(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-531483(P2015-531483A)
(43)【公表日】2015年11月2日
(54)【発明の名称】バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20151006BHJP
C12Q 1/48 20060101ALI20151006BHJP
C12Q 1/533 20060101ALI20151006BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20151006BHJP
A61P 33/06 20060101ALI20151006BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20151006BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/48 ZZNA
C12Q1/533
C12M1/34 E
A61P33/06
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-531639(P2015-531639)
(86)(22)【出願日】2013年9月12日
(85)【翻訳文提出日】2015年5月12日
(86)【国際出願番号】GB2013052391
(87)【国際公開番号】WO2014041356
(87)【国際公開日】20140320
(31)【優先権主張番号】1216562.7
(32)【優先日】2012年9月17日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】500056231
【氏名又は名称】アイシス・イノベーション・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ISIS INNOVATION LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100156111
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】クリメント・カサルス−パスクアル
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
4B063
4C084
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045DA20
4B029AA07
4B029BB11
4B029BB16
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4C084ZB38
(57)【要約】
対象のマラリア状態を決定する方法であって、対象から得られる生物サンプルを準備し;生物サンプル中のPF10_0121 (ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ, pHPRT)および/またはPF11_0208 (ホスホグリセリン酸ムターゼ, pPGM)のレベルまたは存在を測定する工程を含む方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のマラリア状態を決定する方法であって、
i. 対象から得られる生物サンプルを準備し;
ii. 生物サンプル中のPF10_0121 (ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ, pHPRT)および/またはPF11_0208 (ホスホグリセリン酸ムターゼ, pPGM)のレベルまたは存在を測定する
工程を含む方法。
【請求項2】
pHPRTおよび/またはpPGMの存在が、対象のマラリアの指標/診断である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1以上の予め決められた参照値と工程(ii)で測定されたレベルを比較する工程をさらに含む、請求項1〜2の1項以上に記載の方法。
【請求項4】
pHPRTの存在が、急性または症候性マラリアの診断である、請求項1〜3の1項以上に記載の方法。
【請求項5】
マラリアを診断する;マラリアを有する対象の予後について助言する;疾患の進行をモニターする;および特定の処置への対象の有効性または応答をモニターする、の何れか1つ以上のために方法を使用する、請求項1〜4の1項以上に記載の方法。
【請求項6】
対象のための適切な処置を決定する方法であって、
(a) 対象から得た生物サンプルを準備する;
(b) 当該対象の生物サンプル中のpHPRTおよび/またはpPGMのレベルまたは存在を測定する;および
(c) (b)の結果を使用して最も適切な治療を決定する
工程を含む方法。
【請求項7】
