(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-532834(P2015-532834A)
(43)【公表日】2015年11月16日
(54)【発明の名称】エマルジョン系及びエマルジョンベースの核酸増幅
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20151020BHJP
【FI】
C12N15/00 AZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2015-538585(P2015-538585)
(86)(22)【出願日】2013年10月28日
(85)【翻訳文提出日】2015年5月21日
(86)【国際出願番号】IB2013003084
(87)【国際公開番号】WO2014068407
(87)【国際公開日】20140508
(31)【優先権主張番号】61/719,175
(32)【優先日】2012年10月26日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】ディール,フランク
(72)【発明者】
【氏名】アンゲネント,フィリップ
【テーマコード(参考)】
4B024
【Fターム(参考)】
4B024AA20
4B024CA01
4B024CA20
4B024HA08
(57)【要約】
効率的でハイスループットなエマルジョンベースの核酸増幅の方法を提供する。いくつかの態様では、核酸増幅のために効果的なエマルジョンを形成するために非常に低い入力エネルギー(例えばピペット操作により生じるエネルギー)を必要とするエマルジョン混合物を提供する。エマルジョンを破壊するために効率的な処方も同様に提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリメラーゼ反応混合物を含む水性相と油性混合物とを含む混合物を準備することと、
(b)2mmから50μmの間の直径を有するオリフィスに40μl/秒から220μl/秒の速度で混合物を通過させることにより、混合物を乳化することと、
(c)エマルジョンを、核酸増幅のために充分な条件に供することと
を含む、エマルジョンポリメラーゼ増幅の方法。
【請求項2】
混合物が、オリフィスを少なくとも5、10、15、20、25、30、35又は40回通過する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
混合物が、オリフィスを40回以下通過する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
混合物が、60μl/秒 から180μl/秒、80μl/秒から160μl/秒、又は80μl/秒から120μl/秒の速度でオリフィスを通過する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
オリフィスが、1mmから100μmの間、800μmから200μmの間、又は800μmから400μmの間の直径を有する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
オリフィスに混合物を通過させることが、混合物をピペット操作することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
油性混合物が、ミネラルオイル、炭酸ジエチルヘキシル、イソステアリン酸ポリグリセリル-4、セチルPEG/PPG-10/1-ジメチコン、ラウリン酸ヘキシル又はオレイン酸ポリグリセリル-3を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
油性混合物が、ミネラルオイル、炭酸ジエチルヘキシル、イソステアリン酸ポリグリセリル-4、セチルPEG/PPG-10/1-ジメチコン及びラウリン酸ヘキシルを含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
油性混合物が、
(a) 10〜30%(w/v)のミネラルオイルと、
(b) 55〜75%(w/v)の炭酸ジエチルヘキシルと、
(d)5〜15% (w/v)の、イソステアリン酸ポリグリセリル-4とセチルPEG/PPG-10/1-ジメチコンとラウリン酸ヘキシルとからなる組成物と、
(d)5〜15% (w/v)のオレイン酸ポリグリセリル-3又はイソステアリン酸ポリグリセリル-4と
を含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
(a) 10〜30%(w/v)のミネラルオイルと、
(b) 55〜75%(w/v)の炭酸ジエチルヘキシルと、
(d)5〜15% (w/v)の、イソステアリン酸ポリグリセリル-4とセチルPEG/PPG-10/1-ジメチコンとラウリン酸ヘキシルとからなる組成物と、
(d)5〜15% (w/v)のオレイン酸ポリグリセリル-3又はイソステアリン酸ポリグリセリル-4と
を含む油性組成物。
【請求項11】
5〜15% (w/v)のオレイン酸ポリグリセリル-3を含む請求項10に記載の油性組成物。
【請求項12】
5〜15% (w/v)のイソステアリン酸ポリグリセリル-4を含む請求項10に記載の油性組成物。
【請求項13】
(a) 15〜25% (w/v)のミネラルオイルと、
(b) 60〜70% (w/v)の炭酸ジエチルヘキシルと、
(d)5〜10% (w/v)の、イソステアリン酸ポリグリセリル-4とセチルPEG/PPG-10/1 -ジメチコンとラウリン酸ヘキシルとからなる組成物と、
(d)5〜10% (w/v)のオレイン酸ポリグリセリル-3又はイソステアリン酸ポリグリセリル-4と
を含む請求項10に記載の油性組成物。
【請求項14】
(a) 18〜22% (w/v)のミネラルオイルと、
(b) 62〜66% (w/v)の炭酸ジエチルヘキシルと、
(d)5〜10% (w/v)の、イソステアリン酸ポリグリセリル-4とセチルPEG/PPG-10/1 -ジメチコンとラウリン酸ヘキシルとからなる組成物と、
(d)5〜10% (w/v)のオレイン酸ポリグリセリル-3又はイソステアリン酸ポリグリセリル-4と
を含む請求項13に記載の油性組成物。
【請求項15】
(a) 20〜50%の2-ブタノールと、
(b) 20〜50%の1-プロパノールと、
(c)10〜40%の水と
を含み、
少なくとも1種の洗浄剤と少なくとも1種の塩とを含むエマルジョン破壊溶液。
【請求項16】
0.1%から2.0%のSDSを含む請求項15に記載のエマルジョン破壊溶液。
【請求項17】
アルカリ性変性剤を含む請求項15に記載のエマルジョン破壊溶液。
【請求項18】
(a) 30〜50%の2-ブタノールと、
(b) 30〜50%の1-プロパノールと、
(c) 10〜30%の水と
を含む請求項15に記載のエマルジョン破壊溶液。
【請求項19】
pH緩衝剤、NaCl、Triton X-100、キレート化剤又はSDSをさらに含む請求項15に記載のエマルジョン破壊溶液。
【請求項20】
(a)5〜20%の2-ブタノールと、
(b)5〜20%の1-プロパノールと、
(c) 70〜90%の水と
を含み、
少なくとも1種の洗浄剤と少なくとも1種の塩とを含むエマルジョン浄化溶液。
【請求項21】
pH緩衝剤、NaCl、Triton X-100、キレート化剤、NaOH又はSDSをさらに含む請求項20に記載のエマルジョン浄化溶液。
【請求項22】
(a) (i)ポリメラーゼ反応混合物を含む水性相と、(ii)請求項10〜14に従う油性組成物とを含む混合物を準備することと、
(b)混合物を乳化することと
を含むエマルジョンポリメラーゼ増幅の方法。
【請求項23】
エマルジョンポリメラーゼ増幅の方法としてさらに定義され、
(c)エマルジョンを、核酸増幅のために充分な条件に供すること
をさらに含む請求項22に記載の方法。
【請求項24】
混合物を乳化することが、1mmから50μmの間の直径を有するオリフィスに40μl/秒から220μl/秒の速度で混合物を通過させることを含む請求項22に記載の方法。
【請求項25】
混合物が、オリフィスを少なくとも5、10、15、20、25、30、35又は40回通過する請求項24に記載の方法。
【請求項26】
オリフィスが、約800μmから200μmの間の直径を有する請求項24に記載の方法。
【請求項27】
オリフィスに混合物を通過させることが、混合物をピペット操作することを含む請求項24に記載の方法。
【請求項28】
乳化ステップが、自動化されている請求項22に記載の方法。
【請求項29】
複数の反応容器中でのエマルジョンポリメラーゼ増幅の方法としてさらに定義される請求項23に記載の方法。
【請求項30】
複数の反応容器が、プレート上のウェルとして整列されている請求項29に記載の方法。
【請求項31】
水性相が、複数の核酸鋳型とコンジュゲートした複数のビーズを含む請求項22に記載の方法。
【請求項32】
ビーズが、磁性である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
