(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-534709(P2015-534709A)
(43)【公表日】2015年12月3日
(54)【発明の名称】高表面積炭素材料を含む活物質組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/20 20060101AFI20151106BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20151106BHJP
H01M 10/06 20060101ALI20151106BHJP
【FI】
H01M4/20 Z
H01M4/62 B
H01M10/06 L
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-534740(P2015-534740)
(86)(22)【出願日】2013年9月27日
(85)【翻訳文提出日】2015年3月27日
(86)【国際出願番号】US2013062176
(87)【国際公開番号】WO2014052753
(87)【国際公開日】20140403
(31)【優先権主張番号】61/707,155
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】391010758
【氏名又は名称】キャボット コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】CABOT CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】ネッド ジェイ.ハードマン
(72)【発明者】
【氏名】パオリーナ アタナッソバ
(72)【発明者】
【氏名】ミオドラッグ オルジャカ
(72)【発明者】
【氏名】ベリスラブ ブリザナック
(72)【発明者】
【氏名】ケネス シー.コエラート
(72)【発明者】
【氏名】オーレリアン エル.デュパスキエ
【テーマコード(参考)】
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H028AA05
5H028BB03
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5H050DA10
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5H050EA08
5H050EA09
5H050EA10
5H050EA21
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5H050EA23
5H050FA13
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA06
5H050HA07
5H050HA20
(57)【要約】
少なくとも250m
2/gの表面積を有する炭素材料(6’)と、有機分子防縮剤(4’)とを含む負極活物質組成物が本明細書に開示され、炭素材料の防縮剤に対する比率は、5:1〜1:1の範囲であり、該組成物は、0.8μm〜4μmの範囲のメジアン細孔径を有する。また、そのような組成物を含む電極および電池、ならびにそれらの作製方法も開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも250m2/gの表面積を有する炭素材料と、
有機分子防縮剤と、を含む、負極活物質組成物であって、
炭素材料の防縮剤に対する比率は、5:1〜1:1の範囲であり、
前記組成物は、0.8μm〜4μmの範囲のメジアン細孔径を有する、負極活物質組成物。
【請求項2】
前記炭素材料は、カーボンブラック、活性炭、膨張化黒鉛、グラフェン、数層グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、黒鉛から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記炭素材料は、400m2/g〜1800m2/gの範囲の表面積を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記炭素材料は、700m2/g〜1700m2/gの範囲の表面積を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記炭素材料は、1000m2/g〜2600m2/gの範囲の表面積を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項6】
前記炭素材料は、1000m2/g〜1700m2/gの範囲の表面積を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項7】
前記炭素材料は、32mL/100g〜500mL/100gの範囲のDBPを有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
有機分子防縮剤は、リグノスルホン酸塩、リグニン、木粉、パルプ、フミン酸、木製品、ならびにそれらの誘導体および分解産物から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記有機分子防縮剤は、リグノスルホン酸塩から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
鉛含有物質およびBaSO4をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記鉛含有物質は、鉛、PbO、Pb3O4、Pb2O、およびPbSO4、ならびにそれらの水酸化物、酸、および他の金属錯体である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記鉛含有物質は鉛を含み、前記有機分子防縮剤の少なくとも20%が前記鉛含有物質の表面を被覆する、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記鉛含有物質は鉛を含み、前記有機分子防縮剤の少なくとも50%が前記鉛含有物質の表面を被覆する、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