サンプル中のpHPRTおよび/またはpPGMの存在が、対象が、マラリアを有するとして処置されるべきであり、抗マラリア剤を投与されるべきであることを示す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)で測定されたpHPRTおよび/またはpPGMのレベルを、工程(c)の前に1以上の予め決められた参照値と比較するさらなる工程を含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
マラリアを有する対象の特定の処置への応答を決定する方法であって、
(a) 対象から得た生物サンプルを準備する;
(b) 対象の生物サンプル中のpHPRTおよび/またはpPGMのレベルを測定する;
(c) 工程(b)で測定したpHPRTおよび/またはpPGMのレベルを1以上の参照値と比較する
工程を含む方法。
【請求項10】
参照値が、同じ対象の以前のサンプル中のpHPRTおよび/またはpPGMのレベルである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
対象において、マラリアを診断する方法であって、
i. 対象から得た生物サンプルを入手する;
ii. 生物サンプル中のPF10_0121 (ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ, pHPRT)および/またはPF11_0208 ホスホグリセリン酸ムターゼ, pPGM)の存在と、所望によりそのレベルを測定する;
iii. サンプル中にpHPRTおよび/またはpPGMが存在するならば、マラリアを診断する
ことを含む方法。
【請求項12】
対照において、マラリアを処置する方法であって、
i. 対象から得た生物サンプルを入手する;
ii. 生物サンプル中のPF10_0121 (ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ, pHPRT)および/またはPF11_0208 ホスホグリセリン酸ムターゼ, pPGM)の存在と、所望によりそのレベルを測定する;
iii. サンプル中にpHPRTおよび/またはpPGMが存在するならば、抗マラリア剤を投与する
ことを含む方法。
【請求項13】
生物サンプルが血漿サンプルである、請求項1〜12の1項以上に記載の方法。
【請求項14】
対象によって提供される生物サンプル中のpHPRTおよび/またはpPGMのレベルを測定するための少なくとも1種の試薬を含む、対象のマラリア状態の決定に使用するためのキット。
【請求項15】
ラベルまたは添付文書の形態の、適当な操作パラメーターについての説明書をさらに含む、請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象のマラリア状態を決定するための1種以上のバイオマーカーおよび1種以上の当該バイオマーカーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトのマラリアは、マラリア原虫によって引き起こされる生命を危うくする疾患であり、アフリカの子供が主で、年間約655,000人の死亡原因である。5種のマラリア原虫がヒトマラリアを起こすが、死亡の大多数は熱帯熱マラリア原虫が原因である。重度マラリアで病院に収容される子供の大部分の死亡は最初の24時間以内であるため、マラリア患者を適切に診断して処置することが重大である。
【0003】
マラリア感染を診断する標準的な方法は、光学顕微鏡を用いて血中の寄生虫を視覚化することを要する。しかし、マラリアを診断する研究施設は、多くの資金の乏しい流行地では利用できず、抗マラリア剤の投与は、しばしば非特異的な臨床的症状に基づいている。臨床症状に基づく処置割り付けは、マラリアの過剰診断、したがって抗マラリア剤の過剰使用をもたらし、利用可能な薬物に対する熱帯熱マラリア原虫の耐性増加の一因となっている。その結果、世界保健機関は、全てのマラリアが疑われる症例を、寄生虫をベースとする診断アッセイで確認することを推奨している。熱帯熱マラリア原虫タンパク質を検出するラテラルフロー免疫クロマトグラフィーアッセイ(ディップスティック)をベースとする幾つかの市販の迅速な診断試験(RDT)が開発されており、様々な成功率で実施されている。RDTは比較的安価で使用が簡単であり、その結果は約20分で得られる。
【0004】
マラリアで使用される最も広く利用可能なRDTは、ヒスチジンリッチタンパク質2(HRP 2)、乳酸デヒドロゲナーゼ(pLDH)およびアルドラーゼ(pFBPA)を検出する。これらのマーカーは有用であるが制限がある。例えば、HRP2抗原は、抗マラリア剤で処置後33日まで血中に残留し得る。このため、処置成功をモニターするためにこの試験を使用できない。同様に、現在のおよび最近の感染におけるHRP-2の同定は、高伝染力を有するマラリアの流行地域でのHRP-2の診断的価値を制限する。さらに、hrp2遺伝子のヒスチジンリッチ反復領域の欠損を有する寄生虫集団が報告されている。pLDHは血中に残留しないが、急性感染を起こさないマラリア寄生虫の生殖段階である熱帯熱マラリア原虫生殖母細胞がpLDHを産生し、これにより、急性感染を起こしていた無性生殖形態が排除できているにもかかわらず陽性試験結果を生じ得る。
従って、マラリアのためのさらなるバイオマーカーについての必要性が残存する。
【発明の概要】
【0005】
