特表2015-535524(P2015-535524A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2015-535524HBV及び/又はHDV感受性の細胞、細胞株及び非ヒト動物の開発
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-535524(P2015-535524A)
(43)【公表日】2015年12月14日
(54)【発明の名称】HBV及び/又はHDV感受性の細胞、細胞株及び非ヒト動物の開発
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/705 20060101AFI20151117BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20151117BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20151117BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20151117BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20151117BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20151117BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20151117BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20151117BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20151117BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20151117BHJP
【FI】
   C07K14/705ZNA
   C12N15/00 A
   C12N5/00 102
   C12N5/00 101
   C12N1/19
   C12N1/15
   C12N1/21
   A01K67/027
   C12Q1/02
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-541181(P2015-541181)
(86)(22)【出願日】2013年11月12日
(85)【翻訳文提出日】2015年7月8日
(86)【国際出願番号】EP2013073602
(87)【国際公開番号】WO2014072526
(87)【国際公開日】20140515
(31)【優先権主張番号】61/725,144
(32)【優先日】2012年11月12日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】509161141
【氏名又は名称】ルプレヒト−カールス−ウニヴェルジテート ハイデルベルク
【氏名又は名称原語表記】Ruprecht−Karls−Universitaet Heidelberg
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】アーバン,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ニ,イ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B024
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
4B024AA11
4B024BA63
4B024CA04
4B024DA02
4B024EA02
4B024EA04
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ91
4B063QR48
4B063QR77
4B063QR80
4B063QS36
4B063QS38
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AA58X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB05
4B065BC03
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA13
4H045BA18
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、新規なB型肝炎ウイルス(HBV)及び/又はD型肝炎ウイルス(HDV)レセプター、並びにHBV及び/又はHDV感染に感受性であり、免疫学的研究のため、かつ/又は薬物、ポストエントリー抑制因子及びホスト依存性因子のスクリーニングのために使用することができる細胞、細胞株及び非ヒト動物を開発するためのその使用に関する。本発明は、さらに、HBV及び/又はHDV感染の処置に有用な化合物を同定するための該レセプターの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列である、配列番号1によって表されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号2若しくは配列番号2と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列、及び
一般式Pro−Tyr−X−Gly−Ile(式中、Xは、Lys、Arg及びValより選択される)を有するアミノ酸配列
を含むアミノ酸配列
を有するB型肝炎ウイルス(HBV)又はD型肝炎ウイルス(HDV)レセプター。
【請求項2】
配列番号1及び配列番号3〜8からなる群より選択されるアミノ酸配列を有し、
かつ/又はアミノ酸配列(b)が、さらに、アミノ酸配列Gly−Met−Ile−Ile−Ile−Leu−Leuを含む、請求項1記載のHBV又はHDVレセプター。
【請求項3】
請求項1又は2記載のHBV又はHDVレセプターをコードする、単離された核酸配列、好ましくはDNA配列。
