(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-528859(P2015-528859A)
(43)【公表日】2015年10月1日
(54)【発明の名称】強化ゴム製品用の炭素コード及びその製品
(51)【国際特許分類】
D06M 10/00 20060101AFI20150904BHJP
F16G 1/08 20060101ALI20150904BHJP
F16G 1/28 20060101ALI20150904BHJP
F16G 5/06 20060101ALI20150904BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20150904BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20150904BHJP
D06M 15/285 20060101ALI20150904BHJP
F16G 5/20 20060101ALN20150904BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20150904BHJP
【FI】
D06M10/00 A
F16G1/08 A
F16G1/28 E
F16G5/06 A
B60C9/00 H
D06M15/263
D06M15/285
F16G5/20 A
D06M101:40
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2015-520355(P2015-520355)
(86)(22)【出願日】2013年6月24日
(85)【翻訳文提出日】2015年1月20日
(86)【国際出願番号】US2013047276
(87)【国際公開番号】WO2014004359
(87)【国際公開日】20140103
(31)【優先権主張番号】61/663,621
(32)【優先日】2012年6月24日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】504005091
【氏名又は名称】ゲイツ コーポレイション
(71)【出願人】
【識別番号】514327956
【氏名又は名称】インペリアル カレッジ ロンドン
【氏名又は名称原語表記】IMPERIAL COLLEGE LONDON
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】ノックス,ジョン グリーム
(72)【発明者】
【氏名】ビスマルク,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】バイ,スー
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA27
4L031AB01
4L031BA33
4L031CB13
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC11
4L033AC12
4L033CA18
4L033CA23
(57)【要約】
プラズマアシスト化学蒸着法により大気圧で堆積及び重合されるポリマー層で被覆された炭素繊維を含む、動力伝達ベルト、ホース、タイヤ又は他の強化ゴム製品に使用されるための処理された炭素繊維抗張コード及び得られた製品。適当なポリマー層はコードが強化する意図されたマトリックスと適合する。ゴムベルトでは、コーティングはベルト本体のゴム組成物又はコードを囲繞するRFLなどの接着剤又は接着ゴムと適合する。RFL/ゴム系及び注型ポリウレタンエラストマーでは、適当なポリマーはビニルカルボン酸又はそのエステル若しくはアミドのAPP反応生成物である。適当なカルボン酸はアクリル酸及びメタクリル酸を含む。ビニルカルボン酸の種々のエステル及びアミド、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−イソブトキシメチルアクリルアミド、及びN−ヒドロキシエチルアクリルアミド、も適当である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達ベルト、ホース、タイヤ又は他の強化ゴム製品に用いるための、プラズマアシスト化学蒸着法により大気圧で堆積及び重合されるポリマー層でコーティングされた炭素繊維を含む、処理炭素繊維抗張コード。
【請求項2】
前記ポリマー層が、プラズマ中で容易に重合及び/又は架橋されることができるカルボン酸、カルボキシル、エステル、イミド、カルボニル、又はアミド官能基を含みかつ二重結合を有する低分子量モノマーからなる群から選択される1種又は2種以上の先駆物質の大気圧プラズマ重合生成物である、請求項1に記載のコード。
【請求項3】
前記ポリマー層が、ビニルカルボン酸、ビニルカルボン酸のアルキルエステル、ビニルカルボン酸のヒドロキシ−アルキルエステル、アクリロニトリル、及びビニルカルボン酸のアミドからなる群から選択される1種又は2種以上の先駆物質の大気圧プラズマ重合生成物である、請求項1に記載のコード。
【請求項4】
前記先駆物質がアクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−イソブトキシメチルアクリルアミド、及びN−ヒドロキシエチルアクリルアミドからなる群から選択される、請求項2に記載のコード。
【請求項5】
炭素繊維コードで強化されたエラストマー本体を含む可撓性の複合製品であって、前記コードがプラズマアシスト化学蒸着法により大気圧で堆積及び重合されるポリマー層でコーティングされた炭素繊維を含む、前記製品。
【請求項6】
ベルト、ホース、及びタイヤからなる群から選択される、請求項4に記載の製品。
【請求項7】
動力伝達ベルトの形態である、請求項4に記載の製品。
【請求項8】
ビニルカルボン酸、ビニルカルボン酸のアルキルエステル、ビニルカルボン酸のヒドロキシ−アルキルエステル、アクリロニトリル、及びビニルカルボン酸のアミドからなる群から選択される先駆物質を用いて大気圧プラズマ重合法によって炭素繊維抗張コードを処理する工程と;未硬化のエラストマーマトリックス中に処理されたコードを埋め込む工程と;埋め込まれたコードを有するマトリックスを硬化して強化されたエラストマー製品を形成する工程と、を含む方法。
【請求項9】
前記先駆物質が、炭素繊維の近くでプラズマに導入されるときにキャリアガス中のエアロゾルの形態である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記製品がベルト、ホース、及びタイヤからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、動力伝達ベルトなどの強化エラストマー複合品用の処理された炭素繊維抗張コードに、さらにとりわけ、炭素コードに対する大気圧プラズマ重合処理に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維抗張コードは、動的応力を受けやすい可撓性ゴム製品、例えば、動力伝達ベルト、ホース、及びタイヤなどを強化する可能性を示す。現在、レゾルシノール−ホルムアルデヒド−ラテックス(「RFL」)接着剤処理が炭素繊維へのゴムの結合を促進するのに用いられている。機械的インターロックは、化学結合と比べて、繊維とRFLとの間の主たる相互作用であることが知られている。そのように処理された炭素コードのTブロック接着試験は、繊維とRFLとの間の分離を示す。炭素繊維とRFLとの間の接着には、現在の炭素ベルト系において、コードからのベルト歯の層間剥離という不良モードを除去するための改善が必要である。
【0003】
炭素繊維表面へのRFLの接着性を改善するためにエポキシプライマー及び/又はサイズ剤が研究されてきた。しかしながら、エポキシプライマーは、エポキシと繊維表面との間の化学結合の欠如のために繊維表面層における層間剥離を除去しなかった。現在のところ、炭素繊維トウ内へのRFLの機械的インターロックは、炭素繊維コードがゴムベルト材に用いられることを可能にする主要な技術として残っている。
【0004】
コードを表面クリーニングするために及びコーティング又は活性化するためにプラズマを用いる以前の試みが知られているが、本明細書に記載された動的なゴム用途に対して満足であることは見出されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、動力伝達ベルト、ホース又はタイヤなどの炭素繊維強化製品における改善された性能のために炭素繊維とエラストマーとの間の改善された接着性を与えるシステム及び方法に関する。製造業者から受領したような炭素ヤーンが処理される。かかる炭素繊維には概してサイズ剤が施されている。
【0006】
炭素繊維に対して大気圧プラズマ重合(「APP」)を行った。イオン化ガスとして空気を用いた。APPに用いられる先駆物質はアクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−(イソブトキシメチル)アクリルアミド、及びN−ヒドロキシエチルアクリルアミドであった。様々なAPP処理構成を調査して大気圧プラズマにおいて連続的に炭素繊維を改質するのに最適な方法を決定した。ネブライザーによって先駆物質蒸気を様々な供給速度(dosing rates)で供給した。炭素繊維へのAPPの影響及び繊維とエラストマーマトリックスとの間の界面相互作用を調べるために、動的接触角、ゼータ電位、BET表面積、XPS、単繊維引張強度測定、及び接着のマイクロメカニカル的な特徴付けを含む、炭素繊維の表面及びバルク特性の特徴付けを行い、モデル複合品での単繊維フラグメンテーション試験及び単繊維引抜試験によって炭素繊維のRFLエラストマーマトリックスへの及びPUエラストマーへの接着挙動を特徴付けした。
【0007】
炭素繊維へのAPP重合は、繊維のPU又はRFL(又は他の適合性のインターロック材料)への化学結合の増大をもたらす、繊維表面の官能性の増大を可能にする。炭素繊維とエラストマーマトリックスとの間の接着挙動のマイクロメカニカル的な特徴付けは有意な改善を示した。接着性はフラグメンテーション試験においてRFLマトリックスに対して最長の処理時間で約60%増加した。PUマトリックスを用いた単繊維引抜試験において接着性は約114%増加した。このことはベルト歯とコード表面との間の不良モードの改善をもたらしており、改善されたベルト寿命につながると考えられる。
【0008】
上記は、以下の本発明の詳細な説明をよりよく理解することができるように、本発明の特徴及び技術的利点をむしろ広く概説した。本発明のさらなる特徴及び利点は、以下に記載され、本発明の特許請求の範囲の主題を形成する。当業者であれば、開示された概念及び特定の実施形態は、本発明の同じ目的を実施するために変形し又は他の構造を設計する基礎として容易に利用されることができることを理解されよう。かかる等価の構成は添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱するものではないことも当業者に理解されよう。本発明に特有であると考えられる、その構成及び操作方法の両方についての、新規な特徴は、さらなる目的及び利点と共に、添付の図面と関連させて考慮されれば以下の記載からよりよく理解されるであろう。しかしながら、各図面は説明の目的のためだけに提供されるものであり本発明の範囲の規定を意図するものでないことを明確に理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本明細書に含まれその一部を成す添付の図面(同様な数字は同様な部分を示す)は本発明の実施形態を示すものであり、その記載と一緒になって、本発明の原理を説明するように働く。図面において、
【0010】
図1は、本発明の実施形態に従って構成されたマルチVリブドベルトの一部の部分的に断片化された斜視図であり;
【0011】
図2は、本発明の実施形態に従って構成されたVベルトの一部の部分的に断片化された斜視図であり;
【0012】
図3は、本発明の実施形態に従って構成された同期ベルトの一部の部分的に断片化された斜視図であり;
【0013】
図4は、本発明の実施形態に従って構成されたホースの一部の部分的に断片化された斜視図であり;
【0014】
図5は、炭素繊維のAPP処理の第一のセットアップを示す略図であり;
【0015】
図6は、炭素繊維のAPP処理の第二のセットアップを示す略図であり;
【0016】
図7は、繊維引抜接着試験を示す略図であり;そして
【0017】
図8は、繊維埋込み装置を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、動力伝達ベルト、ホース、タイヤ又は他の強化ゴム製品に用いるための処理された炭素繊維抗張コード及び得られた製品に関する。抗張コードは、プラズマアシスト化学蒸着法により大気圧で堆積及び重合される適当なポリマー層でコーティングされた炭素繊維を含む。適当なポリマー層は、コードが強化する意図されたマトリックスと適合性のあるものである。例えば、ゴムベルトでは、コーティングはベルト本体のゴム組成物又はコードを囲繞する接着ゴムと適合性のあるものでなければならない。レゾルシノール−ホルムアルデヒド−ラテックス(「RFL」)コード処理はゴムベルト中の繊維を直接に囲繞するマトリックスとして用いられることが多い。ゴム及びポリウレタン(「PU」)ベルト配合物に対し、適当な先駆物質又はモノマーは、プラズマ中で容易に重合及び/又は架橋されることができるカルボキシル、ヒドロキシル、エステル、イミド、カルボニル、又はアミド官能基を含み、そしてマトリックスとの化学結合を形成することによって接着に主要な寄与を行うことができるポリマーを形成することができる、低分子量及び二重結合を有するものである。例として、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−イソブトキシメチルアクリルアミド、及びN−ヒドロキシエチルアクリルアミド、又は一般に、官能性アクリレート、メタクリレート又はスチレン誘導体を挙げることができる。
