特表2015-528874(P2015-528874A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2015-528874ターボ機械の性能を監視することによりターボ機械の劣化を検出する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-528874(P2015-528874A)
(43)【公表日】2015年10月1日
(54)【発明の名称】ターボ機械の性能を監視することによりターボ機械の劣化を検出する方法
(51)【国際特許分類】
   F02C 7/00 20060101AFI20150904BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20150904BHJP
   G01M 15/14 20060101ALN20150904BHJP
【FI】
   F02C7/00 A
   F02C7/00 F
   F01D25/00 V
   F01D25/00 W
   G01M15/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-521041(P2015-521041)
(86)(22)【出願日】2013年7月3日
(85)【翻訳文提出日】2015年1月21日
(86)【国際出願番号】FR2013051573
(87)【国際公開番号】WO2014009634
(87)【国際公開日】20140116
(31)【優先権主張番号】1256640
(32)【優先日】2012年7月10日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】505277691
【氏名又は名称】スネクマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピオール,オリビエ
(72)【発明者】
【氏名】ブリシュレ,ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】オリビエ,アモリー
【テーマコード(参考)】
2G087
【Fターム(参考)】
2G087AA04
2G087EE23
(57)【要約】
複数の機能モジュールを備えるタービンエンジンの性能を監視することにより前記タービンの性能低下を検出する方法であって、タービンエンジンの複数の物理的パラメータは、タービンエンジンの現在性能指標を形成するために測定され、タービンエンジンの複数の低下した性能指標は、低下した性能指標の各々に対して、タービンエンジンの1つの機能モジュールだけが性能低下したと仮定して計算され、現在性能指標と低下した性能指標との間の差に対応する複数のコスト指標が計算され、あらゆる低下した性能指標の中で最低値を持つ低下した性能指標に対応する最適コスト指標が決定され、低下した性能指標が最適コスト指標に関連付けられたタービンエンジンのモジュールの性能低下が検出される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンエンジンが複数の機能モジュール(M1〜M5)を備え、各機能モジュール(M1〜M5)がタービンエンジン(1)の機能モジュール(M1〜M5)の性能低下を表現する少なくとも1個の健全性パラメータ(ΔSE1〜ΔSE5,ΔSW1〜ΔSW5)によって特徴付けられ、タービンエンジン(1)のグローバル経年変化が経年変化パラメータ(λ)によって特徴付けられ、コンピュータを用いて、前記タービンエンジン(1)の性能を監視することにより、タービンエンジン(1)の性能低下を検出する方法であって、
−タービンエンジン(1)の複数の物理的パラメータは、タービンエンジン(1)の現在性能指標(YCOUR)を形成するために測定され、
−タービンエンジン(1)の複数の低下した性能指標(YDEG1〜YDEG5)は、機能モジュール(M1〜M5)に関連付けられた低下した性能指標(YDEG1〜YDEG5)の各々に対して、タービンエンジン(1)の1つの機能モジュール(M)だけが性能低下したと仮定して、ターボエンジンの熱力学モデルを用いて計算され、
