(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-535548(P2015-535548A)
(43)【公表日】2015年12月14日
(54)【発明の名称】高飽和ジエンエラストマーを含有するゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20151117BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20151117BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20151117BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20151117BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20151117BHJP
C08C 19/02 20060101ALI20151117BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/04
C08K3/36
C08L15/00
C08J3/20 ZCEQ
C08C19/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-544415(P2015-544415)
(86)(22)【出願日】2013年11月21日
(85)【翻訳文提出日】2015年5月28日
(86)【国際出願番号】EP2013074393
(87)【国際公開番号】WO2014082919
(87)【国際公開日】20140605
(31)【優先権主張番号】1261383
(32)【優先日】2012年11月29日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】512068547
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(71)【出願人】
【識別番号】508032479
【氏名又は名称】ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100170944
【弁理士】
【氏名又は名称】岩澤 朋之
(72)【発明者】
【氏名】シュネル ブノワ
(72)【発明者】
【氏名】テュイリエ ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】クラディエール ジュリアン
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F070AA05
4F070AA06
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4J002AC011
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4J100HB02
4J100HC83
4J100HD22
4J100HG31
4J100JA29
(57)【要約】
本発明は、補強用充填剤と、下記カテゴリーA、B、C、D及びEの各単位、又は同じカテゴリーA、B、C、D及びEの単位であって、B、C、D及びEのうちの少なくとも1つにおいて、側基Riの性質によって互いに異なる同じカテゴリーの少なくとも2種の異なる単位の混合物を含む単位を含む高飽和ジエンエラストマーを含むエラストマーマトリックスとをベースとするゴム組成物に関する:
このゴム組成物は、自動車用タイヤの製造において満足し得る剛性度を達成すると共に許容し得るヒステリシス特性の維持、或いは、ヒステリシス特性の改良さえ可能にする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強用充填剤と、高飽和ジエンエラストマーを含むエラストマーマトリックスとをベースとし、前記高飽和エラストマーが、前記エラストマー内にランダムに分配された、下記の各単位を含むこと:
・以下のカテゴリーA、B、C、DおよびEの単位;または、
・これら同じカテゴリーA、B、C、DおよびEの単位であって、これらカテゴリーのB、C、DおよびEのうちの少なくとも1つにおいて、側基Riの性質によって互いに異なる同じカテゴリーの少なくとも2種の異なる単位の混合物を含む単位;
A)
B)
C)
D)
E)
(式中、R1、R2、R3およびR4は、同一または異なるものであって、水素原子、メチル基、またはオルソ、メタまたはパラ位置においてメチル基によって置換されているまたは置換されていないフェニル基を示し、
R5は、水素原子またはメチル基を示し、
R6は、メチル基、またはオルソ、メタまたはパラ位置においてメチル基によって置換されているまたは置換されていないフェニル基を示し、
m、n、o、pおよびqは、0〜100の範囲の数である);並びに、
前記高飽和エラストマーが、下記の特性:
を有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記高飽和エラストマーが、専ら非ジエンモノマーに由来する下記のカテゴリーFの単位を40%未満のモル比で含む、請求項1記載のゴム組成物:
F)
(式中、φは、オルソ、メタまたはパラ位置においてメチル基によって置換されているまたは置換されていないフェニル基を示し;φは、好ましくは、フェニル基を示す)。
【請求項3】
前記高飽和エラストマーが、R1、R2、R3およびR4が、同一であって、水素原子を示し、qが0に等しい、請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記高飽和エラストマーが、下記の特性を有する、請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム組成物:
【請求項5】
oが、0に等しい、請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記エラストマーマトリックスが、前記高飽和エラストマーのみからなる、請求項1〜5のいずれか1項記載のゴム組成物.
【請求項7】