【0019】
以下に、ウレタン及びゴム製の動力伝達ベルト材の強化として用いられる炭素繊維への様々な適合性の先駆物質の大気圧プラズマ重合(APP)の幾つかの例を、試験方法及びネブライザーを用いた及び用いないAPPセットアップ方法を含めて記載する。
【0020】
3つの炭素繊維製造業者から得られたサイズ剤非処理及びサイズ剤処理のPAN系炭素繊維に対してAPPを実施した。本明細書中でA型は、東レ社(日本国東京)製のサイズ剤非処理の繊維であるT700GC−91を指す。本明細書中でB型は、エポキシタイプサイズ剤であると考えられる、東邦テナックス社製のサイズ剤処理の繊維を指す。本明細書中でC型は、Hexcel社(米国コネチカット州スタンフォード)製のサイズ剤非処理の炭素繊維であるAS4Dを指す。
【0021】
様々なAPPプロトコルを調査して、大気圧プラズマ内での連続的な炭素繊維処理に最適な方法を決定した。かかる構成はアフターグロー(リモートモード)プラズマを用いることによって達成されることができる。アフターグロープラズマ領域中に直接にエアロゾル先駆物質を注入することによって、制御されたフリーラジカル誘導重合反応が先駆物質分子の最小フラグメンテーションで開始されることができる。これを用いて種々の基体上に直接に非常に複雑な化学官能性を化学的にグラフトして、先駆物質特性が保持される「ソフト重合(soft-polymerised)」プラズマコーティングを形成することができる。従って、この構成は基体表面での大きな分子フラグメントの吸着を可能にする。2つの異なったAPP処理構成(
図5及び
図6参照)を採用して大気圧プラズマ中で連続的に炭素繊維を改質した。各構成は、それぞれの構成の中で調査された所定のパラメータ変数を有し、幾つかの基本的な運転条件を用いた。
【0022】
第一のAPPセットアップ構成の方法及び結果:
【0023】
図5に示された第一の構成では、表2に掲げられた基本的なセットアップ条件を用いており、その種々のパラメータ変数及び結果を表1に示す。オープンエア(Openair)(登録商標)プラズマ・テクノロジー・システム(プラズマ・ジェット(Plasma Jet)PFW10−PAD;プラズマトリート(Plasmatreat)(登録商標)、ドイツ、シュタインハーゲン)によりAPPを実施した。このシステムは電力2.1kW(V=296±3V,I=7±0.2A)及び励起周波数15〜25kHzで運転された。
図5に模式的に示された第一のAPPセットアップ50において、先駆物質蒸気を、ネブライザー55(オムロンNE−U17超音波式ネブライザー;オムロン松阪株式会社)によって供給した。ネブライザーは対応する10の位置を有するダイヤルによってキャリアガスの流量及び先駆物質の供給速度の調節を可能にした。実施例2〜7は条件A〜Fを用いて最初に実施されて表3において特定される最適なネブライザー設定を決定した。そして、表1の残りの実施例については条件Fを用いた。炭素繊維52は巻き出し51からガラスチャンバー53を通って供給された。繊維はプレテンショニング装置56によってテンショニングされそして巻き取り装置57に巻き取られた。流量1350L/時間のイオン化ガスとして空気を用いた。空気供給ガスはポート54に入り、そこでイオン化されてプラズマノズル59を通して注入される。先駆物質蒸気は、ネブライザーの気流ダイヤルのレベル10に対応する気流17L/分(1020L/時)のキャリア流でネブライザー55によって供給される。先駆物質供給速度はその流量ダイヤルでレベル10に対応する3mL/分であった。平均粒度4.4μmを有するエアロゾルはネブライザー55によって発生された。空気により運ばれた先駆物質は、いったんそれがプラズマ活性領域内に流入すると繊維表面上に重合し堆積され始めるように、プラズマチャンバー53の端部からほんの僅かな過剰ガスを流出させながら全ガラス製Tピース53を満たすことができる。炭素繊維ロービング52を、アンイコールTピース(PTU100/25、QVFプロセスシステム社(英国スタンフォード)製の珪硼酸ガラス3.3)である25cm長さのガラスチャンバー53内部でプラズマジェットノズル59の先端から15mmの距離に配置した。健康と安全の予防措置のため、全プラズマ領域を、エクストラクター63を備えた密封アクリルボックス65内に収容した。
図5に示された構成は、プラズマジェットに曝露される炭素繊維ロービングの両側で繊維が連続的に処理されることを可能にする。炭素繊維はPTFEローラーピン61によって方向を変えられて、繊維はガラスチャンバー53を3回ループ又は通過するので、繊維のAPPへの曝露を最大化した。ステンレス鋼メッシュ58を、場合により、炭素繊維ロービングの上部通過と繊維ロービングの二度目の通過との間に配置することができた。ステンレス鋼メッシュ58の働きはイオン化粒子の一部を遮断し、そのことによって繊維ロービングの残部へのプラズマの物理的なスパッタリングを低減することであった。例えば、アクリル酸蒸気は、UV及び希エネルギー粒子(rare energetic particles)によって繊維表面上に重合されることができる。ステンレス鋼がない場合、APP処理の間に先駆物質の重合とプラズマの物理的なスパッタリングとの間により多くの競合が生ずるであろう。6つの異なった処理速度0.18m/分、0.4m/分、0.8m/分、1.4m/分、2.5m/分及び5m/分が選択され、これらはそれぞれ、ガラスチャンバー内滞留時間4.2分、1.9分、0.9分、0.5分、0.3分及び0.15分に相当した。炭素繊維へのAPPの影響及び繊維とエラストマーマトリックスとの間の界面相互作用を調べるために、動的接触角、ゼータ電位、BET表面積、XPS、単繊維引張強度測定、及び接着のマイクロメカニカル的な特徴付けを含む、炭素繊維の表面及びバルク特性の特徴付けを行った。炭素繊維のRFLエラストマーマトリックスへの接着挙動を単繊維フラグメンテーション試験によって及びPUエラストマーへの接着挙動をモデル複合品についての単繊維引抜試験によって特徴付けした。接着性は界面せん断強度(「IFSS」又はτ
IFSS)によって表される。
【0024】
図5のセットアップにおいて最初の一連のAPP試験に用いられた先駆物質は、アクリル酸(純度99%、アルドリッチ社、英国)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(純度99%、アルドリッチ社、英国)、N−イソブトキシメチルアクリルアミド(工業グレード、アルドリッチ社、英国)、及びN−ヒドロキシエチルアクリルアミド(純度97%、アルドリッチ社、英国)を含んでいた。ネブライザーセットアップパラメータ、速度、材料及びIFSS試験結果についてのAPPを表1に示す。報告された値は、後述のようにIFSSを計算するのに用いられる繊維強度σ
fの再測定のため優先権主張出願において報告された値とやや異なる。結論は同じままである。
【0028】
第一のセットアップ構成の結果は、アクリル酸を用いたAPP処理は最長の滞留時間でRFLマトリックスにおけるIFSSを約60%増加させることを示している。アクリル酸を用いたAPP処理は最長の滞留時間でPUマトリックスにおけるIFSSを約45%増加させる。他の先駆物質も接着性を増加させるが、それほどではない。メッシュの使用は、メッシュを用いない場合よりわずかに低いIFSSを生じさせるように思われる。
【0029】
ネブライザーによる第一のセットアップを用いる一つの理由は、先駆物質の官能基をより多く保持した「ソフト重合」プラズマコーティングを生成することである。このセットアップに用いられる先駆物質はネブライズされるべき低粘度又は小さな分子量を有していることが好ましい。第一のセットアップに用いられる先駆物質は以下の第二のセットアップの要件(例えば、低沸点であることなど)を満たさないことができる。しかしながら、超音波を用いるエアロゾル形成は高温を必要としないので、以下の第二のセットアップに用いられる先駆物質がこの第一のセットアップに用いられることができた。
【0030】
第二のAPPセットアップ構成の方法及び結果:
【0031】
図6に示された第二の構成において、表6に掲げられた基本的なセットアップ条件を用いそして種々のパラメータ変数及び結果を表4及び表5に示す。
図6に示された第二のAPPセットアップ70において、オープンエア(Openair)(登録商標)プラズマ・テクノロジー・システム(ジェットPFW10−PADを備えたアップグレードされたプラズマ重合装置;プラズマトリート(Plasmatreat)(登録商標)、ドイツ、シュタインハーゲン)によりサイズ剤非処理PAN系炭素繊維についてAPPを実施した。電力2.1kW(V=296±3V,I=7±0.2A)及び励起周波数15〜25kHzでこのシステムを運転した。窒素(N
2)及び空気(BOC、英国)を、それぞれ、イオン化ガス54及びキャリアガス67として流量2,000L/時及び300L/時で用いた。アクリロニトリル(AN)及びTEMDA、及びHMDSOを先駆物質として用いた。連続的な繊維表面処理を、アフターグロー(リモートモード)プラズマを用いて実施した。先駆物質を一定の供給速度で供給し、80℃に加熱して気化させそして一定の気流によって直接にアフターグロー大気圧プラズマ領域に運んだ。健康と安全の予防措置のため、全プラズマ領域を、エクストラクター63を備えた密封アクリルボックス65内に収容した。プレテンショニング(150g荷重)された炭素繊維ロービング52を、250mm長さの珪硼酸ガラス製アンイコールTピース53(PTU100/25、QVFプロセスシステム社、英国、スタンフォード)内部で、プラズマジェット59の先端から15mmに配置した。第一のセットアップにおけると同様に、炭素繊維52は巻き出し51からガラスチャンバー53を通って供給された。繊維はプレテンショニング装置56によってテンショニングされそして巻き取り装置57に巻き取られた。半閉鎖系における炭素繊維の大気圧プラズマ処理は、有利なことに、より密閉性の環境を生成するのでより効果的であると考えられる。この構成(
図6)は、フェノール樹脂ローラーピン61を用いて炭素繊維を方向転換させることによってプラズマジェットへの炭素繊維ロービングの両側の連続曝露を可能にし、このことは炭素繊維がループして反応チャンバー53を3回通過することによりAPP処理領域への曝露を最大化することを可能にした。APP処理時間及び先駆物質供給速度を変化させた。3つの異なった処理プロセス速度(0.18、0.8及び1.4m/分)を選択してガラスチャンバー内の活性アフターグロープラズマ領域内における滞留時間を調節した(それぞれ、4.2、0.9及び0.5分)。AN先駆物質供給速度の効果を調べるために、対照群として0g/時をライン速度3mm/秒で用い、一方、ライン速度23mm/秒で50g/時、100g/時、150g/時を用いた。
図5のメッシュ58のように、ステンレス鋼メッシュを場合によりプラズマチャンバー内に挿入することができた。
【0032】
表4は、種々の処理された炭素繊維及びRFLマトリックスに対する見かけの界面せん断強度及び他の結果を示す。表4に用いられた変数は、ECCM15−15TH EUROPEAN CONFERENCE ON COMPOSITE MATERIALS(イタリア、ベニス、2012年6月24〜28日)において発表された論文、S.Bai,K.K.C.Ho,G.Knox,A.Bismarck,「Impact Of Continuous Atmospheric Pressure Plasma Polymerization Of Acrylic Acid On The Interfacial Properties Of Carbon Fibre − RFL Elastomer Composites」(参照により本明細書に組み込まれる)にも記載されている。表4において、実施例26〜29のσ
0及びσ
f値は実施例25の測定値と同じであり、実施例24は実施例1と同じ、そして実施例34〜36は実施例33と同じであると仮定されることに留意されたい。また、表4において、ANは繊維へのポリマーコーティングの先駆物質としてのアクリロニトリルの使用を表す。同様に、TEMDAはテトラメチルエチレンジアミンを表し、HMDSOはヘキサメチルジシロキサンを表す。
【0033】
RFLマトリックスについての表4の結果は、上記表1に示された結果ほど好ましいものではない(IFSSにおいて32%改善)。これはRFLマトリックスと完全には適合性でない先駆物質が用いられたことによる。当業者であれば、本明細書中の開示及び最小限の実験に基づいて所望のマトリックスに対する適当な先駆物質を選択することができるであろう。
【0034】
表5は、注型ポリウレタンエラストマーマトリックスへの処理された炭素繊維接着についての追加の界面せん断強度試験の結果を示す。また、表5において、「AN」は繊維へのポリマーコーティングの先駆物質としてのアクリロニトリルの使用を表す。同様に、「PAA」はアクリル酸先駆物質の使用を表す。「ACN」は先駆物質としてのアセトニトリルの使用を表す。APPセットアップは、キャリアガスとして窒素を用いたという一部のことを除いて、表4の場合と同じであった。ここで、AN先駆物質は、非処理繊維に対しすなわち先駆物質を用いないプラズマ処理に対し接着性における有意な改善(+22%)をもたらした。さらに、AN先駆物質は、炭素繊維に利用できる市販のサイジング剤(一般にはエポキシベースであると考えられる)より、注型PUに対して同等の又は幾分か良好な接着性をもたらすことを理解することができる。PAA先駆物質はANより良好な結果を与えた。
【0035】
市販のサイジング剤の上にAPPプロセスによってポリマーコーティングを施すことは、一般に、好ましい方法ではない。サイジング剤は、例えば、洗浄又は溶媒ストリッピングによって除去されることができる。サイズ剤非処理の又は脱サイズ剤化された炭素繊維は、一般に、本明細書に記載のAPPプロセスに用いるのに好ましい。
【0036】
表4に報告された値τ
IFSSも、後述のようにIFSSを計算するのに用いられる繊維強度σ