3.0m2/gを超える表面積を有する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記メジアン細孔径は、1.0μm〜3.5μmの範囲である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記メジアン細孔径は、1.2μm〜3.5μmの範囲である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記メジアン細孔径は、1.2μm〜3.0μmの範囲である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前記メジアン細孔径は、1.5μm〜3.0μmの範囲である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
5.0m2/gを超える表面積を有する、請求項1〜18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
1.5μm〜3.5μmの範囲のメジアン細孔径を有する、請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
前記有機分子防縮剤は、前記組成物の総質量に対して0.1質量%〜1.5質量%の範囲の量で存在する、請求項1〜20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
前記有機分子防縮剤は、前記組成物の総質量に対して0.2質量%〜1.5質量%の範囲の量で存在する、請求項1〜20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
前記有機分子防縮剤は、前記組成物の総質量に対して0.3質量%〜1.5質量%の範囲の量で存在する、請求項1〜20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項24】
前記炭素材料は、0.05質量%〜3質量%の範囲の量で存在する、請求項1〜23のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項25】
前記炭素材料は、0.15質量%〜2質量%の範囲の量で存在する、請求項1〜23のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
前記炭素材料は、0.4質量%〜1質量%の範囲の量で存在する、請求項1〜23のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項27】
前記炭素材料は、0.6質量%〜1.質量%の範囲の量で存在する、請求項1〜23のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項28】
モノリスである、請求項1〜27のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項29】
請求項1〜28のいずれか1項に記載の負極活物質組成物を含む、電極。
【請求項30】
請求項1〜28のいずれか1項に記載の負極活物質組成物を含む、鉛酸蓄電池。
【請求項31】
請求項29に記載の電極を含む、鉛酸蓄電池。
【請求項32】
30m2/gの表面積を有するカーボンブラックおよび0.2% Vanisperse−Aを組み込んだ標準電池と比較して、前記標準電池の寒冷時起動時間の30%を超えて寒冷時起動時間を短縮することなく、動的電荷受容値の少なくとも30%の増加を示す、請求項30または31に記載の電池。
【請求項33】
30m2/gの表面積を有するカーボンブラックおよび0.2% Vanisperse−Aを組み込んだ電池と比較して、前記標準電池の寒冷時起動時間の30%を超えて寒冷時起動時間を短縮することなく、少なくとも5倍の寿命サイクルの増加を示す、請求項30〜32のいずれか1項に記載の電池。
【請求項34】
鉛酸蓄電池用の負極活物質組成物を作製する方法であって、
酸化鉛、有機分子防縮剤、およびBaSO4を組み合わせて乾燥粉末混合物を形成することと、
前記乾燥粉末混合物を水と組み合わせ、続いて硫酸を添加してスラリーを形成することと、
前記スラリーに、少なくとも250m2/gの表面積を有する炭素材料を添加することと、
前記負極活物質組成物のペースト中間組成物を形成することと、を含む、方法。
【請求項35】
前記炭素材料を、前記添加の前に水で予め湿潤させる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
鉛酸蓄電池用の負極活物質組成物を作製する方法であって、
酸化鉛、有機分子防縮剤、およびBaSO4を組み合わせて乾燥粉末混合物を形成することと、
少なくとも250m2/gの表面積を有する予め湿潤させた炭素材料を前記乾燥粉末混合物に添加することと、
硫酸および水を、前記炭素材料を含有する前記混合物と組み合わせてスラリーを形成することと、
前記負極活物質組成物のペースト中間組成物を形成することと、を含む、方法。
【請求項37】
前記ペースト中間組成物を乾燥させて、固体の負極活物質組成物を形成することをさらに含む、請求項34〜36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記乾燥させることは、30〜80℃の範囲の温度で前記ペーストを硬化することと、それに続いて50〜140℃の範囲の上昇温度での第2の加熱ステップを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記ペースト中間組成物を基材に堆積させることと、前記ペースト中間組成物を乾燥させて固体の負極活物質組成物を形成することと、をさらに含む、請求項34〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記炭素材料は、250m2/g〜2100m2/gの範囲の表面積を有する、請求項34〜39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記負極活物質組成物は、0.8μm〜4μmの範囲のメジアン細孔径を有する多孔質固体である、請求項37〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
