(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-532440(P2015-532440A)
(43)【公表日】2015年11月9日
(54)【発明の名称】空気質量流量計を動作させるための方法
(51)【国際特許分類】
G01F 1/68 20060101AFI20151013BHJP
G01F 1/00 20060101ALI20151013BHJP
【FI】
G01F1/68 A
G01F1/00 W
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-538353(P2015-538353)
(86)(22)【出願日】2013年9月24日
(85)【翻訳文提出日】2015年6月18日
(86)【国際出願番号】EP2013069833
(87)【国際公開番号】WO2014063887
(87)【国際公開日】20140501
(31)【優先権主張番号】102012219287.5
(32)【優先日】2012年10月23日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】508097870
【氏名又は名称】コンチネンタル オートモーティヴ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シューラー
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴン セテシャック
(72)【発明者】
【氏名】トアステン クニッテル
【テーマコード(参考)】
2F030
2F035
【Fターム(参考)】
2F030CA10
2F030CB10
2F030CC14
2F030CD01
2F030CD20
2F030CF09
2F035AA02
2F035EA03
2F035EA05
(57)【要約】
本発明は、内燃機関に供給される空気質量流を測定する空気質量流量計を動作させるための方法に関する。空気質量流量計は、微小電気機械構造で形成されたセンサ素子を備えており、このセンサ素子は加熱素子を有しており、センサ素子には、加熱素子から見て上流側に第1の熱電素子が配置されており、加熱素子から見て下流側に第2の熱電素子が配置されている。センサ素子の汚れに起因する測定結果の誤りを排除するために、又は少なくとも狭い範囲に押させるために、以下のステップが実施される。A:空気質量流量計の第2の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値を求めるステップ。B:空気質量流量計の第2の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値を、電子的な記憶装置に格納するステップ。C:内燃機関を作動させて、この内燃機関に供給される空気質量流を、空気質量流量計により測定するステップ。D:内燃機関作動後の、空気質量流量計の第2の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値を求めるステップ。E:第2の熱電素子の絶対温度に関する前記第1の測定値を、第2の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値と比較するステップ。F:第1の測定値と第2の測定値との間で偏差が検出されたならば、センサ素子の特性曲線のオフセットを補正するステップ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に供給される空気質量流(10)を測定する空気質量流量計を動作させるための方法であって、
前記空気質量流量計(2)は、微小電気機械構造で形成されたセンサ素子(15)を備えており、該センサ素子(15)は加熱素子(12)を有しており、
前記センサ素子(15)には、前記加熱素子(12)から見て上流側に第1の熱電素子(7)が配置されており、前記加熱素子(12)から見て下流側に第2の熱電素子(8)が配置されている、
空気質量流量計を動作させるための方法において、
A:前記空気質量流量計(2)の前記第2の熱電素子(8)の絶対温度に関する第1の測定値を求めるステップと、
B:前記空気質量流量計(2)の前記第2の熱電素子(8)の絶対温度に関する前記第1の測定値を、電子的な記憶装置に格納するステップと、
C:内燃機関を作動して、該内燃機関に供給される空気質量流(10)を、前記空気質量流量計(2)により測定するステップと、
D:内燃機関作動後の、前記空気質量流量計(2)の前記第2の熱電素子(8)の絶対温度に関する第2の測定値を求めるステップと、
E:前記第2の熱電素子(8)の絶対温度に関する前記第1の測定値を、前記第2の熱電素子(8)の絶対温度に関する第2の測定値と比較するステップと、
F:前記第1の測定値と前記第2の測定値との間で偏差が検出されたならば、前記センサ素子(15)の特性曲線のオフセットを補正するステップと