fの再測定のため優先権主張出願において報告された値とやや異なる。結論は同じままである。連続的APP処理繊維のバルク特性は引張強度又は弾性率の損失がなく影響を受けなかった。炭素繊維とエラストマーマトリックスRFLとの間の接着挙動のマイクロメカニカル的な特徴付けは、先駆物質としてアクリル酸を用いることによって最長の処理時間で約60%の有意な改善を示した。湿潤性の増加はより良好な接着性を生じさせることができるが、堆積されたポリマーの機械的特性はIFSSにきわめて重要であった。プラズマ中の滞留時間が短いほど繊維表面上に存在するより多くのカルボキシレートをもたらすことができるが、それは堆積されたポリマーの機械的特性の低下ももたらすことになり、その結果IFSSが低下する。ステンレス鋼メッシュの使用はカルボキシレートの量を増加させたが、堆積されたポリマー層の異なった物理的構造をももたらして、メッシュを使用しない場合に比べてわずかにIFSSの低下を生じさせた。
【0037】
エージング試験を行ってAPP処理された炭素繊維(実施例33〜36)の保存寿命への周囲空気の影響を決定した。繊維を周囲雰囲気中で1ヶ月間保存することによる、エージング後、プラズマコーティング中に存在する不飽和ラジカル又は活性な表面部位(例えば、イミン及び水素原子が結合してプロトン化されたアミノ基など)が空気中の酸素及び/又は湿分と反応し、このことが表面酸素の増加及び窒素含有量の減少をもたらした。エージング時間の増加に伴いアミン/イミン基の減少とアミド基の増加も観察された。さらに、プラズマ処理されたポリマーの周囲空気中での保存は最初に、最終的にポリマー中への窒素の取り込みに至るであろう、空気中の湿分によるイミン基の加水分解を生じさせた。このことはプラズマポリマーから窒素含有フラグメントの損失を生じさせることがあり、これはエージングされたAPP処理AS4D炭素繊維の窒素含有量の低下と一致する。プラズマポリマーの加水分解及び酸化は、炭素繊維上に堆積されたプラズマポリマー層とRFLとの間に形成される結合の可能性を低下させ、それゆえに見かけIFSSを低下させることがある。一方で、高分解能XPスペクトルで観察すると官能基の表面密度に実質的な減少がないので、これは極性成分のプラズマポリマー層の表面からサブサーフェース中への再配向が起こらなかったことを示している。これは、いずれの表面再構成をも制限した、形成されたプラズマポリマーコーティングの高い架橋密度によるものであろう。
【0041】
第二のセットアップは、装置の制限があるため、先駆物質の選択に関して幾つかの制約、例えば、沸点150℃未満及び非腐食性などを有することに留意されたい。
【0042】
単繊維フラグメンテーション試験方法(RFLマトリックスに対して使用)
【0043】
RFLは高歪み、約850%、のエラストマーマトリックスを表しており、本試験に用いられた。RFLのこの特異的な物性(高歪み)は、RFLと炭素繊維との間の接着性を特徴付けるべき他の技術的方法、例えば、単繊維引抜試験、を制限する。しかしながら、RFLよりはるかに低い炭素繊維の歪み及びRFLマトリックスの透明性により、フラグメンテーション試験を用いることによって解決されることができる。溶媒蒸発法によって試験片を作成した。単繊維は、両端において、端部厚さ約100μmを規定したガラススライドに透明テープによって接着された。従って、繊維はガラススライド表面から離れて保持されそして最終的なポリマー試験片の中央に配置された。RFLの25重量%の溶液がガラススライド上にキャストされ、繊維を完全に覆った。フィルムは、最初に、温度70℃の平板熱圧プレスで1時間乾燥され、次いで真空炉中で170℃で30分間キュアリングされて痕跡量の溶媒を除去した。次いで、ズウィック(Zwick)D−7900切断装置(ズウィック・ロエル・グループ(Zwick Roell Group))を用いてダンベル型試験片を切断し、そしてTST350引張応力試験システム(リンカム・サイエンティフィック・インストルメンツ社(Linkam Scientific Instrument Ltd.))によって試験した。ゲージ長領域における試験された試験片の寸法は厚さ約200μm、幅4mm及び長さ30mmであった。引張試験機により試験片を伸長することは繊維の破断をもたらす。樹脂内部の繊維は、繊維の軸応力がその引張強度に達する場所ではますます小さなフラグメントに破断する。繊維が破断すると、破断位置の引張応力はゼロまで下がる。マトリックス内の一定のせん断応力のため、より長いフラグメントにおいて繊維中の引張応力はその端部からプラトーまで略直線的に増加する。軸歪みが高ければ高いほどより多くの破断が繊維中に引き起こされるが、フラグメント長さが短すぎるとさらなる破断を引き起こすのに充分な応力を繊維内部に移行することができないので或るレベルではフラグメントの数は一定になるであろう。従って、引張試験の間、試験片は80%までの歪みを与えられてクロスヘッド速度15μm/秒でクラック飽和を確実にするが、これは80%歪みで、RFLの力−歪み曲線が抑制されるようになり始めたからである。単繊維フラグメンテーションプロセス全体を偏光顕微鏡(ウィルド・ヘルブルグ(Wild Heerbrugg))を用いてモニターした。各タイプの繊維に対して少なくとも10の試験片を試験した。繊維フラグメントの長さを、ガラススケール(10mm対物ミクロメータースケール、0.1mm刻み、グラチクル社(Graticules Ltd.))によって較正される、オリンパスDP70カメラシステムを用いたオリンパスBX51M反射光光学顕微鏡の下で測定した。繊維とRFLマトリックスとの間の見かけ界面せん断強度を、ケリー−タイソン(Kelly-Tyson)モデル[1]から見積もりそしてワイブル分布に適合させて臨界フラグメント長さにおける繊維引張強度を予測した。
【0044】
例えば、界面摩擦、マトリックス降伏又は凝集破壊など[3]、マイクロメカニカル的試験は、界面結合強度の直接測定のための唯一の実験ツールのままであり、そして脆性及び延性両方のマトリックスに関して用いられることができる[4]。言及すべきことは、結果が凝集破壊のために解釈困難となり得るということである。すなわち、試験の間に引き起こされた破壊は、界面におけるものではなく、強化材又はマトリックスにおけるものであることができる。材料Cの界面層が強化材AとマトリックスBとの間に形成されている場合に状況はさらに複雑である。この状況においては、接着層破壊(adhesive failure)を生じる可能性のある2つの界面、すなわち、A−C及びC−Bと、及び凝集破壊し得る3つの材料(A、B及びC)とがある。しかしながら、実際には、試験条件が使用条件を再現することを保証できるという前提があれば、界面における「弱い結合」の強度が測定される限り、試験の間の破壊が接着層破壊であっても又は凝集破壊であっても問題とならない[3]。従って、単繊維引抜試験を実施して、処理された繊維とエラストマーとの間の実際の接着の尺度として用いられる見かけ界面せん断強度(τ
IFSS)への大気圧プラズマ重合の影響を決定した。
【0050】
図7は単繊維引抜試験60の略図である。繊維62はマトリックス64に距離X埋込まれそして平行力66を加えることによって引抜かれた。
【0051】
単繊維引抜試験を、
図8に模式的に示された埋込み装置80(縮尺通りではない)を用いて調製された単繊維引抜試験片を用いて実施した。
図8において、繊維サンプル62は、一片の両面接着テープ92によって金属ワッシャー91上に固定される。繊維62は、好ましくは、ワッシャー91の端部を越えて約5mm伸びる。ワッシャー91は、ねじ87を回すことによって下方にスライドさせることができるスライディングヘッド88上に磁石89によって保持される。ねじ87は大変に細かいねじ山を有しており、例えば、この場合には1回転がヘッド88を約300μm動かした。スライディングヘッド88はフレーム82に取り付けられる。フレーム82は、六角ねじ86の六角ソケット内でポリマーマトリックス材料64を溶融及び/又は硬化するのに用いられるヒーター84も保持する。六角ねじ86は、ガラスロッド85を用いてヒーターから上げられそしてヒーター内に下げられることができる。
【0052】
このように、炭素繊維の埋込みの深さ60〜100μmにポリマーメルト(この場合にはPU)中に単繊維を部分的に埋込んだ。PUポリマー、アジプレン(Adiprene)LF940Fとビブラキュア(Vibracure)A157との混合物のポットライフは5分間であったので、全埋込み過程はこの時間内に完了され、次いでサンプルは埋込み装置の炉内に放置されて100℃で30分間硬化し、そして最終的にサンプルは後硬化炉に100℃で24時間移された。
【0053】
後硬化の後、ワッシャーにおいて繊維を切断しそしてシアノアクリレート接着剤(工業グレードのスーパーグルー、エバービルド・ビルディング・プロダクツ社(Everbuild Building Products Ltd)、英国、リーズ)を用いて繊維上に針を接着剤でつけることによって引抜装置(張力計)用のサンプルを調製した。次いで、張力計の一端に六角ねじを他端に針を取り付けることによって
図7に示されたようにマトリックスから繊維を引いた。次いで、実験を通して力対変位をロードセルによって記録しコンピュータを用いてログを取りながら、繊維に速度1μm/秒の負荷をかけて繊維をマトリックスから引き抜いた。
【0054】
見かけ界面せん断強度τ
IFSSは、埋込まれた炭素繊維のマトリックスからの剥離を開始するのに必要なF
maxから下記式を用いて計算することができる。
【0063】
以下に、本発明の種々の実施形態によるゴム製品の強化材としての本発明の炭素繊維抗張コードの適用を記載する。
【0064】
本発明のベルト実施形態に関しては、
図1〜
図3に3つの実施形態が示されている。
図1を参照するに、歯付きベルト10が示されている。
図1を参照するに、本発明の実施形態に係る歯付きベルト10が概略的に示されている。歯付きベルト10はエラストマーのベルト本体部12、及び該ベルト本体部12の内周に沿って配置されたシーブ接触部14を含む。この関連で用いられる用語「シーブ」は、動力伝達ベルトと共に用いられる通常のプーリ及びスプロケットを含み、及びローラー及び同様の機構も含む。
図1のベルトの特定のシーブ接触部14は複数の交互に配置された歯16及びランド部18の形態を取る。シーブ接触部14はベルト本体部12と一体であり以下で述べるように同じエラストマー材料(1種又は2種以上)から形成されることができる。シーブ接触部14は、同期ベルト組立構成において通常用いられるような、以下でさらに詳細に説明される補強布24を含むので、本発明のその実施形態においてベルト本体部12の材料以外の材料から形成されることが理解されよう。いずれのエラストマー材料もその中に、本発明の繊維、すなわち、大気圧プラズマ重合される先駆物質を用いて処理された細断されたコード、好ましくは炭素繊維コード、によっても提供されることができる短繊維5を分散して含んでいることができる。
【0065】
抗張又は負荷支持コード部20は、ベルト10に支持及び引張強さを与えるためにアンダーコード16上に配置される。図示された形態において、抗張部は、少なくとも長手方向に伸びる抗張コード22(該抗張コードは本明細書中でさらに詳細に記載されるように本発明の実施形態によるものである)、すなわち、ベルトの長さに沿って整列された、大気圧プラズマ重合される先駆物質を用いて処理されたコード、好ましくは炭素繊維コード、を含み、そして本発明の種々の実施形態に従って、少なくとも部分的に接着ゴム部材、例えば、RFL、ポリウレタン材料、ゴムセメントなどと接触し又はその中に埋め込まれる。熟練技術者であれば、前記接着ゴム部材が、囲繞するエラストマーベルト本体部から視覚的に識別可能なものであることができることを容易に理解されるであろう。接着ゴム部材は実際にはエラストマーベルト本体12と同じ材料からなるものであることができる。
【0066】
図2を参照するに、標準ノッチ付Vベルト26が示されている。Vベルト26は、
図1に示されたものと同様なエラストマーのベルト本体部12、及び任意の接着ゴム部材(図示せず)中に埋め込まれていることができる、1又は2以上の抗張コード22の形態の抗張又は負荷支持部20を含み、そしてコード22は、有利には、本明細書中でさらに詳細に記載されるように本発明の実施形態により製造され、すなわち、大気圧プラズマ重合される先駆物質を用いて処理されたコード、好ましくは炭素繊維コードである。Vベルト26のエラストマーのベルト本体部12、接着ゴム部材及び負荷支持部20は
図1について上記したと同じ材料から構成されることができる。とりわけ、エラストマーは、好ましくは炭素繊維の、細断されたAPP処理コードから作られた短繊維5で充填されることができる。これらの繊維5はシーブ接触部14において露出されることができる。エラストマーのベルト本体12の、又は図示されたようなVベルトの場合に圧縮部の、側面はベルト26の駆動面として働く。示された実施形態において、シーブ接触部14は、交互に配置されたノッチ窪み表面すなわち凹部28と歯付き凸部30の形態である。これらの交互に配置された窪み表面28と凸部30は、好ましくは図示のように、概ね正弦曲線を描く経路に沿っており、シーブ接触部14が運転の間プーリの周囲を通過する際に曲げ応力を分配して最小にするように働く。
【0067】
補強布(
図2又は
図3には図示せず)は場合により用いられることができ、Vベルト及びマルチVリブドベルトの場合に、シーブ接触部14の向かい側にベルトの表面に沿って密着してベルトのフェースカバー又はオーバーコードを形成するか、又はベルト本体中に埋め込まれることができる。布は、任意の所望の角度のたて糸とよこ糸からなる従来の組織のような任意の所望の構成であることができ、又はタイヤコード布によって例示されるような、間隔の開いたピックコードによって一緒に保持されるたて糸からなることができ、又は編まれた若しくは編組された(braided)形態、又は不織布の形態、又は紙若しくはプラスチックフィルムの形態などからなることができる。布はエラストマーのベルト本体12と同じ又は異なったエラストマー組成物を用いて摩擦コーティング又はスキムコーティングされていることができる。2以上の層の布が用いられることができる。所望ならば、ストランドがベルトの移動方向と角度をなすように、布はバイアスに切断され又は他の方法でバイアスに配列されるように形成されることができる。かかる補強布使用の1つの実施形態が
