(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-535098(P2015-535098A)
(43)【公表日】2015年12月7日
(54)【発明の名称】モノリシックガラス直線偏光子及びアッテネータ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20151110BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20151110BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B1/115
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-542863(P2015-542863)
(86)(22)【出願日】2013年11月18日
(85)【翻訳文提出日】2015年7月15日
(86)【国際出願番号】US2013070486
(87)【国際公開番号】WO2014081648
(87)【国際公開日】20140530
(31)【優先権主張番号】61/728,482
(32)【優先日】2012年11月20日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ガフシ,ラシッド
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジュエ
【テーマコード(参考)】
2H149
2K009
【Fターム(参考)】
2H149AA24
2H149AB26
2H149BA02
2H149BA17
2H149BB26
2H149FA41W
2H149FA42W
2H149FC02
2H149FD03
2H149FD25
2K009AA02
2K009BB02
2K009CC02
2K009CC03
2K009CC06
2K009DD03
2K009DD04
(57)【要約】
開示は、偏光子及び光アッテネータのいずれとしてもはたらくことができる、すなわち両者の機能を単一素子に統合した、素子に関する。素子は、モノリシックまたは一体の(明細書では「基板」とも称される)ガラス偏光子、選ばれた波長及び減衰量での使用に最適化され、偏光子の少なくとも一方の主表面上に被着された、多層「光減衰または光減衰性」(LA)コーティング、及びLAコーティングの上面上の多層反射防止(AR)コーティングを含む。開示はさらに、第1及び第2の偏光素子並びに、第1の偏光素子の後で第2の偏光素子の前に配置された、光を回転させるためのファラデーローテーターを備えた一体型光アイソレータ/アッテネータに関し、一体型光アイソレータ/アッテネータは光源からの光ビームに偏光及び減衰のいずれも生じさせる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光性粒子を内に有するガラス偏光子、前記ガラス偏光子の少なくとも一方の表面上に被着された多層光減衰性(LA)コーティング及び前記減衰性コーティングの上面上に被着された多層反射防止(AR)コーティングを備えた一体型モノリシック直線偏光子/アッテネータ素子において、
前記LAコーティングが、高屈折率材料H及び低屈折率材料Lの複数の周期を含み、ここで、Lは、ゼロではない吸光度及び1.7より大きい屈折率を有する金属酸化物及び混合金属酸化物からなる群から選ばれ、Hはシリコンであり、
前記ARコーティングは複数の周期H'L'を含み、ここで、H'は屈折率nが1.7より大きい高屈折率材料であり、L'は屈折率nが1.7以下の低屈折率材料であり、
前記素子は1200〜1700nmの波長範囲にわたって0dBより大きく3dBまでの範囲にある減衰量を有し、
前記偏光性粒子は銀、銅及び銅/カドミウムからなる群から選ばれる、
ことを特徴とする一体型モノリシック直線偏光子/アッテネータ素子。
【請求項2】
前記ガラス偏光子が、白金、パラジウム、オスミウム、イリジウム、ロジウム及びルテチウムからなる群から選ばれる貴金属をさらに含み、該貴金属が、ゼロ価金属として測定して0.0001重量%〜0.5重量%の範囲にある量で存在していることを特徴とする請求項1に記載の一体型モノリシック直線偏光子/アッテネータ素子。
【請求項3】
前記LAコーティング材料Lが、ITO,Cr2O3,ZnO,HfO2,Yb2O3,Nb2O5及びGeO2からなる群から選ばれ、該LAコーティング材料Lの少なくとも1つが2より大きい屈折率を有することを特徴とする請求項1に記載の一体型モノリシック直線偏光子/アッテネータ素子。
【請求項4】
前記AR高屈折率材料H'が、ZrO2,HfO2,Ta2O5,Nb2O5,TiO2,Y2O3,Si3N4,SrTiO3,及びWO3からなる群から選ばれ、
前記AR低屈折率材料L'が、SiO2,FドープSiO2,及びAl2O3、並びにフッ化物、MgF2,CaF2,BaF2,YbF3,YF3からなる群から選ばれる、
ことを特徴とする請求項1に記載の一体型モノリシック直線偏光子/アッテネータ素子。
【請求項5】
一体型モノリシック直線偏光子/アッテネータ素子を作製する方法において、
引き伸ばされた偏光性金属粒子を内に含有するモノリシックガラス直線偏光子を提供する工程、
少なくとも1つのシリコン層を高屈折率層Hとして含み、1.7より大きい屈折率を有する金属酸化物及び混合金属酸化物からなる群から選ばれる酸化物の少なくとも1つの層を低屈折率層Lとして含む、多層無機光減衰性コーティングLAを前記ガラス偏光子の少なくとも一方の表面上に被着する工程、及び
前記減衰性コーティングの上面上に多層反射防止コーティングであって、少なくとも1つの周期H'L'を含む反射防止コーティング(式中、H'は1.7より大きい屈折率を有する高屈折率材料であり、L'は1.7以下の屈折率を有する低屈折率材料)を被着し、それによって、0dBより大きく3dBまでの範囲にある量だけ入射光を減衰させる一体型モノリシック直線偏光子/アッテネータ素子を形成する工程、
を有してなり、