を有することを特徴とする、
内燃機関に供給される空気質量流(10)を測定する空気質量流量計を動作させるための方法。
【請求項2】
前記ステップAにおいて、前記第1の熱電素子(7)の絶対温度に関する第1の測定値を付加的に求める、
請求項1に記載の空気質量流量計(2)を動作させるための方法。
【請求項3】
前記ステップAの後、前記ステップBの前に、ステップA1として、前記第2の熱電素子(8)の絶対温度の前記第1の測定値と、前記第1の熱電素子(7)の絶対温度の前記第1の測定値との差を形成する、
請求項2に記載の空気質量流量計(2)を動作させるための方法。
【請求項4】
前記ステップBにおいて付加的に、前記第1の熱電素子(7)の絶対温度に関する第1の測定値を、及び/又は、前記第2の熱電素子(8)の絶対温度の前記第1の測定値と前記第1の熱電素子(7)の絶対温度の前記第1の測定値との差を、前記電子的な記憶装置に格納する、
請求項2又は3に記載の空気質量流量計(2)を動作させるための方法。
【請求項5】
前記ステップDにおいて、前記第1の熱電素子(7)の絶対温度に関する第2の測定値を付加的に求める、
請求項3又は4に記載の空気質量流量計(2)を動作させるための方法。
【請求項6】
前記ステップDの後、前記ステップEの前に、ステップD1として、前記第2の熱電素子(8)の絶対温度の前記第2の測定値と、前記第1の熱電素子(7)の絶対温度の前記第2の測定値との差を形成する、
請求項4に記載の空気質量流量計(2)を動作させるための方法。
【請求項7】
前記ステップEにおいて付加的に、前記第1の熱電素子(7)の絶対温度に関する前記第1の測定値を、及び/又は、前記第2の熱電素子(8)の絶対温度の前記第1の測定値と前記第1の熱電素子(7)の絶対温度の前記第1の測定値との差を、前記第1の熱電素子(7)の絶対温度に関する前記第2の測定値と比較する、及び/又は、前記第2の熱電素子(8)の絶対温度の前記第2の測定値と前記第1の熱電素子(7)の絶対温度の前記第2の測定値との差と比較する、
請求項5又は6に記載の空気質量流量計(2)を動作させるための方法。
【請求項8】
前記ステップFにおいて、前記第1の熱電素子(7)の絶対温度に関する前記第1の測定値が、及び/又は、前記第2の熱電素子(8)の絶対温度の前記第1の測定値と前記第1の熱電素子(7)の絶対温度の前記第1の測定値との差が、前記第1の熱電素子(7)の絶対温度に関する前記第2の測定値から、及び/又は、前記第2の熱電素子(8)の絶対温度の前記第2の測定値と前記第1の熱電素子(7)の絶対温度の前記第2の測定値との差から、隔たっていることが検出されたならば、前記センサ素子(15)の特性曲線のオフセットを補正する
請求項7に記載の空気質量流量計(2)を動作させるための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気質量流量計を動作させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気質量流量計ないしはエアフローメータは、例えば自動車において内燃機関により吸入される空気質量を測定するために用いられる。吸入空気質量に関してできる限り信頼性のある情報に基づくことで、内燃機関の電子制御装置により、その空気質量に厳密に整合された燃料量が個々の燃焼室へ供給されるようにして、燃焼を最適化することができる。このような最適化の結果、有害物質の排出を低減させながらエネルギーの利用効率を高めることができる。
【0003】
DE 44 07 209 A1によれば、空気質量を測定するために吸気管中に挿入された空気質量流量計が公知であり、この場合、流れ全体のうち規定の割合がエアフローセンサを貫流する。この目的で上述の空気質量流量計は、プラグイン・ダクト型空気質量流量計として構成されている。この空気質量流量計は、測定ダクト内に配置されたセンサ素子と、ケーシング内に配置されセンサ素子の測定値を評価及び/又は検出する電子装置と、センサ素子の他方の側に配置された排気ダクトを備えている。スペースを節約するために、上述のダクト即ち空気案内経路は、U字型、S字型又はC字型に形成されており、そのようにしてプラグイン部材として構成された全体としてコンパクトな装置が形成される。
【0004】
WO 03/089884 A1の開示内容に従って構成された空気質量流量計は、ホットフィルム型のアネモメータとして形成されており、基本的にこの空気質量流量計の有効性は実証されている。
【0005】
