(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-533775(P2015-533775A)
(43)【公表日】2015年11月26日
(54)【発明の名称】次亜塩素酸ナトリウム組成物並びに次亜塩素酸ナトリウムの貯蔵及び輸送方法
(51)【国際特許分類】
C01B 11/06 20060101AFI20151030BHJP
【FI】
C01B11/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-539948(P2015-539948)
(86)(22)【出願日】2013年10月30日
(85)【翻訳文提出日】2015年6月10日
(86)【国際出願番号】US2013067571
(87)【国際公開番号】WO2014070928
(87)【国際公開日】20140508
(31)【優先権主張番号】61/720,464
(32)【優先日】2012年10月31日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】506071210
【氏名又は名称】オリン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コールフィールド、デイヴィッド、ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】モリス、ランドール、テイラー
(72)【発明者】
【氏名】ネス、リチャード、カール
(72)【発明者】
【氏名】スコット、レナード、エル.
(72)【発明者】
【氏名】ムーア、サンダース、ハリソン
(72)【発明者】
【氏名】アスル、アワリ、プリイェ
(57)【要約】
次亜塩素酸ナトリウムで飽和した母液中に次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶のスラリーの形態で、約25重量%と約40重量%の間の次亜塩素酸ナトリウムを含む、次亜塩素酸ナトリウム組成物。前記組成物は、塩化ナトリウム、並びに水酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ安定剤を含むことができる。前記スラリーは、好ましくは約−15℃と約10℃の間である。また、次亜塩素酸ナトリウムが、次亜塩素酸ナトリウムで飽和した母液中に次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶のスラリーの形態で存在する、次亜塩素酸ナトリウムの輸送又は貯蔵方法をも提供する。前記組成物は塩化ナトリウム、並びに水酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ安定剤を含むことができる。前記スラリーは、好ましくは約−15℃と約10℃の間である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶と次亜塩素酸ナトリウムで飽和した母液とを含む、次亜塩素酸ナトリウム組成物。
【請求項2】
前記組成物が、約25重量%と約40重量%の間で次亜塩素酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
約1重量%と約10重量%の間の量で塩化ナトリウムを更に含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
約1重量%と約10重量%の間の量で塩化ナトリウムを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物を安定化するアルカリを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物を安定化するアルカリを更に含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物を安定化するアルカリを更に含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
前記アルカリが、水酸化ナトリウム及び炭酸ナトリウムのうちの少なくとも1つである、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
