(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-534270(P2015-534270A)
(43)【公表日】2015年11月26日
(54)【発明の名称】中赤外スペクトル範囲用のヘテロ構造ならびに、これをベースとした発光ダイオードおよびフォトダイオードの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20151030BHJP
H01L 33/30 20100101ALI20151030BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20151030BHJP
【FI】
H01L31/10 A
H01L33/00 184
H01L21/205
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-531882(P2015-531882)
(86)(22)【出願日】2013年9月13日
(85)【翻訳文提出日】2015年5月14日
(86)【国際出願番号】RU2013000796
(87)【国際公開番号】WO2014123448
(87)【国際公開日】20140814
(31)【優先権主張番号】201201245
(32)【優先日】2012年9月14日
(33)【優先権主張国】EA
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】515064906
【氏名又は名称】リミテッド・ライアビリティ・カンパニー”エルイーディ・マイクロセンサー・エヌティ”
【氏名又は名称原語表記】LIMITED LIABILITY COMPANY LED MICROSENSOR NT
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ・セルゲーヴィチ・キズハエフ
【テーマコード(参考)】
5F045
5F241
5F849
【Fターム(参考)】
5F045AA04
5F045AB17
5F045AB18
5F045AC07
5F045CA10
5F045DA53
5F045DA55
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5F849AA04
5F849AB07
5F849BA28
5F849BB08
5F849CB03
5F849FA05
5F849GA07
5F849LA01
5F849XB18
5F849XB37
5F849XB51
(57)【要約】
本発明は、2.6〜4.7μmのスペクトル範囲のためのA
IIIB
V半導体化合物をベースとした自然放射光源を製造する手法、および2.0〜4.7μmのスペクトル範囲のための感光性構造を製造する技術に関する。第1実施形態では、ヘテロ構造が、InAsを含む基板と、基板の上に設けられ、InSbPを含むバリア層と、バリア層の上に設けられ、InAsSbPを含む活性層とを備える。第1実施形態のヘテロ構造をベースとして製造した発光ダイオードは、2.6〜3.1μmの範囲の波長で発光する。第2実施形態では、ヘテロ構造は、InAsを含む基板と、基板の上に設けられ、InAsSbを含む活性領域と、活性領域の上に設けられ、InSbPを含むバリア層とを備える。活性領域は、InAsSbバルク活性層、InAs/InAsSb量子井戸、またはGaInAs/InAsSbの歪み超格子を含むことができる。第2実施形態のヘテロ構造をベースとして製造した発光ダイオードは、3.1〜4.7μmの範囲の波長で発光し、フォトダイオードは、2.0〜4.7μmの範囲で広帯域の感度を有する。ヘテロ構造の製造方法において、tert(ターシャリ)−ブチルアルシンが、ヒ素源として用いられ、tert−ブチルホスフィンがリン源として用いられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロ構造を製造する方法であって、
気相エピタキシー手法によって、InSbPを含むバリア層を、InAsを含む基板の上に成長させることと、
気相エピタキシー手法によって、InAsSbPを含む活性層を、バリア層の上に成長させることとを含み、
tert−ブチルアルシンがヒ素源として用いられ、tert−ブチルホスフィンがリン源として用いられる、方法。
【請求項2】
InAsを含む基板と、
基板の上に設けられ、InSbPを含むバリア層と、
バリア層の上に設けられ、InAsSbPを含む活性層とを備える、ヘテロ構造。
【請求項3】
ヘテロ構造を製造する方法であって、
気相エピタキシー手法によって、InAsSbを含む活性層を、InAsを含む基板の上に成長させることと、
気相エピタキシー手法によって、InSbPを含むバリア層を、活性層の上に成長させることとを含み、
tert−ブチルアルシンがヒ素源として用いられ、tert−ブチルホスフィンがリン源として用いられる、方法。
【請求項4】
InAsを含む基板と、
基板の上に設けられ、InAsSbを含む活性領域と、
活性領域の上に設けられ、InSbPを含むバリア層とを備える、ヘテロ構造。
【請求項5】
活性領域は、InAsSbを含むバルク層を備える請求項4記載のヘテロ構造。
【請求項6】
活性領域は、InAsとInAsSbを含む量子井戸を備える請求項4記載のヘテロ構造。
【請求項7】
活性領域は、GaInAsとInAsSbを含む歪み超格子を備える請求項4記載のヘテロ構造。
【請求項8】
請求項2記載のヘテロ構造をベースとして形成された発光ダイオード(LED)チップであって、基板側に設けられた第1コンタクトと、活性層側に設けられた第2コンタクトとを備える、少なくとも1つの発光ダイオード(LED)チップを備える、発光ダイオード。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれかに記載のヘテロ構造をベースとして形成された発光ダイオード(LED)チップであって、バリア層側に設けられた第1コンタクトと、基板側に設けられた第2コンタクトとを備える、少なくとも1つの発光ダイオード(LED)チップを備える、発光ダイオード。
【請求項10】
第1コンタクトは、連続的であり、第2コンタクトは、部分的に覆われた表面を有する請求項8または9記載の発光ダイオード。
【請求項11】
第2コンタクトは、円形状またはリング状である請求項8〜10のいずれかに記載の発光ダイオード。
【請求項12】
コンタクトは、4層のCr/Au/Ni/Au系を含む請求項8〜11のいずれかに記載の発光ダイオード。
【請求項13】
請求項4〜7のいずれかに記載のヘテロ構造をベースとして形成され、2つのコンタクトを備えるフォトダイオードチップであって、コンタクトの一方は基板側に設けられ、他方のコンタクトはバリア層側に設けられる、少なくとも1つのフォトダイオードチップを備える、フォトダイオード。
【請求項14】
コンタクトの一方は、部分的に覆われた表面を有し、他方のコンタクトは、連続的である請求項13記載のフォトダイオード。
【請求項15】
コンタクトの一方は、リング状である請求項13または14記載のフォトダイオード。
【請求項16】
コンタクトは、4層のCr/Au/Ni/Au系を含む請求項13〜15のいずれかに記載のフォトダイオード。
【請求項17】
請求項8〜12のいずれかに記載の発光ダイオードを製造する方法であって、
請求項2、4〜7のいずれかに記載のヘテロ構造を用意することと、
ヘテロ構造の対向する側に2つのコンタクトを形成することと、
コンタクトが形成されたヘテロ構造を分割して、発光ダイオード(LED)チップを形成することとを含む、方法。
【請求項18】
請求項13〜16のいずれかに記載のフォトダイオードを製造する方法であって、
請求項4〜7のいずれかに記載のヘテロ構造を用意することと、
ヘテロ構造の対向する側に2つのコンタクトを形成することと、
コンタクトが形成されたヘテロ構造を分割して、フォトダイオードチップを形成することとを含む、方法。
【請求項19】
請求項2、4〜7のいずれかに記載のヘテロ構造をベースとして形成された発光ダイオード(LED)チップであって、LED発光側とは反対にあるLED側に設けられた少なくとも2つのコンタクトを備える、少なくとも1つの発光ダイオード(LED)チップを備える、発光ダイオード。
【請求項20】
請求項19記載の発光ダイオードを製造する方法であって、
請求項2、4〜7のいずれかに記載のヘテロ構造を用意することと、
基板側に少なくとも2つのコンタクトを、あるいはバリア層側に少なくとも2つのコンタクトを形成することと、
コンタクトが形成されたヘテロ構造を分割して、発光ダイオード(LED)チップを形成することとを含む、方法。
【請求項21】
請求項4〜7のいずれかに記載のヘテロ構造をベースとして形成されたフォトダイオードチップであって、フォトダイオードの放射受光側とは反対にあるフォトダイオード側に設けられた少なくとも2つのコンタクトを備える、少なくとも1つのフォトダイオードチップを備える、発光ダイオード。