従って、個体のマラリア状態の指標を与えるために使用され得る、および/またはこのような個体に適切な処置のタイプを評価するために使用され得る1種以上のバイオマーカーを提供することが本発明の目的である。
【0006】
第一の局面において、本発明は、対象のマラリア状態を決定する方法であって、
i. 対象から得られる生物サンプルを準備し;
ii. 生物サンプル中のPF10_0121 (ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ, pHPRT)および/またはPF11_0208 (ホスホグリセリン酸ムターゼ, pPGM)のレベルまたは存在を測定する
工程を含む方法を提供する。
【0007】
他の態様において、本発明の方法の工程(ii)では、
図4に示す1種以上のタンパク質のレベルまたは存在を測定する。
図4に示すタンパク質は、表に示された名前および/または表に示された受入番号によって定義でき、当該タンパク質は、本明細書で、“代替バイオマーカー”という。代替バイオマーカーは、
図4に示す何れのタンパク質であってもよく、特に次に示すものの何れか1つ以上であり得る:14-3-3タンパク質、熱ショックタンパク質86、熱ショック70kDaタンパク質、QF122抗原、エノラーゼ、リボソームリン酸化タンパク質P0、液胞型ATP合成酵素触媒性サブユニットa、伸長因子1α、増殖細胞核抗原、リボヌクレオシド二リン酸還元酵素大サブユニット、トリオースリン酸イソメラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素、Rab1、熱ショックタンパク質シグナルペプチド、PfmpC 1 TM ヘリックス、高移動度群タンパク質、シャペロニン cpn60 ミトコンドリア前駆体およびアクチン。
【0008】
好ましくは、pHPRTおよび/またはpPGMおよび/または何れかの代替バイオマーカーの存在は、対象のマラリアの指標/診断である。
【0009】
本発明の方法は、pHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の代替バイオマーカーがサンプル中に存在するならば対象がマラリアを有すると結論付ける、さらなる工程を含み得る。pHPRTおよびpPGMおよび代替バイオマーカーは共に、マラリアを有しない対象ではどんなレベルでも存在すべきでない寄生虫タンパク質である。
【0010】
本発明の方法は、1個以上の予め決められた参照値と(ii)で測定されたレベルを比較する工程をさらに含み得る。
使用した試験方法での何らかの誤差またはバックグラウンドを考慮するために、pHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の他のバイオマーカーのレベルを、対照サンプル、好ましくは非感染サンプルのレベルと比較し得る。
好ましい態様において、工程(ii)では、少なくともpHPRTのレベルが測定される。
【0011】
本発明の方法は、急性または症候性マラリアの診断を可能にし得る。すなわち、pHPRTの存在、さらに所望によりpPGMおよび/または1種以上の代替バイオマーカーの存在が、急性マラリアの診断を可能にし得る。ここで、急性マラリアは、マラリア寄生虫およびマラリアの症状、例えば発熱の存在と定義される。
【0012】
サンプルを得る工程は、好ましくは、本発明の一部を形成しない。
【0013】
用語“生物サンプル”は、対象の診断または評価を目的として得られる生物液体サンプルをいう。好ましい生物サンプルは、血液、血清、血漿、唾液および脳脊髄液を含むが、これらに限定されない。さらに、当業者は、幾つかの試験サンプルは、分画または精製後、例えば全血を血清または血漿成分に分離した後、より容易に分析されることを認めるであろう。
生物サンプルは、対象から得た血漿サンプルであってよい。
【0014】
用語“レベル”は、本明細書で定義されるとき、生物サンプルに含まれるpHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の代替バイオマーカーの量または濃度をいう。
【0015】
用語“マラリア状態”は、マラリアの何らかの所見を含む。例えば、マラリアの存在または非存在、マラリアの進行およびマラリアのための処置に対する有効性または対象の応答。
【0016】
本発明の方法は、例えば、次に示す何れか1つ以上のために使用し得る:マラリアを診断する;マラリアを有する対象の予後について助言する;疾患の進行をモニターする;および特定の処置に対する有効性または対象の応答をモニターする。
【0017】
好ましくは、本発明の方法は、患者のサンプル中のpHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の代替バイオマーカーのレベルの分析から、マラリアの診断を可能にする。好ましくは、少なくともpHPRTレベルを測定する。
【0018】
pHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の代替バイオマーカーのレベルを参照値と比較し得る。ここで、参照値は、例えば光学顕微鏡による寄生虫視覚化によってマラリアを有しないと決定された1以上の対象由来のサンプル中の同じタンパク質の発現レベルである。これらのサンプルは、バイオマーカーの、いわゆる“正常値”を有する。