−タービンエンジン(1)のあらゆる機能モジュール(M1〜M5)の間で単一の性能低下機能モジュール(M)に対応する低下した性能指標(YDEG)の各々は、性能低下機能モジュール(M)の健全性パラメータ(ΔSE,ΔSW)および経年変化パラメータ(λ)が変数であり、その他の非性能低下機能モジュールの健全性パラメータが健全な健全性パラメータであると考えられるタービンエンジン(1)の性能指標をシミュレートすることにより取得され、
−低下した性能指標(YDEG1〜YDEG5)の各々がこれのコスト指標(J1〜J5)に関連付けられ、各コスト指標(J)が現在性能指標(YCOUR)と低下した性能指標(YDEG1〜YDEG5)との間の差に対応する複数のコスト指標(J)が、差が最小限であるように低下した性能指標(YDEG1〜YDEG5)の変数(ΔSE,ΔSW,λ)を変化させて計算され、
−あらゆるコスト指標(J1〜J5)の中で最低値を持つコスト指標に対応する最適コスト指標(Jopt)が決定され、
−低下した性能指標が最適コスト指標(Jopt)に関連付けられたタービンエンジンのモジュールの性能低下が検出される、
方法。
【請求項2】
各機能モジュール(M1〜M5)が少なくとも2個の健全性パラメータ(ΔSE1〜ΔSE5,ΔSW1〜ΔSW5)よって特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各機能モジュール(M1〜M5)が、
−効率性能低下標識(ΔSE1〜ΔSE5)と、
−通気性/流量能力低下標識(ΔSW1〜ΔSW5)と、
によって特徴付けられる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
機能モジュール(M1〜M5)が、以下の機能モジュール:ファンモジュール(M1)、高圧コンプレッサモジュール(M2)、ブースターモジュール(M3)、高圧タービンモジュール(M4)、および低圧タービンモジュール(M5)に属する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
−最適コスト指標(Jopt)が、所定の値を持つコスト閾値(Jmax)と比較され、
−性能低下の検出は、最適コスト指標(Jopt)がコスト閾値(Jmax)に満たない場合に妨げられる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
−最適コスト指標(Jopt)の他にあらゆるコスト指標(J1〜J5)の中で最低値を持つコスト指標に対応する候補コスト指標(Jcand)が決定され、
−候補コスト指標(Jcand)と最適コスト指標(Jopt)との間の差が所定のガード閾値(S)と比較され、
−候補コスト指標(Jcand)に関連付けられた低下した性能指標を持つタービンエンジンのモジュールの性能低下は、差が所定のガード閾値(S)に満たない場合に検出される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
低下した性能指標(YDEG1〜YDEG5)の変数(ΔSEi,ΔSWi,λ)の値が、事前に行われた性能低下検出に従って決定された境界の変動範囲にわたってそれぞれ変化する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
機能モジュール(M1〜M5)の各健全性パラメータ(ΔSE1〜ΔSE5,ΔSW1〜ΔSW5)が、経年変化パラメータ(λ)に依存する経年変化成分(FSE(λ),FSW(λ))に関連付けられ、低下した性能指標(YDEG)の各々は、あらゆるモジュール(M1〜M5)の経年変化成分(FSE(λ),FSW(λ))に依存する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
タービンエンジンの現在シグネチャがシグネチャのライブラリと比較され、妥当な場合、タービンエンジンの異常性または異常性群が数学関数を用いて決定される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボエンジンの分野、詳しくは、航空機ターボエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボエンジンは、従来では、コンプレッサ、燃焼室、およびタービンのような複数のモジュールを備える。ターボエンジンの動作中に、これらのモジュールは、性能低下するものであり、従って、ターボジェットエンジンの1つ以上のモジュールの性能に影響を与える。性能低下が大きい場合、ターボジェットエンジンおよび航空機は、用語「インフライトシャットダウン」(IFSD)によって当業者に知られ、保守作業のための予定外のターボジェットエンジンの解体をもたらす飛行中の故障に陥りやすいことがある。これらの性能低下は、概して、汚損、腐食、酸化、浸食、摩耗または異物の吸込みなどの現象に関連する。