【請求項22】
請求項21記載のフォトダイオードを製造する方法であって、
請求項4〜7のいずれかに記載のヘテロ構造を用意することと、
バリア層側に少なくとも2つのコンタクトを、あるいは基板側に少なくとも2つのコンタクトを形成することと、
コンタクトが形成されたヘテロ構造を分割して、フォトダイオードチップを形成することとを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2.6〜4.7μmのスペクトル範囲のためのA
IIIB
V半導体化合物をベースとした自然放射光源を製造する手法、および2.0〜4.7μmのスペクトル範囲のための感光性構造を製造する技術に関する。提供されるヘテロ構造の製造方法、該ヘテロ構造をベースとした発光ダイオードおよびフォトダイオードは、ガス分析に適用されるように構成されたセンサを製造するのに使用した場合、著しい利点を提供する。特に、センサは、環境を監視するために、科学技術プロセスを制御するために、例えば、生活空間、産業建設において二酸化炭素(2.64〜2.87μmの範囲、4.27μmの波長の放射を吸収)および硫化水素(2.63μmの波長の放射を吸収)を決定するために使用できる。2.6〜4.7μmの放射範囲は、CH基、特にメタン、アルコールなどの化合物の一次特性吸収帯を含む。さらに、中赤外センサが、医療診断、例えば、呼気中の二酸化炭素、アセトンおよび他の化合物の濃度を分析するために使用される光分光のために使用できる。さらに、2.65〜2.85μmの範囲は、水および水蒸気の一次特性吸収帯を含む。本発明は、上述の例に限定されず、ヘテロ構造およびそれをベースとした発光ダイオードは、2.6〜4.7μmの中赤外範囲およびフォトダイオード用の2.0〜4.7μmの範囲での吸収帯を持つ化合物の存在及び/又は濃度を決定する条件が存在する何れか他の用途に使用できる。
【背景技術】
【0002】
熱赤外放射源をベースとした既知の赤外光学センサが、パーキンエルマー社、テキサス・インスツルメンツ社、シティテクノロジー社、他の会社によって製造されている。 こうした光源が広帯域のスペクトル範囲で放射線を放出し、狭帯域の光学フィルタが、必要とされる波長範囲を分離する。
【0003】
先行技術の光学センサの短所は、光学フィルタの使用を必要とすることである。さらに、先行技術の光学センサは、例えば、大きな電力消費、低速の性能、大きな寸法、熱源の限られた寿命など、他の短所を有する。
【0004】
熱赤外放射源をベースとした先行技術の赤外光学センサの上記短所は、中赤外範囲で動作する発光ダイオードおよびフォトダイオードを使用することによって、克服できる。
【0005】
GaN,GaAsおよびInPをベースとした可視スペクトル範囲および近赤外スペクトル範囲のための発光ダイオードおよびフォトダイオードを製造する技術が、良好に開発されている。こうしたデバイスは、1に近い内部量子効率値を有する。しかしながら、中赤外範囲で高い量子効率を達成することはかなり困難である。 約3μmの波長範囲で動作する発光ダイオードの内部量子効率値は、4〜5倍低い。InAsをベースとしたナローバンドギャップ化合物が、高い電荷キャリア拡散長(電子では約25μm)を有し、より低い放射性再結合効率および非放射性プロセスのより高い強度を有する。
【0006】
近赤外スペクトル範囲用の半導体ダイオード(ロシア連邦特許第2286618号、IPC H01L 33/00、H01L 31/12)が、p−n接合によって分割された導電コンタクトを備えたp領域およびn領域と、p−n接合と電気的に結合した活性領域と、光学化合物を介して活性領域と光学的に結合した少なくとも1つの光学モジュールとを備える。
【0007】
先行技術の半導体ダイオードの短所が、先行技術のダイオードが発光する1.22〜1.24μmの限られた波長範囲であることである。先行技術のダイオードの放射波長は、ダイオード構造によって決定され、ダイオードは、n
+−InP基板を備え、その上にInGaAsP固溶体を含む活性層が成長している。他の実施形態において、先行技術の半導体ダイオードは、n
+−InAs基板を備え、その上にn−InAsSbP/n−InGaAs−p/p−InAsSbPダブルヘテロ構造が成長している。前記ダイオードは、3.4μmの波長で発光する。さらに他の実施形態において、先行技術の半導体ダイオードは、n−InAs基板を備え、その上にn−InAsSbP/n−InGaAsSb/p−InAsSbPダブルヘテロ構造が成長している。前記ダイオードは、3.9μmの波長で発光する。従って、上記ヘテロ構造は、2.6〜3.3μmの範囲で発光するダイオードを得るために使用できない。さらに、先行技術の半導体ダイオードは、前記範囲内にある特性吸収帯を持つ化合物(例えば、水、水蒸気、二酸化炭素、硫化水素)の存在及び/又は濃度を決定するために使用できない。
【0008】
さらに、先行技術のダイオードは、液相エピタキシー手法を用いることによって形成される。液相エピタキシー手法の短所は、バルク層を成長させるのに必要になる小さな寸法のヘテロ構造を成長させる際の実用的な複雑である。さらに、液相エピタキシー手法は、非混和性(immiscibility)領域の存在に起因して、組成の範囲全体に渡ってInAsSbP固溶体を成長させるのに適していない。
【0009】
先行技術のダイオードのさらに他の短所は、光学モジュールおよび光学化合物の使用であり、これは、ダイオードを製造する手法を複雑にし、光学モジュールをLEDチップと結合させる処理工程において欠陥のリスクを増加させる。
【0010】
さらに、InAsSbP固溶体をベースとした発光ダイオード(文献: T.N. Danilova, A.N. Imenkov, K.D. Moiseev, I.N. Timchenko, Yu.P. Yakovlev: "Light-emitting diodes based on InAsSbP for the spectral range of 2.6 − 3.0 μm (T = 300K)"; Letters to the Technical Physics Journal, 1994, vol. 20, issue 10, p. 20-24)が先行技術で知られている。液相エピタキシー手法で成長した先行技術の発光ダイオードの構造は、n−InAs基板と、InAsSbPを含むn型ワイドバンド層と、InAsSbPを含むp型活性層と、InAsSbPを含むp型ワイドバンド層とを備える。先行技術の発光ダイオードが放出する放射線の量子効率は、室温、50mA電流で、0.02〜0.03%を超えない。ワイドバンド領域でのリン含量は30%を超えない。
【0011】
先行技術の発光ダイオードの短所が、低い量子効率である。
【0012】
さらに、InAsSbP固溶体をベースとした発光ダイオード(文献:V.V. Romanov, E.V. Ivanov, A.N. Imenkov, N.M. Kolchanova, K.D. Moiseev, N.D. Stoyanov, Yu.P. Yakovlev: "Light-emitting diodes based on InAsSbP limiting composition solid solutions for spectral range of 2.6 − 2.8 μm"; Letters to the Technical Physics Journal, 2001, vol. 27, issue 14, p. 8087)が先行技術で知られている。先行技術の発光ダイオードのための構造は、液相エピタキシー手法を用いて提供される。先行技術の発光構造は、p−InAs基板を備え、その上にInAsSbPを含むp型バリア層、InAsSbPを含む活性層、およびInAsSbPを含むn型バリア層が順に成長している。スピノーダル分解領域および分子性(molecularity)条件限界は、大きな面積のInAsSbP固溶体組成の形成をもたらし、これは、準平衡(near-equilibrium)法、即ち、液相エピタキシー手法を用いた結晶化にとってアクセス困難であり、ダイオードの活性領域における有効な電荷キャリア保持のための条件を提供しない。
【0013】
液相エピタキシー手法を用いて成長した先行技術の発光ダイオードのバリア層でのInP含量は、32%を超えず、前記値は、理論限界として定義される。従って、液相エピタキシー手法を用いた場合、バリア層と活性層との間のヘテロ界面におけるバリア高さを増加させることによって、発光ダイオード効率を増加させることができない。
【0014】