【請求項4】
請求項3記載の核酸配列を含むベクター。
【請求項5】
好ましくはレンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、バキュロウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターからなる群より選択されるウイルス導入ベクターである、請求項4記載のベクター。
【請求項6】
人工的に導入された請求項4若しくは5記載のベクターを含むか又は請求項3記載の核酸配列を含むホスト細胞。
【請求項7】
ガン細胞株、幹細胞株及び初代肝細胞からなる群より選択される請求項6記載のホスト細胞であって、好ましくは前記ガン細胞株が、肝細胞腫細胞株より選択される、ホスト細胞。
【請求項8】
1つ以上の導入遺伝子を含むトランスジェニック細胞又は細胞株であって、前記1つ以上の導入遺伝子の1つが、請求項3記載の核酸配列であることによって、
前記トランスジェニック細胞若しくは細胞株をHBV及び/若しくはHDV感染に感受性にするか、又はHBV及び/若しくはHDV感染に対する前記トランスジェニック細胞若しくは細胞株の感受性を増加させるか、又は前記トランスジェニック細胞若しくは細胞株をHBV及び/若しくはHDVと結合可能にする、
トランスジェニック細胞又は細胞株。
【請求項9】
請求項8記載の1つ以上のトランスジェニック細胞若しくは細胞株を含むか、又は1つ以上の導入遺伝子を含む非ヒトトランスジェニック動物であって、前記1つ以上の導入遺伝子の1つが、請求項3記載の核酸配列であることによって、
前記トランスジェニック動物をHBV及び/若しくはHDV感染に感受性にするか、又は
HBV及び/若しくはHDV感染に対する前記トランスジェニック動物の感受性を増加させる、
非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項10】
マウス、ラット、ウサギ、モルモット並びにカニクイザル及びアカゲザルなどの非ヒト霊長類からなる群より選択される、請求項9記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項11】
請求項9又は10記載の非ヒトトランスジェニック動物から単離された肝細胞。
【請求項12】
HBV及び/若しくはHDV感染に感受性であるか、又はHBV及び/若しくはHDV感染に対して増加した感受性を有するか、又はHBV及び/若しくはHDVと結合することができる細胞を産生させるための方法であって、
− HBV及び/若しくはHDV感染に非感受性であるか、又はHBV及び/若しくはHDV感染に対して低感受性を有するか、又はHBV及び/若しくはHDVと結合することができない細胞を提供するステップ;並びに
− 請求項3記載の核酸配列又は請求項4若しくは5記載のベクターを前記細胞にトランスフェクション又はトランスダクションするステップ
を含む方法。
【請求項13】
さらに、
− 前記細胞にトランスフェクション又はトランスダクションする前記ステップの前に、前記細胞に細胞周期停止剤又は分化誘導剤を添加するステップ
を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
さらに、
− 前記細胞の1つ以上の内因性遺伝子をノックアウト又はノックダウンするステップ
を含む、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
さらに、
− 前記細胞を不死化させて前記細胞の安定細胞株を得るステップ
を含む、請求項12〜14のいずれか記載の方法。
【請求項16】
− HBV及び/又はHDV感染に非感受性である細胞を提供するステップ;並びに
− 配列番号1のアミノ酸192〜200番、好ましくはアミノ酸194〜197番に対応するアミノ酸を、配列番号1若しくは配列番号5のアミノ酸192〜200番、好ましくはアミノ酸194〜197番に、かつ/又は
配列番号1のアミノ酸155〜165番、好ましくはアミノ酸156〜162番に対応するアミノ酸を、配列番号1、配列番号4若しくは配列番号5のアミノ酸155〜165番、好ましくはアミノ酸156〜162番に置換するように配列番号1をコードするヒト遺伝子に対応する前記細胞の内因性遺伝子を相同組換えによって改変するステップ
を含む、HBV及び/又はHDV感染に感受性である細胞を産生させる方法。
【請求項17】
請求項12〜16のいずれか記載の方法によって得られた細胞。
【請求項18】
請求項17記載の1種以上の細胞を含む非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項19】
HBV又はHDVに対するレセプターとしての
(a)配列番号1と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列である、配列番号1によって表されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号2若しくは配列番号2と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列、及び
一般式Pro−Tyr−X−Gly−Ile(式中、Xは、Lys、Arg及びValより選択される)を有するアミノ酸配列
を含むアミノ酸配列
の使用。
【請求項20】
− 前記アミノ酸配列を発現する第1の細胞を、前記HBV又はHDVに対するレセプターに結合することが公知の化合物に曝露し、前記細胞の応答を測定するステップ;
− 前記アミノ酸配列を発現する前記第1の細胞と同じ種類の第2の細胞を、前記HBV又はHDVに対するレセプターに結合することが疑われる候補化合物に曝露し、前記第2の細胞の応答を測定するステップ;及び
− 前記細胞の応答と前記第2の細胞の応答を比較し、前記候補化合物が、前記HBV又はHDVに対するレセプターに結合するか否かをそのような比較に基づき判定するステップ
を含む、請求項19記載の使用。
【請求項21】
請求項1若しくは2記載のHBV若しくはHDVレセプターに結合し、かつ/又は請求項1若しくは2記載のHBV若しくはHDVレセプターへのHBV若しくはHDVの結合を阻害する化合物を同定するステップを含む、HBV及び/又はHDV感染の処置に有用な化合物を同定するための方法。