【0019】
あるいは、参照値は、特定の対象について以前に得た値であってもよい。この種の参照は、本方法を感染の進行をモニターするためにまたは特定の処置への対象の応答をモニターするために使用するならば使用され得る。
【0020】
pHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の他のバイオマーカーのレベルを、何らかの適当な方法によって評価し得る。例えば、タンパク質レベルを測定するならば、イムノアッセイ、分光法、ウェスタンブロット、ELISA、免疫沈降、スロットまたはドットブロットアッセイ、等電点電気泳動、SDS−PAGEおよび抗体マイクロアレイ免疫組織学的染色、放射性イムノアッセイ(RIA)、蛍光免疫測定、アビジン−ビオチンまたはストレプトアビジン−ビオチン系を用いたイムノアッセイなど、およびそれらの組み合わせを含む群の何れかを使用し得る。これらの方法は当業者によく知られている。他の方法も使用し得る。
【0021】
単にpHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の代替バイオマーカーがサンプル中に存在するか否かを測定するだけで十分であって、絶対値は必要でないかもしれない。
【0022】
好ましくは、本発明の方法は、結果を24時間未満、好ましくは12時間未満、6時間未満、4時間未満、3時間未満、2時間未満、1時間未満、より好ましくは30分未満で得ることを可能にする。
【0023】
本発明の方法は、マラリアのより有効な診断を提供するために、臨床的症状の評価と合わせて使用してよい。
【0024】
また、本発明は、対象のための適切な処置を決定する方法であって、
(a) 対象から得た生物サンプルを準備する;
(b) 当該対象の生物サンプル中のpHPRTおよび/またはpPGMのレベルまたは存在を測定する;および
(c) (b)の結果を使用して最も適切な治療を決定する
工程を含む方法を提供し得る。
【0025】
他の態様において、工程(b)では、1種以上の代替バイオマーカーのレベルまたは存在を測定し得る。
【0026】
例えば、サンプル中にpHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の代替バイオマーカーを有する患者は、マラリアを有するとして処置され得て、抗マラリア剤を投与される。
【0027】
本発明の方法は、工程(b)で測定されたpHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の代替バイオマーカーのレベルを、工程(c)の前に、1以上の予め決められた参照値と比較する、さらなる工程を含み得る。好ましくは、pHPRTのレベルを測定する。
【0028】
本発明の他の態様において、マラリアの診断を決定するためにpHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の他のバイオマーカーを使用する本発明の方法を、マラリアの診断を決定するために、発熱などの臨床的特徴と合わせて使用し得る。
【0029】
本発明の方法を、インビトロで行ってよい。
【0030】
対象はヒトであってよい。他の態様において、対象は、哺乳動物、例えばイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、サル、類人猿、齧歯動物、ハムスター、ラットまたはモルモットであってよい。
【0031】
本発明の他の局面に従って、本発明は、マラリアを有する対象の特定の処置への応答を決定する方法であって、
(a) 対象から得た生物サンプルを準備する;
(b) 対象の生物サンプル中のpHPRTおよび/またはpPGMのレベルを測定する;
(c) 工程(b)で測定したpHPRTおよび/またはpPGMのレベルを1以上の参照値と比較する
工程を含む方法を提供する。
【0032】
他の態様において、工程(b)で1種以上の代替バイオマーカーのレベルを測定してよく、工程(c)で1種以上の他のバイオマーカーのレベルを参照値と比較する。
【0033】
参照値は、同じ対象由来の以前のサンプル中のpHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の代替バイオマーカーのレベルであってよい。
【0034】
本発明の他の局面に従って、本発明は、患者において、マラリアを処置する方法であって、患者の生物サンプル中にpHPRTおよび/またはpPGMが存在するか否かを測定する分析結果を提供する試験を要求し、pHRTおよび/またはpPGMが生物サンプル中で発見されたならば、患者に抗マラリア処置剤を投与することを含む方法を提供する。
【0035】
また、さらなる局面に従って、本発明は、ヒト対象において、pHRTおよび/またはpPGMの存在によって特徴付けられるマラリアを診断する方法であって、
i) 対象から生物サンプルを得る;