図2に示されており、
図2では、ゴムスキムコーティングされたタイヤコード布29がアンダーコード部中そしてまたオーバーコード部中に埋め込まれた誇張形態により示されている。コード布29のコードは本明細書に記載された本発明のコードの実施形態に係るものであることができ、すなわち、大気圧プラズマ重合される先駆物質を用いて処理されたコード、好ましくは炭素繊維コードであることができる。不織布又は紙材料の使用は、例えば、Pattersonらに対する米国特許第6,793,599号明細書に記載されており、同号に関する特許の内容は参照により本明細書に組み込まれる。プラスチックフィルムの使用は、例えば、米国特許出願公開第20020187869号明細書に記載されており、同号に関する公報の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0068】
図示された実施形態においてVベルト26はローエッジベルトの形態であるが、上記した補強布はさらに、示されたベルトのフェースカバー又はオーバーコートとして、又はベルトを完全に取り囲んでバンド付きVベルトを形成するように用いられることができる。
【0069】
図3を参照するに、マルチVリブドベルト32が示されている。リブドベルト32は、
図1及び
図2のベルトの場合と同様にエラストマーのベルト本体部12及びシーブ接触部14を含み、そして
図1及び
図2のベルトについて前記したように本発明のコード20を有する負荷支持部20も含む。しかしながら、リブドベルト32では、シーブ接触部14は長手方向に伸びるリブ36と凹部34の形態である。マルチVリブドベルト32は、エラストマーのベルト主体部12、及び該ベルト主体部12の内周に沿って配置されたシーブ接触部14を含む。
図3のベルトの特別なシーブ接触部14は、相対して向かい合う辺の間でそこを規定する複数の窪み領域34と交互に配置された突起領域すなわち頂部36を含む複数のリブの形態である。
図2及び
図3の場合のそれぞれにおいて、シーブ接触部14はベルト本体部12と一体でありそして以下に記載のように同じエラストマー材料(1種又は2種以上)から形成されることができる。シーブ接触部14はリブ38上に補強布を含んでいることができる。リブドベルト32は場合により
図2のようなタイヤコード布を含んでいることができ、それは本発明に従ってAPP処理されたコードを含んでいることができる。リブドベルト32は
図1及び
図2のベルトについて記載した細断された繊維5を含んでいることもできる。
【0070】
図4を参照するに、本発明の一実施形態に従って構成されたホース41が示されている。ホース41は、エラストマーのインナチューブ42、該インナチューブ42上にはめ込まれそして好ましくはそれに接着された補強部材44、及び該補強部材44上にはめ込まれそして好ましくはそれに接着されたエラストマーのアウタカバー46を含む。補強部材44は本発明の実施形態に係る適当なAPP処理された炭素繊維補強材から形成されることができる。補強の構成は、編組、螺旋、編成又は巻き付けなどのいずれか適当な型であることができるが、図示された実施形態では編組構成である。
【0071】
インナチューブ42は、相互に同じ組成であることができ又は同じ組成でないことができる複数のエラストマー層又はプラスチック層から成ることができる。エラストマーのアウタカバー46は遭遇する外部環境に耐えるように設計された適当な材料から作られる。インナチューブ12及びアウタカバー16は同じ材料から作られることができる。ホース41は成形又は押出によって形成されることができる。エラストマーは本発明に係る細断された繊維を用いて補強されることができる。
【0072】
上記に示された
図1〜
図4のそれぞれの場合に、ベルト本体部12又はホースインナチューブ42又はアウタカバー46は任意の従来の及び/又は適当な硬化エラストマー組成物から形成されることができ、そして本発明の実施形態に係る細断されたAPP処理炭素繊維5を用いて補強されることができる。この目的に対して用いられることができる適当なエラストマーとして、例えば、ポリウレタンエラストマー(さらに、ポリウレタン/ウレアエラストマーも含む)(PU)、ポリクロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR(HNBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CPE)、エピクロロヒドリン(ECO)、ポリブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、及びエチレンアルファオレフィンエラストマー、例えば、エチレンプロピレンコポリマー(EPM)、エチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、エチレンオクテンコポリマー(EOM)、エチレンブテンコポリマー(EBM)、エチレンオクテンターポリマー(EODM);及びエチレンブテンターポリマー(EBDM);エチレンビニルアセテートエラストマー(EVM);エチレンメチルアクリレート(EAM);及びシリコーンゴム、又は上述の任意の2種又は3種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0073】
本発明の実施形態に従ってエラストマー組成物を形成するために、エラストマー(1種又は2種以上)は、充填剤、可塑剤、安定剤、加硫剤/硬化剤及び促進剤を含む従来のゴム配合成分と、従来的に用いられる量でブレンドされることができる。例えば、エチレン−アルファ−オレフィンエラストマー及びHNBRなどのジエンエラストマーと共に使用する場合、アルファ−ベータ有機酸の1種又は2種以上の金属塩が現在従来的に使用される量で用いられ、結果として得られる製品の動的性能を改善することができる。従って、かかる組成物に、ジメタクリル酸亜鉛及び/又はジアクリル酸亜鉛が約1〜約50phrの量で;又は代わりに約5〜約30phrの量で;又は約10〜約25phrの量で用いられることができる。これらの材料はさらに組成物の接着性に寄与し、そしてイオン化架橋による過酸化物又は関連の剤を用いた硬化の際にポリマーの全体的な架橋密度を増加させるが、このことは今や当該技術分野で周知である。
【0074】
関連分野の当業者であれば、ベルトのエラストマー部分に又はエラストマー部分として用いるためのいくつもの適当な組成物があることを容易に理解されよう。多くの適当なエラストマー組成物が、例えば、The R.T.Vanderbilt Rubber Handbook(第13版、1996年)に記載されており、また特定の高い引張弾性率特性を有するEPM又はEPDM組成物に関しては、それぞれ米国特許第5,610,217号及び第6,616,558号明細書にさらに記載されており、動力伝達ベルト本体部分の形成に使用するのに適当であることができる種々のエラストマー組成物に関するそれら特許の内容はとりわけ参照により本明細書に組み込まれる。さらに、本発明の種々の実施形態の実施にも用いられることができる数種の注型PU組成物に関して、かかる組成物が、例えば、Wuらに対する国際公開第WO09692584号に記載されており、同号に関する国際特許出願の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0075】
自動車付属部品の駆動用途に関する本発明の実施形態において、エラストマーのベルト本体部12は、接着ゴム部材組成物として用いられるものと同じ又は異なった組成であることができる適当なエチレンアルファオレフィン組成物、例えば、EPM、EPDM、EBM又はEOM組成物などから形成されることができる。HNBRは同期ベルトにとりわけ有用である。ホースには、CR、NBR、CPE、PVC、EPDMなどが通常用いられる。
【0076】
硬化されたエラストマー組成物はさらに、これらに限定されるわけではないが、例えば、綿、ポリエステル、ファイバーグラス、アラミド及びナイロンなどを含む材料を、短繊維すなわち細断された繊維、フロック又はパルプのような形態により、一般に使用される量で用いて、しかし好ましくは、本明細書に記載の細断されたAPP処理炭素繊維を用いて、当該技術分野で周知であるような不連続繊維で充填されることができる。プロファイルされた(例えば、切削又は研削によるなど)マルチVリブドベルトに関する好ましい実施形態において、かかる繊維充填は、好ましくは、繊維の実質的部分がベルトの移動方向を概ね横切る方向に横たわるべく形成及び配置されるように形成され配置される。しかしながら、フロースルー法に従って製造された成形マルチVリブドベルト及び/又は同期ベルトにおいて、繊維充填は一般に同程度の配向を欠くであろう。
【0077】
本発明の一実施形態によれば、
図1〜
図4の幾つかの実施形態において上記した複合ベルト構造内で負荷支持コードと少なくとも部分的に接触して用いられる硬化エラストマー組成物は、その内容が参照により本明細書に組み込まれる前記米国特許第6,616,558号明細書に詳細に記載された特徴及び利益を場合により含んでいることができる。
【0078】
動作において、ベルトは、例えば
図1〜
図3に示されるように、一般に少なくとも1つの原動プーリ及び1つの従動プーリを掛け回されて、場合によりアイドラプーリと一緒になって、ベルトドライブを形成する。同様に、
図4に示されたホースは一般に、多くの端部継手、クランプ、又は連結具のいずれかと共に又はホースシステムにおいて用いられる。
【0079】
タイヤ中のコードの使用はよく知られている。本発明のコードは有利なことに、タイヤ及び他のゴム製品並びにホース及びベルトを強化するのに用いられることができる。ベルトとして、動力伝達ベルト、例えば、歯付き同期ベルト、Vベルト、平ベルト、マルチVリブドベルトなど、コンベヤベルト、移送又は搬送ベルトなどを挙げることができる。ホースとして、水圧ホース、移送ホースなどを挙げることができる。
【0080】
2つのベルト例を上記コード例の幾つかを用いて構成した。ベルトはHNBR(水素化ニトリル−ブタジエンゴム)本体エラストマー及び歯表面上のナイロン布を用いた
図1に示された歯付きベルトであった。実施例1及び実施例25由来のコードをRFLでコーティングし、次いで通常のオーバーコートセメントでオーバーコート処理し、それでHNBR歯付きベルトに構成した。ベルトを、歯付きベルトに対するコード引抜接着試験に付した。その結果は、APP処理されたコードが引き抜かれたコード上に非処理のコードより多くのゴム付着(rubber coverage)を表すことを示した。ベルトを、歯付きベルトに対する歯部接着試験にも付した。その結果は、APP処理されたコードはコードから歯部がせん断された後に、より多くのゴム付着を表すことを示した。かかる結果は、ベルトの長期間動的試験(すなわち、耐久試験)においても際立つベルトの結合性の改善を示すと考えられる。同様に、処理コードのポリウレタンへの改善された接着性は、本発明による処理コードを用いた注型ポリウレタンベルト材又は熱可塑性ポリウレタンエラストマーベルト材も改善されたベルト性能を表すことを示す。
【0081】
APP処理炭素繊維は、ゴム又はプラスチック組成物の強化用に短い長さに細断されることができる。得られた短繊維は、公知の分散法又は混合法に従ってゴム又はプラスチック組成物中に分散されることができる。適当に選択されたAPP処理は短繊維と選択されたマトリックスとの間の界面接着性を高め、このようにして強化ゴム又はプラスチック組成物の弾性率、強度又は他の性質を高めることができる。APP処理された炭素繊維は、ゴム又はプラスチックマトリックスとの一層の適合性を有するように、例えばRFL又は他の接着剤を用いて、さらに処理されることができる。
【0082】
要約して結論を述べれば、APP:RFL及びポリウレタンによる2つの異なったマトリックスシステムを炭素繊維接着性改善について研究した。
【0083】
RFLでは、第一セットアップを通じて、メッシュを用いないで又は用いて最低の処理速度0.18m/分で、炭素繊維表面上に堆積され及び先駆物質として用いられたアクリル酸が最も有望なIFSS(43.6及び41.5MPa)を有する。通常、最大のIFSS改善はマトリックスせん断降伏強度によって限定されたが、この研究においてはRFLについて約25MPaである。換言すれば、IFSSの86%改善で、接着特性は既にRFLの限界に到達していることができる。ケリー−タイソンモデルによれば、IFSSの値はマトリックスせん断降伏強度に近づくはずであるが、ここでは繊維フラグメンテーションデータを解釈するこのモデルの妥当性についての疑念と異なるメカニズムによってそうならないことがある。従って、摩擦の極限とマトリックス降伏との間の接着性だけがフラグメンテーション試験によって決定されることができる。そして測定されたIFSS値はこの炭素繊維/エラストマー複合系における繊維とマトリックスとの間の負荷伝達能の限度を表す。
【0084】
先駆物質としてANを用いるのに比べて、アクリル酸のプラズマ重合は炭素繊維とRFLとの間のIFSSにはるかに大きい改善をもたらすことができる。APPにステンレス鋼メッシュを用いると、メッシュを用いない場合よりはるかに多くのカルボン酸を保存した。しかしながら、メッシュを用いた場合又は用いない場合に、それら2つの形成されたプラズマポリマーの表面化学は全く異なっていたが、いずれもRFLへの良好な接着を与えており、このことはアクリル酸と共に形成された炭化水素ポリマーが両方とも炭素繊維とRFLとの間のIFSSを高めることができるということを意味する。アクリル酸のAPPの処理速度を増加させると、メッシュを用いて最低の処理速度で処理された繊維よりよりもなお多くのカルボン酸がプラズマポリマー中に保持される結果となった。しかしながら、それは後者ほど良好な接着性を与えなかったが、界面における負荷伝達に影響を与える形成されたプラズマポリマーの不充分な機械的特性によるものであろう。従って、RFLへの接着性を最適化するには、最低の処理速度で実施するメッシュを用いた又は用いないアクリル酸のプラズマ重合が好ましい実施条件であることができる。
