(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-532146(P2015-532146A)
(43)【公表日】2015年11月9日
(54)【発明の名称】遠心血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
A61M 1/10 20060101AFI20151013BHJP
F04D 29/047 20060101ALI20151013BHJP
F04D 29/42 20060101ALI20151013BHJP
F04D 13/06 20060101ALI20151013BHJP
【FI】
A61M1/10 535
F04D29/047 Z
F04D29/42 B
F04D13/06 C
F04D13/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-536148(P2015-536148)
(86)(22)【出願日】2013年10月11日
(85)【翻訳文提出日】2015年6月5日
(86)【国際出願番号】EP2013071273
(87)【国際公開番号】WO2014057087
(87)【国際公開日】20140417
(31)【優先権主張番号】12188316.9
(32)【優先日】2012年10月12日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】507116684
【氏名又は名称】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シエブ トルステン
(72)【発明者】
【氏名】スパニエル ゲルド
【テーマコード(参考)】
3H130
4C077
【Fターム(参考)】
3H130AA05
3H130AB22
3H130AB42
3H130AC18
3H130BA97E
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3H130CB00
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3H130EC01C
3H130EC17C
3H130EC18C
4C077AA04
4C077DD08
4C077EE01
4C077FF04
4C077KK06
4C077KK21
(57)【要約】
機械的な軸受を持たない遠心型血液ポンプは、ポンプケーシング(1)と、ポンプケーシングの中で中心軸の周囲で回転可能であり、限定された空隙内で軸方向と半径方向に自由に移動可能な羽根車(9)と、を含む。羽根車は永久磁石または永久的に磁化された領域(N/S)を有し、これが電磁ドライブと協働して羽根車を回転させる。円形の壁(12)または円形に配置された壁パーツがポンプケーシング内に設置され、その内面が羽根車の外周と共に半径方向の空隙を画定して、羽根車のための動圧ラジアル軸受を形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
−ポンプケーシング(1)であって、中心軸と、中心軸に配置された血流吸入口と、ポンプケーシングの円周上に配置された血流吐出口(21)と、を有するポンプケーシング(1)と、
ポンプケーシングの中に、前記中心軸の周囲で回転可能で、限定された軸方向の空隙と限定された半径方向の空隙内で軸方向と半径方向に自由に移動可能となるように配置された羽根車(9)であって、永久磁石または永久的に磁化された磁性領域(N/S)が設けられ、半径方向に延びて、それらの間に半径方向の血流のための通路を画定する羽根(15)がさらに設けられている羽根車(9)と、
羽根車の磁石または磁化領域(N/S)と協働して、羽根車を前記中心軸の周囲で回転させるようになされた電磁ドライブ(5)と、
を含む、機械的軸受を持たない遠心血液ポンプにおいて、
前記半径方向の空隙が、羽根車の外周(17、18、22)とポンプケーシングの中で前記中心軸の周囲に円形に配置された壁(12)または複数の壁パーツによって画定され、前記半径方向の空隙が100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下であり、羽根車のための動圧ラジアル軸受を形成することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の遠心血液ポンプにおいて、
半径方向の空隙が、羽根車の回転方向に見た時に、半径方向に収束する複数の空隙区間(14)を含むことを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の遠心血液ポンプにおいて、
電磁ドライブが、強磁性体コアを持たない複数のコイル(5)を含み、コイルが羽根車(9)から軸方向に離間された平面内に配置されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
電磁ドライブは、羽根車の両側において羽根車(9)から軸方向に離間された平面内に配置された複数のコイル(5)を含むことを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項5】
請求項3または4に記載の遠心血液ポンプにおいて、
コイル(5)がポリママトリクスの中に埋め込まれることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項6】
請求項3〜5の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
コイル(5)がセラミック板(6)の上に、それと一体の構成部品を形成するように直接または間接的に取り付けられ、セラミック板が前記軸方向の空隙を限定することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
複数の壁パーツが上側円形壁パーツと下側円形壁パーツを含み、上側および下側円形壁パーツが軸方向に離間されて、血液が羽根車(9)から血流吐出口(21)へと流れるための1つの連続的な円周方向の貫通穴(13)を形成することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
前記壁(12)または複数の壁パーツが、血液が羽根車(9)から血流吐出口(21)へと流れるための、円周方向に離間された複数の貫通穴(13)を提供し、隣接する2つの貫通穴(13)間のすべての距離が羽根車の羽根(15)の隣接する半径方向外端間のすべての距離より小さいことを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車(9)が軸方向に離間された第一のディスク(10)と第二のディスク(10)を含み、各ディスクが磁気領域と、血液が第一と第二のディスクを通って軸方向に流れるように配置された中央穴(7)と、を有し、羽根車(9)の羽根(15)がディスク(10)間に配置されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項10】
請求項9に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根(15)が、羽根(15)の軸方向の片側または軸方向の両側から軸方向に延び、前記第一と第二のディスク(10)の少なくとも一方または両方の外周を取り囲む少なくとも1つの円形縁(17、18)によって一体に接続され、前記円形縁(17、18)が羽根車(9)の前記外周の一部または全部を形成することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項11】
請求項9に記載の遠心血液ポンプにおいて、
前記第一と第二のディスク(10)の少なくとも一方または両方が、羽根車(9)の前記外周の一部または全部を形成する円形の外周を有することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項12】
請求項9〜11の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
第一と第二のディスク(10)の、軸方向に相互に反対に面する表面が平坦であり、各々、隣接する平坦壁(6)から軸方向に離間されて、血液がディスクの平坦面と隣接する平坦な壁(6)の間に流れることができることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項13】
請求項9〜11の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
第一と第二のディスク(10)の、軸方向に相互に反対に面する表面が各々、ポンプケーシング(1)により提供されるか、その中に配置される隣接する壁(6)から軸方向に離間されて、血液がディスク表面と隣接する壁の間に流れることができ、ディスク表面の一方または両方および/または隣接する壁の一方または両方が、中心軸の周囲で円周方向に延びる傾斜部を提供して、羽根車が回転した時に、羽根車をそれぞれの隣接する壁(6)から上昇させる軸方向の流体力を生成することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項14】
請求項1〜6の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車(9)が、血液がディスクを通って軸方向に流れるように配置された中央穴(7)を有するディスク(10)を含み、羽根車の羽根(15)がディスク(10)の軸方向の両側から軸方向に延び、磁石として形成されるか、磁気領域(N/S)を有することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項15】