ii) pHRTまたはpPGMに特異的なモノクローナル抗体を適用し、ここで、pHPRTまたはpPGMの存在が抗体−バイオマーカー複合体を形成する;
iii) 抗体−バイオマーカー複合体を検出する検出剤を適用する:
iv) 工程(iii)の検出剤を検出し、マラリアを診断する
ことを含む方法を提供する。
【0036】
本発明のさらに他の局面に従って、本発明は、対象のマラリア状態の決定に使用するキットであって、対象によって提供される生物サンプル中のpHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の代替バイオマーカーのレベルを測定するための、少なくとも1種の試薬を含むキットを提供する。
該試薬は抗体であってよい。
【0037】
キットは、さらに、ラベルまたは添付文書の形態の、適当な操作パラメーターについての説明書を含んでよい。
【0038】
キットは、さらに、較正および比較のための標準として使用される1以上のpHPRTおよび/またはpPGMサンプルを含んでよい。
【0039】
本発明は、さらに、対象のマラリア状態を決定するためのバイオマーカーとしての、pHPRTおよび/またはpPGMおよび/または1種以上の代替バイオマーカーのレベルの使用を提供する。
【0040】
他の局面に従って、本発明は、対象において、マラリアを診断する方法であって、
i. 対象から得た生物サンプルを得る;
ii. 生物サンプル中のPF10_0121 (ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ, pHPRT)および/またはPF11_0208 (ホスホグリセリン酸ムターゼ, pPGM)の存在と、所望によりそのレベルを測定する;
iii. サンプル中にpHPRTおよび/またはpPGMが存在するならば、マラリアを診断する
ことを含む方法を提供し得る。
【0041】
他の態様において、工程(ii)で1種以上の代替バイオマーカーの存在と、所望によりそのレベルを測定し、これを工程(iii)でマラリアを診断するために使用する。
好ましくは、少なくともpHPRTのレベルを測定する。
【0042】
他の局面に従って、本発明は、対象において、マラリアを処置する方法であって、
i. 対象から得た生物サンプルを入手する;
ii. 生物サンプル中のPF10_0121 (ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ, pHPRT)および/またはPF11_0208 ホスホグリセリン酸ムターゼ, pPGM)の存在と、所望によりそのレベルを測定する;
iii. サンプル中にpHPRTおよび/またはpPGMが存在するならば、抗マラリア剤を投与する
ことを含む方法を提供し得る。
【0043】
他の態様において、工程(ii)で1種以上の代替バイオマーカーの存在と、所望によりそのレベルを測定し、これを工程(iii)で抗マラリア剤を投与すべきか否かを決定するために使用する。
【0044】
当業者は、本発明の何れか1つの態様および/または局面の好ましい特徴が、本発明の他の全ての態様および/または局面に適用され得ることを認めるであろう。
次に示す図面の記載を参照した本発明の詳細な説明を、単なる例として下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】
図1は、熱帯熱マラリア原虫タンパク質pPGM(
図1a(配列番号1))およびpHPRT(
図1b(配列番号2))を詳述する。それぞれの図において、上のパネルはタンパク質配列包括度および高信頼度で寄生虫タンパク質を同定するために使用されるペプチド配列(強調および下線)を示す。下のパネルは選択されたプロテオタイプのペプチドについての代表的な最適化SRMアッセイを示す。左のパネルは、血漿中の安定重同位体標識ペプチド(SIS) 対 内在性ペプチドの相対存在量を示す。中央のパネルは血漿中のSISペプチドにつて測定された遷移強度を示し、右のパネルは代表的な個体の血漿中で測定された内在性ペプチドの遷移強度を示す。
【
図2】
図2は、熱帯熱マラリア原虫タンパク質pPGM(
図2a(配列番号3、4、5および6))、および、pHPRT (
図2b(配列番号7、8、9および10))の配列アラインメントおよび選択されたプロテオタイプのペプチドおよび対応するホモ・サピエンスのタンパク質配列を示す。データは、ヒトマラリアを引き起こし得る寄生虫(熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、四日熱マラリア原虫および二日熱マラリア原虫)およびホモ・サピエンスについてのタンパク質アラインメントを示す。
【
図3】
図3は、SRMアッセイを用いた熱帯熱マラリア原虫プロテオタイプペプチド(PTP)の定量化を示す。データは、重度マラリア(N=15)、軽度マラリア(N=15)および回復期対照(処置28日後)(N=15)のガンビア人の子供から得た血漿サンプルで測定された熱帯熱マラリア原虫タンパク質pPGMおよびpHPRTに対応する軽い(内在性)対重原子標識ペプチド(L/H面積比)の平均の比を示す。エラーバーは平均値の標準誤差を示す。*** P<0.001およびNS:有意でない。
【
図4】
