(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
本発明は、細胞含有生物学的試料中の細胞外核酸集団を安定化させるための、および含有される細胞のトランスクリプトームを安定化させるための方法、組成物、およびデバイスを提供する。本明細書で記載される安定化技術はまた、所望の場合、細胞外核酸集団および細胞内核酸集団の個別の解析も可能とする。さらに、本明細書で記載される安定化は、安定化試料中に含有される細胞、例えば、細胞形態および/または細胞表面特徴を解析することを可能とする。
血液試料を、N,N−ジアルキルプロパンアミドおよび抗凝血剤と接触させるステップを含み、含有される細胞内の転写レベルを安定化させる、前記血液試料を安定化させるための、請求項1から3の一項または複数項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、方法、組成物、およびデバイスを対象とし、したがって、細胞含有生物学的試料中に含まれる細胞外核酸集団および/または含有される細胞の遺伝子転写プロファイルを安定化させるのに適する技術を対象とする。本明細書で開示される安定化技術は、例えば、細胞外核酸集団が、細胞内核酸、特に、断片化されたゲノムDNAであって、試料中に含有される損傷した細胞および/または死滅しつつある細胞に由来する細胞内核酸、例えば、これらから放出される細胞内核酸と夾雑する危険性を低減する。さらに、本明細書で開示される安定化技術は、含有される細胞の遺伝子転写プロファイルを実質的に保存し、これにより、遺伝子発現プロファイルの信頼できる解析を可能とする。さらに、本明細書で記載される安定化は、細胞外核酸の細胞内核酸との夾雑およびこの逆を防止し、同じ安定化細胞含有試料由来の細胞外核酸集団および細胞内核酸の個別の解析を可能とする。したがって、本発明は、含有される細胞の溶解を伴わずに、試料の安定化を達成し、これにより、その中に含まれる細胞外核酸集団の安定化を達成する。どちらかといえば、試料中に含有される細胞を安定化させ、これにより、細胞内核酸の放出を実質的に防止または低減する。さらに、例により示される通り、変化を阻害し、したがって、転写レベルの変化を阻害することにより、含有される細胞の遺伝子転写プロファイルを実質的に保存する。さらに、細胞は、安定化試料から回収することもでき、これらは、異なる解析に適する。例えば、所望の場合、含有される細胞の細胞形態および/または細胞表面特徴を解析することができる。さらに、安定化試料は、例えば、腫瘍細胞、例えば、全血液試料中に存在する循環腫瘍細胞など特異的細胞の存在または非存在について解析することができる。本発明の方法および組成物により達成される、核酸の目覚ましい安定化は、試料の品質およびその中に含有される細胞外核酸のそれぞれを危険にさらすことなく、室温で長時間にわたる安定化試料の保存および/または操作を可能とする。本発明の教示を使用することにより、細胞外核酸集団の組成および細胞内トランスクリプトームを安定化させ、したがって、試料が得られた時点において実質的に保存するので、試料の回収と核酸の抽出との間で時間が経過しても、細胞外核酸集団の組成に対する著明な影響を及ぼすことはない。これは、試料の操作/保存における変動がその品質および細胞外核酸集団の組成のそれぞれに及ぼす影響が小さいため、例えば、診断的または予後診断的な細胞外核酸解析の標準化を可能とし、これにより、先行技術の方法を凌ぐ重要な利点をもたらす。したがって、試料および安定化させた試料のそれぞれから得られる細胞外核酸のそれぞれは、より比較可能となる。さらに、含有される細胞の遺伝子転写プロファイルの安定化の達成は、安定化試料の長期にわたる保存の後でなお、信頼できる遺伝子発現解析を可能とする。さらに、本発明の教示は、細胞外核酸の細胞内核酸との夾雑、特に、本発明の教示がなければ、崩壊しつつある細胞から放出される、断片化されたゲノムDNAとの夾雑を回避および低減することのそれぞれのために、試料中に含有される細胞を、試料の無細胞部分から直接分離する必要性を排して有利である。この利点は、試料の操作、特に、全血液試料の操作を大幅に簡略化する。例えば、診療所において得られ、本発明の教示に従って安定化させた全血液試料は、室温で搬送することができ、細胞外核酸を含有する血漿は、受領する臨床検査室において、含有される細胞から簡便に分離することができる。しかし、本発明の教示はまた、細胞を枯渇させた生物学的試料、または一般に、「無細胞」と称する試料、例えば、血漿または血清などの血液を処理する場合にも有利である。それぞれの細胞枯渇生物学的試料または「無細胞」生物学的試料は、依然として(また、使用される分離工程にも応じて)残留細胞、特に、ゲノムDNAを含み、したがって、(潜在的な)残留細胞が、搬送または保存工程において損傷されるかまたは死滅する場合、細胞外核酸集団が細胞内核酸、特に、断片化されたゲノムDNAと一層夾雑する危険性を提起する白血球を含む。本発明により教示される安定化法を使用する場合、この危険性は、大幅に低減される。本発明の技術は、試料の細胞外核酸集団および含有される細胞の遺伝子発現プロファイルを、試料を回収し、安定化剤と接触させた時点において効率的に保存することを可能とするため、細胞外核酸を前記試料から単離する目的で、前記試料を、細胞外核酸集団の細胞内核酸との夾雑を実質的に回避および低減することのそれぞれを行いながら、受領施設において適切に精査することができる。細胞内核酸は、安定化させた細胞から単離することができ、例えば、遺伝子発現プロファイリングのために使用することができる。また、例えば、検査室など、試料を受領する施設は通常、例えば、高速遠心分離機など、例えば、血漿中など、細胞枯渇試料中に存在しうる残留細胞を含む試料中に含まれる細胞を効率的に除去するのに必要な装置(または他の手段;下記もまた参照されたい)も有する。このような装置は、試料が得られる施設内には存在しないことが多い。したがって、本発明は、例えば、全血液試料など、大量の細胞を含む生物学的試料を安定化させる場合に多くの利点を有し、また、少量の細胞だけを含む生物学的試料、または例えば、血漿、血清、尿、唾液、滑液、羊水、涙液、膿漿、リンパ液、体液、脳脊髄液などの細胞を含有することだけが疑われる生物学的試料を安定化させる場合にも重要な利点を有する。
【0031】
第1の態様によれば、試料を、式1
【化2】
による少なくとも1つの化合物と接触させることにより、細胞含有試料、好ましくは、血液試料を安定化させるための方法であって、式中、R1は、水素残基またはアルキル残基であり、R2およびR3は、直鎖状または分枝状に配置された炭素鎖の長さが原子1〜20個である同一のまたは異なる炭化水素残基であり、R4は、酸素、硫黄、またはセレニウム残基であり、式1による前記化合物がN,N−ジアルキルプロパンアミドである方法が提供される。
【0032】
したがって、第1の態様では、試料を少なくとも1つのN,N−ジアルキルプロパンアミドと接触させることにより、細胞含有生物学的試料を安定化させるための方法が提供される。N,N−ジアルキルプロパンアミド(N,N-dialklpropanamide)とは、式1[式中、R1は、C2アルキル残基であり、R2およびR3は、同一のアルキル残基または異なるアルキル残基であり、R4は、酸素である]による化合物である。
【0033】
提示される例により示される通り、このような化合物はとりわけ、細胞含有試料に対する目覚ましい安定化効果を達成するのに有効であり、例えば、安定化試料中の細胞外核酸集団の組成を実質的に保存するのに有効である。これにより、細胞外核酸集団が、細胞内核酸、特に、含有される細胞、例えば、損傷細胞または死滅細胞に由来する断片化されたゲノムDNAと夾雑する危険性を低減し、そして/または試料中に存在する核酸の分解を低減および阻害することのそれぞれを行う。これにより、前記試料中に含まれる細胞外核酸集団の組成を実質的に保存することおよび安定化させることのそれぞれの効果がもたらされる。また、式1による1または複数の化合物の混合物も安定化のために使用することができる。
【0034】
本明細書で使用される「細胞外核酸」または「細胞外核酸」という用語は特に、細胞内に含有されない核酸を指す。それぞれの細胞外核酸はまた、無細胞核酸と称することも多い。本明細書では、これらの用語を、同義語として使用する。したがって、細胞外核酸は通常、試料中の細胞の外側または複数の細胞の外側に存在する。「細胞外核酸」という用語は、例えば、細胞外RNAのほか、細胞外DNAも指す。例えば、血漿などの体液などの生物学的試料の無細胞画分(それぞれの一部)内で見出される典型的な細胞外核酸の例は、例えば、細胞外腫瘍関連DNAおよび/もしくは細胞外腫瘍関連RNAまたは腫瘍に由来するDNAおよび/もしくはRNAなどの哺乳動物細胞外核酸、他の細胞外疾患関連DNAおよび/または細胞外疾患関連RNA、後成的に修飾されたDNA、胎児性DNAおよび/または胎児性RNA、例えば、miRNAおよびsiRNAなどの低分子干渉RNA、ならびに哺乳動物以外の細胞外核酸、例えば、ウイルス核酸、細胞外核酸集団へと放出される病原体核酸であって、例えば、原核生物(例えば、細菌)、ウイルス、真核生物寄生虫、または真菌から放出される病原体核酸などを含むがこれらに限定されない。細胞外核酸集団は通常、損傷細胞または死滅細胞から放出されたある量の細胞内核酸を含む。例えば、血液中に存在する細胞外核酸集団は通常、損傷細胞または死滅細胞から放出された細胞内グロビンmRNAを含む。これは、in vivoにおいて生じる天然の過程である。細胞外核酸集団内に存在するこのような細胞内核酸はなお、後続の核酸検出法における対照の目的にもかないうる。本明細書で記載される安定化法は特に、細胞外核酸集団内に含まれるゲノムDNAなどの細胞内核酸の量が、ex vivoにおける試料の操作に起因して、細胞含有試料を回収した後で著明に増大する危険性を低減する。したがって、ex vivo操作のための細胞外核酸集団の変化を低減し、なお防止することもできる。一実施形態によれば、細胞外核酸は、例えば、血液、血漿、血清、唾液、尿、体液、脳脊髄液、痰、涙液、汗、羊水、またはリンパ液などの細胞含有生物学的試料としての体液から得られる細胞外核酸、および細胞含有生物学的試料としての体液中に含まれる細胞外核酸のそれぞれである。本明細書では、本発明者らは、循環体液から得られる細胞外核酸を、循環細胞外核酸または循環無細胞核酸と称する。一実施形態によれば、「細胞外核酸」という用語は特に、哺乳動物細胞外核酸を指す。例は、腫瘍と関連する細胞外核酸もしくは腫瘍に由来する細胞外核酸、炎症もしくは傷害、特に、外傷に起因して放出される細胞外核酸、他の疾患と関連して放出される細胞外核酸および/もしくは他の疾患に起因して放出される細胞外核酸、または胎児に由来する細胞外核酸など、疾患と関連する細胞外核酸または疾患に由来する細胞外核酸を含むがこれらに限定されない。本明細書で記載される、1または複数の「細胞外核酸」という用語はまた、他の試料、特に、体液以外の生物学的試料から得られる細胞外核酸も指す。通常、複数の細胞外核酸が試料中に含まれている。通常、試料は、複数の種類または型の細胞外核酸を含む。本明細書で使用される「細胞外核酸集団」という用語は特に、細胞含有試料中に含まれる、異なる細胞外核酸の集合を指す。細胞含有試料は通常、特徴的な細胞外核酸集団を含み、したがって、固有の細胞外核酸集団を含む。したがって、具体的な試料の細胞外核酸集団内に含まれる1または複数の細胞外核酸の型、種類および/または量は、重要な試料特徴である。したがって、上記で論じた通り、試料の細胞外核酸集団内に含まれる1もしくは複数の細胞外核酸の組成および/または量は、治療分野、予後診断分野、または診断分野において貴重な情報をもたらしうるので、前記細胞外核酸集団を安定化させ、したがって、これを実質的に保存することは重要である。したがって、細胞外核酸集団のプロファイルを効率的に安定化させれば有利である。特に、試料を回収した後における夾雑を低減し、よって、細胞外核酸集団の細胞内核酸による希釈、特に、ゲノムDNAの希釈を低減することは重要である。本発明に従う安定化技術により達成しうる細胞外核酸集団の実質的な保存は、試料中の細胞外核酸の集団を、安定化時間にわたり、試料を安定化させたときの細胞外核酸の集団と比較して、実質的に不変化のまま維持することを可能とする。少なくとも、含まれる細胞外核酸の量、品質、および/または組成に照らした細胞外核酸集団の変化、特に、放出されるゲノムDNAの増大に帰せられる変化は、安定化時間にわたり、安定化させなかった試料または対応する試料、例えば、血液試料または血液に由来する試料の場合なら、EDTAにより安定化させたと比較して大幅に(好ましくは、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%)低減される。
【0035】
さらに、上記で記載した通り、本発明の方法はまた、細胞内核酸、特に、細胞内RNAを安定化させるのにも適する。細胞含有試料を、式1によるN,N−ジアルキルプロパンアミドと接触させる結果として、含有される細胞の遺伝子転写レベルが安定化する。したがって、安定化試料中の新たな転写物の産生および既存の転写物の分解は、安定化させなかった試料と比較して阻害され、これにより、含有される細胞の遺伝子転写プロファイルは、安定化の際、実質的に「凍結」される。したがって、安定化はまた、転写レベルを、試料の回収時および安定化時においてそれらが示した状態で維持することにより、トランスクリプトームを安定化させるのに適する。「トランスクリプトーム」という用語は特に、1つの細胞内または細胞の集団内で産生された、mRNA、rRNA、tRNA、およびmiRNAなど、他の非コードRNAを含む、全てのRNA分子のセットを指す。例により裏付けられる通り、血液試料などの細胞含有生物学的試料は、実質的な転写レベルの変化を伴わずに、少なくとも3日間にわたり安定化させることができ、なお長期にわたり安定化させることもできた。遺伝子転写プロファイルは特に、RNAの分解を低減し、特に、遺伝子の誘導または下方調節など、遺伝子発現の変化を最小化することにより安定化させる。理論に束縛されることなく述べると、安定化のために本明細書で使用される、式1による化合物は、細胞過程を阻害し、これにより、転写物の新たな合成のほか、既存の転写物の分解を阻害すると考えられる。式1による化合物は、細胞内に入り、したがって、これらの効果を達成するように細胞透過性であると考えられる。したがって、細胞含有試料の回収および安定化の後で、回収時および安定化時のそれぞれにおいて存在する、in vivoの遺伝子発現プロファイルが保存される。さらに、RNAの品質および完全性も維持され、これにより、試料の回収および安定化のそれぞれの時点における、in vivoの転写レベルの正確な表示がもたらされ、真正で正確な転写レベルを得ることが可能となる。安定化の際のin vivoにおける遺伝子転写プロファイルの保存は、例えば、安定化させた試料のそれぞれを使用して、遺伝子発現プロファイリング、または転写レベルの正確な表示を要求する他の解析法を実施することを可能とする。しかし、所望されるとはいえなお、全ての転写レベルを安定化させることも、それらを同等に十分に安定化させることも必要でないことが多い。これもまた遺伝子転写プロファイルを安定化させる先行技術について通常なことである通り、特異的な標的転写物または新たな標的転写物の安定化特徴を検証すべきであり、したがって、特異的な標的転写物または新たな標的転写物に対する効能特徴を検証すべきである。遺伝子転写プロファイルまたは特異的な転写レベルの安定化の達成は、例えば、遺伝子転写プロファイルの安定化を解析するために確立されたマーカー遺伝子に基づき決定することができる。一実施形態によれば、方法により達成される、含有される細胞の遺伝子転写プロファイルまたは転写レベルを安定化させる結果として、c−fos、IL−1ベータ、IL−8、およびp53から選択される1または複数、好ましくは、2つ以上のマーカー遺伝子が、安定化の際少なくとも48時間にわたり安定化する。これらのマーカー遺伝子は、保存時において極めて不安定的な転写物をもたらすものとして同定されており、したがって、試料を回収した後の、適切な安定化の非存在下において、上方調節または下方調節される。したがって、これらの遺伝子の転写レベルは、遺伝子転写レベルの安定化が達成されたのかどうかを解析するマーカーとして適する。安定化効果は、実施例で記載されるリアルタイムRT−PCRアッセイを使用して解析することができる。一実施形態によれば、これらのマーカー遺伝子のうちの1または複数の転写レベルは、T