微小電気機械システム(MEMS)として構成された複数のセンサ素子をベースに動作する最近の空気質量流量計の開発において明らかにされたのは、それらのセンサ素子の測定結果に対し、特に汚れによって悪影響が及ぼされることである。例えば空気質量流中の油滴などによって生じる可能性のある汚れにより、時間の経過とともにセンサ素子において信号ドリフトが発生し、このドリフトによって空気質量流の測定値に誤りが引き起こされる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、微小電気機械システムとして構成されたセンサ素子は数多くの利点を有しており、それらの利点を手放すべきではない。したがって本発明の課題は、センサ素子の汚れに起因する測定結果の誤りを排除することにあり、或いはそのような誤りを少なくとも狭い範囲に抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、独立請求項に記載された特徴によって解決される。従属請求項には有利な実施形態が記載されている。
【0008】
本発明によれば上記の課題を解決するため、以下のステップが実施される:
A:空気質量流量計の第2の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値を求めるステップ。
B:空気質量流量計の第2の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値を、電子的な記憶装置に格納するステップ。
C:内燃機関を作動させて、この内燃機関に供給される空気質量流を、空気質量流量計により測定するステップ。
D:内燃機関作動後の、空気質量流量計の第2の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値を求めるステップ。
E:第2の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値を、第2の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値と比較するステップ。
F:第1の測定値と第2の測定値との間で偏差が検出されたならば、センサ素子の特性曲線のオフセットを補正するステップ。
【0009】
内燃機関作動後、空気質量流量計における第2の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値を求め、第2の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値を、第2の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値と比較することにより、内燃機関動作中に発生する信号ドリフトを検出し、補正することができる。このようにすることで、長期にわたり高精度に動作するセンサ素子が実現され、ひいては空気質量流に関して信頼性のある測定結果が得られるようになる。
【0010】
本発明による方法の1つの実施形態によれば、ステップAにおいて、第1の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値が付加的に求められる。これにより、第1のセンサ素子の汚れに起因して引き起こされる信号ドリフトを識別するためのベースが得られるようになる。
【0011】
本発明の1つの実施形態によれば、ステップAの後、ステップBの前に、ステップA1として、第2の熱電素子の絶対温度の第1の測定値と、第1の熱電素子の絶対温度の第1の測定値との差が形成される。これらの絶対温度の差からも、信号ドリフトに関する情報を得ることができる。
【0012】
ステップBにおいて付加的に、第1の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値を、及び/又は、第2の熱電素子の絶対温度の第1の測定値と第1の熱電素子の絶対温度の第1の測定値との差を、電子的な記憶装置に記憶させれば、内燃機関作動後、信号ドリフトを検出するために、さらには汚れによって引き起こされた信号ドリフトの原因となった場所を突き止めるために、考えられるすべての比較値を利用することができる。
【0013】
この目的で有利であるのは、ステップDにおいて、第1の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値を付加的に求めることである。絶対温度に関する第2の測定値は、内燃機関が所定時間動作してから求められ、そのときセンサ素子の上に、場合によっては汚れが堆積した状態になる。
【0014】
さらに有利であるのは、ステップDの後、ステップEの前に、ステップD1として、第2の熱電素子の絶対温度の第2の測定値と、第1の熱電素子の絶対温度の第2の測定値との差を形成することである。これらの測定値によって信号ドリフトを識別することができ、信号ドリフトの原因となった場所に関する情報も付加的に得ることができる。例えば、第1の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値は大きく変化したが、第2の熱電素子の測定値はほぼ同じままであったならば、高い確率で第1の熱電素子は汚れた状態になっている。
【0015】