(d)破壊溶液を混合物に加えてエマルジョンを破壊すること
をさらに含む請求項22に記載の方法。
【請求項34】
破壊溶液が、請求項15〜19のいずれか1項に従う破壊溶液である請求項33に記載の方法。
【請求項35】
(e)油性相又は水性相を除去すること
をさらに含む請求項33に記載の方法。
【請求項36】
破壊溶液が、アルカリ性変性剤をさらに含む請求項33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2012年10月26日に出願された米国特許出願第61/719,175号(その開示の全体は、本明細書に参照によりその全体が放棄することなく具体的に組み込まれている)の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、全般的に、化学及び分子生物学の分野に関する。より具体的には、本発明は、エマルジョンの処方及び核酸のエマルジョン増幅の方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エマルジョンPCRは、単一反応容器内で何百万もの区画化されたポリヌクレオチド分子の並行解析を可能にする。BEAMing (
beads、
emulsions、
amplification及び
magnetics)は、エマルジョンを一旦破壊しても形成された生成物を区画内に保持するエマルジョンPCRに基づいている。このことは、(i)ビーズを区画内に封入することと、(ii) PCR生成物の少なくとも1つの鎖がビーズと確実に結合していることとにより達成された。増幅の後に、各ビーズは、ビーズを含んでいた区画内に存在する単一DNA分子の数千コピーで覆われ、エマルジョンが破壊された後に、これらのビーズは、磁気又は遠心分離により容易に回収できる。
【0004】
BEAMingにより得られるビーズは、鋳型集団中に存在するポリヌクレオチド多様性を正確に反映し、ポリヌクレオチド集団がどの割合で特定の配列変動を含むかを決定するために用いることができる。各ビーズは同一配列の数千の分子を含むので、ポリヌクレオチド配列を決定するための方法を用いて得られるシグナル対ノイズ比は非常に高い。何百万ものビーズを、従来のフローサイトメトリー又は配列決定装置を用いて数分以内に分析できる。しかし、従来のBEAMing技術は、煩雑であり、ハイスループット分析のためにうまく適合されていない。よって、これらの問題に対処するための新しいエマルジョン試薬及び技術に対する必要性がまだ存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の実施形態では、(a)水性相と油性混合物とを含む混合物を準備することと、(b)2mmから50μmの間の直径を有するオリフィスに40μl/秒から220μl/秒の速度で混合物を通過させることにより、混合物を乳化して、エマルジョンを得ることとを含む、エマルジョンを作製する方法が提供される。関連する実施形態では、(a)ポリメラーゼ反応混合物を含む水性相と油性混合物とを含む混合物を準備することと、(b)2mmから50μmの間の直径を有するオリフィスに40μl/秒から220μl/秒の速度で混合物を通過させることにより、混合物を乳化することと、(c)エマルジョンを、核酸増幅のために充分な条件に供することとを含む、エマルジョンポリメラーゼ増幅の方法が提供される。いくつかの態様では、方法は、(d)エマルジョンを破壊して、油性相と水性相とを分離すること(例えば実施形態のさらなる破壊溶液により)をさらに含む。まださらなる態様では、方法は、(e)エマルジョンの破壊の後に、油性相及び/又は水性相を除去することを含むことができる。なおさらなる態様では、方法は、(f)エマルジョン浄化溶液を加えることにより水性相から残存油を除去することを含む。まだなおさらなる態様では、方法は、(g)実施形態のエマルジョン中で増幅した核酸を分析すること(例えば配列決定又はハイブリダイゼーションにより)を含む。
【0006】
実施形態のある態様は、油性混合物と水性相とを含む混合物(エマルジョン混合物)を乳化することを含む。いくつかの態様では、乳化は、オリフィスにエマルジョン混合物を通過させて、エマルジョン(例えば核酸増幅のために用いることができるエマルジョン)を生成するために充分な入力エネルギーを与えることを含む。例えば、混合物は、60μl/秒 から180μl/秒、80μl/秒から160μl/秒、又は80μl/秒から120μl/秒の速度(例えば約100μl/秒の速度)でオリフィスを通過できる。実施形態に従って用いるためのオリフィスは、いくつかの態様では、約1mmから100μmの間、800μmから200μmの間、又は800μmから400μmの間の直径(例えば約600μmの直径)を有する。よって、いくつかの態様では、オリフィスは、標準的なピペットチップのオリフィスである。
いくつかの態様では、オリフィスにエマルジョン混合物を通過させることは、混合物をピペット操作する(pipetting)こと(例えば混合物を、ピペットチップを通して上下に反復して通過させること)を含み得る。このようなピペット操作は、手動で行うことができるか、又はコンピュータ制御ロボットの使用によるように自動化して行ってよい。ある態様では、オリフィスにエマルジョン混合物を通過させることは、オリフィスに混合物を少なくとも5、10、15、20、25、30、35又は40回通過させることを含む。いくつかの態様では、エマルジョン混合物は、オリフィスを5回から40回の間、10回から40回の間又は10回から30回の間(例えば40回以下)通過する。
【0007】
さらなる態様では、実施形態の方法の1つ以上のステップは、自動化されている(例えば自動化液体取り扱いシステムを用いて)。例えば、いくつかの場合では、乳化ステップ、核酸増幅ステップ、エマルジョン破壊ステップ、水性相/油性相分離ステップ、ビーズ分離ステップ、ビーズ洗浄ステップ及び/又は核酸分析ステップを自動化してよい。
まださらなる態様では、実施形態の方法は、複数の反応容器中(例えば6、12、24、48、96以上の反応容器中)のエマルジョンポリメラーゼ増幅のための方法としてさらに定義される。例えば、複数の反応容器は、プレート上のウェル(例えば96又は384ウェルプレート)として整列させることができる。
【0008】
上記のように、いくつかの態様では、実施形態の水性相又はエマルジョン混合物は、核酸増幅用の試薬を含む。例えば、水性相又はエマルジョン混合物は、DNAポリメラーゼ(例えばTaq DNAポリメラーゼ)、プライマー、ヌクレオチド及び/又は鋳型核酸(例えば試験される試料からのDNA)を含むことができる。まださらなる態様では、実施形態のエマルジョン混合物又は水性相は、複数のビーズ(例えば磁性ビーズ)をさらに含む。なおさらなる実施形態では、複数のビーズは、核酸分子(例えばプライマー)に連結されている。
ある態様では、実施形態の方法は、油性混合物を水性相とともに乳化することを含む。いくつかの態様では、油性混合物は、以下に詳細に記載する組成物の1つであり、例えばミネラルオイル、炭酸ジエチルヘキシル、イソステアリン酸ポリグリセリル-4、セチルPEG/PPG-10/1-ジメチコン、ラウリン酸ヘキシル及び/又はオレイン酸ポリグリセリル-3を含む組成物(例えばミネラルオイル、炭酸ジエチルヘキシル、イソステアリン酸ポリグリセリル-4、セチルPEG/PPG-10/1-ジメチコン及びラウリン酸ヘキシルを含む油性混合物)である。
【0009】
さらなる実施形態では、(a) 10〜30%(w/v)のミネラルオイルと、(b) 55〜75%(w/v)の炭酸ジエチルヘキシル(例えばTegosoft(登録商標)DEC)と、(d)5〜15% (w/v)の、イソステアリン酸ポリグリセリル-4とセチルPEG/PPG-10/1-ジメチコンとラウリン酸ヘキシル(例えばABIL(登録商標)WE09)とからなる組成物と、(d)5〜15% (w/v)の実施形態の乳化助剤(co-emulsifier) (例えばオレイン酸ポリグリセリル-3又はイソステアリン酸ポリグリセリル-4)とを含む油性混合物が提供される。例えば、いくつかの態様では、実施形態に従って用いられる乳化助剤は、3から8の間のHLBと、10,000 g/mol未満の分子量とを有する。さらなる態様では、油性混合物は、(a) 15〜25% (w/v)のミネラルオイルと、(b) 60〜70% (w/v)の炭酸ジエチルヘキシルと、(d)5〜10% (w/v)の、イソステアリン酸ポリグリセリル-4とセチルPEG/PPG-10/1-ジメチコンとラウリン酸ヘキシルとからなる組成物と、(d)5〜10% (w/v)のオレイン酸ポリグリセリル-3又はイソステアリン酸ポリグリセリル-4とを含む。例えば、油性混合物は、(a) 18〜22% (w/v)のミネラルオイルと、(b) 62〜66% (w/v)の炭酸ジエチルヘキシルと、(d)5〜10% (w/v)の、イソステアリン酸ポリグリセリル-4とセチルPEG/PPG-10/1-ジメチコンとラウリン酸ヘキシルとからなる組成物と、(d)5〜10% (w/v)のオレイン酸ポリグリセリル-3又はイソステアリン酸ポリグリセリル-4とを含むことができる。