前記減衰性コーティング及び前記反射防止コーティングの前記被着工程中の前記ガラス偏光子の温度が、前記ガラス偏光子内の前記金属粒子が収縮または再球状化するであろう温度より低い、ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は2012年11月20日に出願された米国仮特許出願第61/728482号の米国特許法第119条の下の優先権の恩典を主張する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、偏光子と減衰フィルタの2つの異なる光学素子を、偏光及び減衰のいずれも生じさせる単一素子に一体化することで作製される、一体型モノリシック直線偏光子/アッテネータに関する。本素子は1275nm〜1635nmの範囲内の近赤外(NIR)波長において動作する。
【背景技術】
【0003】
遠距離通信装置はアッテネータ及び光アイソレータのいずれも使用する。アッテネータは較正された量の信号損失を加えることでパワーレベルを検査するために一時的に用いることができ、あるいは送信器と受信器のパワーレベルを適切に整合させるために恒久的に装着することができる。光ファイバ遠距離通信システムは適切に稼働するためにある量の光パワーを必要とするが、パワーが大きすぎると問題が生じ得る。例えば、カプラが信号を均等に分配しないときに、または敏感な機器を保護するために、パワーを制限することが必要になり得る場合がある。アッテネータは過剰な光パワーを捨て去り、通信システム内の信号レベルを受信器が最善に取り扱うことができるレベルまで下げることができる。これは、ネットワーク内の全ての端末における同じ送信器及び受信器の使用を、端末間を伝わる光が異なる損失を受けるとしても、可能にする。アッテネータの挿入はローカルネットワークの全領域における同じ端末装置の使用も可能にする。分配ノードに一番近い端末は建物の反対側の隅にある端末よりも20dB高いレベルの信号を受け取ることがあり得るが、アッテネータがパワーレベルを平均させることができる。最も一般的で、最も費用がかからない、アッテネータは、入射光の固定された領域を遮断するフィルタである。そのようなアッテネータはパワーレベルを平均させるために通信システムに装着され、通常、そのようなアッテネータは二度と交換される必要はないであろう。
【0004】
光アイソレータは遠距離通信システム内の敏感な光コンポーネントへの、後方反射及びその他の雑音の到達を防止するために用いられる。光アイソレータは、遠距離通信周波数の光が通過する、一方通行路としてはたらく。光アイソレータは、順番に、一般に、コントラスト比を高め、垂直偏光入射光を浄化するための、垂直偏光軸をもつ偏光子である、第1偏光子または入力偏光子、垂直偏光を受け取って45°回転させるためのファラデーローテーター、及び、偏光軸が第1偏光子の偏光軸に対して45°をなす、第2偏光子または出力偏光子からなる。ファラデーローテーターからの45°回転された光は完全に第2偏光子を通過して受信器、例えば光ファイバまたはアナライザに、実質的に無損失で届く。受信器によって後方に反射される光があっても、第2偏光子が後方反射光を45°偏光させ、ファラデーローテーターが第2偏光子からの光をさらに45°回転させるであろう。ローテーターから出てくる後方反射光は水平偏光になっていて、垂直偏光の通過しか可能にしない第1偏光子によって遮断されるであろう。したがって、入射光の方向とは逆の方向に進むいかなる反射光も消し去られるであろう。光アイソレータは、ファイバを通って非順方向に進んでいる雑音を遮断できる様式のため、高性能システムにおいて重要なコンポーネントである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現時点において、これらの任務のいずれをも果たすことができる、すなわち、光アッテネータとしても、光アイソレータとしても、はたらくことができる、単一の一体型素子はない。本開示はそのような素子及びそのような素子を用いるデバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、偏光子及び光アッテネータのいずれとしてもはたらくことができる素子に、したがって両機能の単一素子への統合に関する。素子は、モノリシックすなわち一体の(本明細書では以降「基板」とも称する)ガラス偏光子、偏光子の少なくとも一方の主表面上に被着された、選ばれた波長及び減衰量において用いるために最適化された多層「光減衰または光減衰性」(LA)コーティング、及びLAコーティングの上面上の多層反射防止(AR)コーティングを、「基板/LA/AR」という順序で、有する。LAコーティングは入射光エネルギーの透過レベルを減じることによって光システム内の過剰エネルギーを低減または除去するように設計される。ARコーティングは表面反射損失を減じて、コントラストを改善し、光学表面透過を促進する。偏光性光学基板上のLAコーティングとARコーティングの組合せの結果、光通信システムにおいて光の後方散乱も防止する、一体型偏光子/アッテネータが得られる。
【0007】
一実施形態においてLAコーティング及びARコーティングは偏光子の一方の表面上に被着されるが、別の実施形態においてLAコーティング及びARコーティングは偏光子の両面上に被着される。また別の実施形態において、素子は、偏光子の少なくとも一方の表面上に被着されたSiO
2コーティング、SiO
2コーティングの上面上に被着された、選ばれた波長及び減衰量において用いるために最適化されたLAコーティング、及びLAコーティングの表面上の反射防止(AR)コーティングを、基板/SiO
2/LA/ARという全体順序で、有する。別の実施形態においては、LAコーティング及びARコーティングが偏光子の一方の表面に施され、第2の表面にはARコーティングだけが施される。
【0008】
反射防止(AR)コーティングは、交互する1.7より大きな屈折率を有する高屈折率材料層H'と1.7以下の屈折率を有する低屈折率材料層L'を有する多層コーティングである。別の実施形態において、反射防止コーティングの最終被着層がSiO
2ではない場合に、反射防止コーティングの最終被着層の上面上にSiO
2の封止層またはキャップ層を配置することができる。光減衰性コーティングLAは選ばれた減衰性材料の複数の層HLからなる多重層である。ここで、Hは高屈折率材料、Lは低屈折率材料である。本開示に与えられる実施例において、多重層LAコーティングはITO(酸化インジウムスズ)、Si及びCr
