特表2015-536255(P2015-536255A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-536255(P2015-536255A)
(43)【公表日】2015年12月21日
(54)【発明の名称】多層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20151124BHJP
【FI】
   B32B27/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2015-521720(P2015-521720)
(86)(22)【出願日】2013年10月18日
(85)【翻訳文提出日】2015年4月24日
(86)【国際出願番号】JP2013079051
(87)【国際公開番号】WO2014069379
(87)【国際公開日】20140508
(31)【優先権主張番号】特願2012-241927(P2012-241927)
(32)【優先日】2012年11月1日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】山村 剛平
(72)【発明者】
【氏名】廣田 真之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純
(72)【発明者】
【氏名】ルース、ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】アウファーマン、ヨルグ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、シン
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK07B
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK45B
4F100AK54A
4F100AL01B
4F100AL02A
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100EH202
4F100JA06
4F100JA07
4F100JK03
4F100JK06
4F100JK07
4F100JK17
4F100JL12
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】 本発明は、柔軟性、耐引裂き性、ヒートシール性、層間接触強さおよび生分解性に優れる多層フィルムに関する。
【解決手段】 多層フィルムは、要件(A)を満たす層(X)および層(Y)を含んでいる。すなわち、層(X)は、(a)乳酸系樹脂、(b)乳酸系樹脂以外の生分解性樹脂および(c)ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントのブロック共重合体樹脂を含み、樹脂(a)、(b)および(c)は、(樹脂(a)、(b)および(c)の合計100質量部のうち)それぞれ20〜85質量部、10〜50質量部および5〜30質量部を占める。また以下の要件(B)を満たす。すなわち、層(Y)は、以下に定義する脂肪族−芳香族ポリエステル(d)および樹脂(e)を含む:樹脂(d)および(e)は(樹脂(d)および(e)の合計100質量部のうち)それぞれ30〜100質量部および0〜70質量部を占め、樹脂(e)は乳酸系樹脂、脂肪族ポリエステル、ポリプロピレンカーボネートおよびポリヒドロキシアルカノエートから成る群より選ばれる少なくとも一つの樹脂である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層(X)および層(Y)を含む多層フィルムであって、前記の層(X)および前記の層(Y)はそれぞれ以下の要件(A)および要件(B)を満たす多層フィルム:
要件(A):前記の層(X)は、乳酸系樹脂、乳酸系樹脂以外の生分解性樹脂、およびポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体樹脂(以下、前記の層(X)に含まれる前記の乳酸系樹脂を樹脂(a)と称し、前記の層(X)に含まれる前記の乳酸系樹脂以外の生分解性樹脂を樹脂(b)と称し、また前記の層(X)に含まれる前記のポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体樹脂を樹脂(c)と称する)を含み、前記の樹脂(a)、前記の樹脂(b)および前記の樹脂(c)は、前記の樹脂(a)、前記の樹脂(b)および前記の樹脂(c)の合計を100質量部としたとき、それぞれ20〜85質量部、10〜50質量部および5〜30質量部を占める;
要件(B):前記の層(Y)は、脂肪族−芳香族ポリエステルおよび以下に定義する樹脂(e)を含み(以下、層(Y)に含まれる前記の脂肪族−芳香族ポリエステルを樹脂(d)と称する)、前記の樹脂(d)および前記の樹脂(e)は、前記の樹脂(d)および前記の樹脂(e)の合計を100質量部としたとき、それぞれ30〜100質量部および0〜70質量部を占める;
(樹脂(e):樹脂(e)は、乳酸系樹脂、脂肪族ポリエステル、ポリプロピレンカーボネート、およびポリヒドロキシアルカノエートから成る群より選ばれる少なくとも一つの樹脂である。)
【請求項2】
前記の樹脂(a)、前記の樹脂(b)、および前記の樹脂(c)の合計を100質量部としたときに、層(X)が、以下に定義する相溶化剤に由来する成分を0.1〜2質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の多層フィルム:
相溶化剤:イソシアネート、イソシアヌレート、オキサゾリン、カルボジイミド、オキサジン、エポキシド、およびカルボン酸無水物から成る群より選ばれる二つ以上の官能基を含有する化合物。
【請求項3】
前記の樹脂(d)および前記の樹脂(e)の合計を100質量部としたときに、層(Y)が、以下に定義する相溶化剤に由来する成分を0.1〜2質量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載の多層フィルム:
相溶化剤:イソシアネート、イソシアヌレート、オキサゾリン、カルボジイミド、オキサジン、エポキシド、およびカルボン酸無水物から成る群より選ばれる二つ以上の官能基を含有する化合物。
【請求項4】
前記の樹脂(b)が以下に定義する重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多層フィルム:
樹脂(b):脂肪族−芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリプロピレンカーボネート、およびポリヒドロキシアルカノエートから成る群より選ばれる少なくとも一つの樹脂。
【請求項5】
前記の樹脂(b)および/または前記の樹脂(d)が炭素数4〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、および炭素数3〜6のジオールから作製される共重合ポリエステルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項6】
前記の樹脂(c)中の重合体の合計を100質量%としたときに、前記のポリ乳酸セグメントが5〜49質量%を占めることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項7】
前記の樹脂(c)中のポリエーテルセグメントがポリエチレングリコールセグメントであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項8】
フィルムの機械方向と厚さ方向から観察した断面において、前記の層(X)が前記の樹脂(a)と前記の樹脂(c)を含む連続相を有し、該連続相は前記の樹脂(b)を含む分散相を有し、該分散相はフィルムの機械方向に伸びた楕円状またはフィルムの機械方向に伸びた層状に分散し、該分散相は150〜600nmの厚さを有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項9】
フィルムの機械方向と厚さ方向から観察した断面において、前記の層(Y)が前記の樹脂(d)を含む連続相を有し、該連続相は前記の樹脂(e)を含む分散相を有し、該分散相はフィルムの機械方向に伸びた楕円状またはフィルムの機械方向に伸びた層状に分散し、該分散相は40〜150nmの厚さを有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項10】
少なくとも一方の表面層が前記の層(Y)から成り、該表面層が30〜60dyne/cmの表面エネルギーを有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項11】
前記の樹脂(b)が0.8〜2.0の配向パラメータを有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項12】
前記の層(Y)、前記の層(X)、および前記の層(Y)がこの順序で直接積層されて多層構造を形成していることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項13】