0(安定化点)と安定化時間の終点との間で、1.5CT値、好ましくは、1.25CT値、より好ましくは1CT値を超えて変化しない。それぞれの安定化効果は、少なくとも48時間、少なくとも72時間、または少なくとも96時間にわたり達成することが好ましい。それぞれの安定化の特徴は少なくとも、マーカー遺伝子であるc−fos、IL8、およびIL−1ベータにより達成することが好ましく、前述のマーカー遺伝子の全てにより達成することが好ましい。例により示される通り、N,N−ジメチルプロパンアミドは、それぞれの安定化効能を達成し、したがって、好ましいスタビライザーである。
【0036】
さらに、本発明による方法は、細胞の溶解に基づかないので、細胞は、安定化後の時間において、安定化試料から分離することができ、安定化試料から単離された細胞は解析に適する。例えば、上記で記載した通り、RNAなどの細胞内核酸は、含まれる細胞から単離することができ、解析することができる。さらに、安定化試料中の細胞の保存は、細胞を分取または捕捉し、例えば、腫瘍細胞などの特異的細胞をなお濃縮し、次いで、特異的に解析する可能性も開く。例えば、循環腫瘍細胞を単離することができ、それらの遺伝子発現プロファイルを解析することができる。さらに、得られた細胞を特徴付けるために、細胞形態および/または細胞マーカー、特に、細胞表面マーカーを解析することができる。さらに、細胞内核酸は、前記濃縮された特異的細胞からも単離することができる。例えば、RNAは、前記細胞から単離することができる。本明細書で記載される安定化法の転写レベル安定化特性は、単離されるRNAを、遺伝子発現プロファイリングおよび他の重要な解析に使用することを可能として有利である。したがって、本明細書で記載される安定化法は、核酸を濃縮された細胞から抽出する前における細胞の濃縮を可能とし、これにより、例えば、細胞含有試料中、例えば、血液試料中の循環腫瘍細胞の希少なイベントを検出する可能性を増大させるため、例えば、がんまたは他の疾患の分子的診断において有利である。これはまた、特異的なバイオマーカー、特に、希少なバイオマーカーを試料中で同定する可能性も増大させる。
【0037】
一実施形態によれば、細胞含有試料は、血液試料であり、この場合、白血球を安定化させる。これは、白血球を安定化試料から分離することを可能とする。含有される血液細胞のうちの少なくとも1つの型を、少なくとも48時間であることが好ましい安定化時間において安定化させれば、白血球は安定化する。一実施形態によれば、血液試料内に含有されるリンパ球および/または単球を安定化させる。本明細書で記載される安定化は、細胞含有試料中に含有される有核細胞の溶解を誘導または促進しない。したがって、安定化は、細胞の溶解に基づかない。細胞含有試料が血液であり、対象の核酸が細胞外核酸、特に、細胞外RNAである場合、本明細書で使用される安定化は、溶血を防止することが好ましい。in vitroにおける溶血の原因の大半は、検体の回収と関連する。しかしまた、in vitroにおける溶血は通常、適正な安定化法を使用しなければ、ex vivoにおける保存時の血液試料中で生じる。対象の細胞外核酸に応じて、溶血は、無視できない問題でありうる。対象の細胞外核酸がDNAである場合、赤血球は核を含有せず、結果として、ゲノムDNAを含有しないため、溶血は大きな問題ではない。したがって、溶血時において、細胞内DNAが赤血球から放出されることはない。対象の細胞外核酸がDNAである場合、この場合には、細胞内RNAに加えて、ゲノムDNAも放出されるため、特に、白血球の溶解または崩壊が問題である。したがって、対象の細胞外核酸が細胞外DNAである場合、特に、白血球の溶解を防止しなければならない。白血球は、それらの安定性特徴において互いに異なりうる。したがって、いくつかの白血球の型は、他の型より安定的である。しかし、白血球は一般に、赤血球より著明に安定的である。したがって、赤血球の溶解は、白血球が溶解したことを必ずしも指し示さない。当技術分野ではまた、白血球および赤血球の、溶解に対する異なる感受性が、例えば、白血球の回収を可能とするために、例えば、赤血球を特異的に溶解させながら、白血球を保存するのにも使用されている。しかし、対象の細胞外核酸がRNAである場合、溶血は問題を構成し、したがって、赤血球の溶解も問題を構成する。成熟赤血球は、RNAもまた含有しないが、それらの前駆体(網状赤血球)は、RNAを含有する。網状赤血球は、赤血球のうちの約0.5%〜1%を占め、大量のグロビンRNAを含有する。したがって、特に、対象の細胞外核酸がRNAである場合、細胞外核酸集団、特に、細胞外RNA集団の、グロビンmRNAによる希釈を低減するためには、保存時における赤血球の溶解を防止/低減するべきであり、したがって、網状赤血球の溶解を防止/低減するべきである。さらに、上記で記載した通り、細胞外核酸集団の組成を維持することは重要であり、したがって、それは多くの診断適用にとって重要であるので、細胞外核酸集団のプロファイルの維持であって、本明細書で記載される安定化法を使用して達成される維持は重要である。本発明による安定化法を使用する場合、溶血は、効率的に防止/低減することができる。これにより、細胞外核酸集団は実質的に保存され、さらに、安定化血液試料、特に、安定化血液試料から得られる血漿または血清は、溶血の防止によるものであり、また他の標準的な検査室解析に一般に適する細胞の溶解によるものでもある。
【0038】
一実施形態によれば、少なくとも48時間であることが好ましい安定化時間において、細胞の形態を保存する。これは、含有される細胞を、それらの形態に基づき解析し、任意選択で、特徴付けることを可能とする。一実施形態によれば、有核細胞の形態を保存する。一実施形態によれば、血液試料中に含有されるリンパ球の形態を、安定化時において保存する。
【0039】
一実施形態によれば、細胞表面エピトープを保存する。一実施形態によれば、CDタンパク質などの細胞表面タンパク質を保存する。例により示される通り、式1によるN,N−ジアルキルプロパンアミドを使用する安定化により、細胞表面エピトープおよび細胞表面タンパク質を保存する。これは、含有される細胞を、これらの細胞表面特徴に基づき特徴付け、かつ/または含有される細胞を単離することを可能とするので、利点である。特に、これは、細胞表面上に存在する腫瘍マーカーの解析を可能とする。
【0040】
一実施形態によれば、安定化法は、血液試料を、N,N−ジアルキルプロパンアミドおよび抗凝血剤と接触させるステップを含み、含有される細胞内の転写レベルを安定化させる。さらに、実施例で示される通り、細胞外核酸集団もさらに安定化させる。これは、細胞外核酸集団を、同じ安定化試料由来の細胞内核酸集団と別個に解析することを可能とするので、有利である。
【0041】
炭化水素残基であるR2および/またはR3は、互いに独立に、短鎖アルキルおよび長鎖アルキルを含むアルキルを含む基から選択することができる。以下の基:
【0042】
アルキル:好ましくは、短鎖アルキル、特に、直鎖状のC1〜C5アルキルおよび分枝状のC1〜C5アルキル、または長鎖アルキル:直鎖状のC5〜C20アルキルおよび分枝状のC5〜C20アルキルは、本発明の範囲内の一般に記載される基内で使用することが好ましい。
【0043】
R2および/またはR3の鎖長nの値は特に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、および20でありうる。R2およびR3の炭素鎖の長さは、1〜10でありうる。この場合、鎖長nの値は特に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、および10でありうる。R2およびR3の炭素鎖の長さは、1〜5であることが好ましく、この場合、鎖長の値は特に、1、2、3、4、および5でありうる。R2およびR3では、1または2の鎖長が特に好ましい。上記で記載した通り、本発明で使用される、式1による化合物は、N,N−ジアルキルプロパンアミドである。
【0044】
実施例で示される通り、血液試料などの細胞含有試料を安定化させるために、N,N−ジメチルプロパンアミドなどのN,N−ジアルキルプロパンアミドを使用することができる。
【0045】
細胞含有生物学的試料を、式1による化合物、したがって、N,N−ジアルキルプロパンアミド、またはそれぞれの化合物の混合物と接触させるときに得られる混合物は、前記化合物または化合物の混合物を、最終濃度の少なくとも0.1%、少なくとも0.25%、少なくとも0.5%、少なくとも0.75%、少なくとも1%、少なくとも1.25%または少なくとも1.5%で含みうる。適切な濃度範囲は、0.1%〜50%までを含むがこれらに限定されない。好ましい濃度範囲は、0.1%〜30%、0.1%〜20%、0.1%〜15%、0.1%〜10%、0.1%〜7.5%、0.1%〜5%、1%〜30%、0.75%〜10%;1%〜20%、1%〜15%、1%〜10%、1%〜7.5%、1%〜5%;1.25%〜30%、1.25%〜20%、1.25%〜15%、1.25%〜10%、1.25%〜7.5%、1.25%〜5%;1.5%〜30%、1.5%〜20%、1.5%〜15%、1.5%〜10%、1.5%〜7.5%、および1.5%〜5%からなる群から選択することができる。それぞれの濃度は、N,N−ジメチルプロパンアミドを安定化剤として使用する場合に特に適する。転写レベルを安定化させるためには、混合物中の濃度であって、2.5%〜10%、好ましくは、3%〜8%、より好ましくは4%〜7.5%の範囲内にある濃度を使用することが好ましい。また、例により示される通り、細胞外核酸集団を安定化させるためには、低濃度も使用することができる。上述の濃度は、例えば、全血液または血漿など血液生成物を安定化させるのに極めて適する。当業者はまた、日常的な実験を使用することにより、例えば、実施例で記載される試験アッセイにおいて、化合物およびその異なる濃度のそれぞれを調べることにより、式1による他の化合物および/または他の細胞含有生物学的試料に適する濃度範囲も決定することができる。安定化のためのさらなる添加剤を使用することにより、例えば、低濃度を使用することが可能となる。
【0046】
細胞含有試料を安定化させるためには、式1による化合物、したがって、N,N−ジアルキルプロパンアミドを、キレート剤と組み合わせて使用することが好ましい。血液試料、または、例えば、血漿または血清などの血液に由来する試料を安定化させる場合は特に、キレート剤を抗凝血剤として使用することができる。適切なキレート剤および濃度範囲を、下記に提示する。
【0047】
一実施形態によれば、上記で規定した、式1による少なくとも1つの化合物、すなわち、N,N−ジアルキルプロパンアミドと、アポトーシス阻害剤とを含む安定化剤の組合せを使用する。既に、アポトーシス阻害剤単独は、細胞含有試料を安定化させ、細胞外核酸集団を、特に、断片化されたゲノムDNAとの夾雑から生じるその組成の変化から実質的に保存するのに有効である。したがって、アポトーシス阻害剤をさらに使用すると、得られる安定化効果は増強される。試料は、例えば、アポトーシス阻害剤を試料へと添加することにより、アポトーシス阻害剤と接触させることもでき、この逆も可能である。安定化組成物は、N,N−ジアルキルプロパンアミド、好ましくは、N,N−ジメチルプロパンアミド(N,N diemethylpropanamide)を含み、アポトーシス阻害剤を使用することが好ましい。結果として得られる混合物中に存在する少なくとも1つのアポトーシス阻害剤は、試料中に含有される細胞の安定化を支援し、試料中に含まれる核酸の分解を阻害し、これにより、細胞外核酸集団を実質的に保存することに寄与する。
【0048】
本明細書で使用される「アポトーシス阻害剤」という用語は特に、細胞含有生物学的試料中のその存在により、細胞内のアポトーシスの低減過程、防止過程、および/もしくは阻害過程がもたらされ、そして/または細胞のアポトーシス性刺激に対する耐性が大きくなる化合物を指す。アポトーシス阻害剤は、タンパク質、ペプチド、またはタンパク質様分子、もしくはペプチド様分子、有機分子、および無機分子を含むがこれらに限定されない。アポトーシス阻害剤は、代謝阻害剤、核酸分解および核酸経路のそれぞれの阻害剤、酵素阻害剤、特に、カスパーゼ阻害剤、カルパイン阻害剤、ならびにアポトーシス過程に関与する他の酵素の阻害剤として作用する化合物を含む。それぞれのアポトーシス阻害剤を、表1に列挙する。細胞含有生物学的試料を安定化させるために使用する少なくとも1つのアポトーシス阻害剤は、代謝阻害剤、カスパーゼ阻害剤、およびカルパイン阻害剤からなる群から選択されることが好ましい。各クラスに適する例を、表1のそれぞれの範疇に列挙する。アポトーシス阻害剤は、細胞透過性であることが好ましい。
【0049】
また、同じクラスのアポトーシス阻害剤または異なるクラスのアポトーシス阻害剤由来の、異なるアポトーシス阻害剤の組合せを使用すること、および同じ作用機構または異なる作用機構によりアポトーシスを阻害する、異なるアポトーシス阻害剤の組合せを使用することのそれぞれも、本発明の範囲内にある。
【0050】
有利な実施形態では、アポトーシス阻害剤は、カスパーゼ阻害剤である。カスパーゼ遺伝子ファミリーのメンバーは、アポトーシスにおいて著明な役割を果たす。カスパーゼへの結合の競合に成功するペプチドを開発するために、個別のカスパーゼの基質優先性または特異性が利用されている。カスパーゼ特異的ペプチドを、例えば、アルデヒド化合物、ニトリル化合物、またはケトン化合物へとカップリングすることにより、カスパーゼ活性化の可逆性阻害剤または不可逆性阻害剤を作り出すことが可能である。例えば、Z−VAD−FMKなどのフルオロメチルケトン(FMK)誘導体化ペプチドは、細胞傷害性効果を添加することなく、有効な不可逆性阻害剤として作用する。N末端におけるベンジルオキシカルボニル基(BOC)およびO−メチル側鎖により合成される阻害剤は、細胞透過性の増強を呈示する。さらなる適切なカスパーゼ阻害剤は、C末端におけるフェノキシ基により合成する。例は、細胞透過性で、不可逆性で、広域スペクトルのカスパーゼ阻害剤であって、アポトーシスを防止するのに、カスパーゼ阻害剤であるZ−VAD−FMKなおより有効なカスパーゼ阻害剤である、Q−VD−OPhである。
【0051】
