(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-531485(P2015-531485A)
(43)【公表日】2015年11月2日
(54)【発明の名称】前立腺摘出術後の前立腺癌の再発の診断のための手段および方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20151006BHJP
【FI】
G01N33/50 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2015-533639(P2015-533639)
(86)(22)【出願日】2013年10月2日
(85)【翻訳文提出日】2015年5月18日
(86)【国際出願番号】EP2013070576
(87)【国際公開番号】WO2014053564
(87)【国際公開日】20140410
(31)【優先権主張番号】12187029.9
(32)【優先日】2012年10月2日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/708,686
(32)【優先日】2012年10月2日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13174777.6
(32)【優先日】2013年7月2日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】511012983
【氏名又は名称】メタノミクス ヘルス ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】511293755
【氏名又は名称】シャリテ ウニヴェルジテイトメディツィン ベルリン
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100182992
【弁理士】
【氏名又は名称】江島 孝毅
(72)【発明者】
【氏名】レスツカ,レギーナ
(72)【発明者】
【氏名】カムラゲ,ビエテ
(72)【発明者】
【氏名】ベタン,ビアンカ
(72)【発明者】
【氏名】ユング,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ライン,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアンゼン,グレン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン,カルステン
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA26
2G045DA17
2G045DA60
2G045DA61
2G045FA34
2G045FB01
2G045FB03
2G045FB05
2G045FB08
2G045FB12
2G045FB13
2G045JA01
2G045JA06
(57)【要約】
本発明は、癌の診断、特に前立腺癌の診断のための手段および方法に関する。特に、本発明は、前立腺摘出術後の被験体の試験サンプルにおける、表2から選択される少なくとも1つの代謝産物の量を測定し、測定された量を参照と比較することを含み、それにより、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかが診断される、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するための方法に関する。さらに、本発明において提供される方法は悪性前立腺癌組織と非悪性組織との識別、および被験体における転移性前立腺癌の診断に関する。また、前記方法を行うためのデバイスも提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)前立腺摘出術前の被験体の試験サンプルにおける、表7および/または表8および/または表2から選択される少なくとも1つの代謝産物の量を測定し、
(b)工程(a)において測定された量を参照と比較することを含み、それにより、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかが診断される、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するための方法。
【請求項2】
該参照が、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有することが判明している被験体または被験体群から誘導されたものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有することを示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有しないことを示す、請求項2記載の方法。
【請求項4】
該参照が、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有しないことが判明している被験体または被験体群から誘導されたものである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有しないことを示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有することを示す、請求項4記載の方法。
【請求項6】
該方法が更に、該被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有すると診断されたかどうかに基づいて、該被験体に対する治療のための又は患者の健康管理のための手段を推奨する工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
(a)前立腺癌に罹患している被験体の試験組織サンプルにおける、表4から選択される少なくとも1つの代謝産物の量を測定し
(b)工程(a)において測定された量を参照と比較することを含み、それにより、悪性前立腺組織と非悪性前立腺組織とが識別され、悪性前立腺癌組織または非悪性組織として該組織が特定される、悪性前立腺癌組織と非悪性組織とを識別するための方法。
【請求項8】
該参照が既知悪性前立腺癌組織または幾つかの既知悪性前立腺該組織から誘導されたものである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
試験組織サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は悪性前立腺癌組織を示し、一方、参照と比較して異なる、試験組織サンプルにおける量は、非悪性組織を示す、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該参照が既知非悪性前立腺組織から誘導されたものである、請求項7記載の方法。
【請求項11】
試験組織サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は非悪性組織を示し、一方、参照と比較して異なる、試験組織サンプルにおける量は、悪性前立腺癌組織を示す、請求項10記載の方法。
【請求項12】
該方法が更に、該被験体の試験組織サンプルが悪性前立腺癌組織または非悪性組織として特定されたかどうかに基づいて、該被験体に対する治療のための又は患者の健康管理のための手段を推奨する工程を含む、請求項7〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
(a)前立腺癌に罹患している被験体の試験サンプルにおける少なくとも1つの代謝産物の量を測定し、ここで、該代謝産物は、アミノアジピン酸、セレブロン酸、2-ヒドロキシベヘン酸、イソペンテニルピロホスファート、7-メチルグアニン、トリコサン酸およびグリセロホスホエタノールアミンからなる群から選択され、
(b)工程(a)において測定された量を参照と比較することを含み、それにより、転移性前立腺癌が診断される、転移性前立腺癌を診断するための方法。
【請求項14】
該参照が、転移性前立腺癌に罹患していることが判明している被験体または被験体群から誘導されたものである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は転移性前立腺癌を示し、一方、参照と比較して異なる、試験組織サンプルにおける量は、非転移性前立腺癌を示す、請求項14記載の方法。
【請求項16】
該参照が、転移性前立腺癌に罹患していないことが判明している被験体または被験体群から誘導されたものであるか、あるいは計算された参照である、請求項13記載の方法。
【請求項17】
試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は非転移性前立腺癌を示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、転移性前立腺癌を示す、請求項16記載の方法。
【請求項18】
該方法が更に、該被験体が転移性または非転移性前立腺癌と診断されたかどうかに基づいて、該被験体に対する治療のための又は患者の健康管理のための手段を推奨する工程を含む、請求項13〜17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
治療のための又は患者の健康管理のための手段が、前立腺手術、抗癌薬の投与、患者のモニタリングおよび入院からなる群から選択される、請求項6、12または18記載の方法。
【請求項20】
a)表7および/または表8および/または表2から選択される少なくとも1つの代謝産物の検出剤を含み、好ましくは検出器と共に配置されていて、組織サンプルにおける前記の少なくとも1つの代謝産物の量が測定されうるようにされている分析ユニット、ならびに
b)好ましくは請求項2または4記載の保存された参照を含有するデータベースとデータプロセッサとを含む評価ユニットであって、該分析ユニットから受け取った少なくとも1つの代謝産物に関する測定量と保存参照との間の請求項3または5記載の比較を行うアルゴリズムを具体的に組込んでいる評価ユニットを含む、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するためのデバイス。
【請求項21】
a)表4から選択される少なくとも1つの代謝産物の検出剤を含み、好ましくは検出器と共に配置されていて、組織サンプルにおける前記の少なくとも1つの代謝産物の量が測定されうるようにされている分析ユニット、および
b)好ましくは請求項8または10記載の保存された参照を含有するデータベースとデータプロセッサとを含む評価ユニットであって、該分析ユニットから受け取った少なくとも1つの代謝産物に関する測定量と保存参照との間の請求項9または11記載の比較を行うアルゴリズムを具体的に組込んでいる評価ユニットを含む、悪性前立腺癌組織と非悪性組織とを識別するためのデバイス。
【請求項22】
a)アミノアジピン酸、セレブロン酸、2-ヒドロキシベヘン酸、イソペンテニルピロホスファート、7-メチルグアニン、トリコサン酸およびグリセロホスホエタノールアミン、極性画分からなる群から選択される少なくとも1つの代謝産物の検出剤を含み、好ましくは検出器と共に配置されていて、組織サンプルにおける前記の少なくとも1つの代謝産物の量が測定されうるようにされている分析ユニット、ならびに
b)好ましくは請求項14または16記載の保存された参照を含有するデータベースとデータプロセッサとを含む評価ユニットであって、該分析ユニットから受け取った少なくとも1つの代謝産物に関する測定量と保存参照との間の請求項15または17記載の比較を行うアルゴリズムを具体的に組込んでいる評価ユニットを含む、転移性前立腺癌を診断するためのデバイス。
【請求項23】
前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを前立腺摘出術後の被験体のサンプルにおいて診断するための、表2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーまたはそのための検出剤の使用。
【請求項24】
前立腺癌に罹患している被験体の組織サンプルにおいて悪性前立腺癌組織と非悪性組織とを識別するための、表4から選択される少なくとも1つの代謝産物またはその検出剤の使用。
【請求項25】
転移性前立腺癌に罹患していると疑われる被験体のサンプルにおいて転移性前立腺癌を診断するための、少なくとも1つのバイオマーカーまたはその検出剤の使用であって、前記の少なくとも1つの代謝産物が、アミノアジピン酸、セレブロン酸、2-ヒドロキシベヘン酸、イソペンテニルピロホスファート、7-メチルグアニン、トリコサン酸およびグリセロホスホエタノールアミンからなる群から選択される、使用。
【請求項26】
(a)前立腺摘出術後の被験体の試験サンプルにおける、表7および/または表8および/または表2から選択される少なくとも1つの代謝産物の量を測定し、
(b)工程(a)において測定された量を参照と比較することを含み、それにより、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかが診断される、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するための方法。
【請求項27】
該参照が、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有することが判明している被験体または被験体群から誘導されたものである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有することを示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有しないことを示す、請求項27記載の方法。
【請求項29】
該参照が、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有しないことが判明している被験体または被験体群から誘導されたものである、請求項26記載の方法。
【請求項30】
試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有しないことを示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有することを示す、請求項29記載の方法。
【請求項31】