フィルムの機械方向の引裂き強度とフィルムの幅方向の引裂き強度との平均が500mN以上であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項14】
ヒートシール強度が7N以上であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項15】
引張弾性率が1,200MPa以下であることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の多層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性、耐引裂き性、ヒートシール性、層間接触強さおよび生分解性に優れる多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりにともなって、廃プラスチック製品が引き起こす土壌汚染問題が注目され、また石油由来プラスチックの製造による世界的な石油資源枯渇問題にも注目が集まっている。
【0003】
前者と後者のそれぞれの問題を解決するための手段として、種々の生分解性樹脂および植物由来樹脂に関する研究および開発活動が活発に行われている。
【0004】
樹脂フィルム産業界においては、ポリエチレンなど従来のポリオレフィン系フィルムに代えてポリ乳酸や脂肪族ポリエステルなどを利用する努力が行われている。しかし、これらの樹脂は、単独で使用する場合には、柔軟性、耐引裂き性およびヒートシール性等の実用的特性に劣っており、これら樹脂の特性を向上させるべく様々な研究が行われている。
【0005】
特に、互いの短所を補い合う二つの異なる樹脂から構成された積層フィルムが提案されている。
【0006】
たとえば特許文献1は、ガラス転移温度が10℃以下の生分解性ポリエステルにポリ乳酸を組み合わせた層と熱可塑性の生分解性樹脂シール層とから成り、引裂き強さと衝撃強さが向上したフィルムを提案している。
【0007】
特許文献2は、結晶性ポリ乳酸を主成分として含む層と結晶性樹脂組成物を主成分して含む層とを含み、柔軟性とガスバリア性が向上したフィルムを提案している。
【0008】
しかし、特許文献1に記載されている新規提案フィルムは、優れたヒートシール性を持っているが、柔軟性、耐引裂き性および層間接触強さに劣っている。
【0009】
また特許文献2に記載されている新規提案フィルムは、柔軟性およびヒートシール性が向上しているが、耐引裂き性および層間接触強さが劣っている。
【0010】
このように、従来のポリエチレンおよびその他のポリオレフィン系樹脂フィルムを代替するための生分解性樹脂および植物由来樹脂を提供することを目的として研究が行われているが、いずれも必要とされる性状を持つフィルムの提供に成功しておらず、実用的に優れた柔軟性、耐引裂き性、ヒートシール性および層間接触強さを有するフィルムの発明には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−28615号公報
【特許文献2】特開2005−219487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の点に鑑みて、本発明は、柔軟性、耐引裂き性、ヒートシール性、層間接触強さおよび生分解性に優れた多層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成する本発明の多層フィルムは、下記の第(1)項に記載した構成を有している。
(1)層(X)および層(Y)を含む多層フィルムであって、前記の層(X)および前記の層(Y)はそれぞれ以下の要件(A)および要件(B)を満たす。
要件(A):前記の層(X)は、乳酸系樹脂、乳酸系樹脂以外の生分解性樹脂、およびポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体樹脂(以下、前記の層(X)に含まれる前記の乳酸系樹脂を樹脂(a)と称し、前記の層(X)に含まれる前記の乳酸系樹脂以外の生分解性樹脂を樹脂(b)と称し、また前記の層(X)に含まれる前記のポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体樹脂を樹脂(c)と称する)から構成されるものであって、前記の樹脂(a)、前記の樹脂(b)および前記の樹脂(c)は、前記の樹脂(a)、前記の樹脂(b)および前記の樹脂(c)の合計を100質量部としたとき、それぞれ20〜85質量部、10〜50質量部および5〜30質量部を占める。
要件(B):前記の層(Y)は、脂肪族−芳香族ポリエステルおよび以下に定義する樹脂(e)を含むものであって(以下、層(Y)に含まれる前記の脂肪族−芳香族ポリエステルを樹脂(d)と称する)、前記の樹脂(d)および前記の樹脂(e)は、前記の樹脂(d)および前記の樹脂(e)の合計を100質量部としたとき、それぞれ30〜100質量部および0〜70質量部を占める。
(樹脂(e):樹脂(e)は、乳酸系樹脂、脂肪族ポリエステル、ポリプロピレンカーボネート、およびポリヒドロキシアルカノエートから成る群より選ばれる少なくとも一つの樹脂とする。)
【0014】
また、本発明の多層フィルムは、好ましくは、下記(2)〜(15)項のいずれかの構成を有する。
(2)前記の樹脂(a)、前記の樹脂(b)、および前記の樹脂(c)の合計を100質量部としたときに、層(X)が、以下に定義する相溶化剤に由来する成分を0.1〜2質量部含有することを特徴とする第(1)項に記載の多層フィルム。
相溶化剤:イソシアネート、イソシアヌレート、オキサゾリン、カルボジイミド、オキサジン、エポキシド、およびカルボン酸無水物から成る群より選ばれる二つ以上の官能基を含有する化合物。
【0015】
(3)前記の樹脂(d)および前記の樹脂(e)の合計を100質量部としたときに、層(Y)が、以下に定義する相溶化剤に由来する成分を、0.1〜2質量部含有することを特徴とする第(1)項または第(2)項に記載の多層フィルム。
相溶化剤:イソシアネート、イソシアヌレート、オキサゾリン、カルボジイミド、オキサジン、エポキシド、およびカルボン酸無水物から成る群より選ばれる二つ以上の官能基を含有する化合物。
【0016】
(4)前記の樹脂(b)が以下に定義する重合体であることを特徴とする第(1)項〜第(3)項のいずれかに記載の多層フィルム。
樹脂(b):脂肪族−芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリプロピレンカーボネート、およびポリヒドロキシアルカノエートから成る群より選ばれる少なくとも一つの樹脂。
【0017】
(5)前記の樹脂(b)および/または前記の樹脂(d)が炭素数4〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、および炭素数3〜6のジオールから作製される共重合ポリエステルであることを特徴とする第(1)項〜第(4)項のいずれかに記載の多層フィルム。
【0018】
(6)前記の樹脂(c)中の重合体の合計を100質量%としたときに、ポリ乳酸セグメントが5〜49質量%を占めることを特徴とする第(1)項〜第(5)項のいずれかに記載の多層フィルム。
【0019】
(7)前記の樹脂(c)のポリエーテルセグメントがポリエチレングリコールセグメントであることを特徴とする第(1)項〜第(6)項のいずれかに記載の多層フィルム。
【0020】
(8)フィルムの機械方向と厚さ方向から観察した断面において、前記の層(X)が前記の樹脂(a)と前記の樹脂(c)を含む連続相を有し、該連続相は前記の樹脂(b)を含む分散相を有し、該分散相はフィルムの機械方向に伸びた楕円状またはフィルムの機械方向に伸びた層状に分散し、該分散相は150〜600nmの厚さを有することを特徴とする第(1)項〜第(7)項のいずれかに記載の多層フィルム。
【0021】
(9)フィルムの機械方向と厚さ方向から観察した断面において、前記の層(Y)が前記の樹脂(d)を含む連続相を有し、該連続相は前記の樹脂(e)を含む分散相を有し、該分散相はフィルムの機械方向に伸びた楕円状またはフィルムの機械方向に伸びた層状に分散し、該分散相は40〜150nmの厚さを有することを特徴とする第(1)項〜第(8)項のいずれかに記載の多層フィルム。
【0022】
(10)少なくとも一方の表面層が前記の層(Y)から成り、該表面層が30〜60dyne/cmの表面エネルギーを有することを特徴とする第(1)項〜第(9)項のいずれかに記載の多層フィルム。
【0023】
(11)前記の樹脂(b)が0.8〜2.0の配向パラメータを有することを特徴とする第(1)項〜第(10)項のいずれかに記載の多層フィルム。
【0024】
(12)前記の層(Y)、前記の層(X)、前記の層(Y)がこの順序で直接積層されていることを特徴とする第(1)項〜第(11)項のいずれかに記載の多層フィルム。
【0025】
(13)フィルムの機械方向の引裂き強度とフィルムの幅方向の引裂き強度との平均が500mN以上であることを特徴とする第(1)項〜第(12)項のいずれかに記載の多層フィルム。
【0026】
