンポンプ阻害剤及び第2の活性物質を含有する医薬組成物も公知である。この場合は、炭酸水素ナトリウムOptima Ficusを第2の活性物質として使用する(特許文献6〜8)。
【0013】
これらの組成物の欠点は、どの組成物も腸内細菌異常増殖症候群の発症及びH.ピロリ菌のトランスロケーションの発生を防止せず、したがって胃がんの発症も妨げないことである。同時に、これらの組成物は、GERDの臨床経過を悪化させ得る。したがって、例えば、胃内での炭酸水素ナトリウムの中和は胃の内容物の逆流を引き起こし、これはGERD患者の病状の悪化及び/又は増悪につながり得る。炭酸水素ナトリウムを含有する薬剤の長期にわたる投与は、代謝性アルカローシスの発症につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】露国特許第2361574号明細書
【特許文献2】露国特許第2207339号明細書
【特許文献3】露国特許第2184734号明細書
【特許文献4】露国特許第2410100号明細書
【特許文献5】国際公開第9403184号パンフレット
【特許文献6】欧州特許第2201952号明細書
【特許文献7】国際公開第9959612号パンフレット
【特許文献8】欧州特許第2208500号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Experimental and clinical gastroenterology.2010;5:pp.113−118
【非特許文献2】Everhart J.E.//Gastroenterol.Clin.North Amer.−2000.−V.29.−pp.559−578
【非特許文献3】Malfertheiner P.,Megraud F.,O’Morain C.A.et al.Management of Helicobacter pylori infection−the Maastricht IV./Florence Consensus Report.Gut 2012;61:646−664
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、H.ピロリ菌のトランスロケーション及び腸内細菌異常増殖症候群の発症を防止する、GERD治療用の有効な配合剤を創薬することである。
【0017】
本発明による成果は、H.ピロリ菌のトランスロケーション問題が乳酸桿菌の胃前庭部での定着及びPPIでの治療におけるH.ピロリ菌の競合的阻害を通じて解決されるため、H.ピロリ菌を検出して細菌根絶治療を行う必要がないことにある。加えて、PPIを使用した長期にわたる療法の安全性が改善される。この場合、胃粘膜の萎縮は起きず、結果的に胃がん発症リスクが上昇しない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、胃食道逆流性疾患治療用の医薬組成物が、少なくとも1種のプロトンポンプ阻害剤と少なくとも1種のプレバイオティクスとを、以下の組成物成分含有量(%w/w)で含有することである。
プロトンポンプ阻害剤:0.05〜25
プレバイオティクス:10〜95
賦形剤:100からの差引残分
【0019】
本発明の特定の実施形態において、組成物は、脂肪族アルコール類、すなわちキシリトール、ソルビトール、ラクチトールのプレバイオティクスを含有する又は二糖及び三糖類、すなわちラクツロース、ラクトスクロース、メリビオース、キシロビオース、スタキオース、ラフィノースのプレバイオティクスを含有する又はオリゴ糖類、すなわちフラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖のプレバイオティクスを含有する又は多糖類、すなわちアラビノガラクタン、ペクチン、プルラン、イヌリンのプレバイオティクスを含有する。
【0020】
本発明の特定の実施形態において、組成物は、以下の群:オメプラゾール、パントプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エスオメプラゾール及びデクスランソプラゾールのプロトンポンプ阻害剤を含有し得る。