【0003】
大きい性能低下の出現を防止するために、ターボジェットエンジンを監視する作業が規則的な時間間隔で予定される。従って、ターボジェットエンジンのモジュールのうちの1つが不良である、または、将来の故障のサインである兆候を有することを検出することが可能である。このような検出方法は、同一機種内のターボジェットエンジン上の摩耗が可変であり、かつ、規則的な時間間隔での監視が十分ではないので、満足できない。監視の頻度が非常に低い場合、インフライト故障(IFSD)の危険性が増大させられる。これに反して、監視の頻度が非常に高い場合、監視ステップは、エンジンが完全に健全である間に実行されることがあり、時間を無駄にする結果となる。
【0004】
この欠点を除去するため、ターボジェットエンジンの異常な性能低下の出現の早期検出を行うためにターボジェットエンジンの個別の性能を断続的に、すなわち、航空機の飛行サイクル毎に監視することが提案されている。
【0005】
従来技術において、同じ機種に属するターボジェットエンジンの寿命の間に識別された既知の性能低下シグネチャのデータベースが使用される、ターボジェットエンジンの性能低下を検出する方法が公知である。シグネチャを形成するために、ターボエンジンの物理的パラメータ、たとえば、燃料流量、ターボジェットエンジンの速度、エンジンの出力温度が測定される。実際には、タービンエンジンによって測定されたパラメータ(燃料流量、高圧本体の運転速度、および、排気ガスの温度に対応する温度)は少数であり、タービンエンジンの様々なモジュールの監視を行う。その結果、ターボジェットエンジンの性能レベルの異常な性能低下を引き起こすモジュールまたはモジュール群を正確に対象とすることが難しい。
【0006】
SNECMA社による出願FR1151348は、多数の性能低下シグネチャを得るために前記タービンエンジンの熱力学サイクルの理論モデルを使用する方法を開示する。実際には、モデルの入力の個数が限定されている場合、最終的には、いくつかの異なった熱力学構成になることが可能である。解決されるべき問題の過小決定は、最適な方法でタービンエンジンのモジュールの状態を検出することを可能にすることがない。
【0007】
その上、従来技術による検出方法は、タービンエンジンの経年変化を考慮しない。その結果として、検出方法は、タービンエンジンが経年変化したに過ぎないときに、タービンエンジンのモジュールのうちの1つに異常な性能低下が存在している、と結論付けることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】仏国特許出願公開第1151348号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
タービンエンジンの名目的な経年変化に関連する劣化と、要素の異常な性能低下に関連する劣化とを区別する性能低下を検出する方法の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本目的のため、発明は、コンピュータを用いて、タービンエンジンの性能を監視することにより、前記タービンエンジンの性能低下を検出する方法に関係し、タービンエンジンが複数の機能モジュールを備え、各機能モジュールは、タービンエンジンの機能モジュールの性能低下を表現する少なくとも1個の健全性パラメータによって特徴付けられ、タービンエンジンのグローバル経年変化は、経年変化パラメータによって特徴付けられ、この方法では、
−タービンエンジンの複数の物理的パラメータは、タービンエンジンの現在性能指標を形成するために測定され、
−タービンエンジンの複数の低下した性能指標は、機能モジュールに関連付けられた低下した性能指標の各々に対して、タービンエンジンの1つの機能モジュールだけが性能低下したと仮定して、ターボエンジンの熱力学モデルを用いて計算され、