(14)ヒートシール強度が7N以上であることを特徴とする第(1)項〜第(13)項のいずれかに記載の多層フィルム。
【0027】
(15)引張弾性率が1,200MPa以下であることを特徴とする第(1)項〜第(14)項のいずれかに記載の多層フィルム。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、柔軟性、耐引裂き性、ヒートシール性、層間接触強さおよび生分解性に優れる多層フィルムを提供する。
【0029】
本発明による多層フィルムは、主に柔軟性、耐引裂き性、およびヒートシール性を必要とする野菜、果物、肉、魚、その他の生鮮製品用の小袋、ショッピングバッグ、買い物袋などの袋類や、ごみ袋、堆肥袋、コンポスト袋、その他各種の袋類や包装用の材料のほか、マルチング用フィルム、その他の農業資材、および医療・衛生材料などに好ましく用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、柔軟性、耐引裂き性、ヒートシール性、層間接触強さ、および生分解性に優れた多層フィルム関して鋭意遂行した研究に基づき、特定の樹脂を特定の比率で組み合わせた二つの層を有する多層フィルムを開発することによって上記の課題を初めて解決したものである。
【0031】
すなわち本発明は、層(X)と層(Y)とを有する多層フィルムであって、層(X)は乳酸系樹脂、生分解性樹脂、およびポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体を含む(以下、層(X)に含まれる乳酸系樹脂を樹脂(a)と称し、層(X)に含まれる生分解性樹脂を樹脂(b)と称し、層(X)に含まれるポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体樹脂を樹脂(c)と称する)とともに、該樹脂(a)、該樹脂(b)、および該樹脂(c)の合計を100質量部としたとき、該樹脂(a)、該樹脂(b)、および該樹脂(c)がそれぞれ20〜85質量部、10〜50質量部、および5〜30質量部を占め、一方、層(Y)は脂肪族−芳香族ポリエステル、および以下に定義する樹脂(e)を含み(以下、層(Y)に含まれる脂肪族芳香族ポリエステルを樹脂(d)と称する)、該樹脂(d)および該樹脂(e)の合計を100質量部としたとき、該樹脂(d)および該樹脂(e)がそれぞれ30〜100質量部および0〜70質量部を占める多層フィルムを提供する。
(樹脂(e):樹脂(e)は、乳酸系樹脂、脂肪族ポリエステル、ポリプロピレンカーボネート、およびポリヒドロキシアルカノエートから成る群より選ばれる少なくとも一つの樹脂とする。)
【0032】
本発明による多層フィルムを、以下に詳細に説明する。
【0033】
<乳酸系樹脂>
本発明で乳酸系樹脂と称するものは、L−乳酸ユニットおよび/またはD−乳酸ユニットを含む重合体であって、重合体100質量%中でそれらが80質量%を超えて100質量%以下を占める重合体である。
【0034】
本発明でポリL−乳酸と称するものは、乳酸系樹脂であって、全乳酸ユニットの合計100mol%中においてポリL−乳酸ユニットが50mol%を超えて100mol%以下を占める乳酸系樹脂である。一方、本発明でポリD−乳酸と称するものは、乳酸系樹脂であって、全乳酸ユニットの合計100mol%中においてポリD−乳酸ユニットが50mol%を超えて100mol%以下を占める乳酸系樹脂である。
【0035】
ポリL−乳酸は、D−乳酸ユニットの含有量に応じて、樹脂の結晶性が変化する。すなわち、ポリL−乳酸中においては、D−乳酸ユニットの含有量が増加するにつれてポリL−乳酸の結晶性が低下して非晶性が高まり、一方、ポリL−乳酸中においてD−乳酸ユニットの含有量が低下するにつれてポリL−乳酸の結晶性は上昇する。同様に、ポリD−乳酸は、L−乳酸ユニットの含有量に応じて、樹脂の結晶性が変化する。すなわち、ポリD−乳酸中においては、L−乳酸ユニットの含有量が増加するにつれてポリD−乳酸の結晶性が低下して非晶性が高まり、一方、ポリD−乳酸中においてL−乳酸ユニットの含有量が低下するにつれてポリD−乳酸の結晶性は上昇する。
【0036】
本発明で結晶性乳酸系樹脂と称するものは、ポリ乳酸成分に由来する結晶融解熱を発生する乳酸系樹脂であり、該融解熱は該乳酸系樹脂を加熱して十分に結晶化させた後に適当な温度範囲において示差走査熱量測定(DSC)を行うことにより測定される。
【0037】
一方、本発明で非晶性乳酸系樹脂と称するものは、同様の観測を行った時に明確な融点を示さない乳酸系樹脂である。
【0038】
本発明のために使用する乳酸系樹脂は、乳酸以外の他のモノマーユニットを含む共重合体であってもよい。他のモノマーとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、およびナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、およびヒドロキシ酪酸などのヒドロキシカルボン酸、ならびにカプロラクトンなどのラクトンなどがある。共重合中における上述した他の単量体ユニットの含有量は、乳酸系樹脂重合体の100mol%を占める全単量体ユニットのうち、好ましくは0〜20モル%であり、より好ましくは0〜10mo1%である。上述した各単量体ユニットのうち、生分解性のユニットを用途に応じて使用することが好ましい。
【0039】
本発明に用いる乳酸系樹脂は、実用的な機械特性を持つためには、質量平均分子量が50,000〜500,000であることが好ましく、80,000〜400,000であることがより好ましく、100,000〜300,000であることがさらに好ましい。
【0040】
<樹脂(a)(すなわち、層(X)に含まれる乳酸系樹脂)>
本発明による多層フィルム中の層(X)にとっては、乳酸系樹脂を含むことが重要である。以下、層(X)に含まれる乳酸系樹脂を樹脂(a)と称する。
【0041】
本発明による多層フィルムの層(X)中に含まれる前記の樹脂(a)は、樹脂(a)および後述する樹脂(b)と樹脂(c)の合計を100質量部として、20〜85質量部を占めることが重要である。これが20質量部未満の場合、フィルムは、加工性、取り扱い性、および層間接触強さが不十分なものとなり、一方85質量部を超える場合には、柔軟性、耐引裂き性、および層間接触強さが不足するものとなる。
【0042】
樹脂(a)は、該樹脂(a)、樹脂(b)、および樹脂(c)の合計を100質量部としたとき、含有量が30質量部以上であることが好ましく、40質量部以上であることがより好ましい。樹脂(a)は、該樹脂(a)、該樹脂(b)、および該樹脂(c)の合計を100質量部としたとき、含有量が75質量部以下であることが好ましく、65質量部以下であることがより好ましい。
【0043】
さらに、フィルムの加工性、取り扱い性、層間接触強さ、柔軟性、耐引裂き性の観点から、前記の樹脂(a)は、層(X)の量を100質量%としたとき、20〜80質量%を占めることが好ましい。層(X)の量を100質量%としたとき、前記の樹脂(a)は、25質量%以上を占めることがより好ましく、35質量%以上を占めることがさらに好ましい。さらに、層(X)の量を100質量%としたとき、前記の樹脂(a)は、含有量が70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明における樹脂(a)は、各種の乳酸系樹脂のうち、ポリL−乳酸および/またはポリD−乳酸であることが好ましい。前記の樹脂(a)としてポリL−乳酸を用いる場合、該ポリL−乳酸はポリD−乳酸をブロック共重合したものであるか、あるいは該ポリL−乳酸はポリD−乳酸を混合したものであることが好ましい。前記の樹脂(a)としてポリD−乳酸を用いる場合、該ポリD−乳酸はポリL−乳酸をブロック共重合したものであるか、あるいは該ポリD−乳酸はポリL−乳酸を混合したものであることが好ましい。なぜなら、このようにして形成されるステレオコンプレックス結晶は一般的なポリ乳酸の結晶(α結晶)よりも高い融点を持ち、耐熱性に優れたフィルムを形成できるからである。
【0045】
本発明における樹脂(a)は、全体が非晶性の乳酸系樹脂であるか、あるいは結晶性の乳酸系樹脂と非晶性の乳酸系樹脂との混合物であることが好ましい。本発明に使用する樹脂(a)の合計量を100質量%としたとき(結晶性乳酸系樹脂と非晶性乳酸系樹脂の合計を100質量%としたとき)、非晶性乳酸系樹脂は60〜100質量%を占めることが好ましく、70〜100質量%を占めることがより好ましく、80〜100質量%を占めることがさらに好ましい。なぜなら、結晶性乳酸系樹脂と非晶性乳酸系樹脂との混合物を樹脂(a)として使用すると、結晶性乳酸系樹脂と非晶性乳酸系樹脂の両方の長所を組み合わせることができるからである。樹脂(a)として結晶性乳酸系樹脂を含有するフィルムは高い耐熱性を有する。一方、樹脂(a)として非晶性乳酸系樹脂を含有するフィルムは高い層間接触強さと柔軟性を有する。
【0046】
本発明で樹脂(a)として使用する結晶性乳酸系樹脂においては、耐引裂き性を向上させる観点から、ポリL−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有量またはポリD−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有量が、乳酸ユニットの全量100mol%のうち98〜100mol%を占めることが好ましく、99〜100モル%を占めることがより好ましい。
