【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、細胞接着、移動、増殖又は分化などの細胞の挙動を正確に調節する細胞外マトリックス(ECM)由来又は成長因子由来のペプチドモチーフの少なくとも一つ以上を提供する架橋性生体材料組成物を含む合成微小環境を提供する。
【0016】
本発明の一側面によれば、細胞外マトリックス由来(ECM)又は成長因子由来のペプチドモチーフの少なくとも一つ以上で機能化された生体材料と架橋剤を含む合成3次元微小環境をその場で(in situ)作り出すための架橋性生体材料組成物を提供し、前記架橋剤は、広範なpH条件下で共有結合、イオン結合、水素結合及びファンデルワールス相互作用を通じた化学的方法や、分子のもつれや絡合いを通じた物理的な方法、あるいは、化学的及び物理的な方法を同時に用いて架橋反応を媒介することができる。
【0017】
本発明の一実施形態において、様々な細胞外マトリックスタンパク質又は成長因子に由来する少なくとも一つ以上のペプチドモチーフで機能化された組換えタンパク質及び架橋剤からなる合成3次元微小環境を作り出すための架橋性生体材料組成物を提供し、前記架橋剤は、広範なpH条件下で架橋反応を通じて化学的な架橋結合を媒介することができる。
【0018】
任意の好適な組換えタンパク質は、フィブリン、エラスチン、イガイ接着タンパク質を含むが、これらに限定されない。好ましくは、前記タンパク質は、組換えイガイ接着タンパク質である。
【0019】
任意の好適なイガイ接着タンパク質が本発明の生体材料として使用可能である。微小環境を生成する生体材料組成物は、基本的に2種類の成分を含む。第1の成分は、生理活性ペプチドで機能化されたイガイ接着タンパク質である。第2の成分は、架橋剤である。2つの成分は両方とも市販中の材料であるか、あるいは、合成若しくは天然の供給源から得られる。市販タンパク質の例としては、米国サウスカロライナ州ノース オーガスタ所在のコロディスバイオサイエンス社により市販されているMAPTrix
TM ECMが挙げられる。任意の第3の成分は、カスタマイズ可能な微小環境の物理的又は機械的物性などの物理機械的物性を向上させるために前記組成物に添加可能な生体適合性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコール)である。
【0020】
MAPTrix
TM ECMは、コロディスバイオサイエンス社が開発した材料であり、イガイ接着タンパク質に基づくECM擬似材料である。イガイ接着タンパク質は、ECM又はGFを自然的に誘発する生理活性を擬態するために様々なECM又はGF由来のペプチドで組換え的に機能化され、これは、天然の又は組換えECMタンパク質又はGFタンパク質と比較したとき、1次細胞培養において天然の又は組換えECM又はGFと略同じ生理活性を有することが裏付けられている。このように予めデザインされたMAPTrix
TM ECM擬似体は、細胞外マトリックス微小環境の製造に際して大きなメリットを有する。例えば、細胞特異的又はユーザー定義により調整される細胞外微小環境を提供して、生化学的な合図の側面からみて、天然の微小環境を擬態することができる。
【0021】
前記MAPTrix
TM ECMは、生理活性ペプチドで組換え技術により機能化されたイガイ接着タンパク質であり、配列番号10〜13よりなる群から選ばれるイガイ足糸タンパク質FP−5(配列番号2)の第1のペプチド、及び配列番号1乃至3よりなる群から選ばれるイガイFP−1、イガイFP−2(配列番号4)、配列番号5乃至8よりなる群から選ばれるFP−3、イガイFP−4(配列番号9)、イガイFP−6(配列番号14)及びその断片よりなる群から選ばれる少なくとも一つの第2のペプチドを含む融合タンパク質である。ここで、前記第2のペプチドは、FP−5のC−末端、N−末端、又はC−及びN−末端と接続される。好ましくは、第2のペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含むFP−1である。
【0022】
本発明において、生理活性ペプチドは、天然の細胞外マトリックスの微小環境を擬態するために必要である。また、例えば、繊維芽細胞成長因子(FGF)、形質転換成長因子(TGF)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、神経成長因子(NGF)、血管内皮成長因子(VEGF)又は物質Pなどの成長因子のような追加成分が含まれて、細胞及び組織培養、医療機器及び治療又は他の関連する適用分野において細胞外マトリックス擬似体の有利な効果をさらに向上させることができる。
【0023】
生理活性ペプチドは細胞外マトリックスタンパク質又は成長因子に由来して天然の細胞外微小環境の生化学的又は生物理学的合図を擬態する天然の又は合成ペプチドである。前記細胞外マトリックスタンパク質は、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、成長因子などの繊維状タンパク質であってもよい。ECMタンパク質は、インテグリンなどの接着活性に直接的に影響を及ぼすことがあり、インテグリンンなどの接着受容体は、再び多価の細胞外マトリックスタンパク質と結合した後に焦点接着複合体(focal adhesion complex)内において、キナーゼ及びアダプタタンパク質で共にクラスターを形成する(co−clustering)ことにより、シグナル伝達経路を活性化させることができる。例えば、フィブロネクチン、ラミニン又はビトロネクチン由来のRGD含有ペプチド断片(segment)は、インテグリンの活性を調節することができる。