【0085】
サイズ剤非処理の炭素繊維のほかに、本発明者らは第二のセットアップを通じてANを用いてサイズ剤処理炭素繊維T700GC−31Eも処理した。しかしながら、それはRFLへの接着性の改善を示さない。このことは、サイズ剤が第二のセットアップにおけるAPP処理に負の効果を有していることを意味する。
【0086】
ポリウレタンマトリックスでは、AN及びアクリル酸を用いて両方のセットアップを用いた。単繊維引抜試験によってIFSSを測定した。サイズ剤非処理T700GC−91(A型炭素繊維)では、ANのAPPは接着性を98%増加させ、そしてアクリル酸のAPPは114%までのなお一層の改善を与えた。サイズ剤処理T700GC−31Eに対するANのAPPは11%の微かな増加を示したが、それはRFL結合系と同様である。
【0087】
サイズ剤処理東邦(Toho)炭素繊維(B型)に関して、AN及びアクリル酸の両方を用いたAPP処理を実施した。それらは、AN及びアクリル酸を用いたAPP処理後にPUマトリックスにおいて、それぞれ、28%及び43%のIFSSの増加を示す。このことは、第一のセットアップがサイズ剤処理炭素繊維の処理により適していることを意味する。ANを用いてAPP処理された東邦(Toho)がT700GC−31Eより良好な接着性を有していた理由は、活性プラズマ領域中で先駆物質のフラグメントと反応してプラズマポリマーへのより良好な結合を形成することができる、そのより多量の非硬化エポキシサイズ剤によるものであろう。従って、種々のサイズ剤系はAPP処理に種々の影響を与えることもできる。
【0088】
本発明及びその利点を詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲から逸脱することなしにここで種々の変化、置換、及び変更が行われ得ることを理解されたい。さらに、本発明の範囲は本明細書に記載されたプロセス、機械、製造物、組成物、手段、及び工程の特定の実施形態に限定されることを意図するものではない。当業者であれば本発明の開示から容易に理解されるように、現存の又は本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たし若しくは実質的に同じ結果を達成するところの今後に開発されるべきプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、又は工程は本発明に従って用いられることができる。従って、特許請求の範囲はその範囲内にかかるプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、又は工程を包含することが意図されている。本明細書中に開示された本発明は、本明細書に具体的には開示されていない任意の要素なしに適当に実施されることができる。
【手続補正書】
【提出日】2015年1月23日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、動力伝達ベルトなどの強化エラストマー複合品用の処理された炭素繊維抗張コードに、さらにとりわけ、炭素コードに対する大気圧プラズマ重合処理に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維抗張コードは、動的応力を受けやすい可撓性ゴム製品、例えば、動力伝達ベルト、ホース、及びタイヤなどを強化する可能性を示す。現在、レゾルシノール−ホルムアルデヒド−ラテックス(「RFL」)接着剤処理が炭素繊維へのゴムの結合を促進するのに用いられている。機械的インターロックは、化学結合と比べて、繊維とRFLとの間の主たる相互作用であることが知られている。そのように処理された炭素コードのTブロック接着試験は、繊維とRFLとの間の分離を示す。炭素繊維とRFLとの間の接着には、現在の炭素ベルト系において、コードからのベルト歯の層間剥離という不良モードを除去するための改善が必要である。
【0003】
炭素繊維表面へのRFLの接着性を改善するためにエポキシプライマー及び/又はサイズ剤が研究されてきた。しかしながら、エポキシプライマーは、エポキシと繊維表面との間の化学結合の欠如のために繊維表面層における層間剥離を除去しなかった。現在のところ、炭素繊維トウ内へのRFLの機械的インターロックは、炭素繊維コードがゴムベルト材に用いられることを可能にする主要な技術として残っている。
【0004】
コードを表面クリーニングするために及びコーティング又は活性化するためにプラズマを用いる以前の試みが知られているが、本明細書に記載された動的なゴム用途に対して満足であることは見出されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、動力伝達ベルト、ホース又はタイヤなどの炭素繊維強化製品における改善された性能のために炭素繊維とエラストマーとの間の改善された接着性を与えるシステム及び方法に関する。製造業者から受領したような炭素ヤーンが処理される。かかる炭素繊維には概してサイズ剤が施されている。
【0006】
炭素繊維に対して大気圧プラズマ重合(「APP」)を行った。イオン化ガスとして空気を用いた。APPに用いられる先駆物質はアクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−(イソブトキシメチル)アクリルアミド、及びN−ヒドロキシエチルアクリルアミドであった。様々なAPP処理構成を調査して大気圧プラズマにおいて連続的に炭素繊維を改質するのに最適な方法を決定した。ネブライザーによって先駆物質蒸気を様々な供給速度(dosing rates)で供給した。炭素繊維へのAPPの影響及び繊維とエラストマーマトリックスとの間の界面相互作用を調べるために、動的接触角、ゼータ電位、BET表面積、XPS、単繊維引張強度測定、及び接着のマイクロメカニカル的な特徴付けを含む、炭素繊維の表面及びバルク特性の特徴付けを行い、モデル複合品での単繊維フラグメンテーション試験及び単繊維引抜試験によって炭素繊維のRFLエラストマーマトリックスへの及びPUエラストマーへの接着挙動を特徴付けした。
【0007】
炭素繊維へのAPP重合は、繊維のPU又はRFL(又は他の適合性のインターロック材料)への化学結合の増大をもたらす、繊維表面の官能性の増大を可能にする。炭素繊維とエラストマーマトリックスとの間の接着挙動のマイクロメカニカル的な特徴付けは有意な改善を示した。接着性はフラグメンテーション試験においてRFLマトリックスに対して最長の処理時間で約60%増加した。PUマトリックスを用いた単繊維引抜試験において接着性は約114%増加した。このことはベルト歯とコード表面との間の不良モードの改善をもたらしており、改善されたベルト寿命につながると考えられる。
【0008】
上記は、以下の本発明の詳細な説明をよりよく理解することができるように、本発明の特徴及び技術的利点をむしろ広く概説した。本発明のさらなる特徴及び利点は、以下に記載され、本発明の特許請求の範囲の主題を形成する。当業者であれば、開示された概念及び特定の実施形態は、本発明の同じ目的を実施するために変形し又は他の構造を設計する基礎として容易に利用されることができることを理解されよう。かかる等価の構成は添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱するものではないことも当業者に理解されよう。本発明に特有であると考えられる、その構成及び操作方法の両方についての、新規な特徴は、さらなる目的及び利点と共に、添付の図面と関連させて考慮されれば以下の記載からよりよく理解されるであろう。しかしながら、各図面は説明の目的のためだけに提供されるものであり本発明の範囲の規定を意図するものでないことを明確に理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本明細書に含まれその一部を成す添付の図面(同様な数字は同様な部分を示す)は本発明の実施形態を示すものであり、その記載と一緒になって、本発明の原理を説明するように働く。図面において、
【0010】
図1は、本発明の実施形態に従って構成されたマルチVリブドベルトの一部の部分的に断片化された斜視図であり;
【0011】
図2は、本発明の実施形態に従って構成されたVベルトの一部の部分的に断片化された斜視図であり;
【0012】
図3は、本発明の実施形態に従って構成された同期ベルトの一部の部分的に断片化された斜視図であり;
【0013】
図4は、本発明の実施形態に従って構成されたホースの一部の部分的に断片化された斜視図であり;
【0014】
図5は、炭素繊維のAPP処理の第一のセットアップを示す略図であり;
【0015】
図6は、炭素繊維のAPP処理の第二のセットアップを示す略図であり;
【0016】
図7は、繊維引抜接着試験を示す略図であり;そして
【0017】
図8は、繊維埋込み装置を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、動力伝達ベルト、ホース、タイヤ又は他の強化ゴム製品に用いるための処理された炭素繊維抗張コード及び得られた製品に関する。抗張コードは、プラズマアシスト化学蒸着法により大気圧で堆積及び重合される適当なポリマー層でコーティングされた炭素繊維を含む。適当なポリマー層は、コードが強化する意図されたマトリックスと適合性のあるものである。例えば、ゴムベルトでは、コーティングはベルト本体のゴム組成物又はコードを囲繞する接着ゴムと適合性のあるものでなければならない。レゾルシノール−ホルムアルデヒド−ラテックス(「RFL」)コード処理はゴムベルト中の繊維を直接に囲繞するマトリックスとして用いられることが多い。ゴム及びポリウレタン(「PU」)ベルト配合物に対し、適当な先駆物質又はモノマーは、プラズマ中で容易に重合及び/又は架橋されることができるカルボキシル、ヒドロキシル、エステル、イミド、カルボニル、又はアミド官能基を含み、そしてマトリックスとの化学結合を形成することによって接着に主要な寄与を行うことができるポリマーを形成することができる、低分子量及び二重結合を有するものである。例として、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−イソブトキシメチルアクリルアミド、及びN−ヒドロキシエチルアクリルアミド、又は一般に、官能性アクリレート、メタクリレート又はスチレン誘導体を挙げることができる。
【0019】
以下に、ウレタン及びゴム製の動力伝達ベルト材の強化として用いられる炭素繊維への様々な適合性の先駆物質の大気圧プラズマ重合(APP)の幾つかの例を、試験方法及びネブライザーを用いた及び用いないAPPセットアップ方法を含めて記載する。
【0020】
3つの炭素繊維製造業者から得られたサイズ剤非処理及びサイズ剤処理のPAN系炭素繊維に対してAPPを実施した。本明細書中でA型は、東レ社(日本国東京)製のサイズ剤非処理の繊維であるT700GC−91を指す。本明細書中でB型は、エポキシタイプサイズ剤であると考えられる、東邦テナックス社製のサイズ剤処理の繊維を指す。本明細書中でC型は、Hexcel社(米国コネチカット州スタンフォード)製のサイズ剤非処理の炭素繊維であるAS4Dを指す。
【0021】
様々なAPPプロトコルを調査して、大気圧プラズマ内での連続的な炭素繊維処理に最適な方法を決定した。かかる構成はアフターグロー(リモートモード)プラズマを用いることによって達成されることができる。アフターグロープラズマ領域中に直接にエアロゾル先駆物質を注入することによって、制御されたフリーラジカル誘導重合反応が先駆物質分子の最小フラグメンテーションで開始されることができる。これを用いて種々の基体上に直接に非常に複雑な化学官能性を化学的にグラフトして、先駆物質特性が保持される「ソフト重合(soft-polymerised)」プラズマコーティングを形成することができる。従って、この構成は基体表面での大きな分子フラグメントの吸着を可能にする。2つの異なったAPP処理構成(
図5及び
図6参照)を採用して大気圧プラズマ中で連続的に炭素繊維を改質した。各構成は、それぞれの構成の中で調査された所定のパラメータ変数を有し、幾つかの基本的な運転条件を用いた。
【0022】
第一のAPPセットアップ構成の方法及び結果:
【0023】
図5に示された第一の構成では、表2に掲げられた基本的なセットアップ条件を用いており、その種々のパラメータ変数及び結果を表1に示す。オープンエア(Openair)(登録商標)プラズマ・テクノロジー・システム(プラズマ・ジェット(Plasma Jet)PFW10−PAD;プラズマトリート(Plasmatreat)(登録商標)、ドイツ、シュタインハーゲン)によりAPPを実施した。このシステムは電力2.1kW(V=296±3V,I=7±0.2A)及び励起周波数15〜25kHzで運転された。