【0010】
まだなおさらなる実施形態では、(a) 20〜50%の2-ブタノールと、(b) 20〜50%の1-プロパノールと、(c)10〜40%の水とを含み、少なくとも1種の洗浄剤と少なくとも1種の塩とを含む、エマルジョン破壊溶液(例えば核酸増幅の後にエマルジョンを破壊するために用いることができる溶液)が提供される。いくつかの具体的な態様では、エマルジョン破壊溶液は、(a) 30〜50%の2-ブタノールと、(b) 30〜50%の1-プロパノールと、(c)10〜30%の水とを含む。いくつかの態様では、溶液は、アニオン洗浄剤、非イオン洗浄剤、カチオン洗浄剤又は両性イオン洗浄剤を含む。さらなる態様では、エマルジョン破壊溶液は、0.1%から2.0%のアニオン洗浄剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むことができる。まださらなる態様では、エマルジョン破壊溶液は、核酸を変性するためにアルカリ性変性剤(例えばNaOH)を含む。エマルジョン破壊溶液についてのさらなる成分は、限定することなく、pH緩衝剤(例えばTRIS又はHEPES)、1種以上の塩(例えばNaCl)、非イオン洗浄剤(例えばTriton X-100)又はキレート化剤(例えばEDTA)を含む。
【0011】
なおさらなる実施形態では、エマルジョン浄化溶液(例えばエマルジョンを破壊及び/又はエマルジョンの破壊の後に水性相から残存油を除去するために用いることができる溶液)が提供される。このようなエマルジョン浄化溶液は、(a)5〜20%の2-ブタノールと、(b)5〜20%の1-プロパノールと、(c)70〜90%の水と、少なくとも1種の洗浄剤と、少なくとも1種の塩とを含むことができる。例えば、洗浄剤は、アニオン洗浄剤(例えばSDS)、非イオン洗浄剤(例えばTriton X-100)、カチオン洗浄剤又は両性イオン洗浄剤であり得る。いくつかの態様では、エマルジョン浄化溶液は、pH緩衝剤、塩(例えばNaCl)、キレート化剤(例えばEDTA)又はアルカリ性変性剤(例えばNaOH)の1種以上をさらに含む。
【0012】
よって、さらなる実施形態では、エマルジョンの解乳化(すなわちエマルジョンの破壊)及びその後のビーズの回収の方法が提供される。解乳化方法は、実施形態のエマルジョン破壊緩衝液をエマルジョンに加えることにより、エマルジョンを破壊することを含むことができる。いくつかの態様では、実施形態の解乳化方法は、実施形態のエマルジョン破壊溶液を含むエマルジョンをピペット操作することを含む。ある実施形態では、エマルジョンは、ビーズを含み、解乳化中に、ビーズは、水性区画から放出されて、ビーズと結合していない核酸分子から分離される。さらなる態様では、ビーズは、遠心分離又は磁性回収(例えば磁性ビーズの場合)により水性相及び油性相から分離できる。なおさらなる態様では、ビーズは、溶液、例えば実施形態のエマルジョン浄化溶液で洗浄できる。
【0013】
本明細書で用いる場合、「a」又は「an」は、1以上を意味し得る。特許請求の範囲中で用いる場合、「含む(comprising)」との語句とともに用いる場合、語句「a」又は「an」は、1又は1より多くを意味し得る。
特許請求の範囲中での用語「又は(若しくは)」の使用は、二者択一のことだけを言うことが明確に示されないか又は選択肢が互いに排他的でない限り「及び/又は」を意味するが、本開示は、二者択一のみ及び「及び/又は」に言及する定義を支持する。本明細書で用いる場合、「別の」は、少なくとも第2又はそれより多くを意味し得る。
本明細書を通して、用語「約」は、値が、値を決定するために用いた装置、方法の誤差の固有の変動、又は研究対象のうちに存在する変動を含むことを示すために用いられる。
【0014】
本発明のその他の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかし、詳細な説明及び具体例は、本発明の好ましい実施形態を示すが、本発明の精神及び範囲内の様々な変更及び改変が、この詳細な説明から当業者に明らかであるので、説明のためにのみ示されることが理解されるべきである。
以下の図面は、本明細書の一部であり、本発明のある態様をさらに示すために含まれる。本発明は、本明細書中に示す具体例の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つ以上を参照することにより、よりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】Isolan GI34 + ABIL WE09混合物及び20回(20x)のピペット操作により作製したBEAMingビーズのフローサイトメトリー分析である。右下のパネルは、ゲートR1における単一ビーズ集団を示す。右上のパネルは、ゲートR2においてユニバーサルプローブとハイブリダイズしたビーズを示す。左のパネルは、ゲートR3における少数派(すなわち変異体)ビーズ集団とR4における多数派(すなわち野生型)の単一ビーズ集団を示す。
【
図2】Isolan GI34 + ABIL WE09混合物の20回のピペット操作により調製したエマルジョンの顕微鏡写真(400倍、位相差)である。エマルジョンは、標準的な組織培養プレート上で撮像のために堆積させた。
【
図4】解乳化能力及び相の数についてのアルコールエマルジョン破壊剤の目視検査。
【
図5】乳化及び乳化破壊プロセスの分析ラン内精度検査の設定(自動及び手動)。
【
図6】実施形態の乳化及びエマルジョン破壊プロセスの例のステップ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
I.本発明
多数の個別の核酸分子のエマルジョンベースの増幅についての最近開発された技術は、強力な新しい分析法であることが証明されている。BEAMing法は、エマルジョンを一旦破壊しても形成された生成物を区画内に保持するエマルジョンPCRに基づいている。よって、BEAMingにより得られるビーズは、鋳型集団中に存在するポリヌクレオチド多様性を正確に反映し、例えばポリヌクレオチド集団のどの割合が特定の配列変動を含むかを決定するために用いることができる。しかし、最先端のBEAMing法はDNA増幅のために有効であるが、BEAMingの真の能力を活用できる標準化可能なハイスループット技術用にスケールアップするには改修しにくい。例えば、核酸増幅において用いるためのエマルジョンは、有効なエマルジョンを作製するために多量の入力エネルギーが必要であり、よって、各エマルジョン系を作製するために特殊な機械が必要である。
【0017】
本明細書に詳細に記載する方法及び試薬は、核酸増幅のために有効なエマルジョンを作製するために少量の入力エネルギーだけを必要とし、ハイスループットアッセイ系のために改修できる系を提供することにより、従来のエマルジョン増幅技術における制限を克服する。特に、系のエマルジョンエネルギーを低減して、堅固なエマルジョンを作製するためにピペット操作だけを用いることができる、乳化助剤を含む系が同定された。よって、本明細書に記載する方法及び試薬は、移動を必要としない後続のPCR増幅を可能にする油中水型エマルジョンの均質な集団を容易に形成できる。さらに、解乳化のための新しい処方を用いることにより、移動を必要としない効果的なビーズの回収が可能になる。本明細書に示す新しい方法は、よって、BEAMingによる完全にハイスループットで再現性が高い核酸分析のために用いることができる。
【0018】
II.エマルジョン混合物及びエマルジョンの改変
エマルジョン中での核酸増幅のために、エマルジョン反応は、「油中水型」ミックスを激しく振とう又は撹拌して、多数のミクロンサイズの水性区画を作製するために充分な入力エネルギーを印加することにより、典型的に創出される。一実施形態によると、本発明は、エマルジョン混合物のピペット操作により達成できるような低減された入力エネルギーを用いて油中水型エマルジョンを作製する方法を提供する。ピペットチップ及びピペット操作サイクルの反復を用いて、連続油性相中に水性区画を含むエマルジョン(油中水型エマルジョン)を形成する。水性相は、ポリヌクレオチド鋳型、ビーズ、酵素、塩、緩衝剤及び前記鋳型を増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーの1種以上を含む。並行して形成できる別々のエマルジョン集団の数は、マルチウェルプレートを用いることにより増加する。
【0019】
核酸及び/又はビーズを限界希釈により混合して、平均で1つだけの核酸分子及び/又はビーズを含有する区画を作製する(最適希釈にて、多くの区画は空であり得る)。増幅効率を増進するためのいくつかの場合では、上流(低濃度、ビーズ上のプライマー配列とマッチする)及び下流(高濃度)の両方の核酸プライマーを反応ミックスに含める。乳化ステップ中に作製される水性区画のサイズに依存して、1μlあたり3×10