さらに、3.3〜3.4μmの波長を持つ発光ダイオード(文献:A.P. Astakhova, A.S. Golovin, N.D. Ilyinskaya, K.V. Kalinina, S.S. Kizhaev, O.Yu. Serebrennikova, N.D. Stoyanov, Zs.J. Horvath, Yu.P. Yakovlev: "Powerful light-emitting diodes based on InAs/InAsSbP heterostructures for methane spectroscopy (λ≒3.3 μm)"; Semiconductor physics and technology, 2010, vol. 44, issue 2, p. 278284)が先行技術で知られている。上記文献に開示されたヘテロ構造を製造する方法は、本発明にとって先行技術と考えられる。先行技術の発光ダイオードは、ヘテロ構造をベースとして構成され、該ヘテロ構造は、InAsを含む基板と、InAsSbPを含む第1バリア層と、InAsを含む活性層とを備える。さらに、ヘテロ構造は、InAsSbPを含み、基板と活性層との間に配置された第2バリア層を備えてもよい。ヘテロ構造は、気相エピタキシー手法を用いて有機金属化合物から形成される。下記の化合物が、先行技術のヘテロ構造のためのエピタキシャル層成長源として使用される。トリメチルインジウム TMIn(インジウム源)、トリメチルスチビン TMSb(アンチモン源)、水素化物ガス アルシン AsH
3(ヒ素源)、ホスフィン PH
3(リン源)。水素化物ガスは、水素中で20%の濃度に希釈される。ジエチル亜鉛 DeZnが、p型ドーパント(亜鉛)でエピタキシャル層をドープするために使用される。
【0015】
発光ダイオードを製造する先行技術の方法の短所は、ヒ素源およびリン源として、極めて有毒な水素化物ガス アルシンおよびホスフィンの使用である。さらに、アルシンおよびホスフィンを伴う反応には、成長した構造の組成および性質に悪影響を与える副反応が付随する。
【0016】
さらに、先行技術の発光ダイオードは、3.3〜3.4μmの限られた波長範囲内で放射ピークを有しており、これは、先行技術の発光ダイオードを用いて検知できる化合物の数を著しく制限する。さらに、先行技術のヘテロ構造のバリア層は、活性領域での一次電荷キャリアの確実な保持を許容せず、発光ダイオードおよびフォトダイオードの効率を減少させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、中赤外スペクトル範囲用の種々のヘテロ構造および、これをベースとした発光ダイオードが公知であるにも拘らず、バリア層が活性領域での一次電荷キャリアの確実な保持を提供し、活性領域での放射性再結合比率を増加できるヘテロ構造についてのニーズが未だ存在する。さらに、2.6〜4.7μmの範囲内の任意の波長で動作するために製造可能である、こうしたヘテロ構造をベースとした発光ダイオード、そして2.0〜4.7μmの範囲内の任意の波長で動作するためのフォトダイオードについてのニーズが存在する。さらに、こうした構造が、有毒な水素化物ガス、例えば、アルシンおよびホスフィンなどを使用することなく、気相エピタキシー手法によって製造される方法についてのニーズが存在する。
【0018】
本発明の目的は、有毒で危険なガス(アルシンおよびホスフィン)を使用せずに、ヘテロ構造を製造する方法を提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、活性領域内の電子閉じ込めを提供する信頼性のある有効なヘテロ構造を提供することである。
【0020】
本発明の他の目的は、該ヘテロ構造をベースとした発光ダイオードを提供することである。
【0021】
本発明の他の目的は、該ヘテロ構造をベースとした発光ダイオードを製造する方法を提供することである。
【0022】
本発明の他の目的は、該ヘテロ構造をベースとしたフォトダイオードを提供することである。
【0023】
本発明の他の目的は、該ヘテロ構造をベースとしたフォトダイオードを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の第1態様によれば、該目的は、ヘテロ構造を製造する方法の第1実施形態によって達成される。該方法は、気相エピタキシー手法によって、InSbPを含むバリア層を、InAsを含む基板の上に成長させることと、気相エピタキシー手法によって、InAsSbPを含む活性層を、バリア層の上に成長させることとを含み、tert(ターシャリ)−ブチルアルシンがヒ素源として用いられ、tert−ブチルホスフィンがリン源として用いられる。
【0025】
ヘテロ構造を製造する方法の第2実施形態において、該方法は、気相エピタキシー手法によって、InAsSbを含む活性層を、InAsを含む基板の上に成長させることと、気相エピタキシー手法によって、InSbPを含むバリア層を、活性層の上に成長させることとを含み、tert−ブチルアルシンがヒ素源として用いられ、tert−ブチルホスフィンがリン源として用いられる。
【0026】
本発明の第2態様によれば、該目的は、第1実施形態に係るヘテロ構造が、InAsを含む基板と、基板の上に設けられ、InSbPを含むバリア層と、バリア層の上に設けられ、InAsSbPを含む活性層とを備えることによって達成される。
【0027】
第2実施形態において、ヘテロ構造は、InAsを含む基板と、基板の上に設けられ、InAsSbを含む活性領域と、活性領域の上に設けられ、InSbPを含むバリア層とを備える。
【0028】
さらに、ヘテロ構造の第2実施形態によれば、活性領域は、InAsSbを含むバルク層を備える。
【0029】
ヘテロ構造の他の実施形態において、活性領域は、InAsとInAsSbを含む量子井戸を備える。
【0030】
ヘテロ構造の他の実施形態において、活性領域は、GaInAsとInAsSbを含む歪み超格子を備える。
【0031】
本発明の第3態様によれば、該目的は、中赤外スペクトル範囲の放射を出力するための発光ダイオードによって達成される。該発光ダイオードは、第1実施形態のヘテロ構造をベースとして形成され、基板側に設けられた第1コンタクトと、活性層側に設けられた第2コンタクトとを備える、少なくとも1つの発光ダイオード(LED)チップを備える。
【0032】
第2実施形態において、中赤外スペクトル範囲用の発光ダイオードが、第2実施形態のヘテロ構造をベースとして形成され、バリア層側に設けられた第1コンタクトと、基板側に設けられた第2コンタクトとを備える、少なくとも1つの発光ダイオード(LED)チップを備える。
【0033】
発光ダイオードの一実施形態において、第1コンタクトは、連続的であり、第2コンタクトは、部分的に覆われた表面を有する。
【0034】
発光ダイオードの一実施形態において、第2コンタクトは、円形状またはリング状である。
【0035】
発光ダイオードの一実施形態において、コンタクトは、4層のCr/Au/Ni/Au系を含む。
【0036】
さらに他の実施形態において、中赤外スペクトル範囲用の発光ダイオードが、第1実施形態または第2実施形態のヘテロ構造をベースとして形成され、LED発光側とは反対にあるLED側に設けられた少なくとも2つのコンタクトを備える、少なくとも1つの発光ダイオード(LED)チップを備える。
【0037】
本発明の第4態様によれば、該目的は、第3態様の発光ダイオードを製造する方法によって達成される。該方法は、第1実施形態または第2実施形態のヘテロ構造を用意することと、ヘテロ構造の対向する側に2つのコンタクトを形成することと、コンタクトが形成されたヘテロ構造を分割して、発光ダイオード(LED)チップを形成することとを含む。
【0038】
発光ダイオードを製造する方法の他の実施形態において、該方法は、第1実施形態のヘテロ構造または第2実施形態のヘテロ構造を用意することと、基板側に少なくとも2つのコンタクトを形成すること、あるいはバリア層側に少なくとも2つのコンタクトを形成することとを含み、コンタクトが形成されたヘテロ構造は分割されて、発光ダイオード(LED)チップを形成する。
【0039】
本発明の第5態様によれば、該目的は、中赤外スペクトル範囲用のフォトダイオードによって達成される。該フォトダイオードは、第2実施形態のヘテロ構造をベースとして形成され、2つのコンタクトを備える、少なくとも1つのフォトダイオードチップを備え、コンタクトの一方は基板側に設けられ、他方のコンタクトはバリア層側に設けられる。
【0040】
フォトダイオードの一実施形態において、コンタクトの一方は、部分的に覆われた表面を有し、他方のコンタクトは、連続的である。
【0041】
フォトダイオードの一実施形態において、コンタクトの一方は、リング状である。
【0042】
フォトダイオードの一実施形態において、コンタクトは、4層のCr/Au/Ni/Au系を含む。
【0043】
さらに他の実施形態において、中赤外スペクトル範囲用のフォトダイオードが、第2実施形態のヘテロ構造をベースとして形成され、フォトダイオードの放射受光側とは反対にあるフォトダイオード側に設けられた少なくとも2つのコンタクトを備える、少なくとも1つのフォトダイオードチップを備える。
