(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-532947(P2015-532947A)
(43)【公表日】2015年11月16日
(54)【発明の名称】銅層を有さない鏡の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20151020BHJP
C23C 22/06 20060101ALI20151020BHJP
C23C 18/44 20060101ALI20151020BHJP
【FI】
C23C28/00 C
C23C22/06
C23C18/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-531515(P2015-531515)
(86)(22)【出願日】2013年9月2日
(85)【翻訳文提出日】2015年2月27日
(86)【国際出願番号】EP2013068054
(87)【国際公開番号】WO2014040870
(87)【国際公開日】20140320
(31)【優先権主張番号】BE2012/0612
(32)【優先日】2012年9月17日
(33)【優先権主張国】BE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ピエテール, ロニー
(72)【発明者】
【氏名】アットゥト, アン
【テーマコード(参考)】
4K022
4K026
4K044
【Fターム(参考)】
4K022AA03
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA01
4K022BA21
4K022BA33
4K022BA36
4K022CA06
4K022CA13
4K022CA18
4K022DA01
4K022EA04
4K026AA01
4K026AA11
4K026BB08
4K026CA13
4K026CA18
4K026DA06
4K026EA06
4K026EB08
4K044AA12
4K044AB10
4K044BA08
4K044BA12
4K044BB03
4K044BB04
4K044BC02
4K044CA15
4K044CA16
4K044CA53
4K044CA64
(57)【要約】
本発明は、ビスマスイオンを含む少なくとも1つの不動態化溶液による銀層の不動態化のステップを含む、銅層を有しない鏡を製造するための方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ:
a)ガラス基材を供給するステップと、
b)前記ガラス基材を銀めっき溶液と接触させて銀層を前記基材上に形成するステップと、
c) i.前記銀層をビスマスイオンを含む少なくとも1つの不動態化溶液と接触させるステップと、
ii.ペイントの少なくとも1つの層を前記銀層に適用するステップと、
iii.任意選択により各ステップの間に洗浄および/または乾燥させるステップとから本質的になる一連のステップを実施するステップとを含むことを特徴とする、銅層を有さない鏡を製造するための方法。
【請求項2】
前記銀層が、ビスマスイオンとスズイオンとを含む単一の不動態化溶液と接触されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記銀層が2つの不動態化溶液と接触され、一方がビスマスイオンを含み、他方がスズイオンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ビスマスイオンを含む前記不動態化溶液が、0.5〜4のpHを有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
銀層をコートされた前記ガラス基材に適用されたビスマスイオンの量が、0.1〜240mg/m2であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
銀層をコートされた前記ガラス基材上に存在しているビスマスイオンの前記量が0.001〜1mg/m2であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