請求項14に記載の遠心血液ポンプにおいて、
前記壁(12)または複数の壁パーツが、血液が羽根車(9)から血流吐出口(21)へと流れるための、円周方向に離間された複数の貫通穴(13)を提供し、隣接する2つの貫通穴(13)間のすべての距離が羽根車の羽根(15)の半径方向外端間のすべての距離より小さいことを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項16】
請求項14または15に記載の遠心血液ポンプにおいて、
ディスク(10)が円形の半径方向外面を有し、前記壁が半径方向内側に延びて、ディスクの円形の半径方向外面と共に前記動圧ラジアル軸受を形成することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項17】
請求項14〜16の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車の羽根(15)が、ポンプケーシング(1)によって提供される、またはその中に配置される隣接する壁から軸方向に離間された上面および下面(25)を有して、血液が前記上および下面と隣接する壁との間に流れることができるようになっており、前記上および下面の何れかまたは両方が、中心軸の周囲に円周方向に延びる傾斜部を提供して、羽根車が回転した時に羽根車をそれぞれの隣接する壁から浮上させる軸方向の流体力を生成することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項18】
請求項17に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車の羽根(15)の上および下面(25)の1つまたはそれ以上の傾斜部が、羽根車の回転方向に見た時に、湾曲した、またはテーパが付けられ、好ましくは直線区間へと続く羽根の前端縁により形成されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項19】
請求項14〜18の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
ディスク(10)が円形に配置された軸方向の複数の貫通穴を有し、羽根(15)が円形に配置された貫通穴に挿入されて、ディスクの軸方向の片側から軸方向のその反対側へと延びることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項20】
請求項19に記載の遠心血液ポンプにおいて、
ディスク(10)がポリマ材料を含むか、全体がそれにより作製されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項21】
請求項14〜18の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
ディスク(10)と羽根(15)が2つのセミシェル(26、27)で構成され、その中に磁石が格納されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項22】
請求項1〜21の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車(9)の羽根(15)が相互に一体の射出成形部品(11)として形成されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項23】
請求項14〜19の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
ディスク(10)と羽根(15)の両方が磁化された強磁性材料で作製されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項24】
請求項14〜18の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
ディスク(10)と羽根(15)が強磁性材料の一体部品として形成され、前記部品がディスク(10)を含め、磁化されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項25】
請求項1〜24の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車の羽根(15)の少なくとも1枚または全部の半径方向の寸法が円周方向に増大し、これらの羽根の半径方向外面(22)が羽根車(9)の前記外周の一部または全部を形成することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項26】
請求項1〜25の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車(9)の羽根(15)が、羽根車の回転方向に見た時に、その半径方向の範囲に関して突出している前端面(22a)を有することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項27】
請求項1〜26の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車(9)の羽根(15)が、羽根車の回転方向に見た時に、湾曲した、またはテーパの付けられた、軸方向に延びる前端縁(23)を有することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項28】
請求項1〜27の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車(9)のアスペクト比が4:1(直径:高さ)以上、好ましくは6:1以上であることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項29】
請求項1〜28の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
各々がN極(N)とS極(S)を有する第一の磁石または磁気領域と第二の磁石または磁気領域が1つの羽根車の羽根(15)にまとめられ、第一の磁石または磁気領域のN極とS極が、第二の磁石または磁気領域のN極とS極に関して上下逆に配置されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項30】
請求項1〜29の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
磁石または磁気領域がポリマまたは金属、例えばチタンまたは生体適合貴金属で全体に被覆され、コーティングの厚さは好ましくは50μm以下であることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項31】
請求項1〜30の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
血流吐出口(21)がポンプケーシングの円周上に接線方向に配置されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項32】
請求項1〜31の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
前記壁(12)または壁パーツの周辺に配置されたリング状ディフューザ(20)を含むことを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項33】
請求項1〜32の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
前記壁(12)または複数の壁パーツが、血液が羽根車(9)から血流吐出口(21)へと流れるための、円周方向に離間された複数の貫通穴(13)または1つのリング状の穴を提供し、貫通穴(13)またはリング状の穴の断面が半径方向外側に向かって増大することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項34】
請求項33に記載の遠心血液ポンプにおいて、
貫通穴(3)とリング状の穴の開口角度が7°を超えないことを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項35】
請求項33または34に記載の遠心血液ポンプにおいて、
壁(12)または複数の壁パーツの厚さが少なくとも2mmであることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項36】
請求項33〜35の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
貫通穴(13)が異なる高さ、幅または直径を有することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項37】
請求項33〜36の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
壁(12)の厚さが壁(12)の円周に沿って変化することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心血液ポンプ、すなわち血液を半径方向外側に輸送するための回転羽根車を有するポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