前記エラストマーマトリックスが、少なくとも40phrの高飽和ジエンエラストマーと、多くとも60phrの少なくとも1種の他のジエンエラストマーとを含む、請求項1〜5のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記補強用充填剤が、カーボンブラックを含む、請求項1〜7のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記補強用充填剤が、100%のカーボンブラックからなる、請求項8記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記補強用充填剤が、カーボンブラック以外に、無機補強用充填剤、好ましくはシリカを含む、請求項1〜8のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項11】
少なくとも下記の段階を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項において定義したようなゴム組成物の製造方法:
・130℃と200℃の間、好ましくは145℃と185℃の間の最高温度において、架橋系を除いた前記ゴム組成物において必要なベース構成成分と必要に応じての接着促進剤との熱機械加工の第1工程を、前記飽和エラストマーを含むエラストマーマトリックス中に各組成物成分を1段階または数段階において混練することにより緊密に混和することによって実施する段階;その後、
・前記第1段階の前記最高温度よりも低い温度、好ましくは120℃よりも低い温度において、前記架橋系と必要に応じての接着促進剤を混和する機械加工の第2段階を実施する段階。
【請求項12】
前記高飽和エラストマーを調製する段階を含み、この段階が、ジエンエラストマーを、請求項1において定義したようなミクロ構造特性が得られるまで水素化することからなる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項において定義したようなゴム組成物を含む半製品。
【請求項14】
請求項13記載の半製品を組込んでいるタイヤ。
【請求項15】
前記半製品が、トレッドである、請求項14記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、高飽和ジエンエラストマーを含むエラストマーマトリックスをベースとする補強ゴム組成物に、さらにまた、そのような組成物を含む半製品およびそのような半製品を組込んでいるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術
燃料節減および環境保護の必要性が優先事項となってきていることから、良好な耐摩耗特性を有するとともにできる限り低いヒステリシスを有する混合物を製造して、これらの混合物を、例えばトレッドのような、タイヤの製造において使用する種々の半製品を製造するのに使用することのできるゴム組成物の形で加工できるようにして、転がり抵抗性に悪影響を及ぼすことなく改良された耐摩耗性を有するタイヤを得ることが好ましい。
【0003】
理想的には、例えば、タイヤトレッドは、耐摩耗性の増進と同時のタイヤへの低転がり抵抗性の付与、並びに乾燥地面上および降雨、積雪または氷結地面の双方上でのグリップ性の増強のような、多くの場合本質的に相反する極めて多くの技術的必要条件を満たさなければならない。
【0004】
耐摩耗性を改良するには、トレッドの一定量の剛性が望ましいことが知られており、この剛性は、例えば、補強用充填剤の含有量を増加させることによって或いはある種の補強用樹脂をこれらのトレッドを構成するゴム組成物中に混入させることによって得ることができる。
【0005】
残念なことに、経験上、トレッドのそのような剛性化は、そのような剛性化が上記ゴム組成物のヒステリシス損失の有意の増加を伴うので、知られている通り、転がり抵抗特性に悪影響を及ぼし、多くの場合、悲観的にその通りであることが明らかになっている。従って、低転がり抵抗性を維持しながら剛性性能を改良することは、タイヤ設計者にとって永続的な懸念ごとである。
【0006】
従って、改良された耐摩耗性を有するタイヤを転がり抵抗性に悪影響を及ぼすことなく得ることを可能にするゴム組成物を提供することが恒久的に求められている。
【発明の概要】
【0007】
上記を考慮すれば、一般的な目的は、タイヤにおける使用において許容し得る剛性とヒステリシス特性間の妥協点を達成するのを可能にするゴム組成物を提供することである。
発明の簡単な説明
この目的は、本発明者等が満足し得る剛性度を達成することを可能にすると共に許容し得るヒステリシス特性を維持している或いは改良さえしているタイヤ用のゴム組成物を開発したという事実によって達成される。
【0008】
即ち、本発明の主題は、補強用充填剤と、高飽和エラストマーをベースとするエラストマーマトリックスとを含み、剛性とヒステリシス特性間で有意に改良された妥協点を達成することを可能にするタイヤ用のゴム組成物である。
【0009】
本発明のもう1つの主題は、そのようなタイヤ用のゴム組成物の製造方法である。
本発明のもう1つの主題は、そのようなゴム組成物を含む半製品である。
また、本発明の主題は、そのような半製品を組込んだタイヤである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1において試験した各ゴム組成物のG*の関数としてのtanδ
maxの結果をプロットしたグラフである。
【
図2】実施例1において試験した各ゴム組成物のG*の関数としてのtanδ
maxの結果をプロットしたグラフである。
【
図3】実施例2において試験した各ゴム組成物のG*の関数としてのtanδ
maxの結果をプロットしたグラフである。
【
図4】実施例2において試験した各ゴム組成物のG*の関数としてのtanδ
maxの結果をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
本説明においては、特に明確に断らない限り、示す全ての百分率(%)は、質量パーセントである。さらにまた、“aとbの間”なる表現によって示される値の範囲は、いずれも、aよりも大きくからbよりも小さいまでの値の範囲を示し(即ち、限界値aとbは排除される)、一方、“a〜b”なる表現によって示される値の間隔は、いずれも、aからbまでの値の範囲を意味する(即ち、厳格な限定値aおよびbを含む)。
【0012】
“ベースとする組成物”なる表現は、使用する各種構成成分の反応混合物および/または反応生成物を含む組成物を意味するものとして理解されたい;これらのベース構成成分の数種は、組成物の製造の各種段階において、特に、組成物の架橋または加硫中に少なくとも部分的に互いに反応し得るか或いは反応するように意図する。
【0013】
本発明の第1の主題は、補強用充填剤と、少なくとも1種の高飽和ジエンエラストマーを含むエラストマーマトリックスとをベースとし、上記高飽和エラストマーが、上記エラストマー内にランダムに分配された、下記の各単位を含むこと:
・下記のカテゴリーA、B、C、DおよびEの単位;または、
・これら同じA、B、C、DおよびEカテゴリーの単位であって、これらカテゴリーのB、C、DおよびEのうちの少なくとも1つにおいて、側基Riの性質によって互いに異なる同じカテゴリーの少なくとも2種の異なる単位の混合物を含む単位;
A)
B)
C)
D)
E)
(式中、・R1、R2、R3およびR4は、同一または異なるものであって、水素原子、メチル基、またはオルソ、メタまたはパラ位置においてメチル基によって置換されているまたは置換されていないフェニル基を示し、
・R5は、水素原子またはメチル基を示し、
・R6は、メチル基、またはオルソ、メタまたはパラ位置においてメチル基によって置換されているまたは置換されていないフェニル基を示し、
・m、n、o、pおよびqは、0〜100の範囲の数であり、
各単位の上記モル画分は、上記エラストマー全体に対して定めている);並びに、
上記高飽和エラストマーが、下記の特性:
を有することを特徴とするゴム組成物である。
【0014】
好ましくは、上記高飽和エラストマーの上記単位の各々のモル比は、上記エラストマーが下記の特性を有するような比である:
1つの好ましい局面によれば、上記好ましい局面と組合せたまたは単独の局面において、上記高飽和エラストマーは、oが0に等しいような飽和エラストマーである。
【0015】
本発明の変形によれば、上記高飽和エラストマーは、上記カテゴリーA、B、C、DおよびEから選ばれ且つそれらそれぞれのモル比の各単位のみからなる。
本発明のもう1つの変形によれば、上記高飽和エラストマーは、上記カテゴリーA、B、C、DおよびEから選ばれた各単位以外に、専ら非ジエンモノマーに由来する下記のカテゴリーFの単位を、上記エラストマーの全体に対して40%未満、特に30%未満、または20%未満でさえのモル比で含む:
F)
(式中、φは、オルソ、メタまたはパラ位置においてメチル基によって置換されているまたは置換されていないフェニル基を示し;φは、好ましくは、フェニル基を示す)。
【0016】
この高飽和ジエンエラストマーは、そのミクロ構造またはマクロ構造に関して互いに異なる高飽和ジエンエラストマーの混合物からなり得ることを理解されたい。
これら2つの変形によれば、本発明の1つの特定の実施態様は、R1、R2、R3およびR4が、同一であって、水素原子を示し、qが0に等しいような上記高飽和エラストマーを提供する。
【0017】
これらの2つの変形によれば、本発明のもう1つの特定の実施態様は、下記であるような上記高飽和エラストマーを提供する:
・単位Bにおいては、R1、R3およびR4は、同一であって、水素原子を示し、R2は、メチル基を示し;
・単位Cにおいては、R2は、R2およびR3の性質に関して異なるC1およびC2で表す2種の単位Cの混合物からなり、基R1およびR4は、同一であって、水素原子を示し、
C1においては、R2はメチル基を示し、R3は水素原子を示し、
C2においては、R2は水素原子を示し、R3はメチル基を示し;
・単位Dにおいては、R2は、R2およびR3の性質に関して異なるD1およびD2で表す2種の単位Dの混合物からなり、基R1およびR4は、同一であって、水素原子を示し、
D1においては、R2はメチル基を示し、R3は水素原子を示し、
D2においては、R2は水素原子を示し、R3はメチル基を示し;そして、
・qは、0に等しい。
【0018】
これらの2つの変形によれば、本発明のさらにもう1つの特定の実施態様は、下記であるような上記高飽和エラストマーを提供する:
・単位Bにおいては、R2は、R2の性質に関して異なるB1およびB2で表す2種の単位Bの混合物からなり、基R1、R3およびR4は、同一であって、水素原子を示し、
B1においては、R2は、水素原子を示し、
B2においては、R2は、メチル基を示し;
・単位Cにおいては、R2は、R2およびR3の性質に関して異なるC1、C2およびC3で表す3種の単位Cの混合物からなり、基R1およびR4は、同一であって、水素原子を示し、
C1においては、R2はメチル基を示し、R3は水素原子を示し、
C2においては、R2は水素原子を示し、R3はメチル基を示し、
C3においては、R2およびR3は、同一であって、水素原子を示し;
・単位Dにおいては、R2は、R2およびR3の性質に関して異なるD1、D2およびD3で表す3種の単位Dの混合物からなり、基R1およびR4は、同一であって、水素原子を示し、
D1においては、R2はメチル基を示し、R3は水素原子を示し、
D2においては、R2は水素原子を示し、R3はメチル基を示し、
D3においては、R2およびR3は、同一であって、水素原子を示し;そして、
・qは、0に等しい。
【0019】
本発明によれば、上記高飽和ジエンエラストマーは、少なくとも90 000g/モルで且つ多くとも1 500 000g/モルの数平均モル質量を有する。M
w/M
n (質量平均モル質量対数平均モル質量の比)に等しいその多分散性指数PDIは、1と3の間である。
【0020】
上記高飽和エラストマーは、当業者にとって既知の種々の合成方法に従って、特に、m、n、o、pおよびqの目標値の関数として得ることができる。
1つの合成方法によれば、上記高飽和エラストマーは、ジエンエラストマーの水素化によって得られる。
【0021】
水素化するジエンエラストマーは、その場合、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、アリール−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンから選ばれる共役ジエンモノマーの任意のホモポリマー或いは上記共役ジエンの相互間のまたは2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンもしくは2,4−ヘキサジエンとのまたは8個もしくは9個の炭素原子を有する1種以上の“ビニル芳香族”化合物との共重合によって得られる任意のコポリマーとして理解されたい。コポリマーの後者の例においては、これらのコポリマーは、少なくとも60モル%のジエン単位と多くとも40モル%のビニル芳香族単位を含む。
ビニル芳香族モノマーの例としては、スチレンまたはオルソ、メタもしくはパラ位置においてメチル基によって置換されたスチレンが特に適している。
【0022】