【0044】
本発明の第6態様によれば、該目的は、第5態様のフォトダイオードを製造する方法によって達成される。該方法は、第2実施形態のヘテロ構造を用意することと、ヘテロ構造の対向する側に2つのコンタクトを形成することと、コンタクトが形成されたヘテロ構造を分割して、フォトダイオードチップを形成することとを含む。
【0045】
第5態様のフォトダイオードを製造する方法の他の実施形態において、該方法は、第2実施形態のヘテロ構造を用意することと、バリア層側に少なくとも2つのコンタクトを形成すること、あるいは基板側に少なくとも2つのコンタクトを形成することと、コンタクトが形成されたヘテロ構造を分割して、フォトダイオードチップを形成することとを含む。
【0046】
(技術的効果)
本発明に従って、InSbPを含むバリア層をヘテロ構造組成に導入することは、活性領域とのヘテロ界面において電子閉じ込めを提供する。その結果、活性領域での電荷キャリアおよび欠陥の密度が減少して、発光ダイオードおよびフォトダイオードの動作効率を増加させる。
【0047】
さらに、水素化物ガス AsH
3の代わりに、tert−ブチルアルシン C
4H
9AsH
2がヒ素源として用いられ、PH
3の代わりに、tert−ブチルホスフィン C
4H
9PH
2がリン源として用いられることは、不純物による成長層の汚染(contamination)を低減でき、エピタキシャル構造の構造完全性を増加し、ヘテロ構造成長プロセスの安全性および環境適合性を増加させる。
【0048】
さらに、本発明の発光ダイオードの第1実施形態において、前記LED構造において、n−InAsSbP活性層を通じて放射が出力されることに起因して、高い効率が達成される。p型導電性を持つ材料を回避したLED構造体積からの放射の出力は、自由電子による吸収より著しく強い、自由正孔による放射の吸収を回避することができる。さらに、開示したLED構造は、最小抵抗コンタクト系を選択したことに起因して、電流フロー時に最小の活性領域温度を提供する。
【0049】
さらに、本発明の発光ダイオードの第2実施形態において、前記LED構造において、高ドープのn−InAs基板を通じて放射が出力されることに起因して、高い効率が達成される。バースタイン−モス効果は、InAs基板において100meVに達する増加したフェルミ準位をもたらす。InAs基板での増加したフェルミ準位は、活性領域体積で発生した放射にとって基板を透明にする。さらに、開示したLED構造は、ポイントコンタクトがナローバンドの高ドープ材料(n−InAs)の上に形成され、最小抵抗を持つコンタクト系が提供され、LEDチップはエピタキシャル側が下向きになるように搭載され、これにより効率的な熱除去を提供することに起因して、電流フロー時に最小の活性領域温度を提供する。理由は、p−n接合と金属表面との間の距離が数ミクロンを超えないからである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】2つのタイプ(aとb)の先行技術のLED構造のエネルギー図を示す。
【
図2】本発明に係るヘテロ構造の第1実施形態の機構を示す。
【
図3】本発明に係るヘテロ構造の第2実施形態の機構を示す。
【
図4】気相エピタキシー手法によって有機金属化合物から、構造を成長させるためのエピタキシャル装置の機構を示す。
【
図5】InAs
0.27Sb
0.23P
0.5固溶体の回折ロッキングカーブを示す。
【
図6】InSb
0.32P
0.68固溶体の回折ロッキングカーブを示す。
【
図7】測定を行うためのコンタクトエリア配置の機構を示す。
【0051】
本発明の実施形態について添付図面を参照にして以下に説明する。前記実施形態は、例として提供され、限定的であることを意味しない。本発明の範囲は、添付の請求項によって定義され限定される。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1は、先行技術のLED構造のエネルギー図を示す。
図1(a)は、InAsを含み、亜鉛でドープしたp型基板の上に成長した第1タイプの先行技術の構造を示す。該構造のエピタキシャル部は、亜鉛でドープしたバリア層InAs
0.27Sb
0.23P
0.5と、ノンドープ活性領域InAsと、ノンドープバリア層InAs
0.27Sb
0.23P
0.5とを備える。エピタキシャル層は、下記の厚さ値を有する。活性領域InAs:2μm、下側バリア層InAsSbP:1μm、上側バリア層InAsSbP:2μm。連続的なオーミックコンタクトが基板側に形成され、100μmの直径を持つポイントコンタクトがエピタキシャル層側に形成される。
【0053】
図1(b)は、InAsを含み、硫黄でドープしたn型基板の上に成長した第2タイプの先行技術の構造を示す。該構造のエピタキシャル部は、厚さ2μmの意図的にノンドープの層InAsと、厚さ2μmの亜鉛ドープのバリア層InAs
0.27Sb
0.23P
0.5とを備える。p−n接合は、活性領域InAsにおいて、基板と構造のエピタキシャル部との間の界面から0.5μmの距離に設けられる。連続コンタクトが、エピタキシャル層側に付与され、100μmの直径を持つポイントコンタクトが基板側に形成される。従って、LEDチップは、エピタキシャル側が下向きになるように搭載される。
【0054】
発光ダイオード動作は、非一次電荷キャリア拡散、活性領域とバリア層との間のヘテロ界面における再結合、活性領域体積での放射性および非放射性の再結合、ダイオードの活性領域での放射自己吸収、および半導体体積からの発生した放射の出力のプロセスの合計として表現できる。電荷キャリアの大きい拡散長が、発光ダイオードの動作に対して界面再結合の著しい効果を提供する。急激な界面再結合は、活性領域厚さを増加させることによって減少できない。活性領域での放射自己吸収の増加をもたらすためである。ダイオードの活性領域体積での全体再結合レートは、下記のように表現できる。
【0055】
R
tot = e(A
SRHn+B
radn
2+C
Augern
3)d
【0056】
ここで、nは活性領域での電荷キャリア密度、eは電子の電荷、dは活性領域の厚さである。全体再結合は、ショックレー・リード非放射性再結合(A
SRHn)と、放射性再結合(B
radn
2)と、非放射性オージェ再結合(C
Augern
3)とを含む。上記の式から、nに比例するショックレー・リード非放射性再結合が、低い注入レベルでよく見られることになる。n
3に比例する非放射性オージェ再結合は、高い注入レベルでよく見られる。InAsをベースとした発光ダイオードは、注入したキャリア密度が、意図的にノンドープの材料での電荷キャリア密度に匹敵し、約10
16cm
−3に達するモードに従って、動作する。構造内の汚染および欠陥によって生ずるショックレー・リード再結合は、発光ダイオードの増加する効率にとって重大な障害を構成し、最小化する必要がある。
【0057】
エピタキシャル構造の構造完全性を改善し、ショックレー・リード非放射性プロセスの確率を低減し、本発明の発光ダイオードの放射性再結合の量子効率を増加させるために、バリア層がInSbPを含むヘテロ構造が開示される。
【0058】
図2は、本発明に係るヘテロ構造の第1実施形態の機構を示す。ヘテロ構造10は、InAsを含み、亜鉛でドープされ、約2×10
18cm
−3のp型電荷キャリア密度を持つ基板1と、基板1の上に設けられ、InSb
1−zP
zを含み、亜鉛でドープされ、約1〜3×10
18cm
−3までのp型電荷キャリア密度を持つバリア層2と、バリア層2の上に設けられ、約2μmの厚さを有し、InAs
1−x−ySb
xP
yを含み、意図的にノンドープであり、約2〜4×10
17cm
−3のn型電荷キャリア密度を持つ活性層3とを備える。バリア層2でのInP含量は約68%であり、バリア層2でのInSb含量は約32%である。
【0059】
発光ダイオードの放射波長および、エピタキシャル構造の層と基板との間の等周期性(isoperiodicity)条件は、InAsSbP固溶体において必要なInPおよびInSb含量を規定する。サンプルの回折ロッキングカーブと、InAs
1−x−ySb
xP
y固溶体の元素組成の測定データとの相関関係は、InAs
1−x−ySb
xP
y層およびInAs基板の格子パラメータの整列が、固相でのInPおよびInSbのモル分率の比率がy/x=2.1である場合に生ずることを示す。活性領域でのInPおよびInSbのモル分率が、発光ダイオードの波長に応じて調整され、約2.6μmの波長では、モル分率はそれぞれy=25%,x=12%である。放射波長が増加すると、InPおよびInSbのモル分率は減少する。約3.0μmの波長では、モル分率はそれぞれy=11%,x=5%である。
【0060】
