特表2015-535888(P2015-535888A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-535888(P2015-535888A)
(43)【公表日】2015年12月17日
(54)【発明の名称】ニッケルフリーステンレス鋼合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20151120BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20151120BHJP
   A44C 5/00 20060101ALI20151120BHJP
   A44C 7/00 20060101ALI20151120BHJP
   A44C 17/00 20060101ALI20151120BHJP
   A44C 1/00 20060101ALI20151120BHJP
   A44C 5/20 20060101ALI20151120BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
   A44C5/00 502B
   A44C5/00 E
   A44C7/00
   A44C17/00
   A44C1/00
   A44C5/20 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-533640(P2015-533640)
(86)(22)【出願日】2013年10月17日
(85)【翻訳文提出日】2015年3月30日
(86)【国際出願番号】EP2013071770
(87)【国際公開番号】WO2014067795
(87)【国際公開日】20140508
(31)【優先権主張番号】12191101.0
(32)【優先日】2012年11月2日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ディオンヌ,ジャン−フランソワ
【テーマコード(参考)】
3B114
【Fターム(参考)】
3B114AA03
3B114AA25
(57)【要約】
オーステナイト面心立方構造のステンレス鋼合金であって、上記合金は質量値で以下を含む:
‐0.5%質量%未満のニッケル、
‐クロム:16%〜20%;
‐追加の金属:30%〜40%(銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金から選択される):
‐銅:0%〜2%;
‐金:0%〜2%;
‐炭素:0%〜0.03%;
‐モリブデン:0%〜2%;
‐マンガン:0%〜2%;
‐ケイ素:0%〜1%;
‐窒素:0%〜0.1%;
‐タングステン:0%〜0.5%;
‐バナジウム:0%〜0.5%;
‐ニオブ:0%〜0.5%;
‐ジルコニウム:0%〜0.5%;
‐チタン:0%〜0.5%;
‐鉄及び不可避不純物:100%への不足分。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄及びクロムで形成される基材を含むステンレス鋼合金であって、
前記合金は0.5質量%未満のニッケルを含み、オーステナイト面心立方構造に配列され、
質量値で以下:
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐少なくとも1つの追加の金属であって、前記少なくとも1つの追加の金属又は前記複数の追加の金属の合計値は、最小値30%〜最大値40%であり、前記少なくとも1つの追加の金属は、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金からなる第1の群から選択される、少なくとも1つの追加の金属:
‐銅の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐金の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐タングステン:最小値0%、最大値0.5%;
‐バナジウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐ニオブ:最小値0%、最大値0.5%;
‐ジルコニウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐チタン:最小値0%、最大値0.5%;
‐鉄及び不可避不純物:100%への不足分
からなることを特徴とする、合金。
【請求項2】
前記少なくとも1つの追加の金属は、プラチノイドと呼ばれる前記第1の群の下位群から選択される少なくとも1つの追加の金属を含み、前記プラチノイド下位群は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金を含むことを特徴とする、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
前記少なくとも1つの追加の金属は前記プラチノイド下位群からのみ選択されることを特徴とする、請求項2に記載の合金。
【請求項4】
前記合金は質量値で以下:
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐前記第1の群からの少なくとも1つの前記追加の金属であって、前記少なくとも1つの追加の金属又は前記複数の追加の金属の合計値は、最小値30%〜最大値40%である、少なくとも1つの追加の金属;
‐銅の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐金の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐前記第1の群又は前記プラチノイド下位群の1つ又は複数の前記追加の金属と、マンガン及び窒素との合計は、最小値30%〜最大値40%であり;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐タングステン:最小値0%、最大値0.5%;
‐バナジウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐ニオブ:最小値0%、最大値0.5%;
‐ジルコニウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐チタン:最小値0%、最大値0.5%;
‐鉄及び不可避不純物:100%への不足分
からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の合金。
【請求項5】
タングステン、バナジウム、ニオブ、ジルコニウム、チタンを含む第2の群から選択される少なくとも1つの炭化物形成元素の含有率は、ゼロではなく、かつ前記第2の群の前記炭化物形成元素の合計の0.5質量%までの範囲内であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の合金。
【請求項6】
前記合金は、質量値で以下:
‐パラジウム:最小値30%、最大値40%;
‐銅:最小値0%、最大値2%;
‐金:最小値0%、最大値2%;
‐パラジウム+銅+金の合計:最小値30%、最大値40%;
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%;
‐鉄及び不可避不純物:100%への不足分
からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の合金。
【請求項7】
前記合金は、質量値で以下:
‐クロム:18%;
‐パラジウム:35%;
‐炭素:0%〜0.03%
からなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の合金。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の合金製の時計又は宝飾品の構成部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄及びクロムで形成される基材を含むステンレス鋼合金に関する。
【0002】
本発明はまた、このタイプの合金製の時計構成部品にも関する。
【0003】
本発明は、特に以下の構造体に関する、時計学及び宝飾品の分野に関する:腕時計ケース、腕時計の中央部分、地板、ブレスレット又はリストバンド、指輪、イヤリング等。
【背景技術】
【0004】
ステンレス鋼は一般に、特に以下の構造体のために、時計学及び宝飾品の分野で使用される:腕時計ケース、腕時計の中央部分、地板、ブレスレット又はリストバンド、及びその他の構造体。
【0005】
ユーザの肌に接触することを意図した、外装として使用するための構成部品は、特にニッケル等の特定の金属のアレルゲン性の影響のために、特定の制約に従わなければならない。ニッケルの保護的品質及び研磨した際の光沢にもかかわらず、ニッケルを殆ど又は全く含有しない合金を市販する試みが次第になされている。
【0006】
しかしながらニッケルは、機械的特性並びに延性、展性及び弾性を向上させるために、最も一般的なステンレス鋼の基本成分である。しかしながらニッケルは、摩擦面に関して有害な影響を有する。ニッケルは不動態層の特性を向上させ、またこれは表面酸化物層に一体化される。特に合金X2CrNiMo17‐12 EN(又は316L AISI)は、10.5〜13%のニッケルを含む。ニッケルは絶えず価格が上昇している金属であり(2012年において1トンにつき略20000アメリカドル)、これによりニッケルを含有する合金の価格が上昇する。
【0007】
体心立方構造を有するフェライト系鋼であるニッケルフリーステンレス鋼が公知である。しかしながら、フェライト系鋼は熱処理によって硬化させることができず、冷間加工でしか硬化させることができない。フェライト系鋼は凹凸構造を有し、この種類の合金は研磨に適していない。
【0008】
Asulab SAによる特許文献1は、このタイプのニッケルフリーフェライト系ステンレス鋼の腕時計の外装部品への適用を開示しており、上記合金は、窒素を少なくとも0.4重量%、ニッケルを最大0.5重量%、クロムとモリブデンとを合計10〜35質量%、マンガンを5〜20質量%含む。
【0009】
熱処理によって硬化させることができるマルテンサイト系鋼である、他のステンレス鋼合金が公知である。しかしながら、これらマルテンサイト系鋼、特に硬化性沈殿物を含むマルエージング鋼種は、機械加工するのが困難であり、時計学における応用は想定できない。
【0010】