好ましくは、上記ジエンエラストマーは、ポリブタジエン(BR)、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれる。ブタジエンコポリマーおよびイソプレンコポリマーは、さらに好ましくは、スチレン/ブタジエン(SBR)コポリマー、ブタジエン/イソプレン(BIR)コポリマー、スチレン/イソプレン(SIR)コポリマーおよびスチレン/ブタジエン/イソプレン(SBIR)コポリマーからなる群から選ばれる。
【0023】
上記エラストマーは、エマルジョンまたは溶液中で調製し得る。使用する重合条件、特に、変性および/またはランダム化剤の存在または不存在並びに使用する変性および/またはランダム化剤の量が、m、n、o、pおよびqの目標値を得ることを目的としての明確なミクロ構造に従うエラストマーの合成を可能にする。これらの薬剤およびその量の選択は、当業者の範囲内である。
【0024】
上記ジエンエラストマーの水素化は、当業者にとって既知の任意の方法に従って実施する。例えば、“The Handbook of Homogeneous Hydrogenation”, Editors Johannes G. de Vries, Cornelis J. Elsevier - WILEY 2008 - Chapter 19 - Homogeneous Catalytic Hydrogenation of Polymers, by Garry L. Rempel, Qinmin Pan, and Jialong Wuに記載された水素化法を参照し得る。
【0025】
上記高飽和エラストマーは、特に、当業者にとって周知の方法に従う不飽和ジエンエラストマーの部分水素化を実施することによって得られる。水素化するポリマーを、不活性炭化水素系溶媒、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンまたはヘキサン中に、酸素および水分の不存在下に溶解する。不飽和ジエンエラストマーの水素化は、当業者にとって既知の操作方式に従い、例えば、Shell Oil Company社からの特許出願US 5,334,566号に記載されているようにして実施する。この目的を達成するために、上記溶液を、窒素バブリングにより揮発性不純物を除去することによって精製し、その後、所定温度に加熱する。有機アルカリ金属化合物、好ましくは、例えばアルキルリチウムタイプの有機リチウム化合物を、上記溶液に添加する。その後、窒素を脱気し、水素を圧力下に導入する。混合物を撹拌し、温度を0℃〜120℃、好ましくは60℃〜90℃の範囲内で安定化させる。
【0026】
この段階において、好ましくは上記エラストマーに対して使用した溶媒と同一の不活性炭化水素系溶媒中の且つ当業者にとって既知の、例えば、Asahi社からの特許出願US 5,886,108号に記載されているような操作方式に従って調製した溶液中のテッベ(Tebbe)タイプの試薬を添加して、水素化触媒を、上記Ti−Al試薬と反応媒体中に存在するアルカリ金属水素化物との反応により現場生成させる。水素圧を、0.05バール〜83バールの範囲内に維持する。触媒濃度は、エラストマー100g当り0.01ミリモル〜エラストマー100g当り20ミリモルの範囲内で変動する。
【0027】
水素消費量を経時的にモニターする。目標量に達したとき、その量が目標の水素化度に関連しており、水素の供給を停止し、媒体を、脱気し、希エタノール溶液を上記不活性炭化水素系溶媒に添加することによって不活性化する。得られた部分水素化ジエンポリマー溶液を取出し、ポリマーを、ストリッピング工程により、次いで、乾燥させることにより回収する。水素化時間は、一般に、30〜360分間で変動する。
【0028】
当業者であれば、上記水素化条件、特に、アルカリ金属対チタニウムのモル比、温度、圧力および時間を如何に調整して、本発明の高飽和エラストマーの上記で定義したような目標のミクロ構造特性を得るかは承知しているであろう。
【0029】
1つの変形によれば、本発明に従うゴム組成物は、上記高飽和ジエンエラストマーを、上記エラストマーマトリックスの単独の構成成分として含む。
もう1つの変形によれば、本発明に従うゴム組成物は、少なくとも1種の他のジエンエラストマーも含み得る。この変形によれば、この他のエラストマーは、多くとも60phr (総エラストマー100質量部当りの質量部)、好ましくは多くとも45phrの割合で存在する。さらにまた、このエラストマーは、好ましくは、少なくとも5phrの割合で存在する。
【0030】
この変形によれば、この他のジエンエラストマーは、4〜12個の炭素原子を有する共役ジエンモノマーを重合させることによって得られる任意のホモポリマー、或いは1種以上の共役ジエンを他のジエンまたは8〜20個の炭素原子を有する1種以上のビニル芳香族化合物と共重合させることによって得られる任意のコポリマーであり得る。コポリマーの場合、そのコポリマーは、20〜99質量%のジエン単位と1〜80質量%のビニル芳香族単位を含む。
【0031】
共役ジエンの例としては、以下が、特に適している:1,3−ブタジエン;2−メチル−1,3−ブタジエン;例えば、2,3‐ジメチル‐1,3-ブタジエン、2,3‐ジエチル‐1,3‐ブタジエン、2‐メチル‐3‐エチル‐1,3‐ブタジエンまたは2‐メチル‐3‐イソプロピル‐1,3‐ブタジエンのような2,3‐ジ(C1〜C5アルキル)‐1,3‐ブタジエン;アリール‐1,3‐ブタジエン、1,3‐ペンタジエン、2,4‐ヘキサジエン。ビニル芳香族化合物の例としては、例えば、以下が適している:スチレン;オルソ‐、メタ‐およびパラ‐メチルスチレン;“ビニルトルエン”市販混合物;パラ‐tert‐ブチルスチレン;メトキシスチレン;クロロスチレン;ビニルメシチレン;ジビニルベンゼンまたはビニルナフタレン。
【0032】
この他のジエンエラストマーは、任意のミクロ構造を有し得る。この他のジエンエラストマーは、ブロック、ランダム、序列または微細序列エラストマーであり得、エマルジョンまたは溶液中で調製し得る。この他のジエンエラストマーは、カップリング剤および/または星型枝分れ化剤或いは官能化剤によってカップリングしおよび/または星型枝分れ化し或いは官能化し得る。
【0033】
好ましくは、本発明において使用するこの他のジエンエラストマーは、ポリブタジエン(BR)、合成ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる高不飽和ジエンエラストマーの群から選ばれる。そのようなコポリマーは、さらに好ましくは、スチレン/ブタジエン(SBR)コポリマー、ブタジエン/イソプレン(BIR)コポリマー、スチレン/イソプレン(SIR)コポリマーおよびスチレン/ブタジエン/イソプレン(SBIR)コポリマーからなる群から選ばれる。