このことはステップEにおいて、以下のような付加的な比較を行うことによって識別される。即ち、第1の熱電素子の絶対温度に関する第1の値を、及び/又は、第2の熱電素子の絶対温度の第1の測定値と第1の熱電素子の絶対温度の第1の測定値との差を、第1の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値と付加的に比較することによって、及び/又は、第2の熱電素子の絶対温度の第2の測定値と第1の熱電素子の絶対温度の第2の測定値との差と付加的に比較することによって、識別される。
【0016】
その際に有利にな手法として、ステップFにおいて、第1の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値が、及び/又は、第2の熱電素子の絶対温度の第1の測定値と第1の熱電素子の絶対温度の第1の測定値との差が、第1の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値から、及び/又は、第2の熱電素子の絶対温度の第2の測定値と第1の熱電素子の絶対温度の第2の測定値との差から、隔たっていることが検出されたならば、センサ素子の特性曲線のオフセットが補正される。
【0017】
本発明のその他の特徴及び利点については、次に図面を参照しながら実施例を説明することで示すことにする。以下では、それぞれ図面が異なろうが、同じ構成部材については同じ用語及び同じ参照符号を用いることにする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】微小電気機械システム(MEMS)として形成されたセンサ素子を示す図
【
図3】微小電気機械システム(MEMS)として形成され、空気質量流量計の補助管内に配置されたセンサ素子を示す図
【
図4】空気質量流が吸気開口部を通り空気質量流量計の補助管に流れ込んでいる状況を示す図
【
図5】空気質量流量計内に微小電気機械システム(MEMS)として形成され、プラグインフィンガとして吸気管内に組み込まれたセンサ素子を示す図
【
図6】第1の温度センサ素子及び第2の温度センサ素子を備えたセンサ素子を示す図
【
図8】空気質量流量計を動作させるための本発明による方法を詳述するフローチャート
【
図9】
図8に開示した方法の1つの実施形態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1には質量流センサが示されており、ここではこれは空気質量流量計2として構成されている。空気質量流量計2は、この実施例ではプラグインフィンガとして示されており、これは吸気管1内に差し込まれ、吸気管と固定的に接続されている。吸気管1は、質量流ここでは空気質量流10を、内燃機関のシリンダに向けて案内する。内燃機関のシリンダ内で動力用燃料を効率的に燃焼させるために必要とされるのは、供給された空気質量に関する正確な情報を得ることである。供給された空気質量に基づき、シリンダ中に噴射される燃料の燃焼に不可欠である酸素の利用可能量を推定することができる。さらに
図1に示されている空気質量流量計2は、第1の温度センサ素子7と第2の温度センサ素子8を有している。第1の温度センサ素子7と第2の温度センサ素子8は、それぞれ異なる場所に配置されている。これらの温度センサ素子7,8は、一般に抵抗又は熱電素子とも称するサーモパイルによって形成されており、これらの温度センサ素子のところに生じている温度に応じて、それぞれ異なる抵抗値をとる。第1の温度センサ素子7と第2の温度センサ素子8との間に、加熱素子12が形成されている。吸気開口部4を通って空気質量流量計2のケーシング3に流入する空気質量流10は、最初に第1の温度センサ素子7の上を通過し、次いで加熱素子12の上を通過し、その後、空気質量流10は第2の温度センサ素子8のところに到達し、さらに補助管5に沿って空気質量流量計2の排気開口部6へ向かって案内される。空気質量流10は、第1の温度センサ素子7のところに所定の温度で到達する。この温度は、第1の温度センサ素子7により絶対温度として測定される。その後、空気質量流10は加熱素子12の上を通り、空気質量流10は、加熱素子12を通過して流れる質量に応じて多少の差こそあれ加熱される。加熱された空気質量流10が第2の温度センサ素子8に到達すると、空気質量流10のそのときの温度が第2の温度センサ素子8により絶対温度として求められる。第1の温度センサ素子7によって測定された絶対温度と、第2の温度センサ素子8によって測定された絶対温度との差から、通過して流れた空気質量を求めることができる。この目的で、空気質量流量計2自体に、第1の温度センサ素子7と第2の温度センサ素子8の測定信号を評価する評価電子装置13を設けることができる。このようにして得られた空気質量流10に関する情報は、ここでは図示されていないエンジン制御装置へ転送される。
【0020】