【請求項22】
HBV及び/又はHDV感染の処置に使用するための、請求項1若しくは2記載のHBV若しくはHDVレセプターに結合し、かつ/又は請求項1若しくは2記載のHBV若しくはHDVレセプターへのHBV若しくはHDVの結合を阻害する化合物であって、HBV Lタンパク質由来リポペプチド又は前記HBV若しくはHDVレセプターの天然基質若しくは結合パートナーではない化合物。
【請求項23】
(ポリ)ペプチド、抗体、アプタマー並びに小分子及びペプチド模倣化合物などの有機化合物からなる群より選択される、請求項22記載の化合物。
【請求項24】
免疫学的研究のための、及び/又は薬物、ポストエントリー抑制因子若しくはホスト依存性因子のスクリーニングのための、
請求項6若しくは7記載のホスト細胞、又は
請求項8記載のトランスジェニック細胞若しくは細胞株、又は
請求項11記載の肝細胞、又は
請求項17記載の細胞、又は
請求項9、10及び18のいずれか記載の非ヒトトランスジェニック動物
の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なB型肝炎ウイルス(HBV)及び/又はD型肝炎ウイルス(HDV)レセプター、並びにHBV及び/若しくはHDV感染に感受性であり、免疫学的研究のため、かつ/又は薬物、ポストエントリー抑制因子(post-entry restriction factor)及びホスト依存性因子のスクリーニングのために使用することができる細胞、細胞株及び非ヒト動物を開発するためのその使用に関する。本発明は、さらに、HBV及び/又はHDV感染の処置に有用な化合物の同定のための該レセプターの使用に関する。
【0002】
ヒトB型肝炎ウイルス(HBV)は、急性及び慢性肝感染を引き起こす。3億5千万人が持続的に感染している(Cornberg et al., Minerva Gastroenterol Dietol 2010, 56(4), 451-465)。慢性B型肝炎は、ワクチンが利用可能であるにもかかわらず大きな世界的健康問題のままであろう。治療法(IFNα及び5種のヌクレオシド類似体)は限られており、主として非治癒的である。
【0003】
HBVは、ヘパドナウイルス科のメンバーである。ヘパドナウイルスは、pgRNA中間体の逆転写により複製する最小のエンベロープDNAウイルスである。ヌクレオカプシドは、構築の間にラージ(L)、ミドル(M)及びスモール(S)という名の3種のウイルスエンベロープタンパク質を獲得する。それらは、1つのオープンリーディングフレーム中にコードされ、膜アンカーに必要なSドメインを共有する。Sドメインに加えて、Mは、アミノ酸55個のN末端親水性伸長部(preS2)を含有し、一方でLは、preS1という名のアミノ酸107、117又は118個(遺伝子型依存性)によってさらに伸張されている(Urban, Future Virol. 2008, 3(3), 253-264)。D型肝炎ウイルス(HDV)は、肝細胞への侵入のためにHBVエンベロープタンパク質を利用するサテライトウイルソイドである。Lのミリストイル化preS1ドメインは、HBV及びHDVの感染性に主要な役割を果たすことが公知である。
【0004】
ヘパドナウイルスは、顕著な種特異性を示す。マウス及びラットがHBVに抵抗性であるという事実は、1つ以上のエントリー因子の欠如又はポストエントリー抑制因子の存在のいずれかに原因があるとされてきた。非感受性種の肝細胞へのプラスミドコード型HBVゲノムの送達はビリオン分泌を促進するので、ホストの制約が初期感染事象に関係すると想定される。HBVの別の特性は、肝細胞に選択的にインビボ感染する効力である。種特異性及び異常な肝親和性がHBV感染の初期段階に、例えば特異的レセプター認識に関連するという仮定は、魅力的である。
【0005】
現在のところ、初代ヒト肝細胞(PHH)、初代ツパイ(tupeia belangeri)肝細胞(PTH)及び分化したHepaRG細胞だけが完全なHBV複製サイクルを支援する。後者は、DMSO処理後にPHH様細胞に分化可能な肝前駆細胞株である。初代マウス肝細胞(PMH)及び初代ラット肝細胞(PRH)は、HBVに抵抗性である。したがって、マウス及びラットは、デノボHBV感染もウイルス拡散も支援しない。(免疫適格性の)小型動物モデルの欠如は、HBV研究における主要な障壁であり、根底となる分子抑制因子の解明を要求している。そのことは、全長のHBVゲノムの組み込み物を担持するHBVトランスジェニックマウス又は免疫欠損PHH移植uPA/Scidマウスのような代替システムの開発に繋がる。
【0006】
本発明者らは、以前に、PHH細胞及びHepaRG細胞のHBV及びHDV感染を遮断するHBV Lタンパク質由来リポペプチドを同定した(Gripon et al., J Virol 2005, 79(3), 1613-1622; Schulze et al., J Virol 2010, 84(4), 1989-2000; 国際公開公報第2009/092611A1号)。それらのリポペプチドは、HBVのpreS1ドメインのN末端アミノ酸47個(HBVpreS/2−48myr)に相当し、ミリスチン酸による天然改変を含む。細胞をHBVpreS/2−48myrと共に予備インキュベーションすると感染が遮断されるので、それらのリポペプチドは、おそらくレセプター指向性であるが、しかしそのレセプターは今までのところ未知である。
【0007】
したがって、これらのHBV Lタンパク質由来リポペプチドの結合を担うレセプターを同定することが、本発明の目的であった。
【0008】
さらに、前記レセプターの発現により、HBV及び/又はHDV感染に感受性である細胞及び細胞株を開発することが、本発明の目的であった。
【0009】
なお、HBV及び/又はHDV感染に感受性である非ヒトトランスジェニック動物を提供することが、本発明のさらなる目的であった。
【0010】
次に、そのようなトランスジェニック細胞、細胞株及び動物は、免疫学的研究のために、並びに/又は薬物、ポストエントリー抑制因子及びホスト依存性因子のスクリーニングのために使用することができよう。
【0011】