炭素質材の有機分子防縮剤に対する比率は、5:1〜1:1の範囲である、請求項34〜41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記炭素材料は、前記組成物の総質量に対して、0.05質量%〜3質量%の範囲の量で添加され、前記有機分子防縮剤は、0.1質量%〜1.5質量%の範囲の量で添加される、請求項34〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
請求項34〜43のいずれか1項に記載の方法によって調製される、負極活物質組成物。
【請求項45】
3.0m2/gを超える表面積を有する、請求項44に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鉛酸蓄電池の電極材料として使用することができる高表面積炭素材料を含む負極活物質組成物が本明細書に開示される。
【背景技術】
【0002】
鉛酸蓄電池の性能を向上させる継続的な必要性が存在する。電池の性能の評価基準は、サイクル寿命、動的電荷受容性(DCA)、水損失、および寒冷時起動能力を含む。寒冷時起動能力は、「寒冷時起動時間」として測定することができ、次のように決定される:電池の温度を24時間−18℃に低下させた後、次いで電池を高速で放電させる(5〜14C)。電池の電圧が最初の14.4Vから6Vに低下するのに必要な時間が、寒冷時起動時間として定義される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
拡張し続ける鉛酸蓄電池の用途のために、寒冷時起動能力を維持するかもしくは改善し、かつ/または水損失を減少させる一方で、DCAおよびサイクル寿命を向上させることを含む、電池の性能を向上させる必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施形態は、
少なくとも250m
2/gの表面積を有する炭素材料と、
有機分子防縮剤と、を含む、負極活物質組成物であって、
炭素材料の防縮剤に対する比率は、5:1〜1:1の範囲であり、
組成物は、0.8μm〜4μmの範囲のメジアン細孔径を有する、負極活物質組成物を提供する。
【0005】
別の実施形態は、鉛酸蓄電池用の負極活物質組成物を作製する方法であって、
酸化鉛、有機分子防縮剤、およびBaSO
4を組み合わせて乾燥粉末混合物を形成することと、
乾燥粉末混合物を水と組み合わせ、続いて硫酸を添加してスラリーを形成することと、
スラリーに、少なくとも250m
2/gの表面積を有する炭素材料を添加することと、
負極活物質組成物のペースト中間生成物を形成することと、を含む方法を提供する。
【0006】
別の実施形態は、鉛酸蓄電池用の負極活物質組成物を作製する方法であって、
酸化鉛、有機分子防縮剤、およびBaSO
4を組み合わせて乾燥粉末混合物を形成することと、
少なくとも250m
2/gの表面積を有する予め湿潤させた炭素材料を乾燥粉末混合物に添加することと、
硫酸および水を、炭素材料を含有する混合物と組み合わせてスラリーを形成することと、
負極活物質組成物のペースト中間生成物を形成することと、を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1A(先行技術)は、NAM物質用の鉛含有種の表面の構造を概略的に示す。
図1Bは、本明細書に開示される負極活物質組成物用の鉛含有種の表面の構造を概略的に示す。
【
図2】炭素材料とリグノスルホン酸塩との混合方法および炭素材料の量(X軸、質量%)と細孔径(Y軸、メジアン細孔半径(体積、μm))との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
鉛酸蓄電池の電極に使用することができる新規の負極活物質組成物(例えば、負極活物質(negative active mass)またはNAM)が、本明細書に開示される。
【0009】
鉛酸蓄電池を放電させると、負の鉛電極上に滑らかなPbSO
4層が形成し得る。この層は、電流フローに必要なPb
2+イオンの放出をブロックすることにより電極を不動態化し、電池容量および電力出力の低下を引き起こす。この問題は、鉛表面に吸着して被覆することによってPbSO
4の被膜の成長を遅らせることができる防縮剤(例えば、リグノスルホン酸塩等の有機分子)の添加によって軽減することができる。リグノスルホン酸塩は、多孔質のPbSO
4固体の形成を促進し、滑らかなPbSO
4層の成長を阻止する。さらに、硬化および形成中にリグノスルホン酸塩が鉛表面に存在しない場合、鉛は、焼結して非多孔質/低空隙率のモノリスを形成し、寒冷時起動能力の低下を引き起こす可能性がある。
【0010】
導電率、結晶子成長制御、およびNAMにおける電子移動プロセス(炭素表面では、充電および放電も起こり得る)を向上させるために、炭素材料も典型的に防縮剤組成物に添加される。しかしながら、リグノスルホン酸塩は、炭素表面を被覆する傾向があり、PbSO
4不動態化層の形成を阻止するのに役立つ鉛表面を被覆する、その可用性を低減する。さらに、粒子の小さい炭素が組成物の細孔を充填し、メジアン細孔径の減少を引き起こす場合がある。
【0011】
水損失を制御することが、ほとんどメンテナンスの必要がないかまたは全くメンテナンスの必要がない鉛酸蓄電池の設計における別の検討事項である。鉛酸蓄電池の水損失は、充電および過充電の間に起こり、負極板上の水素放出および正極板上の酸素放出に起因する。鉛酸蓄電池の水損失は、充電中の正極板および負極板の電位により影響を受け、酸電解質、グリッド、および電極構成要素中の、ある特定の金属不純物の存在によって影響を受け得る。負極板への炭素の添加は、水損失の増加をもたらし、それは炭素の量および種類(表面積および形態)に依存する。電極表面積と負極板電位との関係は、下に方程式(1)として示される、水素還元に関するButler−Vollmer式を用いて示すことができる:
【0013】
式中、I=カソード電流;A=電極表面積;E=負極板電位である。
【0014】