なお、ここでは空気質量流量計に基づいて本発明を説明するけれども、空気質量流量計を動作させるための本発明による方法が空気質量流の測定に限られることを意味するものではない、という点に留意されたい。本発明による方法を利用して、他の質量流も有利に捕捉及び測定することができる。
【0021】
図2には、空気質量流量計2のためのセンサ素子15が示されている。センサ素子15は、微小電気機械システム(MEMS)として、単一のシリコンチップ上に形成されている。センサ素子15は差分温度法に従い動作し、それによって通過して流れる空気流10の質量が求められる。この目的で、薄いダイアフラム17の上に、第1の温度センサ素子7と第2の温度センサ素子8が形成されている。第1の温度センサ素子7及び第2の温度センサ素子8は、ダイアフラム17の表面16上のそれぞれ異なる場所に設けられている。第1の温度センサ素子7と第2の温度センサ素子8との間に、加熱素子12が配置されている。微小電気機械システムとして形成されたセンサ素子15には、評価電子装置13も組み込まれており、この評価電子装置13は、温度センサ素子7,8の測定信号をただちに評価して、空気質量流10に比例する信号に変換することができる。ただし評価電子装置13を、後段の電子機器に統合してもよい。空気質量流10に関する情報を、接続パッド19及び接続ワイヤ18を介して、ここには図示されていない後段のエンジン電子制御装置へ転送することができる。
【0022】
図3には、微小電気機械システム(MEMS)として形成された、空気質量流量計2のためのセンサ素子15が示されており、このセンサ素子5は、空気質量流量計2の補助管5内に配置された単一の基板の上に形成されている。
図3の場合、吸気開口部4を介して空気質量流10は流れておらず、これは例えば内燃機関が停止されている場合に該当する。この状態を質量流ゼロとも称する。センサ素子15に設けられた加熱素子12に電気エネルギーが供給されると、加熱素子12を中心として、図示されているような対称的な温度分布20が発生する。したがってこの場合、第1の温度センサ素子7及び第2の温度センサ素子8は、同じ絶対温度を測定し、これらの温度センサ素子7,8の温度測定信号の差分形成後に評価電子装置13は、空気質量流量計2の補助管5内には空気質量流10が存在しない、と識別する。ただし、質量流ゼロのときの温度信号のこのような理想的な均衡状態は、例えばセンサ素子15上の汚れによって乱される場合がある。
【0023】
図4には、空気質量流10が吸気開口部4を通り空気質量流量計2の補助管5に流れ込んでいる状況が示されている。このような状況では、加熱素子12を中心とした温度分布20が、第2の温度センサ素子8の方向にずらされていることがよくわかる。したがってこの場合、第2の温度センサ素子8は、第1の温度センサ素子7よりも著しく高い温度を測定する。次いで、これら両方の温度センサ素子7,8の差分温度を評価電子装置13において求めることによって、空気質量流10を求めることができる。ただし、センサ素子上の汚れの影響が依然として作用を及ぼしているかもしれず、そうであるとするならば、そのような作用が測定結果に重畳されてしまうことになる。空気質量流10に応じて、温度の和も反応する。ただし、温度の和は、空気質量の熱特性にも反応し、例えば通過して流れる空気質量流10の熱容量及び/又は熱伝導性にも反応する。例えば、空気質量流10が同じままで空気質量の熱伝導性が高まると、システムが冷え、温度の和が著しく減少する。ただし、第1の温度センサ素子7と第2の温度センサ素子8の差分温度は、1次近似では変化しないまま維持される。このため、第1の温度センサ素子7と第2の温度センサ素子8の和信号によって、空気質量の熱特性の変化例えば熱容量又は熱伝導性の変化を測定することができる。和温度信号を差分温度で補って計算すれば、通過して流れる空気質量の熱伝導性の変化及び/又は熱容量の変化を推定することができる。
【0024】
図5には、プラグインフィンガとして吸気管1に組み込まれた空気質量流量計2内に、微小電気機械システム(MEMS)として形成された空気質量流量計のセンサ素子15が設けられている様子が示されている。この場合も、空気質量流10は吸気開口部4に到達し、補助管5の中に流入する。ダイアフラム17の表面16には、第1の温度センサ素子7と第2の温度センサ素子8が設けられているのがわかる。第1の温度センサ素子7と第2の温度センサ素子8との間には、加熱素子12が配置されている。空気質量流10は、最初に第1の温度センサ素子7に到達し、次に加熱素子12の上を通過し、その後、第2の温度センサ素子8に到達する。
【0025】
図5には、空気質量流10に汚染物9も含まれていることが示されている。空気質量流10によって、例えば水滴6、油滴11及び/又はダスト粒子14が、空気質量流量計2に向かって搬送される。これらの汚染物9は、空気質量流量計2の吸気開口部4を通ってセンサ素子15に達する。汚染物9が第1の温度センサ素子7及び第2の温度センサ素子8の領域に堆積すると、時間が経過するにつれて空気質量流10の測定値が大幅に誤ったものとなるおそれがある。このような誤りは、長期にわたりセンサ素子15の上に汚染物が蓄積していくことでいっそう増加していくことから、これに関しては空気質量流量計2の信号ドリフトという用語も使用する。このような信号ドリフトは望ましくないものであり、抑圧及び/又は補償しなければならない。