−タービンエンジンのあらゆる機能モジュールの間で単一の性能低下機能モジュールに対応する低下した性能指標の各々は、性能低下機能モジュールの健全性パラメータおよび経年変化パラメータが変数であり、その他の非性能低下機能モジュールの健全性パラメータが健全な健全性パラメータであると考えられるタービンエンジンの性能指標をシミュレートすることにより取得され、
−低下した性能指標の各々がこれのコスト指標に関連付けられ、各コスト指標が現在性能指標と低下した性能指標との間の差に対応する複数のコスト指標が、差が最小限であるように低下した性能指標の変数を変化させて計算され、
−あらゆるコスト指標の中で最低値を持つコスト指標に対応する最適コスト指標が決定され、
−低下した性能指標が最適コスト指標に関連付けられたタービンエンジンのモジュールの性能低下が検出される。
【0011】
発明による方法は、タービンエンジンの経年変化を考慮するので有利であり、それによって、タービンエンジンの経年変化に関連した性能の損失を異常な性能低下から区別することを可能にするので有利である。変数の個数は、1つのモジュールだけが破損されていると仮定することにより制限されるので、性能低下の決定が迅速かつ確実に行われる。解決されるべき問題は、従来技術の場合と同様にもはや過小決定されることがない。コスト指標の使用は、タービンエンジンの性能低下に関して行われた仮定を迅速かつ確実に有効にすることを可能にする。
【0012】
好ましくは、各機能モジュールは、少なくとも2個の健全性パラメータによって特徴付けられる。好ましくは、各機能モジュールは、効率性能低下標識と通気性/流量能力低下標識とによって特徴付けられる。効率および通気性/流量能力標識は、タービンエンジンのモジュール、特に、モジュールの性能低下のタイプを正確に特徴付けることを可能にする。性能低下モジュールが検出された後、性能低下の性質を決定するために最適化された健全性パラメータを分析することが可能であり、このことは、対象にされた保守を実行することを可能にする。
【0013】
より好ましくは、機能モジュールは、以下の機能モジュール:ファンモジュール、高圧コンプレッサモジュール、ブースターモジュール、高圧タービンモジュール、および低圧タービンモジュールに属する。このようなモジュールは、同時に異常な性能低下を呈することが滅多になく、このことは、低下した性能指標の性能低下仮定を有効にすることを可能にさせる。
【0014】
発明の一態様によれば、最適コスト指標は、所定の値を持つコスト閾値と比較され、性能低下の検出は、最適コスト指標がコスト閾値に満たない場合に妨げられる。誤検出の危険性は、検出の感度を調節することにより制限されるので有利である。コスト指標が低い程、性能低下の可能性が高い。
【0015】
好ましくは、最適コスト指標の他にあらゆるコスト指標の中で最低値を持つコスト指標に対応する候補コスト指標が決定され、候補コスト指標と最適コスト指標との間の差が所定のガード閾値と比較され、候補コスト指標に関連付けられた低下した性能指標を持つタービンエンジンのモジュールの性能低下は、差が所定のガード閾値に満たない場合に検出される。決定力の不足の場合、この方法は、性能低下を引き起こす可能性が最も高い2つのモジュールを決定し、それによって、検出レートを増加するので有利である。
【0016】
より好ましくは、低下した性能指標の変数の値は、事前に行われた性能低下検出に従って決定された境界の変動範囲にわたってそれぞれ変化する。このように、あり得そうにないパラメータの組み合わせは、試験されることがなく、このことは、計算時間を制限し、この方法の信頼性を改善することを可能にする。
【0017】
さらに好ましくは、機能モジュールの各健全性パラメータは、経年変化パラメータに依存する経年変化成分に関連付けられ、低下した性能指標の各々は、あらゆるモジュールの経年変化成分に依存する。このように、単一のモジュールがタービンエンジン内で故障と仮定されるが、それにもかかわらず、各モジュールの経年変化が考慮され、それによって、決定の信頼性を改善するためにより関連性のあるコスト指標を取得することを可能にする。
【0018】
有利な点として、タービンエンジンの現在シグネチャがシグネチャのライブラリまたはデータベースと比較され、妥当な場合、タービンエンジンの異常性または異常性群は、数学関数を用いて決定される。ライブラリは、より詳細に後述されるように、経験のフィードバックが通知され続けるべきである。このことは、同じ集団内のタービンエンジンの寿命の間に生じる新しいシナリオをライブラリに通知することが可能である。