該方法が更に、該被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有すると診断されたかどうかに基づいて、該被験体に対する治療のための又は患者の健康管理のための手段を推奨する工程を含む、請求項26〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項32】
工程a)が、表7から選択される少なくとも1つの代謝産物の量を測定することを含む、請求項1〜6または26〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
工程a)が、表8から選択される少なくとも1つの代謝産物の量を測定することを含む、請求項1〜6または26〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
工程a)が、表2から選択される少なくとも1つの代謝産物の量を測定することを含む、請求項1〜6または26〜31のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の診断、特に前立腺癌の診断のための手段および方法に関する。特に、本発明は、前立腺摘出術後の被験体の試験サンプルにおける、表2から選択される少なくとも1つの代謝産物の量を測定し、測定された量を参照と比較することを含み、それにより、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断することを含む、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するための方法に関する。さらに、本発明において提供される方法は悪性前立腺癌組織と非悪性組織との識別、および被験体における転移性前立腺癌の診断に関する。また、前記方法を行うためのデバイス(装置)も提供する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌(PCA)は前立腺における細胞の無制御な(悪性)増殖であって、西洋社会における最も一般的な悪性腫瘍である。前立腺癌の原因は現在のところ完全に理解されてはいない。180,000人を超える新しいPCA患者の症例が2008年に米国で診断された。米国の予想患者数は2010年に前立腺癌患者で2,175,699人となろう。前立腺癌を診断するためにいくつかの試験が使われ、それには直腸診(DRE)、経直腸超音波検査(TRUS)、前立腺特異抗原(PSA):遊離型(free)および全(total)、%遊離型PSA(%fPSA)としてのPSA誘導体、加齢特異的PSA値、PSA密度、PSA速度、前立腺酸ホスファターゼ(PAP)試験、前立腺バイオプシー、コンピューター断層撮影(CTスキャン)、骨スキャンおよび/またはMRIが含まれる。
【0003】
前立腺特異抗原(PSA)血漿試験はPCAの認識とより優れた患者管理における主要因子となっている、しかしこの試験は特異性に欠け、そのため、診断における使用は限られ、PCAの早期検出に適するとされている。PSAは器官特異的であるが癌特異的ではない。これが高い偽陽性検出の数字をもたらす。PCAの診断はバイオプシーによってだけ確証することができる。800,000件を越えるこの侵襲性で費用のかかる手法が毎年米国で行われた。しかしPCAスクリーニングについての論争は続いている(Wilson 2004, Clin. Prostate Cancer 3: 21-25, Crawford 2005, Lancet 365: 1447-1449)。PCAの早期検出(Schroder 2009; N Engl J Med. Mar 26;360(13):1320-1328; Andriole 2009, N Engl J Med Mar 26;360(13):1310-1319)が考えられうる。
【0004】
癌診断または予後判定および治療評価のためのバイオマーカーを作製するのに代謝学を利用することは現在明確である(Spratlin 2009, Clin Cancer Res 15(2): 431-440)。Serkovaら(Serkova et al 2008, The Prostate 68: 620-628)はヒト発現性前立腺分泌物(EPS)中の代謝産物であるクエン酸、myo-イノシトールおよびスペルミンの絶対濃度を加齢非依存性PCAのマーカーとして発表した。最近、バイオプシー陽性PCA患者とバイオプシー陰性対照個体の組織血漿および直腸指診後の尿サンプルから得た代謝学プロファイルが試験された(Sreekumar 2009, Nature 457(12): 910-914)。サルコシンが前立腺癌進行に対する1つの潜在的バイオマーカーとして示唆された。代謝産物のプロファイリングは前立腺癌の診断および病期分類のための他の代謝産物を示した(WO2010/139711 A1)。
【0005】
しかし、差次的または追加的診断情報を提供する代謝バイオマーカーが尚も大いに望まれている。例えば、患者の健康および治療管理は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌を発生するリスクを有する患者の特定から利益を得るであろう。さらに、転移前立腺癌の特定は患者の臨床ケアのためにも有益であろう。最後に、前立腺癌の偽陽性または偽陰性診断の高い数字を考慮すると、信頼できるかつ効率的な前立腺癌の診断または予後判定を可能にするバイオマーカーに対する高い必要性は今なお存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/139711号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Wilson 2004, Clin. Prostate Cancer 3: 21-25
【非特許文献2】Crawford 2005, Lancet 365: 1447-1449
【非特許文献3】Schroder 2009; N Engl J Med. Mar 26;360(13):1320-1328
【非特許文献4】Andriole 2009, N Engl J Med Mar 26;360(13):1310-1319
【非特許文献5】Spratlin 2009, Clin Cancer Res 15(2): 431-440)
【非特許文献6】Serkova et al 2008, The Prostate 68: 620-628
【非特許文献7】Sreekumar 2009, Nature 457(12): 910-914
【発明の概要】
【0008】
本発明の根底にある技術的課題は、前記必要性を満たす手段および方法の提供として理解されうる。この技術的課題は、特許請求の範囲および以下の説明において特徴づけられる実施形態により解決される。
【0009】
したがって、本発明は、
(a)前立腺摘出術後の被験体の試験サンプルにおける、表2から選択される少なくとも1つの代謝産物の量を測定し、
(b)工程(a)において測定された量を参照と比較することを含み、それにより、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかが診断される、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するための方法に関する。
【0010】
前記方法および本明細書中で言及されるその他の方法は、明示的に記載されている工程以外の工程を含みうる。そのような工程は、本明細書中で同様に詳細に特定されているサンプル前処理またはデータ評価の工程でありうる。さらに、該方法は自動化により補助されうる。例えば、工程a)に記載されている量の測定は、適当なロボット装置によりサンプルと共に供給される検出装置により行われうる。該比較は、コンピュータのようなデータプロセッサ上で実行される適当なアルゴリズムにより行われることが可能であり、したがってコンピュータ実施様態で行われうるであろう。
【0011】
本明細書中で用いる「診断」なる語は、被験体が疾患もしくは状態に罹患する又は疾患もしくは状態を発生するリスクを有する確率を評価することを意味する。したがって、該方法は診断の補助をもたらす。なぜなら、それは、例えば医学的実施者により診断をさらに補強または証明するのに必要でありうるからである。特に、当業者により理解されるとおり、そのような評価は、診断する被験体の100%について正しいことが好ましいものの、通常はそうでないであろう。しかし、この用語は、被験体の統計的に有意な部分が、疾患に罹患しているものとして又はその素因を有するものとして特定されうることを要する。ある部分が統計的に有意であるかどうかは、様々なよく知られた統計評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニーの検定などを用いて手間をかけずに当業者により決定されうる。詳細はDowdyおよびWearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983において見出される。好ましい信頼区間は少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p-値は好ましくは、0.2、0.1、0.05である。さらに、本発明の方法は本質的に診断の手助けを提供し、他の診断手段に含まれうる又は他の診断手段により補充されうると理解されるであろう。本発明による診断には、関係する疾患またはその症状のモニタリング、確認、および分類が含まれる。モニタリングは、既に診断した疾患、または合併症の経過を追跡して、例えば、疾患の進行もしくは退縮、疾患期間中にまたは疾患治療の成功後に生じる疾患または合併症の進行に対する特定の治療の影響を分析することに関する。確認は、既に実施した診断を、他の指示薬またはマーカーを用いて強化もしくは実証することに関する。分類は、診断を症状の強度と種類によっていろいろなクラス、例えば、本明細書で随所に記載した前立腺癌の病期に割り当てることに関する。本明細書中で用いる、リスクを有するは、被験体が疾患または状態を未だ発生していないが、ある程度の可能性で将来発生することを意味する。該可能性は疾患または状態の統計的出現の可能性とは有意に異なる。好ましくは、前立腺癌を発生する可能性は少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも100%である。素因の診断は、被験体が疾患を発生する可能性の予測と称されることもある。
【0012】
本明細書中で用いる「前立腺癌」なる語は前立腺癌細胞から発生した悪性腫瘍を意味する。前記細胞は前立腺から他の組織または器官、とりわけ骨およびリンパ節へ転移しうる。初期前立腺癌は通常、症状を引き起こさない。前立腺癌は、進行した段階で疼痛、排尿困難、性交時の問題、および勃起機能障害を引き起こしうる。さらなる前立腺癌の症状は当技術分野では周知であり、それには頻尿、夜間排尿増加、尿定常流の開始と維持の困難、血尿、および排尿痛が含まれ、これらは標準の医学教科書、例えば、ステッドマン(Stedman)またはシレンベル(Pschyrembl)に記載されている。グリーソンスコア系を用いて、前立腺腫瘍を2〜10に格付けし、ここで10のグリーソンスコアは最高の異常を示す。
【0013】
本明細書中で用いる「少なくとも1つの代謝産物」は単一の代謝産物または複数の代謝産物、すなわち、好ましくは少なくとも2、3、4、5、10、50、100、500、1,000、2,000、3,000、5,000または10,000種の代謝産物を意味する。本明細書中で用いる「代謝産物」は前記代謝産物の少なくとも1つの分子から複数の代謝産物の分子であってもよく、そして複数の代謝産物は複数の化学的に異なる分子を意味し、ここで各代謝産物に対して少なくとも1つの分子から複数の分子まで存在しうると理解すべきである。本発明による代謝産物は全てのクラスの有機または無機化合物を包含し、生物などの生物学的材料に含まれるものを含む。好ましくは、本発明による代謝産物は小分子化合物である。さらに好ましくは、複数の代謝産物を想定する場合、前記複数の代謝産物はメタボローム、すなわち、特定の時間にかつ特定の条件のもとで生物、器官、組織または細胞により含まれる代謝産物の集積体を表す。後記表の代謝産物のそれぞれは、それ自体が、本明細書中で言及されている疾患の適当なバイオマーカーである。しかし、最も好ましくは、一群のバイオマーカーが本発明の方法により決定される。一群のバイオマーカーは、好ましくは、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、および好ましくは前記バイオマーカーの全てまでを含む、またはそれらからなる。
【0014】
本発明によりバイオマーカーとして測定される少なくとも1つの代謝産物として特に好ましいのは、アミノアジピン酸、グルコン酸またはマルトトリオースである。さらに、本発明によりバイオマーカーとして測定される少なくとも1つの代謝産物として好ましいのは、トリコサン酸、グリセロホスホエタノールアミンおよびセレブロン酸である(
図2を参照されたい)。
【0015】