血液ポンプは長時間の血液輸送に特に適しているが、一時的のみにも同様に使用してよく、少なくとも毎分4リットル〜10リットルの送達速度を提供する。
【0003】
長時間用の遠心血液ポンプは、例えばに記載されている。血液ポンプを長時間の使用に適したものとするために、この種の血液ポンプから機械的軸受が省かれて、軸受からの研磨性の粒子が血液に混入する危険性が回避され、さらに軸受部分における血栓症の発生が防止される。これに加えて、一般に、軸受の摩耗が血液ポンプの最大の寿命短縮パラメータとなっている。それに対し、ポンプの羽根車はポンプケーシング内の限定された空隙内で自由に動ける。羽根車は、羽根車の羽根に設けられた磁石と協働する外部の電磁ドライブによって回転される。羽根車が半径方向に中央に保持されるのは、羽根車の磁石が駆動手段と軸方向に協働することによる。しかしながら、羽根車の磁石の磁力は、羽根車を軸方向に電磁ドライブに向かって、それゆえ、ドライブを羽根車から分離する壁へと引き付ける傾向がある。このような軸方向の引力を克服するために、羽根車の羽根は支持面を含み、これが回転中に羽根車を動圧により浮上させ、羽根車が流体クッション、すなわち血液のクッションの上で滑動し、それゆえ、前記壁から軸方向に離れた位置に保持されるようになっている。このようにして、羽根車は、いかなる軸受も用いずに、またいかなる羽根車取付軸も用いずに、ポンプケーシングの中で半径方向と軸方向の両方において中央に保持される。
【0004】
上述のようなこの種の血液ポンプは、左室心尖部に取り付けられてもよい。血液ポンプのアウトフローグラフトが上行または下行大動脈に取り付けられる。所定の位置に設置されると、血液が左心室から血液ポンプを通って動脈へと流れ、体内を循環する。ポンプは電気的に駆動され、駆動ラインケーブルが患者の皮膚に取り付けられて、埋め込まれたポンプをバッテリ電源式であってもよい体外装着コントローラに接続する。求められる消費電力は、生理学的に適当な動作条件下で10W未満、好ましくは6Wの範囲内であり、それによりポンプは、バッテリ式ポータブル機器として構成されたとしても、また無線TET(経皮的エネルギー伝送)またはTEIT(経皮的エネルギーおよび情報伝送)機器と共に使用された時に、長い耐用年数を有する。
【0005】
電磁ドライブの馬蹄形電磁石の磁極は、ポンプケーシングの外側の、羽根車の磁石のそれぞれの磁極の上と下に配置される。電磁石の磁極を周期的に変化させることによって、これらは回転磁界を発生させ、羽根車を動かす。この種の電磁ドライブを用いた場合の最大効率は、電磁石の磁極の変化が停動トルクと密接に調整された時、すなわち、移動させる電磁石とそれぞれの移動される羽根車の磁石との間の距離が比較的大きい時に達成できる。しかしながら、これには、電磁石と羽根車の磁石との間の軸方向の引力が比較的小さくなり、それによって羽根車の半径方向のセルフセンタリング効果もまた小さくなるという不利な影響がある。それゆえ、半径方向のセルフセンタリング効果を保持するために、血液ポンプはその最大効率では運転されない。
【0006】
先行技術による羽根車へのトルクを増大させるためには、羽根車の磁石の強度、すなわち羽根車の磁性材料の量を増やすことができるが、これは血液ポンプの大きさと最大重量によって制限され、本発明に関して、これらは直径40mm、高さ12mmを超えるべきではなく、また重量は50グラム未満、好ましくは40グラム未満とするべきである。これに加えて、磁石が強力であるほどポンプを始動させにくくなるが、それは、始動段階では羽根車の磁石が電磁ドライブ手段の馬蹄形磁石にくっついているからである。
【0007】
あるいは、電磁石に供給されるエネルギーを増大させることもできる。しかしながら、それを実現するのは難しく、なぜなら、ポンプのエネルギー消費を10W未満、好ましくは6W以下と低く保ち、ポンプがバッテリ式ポータブル機器として構成された時に長い耐用年数を有するようにするか、それをTETまたはTEIT機器によって駆動できるようにするべきであるからである。
【0008】
それゆえ、血液ポンプの羽根車へのトルクを増大させながら、同時に、羽根車が機械的軸受を一切用いずに確実に軸方向および半径方向に中央に保持されるようにする、という一般的な問題がある。
【0009】
上述の一般的な種類の遠心血液ポンプは、マサチューセッツ州フラミンガムのHeartWare International社から知られている。羽根車は、一方でポンプ筐体内の中央に配置された静的な磁石と他方で羽根車の内周に取り付けられた反発用磁石を用いた受動磁力によって半径方向に中央に保持される。しかしながら、羽根車を半径方向に中央に保持するために追加の磁石を設置することにより、ポンプ全体の重量が実質的に重くなる。これに加えて、羽根車の反発用磁石は駆動手段の電磁石に向かって軸方向に引っ張られる傾向がある。したがって、このポンプでは数回の始動しか保証されない。これに加えて、軸方向の磁力は半径方向の平衡力の2倍大きい。このような大きい軸方向の力は、軸方向の流体浮上力によって上昇させなければならず、それがポンプの最大回転速度を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,623,475号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明の第一の目的は、軽量で、羽根車に高トルクを供給できる遠心血液ポンプを提供することであり、この羽根車は機械的軸受を一切使用せずに軸方向および半径方向に中央に保持される。本発明の第二の目的は、ポンプ始動時の摩擦力が低減された遠心血液ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一の目的は、特許請求の範囲の独立項1の特徴を有する遠心血液ポンプにより達成される。本発明の好ましい実施形態とさらなる発展形は、そこに従属する請求項に明記されている。
【0013】
機械的軸受を持たない本発明の遠心血液ポンプはポンプケーシングを有し、これは中心軸と、前記中心軸に沿って配置された血流吸入口と、ポンプケーシングの円周上に配置された血流吐出口と、を有し、これは例えば特許文献1から一般に知られている。さらに、この遠心血液ポンプは羽根車を有し、これはポンプケーシング内の前記中心軸の周囲に回転可能に配置され、半径方向に延びてそれらの間に半径方向の血流のための通路を画定する羽根を有する。羽根車は限定された軸方向の空隙と限定された半径方向の空隙の中で軸方向および半径方向の両方に自由に移動可能である。羽根車には永久磁石または永久的に磁化された磁気領域が設けられ、これが電磁ドライブと協働して、羽根車を前記中心軸の周囲で回転させることができ、これもまた特許文献1から一般に知られている。本発明によれば、羽根車が自由に移動できる半径方向の空隙は、ポンプケーシングの中で、羽根車の外周と、中心軸の周囲に円形に配置された円形の壁または複数の壁パーツによって画定される。半径方向の空隙は100μm以下であり、ポンプケーシング内の羽根車のための動圧ラジアル軸受を提供する。好ましくは、半径方向の空隙は50μm以下である。約50μmの空隙であると、一定の浮上力を保証でき、その一方でポンプと羽根車のすべての表面に行き渡るように流れるのに十分な血液が狭いギャップを通過できる。動圧ラジアル軸受により、機械的なラジアル軸受を一切不要とすることが可能となり、さらに、静磁気によるラジアル軸受をなくすか、または少なくともその大きさを縮小することも可能となる。
【0014】
羽根車と壁または壁パーツとの間の半径方向の空隙は好ましくは、複数の区間を含み、その中で空隙は、羽根車の回転方向に見た時に、半径方向に収束する。換言すれば、これらの区間では、羽根車と壁または壁パーツとの間の半径方向の空隙によって画定されるギャップが円周方向に向かって縮小する。その結果、羽根車が回転すると血液が空隙内へと運ばれ、空隙が羽根車の回転方向に収束することから、羽根車を壁または壁パーツから離れるように付勢する傾向があり、それによって羽根車がポンプケーシングの中心軸の周囲で半径方向に中央に保持されるのに貢献し、その一方で、血液成分が大きなせん断力に曝される時間を最小化する。
【0015】
収束する区間は、それに対応する凹部を壁または壁パーツの半径方向内面に設けることによって、またはそれぞれの凹部または傾斜部を羽根車の外周面に設けることによって、または羽根車の外周面と壁または壁パーツの半径方向内面の凹部または傾斜部を組み合わせることによって実現できる。
【0016】
羽根車が羽根車の永久磁石と電磁石との間に作用する引力によって隣接する壁に軸方向にくっつくのを防止するために、好ましくは、強磁性体コアを持たないコイルで電磁ドライブを構成するようになされる。この状況では、通常であれば先行技術によるコイルを貫通する強磁性体コアによって提供される必要な磁界をコイルが生成するために、コイル(コアがない)を羽根車から軸方向に離間された平面内に、すなわち羽根車の磁石のすぐ上または下に、または好ましくはその上または下のわずかに離れた位置に配置される。例えば、コイルを羽根車から分離する壁は、厚さ100μmまたはそれよりはるかに薄いセラミック板で構成されてもよい。強磁性体コアがないと、電磁ドライブが動作していない時には羽根車の磁石が電磁ドライブに磁力によって引き付けられない。その結果、羽根車と軸方向に隣接する壁との間の摩擦は、羽根車が回転させられた時だけでなく、その動作中も実質的に減少し、これは、2つの電磁駆動コイル群が羽根車の両側で完全に左右対称であり、そのため、軸方向の力を平衡化するからである。したがって、羽根車の磁石を先行技術の羽根車の磁石より強力にしてもよく、それによって電磁ドライブが羽根車に付与することのできる最大トルクがさらに増大する。