銀層をコートされた前記ガラス基材に適用されたスズイオンの量が、1〜1500mg/m2であることを特徴とする、請求項2〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
銀層をコートされた前記ガラス基材上に存在しているスズイオンの前記量が0.2〜10mg/m2であることを特徴とする、請求項2〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ビスマスイオンを含む前記不動態化溶液が塩化ビスマスの水溶液であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
スズイオンを含む前記不動態化溶液が塩化スズの水溶液であることを特徴とする、請求項2〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップb)の前に、増感ステップおよび活性化ステップが実施されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記活性化ステップが、前記基材の表面をBi、Cr、Au、In、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru、Ti、VおよびZnから選択される少なくとも1つのイオンを含む溶液と接触させるステップを含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つのペイントを適用する前記ステップの前に洗浄ステップと、その後にシランを含む溶液による処理とが実施されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
銅層を有さない鏡を製造するための方法の間にガラス基材に適用された銀層を不動態化するためのビスマスイオンの使用。
【請求項15】
前記ビスマスイオンがスズイオンと組み合わせて使用されることを特徴とする、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡およびかかる鏡を製造するための方法に関する。
【0002】
本発明による鏡は、例えば、とりわけ家具、衣装戸棚またはバスルームにおいて使用される家庭用鏡、化粧箱または化粧用コンパクトのための鏡、例えば車のバックミラーなどの自動車産業において使用される鏡などの様々な用途を有する場合がある。本発明はまた、太陽エネルギー反射体として使用される鏡に有利である場合がある。
【背景技術】
【0003】
家庭用鏡およびソーラー用途のための鏡は一般に、このように製造された。最初に1枚の平板ガラス(ソーダ石灰フロートガラス)が磨かれて洗浄され、次に塩化スズ溶液を使用して増感される。洗浄後に、ガラスの表面は、アンモニア性硝酸銀液による処理によって慣例的に活性化され、次に銀めっき溶液が適用されて銀層を形成し、次いでこの銀層は保護銅層で覆われる。乾燥後に、最終的な鏡を製造するために鉛含有ペイントの1つまたは複数の層が堆積される。銅層の目的は銀層の変色を遅らせることであり、銅層自体は、ペイントの層によって摩耗および腐蝕から保護される。異なったペイント塗料を使用して鏡を保護してもよい。しかしながら、銅層の腐蝕に対して最良の保護を与えるペイント塗料は、鉛を含有する。残念なことに、この鉛は毒性であり、健康維持および環境保護の理由からその使用はいっそう控えるようになっている。
【0004】
Glaverbelは特に、慣例的に使用される銅層を有さない鏡を開発したが、それは、鏡の性質および許容範囲のまたはさらに改良された耐蝕性および耐老化性を維持したまま本質的に鉛を含有しないペイントの使用を可能にする。例えば、米国特許第6565217号明細書には、ガラス基材と、ガラス基材の表面上に堆積される、スズとパラジウム、ビスマス、クロム、金、インジウム、ニッケル、白金、ロジウム、ルテニウム、チタン、バナジウムおよび亜鉛の群から選択される少なくとも1つの材料と、基材の前記表面上の銀コーティング層と、ペイントの少なくとも1つの層に隣接している銀コーティング層の表面上のスズ、クロム、バナジウム、チタン、鉄、インジウム、銅およびアルミニウムの群から選択される少なくとも1つの材料と、銀コーティング層を覆うペイントの少なくとも1つの層とを順に含む、銅層を有さない鏡が記載されている。