9またはそれより多い個別の増幅反応を、同じチューブ内で同時に行うことができる。本質的に、エマルジョン中の各区画は、マイクロPCRリアクタを形成する。エマルジョン中の区画の平均サイズは、乳化条件に依存して、ミクロン以下の直径から100ミクロン超までの範囲である。例えば、区画は、0.5から50ミクロンの直径を有してよい。さらなる態様では、区画は、平均で1ミクロン以上10ミクロン以下、11ミクロン以上100ミクロン以下、又は約5ミクロンであってよい。好ましい区画サイズは、本実施形態に従って行われるアッセイの厳密な要求に依存して変動する。例えば、区画サイズは、用いるビーズのサイズに依存して調整できる。1μmのビーズの場合、5〜10μmの区画が好ましいことがある。
【0020】
ある態様では、エマルジョンの区画の一部分は、ビーズ(例えばオリゴヌクレオチドと結合したビーズ)を含む。このような区画の全てがビーズを含む必要はない。望ましくは、10,000個の前記水性区画のうち少なくとも1つがビーズを含む。典型的に、前記水性区画の1/100から1/1まで、または1/50から1/1までがビーズを含む。好ましくは、エマルジョンは、区画あたり1つのビーズを含む。特に、ビーズ上での単分子の増幅を可能にするために、各水性区画が1つ以下のビーズを含有するようにビーズの数よりも少ない数のDNA分子を有することが望ましい。
【0021】
本明細書で用いる場合、用語「エマルジョン混合物」は、油性相と水性相との混合物のことを言う。エマルジョン混合物は、分離した相を含むことがあるか、又は乳化されてよい。核酸増幅において用いるため及びBEAMing用のある種のエマルジョン混合物は、以前に記載されている。例示的なエマルジョン混合物は、例えば米国特許出願公開第20120088684号、第20110201526号及び第20100190153号(これらのそれぞれは、本明細書に参照によりその全体が組み込まれている)に示されている。これらの混合物は、DNA増幅のために有効であることが示されているが、効果的な乳化のためにホモジナイザー、コロイドミル又は「膜乳化」デバイス(Becher, 1957; Dickinson, 1994)のような特殊な機械的装置を必要とする。他方、実施形態の油性混合物は、乳化のための活性化エネルギーを低くするさらなる乳化助剤を含む。よって、実施形態のエマルジョン混合物は、より低い活性化エネルギー(乳化のための)を有するが、エマルジョンが一旦形成されると、核酸分離のための堅固で適当なサイズを有する区画を維持する。
【0022】
一般的に、油中水型エマルジョンは、一方の相が他方の相の中に微視的又はコロイドサイズの液滴として分散された、2つの非混和性の液相の不均質な系から形成される(Becher, 1957; Sherman, 1968; Lissant, 1974; Lissant, 1984)。エマルジョンは、非混和性の液体の任意の適切な組み合わせから生成できる。好ましくは、本実施形態のエマルジョンは、微細に分割されたマイクロカプセルの形で存在する相(分散された、内在的な、又は不連続の相)としての生化学的成分を含有する水と、これらのマイクロカプセルが懸濁されるマトリクスとしての疎水性で非混和性の液体(ミネラルオイルのような「油」)とを有する。生化学的成分を含有する水性相全体が、隠された(discreet)マイクロカプセル(内在相)に区画化されるという点で、有利である。疎水性の油性相は、一般的に、生化学的成分を含有せず、よって不活性である。
【0023】
1次エマルジョンは、1種以上の乳化剤(emulsifying agents)を加えることにより安定化してよく、水/油界面として作用して、相の分離を妨げる(又は少なくとも遅らせる)ことができる。油中水型エマルジョンを作製するために多くの油及び多くの乳化剤(emulsifiers)を用いることができる。最近の編纂では16,000を超える化合物が列挙され、これらの多くは乳化剤として用いられている(Ash及びAsh, 1993(本明細書に参照により組み込まれている))。特に適切な油は、ライトホワイトミネラルオイル及び非イオン乳化剤(Schick, 1966)、例えばソルビタンモノオレエート(Span(商標)80; ICI)、オクチルフェノールエトキシレート(Triton(商標) X-100)及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween(商標)80; ICI)を含む。用いることができるその他の乳化剤は、限定することなく、シリコーンベースの乳化剤、例えばBis-PEG/PPG-14/14ジメチコン、シクロペンタシロキサン(ABIL(商標) EM 90)又はABIL(登録商標) WE09を含む。
本実施形態の油中水型エマルジョンは、全般的に、エマルジョン中の区画間で内容物(例えば核酸)の交換があったとしてもほとんどなく、安定である。さらに、生化学的反応は、エマルジョンマイクロカプセル中で進行する。さらに、複雑な生化学的プロセス、特に遺伝子転写及び翻訳も、エマルジョンマイクロカプセル中で活発である。数千リットルの工業的規模までの全ての容量のエマルジョンを創出するための技術が存在する(Becher, 1957; Sherman, 1968; Lissant, 1974; Lissant, 1984)。
【0024】
実施形態のエマルジョン中の水性相は、典型的に、エマルジョンの少なくとも10、15、20、25、35又は35及び40% (v/v)までを占める。したがって、油性相は、典型的に、エマルジョンの少なくとも60、65、70、75、80又は85及び90% (v/v)までを占める。乳化剤(又は乳化剤の混合物)は、両親媒性であるが、油性相の一部とみなす。これは、エマルジョンの形成の際に2相の界面に整列すると考えられる。油性相を形成する炭化水素は、典型的に、油及びワックスであり、それらの粘度により特徴付けることができる。例えば、油性組成物又はエマルジョン混合物は、<5mPa-s (非常に低い粘度);5〜10 mPa-s (低い粘度); 10〜20 mPa-s(中程度の粘度); 20〜50 mPa-s (高い粘度);又は>50 mPa-s (非常に高い粘度)の動的粘度を有することができる(全ての粘度の測定は、室温、25℃アッセイ条件に基づく)。
より低い粘度の油(非常に低い、低い及び/又は中程度と定義される)は、高い粘度の油を用いるよりも作業が容易である。低い粘度の油は、25℃にて10 mPas未満又は5mPas未満の粘度を有することができる。高い粘度の油は、25℃にて10〜30、20〜25又は22〜26 mPasの範囲内であり得る。油性相の大部分は、非常に低い、低い、中程度又はこのような油若しくはワックスの混合物のいずれかであることができる。高い粘度の油に対するより低い粘度の油の割合は、85:10から60:30まで変動できる。油性相の少なくとも60、65、70、75又は80及び85% (v/v)までが、より低い粘度の油であり得る。油性相の少なくとも10、15、17、20又は25及び23、25、27又は30% (v/v)までが、高い粘度の油であり得る。乳化剤は、油性相の少なくとも5、6、7、8又は9%及び10% (v/v)までを占めることができる。
【0025】
いくつかの態様では、実施形態の乳化剤又は乳化助剤は、分子(又は組成物)の親油性と比較した親水性の尺度である親水性-親油性バランス(HLB)値に従って特徴付けてよい。HLB値は、0〜60の範囲であり、水及び油に対する界面活性剤の相対的親和性を定義する。非イオン性分子は、一般的に、0〜20の範囲のHLB値を有し、イオン性分子は、60までのHLB値を有することがある。親水性乳化剤は、約10より大きいHLB値を有し、油よりも水に対する親和性が大きい。親油性乳化剤及び乳化助剤は、ある態様では好ましく、約10未満のHLBを有し、水よりも油に対する親和性が大きい。
【0026】
乳化助剤
ある態様では、実施形態のエマルジョン混合物中で乳化助剤を用いる。乳化助剤は、例えばエマルジョンPCR (emPCR)のために効果的に機能できるエマルジョンを形成するために必要な全入力エネルギーを下げるように機能する。乳化助剤は、混合物中のその他の乳化剤と一緒に作用して、エマルジョン中の水性区画の形成及び安定化を容易にすることができる。いくつかの態様では、実施形態に従って用いるための乳化助剤は、約3から約8の間のHLB値を有する。さらなる態様では、実施形態に従って用いるための乳化助剤は、<10,000 g/molの分子量を有する。実施形態に従って用いるための乳化助剤の例は、制限して、オレイン酸ポリグリセリル-3又はイソステアリン酸ポリグリセリル-4を含む。実施形態の乳化助剤を含む油性混合物の例を、以下の表1に示す。
【0028】
解乳化及びエマルジョン浄化