【0019】
発明は、単に実施例として、かつ、添付図面に関連して与えられた以下の説明を読むと、より良く理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ターボジェットエンジンのモジュール、および、飛行中にターボジェットエンジンの現在性能指標を計算するためにターボジェットエンジンの物理的パラメータを測定するステップの概略図である。
図2】モジュールM2、M3およびM4の性能低下の特性であるコスト指標J2、J3、J4および|J4−J2|の監視を表す図である。
図3】発明による検出方法の概略図である。
図4】タービンエンジンの現在シグネチャを表すグラフである。
図5】タービンエンジンシグネチャのライブラリのグラフを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明は、航空機のターボジェットエンジンについて説明されるが、発明は、発電用タービンエンジンのようなどんなタイプのタービンエンジンでも適用できる。
【0022】
図1を参照すると、航空機用のターボジェットエンジン1は、従来では、ファンモジュールM1、高圧コンプレッサモジュールM2、ブースターモジュールM3、高圧タービンモジュールM4および低圧タービンモジュールM5のような複数のモジュールMを備える。以下、ターボジェットエンジン1は、上述の5個のモジュールM1〜M5だけを備える、と仮定されるが、言うまでもなく、発明は、6個以上のモジュールを備えるターボジェットエンジン1に適用できる。
【0023】
ターボジェットエンジンの性能指標
ターボジェットエンジンの寿命の間にターボジェットエンジンの性能を監視することを可能にするために、性能指標Yが定義される。
【0024】
この性能指標Yは、従来では、ターボジェットエンジンの飛行の間にターボジェットエンジン1の物理的パラメータの少数の測定から計算によって取得される。一例として、ターボジェットエンジンは、温度、圧力、燃料流量、および回転速度のような物理的パラメータを測定するためにターボジェットエンジン1内に配置された複数のセンサCを備える。
【0025】
性能指標Yは、
−ターボジェットエンジン1のグローバルパラメータ(飛行条件、運転値)と、
−ターボジェットエンジン1のモジュールM1〜M5に特有である健全性パラメータと、
に基づくターボジェットエンジンの熱力学モデルを用いて解析的に取得されることもある。
【0026】
好ましくは、ターボジェットエンジン1の熱力学モデルは、エンジンブローシャの形式をしている。「性能デッキ」または「エンジンサイクルデッキ」としてよく知られたブローシャは、ターボジェットエンジンの完全な熱力学サイクルを定義し、ターボジェットエンジンの各コンポーネントを正確に定義する。当業者によく知られたこのブローシャは、プロトタイプが構築される前のターボジェットエンジンの設計中にエンジン製造業者がターボジェットエンジン1を試験することを可能にさせる。ブローシャは、同じ機種かつ同じタイプの各ターボジェットエンジンに特有である。ブローシャは、従来では、SAE航空宇宙規格ARP755AおよびAS681Gに準拠して原案が作られる。
【0027】
本実施例では、各モジュールMは、2個の健全性パラメータ:
−効率性能低下標識SEと、
−通気性/流量能力低下標識SWと、
を有する。
【0028】
グローバルパラメータとは異なり、モジュールMの健全性パラメータは、決定される可能性がない。言うまでもなく、モジュールMは、単一の健全性パラメータまたは3個以上の健全性パラメータを備えることがある。
【0029】
本実施例では、ターボジェットエンジン1の性能指標Yは、以下の表に載せられた10個の健全性パラメータ(モジュール1個当たりに2個)に依存する。
【0030】
【表1】
【0031】
このような性能指標Yの定義は、ターボジェットエンジン1の経年変化を考慮しない。ターボジェットエンジン1の寿命の間に、ターボジェットエンジンの性能は、低下し、それによって、グローバルレベルで、ターボジェットエンジンの性能指標Yに経時的に変化をもたらし、モジュールレベルで、健全性パラメータSE、SWの経時的な変化をもたらす。
【0032】
この目的のため、健全性パラメータSE、SWは、経年変化成分FSE(λ)、FSW(λ)と異常性成分ΔSE、ΔSWとに分解される。
【0033】