【0017】
セラミック板の厚さは、それがコイルによって生成される磁界に重大な影響を与えないが、羽根車との摺動接触に耐えられるのに十分に強力となるように選択される。したがって、セラミック板の好ましい厚さは50〜150μmの範囲、好ましくは80〜120μmの範囲、より好ましくは約100μmである。
【0018】
コイルは好ましくは、ポリママトリクス内に埋め込むことによって、これらを安定化させ、腐食から防止する。コイルを好ましくは直接、あるいは間接的に、羽根車の軸方向の移動を制限する上記のセラミックディスク上に、コイルとセラミックディスクが一体の構成要素を形成するように取り付けることが好ましい。コイルを埋め込むポリマ材料をセラミックディスク上に直接成型することもできる。
【0019】
コイルは好ましくは、非円形の軸方向断面を有し、より好ましくは実質的に楕円または台形の断面を有し、利用可能な空間をより十分に埋めるか、換言すれば、コイル群の全体的な軸方向断面積が大きくなる。コイルの断面積を大きくすることにより、より強力な磁界を生成でき、それゆえ、羽根車へのトルクを増大できる。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態において、羽根車の羽根の半径方向外面は、円形の壁または円形に配置された壁パーツと共に、流体力学的な半径方向空隙を画定してもよい。このような場合、羽根車の羽根の半径方向外面が羽根車の外周の大きな部分を占めると有利である。それゆえ、羽根車の羽根の少なくとも1枚または全部の円周方向寸法は好ましくは、半径方向に増大し、それによって羽根車の軸方向断面は概して三角形または台形の形状を有していてもよい。前述のように、羽根車の羽根の半径方向外面は凹部を有していてもよく、これは円形の壁または円形に配置された壁パーツの内面と共に、収束する区間を形成し、羽根車が回転するとその中に血液が運ばれて、羽根車を壁または壁パーツから遠ざけるように付勢する。
【0021】
羽根車の羽根が、羽根車の回転方向に見た時に、羽根の半径方向の範囲に関して凸状の前端面を有していれば、さらに有利である。この設計は、羽根車を半径方向に中央に保持できるようにし、直線的または凹状の羽根を有する羽根車と比較して、より層状の血流を提供する。これはさらに、羽根車内の一次圧力上昇を高める。
【0022】
羽根車のアスペクト比(すなわち、直径対高さの比)が4:1以上、好ましくは6:1以上であれば特に有利であることがわかった。アスペクト比が高いほど、羽根車は回転軸の周囲のぐらつきに関する安定性が高まる。
【0023】
さらに、羽根車の羽根間に画定される半径方向の血液流路が比較的広いと一般的に有利である。したがって、各羽根車に1つの磁石または1つの磁気領域を設ける代わりに、羽根車の1枚の羽根に2つの磁石または磁気領域をまとめることが好ましい。このようにして、羽根車の羽根の数を半分にすることができ、それによって羽根車の羽根の幅とそれらの間の血液流路の幅が2倍となる。したがって、好ましい実施形態において各々がN極S極を有する第一の磁石または磁気領域と第二の磁石または磁気領域が羽根車の1枚の羽根にまとめられ、第一の磁石または磁気領域のN極とS極は第二の磁石または磁気領域のN極とS極に関して上下逆に配置される。
【0024】
本発明による血液ポンプは長時間用として設計されているため、羽根車の磁性材料は血液との接触によって発生する腐食から防止されなければならない。したがって、羽根車の磁石または磁気領域は好ましくは、全体が金属、例えばチタンまたは生体適合貴金属で被覆される。その厚さは、磁石の有効性を過度に低下させないように、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0025】
円形の壁がポンプケーシング内に設けられて、羽根車の外周と共に動圧による半径方向空隙を画定する場合、このような壁は好ましくは、血液が羽根車からポンプケーシングの血流吐出口へと流れるための、円周方向に離間された複数の貫通穴を有する。しかしながら、1つの実施形態において、円形の壁をロータの各々の側の2つの円形のリングに分割することができ、これによって上記のような穴が不要となり、1つの360°のリング状の穴ができる。360°の流れ用貫通穴はこれに加えて、2つの円形壁リングの壁厚に応じて、第一の圧力上昇を提供する第一のディフューザとして機能できる。同様に、円周方向に離間された貫通穴も第一のディフューザとして機能できる。このような貫通穴は、円形の壁の代わりにポンプケーシングの中心軸の周囲に円形に配置された壁パーツを使用する場合には不要となるが、それは、この場合には貫通穴が隣接する壁パーツ間のギャップにより形成されるからである。
【0026】
壁厚を使って第一のディフューザを提供する場合、壁厚は好ましくは、少なくとも2mmである。好ましくは、リング状の穴または離間された穴の断面は半径方向の外側方向に向かって増大し、この場合、穴(複数の場合もある)の開放角度は好ましくは7°を超えない。開口角度が大きくなると流れの分離が発生し、望ましくない乱流の原因となる。穴は円形の壁の円周に沿って等しくてもよく、および/または壁厚は一定であってもよい。ある実施形態において、穴の高さ、幅および/または直径は異なっていてもよく、および/または壁厚(すなわち、穴の長さ)は円形壁の円周に沿って変化してもよい。これは、第一のディフューザの中の血液の減速が一定であっても、または円形の壁の円周に沿って変化してもよいことを意味する。このようにして、第一のディフューザにより、羽根車の円周に沿った一定の圧力を実現でき、それによって半径方向の動圧軸受が安定し、ポンプ吸入口における圧力変動によって動揺または振動しなくなる。ディフューザ効果は羽根車の直径を大きくすることによっても実現でき、それによって通路がディフューザの役割を果たすが、円形の壁または壁パーツにディフューザを設けることが好ましく、それは、羽根車の直径が大きくなると、羽根車の外周でのせん断力が大きくなるからである。
【0027】
血液が羽根車から円形の壁または円形に配置された壁パーツを通ってポンプケーシングの血流吐出口に向かって流れることにより発生する血流の拍動を避けるために、壁または壁パーツの貫通穴間のすべての距離を、羽根車の羽根の半径方向外端間のすべての距離より小さくする。したがって、羽根車の隣接する2つの羽根間に画定される通路は常に、円形の壁または円形に配置された壁パーツに設けられた少なくとも1つの貫通穴に向かって開放する。
【0028】
リング状のディフューザは好ましくは、円形に配置された壁または壁パーツの周辺に設けられ、ポンプケーシングの血流吐出口は好ましくは、ポンプケーシングの円周に接線方向に配置され、すなわち、リング状のディフューザは好ましくは、接線方向の吐出口で終了する。リング状のディフューザの断面は好ましくは、円周方向に沿って線形に、または指数関数的に増大する。あるいは、リング状のディフューザは一定の断面を有していてもよい。
【0029】
本発明を、2つの好ましい実施形態とそのいくつかの変型に関してさらに詳しく説明する。第一の実施形態によれば、羽根車は第一のディスクと第二のディスクを含み、これらは軸方向に離間される。各ディスクは磁気領域と、ディスクの中央を通る軸方向の血流、例えば第一のディスクを通る軸方向の血液流入および第二のディスクを通る軸方向の血液流出、または第一と第二のディスクの両方を通る軸方向の血液流入のために配置された中央穴と、を有する。この第一の実施形態において、羽根車の羽根は2枚の磁気ディスク間に配置され、血液は主として2つのディスク間で羽根により画定される通路を通って半径方向に流れる。
【0030】
しかしながら、血液のうち少量がプレートの上下に流れて、歯車はその軸方向の両側に動圧支持され、すべての面に完全に行き渡るように流れることが保証される。2枚のディスクの上下の血液流は比較的少ないが、羽根車をポンプ筐体から軸方向に離間された状態に保持するのに十分である。ディスクのそれぞれの面は好ましくは平坦であり、それぞれの隣接する壁、例えば上述のセラミック板も好ましくは同様に平坦で、それによって血液は平坦なディスク表面と平坦な隣接壁との間に流れる。それゆえ、全体的な構成が比較的単純になる。
【0031】
しかしながら、動圧浮上効果は、ディスク表面の一方または両方および/または隣接する壁の一方または両方が中心軸の周囲で円周方向に延びる傾斜部を提供すると増大しうる。
【0032】
羽根車の第一と第二の磁気ディスクの半径方向外周は、好ましくは円形であり、羽根車の半径方向に最も外側の円周の少なくとも一部または全部を形成し、これが、壁または複数の壁パーツの内面と共に半径方向の空隙を画定して、羽根車のための動圧ラジアル軸受を形成する。前述のように、第一と第二のディスクの外周が、羽根車のうち、羽根車のための動圧ラジアル軸受に貢献する唯一の部分である場合、複数の壁パーツは上側円形壁パーツと下側円形壁パーツを含んでいてもよく、これらは軸方向に離間されて、血液が羽根車からポンプケーシングの血流吐出口に向かって流れるための1つの連続的な円周方向の貫通穴を形成する。それゆえ、羽根車から半径方向に離れる血液をブロックし、またはその障害となるようなすべて壁パーツを省略できる。その結果、血流はより層状となり、血液損傷が減少する。
【0033】