【0034】
この他のジエンエラストマーは、ミクロ構造、マクロ構造に関して或いは官能基の存在によって、エラストマー鎖中のその官能基の性質または位置によって互いに異なる複数のジエンエラストマーの混合物であり得る。
【0035】
本発明に従うゴム組成物は、補強用充填剤、例えば、カーボンブラック、カップリング剤を知られている通りに添加するシリカのような無機補強用充填剤、またはこれら2つのタイプの充填剤の混合物を含むという他の本質的な特徴を有する。
【0036】
本発明の1つの変形によれば、上記補強用充填剤は、主として、カーボンブラックからなる、即ち、上記補強用充填剤は、充填剤総質量の少なくとも50質量%のカーボンブラックを含む。
この変形によれば、上記補強用充填剤は、100質量%のカーボンブラックからなり得る。上記補強用充填剤が100質量%未満のカーボンブラックを含む場合、充填剤の残余は、少なくとも1種の他の補強用充填剤、特に、シリカによってもたらされる。
【0037】
本発明のもう1つの変形によれば、上記補強用充填剤は、主として、カーボンブラック以外のものである、即ち、上記補強用充填剤は、充填剤の総質量に対して50質量%よりも多いカーボンブラック以外の1種以上の充填剤、特に、シリカのような無機補強用充填剤を含み、或いは、上記補強用充填剤は、専らそのような充填剤からなる。
【0038】
この他の変形によれば、カーボンブラックも存在する場合、カーボンブラックは、20phrよりも少ない、より好ましくは10phrよりも少ない(例えば0.5phrと20phrの間、特に2phrと10phrの間の)量で使用し得る。これらの範囲内では、カーボンブラックの着色(黒着色剤)およびUV安定特性からの利得を得ることができる。
【0039】
好ましくは、補強用充填剤全体(カーボンブラックおよび/またはシリカのような他の補強用充填剤)の量は、10phrと200phrの間、より好ましくは30phrと150phrの間の量である;最適量は、知られている通り、特定の目標とする用途に応じて異なる。
【0040】
個々にまたは混合物の形で使用する全てのカーボンブラック類、特に、タイヤまたはそのトレッドにおいて通常使用するブラック類(“タイヤ級”ブラック類)が、カーボンブラックとして適している。後者のうちでは、さらに詳細には、例えば、N115、N134、N234、N326、N330、N339、N347、N375、N550、N683、N772カーボンブラック類のような100、200または300シリーズの補強用カーボンブラック類或いはシリーズ500、600または700のカーボンブラック類(ASTM級)が挙げられる。これらのカーボンブラックは、商業的に入手し得るようにそれら単独で、或いは何らかの他の形で、例えば、使用するある種のゴム製造用の添加剤に対する支持体として使用し得る。
【0041】
それ自体単独で、中間カップリング剤以外の手段によることなく、タイヤの製造を意図するゴム組成物を補強することのできる、色合いまたは由来(天然または合成)の如何にかかわらない任意の他の無機または鉱質充填剤は、この場合、カーボンブラック以外の無機補強用充填剤として理解すべきである;そのような充填剤は、一般に、知られている通り、その表面でのヒドロキシル基(−OH)の存在に特徴を有する。
【0042】
シリカ質タイプの鉱質充填剤、好ましくはシリカ(SiO
2)は、カーボンブラック以外の無機補強用充填剤として特に適している。使用するシリカは、当業者にとって既知の任意の補強用シリカ、特に、共に450m
2/g未満、好ましくは30〜400m
2/g、特に60m
2/gと300m
2/gの間のBET表面積とCTAB比表面積を有する任意の沈降またはヒュームドシリカであり得る。また、アルミナ質タイプの鉱質充填剤、特にアルミナ(Al
2O
3)または(酸化)水酸化アルミニウム、或いは、例えば、US 6 610 261号およびUS 6 747 087号に記載されているような補強用酸化チタンも挙げられる。また、もう1つの性質を有する補強用充填剤、特に、カーボンブラックも、これらの補強用充填剤がシリカ質層で被覆されているか或いはそれらの表面に官能部位、特に、ヒドロキシル部位を有して上記充填剤とエラストマー間の結合を確立するのにカップリング剤の使用を必要とする限りにおいて、補強用充填剤として適し得る。例としては、例えば、例えば特許文献WO 96/37547号およびWO 99/28380号に記載されているようなタイヤ用のカーボンブラックを挙げることができる。
【0043】
無機補強用充填剤が存在している物理的状態は、粉末、マイクロビーズ、顆粒またはビーズのいずれの形状であれ重要ではない。勿論、種々の補強用無機充填剤、特に、上述したような高分散性シリカの混合物も、無機補強用充填剤として理解されたい。
【0044】
上記補強用充填剤が、上記充填剤とエラストマー間の結合を確立するのにカップリング剤の使用を必要とする充填剤を含む場合、本発明に従うゴム組成物は、上記の結合を確実に確保することができる薬剤も通常通りに含む。シリカが上記組成物中に補強用充填剤として存在する場合、オルガノシラン、特にアルコキシシランポリスルフィドまたはメルカプトシラン、或いは少なくとも二官能性のポリオルガノシロキサンをカップリング剤として使用し得る。シリカ/エラストマー結合剤は、特に、極めて多くの文献に記載されており、最も良く知られているのは二官能性アルコキシシラン、例えば、アルコキシシランポリスルフィドである。
【0045】
本発明に従う組成物においては、カップリング剤の量は、有利には、20phr未満である;できる限り少ない量のカップリング剤を使用することが一般に望ましいことを理解されたい。カップリング剤の量は、好ましくは、0.5phrと12phrの間の量である。カップリング剤の存在は、カーボンブラック以外の無機補強用充填剤の存在に依存する。カップリングの量は、当業者であれば、上記充填剤の量に応じて容易に調整し得ることである;カップリング剤の量は、典型的には、カーボンブラック以外の無機補強用充填剤の量に対して0.5質量%〜15質量%程度である。
【0046】
また、本発明に従うゴム組成物は、カップリング剤に対する補完物としての、カップリング活性化剤、充填剤被覆剤、或いは、知られている通り、ゴムマトリックス中での充填剤の分散性を改良し且つ組成物の粘度を低下させることによって、上記組成物を未硬化状態で加工する容易性を改良することのできるより一般的な加工助剤も含み得る;これらの薬剤は、例えば、アルキルアルコキシシランのような加水分解性シラン;ポリオール;ポリエーテル;第一級、第二級または第三級アミン;或いは、ヒドロキシル化または加水分解性ポリオルガノシロキサンである。