さらに、新たに同定されたレセプターは、HBV及び/又はHDV感染の処置に有用なさらなる化合物を同定するために使用することができよう。
【0012】
本発明の目的は、
(a)配列番号1によって表されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号2若しくは配列番号2と少なくとも90%、好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%同一であるアミノ酸配列、及び
一般式Pro−Tyr−X−Gly−Ile[配列番号11](式中、Xは、Lys、Arg及びValより選択される)を有するアミノ酸配列
を含むアミノ酸配列
を有するB型肝炎ウイルス(HBV)又はD型肝炎ウイルス(HDV)レセプターによって解決される。
【0013】
本発明の目的は、また、
(a)配列番号1によって表されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号2若しくは配列番号2と少なくとも90%、好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%同一であるアミノ酸配列を含み、かつ
配列番号1のアミノ酸158番に対応する位置にGlyを有するか、若しくは
配列番号1のアミノ酸158及び159番に対応する位置に配列Gly−Ileを有するアミノ酸配列
を有するB型肝炎ウイルス(HBV)又はD型肝炎ウイルス(HDV)レセプターによって解決される。
【0014】
配列番号1は、ヒトタウロコール酸ナトリウム共輸送体ポリペプチドNTCP/SLC10A1である。
【0015】
本発明の好ましい態様では、「配列番号1によって表されるアミノ酸配列」は、配列番号1と少なくとも90%、好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%若しくは99%同一であるか、又は配列番号1と同一であるアミノ酸配列を指す。
【0016】
前記アミノ酸配列(b)は、好ましくは2つの領域又はドメインを含む:
(1)ヒトNTCPのアミノ酸265〜291番
【化1】

(又は少なくとも90、91若しくは92%の同一性を有する配列)を含む領域又はドメイン;
(2)一般式
【化2】

(式中、Xは、K、R及びVより選択される)を有するアミノ酸配列を含む領域又はドメイン。
【0017】
一態様では、前記アミノ酸配列(b)の領域又はドメイン(2)は、(少なくとも)
− 一般式
【化3】

を有するアミノ酸配列中などの、配列番号1のアミノ酸158番に対応する位置にあるGlyを含むか、又は;
− 一般式
【化4】

を有するアミノ酸配列中などの、配列番号1のアミノ酸158及び159番に対応する位置に配列Gly−Ileを含む若しくは有する。
【0018】
一態様では、前記アミノ酸配列(b)は、450個を超えるアミノ酸を、好ましくは400個を超えるアミノ酸を含まない。
【0019】
一態様では、前記アミノ酸配列(b)は、さらに、アミノ酸配列Gly−Met−Ile−Ile−Ile−Leu−Leu[配列番号12]を含む。
【0020】
この態様では、前記アミノ酸配列(b)は、3種の領域又はドメインを含む:
(1)ヒトNTCPのアミノ酸265〜291番
【化5】

(又は少なくとも90、91若しくは92%の同一性を有する配列)を含む領域又はドメイン;
(2)一般式
【化6】

(式中、Xは、K、R及びVより選択される)
を有するアミノ酸配列を含む領域又はドメイン;
(3)アミノ酸配列
【化7】

を含む領域又はドメイン。
【0021】
本発明の目的は、また、配列番号1及び配列番号3〜8からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する上記と同義のHBV又はHDVレセプターによって解決される。
【0022】
本発明の目的は、また、上記と同義のHBV又はHDVレセプターをコードする、単離された核酸配列、好ましくはDNA配列によって解決される。
【0023】
本発明の目的は、また、上記と同義の核酸配列を含むベクターによって解決される。
【0024】
一態様では、前記ベクターは、好ましくはレンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、バキュロウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターからなる群より選択されるウイルス導入ベクターである。レンチウイルスベクターは、安定な細胞株を産生させ、アデノウイルスベクター及びAAVは、インビトロで初代肝細胞に、又はインビボでマウスにトランスダクションするのに有用であり、それらをHBV及び/又はHDV感染に一過性に感受性にする。
【0025】
本発明の目的は、また、人工的に導入された上記と同義のベクターを含むか又は上記と同義の核酸配列を含むホスト細胞によって解決される。
【0026】
一態様では、用語「人工的に導入された」は、核酸配列が、非内因性プロモーター、例えば前記ホスト細胞中の前記核酸配列と自然には関連しないプロモーターの制御下で発現されるという事実を指す。
【0027】
本発明による特に好ましい細胞は、ガン細胞株、幹細胞株及び初代肝細胞であり、ここで、好ましくは、該ガン細胞株は、肝細胞腫細胞株、例えばヒト、マウス又はラット肝細胞腫細胞株より選択される。好ましいヒト肝細胞腫細胞株には、HuH7、HepG2及びHepaRGが含まれる。好ましいマウス肝細胞腫細胞株には、Hep56.1D及びHepa1−6が含まれる。一態様では、該初代肝細胞は、不死化されている。
【0028】
本発明の目的は、また、1つ以上の導入遺伝子を含むトランスジェニック細胞又は細胞株であって、前記1つ以上の導入遺伝子の1つが、上記と同義の核酸配列であることによって、
前記トランスジェニック細胞若しくは細胞株をHBV及び/若しくはHDV感染に感受性にするか、又はHBV及び/若しくはHDV感染に対する前記トランスジェニック細胞若しくは細胞株の感受性を増加させるか、又は前記トランスジェニック細胞若しくは細胞株をHBV及び/若しくはHDVと結合可能にする、
トランスジェニック細胞又は細胞株によって解決される。
【0029】