図5に模式的に示された第一のAPPセットアップ50において、先駆物質蒸気を、ネブライザー55(オムロンNE−U17超音波式ネブライザー;オムロン松阪株式会社)によって供給した。ネブライザーは対応する10の位置を有するダイヤルによってキャリアガスの流量及び先駆物質の供給速度の調節を可能にした。実施例2〜7は条件A〜Fを用いて最初に実施されて表3において特定される最適なネブライザー設定を決定した。そして、表1の残りの実施例については条件Fを用いた。炭素繊維52は巻き出し51からガラスチャンバー53を通って供給された。繊維はプレテンショニング装置56によってテンショニングされそして巻き取り装置57に巻き取られた。流量1350L/時間のイオン化ガスとして空気を用いた。空気供給ガスはポート54に入り、そこでイオン化されてプラズマノズル59を通して注入される。先駆物質蒸気は、ネブライザーの気流ダイヤルのレベル10に対応する気流17L/分(1020L/時)のキャリア流でネブライザー55によって供給される。先駆物質供給速度はその流量ダイヤルでレベル10に対応する3mL/分であった。平均粒度4.4μmを有するエアロゾルはネブライザー55によって発生された。空気により運ばれた先駆物質は、いったんそれがプラズマ活性領域内に流入すると繊維表面上に重合し堆積され始めるように、プラズマチャンバー53の端部からほんの僅かな過剰ガスを流出させながら全ガラス製Tピース53を満たすことができる。炭素繊維ロービング52を、アンイコールTピース(PTU100/25、QVFプロセスシステム社(英国スタンフォード)製の珪硼酸ガラス3.3)である25cm長さのガラスチャンバー53内部でプラズマジェットノズル59の先端から15mmの距離に配置した。健康と安全の予防措置のため、全プラズマ領域を、エクストラクター63を備えた密封アクリルボックス65内に収容した。
図5に示された構成は、プラズマジェットに曝露される炭素繊維ロービングの両側で繊維が連続的に処理されることを可能にする。炭素繊維はPTFEローラーピン61によって方向を変えられて、繊維はガラスチャンバー53を3回ループ又は通過するので、繊維のAPPへの曝露を最大化した。ステンレス鋼メッシュ58を、場合により、炭素繊維ロービングの上部通過と繊維ロービングの二度目の通過との間に配置することができた。ステンレス鋼メッシュ58の働きはイオン化粒子の一部を遮断し、そのことによって繊維ロービングの残部へのプラズマの物理的なスパッタリングを低減することであった。例えば、アクリル酸蒸気は、UV及び希エネルギー粒子(rare energetic particles)によって繊維表面上に重合されることができる。ステンレス鋼がない場合、APP処理の間に先駆物質の重合とプラズマの物理的なスパッタリングとの間により多くの競合が生ずるであろう。6つの異なった処理速度0.18m/分、0.4m/分、0.8m/分、1.4m/分、2.5m/分及び5m/分が選択され、これらはそれぞれ、ガラスチャンバー内滞留時間4.2分、1.9分、0.9分、0.5分、0.3分及び0.15分に相当した。炭素繊維へのAPPの影響及び繊維とエラストマーマトリックスとの間の界面相互作用を調べるために、動的接触角、ゼータ電位、BET表面積、XPS、単繊維引張強度測定、及び接着のマイクロメカニカル的な特徴付けを含む、炭素繊維の表面及びバルク特性の特徴付けを行った。炭素繊維のRFLエラストマーマトリックスへの接着挙動を単繊維フラグメンテーション試験によって及びPUエラストマーへの接着挙動をモデル複合品についての単繊維引抜試験によって特徴付けした。接着性は界面せん断強度(「IFSS」又はτ
IFSS)によって表される。
【0024】
図5のセットアップにおいて最初の一連のAPP試験に用いられた先駆物質は、アクリル酸(純度99%、アルドリッチ社、英国)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(純度99%、アルドリッチ社、英国)、N−イソブトキシメチルアクリルアミド(工業グレード、アルドリッチ社、英国)、及びN−ヒドロキシエチルアクリルアミド(純度97%、アルドリッチ社、英国)を含んでいた。ネブライザーセットアップパラメータ、速度、材料及びIFSS試験結果についてのAPPを表1に示す。報告された値は、後述のようにIFSSを計算するのに用いられる繊維強度σ
fの再測定のため優先権主張出願において報告された値とやや異なる。結論は同じままである。
【0028】
第一のセットアップ構成の結果は、アクリル酸を用いたAPP処理は最長の滞留時間でRFLマトリックスにおけるIFSSを約60%増加させることを示している。アクリル酸を用いたAPP処理は最長の滞留時間でPUマトリックスにおけるIFSSを約45%増加させる。他の先駆物質も接着性を増加させるが、それほどではない。メッシュの使用は、メッシュを用いない場合よりわずかに低いIFSSを生じさせるように思われる。
【0029】
ネブライザーによる第一のセットアップを用いる一つの理由は、先駆物質の官能基をより多く保持した「ソフト重合」プラズマコーティングを生成することである。このセットアップに用いられる先駆物質はネブライズされるべき低粘度又は小さな分子量を有していることが好ましい。第一のセットアップに用いられる先駆物質は以下の第二のセットアップの要件(例えば、低沸点であることなど)を満たさないことができる。しかしながら、超音波を用いるエアロゾル形成は高温を必要としないので、以下の第二のセットアップに用いられる先駆物質がこの第一のセットアップに用いられることができた。
【0030】
第二のAPPセットアップ構成の方法及び結果:
【0031】
図6に示された第二の構成において、表6に掲げられた基本的なセットアップ条件を用いそして種々のパラメータ変数及び結果を表4及び表5に示す。
図6に示された第二のAPPセットアップ70において、オープンエア(Openair)(登録商標)プラズマ・テクノロジー・システム(ジェットPFW10−PADを備えたアップグレードされたプラズマ重合装置;プラズマトリート(Plasmatreat)(登録商標)、ドイツ、シュタインハーゲン)によりサイズ剤非処理PAN系炭素繊維についてAPPを実施した。電力2.1kW(V=296±3V,I=7±0.2A)及び励起周波数15〜25kHzでこのシステムを運転した。窒素(N
2)及び空気(BOC、英国)を、それぞれ、イオン化ガス54及びキャリアガス67として流量2,000L/時及び300L/時で用いた。アクリロニトリル(AN)及びTEMDA、及びHMDSOを先駆物質として用いた。連続的な繊維表面処理を、アフターグロー(リモートモード)プラズマを用いて実施した。先駆物質を一定の供給速度で供給し、80℃に加熱して気化させそして一定の気流によって直接にアフターグロー大気圧プラズマ領域に運んだ。健康と安全の予防措置のため、全プラズマ領域を、エクストラクター63を備えた密封アクリルボックス65内に収容した。プレテンショニング(150g荷重)された炭素繊維ロービング52を、250mm長さの珪硼酸ガラス製アンイコールTピース53(PTU100/25、QVFプロセスシステム社、英国、スタンフォード)内部で、プラズマジェット59の先端から15mmに配置した。第一のセットアップにおけると同様に、炭素繊維52は巻き出し51からガラスチャンバー53を通って供給された。繊維はプレテンショニング装置56によってテンショニングされそして巻き取り装置57に巻き取られた。半閉鎖系における炭素繊維の大気圧プラズマ処理は、有利なことに、より密閉性の環境を生成するのでより効果的であると考えられる。この構成(
図6)は、フェノール樹脂ローラーピン61を用いて炭素繊維を方向転換させることによってプラズマジェットへの炭素繊維ロービングの両側の連続曝露を可能にし、このことは炭素繊維がループして反応チャンバー53を3回通過することによりAPP処理領域への曝露を最大化することを可能にした。APP処理時間及び先駆物質供給速度を変化させた。3つの異なった処理プロセス速度(0.18、0.8及び1.4m/分)を選択してガラスチャンバー内の活性アフターグロープラズマ領域内における滞留時間を調節した(それぞれ、4.2、0.9及び0.5分)。AN先駆物質供給速度の効果を調べるために、対照群として0g/時をライン速度3mm/秒で用い、一方、ライン速度23mm/秒で50g/時、100g/時、150g/時を用いた。
図5のメッシュ58のように、ステンレス鋼メッシュを場合によりプラズマチャンバー内に挿入することができた。
【0032】
表4は、種々の処理された炭素繊維及びRFLマトリックスに対する見かけの界面せん断強度及び他の結果を示す。表4に用いられた変数は、ECCM15−15TH EUROPEAN CONFERENCE ON COMPOSITE MATERIALS(イタリア、ベニス、2012年6月24〜28日)において発表された論文、S.Bai,K.K.C.Ho,G.Knox,A.Bismarck,「Impact Of Continuous Atmospheric Pressure Plasma Polymerization Of Acrylic Acid On The Interfacial Properties Of Carbon Fibre − RFL Elastomer Composites」(参照により本明細書に組み込まれる)にも記載されている。表4において、実施例26〜29のσ
0及びσ
f値は実施例25の測定値と同じであり、実施例24は実施例1と同じ、そして実施例34〜36は実施例33と同じであると仮定されることに留意されたい。また、表4において、ANは繊維へのポリマーコーティングの先駆物質としてのアクリロニトリルの使用を表す。同様に、TEMDAはテトラメチルエチレンジアミンを表し、HMDSOはヘキサメチルジシロキサンを表す。
【0033】
RFLマトリックスについての表4の結果は、上記表1に示された結果ほど好ましいものではない(IFSSにおいて32%改善)。これはRFLマトリックスと完全には適合性でない先駆物質が用いられたことによる。当業者であれば、本明細書中の開示及び最小限の実験に基づいて所望のマトリックスに対する適当な先駆物質を選択することができるであろう。
【0034】
表5は、注型ポリウレタンエラストマーマトリックスへの処理された炭素繊維接着についての追加の界面せん断強度試験の結果を示す。また、表5において、「AN」は繊維へのポリマーコーティングの先駆物質としてのアクリロニトリルの使用を表す。同様に、「PAA」はアクリル酸先駆物質の使用を表す。「ACN」は先駆物質としてのアセトニトリルの使用を表す。APPセットアップは、キャリアガスとして窒素を用いたという一部のことを除いて、表4の場合と同じであった。ここで、AN先駆物質は、非処理繊維に対しすなわち先駆物質を用いないプラズマ処理に対し接着性における有意な改善(+22%)をもたらした。さらに、AN先駆物質は、炭素繊維に利用できる市販のサイジング剤(一般にはエポキシベースであると考えられる)より、注型PUに対して同等の又は幾分か良好な接着性をもたらすことを理解することができる。PAA先駆物質はANより良好な結果を与えた。
【0035】
市販のサイジング剤の上にAPPプロセスによってポリマーコーティングを施すことは、一般に、好ましい方法ではない。サイジング剤は、例えば、洗浄又は溶媒ストリッピングによって除去されることができる。サイズ剤非処理の又は脱サイズ剤化された炭素繊維は、一般に、本明細書に記載のAPPプロセスに用いるのに好ましい。
【0036】
表4に報告された値τ
IFSSも、後述のようにIFSSを計算するのに用いられる繊維強度σ
fの再測定のため優先権主張出願において報告された値とやや異なる。結論は同じままである。連続的APP処理繊維のバルク特性は引張強度又は弾性率の損失がなく影響を受けなかった。炭素繊維とエラストマーマトリックスRFLとの間の接着挙動のマイクロメカニカル的な特徴付けは、先駆物質としてアクリル酸を用いることによって最長の処理時間で約60%の有意な改善を示した。湿潤性の増加はより良好な接着性を生じさせることができるが、堆積されたポリマーの機械的特性はIFSSにきわめて重要であった。プラズマ中の滞留時間が短いほど繊維表面上に存在するより多くのカルボキシレートをもたらすことができるが、それは堆積されたポリマーの機械的特性の低下ももたらすことになり、その結果IFSSが低下する。ステンレス鋼メッシュの使用はカルボキシレートの量を増加させたが、堆積されたポリマー層の異なった物理的構造をももたらして、メッシュを使用しない場合に比べてわずかにIFSSの低下を生じさせた。
【0037】
エージング試験を行ってAPP処理された炭素繊維(実施例33〜36)の保存寿命への周囲空気の影響を決定した。繊維を周囲雰囲気中で1ヶ月間保存することによる、エージング後、プラズマコーティング中に存在する不飽和ラジカル又は活性な表面部位(例えば、イミン及び水素原子が結合してプロトン化されたアミノ基など)が空気中の酸素及び/又は湿分と反応し、このことが表面酸素の増加及び窒素含有量の減少をもたらした。エージング時間の増加に伴いアミン/イミン基の減少とアミド基の増加も観察された。さらに、プラズマ処理されたポリマーの周囲空気中での保存は最初に、最終的にポリマー中への窒素の取り込みに至るであろう、空気中の湿分によるイミン基の加水分解を生じさせた。このことはプラズマポリマーから窒素含有フラグメントの損失を生じさせることがあり、これはエージングされたAPP処理AS4D炭素繊維の窒素含有量の低下と一致する。プラズマポリマーの加水分解及び酸化は、炭素繊維上に堆積されたプラズマポリマー層とRFLとの間に形成される結合の可能性を低下させ、それゆえに見かけIFSSを低下させることがある。一方で、高分解能XPスペクトルで観察すると官能基の表面密度に実質的な減少がないので、これは極性成分のプラズマポリマー層の表面からサブサーフェース中への再配向が起こらなかったことを示している。これは、いずれの表面再構成をも制限した、形成されたプラズマポリマーコーティングの高い架橋密度によるものであろう。
【0041】
第二のセットアップは、装置の制限があるため、先駆物質の選択に関して幾つかの制約、例えば、沸点150℃未満及び非腐食性などを有することに留意されたい。
【0042】
単繊維フラグメンテーション試験方法(RFLマトリックスに対して使用)
【0043】