【0047】
また、本発明に従うゴム組成物は、上述したカーボンブラックまたは他の無機補強用充填剤の全部または1部を置換え得る有機補強用充填剤も含み得る。有機補強用充填剤の例としては、出願WO−A−2006/069792号、出願WO−A−2006/069793号、出願WO−A−2008/003434号および出願WO−A−2008/003435号に記載されているような官能化ポリビニル有機充填剤を挙げることができる。
【0048】
また、本発明に従うゴム組成物は、例えば、顔料;オゾン劣化防止ワックス、化学オゾン劣化防止剤または酸化防止剤のような保護剤;疲労防止剤;補強用または可塑化用樹脂;例えば出願WO 02/10269号に記載されているようなメチレン受容体(例えば、フェノールノボラック樹脂)またはメチレン供与体(例えば、HMTまたはH3M);イオウまたはイオウ供与体および/または過酸化物および/またはビスマレイミドのいずれかをベースとする架橋系;加硫促進剤、加硫活性化剤;コバルト系化合物のような接着促進剤;好ましくは非芳香族性またはほんの僅かに芳香族であって、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、MESオイル、TDAEオイル、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、例えば出願WO 2005/087859号、WO 2006/061064号およびWO 2007/017060号に記載されているような好ましくは30℃よりも高い高Tgを有する炭化水素系樹脂およびそのような化合物の混合物からなる群から選ばれる可塑剤のような、タイヤの製造を意図するエラストマー組成物において慣用的使用する添加剤の全部または1部も含み得る。
【0049】
また、本発明の主題は、上記で説明したようなゴム組成物の製造方法でもある。
上記組成物は、適切なミキサー内で、当業者にとって周知の2つの連続する製造段階、即ち、110℃と190℃の間、好ましくは130℃と180℃の間の最高温度までの高温で熱機械的に加工または混練する第1段階(“非生産”段階と称する)、および、その後の、典型的には110℃よりも低い、例えば、40℃と100℃の間の低めの温度まで機械加工する第2の段階(“生産”段階と称する)を使用して製造し、この仕上げ段階において、架橋系を混入する。
【0050】
本発明に従うゴム組成物を製造する本発明に従う方法は、少なくとも下記の各段階を含む:
・130℃と200℃の間、好ましくは145℃と185℃の間の最高温度において、架橋系を除いた上記ゴム組成物において必要なベース構成成分と必要に応じての接着促進剤との熱機械加工の第1工程を、上記高飽和エラストマーを含むエラストマーマトリックス中に各組成物成分を1段階または数段階において混練することにより緊密に混和することによって実施する段階;その後、
・上記第1段階の上記最高温度よりも低い、好ましくは120℃よりも低い温度において、上記架橋系と必要に応じての接着促進剤とを混和する機械加工の第2段階を実施する段階。
【0051】
本発明の変形によれば、上記ゴム組成物の製造方法は、上述したような高飽和エラストマーの、その種々の合成方法に従う製造段階を含む。
そのようにして得られた最終組成物は、その後、例えばシートまたはプレートの形にカレンダー加工することができ、或いは、押出加工して、タイヤ用を意図するゴム半製品として使用し得るゴム形状要素を形成することができる。
【0052】
本発明のもう1つの主題は、本発明に従う補強ゴム組成物を含むゴム半製品である。
本発明のもう1つの主題は、その少なくとも1つの構成要素が本発明に従う補強ゴム組成物を含むゴム半製品であるところのタイヤである。
【0053】
本発明に従う補強ゴム組成物を特徴付けし、ヒステリシス特性の悪化のなしの改良された剛性のために、トレッドが上記組成物を含むタイヤは、有利に増強された耐摩耗性を、転がり抵抗性に悪影響を及ぼすことなく有することに注目されたい。
本発明の上述の特徴並びに他の特徴は、非限定的な説明によって示す本発明の幾つかの典型的な実施態様を読み取ることでより一層良好に理解されるであろう。
【0054】
使用する測定および試験方法
上記ゴム組成物は、下記に示すように、硬化後に特性決定する。
a)
機械的性質
引張試験
これらの引張試験は、弾性応力および破断点諸特性の測定を可能にする。特に断らない限り、これらの試験は、1988年9月のフランス規格 NF T 46−002に従って実施する。10%伸び(MA10で示す)および100%伸び(MA100)における公称割線モジュラス(即ち、MPaでの見掛け応力)を、2回目の伸びにおいて(即ち、測定自体においてもたらされる伸長レベルでの順応サイクル後に)測定する。順応割線モジュラスを決定する引張測定は、23℃±2℃の温度または60℃±2℃の温度のいずれかにおいて、さらに、標準の湿度測定条件(50±5%の相対湿度)下に実施する。これらの値は、剛性を示す:上記モジュラスの値が高いほど、剛性は高い。
【0055】
b)
動的特性
動的特性G*およびtanδ
maxを、規格ASTM D 5992‐96に従って、粘度アナライザー(Metravib VA4000)において測定する。単純な交互正弦波剪断応力に10Hzの周波数で供した加硫組成物のサンプル(4mmの厚さおよび400mm
2の断面積を有する円筒状試験標本)の応答を、規格ASTM D 1349−99に従う標準温度条件(23℃)下に或いは必要に応じて異なる温度において記録する;特に、例証する第1の実施例においては、測定温度は60℃である。歪み振幅掃引を、0.1%から100%までの頂点間(前向きサイクル)で、次いで、100%から0.1%までの頂点間(戻りサイクル)で実施する。使用する結果は、複素動的剪断モジュラス(G*)および損失係数tanδである。戻りサイクルにおいて、tanδ
maxで表す観察されたtanδの最高値が示される。この値は、材料のヒステリシスを、本発明の場合は、転がり抵抗性を示す:tanδ
maxの値が低いほど、転がり抵抗性は低い。23℃または60℃において測定したG*の値は、剛性、即ち、歪みに対する抵抗性を示す:G*の値が高いほど、材料の剛性は高く、従って、耐摩耗性は高い。
【実施例1】
【0056】