本発明の目的は、また、上記と同義の1つ以上のトランスジェニック細胞若しくは細胞株を含むか、又は1つ以上の導入遺伝子を含む非ヒトトランスジェニック動物であって、
前記1つ以上の導入遺伝子の1つが、上記と同義の核酸配列であることによって、
前記トランスジェニック動物をHBV及び/若しくはHDV感染に感受性にするか、又は
HBV及び/若しくはHDV感染に対する前記トランスジェニック動物の感受性を増加させる、
非ヒトトランスジェニック動物によって解決される。
【0030】
本発明による好ましい非ヒトトランスジェニック動物は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット並びにカニクイザル及びアカゲザルなどの非ヒト霊長類からなる群より選択される。特に好ましいトランスジェニック動物はマウスである。
【0031】
一態様では、前記非ヒトトランスジェニック動物は、免疫適格性である。
【0032】
本発明の目的は、また、上記と同義の非ヒトトランスジェニック動物から単離された肝細胞によって解決される。
【0033】
本発明の目的は、また、HBV及び/若しくはHDV感染に感受性であるか、又はHBV及び/若しくはHDV感染に対して増加した感受性を有するか、又はHBV及び/若しくはHDVと結合することができる細胞を産生させるための方法であって、
− HBV及び/若しくはHDV感染に非感受性であるか、又はHBV及び/若しくはHDV感染に対して低感受性を有するか、又はHBV及び/若しくはHDVと結合することができない細胞を提供するステップ;並びに
− 上記と同義の核酸配列又は上記と同義のベクターを前記細胞にトランスフェクション又はトランスダクションするステップ
を含む方法によって解決される。
【0034】
一態様では、前記細胞は、HBV及び/若しくはHDV感染に非感受性であるか、又はHBV及び/若しくはHDVと結合することができない。
【0035】
一態様では、該方法は、さらに、
− 前記細胞にトランスフェクション又はトランスダクションする前記ステップの前に、前記細胞に細胞周期停止剤又は分化誘導剤を添加するステップ
を含む。
【0036】
一態様では、前記細胞周期停止剤又は分化誘導剤はDMSOであり、ここで好ましくは、DMSOは、0.1〜5%(v/v)、より好ましくは0.5〜2.5%(v/v)の範囲内の終濃度で添加される。
【0037】
一態様では、該方法は、さらに、
− 前記細胞の1つ以上の内因性遺伝子をノックアウト又はノックダウンするステップ
を含む。
【0038】
一態様では、前記細胞の前記内因性遺伝子は、前記細胞の天然NTCP/SCL10A1ポリペプチド(すなわち、前記細胞をHBV及び/若しくはHDV感染に感受性にせず、かつ/又は前記細胞をHBV及び/若しくはHDVと結合させないヒトNTCP/SCL10A1ホモログ)をコードする遺伝子である。そのようなノックアウト又はノックダウンは、内因性(非ヒト)遺伝子の優性阻害効果を抑制することを助ける。
【0039】
一態様では、前記細胞の1つ以上の内因性遺伝子の前記ノックアウト又はノックダウンは、shRNAベクターにより達成される。一態様では、上記と同義の核酸配列及びshRNAの両方が単一のベクター中に含有される。
【0040】
一態様では、前記方法は、さらに、
− 前記細胞を不死化させて前記細胞の安定細胞株を得るステップ
を含む。
【0041】
一態様では、前記細胞は、肝細胞腫細胞株、例えばHuH7、HepG2及び特にHepaRGなどのヒト肝細胞腫細胞株より選択される。別の態様では、前記細胞は初代肝細胞である。
【0042】
本発明の目的は、また、HBV及び/又はHDV感染に感受性である細胞を産生させる方法であって、
− HBV及び/又はHDV感染に非感受性である細胞を提供するステップ;並びに
− 配列番号1のアミノ酸192〜200番、好ましくはアミノ酸194〜197番に対応するアミノ酸を、配列番号1若しくは配列番号5のアミノ酸192〜200番、好ましくはアミノ酸194〜197番に、かつ/又は
配列番号1のアミノ酸155〜165番、好ましくはアミノ酸156〜162番に対応するアミノ酸を、配列番号1、配列番号4若しくは配列番号5のアミノ酸155〜165番、好ましくはアミノ酸156〜162番に置換するように配列番号1をコードするヒト遺伝子に対応する前記細胞の内因性遺伝子を相同組換えによって改変するステップ
を含む方法によって解決される。
【0043】
特定の理論に縛られることを望むわけではないが、本発明者らは、アミノ酸155〜165番に対応する領域、特にアミノ酸157及び158番(Gly)が、HBV及び/又はHDVの結合に関与する一方で、アミノ酸192〜200番に対応する領域、特にアミノ酸195〜197番(Ile−Leu−Leu)が、(例えば膜融合などの細胞侵入ステップを媒介することによって)HBV及び/又はHDV感染に関与すると信じている。
【0044】
本発明の目的は、また、上記方法によって得られた細胞によって及び少なくとも1つのそのような細胞を含む非ヒトトランスジェニック動物、例えばマウス(uPA/Scidマウスなど)によって解決される。
【0045】
本発明の目的は、また、HBV又はHDVに対するレセプターとして
(a)配列番号1によって表されるアミノ酸配列、又は
(b)配列番号2若しくは配列番号2と少なくとも90%、好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%同一であるアミノ酸配列、及び
一般式Pro−Tyr−X−Gly−Ile[配列番号11](式中、Xは、Lys、Arg及びValより選択される)を有するアミノ酸配列
を含むアミノ酸配列
を使用することによって解決される。
【0046】
本発明の好ましい態様では、「配列番号1によって表されるアミノ酸配列」は、配列番号1と少なくとも90%、好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも95%若しくは99%同一であるか、又は配列番号1と同一であるアミノ酸配列を指す。
【0047】
上記と同義のアミノ酸配列(b)の他の態様も使用することができる。
【0048】
一態様では、前記使用は、
− 前記アミノ酸配列を発現する第1の細胞を、前記HBV又はHDVに対するレセプターに結合することが公知の化合物に曝露し、前記細胞の応答を測定するステップ;