代謝産物は小分子化合物、例えば、代謝経路の酵素に対する基質、かかる経路の中間体または代謝経路により得た産物である。代謝経路は当技術分野で周知であり、種によって様々でありうる。好ましくは、前記経路には、少なくともクエン酸サイクル、呼吸鎖、光合成、光呼吸、解糖、糖新生、ヘキソース一リン酸経路、酸化的ペントースリン酸経路、脂肪酸産生およびβ酸化、尿素サイクル、アミノ酸生合成経路、タンパク質分解経路、例えばプロテアソーム分解、アミノ酸分解経路、ならびに各種分子の生合成または分解[ここで前記各種分子は脂質、ポリケチド(例えばフラボノイドおよびイソフラボノイドを含む)、イソプレノイド(例えばテルペン、ステロール、ステロイド、カロテノイド、キサントフィルを含む)、炭水化物、フェニルプロパノイドおよび誘導体、アルカノイド、ベンゼノイド、インドール、インドール-硫黄化合物、ポルフィリン、アントシアン、ホルモン、ビタミン、補因子、例えば補欠分子族または電子担体、リグニン、グルコシノレート、プリン、ピリミジン、ヌクレオシド、ヌクレオチド、および関係分子、例えばtRNA、マイクロRNA(miRNA)またはmRNAを含む]が含まれる。従って、小分子化合物代謝産物は、好ましくは、次のクラスの化合物:アルコール、アルカン、アルケン、アルキン、芳香族化合物、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、アミン類、イミン、アミド、シアニド、アミノ酸、ペプチド、チオール、チオエステル、リン酸エステル、硫酸エステル、チオエーテル、スルホキシド、エーテル、または上述した化合物の組み合わせまたは誘導体から構成される。代謝産物の中の小分子は、正常な細胞機能、器官機能または動物成長、発生または健康にとって必要とされる一次代謝産物であってもよい。さらに小分子代謝産物はさらに、必須な生態学的機能を有する二次代謝産物、例えば、生物がその環境に適合できるようにする代謝産物を含む。さらに、代謝産物は前記一次および二次代謝産物に限定されるものでなく、さらに人工の小分子化合物を包含する。前記人工の小分子化合物は外因的に与えられた小分子から誘導されたものであって、これは投与されるかまたは生物が摂取したものであり、前記一次または二次代謝産物ではない。例えば、人工の小分子化合物は薬物から動物の代謝経路によって得た代謝産生物であってもよい。加えて、代謝産物にはさらに、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチド、例えばRNAまたはDNAが含まれる。より好ましくは、代謝産物は50Da(ダルトン)〜30,000Da、最も好ましくは30,000Da未満、20,000Da未満、15,000Da未満、10,000Da未満、8,000Da未満、7,000Da未満、6,000Da未満、5,000Da未満、4,000Da未満、3,000Da未満、2,000Da未満、1,000Da未満、500Da未満、300Da未満、200Da未満、100Da未満の分子量を有する。しかし、好ましくは、代謝産物は少なくとも50Daの分子量を有する。最も好ましくは、本発明による代謝産物は50Da〜1,500Daの分子量を有する。
【0016】
上述の代謝産物または代謝産物のグループだけでなく、さらなるバイオマーカーまたはさらなるバイオマーカーのグループを本発明の方法により同様に確認できることは理解されよう。前記さらなるバイオマーカーには、前立腺癌またはその素因と関連することが公知である核酸、ペプチド、ポリペプチドまたは他の臨床パラメーターが含まれる。好ましくは、前記さらなるバイオマーカーの試験は、直腸診(DRE)、経直腸超音波検査(TRUS)、PSAおよびPAP試験、前立腺特異抗原(PSA)、遊離型および全PSA(PSAIIとしても知られる)、加齢特異PSA値、前立腺酸ホスファターゼ(PAP)試験、腫瘍バイオプシー、コンピューター断層撮影(CTスキャン)、骨スキャンおよびMRIから成る群より選択される。
【0017】
前記の支援代謝産物も本明細書の随所に記載した好適な参照結果と比較するのが好ましいであろう。前記比較の結果はさらに、被験体が前立腺癌を患うかどうかまたはその素因を有するかどうかについての知見を支援するであろう。好ましい参照結果、相対量の変化に対する値およびレギュレーションの種類に対する指示は、以下に付随する実施例に見出されるであろう。
【0018】
本明細書中で用いる「試験サンプル」なる語は本発明の方法による前立腺癌またはその素因の診断に用いるサンプルを意味する。前記試験サンプルは生体サンプルである。生物学的起源からのサンプル(すなわち、生体サンプル)は通常、複数の代謝産物を含む。本発明の方法に用いる好ましい生体サンプルは、体液、好ましくは、血液、血漿、血清、リンパ液、または尿、または、例えば、バイオプシーにより細胞、組織または器官から誘導されたサンプル、好ましくは、前立腺癌細胞を含むかまたはそれから本質的に成る疑いのある前立腺組織から得たサンプルである。これはまた、細胞成分のコンパートメントまたは細胞小器官、例えばミトコンドリア、ゴルジのネットワークまたはペルオキシソームを含むサンプルを包含する。生体サンプルは本明細書の随所で記載した被験体由来であってもよい。上述の色々な型の生体サンプルを得る技法は当技術分野で周知である。例えば、血液サンプルは採血により得てもよく、また、組織または器官サンプルは、例えば、バイオプシーにより得てもよい。
【0019】
上述のサンプルは、好ましくは、前処理の後に本発明の方法に用いる。以下にさらに詳しく記載するように、前記の前処理は化合物を遊離しかつ分離するためにまたは過剰の材料または廃棄物を除去するために必要な処理を含みうる。好適な技法は、化合物の遠心分離、抽出、分画、精製および/または濃縮を含む。さらに、化合物分析に好適な形態または濃度の化合物を得るために、他の前処理を行う。特に、サンプルが血漿サンプルである場合には、サンプルは抗凝固剤、例えばEDTA-、アンモニウムまたはリチウムヘパリナート-、酸-シトラート-デキストロース(ACD)-、オキサラート-またはシトラート-バッファーにより、あるいはサンプルが血清サンプルである場合には、サンプルは凝固活性化剤で前処理されうる。組織サンプルは、パラフィン包埋により、あるいは固定剤または液体窒素、凍結乾燥もしくはホルムアルデヒド溶液のような手段により前処理されうる。さらに、例えば、ガスクロマトグラフィと連結した質量分析を本発明の方法に用いる場合、前記ガスクロマトグラフィの前に、化合物を誘導体化する必要がある。好適かつ必要な前処理は本発明の方法を行うために用いる手段に応じたものであり、当業者は周知している。上述した前処理サンプルも、本発明で使用する用語「サンプル」に含まれる。
【0020】
本明細書中で用いる「被験体」なる語は動物、好ましくは哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、サル、またはウシ、そして、好ましくは、ヒトにも関する。試験される被験体は前立腺組織を含むと理解されるべきである。したがって、被験体は男性被験体、特にヒト男性である。本発明の方法を応用して診断しうる他の動物は鳥類または爬虫類である。好ましくは、被験体は、本発明の前記方法を行う前に前立腺摘出術に付されている。前立腺摘出術後、被験体は、好ましくは、前立腺癌を示す症状または臨床徴候を示さない。
【0021】
本明細書で用いる「前記少なくとも1つの代謝産物を測定する」なる語は、本明細書で言及するサンプルに含まれる少なくとも1つの代謝産物の少なくとも1つの特徴的特性を測定することを意味する。本発明による特徴的特性は、代謝産物の生化学的特性を含む物理的および/または化学的特性を特徴付ける特性である。かかる特性には、例えば、分子量、粘度、密度、電荷、スピン、光学活性、色、蛍光、化学発光、元素組成、化学構造、他化合物との反応性、生物学的読取り系で応答を引き起こす能力(例えば、レポーター遺伝子の誘導)などが含まれる。前記特性の値は特徴的特性として役立ち得るものであり、当技術分野で周知の技法により測定することができる。さらに、特徴的特性は、標準的操作、たとえば、乗算、除算、または対数計算などの数学的計算により代謝産物の物理的および/または化学的特性の値から導かれる特性であってもよい。最も好ましくは、少なくとも1つの特徴的特性が、少なくとも1つの代謝産物の測定および/または化学的同定を可能にすることである。
【0022】
試験サンプルに含まれる少なくとも1つの代謝産物は本発明により定量的にまたは定性的に測定することができる。定性的測定については、代謝産物の存在または不在を好適な技法により測定しうる。さらに、定性的測定には、好ましくは、代謝産物の化学構造または組成の測定が含まれる。定量的測定については、サンプル中に存在する少なくとも1つの代謝産物の正確な量を測定しうるかまたは少なくとも1つの代謝産物の相対的な量を、好ましくは、本明細書で先に言及した特徴的特性について測定した値に基づいて測定しうる。代謝産物の正確な量を測定できないかまたは測定しない場合、相対量を測定してもよい。前記の場合、前記代謝産物を第2の量で含む第2のサンプルと対比して、代謝産物の存在量が増大または低減したかどうかを測定してもよい。代謝産物の定量分析は、従って、時折、代謝産物の半定量分析と呼ぶものも含む。
【0023】
さらに、本発明による方法に使用する測定は、好ましくは、先に記載した分析工程の前に化合物分離工程の使用を含む。好ましくは、前記化合物分離工程はサンプルに含まれる代謝産物の時間分解分離をもたらすものである。好ましくは本発明により使用する分離の好適な技法は、従って、全てのクロマトグラフィ分離技法、例えば、液体クロマトグラフィ(LC)、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、ガスクロマトグラフィ(GC)、薄層クロマトグラフィ、サイズ排除またはアフィニティクロマトグラフィを含む。これらの技法は当技術分野において周知であり、さらなる面倒を伴うことなく当業者は応用することができる。最も好ましくは、LCおよび/またはGCが本発明の方法で想定するクロマトグラフィ技法である。代謝産物のかかる測定のための好適な装置は当技術分野で周知である。好ましくは、質量分析、特にガスクロマトグラフィ質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィ質量分析(LC-MS)、直接注入質量分析またはフーリエ変換-イオンサイクロトロン共鳴-質量分析(FT-ICR-MS)、キャピラリー電気泳動質量分析(CE-MS)、高速液体クロマトグラフィ連結質量分析(HPLC-MS)、四重極質量分析、任意の逐次連結質量分析、たとえばMS-MSもしくはMS-MS-MSなど、誘導結合プラズマ質量分析(IPC-MS)、熱分解質量分析(Py-MS)、イオン移動度質量分析、または飛行時間質量分析(TOF)を使用する。最も好ましくは、以下に詳しく記載した、LC-MS および/または GC-MSを使用する。前記技法は、例えば、Nissen, Journal of Chromatography A, 703, 1995: 37-57、US 4,540,884号、またはUS 5,397,894(その開示内容は本明細書に参照により組み入れられる)に開示されている。質量分析技術の代わりの選択肢としてまたはそれに加えて、次の技法を化合物測定に用いることができる:核磁気共鳴(NMR)、磁気共鳴イメージング(MRI)、フーリエ変換赤外分析(FT-IR)、紫外(UV)分光、屈折率(RI)、蛍光検出、放射化学的検出、電気化学的検出、光散乱(LS)、分散ラマン分光、またはフレームイオン化検出(FID)。これらの技術は、当業者に周知であり、さらなる面倒を伴うことなく適用することができる。好ましくは、本発明の方法を自動化により支援する。たとえば、サンプル処理または前処理をロボット工学により自動化することができる。好ましくは、データ処理および比較を好適なコンピュータプログラムおよびデータベースにより支援する。本明細書に先に記載した自動化により、本発明の方法をハイスループット方式で使用できるようになる。
【0024】
さらに、少なくとも1つの代謝産物を、特異的な化学的アッセイまたは生物学的アッセイにより測定することもできる。前記アッセイは、サンプル中の少なくとも1つの代謝産物を特異的に検出できるようにする手段を含む。好ましくは、前記手段は、他の化合物と反応する能力もしくは生物学的読取り系で応答を誘発する能力(たとえば、レポーター遺伝子の誘導)に基づいて、代謝産物の化学構造を特異的に認識できるか、または代謝産物を特異的に同定可能である。代謝産物の化学構造を特異的に認識できる手段は、好ましくは、化学構造、例えば受容体または酵素と特異的に相互作用する抗体または他のタンパク質である。特異的抗体は、例えば、代謝産物を抗原として用いて当技術分野で周知の方法により得ることができる。本明細書で意味する抗体は、ポリクロナール抗体とモノクロナール抗体の両方、さらにはそれらのフラグメント、たとえば、抗原またはハプテンと結合することができるFv、Fab、およびF(ab)2フラグメントを包含する。本発明はまた、所望の抗原特異性を示す非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列とヒトアクセプター抗体の配列とを組み合わせたヒト化ハイブリッド抗体を含む。さらに、一本鎖抗体が包含される。ドナー配列は、通常、ドナーの少なくとも抗原結合性アミノ酸残基を含みうるが、ドナー抗体の他の構造上および/または機能上関係するアミノ酸残基も含みうる。かかるハイブリッドは、当技術分野で周知のいくつかの方法により調製することができる。代謝産物を特異的に認識できる好適なタンパク質は、好ましくは、前記代謝産物の代謝変換に関わる酵素である。前記酵素は代謝産物を基質として用いてもよくまたは基質を代謝産物に変換してもよい。さらに、前記抗体は代謝産物を特異的に認識するオリゴペプチドを作製するベースとして用いてもよい。これらのオリゴペプチドは、例えば、前記代謝産物に対する酵素の結合ドメインまたはポケットを含むものである。好適な抗体および/または酵素に基づくアッセイはRIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)または固相免疫試験であってもよい。さらに、代謝産物はまた、他の化合物と反応する能力に基づいて、すなわち、特異的な化学反応により同定することができる。好適な反応は当技術分野で周知であり、そして、好ましくは酵素反応(例えばマンノースについては、 Pitkanen E, Pitkanen O, Uotila L.; Eur J Clin Chem Clin Biochem. 1997 Oct;35(10):761-6;またはアスコルビン酸については、Winnie Lee, Susan M. Roberts and Robert F. Labbe; Clinical Chemistry 43: 154-157、1997)、酵素分光分析法(BN La Du, RR Howell, PJ Michael and EK Sober; Pediatrics, Jan 1963, 39-46, Vol 31, No. 1)、分光蛍光分析法(Sumi T, Umeda Y, Kishi Y, Takahashi K, Kakimoto F.; Clin Chim Acta. 1976 Dec 1;73(2):233-9)および蛍光;化学発光(J.J. Thiele, H.J. Freisleben, J. Fuchs and F.R. Ochsendorf; Human Reproduction, Vol. 10, No. 1, pp. 110-115, 1995)を包含する。さらなる検出法、例えば、キャピラリー電気泳動(Hubert A. Carchon and Jaak Jaeken; 47: 1319-1321、2001)および比色法(Kyaw A; Clin Chim Acta. 1978 Jun;86(2):153-7)を用いることができる。さらに、サンプル中の代謝産物を生物学的読取り系における応答を誘発する能力によって測定することができる。生物学的応答は、サンプルに含まれる代謝産物の存在および/または量を示す読取り値として検出される。生物学的応答は、例えば、細胞または生物の遺伝子発現または表現型応答の誘導でありうる。