前記アルカリが、前記組成物の約0.01重量%と約3重量%の間である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶のサイズ(最長寸法)が約1mm未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶のサイズ(最長寸法)が約0.5mm未満である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶のサイズ(最長寸法)が約0.1mm未満である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶のサイズが適切な粘度を維持するために十分小さい、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶のサイズが適切な粘度を維持するために十分小さい、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶の平均長さ対直径比が、約20:1未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶の平均長さ対直径比が、約6:1未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、約−15℃と約10℃の間の温度である、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が、約−10℃と約+5℃の間の温度である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
次亜塩素酸ナトリウムの輸送方法であって、
次亜塩素酸ナトリウムを、次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶と次亜塩素酸ナトリウムで飽和した母液とを含むスラリーとして輸送する工程を含む、上記方法。
【請求項20】
前記組成物が、約−15℃と約10℃の間の温度である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が、約−10℃と約+5℃の間の温度である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物が、約1重量%と約10重量%の間の量で、塩化ナトリウムを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物を安定化するアルカリを更に含む、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2012年10月31日出願の米国仮特許出願第61/720,464号の優先権を主張する。前記参照出願の全開示内容を本明細書に取り込む。
【0002】
本開示内容は、次亜塩素酸ナトリウム組成物並びに次亜塩素酸ナトリウムの貯蔵及び輸送方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本項で提供する背景技術情報は、本開示内容に関連するものであるが、必ずしも先行技術を構成するものではない。
【0004】
次亜塩素酸ナトリウムには多くの用途があり、一般に、工業、実用及び住宅の用途において漂白剤として知られている。多くの大規模用途において、次亜塩素酸ナトリウムは、伝統的に、塩素、アルカリ及び水を組み合わせることにより現場で(オンサイトで)製造されてきた。塩素は、運搬可能なボンベ内又は鉄道車両内において、液化塩素ガスとして従来から提供されている。しかし、液化塩素の取り扱い、輸送、及び貯蔵には、一定の危険が伴い費用もかかる。液化塩素を取り扱う代わりに、電気分解により塩素又は次亜塩素酸ナトリウムを製造する方法がある。直接電解が、非分割電気化学セル中で、塩化ナトリウム含有ブラインを次亜塩素酸ナトリウム含有溶液へ転化する方法として、先行技術に記載されている。この方法には、塩素ガス及び苛性ソーダ含有溶液を輸送することなく、次亜塩素酸ナトリウムを製造できるという利点がある。漂白剤を作るためにオンサイトで直接電解を行う場合の主な不利点は、漂白剤への塩の高い転化率を、高いエネルギー効率と同時に達成できないことである。直接電解が直面する別の問題は、この電解に使用される電極の寿命が短いことである。また、更に、直接電解の別の問題は、次亜塩素酸塩溶液の熱分解又はアノードでの次亜塩素酸の電気酸化のいずれかによる、塩素酸塩の望ましくない生成である。
【0005】
次亜塩素酸ナトリウムを製造する別の代替法は、間接法である。この方法は、先ず、塩を電気分解して、塩素及び苛性ソーダを製造し、その後、これらを化学的に再結合させて漂白剤を製造する方法である。間接電解は、典型的には、膜電池を使用した電解装置において行われ、塩の高い転化率及び高いエネルギー効率を達成することができる。この方法により一緒に製造された塩素及び苛性ソーダは、適切な反応器の中で組み合わせることにより、漂白剤溶液を製造することができる。しかし、漂白剤の間接的な製造には、その設備や塩素ガスを安全に取り扱うための設備にかなりの投資が必要である。このように、漂白剤の間接的な製造は、使用の点で多くのオンサイト用途には不向きであるが、工業的規模で漂白剤を製造するには好ましい方法である。このような製造は、典型的には、電力の供給設備及び塩の入手場所に近接していることに基づいて最適化されるため、必要とされる多くの場所において間接電解により漂白剤を製造することは、概して非経済的である。