図4は、重度マラリアを有する子供の血漿サンプルで識別される熱帯熱マラリア原虫タンパク質を詳述する表である。* >20のスコアはタンパク質同定のために許容される。記載されたペプチド配列は配列番号11〜87として配列表に含まれる。
【実施例】
【0046】
<方法>
サンプル
サンプル処理および保存は、ガンビアのMRC研究所で、優良臨床研究所(GCLP)規範に従う標準的な操作手順に従って行われた。血液サンプルを採取して2時間以内に処理した。血漿を分離し、−80℃で保存した。
【0047】
選択的反応モニタリング(SRM)検証アッセイ
サンプル調製: 48人の各患者から12μlの血漿サンプルを、脱脂し、14の最も豊富なタンパク質を枯渇させ(MARS Human-14, Agilent Technologies)、沈殿させ、定量化した。
【0048】
ペプチド選択および合成: 各タンパク質について、3〜5種のプロテオタイプペプチド(PTP)を選択した。γ−シリーズフラグメントイオンに基づいて、3〜5の遷移を各ペプチドの2つの主要な電荷状態それぞれに含めた。予測されたPTPを、C末端Arg(
13C
6、
15N
4)またはC末端Lys(
13C
6、
15N
2)の何れかを有する同位体標識アミノ酸で、SPOT合成 (JPT Peptide Technology, Germany)を使用して合成し(未精製)、対応するSRMアッセイを開発するための参照値として使用する。内在性ペプチドと重原子標識ペプチドの間の1+フラグメントの質量差は、8Daまたは10Daの何れかであった。安定な同位体標準ペプチドは、タンパク質消化前に添加し、内部標準として使用した。
【0049】
精製重原子標識ペプチドを、APEX396固相合成装置(AAPPTec, Louisville, KY, US)で合成した。9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)法をペプチドの合成に使用した。最初に、第1Fmocアミノ酸を酸に不安定なリンカーによって不溶性支持体樹脂に結合させた。Fmoc基の脱保護を、ジメチルホルムアミド(DMF)中20%のピペリジンでアミノ酸を処理することによって行った。第2Fmocアミノ酸を、アミノ酸のインサイツ活性化を利用して伸長するペプチド鎖にカップリングさせた。望ましいペプチドを合成した後、樹脂に結合したペプチドを脱保護し、トリフルオロ酢酸(TFA)によって固体支持体から分離させた。ペプチドをエーテルで沈殿させ、乾燥し、逆相HPLCカラムおよびMALDI−TOF質量分析装置(Ultraflex, Bruker Daltonics, Germany)で分析した。
【0050】
ペプチドSRM標準曲線および直線範囲: ペプチドを高精度天秤で秤量し、10% ACNおよび0.5% FAで可溶化し、スピードバキューム遠心分離器で乾燥した。23ng/μLのストック濃度から、GILAADESTQTIK (配列番号88) および VLVPNGVIK (配列番号89)のペプチドについて、2% ACNおよび0.1% FAで連続希釈液を作成した。
【0051】
SRMアッセイ: SRMアッセイについて、2〜3種のペプチドおよびペプチド当たり3〜5の遷移を、pPGMまたはpHPRTタンパク質を標的とするために使用した。枯渇させた血漿サンプルを、等モル量の安定な同位体標準(SIS)ペプチドの混合物と混合し、109.1fmolの各SISペプチドおよび1μgの血漿タンパク質を1μlとした。混合物を、100mMのTris緩衝液(pH 7.8)中200mM DTTで30分間還元し、100mMのTris緩衝液(pH 7.8)中200mM ヨードアセトアミドで30分間アルキル化し、続いてDTTと共にさらに30分間インキュベートした。タンパク質を、シークエンシング等級修飾トリプシン(Promega)で、1:20の酵素:基質比を用いて、37℃で一夜消化した。5% 蟻酸を添加することによって、消化を終了した。サンプルを、Sep-Pak Light C18 cartridge(Waters)によって脱塩し、スピードバキュームによって乾燥し、緩衝液A(2% ACN、0.1% FA)に再度懸濁して、血漿サンプルについて1μg/μlおよび各重原子標識ペプチドについて109.1fmol/μlの最終濃度とした。1μlを、Chip-cube (Agilent Technologies)を備えたAgilent 1200 HPLC系と連結したAgilent 6460 Triple Quadrupole 装置に注入した。
【0052】
45または47の遷移それぞれで2種の別のMRM法を使用して、1.8秒のサイクル時間および35ミリ秒のドゥエル時間を使用した。半量の高さでの全幅は0.3分であった。SRMアッセイを使用した最適コリジョンエネルギー(CE)を、6520 Q-TOF 装置(Agilent Technologies)でのSISペプチドフラグメンテーションの経験によるデータから導出した。MS/MSデータを検索するために、SISペプチドのQ−TOF MS/MSデータを、(1)全合成ペプチドの連結配列、(2)熱帯熱マラリア原虫 3D7および(3)ホモ・サピエンス・プロテオームを含むFASTAファイルに対して検索した。