【0024】
組合せ的なシグナル伝達を誘導するために、共に微小環境を生成する細胞外マトリック
スタンパク質由来のペプチドモチーフの好適な組み合わせは、ECMタンパク質又は成長因子から選ばれる。前記ECMタンパク質は、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、ヘパリン結合ドメイン、エンタクチン又はフィブリノゲンから選ばれる。例えば、インテグリンα1β1を活性化するGFPGER(配列番号22)を含有するコラーゲンタイプI由来のMAPTrix
TM ECMと、インテグリンαvβ3を活性化するIKVAV(配列番号37)を含有するラミニン由来のMAPTrix
TM ECMの混合物は、2種類の異なるインテグリンαvβ3−α1β1を同時に活性化させて内皮管形成を誘導することができる。前記成長因子は、繊維芽細胞成長因子、形質転換成長因子、神経成長因子、表皮成長因子、VEGF又はPDGFから選ばれる。
【0025】
好ましくは、ペプチドモチーフの好適な組み合わせは、式A−B又はA1−B1を有し、前記Aは、インテグリンαvβ3、αvβ5、ヘパリン又はシンデカンを活性化するペプチドモチーフであり、前記Bは、インテグリンα1β1、α3β1、α4β1、α5β1又はα6β1を活性化するペプチドモチーフである。A1は、成長因子受容体を活性化するペプチドモチーフであり、B1は、インテグリン、ヘパリン又はシンデカンを活性化するモチーフである。
【0026】
より好ましくは、インテグリンαvβ3、αvβ5又はシンデカンを活性化するための好適なペプチドモチーフ(A)は、IDAPS(配列番号60)、IKVAV(配列番号37)、RQVFQVAYIIIKA(配列番号36)、KAFDITYVRLKF(配列番号47)、MNYYSNS(配列番号31)、RGDV(配列番号63)、WQPPRARI(配列番号57)、RKRLQVQLSIRT(配列番号40)、KNSFMALYLSKG(配列番号41)、SPPRRARVT(配列番号56)、KNNQKSEPLIGRKKT(配列番号58)、GDLGRPGRKGRPGPP(配列番号98)、ATETTITISWRTKTE(配列番号99)、TLFLAHGRLVFM(配列番号100)、KGHRGF(配列番号21)、FRHRNRKGY(配列番号101)、KRSR(配列番号102)、FHRRIKA(配列番号103)、HAV(配列番号104)、ADTPPV(配列番号105)、DQNDN(配列番号106)から選ばれる。インテグリンα1β1、α2β1,α3β1、α4β1、α5β1又はα6β1を活性化するための他の好適なペプチドモチーフ(B)は、表1に示す群から選ばれる。
【0027】
【表1】
【0028】
本発明の一実施形態において、インテグリンαvサブタイプとインテグリンβサブタイプの両方の活性を組合せ的に調節する合成微小環境が提供される。前記イガイ接着タンパク質は、主としてコラーゲンタイプIに由来してα2β1を標的とするGFPGER(配
列番号22)などのペプチド、及びラミニンに由来してαvβ3を標的とするIKVAV(配列番号37)などのペプチドで機能化されたイガイ接着タンパク質からなる、機能化されたイガイ接着タンパク質の組み合わせである。
【0029】
本発明の一実施形態において、インテグリンα又はこのサブタイプとインテグリンβの両方の活性を組合せ的に調節する合成微小環境が提供される。前記イガイ接着タンパク質は、主としてコラーゲンタイプIに由来してα2β1を標的とするGFPGER(配列番号22)などのペプチド、及びフィブロネクチンに由来してα5β1を標的とするGRGDSP(配列番号52)などのペプチドで機能化されたイガイ接着タンパク質からなる、機能化されたイガイ接着タンパク質の組み合わせである。
【0030】
本発明の一実施形態において、インテグリン若しくはインテグリンのサブタイプ及びヘパリンの両方の活性を組合せ的に調節する合成微小環境が提供される。イガイ接着タンパク質は、主としてコラーゲンタイプIに由来してα2β1を標的とするGFPGER(配列番号22)などのペプチド、及びコラーゲンタイプIに由来してヘパリンを標的とするKGHRGF(配列番号22)などのペプチドで機能化されたイガイ接着タンパク質からなる、機能化されたイガイ接着タンパク質の組み合わせである。
【0031】
本発明の一実施形態において、インテグリン若しくはインテグリンのサブタイプ及び成長因子受容体の両方の活性を組合せ的に調節する合成微小環境が提供される。イガイ接着タンパク質は、主としてフィブロネクチンに由来してα5β1を標的とするGRGDSP(配列番号52)などのペプチド、及びFGFに由来してFGF受容体;FGFR2IIIcを標的とするGRGDSP(配列番号52)などのペプチドで機能化されたイガイ接着タンパク質からなる、機能化されたイガイ接着タンパク質の組み合わせである。
【0032】
本発明の他の実施形態において、前記イガイ接着タンパク質は、FP−151融合タンパク質であり、前記タンパク質は、フィブロネクチン由来のペプチドであるGRGDSP(配列番号52)ペプチドで遺伝子組換え技術により機能化されてフィブロネクチンリッチ(rich)な細胞外マトリックスを擬態するヒドロゲルを形成する。