炭素が鉛酸蓄電池の水損失に及ぼす影響の正確な機序は未だに調査中であるが、方程式(1)から、負極板への炭素の添加が負電極の表面積の増加をもたらし得、したがって負電極の分極を引き起こし得ることが考えられる影響である。負電極の分極は、次いで、より低い電極電位の値をもたらし得、したがって、鉛表面および炭素表面の両方からの水素放出率の増加を引き起こし得る。負極板の分極は、正極板の分極をもたらし得、したがって、正電極における酸素放出率の増加をもたらし得る。負電極における水素放出の増加および正極板における酸素放出の増加の両方が、水損失の増加に寄与し得る。
【0015】
一実施形態は、高表面積炭素材料を含む負極活物質を提供し、DCAおよびサイクル寿命の向上をもたらす。しかしながら、高表面積炭素材料は、悪影響を及ぼすほど寒冷時起動能力を低下させ得、かつ/または過充電時の水損失を増加させ得る。一実施形態において、防縮剤の濃度を増加させることおよび/または負極活物質の空隙率を増加させることにより、寒冷時起動能力が向上し、かつ/または水損失の量が減少することが明らかになった。本明細書に開示される実施形態は、高表面積炭素材料の組み込みを許容し、その材料の他の利点を利用することができる。したがって、一実施形態は、
少なくとも250m
2/gの表面積を有する炭素材料と、
有機分子防縮剤と、を含む、負極活物質組成物であって、
炭素材料の防縮剤に対する比率は、5:1〜1:1の範囲であり、
組成物は、0.8μm〜4μmの範囲のメジアン細孔径を有する、負極活物質組成物を提供する。
【0016】
一実施形態において、炭素材料は、カーボンブラック、活性炭、膨張化黒鉛、グラフェン、数層グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、黒鉛、および前述の材料の任意の粉砕された、破砕された、または別様に処理された形態から選択される。一実施形態において、炭素材料は、カーボンブラックである。「カーボンブラック」は、ランプブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等の当該材料の全ての形態を含む。
【0017】
本明細書において定義される「有機分子防縮剤」は、鉛含有種の表面に吸着または共有結合して、鉛含有種の表面におけるPbSO
4の滑らかな層の形成を阻止するかまたはその速度を実質的に低下させる多孔質網を形成することができる分子である。一実施形態において、有機分子防縮剤は、300g/molを超える分子量を有する。例となる有機分子防縮剤には、リグノスルホン酸塩、リグニン、木粉、パルプ、フミン酸、および木製品、ならびにそれらの誘導体または分解産物が挙げられる。一実施形態において、防縮剤は、リグニン構造を含む大部分を有する分子であるリグノスルホン酸塩から選択される。リグニンは、ある個数のメトキシ基、フェノール基、硫黄基(有機および無機)、ならびにカルボン酸基を伴い、フェニルプロパン基を主に含むポリマー種である。典型的には、リグノスルホン酸塩は、スルホン化されたリグニン分子である。典型的なリグノスルホン酸塩は、Borregard Lignotech社の製品であるUP−393、UP−413、UP−414、UP−416、UP−417、M、D、VS−A(Vanisperse A)等を含む。他の有用な例示的リグノスルホン酸塩は、参照によりその開示が本明細書に組み込まれる「Lead Acid Batteries」、Pavlov,Elsevier Publishing,2011に列挙される。
【0018】
別の実施形態において、炭素材料は、250m
2/g〜2100m
2/gの範囲の表面積(BET)、例えば、400m
2/g〜1800m
2/g、700m2/g〜1700m2/g、1000m
2/g〜2600m
2/g、または1000m
2/g〜1700m
2/gの範囲の表面積を有する。
【0019】
別の実施形態において、炭素材料の構造はDBPによって測定することができる。一実施形態において、これらの材料のDBPは、32mL/100g〜500mL/100gの範囲であり得、例えば、80〜350mL/100g、または110〜250mL/100gの範囲のDBPであり得る。
【0020】
現在の鉛酸蓄電池は、許容できる寒冷時起動時間を実現することができる低表面積カーボンブラックを利用している。DCAおよびサイクル寿命を向上させる目的で、標準的な従来技術の構成を用いてより高い表面積のカーボンブラックが組み込まれた。しかしながら、防縮剤はカーボンブラックに付着する傾向があるため、より高い表面積のカーボンブラックと競合して吸着することに起因して、より少ない防縮剤が鉛含有種の表面に対して可用であることが分かった。その後、不動態PbSO
4の被膜形成を妨げるためにより少ない量の防縮剤の被膜が鉛含有表面上に存在し、放電時に結果として形成されたPbSO
4の被膜は、より小さなメジアン細孔径(つまり
滑らかな被膜の形成)を呈し、それによってPb
2+の放出を阻止した。その結果、寒冷時起動時間が、標準電池によって実現される値と比較して50〜70%も悪影響を及ぼすほど減少した。本明細書に開示される負極活物質組成物は、より多くの量の防縮剤を(炭素表面ではなく)鉛含有表面に付着させることにより高面積カーボンブラックを組み込むことができ、それによって
多孔質のPbSO
4被膜の形成を引き起こすことが分かった。本明細書に開示される材料を組み込んだ電池は、標準電池に匹敵する寒冷時起動時間を実現しながら、DCAおよびサイクル寿命の向上を示す。
【0021】
いずれの理論に拘束されることをも望むものではないが、
図1Aおよび1Bは、従来技術の構成を有する高表面積炭素材料を組み込んだNAM物質(
図1A)と、本明細書に開示される組成物(
図1B)のための鉛含有種(例えば、Pb/PbO/PbSO
4)の表面の構造を概略的に示す。
図1Aおよび1Bにおいて、鉛含有表面2および2’の上にそれぞれ付着しているのは、有機分子防縮剤4および4’(破線)ならびに炭素材料6および6’である。しかしながら、
図1Aでは、防縮剤4の大部分が炭素材料6を覆っているため、鉛含有表面2のかなりの部分が防縮剤4によって被覆されておらず、表面が、空隙率が低いかまたは全くない滑らかなPbSO
4層の成長を受けやすい状態になっている。
【0022】
一実施形態において、開示される材料は、防縮剤4’の大部分が鉛含有表面2’を被覆するために可用であり、急速な放電時のPbSO