Ugine‐Savoie Imphyによる特許文献2は、機械加工性が改善されたマルテンサイト系ステンレス鋼を開示しており、これは、ニッケル含有率がゼロでないが2〜6%であり、クロム含有率が11〜19%と比較的低く、多数の添加剤を提供してマトリクス内における特定の包有物の形成を促進する組成を有し、これによってチップの局所的脆化により機械加工性が向上する。しかしながら、低いとはいえ、ニッケル含有率は時計学における応用には高すぎるままであることは明らかである。
【0011】
面心立方構造を有するオーステナイト系鋼は、一般に極めて良好な成形特性を有し、これは時計又は宝飾品の構成部品に関して特に有利である。オーステナイト系鋼は極めて高い耐化学性を有する。オーステナイト系鋼はまた、これらの面心立方構造により非磁性でもある。オーステナイト系鋼は、また溶接に最も適している。しかしながら一般的なオーステナイト系ステンレス鋼は依然としてニッケルを3.5〜32%、より一般には8.0〜15%含む。実際、ニッケルは、オーステナイト組織、特に成形による変形に適した鋼板の獲得を可能とするガンマ形成元素(gammagenous element)である。Cabot Corporationによる特許文献3は、合金中のオーステナイト組織を補助するためにニッケルが存在しなければならないと断言までしている。
【0012】
理論的に、ステンレス鋼に固有である鉄‐クロム系のγループは、ニッケル含有率が低いか又はゼロであってもオーステナイト領域を形成するが、より高い比率のニッケルを含む合金のループと比較して、このループの振幅は極めて制限されている。更に、このオーステナイト領域は、周囲温度よりはるかに高い温度において存在する。ガンマ形成合金元素は、オーステナイトループの化学組成を(クロムに対して)拡大して、構造が安定である温度範囲を増大させるため、ガンマ形成合金元素の効果は二重である。
【0013】
二相鋼とも呼ばれるオーステナイト‐フェライト系鋼は僅かに磁性であり、一般に3.5%〜8%のニッケルを含む。
【0014】
要するに、ニッケルフリーのステンレス鋼が主にフェライト系鋼であることは一般に容認されているが、ニッケル鋼として一般に分類されるオーステナイト系鋼の利点を得ることができるはずである。
【0015】
オーステナイト系ステンレス鋼を得るために、オーステナイトの安定性の範囲を増大させるニッケル、マンガン又は窒素(後者の2つはスーパーオーステナイト系鋼として公知である)等のγを生じる元素が一般に使用される。従って理論的には、ニッケルの代わりにマンガン又は窒素を含むスーパーオーステナイト系鋼を使用できる。
【0016】
Simaによる特許文献4は、このタイプのニッケルフリーオーステナイト系鋼を開示しており、このニッケルフリーオーステナイト系鋼は、マンガンを15〜24%、クロムを15〜20%、モリブデンを2.5〜4%、窒素を0.6〜0.85%、バナジウムを0.1〜0.5%、銅を0.5%未満、コバルト0.5%未満、ニオブとタンタルを合計0.5%未満、炭素を0.06%未満、その他の複数の元素をそれぞれ0.020質量%含み、残りは鉄で形成され、特定の金属の組成は、それらのクロム、モリブデン、窒素、バナジウム、ニオブ、マンガンのレベルを画定する方程式及び不等式系を通して互いに対して制限される。
【0017】
しかしながら、これらのスーパーオーステナイト系合金は高い機械的特性を有するものの、成形が極めて困難であり、特に機械加工が困難であり、型鍛造が不可能であるため、使用するには不便である。
【0018】
オーステナイト系ステンレス鋼は以下の文献から公知である:
‐Daido Steel Co Ltdによる特許文献5(特に宝飾品における使用に関し、高い窒素レベルを有する);
‐Metallurgie Avancee Simaによる特許文献6(生物医学的用途、ニッケルフリー);
‐Daido Steel Co Ltdによる特許文献7(高い窒素レベルを有する);
‐Usinor Ugineによる特許文献8(極めて低い窒素レベルを有する);
‐Liu Advanced Int Multitechによる特許文献9(中レベルの窒素を有する);
‐Kruppによる特許文献10(高耐久性及び耐腐食性);
‐Mertz Carpenter Technology Coによる特許文献11(耐腐食性)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】欧州特許出願第0964071A1号
【特許文献2】欧州特許第0629714B1号
【特許文献3】仏国特許第2534931号
【特許文献4】欧州特許第1025273B1号
【特許文献5】欧州特許出願第1783240A1号
【特許文献6】欧州特許第1025273B1号
【特許文献7】欧州特許出願第1626101A1号
【特許文献8】欧州特許出願第0896072A1号
【特許文献9】米国特許出願第2009/060775A1号
【特許文献10】独国特許第19716795A1号
【特許文献11】米国特許出願第3904401A号
【発明の概要】
【0020】
本発明は、鉄及びクロムで形成される基材を含むステンレス鋼合金に関し、上記ステンレス鋼合金は0.5質量%未満のニッケルを含み、オーステナイト面心立方構造に配列され、また上記ステンレス鋼合金は、質量値で以下からなることを特徴とする:
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐少なくとも1つの追加の金属であって、少なくとも1つの追加の金属又は上記複数の追加の金属の合計値は、最小値30%〜最大値40%であり、上記少なくとも1つの追加の金属は、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金からなる第1の群から選択される少なくとも1つの追加の金属:
‐銅の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐金の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐タングステン:最小値0%、最大値0.5%;
‐バナジウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐ニオブ:最小値0%、最大値0.5%;
‐ジルコニウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐チタン:最小値0%、最大値0.5%;
‐鉄及び不可避不純物:100%への不足分。
【0021】
本発明は更に、このタイプの合金製の時計又は宝飾品の構成部品に関する。
【0022】
本発明の他の特徴及び利点は、添付した図面を参照して以下の詳細な説明を読むことにより、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、合金中のニッケルのレベルの関数としての、鉄‐クロム系のγループの概略図である。
図2図2は、x軸にクロム当量、y軸にニッケル当量を示すシェフラーの組織図である。この図は、フェライト、マルテンサイト、オーステナイト領域の範囲を画定し、オーステナイト領域は、ゼロフェライトレベルに関する曲線によって限定される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、ニッケルを含有するオーステナイト系ステンレス鋼の特性と同様の特性を有する、ニッケルフリーステンレス鋼を製造することを提案する。
【0025】
以下、「ニッケルフリー合金」は、0.5質量%未満のニッケルを含む合金を意味する。
【0026】
従って、スーパーオーステナイト系合金のように、ニッケルの代替物を含むが、マンガン‐窒素の組み合わせと比べて鋼を硬化させない合金を作製することを試みる。
【0027】
上記ニッケルの代替物は、オーステナイトの面心立方構造を構成できるようにするために、鉄に溶けるものでなければならない。本発明によると、本合金は鉄及びクロムで形成される基材に加えて、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金を含む第1の群から選択される少なくとも1つの追加の金属を含む。
【0028】
好ましい組成では、本発明によるステンレス鋼合金は、鉄及びクロムで形成される基材中に0.5質量%未満のニッケルを含み、オーステナイトの面心立方構造に配列され、また上記ステンレス鋼合金は、質量値で以下からなる:
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐少なくとも1つの追加の金属であって、少なくとも1つの追加の金属又は上記複数の追加の金属の合計値は、最小値30%〜最大値40%であり、上記少なくとも1つの追加の金属は、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金からなる第1の群から選択される少なくとも1つの追加の金属:
‐銅の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐金の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐タングステン:最小値0%、最大値0.5%;
‐バナジウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐ニオブ:最小値0%、最大値0.5%;
‐ジルコニウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐チタン:最小値0%、最大値0.5%;
‐鉄及び不可避不純物:100%への不足分。
【0029】
特定の応用例では、本合金は、鉄、炭素、クロムで形成される基材に加えて、プラチノイドと呼ばれる第1の群の第1の下位群から選択される少なくとも1つの追加の金属を含み、上記プラチノイド下位群は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金を含む。
【0030】
実際、これらの金属は白金族金属(platinum group metals:PGM)又はプラチノイドの一部を形成し、即ちこれらの金属は、金属にとっては稀である共通の特性によって特徴付けられる。これらのPGM金属は、銅及び金よりも鉄により溶ける。
【0031】
別の更に特定の組成では、上記少なくとも1つの追加の金属は上記プラチノイド下位群からのみ選択される。
【0032】