【0033】
本発明に用いて好適な化学的に架橋剤は、天然の又は合成起源の、任意の生体的合成ポリマーであってもよい。好ましくは、架橋剤は適切な官能基を有して、イガイ接着タンパク質と直接的に又はリンカー(linker)を介して共有結合的に結合可能な合成ポリマーである。このような条件を満たす任意のポリマーが本発明に使用可能であり、特定のポリマーの選択、このようなポリマーの確保又は製造は、この技術分野において公知の任意の方式により行われる(参考文献:The Biomedical Engineering Handbook, ed. Bronzino, Section 4, ed. Park )。このような架橋性ポリマーとして好適なものは、ポリ(アルキレンオキシド)、特に、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリペプチド、ポリリシンなどのポリアミノ酸、ポリ(アリルアミン)(PAM)、ポリ(アクリレート)、ポリエステル、ポリホスファゼン、プルロニック(pluronic)ポリオール、ポリオキサマー、ポリ(ウロン酸)及びこれらのグラフト(graft)ポリマーを含むコーポリマーよりなる群から選ばれる。
【0034】
前記ポリマーは、一般に、最小1,000から数百万ダルトン(Da)までの様々な範囲の分子量を有するように選ばれる。好ましくは、選ばれたポリマーは、分子量が約30,000〜50,000ダルトンであってもよく、ポリマーそのものの分子骨格が分解可能なものであってもよい。分解可能なポリマー骨格を有するポリマーは、例えば、ポリ(グリコール酸)及びポリ(乳酸)を含むポリ(a−ヒドロキシ酸)の脂肪族ポリエステルのように骨格内にエステル基を含有するポリマーなどその内部に加水分解性基を有する骨
格を有するポリマーを含む。分子骨格そのものが分解可能であるときには、このような分解性を提供するために必ずしも低分子量のポリマーである必要はない。
【0035】
本発明の一実施形態において、その場で形成可能た3次元細胞外マトリックスを擬態する組成物が提供される。前記組成物は、マルチアーム(multiple−arm)PEGと天然の細胞外マトリックスの3次元細胞外マトリックス微小環境を擬態したイガイ接着タンパク質を含む。マルチアームPEGは、4アーム、6アーム、8アーム若しくは10アームPEGから選ばれる。好ましいマルチアームPEGは、4アーム〜8アームから選ばれる。最も好ましいマルチアームPEGは、6アーム及び8アームPEGである。
【0036】
他の好ましい一実施形態において、好適な化合物は、4〜8アームPEG−コハク酸、4〜8アームPEG−グルタル酸、4〜8アームPEG−スクシミジルスクシネート、4〜8アームPEG−スクシミジルグルタレート、4〜8アームPEG−アクリレート又は4〜8アームPEG−プロピオンアルデヒドよりなる群から選ばれるいずれか一種である。
【0037】
8アームPEG−SGからなる合成微小環境形成組成物が、ECM由来のペプチドで機能化されたイガイ接着タンパク質とによって容易に形成可能であるか、あるいは、イガイ接着タンパク質又は6アームPEG−アミンなどとのイガイ接着タンパク質の混合物によって、6アームPEG−SGからなるヒドロゲル形成組成物が形成可能である。本発明において用いるMAPTrix
TM ECM及びマルチアームPEGから形成されたMAPTrix
TM HyGelは、PCT/KR2011/001831(Adhesive extracellular matrix mimic)に記述されており、参照することにより本書に組み込まれる。
【0038】
本発明の一実施形態において、内皮の形態形成のための合成微小環境が提供され、前記微小環境は、血管新生を引き起こすインテグリンを媒介する組み合わせのシグナル伝達を提供する。
【0039】
内皮細胞は、広範なインテグリンサブユニットを発現する。血管内皮細胞は、αvβ3、αvβ5、α1β1、α2β1、α3β1、α5β1、α6β1、α6β4を含むインテグリンのサブセット(subset)を発現し、これらのインテグリンはリガンドの組み合わせと結合する。
【0040】
α1β1、α3β1及びα5β1は、静止血管において低レベルで発現されるが、血管形成の間に少なくともα5β1の発現を上方に調節する(Kairbaan M, et
al., Cell Tissue Res (2003) 314:131−144)。
【0041】
αvβ3、αvβ5及びα2β1は、静止血管においてほとんど検出されないが、スプラウト(sprout)においてはその発現量が大幅に増加する(Max et al., Eur J Cancer (1997) 33:208−208)。
【0042】
本発明の一実施形態において、内皮管形成などの細胞形態形成をするための内皮細胞によって活用されたβ1インテグリンを含有するヘテロダイマーを調節する合成3次元微小環境が提供される。
【0043】
インテグリンは、細胞表面接着分子の上科(superfamily)であり、18個の異なるα鎖(α1−α11、αv、αIIb、αL、αM、αX、αD、αE)と8個の異なるβ鎖(β1−β8)がヘテロダイマーとして非共有結合的に会合する。インテグ
リンは、細胞と細胞との間の相互作用及び細胞とマトリックスとの間の相互作用を媒介するのに重要な役割を果たし、細胞増殖、生存、分化及び移動などの細胞の主な機能に関与している。