【0025】
さらに、前記少なくとも1つの代謝産物を測定する技法に応じて、検出しうるアナライトは生体に存在する代謝産物、すなわち被験体内に存在する代謝産物の誘導体でありうることは理解されたい。かかるアナライトはサンプル調製または検出手段の結果として作製されうる。本明細書で言及する化合物はアナライトであるとみなされる。しかし、先に述べたように、これらのアナライトは定性的および定量的な方式で代謝産物を表現しうる。さらに、複数の代謝産物について、代謝産物はアナライトと同一でありうることを理解されたい。
【0026】
本発明により言及する代謝産物またはアナライトは、本明細書で言及した疾患または効果に関する指標として役立つ分子種を意味する。前記分子種はそれ自体、被験体のサンプル中に見出される代謝産物でありうる。さらに、バイオマーカーもまた、前記代謝産物から誘導される分子種である。かかる場合、実際の代謝産物はサンプル中でまたは測定プロセスの間に化学的に改変されうるのであって、前記改変の結果、化学的に異なる分子種、すなわちアナライトが測定される分子種でありうる。かかる場合、アナライトは実際の代謝産物を表し、そしてそれぞれの医学的症状に関する指標として同じ潜在能力を有すると理解されるべきである。さらに、本発明によるバイオマーカーは必ずしも一分子種に対応するものではない。むしろ、バイオマーカーは化合物の立体異性体またはエナンチオマーを含みうる。さらに、バイオマーカーはまた、異性体分子の生物学的クラスの異性体の和を表しうる。前記異性体はいくつかの場合、同一の分析的特徴を示すであろう、そしてそれ故に、以下に記載した付随する実施例に応用したものを含む様々な分析法により識別することができない。しかし、異性体は少なくとも同一の式パラメーター和、従って、例えば、脂質の場合、脂肪酸および/またはスフィンゴ塩基部分において同一の鎖長および同一の二重結合数を共有しうる。
【0027】
「参照(体)」なる語は、それらを表す量または値、すなわち、本明細書に記載されている疾患または状態の存在または非存在と相関されうる少なくとも1つの代謝産物の特徴的特性のデータを意味する。かかる参照は、好ましくは、前立腺摘出術後の前立腺癌の再発のリスクを有することが判明している被験体または被験体群のサンプルから得る。参照は、かかるサンプルの群から得た平均もしくは平均値であってもよい。参照を1以上のバイオプシー組織サンプルから得る場合、前記サンプルは前立腺癌組織または前立腺癌組織であると疑われる組織を含むかまたは本質的にそれから成るものである。前立腺癌組織であると疑われる後者の組織は組織学的には正常な前立腺癌組織として現れうるが、前立腺摘出術により摘出された前者の前立腺癌に接近して位置する領域から誘導されうる。参照は、本発明の方法を適用することにより得られうる。
【0028】
別法として、そしてそれでも同様に好ましくは、参照結果は、前立腺摘出術後の前立腺癌の再発のリスクを有しないことが判明している被験体または被験体群のサンプルから得られうる。同様に、参照をバイオプシー組織サンプルから得る場合、前記サンプルは、見掛け上健康な前立腺組織から本質的に成る。参照はまた、かかるサンプルの群から得た平均もしくは平均値であってもよい。好ましくは、バイオプシー組織サンプルを想定する場合、参照の根拠になるサンプルと試験サンプルは同じ被験体から、すなわち、見掛け上前立腺癌を患う領域からおよび前立腺癌を患うと疑われる領域から得ることができる。
【0029】
さらに、参照はまた、好ましくは、見掛け上健康であるかまたは前立腺癌を患う個体の代表集団の代謝産物の相対的または絶対的な量について計算した参照、最も好ましくは平均もしくはメジアンでありうる(ここで、前立腺癌を患う被験体は所与の集団、好ましくは、米国、アジアまたは欧州集団内で該疾患に罹患したものである)。前記集団の個体の代謝産物の絶対的または相対的な量は本明細書において随所に記載したように測定することができる。好適な参照値、好ましくは、平均もしくはメジアンの計算方法は当技術分野では周知である。先に言及した被験体の集団は複数の被験体、好ましくは少なくとも5、10、50、100、1,000または10,000の被験体を含む。本発明の方法により診断する被験体と前記複数の被験体の被験体は同じ種であると理解されたい。
【0030】
より好ましくは、「参照(体)」は、参照被験体群(すなわち、前立腺癌に罹患していることが判明している被験体の群および前立腺癌に罹患していないことが判明している被験体の群);研究すべき被験体を含む集団;または前立腺癌組織もしくは見掛け上健康な組織の組織バイオプシーサンプルの群に関する少なくとも1つの特徴的特性の値を決定し、そして本明細書で随所に記載した、例えば、メジアン、平均、分位、PLS-DA、ロジスチック回帰分析、ランダムフォレスト分類または閾値を与える他の方法を含む、適当な統計尺度から参照を計算することにより得ることができよう。閾値は、診断および予後の試験の感度(感受性)および特異性の所望の臨床設定を考慮に入れるべきである。参照として用いられる閾値は、好ましくは、受信者動作特性(ROC)(特に、Zweig 1993, Clin. Chem. 39:561-577を参照されたい)を適用することにより決定されうる。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を連続的に変化させることにより得られる感度/特異性ペアの全てのプロットである。診断方法の臨床特性はその精度、すなわち、それが被験体を或る予後または診断に正確に割り当てる能力にかかっている。ROCプロットは、区別するのに適した閾値の全範囲にわたって1-特異性に対して感度をプロットすることにより、2つの分布の間の重複を示す。y軸上には感度または真陽性率(これは真陽性の数と偽陰性試験結果の数との積に対する真陽性試験結果の数の比として定義される)が示される。これは疾患または状態の存在下の陽性とも称される。それは専ら罹患亜群から計算される。x軸上には偽陽性率または1-特異性(これは真陰性の数と偽陽性結果の数との積に対する偽陽性結果の数の比として定義される)が示される。それは特異性の指標であり、全て非罹患亜群から計算される。真陽性率および偽陽性率は、2つの異なる亜群からの試験結果を用いることにより、全て別々に計算されるため、ROCプロットはコホート内の事象の有病率から独立している。ROCプロット上の各点は、個々の決定閾値に対応する感度/特異性ペアを表す。完全な識別(結果の2つの分布における重複無し)を示す試験は、真陽性率が1.0または100%(完全な感度)であり偽陽性率が0(完全な特異性)である左上の隅を通過するROCプロットを示す。無識別(2つの群に関する結果の同一分布)を示す試験に関する理論的プロットは左下から右上の隅への45°の対角線である。ほとんどのプロットはこれらの2つの隅の間に含まれる。ROCプロットが45°の対角線の下に完全に含まれる場合、「陽性」に関する基準を「より大きい」から「より小さい(未満)」へと逆転させることにより又はその逆により、これは容易に改善される。定性的には、プロットが左上の隅に近づけば近づくほど、試験の全体的な精度は高くなる。所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導き出すことが可能であり、それにより、それぞれ感度と特異性との適切なバランスでの所与事象に関する診断または予測が可能となる。したがって、本発明の前記方法に用いられる参照(体)、すなわち、急性炎症に罹患している被験体のコホートにおける正常なリスクを有する被験体と死亡リスクの増大を示す被験体との識別を可能にする閾値が、好ましくは、前記コホートに関するROCを確立し、それから閾値量を導き出すことにより得られうる。診断方法に関する所望の感度および特異性に応じて、ROCプロットは適当な閾値の導出を可能にする。
【0031】
より好ましくは、参照結果、すなわち、少なくとも1つの代謝産物の少なくとも1つの特徴的特性に関する値を好適なデータ記憶媒体、例えばデータベースに保存し、こうして、将来の診断にも利用できるようにする。こうすることにより、疾患または状態に対する素因を効率的に診断できるようになる、何故なら、対応する参照サンプルを得た被験体が(実際に)前立腺癌を発症したことを(将来)確認すると、好適な参照結果をデータベースで同定できるからである。ヒトにおける前立腺癌またはその素因に関連する好ましい参照結果は、後記実施例の表に示されているものである。
【0032】
「比較」なる語は、前記で詳しく記載した測定結果、すなわち、少なくとも1つの代謝産物の定性的もしくは定量的測定結果が参照結果と同一もしくは類似であるかまたはそれらと異なるかどうかを評価することを意味する。
【0033】
該疾患または状態を示すことが判明している被験体または被験体群から参照結果を得る場合、前記疾患または状態を、試験サンプルから得た試験量と上述の参照との間の同一性または類似性の程度に基づいて(すなわち、少なくとも1つの代謝産物についての同一または類似の定性的もしくは定量的組成に基づいて)診断することができる。もし特徴的特性の値、そして定量的測定の場合には強度値が同一であれば、試験サンプルの結果と参照結果は同一である。もし特徴的特性の値は同一であるが強度値が異なれば、前記結果は類似である。かかる相違は、好ましくは、有意でなく、強度の値は少なくとも参照値の第1〜第99パーセンタイル、第5〜第95パーセンタイル、第10〜第90パーセンタイル、第20〜第80パーセンタイル、第30〜第70パーセンタイル、第40〜第60パーセンタイルの区間内にあるかまたは参照値の第50、第60、第70、第80、第90または第95パーセンタイルであることで特徴づけられる。
【0034】
該疾患または状態を示さないことが判明している被験体または被験体群から参照結果を得る場合、前記疾患または状態を試験サンプルから得た試験量と上述の参照との間の相違に基づいて(すなわち、少なくとも1つの代謝産物についての定性的もしくは定量的組成の相違に基づいて)診断することができる。先に記載の計算した参照を用いる場合も同様である。相違は代謝産物の絶対的もしくは相対的な量の増加(時折、代謝産物のアップレギュレーションと呼ぶ:後記表も参照されたい)または代謝産物の前記両方の量の減少もしくは検出可能量の不在であってもよい(代謝産物のダウンレギュレーションと称されることもある;後記表も参照されたい)。好ましくは、相対的もしくは絶対的な量の相違は有意であり、すなわち参照値の第45〜第55パーセンタイル、第40〜第60パーセンタイル、第30〜第70パーセンタイル、第20〜第80パーセンタイル、第10〜第90パーセンタイル、第5〜第95パーセンタイル、第1〜第99パーセンタイルの区間外にある。
【0035】
本明細書の随所で言及する具体的な代謝産物について、調節の相対量の変化(すなわち、メジアンの変化)または調節の種類(すなわち、より高いもしくはより低い相対的および/または絶対的な量をもたらす「アップ(上方)」または「ダウン(下方)」レギュレーション)に関する好ましい値を後記の表に示す。該表において、所与の代謝産物が被験体もしくは組織サンプルにおいて「アップレギュレーションされる(上方調節される)」と示していれば、相対的および/または絶対的な量は増加する。それが「ダウンレギュレーションされる(下方調節される)」場合には、相対的および/または絶対的な量は減少する。さらに、メジアンは増加もしくは減少の程度を示し、例えば、2.0のメジアンは、参照と比較した代謝産物の量の2倍であることを意味する。
【0036】
本発明の前記方法の好ましい実施形態においては、該参照(体)は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有することが判明している被験体または被験体群から誘導されうる。より好ましくは、試験サンプルおよび参照における前記の少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有することを示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有しないことを示す。
【0037】
本発明の前記方法のもう1つの好ましい実施形態においては、該参照(体)は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有しないことが判明している被験体または被験体群から誘導されうる。より好ましくは、試験サンプルおよび参照における前記の少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有しないことを示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有することを示す。
【0038】
比較を、好ましくは、自動化により支援する。例えば、2つの異なるデータセット(例えば、特徴的特性値を含むデータセット)を比較するアルゴリズムを含む好適なコンピュータープログラムを用いることができる。かかるコンピューターおよびアルゴリズムは当技術分野で周知である。以上に関わらず、比較を手作業で実行してもよい。
【0039】
少なくとも1つの代謝産物を測定する前記方法を、デバイス(装置)中に実装することができる。本明細書で使用するデバイスは少なくとも上述の手段を含むであろう。さらに、デバイスは、好ましくは、少なくとも1つの代謝産物の検出特徴的特性、そしてまた、好ましくは、決定されたシグナル強度を比較および評価するための手段をさらに含む。デバイスの手段は、好ましくは、お互いに作動しうる形で連結されている。作動する方式で手段をいかに連結するかは、デバイス中に組み入れる手段の型式に依存する。例えば、代謝産物を自動で定性的または定量的に測定する手段を適用する場合、前記自動で作動する手段によって得たデータを、例えば、コンピュータプログラムにより処理して診断を容易にすることができる。好ましくは、その手段は、かかる場合には単一デバイスに含まれる。前記デバイスは従って、代謝産物の分析ユニットおよび得られる診断用データを処理する評価ユニットを含みうる。あるいは、代謝産物を測定するために試験ストライプなどの手段を用いる場合、診断用手段は、測定した結果データを、前立腺癌もしくはその素因に関連することが判明している結果データに割り当てる対照ストライプもしくは表、または先に考察した健康な被験体の指標となるものを含みうる。好ましいデバイスは、専門臨床医の特別な知識無しに適用できるデバイス、例えば、試験ストライプまたはサンプルを供給するだけが必要な電子デバイスである。