換言すると、ターボジェットエンジン1の各機能モジュールMに対して、健全性パラメータSE、SWは、以下のとおり、
SE=FSE(λ)+ΔSE
SW=FSW(λ)+ΔSW
と定義される。経年変化成分FSE(λ)、FSW(λ)は、ターボジェットエンジン1に対してグローバルに定義されたグローバル経年変化レベルλに依存する。経年変化関数FSEおよびFSWは、それ自体として既知である、または、経年変化モデルを用いて決定される可能性がある。これらの経年変化モデルは、エンジン試験から取得された性能低下行列と、動作中のエンジンの使用に関する経験のフィードバックとから確立される。性能低下行列は、新たな条件と劣化条件との間のターボジェットエンジンのモジュールの性能の変化を表現する。動作中のエンジンからのフィードバックは、モジュールの性能の変化を再調節することを可能にする。
【0034】
その結果として、ターボジェットエンジン1の機能モジュールMに対して、パラメータΔSE、ΔSWおよびλは、未知である。λは、ターボジェットエンジン1のグローバルパラメータであるので、ターボジェットエンジン1の性能指標Yは、以下の11個の健全性パラメータに依存する。
【0035】
【表2】
【0036】
図1に関連して、ターボジェットエンジン1に配置されたあらゆるセンサCを用いて、ターボジェットエンジンの寿命の間にターボジェットエンジン1の現在性能指標YCOURをグローバルに測定することが可能である。残念ながら、性能の損失が検出された場合、これの原因(経年、性能低下など)を見分けることが可能ではない。現在性能指標YCOURは、11個の健全性パラメータに依存し、計器の不足を考慮すると、性能の損失への各パラメータの寄与を決定する解析的解法は、可能ではない。
【0037】
ターボジェットエンジンのモジュールの性能の解析
性能を解析することにより性能低下を検出する方法は、好ましくは、地上で、保守システム内のコンピュータによって実施される。ある種のデータは、飛行中に捕捉され、地上の保守システムに送信される前に機載コンピュータに記憶される。
【0038】
発明によれば、ターボジェットエンジン1の現在性能指標YCOURは、最初に、図1に表されるように複数の物理的パラメータ、たとえば、温度、圧力、燃料流量および回転速度を測定することにより計算される。これらの物理的パラメータは、動作条件の変動性の影響を除去し、それ故に、物理的パラメータの経時的な変化と一貫性のある比較を行えるように事前に標準化される
【0039】
図2に関連して、ターボジェットエンジン1の性能低下指標YDEG1〜YDEG5は、その後、上記定義されたように、グローバルパラメータと、ターボエンジン1の機能モジュールM1〜M5に特有であり、かつ、未知である健全性パラメータ(ΔSE1〜ΔSE5、ΔSW1〜ΔSW5、λ)とに依存するターボジェットエンジン1の熱力学モデルMthを用いて計算される。
【0040】
所定の機能モジュールM1〜M5に関連付けられた低下した性能指標の各々YDEG1〜YDEG5は、ターボジェットエンジン1の1個の機能モジュールMだけが性能低下したという仮定に基づいて計算される。一例として、性能低下指標YDEG1は、ターボジェットエンジン1のモジュールM1だけが性能低下したという仮定に基づいて計算される。その結果として、以下の健全性パラメータΔSE2〜ΔSE5およびΔSW2〜ΔSW5は、モジュールM2〜M5が健全であるので、すなわち、性能低下していないので、無効である。このようにして、図2に関連して、低下した性能指標YDEG1は、3個の未知パラメータΔSE1、ΔSW1およびλだけに依存する。
【0041】
同じ論法があらゆる低下した性能指標YDEG1〜YDEG5のため適用されると、低下した性能指標の各々YDEGiは、変数(ΔSEi,ΔSWi,λ)に依存し、以下の指標:
−YDEG1(ΔSE1,ΔSW1,λ)
−YDEG2(ΔSE2,ΔSW2,λ)
−YDEG3(ΔSE3,ΔSW3,λ)
−YDEG4(ΔSE4,ΔSW4,λ)、および
−YDEG5(ΔSE5,ΔSW5,λ)
が取得される。
【0042】
低下した性能指標の各々YDEG1〜YDEG5は、ターボジェットエンジン1の単一の所定のモジュールの破損の特性を示す。
【0043】