一実施形態によれば、N,N−ジメチルプロパンアミドであることが好ましいN,N−ジアルキルプロパンアミドに加えて使用されるカスパーゼ阻害剤は、汎カスパーゼ(pancaspase)阻害剤であり、したがって、広域スペクトルカスパーゼ阻害剤である。一実施形態によれば、カスパーゼ阻害剤は、修飾カスパーゼ特異的ペプチドを含む。前記カスパーゼ特異的ペプチドは、アルデヒド化合物、ニトリル化合物、またはケトン化合物で修飾することが好ましい。好ましい実施形態によれば、カスパーゼ特異的ペプチドを、好ましくは、カルボキシル末端において、O−フェノキシ基またはフルオロメチルケトン(FMK)基で修飾する。一実施形態によれば、カスパーゼ阻害剤は、Q−VD−OPhおよびZ−VAD(OMe)−FMKからなる群から選択される。一実施形態では、競合的で不可逆性のペプチド阻害剤であり、カスパーゼ1ファミリーおよびカスパーゼ3ファミリーの酵素を遮断する汎カスパーゼ阻害剤である、Z−VAD(OMe)−FMKを使用する。好ましい実施形態では、カスパーゼに対する広域スペクトルの阻害剤である、Q−VD−OPhを使用する。Q−VD−OPhは、細胞透過性であり、アポトーシスによる細胞死を阻害する。Q−VD−OPhは、極めて高い濃度でもなお、細胞に対して毒性ではなく、アミノ酸であるバリンおよびアスパラギン酸へとコンジュゲートさせたカルボキシ末端のフェノキシ基からなる。Q−VD−OPhは、3つの主要なアポトーシス経路である、カスパーゼ9およびカスパーゼ3経路、カスパーゼ8およびカスパーゼ10経路、およびカスパーゼ12経路により媒介されるアポトーシスを防止するのにも同様に有効である(Casertaら、2003年)。さらなるカスパーゼ阻害剤を、表1に列挙する。一実施形態によれば、細胞含有試料を安定化させるためのアポトーシス阻害剤として使用されるカスパーゼ阻害剤は、カスパーゼ3など、細胞の細胞内細胞死経路の下流に位置する、1または複数のカスパーゼに対して作用するカスパーゼ阻害剤である。一実施形態では、カスパーゼ阻害剤は、カスパーゼ3、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、およびカスパーゼ12からなる群から選択される、1または複数のカスパーゼに対する阻害剤である。また、カスパーゼ阻害剤の組合せを使用することも、本発明の範囲内にある。
【0052】
N,N−ジアルキルプロパンアミドに加えてカスパーゼ阻害剤を使用する場合、生物学的試料を少なくとも1つのアポトーシス阻害剤と接触させた後で得られる混合物は、アポトーシス阻害剤(またはアポトーシス阻害剤の組合せ)を、少なくとも0.01μM、少なくとも0.05μM、少なくとも0.1μM、少なくとも0.5μM、少なくとも1μM、少なくとも2.5μMまたは少なくとも3.5μMの群から選択される濃度で含みうる。当然ながらまた、高濃度も使用することができる。細胞含有生物学的試料と混合した場合のアポトーシス阻害剤(複数可)に適する濃度範囲は、0.01μM〜100μM、0.05μM〜100μM、0.1μM〜50μM、0.5μM〜50μM、1μM〜40μM、より好ましくは、1μM〜30μM、または2.5μM〜25μMを含むがこれらに限定されない。高濃度は、より有効であることが判明したが、良好な安定化結果はまた、低濃度でも達成された。したがって、効率的な安定化はまた、特に、アポトーシス阻害剤を組合せで使用する場合、例えば、0.1μM〜10μM、0.5μM〜7.5μM、または1μM〜5μMから選択される範囲の低濃度でも達成される。上述の濃度は、単一のアポトーシス阻害剤の使用のほか、カスパーゼ阻害剤の組合せの使用にも適用される。また、カスパーゼ阻害剤の組合せを使用する場合も、アポトーシス阻害剤の組合せの全濃度が、上述の特色を満たす場合、アポトーシス阻害剤の前記混合物中で使用される個別のアポトーシス阻害剤の濃度は、上述の濃度を下回りうる。細胞をやはり効率的に安定化させ、そして/または試料中に存在する核酸の分解をやはり低減する低濃度を使用することは、安定化のための費用を低減しうる利点を有する。アポトーシス阻害剤を、本明細書で記載される1または複数のスタビライザーと組み合わせて使用するため、低濃度を使用することができる。前述の濃度は、特に、カスパーゼ阻害剤、特に、アポトーシス阻害剤としてのQ−VD−OPhおよび/またはZ−VAD(OMe)−FMKなどの修飾カスパーゼ特異的ペプチドを使用する場合に適する。上述の濃度は、例えば、全血液、特に、10mlの血液を安定化させるのに極めて適する。当業者は、日常的な実験を使用することにより、例えば、実施例で記載される試験アッセイにおいて、それぞれ異なる濃度でアポトーシス阻害剤を調べることにより、他のアポトーシス阻害剤および/または他の細胞含有生物学的試料に適する濃度範囲を決定することができる。
【0053】
一実施形態によれば、アポトーシス阻害剤は、有効量で、細胞含有生物学的試料中のアポトーシスを、それぞれのアポトーシス阻害剤を含有しない対照試料と比較して、少なくとも25パーセント、少なくとも30パーセント、少なくとも40パーセント、少なくとも50パーセント、好ましくは、少なくとも75パーセント、より好ましくは、少なくとも85パーセント減殺または低減するであろう。
【0054】
したがって、一実施形態によれば、少なくとも1つのアポトーシス阻害剤と、N,N−ジアルキルプロパンアミド、好ましくは、N,N−ジメチルプロパンアミドである、上記で規定した、式1による少なくとも1つの化合物とを含む安定化剤の組合せを使用する。それぞれの組合せはまた、例えば、抗凝血剤およびキレート剤など、安定化効果を増強するさらなる添加剤も含みうる。一実施形態によれば、安定化剤の組合せは、カスパーゼ阻害剤と、抗凝血剤、好ましくは、EDTAなどのキレート剤とを含む。それぞれの組合せは、第1の態様による、細胞含有試料中に含まれる細胞外核酸集団を安定化させるのに適する方法において使用すると有利でありうる。安定化剤の組合せについて観察される安定化効果は、単独で使用される場合の個別の安定化剤のうちのいずれかについて観察される効果より強く、かつ/または低濃度を使用することを可能とし、これにより、安定化剤の組合せ使用を魅力的な選択肢とする。アポトーシス阻害剤および上記で規定した、式1による化合物、特に、N,N−ジメチルプロパンアミドのほか、効率的な試料の安定化を達成するのに適する、適切で好ましい濃度のそれぞれの薬剤の適切で好ましい実施形態は、上記に併せて詳細に記載されている。
【0055】
背景技術で論じた通り、細胞外核酸は通常、試料中に「ネイキッド」では存在せず、例えば、複合体内で保護されることにより、または小胞内に含有されることなどにより、ある程度安定化している。これにより、細胞外核酸は、既に天然である程度安定化しており、したがって、通常、全血液、血漿、または血清などの細胞含有試料中のヌクレアーゼにより迅速に分解することはないという効果がもたらされる。したがって、生物学的試料中に含まれる細胞外核酸を安定化させようと意図する場合、主要な問題のうちの1つは、細胞外核酸集団の細胞内核酸、特に、試料中に含有される損傷細胞または死滅細胞に由来する断片化されたゲノムDNAによる希釈および夾雑のそれぞれである。これはまた、血漿または血清などの細胞枯渇試料(わずかな量の細胞を含みうるが、これもまた、場合によって、「無細胞」であると記載される)を処理する場合の問題も提起する。本発明による安定化技術は、試料中に存在する細胞外核酸を実質的に保存し、例えば、含まれる細胞外核酸の分解を阻害する(安定化時間にわたり、安定化させなかった試料またはEDTAで安定化させた試料と比較して、好ましくは、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または最も好ましくは、少なくとも95%)だけでなく、さらに、ゲノム試料中に含有される細胞からのDNAの放出を効率的に低減し、かつ/またはそれぞれのゲノムDNAの断片化を低減するため、この点で特に有利である。一実施形態によれば、本発明の教示に従って細胞含有試料を安定化させるための、上記で規定した、式1による化合物と、任意選択で、アポトーシス阻害剤とを使用することにより、試料中に含有される細胞からのDNAの放出から生じるDNAの増大を、安定化させなかった試料と比較して低減するという効果がもたらされる。一実施形態によれば、前記ゲノムDNAの放出を、安定化時間にわたり、安定化させなかった試料またはEDTAで安定化させた対応する試料と比較して、少なくとも3分の1、少なくとも4分の1、少なくとも5分の1、少なくとも6分の1、少なくとも7分の1、少なくとも10分の1、少なくとも12分の1、少なくとも15分の1、少なくとも17分の1、または少なくとも20分の1に低減する(特に、血液試料または血漿もしくは血清などの血液に由来する試料の場合)。一実施形態によれば、前記ゲノムDNAの放出を、安定化時間にわたり、安定化させなかった試料またはEDTAで安定化させた対応する試料と比較して、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%低減する(特に、血液試料または血漿もしくは血清などの血液に由来する試料の場合)。DNAの放出は、例えば、本明細書の実施例節で記載されるリボソーム18S DNAを定量化することにより決定することができる。したがって、試料中に含有される細胞外核酸集団は、標準的なEDTAチューブ内で安定化させた試料と比較して、大幅に安定化する。したがって、一実施形態によれば、例えば、実施例で記載される18S DNAアッセイにおいて決定可能である通り、アポトーシス阻害剤と組み合わせて使用しうる、本発明により教示される式1による化合物により達成される安定化効果の結果として、試料中に含有される細胞からのDNAの放出を、少なくとも10分の1、好ましくは、7分の1、より好ましくは、5分の1に低減し、最も好ましくは、少なくとも4分の1に低減する。例により示される通り、細胞外核酸集団の有効な安定化は、少なくとも最長6日間にわたり達成可能である。試料のより短時間、例えば、最長3日間にわたる保存では、例えば、実施例で記載される18S DNAアッセイにおいて決定可能である通り、DNAの放出を、少なくとも2分の1に低減することができる。したがって、本発明による安定化法を使用する場合、DNAの放出を、最長3日間の保存について、2分の1以下に低減することができる。これは、細胞外核酸集団の安定化の、先行技術の方法と比較して目覚ましい改善である。これは、任意の後続の試験の精度を著明に増強する。ある種の場合には、例えば、試料材料を、例えば、室温で、長距離にわたり輸送するか、または長時間にわたり保存しなければならない場合(例えば、ある種の諸国における場合の通り)、本発明による工程は、このような時間の後で、これらの試験を実行することを初めて可能とする。しかし、当然ながらまた、所望の場合、試料を早期にさらに処理することもできる。達成可能な安定化時間を全て使用する必要もない。本発明により達成される安定化は、それらが回収された後において試料の異なる操作/処理(例えば、保存状態および保存時間)から生じうる、細胞外核酸集団の変動を低減する。これは、操作および分子的解析の標準化を大きく改善する。
【0056】
細胞含有試料をさらに安定化させるためには、さらなる添加剤を、上記で規定した、式1による化合物に加えて使用することができる。それらを、アポトーシス阻害剤に加えて使用することもでき、アポトーシス阻害剤の代替物として使用することもできる。これもまた安定化効果に寄与する適切な添加剤の選択もまた、安定化させる細胞含有試料の型に依存しうる。例えば、全血液を細胞含有生物学的試料として処理する場合、例えば、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸、シュウ酸、およびこれらの任意の組合せからなる群から選択される抗凝血剤を含むことが有利であり、また、一般的でもある。有利な実施形態では、抗凝血剤は、キレート剤である。キレート剤とは、有機化合物の2つ以上の原子を介して金属との配位結合を形成することが可能な有機化合物である。本発明によるキレート剤は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジニトリロ四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)およびN,N−ビス(カルボキシメチル)グリシン(NTA)を含むがこれらに限定されない。好ましい実施形態によれば、EDTAを使用する。本明細書で使用される「EDTA」という用語は、とりわけ、例えば、K
2EDTA、K
3EDTA、またはNa
2EDTAなどのEDTA化合物のEDTA部分を指し示す。EDTAなどのキレート剤を使用することによってもまた、DNアーゼなどのヌクレアーゼが阻害され、これにより、例えば、DNアーゼによる細胞外DNAの分解が防止されるという有利な効果が及ぼされる。さらに、高濃度で使用/添加されるEDTAは、細胞内核酸、特に、ゲノムDNAの、細胞からの放出を低減し、これにより、式1に従う少なくとも1つの化合物により達成される安定化効果を支援することが可能であることも判明した。しかし、EDTA単独では、例えば、試料中に含有される細胞から放出されるゲノムDNAの断片化を効率的に阻害することが可能ではない。したがって、EDTAは、十分な安定化効果を達成しない。しかし、本発明の教示と組み合わせて、特に、アポトーシス阻害剤、特に、カスパーゼ阻害剤と組み合わせて使用すると、EDTAは、上記で論じた理由により、安定化をさらに改善しうる。さらにEDTAはまた、RNAの化学的安定性を増大させるとも考えられる。一実施形態によれば、キレート剤、好ましくは、上記で記載した安定化化合物のうちの1または複数と混合された生物学的試料中のEDTAの濃度は、接触ステップの後で、0.05mM〜100mM、0.05mM〜50mM、0.1mM〜30mM、1mM〜20mM、および2mM〜15mMからなる群から選択される範囲内にある。それぞれの濃度は、血液試料、血漿試料、および/または血清試料、特に、10mlの血液試料を安定化させる場合に特に有効である。
【0057】
細胞含有試料の安定化をさらに支援すること、および細胞外核酸集団の保存を支援することのそれぞれためには、さらなる添加剤もまた使用することができる。それぞれの添加剤の例は、ヌクレアーゼ阻害剤、特に、RNアーゼ阻害性化合物およびDNアーゼ阻害性化合物を含むがこれらに限定されない。RNアーゼ阻害剤の例は、抗ヌクレアーゼ抗体またはリボヌクレオシド−バナジル複合体を含むがこれらに限定されない。それぞれのさらなる添加剤を選択する場合は、N,N−ジアルキルプロパンアミドである、式1による化合物の安定化効果を損ない、かつ/またはこれに対抗しないように注意を払うべきである。したがって、添加剤は、生物学的試料中に含有される細胞の溶解および/もしくは分解を結果としてもたらすかまたは支援し、かつ/または生物学的試料の無細胞画分内に含有される核酸の分解を支援する濃度で使用すべきではない。さらにまた、添加剤は、安定化のために使用されるN,N−ジアルキルプロパンアミドのトランスクリプトーム安定化効果に対抗し、かつ、圧倒する濃度でも使用すべきではない。
【0058】
本発明の有利な実施形態では、血液試料または血漿もしくは血清などの血液に由来する試料であることが好ましい細胞含有生物学的試料を、
a)N,N−ジアルキルプロパンアミド、好ましくは、N,N−ジメチルプロパンアミドである、上記で規定した、式1による少なくとも1つの化合物(好ましい濃度は、上記で記載されている)、および
b)好ましくは、Q−VD−OPhを、好ましくは、1μM〜30μMの濃度範囲で伴うアポトーシス阻害剤としての、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、および
c)さらなる添加剤、好ましくは、4mM〜50mM、好ましくは、4mM〜20mMの濃度範囲の、好ましくは、キレート剤、最も好ましくは、EDTA
と接触させる。
【0059】
安定化組成物の成分は、緩衝液、例えば、MOPS、TRIS、PBSなどの生物学的緩衝液中に含まれることおよび溶存することのそれぞれが可能である。さらに、安定化組成物の成分は、水中に溶存させることもでき、他の任意の適切な溶媒中に溶存させることもできる。一実施形態によれば、安定化組成物は、DMSOなどの非プロトン性溶媒を含む。