【0053】
HPLC: サンプルを、Agilent 1200 Series HPLC-Chip (C18 チップ、160nLトラップカラム)で、流速0.3μl/分および濃度勾配60分(ショットガン実験に関して)を使用して分析した。簡単には、我々は、3〜40% 緩衝液B(95% ACN、0.1% FA)、46.67分の直線的濃度勾配、続いて100%まで4分以内で急激に増加、5.33分維持、続いて100〜3%、4分の直線的濃度勾配、最後に3% 緩衝液Bで9分間平衡化、を使用した。
【0054】
データ分析
SRMデータを、Skyline software (v1.2) (MacLean, B., et al (2010) Skyline: an open source document editor for creating and analyzing targeted proteomics experiments. Bioinformatics 26, 966-968)を使用して分析した。相対定量を面積比(軽/重)を使用して行い、各ペプチドについて、3つの最も強度の高い遷移のみを考慮した。それぞれの選択されたペプチドについては、最も強度の高いピークをクアンティファイヤー(quantifier)として使用し、測定されたペプチドの比および保持時間を確認するためにその他をクオリファイヤー(qualifier)として使用した。保持時間およびピーク選択は、最初はソフトウェアによって自動的に行われ、個別のクロマトグラムを調べることによって認証し、選択は重原子標識ペプチドで得られた保持時間に基づいた。結果は、内在性ペプチドと重原子標識ペプチドとのアラインメントであった。内在性ペプチドについての遷移がうまく分解できなかった場合は(例えば保持時間ミスマッチ)、分析を中止した。
【0055】
タンパク質配列アラインメントは、Clustal Omegaを使用して行い、ClustalX v2.1. (Larkin, M. A et al (2007) Clustal W and Clustal X version 2.0. Bioinformatics 23, 2947-2948; Sievers, F., et al (2011) Fast, scalable generation of high-quality protein multiple sequence alignments using Clustal Omega. Mol Syst Biol 7, 539)で可視化した。統計学的分析は、GraphPad Prism 5 (GraphPad Software Inc, USA) および Stata 11 (StataCorp LP, USA)で行った。
【0056】
結果
熱帯熱マラリア原虫タンパク質を定量化するための選択された反応モニタリングアッセイ
熱帯熱マラリア原虫タンパク質pPGMおよびpHPRTを実証し、定量化するために、SRMアッセイを使用した。最初に6種のプロテオタイプのペプチドをpHPRTについて、8種をpPGMについて選択した(表1参照)。SRMをベースとする定量化は、重原子標識ペプチドと内在性ペプチドの両方が一貫して同一の保持時間および少なくとも3の遷移を示す場合(n=45)にのみ行った。これらの基準を、pPGMおよびpHPRTについて、1個のプロテオタイプのペプチドによって満たした。
【0057】
【表1】
【0058】
各ペプチドについて検出された遷移を
図1に示す。SISおよび内在性ペプチドは同じ保持時間で溶出された。症例の大多数で、前駆体の強度はSISペプチドより高かった。しかし、強度が低いにもかかわらず、内在性ペプチドで検出された遷移数は、混合されたペプチドの遷移数より多かった。全てのタンパク質についてペプチドを検出し、最も多い症例で分析した。内在性ペプチド(軽)の最も強度が高い(クアンティファイヤー)遷移の面積および重原子標識ペプチド(混合された)の対応する面積を、個々のサンプル中のペプチドの相対定量化を行うための比を計算するために使用した。pPGMをFTGWTDVPLSEK (配列番号96)ペプチドで測定し、36人の患者で定量化し、pHPRTをVLVPNGVIK (配列番号94)で測定し、28人の患者で定量化した。
【0059】
熱帯熱マラリア原虫タンパク質のPTP選択に使用される特異性基準は、ヒトのマラリアを起こし得る他の寄生虫の種との違いではなく、宿主のタンパク質配列(ホモ・サピエンス)との違いに基づいた。配列アラインメントは、熱帯熱マラリア原虫 PGM および HPRTを定量化するために選択されたペプチドは、種特異的であることを示す。
【0060】
血漿中の熱帯熱マラリア原虫タンパク質検証および臨床的相互関係
SRMを用いて、寄生虫ペプチドは、主に重度マラリア症例(N=15)の血漿で検出されたが、軽度マラリア症例(N=15)および回復期症例(N=15)の血漿サンプルでも見られた。pHPRTについてのSRMアッセイは、このタンパク質が、重度マラリア症例で、軽度マラリア症例より著しく高濃度であることを示した。pPGMは、急性マラリア症例で、回復期対照より高かった(
図3)。
【国際調査報告】