【0021】
組成物は好ましくは経口剤形:経口懸濁液、経口溶液、カプセル、錠剤、粉末、サシェ、ペレット、顆粒で形成される。
【0022】
請求の発明の本質は、方法の一部において、胃食道逆流性疾患の治療方法を表明することであり、H.ピロリ菌の存在は、H.ピロリ菌の胃前庭部から胃体部へのトランスロケーションに関連したリスクを防止するためのその根絶を必要とせず、少なくとも1日1回、疾患の形態によって決定されるが4週間以上である期間にわたって発明の請求項1〜4のいずれか一項にしたがって製造される医薬組成物「プロトンポンプ阻害剤+プレバイオティクス」を腸に投与することで達成される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
組成物は、プロトンポンプ阻害剤、すなわちオメプラゾールを10〜40mg又はパントプラゾールを20〜80mg又はランソプラゾールを30〜60mg又はラベプラゾールを10〜60mg又はエスオメプラゾールを20〜80mgの量で含有し得る。
【0024】
プレバイオティクスは、大腸内の常在性微生物個体群の1種以上の細菌種の成長及び/又は代謝活性を選択的に刺激することで健康の改善に貢献する不消化性食品成分である(Gibson G.R.,Roberfroid M.B.,1995)。食物繊維は、消化酵素の影響下にある小腸では消化されず、変化することなく結腸に進む。結腸下部において、オリゴ糖はビフィズス菌及び乳酸桿菌により発酵する。これは総細菌量の増加、免疫系の刺激、腸運動の増加及び消化管の機能活動の更なる正常化につながる。
【0025】
プレバイオティクス(例えば、ラクツロース、フラクトオリゴ糖等)の請求の技術的成果の達成における役割は胃前庭部及び十二指腸内の患者の常在乳酸桿菌の成長を能動的に刺激することにあり、その結果、ヘリコバクター・ピロリ菌の成長が競合的に阻害される。これがトランスロケーションが防止される主な要因であり、場合によっては病原菌を根絶させる。薬剤の経口投与後、胃及び十二指腸内では、患者の常在乳酸桿菌が活発に増殖し始め(すなわち、異常増殖が起きる)、抗生物質での抗菌療法を行なわずともヘリコバクター・ピロリ菌の成長及び増殖が阻害される。
【0026】
感染からの保護における主な役割は、生物の定着抵抗性(colonization resistance)を確保する共生の微生物個体群が果たす。定着抵抗性とは、正常な微生物個体群の安定性を確保し且つ宿主生物への病原体又は日和見病原体の定着を防止する一連のメカニズムを意味する。
【0027】
研究から(Castagliuolo I.,Riegler M.F.et al.,1999;Madsen K.,Cornish A.et al.,2001)、ビフィズス菌及び乳酸菌が病原体の付着を阻害し、細菌毒素を中和し、また粘液バリアのバリア機能を増強することが判明している。
【0028】
乳酸桿菌は、基質をめぐる競合、抗菌物質、例えばバクテリオシンの産生及び免疫の刺激により潜在的な病原菌の成長を防止することができる。
【0029】
より多くのH.ピロリ菌が定着することで無菌マウスは続いて急性胃炎を発症したが、H.ピロリ菌は、ラクトバチルス・サリバリウス(Lacobacillus salivarius)に感染したBALB/c系ノトバイオートマウスの生物に定着することができないと判明している。H.ピロリ菌感染後にラクトバチルス・サリバリウスを導入すると、H.ピロリ菌の定着が排除された。
【0030】
インビトロ及びインビボでの乳酸桿菌がH.ピロリ菌に及ぼす影響についての研究に費やされた作業の殆どは、外来性の乳酸桿菌培養物の導入を伴って行われた。インビトロでの条件下、ヘリコバクター・ピロリ菌の成長の競合的阻害が証明された。
【0031】