4の不動態化層の成長を阻止するように、高表面積炭素材料6’を組み込むような方法で調製される。別の実施形態において、より濃度の高い防縮剤4’の存在が、防縮剤4’によって被覆される鉛含有表面2’の部分を増加させることができる。さらに、組成物は、高外表面積炭素材料の存在下で、十分なメジアン細孔径を有する。典型的には、高外表面積炭素材料の存在は、水銀ポロシメトリーによって測定した場合に1.0μm未満または1.5μm未満のメジアン細孔径を有する多孔性の低い電極をもたらす。一実施形態において、組成物中の有機分子防縮剤の少なくとも20%が、鉛含有種の表面を被覆する。別の実施形態において、組成物中の防縮剤の少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%が、鉛含有種の表面を被覆する。
【0023】
一実施形態において、負極活物質は、許容できる寒冷時起動能力を実現するのに十分なメジアン細孔径を有する。有機分子防縮剤の層が負極活物質の空隙率を促進するが、PbSO
4粒子は、細孔をブロックすることによりPb
2+の放出を妨げることもできる。よって、より大きな細孔の存在が、PbSO
4粒子による閉塞を回避する。したがって、本明細書に開示される負極活物質は、0.8μm〜4μm、0.8μm〜3.5μm、または0.8μm〜3.5μmの範囲のメジアン細孔径、例えば、1.2μm〜4μm、1.2μm〜3.5μm、1.2μm〜3μm、1.5μm〜4μm、1.5μm〜3.5μm、1.5μm〜3μm、1.8μm〜4μm、1.8μm〜3.5μm、または1.8μm〜3μmの範囲のメジアン細孔径を有する。
【0024】
一実施形態において、高表面積炭素材料の使用は、高表面積(BET)負極活物質の形成を可能にする。一実施形態において、組成物は、3.0m
2/gを超える表面積、例えば、5.0m
2/gを超える表面積を有する。別の実施形態において、組成物は、3.0m
2/g〜20m
2/gの範囲の表面積、例えば、3.0m
2/g〜12m
2/g、3.0m
2/g〜10m
2/g、5.0m
2/g〜20m
2/g、5.0m
2/g〜12m
2/g、または5.0m
2/g〜10m
2/gの範囲の表面積を有する。一実施形態において、組成物は、3.0m
2/gを超える(および20m
2/g、12m
2/g、または10m
2/gまでの)表面積と、1.0μm〜3.5μmの範囲のメジアン細孔径を有する。別の実施形態において、組成物は、5.0m
2/gを超える(および20m
2/g、12m
2/g、または10m
2/gまでの)表面積と、1.5μm〜3.5μmの範囲のメジアン細孔径を有する。
【0025】
一実施形態において、負極活物質は、鉛含有物質およびBaSO
4をさらに含む。一実施形態において、鉛含有物質は、鉛、PbO、Pb
3O
4、Pb
2O、およびPbSO
4、それらの水酸化物、それらの酸、およびそれらの多金属鉛錯体から選択される。鉛含有物質の源は、主としてPbOおよび鉛を含む、鉛系酸化物であり得る。負極活物質の製造中、鉛系酸化物とH
2SO
4との反応においてPbSO
4が生成される。
【0026】
別の実施形態において、炭素材料および/または有機分子防縮剤の量が細孔径に影響を及ぼし得ることが見出された。一実施形態において、炭素材料の防縮剤に対する比率は、5:1〜1:1、例えば、4:1〜1:1または3:1〜1:1の範囲である。別の実施形態において、組成物の総質量に対して、炭素材料は、0.05質量%〜3質量%の範囲の量で存在し、有機分子防縮剤は、0.05質量%〜1.5質量%、0.2質量%〜1.5質量%、または0.3質量%〜1.5質量%の範囲の量で存在する。一実施形態において、炭素材料は、組成物の総質量に対して0.15質量%〜3質量%の範囲の量、例えば、0.15質量%〜2質量%、0.15質量%〜1.2質量%、0.15質量%〜1質量%、0.25質量%〜3質量%、0.25質量%〜2質量%、0.25質量%〜1.5質量%、0.25質量%〜1.2質量%、0.25質量%〜1質量%、0.4質量%〜3質量%、0.4質量%〜2質量%、0.4質量%〜1.5質量%、0.4質量%〜1.2質量%、0.4質量%〜1質量%、0.5質量%〜3質量%、0.5質量%〜2質量%、0.5質量%〜1.5質量%、0.5質量%〜1.2質量%、0.5質量%〜1質量%、0.6質量%〜3質量%、0.6質量%〜2質量%、0.6質量%〜1.5質量%、0.6質量%〜1.2質量%、または0.6質量%〜1質量%の量で存在する。
【0027】
一実施形態において、有機分子防縮剤は、組成物の総質量に対して0.1質量%〜1.5質量%の範囲、例えば、0.2質量%〜1.5質量%、0.2質量%〜1質量%、0.3質量%〜1.5質量%、0.3質量%〜1質量%、または0.3質量%〜0.8質量%の量で負極活物質組成物中に存在する。
【0028】
一実施形態において、炭素材料および有機分子防縮剤の両方が、組成物の総質量に対して0.1質量%〜2質量%の範囲、例えば、0.1質量%〜1.5質量%の量で負極活物質組成物中に存在する。別の実施形態において、炭素材料は、組成物の総質量に対して0.2質量%〜1.5質量%の範囲の量、例えば、0.3質量%〜1.5質量%で存在し、有機分子防縮剤は、0.2質量%〜1.5質量%、0.3質量%〜1.5質量%、0.2質量%〜1質量%、または0.3質量%〜1質量%の範囲の量で存在する。
【0029】
別の実施形態は、負極活物質を作製する方法を提供する。典型的には、炭素材料は、乾燥混合物として防縮剤および他の成分(例えば、BaSO
4)と最初に組み合わされる。その後、この乾燥混合物に硫酸を添加することにより、PbSO
4、水素、および塩基の形成をもたらし、Pb/PbSO
4/PbO表面に防縮剤を固定化する。しかしながら、炭素材料の存在に起因して、また、防縮剤は炭素用の良好な分散剤であるため、防縮剤が炭素表面に付着して多層を形成し得、大幅により少ない量の防縮剤が鉛表面において可用となる。
【0030】
一実施形態において、有機分子防縮剤への炭素材料の添加を遅延させることが、炭素表面に吸着される防縮剤の量を減少させ、かつ鉛含有表面を被覆してPbSO
4不動態化層に対抗する防縮剤の可用量を増加させ、それによって寒冷時起動能力を向上させる(寒冷時起動時間を増加させる)ことが明らかになった。したがって、一実施形態は、負極活物質を作製する方法であって、
酸化鉛、有機分子防縮剤、およびBaSO