利用した構造において、InSbPを含むバリア層2およびInAsSbPを含む活性層3の格子パラメータの誤差比率は、2×10
−4未満のΔa/aに達する。InSbPを含むバリア層2は、ヘテロ構造10の活性領域の体積内の電荷キャリアのより確実な保持を促進し、一方、先行技術のヘテロ構造でのバリア層InAsSbPと比べて、活性領域での非放射性プロセスを最小化する。
図2に示すヘテロ構造10は、2.6〜3.1μmの波長範囲で動作する発光ダイオードを製造するために使用される。
【0061】
図3は、本発明に係るヘテロ構造の第2実施形態の機構を示す。ヘテロ構造11は、InAsを含み、硫黄でドープされ、約2×10
18cm
−3のn型電荷キャリア密度を持つ基板4と、基板4の上に設けられ、約2μmの厚さを有し、意図的にノンドープである活性領域5と、活性領域5の上に設けられ、InSbPを含み、亜鉛で約1〜3×10
18cm
−3のp型密度にドープされたバリア層6とを備える。バリア層6でのInP含量は約68%であり、バリア層6でのInSb含量は約32%である。
【0062】
ヘテロ構造11の一実施形態において、活性領域5は、InAsSbを含み、活性領域において15%までのInSbモル分率を有するバルク層を備える。ヘテロ構造11のさらに他の実施形態において、活性領域5は、量子井戸InAs/InAsSbを備える。量子井戸は、半導体材料の薄い平坦な層(一般に1〜10nmの厚さ)で形成され、電子のポテンシャルエネルギーが井戸の外側より低く、よって電子の運動が1次元に制限されている。量子力学の法則に従って、こうした井戸内で電子エネルギーが量子化され、即ち、特定の離散した値だけをとる。ヘテロ構造11のさらに他の実施形態において、活性領域5は、歪み超格子GaInAs/InAsSbを備える。活性領域内のバルク層InAsSbの厚さは、約2.5μmである。活性領域内で交互配列した量子化層InAs/InAsSbまたはGaInAs/InAsSbを用いた場合、各層の厚さは、例えば、10nmであり、周期の総数は約108である。InSbP層の成長時にエピタキシャル構造への亜鉛拡散に起因して、p−n接合は、活性領域内で、InAs基板と構造のエピタキシャル部との間の界面から0.3μmの距離に配置される。
【0063】
開示したヘテロ構造11は、先行技術のボリュームのあるヘテロ構造InAs/InAsSbPをベースとしたサンプルと比較して、放射性再結合の量子効率を20%増加させることができ、しかも高いアンペア−ワット感度値を持つフォトダイオードを作成することができる。さらに、InSbPを含むバリア層6は、ヘテロ構造11の活性領域5の体積内の電荷キャリアのより確実な保持を促進し、一方、先行技術のヘテロ構造でのバリア層InAsSbPと比べて、活性領域5での非放射性プロセスを最小化する。量子井戸InAs/InAsSbおよび歪み超格子GaInAs/InAsSbの使用は、ボリュームのある構造と比較して、エピタキシャル転位の発生の問題を軽減する。さらに量子化構造は、非放射性オージェ過程の発生を減少させることができる。
【0064】
3.4μmの波長で動作するヘテロ構造を製造するためには、InAsSbバルク層が、活性領域内で約0%のInSbモル分率で形成される。GaInAs/InAs超格子を用いることによって、3.2μmの波長が得られる。さらに、ヘテロ構造の第2実施形態は、異なる方法を用いて同じ波長を得ることができる。例えば、4.4μmの波長は、InSbモル分率が約8.5%であるバルク層InAsSbとして形成された活性領域によって、あるいはInSbモル分率が約11%である量子井戸InAs/InAsSb(約10nmの井戸厚さ)として形成された活性領域によって得られる。本発明に係る
図3に示すヘテロ構造11は、3.1〜4.7μmの波長範囲で動作する発光ダイオードおよび2.0〜4.7μmの波長範囲で動作するフォトダイオードを製造するために使用される。さらに、第2実施形態のヘテロ構造をベースとしたフォトダイオードは、より短い波長で動作する。
【0065】
さらに本発明によれば、InSbPを含むバリア層2,6の禁制帯ギャップEgの幅は、
図2と
図3に示すように、0.7eVであり、
図1に係る先行技術のヘテロ構造のバリア層InAsSbPの禁制帯ギャップ幅(0.61eV)を超えている。従って、ダイオードの活性領域での電子閉じ込めは改善される。
【0066】
第1実施形態または第2実施形態のヘテロ構造は、本発明の発光ダイオードおよびフォトダイオードが動作すべき波長に従って選択できる。3.1〜4.7μmのスペクトル範囲で動作する発光ダイオードを製造するための第2実施形態のヘテロ構造の選択は、下記の検討事項に起因して決定される。3.1μmの波長は、基板InAsを通じた放射出力を可能にするための近似境界である。高ドープの基板n−InAsでは、バースタイン−モス効果に起因して、フェルミ準位での増加は100meVとなり、少なくとも3.1μmの波長を持つ放射にとって基板を透明にする。基板の透明性は、エピタキシャル構造のフォトリソグラフィの際、成長層側に連続コンタクトを付与でき、エピタキシャル側が下向きになるように発光ダイオードを搭載できる。前記マウント方法は、p−n接合がホルダから数ミクロンの距離に配置されるため、熱除去を著しく改善し、即ち、電流フロー時に活性領域内で最小の局所温度を提供する。3.3〜3.4μmに渡る波長を持つ発光ダイオードでは、InAs基板に対して等周期であるような活性領域の組成を選択することができない。InAs基板、歪み緩和量子井戸または歪み補償超格子に対して非等周期であるバルク層が、活性領域内で使用できる。
【0067】
さらに、本発明のヘテロ構造が、ドーピング添加物として上述した化合物の使用に限定されず、層内で必要な電荷キャリア密度を提供する何れか他のドーピング添加物も使用できる。
【0068】
本発明のヘテロ構造は、気相エピタキシー手法を用いた方法によって、有機金属化合物から製造される。さらに、当業者は、気相エピタキシー手法のための任意の設備を用いて、開示したヘテロ構造の実施形態を製造できる。方法は、気相エピタキシー手法に限定されず、ヘテロ構造は、分子線エピタキシー、液相エピタキシーを用いて、あるいは本発明に係る構造を持つヘテロ構造を製造するのに適した何れか他の方法を用いて製造できることに留意すべきである。本発明によれば、有機金属化合物からの気相エピタキシー手法の使用が好ましいことに留意すべきである。
【0069】
図4は、気相エピタキシー手法(OMC VPE)によって有機金属化合物から、構造を成長させるためのエピタキシャル装置20の機構を示す。装置20は、ガスフロー制御システム(不図示)と、パージライン21と、ダンプライン22と、一次ライン23と、反応チャンバ24と、基板を加熱するためのヒータ34と、アフターバーナー25およびフィルタ26を含む有毒廃棄物処理システムとを備える。
図4は、水素供給ライン27と、窒素供給ライン28とを示す。さらに
図4は、有機金属化合物を備えた容器33と、ガスレギュレータ32と、バルブ31と、リザーバ30と、シャッタ29とを示す。
【0070】
気相混合物を反応チャンバ24へ準備し供給するために必要なガスシステムは、有機金属化合物を備えた容器33と、有機金属化合物を設定温度に維持するための恒温槽(不図示)と、高純度媒体のためのガスレギュレータ32、シャッタ29およびバルブ31からなる。
【0071】
ガスレギュレータ32は、一次水素供給ライン27に設置され、並んでフィーダ(有機金属化合物を備えた容器33)に導かれる。ガスレギュレータ32は、ガスフローレートに比例した0〜10Vの電圧を持つ電気出力信号を備えた自動ガスフローレート制御のシステムとして形成される。フィーダは、ガスシステムの一部を構成する。フィーダの動作原理は、液体または紛体の層を通過する際、複合気相混合物を形成する水素をベースとしている。混合物組成は、そこを通過する水素の流量および有機金属化合物の温度によって制御される。有機金属成分は、反応チャンバ24内で大気圧または少し低い圧力(約150mmHg)で混合される。
【0072】
有機金属化合物(OMC)が、金属−炭素結合を含む物質および有機分子を伴う金属の配位化合物の幅広い分類である。
【0073】
半導体膜を成長させるのに関連した有機金属化合物は、通常は室温で液体であるが、幾つかの化合物は、室温およびより高い温度で固体のままである。有機金属化合物は、通常は比較的高い蒸気圧を有し、供給源として機能する液体の中または固体化合物の上に、キャリアガス、例えば、窒素、水素、アルゴンまたはヘリウムを通過させることによって、反応容器24に容易に供給できる。
【0074】
OMC VPE技術によれば、基板表面上の結晶化が、熱分解および気相の化合物間の相互作用の結果として生じる。単結晶基板は、加熱されたホルダに置かれる。基板表面に近接したガス混合物が高温に加熱され、一方、反応チャンバ24の壁は比較的低い温度のままであり、反応チャンバ24の表面での低い試薬損失とともに、結晶基板上での半導体膜の凝縮をもたらす。ガス混合物のパラメータが、各供給源からのフローレートを制御する電子システムを用いて制御できる。