数多くの研究において、プレバイオティクスがビフィズス菌及び乳酸菌の成長を刺激することが証明されている。例えば、Probert,H.M.,Gibson,G.R.,2002の研究は、プレバイオティクスによるビフィズス菌及び乳酸菌の成長の刺激について示した。腸管内のビフィズス菌及び乳酸桿菌のレベル上昇が、プレバイオティクスを投与された健康な人間から採取された便サンプルにおいて観察された。
【0032】
ビフィズス菌及び乳酸菌の数の増加は、フラクトオリゴ糖で富化したイヌリンを2週間にわたって用量15g/日で投与された患者の胃腸粘膜においても見られた。
【0033】
1日3gの用量でヒトに投与されたラクツロースのプレバイオティクス効果についての研究は、ビフィズス菌及び乳酸桿菌の数における著しい増加及びクロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)、バクテロイド、腸内細菌科及び連鎖球菌の数の減少を示した。
【0034】
プロトンポンプ阻害剤(オメプラゾール、ランソプラゾール、パントプラゾール、ラベプラゾール、エスオメプラゾール)は、GERD治療に最も効果的である。PPIの治療効果は、逆流物が損傷を引き起こす可能性を低下させることをベースとしており(酸産生の阻害を通じた逆流物の減少及び組成物による逆流物変性)、それによって症状が治まり、損傷を受けた食道粘膜が治癒する条件が作り出される。PPIは、食事の20〜30分前に1日1〜2回の用量で処方される。基本的な治療コースの期間は少なくとも8週間である。逆流性食道炎の患者においては、治療期間は12週間に及ぶ。再発性びらん性−潰瘍性の逆流性食道炎及びバレット食道の場合は、標準的なPPI用量での持続的な支持治療が推奨される。頻繁に再発する内視鏡陰性GERDの場合は、最小限ではあるが有効量のPPIでの持続的な支持治療を適用することを勧める(個別に選択する)。古典的な逆流症候群(内視鏡陰性GERD形態)の場合は、症状をコントロールしながらの「オンデマンド」のPPI療法を勧める。
【0035】
胃食道逆流性疾患を治療するための、本発明による、少なくとも1種のプロトンポンプ阻害剤と少なくとも1種のプレバイオティクスとを含有する(組成物中の成分含有量(%w/w)はプロトンポンプ阻害剤が0.05〜0.25%、プレバイオティクスが10〜95%であり、賦形剤と合わせて最高100%)医薬組成物の適用により、PPIを投与しても胃前庭部から胃体部へのH.ピロリ菌のトランスロケーションが起きず、また長期にわたってPPIを摂取しても細菌異常増殖症候群が発症しないという請求の組成物の予期せぬ相乗効果が得られる。請求の発明の実際の実施例として、GERD治療用の、プロトンポンプ阻害剤(PPI)とプレバイオティクスとを含有する医薬組成物についての臨床研究結果を示す。
【0036】
内視鏡陰性GERDを患った、H.ピロリ菌に感染した19〜50歳の男女100人の患者について調査した。
【0037】
患者全員を各10人の10のグループに分け、そのうち5つのグループ(I〜V)を実験グループ、5つのグループ(VI〜X)をコントロールグループとした。
【0038】
実験グループでは、患者にPPI及びプレバイオティクスをベースとした請求の製剤を経口投与した。グループI:オメプラゾール及びラクツロースを活性成分として含有する組成物。グループII:パントプラゾール及びラクチトールを活性成分として含有する組成物。グループIII:ランソプラゾール及びイヌリンを活性成分として含有する組成物。グループIV:ラベプラゾール及びフラクトオリゴ糖を活性成分として含有する組成物。グループV:エスオメプラゾール及びラクツロースを活性成分として含有する組成物。
【0039】
コントロールグループでは、患者にPPI単剤療法を経口で施した。グループVI:オメプラゾール。グループVII:パントプラゾール。グループVIII:ランソプラゾール。グループIX:ラベプラゾール。グループX:エスオメプラゾール。
【0040】
患者全員が、同様のパターンで治療を受けた。すなわち、患者にプロトンポンプ阻害剤とプレバイオティクスとの組成物を1日2回、56日間にわたって投与した。
【0041】