【0040】
あるいは、少なくとも1つの代謝産物を測定する方法を、好ましくは、お互いに作動しうる形で連結されたいくつかのデバイスを含むシステム中に実装することができる。具体的には、これらの手段は以下に詳しく記載した本発明の方法の実行を可能にする方式で連結されなければならない。それ故に、本明細書中で用いる、作動しうる形で連結されるは、好ましくは、機能的に連結されることを意味する。本発明のシステムに使用する手段に応じて、前記手段間のデータ伝送を可能にする手段、たとえば、ガラスファイバーケーブルおよび他のハイスループットデータ伝送用ケーブルにより各手段を他の手段に接続することによって、前記手段を機能的に連結することが可能である。それにも関わらず、本発明は、例えば、LAN(無線LAN、W-LAN)を介する、手段間の無線データ転送も想定している。好ましいシステムは、代謝産物を測定する手段を含む。本明細書中で用いる、代謝産物を測定する手段は、代謝産物を分離する手段(たとえばクロマトグラフィデバイス)、および代謝産物を測定する手段(たとえば質量分析デバイス)を含む。好適なデバイスは前記に詳細に記載されている。本発明のシステムに使用する好ましい化合物分離手段には、クロマトグラフィデバイス、より好ましくは、液体クロマトグラフィ、HPLC、および/またはガスクロマトグラフィ用のデバイスが含まれる。好ましい化合物測定用のデバイスは、質量分析デバイス、より好ましくは、GC-MS、LC-MS、直接注入質量分析計、FT-ICR-MS、CE-MS、HPLC-MS、四重極質量分析計、逐次連結質量分析計(たとえばMS-MSもしくはMS-MS-MS)、ICP-MS、Py-MSまたはTOFを含む。好ましくは、分離手段と測定手段をお互いに連結する。最も好ましくは、本明細書で随所に詳細に記載したように、LC-MSおよび/またはGC-MSを本発明のシステムに使用する。さらに、代謝産物の測定手段から得た結果を比較および/または分析する手段も含まれるものとする。結果を比較および/または分析する手段は、少なくとも1つのデータベースおよび結果を比較するために実装したコンピュータプログラムを含みうる。
【0041】
先に記載したように、本発明の方法の好ましい実施形態においては、前記少なくとも1つの代謝産物の測定は質量分析(MS)を含むものである。本明細書で使用する質量分析は、本発明により測定すべき化合物、すなわち、代謝産物に対応する分子量(すなわち質量)または質量変数の測定を可能にする全ての技法を包含する。好ましくは、本明細書で使用する質量分析は、GC-MS、LC-MS、直接注入質量分析計、FT-ICR-MS、CE-MS、HPLC-MS、四重極質量分析計、任意に逐次に連結した質量分析計(たとえばMS-MSもしくはMS-MS-MS)、ICP-MS、Py-MSまたはTOF、または上述の技法を用いる任意の組み合わせ手法に関する。当業者はこれらの技法の適用の仕方を熟知している。さらに、好適なデバイスが市販されている。より好ましくは、本明細書で使用する質量分析はLC-MSおよび/またはGC-MS、すなわち先行するクロマトグラフィ分離ステップと作動しうる形で連結された質量分析に関する。より好ましくは、本明細書で使用する質量分析は四重極MSを包含する。最も好ましくは、前記四重極MSは次のステップ:a)質量分析器の第1分析用4重極(I)におけるイオン化によって形成されたイオンの質量/電荷比(m/z)を選択するステップ、b)衝突ガスで満たされ、衝突室として働く追加の後続の4重極において加速電圧を印加することによりステップa)で選択されたイオンを断片化するステップ、追加の後続の4重極において、ステップb)の断片化プロセスによって生成されたイオンの質量/電荷比を選択するステップ(この際、ステップa)〜c)を少なくとも1回実施する)、ならびに、イオン化の結果として物質混合物中に存在する全イオンの質量/電荷比を分析するステップ(この際、分析中に、4重極は衝突ガスで満たされているが、加速電圧は印加されない)の通り行う。本発明により使用する前記最も好ましくは質量分析の詳細はWO 03/073464に見出すことができる。
【0042】
より好ましくは、前記質量分析は液体クロマトグラフィ(LC)MSおよび/またはガスクロマトグラフィ(GC)MSである。
【0043】
本明細書で使用する液体クロマトグラフィは、液または超臨界相で化合物(すなわち代謝産物)の分離を可能にする全ての技法を意味する。液体クロマトグラフィは、移動相中の化合物を静止相を通過させることを特徴とする。化合物が静止相を色々な速度で通過するときに、各化合物は特定の保持時間(すなわち、化合物がこの系を通過するのに必要な時間)を有するので、これらは時間で分離される。本明細書で使用する液体クロマトグラフィはまた、HPLCを含む。液体クロマトグラフィ用のデバイスは、例えば、Agilent Technologies(USA)から市販されている。本発明により適用されるガスクロマトグラフィは、原則として、液体クロマトグラフィと比較しうる機能を有する。しかし、固定相を通過する液移動相中に化合物(すなわち代謝産物)を有するよりむしろ、化合物は気体の体積中に存在しうる。化合物は、固定相として固体支持材を含有するかまたはその壁が固定相を果たすかまたは固定相でコーティングされているカラムを通過する。再び、各化合物は、カラムを通過するのに必要とされる特定の時間を有する。さらに、ガスクロマトグラフィの場合、好ましくは、化合物を誘導体化した後にガスクロマトグラフィで処理することが想定される。誘導体化の好適な技法は当技術分野で周知である。好ましくは、本発明による誘導体化は好ましくは極性化合物のメトキシム化およびトリメチルシリル化、好ましくは非極性(すなわち親油性)化合物のトランスメチル化、メトキシム化およびトリメチルシリル化に関する。
【0044】
有利なことに、本発明により、上述した代謝産物の少なくとも1つまたは1群は、前立腺摘出術後の患者における再発性前立腺癌に関するリスクを診断するための好適なバイオマーカーであることが見出されている。これらの代謝産物をバイオマーカーとして応用することにより、迅速で、信頼できてかつ費用効果的な術後リスクの層別化が可能になる。したがって、モニター手段ならびに術後ケアおよび治療手段の必要性が、信頼しうる様態で評価され推定されうるため、ヘルスケアマネージメントは本発明の方法から大きな利益を得る。
【0045】
原則として、本発明は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを前立腺摘出術後の被験体のサンプルにおいて診断するための、表2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーまたはそのための検出剤の使用を含む。更に、本発明は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを前立腺摘出術後の被験体のサンプルにおいて診断するための診断用組成物または医薬組成物の製造のための、表2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーまたはそのための検出剤の使用に関する。
【0046】
前記で行った用語の説明および解釈は、特に示されていない限り、後記で特定されている他の実施形態にそれらに応じて適用される。
【0047】
前記方法の好ましい実施形態においては、該方法は、被験体が前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有する、または転移性もしくは非転移性前立腺癌を有すると、好ましくはバイオプシーサンプルに基づいて診断されたかどうかに基づいて、被験体に対する治療のための又は患者の健康管理のための手段(方策)を推奨する工程(ステップ)を更に含む。
【0048】
本明細書中で用いる「推奨(する)」なる語は、患者に具体的に適用可能な治療手段および/または患者の健康管理のための手段を提案することを意味する。推奨は、好ましくは、推奨された治療手段または患者の健康管理のための手段の実際の適用を含まない。
【0049】
本明細書中で用いる「治療のための又は患者の健康管理のための手段」なる語は、前立腺癌を治癒または改善させることを目的とした、あるいは再発性前立腺癌を予防することを目的とした治療手段、および患者の健康管理のための手段、例えばモニタリング、例えばモニタリング手段およびモニタリング頻度の選択ならびに入院を意味する。好ましくは、前記の治療のための又は患者の健康管理のための手段は、前立腺手術、抗癌薬の投与、患者のモニタリング、積極的サーベイランス、待機療法および入院からなる群から選択される。適当な前立腺癌療法には、手術、低線量および高線量照射、ホルモン療法および全身性化学療法、例えば、細胞分裂阻害剤の単独体またはそれと他の薬物との組合せ、例えば、第一選択療法としてのプレドニゾロンと組合されたドセタキセル、ホルモン療法と又はビノレルビン、エピルビシン、カペシタビンまたはカルシトリオールのような細胞分裂阻害剤と組合されたドセタキセルが含まれる。被験体が進行性前立腺癌に対する療法から利益を得る又は該療法を要するかどうかを決定するためにも、該方法が適用されうると理解されるであろう。そのような方法は「積極的サーベイランス」のような治療アプローチにおいて適用されうる。このアプローチにおいては、それほど進行していない前立腺癌に罹患している被験体を、進行の早期開始を検出するために短期的定期的な進行性前立腺癌の前記診断方法に付す。進行が検出可能になった後でのみ、被験体は例えば手術または放射線照射のような適当な療法により治療される。したがって、「積極的サーベイランス」は、前立腺癌に罹患しているが治療を直ちに必要としていない被験体における治療の有害な副作用を予防する。この段階での治療を回避することにより、治療による有害な副作用も回避されうると理解されるであろう。「積極的サーベイランス」アプローチは、通常、より若い被験体で実施される(Kim S 2nd, Dall'Era MA, Evans CP Curr Opin Urol. 2012 ;22(3):247-53. Economic analysis of active surveillance for localized prostate cancer.)。
【0050】
「待機療法」のアプローチは、持続的定期的に本発明の方法を適用することによるモニタリングおよびホルモン療法に基づく。進行性前立腺癌の徴候が明らかでない場合には、手術または放射線照射のような更なる治療手段およびそれらの副作用が回避されうる(Dall'Era MA, Carroll PR. Curr Opin Urol. 2009 May;19(3):258-62, “Outcomes and follow -up strategies for patients on active surveillance”)。
【0051】
本発明の方法のより好ましい実施形態においては、該方法は、前記方法により特定された、治療のための又は患者の健康管理のための手段を、被験体に適用する工程をも含む。
【0052】
したがって、本発明は、
(a)前立腺摘出術前の被験体の試験サンプルにおける、表2または2-ヒドロキシベヘン酸、イソペンテニルピロホスファートもしくは7-メチルグアニンから選択される少なくとも1つの代謝産物の量を測定し、
(b)工程(a)において測定された量を参照と比較することを含み、それにより、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかが診断される、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するための方法に関する。
【0053】
好ましくは、該サンプルは、前立腺摘出術前であって、前立腺癌が既に臨床的に明らかである時点で(例えば、バイオプシーにより)被験体から得られたものである。より好ましくは、この文脈において前立腺癌が臨床的に明らかであると言えるのは、手術前包含基準として後記実施例に記載されている基準が満たされる場合である。
【0054】
前立腺摘出術前に得たサンプルを使用する場合、該方法は、好ましくは、前立腺摘出術を患者に対して行うかどうかを判断するためにも用いられうる。
【0055】
有利なことに、前記代謝産物の少なくとも1つ又は1群が、前立腺摘出術前の患者における再発性前立腺癌のリスクを診断するための好適なバイオマーカーであることが、本発明において判明した。
【0056】