【0005】
それに関する限り欧州特許第1113886B号明細書には、銀層をカチオンを含有する第1の溶液およびアニオンまたはヒドロキシルイオンを含有する第2の溶液と接触させ、2つの溶液が一緒に反応して、沈殿物を銀層の表面上に形成することによって鏡の銀層を腐蝕に対して保護するための方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの目的は特に、鏡を腐蝕および老化に対して保護するための簡単かつ有効な方法を提供することである。
【0007】
その実施形態の少なくとも1つにおいて、本発明の別の目的は、良い機械的強度を保持する鏡を提供するためにこのようなプロセスを実施することである。
【0008】
その実施形態の少なくとも1つにおいて、本発明のさらなる目的は、腐蝕に対して鏡を保護するための、環境に優しい簡単かつ有効な方法を提供することである。
【0009】
その実施形態の少なくとも1つにおいて、本発明のさらなる目的は、銅層を有しない鏡を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、前記層を鉛含有ペイントでコートするのを避けることができる、腐蝕に対して鏡を保護するための簡単かつ有効な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下のステップ:
a)ガラス基材を供給するステップと、
b)ガラス基材を銀めっき溶液と接触させて銀層を基材上に形成するステップと、
c) i.銀層をビスマスイオンを含む少なくとも1つの不動態化溶液と接触させるステップと、
ii.ペイントの少なくとも1つの層を銀層に適用するステップと、
iii.任意選択により各ステップの間に洗浄および/または乾燥させるステップとから本質的になる一連のステップを実施するステップとを含む、銅層を有さない鏡を製造するための方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、本発明によって得られた鏡が、銀層をビスマスイオンまたは塩で処理することによって腐蝕および老化に対して保護されることを示した。この効果は、おそらく、銀層の表面においてのビスマス原子の集団の存在による。
【0013】
本発明の特定の一実施形態に従い、銀層が、ビスマスイオンとスズイオンとを含む単一の不動態化溶液と接触される。これは、単一溶液で処理する必要があるだけであり、1つしか処理設備は必要とされず、したがって製造および維持費を低減するので、実用的かつ経済的であるという利点を有する。
【0014】
先行の実施形態の代わりの、本発明の別の特定の実施形態に従い、銀層が2つの不動態化溶液と接触され、一方がビスマスイオンを含み、他方がスズイオンを含む。この特定の実施形態において、銀層は、所望により、最初にスズイオンを含有する溶液で処理され、次いでビスマスイオンを含む溶液で処理されるか、または最初にビスマスイオンを含有する溶液で処理され、次いでスズイオンを含む溶液で処理される。両方の場合において、洗浄ステップは、ビスマスイオンを含有する溶液による処理とスズイオンを含む溶液による処理との間に実施されてもよい。また、銀層は、両方の不動態化溶液で同時に処理されてもよい。
【0015】
具体的には、本発明者は、ビスマスイオンによる不動態化とスズイオンによる不動態化との組合せが、慣例的に製造された鏡に対してこのように製造された鏡の腐蝕および老化に対する保護を増大させることを観察した。この効果はおそらく、銀層の表面においてのビスマスおよびスズ原子の集団の存在による。
【0016】
本発明者は、ビスマスまたはスズ原子は島の形態で銀層の表面に存在しており、すなわちそれらは銀層の表面に別個の連続層を形成しないことを観察した。それらの存在は例えばXPSによって検出されてもよい。