本発明のある変形例は、合金の機械的特性を調整するために、上述のタイプの少なくとも1つの追加の金属のみならず、マンガン及び窒素をも本合金に組み込むことからなる。この第2の変形例では好ましくは、本合金は質量値で以下からなる:
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐第1の群からの少なくとも1つの上記追加の金属であって、少なくとも1つの追加の金属又は複数の追加の金属の合計値は、最小値30%〜最大値40%である少なくとも1つの追加の金属;
‐銅の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐金の値は最小値0%〜最大値2%であり;
そして第1の群又はプラチノイド下位群の1つ又は複数の追加の金属と、マンガン及び窒素との合計は、最小値30%〜最大値40%であり;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%;
‐タングステン:最小値0%、最大値0.5%;
‐バナジウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐ニオブ:最小値0%、最大値0.5%;
‐ジルコニウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐チタン:最小値0%、最大値0.5%;
‐鉄及び不可避不純物:100%への不足分。
【0033】
本発明の別の変形例は、タングステン、バナジウム、ニオブ、ジルコニウム、チタンを含む第2の群から選択される少なくとも1つの炭化物形成元素(carburigen element)を、合計の0.5質量%までの範囲内で合金に組み込み、合金中の同一質量の鉄を置換することからなる。従って合金中では、タングステン、バナジウム、ニオブ、ジルコニウム、チタンを含む第2の群から選択された少なくとも1つの炭化物形成元素の含有率はゼロではなく、かつこの第2の群の炭化物形成元素の合計の0.5%までの範囲内である。
【0034】
1つ又は複数の炭化物形成元素を組み込むことは、特定の炭化物を沈殿させる効果を有し、これら炭化物は耐腐食性に関してクロム炭化物より有害ではない。
【0035】
図2はシェフラーの組織図であり、x軸にクロム当量、y軸にニッケル当量を含み、これらは両方とも質量百分率で表される。
【0036】
クロムの当量Creqは、ここで以下の定義:Creq=Cr+Mo+1.5Siに対応する。
【0037】
このモデルはシェフラーのモデル又はデロングのモデル:Creq=Cr+Mo+1.5 Si+0.5Nbに近く、ここではニオブフリー合金の場合に関して簡略化されている。
【0038】
重要な点は、ニッケルの代替物としての追加の金属の規定レベルを決定することである。ニッケル当量の概念は、1つの追加の金属、又は2つ以上存在する場合は複数の追加の金属の質量比率を特徴づけるものである。
【0039】
ニッケルを置換するためにパラジウムを使用する特定の場合において、ニッケル当量Nieqは以下の定義:
Nieq=Ni+30(C+N)+0.5(Co+Mn+Cu)+0.3Pd
に対応する。
【0040】
このモデルはパラジウムの存在に適合されており、(マンガン系合金に関する)公知のシェフラーのモデル:
Nieq=Ni+30C+0.5Mn
及びより具体的には(マンガン及び窒素系合金に関する)デロングのモデル:
Nieq=Ni+30(C+N)+0.5Mn
から導かれたものである。
【0041】
ニッケル当量の式は、追加の金属の群に一般化すると:
Nieq=Ni+30(C+N)+0.5(Co+Mn+Cu)+0.3(Pd+Ru+Rh+Re+Os+Ir+Pt+Au)
又は好ましくは追加の金属が第1の群から選択される場合:
Nieq=Ni+30(C+N)+0.5(Co+Mn+Cu)+0.3(Pd+Ru+Rh+Re+Os+Ir+Pt)
のように書くこともできる。
【0042】
このシェフラーの組織図は、フェライト、マルテンサイト、オーステナイト領域の範囲を画定し、オーステナイト領域は、ゼロフェライトレベルに関する曲線によって限定される。
【0043】
現行規格によると、ステンレス鋼は10.5%超のクロムを含有するものである。
【0044】
曲線C1、C2は、可能なオーステナイトAの存在の範囲を画定し、C1、C2より上にはオーステナイトAが存在し、下には存在しない。
【0045】
曲線C3は、可能なフェライトFの存在の範囲を画定し、C3より下にはフェライトFが存在し、C3より上には存在しない。
【0046】
曲線C4は、可能なマルテンサイトMの存在の範囲を画定し、C4より下にはマルテンサイトMが存在し、C4より上には存在しない。
【0047】
オーステナイトの特性を最大限に活用するために、組成は、オーステナイトAのみを有するようにC3、C4の両方の曲線より上となるようにしなければならない。
【0048】
ステンレス鋼に固有の特性を最大限に活用するために、曲線C5によって表されるクロムの最小レベルを観察しなければならず、領域は曲線C5の右側に位置する。図2における斜線の領域D1はこれら2つの条件に適合し、所期の特性を保証する。上記の例に対応する点Pは、この領域D1内に位置する。
【0049】
近似によると、曲線は以下の方程式:
C1:Nieq=−5/6(Creq−8)+21
C2:Nieq=−13/16(Creq−8)+13