【0006】
漂白剤溶液の輸送は、次亜塩素酸ナトリウムの水への溶解性及びこの溶液の安定性の低さにより制約を受ける。濃度が15〜25%の漂白剤溶液の輸送コストは、輸送される次亜塩素酸ナトリウムの単位量当たり、それより多くの質量及び体積で輸送する必要があるため、漂白剤を製造するために従来から使用される反応物(50%の苛性ソーダ及び液化塩素ガス)を輸送するコストよりも高い。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(概要)
本項は、本開示内容の一般的な概要を提供するものであり、本発明の全範囲又はその特徴の全てを包括的に開示するものではない。
【0008】
本発明の発明者らは、次亜塩素酸ナトリウム五水和物、次亜塩素酸ナトリウムを含む塩及び水が、約30℃未満の温度で安定であるとの知見を得た。これより高温では、この水和物は溶け、次亜塩素酸ナトリウム及び水の濃い溶液になる。しかし、次亜塩素酸ナトリウム五水和物は、針状(長い針の形状をした)結晶を最も頻繁に形成する。次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶のみから作られた次亜塩素酸ナトリウム組成物は、ランダムに配向した針状結晶が共に密に詰まらないため、この結晶形状に由来して低い嵩密度を有し、望ましくない。次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶に関連する予想外の別の問題は、空気との接触により、それらが急速に分解するということである。空気と接触した結晶は、たとえ低い貯蔵温度が維持されたとしても、一晩で分解し、幾つかの漂白剤及び塩を含有する希釈溶液を形成することができる。本発明者らは、この急速な分解が、結晶表面上での二酸化炭素との接触によって引き起こされ、これにより、漂白剤が急速に分解されるような低pH環境につながるのではないかと考える。この仮説と整合するように、アルカリ性の溶液から実験室で製造した結晶は、その結晶上に残留するアルカリ性溶液がほとんど残らない方法でろ過した場合に、より空気の影響を受け易いことが観察された。
【0009】
約25重量%より高濃度の次亜塩素酸ナトリウムを含有する漂白剤溶液を製造する場合、固体の次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶は、当該溶液を約10℃未満に冷却すると形成し始めるが、より高濃度の溶液の場合は、これより幾分高い温度でも五水和物結晶を形成し得る。しかし、温度が10℃であっても、高濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液は、所望されるよりも急速に分解する。次亜塩素酸ナトリウム溶液は、種結晶が存在しない限り、次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶を形成させることなく、次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶が形成され且つ維持されると考えられる平衡点未満の温度で、調製することができる。しかし、大規模な輸送においては、次亜塩素酸ナトリウム五水和物を形成させ得る種結晶が全く存在しないということは保証できない。漂白剤溶液を、次亜塩素酸ナトリウム五水和物が結晶化する温度にまで冷却し、且つ種結晶が存在する場合には、結晶の形成が進み、針状結晶のネットワークが作られ、これによりその材料の流動が阻害される。この固体は、輸送容器から容易に除去されない。次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶の形成により、約10℃未満の温度では、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が25重量%より高濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液を効果的に且つ効率的に輸送及び分配することが妨げられ、一方、10℃より高い温度では、高濃度の漂白剤溶液は、30日間にわたる分解により、少なくとも約12%の含有漂白剤を失う。本発明の漂白剤含有組成物が、ポンプ圧送可能なペースト又はスラリーとして、輸送容器からの積み降ろしができることは、利点となり得る。