しかしながら、上述のように、壁または複数の壁パーツが、血液が羽根車から血流吐出口に向かって流れるための、円周方向に離間された複数の貫通穴を提供する場合、隣接する2つの貫通穴間のすべての距離は好ましくは、血流の拍動が回避されるように、羽根車の羽根の半径方向外端間のすべての距離より小さい。このようにして、羽根車の羽根間に画定される半径方向の血液流路のすべてが常に、ポンプケーシングの流出穴と流体連通する。
【0034】
第一の実施形態のある変型によれば、第一と第二のディスクは羽根車の外周を形成せず、第一と第二のディスクの一方または両方が、羽根車の羽根の軸方向の側(複数の場合もある)から軸方向に延びて羽根を一体に相互接続する円形の縁によって円周方向に取り囲まれる。この変型では、円形の縁が羽根車の半径方向に最も外側の円周の一部または全部を形成し、第一および/または第二の磁気ディスクの外周が羽根車の動圧ラジアル軸受に貢献する変型に関して上述したものと同じ動圧軸受の機能を果たす。
【0035】
第一の実施形態のこの変型および本発明のこの実施形態とその他すべての実施形態の他の変型においては、羽根全体が磁性材料から形成される場合を除き、羽根車のすべての羽根を射出成形による一体部品として形成することが好ましい。
【0036】
第二の実施形態が第一の実施形態と異なる点は、羽根車が2枚のディスクではなく1枚のディスクしか含まないことである。この1枚のディスクは血液がディスクを通って軸方向に流れるように配置された中央穴を有し、羽根車の羽根はディスク上に、ディスクの軸方向の両側から軸方向に延びるように配置される。この第二の実施形態において、羽根車の羽根は磁石として形成される、すなわちこれらの全体が磁性材料から形成されるか、または磁気領域を有する。これは、ディスクが羽根車の中の中央に、したがって磁気ドライブのコイルから比較的遠くに配置されるため、重要である。したがって、ディスクはそれが磁性材料から形成されていたとしても、血液ポンプで実現可能な最大トルクにはわずかしか貢献しえない。それでもなお、第二の実施形態の1つの変型によれば、ディスクと羽根の両方が磁性材料で作製されてもよい。強磁性金属は、羽根車の円周全体に沿って交互の磁気領域が、好ましくは中断せずに提供されるように永久的に磁化される。この変型においては、ディスクと羽根を強磁性金属の一体部品として形成することが可能であり、さらに好ましく、前記部品はディスクを含め、磁化される。
【0037】
金属製のディスクによって実質的に血液ポンプの全体的重量が重くなるため、第二の実施形態の他の好ましい変型は、ポリマ材料を含む、または全体にポリマ材料からなるディスクを提供する。それゆえ、血液ポンプの全体的重量を軽量化できる。
【0038】
第二の実施形態の他の変型によれば、ディスクと羽根車の羽根は2つのセミシェルとして構成されてもよく、その中に磁石が格納される。シェルは射出成形されてもよい。
【0039】
この第二の実施形態において、円形の壁または円形に配置された壁パーツはまた、血液が羽根車から血流吐出口に向かって流れるための、円周方向に離間された複数の貫通穴を提供してもよく、前述のように、血流の拍動を防止するために、隣接する2つの貫通穴間のすべての距離は好ましくは、羽根車の羽根の半径方向外端間のすべての距離より小さい。
【0040】
しかしながら、ある変型において、壁は半径方向内側に延びていてもよく、羽根車のディスクの円形の半径方向外面と共に羽根車のための動圧ラジアル軸受を形成する。したがって、血液は羽根車を離れてポンプケーシングの血流吐出口に向かい、一部は半径方向に延びる壁の上に、一部は半径方向に延びる壁の下に流れ、何れの壁パーツもこのような血流をブロックせず、またはその障害とならない。
【0041】
第二の実施形態において、特許文献1により開示されている先行技術の血液ポンプと同様に、羽根車を、羽根車が回転した時に羽根車を隣接する壁(複数の場合もある)、例えば上述のセラミック板から浮上させるように軸方向に取り付けるための動圧軸受が提供される。したがって、羽根車の羽根は上面と下面を有し、これらの上面と下面の一方または両方がそれぞれの隣接する壁と共に軸方向の空隙を画定し、これは空隙が円周方向に収束する区間を有する。より具体的には、上面と下面は、中心軸の周囲に円周方向に延びる傾斜部を提供して、歯車に対する軸方向の流体力を生成する。上面および下面の一方または両方の傾斜部は、羽根車の回転方向に見た時に、それぞれの羽根の湾曲した、またはテーパの付けられた前端縁として形成されてもよく、それが直線区間へと続き、これは水平、すなわち中心軸に対して垂直であっても、または傾斜していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の第一の実施形態による血液ポンプの斜視図である。
【
図2】上側の電磁コイル群と平坦なセラミック面のない、
図1に示される血液ポンを示す図である。
【
図3】羽根車のない、
図2に示される血液ポンプを示す図である。
【
図4】上側ポンプ筐体シェルがなく、羽根車の上側磁気ディスクのない、
図2に示される血液ポンプを示す図である。
【
図5】流体力学的ポケットを持たない壁を有する、上下逆にした代替的な上側ポンプ筐体シェルを示す図である。
【
図6】下側の電磁コイル群が薄いセラミックディスク上に配置された血液ポンプの下側ポンプ筐体シェルを示す図である。
【
図8】
図1の血液ポンプの羽根車の羽根ロータを示す図である。
【
図10】第二の代替的な羽根ロータを示す図である。
【
図11】第三の代替的な羽根ロータを示す図である。
【
図12】全体が強磁性材料で作製された、
図1の血液ポンプのための代替的な羽根車を示す図である。
【
図13】羽根ロータの各種の形態の上から見た図を概略的に示す図である。
【
図14】血液ポンプの第二の実施形態の羽根車の第一の変型を示す図である。
【
図15】第二の実施形態の羽根車の第二の変型を示す図である。
【
図16】第二の実施形態の羽根車の第三の変型を示す図である。
【
図17】第二の実施形態の羽根車の第四の変型を示す図である。
【
図18】穴がディフューザとして機能できるのに十分な厚さの壁を有する、
図5のそれと同様の、上下逆にした代替的な上側ポンプ筐体シェルを示す図である。
【
図19】
図18に示される上側ポンプ筐体の壁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、添付の図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態をより詳しく説明する。
【0044】
図1は、遠心血液ポンプの第一の実施形態を示し、上側シェル2と下側シェル3を含むケーシング1を有する。上側シェル2と下側シェル3は各々、その中に6つの電磁コイル5からなる群が収容される円形の凹部4を有する。コイルの数は変えることができ、3で割り切れることが好ましい。コイル5は強磁性体コアを一切持たない。好ましくは、これらは楕円形であり、あるいは台形の形状であってもよく、凹部4の中の利用可能な空間が十分に利用される。コイル5は、厚さわずか約100μmの非常に薄い円形のセラミック板6の上に直接載り、ポリママトリクス内に封入される。セラミック板6は中央穴7を有し、これが血流吸入口を構成し、血液ポンプが例えば左室心尖部に適正に接続されると、血液がそこから血液ポンプに入ることができる。血液は、血流吐出口21を通じて血液ポンプから出る。セラミック板6がその上に取り付けられた電磁コイル5と単一のコイルアセンブリを形成する。
【0045】
図2は、コイルアセンブリ5、6のない、
図1の血液ポンプを示す。図からわかるように、ポンプケーシング1の上側シェル2の凹部4は棚部8を有し、その上にセラミック板6が載る。棚部8は凹部4の中に段差または、また別の凹部を画定し、その中に羽根車9が収容され、それがポンプケーシング1の中心軸の周囲で回転できる。羽根車9は、上側磁気ディスク10と下側磁気ディスク(図示せず)と、さらに2枚の磁気ディスク10間に挟まれた羽根ロータ11と、を有する。羽根車9の上および下面と2つのコイルアセンブリの上側および下側セラミック板6の軸方向内面は、限定された軸方向の空隙を画定し、その中で羽根車9が軸方向に自由に移動可能である。羽根車9の半径方向外周は階段状凹部4の下側の内面と共に半径方向の空隙を画定し、その中で羽根車9が半径方向に自由に移動可能である。
【0046】
羽根車9の半径方向の空隙を限定する凹部4の下側壁12は、
図3においてよりよく見ることができる。壁12は自立し、貫通穴13を有し、羽根車によって半径方向に推進された血液が、そこを通って壁12の周辺に配置されたリング状ディフューザ20(
図4)へと通過できる。貫通穴13を有する壁12の代わりに、壁はあるいは、軸方向に延びる、離間されてそれらの間に貫通穴を提供する壁パーツから構成されてもよい。
【0047】
壁12にはさらにポケット14が設けられ、これらは、羽根車がポンプケーシングの中心軸の周囲で回転した時に、羽根車9に対する動圧ラジアル軸受効果を高めるように構成される。ポケット14のある壁部分では、羽根車9の外周と壁12の内面の間に画定される半径方向の空隙は、
図3において矢印で示される羽根車の回転方向に見た時に、半径方向に収束する。
【0048】