− 前記アミノ酸配列を発現する前記第1の細胞と同じ種類の第2の細胞を、前記HBV又はHDVに対するレセプターに結合すると疑われる候補化合物に曝露し、前記第2の細胞の応答を測定するステップ;及び
− 前記細胞の応答と前記第2の細胞の応答を比較し、前記候補化合物が前記HBV又はHDVに対するレセプターに結合するか否かをそのような比較に基づき判定するステップ
を含む。
【0049】
前記HBV又はHDVに対するレセプターに結合することが公知の化合物には、例えば国際公開公報第2009/092611A1号に定義されたような、ある種のHBV preS由来リポペプチドが含まれる。
【0050】
本発明の目的は、また、HBV及び/又はHDV感染の処置に有用な化合物を同定するための方法であって、上記と同義のHBV及び/若しくはHDVレセプターに結合し、かつ/又は上記と同義のHBV及び/若しくはHDVレセプターへのHBV及び/若しくはHDVの結合を阻害する化合物を同定するステップを含む方法によって解決される。
【0051】
本発明の目的は、また、HBV及び/又はHDV感染の処置に使用するための、上記と同義のHBV及び/若しくはHDVレセプターに結合し、かつ/又は上記と同義のHBV及び/若しくはHDVレセプターへのHBV及び/若しくはHDVの結合を阻害する化合物であって、HBV Lタンパク質由来リポペプチド又は前記HBV及び/若しくはHDVレセプターの天然基質若しくは結合パートナー(例えばタウロコール酸ナトリウムなどの天然の胆汁酸塩)ではない化合物によって解決される。
【0052】
本発明の目的は、また、HBV及び/又はHDV感染の処置のための医薬の製造に上記と同義の化合物を使用することによって解決される。
【0053】
本発明の目的は、また、HBV及び/又はHDV感染の処置の方法であって、それを必要とする被験体に上記と同義の化合物を投与することを含む方法によって解決される。
【0054】
一態様では、前記化合物は、(ポリ)ペプチド、抗体、アプタマー、並びに小分子及びペプチド模倣化合物などの有機化合物からなる群より選択される。有用な有機化合物には、また、胆汁酸塩の誘導体が含まれ得る。
【0055】
本明細書に使用される用語「小分子」は、非ポリマー性低分子量有機化合物を指すことを意味する。
【0056】
一態様では、前記化合物は、配列番号1のアミノ酸155〜165番、好ましくはアミノ酸156〜162番におおよそ対応する部位で上記と同義のHBV及び/又はHDVレセプターに結合する。
【0057】
本発明の目的は、また、
免疫学的研究のため、かつ/又は薬物、ポストエントリー抑制因子若しくはホスト依存性因子のスクリーニングのために、
上記と同義のホスト細胞、又は
上記と同義のトランスジェニック細胞若しくは細胞株、又は
上記と同義の肝細胞、又は
上記と同義の細胞、又は
上記と同義の非ヒトトランスジェニック動物
を使用することによって解決される。
【0058】
配列番号1〜10は、以下の配列を指す:
【0059】
【化8】


【0060】
本発明者らは、B型肝炎ウイルス(HBV)及び/又はD型肝炎ウイルス(HDV)感染に主要な役割を果たす新規なHBV preS1特異的レセプターであるヒトタウロコール酸ナトリウム共輸送体ポリペプチドNTCP/SLC10A1を同定した。このレセプター又はある種の非ヒト対応物の発現は、以前はHBV及び/若しくはHDVと結合することができなかった、かつ/又はHBV及び/若しくはHDV感染に非感受性であった細胞を、HBV及び/若しくはHDVと結合適格性であり、かつ/又はHBV及び/若しくはHDV感染に感受性である細胞にトランスフォーメーションさせる。HBV及び/又はHDV感染に既に感受性である細胞(例えばHepaRG細胞)は、NTCPを発現すると顕著に増加した感受性を示す。
【0061】
さらに、様々な種由来のNTCP/SLC10A1配列のアライメントは、HBV及び/又はHDVの結合を担い、HBV及び/又はHDV感染に対する感受性を付与すると推定される特異的アミノ酸配列を明らかにした。HBV及び/又はHDVの結合適格性及び/又は感染感受性を付与又は増加させるために、これらの特異的アミノ酸配列を、例えば相同組換えによってHBV及び/又はHDVの結合性又は感染感受性を示さない又は低く示している細胞/生物の内因性NTCP/SLC10A1遺伝子に導入することが可能である。
【0062】
これらの驚くべき知見は、免疫学的研究のため、かつ/又は薬物、ポストエントリー抑制因子及びホスト依存性因子のスクリーニングのために使用することができるHBV及び/又はHDV感受性細胞、細胞株及び非ヒト動物の開発を可能にする。さらに、この重要なレセプターの同定は、HBV及び/又はHDV感染の処置に有用である新規な化合物の同定を可能にするであろう。
【0063】
ここで図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】異なる種由来のタウロコール酸ナトリウム共輸送体ポリペプチドNTCP/SLC10A1の配列アライメントを示す図である。ペプチド結合及びHBV感染を支援している種(ヒト、チンパンジー、オランウータン、及びツパイ)、感染を支援せずにHBV−preS由来リポペプチドとの結合に適格である種(マウス、ラット、イヌ)及び結合することができず感染を支援しない種を示す。同一のアミノ酸を黄色で強調表示する。非保存型アミノ酸変化を網掛けせずに示す。非結合性の種であるカニクイザル及びブタでは異なるアミノ酸2個(157及び158番)(Meier et al., Hepatology 2012; Schieck et al., Hepatology 2012、印刷中)は、必須結合部位を示す(枠で強調表示)。
図2】HuH7細胞へのヒトNTCP及びマウスNTCPの一過性トランスフェクションが、Atto645ラベルHBV preSリポペプチド(Myrcludex B、MyrBと呼ばれる)の結合を付与することを示す図である。GFPをコードするプラスミド(左)、ヒトNTCPと一緒にGFPをコードするプラスミド(中央)並びにGFP及びマウスNTCPをコードするプラスミドをHuH7細胞に一過性トランスフェクションした。トランスフェクションの3日後に、細胞を蛍光ラベル化HBV preSリポペプチドと共にインキュベーションし、洗浄し、蛍光顕微鏡法によって分析した。GFP蛍光を左上欄に示し、細胞を左下欄に示し、ペプチド結合を右上欄に示し、トランスフェクション後の結合適格細胞のマージ画像を右下欄に示す。