【0017】
好ましくは、スズ含有不動態化溶液は新鮮である。スズ塩の溶液が製造されるとき、特定の時間の後、例えば室温において48時間後、特定の反応が溶液中に生じる場合があり、溶液をわずかに乳白色にするのが観察される。
【0018】
本発明の好ましい一実施形態において、不動態化溶液は、ビスマスイオン供給源として、ビスマス(III)塩水溶液および特にBiCl
3酸性水溶液を含んでもよい。したがって、Bi(NO
3)
3、Bi(C
6H
5O
7)または好ましくはBiCl
3の溶液などのビスマス塩の溶液が非常に簡単にかつ経済的に使用される場合がある。銀層をコートされたガラス基材1平方メートル当たり0.1〜240mgの、溶液中のビスマス(III)塩またはイオンの量を適用(噴霧)するようにこのような溶液を使用してもよい。好ましくは、0.1〜155mg/m
2の量およびより好ましくはさらに1〜120mg/m
2の量が銀層をコートされたガラス基材に適用される。したがって、銀層をコートされたガラス基材1平方メートル当たり0.001〜0.2mgのBi、好ましくは0.001〜0.1mgのBiの量が、銀めっきされたガラス基材を有効に不動態化するために全く十分である場合がある。
【0019】
好ましくは、ビスマスイオンを含む不動態化溶液のpHは0.5〜4.0、好ましくは1.0〜3.0である。0.5未満のpHにおいて、銀層は不可逆的な酸の攻撃を受ける場合があり、4.0を超えるpHにおいて、溶液中のビスマス(III)塩またはイオンの量は十分でない場合があり、そのときビスマスは、不動態化溶液中に好ましくは沈殿物の形態で見出される。したがって、この好ましいpH範囲は、銀層を不動態化するステップのための活性および有効な溶液を形成することを可能にする。
【0020】
さらに、スズ(II)塩またはイオンを含有する不動態化溶液もまた、非常に簡単にかつ経済的に使用される場合がある。銀層をコートされたガラス基材1平方メートル当たり溶液中わずか1mgの量のスズの適用(噴霧)が、保護をもたらすために全く十分であり、1500mg/m
2を超える量の適用は耐蝕性の相応する増加をもたらさないと考えられる。つまり、多めの量の使用は、銀層と後で適用されるペイントとの間の接着性を低下させることによる有害な作用を有する場合がある。最良の結果は、銀層をコートされたガラス基材1平方メートル当たり溶液中のスズ(II)塩またはイオンの量0.2mg〜10mgが、コートされた基材に適用される時に得られる。好ましくは、スズイオンを含有する不動態化溶液は、塩化スズ(SnCl
2)または硫酸スズ(SnSO
4)の溶液である。より好ましくは、スズイオンを含有する不動態化溶液は、SnCl
2の溶液である。
【0021】
好ましくは、スズイオンを含む不動態化溶液のpHは0.5〜4.0、好ましくは1.0〜3.0である。
【0022】
銀層がビスマスイオンとスズイオンとを含む単一の不動態化溶液で処理される場合、これらのイオンの濃度は好ましくはそれぞれ、上に記載された濃度と同じである。好ましくは、前記溶液のpHは、0.5〜4.0、好ましくは1.0〜3.0である。
【0023】
本発明の他の実施形態において、1つまたは複数の他の化合物が、ガラス基材の表面上に堆積された銀層上にビスマスイオンと組合せてまたはビスマスイオンとスズイオンと組合せて不動態化ステップの間に堆積されてもよい。このような化合物は、クロム、バナジウム、チタン、鉄、インジウム、銅、アルミニウム、パラジウム、ニッケル、ユウロピウム、白金、ルテニウム、ナトリウム、ジルコニウム、イットリウム、ロジウム、亜鉛およびセリウムからなる群から選択されてもよい。
【0024】
本発明による鏡は好ましくは、米国特許第6565217号明細書に記載されているような鏡の耐老化性および耐蝕性と好ましくは少なくとも同等である良い耐老化性および耐蝕性を有する。さらに、このような鏡は、鏡内に広がっている腐蝕箇所を生じ得る要因がそれほど出現しない場合があり、および/またはそれらのリスクが低めでありおよび/またはそれらにそれほど影響されやすくない場合がある。
【0025】