【0044】
内皮細胞(EC)において、αvなどのいくつかの種類のインテグリンにより媒介される細胞−マトリックス相互作用は、細胞の形態形成の重要なモジュレーターである(Stupack DG, et al., Curr Top Dev Biol. 2004, 64:207−38 WickstrSA, et al., Adv Cancer Res. 2005;94:197−229)。
【0045】
前記αvインテグリンサブユニットは、4個の異なるβサブユニット(β3、β5、β6及びβ8)と、同様にβ1と選択的に対をなし、順に1ダースの他のαサブユニットと対をなすことができる。
【0046】
β1インテグリンは、血管形成の生成に際しての間に、ECの接着、移動と生存に必要である(Carlson TR, et al., Development. 2008; 135(12):2193−202)。
【0047】
前記β1サブユニットは、少なくとも10個の異なるαサブユニットと結合して最大のインテグリンサブファミリを構成する。β1インテグリンサブファミリの要素は、主としてフィブロネクチン、コラーゲン及びラミニンなどの細胞外マトリックス成分と結合するが、一部のβ1インテグリンサブユニットは、細胞−細胞接着に直接的に関与する(Hynes, 1992; Haas and Plow, 1994)。
【0048】
一実施形態において、細胞形態形成のための合成微小環境が提供される。前記合成微小環境は、内皮細胞が形態形成のために活用されるβ1インテグリンを含有するヘテロダイマーを調節するMAPTrix
TM 組成物を含む。本発明に好適なMAPTrix
TM 組成物は、2以上の異なる生理活性ペプチドモチーフを提供し、前記ペプチドモチーフのうちの一つはαvを含有するインテグリンを調節し、もう一つはβ1を含有するインテグリンを調節する。好ましくは、β1インテグリンを含有するヘテロダイマーは、α2β1又はα5β1から選ばれる。好ましい一実施形態において、前記MAPTrix
TM 組成物は、α2β1とαvβ3インテグリンを同時に調節する。他の好ましい一実施形態において、前記MAPTrix
TM ECM組成物は、α5βとαvβ31インテグリンを同時に調節する。
【0049】
また、本発明は、弾性率が調節された微小環境を提供し、この細孔径は、生体材料組成物に対するエンハンサーを添加することにより一貫している。
【0050】
本発明のエンハンサーは、イガイ接着タンパク質と架橋剤との間の架橋ポリマーから形成された分子鎖を物理的に絡み合わせることにより相互侵入鎖(interpenetrating chains)を形成する。生成された微小環境は、調節された弾力性を提供することができる。
【0051】
前記エンハンサーは、架橋性又は非架橋性の、天然の、半合成の又は合成物質から選ばれる。
【0052】
エンハンサーは、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、キチン、キトサン及びこれらの誘導体を含む群から選ばれる一種以上の多糖、セルロース及びこれらの誘導体であってもよいが、これらに限定されない。加えて、エンハンサーは、コラーゲン、フィブリノゲン、ゼラチン及びその誘導体を含む群から選ばれるポリペプチド又はタンパク質であってもよいが
、これらに限定されない。前記半合成の又は合成ポリマーは、ポリ(L−リシン)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)から選ばれる。ホモ又はコーポリマーは、メタアクリルアミド、メタアクリル酸およびその塩、メタ(アクリレート)、エチレングリコール、エチレンオキシド、スチレンスルホネート、ビニルアセテート又はビニルアルコールから選ばれるモノマーからなる。
【0053】
好適なエンハンサーは、キトサン又はキチンを含む自然的に発生する多糖、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(乳酸)などの合成ポリマーのホモ又はコーポリマーである。
【0054】
一実施形態において、マルチアームPEG−SGからなる弾性的に調節された微小環境形成組成物は、ECM由来のペプチドで機能化されたイガイ接着タンパク質とエンハンサーで容易に形成されて、イガイ接着タンパク質−マルチアームPEGの弾性を増加させるか、あるいは、イガイ接着タンパク質又は6アームPEG−アミンなどとのイガイ接着タンパク質の混合物によって、6アームPEG−SGからなるヒドロゲル形成組成物が形成される。
【0055】
一実施形態において、その場で形成可能な、弾性的に調節された微小環境を形成する細胞外マトリックスを擬態した組成物が提供される。前記組成物は、マルチアームPEG、GRGDSPを含有するイガイ接着タンパク質及びエンハンサーからなり、天然の細胞外マトリックスの微小環境を擬態する。マルチアームPEGは、4アーム、6アーム、8アーム、10アーム又は12アームPEGから選ばれる。好ましいマルチアームPEGは、4〜8アームから選ばれる。最も好ましいマルチアームPEGは、4、6及び8アームPEGである。
【0056】
他の好ましい一実施形態において、好適な化合物は、4〜8アームPEG−コハク酸、4〜8アームPEG−グルタル酸、4〜8アームPEG−スクシミジルスクシネート、4〜8アームPEG−スクシミジルグルタレート、4〜8アームPEG−アクリレート又は4〜8アームPEG−プロピオンアルデヒドよりなる群から選ばれるいずれか一種である。