【0060】
上記で規定した、式1による化合物、すなわち、N,N−ジメチルプロパンアミドであることが好ましいN,N−ジアルキルプロパンアミドのほか、任意選択で存在するさらなる添加剤は、例えば、試料を回収するためのデバイス、好ましくは、容器内に存在させることもでき、生物学的試料を回収する前に、それぞれの回収デバイスに即時的に添加することもでき、試料をその中に回収した直後に、回収デバイスへと添加することもできる。また、安定化剤(複数可)、および、任意選択で、さらなる添加剤(複数可)を、細胞含有生物学的試料へと個別に添加することも本発明の範囲内にある。しかし、操作を容易にするためには、1または複数の安定化剤、および、任意選択で、さらなる添加剤を、1つの組成物により供給することが好ましい。さらに、有利な実施形態では、上記で記載した、式1による化合物、および、任意選択で、さらなる添加剤(複数可)を、試料を添加する前に、回収デバイス内に存在させる。これにより、安定化剤(複数可)と接触させると、細胞含有生物学的試料は、即時的に安定化することが確認される。安定化剤(複数可)は、前記容器内に回収される量の細胞含有試料および前記容器内に含まれる量の細胞含有試料のそれぞれの安定化をもたらすのに有効な量で、容器内に存在する。記載される通り、試料は、試料を回収した後で、および/または試料を回収するときに、安定化剤(複数可)と直接混合し、これにより、試料を安定化させることができる。
【0061】
試料は、試料を回収した後で、および/または試料を回収するときに、安定化剤(複数可)と直接混合することが好ましい。したがって、上記で記載した安定化剤(複数可)および添加剤は、安定化組成物の形態で提供することが好ましい。前記安定化組成物は、液体形態で提供することが好ましい。前記安定化組成物は、例えば、回収時において、試料を即時的に安定化させるように、試料回収デバイス内にあらかじめ充填することができる。一実施形態によれば、安定化組成物を、細胞含有試料と、10:1〜1:20、5:1〜1:15、1:1〜1:10、および1:2〜1:5から選択される容量比で接触させる。大試料容量による安定化を、小容量の安定化組成物により達成しうることは、本発明の教示の特有の利点である。したがって、好ましくは、安定化組成物の試料に対する比は、1:2〜1:7、より好ましくは1:3〜1:5の範囲内にある。
【0062】
本明細書で使用される「細胞含有試料」という用語は特に、少なくとも1個の細胞を含む試料を指す。細胞含有試料は、少なくとも2個、少なくとも10個、少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも250個、少なくとも500個、少なくとも1000個、少なくとも1500個、少なくとも2000個、または少なくとも5000個の細胞を含みうる。さらに、前記用語には、はるかに多くの細胞を含む細胞含有試料もまた包含され、本発明に従う教示により安定化させることができる。しかし、それぞれの試料は、残留細胞を含むことが多いので、「細胞含有試料」という用語はまた、例えば、血漿など、一般に「無細胞」と称する細胞枯渇試料を含む細胞枯渇試料も指し、したがって、これらも包含する。少なくとも、血漿などのいわゆる「無細胞」試料がなお、残留量の細胞を含み、したがって、これにより、細胞外核酸集団が、前記残留細胞から放出される細胞内核酸と夾雑する危険性が提起される場合も完全には除外しないことが多い。したがって、一実施形態ではまた、「細胞含有試料」という用語により、細胞枯渇試料および「無細胞」試料のそれぞれも包含される。したがって、「細胞含有試料」は、例えば、全血液の場合と同様、大量の細胞を含む場合もあるが、ごくわずかな量の細胞だけを含む場合もある。したがって、「細胞含有試料」という用語はまた、細胞を含有することの危険性が疑われるかまたはこれを提起するに過ぎない試料も包含する。上記で論じた通り、例えば、血漿(一般に無細胞と称する場合でもなお、通常は、少残留量の細胞を含有する(調製法に応じて)血漿)など、わずかな量の細胞だけおよび残留量の細胞だけのそれぞれを含む生物学的試料に関してもまた、これらの残留細胞もまた、含まれる細胞外核酸への所望されない夾雑結果としてもたらしうるので、本発明による方法は、無視できない利点を有する。また、本発明の安定化技術を使用することにより、残留量の細胞だけを含むか、または残留量の細胞の危険性が疑われるかもしくはこれを提起するだけであるそれぞれの試料も、これもまた上記で詳細に記載した通りに、効率的に安定化させることが確認される。一実施形態によれば、細胞部分は、細胞含有生物学的試料のうちの、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも5%、好ましくは、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、より好ましくは、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%または少なくとも40%を占める。また、細胞画分が40%超を占める細胞含有試料も、本明細書で記載される教示を使用して安定化させることができる。本発明による安定化法を使用することは、試料の組成およびその中に含有される細胞の数に関わらず、その中に含有される細胞外核酸集団の実質的な保存および安定化のそれぞれを行い、これにより、含有される細胞外核酸の後続の単離および/または解析の標準化を可能とするという利点を有する。
【0063】
一実施形態によれば、細胞含有生物学的試料は、全血液、血液に由来する試料、血漿、血清、痰、涙液、リンパ液、尿、汗、体液、脳脊髄液、腹水、母乳、糞便、気管支洗浄液、唾液、羊水、鼻腔内分泌物、膣内分泌物、精子/精液、創傷分泌物、ならびに細胞培養物上清、および他のスワブ試料から得られる上清からなる群から選択される。一実施形態によれば、細胞含有生物学的試料は、体液、体内分泌物、または体外排出物、好ましくは、体液、最も好ましくは、全血液、血漿、または血清である。細胞含有生物学的試料は、細胞外核酸を含む。別の実施形態によれば、細胞含有生物学的試料は、例えば、糞便試料、組織試料、または生検試料など、ヒトまたは動物に由来する非流体試料である。本発明に従う方法により安定化させうる細胞含有生物学的試料の他の例は、細胞懸濁液、細胞培養物、細胞培養物の上清など、細胞外核酸を含む生物学的試料を含むがこれらに限定されない。
【0064】
上記で記載され、例により裏付けられる通り、本発明の方法を使用することにより、冷蔵または凍結させずに、細胞含有試料を、長時間にわたり安定化させることが可能となる。したがって、試料を、室温で、なおまたは高温で、例えば、最高30℃、または最高40℃で保存することができる。一実施形態によれば、安定化効果を、室温で少なくとも2日間、好ましくは、少なくとも3日間;より好ましくは少なくとも1日間〜6日間、最も好ましくは少なくとも1日間〜少なくとも7日間にわたり達成する。例で示される通り、本発明の方法に従って安定化させた試料は、室温で3日間にわたり保存しても、実質的に損なわれなかった。室温で最長6日間、なおまたは7日間にわたる長期の保存においてもなお、細胞外核酸集団の安定化は、安定化させなかった試料と比較して、または、例えば、EDTA処置などの標準的な方法を使用して安定化させた試料と比較して実質的に大きかった。安定化効果は、時間経過に応じて減殺されうるが、細胞外核酸集団の組成を保存して、解析および/またはさらなる処理を可能とするのに依然として十分である。したがって、本発明の方法に従って安定化させた試料は、室温で長期にわたる保存の後でなお、その中に含有される細胞外核酸を単離し、任意選択で、これを解析するのに依然として適した。さらに、トランスクリプトームも効率的に安定化させた。したがって、特に、好ましい安定化剤の組合せを使用する場合は、試料が損なわれなかったので、長期の保存/搬送時間もなお検討可能である。しかし、通常の保存時間、ならびに、例えば、核酸の単離、および、任意選択で、解析を実施する検査室への搬送時間は通常、6または7日間を超えず、通常、2または3日後であってもなお終了するので、通常、長時間は必要でない。例で示される通り、安定化効率は、この時間において特に良好である。しかし、本発明に従う方法により達成可能な、並外れて長期の安定化時間および安定化効率は、重要な安全性因子をもたらす。
【0065】
本発明の教示に従って使用される添加剤は高度に活性であるため、本発明による方法、およびまた、後出で記載される、本発明による組成物は、小容量の添加物質を伴う大容量の生物学的試料の安定化もまた可能とする。試料のサイズ/容量は、特に、試料中に含有される細胞外核酸を単離するために自動式工程を使用しようと意図する場合、後続の単離手順に対して無視できない制約を課するため、これは、重要な利点である。さらに、細胞外核酸は、含有される試料中に少量だけで含まれることが多いことも考慮しなければならない。したがって、例えば、血液試料など、大容量の細胞含有試料を処理することは、循環核酸を、試料から単離することができ、したがって、後続の解析に利用可能であるという利点を有する。
【0066】
生物学的試料の安定化の直後に、核酸を解析するための技法を施すこともでき、核酸を試料から精製することもできる。したがって、本発明の方法に従って安定化させた試料は、核酸解析法および/もしくは検出法により解析することもでき、そして/またはさらに処理することもできる。例えば、細胞外核酸を、安定化試料から単離し、次いで、核酸解析法および/または検出法により解析することもでき、さらに処理することもできる。さらに、細胞を、安定化試料から除去し、解析することもでき、そして/または核酸を、得られた細胞から単離することもできる。さらに、細胞は、それらの形態または細胞表面特徴について解析することができる。これは、例えば、腫瘍細胞を同定することを可能とする。一実施形態によれば、細胞内RNAを単離し、解析する。一実施形態によれば、方法は、1または複数の遺伝子転写物の定性的解析または定量的解析を実施するステップを含む。
【0067】
さらに、第2の態様によれば、核酸を生物学的試料から単離するための方法であって、
a)第1の態様による方法に従って細胞含有試料を安定化させるステップと、
b)核酸を安定化試料から単離するステップと
を含む方法が提供される。
【0068】
一実施形態によれば、前記方法は、
a)第1の態様による方法に従って細胞含有試料を安定化させるステップと、
b)細胞内核酸を安定化試料から単離するステップと
を含む。
【0069】
一実施形態によれば、前記方法は、細胞外核酸を、細胞含有生物学的試料から単離するための方法であって、
a)本発明の第1の態様で規定した方法に従って細胞含有試料中に含まれる細胞外核酸集団を安定化させるステップと、
b)細胞外核酸を単離するステップと
を含む方法である。
【0070】
上記で論じた通り、本発明に従う安定化により、試料中に含有される細胞外核酸集団を、生物学的試料が得られた時点においてそれが示した状態で実質的に保存する効果および採取する効果のそれぞれがもたらされる。特に、通常観察される核酸の大きな増大であって、細胞内核酸、特に、ゲノムDNA、より具体的には、損傷細胞または死滅細胞から放出される断片化されたゲノムDNAから生じる増大は、実施例で裏付けられる通り、効率的に低減される。したがって、安定化させた試料のそれぞれから得られる細胞外核酸は、安定化させなかった試料と比較して、試料中に含まれる分解または死滅しつつある細胞に由来する細胞内核酸との少量の夾雑を含み、特に、安定化させなかった試料と比較して少量の、断片化されたゲノムDNAを含む。さらに、固有の安定化ステップは、細胞外核酸の回収可能量を増大させうる。本発明による安定化法は、試料の架橋形成を伴わずに実施することができる。それらの試薬は、架橋形成に起因して、細胞外核酸の回収可能量を低減しうるので、これは、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド放出剤などの架橋剤の使用を凌ぐ重要な利点である。したがって、本発明による方法は、細胞外核酸の診断能力および予後診断能力を改善する。さらに、前記安定化は、ステップb)で、試料中に含有される細胞を分離する前に、および/またはその中に含まれる細胞外核酸を単離する前に、長時間にわたる(室温でなお)試料の保存および/または操作、例えば、輸送を可能とする。安定化の詳細については、本節にもまた適用される上記の開示が参照される。
【0071】
一実施形態によれば、例えば、全血液試料などの細胞含有生物学的試料は、上記で詳細に記載したステップa)において、上記で記載した、式1による少なくとも1つの化合物、すなわち、N,N−ジアルキルプロパンアミドと、任意選択で、さらなる添加剤とを使用して、安定化させる。適切で好ましい実施形態については、上記で記載した。全血液試料を安定化させるための、上記で記載した、カスパーゼ阻害剤の、抗凝血剤、好ましくは、キレート剤と組み合わせたさらなる使用が特に好ましい。
【0072】
例えば、全血液の場合のように、試料が大量の細胞を含む場合は、細胞外核酸を含む試料の無細胞、細胞低減または細胞枯渇画分のそれぞれを得るために、細胞は、残りの試料から分離する。したがって、一実施形態によれば、ステップa)とステップb)との間で、細胞を細胞含有試料から除去する。この中間ステップは、任意選択であるに過ぎず、例えば、血漿または血清など、わずかな量の残留細胞だけを含む試料を処理する場合、例えば、これを排することができる。しかし、単離時における細胞外核酸集団を夾雑させうるので、結果を改善するにはまた、それぞれの残留細胞(または潜在的な残留細胞)も除去することが好ましい。試料の型に応じて、残留細胞を含む細胞は、例えば、遠心分離、好ましくは、高速遠心分離により分離および除去することもでき、遠心分離ステップを回避する場合、例えば、濾過、沈降、または(任意選択で、磁気)粒子表面への結合など、遠心分離以外の手段を使用することにより分離および除去することもできる。それぞれの細胞除去ステップはまた、自動式試料調製プロトコールへと容易に組み入れることもできる。除去されるそれぞれの細胞はまた、さらに処理することもできる。細胞は、例えば、保存することができ、かつ/または、例えば、核酸またはタンパク質などの生体分子は、除去された細胞から単離することができる。
【0073】
さらに、試料を精査する、さらなる中間ステップを含むこともまた、本発明の範囲内にある。
【0074】
次いで、ステップb)において、細胞外核酸を、例えば、無細胞および細胞枯渇画分のそれぞれ、例えば、上清、血漿、および/または血清から単離する。細胞外核酸を単離するには、核酸をそれぞれの試料および細胞枯渇試料のそれぞれから単離するのに適する、任意の公知の核酸単離法を使用することができる。それぞれの精製法の例は、抽出、固相抽出、シリカベースの精製、磁気粒子ベースの精製、フェノール−クロロホルム抽出、クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー(アニオン交換表面を使用する)、電気泳動、濾過、沈殿、クロマチン免疫沈殿、およびこれらの組合せを含むがこれらに限定されない。また、例えば、配列特異的結合を可能とする適切なプローブを使用することにより、特異的な標的細胞外核酸を特異的に単離し、固体支持体へとカップリングすることも、本発明の範囲内にある。また、当業者が公知の他の任意の核酸単離技法も使用することができる。一実施形態によれば、核酸は、カオトロピック薬剤および/またはアルコールを使用して単離する。核酸は、それらを、固相、好ましくは、シリカまたはアニオン交換官能基を含む固相へと結合させることにより単離することが好ましい。QIAamp(登録商標)Circulating Nucleic Acid Kit(QIAGEN)、Chemagic Circulating NA Kit(Chemagen)、NucleoSpin Plasma XS Kit(Macherey−Nagel)、Plasma/Serum Circulating DNA Purification Kit(Norgen Biotek)、Plasma/Serum Circulating RNA Purification Kit(Norgen Biotek)、High Pure Viral Nucleic Acid Large Volume Kit(Roche)、および循環核酸を抽出および精製するのに適する他の市販のキットなどの、適切な方法およびキットもまた市販されている。