本発明によって製造される鏡内の銀層は、鏡を製造するための従来の方法における場合のように、銅層でコートされない。これは、従来の銅めっきステップを省き、それは材料および銅の製造ならびに再処理時間の無駄をなくすので、経済的かつ環境上の観点から利点がある。銀層を本発明による処理溶液と接触させ、その後に、ペイントを適用することによって、鉛系顔料を含有するペイントによって囲まれる従来の銅層と同様、腐蝕および摩耗に対して銀層を保護することができることは、非常に驚くべきことである。
【0026】
本発明によって、銀層をペイントの少なくとも1つの保護層で覆い、このように裏側銀めっきした鏡を形成する。このように、鏡は、本発明による処理とペイントの層によって腐蝕および摩耗に対して保護される。有利には、ペイントのこのような層は、銀層がシランを使用して処理された後に銀層上に堆積される。銀層をシランと接触させてから、塗装により処理済み金属被膜に対するペイントの接着性を助長してもよく、それは鏡の耐摩耗性および耐蝕性に寄与する場合がある。好ましくは、環境上の理由のために、前記ペイントは「鉛を実質的に含有しない」または「鉛を含有しない」。慣例的に、鏡の銀層は銅層によって保護される。そのとき、銅層は、鉛含有ペイントの層によって摩耗および腐蝕から保護された。ペイントのこのような層中の鉛の比率は、約13000mg/m
2の含有量に達する場合がある。本発明による鏡は、銅層を必要としなくなるだけでなく、それらは「鉛を実質的に含有しない」または「鉛を含有しない」ペイントの使用をも可能にする。鉛は毒性でありそれを用いずに済ますことは環境上の利点があるので、これは有利である。「鉛を実質的に含有しない」という表現は、ペイント中の鉛の比率が、鏡に慣例的に使用される鉛ペイントに従来より含有される鉛の比率よりもかなり低いことを意味する。定義された「鉛を実質的に含有しない」ペイントの層中の鉛の比率は500mg/m
2未満、好ましくは400mg/m
2未満、より好ましくは300mg/m
2未満である。「鉛を含有しない」という表現は、ペイント中の鉛の比率が10mg/m
2未満、好ましくは5mg/m
2未満であることを意味する。本発明は、米国特許第6565217号明細書に記載された鏡の耐老化性および耐蝕性と好ましくは少なくとも同等である、良い耐老化性および耐蝕性を保証したまま、「鉛を含有しない」ペイントを使用することができるという利点を提供する。また、それは米国特許第6565217号明細書に記載された鏡の耐老化性および耐蝕性と好ましくは少なくとも同等である、良い耐老化性および耐蝕性をなお有する低減された厚さの「鉛を実質的に含有しない」ペイントを使用するという利点を提供する。
【0027】
また、不動態化溶液は、溶液中のイオン、特に、スズ(II)イオンの安定性を増加させる効果を有する、β−ナフトールなどの添加剤を含有してもよい。
【0028】
本発明による処理の有効性は、好ましいので処理溶液が4以下であるpHを有する時に促進されることを本発明者は見出した。処理溶液の酸性化は、ビスマス塩に相応する酸を、ビスマス塩を含む溶液またはビスマス塩とスズ塩との混合物を含む溶液に添加することによって適切な方法で得られる。
【0029】
有利には、上に銀層が堆積されなければならないガラス基材の表面上に1つまたは複数の化合物が活性化ステップの間に堆積されてもよい。これは、鏡の耐蝕性に寄与する場合がある。このような化合物は、パラジウム、ビスマス、クロム、金、インジウム、ニッケル、白金、ロジウム、ルテニウム、チタン、バナジウムおよび亜鉛からなる群から選択されてもよい。パラジウムが好ましい。
【0030】
増感ステップの間に、スズは好ましくは、上に銀層が堆積されなければならないガラス基材の表面に堆積される。これは、ガラス基材に増感性を与える場合があり、銀層の接着性を促進する場合がある。
【0031】
好ましくは、活性化および/または増感ステップの間にガラス基材の表面に堆積される化合物は島の形態で堆積され、すなわちそれらは例えば、パラジウムの別個の連続層を形成しないが、化合物はガラスの表面に島の形態で存在している。
【0032】