【0057】
本発明は、生体材料組成物における濃度向上剤を選ぶことにより、容易に調節可能な弾性を有する細胞外微小環境を提供し、これは、空隙径などの物理的な合図と生化学的な合図が一致している。
【0058】
一実施形態において、0.1kPa〜2kPaの弾性を有する微小環境を提供する生体材料組成物を提供し、このとき、平均的な空隙径は100μmであり、これは、生化学的な合図と一致する。
【0059】
足場の空隙径は、足場内における細胞の挙動に影響を及ぼし、このような空隙径のわずかな変化は、細胞の挙動に大きな影響を与えることができる。
【0060】
空隙が大き過ぎる場合には、足場の機械的性質は空隙容量により損なわれ、空隙径がさらに増加すると、比表面積は、最終的に、細胞接着を制限するレベルにまで減少する。
【0061】
細胞活性は、細胞と周りのECMとの間の特異的なインテグリン−リガンド相互作用により影響を受ける。初期の細胞接着は、足場内における増殖、移動及び分化などの全ての後発事象を仲介する。その結果、足場内の平均的な空隙径は、細胞接着、次の増殖、移動及び浸入に影響を及ぼす。このため、細胞移動のための適正な空隙径と細胞接着のための特異的な表面領域との間のバランスを維持することが重要である(essential.
(Ma Z, et al., Potential of nanofiber matrix as tissue−engineering scaffolds. Tissue Eng.2005. 11 (1 −2):101−9.; Karageorgiou V, Kaplan D. Porosity of 3D biomaterial scaffolds and osteogenesis. Biomaterials. (2005) 26(27):5474−91.)
【0062】
表2にまとめて示すように、最適な空隙径は、様々な細胞類型に応じて変化する ((0’Brien FJ, et al., The effect of pore size on cell adhesion in collagen−GAG scaffolds. Biomaterials. 2005; 26(4):433−41)。最近の研究においては、CG足場の狭い範囲の上に接種して3週間骨形成培地で維持された間充織幹細胞は、より大きな空隙を有する足場に改善された骨形成を示すことが報告されている(Byrne EM, et al., Gene expression
by marrow stromal cells in a porous collagen glycosaminoglycan scaffold is affected by pore size and mechanical stimulation.J Mater Sci Mater Med. 2008 Nov; 19(1 1):3455−63)。
【0063】
【表2】
【0064】
また、本発明は、インテグリンとの相互作用により前記細胞の挙動に相乗効果を誘導する成長因子を擬態するペプチドモチーフが存在することにより、細胞の成長、増殖又は分化をより正確に調節する合成微小環境を提供する。
【0065】
成長因子は、細胞増殖及び分化を調節可能な自然発生的なポリペプチドである。成長因子は、組織の発生、再生及び創傷治癒を含む種々の生理的過程の調節において重要である。
【0066】
繊維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor;FGF)は
、ほとんどの細胞を刺激してFGFへの分裂及び非有糸分裂を促す。FGFは、創傷治癒への細胞移動(走化性)、血管形成(血管新生)、神経細胞再生調節(神経細胞成長を誘導する)及び特定の細胞における発現、細胞生存の促進又は抑制を活性化することができる(Ornitz and Itoh, Fibroblast growth factors, Genome Biology 2001 2(3), 3005.1−3005.12)。
【0067】
今日、酸性及び塩基性繊維芽細胞成長因子を含む23種からなるFGFが知られており、各FGFは、活性ドメインとして、カノフィン(canofin)、ヘキサフィン(hexafin)、デガフィン(decafin)モチーフを有する(Li S, et al., Fibroblast growth factor−derived peptides: functional agonists of the fibroblast growth factor receptor. J Neurochem. 2008 Feb;104(3):667−82., Li S, et al., Agonists of fibroblast growth factor receptor induce neurite outgrowth and survival of cerebellar granule neurons. Dev
Neurobiol. 2009. 69(13):837−54., Shizhong Li, et al., Neuritogenic and Neuroprotective Properties of Peptide Agonists of the Fibroblast Growth Factor Receptor.