【0075】
一実施形態によれば、ステップa)の後で得られる、または、任意選択で、細胞を中間ステップで除去した後に得られる試料中に含まれる全ての核酸を単離する、例えば、無細胞および細胞枯渇画分のそれぞれから単離する。例えば、全核酸は、血漿または血清から単離することができ、細胞外核酸は、これらの抽出された核酸内の部分として含まれる。細胞を効率的に除去した場合、単離された全核酸は、細胞外核酸を主に含み、なおまたはこれらからなるであろう。また、少なくとも主に、特異的な標的核酸を単離することも、本発明の範囲内にある。標的核酸は、例えば、ある型の核酸、例えば、mRNA、マイクロRNA、他の非コード核酸、後成的に修飾された核酸、および他の核酸を含むRNAまたはDNAでありうる。また、例えば、単離の後でヌクレアーゼを使用して、非標的核酸を消化することも、本発明の範囲内にある。標的核酸という用語はまた、特殊な種類の核酸、例えば、ある種の疾患マーカーであることが公知である特異的細胞外核酸も指す。
【0076】
上記で論じた通り、細胞外核酸の単離はまた、例えば、適切な捕捉プローブを使用することを介する、それぞれの標的核酸の特異的な単離も含みうる。「標的核酸」という用語はまた、ある長さを有する核酸、例えば、長さが2000nt以下、1000nt以下、または500nt以下である核酸も指す。細胞外核酸は通常、2000nt未満、通常は1000nt未満であり、なおしばしば500nt未満という小さなサイズであることが公知であるため、それぞれの低分子の標的核酸を単離することが有利でありうる。本明細書で指し示されるサイズおよびサイズ範囲のそれぞれは、鎖長を指す。すなわち、DNAの場合、サイズとは、bpを指す。単離および精製のそれぞれの焦点を、それぞれの低分子核酸に当てることにより、単離核酸中で得られる細胞外核酸部分を増大させることができる。本発明による安定化法は、特に、細胞内のゲノムDNAの断片化の阻害に起因して、例えば、核酸の抽出手順における、このような高分子量のゲノムDNAの、断片化された細胞外核酸集団からのより効率的な分離を可能とする。本発明による安定化技術を使用すると、ゲノム核酸と循環核酸との間の実質的なサイズ差が本質的に保存されるので、例えば、DNAのサイズ選択的回収により、ゲノムDNAを、それぞれの安定化を伴わない場合より効率的に除去することができる。先行技術では、例えば、高分子量のゲノムDNAを枯渇させることにより、細胞外核酸集団のそれぞれの選択的な単離を達成するのに適する方法が周知であり、したがって、本明細書におけるさらなる記載を必要としない。例えば、試料から、1,000〜10,000ヌクレオチドまたは1,000〜10,000塩基対より大きな任意の核酸を枯渇させるサイズ選択法を使用すれば十分であろう。本発明に従って安定化させた試料中のゲノム核酸(通常、>10,000bpより大きな)と細胞外核酸(通常、<1000bp)とのサイズ差は通常、効率的な安定化に起因して比較的大きい(差違は、例えば、1000〜10,000bpの範囲でありうる)ので、細胞外核酸を生物学的試料から選択的に単離するための公知の方法を適用しうるであろう。これはまた、単離された細胞外核酸集団内の細胞内核酸の量を低減するための機会もさらにもたらす。例えば、核酸抽出プロトコールにおけるゲノムDNAの除去はまた、残留細胞を除去するための、核酸の抽出を開始する前における、血漿試料のg力の大きな個別の遠心分離を補充し、なおまたはこれを置きかえうるであろう。前記残留細胞から放出されるゲノムDNAは、本発明による安定化に起因して、大量に分解することを防止され、したがって、サイズ選択的単離プロトコールにより除去することができる。多くの臨床検査室は、このようなg力の大きな遠心分離を実施することが可能な遠心分離機、または、特に、微量の残留細胞を除去するための他の手段を有さないので、この選択肢は、特に有利である。
【0077】
さらに、細胞内核酸は、例えば、細胞を残りの試料から分離した後で、含有される細胞から単離することもできる。例えば、RNAは、単離し、遺伝子発現解析のために使用することができる。
【0078】
次いで、ステップc)では、適切なアッセイ法および/または解析法を使用して、単離核酸を、解析し、そして/またはさらに処理することができる。例えば、単離核酸を同定し、修飾し、少なくとも1つの酵素と接触させ、増幅し、逆転写させ、クローニングし、配列決定し、プローブと接触させ、検出し(それらの存在または非存在を)、そして/または定量化することができる。先行技術では、それぞれの方法が周知であり、細胞外核酸(また、背景技術における詳細な記載も参照されたい)を解析するために、治療分野、診断分野、および/または予後診断分野において一般に適用されている。したがって、細胞外核酸を、単離し、任意選択で、全核酸、全RNA、および/または全DNA(上記を参照されたい)の一部として解析した後で、これらにより、多数の新生物疾患、特に、がんの異なる形態など、前悪性腫瘍および悪性腫瘍を含むがこれらに限定されない、疾患状態の存在、非存在、または重症度を同定することができる。例えば、単離された細胞外核酸を、多くの適用分野における診断マーカーおよび/または予後診断マーカー(例えば、胎児または腫瘍に由来する細胞外核酸)であって、非侵襲的出産前遺伝子検査および非侵襲的出産前遺伝子スクリーニングのそれぞれ、疾患スクリーニング、病原体スクリーニング、腫瘍学、がんスクリーニング、早期がんスクリーニング、がん治療モニタリング、遺伝子検査(遺伝子型決定)、感染性疾患検査、損傷診断法、外傷診断法、移植医学、または他の多くの疾患を含むがこれらに限定されないマーカーを検出するために解析することができ、よって、診断および/または予後診断に関与性である。一実施形態によれば、単離された細胞外核酸を、解析して、疾患または胎児特徴を同定し、そして/または特徴付ける。したがって、上記で論じた通り、本明細書で記載される単離法は、核酸を解析および/または処理するステップc)をさらに含みうる。したがって、一実施形態によれば、単離された細胞外核酸を、ステップc)において解析して、疾患および/または少なくとも1つの胎児特徴を同定、検出、スクリーニング、モニタリング、または除外する。
【0079】
増幅技術、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、等温増幅、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Q−PCR)、ディジタルPCR、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、質量分析、蛍光検出、紫外線分光分析、ハイブリダイゼーションアッセイ、DNA配列決定またはRNA配列決定、制限解析、逆転写、NASBA、対立遺伝子特異的ポリメラーゼ連鎖反応、ポリメラーゼサイクリングアセンブリー(PCA)、非対称ポリメラーゼ連鎖反応、指数関数後線形ポリメラーゼ連鎖反応(LATE−PCR)、ヘリカーゼ依存型増幅(HDA)、ホットスタートポリメラーゼ連鎖反応、配列間特異的ポリメラーゼ連鎖反応(ISSR)、インバースポリメラーゼ連鎖反応、ライゲーション介在型ポリメラーゼ連鎖反応、メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(MSP)、マルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応、ネステッドポリメラーゼ連鎖反応、固相ポリメラーゼ連鎖反応、またはこれらの任意の組合せを含むがこれらに限定されない、任意の核酸解析法/核酸処理法を使用して、核酸の解析/さらなる処理を実施することができる。当業者には、それぞれの技術が周知であり、したがって、本明細書では、さらなる記載を必要としない。
【0080】
一実施形態によれば、単離ステップまたは解析ステップb)およびc)の一方または両方を、本発明の教示に従ってそれぞれを安定化させた試料を回収して、少なくとも1日〜最大7日後に施す。本発明による方法を使用して、試料、特に、血液試料、その中にそれぞれ含有される細胞外核酸集団を安定化させうるのに適する時間もまた、上記で記載されており、ここでもまた適用される。一実施形態によれば、単離ステップは、試料を回収し、本発明による方法に従って安定化させた少なくとも1日後、少なくとも2日後、少なくとも3日後、少なくとも4日後、少なくとも5日後、または少なくとも6日後に実施する。一実施形態によれば、細胞含有生物学的試料を保存するために、試料の凍結を伴わずに、かつ/またはホルムアルデヒドの使用を伴わずに、単離ステップまたは解析ステップの一方または両方を施す。生物学的試料は、上記で規定した、式1による化合物であって、好ましくは、EDTAなどの抗凝血剤などのさらなる添加剤と組み合わせた化合物と接触させた後で安定化させる。抗凝血剤は、血液または血液に由来する試料を安定化させる場合に使用することが好ましい。安定化させた試料のそれぞれは、操作する、例えば、保存し、そして/または室温で搬送することができる。上記で記載した通り、一実施形態によれば、アポトーシス阻害剤、好ましくは、カスパーゼ阻害剤を、安定化のためにさらに使用する。
【0081】
さらに、本発明の第3の態様によれば、生物学的試料中の細胞外核酸集団を安定化させるのに適する組成物であって、
a)上記で規定した、式1による少なくとも1つの化合物と、
b)少なくとも1つの抗凝血剤、好ましくは、キレート剤と
を含む組成物が提供される。
【0082】
上記で論じた通り、それぞれの安定化組成物は、含まれる細胞、転写レベル、および含まれる細胞外核酸を安定化させ、これにより、細胞外核酸集団を実質的に保存することおよび安定化させることのそれぞれにより、細胞含有生物学的試料、特に、全血液、血漿、および/または血清を安定化させるのに特に有効である。それぞれの安定化組成物は、試料およびその中に含有される細胞外核酸集団のそれぞれの品質を実質的に損なうことなく、全血液であることが好ましい試料の、室温で少なくとも2日間、好ましくは、少なくとも3日間にわたる保存および/または操作、例えば、搬送を可能とする。さらに、含有される細胞のトランスクリプトームについての遺伝子発現プロファイルも、これにより保存される。当然ながら、可能な全安定化時間を使用することは必須ではなく、所望の場合、試料はまた早期に処理することもできる。生物学的試料を、安定化組成物と接触させることにより、含有される核酸を単離し、任意選択で、解析および/または処理する前に、試料を、室温でなお、保存および/または操作、例えば、搬送することが可能となる。したがって、試料の回収または安定化と核酸の抽出との間の時間を、その中に含有される集団およびその中に含有される細胞外核酸集団の組成のそれぞれに実質的に影響を及ぼすことなくずらすことができる。特に、細胞内核酸、特に、断片化されたゲノムDNAによる希釈および夾雑のそれぞれが低減される。さらに、含有される細胞の遺伝子転写プロファイルを安定化させるので、細胞内RNAを単離し、例えば、遺伝子発現を解析する方法において使用することができ、遺伝子発現プロファイリングのために使用することができる。試料の回収の直後または回収時において、安定化組成物を試料と接触させることが好ましい。安定化組成物はまた、本明細書で記載される安定化剤、例えば、カスパーゼ阻害剤であることが好ましいアポトーシス阻害剤もさらに含みうる。
【0083】
上記では、安定化法と共に、式1による化合物およびアポトーシス阻害剤の適切で好ましい実施形態のほか、それぞれの化合物の適切で好ましい濃度についても詳細に記載している。安定化組成物に関してもまた適用される、上記の開示が参照される。一実施形態によれば、式1による化合物は、N,N−ジメチルプロパンアミドである。前記化合物はまた、アポトーシス阻害剤、好ましくは、カスパーゼ阻害剤と組み合わせて使用することもできる(好ましい実施形態は、上記で記載されており、上記の開示が参照される)。
【0084】
さらに、特に、全血液、血漿、または血清を安定化させるために組成物を使用する場合、安定化組成物は、さらなる添加剤、例えば、キレート剤などの抗凝血剤を含むことが好ましい。
【0085】
一実施形態によれば、安定化組成物は、上述のスタビライザーおよび任意選択の添加剤と、任意選択で、緩衝剤とから本質的になる。安定化組成物は、試料を安定化させ、したがって、試料中に含有される細胞の溶解および/または破壊を促進しない。例えば、実施例節で記載されるアッセイ法により決定しうる通り、安定化組成物は、試料中に含まれる細胞の損傷を低減する可能性がある。
【0086】
組成物は、固体形態で提供することができる。安定化させる生物学的試料が、固体を溶存させる液体を含有する(例えば、細胞含有流体、培地中の細胞、尿中の細胞など)か、または安定化させる生物学的試料に、液体、例えば、水を添加して固体を溶存させる場合、固体形態は、例えば、適切な選択肢である。固体の安定化組成物を使用する利点は、固体は通常、化学的により安定的であることである。しかし、また、液体組成物も使用することができる。液体組成物は、安定化させる試料との混合を迅速に達成することができ、これにより、基本的に、試料を液体の安定化組成物と接触させるとすぐに、即時的な安定化効果がもたらされるという利点を有することが多い。液体の安定化組成物中に存在する安定化剤(複数可)は、溶液中で安定性を維持し、使用者による前処置(例えば、可溶性が限定された沈殿物を溶存させることなど)は、安定化効率を変動させる危険性を提起するため、この種の前処置を要求しないことが好ましい。
【0087】
また、生物学的試料と混合された、本発明による安定化組成物を含む混合物も提供される。生物学的試料の適切で好ましい例のほか、生物学的試料と混合した場合の適切な濃度の安定化剤(複数可)も、安定化法と共に上記で記載されている。本節でもまた適用される上記の開示が参照される。安定化組成物は、回収時において、試料を即時的に安定化させるように、試料回収デバイス内にあらかじめ充填することが好ましい。一実施形態によれば、安定化組成物を、10:1〜1:20、5:1〜1:15、1:1〜1:10、および1:2〜1:5から選択される容量比で、生物学的試料と接触させる。大試料容量による安定化を、小容量の安定化組成物により達成しうることは、本発明の安定化組成物の特有の利点である。したがって、好ましくは、安定化組成物の試料に対する比は、1:2〜1:7、より好ましくは1:3〜1:5の範囲内にある。
【0088】
本発明による安定化組成物の第3の態様を使用して、細胞含有試料中に含まれる細胞外核酸集団を安定化させることができる。さらに、本発明による安定化組成物の第3の態様はまた、試料中に含有される細胞を安定化させるためにも使用することができる。上記で記載した通り、安定化組成物はとりわけ、崩壊しつつある細胞から生じる、ゲノムDNAの細胞からの放出を低減する。したがって、それぞれの使用もまた有利であり、本発明に従う教示により提示される。さらに、本発明による安定化組成物の第3の態様はまた、含有される細胞内の転写レベルを安定化させるためにも使用することができる。