【0047】
<樹脂(b)(すなわち、層(X)に含まれる乳酸系樹脂以外の生分解性樹脂>
本発明による多層フィルム中の層(X)にとっては、乳酸系樹脂以外の生分解性樹脂を含むことが重要である。以下では、層(X)に含まれる乳酸系樹脂以外の生分解性樹脂を樹脂(b)と称する。
【0048】
本発明において生分解性樹脂と称するものは、ISO14855−1(2005)に従って測定した際に、生分解度が180日以内に対セルロース比で60%以上に達する樹脂と定義する。ただし、樹脂(a)に相当する乳酸系樹脂および樹脂(c)に相当するポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体は、本発明の生分解性樹脂から除外する。
【0049】
本発明において、樹脂(b)は、単体であっても2種以上の樹脂の混合物であってもよく、それらの具体例には、脂肪族−芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリプロピレンカーボネート、ポリヒドロキシアルカノエート、熱可塑性澱粉、熱可塑性澱粉含有樹脂、および熱可塑性セルロースなどがある。
【0050】
これらのうち、該樹脂(b)は、脂肪族−芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、ポリプロピレンカーボネート、およびポリヒドロキシアルカノエートから成る群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であることが好ましい。
特に、前記の樹脂(b)は、脂肪族―芳香族ポリエステルであることが最も好ましい。
【0051】
前記の樹脂(b)として好ましい脂肪族―芳香族ポリエステルは、炭素数が4〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、および炭素数が3〜6のジオールから作製される共重合ポリエステルである。それらの具体例としては、ポリブチレンサクシネート−co−テレフタレート、ポリブチレンアジペート−co−テレフタレートなどが挙げられる。
【0052】
前記の樹脂(b)として好ましい脂肪族ポリエステルの具体例としては、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリブチレンサクシネート−co−アジペートなどが挙げられる。
【0053】
好ましいポリプロピレンカーボネートの具体例は、国際公開第WO2006/061237号に開示されているように使用できる。
【0054】
前記の樹脂(b)として好ましいポリヒドロキシアルカノエートの具体例としては、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバリレート)、およびポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−4−ヒドロキシブチレート)などが挙げられる。
【0055】
本発明による多層フィルムの層(X)中に含まれる樹脂(b)は、樹脂(a)、樹脂(b)、および後述する樹脂(c)の合計を100質量部として、10〜50質量部を占めることが重要である。これが50質量部を超える場合にはフィルムの剛性が不十分となり、一方、10質量部未満の場合、フィルムは柔軟性、耐引裂き性、層間接触強さに欠けるものとなる。
【0056】
樹脂(b)は、該樹脂(a)、該樹脂(b)、および該樹脂(c)の合計を100質量部としたとき、含有量が45質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。前記の樹脂(b)は、該樹脂(a)、該樹脂(b)、および該樹脂(c)の合計を100質量部としたとき、含有量が15質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましい。
【0057】
<樹脂(c)(すなわち、層(X)に含まれるポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体樹脂>
本発明による多層フィルム中の層(X)にとっては、ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体を含むことが重要である。以下では、層(X)に含まれるポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体樹脂を樹脂(c)と称する。
【0058】
樹脂(c)として使用されるポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体は、該重合体100質量%の中で、L−乳酸ユニットおよび/またはD−乳酸ユニットが1質量%以上かつ80質量%以下を占める重合体である。
【0059】
樹脂(c)中の該ポリエーテルセグメントの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体などから成るセグメントなどが挙げられる。該ポリエーテルセグメントは、これらの中でも、ポリエチレングリコールセグメントが特に好ましく、これによって樹脂(a)との高い親和性と高い改質効率が得られる。
【0060】
本発明の樹脂(c)中の全ポリマー量を100質量%としたとき、ポリ乳酸セグメントの合計量は5〜49質量%であることが好ましい。
【0061】
これが5質量%以上であると、樹脂(a)との親和性と耐ブリードアウト性が高く、49質量%以下であると、少量を添加するだけで目的とする改質効果が達成できる。本発明の樹脂(c)中の全ポリマー量を100質量%としたとき、ポリ乳酸セグメントの合計量は10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。本発明の樹脂(c)中の全ポリマー量を100質量%としたとき、ポリ乳酸セグメントの合計量は45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0062】
樹脂(c)として使用するポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体樹脂の1分子中において、各ポリエーテルセグメントの数平均分子量は400〜20,000であることが好ましい。数平均分子量が400以上であると、ポリ乳酸セグメントの数平均分子量に対する比率にもよるが、より少量を添加するだけで目的とする改質効果が達成される可能性が高い。数平均分子量が20,000以下であると、樹脂(a)に対する十分な親和性と高い改質効率、および高い生分解性が得られる。樹脂(c)の1分子中において、各ポリエーテルセグメントの数平均分子量は、1,200〜15,000であることがより好ましく、2,000〜10,000であることがさらに好ましい。
【0063】
樹脂(c)の1分子中において、各ポリ乳酸セグメントの数平均分子量は、200〜5,000であることが好ましい。数平均分子量が200以上であると、樹脂(a)に対する親和性および耐ブリードアウト性が高くなる。数平均分子量が5,000以下であると、ポリエーテルセグメントの数平均分子量に対する比率にもよるが、より少量を添加するだけで目的とする改質効果が達成される可能性が高い。樹脂(c)の1分子中において、各ポリ乳酸セグメントの数平均分子量は、1,000〜4,000であることがより好ましく、2,000〜3,000であることがさらに好ましい。特にブリードアウトを抑制するためには、樹脂(c)中のポリ乳酸セグメントのL−乳酸の含有量が95〜100質量%であるか、あるいはD−乳酸の含有量が95〜100質量%であることが好ましい。
【0064】
樹脂(c)は、数平均分子量が1,000〜20,000であることが好ましい。数平均分子量が1,000以上であると、層(X)を構成する組成物の全体的な溶融粘度を制限できる。数平均分子量が20,000以下であると、樹脂(a)に対する高い親和性と高い生分解性が得られる。樹脂(c)は、数平均分子量が5,000〜18,000であることがより好ましく、10,000〜16,000であることがさらに好ましい。
【0065】
該ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントの順序やブロックの数について特に制限はないが、樹脂(a)に対する親和性および耐ブリードアウト性を得るためには、少なくとも一方の末端がポリ乳酸セグメントであることが好ましい。末端が両方ともポリ乳酸セグメントであることがより好ましい。
【0066】