図4は、羽根ロータ11を有する下側シェル3を示し、羽根車9の上側および下側磁気ディスク10は取り除かれている。図からわかるように、羽根ロータ11は半径方向に延びる3枚の羽根15を有し、これらは中央円形リング16と上側および下側の2つの円周リング17、18によって一体に保持される。羽根15間に通路19が画定され、そこを通じて血液が中央穴7に対応する血流吸入口から半径方向に、羽根ロータ11の周辺に配置されたリング状ディフューザ20と、さらにポンプケーシングの血流吐出口21へと流れる。羽根車9が回転すると、上側および下側円周リング17、18は壁12に沿って、すなわち壁12の貫通穴13の上と下で摺動し、その一方で羽根15の半径方向外面22とそれらの間に画定される通路19は壁12の貫通穴13(
図3参照)を通過する。壁12の隣接する2つの貫通穴13間(またはこれに対応する軸方向に延びる壁パーツ間)の距離は、これらが羽根ロータ11の羽根15の半径方向外端間のすべての距離より小さくなるような寸法とされる。このようにして、羽根車9を通る血流の拍動を回避でき、なぜなら、羽根車の血液流路が常に半径方向外側に開放しているからである。
【0049】
図5は代替的な上側シェル2’を示しており、その
図3の上側シェル2との相違点は、貫通穴13の数がより多く、より重要な点として、壁12の内面にポケット14がないことである。それでもなお、羽根車9が回転させられると動圧ラジアル軸受が確立する。あるいは(図示されていないが)、壁12は上側シェル2の一部を形成する上側円形壁パーツと下側シェル3の下側円形壁パーツに分割されてもよく、各壁パーツには好ましくは、上記のポケット14が設けられ、2つの円形壁パーツ間に連続的な円形貫通穴13が形成される。
【0050】
図6は、ポンプケーシング1の下側シェル3を示しており、下側シェル3の凹部(図示せず)の中に位置付けられた下側コイルアセンブリ5、6だけを有する。コイルアセンブリ5、6の中央穴7を一方または両方のコイルアセンブリに設けることができ、それゆえ、血液は羽根車の片側のみから、または両側で軸方向に流入できる。
【0051】
図7は、上述の血液ポンプの断面図を示し、それに倣った番号がすべての要素に付されている。図からわかるように、上側および下側コイルアセンブリ5、6は大きさと構造が同じである。下側セラミック板6は上側シェル2の壁12の自由端に支持できる。各々の側の磁気ディスク10を担持する羽根車の羽根ロータ11は、
図7の断面図に示されるように、片側では羽根15を通るように、反対側では2枚の羽根15間に画定される通路19を通るように切断される。
図7の断面図からさらに明らかとなるように、リング状ディフューザ20の断面はこの実施形態においては、血液ポンプの円周方向に増大する。
【0052】
羽根車9が回転すると、血液は通路19を通って、またディスク10とセラミック板6の間の羽根車9の磁気ディスク10の上と下も通って半径方向に流れる。これらの相互接触面は平坦である。あるいは、これらの面の一方または両方は、円周方向に延びる傾斜面を有していてもよく、羽根車に対する動圧浮上効果を生成する。下側セラミック板6は上側セラミック板6の中央穴7と同様の中央穴を有するように示されているが、下側セラミック板6は好ましくは、中央穴を持たず、血液が漏れないように完全に密閉される。
【0053】
図8は、羽根ロータ11を分離して示しており、羽根15とその半径方向外面22と、羽根15間に画定される貫通穴13と、羽根15を接続して一体の部品を形成する中央円形リング16および上側と下側円周外側リング17と18と、を含み、これは、好ましくは射出成形される。羽根車9の羽根15は、羽根車の回転方向に見た時に、軸方向に延びる前端縁23を有し、これを湾曲させ、またはこれにテーパを付けることにより、半径方向外面22の流体効果が増大し、血液損傷が低減する。羽根15の数は3枚より多く、例えば4、5または6枚とすることができる。同様に、羽根の角度範囲αは
図8に示されるものより大きくても、小さくてもよい。また、羽根の内径は
図8に示されるものより大きくても、小さくてもよい。
【0054】
図9、10、11は、羽根ロータ11の第一、第二、第三の変型を示している。
図9の羽根ロータ11が
図8の羽根ロータ11との相違点は、上側および下側円周リング17、18が中断していることである。羽根車9のための動圧ラジアル軸受は、羽根ロータ11のこの変型では、主として羽根15の半径方向外面22によって実現される。あるいは、磁気ディスク10(
図9では示されていない)は、それによって上側および下側円周リング17、18がない部分の空間が埋められるように形成されてもよい。ここでもまた、羽根車の羽根15が、羽根車の回転方向に見た時に、軸方向に延びる前端縁を有することが有利であり、これを湾曲させ、またはこれにテーパを付けることにより、羽根車の動圧ラジアル軸受のための流体効果が増大し、および血液損傷が低減する。
【0055】
図10は羽根ロータ11の第二の変型を示しており、この場合、羽根15が直接的なバーとして形成され、したがって、隣接する羽根15間に画定される通路19が広くなる。
【0056】
図11の羽根ロータ11はポリマのワッシャ型ディスクから形成され、半径方向に延びる多数の通路19を有し、これは羽根ロータ11の中央領域で重なってもよい。半径方向の通路19の断面は一定であってもよく、または、その断面は19.1で示されるように外周に向かって増大してもよい。
【0057】
ここまで説明した実施形態およびそのすべての変型において、磁気ディスク10は区間ごとに反対方向に磁化される。各区間はディスクの上側に第一の磁極と、ディスクの下側にそれぞれ反対の磁極を有する。磁化区間の数は好ましくは8であるが、同様に4または12であってもよく、コイル5の数と異なっているべきである。さらに、上側および下側円周リング17、18の代わりに、円形の磁気ディスク10が半径方向に、磁気ディスクの外周半径方向面が上側および下側円周リング17、18の代わりとなるような寸法とされてもよい。この場合、羽根15は中央の円形リング16によってのみ相互接続される。その利点は、より多くの磁性材料が存在することであり、それによって羽根車により提供される最大トルクが相応に増大しうることである。
【0058】
図12は、第一の実施形態による血液ポンプと共に使用可能な羽根車の別の変型を示す。ここで、羽根車は全体が永久的に磁化された強磁性材料から作製され、すなわち、上側よび下側磁気ディスク10だけでなく、半径方向に延びる羽根15も磁性である。再び、羽根15は、羽根車の回転方向に見た時に、軸方向に延びる前端縁23を有し、これは湾曲され、またはこれにテーパが付けられて、血液損傷が低減される。腐食の可能性を低下させ、血液適合性を増大させるために、ロータはポリマまたは金属製筐体によって封入、またはシールドされてもよい。封入は、ポリマ成形工程において、または電解金属付着によって提供ができる。
【0059】
羽根ロータ11の羽根15は3枚より多くてもよく、羽根15の形態は三角形または台形または直線的である必要はない。
図13は、各種の羽根ロータの形態の上から見た図を概略的に示している。これらの形態の中で、湾曲した羽根を持つ羽根ロータが好ましい。羽根車の回転方向に見た時に、羽根車の羽根15の前端面22bがその半径方向の範囲に関して突出していれば特に好ましい。
【0060】
図14は、血液ポンプの第二の実施形態の羽根車9の第一の変型を示す。第二の実施形態の中のポンプケーシング1、上側シェル2、下側シェル3、凹部4、コイル5とセラミック板6を含むコイルアセンブリ、ポンプケーシング1内の壁12または壁パーツ、壁12を通って、または対応する壁パーツ間に延びる貫通穴13、リング状ディフューザ20、血流吐出口21は、前述の第一の実施形態のそれらと同じである。第二の実施形態の中の唯一の相違点は、2枚の磁気ディスク10ではなく、中央穴7を持つディスク10を1枚のみ含む羽根車9である。第二の実施形態のディスク10は、軸方向に見た時に中央に配置され、磁性であってもなくてもよい。羽根車9の羽根15はディスク10の軸方向の両側から軸方向に延び、磁石として形成され、または磁性領域を有していてもよい。血液流路19は隣接する羽根15間に画定される。
【0061】
これに加えて、第二の実施形態の変型において、ポンプケーシングの中に配置される壁12または壁パーツは、水平に配置され、半径方向に内側に延びる壁として形成されてもよく、これが中央のディスク10の円形の半径方向外面と共に、上述の動圧ラジアル軸受を形成する。
【0062】
図14に示される第二の実施形態の第一の変型において、羽根車9の羽根15とディスク10は磁化された材料から作製される。隣接する磁化領域間の境界は破線で示されている。羽根車9の回転方向は矢印で示されている。ここで再び、羽根15の軸方向に延びる前端縁には丸みが付けられ、またはテーパが付けられ、それによって半径方向の動圧軸受効果が増大し、血液損傷が低減する。これに加えて、羽根15の水平の前端縁24にもまた、丸みが付けられ、またはテーパが付けられ、それによって軸方向の動圧軸受効果が増大し、血液損傷が低減する。さらに、これに加えて、図では見にくいが、羽根の上側および下側軸方向面25にわずかにテーパを付けることによって、円周方向に延びる傾斜部が提供され、羽根車が回転した時に羽根車をそれぞれの隣接する壁(図示せず)から上昇させる軸方向の流体力が生成される。同様に、第一の実施形態に関連してすでに説明したように、羽根15の半径方向外面22は同様に、羽根車の回転方向に見た時に、より小さな半径からより大きな半径へと変化してもよく、それによってポンプケーシング1の円形の壁12または円形に配置された壁パーツと共に半径方向に収束する空隙区間を形成し、羽根車に対する半径方向の動圧軸受効果が増大する。
【0063】
図15は、
図14に示されるものと同様の羽根車9の第二の変型を示しているが、ディスク10と羽根15が2つのセミシェル26、27で構成され、その中に磁石が格納されている点が異なる。セミシェル26、27は射出成形されてもよい。