2O
3を含み、ITO層が偏光ガラス基板上に、またはITO層の被着に先立って偏光ガラス基板上に被着されたSiO
2層上に、被着される第1層である。素子の減衰量は、減衰性材料層の厚さ及び/または数を変えることで、いずれかの所望の減衰量に設定することができる。さらに、減衰層が被着される順序は、本開示に例示されるように、HLからLHに変えることができる。
【0009】
一態様において、本開示は遠距離通信周波数において用いるための光アイソレータ/アッテネータにも関し、光アイソレータ/アッテネータは第1の側面及び第2の側面を有するファラデーローテーター及びそれぞれの側面にある偏光素子を含み、偏光素子の少なくとも1つはモノリシック偏光/アッテネータ素子である。一実施形態において、光アイソレータ/アッテネータデバイスの偏光素子はいずれもモノリシック偏光/減衰性素子である。
【0010】
一実施形態において、本開示の偏光子/アッテネータ及びそのような偏光子/アッテネータを用いる光アイソレータは1275nm〜1635nmの波長範囲において動作する。別の実施形態において、本開示の偏光子/アッテネータ及びそのような偏光子/アッテネータを用いる光アイソレータは600nm〜1100nmの波長範囲において動作する。また別の実施形態において、本開示の偏光子/アッテネータ及びそのような偏光子/アッテネータを用いる光アイソレータは1700nm〜2000nmの波長範囲において動作する。別の実施形態において、本開示の偏光子/アッテネータ及びそのような偏光子/アッテネータを用いる光アイソレータは2000nm〜2300nmの波長範囲において動作する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は減衰機能が統合されているモノリシックガラス偏光子である素子の略図であり、素子は、ガラス偏光子10,入射光の所望の減衰度(%)及び波長に対して最適化された、本明細書では減衰コーティングまたは膜12とも称される、無機光減衰コーティングまたはLAコーティング12,及び反射防止コーティングまたは膜14を有する。
【
図2】
図2は、曲線20,22,24,26,28及び30によってそれぞれ表される、0,1,1.5,2.0,2.5及び3.0dBの減衰量における、一体型直線偏光子/アッテネータの%透過率対波長を示すグラフである。
【
図3】
図3は、4層/無減衰ARコーティングを有する偏光子のスペクトル反射率を示す。
【
図4】
図4は、4層/15%減衰LAコーティング及びLAコーティングの上面上の4層ARコーティングを有する偏光子のスペクトル反射率を示す。
【
図5】
図5は、4層/15%減衰LAコーティング及びLAコーティングの上面上の4層ARコーティングを有する偏光子のスペクトル吸光度を示す。
【
図6】
図6は、4層/24%減衰LAコーティング及びLAコーティングの上面上の4層ARコーティングを有する偏光子のスペクトル反射率を示す。
【
図7】
図7は、4層/24%減衰LAコーティング及びLAコーティングの上面上の4層ARコーティングを有する偏光子のスペクトル吸光度を示す。
【
図8】
図8は、「ポラコア(Polarcor)サブ」とも称される、ポラロア(Polarlor)基板上の5層/15%吸光性ARコーティングの620nm〜650nmの波長範囲での、裏面効果を無視した、スペクトル反射率(Rx)及びスペクトル透過率(Tx)を示す。15%吸光性LA/ARコーティング構造は、ポラコアサブ−225nmITO−135nmCr
2O
3−232nmSiO
2−93nmNb
2O
5−333nmSiO
2−空気である。
【
図9】
図9はポラロア基板上の5層/24%吸光性ARコーティングの620nm〜650nmの波長範囲での、裏面効果を無視した、スペクトル反射率(Rx)及びスペクトル透過率(Tx)を示す。24%吸光性LA/ARコーティング構造はポラコアサブ−229nmITO−79nmCr
2O
3−213nmSiO
2−101nmNb
2O
5−326nmSiO
2−空気である。
【
図10】
図10は、ポラロア基板上の5層/15%吸光性ARコーティングの780nm〜820nmの波長範囲での、裏面効果を無視した、スペクトル反射率(Rx)及びスペクトル透過率(Tx)を示す。15%吸光性LA/ARコーティング構造はポラコアサブ−309nmITO−280nmCr
2O
3−287nmSiO
2−167nmNb
2O
5−390nmSiO
2−空気である。
【
図11】
図11はポラロア基板上の5層/24%吸光性ARコーティングの780nm〜820nmの波長範囲での、裏面効果を無視した、スペクトル反射率(Rx)及びスペクトル透過率(Tx)を示す。24%吸光L性A/ARコーティング構造はポラコアサブ−347nmITO−551nmCr
2O
3−239nmSiO
2−129nmNb
2O
5−392nmSiO
2−空気である。
【
図12】
図12はポラロア基板上の5層/15%吸光性ARコーティングの1010nm〜1110nmの波長範囲での、裏面効果を無視した、スペクトル反射率(Rx)及びスペクトル透過率(Tx)を示す。15%吸光性LA/ARコーティング構造は、ポラコアサブ−455nmITO−477nmCr
2O
3−319nmSiO
2−162nmNb
2O
5−526nmSiO
2−空気である。
【
図13】
図13はポラロア基板上の5層/24%吸光性ARコーティングの1010nm〜1110nmの波長範囲での、裏面効果を無視した、スペクトル反射率(Rx)及びスペクトル透過率(Tx)を示す。24%吸光性LA/ARコーティング構造は、ポラコアサブ−666nmITO−1010nmCr
2O
3−36nmSiO
2−546nmNb
2O
5−574nmSiO
2−空気である。
【
図14】
図14は、偏光子80の前側表面Fに施された、本開示に説明されるような、吸光LA/ADコーティング82及び、偏光子80の後側表面Bに施された、AR(のみ)コーティング84を有する、偏光子80を備えた偏光子/アッテネータ素子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の詳細な説明においては、本発明の実施形態の完璧な理解を提供するために、数多くの特定の詳細が述べられるであろう。しかし、それらの特定の詳細のいくらかまたは全てがなくとも本発明の実施形態が実施され得る場合が当業者には明らかであろう。別の例では、本発明を不必要に曖昧にしないように、周知の構造またはプロセスは詳細に説明されないことがあり得る。さらに、共通であるかまたは同様の素子を識別するために、同様であるかまたは同じ参照数字が用いられることがあり得る。