本発明による多層フィルムの層(X)中に含まれる樹脂(c)は、樹脂(a)、樹脂(b)、および樹脂(c)の合計を100質量部として、5〜30質量部を占めることが重要である。これが30質量部以上の場合、フィルムは、加工性、取り扱い性、層間接触強さ、および耐引裂き性が不十分なものとなり、一方5質量部未満である場合には、フィルムは柔軟性と耐引裂き性に欠けるものとなる。樹脂(c)は、該樹脂(a)、樹脂(b)、および樹脂(c)の合計を100質量部として、25質量部以上を占めることが好ましく、20質量部以上を占めることがより好ましい。樹脂(c)は、該樹脂(a)、樹脂(b)、および樹脂(c)の合計を100質量部として、含有量が10質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
【0067】
<樹脂(d)(層(Y)に含まれる脂肪族−芳香族ポリエステル)>
本発明による多層フィルム中の層(Y)にとっては、脂肪族−芳香族ポリエステルを含むことが重要である。以下、層(Y)に含まれる脂肪族−芳香族ポリエステルを樹脂(d)と称する。
【0068】
本発明において、樹脂(d)は、脂肪族−芳香族ポリエステルであれば特に制限はないが、炭素数4〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、および炭素数3〜6のジオールから得られる共重合ポリエステルであることがより好ましい。それらの具体例としては、ポリブチレンサクシネート−co−テレフタレート、ポリブチレンアジペート−co−テレフタレートなどが挙げられる。
【0069】
本発明による多層フィルムの層(Y)中に含まれる前記の樹脂(d)は、樹脂(d)および後述する樹脂(e)の合計を100質量部として、30〜100質量部を占めることが重要である。それが30質量部未満の場合、樹脂は、柔軟性、耐引裂き性、ヒートシール性、層間接触強さに欠けるものとなる。樹脂(d)は、該樹脂(d)と樹脂(e)の合計を100質量部として、40質量部以上を占めることが好ましく、50質量部以上を占めることがより好ましい。樹脂(d)は、該樹脂(d)と樹脂(e)の合計を100質量部として、含有量が95質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましい。
【0070】
さらに、フィルムの加工性、取り扱い性、層間接触強さ、柔軟性、耐引裂き性の観点から、前記の樹脂(d)は、層(Y)の量を100質量%としたとき、25〜95質量%を占めることが好ましい。層(X)の量を100質量%としたとき、樹脂(d)は、35質量%以上を占めることがより好ましく、45質量%以上を占めることがさらに好ましい。さらに、層(Y)の量を100質量%としたとき、樹脂(d)は、含有量が90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
<樹脂(e)>
本発明による多層フィルム中の層(Y)にとっては、樹脂(e)を含むことが重要である。すなわち、本発明の多層フィルムにおいて、樹脂(e)は層(Y)の任意の成分であり、含まれていなくてもよいが、層(Y)が樹脂(e)を含んでいることが本発明の好ましい態様である。ここで、樹脂(e)は、乳酸系樹脂、脂肪族ポリエステル、ポリプロピレンカーボネート、およびポリヒドロキシアルカノエートから成る群より選ばれる少なくとも一つの樹脂である。
【0072】
本発明で樹脂(e)として使用する乳酸系樹脂においては、ポリL−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有量またはポリD−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有量が、乳酸ユニットの全量100mol%のうち60〜96mol%を占めることが好ましく、70〜93モル%を占めることがより好ましく、80〜90モル%を占めることがさらに好ましい。それが60mol%以上の場合には、樹脂の耐熱性が高くなり、96mol%以下の場合には樹脂のヒートシール性および層間接触強さが高くなる。
【0073】
樹脂(b)の具体例として上に挙げた脂肪族ポリエステル、ポリプロピレンカーボネート、およびポリヒドロキシアルカノエートは、本発明に使用する樹脂(e)の具体例としても挙げることができる。
【0074】
本発明による多層フィルムの層(Y)中に含まれる前記の樹脂(e)は、樹脂(d)および樹脂(e)の合計を100質量部として、0〜70質量部を占めることが重要である。それが70質量部以上の場合、樹脂は、柔軟性、耐引裂き性、ヒートシール性、層間接触強さに欠けるものとなる。樹脂(e)は、該樹脂(d)と樹脂(e)の合計を100質量部として、5質量部以上を占めることが好ましく、10質量部以上を占めることがより好ましい。樹脂(e)は、該樹脂(d)と樹脂(e)の合計を100質量部として、含有量が60質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。樹脂(e)の含有量について、樹脂(d)と樹脂(e)の合計を100質量部としたときに0〜70質量部を占めるという説明は、0重量部の場合も本発明に含まれることを意味している。すなわち、上述した第(1)項の要件(B)で「含有される」という表現が使用されていても、厳密には含有量が0重量部とは「含有されていない」ことを意味するのであるが、本発明にはそのような場合も含まれると考えるべきということである。
【0075】
<相溶化剤>
本発明による多層フィルムの層(X)および/または層(Y)は、以下に定義するような相溶化剤に由来する部分を含んでいることが好ましい。
相溶化剤:イソシアネート、イソシアヌレート、オキサゾリン、カルボジイミド、オキサジン、エポキシド、およびカルボン酸無水物から成る群より選ばれる二つ以上の官能基を含有する化合物。
【0076】
さらに、本発明による多層フィルムの層(X)および/または層(Y)は、以下に定義するような相溶化剤に由来する部分を含んでいることがより好ましい。
相溶化剤:二つ以上のイソシアネート、二つ以上のイソシアヌレート、二つ以上のオキサゾリン、二つ以上のカルボジイミド、二つ以上のオキサジン、二つ以上のエポキシド、または二つ以上のカルボン酸無水物を有する化合物。
【0077】
このような相溶化剤がより好ましいのは、異なる官能基が相溶化剤中に存在する場合、そのような異なる官能基同士が反応して、相溶化剤としての機能を果たせないこと起こりうるのに対し、同種の官能基を複数個有する相溶化剤の場合には、そのような問題が生じないからである。
【0078】
二つ以上のエポキシドを有する化合物で相溶化剤として機能するものの具体例としては、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリシジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、グリシジル(メタ)アクリレート化合物、および脂環式エポキシ化合物などが挙げられる。市販商品の例としては、DuPont社製のBiomax Strongシリーズ(商品名)とArkema社製のLOTADERシリーズ(商品名)(エチレン、アクリル酸エステルおよびグリシジル(メタ)アクリレートの共重合体)、BASF社製のJoncrylシリーズ(商品名)(グリシジル基を含有する(メタ)アクリル/スチレン系共重合体)、東亜合成社製のレゼダシリーズ(商品名)とアルフォンシリーズ(商品名)、および日産化学工業社製のテピックシリーズ(商品名)などが挙げられる。
【0079】
二つ以上のカルボン酸無水物を有する化合物で相溶化剤として機能するものの具体例として、たとえば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などを含有する化合物が挙げられる。市販の商品としては、Arkema社製のBONDINEシリーズ(商品名)(エチレン、アクリル酸エステル、および無水マレイン酸の共重合体)、Arkema社製のOREVACシリーズ(商品名)、DuPont社製のBynelシリーズ(無水マレイン酸のグラフト重合体)、三洋化成工業社製のユーメックスシリーズ(商品名)、およびKraton社製のKratonシリーズ(商品名)(無水マレイン酸共重合SEBS)などが挙げられる。
【0080】
二つ以上のカルボジイミドを有する化合物で相溶化剤として機能するものの具体例としては、日清紡社製のカルボジライドシリーズ(商品名)およびRhein Chemie社製のStabaxolシリーズ(商品名)などが挙げられる。
【0081】
相溶化剤としては、芳香族または脂肪性のジイソシアネートが使用可能である。しかし、より高い官能性を持つイソシアネートを使用することも可能である。その具体例としては、トルイレン2,4−ジイソシアネート、トルイレン2,6−ジイソシアネート、ジフェニルメタン2,2´−ジイソシアネート、ジフェニルメタン2,4´−ジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4´−ジイソシアネート、特に2〜20個、好ましくは3〜12個の炭素原子を持つ直鎖状または分枝したアルキレンジイソシアネートまたはシクロアルキレンジイソシアネート、たとえばヘキサメチレン1,6−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、またはメチレンビス(4−イソシアナトシクロヘキサン)が挙げられる。
【0082】