本発明の特定の態様による鏡を製造するための方法において、増感および活性化ステップが、鏡の耐老化性および/または耐蝕性および/またはそれらの耐久性に寄与する場合がある。本発明の特定の一実施形態によって、活性化ステップは増感ステップの前に実施されるか、または活性化および増感ステップは、同時に実施される。好ましくは、増感ステップは活性化ステップの前に実施され、活性化ステップは銀めっきステップの前に実施される。
【0033】
好ましくは、連続的な(増感、活性化、銀めっき、不動態化、シラン)製造ステップの間にガラス基材と接触される溶液はガラス基材上に噴霧され、任意選択により洗浄および/または乾燥ステップが実施される。
【0034】
例えば、平面鏡の工業的な製造の間、ガラス板は、増感溶液、活性化溶液および銀めっき反応体がそこで噴霧される連続設備を通過する。実際、鏡製造ラインで、ガラス板は一般に、1つの設備から別の設備へコンベヤーに沿って通過する。それらは最初に、例えばガラス上に噴霧される塩化スズの溶液を使用して増感される前に磨かれて洗浄される。次に、それらは再び洗浄される。次に、活性化溶液をガラス板上に噴霧し、この活性化溶液は、例えば、PdCl
2の酸性水溶液であってもよい。次に、ガラス板が洗浄設備に進み、そこで脱イオン水が噴霧され、その後、銀めっき設備に進み、そこで従来の銀めっき溶液が噴霧されるが、銀めっき溶液は、ガラスへのその適用の直前に2つの溶液を組み合わせたものであり、一方の溶液は、銀塩および還元剤または塩基を含み、他方の溶液は、銀塩を含有する溶液には存在していない任意の還元剤または塩基を含む。ガラス上に噴霧される銀めっき溶液の流量および濃度は、650〜1500mg/m
2の銀、好ましくは700〜1200mg/m
2の範囲の銀、そしてより好ましくは700〜1000mg/m
2の範囲の銀を含有する銀層を形成するように制御される。次に、ガラスが洗浄され、銀層の洗浄直後に、例えば塩化スズ(SnCl
2)から新たに形成された第1の酸性にされた不動態化溶液が、銀めっきされたガラス板がコンベヤーに沿って進む間にそれらの上に噴霧される。脱イオン水で洗浄後に、次いで第2の不動態化溶液が銀層上に噴霧されるが、本発明によるこの不動態化溶液は、例えば塩化ビスマス(BiCl
3)から形成された、ビスマスイオンを含有する酸性水溶液である。好ましくは、次に、不動態化された銀層は、シランを含有する溶液で処理され、この特定の場合において銀層は、不動態化ステップとシランによる処理との間に必ず洗浄される。シランを含有する溶液で処理し、洗浄および乾燥した後、鏡は、ペイントの少なくとも1つの層で覆われる。次に、ペイントは、例えば炉内で加熱(架橋)または乾燥される。
【0035】
したがって、本発明による鏡は好ましくは、許容範囲のまたはさらに改良された耐老化性および/または耐腐蝕性を有する。これは、特にCASS試験および/または中性塩噴霧試験とも称される、塩噴霧試験によって定められる。
【0036】
銀層を導入する鏡の耐老化性の1つの目安は、CASS試験の名称で知られる、銅塩と酢酸の噴霧を含む試験にそれを供することによって与えられてもよく、そこで鏡は50℃の試験室内に置かれ、噴霧される溶液のpHを3.0〜3.1の値にするために十分な氷酢酸と共に塩化ナトリウム50g/l、無水塩化第一銅0.2g/lを含有する水溶液を噴霧することによって形成される霧の作用下に置かれる。この試験に関する完全な詳細は、国際標準ISO9227に与えられている。鏡は、様々な時間にわたってCASS試験に供されてもよく、次いで、人工的に老化された鏡の反射性質が、形成されたばかりの鏡の反射性質と比較されてもよい。EN1036−1標準に従い、120時間の暴露時間によって鏡の耐老化性に関する目安を得ることができる。CASS試験は10cmの辺を有する四角形の鏡で実施され、酢酸と銅塩の霧に120時間暴露した後、各々の鏡を顕微鏡検査に供する。腐蝕の主な可視的な証拠は、銀層の暗色化および鏡の端縁のペイントの剥離である。腐蝕のレベルは、四角形の2つの対向する端縁上の5つの規則的に離隔された点において示され、これらの10回の測定の平均が計算される。また、それ自体もμm単位で測定される結果を得るように四角形の端縁に存在している最大の腐蝕を測定することも可能である。