【0013】
本明細書において、術語「基板」、「偏光性基板」及び「ポラコアサブ」は、それ自身が偏光子であるいずれのガラスまたはガラス素子も定めるために用いられる。そのようなガラス偏光子が数多くの供給源から市販されている。本明細書では、市販の(米国ニューヨーク州コーニング(Corning)のコーニング社(Corning Incorporated)の)ポラコア(Polarcor(登録商標))偏光子が、本開示の一体型偏光/減衰光学素子を作製するための基板の例として用いられる。また本明細書において、モノリシックガラス直線偏光子に施されるコーティングに関し、コーティング及び多層コーティングの個々の層は、偏光子とコーティングの間、またはコーティング層間、または隣接コーティング間に、いかなる接着材料または中間層材料も用いずに、偏光性ガラス、先に施されたコーティング、または多重層コーティングの先に施された層に密着する。接着材料は一般に、物どうしを接合する、溶剤の蒸発によるか、または、接着剤、例えば糊及びエポキシ樹脂、の2つ以上の成分の間におこる化学反応によるキュアー(硬化)が必要な、液体または半流動体である。中間層材料は一般に、キュアーを必要とせずに2つの異なる物どうしを保持または接合することができるポリマー材料、例えば両面接着テープである。さらに、本明細書において、術語「金属酸化物」は一種の金属と酸素からなる酸化物、例えば、Cr
2O
3,Al
2O
3,GeO
2,等を意味し、混合金属酸化物は少なくとも二種の金属と酸素からなる酸化物、例えば酸化インジウムスズ及びSrTiO
3を意味する。
【0014】
本開示のデバイスは、統合された偏光機能及び減衰機能を有し、ファラデーローテーターと組み合わせて一体型光アイソレータ/アッテネータを作製するために用いることができる素子に関する。光アイソレータは、遠距離通信システムにおいて後方反射を減じるかまたは排除するため、偏光子をファラデーローテーターと組み合わせて用いている。本開示に用いられるタイプの偏光子は、遠距離通信関連波長に対して最適化された、モノリシック/吸光型ガラス偏光子として分類される。偏光子は技術上十分に解説されており、例えば、米国特許第7648656号、第7510989号及び第7461488号の明細書は様々な金属を含む偏光子の作製を説明している。偏光子の作製に用いることができる金属には銀、銅及び銅/カドミウムがあり、さらに、白金、パラジウム及び金のような金属、及びその他の金属がある。例えば、特開2009−217176A号公報及び特開2009−217177A号公報は、偏光子の作製及び、光アイソレータ、例えば光通信用ピグテイル型アイソレータであって、ファラデーローテーター及びファラデーローテーターの両側の偏光素子を備えたアイソレータの作製を説明している。
【0015】
現時点において、遠距離通信伝送レーザダイオードによって放射される光信号を減衰するためには、VOA(可変光アッテネータ)またはその他の光コンポーネントが用いられている。本開示は、光を偏光させるためにも光を減衰するためにもはたらくことができる素子、そのような素子を作製する方法、及び所望の固定減衰量を達成し、同時に光アイソレータとしてもはたらくことができるデバイスを説明する。偏光依存型アイソレータ(PDI)において、偏光子素子はアイソレータの入力偏光子及び出力偏光子として用いられる。本開示にしたがえば、所望の減衰量は、偏光子の少なくとも一方の表面の上面上に無機光減衰性(LA)コーティングを配置し、無機LAコーティングの上面上に無反射(AR)コーティングを配置することによって達成される。本明細書に説明される偏光/減衰デバイスにおいて、偏光子は光アイソレータの入力(0°偏光または垂直軸)素子としてまたは出力(45°偏光)素子として用いることができる。一実施形態において、減衰量は1275〜1635nmの波長範囲にわたって0dBより大きく3dBまでの範囲にある。別の実施形態において、減衰量は1275〜1635nmの波長範囲にわたって0.5dB〜3dBまでの範囲にある。本開示に説明される減衰及び反射防止の設計概念は、本開示に説明される教示を用いて適宜にLAコーティング及びARコーティングを変更することによって、別の波長範囲に適用することもできる。例えば、本デザインは、600〜1100nm,1700〜2000nm及び2000〜2300ナノの範囲にある波長において用いることができる。これらの波長範囲における偏光子/アッテネータ素子も光アイソレータに用いることができる。
【0016】
図1は入射偏光を偏光/分析して所望の減衰量で減衰するための統合機能を有する光学素子の構造を示す。無機膜は従来の被着方法のいずれかによって偏光子上に被着することができる。
図1の物品は、偏光子10,ARコーティング14及び、偏光子10とARコーティング14の間にある、LA膜12を有する。LAコーティング膜12は所望の減衰量及び波長に対して最適化される。
【0017】
レーザダイオードの動作波長範囲に対して所望の減衰量を達成するため、LAコーティングは、偏光子の一方の面上の被着に対して設計及び最適化されるか、あるいは両面上の被着に対して設計及び最適化され得る。そのような素子の使用により、偏光依存型アイソレータは統合された機能を有することができる。すなわち、「アイソレータ+アッテネータ」であり得る。
図2は、右側にある参照数字20,22,24,26,28及び30によってそれぞれが個別に表される、減衰量がそれぞれ0,1,1.5,2,2.5及び3.0dBの一体型直線偏光子に対する、代表的な、シミュレートされた%透過率対波長スペクトルを示す。減衰量の差異は偏光子上に施された減衰性コーティングの厚さ及び減衰性コーティングの組成に依存する。
【0018】
図3は、ポラコア基板上に4層/無減衰ARコーティングだけを有し、減衰性コーティングは有していない偏光子のスペクトル反射率を示す。AR被覆偏光子は、ARコーティングはあるが減衰性コーティングはない偏光子に対する、ベースライン例としてはたらく。設計されたARコーティングは、基板に始まり空気で終わる、(1)基板、及び(2)ARコーティング:51nmNb