好ましいイソシアヌレートとしては、アルキレンジイソシアネートまたはシクロアルキレンジイソシアネートから得られる炭素原子数が2〜20個の脂肪族イソシアヌレート、好ましくは炭素原子数が3〜12個のたとえばイソホロンジイソシアネートまたはメチレンビス(4−イソイソシアナトシクロヘキサン)などが挙げられる。これらのアルキレンジイソシアネートは直鎖状化合物であっても分枝した化合物であってもよい。n−ヘキサメチレンジイソシアネート由来のイソシアヌレートが特に好ましく、その例としてはヘキサメチレン1,6−ジイソシアネートの環状三量体、五量体、およびそれ以上の多量体が挙げられる
【0083】
ビスオキサゾリンは、一般にAngew.Chem.Int.Ed.,vol.11(1972),pp.287−288に開示されるプロセスによって得られる。特に好ましいビスオキサゾリンおよびビスオキサゾリンとしては、架橋部位が単結合、(CH2)z−アルキレン基(z=2、3、または4)のもの、たとえばメチレン、エタン−1,2−ジイル、プロパン−1,3−ジイル、またはプロパン−1,2−ジイル、またはフェニレン基のものが挙げられる。特に好ましいビスオキサゾリンとしては、2,2´−ビス(2−オキサゾリン)、ビス(2−オキサゾリニル)メタン、1,2−ビス(2−オキサゾリニル)エタン、1,3−ビス(2−オキサゾリニル)プロパン、または1,4−ビス(2−オキサゾリニル)ブタン、とりわけ1,4−ビス(2−オキサゾリニル)ベンゼン、1,2−ビス(2−オキサゾリニル)ベンゼンまたは1,3−ビス(2−オキサゾリニル)ベンゼンを挙げることができる。さらなる例として、2,2´−ビス(2−オキサゾリン),2,2´ビス(4−メチル−2−オキサゾリン),2,2´−ビス(4,4´−ジメチル−2−オキサゾリン),2,2´−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン),2,2´−ビス(4,4´−ジエチル−2−オキサゾリン),2,2´−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン),2,2´−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン),2,2´−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン),2,2´−ビス(4−フェニール−2−オキサゾリン),2,2´−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン),2,2´−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン),2,2´−p−フェニレン−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン),2,2´−p−フェニレン−ビス(4,4´−ジメチル−2−オキサゾリン),2,2´−m−フェニレン−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン),2,2´−m−フェニレン−ビス(4,4´−ジメチル−2−オキサゾリン),2,2´−ヘキサメチレン−ビス(2−オキサゾリン)、2,2´−オクタメチレン−ビス(2−オキサゾリン),2,2´−デカメチレンビス(2−オキサゾリン),2,2´−エチレン−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン),2,2´−テトラメチレン−ビス(4,4´−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2´−9,9´−ジフェノキシエタン−ビス(2−オキサゾリン),2,2´−シクロヘキシレン−ビス(2−オキサゾリン)、および2,2´−ジフェニレン−ビス(2−オキサゾリン)などがある。
【0084】
好ましいビスオキサジンとしては、2,2´−ビス(2−オキサジン)、ビス(2−オキサジニル)メタン、1,2−ビス(2−オキサジニル)エタン、1,3−ビス(2−オキサジニル)プロパンもしくは1,4−ビス(2−オキサジニル)ブタン、とりわけ1,4−ビス(2−オキサジニル)ベンゼン、1,2−ビス(2−オキサジニル)ベンゼン、または1,3−ビス(2−オキサジニル)ベンゼンが挙げられる。
【0085】
層(X)中の相溶化剤に由来する部分の含有量は、樹脂(a)、樹脂(b)、および樹脂(c)の合計を100質量部としたときに、層(X)中の相溶化剤に由来する部分が0.1〜2質量部を占めることが好ましい。それが0.1質量部以上であると、相溶化剤が十分に効果を発揮することが可能となって耐引裂き性が向上し、一方2質量部以下であると、樹脂が過剰反応によって硬化してしまうことを防ぐことができる。層(X)中の相溶化剤に由来する部分の含有量は、樹脂(a)、樹脂(b)、および樹脂(c)の合計を100質量部としたとき、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましい。さらに、層(X)中の相溶化剤に由来する部分の含有量は、樹脂(a)、樹脂(b)、および樹脂(c)の合計を100質量部としたとき、1.8質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0086】
層(Y)中の相溶化剤に由来する部分の含有量は、樹脂(a)、樹脂(b)、および樹脂(c)の合計を100質量部としたとき、0.1〜2質量部であることが好ましい。それが0.1質量部以上であると、相溶化剤が十分に効果を発揮することが可能となって耐引裂き性が向上し、一方2質量部以下であると、樹脂が過剰反応によって硬化してしまうことを防ぐことができる。層(Y)中の相溶化剤に由来する部分の含有量は、樹脂(d)、および樹脂(e)の合計を100質量部としたとき、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましい。層(Y)中の相溶化剤に由来する部分の含有量は、樹脂(d)、および樹脂(e)の合計を100質量部としたとき、1.8質量部以下であることがより好ましく、1.5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0087】
<層(X)の断面構造>
本発明の多層フィルムにおいては、耐引裂き性および層間接触強さの観点より、フィルムの機械方向と厚さ方向から観察した断面において、前記の層(X)が前記の樹脂(a)と前記の樹脂(c)を含む連続相を有し、該連続相は前記の樹脂(b)の分散相を有し、該分散相はフィルムの機械方向に伸びた楕円状またはフィルムの機械方向に伸びた層状に分散し、該分散相の厚さ(以下では、層(X)中の分散相の厚さを、層(X)中の分散相の厚さTxと称する)は150nm≦Tx≦600nmの式を満たすことが好ましい。ここで、層(X)中の分散相の厚さTxは、多層フィルムの厚さ方向の厚さであって、以下に定義するように、複数の分散相に関して計算した単一分散相の平均の厚さである。
【0088】
該分散相の厚さTxは、200nm以上であることがより好ましく、250nm以上であることがさらに好ましい。該分散相の厚さTxは、550nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがさらに好ましい。
【0089】
上記の連続相および分散相については、いわゆる海島構造中の海および島がそれぞれ連続相および分散相に相当する。本発明の多層フィルムにおいては、分散相がフィルムの機械方向に延びているために、連続相と分散相とを区別すること困難な場合がある。そのような場合には、後述するように、透過型電子顕微鏡(TEM)によって分散構造を観察する際に、フィルムの機械方向に観察視野をずらして島構造の端部を見つけ、それを分散相とみなす。
【0090】
ここで、上記の樹脂(a)と樹脂(c)を含む連続相とは、樹脂(a)と樹脂(c)の質量の和が、該連続相中の他のいかなる2成分の質量の和より大きい相である。このことは、樹脂(a)と樹脂(c)を含む連続相は、樹脂(a)と樹脂(c)以外の成分、たとえば各種の添加剤、有機滑剤、および粒子などを含んでいてもよい。
【0091】
同様に、樹脂(b)を含む分散相は、樹脂(b)の質量が、該分散相中の他のいかなる成分の質量よりも大きいような相であると定義する。これは、樹脂(b)を含む分散相は、樹脂(b)以外の成分を含んでいてもよいことを意味する。
【0092】
「楕円状」および「層状」という表現は以下のことを意味する。すなわち、後述するように、透過型電子顕微鏡によって、フィルムの厚さ全体が見えるような倍率で観察を行ったとき、機械方向の両方の端部を特定できるような領域を「楕円状」、機械方向の少なくとも片方の端部が特定できないような領域を「層状」という。
【0093】
層(X)中の分散相の厚さTxを150〜600nmに制御するための方法について特に制限はないが、後述するように、スパイラル形のリングダイを有するインフレーション装置を用いて、以下の条件下でフィルムを作製することによって達成できる。すなわち、流路のオーバーラップの数を好ましい範囲に調整すること、リングダイのリップの間隙を好ましい範囲に調整すること、フィルムを作製する際に機械方向と幅方向の延伸比(ブロー比、ドロー比)を好ましい範囲に調整すること、またそれらを組合せることによる。