別の利点は、本スラリーは、25重量%より高濃度の次亜塩素酸ナトリウムを含有できるので、総輸送重量及び体積は、漂白剤を製造するのに従来から使用されている原料(塩素及び水酸化ナトリウム)にほぼ等しいことである。更に、別の利点は、本スラリーは、含有する塩素量の5%より多くを失うことなく、少なくとも30日間にわたって安定なことである。本組成物の更に別の利点は、工業用又は市販用漂白剤製品として、実用的な用途の全ての濃度に漂白剤を希釈して製造できることである。本組成物の更に別の利点は、摂氏−5度の温度で貯蔵した後、分解により生成された塩素酸塩は、摂氏0度で貯蔵された15%の次亜塩素酸ナトリウムを含有する従来の漂白剤に含有される塩素酸塩の量より低いことである。本組成物の更に別の利点は、塩及び電気を容易に入手可能な場所で大規模に製造可能であり、且つ長距離にわたって顧客に配送可能であることである。更に別の利点は、本発明の好ましい実施形態では、次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶は溶けるにつれて熱エネルギーを吸収し、その結果、結晶を含まない漂白剤溶液よりも温度上昇が小さいため、ポンプ圧送可能なペーストを、冷蔵をあまり必要としないか又は全く必要としない輸送用の断熱容器内に積載できることである。
【0010】
一般に、本発明の実施形態は、より効率的な輸送、貯蔵、及び取り扱いのための高濃度の次亜塩素酸ナトリウム組成物を提供する。本組成物の好ましい実施形態は、次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶と次亜塩素酸ナトリウムで飽和した母液とを含有するスラリーを含む。本組成物は全体で、好ましくは約25重量%と約35重量%の間の次亜塩素酸ナトリウム、約1重量%から約10重量%の塩化ナトリウム、及び本組成物を安定化する水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウム等の十分な量のアルカリを含む。
好ましい実施形態では、安定化アルカリ(stabilizing alkali)は、約0.01重量%と約3重量%の間の水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムである。本組成物は、好ましくは、約−15℃と約10℃の間である。結晶サイズは、好ましくは、本組成物をポンプ圧送可能とする粘度を維持するために、形成中に又はその後の操作により制御される。適切な粘度を維持するために、結晶長さ(最長寸法)は、約1mm未満、より好ましくは約0.5mm未満である。
【0011】
本発明の少なくとも幾つかの好ましい実施形態の次亜塩素酸ナトリウム組成物の予想外の利点は、その液相が、その固相の周囲をアルカリ性の環境に保つのに十分なアルカリを含んでいるので、空気の存在下で安定性を維持することである。本発明の少なくとも幾つかの実施形態の更に別の予想外の利点は、ペースト又はスラリーは、結晶間の空隙が、漂白剤含有溶液で満たされているので、五水和物の結晶のみからなる組成物よりも高い輸送密度を有することである。本発明の少なくとも幾つかの実施形態の更に別の利点は、本発明の好ましい実施形態のうち一部の組成物は、長期間低温に保つことができ、製造時の温度より低い温度であっても、ポンプ圧送可能な状態を維持できることである。
【0012】
本発明の少なくとも幾つかの好ましい実施形態の別の予想外の利点は、取り扱いにおける安全性が向上したことである。一般的に、次亜塩素酸ナトリウム溶液の腐食性及び反応性は、溶液濃度が高くなるのに伴って高まる。しかし、従来の次亜塩素酸ナトリウム溶液よりも高濃度であるにもかかわらず、本発明の少なくとも幾つかの実施形態の組成物は、(恐らく低温であるために)反応性が低く、更に、粘度がより高いので、こぼした際に、広範囲に飛び散ったり、汚染したりする可能性が低い。更に、単離された乾燥五水和物結晶が衝撃を受けると、急速に分解することが報告されているが、本発明の好ましい実施形態のペーストについては、このような衝撃感受性は観察されなかった。
【0013】
更に適用可能な領域は、本明細書に記載された説明から明らかになるであろう。本概要における説明及び特定の例は、例示の目的のみを意図したものであり、本開示範囲を限定する意図はない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(詳細説明)