2O
5,56nmSiO
2,248nmNb
2O
5,2366nmSiO
2,空気である。LA/AR減衰/反射防止コーティングを有する偏光子はこの例と比較されることになる。ARコーティングの最終層がSiO
2であるから、キャップ層は設けられていない。
【0019】
図4は、4層LAコーティング及びLAコーティングの上面上の4層ARコーティングを含む、8層/15%減衰性コーティングを有する偏光子/アッテネータ素子のスペクトル反射率を示す。15%吸光性偏光子/アッテネータ素子の全体コーティング構造は、基板に始まり、(1)基板、(2)多層LAコーティング:317nmITO,22nmSi,67nmCr
2O
3,177nmSi、及び(3)多層ARコーティング:545nmNb
2O
5,100nmSiO
2,111nmNb
2O
5,310nmSiO
2,空気である。ここで、ITOは酸化インジウムスズである。ARコーティングの最終層がSiO
2であるから、キャップ層は設けられていない。
【0020】
図5は、4層LAコーティング及びLAコーティングの上面上の4層ARコーティングを含む、8層/15%減衰性コーティングを有する偏光子/アッテネータ素子のスペクトル吸光度を示す。15%偏光子/アッテネータ素子の全体コーティング構造は
図4の全体コーティング構造と同じであり、基板に始まり、(1)基板、(2)多層LAコーティング:317nmITO,22nmSi,67nmCr
2O
3,177nmSi、及び(3)多層ARコーティング:545nmNb
2O
5,100nmSiO
2,111nmNb
2O
5,310nmSiO
2,空気である。ここで、ITOは酸化インジウムスズである。ARコーティングの最終層がSiO
2であるから、キャップ層は設けられていない。
【0021】
図6は、4層LAコーティング及びLAコーティングの上面上の4層ARコーティングを含む、8層/24%減衰性コーティングを有する偏光子/アッテネータ素子のスペクトル反射率を示す。24%偏光子/アッテネータ素子の全体コーティング構造は、基板に始まり、(1)基板、(2)多層LAコーティング:535nmITO,21nmSi,120nmCr
2O
3,244nmSi及び(3)多層ARコーティング:539nmNb
2O
5,188nmSiO
2,62nmNb
2O
5,369nmSiO
2,空気である。ここで、ITOは酸化インジウムスズである。ARコーティングの最終層がSiO
2であるから、キャップ層は設けられていない。
【0022】
図7は、4層LAコーティング及びLAコーティングの上面上の4層ARコーティングを含む、8層/24%吸光性コーティングを有する偏光子/アッテネータ素子のスペクトル反射率を示す。24%吸光性コーティングの全体コーティング構造は
図4の全体コーティング構造と同じであり、基板に始まり、(1)基板、(2)多層LAコーティング:535nmITO,21nmSi,120nmCr
2O
3,244nmSi、及び(3)多層ARコーティング:539nmNb
2O
5,188nmSiO
2,62nmNb
2O
5,369nmSiO
2,空気である。ここで、ITOは酸化インジウムスズである。ARコーティングの最終層がSiO
2であるから、キャップ層は設けられていない。
【0023】
図8〜13は別の偏光子/アッテネータ素子の、裏面効果を無視した、スペクトル反射率及びスペクトル透過率を示す。「裏面効果」は偏光子/アッテネータ素子に光が初めに入る側の表面から最も遠い側の表面でおこる反射を指す。
図8〜13から裏面効果を除外する理由は、偏光子/アッテネータ素子に光が入る前側表面に施された、工学的に形成された吸光性LA/ARコーティングの実効果を決定して示すためである。裏面効果は、偏光子の裏面上にARコーティングを施すことによるか、または本開示で先述した吸光性LA/ARコーティングの適用によって、排除することができる。
図14の素子は、偏光子80の前側表面Fに施された、本明細書に開示されるような吸光性LA/ARコーティング82及び偏光子80の後側表面に施されたAR(のみの)コーティング84を有する偏光子80を備えた偏光子/アッテネータ素子を示す。光hνが吸光性LA/ARコーティング82の前側表面に当たり、そこでコーティング82によって減衰される。光が次いで偏光子80を通過して偏光にされ、偏光は次いで、ARコーティング84が施され得る、偏光子80の後側表面Bを通過する。
図14において、参照数字86は前側表面Fから反射され得るいずれの光も表し、参照数字88は後側表面Bから反射されるいずれの光も示す。したがって、本開示の教示を用いれば、偏光子基板80の表面の一方または両方の上にLA/ARコーティングを有するか、あるいは、偏光子基板80の前側表面上にLA/ARコーティングを有し、偏光子基板80の後側表面上にARコーティングを有する、偏光子/アッテネータを作製することができる。
【0024】
図8は、「ポラコアサブ」とも称されるポラロア基板上の5層/15%吸光性ARコーティングの620nm〜650nmの波長範囲での、裏面効果を無視した、スペクトル反射率及びスペクトル透過率を示す。15%吸光性LA/ARコーティング構造は、ポラコアサブ−225nmITO−135nmCr
2O
3−232nmSiO
2−93nmNb
2O
5−333nmSiO
2−空気である。
【0025】
図9はポラロア基板上の5層/24%吸光性ARコーティングの620nm〜650nmの波長範囲での、裏面効果を無視した、スペクトル反射率及びスペクトル透過率を示す。24%吸光性LA/ARコーティング構造は、ポラコアサブ−229nmITO−79nmCr
2O
3−213nmSiO
2−101nmNb
2O
5−326nmSiO
2−空気である。
【0026】
図10は、ポラロア基板上の5層/15%吸光性ARコーティングの780nm〜820nmの波長範囲での、裏面効果を無視した、スペクトル反射率及びスペクトル透過率を示す。15%吸光性LA/ARコーティング構造は、ポラコアサブ−309nmITO−280nmCr
2O
3−287nmSiO
2−167nmNb