【0037】
金属フィルムを導入する鏡の耐老化性の第2の目安は、「塩噴霧試験」にそれを供することによって与えられてもよく、それは、塩化ナトリウム50g/lを含有する水溶液を噴霧することによって形成される塩を含む霧の作用に35℃に維持されたチャンバ内で鏡を供することを本質とする。EN1036−1標準に従い、塩噴霧試験に対する480時間の暴露時間により、鏡の耐老化性に関する目安を得ることができる。また、鏡は顕微鏡検査に供され、CASS試験の場合と同じ方法で、μm単位の結果を得るために四角形の端縁に存在している腐蝕が測定される。
【0038】
また、本発明は、銅層を有さない鏡を製造するための方法の間にガラス基材に適用された銀層を不動態化するためのビスマスイオンの使用にも及んでいる。この使用によって、ビスマスイオンは、BiCl
3の水溶液から生じる。本発明の1つの特定使用によって、ビスマスイオンはスズイオンと組み合わせて使用される。
【0039】
この使用による利点は、本発明によって鏡を製造するための方法に関して得られる利点と同じであり、それらは、より完全に記載されない。
【0040】
本発明の好ましい実施形態は、単に例としてここに記載される。
【実施例】
【0041】
本発明による実施例1および比較例1
本発明による鏡は、従来の鏡製造ラインで製造される。そのとき、ガラス板は、コンベヤーの補助により1つの処理設備から別の処理設備に移動する。慣用の方法において、ガラス板が磨かれ、塩化第一スズ(SnCl
2)の溶液を使用して増感される。洗浄後に、次いでガラス板は塩化パラジウム(PdCl
2)の溶液を使用して活性化される。次に、ガラス板は脱イオン水の気化によって洗浄される。次に、銀塩と還元剤とを含有する従来の銀めっき溶液がガラス板上に噴霧され、噴霧流量は、約750〜850mg/m
2の銀を含有する層が各々のシート上に形成されるような流量である。次に、銀めっきされたガラスを洗浄する。酸性にされた不動態化水溶液をガラス板の上で気化させてその上に106mg/m
2のSnCl
2を噴霧し、0.8mgのSnCl
2/m
2が銀層でコートされたガラス基材上に堆積されるようにする。使用される塩化第一スズの溶液が新たに調製される。噴霧される溶液のpHは約2.5である。このような処理の後、ガラスを洗浄し、BiCl
3を含有する酸性にされた不動態化水溶液で処理して232mg/m
2のBiCl
3をガラス板上に噴霧して、0.08mg/m
2の量のBiが銀層でコートされたガラス基材上に堆積されるようにする。噴霧される溶液のpHは約1.5である。次に、ガラスを洗浄し、乾燥させ、鉛を実質的に含有しないペイントの2つの層で覆う。このように、LLEペイント(Fenziによって販売されている)の第1の層とAWペイント(Fenziによって販売されている)の第2の層とが堆積され、2つの層は各々、約25μmの厚さを有する。
【0042】
比較例は、ビスマスイオン(BiCl
3)を含む不動態化溶液を噴霧するステップが実施されないことを除いて、上に記載されたように製造される。比較例1は、先行技術の銅を含有しない鏡に相当する。
【0043】
この方法で製造された鏡は促進老化試験、CASS試験に供される。実施例1および比較例1の鏡の試験の結果は表1に記載される。表1が示すように、本発明によって得られた鏡は、比較例1について得られたCASS試験値よりも低いCASS試験値を有する。したがって、ビスマスイオンを含む溶液による銀層の不動態化は、先行技術の鏡に対して耐蝕性を改良する。
【0044】
【表1】
【0045】
本発明による実施例2
実施例2による鏡は、銀層を不動態化するステップを除いて、実施例1に記載された方法と同じ方法で製造される。具体的には、銀層は、ビスマスイオンとスズイオンとを含む単一の不動態化溶液で処理される。このように、約2.5のpHの酸性にされた不動態化水溶液をガラス板の上で気化させてガラス板上に103mg/m
2のBiCl
3および106mg
/m
2のSnCl