【0094】
<層(Y)の断面構造>
本発明の多層フィルムにおいては、耐引裂き性および層間接触強さの観点より、フィルムの機械方向と厚さ方向から観察した断面において、前記の層(Y)がフィルムの厚さ方向の樹脂(d)を含む連続相を有し、該連続相は前記の樹脂(e)の分散相を有し、該分散相はフィルムの機械方向に伸びた楕円状またはフィルムの機械方向に伸びた層状に分散し、該分散相の厚さ(以下では、層(Y)中の分散相の厚さを層(Y)中の分散相の厚さTyと称する)は40nm〜150nmであることが好ましい。
【0095】
層(Y)中の分散相の厚さは、50nm以上であることがより好ましく、60nm以上であることがさらに好ましい。該分散相の厚さTyは、120nm以下であることがより好ましく、90nm以下であることがさらに好ましい。
【0096】
ここで、樹脂(b)を含む連続相とは、樹脂(d)の質量が、該分散相中の他のいかなる成分の質量よりも大きいような相であることを意味する。このことは、樹脂(d)で形成される連続相は、樹脂(d)以外の成分、たとえば各種の添加剤、有機滑剤、および粒子などを含んでいてもよいことを意味する。
【0097】
同様に、樹脂(e)を含む分散相とは、樹脂(e)の質量が、該分散相中の他のいかなる成分の質量よりも大きいような相であることを意味する。このことは、樹脂(e)で形成される分散相は、樹脂(e)以外の成分を含んでいてもよいことを意味する。
【0098】
層(Y)中の分散相の厚さTyを40〜150nmに制御するための方法について特に制限はないが、後述するように、たとえば、樹脂(d)と樹脂(e)との溶融粘度の関係を好ましい範囲に調整すること、あるいはフィルム作製時の機械方向および幅方向の延伸比(ブロー比、ドロー比)を好ましい範囲に調整することによって達成できる。
【0099】
<樹脂(d)と樹脂(e)の溶融粘度>
本発明の多層フィルムにおいて、層(Y)中の分散相の厚さTyが40〜150nmとなるためには、0.7≦ηd/ηe≦1.2の式が満たされることが好ましい。ここで、ηdは温度200℃および剪断速度100sec-1における樹脂(d)の材料(フィルム作製前の樹脂(d)の原料)の溶融粘度を、ηeは温度200℃および剪断速度100sec-1における樹脂(e)の材料(フィルム作製前の樹脂(e)の原料)の溶融粘度である。この範囲は、0.8≦ηd/ηe≦1.1であることがより好ましく、0.9≦ηd/ηe≦1.0であることがさらに好ましい。
【0100】
<積層構造>
本発明の多層フィルムにとっては、層(X)と層(Y)を含むことが重要であるが、この要件さえ満たされれば、積層構造について特に制限はない。たとえば、2層(層(X)と層(Y))から成っていてもよく、3層(層(X)/層(Y)/層(X)、または層(Y)/層(X)/層(Y))から成っていてもよく、あるいはそれ以上の多数の層から成っていてもよい。また、層(X)および層(Y)以外に第3の層を含んでいてもよい。さらに、第3の層を含む場合には、該層は層(X)と層(Y)との間にあってもよく、また層(X)と層(Y)との間以外の位置にあってもよい。特に、耐引裂き性、ヒートシール性、およびフィルム作製の観点からは、層(Y)、層(X)、層(Y)をこの順に直接積層することによって、層(X)と層(Y)の間に別の層を介在させることなく層(Y)/層(X)/層(Y)の構造を形成することが好ましい。
【0101】
本発明の多層フィルムは、層(X)と層(Y)の合計の厚さに対する層(Y)の厚さの割合(層(Y)が2層以上ある場合には、各層(Y)の厚さの合計とする。以下同様)は、両層とも効果的に機能させるためには、1〜50%であることが好ましい。該層(X)と層(Y)の合計の厚さに対する層(Y)の厚さの割合が1〜50%であると、高い耐引裂き性と高いヒートシール性がともに得られるため、好ましい。層(X)と層(Y)の合計の厚さに対する層(Y)の厚さの割合は、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上である。層(X)と層(Y)の合計の厚さに対する層(Y)の厚さの割合は、より好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは30%以下である。
【0102】
<厚さ>
本発明による多層フィルムは、フィルムの厚さが5〜200μmであることが好ましい。フィルムの厚さを5μm以上とすると、得られるフィルムは優れた曲げ強さ、高い取り扱い性を持ち、良好なロール形状、および良好な巻出し性を持つものとなる。フィルム厚さを200μm以下とすると、得られるフィルムは柔軟性が向上し、各種の用途で取り扱い性に優れ、またインフレーション法によって加工する際には、自重によって不安定な泡形成が生じることがない。該フィルムの厚さは、7μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましく、12μm以上であることが最も好ましい。さらに、該フィルムの厚さは、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることが最も好ましい。
【0103】
<粒子>
本発明の多層フィルムには、耐ブロッキング性や取り扱い性を向上させるために、粒子を含有させることができる。
【0104】
このような粒子は、無機粒子であっても有機粒子であってもよいが、使用可能な粒子材料としては、シリカなどの酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの各種硫酸塩、ゼピオライト、ゼオライトなどの各種複合酸化物、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどの各種リン酸塩、酸化チタン、酸化亜鉛等の各種酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水酸化物、フッ化リチウム等の各種塩などを挙げることができる。これらの粒子に対しては、必要に応じて、表面処理を行ってもよい。
【0105】
本発明による多層フィルム中において、該粒子は、フィルムの少なくとも一方の表面層に含有されていることが好ましく、両方の表面層に含有されていることがより好ましい。これらの粒子の含有量は、全層の合計を100質量%として、1〜10質量%であることが好ましく、3〜5質量%であることがより好ましい。
【0106】
<有機滑剤>
本発明による多層フィルムは、有機滑剤を含有していてもよい。該有機滑剤は、フィルムの少なくとも一方の表面層に含有させることが好ましく、両方の表面層に含有させることがより好ましい。該有機粒子の含有量は、全層の合計を100質量%としたときに、0.1〜5質量%であることが好ましく、0.5〜2質量%であることがより好ましい。このような場合、巻き取ったフィルム中でブロッキングが発生することを抑制できる。さらに、有機滑剤の過多に添加することによる溶融粘度の低下や加工性の悪化を防ぐことが可能となり、また得られるフィルムは有機滑剤のブリードアウトや透明性の低下による外観の悪化を被ることがない。後述するように、本発明による多層フィルムを製造するプロセスが、組成物のペレット化、それに続く乾燥、再溶融混練、押出、およびフィルム作製のステップを含んでいると、ペレット間のブロッキングが防止されて、取り扱い性が向上する。
【0107】
有機滑剤の種類については特に制限がなく、たとえば、脂肪酸アミド系の有機滑剤など、様々なものを使用することが可能である。特に、高い耐ブロッキング性を実現できるという観点から、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミドなど、融点が比較的高い有機滑剤が好ましい。
【0108】
<添加剤>
本発明による多層フィルムは、本発明による多層フィルムの効果が損なわれない限り、前述のもの以外の添加剤を含有していてもよい。例としては、たとえば、末端封鎖剤、結晶核剤、酸化防止剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、酸化防止剤、イオン交換剤、粘着付与剤、消泡剤、着色顔料、または染料などの、従来から知られているものが挙げられる。
【0109】
該末端封鎖剤の好ましい例としては、モノカルボジイミド化合物などを挙げることができる。
【0110】
有機系結晶核剤の好ましい例としては、脂肪族アミド化合物、メラミン系化合物、フェニルホスホン酸金属塩、ベンゼンカルボアミド誘導体、脂肪族/芳香族カルボン酸ヒドラジド、ソルビトール系化合物、アミノ酸、ポリペプチド、および金属フタロシアニンなどを挙げることができる。無機系結晶核剤の好ましい例としては、タルク、クレイ、マイカ、カオリナイトなどのケイ酸塩鉱物、カーボンブラックなどを挙げることができる。
【0111】
酸化防止剤の好ましい例としては、ヒンダードフェノール系のもの、ヒンダードアミン系のものなどを挙げることができる。
【0112】
着色顔料の好ましい例としては、カーボンブラック、酸化鉄などの無機顔料、およびシアニン系顔料などの有機顔料などを挙げることができる。
【0113】
<引張弾性率>