実施形態のエマルジョンは、当該技術において知られる任意の手段により「破壊」又は崩壊させることができる。エマルジョンを破壊するための特に単純な方法は、洗浄剤を加えることである。用いることができる洗浄剤は、それらに限定されないが、Triton X100、ラウレス4及びノニデット(例えばNP-40)を含む。好ましくは、エマルジョン破壊溶液は、効果的な相分離をもたらすだけでなく、エマルジョンから放出されるビーズの凝集も妨げる。エマルジョン破壊緩衝液は、ピペット操作により容易に除去できない油性相の形成も妨げる。本明細書で例示するように、ある種のアルコールを破壊溶液に加えることにより、ビーズの凝集を最小限に保ち、かつピペット操作を可能にしながらエマルジョン破壊を大きく増進できる。例えば、いくつかの態様では、エマルジョン破壊溶液は、2-ブタノール及び/又は1-プロパノールを含む。実施形態のエマルジョン破壊溶液の処方の例を以下の表2に示す。
【0030】
いくつかの態様では、エマルジョン破壊溶液は、例えばビーズ及び/又は反応容器から残存油を洗うことにより反応をさらに浄化するために用いてもよい。同様に、いくつかの態様では、エマルジョン浄化溶液は、ビーズの洗浄及び/又は核酸変性のために用いることができる。いくつかの態様では、エマルジョン浄化溶液は、2-ブタノール及び/又は1-プロパノールを含む。実施形態のエマルジョン浄化溶液の処方の例を以下の表3に示す。
【0032】
III.核酸増幅及び分析
実施形態による核酸増幅及び分析のための一般的な方法は、例えばDiehlら, 2006及び米国特許出願公開第20100041048号(それぞれは、本明細書に参照により組み込まれている)に示されている。
分析対象DNA (実施形態に従う分析用)の供給源として用いることができる試料は、血液、血漿、血清、尿、便、痰、涙、唾液、洗浄液、骨髄又はその他の体液を含む。固形組織も分析対象DNAを提供できる。試料は、健常と考えられる組織又は疾患組織(例えば腫瘍)からであり得る。試料は、罹患した個体(例えばがん患者)、関係する家族メンバー、妊婦及び新生児から得ることができる。分析対象DNAの供給源は、例えば試験薬剤で処理してよく、分析対象DNAに対する試験薬剤の影響を決定できる。
【0033】
本発明に従う増幅及び分析のための試料DNAは、例えばゲノムDNA、cDNA、ゲノムDNAのPCR生成物又はcDNAのPCR生成物であり得る。試料は、単一の個体、例えば体試料、例えば尿、血液、痰、便、組織又は唾液に由来し得る。試料は、個体の集団に由来することもできる。個体は、ヒトであり得るが、任意の生物、植物又は動物、真核生物又は原核生物、ウイルス又は非ウイルスであり得る。
増幅後、生成物ビーズを分析して、ビーズと結合したDNAの配列の特徴を決定できる。ハイブリダイゼーション、プライマー伸長及びヌクレオチド配列決定を含む、配列の特徴を決定するための任意の方法を用いることができる。いくつかの場合では、生成物ビーズを、フローサイトメトリーにより、すなわち異なる種の核酸分子又は蛍光標識ビーズを分離又は区別するための技術により分析できる。その他の分析手段を、簡便なように用いることができる。
【0034】
本実施形態に従って用いるためのビーズは、直径約0.1から10ミクロンの間で変動できる。典型的に、ビーズは、重合体材料、例えばポリスチレン製であるが、非重合体材料、例えばシリカも用いることができる。用いることができるその他の材料は、スチレン共重合体、メタクリル酸メチル、官能化ポリスチレン、ガラス、ケイ素及びカルボキシレートを含む。場合によって、粒子は、超常磁性であり、これは、反応で用いた後の粒子の精製を容易にする。
ビーズは、全体の表面特性、例えば疎水性若しくは親水性を変更するため、又は結合特異性を付与する分子を結合させるために、その他の材料との共有的又は非共有的相互作用により改変できる。このような分子は、限定することなく、抗体、リガンド、特異的に結合するタンパク質対のメンバー、受容体、核酸又は化学活性基(例えばアルデヒド又はカルボキシ基)を含む。特異的に結合するタンパク質対は、アビジン-ビオチン、ストレプトアビジン-ビオチン及び第VII因子-組織因子を含む。
【0035】
オリゴヌクレオチドプライマーは、ビーズと、当該技術において知られる任意の手段により結合できる。これらは、共有的又は非共有的に結合できる。これらは、中間物を介して、例えばタンパク質-タンパク質相互作用、例えば抗体-抗原相互作用又はビオチン-アビジン相互作用を介して結合できる。当該技術において知られるその他の特異的に結合する対も用いることができる。最適な増幅を達成するために、ビーズに結合するプライマーは、均質液相反応において必要な長さよりも長いことがある。オリゴヌクレオチドプライマーは、少なくとも12、少なくとも15、少なくとも18、少なくとも25、少なくとも35又は少なくとも45ヌクレオチドの長さであってよい。ビーズと結合するオリゴヌクレオチドプライマーの長さは、液相中のプライマーの長さと同じである必要はない。プライマーは、限定することなく、ポリメラーゼ連鎖反応、等温増幅、ローリングサークル増幅、自家持続配列複製(3SR)、核酸配列ベース増幅(NASBA)、転写媒介増幅(TMA)、鎖置換増幅 (SDA)及びリガーゼ連鎖反応(LCR)を含む、当該技術において知られる任意のタイプの増幅反応において用いることができる。
【0036】
本実施形態に従って生成物ビーズとして調製された後(すなわち核酸増幅後)のビーズには、1より多いコピーの同じ核酸分子が結合している。好ましくは、各ビーズは、同じ核酸配列の少なくとも100、500、1000、10,000、20,000又はそれより多い分子と結合している。いくつかの状況では、生成物ビーズのいくつかは、1より多いタイプの核酸分子と結合する。これらの生成物ビーズは、一般的に、遺伝子配列集団中の遺伝子配列の比率の分析において有用性がより低い。
望ましくは、実質的な割合の生成物ビーズが、ビーズあたり1つのタイプだけの核酸を含む。実質的な割合は、例えば、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%又は少なくとも50%であり得る。生成物ビーズのある集団は、2つ以上のタイプの核酸を含むこともできる。このような集団は、核酸に関して不均質である。ビーズあたり1つのタイプだけの核酸を有する生成物ビーズは、均質という。ビーズあたり1つのタイプだけの核酸を有する均質ビーズは、ポリメラーゼ連鎖反応における誤りによる誤りを含む核酸を有するものを含む。ビーズあたり2つのタイプの核酸を有する生成物ビーズは、不均質という。いずれの特定の理論に結び付けられることも望まないが、不均質生成物ビーズは、非同一配列の2つより多い鋳型分子を有する水性区画に起因すると考えられる。生成物ビーズの集団は、集団として不均質であることができるが、均質である個別の生成物ビーズを含有できる。
生成物ビーズの集団は、懸濁液で維持できる。代わりに、これらは沈降及び乾燥できる。後者の選択肢は、貯蔵安定性の点で有利であり得る。
【0037】
生成物ビーズの集団の分析は、多くの種類の遺伝子バリアント間を区別するために有用であり得る。1ヌクレオチド多型(SNP)ほどわずかに異なるポリヌクレオチドを、変異の有無、挿入又は欠失の有無、1ヌクレオチド多型でない多型(non-single nucleotide polymorphism)の有無により区別できる。よって、生成物ビーズの集団は、これらの遺伝子変動に関して不均質であり得る。
遺伝子バリアントを区別する、すなわち分析物の配列の特徴を決定するためのある非常に簡便な方法は、蛍光色素でバリアントを異なるように標識化することによる。このような標識化は、1種のポリヌクレオチドに蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブをハイブリダイゼーションさせることにより達成できる。代わりに、特定の遺伝子バリアントとハイブリダイズする1つのオリゴヌクレオチドプローブと特異的に結合するように蛍光標識抗体を用いることができる。このような抗体結合は、例えば、オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションプローブと結合したタンパク質又はポリペプチドにより媒介できる。もちろん、当該技術において知られるようにポリヌクレオチドを標識化するためのその他の手段を、限定することなく用いることができる。異なるポリヌクレオチド種を標識化するための別の手段は、プライマー伸長による。プライマーを、標識デオキシリボヌクレオチド、例えば蛍光標識デオキシリボヌクレオチドを用いて伸長できる。
【0038】