有利には、低下した性能指標の各々YDEG1〜YDEG5は、モジュールM1〜M5の各々のターボジェットエンジン1の経年変化を考慮する。このようにして、低下した性能指標YDEG1に対して、モジュールM2〜M5の健全性パラメータは、経年変化成分FSE(λ)、FSW(λ)を考慮する。
【0044】
コスト指標
発明によれば、低下した性能指標の各々YDEG1は、現在性能指標YCOURと比較される。低下した性能指標YDEGiは、変数(ΔSEi,ΔSWi,λ)に依存するので、この比較は、パラメトリックである。本実施例では、低下した性能指標YDEGiのパラメータは、性能指数YDEGi、YCOURの間の差を制限するために最適化される。
【0045】
以下、低下した性能指標YDEG1と現在性能指標YCOURとの間の最小限の差は、コスト指標Jと呼ばれる。この最小限の差は、図2に表されるように、低下した性能指標YDEGiに対する最適化されたパラメータの組み合わせΔSEi,ΔSWi,λに対して取得される。
【0046】
最適化されたパラメータの組み合わせΔSEi,ΔSWi,λに対して取得されたこのコスト指標Jは、モジュールMが性能低下した唯一のモジュールであると仮定されるとき、現在性能指標YCOURにできる限り接近することを可能にする。このようにして、コスト指標Jが低い程、ターボジェットエンジン1のモジュールMiの性能低下の可能性が高い。
【0047】
各コスト指標Jの最小値を計算するために、パラメータΔSEi、ΔSWiおよびλが変化させられる。好ましくは、パラメータ(ΔSEi,ΔSWi,λ)の変化は、制約下に置かれる。本実施例では、パラメータ(ΔSEi,ΔSWi,λ)は、ターボエンジン1に以前に出現した性能低下の検出に従って決定された境界の変動範囲にわたって変化する。このようにして、ターボジェットエンジン1は、飛行と飛行との間で「回復」する可能性がない(λは、必然的に増加する)。同様に、モジュールMiの効率は、経時的に改善する可能性がない(ΔSEiは、必然的に増加する)。各コスト指標Jは、3個の未知パラメータΔSEi,ΔSWi,λ)だけに依存するので、一意のデジタル最適化を達成することは、簡単である。パラメータの個数が多い程、考え得る解法の個数が多く、このことは、信頼できる意思決定を妨げる。
【0048】
一例として、モジュールMに対するコスト指標Jは、以下の式:
【0049】
【数1】
から計算される。式中、
−Yk,jは、N個のモジュールを備えるターボジェットエンジンのモジュールkのコンポーネントに対して観測されたモジュールiの性能低下の低下した性能指標に対応する。
−Yk,COURは、ターボジェットエンジンのモジュールkのコンポーネントに対する現在性能標識に対応する。
−σは、様々な性能指標に関する測定不確実性に対応する。
【0050】
言うまでもなく、ターボジェットエンジンのモジュールの健全性の状態に関して行われた仮定の尤度を測定するその他のコスト関数が使用されることがあり得る。
【0051】
最小二乗による近似中に、最適化された経年変化パラメータλの値が各コスト指標Jに対して決定される。モジュールM1〜M5の健全性パラメータSE、SWは、λの関数として経年変化成分FSE(λ)、FSW(λ)にも依存するので、結果は、コスト指標Jが所定の性能低下モジュールMiに対して計算されたとき、各健全性モジュールYk,iの性能指標が同様に修正されるということである。換言すると、モジュールMiが健全であると考えられる場合でも、低下した性能指標を計算するためにこれらの経年変化が考慮される。
【0052】
モジュールの性能低下を決定する
図2に関連して、あらゆる組み合わせが試験されると、1つずつが最適化されたパラメータの組(ΔSEi,ΔSWi,λ)に関連付けられた複数のコスト指標Jが取得される。本実施例では、5個のコスト指標J〜Jが取得され、各コスト指標は、ターボジェットエンジン1のモジュールMiの性能低下に関する仮定の尤度を表現する。
【0053】
従って、コスト指標Jが低い程、モジュールMiが性能低下モジュールである確率が高い。
【0054】
発明によれば、図2に関連して、性能低下は、最適コスト指標Joptと称される最低値を持つコスト指標を選択することにより検出される。これは、現在性能指標YCOURに最も接近し、観測された性能低下に対応する最大の可能性を有する。
【0055】
誤検出の危険性を制限するために、性能低下決定を統合するステップが実施される。
【0056】