2O
5−390nmSiO
2−空気である。
【0027】
図11は、ポラロア基板上の5層/24%吸光性ARコーティングの780nm〜820nmの波長範囲での、裏面効果を無視した、スペクトル反射率及びスペクトル透過率を示す。24%吸光L性A/ARコーティング構造は、ポラコアサブ−347nmITO−551nmCr
2O
3−239nmSiO
2−129nmNb
2O
5−392nmSiO
2−空気である。
【0028】
図12は、ポラロア基板上の5層/15%吸光性ARコーティングの1010nm〜1110nmの波長範囲での、裏面効果を無視した、スペクトル反射率及びスペクトル透過率を示す。15%吸光性LA/ARコーティング構造は、ポラコアサブ−455nmITO−477nmCr
2O
3−319nmSiO
2−162nmNb
2O
5−526nmSiO
2−空気である。
【0029】
図13は、ポラロア基板上の5層/24%吸光性ARコーティングの1010nm〜1110nmの波長範囲での、裏面効果を無視した、スペクトル反射率及びスペクトル透過率を示す。24%吸光性LA/ARコーティング構造は、ポラコアサブ−666nmITO−1010nmCr
2O
3−36nmSiO
2−546nmNb
2O
5−574nmSiO
2−空気である。
【0030】
本開示の一体型アイソレータ/アッテネータを作製するために様々な方法を用いることができるが、満たされなければならない一要件は、減衰性コーティング及び反射防止コーティングの被着中、基板の温度を偏光性ガラス基板内の金属粒子が再球状化するであろう温度より低く保たなければならないことである。偏光子内の金属粒子は引き伸ばされており、あまりにも高い温度まで加熱されると、金属粒子は収縮する、及び/または細長粒子としてとどまらずに球形粒子になる(再球状化する)。これがおこると、ガラスの偏光特性は劣化するであろうし、あるいは完全に失われ得る。これがおこる温度は、ガラス内に存在してガラスに偏光特性を与えている特定の金属粒子または金属粒子の混合物に依存するであろう。例えば、偏光性金属が銀、銅または銅/カドミウムであれば、コーティング材料被着中の基板温度は400℃より低い。別の実施形態において、コーティング被着温度は350℃より低い。また別の実施形態において、被着温度は300℃より低い。偏光性材料は、銀、銅、または銅/カドミウムからなる群から選ばれる。一実施形態において、偏光子は、銀、銅、または銅/カドミウムから選ばれる偏光性金属に加えて、米国特許第7468148号及び第7510989号の明細書に述べられているように、白金、パラジウム、オスミウム、イリジウム、ロジウムまたはルテチウムからなる群から選ばれる貴金属をさらに含み、貴金属はゼロ価金属として測定して0.0001重量%〜0.5重量%の範囲にある量で存在している。ガラス内の偏光性金属粒子が収縮するかまたは再球状化するであろう温度は、コーティングプロセスに先立ち、ガラス偏光子を加熱し、収縮及び/または再球状化がおこる温度を観察することによって実験的に決定することができる。この過程は時間及び温度のいずれにもある程度依存する。例えば、偏光子が500℃まで加熱されると、収縮/再球状化は数分内におこり得る。400℃の温度では、時間はほぼ1時間以上である。
【0031】
減衰コーティング及び反射防止コーティングはいずれも技術上既知の物理的及び化学的な気相成長法によって施すことができる。いずれのコーティングを施すにも単一の方法を用いることができ、あるいは、必要であればそれぞれのコーティングに対して別々の方法を用いることができる。減衰性LAコーティング及びARコーティングの被着はマスクを使用するかまたは使用せずに行うことができる。マスクを用いる場合、米国特許第7465681号及び米国特許出願公開第2009/0297812号の明細書に説明されている、通常マスク、反転マスクまたは部分マスクとすることができ、米国特許第7465681号及び米国特許出願公開第2009/0297812号の明細書はそれぞれ反転マスク及び部分マスクの使用も説明している。いくつかの被着方法例が、それぞれ反転マスク及び部分マスクの使用も説明している、米国特許第7465681号及び米国特許出願公開第2009/0297812号の明細書に説明されている。方法には、
(1)コーティングがその上に被着されるべき基板の存在下で、被着されるべき材料が、真空中で、抵抗加熱または電子衝撃により加熱されて溶融状態にされる、従来の蒸着(CD)。溶融すると、材料の蒸発が起こり、コーティングが基板上に被着される。この方法において、基板は通常、加熱される。しかし、総合的に見て、この方法は一般に遠距離通信デバイスの作製にはあまり適していない:
(2)イオン支援蒸着(IAD)はCD法と同様であるが、被着プロセス中に、被着されているコーティングが高速の不活性ガスイオン、例えばアルゴンイオンによって、加えて、酸化物コーティングの場合には一般にコーティングの化学量論的組成を改善するために必要な、いくらかの酸素イオンによって、衝撃される。衝撃は表面エネルギーに打ち勝ち、表面易動度を与えて、緻密で平滑なコーティングを形成するに十分な運動量を被着されているコーティングに移行させるに役立つ。この方法の利点は基板加熱がほとんどまたは全く必要ではないことである:
(3)高速イオンビーム(例えば、500eV〜10010eVの範囲にあるアルゴンイオン)がターゲット材料、一般には酸化物材料に向けられる、イオンビームスパッタリング(IBS)。衝撃時に移行される運動量はターゲット材料をスパッタし、基板に平滑で緻密なコーティングとして被着させるに十分である。しかしこの方法はその有用性を制限する欠点、例えば、(a)基板表面内の被着一様性が製品品質を制限する問題になり得る、(b)ターゲットのエロージョンが進むにつれて被着されるコーティングの一様性が変化する、及び(c)衝撃エネルギーが極めて高く、被着されたフィルムの解離を生じさせる、も有する:
(4)被着されているコーティングに、低電圧であるが、電流密度が高いプラズマによって運動量が移行されることを除いて、IADと同様であるプラズマイオン支援蒸着(PIAD)。一般に、バイアス電圧は90〜160Vの範囲にあり、電流密度はmA/cm
2の範囲にある:
がある。
【0032】