生成物ビーズの集団を鋳型として用いることができる。生成物ビーズ上の鋳型分析対象分子を分析して、ハイブリダイゼーション、プライマー伸長法、ライゲーション、酵素消化及び当該技術において一般的に用いられるその他の方法によりDNA配列の変動を評価できる。生成物ビーズ上の鋳型分析対象分子は、配列決定のために用いることができる。ある配列決定技術では、相補的オリゴヌクレオチドをスポットしたスライド上に生成物ビーズを置くことにより、生成物ビーズを整列させる。別の配列決定技術では、生成物ビーズを個別のウェル中に入れる。別の配列決定技術では、生成物ビーズをアクリルアミドマトリクスに組み込む(後続のポロニー形成あり又はなしで)。配列決定反応は、任意の方法、例えば未標識ヌクレオチド前駆体を用いるもの(例えばRonaghiら, 1999に記載されるようなパイロシーケンス)又は標識ヌクレオチドを用いるもの(例えばMitraら, 003により記載される光切断可能な試薬)を用いて行うことができる。生成物ビーズは、よって、多重並行配列決定のために用いることができ、該配列決定を容易にすることができる。生成物ビーズは、RS型制限エンドヌクレアーゼを用いる配列決定において用いることもできる。生成物ビーズは、従来のジデオキシヌクレオチド配列決定のための鋳型を提供するために用いることもできる。配列分析により有用なデータを得るために、鋳型について均質である個別の生成物ビーズが望ましい。均質鋳型集団を得るために、生成物ビーズを希釈、分離又は単離して、各配列決定反応が単一の生成物ビーズを含有するようにできる。代わりに、生成物ビーズを選別して、単一種の鋳型を有するビーズの集団を得ることができる。
アレル特異的ハイブリダイゼーション(ASH)によるような生成物ビーズ及び核酸の分析のための詳細な方法は、例えば米国特許出願公開第20100041048号(本明細書に参照により組み込まれている)を参照されたい。
【0039】
ポリメラーゼ連鎖反応を用いて効率的に増幅されるアンプリコンは、任意のサイズであり得る。患者試料(例えば血液又は血清試料)から得られる鋳型の場合、アンプリコンは、好ましくは300 bp以下、又は200 bp以下、又は100 bp以下である。
【0040】
アレル識別反応の特異性及び/又は感度を改善するための場合によって行う別のステップは、ハイブリダイゼーション反応の前に、ビーズと結合した2本鎖核酸2重鎖を変性させることである。例えば、2本鎖を加熱するか又は水酸化ナトリウムで処理できる。2つの鎖を分離した後に、ビーズと結合していない1本鎖をビーズ及びビーズと結合した鎖から分離し、1本鎖を廃棄できる。
望ましいならば、なお別の増幅ステップを、エマルジョンを破壊した後に用いることができる。このステップは、典型的に、ローリングサークル増幅としても知られる等温増幅を用いる。ローリングサークルを生じるために、分子インバージョンプローブ又はパッドロックプローブを用いることができる。プローブは、サークルを生じるための鋳型により駆動されるライゲーション反応の前に埋め合わせ(filling-in)を必要とするか又は必要としないことがある。埋め合わせが必要ならば、埋められる領域は、典型的に、1から30ヌクレオチドまでである。等温反応は、最終的に検出されるシグナルをかなり著しく増幅できる。等温増幅の後に、配列の特徴を、上記のように、1塩基伸長(SBE)又はアレルASH反応を用いて検出できる。代わりに、ビーズ上のアンプリコンのヌクレオチド配列は、合成時配列決定(sequencing-by-synthesis)を含む、当該技術において知られる任意のアレル識別配列決定法により決定できる。
【実施例】
【0041】
IV.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。以下の実施例に開示する技術は、本発明の実施において良好に機能するように本発明者らにより見出された技術を代表し、よって、その実施のための好ましい態様であるとみなすことができることが当業者により認識される。しかし、本開示に鑑みて、当業者は、開示される具体的な実施形態において多くの変更を行って、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく同様又は類似の結果をまだ得ることができることを認識している。
【0042】
実施例1-乳化剤-油性混合物
乳化剤-油性混合物に対する標準的ピペットチップの試験。
ピペット操作サイクルの数及びABIL WE09の濃度を変動させて、一連の試験を行った。エマルジョンPCR及びオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションを行って、このアプローチを機能的に試験した。これらの実験のために、単一チャネルピペット(20〜200μL; Cat# L-200XLS Mettler-Toledo, Rainin)及びGP-L200Fピペットチップ(Rainin/Mettler-Toledo)を用いて、18μLのPCRミックスを62μLの乳化剤-油性混合物 (6.5%、7%、7.5%、8%又は9% (w/v) ABIL WE09、75% (w/v) Tegosoft DEC及び18.5% (w/v) ミネラルオイル)と混合した。混合は、30〜40回50μLの容量を上下させるピペッティングにより行った。PCRサイクルは、実施例3に記載するようにして、PIK3CA Ex9 1634 a>cについて2%の変異頻度を有するBEAMing配列決定タグを有するPCR生成物を用いて行った。エマルジョン破壊は、新しく開発した破壊溶液1及び2(実施例2を参照されたい)を用いて行った。後続のハイブリダイゼーションは、実施例3に記載するようにして行った。
30サイクルは、チューブの底にビーズ沈殿物を一貫してもたらしたが、これは、過剰の大きい水性区画の結果である。40サイクルは、沈殿物を生じなかった。ABIL WE09の濃度は、測定した変異割合に対して影響しなかった(検出された変異割合の平均は、入力の2%と比較して1.5%であった)。よって、標準的なピペットチップを用いて、エマルジョンPCR用途(例えばBEAMing)のためのエマルジョンを作製することができる。
【0043】
より少ないピペット操作サイクル(すなわちより低いエネルギー入力)で、乳化助剤を用いるエマルジョンの作製。
本発明者は、ABIL WE09を含むか又は含まない標準的な乳化剤-油性混合物に一般的に用いられる乳化剤を加えることにより、該乳化剤をスクリーニングした。乳化助剤の選択は、HLB値(3〜8の範囲)及び分子量(<10,000 g/mol)に基づいた。実験的な乳化剤は、以下のようにして調製した。0.18 g エマルゲーター(Emulgator) (Isolan GO33、Isolan GI34、Isolan GPS、Isolan PDI又はTegin OV)、0.35 g ABIL WE09 (ABIL WE09を含まない試料について、ミネラルオイルで置換した)、3.65 mL Tegosoft DEC及び1mLミネラルオイル。アルコールも、乳化助剤として作用する能力について、以下のようにして試験した。0.35 gアルコール(1-オクタノール、1-オクチル-1-ドデカノール、1-ハプトアノール(1-haptoanol)、2-ヘキシル-1-デコナール(deconal)又は1-ノナノール)、0.35 g ABIL WE09、3.65 mL Tegosoft DEC及び1mLミネラルオイル。単一チャネルピペット(20〜200μL; Cat# L-200XLS Mettler-Toledo, Rainin)及びGP-L200Fピペットチップ(Rainin/Mettler-Toledo)を用いて、18μLのPCRミックスと62μLの乳化剤-油性混合物とを混合した。混合は、50μLの容量を20又は40回ピペットで上下させて操作することにより行った。エマルジョンを、倒立顕微鏡の下で評価し、泡安定性を増幅の後に評価し、後続のBEAMingアッセイにおいて機能的試験を行った。PCRサイクルは、実施例3に記載するようにして、PIK3CA Ex9 1634 a>cについて2%の変異頻度を有するBEAMing配列決定タグを有するPCR生成物を用いて行った。エマルジョン破壊は、新しく開発した破壊溶液1及び2(実施例2を参照されたい)を用いて行った。後続のハイブリダイゼーションは、実施例3に記載するようにして行った。
【0044】
アルコール共エマルジョンの結果のデータを表4に示す。顕微鏡評価の結果により、これらの共エマルジョンを用いてさらなるエマルジョンPCR増幅は行わなかった。エマルゲーター共エマルジョンについてのデータを表5に示す。2つの乳化助剤(Isolan GO33及びGI34)は、機能試験において肯定的な結果をもたらした(
図1)。しかし、これらの乳化助剤は、ABIL WE09と組み合わせた場合にのみ安定なエマルジョンを生成した。さらに、20回のピペット操作は、均一な油中水型エマルジョンを生じるために充分であった(
図2)。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
乳化助剤(Isolan GO33及びGI34)-油性混合物の濃度の最適化。
1%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、5%、6%及び7%を含む一連の乳化助剤濃度を試験した。単一チャネルピペット(20〜200μL; Cat# L-200XLS Mettler-Toledo, Rainin)及びGP-L200Fピペットチップ(Rainin/Mettler-Toledo)を用いて、20μLのPCRミックスを60μLの乳化剤-油性混合物と混合した。混合は、60μLの容量を20又は40回ピペットで上下させて操作することにより行った。4%より高い(好ましくは7%)の乳化助剤濃度が、肯定的な目に見える効果を生じた。