本発明の前記方法に従い使用される9種の代謝産物は異なる代謝クラスに属する。7種のアップレギュレーション代謝産物中の4種、すなわち、セレブロン酸、ヒドロキシベヘン酸、トリコサン酸およびグリセロホスホエタノールアミンは複合脂質の成分である。前記の3種の脂肪酸はこの改変の考えられうる原因の指標を与える。例えば、α-ヒドロキシ長鎖脂肪酸(ヒドロキシベヘン酸、セレブロン酸)はβ酸化によっては代謝され得ず、α酸化によってのみ代謝可能であり、それはペルオキシソーム内に局在化している(Singh 1997, Mol Cell Biochem 167: 1-29)。セレブロシダーゼの主要構成成分としてのセレブロン酸はα酸化により脱カルボキシル化されて、トリコサン酸およびCO2を与える(Sandhir 2000, Lipids 35:1127-33)。前立腺癌組織におけるこれらの脂肪酸の蓄積はこれらの変化におけるペルオキシソームα酸化の関与を示す(Zha 2005, Prostate 63:316-323)。グリセロホスホエタノールアミンのレベルの増加は前立腺癌サンプルにおいて既に記載されている(Swanson 2008, Magn Reson Med 60: 33-40)。その他の3種の増加した代謝産物に関しては、ステロイド合成経路における中間体としてのイソペンテニルピロホスファートがメバロン酸経路においてアセチル-CoAから生成され、その増加は前立腺癌組織におけるコレステロール値の増加を反映していることに注目されるべきである(Lombard 2011, Mol Biol Evol 28: 87-99; Thysell 2010, PLoS One 5:e14175)。アミノアジピン酸はリシンの酸化の最終産物である(Sell 2007, Biochem J 404: 269-277)。最近になって、リシンの取り込みおよびアミノアジピン酸の分泌が腫瘍サプレッサーKLF4欠損細胞での細胞培養実験において上昇することが判明した(Bellance 2012, Biochim Biophys Acta 1817: 2060-71)。アミノアジピン酸の代謝は、脂肪酸合成の促進のためにアセチル-CoAを形成するリシンの代謝の変化の結果として変化した。したがって、該著者は、転写因子として機能するKLF4の差次的発現を示す、癌における潜在的バイオマーカーとしてのアミノアジピン酸を示唆した(Bellance 2012, 前掲)。この点において、前立腺癌組織におけるKLF4の発現が一般に低減し、転移を予測するための予後的価値を有することは興味深い(Wang 2010, Cancer Res 70: 10182-91)。したがって、本発明の根底をなす研究による生化学的再発の予後因子としてのアミノアジピン酸の結果、アミノアジピン酸とKLF4との関係、および前立腺癌におけるKLF4の予後的価値の文献データはお互いを説明している。7-メチルグアニンはDNAに対するメチル化損傷の修復産物である(Ames 1989, Mutat Res 214: 41-6)。メチルグアニンレベルの増加は他の腫瘍においても見出されている。細胞内反応性酸素種に対する防御の低減は、酵素欠損または亜鉛に基づく欠損のいずれによるものであっても、メチルグアニンの存在の増加の原因として示唆されている(Saad 2006, Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 15: 740-3; Newberne 1997, Patrhobiology 65: 253-63)。2種のダウンレギュレーション代謝産物であるグルコン酸およびマルトトリオースは炭水化物代謝に関連している。グルコン酸はグルコースおよびペントースリン酸経路を接続し、酸化的ストレスの条件下で濃度変化が見出されている(Liu 2010, Burns 36: 992-8)。マルトトリオースは、現在のところ、消化酵素アミラーゼによる摂取デンプンの中間体分解産物として知られているに過ぎないが、特徴的な免疫調節活性を示す絨毛癌において合成されることが最近見出された(Zhu 2011, Am J Reprod Immunol 65: 54-64)。マルトトリオースは必須核局在化シグナル配列モチーフの1つに相当することも示された(Niikura 2008, Chembiochem 9: 2623-7)。これらのシグナル分子は、いわゆる核タンパク質輸入サイクルにより、核と細胞質区画との間のタンパク質の輸送を制御して、それらの特徴的組成を維持する。
【0057】
本発明の前記代謝産物をバイオマーカーとして適用することは、前立腺摘出術前に、迅速で信頼しうる費用効果的なリスク層別化を可能にし、したがって、患者に対する前立腺摘出術の有用性を判断することを可能にする。したがって、手術の必要性がより良好に評価可能であり、モニタリング手段ならびに手術後および手術前のケアおよび治療手段が信頼しうる様態で評価可能であるため、ヘルスケアマネージメント(健康医療管理)は本発明の方法から大きな利益を受けるであろう。
【0058】
原則として、本発明は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを前立腺摘出術前の被験体のサンプルにおいて診断するための、表2または2-ヒドロキシベヘン酸、イソペンテニルピロホスファートもしくは7-メチルグアニンから選択される少なくとも1つのバイオマーカーあるいはその検出剤の使用を含む。更に、本発明は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを前立腺摘出術前の被験体のサンプルにおいて診断するための診断用組成物または医薬組成物の製造のための、表2または2-ヒドロキシベヘン酸、イソペンテニルピロホスファートもしくは7-メチルグアニンから選択される少なくとも1つのバイオマーカーあるいはその検出剤の使用に関する。
【0059】
前記方法の好ましい実施形態においては、該方法は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有すると診断されたかどうかに基づいて、被験体に対する治療のための又は患者の健康管理のための手段を推奨する工程を更に含む。
【0060】
好ましい実施形態においては、本発明は、
(a)前立腺摘出術前の被験体の試験サンプルにおける、表7および/または表8および/または表2から選択される少なくとも1つの代謝産物の量を測定し、
(b)工程(a)において測定された量を参照と比較することを含み、それにより、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかが診断される、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するための方法に関する。
【0061】
好ましくは、前立腺摘出術前の被験体の「試験サンプル」なる語は、被験体の前立腺またはその一部が外科的に摘出される前に得られたサンプルを意味する。したがって、好ましくは、試験サンプルは、計画された前立腺摘出術の前に採取されたバイオプシーサンプルまたは前立腺摘出術中に摘出された組織自体でありうる。より好ましくは、該試験サンプルは、計画された前立腺摘出術の前に採取されたバイオプシーサンプルである。
【0062】
好ましい実施形態においては、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかの診断は、被験体が前立腺摘出術から利益を得るかどうかの診断を意味する。したがって、好ましい実施形態においては、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかの診断は、前立腺摘出術が被験体にとって有益であるか否かを判断する際の補助を提供することを意味する。好ましくは、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかの診断は、前立腺摘出術後の被験体の予後を確定すること、すなわち、より好ましくは、前立腺摘出術後の不良予後を有する、患者のリスクを推定することを意味する。
【0063】
当業者により理解されるとおり、好ましくは、再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するための方法は該リスクの予測の改善を可能にする。したがって、例えば、該リスクを増加または減少させる因子の特定のための研究における参加者の数が低減されうる。したがって、好ましい実施形態においては、再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するための本発明方法は、再発性前立腺癌のリスクを増加または減少させる因子を検出するための方法の一部である。好ましくは、再発性前立腺癌のリスクを増加させる因子は、毒素、発癌物質、栄養など(これらに限定されるものではない)を含む環境的または社会経済的因子である。また、好ましくは、再発性前立腺癌のリスクを減少させる因子には、限定的なものではないが、医学的治療または社会経済的因子、例えば細胞増殖抑制的治療、放射線療法、栄養などが含まれる。
【0064】
もう1つの好ましい実施形態においては、再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するための本発明方法は、該リスクを増加または減少させる因子を検出するのに要する被験体の数を減少させるための方法の一部である。
【0065】
更に、同様に好ましい実施形態においては、再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するための本発明方法は、該リスクを増加または減少させる因子を特定するための方法における試験被験体として適した被験体を特定するための方法の一部である。逆に、同様に好ましい実施形態においては、再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するための本発明方法は、該リスクを増加または減少させる因子を特定するための方法における試験被験体として適さない被験体を特定するための方法の一部である。
【0066】
更に、本発明は、
(a)前立腺癌に罹患している被験体の試験組織サンプルにおける表4から選択される少なくとも1つの代謝産物の量を測定し
(b)工程(a)において測定された量を参照と比較することを含み、それにより、悪性前立腺組織と非悪性前立腺組織とが識別され、悪性前立腺癌組織または非悪性組織として該組織を特定する、悪性前立腺癌組織と非悪性組織とを識別するための方法に関する。
【0067】
本明細書中で用いる「識別する」なる語は、悪性前立腺癌組織または非悪性(好ましくは正常)前立腺組織として試験組織サンプルを特定することを意味する。該識別は全ての検査組織サンプルに関して適切であるとは限らない可能性があると理解されるであろう。しかし、好ましくは、該特定は統計的に有意な事例数に関してなされうると予想される。事例数が統計的に有意であるかどうかは、本明細書に記載されている統計技術により決定されうる。
【0068】
「悪性前立腺癌組織」なる語は、悪性前立腺癌細胞を含む前立腺組織を意味する。
【0069】
「非悪性組織」なる語は、悪性前立腺癌細胞を含まない前立腺組織を意味する。
【0070】
本発明の前記方法の好ましい実施形態においては、該参照は既知悪性前立腺癌組織または幾つかの既知悪性前立腺癌組織から誘導される。好ましくは、試験組織サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は悪性前立腺癌組織を示し、一方、参照と比較して異なる、試験組織サンプルにおける量は、非悪性組織を示す。
【0071】
本発明の前記方法のもう1つの好ましい実施形態においては、該参照は既知非悪性前立腺組織から誘導される。好ましくは、試験組織サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は非悪性組織を示し、一方、参照と比較して異なる、試験組織サンプルにおける量は、悪性前立腺癌組織を示す。
【0072】
本発明の前記方法の好ましい実施形態においては、該方法は、被験体の試験組織サンプルが悪性前立腺癌組織または非悪性組織として特定されたかどうかに基づいて、被験体に対する治療のための又は患者の健康管理のための手段を推奨する工程を更に含む。
【0073】
有利なことに、本発明の根底をなす研究において、表4の前記代謝産物は同一個体における悪性前立腺癌組織と非悪性組織とに関する信頼しうる効率的な識別因子であることが判明した。したがって、本発明は、外科的処置中の前立腺摘出の度合を判断することを補助することが可能であり、あるいはハイスループットスクリーニングアプローチ中に用いられうる。
【0074】
原則として、本発明はまた、前立腺癌に罹患している被験体の組織サンプルにおいて悪性前立腺癌組織と非悪性組織とを識別するための、表4から選択される少なくとも1つの代謝産物またはその検出剤の使用を含む。更に、前立腺癌に罹患している被験体の組織サンプルにおいて悪性前立腺癌組織と非悪性組織とを識別するための診断用組成物または医薬組成物の製造のための、表4から選択される少なくとも1つの代謝産物またはその検出剤の使用が含まれる。
【0075】
また、本発明は、
(a)前立腺癌に罹患している被験体の試験サンプルにおける少なくとも1つの代謝産物の量を測定し、ここで、該代謝産物は、アミノアジピン酸、セレブロン酸、2-ヒドロキシベヘン酸、イソペンテニルピロホスファート、7-メチルグアニン、トリコサン酸およびグリセロホスホエタノールアミン、極性画分からなる群から選択され、
(b)工程(a)において測定された量を参照と比較することを含み、それにより、転移性前立腺癌が診断される、転移性前立腺癌を診断するための方法に関する。
【0076】
本発明の場合、マーカーであるグリセロホスホエタノールアミンは、好ましくは、極性画分において測定(決定)される。
【0077】
「転移性前立腺癌」なる語は、前立腺の外部への転移を生成しうる細胞を有する進行期の前立腺癌を意味する。通常、前立腺癌からの転移は主にリンパ節または骨において生じると予想される。
【0078】
本発明の前記方法の好ましい実施形態においては、該参照は、転移性前立腺癌に罹患していることが判明している被験体または被験体群から誘導される。好ましくは、試験組織サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は転移性前立腺癌を示し、一方、参照と比較して異なる、試験組織サンプルにおける量は、非転移性前立腺癌を示す。
【0079】
本発明の前記方法のもう1つの好ましい実施形態においては、該参照は、転移性前立腺癌に罹患していないことが判明している被験体または被験体群から誘導されるか、あるいは計算された参照である。好ましくは、試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は非転移性前立腺癌を示し、一方、参照と比較して異なる、試験組織サンプルにおける量は、転移性前立腺癌を示す。
【0080】
本発明の前記方法の好ましい実施形態においては、該方法は、被験体が転移性または非転移性前立腺癌と診断されたかどうかに基づいて、被験体に対する治療のための又は患者の健康管理のための手段を推奨する工程を更に含む。
【0081】
有利なことに、本発明の根底をなす研究において、前記の特定の代謝産物のいずれかに関する特定の高い量を示す患者は転移性前立腺癌に罹患していることが判明した。本発明のおかげで、それらの被験者を特定し、治療のための又は患者の健康管理のための特別な手段を彼らに適用することが可能である。例えば、それらの患者は、例えば骨およびリンパ節における転移に関して、より詳細に検査されるであろう。
【0082】
本発明はまた、原則として、転移性前立腺癌に罹患していると疑われる被験体のサンプルにおいて転移性前立腺癌を診断するための、少なくとも1つのバイオマーカーまたはその検出剤の使用に関するものであり、ここで、前記の少なくとも1つの代謝産物は、アミノアジピン酸、セレブロン酸、2-ヒドロキシベヘン酸、イソペンテニルピロホスファート、7-メチルグアニン、トリコサン酸およびグリセロホスホエタノールアミン(好ましくは、極性画分において測定される)からなる群から選択される。更に、転移性前立腺癌に罹患していると疑われる被験体のサンプルにおいて転移性前立腺癌を診断するための診断用組成物または医薬組成物の製造のための、少なくとも1つのバイオマーカーまたはその検出剤の使用が含まれ、ここで、前記の少なくとも1つの代謝産物は、アミノアジピン酸、セレブロン酸、2-ヒドロキシベヘン酸、イソペンテニルピロホスファート、7-メチルグアニン、トリコサン酸およびグリセロホスホエタノールアミン(好ましくは、極性画分において測定される)からなる群から選択される。