2を噴霧し、0.01mg/m
2の量のBiおよび1mg/m
2の量のSnが銀層でコートされたガラス基材上に堆積されるようにする。次に、ガラスを洗浄し、乾燥させ、鉛を実質的に含有しないペイントの2つの層で覆う。このように、LLEペイント(Fenziによって販売されている)の第1の層とAWペイント(Fenziによって販売されている)の第2の層とが堆積され、2つの層は各々、約25μmの厚さを有する。
【0046】
この方法で製造された鏡は促進老化試験、CASS試験に供される。実施例2および比較例1の鏡の試験の結果は、表2に記載される。表2が示すように、本発明によって得られた鏡は、比較例1について得られたCASS試験値よりも低いCASS試験値を有する。したがって、ビスマスイオンとスズイオンとの両方を含む溶液による銀層の不動態化もまた、先行技術の鏡に対して耐蝕性を改良する。
【0047】
【表2】
【0048】
本発明による実施例3〜5および比較例2
実施例3〜5による鏡は、銀層を不動態化するステップおよび銀層を覆うために使用されるペイントのタイプを除いて、実施例1および2に記載された方法と同じ方法で製造される。
【0049】
本発明による実施例3:銀層で覆われたガラス板を最初に、塩化第一スズを含有する酸性にされた不動態化水溶液で処理する。したがって、不動態化水溶液をガラス板の上で気化させてその上に106mg/m
2のSnCl
2を噴霧する。使用される塩化第一スズの溶液が新たに調製される。噴霧される溶液のpHは約2.5である。このような処理の後、ガラスを洗浄し、BiCl
3を含有する酸性にされた不動態化水溶液で処理して、68mg/m
2のBiCl
3を噴霧する。噴霧される溶液のpHは約3である。次に、ガラスを洗浄し、乾燥させ、約47μmの厚さを有する鉛を含有しないペイントの層で覆う。
【0050】
比較例2:ビスマスイオンを含む不動態化溶液(BiCl
3)を噴霧するステップが省かれることを除いて、鏡は上に記載されたように製造された。比較例2は先行技術の銅を含有しない鏡に相当する。
【0051】
本発明による実施例4:銀層で覆われたガラス板を最初に、塩化第一スズを含有する酸性にされた不動態化水溶液で処理する。したがって、不動態化水溶液をガラス板の上で気化させてその上に106mg/m
2のSnCl
2を噴霧する。使用される塩化第一スズの溶液が新たに調製される。噴霧される溶液のpHは約2.5である。このような処理の後、ガラスを洗浄し、BiCl
3を含有する酸性にされた不動態化水溶液で処理して、108mg/m
2のBiCl
3を銀層上に噴霧する。噴霧される溶液のpHは約2である。
【0052】
本発明による実施例5は、ビスマスイオンとスズイオンとを含む単一の不動態化溶液を銀層上に噴霧することによって製造される。このように、塩化第一スズ(SnCl
2)と塩化ビスマス(BiCl
3)とを含有する、約2.5のpHの酸性にされた不動態化水溶液をガラス板の上で気化させてその上に68mg/m
2のSnCl
2および68
mg/m
2のBiCl
3を噴霧する。次に、ガラスを洗浄し、乾燥させ、約47μmの厚さを有する鉛を含有しないペイントの層で覆う。
【0053】
この方法で製造された鏡は促進老化試験、CASS試験に供される。実施例3〜5および比較例2の鏡の試験の結果は、表3に記載される。表3が示すように、本発明によって得られた鏡は、比較例2について得られたCASS試験値よりも低いCASS試験値を有する。したがって、ビスマスイオンとスズイオンとの両方を含む溶液による銀層の不動態化は、先行技術の鏡に対して耐蝕性を改良する。さらに、驚くべきことに、銀層の表面においてのビスマスイオンの存在の効果は、鉛を含有しないペイントを使用して銀層を腐蝕および老化に対して保護する時にいっそうより大きいことを本発明者は示した。また、表3は、ビスマスイオンを含む1つの不動態化溶液とスズイオンを含む第2の不動態化溶液あるいはビスマスイオンとスズイオンとを含む単一の不動態化溶液による銀層の処理は、このように製造された鏡の耐蝕性および耐老化性をかなり改良することを示す。
【0054】
【表3】
【国際調査報告】