図3に表されるように、3個のコスト指標J〜Jの変化は、時間の関数であるターボジェットエンジン1の性能低下のレベルに従って監視される。
【0057】
誤検出の危険性を制限するために、発明の第1の実施形態では、コスト閾値Jmaxより低いコスト指標Jだけが選択のため考慮される。好ましくは、コスト閾値Jmaxは、所望の感度に従ってここでは経験的に定義されたパラメータ化可能な閾値である。コスト指標Jが高い程、性能低下の可能性が低い。図3に関連して、コスト指標J2、J3およびJ4は、t〜tにわたってコスト閾値Jmaxより低い。あらゆるコスト指標J2、J3およびJ4は、その結果、最適コスト指標Joptを検出するために選択される可能性がある。これに反して、コスト指標J3は、t〜tにわたってコスト閾値Jmaxより高く、それによって、選択肢をコスト指標J2およびJ4だけに限定する。考慮されるコスト指標の個数を制限することにより、最適コスト指標Joptの選択が加速されるので有利である。
【0058】
発明の第2の実施形態では、最適コスト指標Joptの値と、最適コスト指標Joptを除くあらゆるコスト指標J1〜J5の中で最低値を持つコスト指標に対応する候補コスト指標Jcandの値とが比較される。本実施例では、最適コスト指標Joptは、J4であり、候補コスト指標Jcandは、J2である。候補コスト指標Jcandと最適コスト指標Joptとの間の差は、所定の値Sを持つガード閾値と比較され、この差がガード閾値S未満である場合、最良の2個の指標が返される。区別は、観測された性能低下の原因であるモジュールを確かに決定するために十分に信頼性が高くはない、と考えられる。誤検出の危険性は、このようにして制限される。
【0059】
図3に関連して、差|J4−J2|が表され、ガード閾値Sと比較される。範囲t〜tにわたって、差|J4−J2|は、ガード閾値Sより下であり、2個の解M2およびM4が返される。図3に表されるように、値J2およびJ4は、範囲t〜tにわたって互いに非常に接近し、観測された性能低下の正確な原因に関する決定を行うことが困難である。時刻tから、差|J2−J4|は、ガード閾値Sを超え、信頼できる決定がモジュールM4の性能低下を明らかにするために行われる可能性がある。
【0060】
1個または2個の破損されたモジュールについての決定を行うとき、保守作業は、ターボジェットエンジン1の重大な性能低下が起こる前に、局部的方式で、これらのモジュールに実行される可能性がある。この方法は、保守作業を影響されたモジュールだけに制限することを可能にさせ、それによって、節約を達成し、保守時間を制限することを可能にする。さらに、修理が早い時期に実行され、このことは、航空会社が運用航空機を連続的に利用可能にさせることを可能にする。
【0061】
図4および図5は、タービンエンジンの現在シグネチャがシグネチャのライブラリと比較され、適用できる場合、タービンエンジンの1つ以上の異常性が数学関数を用いて決定される発明による方法の有利なステップを表す。図4は、タービンエンジンの現在シグネチャの実施例を表す。このシグネチャは、タービンエンジンの物理的パラメータまたは標識を測定することにより取得される。図5は、シグネチャのライブラリの実施例を表し、第1のグラフは、モジュールM3の効率の性能低下がタービンエンジンに影響を与えるときに取得されたシグネチャであり、第2のグラフは、モジュールM4の効率の性能低下が起こったときに取得されたシグネチャである。適当な数学的分類関数は、シグネチャ(標識の組み合わせ)のライブラリを使用し、タービンエンジンの現在シグネチャを使用して、タービンエンジン内の少なくとも1つの異常性を示すことを可能にさせる。シグネチャは、共直線性(標識の変動の形/方向)および振幅に関して比較される。これらの要素の組み合わせは、確率を与える。シグネチャのライブラリは、ターボエンジンの集団の経験(動作中に遭遇したイベント)のフィードバックを使って示されるべきである。表された実施例では、図4におけるシグネチャは、図5におけるシグネチャと比較され、関数は、モジュールM4に対する52%と比較してモジュールM3に対して97%の確率を与える。これは、タービンエンジンがこのタービンエンジンのモジュールM4がこのモジュールの効率の低下を呈することを示すシグネチャを有することを意味する。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】