4を組み合わせて乾燥粉末混合物を形成することと、
乾燥粉末混合物を水と組み合わせ、続いて硫酸を添加してスラリーを形成することと、
スラリーに、少なくとも250m
2/gの表面積を有する炭素材料を添加することと、
負極活物質組成物のペースト中間組成物を形成することと、を含む方法を提供する。
【0031】
一実施形態において、酸化鉛は、PbO、または主としてPbOおよび鉛を含む混合物である鉛系酸化物であり得る。
【0032】
一実施形態において、スラリーを添加するステップの前に、炭素材料を水で予め湿潤させる。当業者は、添加される炭素材料の量に基づいて、予め湿潤させるために必要な水の量を決定することができる。一実施形態において、炭素材料の水に対する比率は、質量で1:1〜1:3の範囲である。
【0033】
別の実施形態は、鉛酸蓄電池用の負極活物質組成物を作製する方法であって、
酸化鉛、有機分子防縮剤、およびBaSO
4を組み合わせて乾燥粉末混合物を形成することと、
少なくとも250m
2/gの表面積を有する予め湿潤させた炭素材料を乾燥粉末混合物に添加することと、
硫酸および水を、炭素材料を含有する混合物と組み合わせてスラリーを形成することと、
負極活物質組成物のペースト中間組成物を形成することと、を含む方法を提供する。
【0034】
一実施形態において、硫酸および水を、炭素材料を含有する混合物と組み合わせるステップは、いずれの順序で行われてもよく、例えば、水が最初に添加され、その後に硫酸が添加されてもよいし、または逆の順序であってもよいし、または組み合わせるステップは、ペーストを形成するために硫酸および水の同時添加を含む。
【0035】
一実施形態において、ペースト中間組成物が乾燥される。一実施形態において、乾燥は、制御された湿度条件下および制御された湿度下の適度な熱(例えば、30〜80℃または35〜60℃)等の低速硬化によって達成され、多孔質の固体を生じる。硬化ステップの後には、次いで、極度に低い湿度でまたは更には湿度ゼロで、温度を上昇させた(例えば、50℃から140℃に、または65℃から95℃に)第2の加熱ステップ(乾燥)が続いてもよい。一実施形態において、組成物はモノリスである。他のペースト化、硬化、および、形成手順は、参照によりその開示が本明細書に組み込まれる「Lead Acid Batteries」、Pavlov,Elsevier Publishing,2011に記載されている。
【0036】
一実施形態において、ペースト中間組成物をグリッド等の基材に堆積させ(塗布し)、基板上で乾燥させて電極を形成する。一実施形態において、グリッドは、多種多様な設計および形状(例えば、穴あきまたはシートから拡張)の金属構造であり、活物質のための恒久的な固体支持部として機能する。またグリッドは、活物質におよび活物質から電気または電子を伝導する。グリッドは、純粋な金属(例えば、Pb)またはその合金を含むことができる。それらの合金の成分は、参照によりその開示が本明細書に組み込まれる「Lead Acid Batteries」、Pavlov,Elsevier Publishing, 2011に記載される金属の中でも、とりわけ、Sb、Sn、Ca、Agを含み得る。
【0037】
この方法において、有機分子防縮剤は、炭素材料の添加前に酸化鉛と組み合わせられ、それによってペーストの乾燥中により大きな細孔径の形成を促進する。
【0038】
本明細書に開示される組成物および方法は、負極活物質の細孔径を増加させることができ、結果として、電池性能(DCA、寿命サイクル)を向上させながら、従来技術の鉛酸蓄電池と比較して寒冷時起動能力を維持するかまたはさらには向上させることが見て取れる。一実施形態において、本明細書に開示される負極活物質を含む電池は、30m
2/gの表面積および0.2% Vanisperse−Aを有するカーボンブラックを組み込んだ電池(「標準的な従来技術の電池」)と比較して、少なくとも30%、または少なくとも100%のDCAの増加を示す。別の実施形態において、本明細書に開示される負極活物質を含む電池は、標準的な従来技術の電池と比較して、少なくとも5倍、または少なくとも6倍のサイクル寿命の増加を示す。これらの改善はどちらも、標準的な従来技術の電池の値の30%以内(またはそれよりもさらに改善された値)に寒冷時起動時間を維持しながら達成することができる。
【実施例】
【0039】
実施例1〜4
この実施例は、予め湿潤させたカーボンブラックが、鉛系酸化物、BaSO
4、およびVanisperse Aの乾燥混合物に添加される、NAMペーストの調製について記載する。
【0040】
鉛系酸化物(1000g、酸化度75%、Monbat PLC(Bulgaria)社のBarton Oxide)をペースト混合機に投入した。2分間撹拌した後、BaSO
4(8g)およびVanisperse Aを、水で予め湿潤させたカーボンブラック(PBX51(登録商標)、Cabot Corporation)とともに添加した。さらに3分間撹拌した後、水(140g)を添加することにより、ペースト混合機内で乾燥混合物を均質化した。ペーストを5分間混合し、その時点でH
2SO
4(80mL、比重=1.4g/cm
3)を添加し、15分間混合した。ペーストのレオロジーを調節するためにより多くの水を添加することができるが、この実施例にそれは必要ではなかった。
【0041】
下の表1は、各実施例のためのVanisperseおよびカーボンブラックの量を提供する。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例5
この実施例は、硫酸の添加後に、予め湿潤させたカーボンブラックがペースト混合物に添加される、NAMペーストの調製の代替方法について記載する。
【0044】
鉛系酸化物(1000g、酸化度75%、Monbat PLC(Bulgaria)社のBarton Oxide)を混合機内で2分間単独で混合し、凝集体をばらばらに分解した。この乾燥粉末に、リグノスルホン酸塩(2g、Vanisperse A)およびBaSO
4(8g)を添加し、乾燥粉末としてさらに3分間混合した。次いで、水(140g)を添加してさらに5分間混合した後、硫酸(80mL、比重=1.4g/cm
3)を添加し、その後15分間混合した。カーボンブラック(10g、PBX51(登録商標)、Cabot Corporation、表面積1400m