RFLは高歪み、約850%、のエラストマーマトリックスを表しており、本試験に用いられた。RFLのこの特異的な物性(高歪み)は、RFLと炭素繊維との間の接着性を特徴付けるべき他の技術的方法、例えば、単繊維引抜試験、を制限する。しかしながら、RFLよりはるかに低い炭素繊維の歪み及びRFLマトリックスの透明性により、フラグメンテーション試験を用いることによって解決されることができる。溶媒蒸発法によって試験片を作成した。単繊維は、両端において、端部厚さ約100μmを規定したガラススライドに透明テープによって接着された。従って、繊維はガラススライド表面から離れて保持されそして最終的なポリマー試験片の中央に配置された。RFLの25重量%の溶液がガラススライド上にキャストされ、繊維を完全に覆った。フィルムは、最初に、温度70℃の平板熱圧プレスで1時間乾燥され、次いで真空炉中で170℃で30分間キュアリングされて痕跡量の溶媒を除去した。次いで、ズウィック(Zwick)D−7900切断装置(ズウィック・ロエル・グループ(Zwick Roell Group))を用いてダンベル型試験片を切断し、そしてTST350引張応力試験システム(リンカム・サイエンティフィック・インストルメンツ社(Linkam Scientific Instrument Ltd.))によって試験した。ゲージ長領域における試験された試験片の寸法は厚さ約200μm、幅4mm及び長さ30mmであった。引張試験機により試験片を伸長することは繊維の破断をもたらす。樹脂内部の繊維は、繊維の軸応力がその引張強度に達する場所ではますます小さなフラグメントに破断する。繊維が破断すると、破断位置の引張応力はゼロまで下がる。マトリックス内の一定のせん断応力のため、より長いフラグメントにおいて繊維中の引張応力はその端部からプラトーまで略直線的に増加する。軸歪みが高ければ高いほどより多くの破断が繊維中に引き起こされるが、フラグメント長さが短すぎるとさらなる破断を引き起こすのに充分な応力を繊維内部に移行することができないので或るレベルではフラグメントの数は一定になるであろう。従って、引張試験の間、試験片は80%までの歪みを与えられてクロスヘッド速度15μm/秒でクラック飽和を確実にするが、これは80%歪みで、RFLの力−歪み曲線が抑制されるようになり始めたからである。単繊維フラグメンテーションプロセス全体を偏光顕微鏡(ウィルド・ヘルブルグ(Wild Heerbrugg))を用いてモニターした。各タイプの繊維に対して少なくとも10の試験片を試験した。繊維フラグメントの長さを、ガラススケール(10mm対物ミクロメータースケール、0.1mm刻み、グラチクル社(Graticules Ltd.))によって較正される、オリンパスDP70カメラシステムを用いたオリンパスBX51M反射光光学顕微鏡の下で測定した。繊維とRFLマトリックスとの間の見かけ界面せん断強度を、ケリー−タイソン(Kelly-Tyson)モデル[1]から見積もりそしてワイブル分布に適合させて臨界フラグメント長さにおける繊維引張強度を予測した。
【0044】
例えば、界面摩擦、マトリックス降伏又は凝集破壊など[3]、マイクロメカニカル的試験は、界面結合強度の直接測定のための唯一の実験ツールのままであり、そして脆性及び延性両方のマトリックスに関して用いられることができる[4]。言及すべきことは、結果が凝集破壊のために解釈困難となり得るということである。すなわち、試験の間に引き起こされた破壊は、界面におけるものではなく、強化材又はマトリックスにおけるものであることができる。材料Cの界面層が強化材AとマトリックスBとの間に形成されている場合に状況はさらに複雑である。この状況においては、接着層破壊(adhesive failure)を生じる可能性のある2つの界面、すなわち、A−C及びC−Bと、及び凝集破壊し得る3つの材料(A、B及びC)とがある。しかしながら、実際には、試験条件が使用条件を再現することを保証できるという前提があれば、界面における「弱い結合」の強度が測定される限り、試験の間の破壊が接着層破壊であっても又は凝集破壊であっても問題とならない[3]。従って、単繊維引抜試験を実施して、処理された繊維とエラストマーとの間の実際の接着の尺度として用いられる見かけ界面せん断強度(τ
IFSS)への大気圧プラズマ重合の影響を決定した。
【0045】
図7は単繊維引抜試験60の略図である。繊維62はマトリックス64に距離X埋込まれそして平行力66を加えることによって引抜かれた。
【0046】
単繊維引抜試験を、
図8に模式的に示された埋込み装置80(縮尺通りではない)を用いて調製された単繊維引抜試験片を用いて実施した。
図8において、繊維サンプル62は、一片の両面接着テープ92によって金属ワッシャー91上に固定される。繊維62は、好ましくは、ワッシャー91の端部を越えて約5mm伸びる。ワッシャー91は、ねじ87を回すことによって下方にスライドさせることができるスライディングヘッド88上に磁石89によって保持される。ねじ87は大変に細かいねじ山を有しており、例えば、この場合には1回転がヘッド88を約300μm動かした。スライディングヘッド88はフレーム82に取り付けられる。フレーム82は、六角ねじ86の六角ソケット内でポリマーマトリックス材料64を溶融及び/又は硬化するのに用いられるヒーター84も保持する。六角ねじ86は、ガラスロッド85を用いてヒーターから上げられそしてヒーター内に下げられることができる。
【0047】
このように、炭素繊維の埋込みの深さ60〜100μmにポリマーメルト(この場合にはPU)中に単繊維を部分的に埋込んだ。PUポリマー、アジプレン(Adiprene)LF940Fとビブラキュア(Vibracure)A157との混合物のポットライフは5分間であったので、全埋込み過程はこの時間内に完了され、次いでサンプルは埋込み装置の炉内に放置されて100℃で30分間硬化し、そして最終的にサンプルは後硬化炉に100℃で24時間移された。
【0048】
後硬化の後、ワッシャーにおいて繊維を切断しそしてシアノアクリレート接着剤(工業グレードのスーパーグルー、エバービルド・ビルディング・プロダクツ社(Everbuild Building Products Ltd)、英国、リーズ)を用いて繊維上に針を接着剤でつけることによって引抜装置(張力計)用のサンプルを調製した。次いで、張力計の一端に六角ねじを他端に針を取り付けることによって
図7に示されたようにマトリックスから繊維を引いた。次いで、実験を通して力対変位をロードセルによって記録しコンピュータを用いてログを取りながら、繊維に速度1μm/秒の負荷をかけて繊維をマトリックスから引き抜いた。
【0049】
見かけ界面せん断強度τ
IFSSは、埋込まれた炭素繊維のマトリックスからの剥離を開始するのに必要なF
maxから下記式を用いて計算することができる。
【0050】
以下に、本発明の種々の実施形態によるゴム製品の強化材としての本発明の炭素繊維抗張コードの適用を記載する。
【0051】
本発明のベルト実施形態に関しては、
図1〜
図3に3つの実施形態が示されている。
図1を参照するに、歯付きベルト10が示されている。
図1を参照するに、本発明の実施形態に係る歯付きベルト10が概略的に示されている。歯付きベルト10はエラストマーのベルト本体部12、及び該ベルト本体部12の内周に沿って配置されたシーブ接触部14を含む。この関連で用いられる用語「シーブ」は、動力伝達ベルトと共に用いられる通常のプーリ及びスプロケットを含み、及びローラー及び同様の機構も含む。
図1のベルトの特定のシーブ接触部14は複数の交互に配置された歯16及びランド部18の形態を取る。シーブ接触部14はベルト本体部12と一体であり以下で述べるように同じエラストマー材料(1種又は2種以上)から形成されることができる。シーブ接触部14は、同期ベルト組立構成において通常用いられるような、以下でさらに詳細に説明される補強布24を含むので、本発明のその実施形態においてベルト本体部12の材料以外の材料から形成されることが理解されよう。いずれのエラストマー材料もその中に、本発明の繊維、すなわち、大気圧プラズマ重合される先駆物質を用いて処理された細断されたコード、好ましくは炭素繊維コード、によっても提供されることができる短繊維5を分散して含んでいることができる。
【0052】
抗張又は負荷支持コード部20は、ベルト10に支持及び引張強さを与えるためにアンダーコード16上に配置される。図示された形態において、抗張部は、少なくとも長手方向に伸びる抗張コード22(該抗張コードは本明細書中でさらに詳細に記載されるように本発明の実施形態によるものである)、すなわち、ベルトの長さに沿って整列された、大気圧プラズマ重合される先駆物質を用いて処理されたコード、好ましくは炭素繊維コード、を含み、そして本発明の種々の実施形態に従って、少なくとも部分的に接着ゴム部材、例えば、RFL、ポリウレタン材料、ゴムセメントなどと接触し又はその中に埋め込まれる。熟練技術者であれば、前記接着ゴム部材が、囲繞するエラストマーベルト本体部から視覚的に識別可能なものであることができることを容易に理解されるであろう。接着ゴム部材は実際にはエラストマーベルト本体12と同じ材料からなるものであることができる。
【0053】
図2を参照するに、標準ノッチ付Vベルト26が示されている。Vベルト26は、
図1に示されたものと同様なエラストマーのベルト本体部12、及び任意の接着ゴム部材(図示せず)中に埋め込まれていることができる、1又は2以上の抗張コード22の形態の抗張又は負荷支持部20を含み、そしてコード22は、有利には、本明細書中でさらに詳細に記載されるように本発明の実施形態により製造され、すなわち、大気圧プラズマ重合される先駆物質を用いて処理されたコード、好ましくは炭素繊維コードである。Vベルト26のエラストマーのベルト本体部12、接着ゴム部材及び負荷支持部20は
図1について上記したと同じ材料から構成されることができる。とりわけ、エラストマーは、好ましくは炭素繊維の、細断されたAPP処理コードから作られた短繊維5で充填されることができる。これらの繊維5はシーブ接触部14において露出されることができる。エラストマーのベルト本体12の、又は図示されたようなVベルトの場合に圧縮部の、側面はベルト26の駆動面として働く。示された実施形態において、シーブ接触部14は、交互に配置されたノッチ窪み表面すなわち凹部28と歯付き凸部30の形態である。これらの交互に配置された窪み表面28と凸部30は、好ましくは図示のように、概ね正弦曲線を描く経路に沿っており、シーブ接触部14が運転の間プーリの周囲を通過する際に曲げ応力を分配して最小にするように働く。
【0054】
補強布(
図2又は
図3には図示せず)は場合により用いられることができ、Vベルト及びマルチVリブドベルトの場合に、シーブ接触部14の向かい側にベルトの表面に沿って密着してベルトのフェースカバー又はオーバーコードを形成するか、又はベルト本体中に埋め込まれることができる。布は、任意の所望の角度のたて糸とよこ糸からなる従来の組織のような任意の所望の構成であることができ、又はタイヤコード布によって例示されるような、間隔の開いたピックコードによって一緒に保持されるたて糸からなることができ、又は編まれた若しくは編組された(braided)形態、又は不織布の形態、又は紙若しくはプラスチックフィルムの形態などからなることができる。布はエラストマーのベルト本体12と同じ又は異なったエラストマー組成物を用いて摩擦コーティング又はスキムコーティングされていることができる。2以上の層の布が用いられることができる。所望ならば、ストランドがベルトの移動方向と角度をなすように、布はバイアスに切断され又は他の方法でバイアスに配列されるように形成されることができる。かかる補強布使用の1つの実施形態が
図2に示されており、
図2では、ゴムスキムコーティングされたタイヤコード布29がアンダーコード部中そしてまたオーバーコード部中に埋め込まれた誇張形態により示されている。コード布29のコードは本明細書に記載された本発明のコードの実施形態に係るものであることができ、すなわち、大気圧プラズマ重合される先駆物質を用いて処理されたコード、好ましくは炭素繊維コードであることができる。不織布又は紙材料の使用は、例えば、Pattersonらに対する米国特許第6,793,599号明細書に記載されており、同号に関する特許の内容は参照により本明細書に組み込まれる。プラスチックフィルムの使用は、例えば、米国特許出願公開第20020187869号明細書に記載されており、同号に関する公報の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
図示された実施形態においてVベルト26はローエッジベルトの形態であるが、上記した補強布はさらに、示されたベルトのフェースカバー又はオーバーコートとして、又はベルトを完全に取り囲んでバンド付きVベルトを形成するように用いられることができる。
【0056】
図3を参照するに、マルチVリブドベルト32が示されている。リブドベルト32は、
図1及び
図2のベルトの場合と同様にエラストマーのベルト本体部12及びシーブ接触部14を含み、そして
図1及び
図2のベルトについて前記したように本発明のコード20を有する負荷支持部20も含む。しかしながら、リブドベルト32では、シーブ接触部14は長手方向に伸びるリブ36と凹部34の形態である。マルチVリブドベルト32は、エラストマーのベルト主体部12、及び該ベルト主体部12の内周に沿って配置されたシーブ接触部14を含む。
図3のベルトの特別なシーブ接触部14は、相対して向かい合う辺の間でそこを規定する複数の窪み領域34と交互に配置された突起領域すなわち頂部36を含む複数のリブの形態である。
図2及び
図3の場合のそれぞれにおいて、シーブ接触部14はベルト本体部12と一体でありそして以下に記載のように同じエラストマー材料(1種又は2種以上)から形成されることができる。シーブ接触部14はリブ38上に補強布を含んでいることができる。リブドベルト32は場合により
図2のようなタイヤコード布を含んでいることができ、それは本発明に従ってAPP処理されたコードを含んでいることができる。リブドベルト32は
図1及び
図2のベルトについて記載した細断された繊維5を含んでいることもできる。
【0057】
図4を参照するに、本発明の一実施形態に従って構成されたホース41が示されている。ホース41は、エラストマーのインナチューブ42、該インナチューブ42上にはめ込まれそして好ましくはそれに接着された補強部材44、及び該補強部材44上にはめ込まれそして好ましくはそれに接着されたエラストマーのアウタカバー46を含む。補強部材44は本発明の実施形態に係る適当なAPP処理された炭素繊維補強材から形成されることができる。補強の構成は、編組、螺旋、編成又は巻き付けなどのいずれか適当な型であることができるが、図示された実施形態では編組構成である。