以下の試験は、同程度のヒステリシス、ひいては転がり抵抗性を維持しながらの、或いはヒステリシス値を対照組成物との比較において低下させることによって改良されたヒステリシスでもってさえの、本発明に従うゴム組成物の改良された剛性を実証する。試験した各組成物は、補強用充填剤がカーボンブラックであって、極めて特定的にはトレッドを構成し得る。
【0057】
エラストマー
エラストマーP1、P2およびP3は、ジエンエラストマー、さらに正確には、対照ジエンエラストマー1から、水素化によって得られる。
エラストマーPは、以下の形で構成されるSBRである:15%のスチレン単位、20%の1,2−ブタジエン単位および65%の1,4−ブタジエン単位 (Tg = −49℃)。
エラストマーQは、以下の形で構成されるSBRである:19%のスチレン単位、4%の1,2−ブタジエン単位および77%の1,4−ブタジエン単位 (Tg = −55℃)。
【0058】
エラストマーP1は、エラストマーP中の二重結合の41%の水素化によって得られる。
エラストマーP2は、エラストマーP中の二重結合の65%の水素化によって得られる。
エラストマーP3は、エラストマーP中の二重結合の77%の水素化によって得られる。
エラストマーQ1は、エラストマーPよりも1,4−ブタジエン単位リッチであるエラストマーQ中の二重結合の51%の水素化によって得られる。
【0059】
表1
【0060】
上記実施例の各エラストマーのミクロ構造は、
1H NMR法による既知の方法で測定した。“BRUKER AVANCE 500”分光計を、
1H NMR法において、500MHz周波数で使用した。
表1においては、用語“水素化度”は、水素化した出発ジエン単位のパーセントを意味するものと理解されたい。
【0061】
エラストマーPからエラストマーP1を得るための詳細な算出方式
水素化度は、水素化されたジエン単位(B+C)の数に相応する;上記エラストマーPにおいては、100単位のうち85のジエン単位が存在する。これら85単位の65%が水素化されると、この割合は、
に等しい水素化単位数に相当する。
【0062】
単位Cの水素化は、単位Bの水素化に優先し、100単位のポリマー鎖部分を構成している20個のジエン単位Cのうちの19単位の水素化が観察される;これら19個のジエン単位Cは、19個の単位Dに転換する。
【0063】
65%の水素化度を達成するためには、36個のジエン単位Bも水素化する(注:55個のジエン単位が100単位部分当り水素化されている)。これらの36個のジエン単位は、72個のエチレン単位Aに転換し、水素化の影響を受けない29個のジエン単位Bは残存する。
従って、エラストマーPの100単位の鎖部分の65%の水素化後は、下記が存在する:
・15個のスチレン単位F (水素化の影響を受けていない);
・単位Cの水素化によって得られた19個の単位D;
・1個の残存ジエン単位C;
・36個の水素化1,4−ジエン単位、というよりは、72個のエチレン単位A;
・影響を受けていない29個の1,4−ジエン単位B。
【0064】
従って、100個の出発単位に対して、136個の最終単位が存在する。このことは、各単位のモル%を算出するに当って重要である。即ち、下記のとおりである:
15×100/136 = 11%のスチレン単位F、19×100/136 = 14%のブタジエン単位D、1×100/136 = 1%の単位C、29×100/136 = 21%の単位B、および72×100/136 = 53%のエチレン単位A。
この算出方式は、表1の他のエラストマーの全てに応用可能である。
【0065】
高飽和エラストマーの合成
合成は、全て、不活性雰囲気下に、窒素またはアルゴン下に状態調節した適切な装置(グローブボックス、反応器、ガラス製品)を使用し、当業者にとって既知の方法(シュレンク(Schlenk)法)に従って実施する。
溶媒は、前以って精製して、あり得る痕跡量の酸素または水分を除去する。試薬は、通常の市販供給元(Sigma−Aldrich社)から入手し、そのまま使用する。
【0066】
不飽和ジエンエラストマーのメチルシクロヘキサン中溶液を取得する
水素化するエラストマーをメチルシクロヘキサン(MCH)中に溶解する。エラストマーの質量による濃度は、5%に近い。
【0067】
テッベタイプの試薬の調製
2.61gのCp
2TiCl
2 (0.01モルのTDC (チタノセンジクロリド))と84mlのMCHを、金属キャップで保持した酸素および水分気密性セプテム(septum)シールを備えた250mlのガラスフラスコに導入する。
その後、MCH中1モル/lのTMA (トリメチルアルミニウム)の20mlを添加する(0.02モル)。得られた混合物を室温で72時間撹拌する。
暗青色溶液をそのようにして得て、0.1モル/lのチタニウム濃度を有するTi−Alとして同定する。
【0068】
不飽和ジエンエラストマーの水素化
水素化する40gの上記エラストマーを含有する1リットルのMCH溶液を、窒素で前以って不活性化した2リットルのステンレススチール反応器に導入する。その後、揮発性不純物を、室温で3分間以上窒素バブリングすることによって排除する。ポリマー濃度を、この操作後にチェックする。
【0069】
その後、溶液を75℃の温度に加熱し、次いで、3ミリモルのs−BuLiを、MCH中1モル/l溶液の形で添加する。その後、窒素を脱気し、2バールの水素圧を加える。混合物を15分間撹拌し、温度を75℃で安定化する。この段階において、7.5mlのTi−Al溶液を添加し、水素化触媒を、Ti−Al試薬を反応媒体中に存在するLiHと反応させることによって現場生成させる。水素圧は、2バールに維持する。
【0070】
高飽和ポリマーの回収
水素消費量を経時的にモニターし、目標量に達したとき、その量が目標の水素化度に関連する;水素供給を停止し、媒体を、脱気しそして希釈エタノール溶液を上記MCHに添加するによって不活性化する。得られた部分水素化ジエンポリマー溶液を取出し、ポリマーを、ストリッピング工程により、次いで、窒素撒布下60℃での部分真空(200ミリバール)下に48時間乾燥させることによって回収する。
そのようにして、およそ40mgの高飽和ポリマーを得る。
【0071】
組成物
下記の表2に示す12通りの組成物を比較する。これらの組成物の下記の3通りは、本発明で提案する配合に従っていない:
組成物C1:不飽和ジエンエラストマーを含む対照;
組成物C2:不飽和ジエンエラストマーを含み、充填剤の量を増大させることによって剛性化した対照;
組成物C3:不飽和ジエンエラストマーのブレンドを含む対照。
9通りの他の組成物M1〜M9は、本発明に従い、表1に示し且つP1、P2、P3 (これらは、同じジエンエラストマーに由来するので)およびQ1と記している4種の高飽和ジエンエラストマーをベースとする。