減衰性LAコーティング及びARコーティングの被着はマスクを使用するかまたは使用せずに行うことができる。さらに、コーティング層の被着は、個々の層の被着中または被着後のプラズマイオン支援有りまたは無しで、行うことができる。さらに、酸化物コーティングが形成される場合、被着された酸化物材料に酸素が欠乏していないことを保証するため、被着プロセス中に酸素含有プラズマを用いることができる。しかし、Si(0)、または単にSi、が多層減衰コーティングに用いられる材料の1つである場合、Si層の被着中に用いられるいかなるプラズマ内にも酸素は存在するべきではない。金属酸化物がSi層の上面上に被着される場合、以下でさらに詳細に説明されるように、金属酸化物被着中に酸素が系に流れ込み得る。
【0033】
本開示の減衰コーティングは多層コーティングであり、コーティング材料は、金属及び、1.7より大きい屈折率‘n’を有する、金属酸化物及び混合金属酸化物−L層、及びシリコン−SiまたはSi(0)、からなる群から選ばれ、これらの金属酸化物の全て及びシリコンはゼロではない吸光係数を有する。一実施形態において、減衰コーティング内の少なくとも1つの金属酸化物または混合金属酸化物の層は2.0より大きい屈折率を有する。別の実施形態において、減衰コーティング内の少なくとも1つの金属酸化物または混合金属酸化物の層は2.1より大きい屈折率を有する。Siはnがほぼ3.4より大きく、減衰コーティングの形成に用いられる。Siが減衰コーティング材料として用いられる場合、SiはSi被着工程中に酸素も酸素含有プラズマも全く用いずに被着される。プラズマは、上に挙げた米国特許第7465681号及び米国特許出願公開第2009/0297812号の明細書に示されているように、被着されている膜を平滑化及び緻密化するために用いられる。Siは酸素含有材料、例えば、本開示の実施例におけるようなITOの上面上に被着される。Siの被着中にはアルゴンまたはその他の不活性ガスのプラズマだけが用いられるべきである。Siは酸化物材料の上面上に敷きつめられるから、被着されたSiの初めの数原子層は、Siがその上に被着されている酸化物材料、例えば、ガラス偏光子基板、偏光子の表面上に被着されたSiO
2膜、あるいは金属酸化物及び混合金属酸化物の表面に存在する酸素原子とSi-O結合を形成する。表面がSiで覆われてしまえば、さらなるSi-O結合の形成はおこることができず、設計仕様に達するまでSi層が積み上げられる。Si層の被着後、Si層の上面上に酸化物材料MOを被着することができる。この酸化物材料が被着されている間、酸化物材料はSi層の表面においてSi原子と反応して表面にSi-O-M結合を形成する。Mは被着されている酸化物内の金属である。酸化物材料の数原子層がSi層の上面上に被着されてしまうと、さらなるSi-O-M結合の形成はおこらない。
【0034】
減衰性コーティングは異なる屈折率及び吸光係数を有する少なくとも2つの異なる材料を用いて形成される多層コーティングであり、一方の材料は高屈折率材料Hであり、他方の材料は低屈折率材料Lである。H材料はSiであり、L材料は、1.7より大きい屈折率及び0.001より大きい吸光係数を有する金属酸化物または混合金属酸化物である。別の実施形態において、多層減衰コーティング内のL材料の少なくとも1つは2.1より大きい屈折率及び0.001より大きい吸光係数を有する。多層減衰コーティング内のH材料は、屈折率が3.4より大きく、吸光係数が0.001より大きい、Siである。減衰コーティングの形成に用いることができるL材料の例には、酸化インジウムスズ(ITO),Cr
2O
3,ZnO,Nb
2O
5,及びGeO
2がある。ITO層の厚さは250nm〜600nmの範囲にある。Si(0)層の厚さは20nm〜700nmの範囲にあり、Cr
2O
3,ZnO,Nb
2O
5,及びGeO
2の厚さは20nm〜200nmの範囲にある。減衰コーティングの総厚は300nm〜1500nmの範囲にある。
【0035】
反射防止コーティングは、1.7より大きい屈折率(n)を有する高屈折率材料H'と1.7以下のnを有する低屈折率材料L'とが交互する層を含む、多層酸化物コーティングである。高屈折率ARコーティング材料は、ZrO
2,HfO
2,Ta
2O
5,Sc
2O
5,Nb
2O
5,TiO
2,Y
2O
3,Sc
2O
3,Si
3N
4,SrTiO
3,及びWO
3からなる群から選ばれる。低屈折率AR材料は、SiO
2,溶融石英,HPFS(登録商標),FドープSiO
2(F-SiO
2),及びAl
2O
3、並びにフッ化物、MgF
2,CaF
2,BaF
2,YbF
3,YF
3からなる群から選ばれる。ARコーティングの最終被着層がSiO
2ではない場合、SiO
2の封止層またはキャップ層を最終被着層の上面上に配することができる。高屈折率層の厚さは50nm〜700nmの範囲にある。低屈折率層の厚さは75nm〜500nmの範囲にある。ARコーティングの総厚は700nm〜1500nmの範囲にある。SiO
2キャップ層が用いられる場合、キャップ層の厚さは25nm〜150nmの範囲にある。高屈折率層と低屈折率層の対1つがコーティング周期であり、ARコーティングは少なくとも1周期から、2〜20の範囲にある、複数の周期を含み、したがって、ARコーティングの周期数は1〜20の範囲にある。
【0036】
したがって、一態様において、本開示は、偏光性粒子を内に含んでいるガラス偏光子、ガラス偏光子の少なくとも一方の表面上に被着された多層減衰コーティング及び減衰コーティングの上面上に被着された多層反射防止コーティングからなる、一体型モノリシック直線偏光子/アッテネータ素子に関する。ガラス偏光子内の偏光性粒子は、銀、銅及び銅/カドミウムからなる群から選ばれる。一実施形態において、ガラス偏光子は、白金、パラジウム、オスミウム、イリジウム、ロジウムまたはルテチウムからなる群から選ばれる貴金属をさらに含み、貴金属はゼロ価金属として測定して0.0001重量%〜0.5重量%の範囲にある量で存在する。偏光子/アッテネータ素子で得られる減衰量は、1200〜1700nmの波長範囲にわたり、0dBより大きく3dBまでの範囲にある。
【0037】
多層反射防止コーティングは複数の周期H'L'を含む。ここでH'は1.7より大きい屈折率を有する金属酸化物材料であり、L'は1.7より小さい屈折率を有する金属酸化物材料である。高屈折率材料は、ZrO