2/g)を水(22g)で予め湿潤させて混合物に添加し、15分間混合した。ペーストの所望の稠度になるようにさらなる水を追加してもよいが、この場合、追加の水は必要ではなかった。
【0045】
実施例6
この実施例は、中間組成物NAMペーストの調製について記載する。
【0046】
鉛系酸化物(1000g、酸化度75%、Monbat PLC(Bulgaria)社のBarton Oxide)を混合機内で2分間単独で混合し、凝集体をばらばらに分解した。この乾燥粉末に、リグノスルホン酸塩(2g、Vanisperse A)およびBaSO
4(8g)を添加し、乾燥粉末としてさらに3分間混合した。次いで、水(140g)を添加してさらに5分間混合した後、硫酸硫酸(80mL、比重=1.4g/cm
3)を添加し、その後15分間混合した。この生成物は、所望の量のカーボンブラックを添加することができる中間組成物NAMペーストである。
【0047】
実施例7
この実施例は、中間組成物ペーストからの電極の調製について記載する。
【0048】
NAMペーストを鉛グリッドに堆積させ、制御された雰囲気において硬化した後、乾燥させた。乾燥した電極板を硫酸電解質の存在下で電気化学的に処理し、結果として負電極に85〜100%の鉛を含有する負極活物質(NAM)を形成した。
【0049】
実施例8
この実施例は、寒冷時起動時間および水損失を試験するために使用される4.8Ahの鉛酸試験セルの構成について記載する。
【0050】
2つの負極板および3つの正極板を有する、公称容量4.8Ahの鉛酸セルにおいて試験を行った。セルの定格出力は、負極活物質の利用率50%で算出した。厚さ3mm(425g・m
−2)のAGMセパレーター(H&V、USA)を20%圧縮下で使用した。電解質は、1.28g・cm
−3のH
2SO
4溶液であった。
【0051】
実施例9
実施例7の方法によって製造された実施例1〜6の材料から負電極を調製し、実施例8に記載されるようにセル内で組み立てた。正電極は、全ての場合において同一であり、90〜100%のPbOからなっていた。
【0052】
Deutches Institut fur NormungまたはDIN試験43539の改変版により−18℃で寒冷時起動時間を得、下の表2に列挙する。具体的には、方法は、より高いCレートである10Cで10秒間、その後、残りの試験は6Cで行うように変更されたが、典型的なDIN 43539は5Cで行われる。5Cでの結果は、表2中の報告された値に類似する傾向を示した。これらの試験は、完全な電池ではなく、セルに対するものであり、したがって電圧が6倍低いことに留意されたい。セルの初期電圧は(14.4Vではなく)2.4Vであり、故障電圧は(完全な電池の場合の6Vに対して)1.0Vである。
【0053】
セルを60℃の水浴に入れ、2.4Vの定電圧を3週間印加することにより、セルの水損失を調べた。試験の開始前と、2.4V(対応する完全な電池の過充電電圧は14.4V)で3週間過充電した後のセル質量の違いによって水損失を測定した。質量損失(水損失)をセルの公称容量(Ah)により正規化し、表2に[g/Ah]で示した。
【0054】
【表2】
【0055】
実施例6(0%炭素)、実施例1(0.5%炭素)、および実施例2(1%炭素)のNAMペーストを用いて試験したセルの結果から、カーボンブラックの負荷が増加するにつれて水損失が増加することが見てとれる。実施例2の材料はまた、最も低い寒冷時起動時間をもたらす。しかしながら、さらなる有機分子防縮剤(実施例3および4)の存在により、実施例2と比較して水損失の減少がもたらされ、寒冷時起動時間の増加がもたらされた。
【0056】
実施例10
この実施例は、乾燥混合物によるNAMペーストの調製について記載する。
【0057】
鉛系酸化物(1000g、酸化度75%、Monbat PLC(Bulgaria)社のBarton Oxide)をペースト混合機に投入した。2分間撹拌した後、BaSO
4(8g)、Vanisperse A(2g)、およびカーボンブラック(10g、PBX51(登録商標)、Cabot Corporation)を添加した。さらに3分間撹拌した後、水(140g)を添加することにより、乾燥混合物を均質化した。ペーストを5分間混合し、その時点で、H
2SO
4(80mL、比重=1.4g/cm
3)を連続撹拌下で徐々に添加した。温度を60℃未満に維持しながら、撹拌を15分間続けた。ペーストのレオロジーを調節するためにより多くの水を添加することができるが、この実施例にそれは必要ではなかった。
【0058】
実施例11
この実施例は、予め湿潤させた防縮剤とカーボンブラックの混合物の添加によるNAMペーストの調製について記載する。
【0059】
鉛系酸化物(1000g、酸化度75%、Monbat PLC(Bulgaria)社のBarton Oxide)をペースト混合機に投入した。2分間撹拌した後、BaSO
4(8g)を、Vanisperse A(2g)および水(22g)で予め湿潤させたカーボンブラック(10g、PBX51(登録商標)、Cabot Corporation)の混合物とともに添加した。さらに3分間撹拌した後、水(140g)を添加することにより、ペースト混合機内で乾燥混合物を均質化した。ペーストを5分間混合し、その時点でH
2SO
4(80mL、比重=1.4g/cm
3)を添加し、15分間混合した。ペーストのレオロジーを調節するためにより多くの水を添加することができるが、この実施例にそれは必要ではなかった。
【0060】
図2は、炭素材料とリグノスルホン酸塩との混合方法および炭素材料の量(X軸、質量%)と細孔径(Y軸、メジアン細孔半径(体積、μm))との相関を示すグラフである:◆:リグノスルホン酸塩(LS)+PbO+炭素の乾燥混合物(実施例10);黒の□:LS+炭素の予め湿潤させた混合物(実施例11);黒の△:予め湿潤させた炭素(実施例2);×予め湿潤させた炭素(2回目の実行、実施例2);*リグノスルホン酸塩+PbO+H
2SO
4に続く予め湿潤させた炭素の添加(実施例5)。
図2から、開示される量の開示される方法は、最大のメジアン細孔径を提供することが見てとれる。
【0061】