【0083】
本発明は、
a)表2または2-ヒドロキシベヘン酸、イソペンテニルピロホスファートもしくは7-メチルグアニンから選択される少なくとも1つの代謝産物の検出剤を含み、好ましくは検出器と共に配置されていて、組織サンプルにおける前記の少なくとも1つの代謝産物の量が測定されうるようにされている分析ユニット、および
b)保存された参照(好ましくは前記のもの)を含有するデータベースとデータプロセッサとを含む評価ユニットであって、該分析ユニットから受け取った少なくとも1つの代謝産物に関する測定量と保存参照との前記の比較を行うアルゴリズムを具体的に組込んでいる評価ユニットを含む、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有するかどうかを診断するためのデバイスを提供する。
【0084】
本明細書で使用するデバイスは少なくとも上述のユニットを含むであろう。デバイスのユニットは、お互いに作動しうる形で連結されている。作動する方式で手段をいかに連結するかは、デバイス中に組み入れるユニットの型式に依存する。例えば、検出器がバイオマーカーの自動的な定性的または定量的な測定(決定)を可能にする場合、前記の自動作動分析ユニットにより得たデータを、例えば、コンピュータプログラムにより処理して、評価単位における評価を容易にすることができる。好ましくは、該ユニットは、かかる場合には単一デバイスに含まれる。前記デバイスは従って、バイオマーカーに関する分析ユニットと、得られたデータを処理して評価し出力情報を安定化させるための評価ユニットとしてのコンピュータまたはデータ処理デバイスとを含む。好ましいデバイスは、専門臨床医の特別な知識無しに適用できるデバイス、例えば、サンプルを供給するだけが必要な電子デバイスである。デバイスの出力情報は、好ましくは、疾患または状態の存在または非存在に関する結論を導き出すことを可能にする、したがって診断の補助となる数値である。より好ましくは、出力情報は、前記数値に基づく予備的診断または診断補助、すなわち、被験体が疾患または状態を示すか否かを示す分類子である。そのような予備的診断は、専門知識データベースシステムを含めることにより本発明のデバイスにおいて提供されうる更なる情報の評価を必要としうる。
【0085】
本発明のデバイスにおいて保存参照として使用される好ましい参照は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有することが判明している被験体または被験体群から誘導された量である。そのような場合、具体的に組込まれたアルゴリズムが、好ましくは、少なくとも1つのバイオマーカーに関する測定された量を参照と比較し、ここで、試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有することを示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有しないことを示す。
【0086】
本発明のデバイスにおいて保存参照として使用されるもう1つの好ましい参照は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを有しないことが判明している被験体または被験体群から誘導された量である。そのような場合、具体的に組込まれたアルゴリズムが、好ましくは、少なくとも1つのバイオマーカーに関する測定された量を参照と比較し、ここで、試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有しないことを示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、前立腺摘出術後の再発性前立腺癌のリスクを被験体が有することを示す。
【0087】
前記デバイスは、前立腺摘出術の前または後で得られたサンプルに使用されうると理解されるであろう。前立腺摘出術前に得られたサンプルを分析しようとする場合には、好ましくは、参照は、前記の被験体または被験体群において同様に前立腺摘出術前に見出された前記の被験体または被験体群から誘導された量である。前立腺摘出術後に得られたサンプルを分析しようとする場合には、好ましくは、参照は、前記の被験体または被験体群において同様に前立腺摘出術後に見出された前記の被験体または被験体群から誘導された量である。
【0088】
前立腺摘出術前に得られたサンプルを使用しようとする場合には、前立腺摘出術を患者に行うか否かを判断するためにも該デバイスが使用されうる。
【0089】
該デバイスのユニットは、同様に好ましくは、作動しうる形で互いに連結された幾つかのデバイスを含むシステム内に実装されうる。本発明のシステムに使用されるユニットに応じて、前記手段間のデータ伝送を可能にする手段、たとえば、ガラスファイバーケーブルおよび他のハイスループットデータ伝送用ケーブルにより各手段を他の手段に接続することにより、該手段を機能的に連結することが可能である。それにも関わらず、本発明は、例えば、LAN(無線LAN、W-LAN)を介する、手段間の無線データ転送も想定している。好ましいシステムは、バイオマーカーを測定する手段を含む。本明細書中で用いる、バイオマーカーを測定する手段は、バイオマーカーを分離する手段(たとえばクロマトグラフィデバイス)、および代謝産物を測定する手段(たとえば質量分析デバイス)を含む。好適なデバイスは前記に詳細に記載されている。本発明のシステムに使用する好ましい化合物分離手段には、クロマトグラフィデバイス、より好ましくは、液体クロマトグラフィ、HPLC、および/またはガスクロマトグラフィ用のデバイスが含まれる。好ましい化合物測定用のデバイスは、質量分析デバイス、より好ましくは、GC-MS、LC-MS、直接注入質量分析計、FT-ICR-MS、CE-MS、HPLC-MS、四重極質量分析計、逐次連結質量分析計(たとえばMS-MSもしくはMS-MS-MS)、ICP-MS、Py-MSまたはTOFを含む。好ましくは、分離手段と測定手段をお互いに連結する。最も好ましくは、本明細書で随所に詳細に記載したように、LC-MSおよび/またはGC-MSを本発明のシステムに使用する。さらに、バイオマーカーの測定手段から得た結果を比較および/または分析する手段も含まれるものとする。結果を比較および/または分析する手段は、少なくとも1つのデータベースおよび結果を比較するために実装したコンピュータプログラムを含みうる。前記システムおよびデバイスの好ましい実施形態は後記にも詳細に記載されている。本発明は更に、
a)表4から選択される少なくとも1つの代謝産物の検出剤を含み、好ましくは検出器と共に配置されていて、組織サンプルにおける前記の少なくとも1つの代謝産物の量が測定されうるようにされている分析ユニット、および
b)保存された参照(好ましくは前記のもの)を含有するデータベースとデータプロセッサとを含む評価ユニットであって、該分析ユニットから受け取った少なくとも1つの代謝産物に関する測定量と保存参照との前記の比較を行うアルゴリズムを具体的に組込んでいる評価ユニットを含む、悪性前立腺癌組織と非悪性組織とを識別するためのデバイスを提供する。
【0090】
本発明のデバイスにおいて保存参照として使用される好ましい参照は、既知非悪性組織から誘導された量である。そのような場合、具体的に組込まれたアルゴリズムが、好ましくは、少なくとも1つのバイオマーカーに関する測定された量を参照と比較し、ここで、試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は非悪性組織を示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、悪性前立腺癌組織を示す。
【0091】
本発明のデバイスにおいて保存参照として使用されるもう1つの好ましい参照は、既知悪性前立腺癌組織から誘導された量である。そのような場合、具体的に組込まれたアルゴリズムが、好ましくは、少なくとも1つのバイオマーカーに関する測定された量を参照と比較し、ここで、試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は悪性前立腺癌組織を示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、非悪性組織を示す。
【0092】
更に、
a)アミノアジピン酸、セレブロン酸、2-ヒドロキシベヘン酸、イソペンテニルピロホスファート、7-メチルグアニン、トリコサン酸およびグリセロホスホエタノールアミン(好ましくは、極性画分において測定される)からなる群から選択される少なくとも1つの代謝産物の検出剤を含み、好ましくは検出器と共に配置されていて、組織サンプルにおける前記の少なくとも1つの代謝産物の量が測定されうるようにされている分析ユニット、ならびに
b)保存された参照(好ましくは本明細書に記載されているもの)を含有するデータベースとデータプロセッサとを含む評価ユニットであって、該分析ユニットから受け取った少なくとも1つの代謝産物に関する測定量と保存参照との前記の比較を行うアルゴリズムを具体的に組込んでいる評価ユニットを含む、転移性前立腺癌を診断するためのデバイスを提供する。
【0093】
本発明のデバイスにおいて保存参照として使用される好ましい参照は、転移性前立腺癌に罹患していることが判明している被験体または被験体群から誘導された量である。そのような場合、具体的に組込まれたアルゴリズムが、好ましくは、少なくとも1つのバイオマーカーに関する測定された量を参照と比較し、ここで、試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は転移性前立腺癌を示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、非転移性前立腺癌を示す。
【0094】
本発明のデバイスにおいて保存参照として使用されるもう1つの好ましい参照は、転移性前立腺癌に罹患していないことが判明している被験体または被験体群から誘導された量あるいは計算された参照である。そのような場合、具体的に組込まれたアルゴリズムが、好ましくは、少なくとも1つのバイオマーカーに関する測定された量を参照と比較し、ここで、試験サンプルおよび参照における少なくとも1つの代謝産物に関する同一または類似量は非転移性前立腺癌を示し、一方、参照と比較して異なる、試験サンプルにおける量は、転移性前立腺癌を示す。
【0095】
以下においては、前記の同様に好ましい実施形態を含む本発明の幾つかの更なる実施形態を詳細に説明する。
【0096】
本発明は、一般に、本明細書中で言及されている疾患または状態を示す少なくとも1つの代謝産物の特徴的な値を含むデータ収集に関する。
【0097】
「データ収集」なる語は、物理的および/または論理的に一緒にグループ化できるデータの収集(物)を意味する。従って、データ収集は、単一のデータ記憶媒体でまたはお互いに作動しうる形で連結された物理的に分離されたデータ記憶媒体で実装することができる。好ましくは、データ収集はデータベースを用いて実装される。従って、本明細書で使用するデータベースは好適な記憶媒体上のデータ収集を含むものである。さらにデータベースは、好ましくは、さらにデータベース管理システムを含むものである。データベース管理システムは、好ましくは、ネットワーク型、階層型またはオブジェクト指向型のデータベース管理システムである。さらに、データベースは、連邦型データベースまたは統合データベースであってもよい。より好ましくは、データベースは、分散型(連邦型)システムとして、たとえばクライアントサーバーシステムとして実装されるであろう。より好ましくは、データベースは、検索アルゴリズムが試験データセットをデータ収集に含まれるデータセットと比較できるように構築される。具体的には、かかるアルゴリズムを用いることにより、前立腺癌もしくはその素因の指標となる類似のまたは同一のデータセットに関してデータベースを検索(たとえば、クエリー検索)することが可能である。従って、データ収集で同一または類似のデータセットを同定できれば、試験データセットは前立腺癌またはその素因または前立腺癌の進行と関連付けられるであろう。その結果、データ収集から得た情報を用いて、被験体から得た試験データに基づき前立腺癌またはその素因を診断することができる。より好ましくは、データ収集は、上に記載したグループのいずれかに含まれる全ての代謝産物の特徴的な値を含むものである。
【0098】
以上を考慮すると、本発明は、上述のデータ収集を含むデータ記憶媒体を包含する。
【0099】
本明細書中で用いる「データ記憶媒体」なる語は、単一の物理的要素に基づくデータ記憶媒体、たとえば、CD、CD-ROM、ハードディスク、光記憶媒体、またはディスケットを包含する。さらに、この用語は、好ましくはクエリー検索に好適な方式で上述のデータ収集を提供するように互いに作動しうる形で連結された物理的に分離された要素から成るデータ記憶媒体を包含する。
【0100】
本発明はまた、先に記載したデータ記憶媒体(b)と作動しうる形で連結されたサンプルの代謝産物の特性値を比較する手段(a)を含むシステムに関する。
【0101】
本明細書中で用いる「システム」なる語は、互いに作動しうる形で連結された異なる手段を意味する。前記手段は単一のデバイスに実装されてもよいし、またはお互いに作動しうる形で連結された物理的に分離されたデバイスであってもよい。代謝産物の特性値を比較する手段は、好ましくは、上で述べた比較用のアルゴリズムに基づいて作動する。データ記憶媒体は、好ましくは、それぞれの記憶データセットが前立腺癌またはその素因の指標となる上述のデータ収集またはデータベースを含むものである。従って、本発明のシステムを用いれば、試験データセットがデータ記憶媒体に記憶(保存)されたデータ収集に含まれるかどうかを同定することが可能になる。その結果、本発明のシステムを、前立腺癌またはその素因またはその進行を診断する上での診断手段として適用することができる。
【0102】
システムの好ましい実施形態においては、サンプルの代謝産物の特性値を測定する手段が含まれる。
【0103】
「代謝産物の特性値を測定する手段」なる語は、好ましくは、代謝産物を測定するための上述のデバイス、例えば、質量分析デバイス、NMRデバイス、または代謝産物の化学的アッセイもしくは生物学的アッセイを行うためのデバイスを意味する。
【0104】