2,HfO
2,Ta
2O
5,Nb
2O
5,TiO
2,Y
2O
3,Sc
2O
3,Si
3N
4,SrTiO
3,及びWO
3からなる群から選ばれる。低屈折率材料は、SiO
2,FドープSiO
2,及びAl
2O
3、並びにフッ化物、MgF
2,CaF
2,BaF
2,YbF
3,YF
3からなる群から選ばれる。
【0038】
別の態様において、本開示は、光源からの光ビームの偏光及び減衰のいずれも生じさせる一体型光アイソレータ/アッテネータであって、
第1及び第2の偏光性素子並びに、第1の偏光性素子の前で第2の偏光性素子の後に配置された、光を回転させるためのファラデーローテーター、
を有し、
偏光性素子の少なくとも一方は、ガラス偏光子上に被着された多層減衰コーティング及び減衰コーティングの上面上に被着された多層反射防止コーティングを有するガラス偏光子を備えた、モノリシックガラス偏光子/アッテネータである、
第2の偏光素子の偏光軸は第1の偏光素子の偏光軸から、ファラデーローテーターによる光の回転の角度だけオフセットされる、
光アイソレータ/アッテネータは入射光を、0dBより大きく3dBまでの範囲にある量だけ減衰させる、
一体型光アイソレータ/アッテネータに関する。
【0039】
一体型光アイソレータ/アッテネータは0.5dB〜3dBの範囲にある減衰量を有し、1275〜1635nmの波長範囲において動作する。LAコーティング及びARコーティングを適宜に変更することによって、同じ設計概念を注目する別の波長範囲に適用することができる。多層減衰コーティング材料は2より大きい屈折率を有する金属酸化物及び混合金属酸化物並びにシリコンからなる群から選ばれ、減衰コーティングの総厚は300nm〜1500nmの範囲にある。多層反射防止コーティングは複数の周期H'L'を含む。ここでH'は1.7より大きい屈折率を有する金属酸化物材料であり、L'は1.7より小さい屈折率を有する金属酸化物材料である。反射防止コーティングの総厚は700nm〜1500nmである。高屈折率材料は、ZrO
2,HfO
2,Ta
2O
5,Nb
2O
5,TiO
2,Y
2O
3,Sc
2O
3,Si
3N
4,SrTiO
3,及びWO
3からなる群から選ばれる。低屈折率材料は、SiO
2,FドープSiO
2,及びAl
2O
3、並びにフッ化物、MgF
2,CaF
2,BaF
2,YbF
3,YF
3からなる群から選ばれる。
【0040】
別の態様では、本開示は、一体型モノリシックガラス直線偏光子/アッテネータ素子を作製する方法において、
引き伸ばされた偏光性金属粒子を内に含有するモノリシックガラス直線偏光子を提供する工程、
ガラス偏光子の少なくとも一方の表面上に、2より大きい屈折率を有する少なくとも2つの異なるコーティング材料を含む多層減衰性コーティングを被着する工程、及び
減衰性コーティングの上面上に多層反射防止コーティングであって、少なくとも1つの周期H'L'(ここで、H'は1.7より大きい屈折率を有する高屈折率材料であり、L'は1.7以下の屈折率を有する低屈折率材料である)を含む反射防止コーティングを被着し、それにより、形成する工程、
を有してなり、
減衰性コーティング及び反射防止コーティングの被着中、ガラス偏光子の温度は、ガラス偏光子内の金属粒子が収縮または再球状化する温度より低い、
方法に関する。
【0041】
本方法において、減衰コーティングの被着は、屈折率n≧3.4を有するシリコン並びに、1.7より大きい屈折率を有する、金属酸化物及び混合金属酸化物からなる群から選ばれる減衰コーティング材料の、多層コーティングの被着を意味し、反射防止コーティングの被着は複数の周期H'L'の被着を意味する。ここで、H'は1.7より大きい屈折率を有する金属酸化物屈折率材料であり、L'は1.7より小さい屈折率を有する金属酸化物屈折率材料である。多層減衰コーティングは、250nm〜600nmの範囲にある厚さを有するITO層、20nm〜200nmの範囲にある厚さを有するCr
2O
3層及び30nm〜700nmの範囲にある厚さを有する少なくとも1つのシリコン層を含む。多層反射防止コーティングは複数の周期H'L'を含み、ここで、H'はZrO
2,HfO
2,Ta
2O
5,Nb
2O
5,TiO
2,Y
2O
3,Sc
2O
3,Si
3N
4,SrTiO
3,及びWO
3からなる群から選ばれ、L'はSiO
2,FドープSiO
2,及びAl
2O
3からなる群から選ばれる。
【0042】
本発明を限られた数の実施形態に関して説明したが、本開示の恩恵を有する当業者には、本明細書に開示される本発明の範囲を逸脱しない他の実施形態が案出され得ることが当然であろう。したがって、本発明の範囲は添付される特許請求の範囲だけによって限定されるべきである。
【符号の説明】
【0043】
10 ガラス偏光子
12 光減衰性(LA)コーティング
14 反射防止(AR)コーティング/膜
80 偏光子
82 LA/ARコーティング
84 ARコーティング
86 前面反射光
88 後面反射光
B 偏光子基板の前側表面
F 偏光子基板の後側表面
【手続補正書】
【提出日】2015年8月10日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
別の態様では、本開示は、一体型モノリシックガラス直線偏光子/アッテネータ素子を作製する方法において、
引き伸ばされた偏光性金属粒子を内に含有するモノリシックガラス直線偏光子を提供する工程、
ガラス偏光子の少なくとも一方の表面上に、2より大きい屈折率を有する少なくとも2つの異なるコーティング材料を含む多層減衰性コーティングを被着する工程、及び
減衰性コーティングの上面上に多層反射防止コーティングであって、少なくとも1つの周期H'L'(ここで、H'は1.7より大きい屈折率を有する高屈折率材料であり、L'は1.7以下の屈折率を有する低屈折率材料である)を含む反射防止コーティングを被着し、それにより、
一体型モノリシックガラス直線偏光子/アッテネータ素子を形成する工程、
を有してなり、
減衰性コーティング及び反射防止コーティングの被着中、ガラス偏光子の温度は、ガラス偏光子内の金属粒子が収縮または再球状化する温度より低い、
方法に関する。
【国際調査報告】