【0075】
本発明のヘテロ構造の層の成長が、第3周期および第4周期の元素を含む個別分子の分解の結果である。大気圧または大気圧近傍での反応容器内のガスフロー動力学(dynamics)は、基板の静的表面近くに境界層の形成をもたらす。試薬分解が、熱い境界層において生じ、これを通じて分子ガスが基板に向かい、または基板自体の表面上に生じる。境界層の厚さは、フローの方向に増加する。到来するガス混合物は、成長温度において基板と平衡状態である場合、即ち、ガスが強く過飽和しているが、平衡がガスと固体本体との間の界面に形成される場合に存在するものより高い濃度で試薬を含む。境界層を通って拡散する試薬が分解し、層成長に必要な物質の原子を放出する。境界層を通る拡散レートが試薬分解レートを超えた場合、表面プロセスの動力学は、膜成長に顕著に影響を及ぼす。
【0076】
OMC VPEで成長するエピタキシャル層のドーピングが、対応する試薬をガスフローに導入することによって行われる。試薬は、層を形成する一次試薬と同様に、境界層を通って拡散する。結晶格子への添加物の導入は、表面反応、例えば、吸着−脱着または表面触媒反応などによって、あるいは試薬熱化学によって定義できる。亜鉛およびマグネシウムが、p型添加物を用いて化合物A
3B
5をドープするために一般に使用され、テルル、スズまたはセレンをベースとした有機金属試薬が、n型添加物を用いてドープするために一般に使用される。水素化物(例えば、H
2Se,SiH
4)も、エピタキシャル層をドープするために使用できる。
【0077】
OMC VPE法は、大面積の基板上に均一な厚さを持つ構造を提供できる。該方法は、膜を数原子層の厚さで合成するために使用できる。本発明のヘテロ構造を形成する方法は、下記の母材を利用する。インジウム源としてトリメチルインジウム(TMIn)、アンチモン源としてトリメチルスチビン(TMSb)、ガリウム源としてトリメチルトリメチルガリウム(TMGa)、ヒ素源としてtert(ターシャリ)−ブチルアルシン(C
4H
9AsH
2)、リン源としてtert−ブチルホスフィン(C
4H
9PH
2)、ドーピング添加物(亜鉛)源としてジエチル亜鉛(DeZn)。
【0078】
構造を形成する先行技術の方法では、水素化物ガス、例えば、ヒ素源としてアルシン(AsH
3)、リン源としてホスフィン(PH
3)が使用される。アルシン(AsH
3)およびホスフィン(PH
3)が、これらの高い有毒性および副反応に入る傾向にも拘らず、OMC VPE技術において最も広く使用されるヒ素源およびリン源である。加圧された有毒ガスを収納するガスタンクを用いて作業する場合、一定の困難さが避けられない。有機金属化合物は、操作時にあまり危険ではなく、大気圧でステンレス鋼バレル内に配置できる。
【0079】
上述したように水素化物が副反応に入る傾向は、In含有化合物からなる層の再現可能な製造を実施するのに著しい困難さを生じさせる。TMInおよびAsH
3を含むガス混合物中でInAs反応を成長させることは、不安定な化合物InR
3・PH
3の形成をもたらす(Rはアルキル基)。前記化合物は、自発的に分解して、不揮発性のポリマー(InRPH)
nとCH
4ガスを形成する。ポリマーは、反応容器内の成長ゾーンに接近して沈殿し、成長効率の損失およびエピタキシャル層の均一性の損失をもたらす。さらに、反応容器の壁が付加物分解の触媒として働き、よって分解レートが、表面構造の小さい変化に対して敏感である。その結果、プロセスは、異なる系で異なって、あるいは1つの系で異なる時間に行われる。こうして成長したInAsは、電気的性質および形態(morphology)に関して低く不安定な品質で評価される。
【0080】
本実施形態のヘテロ構造を製造する方法に従って、エピタキシャル層の構造完全性を改善するために、水素化物ガス アルシンおよびホスフィンをヒ素およびリンの代替供給源で置換することが提案される。種々の有機金属化合物、例えば、トリメチルアルシン(TMAs)、tert−ブチルアルシン(TBAs)、フェニルアルシン(PhAs)、モノエチルアルシン(MEAs)、tert−ブチルホスフィン(TBP)が、OMC VPEにおいてアルシンおよびホスフィンを置換するために使用できる。
【0081】
有機金属化合物はまた、エピタキシャル層の中に合体して、電気的性質、電荷キャリアの密度および移動度に影響を与える不純物供給源でもある。不要な不純物の影響は、有機金属化合物の製造および浄化技術を改善することによって減少する。炭素は、In含有の有機金属化合物の不完全な分解の生成物(In−CH
xラジカル)の一部として、自然不純物である。
【0082】
エピタキシャル層の炭素汚染のレベルは、表面に到達したラジカルAsH
xとAsの比率によって定義される。As−H
2およびAs−Hラジカルは、ヒ素源分解の生成物であり、前記ラジカルがIn−CH
x化合物(In含有OMCの不完全な分解の生成物)と結合することに起因して、エピタキシャル層の炭素汚染を減少させ、これらを成長中の層の中に合体させないようにできる。
【0083】
As供給源として、水素化物ガスAsH
3の代わりにtert−ブチルアルシンC
4H
9AsH
2の使用、およびP供給源として、PH
3の代わりにtert−ブチルホスフィンC
4H
9PH
2の使用は、成長中の層の中への炭素ラジカルの合体を減少させることができる。tert−ブチルアルシンおよびtert−ブチルホスフィンが有機金属化合物であり、追加の炭素を気相に導入するにも拘らず、基板上方の反応が炭素ラジカルの相互中性化をもたらし、エピタキシャル層の汚染減少をもたらす。本発明のヘテロ構造を形成する方法を用いた結果、活性領域内の電荷キャリアおよび欠陥の密度が減少し、ショックレー・リード非放射性再結合の比率が減少し、こうして発光ダイオードおよびフォトダイオードの動作効率を増加させる。
【0084】
図5と
図6は、水素化物源を用いてInAs基板(100)の上に成長した、先行技術のInAs
0.27Sb
0.23P
0.5固溶体の回折ロッキングカーブ、およびtert−ブチルアルシンおよびtert−ブチルホスフィンを用いてInAs基板(100)の上に成長した本発明のInSb
0.32P
0.68バリア層の回折ロッキングカーブをそれぞれ示す。
図5に示す水素化物を用いて成長した例の回折ロッキングカーブ上の幾つかのピークは、おそらくInAsSbP固溶体の個々の相への分解に起因している。
図6は、単一で狭く顕著なピークを持つ回折ロッキングカーブを示す。従って、AsおよびPの有機金属源(tert−ブチルアルシンおよびtert−ブチルホスフィン)を用いた場合、エピタキシャル層の構造完全性での改善が明らかである。エピタキシャル構造の構造完全性での改善は、ショックレー・リード非放射性プロセスの発生比率を低下し、発光ダイオードの放射性再結合の量子効率を増加させる。
【0085】
気相エピタキシー手法によって本発明に係るヘテロ構造を形成する方法は、下記の予備ステップを含む。エピタキシーの準備ができた(エピ−レディ)基板を、反応チャンバ24の中に投入するステップ。反応チャンバ24を中性ガス(窒素)で20分間以上パージするステップ。水素を反応チャンバ24の中に供給するステップ。反応チャンバ24の排気(前記手順は、反応チャンバ24が気密的に封止されるのを確保するために実行される)。ポンプをオフにして、水素を反応チャンバ24の中に供給するステップ。水素露点を2分間以上測定するステップ(前記手順は、水素キャリアガスの純度を検査し、ガス配給システムのカップリングが気密的に封止されるのを確保するために実行される)。基板を350℃に5分間以上加熱し、5分間以上基板表面から酸化膜を除去するステップ。tert−ブチルアルシンを反応容器の中に供給するステップ。tert−ブチルアルシンのフローの下で基板を600℃に加熱し、5分間アニールを行うステップ(前記ステップのコースを超えて、基板表面はさらに清浄化される)。基板をエピタキシャル構造成長の温度(530℃)に冷却するステップ。
【0086】
本発明のヘテロ構造の第1実施形態を、InAsを含む基板1の上に成長させるために、InSbPを含むバリア層2を成長させる。バリア層2を成長させるために、キャリアガスを用いて、トリメチルインジウム、トリメチルスチビン、tert−ブチルホスフィン、ジエチル亜鉛を反応チャンバ24に供給する。バリア層2の厚さが約1〜2μmに到達した場合、ガス供給を停止する。反応チャンバ24は、水素でパージする。InAsSbPを含む活性層3をバリア層2の上に成長させるために、キャリアガスを用いて、トリメチルインジウム、tert−ブチルアルシン、トリメチルスチビン、tert−ブチルホスフィンを反応チャンバ24に供給する。活性層3の厚さが2μmに到達した場合、tert−ブチルアルシンおよびtert−ブチルホスフィンを除いてガス供給を停止する。成長した構造は、tert−ブチルアルシンおよびtert−ブチルホスフィンのフローの下で400℃に冷却する。400℃に到達すると、tert−ブチルアルシンおよびtert−ブチルホスフィンの供給を停止し、水素フローの下で、成長したヘテロ構造を室温までさらに冷却する。反応チャンバ24は、中性ガス、例えば、窒素で20分間以上パージした後、基板排出される。