さらに本発明は、上に記載したグループのいずれかから選択される少なくとも1つの代謝産物の測定手段を含む診断手段に関する。
【0105】
「診断手段」なる語は、好ましくは、本明細書で随所に詳細に記載した診断デバイス、システム、または生物学的アッセイもしくは化学的アッセイを意味する。
【0106】
「少なくとも1つの代謝産物を測定する手段」なる表現は、代謝産物を特異的に認識できるデバイスまたは作用剤を意味する。好適なデバイスは、分光測定デバイス、たとえば、質量分析、NMRデバイス、または代謝産物の化学的アッセイもしくは生物学的アッセイを行うためのデバイスでありうる。好適な作用剤は、代謝産物を特異的に検出する化合物でありうる。本明細書中で用いる検出は、2ステップのプロセスであってもよい。すなわち、最初に、該化合物を、検出すべき代謝産物と特異的に結合させ、続いて、検出可能なシグナル、たとえば、蛍光シグナル、化学発光シグナル、放射性シグナルなどを発生させてもよい。検出可能なシグナルを発生させるために、さらなる化合物を必要とすることがあり、かかる化合物は全て、「少なくとも1つの代謝産物を測定する手段」なる語に包含される。代謝産物と特異的に結合する化合物は、本明細書で随所に詳細に記載されており、それらには、好ましくは、酵素、抗体、リガンド、受容体、または代謝産物と特異的に結合する他の生物学的分子もしくは化学物質などが含まれる。好ましい実施形態において、検出可能なシグナルはまた、定量的シグナルも表し、これは、少なくとも1つの代謝産物の相対強度が、検出可能なシグナルの相対強度と比例することを意味する。
【0107】
さらに本発明は、上に記載したグループのいずれかから選択される少なくとも1つの代謝産物を含む診断組成物に関する。
【0108】
さらに本発明は、上に記載したグループのいずれかから選択される少なくとも1つの代謝産物のための少なくとも1つの検出剤を含む診断組成物に関する。
【0109】
上述したグループのいずれかから選択される少なくとも1つの代謝産物は、バイオマーカー、すなわち被験体の病態もしくは素因、すなわち前立腺癌またはその素因に対する指標分子として機能しうる。従って、代謝産物分子自体が、好ましくは本明細書において記載した手段による可視化または検出に際して、診断組成物として機能しうる。従って、本発明による代謝産物の存在を示す診断組成物はまた、前記バイオマーカーを物理的に含んでもよく、例えば、検出すべき代謝産物と抗体との複合体も診断組成物として機能しうる。そのため、診断組成物はさらに、本明細書で随所に記載した代謝産物の検出手段を含みうる。あるいは、もし検出手段、例えばMSまたはNMRに基づく技法が使用されれば、病態の指標として機能する分子種は、検査すべき試験サンプルに含まれる少なくとも1つのバイオマーカーでありうる。従って、本発明で言及した少なくとも1つの代謝産物は、バイオマーカーとして同定されるので、それ自体が診断組成物として機能するものである。
【0110】
本明細書において上に参照した全ての参照文献は、その全開示内容ならびに以上の説明で明示的に言及した具体的な開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【
図1】
図1は、マッチした(釣り合った)悪性および非悪性前立腺摘出サンプルにおける代謝産物を示す(y軸:参照プールに対して標準化された代謝産物の相対量)。相違をウィルコクソン(Wilcoxon)マッチペア検定により検定した。本明細書に記載されている欠損値のため、95名の患者の全コホートからの83〜93個の完全マッチペアのサンプルが存在した。各代謝産物に関して実際に評価されたペアードサンプルはそれぞれの図において括弧内に示されている。
【
図2-1】
図2-1は、(A)病理学的腫瘍段階、(B)グリソン(Gleason)スコアならびに(C)アミノアジピン酸、(D)グルコン酸、(E)マルトトリオース、(F)グリセロホスホエタノールアミン、(G)トリコサン酸および(H)セレブロン酸のレベルによる、手術後の生化学的無再発時間に関するカプラン-マイヤー曲線を示す。代謝産物の層別化は、表5に示されているデータに対応するものであった。
【実施例】
【0112】
本発明を以下の実施例により説明するが、この実施例は本発明の範囲を制限または限定することを意図しない。
【0113】
実施例1:代謝産物の測定
患者および組織サンプル
2001〜2007年に根治的前立腺摘出術後に直ちに液体窒素中で凍結保存された前立腺試料から腫瘍組織およびマッチした正常隣接組織を採取した。この後向き研究のために、手術前の未治療前立腺癌を有する95名の男性からのサンプルの選択を、後記のサンプルサイズ計算に基づく追跡データの完全性および凍結保存組織の入手可能性に応じて行った。該研究は地域倫理委員会により承認され、患者に対するインフォームドコンセントを得た。純粋な腫瘍組織(>90%)およびマッチした隣接正常組織を得るための方法の詳細は既に記載されている(WO2010/139711を参照されたい)。各患者に関して、年齢、前立腺体積、術前PSA、UICC 2002 TNM Systemによる腫瘍分類、全試料に基づく腫瘍グリソン等級および術後追跡中のPSA濃度に関する臨床病理学的情報を集めた(表1)。
【0114】
代謝産物およびPSAの測定
全ての代謝産物は、ガスクロマトグラフィー-質量分析および液体クロマトグラフィー-質量分析による包括的代謝産物プロファイリング研究の枠内で測定した。前章に記載されているとおりに集めたサンプルを調製し、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)および液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS/MS)分析による代謝産物プロファイリングに付した。凍結乾燥組織材料を極性溶媒(水)および無極性溶媒(エタノール/ジクロロメタン/アセトニトリル)で抽出した。抽出物を水性極性相(極性画分)および有機親油性相(液体画分)へと分画した。GC-MS分析のために、脂質画分を酸性条件下でメタノールで処理して、遊離脂肪酸および加水分解複合脂質の両方に由来する脂肪酸メチルエステルを得た。更に、脂質骨格の成分(すなわち、グリセロール)を非極性相において定量した(代謝産物名の跡に「脂質画分」なる語を伴う)。例えば、「グリセロール、脂質画分」は、複合脂質から遊離したグリセロールを表し、これに対して、「グリセロール、極性画分」は、生物学的サンプルの極性相に元々存在するグリセロールを表す。極性画分および脂質画分をO-メチル-ヒドロキシルアミン塩酸塩(ピリジン中の20mg/ml, 50μl)で更に誘導体化してオキソ基をO-メチルオキシムへと変換し、ついでシリル化剤(MSTFA, 50μl)で誘導体化した後、GC-MSに付した。LC-MS/MS分析のために、両方の画分を適当な溶媒混合物中で再構成させた。逆相分離カラム上でメタノール/水/ギ酸を使用する勾配溶出により、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を行った。標的化および高感度「多反応モニタリング」プロファイリングをフルスクリーン分析と並行して可能にする質量分析検出技術を、米国特許第7196323号に記載されているとおりに適用した。組織サンプルを分析した。組織サンプルを半無作為化分析シーケンス設計で分析し(すなわち、各被験体のサンプルを、サブシーケンスのスロット、被験体および無作為化組織のシーケンスで分析し)、この目的のために提供された余分のサンプルから作製したプールサンプル(=「プール」)を用いた。生ピークデータを分析シーケンス当たりのプールのメジアンに対して正規化してプロセスの可変性を説明した(いわゆる「比-対-プール」)。この計算任意単位を組織重量に関連づけ、特定任意単位/mg組織湿潤重量を得た。ピーク、アナライトおよびサンプルレベルに関して厳格な品質管理を行った。各分析シーケンス内で、内部標準のシグナルをコントロールチャート上にプロットした。内部標準の1つの>30%標準偏差を示したサンプルを無効にした。群レベル(癌組織、対照組織)での外れピークを箱ひげ図分析により特定し、正しい注釈および積分(統合)に関して手動で検査し、必要に応じて、手動で補正した。信頼しうるピークの積分を可能にしない又は保持時間指標の要件を満たさない非常に低い代謝産物の存在量を伴うピークを欠測値に変換した。この手法は、この研究で評価された95個のサンプルにおける種々のアナライトに関する異なる欠測値を説明するものである。各サンプルの重量に対して及び別の前立腺組織サンプルから得られたプールから誘導された参照サンプルのメジアンに対して代謝産物値を正規化した。このようにして、全代謝産物データを、これらの参照サンプルに関連づけられた任意単位として得た。
【0115】
PSAの測定をElecsysアナライザ(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)で行った。
【0116】
結果の評価
代謝産物の診断有効性を、腫瘍と正常組織とを識別するそれらの能力に関して評価した。受信者動作特性(ROC)分析およびバイナリーロジスティック回帰分析を適用し、曲線下面積(AUC)、感度、特異性および全適正分類率を計算した。手術後の腫瘍再発性を予測するために、代謝産物の予後可能性を評価した。一次エンドポイントは、手術日から最終追跡までで測定される無再発生存期間または>0.2ng/mlの初回術後PSA値[術後の検出不可能なPSA値(<0.04ng/ml)の後の、後続の上昇値により確認される]であった。
【0117】
統計分析
GraphPad Prism 6.0(GraphPad Software, San Diego, CA, USA)、SPSS Statistics 19(IBM, Chicago, IL, USA)およびMedCalc 12.3.0(MedCalc Software, Mariakerke, Belgium)ソフトウェアを使用した。マン-ホイットニー(Mann-Whitney)U検定、ウィルコクソン・マッチド・ペアーズ(Wilcoxon matched pairs)検定、スピアマン(Spearman)順位相関、カイ2乗検定、カプラン-マイヤー(Kaplan-Meier)分析、一変量および多変量コックス(Cox)回帰分析ならびにROC分析を行った。SPSSブートストラッピングモジュールを使用した。リトル(Little's)MCAR検定を用いて、欠測値の構造を分析するために、SPSSの「欠測値」モジュールを使用した。
【0118】
実施例2:患者におけるバイオマーカーの評価
患者の特徴
95名のPCa患者をこの研究において調査した(表1)。52カ月の追跡期間中央値において、74名の男性は再発を示さず、21名は腫瘍再発を示した。技術的な理由により、代謝産物の欠測値が少数存在した(表2)。リトルMCAR検定は、欠測値が完全に無作為であること(p=0.140)を証明した。この状態は、欠測値を置換するための単一補完法(single imputation method)の適用およびデータのリスト式削除(list-wise deletion)での計算を可能にする。本発明者らは両方のアプローチを用いた。それらは適当な箇所で言及されている。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
悪性および非悪性前立腺組織における代謝産物
該包括的代謝産物プロファイリング研究は107名のマッチドペア(matched-paired)組織サンプルに関して確立された。822個もの多数のアナライトが検出され、566個は「定性的」と分類され、256個(既知161個、未知95個)は定量可能であった。この初期プロファイリング研究の不完全な追跡を伴う12名の患者は後続のデータ評価から除外された。異なる代謝クラスに属する最高の代謝産物のうちの9種、すなわち、アミノアジピン酸、セレブロン酸、グルコン酸、グリセロホスホエタノールアミン、2-ヒドロキシベヘン酸、イソペンテニルピロホスファート、マルトトリオース、7-メチルグアニンおよびトリコサン酸に関しては、非悪性組織サンプルと悪性組織サンプルとの間で有意な相違が見出され、腫瘍において、より低いレベルを示したグルコン酸およびマルトトリオース以外は、腫瘍サンプルにおいて、より高い濃度を示した(
図1)。しかし、グルコン酸以外は、グリソンスコア(<7対
>7; p=0.089〜0.979)または腫瘍病期(pT2対pT3; p=0.150〜0.887)に基づく代謝産物における有意な相違は認められなかった。年齢、術前PSA、前立腺体積、腫瘍病期およびグリソンスコアは腫瘍サンプルにおける代謝産物のいずれとも有意には相関しなかった(p>0.05)。
【0122】
【表3】
【0123】
悪性組織と非悪性組織との代謝産物の識別能
ROC分析のAUCおよび適正分類率は、
図1A〜Hにおけるデータに対応して、非悪性組織から悪性組織を識別する全代謝産物の識別能を決定した(表4)。6種の代謝産物が、0.75より大きなAUCを示した。
【0124】
【表4】
【0125】
腫瘍再発を予想する、代謝産物の予後判定能
異なる代謝産物プロファイルは、根治的前立腺摘出術後の生化学的再発として定義される腫瘍再発を予想するそれらの能力を評価することにつながった。第1に、カプラン-マイヤー曲線を算出した(
図2A〜H)。腫瘍病期およびグリソンスコアの増加と共に無再発期間は有意に短かくなった。この関連性は、本発明者らの研究群が代表的なものであることを証明した(
図2A、B)。また、カプラン-マイヤー分析は、アミノアジピン酸、グルコン酸およびマルトトリオース(
図2C〜E, p=0.004〜0.030)に関して、ならびにトリコサン酸、グリセロホスホエタノールアミンおよびセレブロン酸(
図2F〜H, p=0.079〜0.168)に関しては有意であったが、その他の3種の代謝産物は生化学的再発に関連づけられなかった(p=0.252〜0.806)。次に、全ての臨床病理学的因子および代謝産物をコックス回帰分析におけるそれらの予後情報に関して評価した(表5)。一変量コックス回帰分析における代謝産物のハザード比はカプラン-マイヤー曲線の結果を反映した。ついで、該一変量分析からの有意な病理学的因子(腫瘍病期、グリソンスコア)および代謝産物(アミノアジピン酸、グルコン酸およびマルトトリオース)(表5)を、完全および縮約(reduced)モデルを用いる多変量コックス回帰分析において評価した。
【0126】
【表5】
【0127】
【表6】
【0128】
【表7】
【0129】
【表8】
【0130】
【0131】
【表9】
【国際調査報告】