一般に、本発明の実施形態は、より効率的な輸送、貯蔵、及び取り扱いのための高濃度の次亜塩素酸ナトリウム組成物を提供する。本組成物の好ましい実施形態は、次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶と次亜塩素酸ナトリウムで飽和した母液とを含有するスラリーを含む。本組成物は全体で、好ましくは約25重量%と約40重量%の間の次亜塩素酸ナトリウム、約1重量%から約10重量%の塩化ナトリウム、及び本組成物を安定化するための十分な量のアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウム)を含む。この好ましい実施形態では、前記安定化アルカリは、約0.01重量%と約3重量%の間の水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムである。本組成物は、好ましくは、約−15℃と約10℃の間で貯蔵される。結晶サイズは、好ましくは、本組成物をポンプ圧送可能とする粘度を維持するために、形成中に又はその後の操作により制御される。約100,000cp未満の粘度が一般に好ましい。更に、スラリーは、静置時に約10%を超える安息角を維持しないことが好ましい。適切な粘度を維持するために、平均結晶サイズ(最長寸法)は、好ましくは1mm未満、より好ましくは0.5mm未満であり、平均長さ対直径(L/D)比は、好ましくは約20:1未満、より好ましくは約6:1未満である。純粋な次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶の次亜塩素酸塩含量は、理論的には45.27重量%である。しかし、本発明の好ましい実施形態の組成物は、好ましくは、本組成物を容易に取り扱い可能とする流動性のスラリー又はペーストを形成するために十分な液相を含む。好ましい実施形態の次亜塩素酸ナトリウム組成物は、約20重量%と約80重量%の間で次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶を含み得る。濃度を高くすれば、輸送コスト削減に繋がる。更に、本組成物は、通常の液体と同じように、タンク車への積み降ろしができるので、非常に便利であり、顧客の要求が、液体から濃度のより高い製品にまで変化しても対応できる。その液相は、次亜塩素酸ナトリウム水和物の固相との平衡状態において、必然的に次亜塩素酸ナトリウムで飽和している。次亜塩素酸ナトリウムの濃度範囲は全体で、好ましくは約25重量%から約40重量%の間、より好ましくは約27重量%から約37重量%の間、最も好ましくは約30重量%から約37重量%の間である。
【0015】
スラリーの液相は塩を含有するので、溶液中での分解速度が遅くなるように低温における水和物の溶解度を小さくし、氷の生成を防止することができ、これにより、混合物の完全な固化を防止して冷却可能になる。先行技術には、次亜塩素酸ナトリウム漂白剤組成物の分解は、塩化ナトリウムが存在しない場合に最小化されることが示唆されているが、本発明者らは、その反対に、次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶含有スラリーにおいて、液相中に塩が存在することにより、実際に組成物が安定化され、当該スラリーをポンプ又は他の従来法により好適に取り扱うことができる温度範囲が拡張することを見出した。ペーストの塩含量は全体で、組成物中の次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶の量、及び組成物の温度に応じて、好ましくは約1%と約10%の間である。塩濃度が高ければ、混合物の温度に応じて、塩が固体形態で存在する場合もある。混合物は温められるにつれて、次亜塩素酸塩結晶の一部は溶液中に移行するが、塩結晶は析出する。逆に、混合物が冷却されるにつれて、塩結晶は溶解する。最適には、組成物は、予定される組成物の貯蔵温度範囲にわたって溶液で残存する塩よりも多くの塩を含有する必要はない。塩は比重がより高く、容器の底に沈殿する傾向があるため、スラリーからの塩結晶が析出するのは望ましくない。
【0016】
組成物の粘度は、存在する次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶の結晶サイズ、特に、長さ対直径比(L/D)を制御することによって制御することができる。結晶化した次亜塩素酸ナトリウム五水和物の塊を機械的に破砕、粉砕、又は摩耗することによって、ホース若しくはパイプ、又は従来から次亜塩素酸ナトリウム溶液を取り扱うのに用いられる他の類似の器具によりポンプ圧送及び移送可能なスラリーを製造することができる。結晶の粉砕は、五水和物相の嵩密度を下げるために行われる。次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶が、約20:1未満の平均長さ対直径比(average length to diameter ratio)を有する場合、ポンプ圧送可能なスラリーを製造することができるが、L/D比がより高い場合、スラリーの流動性は下がると考えられている。状況によっては、平均長さ対直径(L/D)比が約6:1未満であると、更により好ましい場合もある。代替的に、又は追加的に、結晶形成条件を制御することにより、結晶を機械的に処理することなく、所望の結晶サイズ及び形状のものを製造することができる。