Int J Mol Sci. 2010; 11(6): 2291−2305)。
【0068】
MAPTrix
TM FGF擬似体は、天然の又は組換え繊維芽細胞成長因子と類似する生物活性を有し、イガイ接着タンパク質は、酸性FGF由来のペプチドTGQYLAMDTDGLLYGS(配列番号91)、WFVGLKKNG SCKRG(配列番号92)、塩基性FGF由来のペプチドHFKDPKRL YCK(配列番号93)、FLPMSAKS(配列番号94)、KTGPGQKAIL(配列番号95)、ANRYLAMKEDGRLLAS(配列番号96)及びWYVALKRTGQYKLG(配列番号97)、FGF−3由来のペプチドSGRYLAMNKRGRLYAS(配列番号107)、FGF−9由来のペプチドSGLYLGMNEKGELYGS(配列番号108)、FGF−I0由来のペプチドSNYYLAMNKKGKLYGS(配列番号109)、FGF−17由来のペプチドSEKYICMNKRGKLIGK(配列番号110)を含む繊維芽細胞成長因子(FGF)で組換え技術により機能化された。
【0069】
本発明の実施形態において、インテグリン−繊維芽細胞成長因子擬似体の相互作用により存在するペプチド(配列番号93)で組換え技術により機能化されたイガイ接着タンパク質により、内皮の管形成を促す合成微小環境が提供される。
【0070】
同様に、イガイ接着タンパク質は、TGF−α由来のペプチドHADLLAVVAASQ(配列番号111)、TGF−β由来のペプチドKVLALYNK(配列番号112)、EGF由来のペプチドCMHIESLDSYTC(配列番号113)、NGF由来のペプチドPEAHWTKLQHSLDTALR(配列番号114)、PDGF由来のペプチドSVLYTAVQPNE(配列番号115)、VEGF由来のペプチドKLTWQELYQLKYKGI(配列番号116)を含む、様々な成長因子タンパク質由来のペプチドで、組換え技術により機能化される。
【0071】
8アームPEG−SGからなる合成微小環境形成組成物は、ECM由来のペプチドで機能化されたイガイ接着タンパク質で容易に形成されるか、あるいは、6アームPEG−SGからなるヒドロゲル形成組成物は、イガイ接着タンパク質又は6アームPEG−アミン
などとのイガイ接着タンパク質の混合物から形成される。
【0072】
本発明は、ヒアルロン酸を含む生体材料組成物からなる合成微小環境を提供する。ヒアルロン酸(また、ヒアルロナン又はヒアルロン酸塩又はHA)は、連結性の、上皮の、神経の組織全体に分散されたアニオン性の、非硫酸化型のグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)である。細胞外マトリックスを構成する主要成分として、ヒアルロン酸は、細胞増殖及び移動、及び細胞性成長因子及び栄養成分の貯蔵及び拡散に大きく貢献する。また、細胞間の間隔を維持する役割も果たす(J. Necas, et al., Hyaluronic acid (hyaluronan): a review. Veterinarni Medicina, 53, 2008 (8): 397−411)。
【0073】
しかしながら、イガイ接着タンパク質はリジン(lysine)リッチであるためプラスに帯電され、ヒアルロン酸はマイナスに帯電され、したがって、MAPTrix
TMとヒアルロン酸との間の静電気相互作用により凝集体を形成するため、ヒドロゲルを形成することは困難である。
【0074】
一実施形態において、MAPTrix
TM及びヒアルロン酸からなるヒドロゲルは、MAPTrix
TMをPEG化(pegylation)させてリジン残基のアミン基とヒアルロン酸のカルボン酸(carboxylic acid)との間の静電相互作用を減少させることにより形成することができる。
【0075】
タンパク質のPEG化は、最先端の技術であり、タンパク質治療のデリバリーを高めるために使用されている。ロバートらにより開示されたPEG化技術の典型的な例は、本発明において使用することができる(Roberts MJ, Chemistry for peptide and protein PEGylation. Adv Drug Deliv Rev. 2002. 54(4):459−76.及びBailon P, Won CY., PEG−modified biopharmaceuticals. Expert Opin Drug Deliv. 2009. 6(1):1−16)。
【0076】
本発明に用いられるヒアルロン酸は、一般に、1,000ダルトンから3百万ダルトン(Da)までの広範な分子量を有するものから選ばれる。好ましくは、分子量が1万ダルトンから50万ダルトンまでであるヒアルロン酸のうちから選ばれる。
【0077】
細胞外マトリックスの特殊な形態である基底膜は、4種類の主成分(ラミニン、コラーゲンIV、エンタクチン及びペルレカン)からなり、全体の98%を構成し、ヒアルロン酸、ヘパランやコラゲナーゼを含む残りの2%を構成する(Valerie S. LeBleu et al., Structure and Function of Basement Membranes. Exp Biol Med 2007 232(9). 1121−1129)。
【0078】
一実施形態において、一般に、ヒアルロン酸の重量比は制限されないが、合成微小環境の組成は、天然の細胞外マトリックスと同様であり、例えば、好ましくは、ヒアルロン酸の重量比は0.1〜40重量%、さらに好ましくは、0.5〜2重量%である。
【0079】