【0026】
図6には、第1の温度センサ素子7及び第2の温度センサ素子8と、これらの温度センサ素子7,8の間に配置された加熱素子12を備えたセンサ素子15が示されている。矢印で、空気質量流10の方向が表されている。したがって空気質量流10の流動方向で見ると、加熱素子12の前方に第1の温度センサ素子7が、加熱素子12の後方に第2の温度センサ素子8が配置されている。この実施例によれば、第1の温度センサ素子7も第2の温度センサ素子8も、1つの測定抵抗22と少なくとも2つの比較抵抗21とから成る、電気的な直列回路として構成されている。この図からわかるように、測定抵抗22は薄いダイアフラムの内部領域に配置されており、比較抵抗21はダイアフラム17の周縁領域に配置されている。
【0027】
さらに
図6には、汚染物9ここでは特に油滴11が、空気質量流10とともにセンサ素子15に搬送されることが示されている。センサ素子15の上には、特に油滴11が堆積している。この図からはっきりとわかるように、油滴11はセンサ素子15の上において、空気質量流10の流動方向で見て、加熱素子12の後方に位置する第2のセンサ素子の領域に、特に著しく堆積している。センサ素子15の上に油滴11がこのように非対称に堆積していることで、信号ドリフトが引き起こされ、それによって最終的に、センサ素子15により測定される絶対温度に誤りが引き起こされ、ひいては空気質量流10の測定値に誤りが引き起こされる。しかも汚染物は、大部分がダイアフラム17の周縁領域に堆積している。油滴11が非対称に堆積するのには物理的な理由があり、これは特に、第2のセンサ素子8の領域の温度がいっそう高いことに由来し、膜17の周縁領域の温度勾配に起因している。
【0028】
図7には、空気質量流量計2のセンサ素子15が示されている。このセンサ素子15の第1の温度センサ素子7と第2の温度センサ素子8は、サーモパイル23として形成されている。熱電素子23とも称するサーモパイル23は、熱を電気エネルギーに変換する。熱電素子23は、一方の端部で互いに接合された2つの異なる金属から成る。金属中の熱流に起因して、温度差により電圧が発生する。
【0029】
1つの導体において温度の異なる2つの個所の間で電位差が発生することを、ゼーベック効果と称する。この電位差は温度差にほぼ比例し、導体材料に依存する。単独の測定用導体の両端が同じ温度にあるとき、電位差は常に相殺される。しかし、2つの異なる導体材料を互いに接続すると、熱電素子23が形成される。ゼーベック効果をベースとする測定システムの場合には通常、著しく多くの個々の熱電素子23が直列に接続される。
【0030】
測定のために材料のペアを選択する際には、温度変化と電圧変化との間で高度の線形性を伴いながら、できるかぎり高い熱電圧を発生させるようにしたい。
図7に示したサーモパイル23は、それぞれ第1の金属24が接続点26のところで第2の金属25と接続された1つの列によって構成されている。
図7にわかりやすく示したように、複数の熱電素子23によって構築された第2の温度センサ素子8の領域に、主として油滴11として存在する汚れ9が堆積している。これらの汚れ9によって、温度センサ素子7,8が測定する絶対温度に誤りが生じてしまう。その結果として発生する信号ドリフトについては、これまでに挙げた図面の説明の際に既に言及した。本発明による方法によれば、この信号ドリフトを補償することができ、ひいては空気質量流量計2の測定結果を長期にわたり極めて安定した状態で利用できるようになる。
【0031】
図8には、空気質量流量計を動作させるための本発明による方法を詳述するフローチャートが描かれている。本発明によるこの方法は、微小電気機械システムとして製造されたセンサ素子を有する空気質量流量計において、極めて効果的に使用することができる。微小電気機械システムが汚れの影響を受けやすいこと、その結果としてそれらのセンサ素子に信号ドリフトが生じることについては、これまでの説明で既に述べてきた通りである。
【0032】