【0089】
また、本発明の第3の態様による組成物を製造する方法であって、組成物の成分を、好ましくは、水溶液中で混合する方法も提供される。
【0090】
本発明の組成物はまた、試料回収デバイス、特に、血液回収アセンブリーへと組み込み、これにより、このようなデバイスの新たで有用な変化形をもたらすこともできる。このようなデバイスは典型的に、開放端および閉止端を有する容器を含む。容器は、血液回収チューブであることが好ましい。容器の型はまた、回収される試料にも依存し、他の適するフォーマットは、下記で記載される。
【0091】
さらに、本発明は、細胞含有生物学的試料、好ましくは、血液試料を回収するための容器であって、本発明による安定化組成物を含む容器を提供する。それぞれの容器、例えば、本発明による安定化組成物を含む試料回収用チューブを提供することは、試料をそれぞれの容器内に回収したときに、試料を迅速に安定化させる利点を有する。安定化組成物に関する詳細については、上記で記載されており、本節でもまた適用される上記の開示が参照される。
【0092】
一実施形態によれば、生物学的試料を受容および回収するための回収容器であって、
a)試料を回収したときに、式1による化合物が、少なくとも0.1%、少なくとも0.5%、少なくとも0.75%、少なくとも1%、少なくとも1.25%、もしくは少なくとも1.5%の濃度で含まれるような、上記で規定した、式1による少なくとも1つの化合物、または0.1%〜50%、0.1〜30%、1%〜20%、1%〜10%、1%〜7.5%、および1%〜5%から選択される濃度範囲で含まれる、上記で規定した、式1による少なくとも1つの化合物;ならびに/あるいは
b)任意選択で、少なくとも1つのさらなる添加剤、好ましくは、容器が、血液または血液生成物を回収するための容器である場合、キレート剤などの抗凝血剤、好ましくは、EDTA
を含む容器が提供される。適切な濃度は、上記で記載されており、好ましくは、4mM〜50mM、より好ましくは4mM〜20mMの範囲内にある。
【0093】
適切な濃度はまた、方法と共に上記でも記載されており、上記の開示が参照される。一実施形態によれば、試料を回収したときに、結果として得られる混合物中のアポトーシス阻害剤または2つ以上のアポトーシス阻害剤の組合せの濃度が、少なくとも0.01μM、少なくとも0.05μM、少なくとも0.1μM、少なくとも0.5μM、少なくとも1μM、少なくとも2.5μMまたは少なくとも3.5μMから選択され、好ましくは、0.01μM〜100μM、0.05μM〜100μM、0.1μM〜50μM、1μM〜40μM、1.0μM〜30μM、または2.5μM〜25μMから選択される濃度範囲内に存在するように、容器は、少なくとも1つのアポトーシス阻害剤をさらに含む。
【0094】
あらかじめ充填した成分は、液体形態で提供することもでき、乾燥形態で提供することもできる。安定化成分は、安定化組成物として提供することが好ましい。安定化させる生物学的試料が、固体を溶存させる液体を含有する(例えば、細胞含有流体、培地中の細胞、尿中の細胞など)か、または安定化させる生物学的試料に、液体、例えば、水を添加して固体を溶存させる場合、乾燥形態は、例えば、適切な選択肢である。固体の安定化組成物を使用する利点は、固体は通常、液体より化学的に安定的であることである。一実施形態によれば、容器の内壁を、本発明による安定化組成物で処置する/覆う。前記組成物は、例えば、スプレー乾燥法を使用して、内壁へと適用することができる。実質的に固体状態の保護性組成物を得るため、安定化組成物に、液体除去技法を実施することができる。液体除去の条件は、それらが、分散させた液体の安定化組成物の元の量のうちの、重量で少なくとも約50%、重量で少なくとも約75%、または重量で少なくとも約85%の除去を結果としてもたらすような条件でありうる。液体除去の条件は、結果として得られる組成物が、薄膜、ゲル、または他の実質的に固体であるかもしくは粘性の高い層の形態にある程度に十分な液体の除去を、それらが結果としてもたらすような条件でありうる。例えば、液体除去は、実質的に不動のコーティング(好ましくは、血液生成物試料であることが好ましい細胞含有試料と接触させると、再溶存するか、または他の形で分散するコーティング)を結果としてもたらしうる。保護剤の実質的な固体形態(例えば、1または複数のペレットの形態にある)を実現するためには、凍結乾燥化、または他の技法も援用しうる可能性がある。したがって、液体除去の条件は、それらが、検討下の試料(例えば、全血液試料)保護剤と接触させると、試料中に分散し、試料中の成分(例えば、細胞外核酸)を実質的に保存する材料を結果としてもたらすような条件でありうる。液体除去の条件は、その結果、残りの組成物が結晶性を実質的に含まず、周囲温度で実質的に不動である程度に十分に高い粘性を有し、またはその両方となるような条件でありうる。
【0095】
しかし、また、液体組成物も使用することができる。液体組成物は、安定化させる試料との混合を迅速に達成することができ、これにより、基本的に、試料を液体の安定化組成物と接触させるとすぐに、即時的な安定化効果がもたらされるという利点を有することが多い。液体の安定化組成物中に存在する安定化剤(複数可)は、溶液中で安定性を維持し、使用者による前処置(例えば、可溶性が限定された沈殿物を溶存させることなど)は、安定化効率を変動させる危険性を提起するため、この種の前処置を要求しないことが好ましい。
【0096】
安定化組成物は、前記容器内に回収される量の試料の安定化をもたらすのに有効な量で容器内に含まれる。一実施形態によれば、液体の安定化組成物を、10:1〜1:20、5:1〜1:15、1:1〜1:10、および1:2〜1:5から選択される容量比で、生物学的試料と接触させる。大試料容量による安定化を、小容量の安定化組成物により達成しうることは、本発明の安定化組成物の特有の利点である。したがって、好ましくは、安定化組成物の試料に対する比は、1:2〜1:7、より好ましくは1:3〜1:5の範囲内にある。
【0097】
一実施形態によれば、容器は、真空である。真空化は、特殊な容量の流体試料を内部へと採取するのに有効であることが好ましい。これにより、適正量の試料が、容器中に含まれる、あらかじめ充填した量の安定化組成物と接触し、したがって、安定化が効率的であることが確認される。一実施形態によれば、容器は、中隔により密閉された開口端を有するチューブを含む。例えば、容器には、固体形態または液体形態にある規定量の安定化組成物をあらかじめ充填し、規定された真空を供給し、中隔で密閉する。中隔は、標準的なサンプリング用の付属品(例えば、カニューレなど)と適合可能であるように構築する。例えば、カニューレと接触させると、真空によりあらかじめ決定された試料量が容器内に回収される。それぞれの実施形態は特に、血液を回収するのに有利である。適する容器は、例えば、US6,776,959において開示されている。
【0098】
本発明による容器は、ガラス、プラスチック、または他の適切な材料から作製することができる。プラスチック材料は、酸素不透過性材料の場合もあり、酸素不透過性層を含有する場合もある。代替的に、容器は、水透過性プラスチック材料および空気透過性プラスチック材料から作製することができる。本発明による容器は、透明な材料から作製されることが好ましい。適切な透明耐熱プラスチック材料の例は、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリエチレンテレフタレートを含む。容器は、回収される生物学的試料の要求される容量に従って選択される適切な大きさでありうる。上記で記載した通り、容器は、大気圧を下回る内圧へと真空化することが好ましい。このような実施形態は、全血液などの体液を回収するのに特に適する。圧力は、所定容量の生物学的試料を、容器へと採取するように選択することが好ましい。このような真空チューブに加えてまた、非真空チューブ、機械分別型チューブ、またはゲルバリア型チューブも、特に、血液試料を回収するための試料容器として使用することができる。適切な容器および止栓デバイスの例は、US5,860,397およびUS2004/0043505において開示されている。細胞含有試料を回収するための容器としてはまた、回収デバイス、例えば、シリンジ、尿回収デバイス、または他の回収デバイスもさらに使用することができる。容器の型はまた、回収される試料の型にも依存する場合があり、適切な容器は当業者にもまた利用可能である。
【0099】
有益な結果は、容器、デバイスのそれぞれに、上記で規定した、式1による少なくとも1つの化合物を安定化剤として充填するかまたはあらかじめ充填する場合に得られる。抗凝血剤を、式1による化合物に加えて包含することが好ましい。抗凝血剤は、EDTAなどのキレート剤であることが好ましい。さらに、容器中に含まれる安定化組成物はまた、アポトーシス阻害剤、好ましくは、カスパーゼ阻害剤も含むことが可能であり、任意選択で、さらなる添加剤も含むことが可能である。一実施形態によれば、容器中に含まれる安定化組成物は、カスパーゼ阻害剤および抗凝血剤を含む。
【0100】
一実施形態によれば、容器は、チャンバーを規定する、開放された上部、底部、およびこれらの間に広がる側壁を有し、本発明による安定化組成物は、チャンバー内に含まれる。本発明による安定化組成物は、その中に液体形態で含まれる場合もあり、固体形態で含まれる場合もある。一実施形態によれば、容器はチューブであり、底部は、閉止された底部であり、容器は、開放された上部における密栓をさらに含み、チャンバーの圧力は低減されている。チャンバー内の圧力の低減の利点については、上記で記載した。密栓は、注射針またはカニューレによる穿刺が可能であり、圧力の低減は、特定の容量の液体試料を、チャンバーへと採取するように選択することが好ましい。一実施形態によれば、チャンバーは、特定の容量の液体試料を、チャンバーへと採取するように選択された圧力に低減されており、安定化組成物は、液体であり、細胞含有試料の特定の容量に対する安定化組成物の容量比が、10:1〜1:20、5:1〜1:15、1:1〜1:10、および1:2〜1:5から選択されるようにチャンバー内に入れる。関連する利点については、上記で記載した。
【0101】
容器は、患者由来の血液を採取するための容器であることが好ましい。
【0102】
第5の態様によれば、試料を、患者から、本発明の第4の態様による容器のチャンバーへと直接回収するステップを含む方法が提供される。容器および試料に関する詳細については、上記で記載した。容器および試料に関する詳細については、それぞれの開示を参照されたい。一実施形態によれば、血液試料は、回収され、好ましくは、患者から引き出される。
【0103】
本明細書で開示される方法および組成物は、生物学的試料中に含まれる細胞に由来し、細胞の損傷および細胞の溶解のそれぞれに起因して生物学的試料中に入る可能性がある核酸、特に、断片化されたゲノムDNAとの混合可能性を低減しながら、細胞外核酸の効率的な保存および単離を可能とする。本発明による方法のほか、組成物および開示されるデバイス(例えば、回収容器)は、試料中に含有される細胞外核酸が、細胞内核酸のそれぞれと夾雑せず、それぞれの夾雑が、本発明に従う教示により低減されるように、細胞外核酸の分解を低減し、また、細胞の溶解および/またはゲノム核酸の放出、特に、断片化されたゲノムDNAも低減する。上記で論じた通り、細胞外核酸と細胞核酸、特に、断片化されたゲノムDNAとの相互混合は、生物学的試料中の細胞外核酸の量のいかなる測定の精度も低減する可能性がある。上記で論じた通り、本発明の重要な利点は、試料中に含有される細胞(全血液、血漿、または血清の場合は、特に、白血球または白血球の型)および細胞外核酸の両方を、本質的に同時に安定化させる可能性である。これは、ゲノムDNAなどの細胞内核酸が、細胞外核酸の構造的な完全性もまた維持しながら、試料の無細胞部分へと放出され、含まれる対象の細胞外核酸(および関連するバイオマーカー)をさらに希釈することを防止する一助となる。本明細書で論じられる通り、全血液または血漿などの細胞含有生物学的試料を、安定化剤(複数可)と接触させることにより、細胞外核酸を単離する前の時間にわたり、試料を保存することが可能となる。細胞含有生物学的試料、例えば、血液または血漿は、1カ所(例えば、医療施設)で採取し、安定化剤(複数可)と接触させ、核酸の単離工程および検査工程のために、異なる遠隔地(例えば、検査室)へと後日輸送しうることがより好ましい。
【0104】
さらに、上記で詳細に記載した通り、本明細書で記載される安定化技術は、細胞内核酸を安定化させ、特に、転写レベルを安定化させることを可能とする。さらに、細胞は、試料から単離し、これにより、例えば、腫瘍細胞、例えば、血液試料中の循環腫瘍細胞などの特異的な細胞集団の解析を可能とすることができる。利点および技術的効果については、上記で詳細に記載したものであり、上記の開示が参照される。
【0105】
さらに、本発明による試料の安定化は、このような架橋形成試薬の使用を伴わないので、本明細書で開示される安定化試薬は、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド放出剤などの架橋形成試薬の使用を伴う、公知の最新技術の安定化試薬を凌ぐ利点を提供する。架橋形成試薬は、核酸間の分子間共有結合もしくは分子内共有結合、または核酸とタンパク質との間の分子間共有結合もしくは分子内共有結合を引き起こす。この効果は、複合生物学的試料からの精製または抽出の後における、このような安定化させ、かつ、部分的に架橋した核酸の回収を低減させうる。例えば、全血液試料中の循環核酸の濃度は、既に比較的低濃度であるので、このような核酸の収率をさらに低減するいかなる措置も回避すべきである。これは、悪性腫瘍または妊娠の第1周産期において発生しつつある胎児に由来する、極めて希少な核酸分子を検出し、解析する場合に特に重要でありうる。したがって、一実施形態によれば、ホルムアルデヒド放出剤は、安定化組成物中に含まれることも、それぞれ安定化のためにさらに使用されることもない。
【0106】
したがって、一実施形態によれば、ホルムアルデヒドなどの架橋剤またはホルムアルデヒド放出剤は、安定化組成物中に含まることも、それぞれ安定化のためにさらに使用されることもない。したがって、本明細書では、安定化組成物は、核酸−核酸間、核酸−タンパク質間、特に、タンパク質−DNA間、および/またはタンパク質−タンパク質間の架橋を誘導する架橋剤を含まない。特に、安定化組成物は、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、またはホルムアルデヒド放出剤を含まない。さらに、記載される通り、安定化組成物は、例えば、カオトロピック塩など、細胞の溶解を誘導するいかなる添加剤も含まないことが好ましい。
【0107】
以下では、特に好ましい実施形態について再度記載する。
【0108】
第1の態様では、本発明は特に、試料を、式1
【化3】
による少なくとも1つの化合物と接触させることにより、細胞含有生物学的試料を安定化させるための方法であって、式中、R1は、水素残基またはアルキル残基であり、R2およびR3は、直鎖状または分枝状に配置された炭素鎖の長さが原子1〜20個である同一のまたは異なる炭化水素残基であり、R4は、酸素、硫黄、またはセレニウム残基であり、式1による前記化合物がN,N−ジアルキルプロパンアミドである方法を対象とする。
【0109】