【0017】
組成物は、次亜塩素酸ナトリウムの少なくとも一部が次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶として存在する温度範囲に維持されるのが好ましい。温度の下限は、更に冷却されることにより水氷(water−ice)が幾分形成される温度である。この温度は、約−17℃である。約−15℃よりはるかに低温で組成物を製造する方法を作り出すことは、組成物の冷却に使用される熱交換器表面上で凍結する可能性があるので、実際的ではないと考えられる。好ましい温度の上限は、断熱容器内において、組成物の分解速度を最小にし且つ組成物の可能な貯蔵寿命を最長にするという目的によって制限される。断熱されているが冷却はされない容器での輸送に有益となる実際的な上限は、約10℃であり、より好ましくは−0℃である。
【0018】
以下の実施例において、31重量%から33重量%の次亜塩素酸ナトリウム及び1.5重量%から6.3重量%の塩化ナトリウムを含有するスラリーが、組成物に明らかな変化を生じることなく、少なくとも2か月間貯蔵可能であることを実証している。これらの組成物では、−5℃において約70質量%から90質量%の固体が沈殿していることが観察された。貯蔵温度を変化させた場合、例示的な組成物は、−9℃において顕著に濃厚になり、沈殿した固体の割合は増加し、一方、粘度は、温度の上昇につれて低下した。この温度範囲全体にわたって、スラリーは沈降し(slump down)、攪拌後、表面は平坦になり、ポンプで汲みだすことによって、スラリーで満たされた容器を完全に空にすることができることが示された。溶解塩を最も多く含有する組成物が、温度が変化した場合、観察された粘度及び沈殿固体において最小の変化を示した。
【実施例】
【0019】
実施例1
次亜塩素酸ナトリウム溶液を、苛性ソーダを塩素化し、塩化ナトリウムを沈殿させることにより調製した。塩化ナトリウムをろ過した後、約30.5%の次亜塩素酸ナトリウム、7.1%の塩化ナトリウム、及び0.5%の水酸化ナトリウムを含有する溶液を25℃において得た。この溶液は、塩素化した苛性ろ液(「CCF」:chlorinated caustic filtrate)と表記できる。CCFを約28%に希釈し、結晶形成なく、−5℃に冷却し、その後、五水和物結晶を種結晶として入れた。種結晶を入れると、針状結晶(長い針状の五水和物結晶)が急速に成長した。これをろ過し、分析し、その結果を表1に示した。
[表1]
【0020】
実施例2
ナトリウム五水和物組成物を、実施例1の結晶(最初に次亜塩素酸塩について再分析した(39.51重量%))及び塩(3.45重量%)から調製した。過剰なアルカリ性は認められなかった。各組成物を、主観的に観察された粘度において更なる顕著な変化を示さなくなるまで、冷却した乳鉢及び乳棒を用いて破砕した。スラリーを、本検討の最初の6週間、−5℃に設定したCaCl
2の浴に貯蔵した。最初の6週間の後、浴の温度を、スラリーの粘度に及ぼす温度の影響を観察するために、約24時間毎に調整した。粘度の検討が完了した後、スラリーを再び−5℃に維持した。
【0021】
【0022】
前記組成物を採取するために、5mLのピペットチップの先細りの端部を切り落として毛細管を作り、これを前記スラリー中に真直ぐに押下げ、採取したスラリーがビーカーに戻らないようにしておくために親指等の指で覆った他の開口部を持って取り出した。ピペットチップ中のスラリーを、風袋引きした50mLの遠心分離管に移し、採取したスラリーの重さを記録した。遠心分離管を再び風袋引きし、前記スラリーを希釈するために添加した脱イオン水を記録した。その後、希釈係数を計算し、各滴定後に適切な乗数として使用した。NaOCl、NaCl、NaOH、及びNa
2CO
3についての分析を、実施例組成物の濃度((NaOCl)、(NaCl)、並びに(NaOH及びNa
2CO
3))のために調整された次亜塩素酸ナトリウム溶液の分析に典型的に使用される方法を用いて行った。スラリーを、NaOCl及びNaClについては毎週試験し、NaOH及びNa
2CO
3については本検討の最初と最後に試験した。更に、前記組成物の固相及び液相の高さを測定することにより、固体の割合を得た。