【0087】
本発明のヘテロ構造の第2実施形態を、InAsを含み、硫黄でドープした基板4の上に成長させるために、活性領域5を成長させる。一実施形態において、活性領域5は、InAsSbを含むバルク活性層である。前記活性層を成長させるために、キャリアガスを用いて、トリメチルインジウム、tert−ブチルアルシン、トリメチルスチビンを反応チャンバ24に供給する。
【0088】
さらに他の実施形態において、活性領域5は、量子井戸InAs/InAsSbを含む。前記量子井戸を形成する層を成長させるために、キャリアガスを用いて、トリメチルインジウム、tert−ブチルアルシン(トリメチルスチビンの分離供給とともに)を反応チャンバ24に供給する。トリメチルスチビンは15秒間供給し、そして供給を30秒間停止する。
【0089】
さらに他の実施形態において、活性領域5は、歪み超格子GaInAs/InAsSbを含む。前記超格子を成長させるために、キャリアガスを用いて、トリメチルインジウム、tert−ブチルアルシン(トリメチルガリウムとトリメチルスチビンの交互供給とともに)を反応チャンバ24に供給する。トリメチルガリウムは30秒間供給し、そして供給を停止し、トリメチルガリウムの供給を停止すると同時にトリメチルスチビンを15秒間供給する。
【0090】
活性領域5の厚さが約1〜2μmに到達した場合、tert−ブチルアルシンを除いてガス供給を停止する。反応チャンバ24は、水素でパージする。活性領域5の上にInSbPを含むバリア層6成長させるために、キャリアガスを用いて、トリメチルインジウム、トリメチルスチビン、tert−ブチルホスフィン、ジエチル亜鉛を反応チャンバ24に供給する。バリア層6の厚さが2μmに到達した場合、tert−ブチルアルシンおよびtert−ブチルホスフィンを除いてガス供給を停止する。成長した構造は、tert−ブチルアルシンおよびtert−ブチルホスフィンのフローの下で400℃に冷却する。400℃に到達すると、tert−ブチルアルシンおよびtert−ブチルホスフィンの供給を停止し、水素フローの下で、成長したヘテロ構造を室温までさらに冷却する。反応チャンバ24は、中性ガス(窒素)で20分間以上パージした後、基板排出される。ガス供給の間隔、そして特定の厚さを得るのに必要に成長時間は、実験的に決定できる。気相エピタキシー設備が層厚をリアルタイムで制御することが可能で、よって既知の手段によって成長時間を制御できる場合、実験的に取得される時間値は、予備的な値として記録できる。
【0091】
LEDチップまたはフォトダイオードチップを形成するために、ヘテロ構造の成長後プロセスが行われる。前記プロセスは、フォトリソグラフィプロセスと、オーミックコンタクトを形成するプロセスとを含む。
【0092】
エピタキシャル構造のためのオーミックコンタクトを形成することは、半導体デバイス、例えば、発光ダイオードまたはフォトダイオードを製造する技術的プロセスの一部である。オーミックコンタクトが、ダイオードと外部回路との間の電気接続を提供する。金属と半導体との間のコンタクトが非整流的、即ち、コンタクト抵抗が電流方向の変化の際に一定である場合、そして、直線的な電圧−電流特性であり、即ち、コンタクト抵抗が電流値に依存しない場合、オーミックである。オーミックコンタクトは、下記の条件を満たす必要がある。コンタクトは、p−n接合の面に対して垂直な方向および平行な方向に低い抵抗を有する必要があり、それは非一次電荷キャリアを注入すべきでなく、半導体に深く侵入すべきでない。コンタクトを製造するために使用される材料は、半導体との安定した物理的、化学的な系を形成する必要がある。それは、高い熱伝導性を有する必要があり、半導体に関して中性である必要があり、あるいは、半導体に含まれる添加物(電子半導体ではドナー、正孔半導体ではアクセプタ)と同じ型の添加物を含む必要があり、高い機械的強度をコンタクトに提供する必要がある。上記の条件を満たすことは、広範囲の動作条件でのデバイスの電気的性質およびその動作安定性を規定する。
【0093】
上記の条件を全て満たすコンタクトを製造することは事実上不可能であることに留意すべきである。条件の本来的な矛盾にある理由とは、金属と半導体との間のコンタクトが確実である必要があるが、金属は、エピタキシャル構造内に深く侵入するべきでない。コンタクト材料は中性である必要があり、同時に半導体の酸化膜を低減するように構成する必要がある。前記低減なしでは、満足するコンタクト抵抗が達成できないからである。
【0094】
高品質のコンタクトを製造するために、多層系が好都合に使用できる。こうした系の可能な例が、Cr(80Å)−Au(300Å)−Ni(500Å)−Au(1000Å)コンタクトであり、これは本発明のヘテロ構造に形成できる。半導体と接触する第1層のクロムは、エピタキシャル構造内へのコンタクトの低い侵入深さを提供し、酸化膜を低減し、その上に付与される次の金層との良好な接着性を提供する。前記クロムおよび金の層は、コンタクト系の主要部を形成する。化学的に中性で高い導電性を備えた金属である金が、最終の上部導電層を形成するために使用される。ニッケル膜の使用は、コンタクト層と導電層との間の相互作用を防止し、構造内への金の拡散を低減するために必要である。
【0095】
オーミックコンタクトは、電流を通過させる際に放出される熱を減少させるために、低い抵抗を有する必要がある。種々のコンタクト系を下記の材料に関して研究した。約2×10
16cm
−3の電子濃度を持つ意図的にノンドープのエピタキシャル層n−InAs
32、約1.3×10
17cm
−3の電子濃度を持つn−InAs
0.53Sb
0.15P
0.32、約5×10
18cm
−3の正孔濃度を持つp−InAs基板、約2×10
18cm
−3の正孔濃度を持つ亜鉛ドープのエピタキシャル層p−InAs
0.53Sb
0.15P
0.32。
【0096】
図7に示すように、300×100μm
2のサイズを有するコンタクトパッド50が選択した材料について製造され、4〜100mmの間隔で順に配置される。駆動エレメント51が、ボールボンディングを用いて種々のコンタクトパッド50に溶接される。さらに、コンタクトは、引っ張り試験にかける。コンタクト系の抵抗をコンタクト間の距離に応じて測定した。実験ポイントを通過する直線ラインが、垂直軸上でコンタクトパッドの2倍の抵抗と等しい値を分離した。測定のために選択された半導体の深さ抵抗は、コンタクト抵抗と比較して無視できることが判った。コンタクト系の焼成研究の結果を(表1)〜(表4)に示す。(表1)は、約5×10
18cm
−3の正孔濃度を持つp−InAs基板(100)と結合したコンタクトの抵抗を列挙する。(表2)は、約2×10
18cm
−3の正孔濃度を持つp−InAs
0.53Sb
0.15P
0.32層と結合したコンタクトの抵抗を列挙する。(表3)は、約1×10
16cm
−3の層内電子濃度を持つn−InAsエピタキシャル層と結合したコンタクトの抵抗を列挙する。(表4)は、約1.3×10
17cm
−3の電子濃度を持つn−InAs
0.53Sb
0.15P
0.32エピタキシャル層と結合したコンタクトの抵抗を列挙する。
【0101】
測定結果の分析は、高ドープ材料p−InAsおよびp−InAsSbPと結合したコンタクトの高い品質を示す。研究した材料から、意図的にノンドープのインジウム・ヒ素層(約2×10
16cm
−3の電子濃度)との最小コンタクト抵抗が、Cr−Au−Ni−Auによって提供される。示した抵抗値(コンタクト抵抗としてその面積で計算)は、最適な焼成モードで約1×10
−4オーム・cm
2である。
【0102】
Cr−Au−Ni−Auコンタクトを備えたエピタキシャル構造をベースとしたLEDチップまたはフォトダイオードを製造するプロセスは、下記のステップを含む。ヘテロ構造は、アセトン中で処理し、テトラクロロメタンおよびイソプロピルアルコール中で脱脂し、そして130℃で30分間焼成する。
【0103】
そして、フォトリソグラフィを行って、第1コンタクトを形成する。本実施形態において第1コンタクトは円形状またはリング状であるが、第1コンタクトは、矩形、長円形、または任意の他の形状でもよく、それは、本発明の範囲から逸脱することなく、ドット、十字または任意の連続的な幾何学形状を有するフレームで形成してもよい。フォトリソグラフィは、下記のステップを含む。フォトレジストを塗布し、「コンタクト」パターンを付与し、露光し、現像し、100℃で1時間、硬化させる。そして、コンタクトコーティングの前に、例えば、プラズマ中の処理によって表面を清浄化する。そして、Cr(80Å)−Au(300Å)−Ni(500Å)−Au(1000Å)コンタクトをコートする(括弧内に示した各層の厚さ)。コーティング後、保護マスクをアセトン中で除去する。そして、ヘテロ構造は、アセトン中で拭い、テトラクロロメタンおよびイソプロピルアルコール中で脱脂し、そして130℃で30分間焼成する。