【0048】
ピペット操作サイクル数の最適化。
単一チャネルピペット(20〜200μL; Cat# L-200XLS Mettler-Toledo, Rainin)及びGP-L200Fピペットチップ(Rainin/Mettler-Toledo)を用いて、20μLのPCRミックスを、5%の乳化助剤を含む60μLの乳化剤-油性混合物と混合した。混合は、60μLの容量を10、15、20、25、30、35、40又は45回ピペットで上下させて操作することにより行った。少なくとも20回のピペット操作サイクルが、最適な結果のために必要であり、35回より多くではさらなる効果が見られなかった。よって、ピペット操作サイクルの最適範囲は、25〜35であり、好ましい混合サイクル数は、30である。
【0049】
油性相に対する水性相の比率の最適化。
単一チャネルピペット(20〜200μL; Cat# L-200XLS Mettler-Toledo, Rainin)及びGP-L200Fピペットチップ(Rainin/Mettler-Toledo)を用いて、20μLのPCRミックスを、7%の乳化助剤を含む60又は70μLのいずれかの乳化剤-油性混合物と混合した(それぞれ1:4及び1:4.5の比率)。混合は、60μLの容量を20、25、30又は35回ピペットで上下させて操作することにより行った。これらの水性相と油性相との比率はともに良好なエマルジョンをもたらし、好ましい比率は1:4.5であった。
【0050】
混合容量の最適化。
単一チャネルピペット(20〜200μL; Cat# L-200XLS Mettler-Toledo, Rainin)及びGP-L200Fピペットチップ(Rainin/Mettler-Toledo)を用いて、20μLのPCRミックスを、7%の乳化助剤を含む70μLの乳化剤-油性混合物と混合した。混合は、50、60、70、80又は90μLのいずれかの容量を30回ピペットで上下させて操作することにより行った。80μLより多いピペット操作容量では、ピペット中に空気が入りすぎる結果をもたらした。最適な混合容量は、70μLであった。
【0051】
異なるピペットチップ及びピペットタイプの試験。
種々のピペット(表6)及びピペットチップ(
図3)を用いて、20μLのPCRミックスを60μLの乳化剤-油性混合物(表1を参照されたい)と混合した。混合は、70μLの容量を30回ピペットで上下させて操作することにより行った。PCRサイクルは、実施例3に記載するようにして行った。エマルジョン破壊は、新しく開発した破壊溶液1及び2(実施例2を参照されたい)を用いて行った。後続のハイブリダイゼーションは、実施例3に記載するようにして行った。BEAMingフローサイトメトリーデータの比較を表7に示す。ピペットチップの直径の変動は、エマルジョン形成プロセスに影響し、より大きい直径の場合に、さらなるピペット操作サイクルを必要とした。650μmを超える直径について(
図3、P250モデル)、エマルジョン形成は、非常に高いサイクル数でのみ可能であった。より小さい直径(
図3、FXF-20モデル)では、より少ないピペット操作サイクルを必要とした。ピペットチップの形状は、エマルジョン形成プロセスに影響しなかった。電子ピペットは、異なるピペット操作速度設定ができる。速度は、エマルジョン形成プロセスにとって重要であり、各モデルについて検証して、必要であれば調節する必要がある。速度を調節できないならば、ピペット操作サイクル数の変動は、エマルジョンの質の差を打ち消すことができる。しかし、ピペットチップに基づく乳化プロセスは、一般的に利用可能な異なるピペットチップ及びピペットについて機能する。モデル間で異なる可能性がある変数は、チップ開口部のサイズ及び循環速度である。
【0052】
【表6】
【0053】
【表7】
【0054】
実施例2-破壊溶液
本発明者らは、解乳化(すなわちエマルジョン破壊)と、以下の要件、すなわち反応容器(例えばチューブ又は96ウェルプレート)の交換なし、遠心分離なし、減圧の使用なし、生成物ビーズに結合した2本鎖DNAの変性ステップ(すなわち未結合DNA鎖の除去)なし、及び標準的でないピペット操作の使用なしを満たす後続の生成物ビーズ(例えばBEAMingビーズ)の回収との手順を用いた。これらの要件は、破壊プロセスの自動化及び標準化のために重要である。用いたアプローチは、油中水型エマルジョンのエマルジョン破壊及び水性分散相中に存在する成分(例えば生成物ビーズ)の回収を可能にする溶液についてのスクリーニングに基づいた。
【0055】
可能性のある異なるエマルジョン破壊剤と水及び乳化剤-油性混合物(表2を参照されたい)との混合能を試験した。100マイクロリットルの試薬1と100μLの試薬2(表8を参照されたい)とを数回ピペットで上下させて操作することにより混合した。混合物を室温にて1〜2分間インキュベートした。水性相及び油性相の混合挙動を目視で調べた。1-プロパノールは、水及び乳化剤-油性混合物と混ざった。よって、1-プロパノールは、有機相と水性相との間を仲介する第1の候補試薬であった。乳化剤-油性混合物と混ざる(結果:1相)アルコールだけを、エマルジョンを破壊する能力についてその後試験した(例えば1-メチル-1-プロパノール、1-プロパノール、2-ブタノール) (表5)。
【0056】
【表8】
【0057】
異なるアルコールを、エマルジョンを破壊する能力について試験して、単一の均質な相をもたらす能力について評価した。80マイクロリットルのエマルジョンを、5'-2-Bio-TTCCCGCGAAATTAATACGAC (配列番号1)ビーズアダプタ配列で被覆したDynabeads(登録商標) MyOne(商標)ストレプトアビジンC1 (Life Technologies)及び1×PCR緩衝液(67 mM Tris (pH 8.8)、16.6 mM (NH
4)
2SO
4、6.7 mM MgCl
2)を用いて調製し、破壊溶液(表8を参照されたい)と、数回ピペットで上下させて操作することにより混合した。混合物を1〜2分間インキュベートし、解乳化能力及び相の数について目視で調べた(表9;
図4)。2-メチル-1-プロパノール及び2-ブタノールは、強いエマルジョン破壊剤であり、1つの清澄な相をもたらした(すなわち分散相と連続相との分離なし)。純粋アルコール(およそ100%)は、容器の壁上に生成物ビーズの凝集をもたらし、ビーズの凝集のために、ビーズと結合したDNAの変性のための水酸化ナトリウムと混ざることができなかった。よって、破壊溶液は、ビーズ凝集を妨げるとともに水酸化ナトリウムと適合する成分を含有すべきである。
【0058】
【表9】
【0059】
これらの結果に基づいて、エマルジョン破壊剤の最適化を行った。80マイクロリットルのエマルジョンを、5'-2-Bio-TTCCCGCGAAATTAATACGAC (配列番号1)ビーズアダプタ配列で被覆したDynabeads(登録商標) MyOne(商標)ストレプトアビジンC1 (Life Technologies)及び1×PCR緩衝液(67 mM Tris (pH 8.8)、16.6 mM (NH
4)
2SO
4、6.7 mM MgCl
2)を用いて調製し、100μL破壊溶液 (表10を参照されたい)と、約10回ピペットで上下させて操作することにより混合した。混合物を1〜2分間インキュベートし、解乳化能力及び相の数について目視で調べた(表10)。NX-SDS (100 mM NaCl、1% Triton X-100、10 mM Tris HCl (pH 7.5)、1mM EDTA、1% SDS;米国特許出願公開第20100190153号(本明細書に参照により組み込まれている)を参照されたい)の濃度又はアルコールと、(白く)濁った粘性上清又は生成物ビーズの凝集の出現との間に明確な相関はなかった。アルコール1と2との間の比率も、(白く)濁った粘性上清又は生成物ビーズの凝集との明確な相関を示さなかった。アルコールとNX-SDSとの間の比率も、(白く)濁った粘性上清又は生成物ビーズの凝集との明確な相関を示さなかった。2つの溶液、すなわち溶液1(ID4)及び溶液6(ID8)が全体として最良の性能を示した。
【0060】
【表10】
【0061】
同じ手順に従って、破壊溶液比率を、溶液1及び6に基づいてさらに適合させた(表11)。
【0062】
【表11】
【0063】
水酸化ナトリウムを含有する第2のエマルジョン破壊溶液を、エマルジョンの浄化及びビーズと結合したDNAの変性のために開発した。80マイクロリットルのエマルジョンを、5'-2-Bio-TTCCCGCGAAATTAATACGAC (配列番号1)ビーズアダプタ配列で被覆したDynabeads(登録商標) MyOne(商標)ストレプトアビジンC1 (Life Technologies)及び1×PCR緩衝液(67 mM Tris (pH 8.8)、16.6 mM (NH
4)
2SO
4、6.7 mM MgCl