図3】ヒト又はマウスNTCPを発現している安定トランスダクションされたHepG2細胞がHBV preSリポペプチドと特異的に結合することを示す図である。HepG2細胞にhNTCP(上図)又はmNTCP(下図)を安定トランスダクションし、500nM Attoラベル化野生型HBV preSリポペプチド(左図)又は必須HBVレセプター結合ドメイン中にアミノ酸交換を有する同濃度の各突然変異型ペプチド(右図)と共にインキュベーションした。ペプチドの結合を蛍光顕微鏡法によって視覚化した。
図4】安定トランスダクションされたマウス肝細胞腫細胞(Hep56.1D及びHepa1−6)がHBV preSリポペプチドと特異的に結合することを示す図である。HepG2、Hep56.1D及びHepa1−6細胞にhNTCPを安定トランスダクションし、500nM Attoラベル化野生型HBV preSリポペプチドと共にインキュベーションした。ペプチドの結合を蛍光顕微鏡法によって視覚化した。
図5】ヒトNTCPをトランスフェクションされたHuH7細胞がHDV感染に感受性であることを示す図である。HDV含有ヒト血清を接種されたHuH7は、接種の4日後にHDV感染のどのマーカーも示さない(左図)。ヒトNTCP発現プラスミドをトランスフェクション後に、HDVデルタ抗原特異的染色を観察した(右図)。
図6】Hep56.1Dマウス細胞株でのヒトNTCPの内因性発現が、それらの細胞をHDV感染に感受性にすることを示す図である。Hep56.1Dマウス肝細胞腫細胞株単独(模擬)又はヒトNTCP(hNTCP)をトランスフェクションされたHep56.1D細胞株にHDV含有血清を感染させた(右図)。肝炎デルタ抗原を発現している細胞を感染の5日後に計数した。第2の対照として、ヒトHuH7細胞にヒトNTCP又はマウスNTCPをトランスフェクションし、HDVを感染させた(左図)。
図7】マウスではなくヒトNTCPのトランスフェクションがHuH7細胞を肝炎デルタウイルス(HDV)感染に感受性にすることを示す図である。HuH7細胞にマウスNTCPをコードする発現ベクター(左欄)又はヒトNTCPをコードする発現ベクター(2つの異なる倍率で右側4欄)を一過性トランスフェクションした。コンフルエンス時に細胞を、HDVを含有する患者の血清と共にインキュベーションした。感染の4日後に、核内デルタ抗原を検出する抗血清で細胞を染色した。
図8】NTCP(ヒト)をトランスフェクションされたマウスHep56.1D細胞の肝炎デルタウイルス感染後の免疫蛍光分析を示す図である。Hep56.1Dマウス肝細胞腫細胞株にマウスNTCP(左側2欄)又はヒトNTCP(hNTCP)(2つの異なる倍率で右側4欄)をトランスフェクションし、HDV含有血清を感染させ、肝炎デルタ抗原特異的抗体で染色した。
図9】ヒトNTCPを安定発現しているHepG2細胞及びHuH7細胞が、B型肝炎ウイルス(HBV)感染に感受性になることを示す図である。安定的にhNTCPをトランスダクションされたHepG2及びHuH7細胞株に、異なるDMSO濃度でHBVを接種して分化過程を誘導した。感染5日後に培地を収集し、HBeAgを定量した。感染についての特異的対照として、HBV preS由来リポペプチド(MyrB)を使用した(左側バー)。HepG2細胞に比べてHuH7細胞は、より少ない量のウイルス複製マーカーを産生し、抑制ステップの存在を示している。
【0065】
これから以下の実施例により本発明をさらに説明するが、これらの実施例は、本発明を例示するつもりであり、その範囲を限定するつもりはない。
【0066】
実施例
材料及び方法
NTCPの配列
異なる種由来のNTCPのタンパク質配列をEnsemble(www.ensemble.org)から得た。
【0067】
アライメント
ベクターNTI9.0(Invitrogen)を使用することによって異なる種由来のNTCPタンパク質のアライメントを行った。
【0068】
プラスミド及びペプチド
ヒトNTCP(hNTCP)含有構築物(pCMV6−XL4−hNTCP)をOrigene(USA)から購入した。hNTCP及びNTCPのオープンリーディングフレームをPCRによって増幅し、一過性発現用(pWPI−GFP)又は安定発現用(pWPIpuro)のpWPIレンチウイルスベクターに挿入した。
【0069】
HBV感染阻害のために使用したペプチドは、以前にMyrcludex B(MyrB)と記述されていた。それは、HBV Lタンパク質のアミノ酸47個を含むN−ミリストイル化ペプチドである。ATTO 645及びATTO 488(ATTO-TEC, Germany)は、結合アッセイ法のためにペプチドをラベルするために使用される蛍光色素である。必須結合部位(アミノ酸11〜15番)中にアラニン置換を有する突然変異型ペプチドを、結合特異性の対照として使用した。
【化9】
【0070】
レンチウイルスのトランスダクション
組換えレンチウイルスを産生するために、トランスフェクションの1日前にHEK293T細胞を播いた。293T細胞に添加する前に、エンベロープタンパク質発現構築物pczVSV−G 3μg、HIV Gag−Pol発現構築物pCMVΔR8.74 9μg及びレンチウイルスベクターpWPI 9μgをポリエチレンイミン 25μgと混合した。レンチウイルス偽粒子(pseudoparticle)を含有する上清を採集し、超遠心分離によって濃縮した。沈殿したレンチウイルス粒子を細胞培地中に再懸濁した。
【0071】
一過性発現のために、4%PEG8000の存在下で肝細胞をレンチウイルスと共にインキュベーションした。一晩インキュベーション後に接種材料を取り出した。細胞をPBSで1回洗浄し、ターゲットタンパク質の発現のために3日間培養した。安定細胞株の樹立のために、2.5μg/ml ピューロマイシンを添加して、安定トランスダクションされた細胞を選択した。一般に、未トランスダクション細胞と比べて有意な形態差を示さずに肝細胞の90%が選択から生存した。
【0072】