本発明は、構造調節された合成微小環境を提供する。形態などの足場構造(scaffold architecture)は、細胞結合や拡散に影響を及ぼすことがよく知られている。例えば、マイクロスケールの構造を有する足場に結合する細胞は、まるで平らな表面において培養されるかのように平らに広がる。ナノスケールの構造物は、タンパク
質を吸収するためにより大きな表面積を有し、細胞膜受容体と相互作用するはるかに多くの結合部位が存在し、細胞の形状や活性に大きな影響を与える(M. M. Stevens and J. H. George, Exploring and engineering the cell−surface interface, Science, Vol.310 (2005) 1135−8)。
【0080】
多孔性及び細孔構造に関して、多孔性と細孔構造は、細胞の生存、増殖及び移動に重要な役割を果たすため、合成3次元微小環境を設計するの重要な要素である(Annabi
N. et al., Controlling the Porosity and
Microarchitecture of Hydrogels for Tissue Engineering. Tissue Eng Part B Rev. 2010. 16(4):371−83)。ヒドロゲルの空隙率は、PEGの分子量、濃度、酸性度、ゲル化温度及びゲル化時間に依存する。
【0081】
本発明は、MAPTrix
TMの濃度と分子量、及びマルチアームPEGの濃度を調節することにより、空隙率及び空隙構造が調節された微小環境のための架橋性生体材料組成物を提供する。
【0082】
本発明の一実施形態において、合成微小環境の空隙径は、0.1〜1,000μmである。好ましくは、0.1〜100μmの空隙を有する合成微小環境である。
【0083】
また、本発明は、MAP−ECM−X−NH
2又はMAP−ECM1−X−ECM2−Y−NH
2の式のうちのいずれか一方を有するマトリクリプティック部位を提示することによって、調節微小環境を提供する。このとき、前記MAPは、組換えイガイ接着タンパク質であり、FP1、FP2、FP3、FP4、FP5、FP6若しくは配列番号15のFP−151融合タンパク質を含むそれらとの組み合わせから選ばれ、前記ECMは、細胞外マトリックス若しくは成長因子由来のペプチドモチーフであり、前記X及びYは、酵素による分解速度が同一又は異なる酵素感受性ペプチドモチーフである。
【0084】
前記式に存在する末端アミン基は、マルチアームPEGで架橋して、
図1に示すように、マトリクリプティック部位を有するヒドロゲルを形成するために使用可能である。
【0085】
マトリクリプティック部位は、ECMタンパク質内に存在する生物学的に活性な配列であり、分子の可溶型では露出されないが、タンパク質の構造的または立体構造の変化が起こると発言することができる。これらの配列は、結合組織内においてシグナル伝達部位の固有の制限を示し、ECMのリモデリングが起こる様々な条件で外部に露出されて活性化される。マトリクリプティック部位の発現を促すメカニズムは、タンパク質の多量体化、タンパク質分解及び機械力を含む(Davis GE, et al,. Regulation of tissue injury responses by the exposure of matricryptic sites within extracellular matrix molecules. Am J Pathol. 2000; 156: 1489−1498)。
【0086】
生体内での細胞の微小環境は、化学的及び生物物理的な合図の時空間パターンにより定義され、細胞の挙動は、時空を超えて変化する細胞外環境内のこれらの合図により正確に調節される(Richter C, et al., Spatially controlled cell adhesion on three−dimensional
substrates. Biomed Microdevices. 2010 Oct;12(5):787−95)。
【0087】
このため、動的側面、すなわち、外部刺激による細胞と基質との間の相互作用を調節する能力が導入されれば、細胞培養や再生医療への応用のための表面設計においてより多くの機会が開かれる。
【0088】
本発明者らのアプローチは、マトリクリプティック部位をイガイ接着タンパク質内に含めることである。マトリクリプティック部位は、MAP−ECM−X−NH
2又はMAP−ECM1−X−ECM2−Y−NH
2の式を有するECM由来のペプチド内に組み込まれた少なくとも一つ以上の酵素感受性ペプチドを含む。
【0089】
前記マトリクリプティック部位含有イガイ接着タンパク質を含むヒドロゲル形成組成物は、3次元微小環境を含むマトリクリプティック部位を容易に形成することができる。ヒドロゲルの分解は、例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼやコラゲナーゼなどの細胞が分泌する酵素を解して起こるように操作することができる。ヒドロゲルの分解が始まると、細胞はECMペプチドに露出されて、細胞の挙動を調節するシグナル伝達現象が誘発される。
【0090】
好適な酵素感受性ペプチドモチーフは、コラゲナーゼ、エラスターゼ、因子XIIIa、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)若しくはトロンビンに由来する。
【0091】