医薬組成物への配合にあたっては、以下のPPI治療薬量を用いた。
【0042】
GERDを、以下のデータ:客観的な臨床データ(胸焼けの愁訴及び/又は患者を不快にさせる逆流);食道胃十二指腸内視鏡検査での食道粘膜の検査;アルギネート試験(物理的な逆流防止効果を有するアルギン酸製剤を1回投与した後のGERD症状の軽減を評価する診断試験)の分析結果に基づいて診断した。一部のケースにおいては、徴候に応じて、24時間のpHモニタリング及び食道内圧測定を行った。
【0043】
患者全員について、治療前及び治療コース終了から4週間後(1カ月後)に、胃前庭部及び胃体部の生検を行ってヘリコバクター・ピロリ菌の有無について調べた。H.ピロリ菌の有無は以下を用いて診断した。
1.胃内視鏡検査で得られた胃前庭部及び胃体部粘膜の細胞学的及び組織学的生検
2.ウレアーゼ試験。胃前庭部及び胃体部から得られた粘膜生検試料をヘリコバクター・ピロリ菌に特異的な酵素であるウレアーゼの有無について調べた
【0044】
患者全員について、生活の質(QOL)を、視覚的アナログ尺度(VAS)(Visual Analog Scale)及びGSRS質問票にしたがって、治療前及び来診中に評価した。
【0045】
各患者がインフォームドコンセントの書類にサインをしてスクリーニング検査に合格してから、患者を10の療法グループの1つにランダムにふりわけた(各グループは10人の患者から成る)。そのうち5つのグループは実験グループであった(患者は、PPI及びプレバイオティクスをベースとした請求の製剤を経口投与された)。
【0046】
患者は日誌をつけ、毎日、服用時刻、リッカート尺度に準じた疾患の症状の重症度、鼓腸の重症度、排便回数等を記録した。
【0047】
治療開始後、2週間及び5週間後に患者は再度診療に訪れた。診療中、治療の有効性及び安全性を確認し、加えて、療法が継続可能か否かを判断した。療法開始から56日後(8週間)、患者は診療に訪れ、治療の有効性及び安全性を評価した後、治療を終了した。治療開始から11週間後の最後の診療で、H.ピロリ菌を検出するための胃前庭部及び胃体部の生検を伴う食道胃十二指腸内視鏡検査が行われた。治療コースの前後に(56日目)、患者全員が、腸内細菌異常増殖症候群の発症の有無についての水素呼気試験を受けた。
【0048】
臨床研究の結果からわかるように、GERD治療に使用した請求の医薬組成物はH.ピロリ菌に対して高い治療有効性を有し、また十二指腸の細菌個体群にプラスの効果を有する。請求の医薬組成物は乳酸桿菌の成長を刺激することで、組成物の効率の良さの決め手の1つである腸内細菌異常増殖症候群の発症を防止する。これらの効果は、胃前庭部から胃体部へのH.ピロリ菌のトランスロケーションがないこと、腸内細菌異常増殖症候群の発症の防止及び療法によって引き起こされる副作用の著しい減少となって表れた。GERDの主な症状に関係した請求の組成物の治療有効性は、PPIを単独で用いる標準的な療法より安全面において優れている(表1〜10)。
【0059】
臨床試験の結果は、PPI及びプレバイオティクスを活性成分として含有する請求の医薬組成物の経口投与によるGERD治療の有効性を客観的に実証している。治療することによるQOLの上昇はグループ間で同等であった。治療レジメンで用いたプレバイオティクスが胃前庭部から胃体部へのH.ピロリ菌のトランスロケーション頻度を乳酸桿菌の胃前庭部での定着及びH.ピロリ菌の競合的阻害を通じて低下させたことは注目に値する。加えて、プレバイオティクスで治療した患者では腸内細菌異常増殖症候群の頻度が低下した。これは患者の正常な常在細菌個体群の成長が刺激されたことに起因する。
【0060】
プロトンポンプ阻害剤及びプレバイオティクスの相乗効果による上部消化管における高い臨床効率及び安全性、薬剤副作用がないことは、請求の組成物が、従来技術からはこれまで知られていなかった、GERDにとって有望な新しい治療法であることを示している。
【0061】
本発明の組成物は、標準的な設備の製薬工場で製造可能である。
【国際調査報告】