2)を用いて調製し、100μL破壊溶液11 (ID21)と、約10回ピペットで上下させて操作することにより混合した。混合物を磁石上に1〜2分間置き、破壊溶液-エマルジョン混合物を除去した。96ウェルプレートを磁石から取り除いた後に、NaOHを含む100μLエマルジョン破壊剤を加え、ピペット操作により混合した。混合物を、磁石上に1〜2分間置く前後の両方に目視で調べた(表12)。
【0064】
【表12】
【0065】
エマルジョン破壊剤1及び2(表2及び3を参照されたい)を用いる2ステップ破壊プロセスを開発した。エマルジョン破壊剤1は、効率的なエマルジョン破壊を可能にする。生成物ビーズは、エマルジョン破壊剤1を用いる場合に再懸濁できる(すなわちビーズ凝集がない)。エマルジョン破壊剤2(エマルジョン浄化溶液)は、さらなる乳化剤-油残渣を除去し、下流の用途において必要な場合にビーズと結合したDNAを変性させるために用いることができる。エマルジョン破壊剤2は、ビーズを凝集することなく生成物ビーズを変性及び洗浄できる。この手順は、プレート/チューブの交換、磁性分離の後に乳化剤-油性混合物を除去するための減圧マニホルドの使用、及び遠心分離を必要としない。さらに、この手順は、標準的なピペット操作ステップに完全に基づき、自動化液体取り扱いシステムにより行うことができる。
【0066】
実施例3-精度検査
乳化及び乳化破壊プロセス(自動化及び手動)の分析ラン内精度検査の設定を
図8に示す。エマルジョンPCRビーズを調製するために、1ミリリットルのDynabeads MyOne ストレプトアビジンC1 (Life Technologies)を、1.5 mLマイクロ遠心チューブ中でボルテックスすることにより完全に再懸濁した。短い遠心分離の後に、チューブをDynal MPC 磁性粒子濃縮機(Life Technologies)上に1分間置いてビーズを濃縮し、上清をピペットで除去した。ビーズを2回、1000μLの1×結合洗浄緩衝液(200 mM Tris-HCl (pH 8.4)、500 mM KCl)で洗浄し、ボルテックスすることにより再懸濁した。それぞれの洗浄及び短い遠心分離の後に、チューブをDynal磁石上に1分間置いてビーズを濃縮し、上清をピペットで除去した。ビーズを1000μLの1×結合緩衝液(1M NaCl、5mM Tris-HCl (pH 7.5)、0.5 mM EDTA)に再懸濁し、100μLのビオチン化ビーズアダプタプライマー(1×TE緩衝液中に100μΜ; 5'-2-Bio-TTCCCGCGAAATTAATACGAC (配列番号1); IDT)を加え、混合物を直ちにボルテックスした。ビーズ懸濁物を15〜25℃にて15分間インキュベートした。短い遠心分離の後に、チューブをDynal MPC磁性粒子濃縮機上に1分間置いてビーズを濃縮し、上清をピペットで除去した。ビーズを2回、1000μLの1×結合洗浄緩衝液(200 mM Tris-HCl (pH 8.4)、500 mM KCl)で洗浄し、最後に、1000μLの1×結合洗浄緩衝液に再懸濁した。
【0067】
エマルジョンPCRのために、使用前に少なくとも30秒間乳化剤-油性混合物を激しく振とうし、次いで15〜30分間又は泡が消滅するまで静置した。ビーズタグ及び溶液タグを有するDNA鋳型を、TE緩衝液又は水中に35 pg/μLの濃度にて調製した。エマルジョンPCR反応は、96ウェルプレート(Thermo-Fast(登録商標) 96 PCRプレート; Abgene/Thermo Scientific)中で、以下のものを混合することにより調製した:15μLエマルジョン PCRマスターミックス(1.56×PCR緩衝液(10×PCR緩衝液: 670 mM Tris (pH 8.8)、166 mM (NH
4)
2SO
4、67 mM MgCl
2)、7.82 mM MgCl
2、0.78 mM dNTP、78.2 nMビーズタグ5'-TTCCCGCGAAATTAATACGAC (配列番号1)、12.5μΜ溶液タグ5'-gctggagctctgcagcta)、0.8μLエマルジョンPCRビーズ、1μL peqGOLD Taq DNAポリメラーゼ(5U/μL; Peqlab)及び5μL希釈DNA鋳型(ビーズタグ及び溶液タグを有するKRAS野生型及び変異配列で構成されるPCR生成物混合物。5'-KRAS野生型配列:
gctggagctctgcagctaTGACTGAATATAAACTTGTGGTAGTTGGAGCTGGTGGCGTAGG
CAAGAGTGCCTTGACGATACAGCTAATTCAGAATCATTTTGTGGACGAATATGgtc gtattaatttcgcggga (配列番号2)。70マイクロリットルの乳化剤-油性混合物(表1を参照されたい)を、電子マルチチャネルピペットを用いて加え、80μLの容量を30回ピペットで上下させて操作することにより混合した。プレートを、PCR粘着フィルム(Abgene/Thermo Scientific)で密閉し、表13のPCRプログラムに従って運転した。
【0068】
【表13】
【0069】
手動のエマルジョン破壊は、100μL破壊溶液1(表2を参照されたい)を各エマルジョンPCR反応に加えることにより行い、ピペットで10回上下させた。96ウェルプレートを96ウェル磁石(SPRI 96ウェルリングスーパーマグネットプレート; Beckman Coulter)上に1分間置いた後に、上清を完全に廃棄した。プレートを磁石から取り除き、100μL破壊溶液1を各ウェルに加え、ピペットで10回上下させた。96ウェルプレートを96ウェル磁石上に2.5分間置いた後に、上清を完全に廃棄した。プレートを磁石から取り除き、100μL破壊溶液2(表3を参照されたい)を各ウェルに加え、ピペットで10回上下させ、室温にて2分間インキュベートした。96ウェルプレートを96ウェル磁石上に1分間置いた後に、上清を完全に廃棄した。プレートを磁石から取り除き、100μLプローブミックス(3M TMAC、100 mM Tris-HCl (pH 7.5)、4mM EDTA、16.7μΜのユニバーサル[KRAS Ex1、5'-DY510XL-tgacgatacagctaattca]、変異[KRAS Ex1 34G>A、5'-Cy5-ggagctagtggcgt]及び野生型[KRAS Ex1、5'-FAM-aggagctggtggcgta]プローブ)を各ウェルに加え、ピペットで10回上下させた。プレートをPCR粘着フィルムで密閉し、サーマルサイクラー(Sensoquest)に設置し、これをアレル特異的ハイブリダイゼーションのための以下のプログラムに従って運転した:70℃にて30秒、24℃まで0.05℃/秒にて昇温、24℃にて1分。次いで、プレートを磁石上に1分間置き、注意しながら開封した。80マイクロリットルの上清を除去した。プレートを磁石から取り除き、80μLの1×PBS (ダルベッコ)を各ウェルに加え、ピペットで10回上下させた。この洗浄手順をさらに2回反復し、最終的に160μLの1×PBS中に再懸濁した。
【0070】
自動化破壊のための手順は、96ウェルヘッドを有するBiomek NK (Beckman Coulter)上で、FX-250-R及びFX-50-Rロボットチップ(Beckman FX; Axygen)を用いて実行した。
フローサイトメトリーを、製造業者の使用説明に従って準備したAccuri C6フローサイトメータ(Becton Dickinson)を用いて行った。ビーズを96ウェルプレート中に再懸濁し、表14中の条件に従って運転した。FCS expression v3ソフトウェア(DeNovo)を用いて、FCSファイルを分析した。分析は、単一ビーズ集団に対して行った。精度検査の結果を表15に示す。
【0071】
【表14】
【0072】
【表15】
【0073】
記載した乳化及びエマルジョン破壊プロセス(
図6を参照されたい)は、BEAMing手順のために用いることができる。特に、変異は、自動化及び手動のエマルジョン破壊プロセスに基づいてそれぞれ12%及び13%の全体的な標準偏差で定量できる。
【0074】
本明細書に開示し、請求する方法の全ては、本開示に鑑みて過度の実験を行うことなく実行及び履行できる。本発明の組成物及び方法を好ましい実施形態の点で記載したが、本発明の概念、精神及び範囲を逸脱することなく、本明細書に記載する方法及びステップ又は方法の連続するステップを変動してよいことが当業者により認識される。より具体的には、化学的及び生理的に関連するある作用物質で本明細書に記載する作用物質を置き換えて、同じ又は同様の結果を達成できることが認識される。当業者にとって明らかなそのような類似の置換物及び改変の全ては、添付の特許請求の範囲で定義する本発明の精神、範囲及び概念内であるとみなす。
【0075】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に示すものを補充する手順又はその他の詳細の例を示す範囲において、本明細書に参照により具体的に組み込まれている。
【0076】
【表16】
【国際調査報告】