【0104】
そして、ガルバニックフォトリソグラフィを行う。フォトリソグラフィは、下記のステップを含む。フォトレジストを塗布し、「コンタクト」パターンを付与し、露光し、現像し、100℃で1時間、硬化させる。サンプルの反対側および端部を化学的に安定なニス(varnish)を用いて封止する。コンタクトの金−ガルバニック強化を行う。そして、ヘテロ構造は、アセトン中で拭い、テトラクロロメタンおよびイソプロピルアルコール中で脱脂し、そして130℃で30分間焼成する。
【0105】
そして、フォトリソグラフィを行って、分離ネットを形成する。フォトリソグラフィは、下記のステップを含む。フォトレジストを塗布し、「分離ネット」パターンを付与し、露光し、現像し、100℃で1時間、硬化させる。分離ネットは、HBr:H
2O
2異方性エッチャント中でエッチングする。さらに、エッチングは、ドライエッチング法を用いて、例えば、プラズマ中で実施できる。
【0106】
そして、面側(face side)をフォトレジストを用いて封止し、該構造を、ピセイン(picein)を用いて面側でガラスと接着させる。
【0107】
さらに、基板を研磨することによって、該構造を200μmの厚さに薄くし、そして、該構造をHCl:HNO
3:H
2Oエッチングで処理する。そして、該構造を洗浄し、ピセインを除去し、フォトレジストを除去する。裏面はプラズマ中で処理する。
【0108】
そして、Cr(80Å)−Au(300Å)−Ni(500Å)−Au(1000Å)連続第2コンタクトをコートする。
【0109】
アセンプリプロセスの際、LEDチップまたはフォトダイオードチップがハウジング内に戴置される。アセンプリプロセスは、任意の既知の技術を用いて実行できる。
【0110】
LEDチップにおいて、連続コンタクトおよびポイントコンタクトを付与する側の選択および、マウント方法の選択は、下記の基準に基づいて行う。基板は、活性ダイオード領域の体積で発生する放射に対して透明である必要がある。p型導電性を持つ半導体中の自由電荷キャリアでの吸収が10倍高いため、出力された放射はn型導電性を持つ材料を通過する必要がある。
【0111】
上記基準を検討すると、第1実施形態のヘテロ構造をベースとした発光ダイオードにおいて、連続コンタクトが基板側に付与され、ポイントコンタクトがエピタキシャル層側に形成される。LEDチップは、基板が下向きになるように搭載される。放射は、エピタキシャル層を通って出力される。
【0112】
第2実施形態のヘテロ構造をベースとした発光ダイオードにおいて、連続コンタクトはエピタキシャル層側に付与され、ポイントコンタクトは基板側に形成される。LEDチップは、エピタキシャル層側が下向きになるように搭載される。放射は、基板を通って出力される。
【0113】
フォトダイオードは、第2実施形態のヘテロ構造をベースとして製造される。ダイオードの長波長側からの光感度境界λ
крは、活性領域材料の禁制帯ギャップEgの幅によって定義される。短波長感度境界λ
корは、「ワイドバンド・ウインドウ」の禁制帯ギャップEgの幅に依存し、これを通じて光がダイオードの活性領域に入る。前記「ワイドバンド・ウインドウ」は、p−InSbP材料またはn−InAs基板によって形成できる。放射が通過して入る側は、必要とされる短波長感度境界によって決定される。光がn−InAs基板側から入る場合、λ
корは約3μmであり、ダイオードは、エピタキシャル側が下向きで搭載される。ダイオードをエピタキシャル側が上向きになるように搭載する場合、光は、ワイドバンド層p−InSbPを通過し、λ
корは約2μmである。
【0114】
さらに、本発明のヘテロ構造をベースとしたLEDチップまたはフォトダイオードチップが、任意の既知の方法を用いて、または任意の他の既知の材料を用いて製造できる。例えば、フリップチップマウントのためのコンタクトを備えた発光ダイオードまたはフォトダイオードが、本発明のヘテロ構造をベースとして製造できる。フリップチップマウントのためのコンタクトを備えたダイオードを製造する場合、エピタキシャル側と結合したコンタクトおよび基板と結合したコンタクトは裏面に設置され、その結果、ヘテロ構造の上面はフリーになる。本発明に係るダイオードを製造することは、フリップチップ技術に適した任意の方法を用いて実施できる。
【0115】
さらに、発光ダイオードまたはフォトダイオードを製造する方法は、発光ダイオードまたはフォトダイオードの素子を形成するため、例えば、メサ(mesa)を形成するための他のフォトリソグラフィプロセスを含んでもよい。
【0116】
LEDチップは、例えば、約350×350μm
2の寸法を持つ四角形状を有し、約100μmの直径を有するポイントコンタクト、または約250μmの直径を有するリング状コンタクトを備える。フォトダイオードチップは、例えば、約700×700μm
2の寸法を持つ四角形状を有し、約500μmの直径を有するリング状コンタクトを備える。
【0117】
本発明の発光ダイオードまたはフォトダイオードは、室温で動作する。さらに、室温より低いまたは高い特定の温度を安定化させることが必要である場合、ダイオードは少なくとも1つのペルチェ素子を備えることができる。
【0118】
本発明に従って製造される発光ダイオードは、下記のように動作する。
【0119】
第1実施形態のヘテロ構造において、順方向電圧(基板に正、活性層に負)の印加時に、電流はヘテロ構造を通過する。電子が活性領域に注入される。InSbPバリア層の側からの高いポテンシャルバリアは、活性領域からの電子の流出を制限する。p型バリア層からの正孔は、活性領域に注入される。活性領域に閉じ込められた電子および正孔は、効率的に再結合し、活性領域の禁制帯ギャップの幅に対応した波長を持つ赤外放射を形成する。放射は、最小損失で活性領域を通過し、活性層側から発光ダイオードを出射する。第1実施形態のヘテロ構造をベースとした発光ダイオードは、2.6〜3.1μmの範囲の波長で発光する。
【0120】
第2実施形態のヘテロ構造において、順方向電圧(ヘテロ構造のバリア層に正、n型基板に負)の印加時に、電流はヘテロ構造を通過する。電子が基板から活性領域に注入される。InSbPバリア層の側からの高いポテンシャルバリアは、活性領域からの電子の流出を制限する。p型バリア層からの正孔は、活性領域に注入される。活性領域に閉じ込められた電子および正孔は、効率的に再結合し、活性領域の禁制帯ギャップの幅に対応した波長を持つ赤外放射を形成する。基板材料は3.1〜4.7μmの範囲の放射を吸収しないことにより、放射は、最小損失で活性領域を通過し、基板側から発光ダイオードを出射する。
【0121】
本発明に従って製造されるフォトダイオードは、下記のように動作する。
【0122】
フォトダイオードが、n−InAs基板またはp−InSbP層を通る光束で照射されると、電荷ペア(自由電子と正孔)が活性層InAsSb内で発生する。フォトダイオードの活性層は、半導体の空乏層を備え、これは統合された電界を形成し、光によって励起された電子/正孔ペアは分離する。非一次電荷キャリア(n領域での正孔)が遷移電界によって引っ張られ、半導体のp領域へ移動し、そこでは前記正孔が一次キャリアを構成する。新たに形成された一次電荷キャリアは、n領域での電子の濃度を増加させ、空乏領域の抵抗を低下させる。光束によって形成された過剰な非一次キャリアの移動に起因して、ダイオードを通過する光電流が形成される。ワイドバンド領域(n−InAs基板またはp−InSbP層)で発生した電子/正孔ペアも電界によって分離され、光電流に寄与する。フォトダイオードの長波長境界は、フォトダイオードの活性層の禁制帯ギャップの幅によって規定される。短波長応答境界は、光が活性層に通過する材料の禁制帯ギャップの幅および厚さによって規定される(この場合、それは、n−InAs基板またはp−InSbP層の禁制帯ギャップの幅および厚さによって規定される)。
【0123】
「ワイドバンド・ウインドウ」(n−InAs基板またはp−InSbP層)の使用は、表面再結合の減少に起因して、フォトダイオードの動作時の量子効率をさらに増加できる。
【0124】
前述の説明で開示された本発明の実施形態は、単に例示的であり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されることを意味しないことに留意すべきである。本発明の精神および範囲は下記の請求項でのみ定義される。
【国際調査報告】