C3:Nieq=13/9(Creq−8)−2
C4:Nieq= 7/16(Creq−8)−3
による直線であり、
領域D1は以下の3つの条件:
Nieq≧13/9(Creq−8)−2
Nieq≧7/16 (Creq−8)−3
Creq≧10.5
を満たす。
【0050】
当然のことながら、オーステナイトに含まれる少量のフェライト又はマルテンサイトは許容できる。ニッケル代替物として選択される金属の価格が高いことが多い(パラジウムの価格が金の価格の約半分であり、白金の価格の4分の1〜半分であった2012年の例を想起されたい)ため、特にニッケル当量のレベルを可能な限り低減するために、適用する実際の領域は領域D1より僅かに広範であってよい。
【0051】
以下の2つの不等式:
16≦Creq≦23.5
12≦Nieq≦22
によって定義される矩形の領域D2は、主要な追加の金属としてパラジウムが使用される場合の許容可能な値(質量値)の良好な例を提供する:
‐パラジウム:最小値30%、最大値40%;
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐銅:最小値0%、最大値2%;
‐金:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%;
‐鉄:100%への不足分。
更に特定の合金は、質量値で以下からなる:
‐パラジウム:最小値30%、最大値40%;
‐銅:最小値0%、最大値2%;
‐金:最小値0%、最大値2%;
‐パラジウム+銅+金の合計:最小値30%、最大値40%;
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%;
‐鉄及び不可避不純物:100%への不足分。
【0052】
第1の群又はPGM下位群から選択される少なくとも1つの追加の金属に一般化すると、質量組成は以下のようになる:
‐第1の群又はPGM下位群からの1つ又は複数の追加の金属の合計:最小値30%、最大値40%;
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐銅:最小値0%、最大値2%;
‐金:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%
‐鉄:100%への不足分。
【0053】
より具体的には、追加の金属としてのパラジウムの選択により、所望の特性を達成できる。
【0054】
適切な組成(質量組成)は、18%のクロム、35%のパラジウム、46〜47%の鉄である。あらゆるステンレス鋼のように、この合金は最大0.03%の炭素を含有してよい。好ましくは質量組成は、18%のクロム、35%のパラジウム、0〜0.03%の炭素、不足分の鉄である。より具体的には、質量組成は、18%のクロム、35%のパラジウム、46.97〜47%の鉄、0〜0.03%の炭素である。
【0055】
本発明は更に、このタイプの合金製の時計又は宝飾品の構成部品に関する。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2015年3月30日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄及びクロムで形成される基材を含むステンレス鋼合金であって、
前記合金は0.5質量%未満のニッケルを含み、オーステナイト面心立方構造に配列され、
質量値で以下:
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐少なくとも1つの追加の金属であって、前記少なくとも1つの追加の金属又は前記複数の追加の金属の合計値は、最小値30%〜最大値40%であり、前記少なくとも1つの追加の金属は、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金からなる第1の群から選択される少なくとも1つの追加の金属:
‐銅の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐金の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐タングステン:最小値0%、最大値0.5%;
‐バナジウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐ニオブ:最小値0%、最大値0.5%;
‐ジルコニウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐チタン:最小値0%、最大値0.5%;
‐鉄及び不可避不純物:100%への不足分
からなることを特徴とする、合金。
【請求項2】
前記少なくとも1つの追加の金属は、プラチノイドと呼ばれる前記第1の群の下位群から選択される少なくとも1つの追加の金属を含み、前記プラチノイド下位群は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金を含むことを特徴とする、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
前記少なくとも1つの追加の金属は前記プラチノイド下位群からのみ選択されることを特徴とする、請求項2に記載の合金。