一実施形態によれば、式1による化合物は、N,N−ジメチルプロパンアミドである。一実施形態によれば、式1による少なくとも1つの化合物は、任意選択で、さらなる添加剤を含み、試料と接触させる安定化組成物中に含まれる。一実施形態によれば、細胞含有試料は、体液、血液、軟膜、白血球、血漿、血清、および尿から選択され、好ましくは、試料は、血液試料である。一実施形態によれば、細胞含有試料は、血液試料であり、抗凝血剤とさらに接触させる。一実施形態によれば、試料中に存在する核酸の分解は、安定化により低減される。
【0110】
一実施形態によれば、細胞内RNAを安定化させる。一実施形態によれば、含有される細胞のトランスクリプトーム、特に、mRNAの発現プロファイル、および/または含有される細胞内の転写レベルを安定化させる。特に、c−fos、IL−1ベータ、IL−8、およびp53から選択される1または複数のマーカー遺伝子の転写レベルを、安定化の際少なくとも48時間にわたり安定化させる。
【0111】
一実施形態によれば、方法は、細胞含有試料中に含まれる細胞外核酸集団を安定化させるのに適する。試料中に含有される細胞から試料のうちの無細胞部分へのゲノムDNAの放出を低減することが好ましい。
【0112】
一実施形態によれば、細胞含有生物学的試料中に含まれる細胞を安定化させる。安定化は、安定化試料からの細胞の単離を可能とすることが好ましい。細胞含有試料は、血液試料であり、白血球を安定化させることが好ましい。特に、方法は、以下の特徴:
a)細胞の形態を保存すること、
b)有核細胞の形態を保存すること、
c)試料は、血液試料であり、含有されるリンパ球および/もしくは単球を安定化させること、
d)細胞表面エピトープを保存すること、ならびに/または
e)細胞表面タンパク質を保存すること
のうちの1または複数を有する。
【0113】
一実施形態によれば、方法は、血液試料を安定化させるための方法であり、血液試料を、N,N−ジアルキルプロパンアミドおよび抗凝血剤と接触させるステップを含み、含有される細胞内の転写レベルを安定化させる。
一実施形態によれば、方法は、以下の特徴:
a)安定化が、細胞含有試料中に含有される有核細胞の溶解を促進しないこと、
b)安定化法が、試料の架橋を伴わずに実施されること、ならびに/または
c)安定化が、核酸−核酸間、タンパク質−核酸間、および/もしくはタンパク質−タンパク質間の架橋を誘導する架橋剤の使用を伴わないこと
のうちの1または複数を有する。
【0114】
一実施形態によれば、細胞含有試料を、アポトーシス阻害剤とさらに接触させる。アポトーシス阻害剤は、好ましくは、カスパーゼ阻害剤であり、より好ましくは、汎カスパーゼ阻害剤である。
一実施形態によれば、核酸を、安定化試料から単離する。特に、方法は、以下の特徴:
a)安定化組成物中にN,N−ジアルキルプロパンアミドおよび任意選択でさらなる添加剤が含まれ、細胞含有試料の指定容量に対する安定化組成物の容量比が、10:1〜1:20、5:1〜1:15、1:1〜1:10、および1:2〜1:5から選択されること、
b)安定化細胞含有試料を、核酸解析法および/もしくは核酸検出法に供すること、
c)細胞内および/もしくは細胞外核酸を安定化試料から単離し、単離核酸を解析および/もしくは検出すること、
d)安定化試料中に含まれる細胞を除去すること、ならびに/または
e)(i)細胞含有生物学的試料、(ii)細胞を除去した安定化試料、および/もしくは(iii)試料から除去した細胞を保存すること
のうちの1または複数を有する。
【0115】
一実施形態によれば、細胞を、安定化試料から除去する。特に、除去された細胞を解析し、そして/または核酸またはタンパク質などの生体分子を、除去された細胞から単離する。一実施形態によれば、RNAを、安定化試料中に含有される細胞から単離する。
【0116】
第2の態様では、本発明は特に、核酸を生物学的試料から単離するための方法であって、
a)本発明の第1の態様による方法に従って細胞含有試料を安定化させるステップと、
b)核酸を安定化試料から単離するステップと
を含む方法に関する。
【0117】
一実施形態によれば、ステップb)は、細胞内核酸、好ましくは、細胞内RNAを単離するステップを含む。特に、方法は、細胞を安定化試料から除去するステップと、核酸を除去された細胞から単離するステップとを含む。一実施形態によれば、ステップb)は、細胞外核酸を単離するステップを含む。
【0118】
一実施形態によれば、細胞を残りの試料から分離し、細胞外核酸を残りの試料から単離する。
【0119】
一実施形態によれば、試料は、血液である。
【0120】
一実施形態によれば、単離核酸を、さらなるステップc)において、処理および/または解析し、好ましくは、
i)修飾し、
ii)少なくとも1つの酵素と接触させ、
iii)増幅し、
iv)逆転写させ、
v)クローニングし、
vi)配列決定し、
vii)プローブと接触させ、
viii)検出し、
ix)定量化し、
ix)同定し、そして/または
x)遺伝子発現プロファイリングについて解析する。
【0121】
第3の態様では、本発明は特に、細胞含有生物学的試料を安定化させるのに適する組成物であって、
a)式1
【化4】
による少なくとも1つの化合物であって、式中、R1は、水素残基またはアルキル残基であり、R2およびR3は、直鎖状または分枝状に配置された炭素鎖の長さが原子1〜20個である同一のまたは異なる炭化水素残基であり、R4は、酸素、硫黄、またはセレニウム残基であり、式1による前記化合物がN,N−ジアルキルプロパンアミドである化合物と、
b)少なくとも1つの抗凝血剤と
を含む組成物に関する。
【0122】
一実施形態によれば、N,N−ジアルキルプロパンアミドは、N,N−ジメチルプロパンアミドである。
【0123】
一実施形態によれば、抗凝血剤は、キレート剤である。一実施形態によれば、細胞含有試料は、血液試料である。一実施形態によれば、組成物は、アポトーシス阻害剤を含む。一実施形態によれば、組成物は、含有される細胞の遺伝子転写プロファイルを安定化させることが可能であり、かつ/または細胞含有試料中に含まれる細胞外核酸集団を安定化させることが可能である。
【0124】
一実施形態によれば、組成物は、以下の特徴:
a)細胞を安定化させ、細胞含有生物学的試料中に含有される細胞から試料のうちの無細胞部分へのゲノムDNAの放出を低減することが可能であること、
b)生物学的試料中に含まれる細胞外DNA集団の、安定化試料中に含有される細胞に由来するゲノムDNAによる希釈を低減することが可能であること、
c)生物学的試料中に含まれる細胞外核酸集団の、安定化試料中に含有される細胞に由来する細胞内核酸による希釈を低減することが可能であること、
d)安定化組成物が、細胞の溶解を誘導または促進する濃度で添加剤を含まないこと、
e)安定化組成物が、タンパク質−DNA間および/もしくはタンパク質−タンパク質間の架橋を誘導する架橋剤を含まないこと、
f)安定化組成物が、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、もしくはホルムアルデヒド放出剤を含まないこと、
g)安定化組成物が、毒性作用物質を含まないこと、ならびに/または
h)安定化組成物が、細胞含有生物学的試料中に含まれる細胞外核酸集団を、冷蔵せずに、好ましくは室温で、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも2日間〜3日間、少なくとも2日間〜6日間、および/もしくは少なくとも2日間〜7日間から選択される期間、安定化させることが可能であること
のうちの1または複数を有する。
【0125】
一実施形態によれば、安定化組成物を血液試料と接触させて、c−fos、IL−1ベータ、IL−8、およびp53から選択される1または複数のマーカー遺伝子の転写レベルを、安定化の際少なくとも48時間にわたり安定化させ、安定化組成物の細胞含有試料に対する容量比を、10:1〜1:20、5:1〜1:15、1:1〜1:10、および1:2〜1:5から選択することが好ましい。
【0126】
一実施形態によれば、試料は、血液試料であり、白血球、好ましくは、リンパ球、または試料中に含有される他の細胞の形態および/またはこれらの上の細胞表面エピトープを保存する。安定化組成物を、生物学的試料との混合物として提供することが好ましい。
【0127】
一実施形態によれば、安定化組成物は、生物学的試料との混合物として提供され、前記試料は、以下の特徴:
a)細胞外核酸を含むこと、
b)全血液であること
のうちの1または複数を有する。
【0128】
本発明は、本発明の第1の態様による安定化法における、本発明の第3の態様による組成物の使用をさらに対象とする。
【0129】
第4の態様では、本発明は特に、細胞含有生物学的試料、好ましくは、血液、血漿または血清試料を回収するのに適する容器であって、細胞含有生物学的試料中に含まれる細胞外核酸集団を安定化させるのに適する安定化組成物を含み、前記安定化組成物が、式1
【化5】
による少なくとも1つの化合物を含み、式中、R1は、水素残基またはアルキル残基であり、R2およびR3は、直鎖状または分枝状に配置された炭素鎖の長さが原子1〜20個である同一のまたは異なる炭化水素残基であり、R4は、酸素、硫黄、またはセレニウム残基であり、式1による前記化合物がN,N−ジアルキルプロパンアミドである容器を対象とする。
【0130】
一実施形態によれば、式1による化合物は、N,N−ジメチルプロパンアミドである。一実施形態によれば、安定化組成物は、抗凝血剤、好ましくは、キレート剤をさらに含む。一実施形態によれば、安定化組成物は、アポトーシス阻害剤、好ましくは、カスパーゼ阻害剤、より好ましくは、汎カスパーゼ阻害剤をさらに含む。一実施形態によれば、安定化組成物は、核酸/核酸間、タンパク質−核酸間、および/またはタンパク質−タンパク質間の架橋を誘導する架橋剤を含まない。
【0131】
一実施形態によれば、安定化組成物は、本発明の第3の態様による組成物である。
【0132】
一実施形態によれば、容器は、本発明の他の態様について本明細書で規定された特色のうちの1または複数を有する。
【0133】
第5の態様では、本発明は、試料を、患者から、本発明の第4の態様による容器のチャンバーへと回収するステップを含む方法を対象とする。
【0134】
本発明は、本明細書で開示される例示的な方法および材料により限定されず、本明細書で記載される方法および材料と同様または同等の任意の方法および材料も、本発明の実施形態の実施または試行において使用することができる。数値範囲は、範囲を規定する数を含む。本明細書で提示される表題は、全体としての明細書を参照することにより読み取られうる、本発明の多様な態様または実施形態の限定ではない。
【0135】
本明細書で使用される「溶液」という用語は特に、液体組成物、好ましくは、水性組成物を指す。溶液は、唯一の相の均一の混合物でありうるが、また、溶液が、例えば、含まれる化学的薬剤の、例えば、沈殿物などの固体添加剤を含むことも本発明の範囲内にある。
【0136】
ヌクレオチド数(nt)に照らして本明細書で指し示されるサイズおよびサイズ範囲のそれぞれは、鎖長を指し、したがって、一本鎖分子のほか、二本鎖分子の長さについて記載するためにも使用される。二本鎖分子では、前記ヌクレオチドは、対合している。
【0137】
一実施形態によれば、方法の場合ならある種のステップを含むものとして、または組成物の場合ならある種の成分、溶液、および/もしくは緩衝液を含むものとして本明細書で記載される対象物は、それぞれのステップまたは成分からなる対象物を指す。本明細書で記載される好ましい実施形態を選択し、組み合わせることが好ましい。好ましい実施形態のそれぞれの組合せから得られる特殊な対象物もまた、本開示に属する。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【表1-13】
【表1-14】
【表1-15】
【実施例】
【0138】
以下の実施例では、本発明の材料および方法が提示される。これらの例は、例示的な目的だけのものであり、いかなる形であれ、本発明を限定するものとみなされるべきではないことを理解されたい。
【0139】
I.N,N−ジアルキルプロパンアミドの細胞安定化特性および転写レベル安定化特性
(実施例1)
血液試料を安定化させるためのN,N−ジメチルプロパンアミドの使用
選択される遺伝子(c−fos、IL−1ベータ、IL−8、p53)からの一定の転写レベルにより指し示される、遺伝子転写物の安定化能を有する試薬組成物の同定を可能とする試験系および研究設定を確立した。先行研究では、これらの転写物は、保存時の、血液回収後数分間以内に、誘導または下方制御(転写物の増大および喪失)される、極めて不安定的な転写物として同定され、したがって、スクリーニングの目的では「ワーストケース」マーカーとして選択された。
【0140】
さらに、RNA調製プロトコールの、転写レベルの解析に対する任意の可能な影響を除外するために、試料安定化の[+]対照のために使用される同じRNA調製技術を、試料安定化の[−]対照および被験試料を安定化させるためにも使用した。
【0141】
血液を、複数のドナーから、複数連のEDTA血液チューブ(BD;試料安定化の[−]対照)および試料安定化の[+]対照として用いられるPAXgene Blood RNA Tube(PreAnalytiX)へと回収した。PAXgene Blood RNA Tube(また、背景技術も参照されたい)は、細胞を溶解させ、これにより、遺伝子転写プロファイルを「凍結」させる組成物を含有する。PAXgene Blood RNA Tubeは、遺伝子発現解析のために血液を安定化させるためのものである。1つの目的は、細胞の溶解に基づかず、転写レベルの安定化において、PAXgene Blood RNA Tubeと同じであるかまたは同様の効能を達成する安定化法を見出すことであった。したがって、PAXgene Blood内で回収され、したがって、その中に含有される安定化組成物で処置された試料を、実験の設定では、陽性対照として使用した。血液回収の直後において、EDTA血液試料の半分を、細胞および転写物の安定化試験溶液で処置し、血液被験試料を結果としてもたらした。1mlの安定化添加剤を、9mlのEDTA血液へと添加した。血液およびスタビライザー溶液は、8〜10回にわたるチューブの反転により混合した。全ての血液チューブは、RTで0、24、および72時間にわたりインキュベートした。インキュベーションを伴わない(0時間後の試験時点)として規定されたPAXgene Blood RNA Tubeは、RNAを、PAXgene Blood RNA Tubeから単離するのに要求される最小限の細胞溶解時間およびRNA沈殿時間であるので、2時間にわたりインキュベートした。インキュベーションの後、PAXgene Blood RNA Tube試料を、−20℃で凍結させる一方、2.5mlずつのEDTA血液およびスタビライザーと混合されたEDTA血液試料のアリコートを、0時間後の試験時点または安定化後の時間において、PAXgene Blood RNA Tubeへと移し、記載したチューブの反転により混合し、PAXgene Blood RNA Tube内で6時間にわたり、溶解させるためにインキュベートした後、−20℃で保存した。
【0142】
融解およびチューブの室温への平衡化の後で、ハンドブックに記載されているプロトコールに従って、PAXgene 96 Blood RNA Kit(QIAGEN)により、最終的にPAXgene Blood RNA Tube内に入れた全ての血液試料からのRNAの調製を実施した。
【0143】
RNAの量(RNAの収率)および質(RNAの純度、RNAの完全性)は、UV分光法およびRINの計算を伴う小型キャピラリーゲル電気泳動(Nanochips on Agilent Bioanalyzer)により測定した。
【0144】