【0064】
図16は、
図15に示される変型と同様の、第二の実施形態の羽根車9の第三の変型を示す。ここで、2つの磁石が羽根15の各々の中に格納され、それぞれの磁石のN極とS極の交互の配置がNとSで示されている。再び、その代わりに、
図14に関して上述したように、羽根15とディスク10の両方を強磁性材料から一体に形成し、区間ごとに磁化してもよい。
【0065】
最後に、第二の実施形態の羽根車9の第四の変型が
図17に示されている。この変型は
図14に示される変型と同様であるが、ディスク10が必ずしも磁化材料から作製されているとはかぎらない点が異なる。ここで、ディスク10はその代わりにポリマで作製されてもよく、円形に配置された軸方向の複数の貫通穴を有し、その中に羽根15が挿入されて、これらがディスク10の一方の軸方向の側からその軸方向の反対側へと延びる。
【0066】
上述の第二の実施形態のすべての変型において、羽根15は
図13に概略的に示されるものの1つと同様に、異なる軸方向の断面を有していてもよい。しかしながら、第二の実施形態においては羽根15の上側および下側の軸方向面だけが動圧アキシャル軸受に貢献しているため、軸方向の断面の大きい羽根15が好ましい。
【0067】
図18は、代替的な上側シェル2’’を示しており、その
図5に示される上側シェル2’との相違点は、自立する壁12の厚さがより厚く、穴13が半径方向に外側へと広がっていることである。あるいは(図示せず)、自立する壁12は上側シェル2の一部を形成する上側円形壁パーツと、下側シェル3の下側円形壁パーツに分割されてもよく、2つの円形壁パーツ間に連続的な円形の貫通穴が形成される。連続的な円形の貫通穴もまた、その断面が半径方向に外側へと広がり、すなわち増大してもよい。増大する断面は、
図18の壁の軸方向の断面図を示す
図19に示されている。血液は矢印の方向に流れる。円周方向に離間された穴13を有する壁が設けられている場合、好ましくはこの穴は半径方向の断面図で見た時にも広がっている点に留意されたい。開口角度は、流れの分離を回避するために7°以下である。この変型において、穴13または円形穴は、圧力上昇を提供する、すなわちポンプ効果を増大させる第一のディフューザとして機能する。第一のディフューザはまた、圧力を羽根車の円周に沿って一定に保つことによって、羽根車の半径方向の動圧軸受を安定化させてもよい。この目的のために、第一のディフューザの中の血液の減速は一定であっても、または例えば穴13の高さ、幅および/または直径および/または壁厚(すなわち、穴13の長さ)を変化させることによって円形の壁12の円周に沿って変化させてもよい。
【手続補正書】
【提出日】2014年10月23日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
−ポンプケーシング(1)であって、中心軸と、中心軸に配置された血流吸入口と、ポンプケーシングの円周上に配置された血流吐出口(21)と、を有するポンプケーシング(1)と、
−ポンプケーシングの中に、前記中心軸の周囲で回転可能で、限定された軸方向の空隙と限定された半径方向の空隙内で軸方向と半径方向に自由に移動可能となるように配置された羽根車(9)であって、永久磁石または永久的に磁化された磁性領域(N/S)が設けられ、半径方向に延びて、それらの間に半径方向の血流のための通路を画定する羽根(15)がさらに設けられている羽根車(9)と、
−羽根車の磁石または磁化領域(N/S)と協働して、羽根車を前記中心軸の周囲で回転させるようになされた電磁ドライブ(5)と、
を含む、機械的軸受を持たない遠心血液ポンプにおいて、
前記半径方向の空隙が100μm以下で、羽根車のための動圧ラジアル軸受を形成し、羽根車の外周(17、18、22)と、
(a)ポンプケーシングの中で前記中心軸の周囲に円形に配置され、血液が羽根車(9)から血流吐出口(21)に向かって流れるための、円周方向に離間された複数の貫通穴(13)を有する壁(12)または
(b)ポンプケーシングの中で前記中心軸の周囲に円形に配置された、軸方向に延び、離間された複数の壁パーツであって、壁パーツ間に、血液が羽根車(9)から血流吐出口(21)へと流れるための貫通穴(13)を提供する複数の壁パーツまたは
(c)上側円形壁パーツと下側円形壁パーツを含む複数の壁パーツであって、上側および下側円形壁パーツが軸方向に離間されて、血液が羽根車(9)から血流吐出口(21)へと流れるための、1つの連続的な円周方向の貫通穴(13)を形成する複数の壁パーツ
の内面によって画定されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の遠心血液ポンプにおいて、
半径方向の空隙が、羽根車の回転方向に見た時に、半径方向に収束する複数の空隙区間(14)を含むことを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の遠心血液ポンプにおいて、
電磁ドライブが、強磁性体コアを持たない複数のコイル(5)を含み、コイルが羽根車(9)から軸方向に離間された平面内に配置されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
電磁ドライブは、羽根車の両側において羽根車(9)から軸方向に離間された平面内に配置された複数のコイル(5)を含むことを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項5】
請求項3または4に記載の遠心血液ポンプにおいて、
コイル(5)がポリママトリクスの中に埋め込まれることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項6】
請求項3〜5の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
コイル(5)がセラミック板(6)の上に、それと一体の構成部品を形成するように直接または間接的に取り付けられ、セラミック板が前記軸方向の空隙を限定することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
半径方向の空隙が50μm以下、より好ましくは20μm以下であることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
前記壁(12)または複数の壁パーツが、血液が羽根車(9)から血流吐出口(21)へと流れるための、円周方向に離間された複数の貫通穴(13)を提供し、隣接する2つの貫通穴(13)間のすべての距離が羽根車の羽根(15)の隣接する半径方向外端間のすべての距離より小さいことを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車(9)が軸方向に離間された第一のディスク(10)と第二のディスク(10)を含み、各ディスクが磁気領域と、血液が第一と第二のディスクを通って軸方向に流れるように配置された中央穴(7)と、を有し、羽根車(9)の羽根(15)がディスク(10)間に配置されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項10】
請求項9に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根(15)が、羽根(15)の軸方向の片側または軸方向の両側から軸方向に延び、前記第一と第二のディスク(10)の少なくとも一方または両方の外周を取り囲む少なくとも1つの円形縁(17、18)によって一体に接続され、前記円形縁(17、18)が羽根車(9)の前記外周の一部または全部を形成することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項11】
請求項9に記載の遠心血液ポンプにおいて、
前記第一と第二のディスク(10)の少なくとも一方または両方が、羽根車(9)の前記外周の一部または全部を形成する円形の外周を有することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項12】
請求項9〜11の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
第一と第二のディスク(10)の、軸方向に相互に反対に面する表面が平坦であり、各々、隣接する平坦壁(6)から軸方向に離間されて、血液がディスクの平坦面と隣接する平坦な壁(6)の間に流れることができることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項13】
請求項9〜11の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
第一と第二のディスク(10)の、軸方向に相互に反対に面する表面が各々、ポンプケーシング(1)により提供されるか、その中に配置される隣接する壁(6)から軸方向に離間されて、血液がディスク表面と隣接する壁の間に流れることができ、ディスク表面の一方または両方および/または隣接する壁の一方または両方が、中心軸の周囲で円周方向に延びる傾斜部を提供して、羽根車が回転した時に、羽根車をそれぞれの隣接する壁(6)から上昇させる軸方向の流体力を生成することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項14】