「a」および「an」および「the」という用語の使用は、本明細書において別途指示のない限り、または内容上明らかに矛盾しない限り、単数形および複数形の両方を包含すると解釈されるものとする。「含む(comprising)」、「有する」、「含む(including)」および「含有する」という用語は、別途記載のない限り、非制限的な用語である(すなわち、「〜を含むが、限定されない」を意味する)と解釈されるものとする。本明細書における値の範囲の記述は、本明細書において別途指示のない限り、その範囲内に属する各別個の値を個別に言及する簡略な方法としての役割を果たすことを意図するに過ぎず、各別個の値は、あたかもそれが本明細書において個々に列挙されているかのように本明細書中に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書において別途指示のない限り、または内容上明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で行われてもよい。本明細書に提供されるいかなる例または例を示す文言(例えば、「〜等の」)の使用も、別途主張のない限り、本発明をより詳細に説明することを意図するに過ぎず、本発明の範囲に対する制限を設けるものではない。いかなる本明細書中の文言も、特許請求の範囲に記載されない任意の要素が本発明の実施に不可欠であると解釈されるべきでない。
【手続補正書】
【提出日】2015年3月27日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも250m2/gの表面積を有する炭素材料と、
有機分子防縮剤と、を含む、負極活物質組成物であって、
炭素材料の防縮剤に対する比率は、5:1〜1:1の範囲であり、
前記組成物は、0.8μm〜4μmの範囲のメジアン細孔径を有する、負極活物質組成物。
【請求項2】
前記炭素材料は、カーボンブラック、活性炭、膨張化黒鉛、グラフェン、数層グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、黒鉛から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記炭素材料は、400m2/g〜1800m2/gの範囲の表面積を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記有機分子防縮剤は、リグノスルホン酸塩、リグニン、木粉、パルプ、フミン酸、木製品、ならびにそれらの誘導体および分解産物から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
鉛含有物質およびBaSO4を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記メジアン細孔径は、1.0μm〜3.5μmの範囲である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記有機分子防縮剤は、前記組成物の総質量に対して0.1質量%〜1.5質量%の範囲の量で存在する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記炭素材料は、0.05質量%〜3質量%の範囲の量で存在する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記炭素材料は、0.4質量%〜1質量%の範囲の量で存在する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
30m2/gの表面積を有するカーボンブラックおよび0.2% Vanisperse−Aを組み込んだ標準電池と比較して、前記標準電池の寒冷時起動時間の30%を超えて寒冷時起動時間を短縮することなく、動的電荷受容値の少なくとも30%の増加を示す、請求項1〜9のいずれか1項に記載の負極活物質組成物を含む鉛酸蓄電池。
【請求項11】
30m2/gの表面積を有するカーボンブラックおよび0.2% Vanisperse−Aを組み込んだ標準電池と比較して、前記標準電池の寒冷時起動時間の30%を超えて寒冷時起動時間を短縮することなく、少なくとも5倍の寿命サイクルの増加を示す、請求項1〜9記載のいずれか1項に記載の負極活物質組成物を含む鉛酸蓄電池。
【請求項12】
鉛酸蓄電池用の、請求項1〜9記載のいずれか1項に記載の負極活物質組成物を作製する方法であって、
酸化鉛、有機分子防縮剤、およびBaSO4を組み合わせて乾燥粉末混合物を形成することと、
前記乾燥粉末混合物を水と組み合わせ、続いて硫酸を添加してスラリーを形成することと、
前記スラリーに、少なくとも250m2/gの表面積を有する炭素材料を添加することと、
前記負極活物質組成物のペースト中間組成物を形成することと、を含む、方法。
【請求項13】
前記炭素材料を、前記添加の前に水で予め湿潤させる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
鉛酸蓄電池用の、請求項1〜9記載のいずれか1項に記載の負極活物質組成物を作製する方法であって、
酸化鉛、有機分子防縮剤、およびBaSO4を組み合わせて乾燥粉末混合物を形成することと、
少なくとも250m2/gの表面積を有する予め湿潤させた炭素材料を前記乾燥粉末混合物に添加することと、
硫酸および水を、前記炭素材料を含有する前記混合物と組み合わせてスラリーを形成することと、
前記負極活物質組成物のペースト中間組成物を形成することと、を含む、方法。
【請求項15】
前記炭素材料は、250m2/g〜2100m2/gの範囲の表面積を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ペースト中間組成物を乾燥させて固体の負極活物質組成物を形成することを更に含み、前記負極活物質組成物は、0.8μm〜4μmの範囲のメジアン細孔径を有する多孔質固体である、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
炭素材料の有機分子防縮剤に対する比率は、5:1〜1:1の範囲である、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記炭素材料は、前記組成物の総質量に対して、0.05質量%〜3質量%の範囲の量で添加され、前記有機分子防縮剤は、0.1質量%〜1.5質量%の範囲の量で添加される、請求項14〜17のいずれか1項に記載の方法。
【国際調査報告】