【0023】
最初の6週間、前記組成物を−5℃に保ち、濃度(strength)及び「遊離」(“free”)NaClについて毎週試験した。結果(表2)は、NaOCl及びNaClについて、経時変化が小さいことを示す。
【0024】
5つのスラリーは、次の範囲であった。
これらの範囲には傾向が見られないということが注目される。NaOCl及びNaClの濃度について得られた数字からは、分析回毎に変化はあるものの、明確な傾向は見出せない。採用した採取法では、影響が大きく、採取に際して幾分ばらつきがあり、従って、測定誤差がより大きくなった。結果として、観察された変化は、スラリーが物理的に又は化学的に変化したことが唯一の理由ではなく、採取法が原因である可能性がある。更に、代表サンプルを分析用に取り出した場合についても、固体の割合を測定して定量した。(理論的には、代表サンプルを取り出した場合、スラリー全体の体積が減少したとしても、固体の割合(%)は同じになるはずである。)
【0025】
貯蔵期間の最後の2週間、サンプルを種々の貯蔵温度(−9.1℃から+2℃)に保った。サンプルを少なくとも24時間、一定の温度に保った後、サンプル中の沈殿した固体の割合を観察した。その後、サンプルを、ピペットチップを使用して手で攪拌し、粘稠性を主観的に10段階で判定すると共に目視観察を行った。
【0026】
実施例2の試験結果から、スラリーのポンプ圧送可能な取り扱い特性は、特定範囲内の加熱及び冷却サイクルの後にも保持されることが検証される。請求項にも記載したとおり、スラリーの組成物がより高濃度のNaClを含有する場合には、固体割合及び物理的特性は、サンプルを暖め又は冷却した場合でも、より安定していた。全てのスラリーサンプルについて、五水和物結晶が沈殿すると考えられる温度より高い温度に保たれた24重量%の次亜塩素酸塩溶液について予想されるよりも、次亜塩素酸塩濃度の経時的な低下がなかった。
【0027】
実施例3
約28%の次亜塩素酸ナトリウム、7%の塩化ナトリウム、及び0.6%の水酸化ナトリウムを有する次亜塩素酸塩溶液のサンプルを0℃に冷却した。前もって調製した次亜塩素酸ナトリウム五水和物結晶を少量添加することにより、五水和物結晶の成長を開始させた。混合物は、結晶のネットワークを急速に形成し、半固体状になった。500gの前記半固体混合物を、2000RPMで中心軸により回転される半径約3インチのチタン製刃を有する実験用ミルに添加した。サンプルを、最初と粉砕開始の5、10、及び20秒後に検査用に採取した。結晶の微視的検査及びL/D比の測定によれば、粉砕により最も長い結晶が破壊され、注入可能なスラリーを生成することを示している。更に、このスラリーのサンプルを沈降させた。サンプルから透明な液体を注ぎ出して、残りの注入可能なスラリーを分析し、これにより、この時、濃度が高くなった可能性のあることが示された。結果の概要を以下の表に示す。
【0028】
実施例4
実施例3と同様に、次亜塩素酸ナトリウム五水和物の結晶を製造するため、低塩(low−salt)次亜塩素酸ナトリウム溶液のサンプルを冷却し、種結晶を入れることにより、ペースト状物質を製造した。最初のペーストを、実施例3に記載したものと同じミルを使用して30秒間2000rpmで粉砕し、スラリーを製造した。その後、このスラリーを真空ろ過し、次いで、そのケーキを更に30秒間粉砕した。ろ過ケーキは高濃度のスラリーになり、これを更にろ過し、得られたケーキを再び粉砕した。このようにして調製した最終的なスラリーを分析したところ、37重量%の次亜塩素酸ナトリウムを含有していることがわかり、結晶は、400ミクロンの平均長さ及び110ミクロンの平均直径を有していることが観察された。このスラリーを脱イオン水で希釈し、32重量%から35重量%の濃度範囲のスラリーを得た。これらのスラリーをブルックフィールド社製粘度計に置き、粘度を測定し、0.09℃において以下の結果を得た。
本実施例において、製造した全てのスラリーが、従来の漂白剤溶液について予想されるよりも低い流速にもかかわらず、漂白剤溶液用に通常用いられる従来のポンプ及びパイプを用いてポンプ圧送され且つ取り扱われるのに、十分に低い粘度を有するものと判断された。
【0029】
実施形態の前記記載は、例示及び説明の目的で提供したものである。前記記載は、網羅的であること、又は開示を限定することを意図するものではない。特定の実施形態の個々の要素及び特徴は、一般的に、当該特定の実施形態に限定されないが、必要に応じて、特に断りがなければ、交換可能であり、選択した実施形態において使用可能である。更に同様に、多くの点において変更できる。このような変更は本開示からの逸脱とはみなされず、全てのこのような変更は本開示範囲内に包含されることを意図する。
【国際調査報告】