【請求項4】
前記合金は質量値で以下:
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐前記第1の群からの少なくとも1つの前記追加の金属であって、前記少なくとも1つの追加の金属又は前記複数の追加の金属の合計値は、最小値30%〜最大値40%である少なくとも1つの前記追加の金属;
‐銅の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐金の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐前記第1の群又は前記プラチノイド下位群の1つ又は複数の前記追加の金属と、マンガン及び窒素との合計は、最小値30%〜最大値40%であり;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%;
‐タングステン:最小値0%、最大値0.5%;
‐バナジウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐ニオブ:最小値0%、最大値0.5%;
‐ジルコニウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐チタン:最小値0%、最大値0.5%;
‐鉄及び不可避不純物:100%への不足分
からなることを特徴とする、請求項1に記載の合金。
【請求項5】
前記合金は質量値で以下:
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐前記第1の群からの少なくとも1つの前記追加の金属であって、前記少なくとも1つの追加の金属又は前記複数の追加の金属の合計値は、最小値30%〜最大値40%である少なくとも1つの前記追加の金属;
‐銅の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐金の値は最小値0%〜最大値2%であり;
‐前記第1の群又は前記プラチノイド下位群の1つ又は複数の前記追加の金属と、マンガン及び窒素との合計は、最小値30%〜最大値40%であり;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%;
‐タングステン:最小値0%、最大値0.5%;
‐バナジウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐ニオブ:最小値0%、最大値0.5%;
‐ジルコニウム:最小値0%、最大値0.5%;
‐チタン:最小値0%、最大値0.5%;
‐鉄及び不可避不純物:100%への不足分
からなることを特徴とする、請求項2に記載の合金。
【請求項6】
タングステン、バナジウム、ニオブ、ジルコニウム、チタンを含む第2の群から選択される少なくとも1つの炭化物形成元素の含有率は、ゼロではなく、かつ前記第2の群の前記炭化物形成元素の合計の0.5質量%までの範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の合金。
【請求項7】
タングステン、バナジウム、ニオブ、ジルコニウム、チタンを含む第2の群から選択される少なくとも1つの炭化物形成元素の含有率は、ゼロではなく、かつ前記第2の群の前記炭化物形成元素の合計の0.5質量%までの範囲内であることを特徴とする、請求項2に記載の合金。
【請求項8】
タングステン、バナジウム、ニオブ、ジルコニウム、チタンを含む第2の群から選択される少なくとも1つの炭化物形成元素の含有率は、ゼロではなく、かつ前記第2の群の前記炭化物形成元素の合計の0.5質量%までの範囲内であることを特徴とする、請求項3に記載の合金。
【請求項9】
タングステン、バナジウム、ニオブ、ジルコニウム、チタンを含む第2の群から選択される少なくとも1つの炭化物形成元素の含有率は、ゼロではなく、かつ前記第2の群の前記炭化物形成元素の合計の0.5質量%までの範囲内であることを特徴とする、請求項4に記載の合金。
【請求項10】
タングステン、バナジウム、ニオブ、ジルコニウム、チタンを含む第2の群から選択される少なくとも1つの炭化物形成元素の含有率は、ゼロではなく、かつ前記第2の群の前記炭化物形成元素の合計の0.5質量%までの範囲内であることを特徴とする、請求項5に記載の合金。
【請求項11】
前記合金は、質量値で以下:
‐パラジウム:最小値30%、最大値40%;
‐銅:最小値0%、最大値2%;
‐金:最小値0%、最大値2%;
‐パラジウム+銅+金の合計:最小値30%、最大値40%;
‐クロム:最小値16%、最大値20%;
‐モリブデン:最小値0%、最大値2%;
‐マンガン:最小値0%、最大値2%;
‐ケイ素:最小値0%、最大値1%;
‐窒素:最小値0%、最大値0.1%;
‐炭素:最小値0%、最大値0.03%;
‐鉄及び不可避不純物:100%への不足分
からなることを特徴とする、請求項1に記載の合金。
【請求項12】
前記合金は、質量値で以下:
‐クロム:18%;
‐パラジウム:35%;
‐炭素:0%〜0.03%
からなることを特徴とする、請求項6に記載の合金。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の合金製の時計又は宝飾品の構成部品。
【国際調査報告】