【0072】
下記の試験を、以下の方法で実施する:
ジエンエラストマー(1種以上)、補強用充填剤(カーボンブラック)、さらにまた、加硫系を除いた各種他の成分を、初期容器温度がおよそ80℃である密閉ミキサーに連続して導入する(最終充填比:およそ70容量%)。その後、熱機械加工(非生産段階)を、合計でおよそ3〜4分間続く工程において、165℃の最高“落下”温度に達するまで実施する。そのようにして得られた混合物を回収し、冷却し、次いで、イオウおよびスルフェンアミドタイプの促進剤を30℃のミキサー(ホモフィニッシャー)において混入し、全てを適切な時間(例えば、およそ10分間)混合する(生産段階)。
【0073】
その後、そのようにして得られた組成物を、ゴムのプレート(2〜3mm厚)または薄シートのいずれかの形にカレンダー加工して、その物理的または機械的性質を測定する。
【0074】
試験した組成物は、下記の表2に示しており、下記を含む:
(1) 上記で説明した不飽和エラストマーP
(2) 天然ゴム
(3) 上記で調製したような高飽和エラストマー
(4) カーボンブラック N347
(5) フェノールホルムアルデヒド樹脂
(6) N−(1,3−ジメチルブチル)−N−フェニルパラフェニレンジアミン
(7) 2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン
(8) N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド
(9) ヘキサメチレンテトラミン。
【0075】
表2
【0076】
結果
各組成物の性質を、下記の表3に示している。
G*の関数としてのtan δ
maxの結果を
図1および
図2に示すグラフにプロットしている。これらのグラフは、本発明が改良しようとしている剛性とヒステリシス特性間の妥協点の直接の可視化を可能にしている。
【0077】
表3
【0078】
本発明に従う組成物の低歪みと中程度の歪み、即ち、それぞれ10%歪みと50%歪みにおける剛性は、対照組成物C1およびC3の剛性よりも高く、さらに、剛性を改良する目的でもって対照組成物C1よりも多量の充填剤を含む対照組成物C2の剛性に近いかまたはその剛性よりも高くさえあることが特筆される。明らかに、充填剤量のこの増加は、対照組成物C1に照らせば、対照組成物C2のヒステリシス特性に対して悪影響を有することが観察されている。
機械的性質のこの改良は、そのような組成物から製造したトレッドを備えたタイヤの耐摩耗性の点で好ましい。
【0079】
剛性のこの改良にもかかわらず、本発明に従う組成物は、対照組成物C2において観察されていることとは反対に、対照組成物C1およびC3のヒステリシス特性と比較して維持されたまたは改良さえされたヒステリシス特性を有している。
このことは、そのような組成物から製造したトレッドを備えたタイヤの転がり抵抗性を低下させるためには好ましいものである。
【0080】
結論として、これらの試験の結果は、高飽和ジエンエラストマーの使用が本発明に従うゴム組成物の剛性の特筆すべき改良、ひいては上記組成物を含むタイヤの耐摩耗性の改良をもたらすと共に上記組成物のヒステリシス、ひいては通常のタイヤと比較して上記タイヤの転がり抵抗性を維持しているかまたは低下さえしていることを証明している。
【実施例2】
【0081】
以下の実施例は、同程度のヒステリシス、ひいては転がり抵抗性を維持しながらの、或いはヒステリシス値を対照組成物と比較して低下させることによってヒステリシスを改良さえしての、上記ゴム組成物の剛性の改良は、補強用充填剤が無機質である、この場合は、シリカ質である組成物に当てはまることを証明する。
【0082】
組成物
各組成物は、表1に示している先の実施例におけるのと同じエラストマーからなる。
下記の表4に示す5通りの組成物を比較する。これらの組成物の下記の2通りは、本発明で提案する配合に従っていない:
組成物C1’:不飽和ジエンエラストマーを含む対照;
組成物C2’:不飽和ジエンエラストマーを含み、充填剤の量を増大させることによって剛性化した対照。
3通りの他の組成物M1’〜M3’は、本発明に従っており、3種の異なる高飽和ジエンエラストマーP2、P3およびQ1をベースとする。
【0083】
下記の試験を、以下の方法で実施する:
ジエンエラストマー(1種以上)、補強用充填剤(シリカおよびカーボンブラック)、さらにまた、加硫系を除いた各種他の成分を、初期容器温度がおよそ90℃である密閉ミキサーに連続して導入する(最終充填比:およそ70容量%)。その後、熱機械加工(非生産段階)を、合計でおよそ3〜4分間続く工程において、165℃の最高“落下”温度に達するまで実施する。そのようにして得られた混合物を回収し、冷却し、次いで、イオウおよびスルフェンアミドタイプの促進剤を30℃のミキサー(ホモフィニッシャー)において混入し、全てを適切な時間(例えば、およそ10分間)混合する(生産段階)。
【0084】
その後、そのようにして得られた組成物を、ゴムのプレート(2〜3mm厚)または薄シートのいずれかの形にカレンダー加工して、その物理的または機械的性質を測定する。
【0085】
試験した組成物は、下記の表4に示しており、下記を含む:
(1) 各組成物において使用したエラストマーは上記表1示している
(2) 160 MPシリカ
(3) カーボンブラック N347
(4) TESPT “Si69”
(5) オレイン酸ヒマワリ油
(6) ポリリモネン樹脂
(7) N−(1,3−ジメチルブチル)−N−フェニルパラフェニレンジアミン
(8) ジフェニルグアニジン
(9) N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド。
【0086】
表4
【0087】
結果
各組成物の性質を、下記の表5に示している。
G*の関数としてのtan δ
maxの結果を、
図3および
図4に示すグラフにプロットしている。実施例1におけるように、これらのグラフは、本発明が改良しようとしている剛性とヒステリシス特性間の妥協点の直接の可視化を可能にしている。
【0088】
表5
【0089】
実施例1における場合のように、これらの試験の結果は、この場合無機充填剤で補強した高飽和ジエンエラストマーの使用が本発明に従うゴム組成物の剛性の特筆すべき改良、ひいては上記組成物を含むタイヤの耐摩耗性の改良をもたらすと共に上記組成物のヒステリシス、ひいては通常のタイヤと比較して上記タイヤの転がり抵抗性を維持しているかまたは低下さえしていることを証明している。
【国際調査報告】