信号ドリフトを回避するために、もしくはこのような信号ドリフトを補償するために、ステップAにおいて、空気質量流量計の第2の熱電素子の絶対温度に関して第1の測定値が求められる。第2の熱電素子は、空気質量流の流動方向で見て、加熱素子の後方に配置されており、空気質量流に含まれる油滴による汚れの影響を特に受ける。空気質量流量計の第2の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値は、ステップBにおいて電子的な記憶装置に格納される。次にステップCにおいて内燃機関が作動され、内燃機関に供給される空気質量流が空気質量流量計によって測定される。内燃機関が作動されることで、空気質量流とともに汚れがセンサ素子に向かって運ばれ、その際に特に第2の熱電素子の周縁領域に油滴が堆積する。熱電素子がこのように汚れてしまうと、望ましくない信号ドリフトが引き起こされ、それによって空気質量流量計の測定結果に誤りが生じてしまう。このとき、内燃機関が停止してしまう可能性がある。汚れに起因して空気質量流量計の測定値に生じる誤りが補償されるようにする目的で、ステップDにおいて、内燃機関作動後の空気質量流量計の第2の熱電素子の絶対温度に関して、第2の測定値が求められる。次いでステップEにおいて、第2の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値と、第2の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値との比較が行われる。ステップFにおいて、第1の測定値と第2の測定値との間に偏差が生じているか否かが判定される。これらの測定値間で偏差が生じているならば、ステップF1において、センサ素子特性曲線のオフセットの補正が行われる。いかなる偏差も生じていないのであれば、この方法はステップAから新たに始められる。偏差が検出された場合にも、特性曲線のオフセットが補正された後、この方法はステップAから新たに始められる。このようにして、センサ素子特性曲線のオフセット補正が連続的に行われ、このことによって空気質量流量計の高精度の測定結果が長期にわたり維持されるようになる。
【0033】
図9には、
図8に開示した方法の1つの実施形態が示されている。ステップAにおいて、空気質量流量計の第2の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値が求められることに加え、第1の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値も求められる。次にステップA1において、第2の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値と、第1の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値との差が形成される。その後、ステップBにおいて、第2の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値に加え、第1の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値が、及び/又は、空気質量流量計における第2の熱電素子の絶対温度の第1の測定値と第1の熱電素子の絶対温度の第1の測定値との差が、電子的な記憶装置に格納される。
【0034】
これに続くステップCにおいて、内燃機関が作動され、内燃機関に供給される空気質量流が空気質量流量計によって測定される。内燃機関を作動すると、センサ素子が特に第2の熱電素子の周縁領域で汚れる可能性がある。たいていは油滴により引き起こされるこのような汚れによって、熱電素子の測定信号に誤りが生じてしまい、その結果、いわゆる信号ドリフトが発生する。その場合、内燃機関が停止してしまう可能性がある。
【0035】
次いでステップDにおいて、内燃機関作動後の空気質量流量計の、第2の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値と、第1の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値の付加的な検出とが行われる。その後、ステップD1において、第2の熱電素子の絶対温度の第2の測定値と、第1の熱電素子の絶対温度の第2の測定値との差が形成される。
【0036】
ステップEにおいて、第2の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値が、第2の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値と比較される。さらにこれに加えて、第1の熱電素子の絶対温度に関する第1の測定値が、及び/又は、第2の熱電素子の絶対温度の第1の測定値と第1の熱電素子の絶対温度の第1の測定値との差が、第1の熱電素子の絶対温度に関する第2の測定値と比較され、及び/又は、第2の熱電素子の絶対温度の第2の測定値と第1の熱電素子の絶対温度の第2の測定値との差と比較される。
【0037】
ステップFにおいて、第1の測定値と第2の測定値との間で偏差が検出されたならば、ステップF1において、センサ素子特性曲線のオフセットの補正が行われる。次いでこの方法を、ステップAからスタートさせて新たに実行することができる。第1の測定値と第2の測定値との間で偏差が検出されなければ、この方法を即座にステップAからスタートさせて新たに実行することができる。
【国際調査報告】