細胞
本研究に4種の肝細胞を使用した。それらの2種はヒト由来であり(HuH−7及びHepG2)、残りの2種はマウス由来である(Hep56.1D及びHepa1−6)。HEK293T細胞をレンチウイルス産生のために使用した。
【0073】
蛍光ラベル化ペプチドを用いた結合アッセイ法
肝細胞の結合適格性を決定するために、一過性又は安定トランスダクションされた細胞を、細胞培地中200〜500nM 蛍光ラベル化ペプチドと共に15〜60分間インキュベーションした。次に細胞をPBSで3回洗浄し、蛍光顕微鏡法によって分析した。
【0074】
HBV及びHDVの感染アッセイ法
HBV粒子をHepAD38細胞から得た。HBV又はHDV感染のために、4%PEG8000及びウイルス10〜20μl(100倍ウイルス原液)を含有する培地を細胞に37℃で一晩接種した。その後、細胞をPBSで3回洗浄し、さらに5日間培養した。培養上清中に分泌されたB型肝炎ウイルス抗原(HBeAg)の存在を、Abbott HBeAgアッセイ(Abbott Laboratories)によって判定した。抗HDV血清でHDV感染細胞を免疫染色することによってHDV感染を判定した。
【0075】
結果
HepaRG細胞株の発明は、ラージ(L)ウイルス表面タンパク質のN末端preS1ドメイン由来のペプチド性レセプターリガンドであって、HBV感受性細胞に特異的に結合し、感染を効率的に遮断するペプチド性レセプターリガンドの同定に繋がった。ペプチド内の必須部位のマッピングから、脂質部分が必要であること及び保存された配列9−NPLGFFP−15[配列番号14]の完全性が明らかとなった。マウス、ラット、イヌ、カニクイザル及びチンパンジーにおけるpreS/レセプター複合体の生体分布並びにそれぞれの種の初代肝細胞又は肝細胞腫細胞株における発現パターン及びターンオーバー動態を分析するために、放射性ラベル及び蛍光ラベルされたペプチド性リガンドを適用した。結果から、レセプターが、(i)肝臓に特異的に発現され、(ii)HepaRG細胞の分化中に誘導されるようになり、(ii)PMH及びPRHの脱分化の際にダウンモデュレーションされ、(iii)形質膜内でほとんど側方移動できない細胞骨格との結合を示し、(iv)限定されたエンドサイトーシス速度を示し、(v)専ら側底膜にソーティングされ、(vi)ブタ及びカニクイザルではなく、ヒト、マウス、ラット、イヌ、チンパンジーにおいて結合ドメインを保存していたことが明らかとなった。
【0076】
これらの結果に基づき、本発明者らは、affimetrixに基づく差次的発現スクリーニングを行った。DMSO誘導分化を受けているHepaRG細胞においてアップレギュレーションされた遺伝子を、DMSO不在下での脱分化時にPMHにおいてダウンレギュレーションされた遺伝子から差し引いた。両方のスクリーニングの最も顕著なヒットを合わせ、上に定義された基準に供した。タウロコール酸ナトリウム共輸送ポリペプチド(NTCP、SLC10A1)は、これらの基準に合致する唯一の適切な候補であった。内在性複数回膜貫通タンパク質であるNTCPは、分化した肝細胞の側底膜上に専ら発現される。このタンパク質は、HepG2、HuH7及び多くの他の肝細胞腫細胞株上にほとんど発現されない。NTCPは、DMSO処理を受けると、即座にHepaRG細胞中にMyrcludex Bの飽和レベルに対応するレベルで誘導される。NTCPは細胞骨格と結合し、低速で調節された(PKC依存性)エンドサイトーシスを受ける。
【0077】
感染及び結合適格性が異なる3群のホスト由来のNTCPの配列アライメントによって(図1)、本発明者らは、NTCPの2種の重要なアミノ酸(アミノ酸157〜158番)を定義した。コンセンサス配列(KG)は、ほとんどの感受性で結合適格性なホストに存在する。対照的に、カニクイザル及びブタのような結合不適格なホストはこのモチーフを含有しない。
【0078】
本発明者らは、HuH−7細胞にhNTCP又はmNTCPをトランスダクションし、ペプチド結合アッセイを行った(図2)。空のベクターを有する対照(模擬)に比べて、ヒト由来NTCP及びマウス由来NTCPの両方がペプチドに結合する。結合したペプチドのこれらのシグナルは、NTCPの発現レベルを示す共発現されたGFPの量に相関する。
【0079】
本発明者らは、さらに、hNTCP又はmNTCPを安定発現している4種の肝細胞(HuH−7、HepG2、Hep56.1D及びHepa1−6)を作製した。これらの細胞は、突然変異型ペプチドではなく、野生型(WT)ペプチドと相同結合を示す(図3)。hNTCP又はmNTCPを発現しているマウス肝細胞腫細胞は、同様にペプチドに強い結合性を示す(図4)。
【0080】
トランスフェクション効力は低いものの(約20%)、hNTCPをトランスフェクションされたHuH−7細胞はHDVによって感染され得る(図5)。hNTCPによって獲得されたHDV感染に対する感受性は、ヒト細胞及びマウス細胞の両方にも観察することができた(図6)。hNTCPの一過性トランスダクションは、HDV感染に対するHuH−7細胞の感受性を付与するが(図7)、一方でペプチド結合性を支援しているmNTCPタンパク質は、HDV感染を支援しない。マウス細胞株Hep56.1Dは、hNTCPをトランスダクション後にHDV感染を支援する(図8)。
【0081】
NTCPによって獲得されたHBV感染に対する感受性は、hNTCPを安定発現しているHepG2細胞において観察することができた(図9)。この感染を、ペプチドMyrcludex B(MyrB)によって特異的に阻害することができ、培養培地にDMSOを添加することによって強化することができた。hNTCPを発現しているHuH−7細胞は、HBV感染を低レベルで支援するように見え、これは、HBV感染を支援している未知の補因子がHepG2細胞に比べてHuH−7細胞では不在であることを示している。
【0082】
明細書、特許請求の範囲、及び/又は添付の図面に開示される本発明の特徴は、別々に及びその任意の組み合わせの両方で、本発明をその様々な形態で実現するための材料であり得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2015535524000001.app
【国際調査報告】