請求項1〜6の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車(9)が、血液がディスクを通って軸方向に流れるように配置された中央穴(7)を有するディスク(10)を含み、羽根車の羽根(15)がディスク(10)の軸方向の両側から軸方向に延び、磁石として形成されるか、磁気領域(N/S)を有することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項15】
請求項14に記載の遠心血液ポンプにおいて、
前記壁(12)または複数の壁パーツが、血液が羽根車(9)から血流吐出口(21)へと流れるための、円周方向に離間された複数の貫通穴(13)を提供し、隣接する2つの貫通穴(13)間のすべての距離が羽根車の羽根(15)の半径方向外端間のすべての距離より小さいことを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項16】
請求項14または15に記載の遠心血液ポンプにおいて、
ディスク(10)が円形の半径方向外面を有し、前記壁が半径方向内側に延びて、ディスクの円形の半径方向外面と共に前記動圧ラジアル軸受を形成することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項17】
請求項14〜16の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車の羽根(15)が、ポンプケーシング(1)によって提供される、またはその中に配置される隣接する壁から軸方向に離間された上面および下面(25)を有して、血液が前記上および下面と隣接する壁との間に流れることができるようになっており、前記上および下面の何れかまたは両方が、中心軸の周囲に円周方向に延びる傾斜部を提供して、羽根車が回転した時に羽根車をそれぞれの隣接する壁から浮上させる軸方向の流体力を生成することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項18】
請求項17に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車の羽根(15)の上および下面(25)の1つまたはそれ以上の傾斜部が、羽根車の回転方向に見た時に、湾曲した、またはテーパが付けられ、好ましくは直線区間へと続く羽根の前端縁により形成されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項19】
請求項14〜18の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
ディスク(10)が円形に配置された軸方向の複数の貫通穴を有し、羽根(15)が円形に配置された貫通穴に挿入されて、ディスクの軸方向の片側から軸方向のその反対側へと延びることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項20】
請求項19に記載の遠心血液ポンプにおいて、
ディスク(10)がポリマ材料を含むか、全体がそれにより作製されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項21】
請求項14〜18の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
ディスク(10)と羽根(15)が2つのセミシェル(26、27)で構成され、その中に磁石が格納されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項22】
請求項1〜21の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車(9)の羽根(15)が相互に一体の射出成形部品(11)として形成されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項23】
請求項14〜19の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
ディスク(10)と羽根(15)の両方が磁化された強磁性材料で作製されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項24】
請求項14〜18の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
ディスク(10)と羽根(15)が強磁性材料の一体部品として形成され、前記部品がディスク(10)を含め、磁化されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項25】
請求項1〜24の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車の羽根(15)の少なくとも1枚または全部の半径方向の寸法が円周方向に増大し、これらの羽根の半径方向外面(22)が羽根車(9)の前記外周の一部または全部を形成することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項26】
請求項1〜25の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車(9)の羽根(15)が、羽根車の回転方向に見た時に、その半径方向の範囲に関して突出している前端面(22a)を有することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項27】
請求項1〜26の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車(9)の羽根(15)が、羽根車の回転方向に見た時に、湾曲した、またはテーパの付けられた、軸方向に延びる前端縁(23)を有することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項28】
請求項1〜27の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
羽根車(9)のアスペクト比が4:1(直径:高さ)以上、好ましくは6:1以上であることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項29】
請求項1〜28の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
各々が北極(N)と南極(S)を有する第一の磁石または磁気領域と第二の磁石または磁気領域が1つの羽根車の羽根(15)にまとめられ、第一の磁石または磁気領域の北極と南極が、第二の磁石または磁気領域の北極と南極に関して上下逆に配置されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項30】
請求項1〜29の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
磁石または磁気領域がポリマまたは金属、例えばチタンまたは生体適合貴金属で全体に被覆され、コーティングの厚さは好ましくは50μm以下であることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項31】
請求項1〜30の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
血流吐出口(21)がポンプケーシングの円周上に接線方向に配置されることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項32】
請求項1〜31の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
前記壁(12)または壁パーツの周辺に配置されたリング状ディフューザ(20)を含むことを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項33】
請求項1〜32の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
前記壁(12)または複数の壁パーツが、血液が羽根車(9)から血流吐出口(21)へと流れるための、円周方向に離間された複数の貫通穴(13)または1つのリング状の穴を提供し、貫通穴(13)またはリング状の穴の断面が半径方向外側に向かって増大することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項34】
請求項33に記載の遠心血液ポンプにおいて、
貫通穴(3)とリング状の穴の開口角度が7°を超えないことを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項35】
請求項33または34に記載の遠心血液ポンプにおいて、
壁(12)または複数の壁パーツの厚さが少なくとも2mmであることを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項36】
請求項33〜35の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
貫通穴(13)が異なる高さ、幅または直径を有することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【請求項37】
請求項33〜36の何れか1項に記載の遠心血液ポンプにおいて、
壁(12)の厚さが壁(12)の円周に沿って変化することを特徴とする遠心血液ポンプ。
【国際調査報告】