全てのRNA試料の転写レベルは、FOS、IL1B、IL8、およびTP53のモノプレックスアッセイを使用して、リアルタイムRT−PCRにより解析し、反応へと投入された鋳型の量に照らして標準化した。転写物の量を反映する、結果として得られるCT値を直接比較した。血液試料のRTでのインキュベーションから影響を受けなかった相対転写レベルが、一定のCT値により指し示される一方で、転写物の増大(例えば、遺伝子の誘導による)は、CTの低下により指し示され、転写物の喪失(例えば、遺伝子の抑制による)は、高CT値の上昇により指し示された。
【0145】
細胞および細胞表面エピトープの完全性は、蛍光コンジュゲートした抗CD3抗体を使用して、蛍光活性化細胞分取(FACS)により解析した。
【0146】
N,N−ジメチルプロパンアミド(DMPA)を、N,N−ジアルキルプロパンアミドである、式1による化合物の例として、材料および方法において記載した、転写物および白血球を安定化させるその潜在的可能性について調べた。血液は、8例のドナーから、異なるチューブへと回収し、処置せずに対照として保持するか、または1mlの安定化添加剤(N,N−ジメチルプロパンアミドに対する容量比50%であり、pH5.5で5倍濃度のMOPS緩衝液)を、9mlのEDTA血液へと添加することにより処置した。血液の混合、インキュベーション、血液試料アリコートのPAXgene Blood RNA Tubeへの移動、凍結、保存およびRNAの調製は、上記で記載した通りに行った。RNAは、上記で記載した転写レベル解析にかけた。
【0147】
加えて、安定化試料中の細胞および細胞表面エピトープの完全性を、蛍光活性化細胞分取(FACS)により解析した。詳細を述べると、リンパ球に特異的な細胞エピトープであるCD3を指向する蛍光コンジュゲート抗体(PE標識された抗CD3)の結合により、細胞表面タンパク質の存在および接近可能性を解析したが、他の白血球亜型(単球、好中球)は、CD3陰性である。本実施例において得られた全ての結果を、
図1〜
図5に示す。
【0148】
予測される通り、4つの選択された遺伝子由来の転写物の相対レベルは、PAXgene Blood RNA Tube内では安定性を維持し、スタビライザーを施されないEDTAチューブ内では変化した(ex vivoにおけるFOS、IL8の遺伝子の誘導/転写物の増大、およびIL1B、TP53の遺伝子の抑制/転写物の喪失)。スタビライザーであるDMPAと混合されたEDTA血液試料は、血液試料を保存する時間経過にわたる、CT値の不変化またはわずかな最小限だけの変化により指し示される発現レベルの安定化を示した(
図1〜4を参照されたい)。したがって、DMPAにより安定化させると、遺伝子発現プロファイルは、PAXgene RNA Tubeについて見られる効果と同様に「凍結」された。しかし、DMPAで処置された試料中では、細胞が保存され、これにより、細胞の個別の解析が可能となった。
【0149】
未処置のEDTA血液(FACS[+]対照[EDTA])では、室温で3日間にわたる血液のインキュベーションであるこの試験シリーズの最後のインキュベーション試験時点まで、リンパ球が検出された。また、安定化添加剤(DMPAに対する容量比5%の試験溶液)で処置されたEDTA血液中のリンパ球も、最長で3日間にわたり検出可能であった(
図5を参照されたい)。FACS(−)対照(EDTA)試料中では、特異的な蛍光シグナルが検出されなかったのに対し、EDTAチューブへと回収された他の全ての試料であって、処置せずに保持された試料、およびスタビライザーであるDMPAで処置された試料である、新鮮な血液およびインキュベートされた血液による試料は、特異的なリンパ球の存在を示した。したがって、DMPAによる安定化は、安定化試料中に含有される細胞の解析を可能とする。
【0150】
したがって、実施例1は、RNAを、スタビライザーとしてのN,N−ジメチルプロパンアミド(DMPA)で処置された血液試料から、効率的に単離しうることを示す。抽出されたRNAは、RT−PCR解析に適し、転写レベルは、DMPAと混合された血液中、室温で長時間にわたり効率的に安定化された。さらに、N,N−ジメチルプロパンアミド(DMPA)で処置された血液中では、リンパ球はインタクトであり、細胞表面エピトープ(細胞膜タンパク質)も検出可能であった。したがって、N,N−ジメチルプロパンアミドなどの、式1によるN,N−ジアルキルプロパンアミドは、転写レベルを安定化させる有効な安定化剤であり、したがって、転写レベルの変化を阻害することにより、遺伝子転写プロファイルを安定化させ、解析のために、細胞を、安定化試料から単離しうるように、細胞を安定化させることもさらに可能である、有効な安定化剤である。
【0151】
II.N,N−ジアルキルプロパンアミドを、単独またはカスパーゼ阻害剤と組み合わせて使用する、血液試料中の細胞外核酸集団の安定化
材料および方法
単独であるかまたはカスパーゼ阻害剤と組み合わせた、N,N−ジメチルプロパンアミド(DMPA)を、細胞含有生物学的試料、本明細書では、全血液試料を安定化させるその能力について調べた。下記の実施例から見ることができる通り、DMPAは、血液試料を効率的に安定化させ、特に、安定化血液試料中に含まれる細胞からのゲノムDNAの放出を阻害することが見出された。したがって、N,N−ジアルキルプロパンアミドは、細胞外核酸集団を安定化させることが可能である。さらに、カスパーゼ阻害剤と組み合わせたN,N−ジアルキルプロパンアミドが、安定化効果の達成を改善するのに有利であることも判明した。それぞれの組合せは、安定化効果の延長を結果としてもたらし、さらに、異なるドナーから得られる血液試料について達成される安定化効果の変動の減少も示した。これは、細胞外核酸集団を保存する血液試料について均一で信頼できる安定化法をもたらすので、重要な利点である。
【0152】
血液の回収および安定化
ドナーから得られた血液を、10mlのK2 EDTAチューブ(BD)へと回収した。回収された4.5mlずつの血液を、0.9mlの異なる安定化溶液(被験安定化溶液の詳細についての下記の実施例を参照されたい)と混合した。
【0153】
全ての安定化血液試料を、1つの条件および1つの試験時点につき3連で準備した。時点0(基準時点)では、安定化溶液と血液とを混合した直後に、血漿を生成させ、循環細胞外DNAを抽出した。残りの安定化血液試料は、室温で3日間および6日間にわたり保存した。
【0154】
また、基準対照として、EDTA安定化血液試料(さらなる添加剤を伴わずに、K2 EDTAチューブ内で回収された)も、3日間および6日間にわたり保存した。さらに、実施例で指し示されている通り、カスパーゼ阻害剤およびN,N−ジメチルアセトアミド(DMAA)を含む安定化溶液も、比較に組み入れた(前記安定化溶液を血液試料へと添加する場合に得られる混合物中の最終濃度:1ml当たり7.2mgのK2 EDTA、1μMのQuinoline−Val−Asp−CH2−OPH(カスパーゼ阻害剤)および5%のDMAA)(未公開のPCT/EP2012/070211およびPCT/EP2012/068850を参照されたい)。本明細書における被験DMAA安定化試料は、さらなるカスパーゼ阻害剤を常に含んだ。後続の例では、カスパーゼ阻害剤を伴わないDMAA含有安定化溶液については調べなかった。
【0155】
細胞外核酸の単離および解析
血漿は、血液を含有するチューブを4回にわたり反転させることにより、安定化血液試料および非安定化(EDTA)血液試料から作り出した。次いで、チューブを、4℃、1900×gで10分間にわたり遠心分離した。2.5mlの血漿画分を、未使用の15mlのfalconチューブへと移し、4℃、16,000×gで10分間にわたり遠心分離した。製造元の指示書に従って、QIAamp循環核酸キット(QIAGEN)を使用して、細胞外核酸を単離するために清澄化した2mlずつの血漿を使用した。
【0156】
異なる断片長の18SリボソームDNA:
18SリボソームDNA:66bpの単位複製配列
18SリボソームDNA:500bpの単位複製配列
をターゲティングする2つの異なるqPCRアッセイを使用して、単離細胞外DNAを解析した。
【表2】
【0157】
gDNAの検量線に従って、個別の試料のサイクル閾値を、溶出物中のgDNA量へと変換した。保存時点のgDNA量を、同じドナー由来の時点ゼロのgDNAレベルと比較し、倍数の増大として図に示す。とりわけ、保存後における、血液試料の血漿画分中の500bpの断片の増大は、白血球の溶解/破壊の指標である。したがって、500bpのDNAの放出量が少ないほど、安定化法の効能は大きい。
【0158】
結果
後出で記載される例に対応する結果を示す図は、異なる単位複製配列長の18S rRNA遺伝子を使用する、異なる安定化溶液による、時点0に照らしたDNAの増大(倍数変化)を示す。バーは、条件および試験時点についての3連試料の平均を指し示す。
【0159】
(実施例2)
カスパーゼ阻害剤を伴わずにN,N−ジメチルプロパンアミドを使用する安定化
実施例2では、異なる濃度のN,N−ジメチルプロパンアミド(DMPA)を、異なるドナーから得られる血液試料を安定化させるために使用した。解析の焦点は、18S rDNAの増大を解析することにより決定される、細胞外核酸集団の安定化であった。試料の安定化および処理は、IIの下の「材料および方法」において記載した通りに実施した。
【0160】
カスパーゼ阻害剤を伴わない安定化溶液は、異なる濃度のN,N−ジメチルプロパンアミドおよびEDTAを含んだ。これらの安定化溶液を血液試料へと添加して、血液/安定化溶液混合物中の以下:7.2mgのK2 EDTA/mlおよび異なる濃度のN,N−ジメチルプロパンアミド(1.5%、2%、または2.5%)の最終濃度を得た。DMAA安定化試料(5%)はまた、基準としても組み入れた。
【0161】
図6および7は、血液を異なる濃度のDMPAにより安定化させた場合に得られる安定化結果を示す。N−メチルホルムアミドで安定化させた試料中の18S rDNAの増大の著明な低減から見ることができる通り、DMPAをスタビライザーとして異なる濃度で含む被験安定化組成物は、細胞外核酸集団を安定化させるのに有効であった。安定化剤はDMPAだけであり、低濃度を使用した場合であっても、被験の全安定化時間(最長6日間)にわたり、安定化効果を見ることができた。
【0162】
(実施例3)
N,N−ジメチルプロパンアミドおよびカスパーゼ阻害剤による安定化
2例の異なるドナー由来の血液を、10mlのK2 EDTAチューブ(BD)へと回収した。それぞれ回収された4.5mlずつの血液を、N,N−ジメチルプロパンアミド、EDTA、およびカスパーゼ阻害剤を含む0.9mlの安定化溶液と混合した。これにより、血液/安定化混合物中に以下の最終濃度:
7.2mgのK2 EDTA、1μMのQuinoline−Val−Asp−CH2−OPH(カスパーゼ阻害剤)、および2.5%、5%、または7.5%(v/v)のN,N−ジメチルプロパンアミド、または5%(v/v)のDMAAのそれぞれが得られた。
【0163】
全ての安定化血液試料を、1つの条件および1つの試験時点につき3連で準備した。時点0(基準時点)では、安定化溶液と血液とを混合した直後に、血漿を生成させ、ccfDNAを抽出した。残りの血液試料は、室温で3日間および6日間にわたり保存した。また、対照として、EDTA安定化血液試料も3日間および6日間にわたり保存した。血液を含有するチューブを4回にわたり反転させることにより、安定化血液試料および非安定化(EDTA)血液試料から血漿を生成させた。次いで、チューブを、3,000rpm/1912×gで15分間にわたり遠心分離した。2.5mlの血漿画分を、未使用の15mlのfalconチューブへと移し、16,000×gで10分間にわたり遠心分離した。QIAamp循環核酸キットを使用して、細胞外核酸を単離するために、清澄化した2mlずつの血漿を使用した。
【0164】
結果を、
図8および9に示す。時点0に照らした、単位複製配列の長さが異なる18S rRNA遺伝子を使用する、2.5%、5%、および7.5%のN,N−ジメチルプロパンアミドまたは5%のDMAAによる、DNAの増大(倍数変化)を示す。バーは、条件および試験時点についての3連試料の平均を指し示す。本発明による全ての溶液は、室温で3および6日間にわたる保存後において、非安定化EDTA血液と比較して、著明に低量のDNAの放出を示し、DMAAと同等の結果を示す。
【0165】
(実施例4)
N,N−ジメチルプロパンアミドおよびカスパーゼ阻害剤による安定化
2例の異なるドナー由来の血液を、10mlのK2 EDTAチューブ(BD)へと回収した。それぞれ回収された4.5mlずつの血液を、K2 EDTA、Quinoline−Val−Asp−CH2−OPH(カスパーゼ阻害剤:DMSO中に溶存させた)、および異なる濃度のN,N−ジメチルプロパンアミド(DMPA)またはDMAAを含有する、0.9mlの安定化溶液と混合した。試料の安定化および処理は、IIの下の「材料および方法」において記載した通りに実施した。
【0166】
血液/安定化混合物中に以下の最終濃度:
1ml当たり7.2mgのK2 EDTA、1μMのQuinoline−Val−Asp−CH2−OPH(カスパーゼ阻害剤)、および異なる濃度のN,N−ジメチルプロパンアミド(N,N dimethylporpanamide)(2.5%、5%、または7.5%)、または5%のDMAA
を得た。
【0167】
結果を、
図10および11に示す。解析の焦点は、18S rDNAの増大を解析することにより決定される、細胞外核酸集団の安定化であった。時点0に照らした、単位複製配列の長さが異なる18S rRNA遺伝子を使用する、2.5%、5%、および7.5%のN,N−ジメチルプロパンアミド(DMPA)またはカスパーゼ阻害剤を伴う5%のDMAAによる、DNAの増大(倍数変化)を示す。バーは、条件および試験時点についての3連試料の平均を指し示す。見られる通り、本発明による溶液は、室温で3および6日間にわたる保存後において、非安定化EDTA血液と比較して、著明に低量のDNAの放出を示し、安定化DMAA+カスパーゼ阻害剤と同等の結果を示した。したがって、細胞外核酸集団の安定化が達成された。さらに、溶血が生じたのかどうかを解析するために、得られた血漿を精査した。特に、2.5%および5%のDMPAで安定化させた血液試料から得られる血漿試料は、溶血の徴候を示さなかった。
【0168】
(実施例5)
N,N−ジメチルプロパンアミドおよびカスパーゼ阻害剤による安定化
実施例5では、血液試料を安定化させるために、異なる濃度のDMPAを、カスパーゼ阻害剤と組み合わせて使用した。解析の焦点は、18S rDNAの増大を解析することにより決定される、細胞外核酸集団の安定化であった。試料の安定化および処理は、IIの下の「材料および方法」において記載した通りに実施した。
【0169】
安定化溶液は、異なる濃度のDMPA、カスパーゼ阻害剤、およびEDTAを含んだ。これらの安定化溶液を血液試料へと添加して、血液/安定化溶液混合物中の以下の最終濃度:
1ml当たり7.2mgのK2 EDTA、1μMのQuinoline−Val−Asp−CH2−OPH(カスパーゼ阻害剤)、および異なる濃度のDMPA(詳細については、図を参照されたい)
を得た。
【0170】
図12〜16は、異なるドナー由来の血液について得られる安定化結果を示し、血液試料は異なる濃度のDMPA(詳細については、図を参照されたい)およびカスパーゼ阻害剤で安定化させた。DMPA安定化試料中の18S rDNAの増大の著明な低減から見ることができる通り、DMPAを異なる濃度で含む被験安定化組成物は、細胞外核酸集団を安定化させるのに有効であった。したがって、異なる濃度でカスパーゼ阻害剤と組み合わせたDMPAは、血液試料を安定化させるのに高度に有効である。