好ましくは、MMP由来の酵素感受性ペプチド断片は、GPQGIAGQ(配列番号65)、GPQGIASQ(配列番号66)、GPQGIFGQ(配列番号67)、GPQGIWGQ(配列番号68)、GPVGIAGQ(配列番号69)、GPQGVAGQ(配列番号70)又はGPQGRAGQ(配列番号71)である。
【0092】
好ましくは、コラゲナーゼ由来の酵素感受性ペプチド断片は、LGPA(配列番号72)又はAPGL(配列番号73)である。
【0093】
好ましくは、因子XIIIa由来の酵素感受性ペプチド断片は、NQEQVSP(配列番号74)である。
【0094】
好ましくは、エラスターゼ由来の酵素感受性ペプチド断片は、AAAAAAAA(配列番号75)である。
【0095】
好ましくは、プラスミン由来の酵素感受性ペプチド断片は、YKNR(配列番号76)、NNRDNT(配列番号77)、YNRVSED(配列番号78)、LIKMKP(配列番号79)又はVRN(配列番号80)である。
【0096】
好ましくは、トロンビン由来の酵素感受性ペプチド断片は、GLVPRG(配列番号81)である。
【0097】
本発明の一実施形態において、AKPSYPPTYKAKPSYPPTYK−IKVAV−GPQGIAGQ(配列番号82)、AKPSYPPTYKAKPSYPPTYK−GFPGER−GPQGIAGQ(配列番号83)、AKPSYPPTYKAKPSYPPTYK−GRGDSP−GPQGIAGQ(配列番号84)又はAKPSYPPTYKAKPSYPPTYK−GRGDSP−IKVAV−GPQGIAGQ(配列番号85)の式を有するラミニン由来のペプチドモチーフに組み込まれたマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)感受性ペプチドモチーフによって、組換え技術により機能化されたイガイ接着タンパク質を含む、調節された3次元微小環境の酵素消化性組成物が提供される。
【0098】
本発明の一実施形態において、AKPSYPPTYKAKPSYPPTYK−IKVA
V−GPQGIAGQ−GFPGER−GPQGIWGQ(配列番号86)又はAKPSYPPTYKAKPSYPPTYK−IKVAV−GPQGIAGQ−GRGDSP−GPQGIWGQ(配列番号87)の式を有するコラーゲンタイプIおよびラミニン由来のペプチドモチーフに組み込まれたマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)感受性ペプチドモチーフによって、組換え技術により機能化されたイガイ接着タンパク質FP−1(配列番号3)若しくはFP−151(配列番号15)を含む、調節された3次元微小環境の酵素消化性組成物が提供される。
【0099】
本発明の他の実施形態において、FP−1(配列番号3)及びFP−151(配列番号15)の間に組み込まれているAKPSYPPTYKAKPSYPPTYK−IKVAV−GPQGIAGQ−GFPGER−GPQGIWGQ(配列番号86)又はAKPSYPPTYKAKPSYPPTYK−IKVAV−GPQGIAGQ−GRGDSP−GPQGIWGQ(配列番号87)の式を有するコラーゲンタイプI又はラミニン由来のペプチドモチーフに組み込まれたマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)感受性ペプチドモチーフによって、組換え技術により機能化されたイガイ接着タンパク質FP−1(配列番号3)若しくはFP−151(配列番号15)を含む、調節された3次元微小環境の酵素消化性組成物が提供される。
【0100】
本発明は、特定の細胞の挙動を調節するために組み合わせシグナル伝達を誘導する最適な合成微小環境をスクリーニング又は設計するペプチドモチーフの組み合わせを同定するためのハイスループット・スクリーニング(high throughput screening;HTS)に使用可能である。再生医療及び創薬の分野において、幹細胞の適切な分化環境をスクリーニングすることは特に緊急の課題である。
【0101】
MAPTrix
TMヒドロゲルは、ハイスループット・スクリーニングのためのヒドロゲルアレイの形でありうる。「ヒドロゲルアレイ」は、2以上のマイクロローケーション(microlocation)の組み合わせである。好ましくは、前記アレイは、アドレス可能な行および列においてマイクロローケーションで構成される。本発明により製造されるMAPTrix
TMヒドロゲル及び/又はヒドロゲルアレイの厚さ及び寸法は、エンドユーザーのニーズに応じて変更可能である。
【0102】
また、本発明は、
(a)架橋性MAPTrix
TM組成物を得るステップと、
(b)前記架橋性MAPTrix
TM組成物を固体支持体上に一定のパターンで配置するステップと、
(c)前記MAPTrix
TM組成物を架橋してMAPTrix
TMヒドロゲルアレイを得るステップと、
を含むMAPTrix
TMヒドロゲルアレイ装置を提供する。
【0103】
本発明の一実施形態において、MAPTrix
TMヒドロゲルアレイが提供される。前記アレイは、12×8ウェルの取り外し可能なストリップからなる96ウェルマイクロタイタープレートである。前記ストリップ内の各々のウェル(合計で7ウェル)は、異なるMAPTrix
TM ECM組成物で予めコーティングされて異なる3次元微小環境を生成し、再構成された基底膜がコーティングされた一つの列がポジティブコントロールとして用いられる(
図1参照)。目的の細胞を各々のウェルに接種し、それによって細胞を異なる3次元微小環境において培養することができる。前記MAPTrix
TMヒドロゲルアレイを用いたアッセイにより、所望の細胞挙動を誘導する合成3次元微小環境を同定及びデザイン可能である。