【0058】
インナチューブ42は、相互に同じ組成であることができ又は同じ組成でないことができる複数のエラストマー層又はプラスチック層から成ることができる。エラストマーのアウタカバー46は遭遇する外部環境に耐えるように設計された適当な材料から作られる。インナチューブ12及びアウタカバー16は同じ材料から作られることができる。ホース41は成形又は押出によって形成されることができる。エラストマーは本発明に係る細断された繊維を用いて補強されることができる。
【0059】
上記に示された
図1〜
図4のそれぞれの場合に、ベルト本体部12又はホースインナチューブ42又はアウタカバー46は任意の従来の及び/又は適当な硬化エラストマー組成物から形成されることができ、そして本発明の実施形態に係る細断されたAPP処理炭素繊維5を用いて補強されることができる。この目的に対して用いられることができる適当なエラストマーとして、例えば、ポリウレタンエラストマー(さらに、ポリウレタン/ウレアエラストマーも含む)(PU)、ポリクロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR(HNBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CPE)、エピクロロヒドリン(ECO)、ポリブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、及びエチレンアルファオレフィンエラストマー、例えば、エチレンプロピレンコポリマー(EPM)、エチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、エチレンオクテンコポリマー(EOM)、エチレンブテンコポリマー(EBM)、エチレンオクテンターポリマー(EODM);及びエチレンブテンターポリマー(EBDM);エチレンビニルアセテートエラストマー(EVM);エチレンメチルアクリレート(EAM);及びシリコーンゴム、又は上述の任意の2種又は3種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0060】
本発明の実施形態に従ってエラストマー組成物を形成するために、エラストマー(1種又は2種以上)は、充填剤、可塑剤、安定剤、加硫剤/硬化剤及び促進剤を含む従来のゴム配合成分と、従来的に用いられる量でブレンドされることができる。例えば、エチレン−アルファ−オレフィンエラストマー及びHNBRなどのジエンエラストマーと共に使用する場合、アルファ−ベータ有機酸の1種又は2種以上の金属塩が現在従来的に使用される量で用いられ、結果として得られる製品の動的性能を改善することができる。従って、かかる組成物に、ジメタクリル酸亜鉛及び/又はジアクリル酸亜鉛が約1〜約50phrの量で;又は代わりに約5〜約30phrの量で;又は約10〜約25phrの量で用いられることができる。これらの材料はさらに組成物の接着性に寄与し、そしてイオン化架橋による過酸化物又は関連の剤を用いた硬化の際にポリマーの全体的な架橋密度を増加させるが、このことは今や当該技術分野で周知である。
【0061】
関連分野の当業者であれば、ベルトのエラストマー部分に又はエラストマー部分として用いるためのいくつもの適当な組成物があることを容易に理解されよう。多くの適当なエラストマー組成物が、例えば、The R.T.Vanderbilt Rubber Handbook(第13版、1996年)に記載されており、また特定の高い引張弾性率特性を有するEPM又はEPDM組成物に関しては、それぞれ米国特許第5,610,217号及び第6,616,558号明細書にさらに記載されており、動力伝達ベルト本体部分の形成に使用するのに適当であることができる種々のエラストマー組成物に関するそれら特許の内容はとりわけ参照により本明細書に組み込まれる。さらに、本発明の種々の実施形態の実施にも用いられることができる数種の注型PU組成物に関して、かかる組成物が、例えば、Wuらに対する国際公開第WO09692584号に記載されており、同号に関する国際特許出願の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0062】
自動車付属部品の駆動用途に関する本発明の実施形態において、エラストマーのベルト本体部12は、接着ゴム部材組成物として用いられるものと同じ又は異なった組成であることができる適当なエチレンアルファオレフィン組成物、例えば、EPM、EPDM、EBM又はEOM組成物などから形成されることができる。HNBRは同期ベルトにとりわけ有用である。ホースには、CR、NBR、CPE、PVC、EPDMなどが通常用いられる。
【0063】
硬化されたエラストマー組成物はさらに、これらに限定されるわけではないが、例えば、綿、ポリエステル、ファイバーグラス、アラミド及びナイロンなどを含む材料を、短繊維すなわち細断された繊維、フロック又はパルプのような形態により、一般に使用される量で用いて、しかし好ましくは、本明細書に記載の細断されたAPP処理炭素繊維を用いて、当該技術分野で周知であるような不連続繊維で充填されることができる。プロファイルされた(例えば、切削又は研削によるなど)マルチVリブドベルトに関する好ましい実施形態において、かかる繊維充填は、好ましくは、繊維の実質的部分がベルトの移動方向を概ね横切る方向に横たわるべく形成及び配置されるように形成され配置される。しかしながら、フロースルー法に従って製造された成形マルチVリブドベルト及び/又は同期ベルトにおいて、繊維充填は一般に同程度の配向を欠くであろう。
【0064】
本発明の一実施形態によれば、
図1〜
図4の幾つかの実施形態において上記した複合ベルト構造内で負荷支持コードと少なくとも部分的に接触して用いられる硬化エラストマー組成物は、その内容が参照により本明細書に組み込まれる前記米国特許第6,616,558号明細書に詳細に記載された特徴及び利益を場合により含んでいることができる。
【0065】
動作において、ベルトは、例えば
図1〜
図3に示されるように、一般に少なくとも1つの原動プーリ及び1つの従動プーリを掛け回されて、場合によりアイドラプーリと一緒になって、ベルトドライブを形成する。同様に、
図4に示されたホースは一般に、多くの端部継手、クランプ、又は連結具のいずれかと共に又はホースシステムにおいて用いられる。
【0066】
タイヤ中のコードの使用はよく知られている。本発明のコードは有利なことに、タイヤ及び他のゴム製品並びにホース及びベルトを強化するのに用いられることができる。ベルトとして、動力伝達ベルト、例えば、歯付き同期ベルト、Vベルト、平ベルト、マルチVリブドベルトなど、コンベヤベルト、移送又は搬送ベルトなどを挙げることができる。ホースとして、水圧ホース、移送ホースなどを挙げることができる。
【0067】
2つのベルト例を上記コード例の幾つかを用いて構成した。ベルトはHNBR(水素化ニトリル−ブタジエンゴム)本体エラストマー及び歯表面上のナイロン布を用いた
図1に示された歯付きベルトであった。実施例1及び実施例25由来のコードをRFLでコーティングし、次いで通常のオーバーコートセメントでオーバーコート処理し、それでHNBR歯付きベルトに構成した。ベルトを、歯付きベルトに対するコード引抜接着試験に付した。その結果は、APP処理されたコードが引き抜かれたコード上に非処理のコードより多くのゴム付着(rubber coverage)を表すことを示した。ベルトを、歯付きベルトに対する歯部接着試験にも付した。その結果は、APP処理されたコードはコードから歯部がせん断された後に、より多くのゴム付着を表すことを示した。かかる結果は、ベルトの長期間動的試験(すなわち、耐久試験)においても際立つベルトの結合性の改善を示すと考えられる。同様に、処理コードのポリウレタンへの改善された接着性は、本発明による処理コードを用いた注型ポリウレタンベルト材又は熱可塑性ポリウレタンエラストマーベルト材も改善されたベルト性能を表すことを示す。
【0068】
APP処理炭素繊維は、ゴム又はプラスチック組成物の強化用に短い長さに細断されることができる。得られた短繊維は、公知の分散法又は混合法に従ってゴム又はプラスチック組成物中に分散されることができる。適当に選択されたAPP処理は短繊維と選択されたマトリックスとの間の界面接着性を高め、このようにして強化ゴム又はプラスチック組成物の弾性率、強度又は他の性質を高めることができる。APP処理された炭素繊維は、ゴム又はプラスチックマトリックスとの一層の適合性を有するように、例えばRFL又は他の接着剤を用いて、さらに処理されることができる。
【0069】
要約して結論を述べれば、APP:RFL及びポリウレタンによる2つの異なったマトリックスシステムを炭素繊維接着性改善について研究した。
【0070】
RFLでは、第一セットアップを通じて、メッシュを用いないで又は用いて最低の処理速度0.18m/分で、炭素繊維表面上に堆積され及び先駆物質として用いられたアクリル酸が最も有望なIFSS(43.6及び41.5MPa)を有する。通常、最大のIFSS改善はマトリックスせん断降伏強度によって限定されたが、この研究においてはRFLについて約25MPaである。換言すれば、IFSSの86%改善で、接着特性は既にRFLの限界に到達していることができる。ケリー−タイソンモデルによれば、IFSSの値はマトリックスせん断降伏強度に近づくはずであるが、ここでは繊維フラグメンテーションデータを解釈するこのモデルの妥当性についての疑念と異なるメカニズムによってそうならないことがある。従って、摩擦の極限とマトリックス降伏との間の接着性だけがフラグメンテーション試験によって決定されることができる。そして測定されたIFSS値はこの炭素繊維/エラストマー複合系における繊維とマトリックスとの間の負荷伝達能の限度を表す。
【0071】
先駆物質としてANを用いるのに比べて、アクリル酸のプラズマ重合は炭素繊維とRFLとの間のIFSSにはるかに大きい改善をもたらすことができる。APPにステンレス鋼メッシュを用いると、メッシュを用いない場合よりはるかに多くのカルボン酸を保存した。しかしながら、メッシュを用いた場合又は用いない場合に、それら2つの形成されたプラズマポリマーの表面化学は全く異なっていたが、いずれもRFLへの良好な接着を与えており、このことはアクリル酸と共に形成された炭化水素ポリマーが両方とも炭素繊維とRFLとの間のIFSSを高めることができるということを意味する。アクリル酸のAPPの処理速度を増加させると、メッシュを用いて最低の処理速度で処理された繊維よりよりもなお多くのカルボン酸がプラズマポリマー中に保持される結果となった。しかしながら、それは後者ほど良好な接着性を与えなかったが、界面における負荷伝達に影響を与える形成されたプラズマポリマーの不充分な機械的特性によるものであろう。従って、RFLへの接着性を最適化するには、最低の処理速度で実施するメッシュを用いた又は用いないアクリル酸のプラズマ重合が好ましい実施条件であることができる。
【0072】
サイズ剤非処理の炭素繊維のほかに、本発明者らは第二のセットアップを通じてANを用いてサイズ剤処理炭素繊維T700GC−31Eも処理した。しかしながら、それはRFLへの接着性の改善を示さない。このことは、サイズ剤が第二のセットアップにおけるAPP処理に負の効果を有していることを意味する。
【0073】
ポリウレタンマトリックスでは、AN及びアクリル酸を用いて両方のセットアップを用いた。単繊維引抜試験によってIFSSを測定した。サイズ剤非処理T700GC−91(A型炭素繊維)では、ANのAPPは接着性を98%増加させ、そしてアクリル酸のAPPは114%までのなお一層の改善を与えた。サイズ剤処理T700GC−31Eに対するANのAPPは11%の微かな増加を示したが、それはRFL結合系と同様である。
【0074】
サイズ剤処理東邦(Toho)炭素繊維(B型)に関して、AN及びアクリル酸の両方を用いたAPP処理を実施した。それらは、AN及びアクリル酸を用いたAPP処理後にPUマトリックスにおいて、それぞれ、28%及び43%のIFSSの増加を示す。このことは、第一のセットアップがサイズ剤処理炭素繊維の処理により適していることを意味する。ANを用いてAPP処理された東邦(Toho)がT700GC−31Eより良好な接着性を有していた理由は、活性プラズマ領域中で先駆物質のフラグメントと反応してプラズマポリマーへのより良好な結合を形成することができる、そのより多量の非硬化エポキシサイズ剤によるものであろう。従って、種々のサイズ剤系はAPP処理に種々の影響を与えることもできる。
【0075】
本発明及びその利点を詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲から逸脱することなしにここで種々の変化、置換、及び変更が行われ得ることを理解されたい。さらに、本発明の範囲は本明細書に記載されたプロセス、機械、製造物、組成物、手段、及び工程の特定の実施形態に限定されることを意図するものではない。当業者であれば本発明の開示から容易に理解されるように、現存の又は本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たし若しくは実質的に同じ結果を達成するところの今後に開発されるべきプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、又は工程は本発明に従って用いられることができる。従って、特許請求の範囲はその範囲内にかかるプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法、又は工程を包含することが意図されている。本明細書中に開示された本発明は、本明細書に具体的には開示されていない任意の要素なしに適当に実施されることができる。
【国際調査報告】