本発明による多層フィルムが十分な柔軟性を有するためには、フィルムの機械方向(MD)およびフィルムの幅方向(CD、機械方向と垂直な方向)のいずれかにおいて、引張弾性率が1,200MPa以下であることが好ましい。引張弾性率は、1000MPa以下であることがより好ましく、800MPa以下であることがさらに好ましい。引張弾性率に関する上記の数値要件は、フィルムの機械方向およびフィルムの幅方向のいずれかの方向のみで満たされるより、引張弾性率の上記数値要件が両方向において満たされることが特に好ましい。引張弾性率の下限について、特に制限はないが、実用的には100MPa程度である。
【0114】
機械方向および幅方向のいずれかの引張弾性率を1,200MPa以下とすることは、たとえば、層(X)および層(Y)を構成するそれぞれの樹脂の種類と含有量を、上述した好ましい範囲内に調整することによって、あるいは、フィルム作製時の機械方向および幅方向の延伸比(ブロー比、ドロー比)を、後述するような好ましい範囲内に調整することによって達成できる。
【0115】
<引裂き強度>
本発明による多層フィルムにおいては、機械方向(MD)および幅方向(CD)の平均の引裂き強度が500mN以上であることが好ましい。MDおよびCDの平均の引裂き強度は、1000mN以上であることがより好ましく、1,500mN以上であることがさらに好ましい。ここで、該平均の引裂き強度は可能な限り大きいことが好ましいが、実用的な達成可能上限は5,000mN程度であろうと考えられる。
【0116】
引裂き強度が500mN以上であると、本発明による多層フィルムは、様々な用途で使用する際に十分に高い耐引裂き性を持つことにより、高い耐破損性と高い実用性が得られる。
【0117】
MDとCDの平均の引裂き強度を500mN以上とするための方法としては、たとえば、層(X)および層(Y)を構成するそれぞれの樹脂の種類と配合量を前述した好ましい範囲に調整すること方法、フィルム作製時の機械方向および幅方向の延伸比(ブロー比、ドロー比)を後述する好ましい範囲に調整すること、層(X)および/または層(Y)がフィルムの機械方向と厚さ方向の断面において前述した好ましい構造を持つように成形すること、あるいは樹脂(b)の配向パラメータを後述する好ましい範囲に調整することなどが挙げられる。
【0118】
<表面エネルギー>
本発明による多層フィルムが高いヒートシール性を持つためには、少なくとも一方の表層が層(Y)からなり、その表面エネルギーが30〜60dyne/cmであることが好ましい。表面エネルギーは35dyne/cm以上であることがより好ましく、40dyne/cm以上であることがさらに好ましい。
【0119】
表層に位置する層(Y)の表面エネルギーを30〜60dyne/cmとするための方法としては、層(Y)を構成する樹脂の種類と配合量を前述した好ましい範囲に調整すること、およびたとえばコロナ放電処理やプラズマ処理などによって表面を処理することなどが挙げられる。
【0120】
<配向パラメータ>
本発明による多層フィルムが目的の耐引裂き性を有するためには、MDおよびCDのいずれかにおいて、樹脂(b)の配向パラメータが0.8〜2.0であることが好ましい。樹脂(b)の配向パラメータは、1.8以下であることがより好ましく、1.6以下であることがさらに好ましい。配向パラメータに関する上記の数値要件は、フィルムの機械方向およびフィルムの幅方向のいずれかの方向のみで満たされるより、配向パラメータが両方向において上記の配向パラメータ数値要件を満たしていることが特に好ましい。
【0121】
ここで、配向パラメータは、後述するように、ラマン分光法によって測定したフィルム断面の偏光ラマンスペクトルから求めることができる。配向パラメータは無配向状態のときに1.0であり、1よりも小さくなるにつれてフィルムの断面方向の配向が大きくなり、パラメータが1よりも大きくなるにつれてフィルムの断面と垂直な方向の配向が大きくなる。
【0122】
MDおよびCDのいずれかの方向において樹脂(b)の配向パラメータを0.8〜2.0に制御するための方法としては、リングダイのリップ間隙とフィルム作製時の機械方向および幅方向の延伸比(ブロー比、ドロー比)を後述のような好ましい範囲に調整するという方法などが挙げられる。
【0123】
<ヒートシール強度>
本発明による多層フィルムは、ヒートシール強度が7N以上であることが好ましい。これは11N以上であることがより好ましく、15N以上であることがさらに好ましい。
【0124】
ヒートシール強度が7N以上となるように制御するための方法としては、層(Y)が最表面となってヒートシール面として機能するように積層するとともに、さらに該層(Y)を構成する各樹脂の種類と含有量および層(Y)の表面エネルギーを前述した好ましい範囲に調整するという方法が挙げられる。ここで、本発明による多層フィルムのヒートシール強度の上限値に特に制限はないが、本発明者らの知るところによれば、80N〜100Nあたりである。
【0125】
<本発明による多層フィルム製造方法>
次に、本発明による多層フィルムの製造方法について具体的に説明するが、本発明がこれに限定されると解釈してはならない。
【0126】
本発明に使用する乳酸系樹脂は、たとえば、L−乳酸やD−乳酸などの乳酸成分を主成分とする原料から直接脱水および縮合することにより、あるいは、ラクチド、グリコリドなど、ヒドロキシカルボン酸から形成した環状エステル中間体を開環重合することによって作製することができる。
【0127】
本発明による多層フィルムの層(X)および層(Y)を構成する組成物は、必要な成分を溶媒に溶解して均一に混合して溶液とした後に溶媒を除去することによって組成物とすることが可能であるが、溶融混練法を採用すると、溶媒へ原料の溶解や溶媒の除去などの工程が必要なくなるので、非常に実用的であり、好ましい。溶融混練方法に対しては、特に制限がなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸型または二軸型の押出機など、一般に使用され、従来から知られている混合装置を用いることができる。特に、生産性の観点から、単軸型または二軸型の押出機を使用することが好ましい。
【0128】
溶融混練法を採用する場合には、原料として用いるすべての成分を、たとえば、あらかじめ乾燥することによって、水分を500ppm以下、より好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下にしておくことが好ましい。すべての成分の水分が500ppm以下であれば、各層の溶融粘度が低下することや、フィルムの機械物性が悪化するのを防止することができる。同様の観点から、ベント式の二軸押出機を使用して溶融混練を行うことにより、水分および低分子量物などの揮発物を除去することが好ましい。
【0129】
溶融混練時は、150℃〜250℃の温度範囲で実施することが好ましく、また乳酸系樹脂の劣化を防止するために、160℃〜210℃の範囲とすることがより好ましい。
【0130】
本発明による多層フィルムは、インフレーション法、チューブラーフィルム押出し法、Tダイキャスト法など、従来から知られている既存のフィルム製造法によって製造することが可能であるが、これらの中でも、本発明による多層フィルム中に好ましい分散構造を形成するため、また製造コストの観点から、インフレーション法が好ましい。
【0131】
本発明による多層フィルムをインフレーション法によって製造する場合には、前述した方法で作製した組成物を直接リングダイに供給することによって製造してもよく、また前述した方法で作製した組成物をまずペレット化した後に、リングダイを取り付けた押出機に供給することによって製造してもよい。まず最初にペレット化する場合には、ペレットを、たとえば乾燥などにより、あらかじめ処理することによって、上述したように、水分を500ppm以下、より好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下に調整しておくことが好ましい。リングダイを取り付けた押出機を使用する場合にも、ベン卜式の二軸押出機であることが好ましい。
【0132】
上述した方法によって作製した層(X)と層(Y)を構成するそれぞれ組成物は、多層式リングダイに供給し、リングのリップ間隙から押し出された溶融樹脂にエアーリングから冷却風を吹きつけつつ、チューブ内部には乾燥風を吹き込んでバブルを形成する。得られたフィルムは、ニップロールで平面状に折りたたみながら所定の引き取り速度で引き取り、必要に応じて一方または両方の端部を切り開いた後に巻き取ることによって本発明の多層フィルムが得られる。
【0133】
本発明による多層フィルムにおいては、フィルムを製造するインフレーション工程中のブロー比とドロー比を調整することが重要である。ここで、ブロー比とは、フィルムの幅方向の延伸比と定義され、(一方の端部を切り開いた後に巻き取ったフィルムの幅方向のサイズ)/(リングダイの直径)の式で計算される。これに対して、ドロー比とは、フィルムの機械方向の延伸比のことであり、(巻き取り速度)/(リングダイからの吐出速度)と表されるが、実用的には、(リングダイのリップ間隙)/{(フィルム製造後のフィルム厚さ)×(ブロー比)}として計算される。
【0134】
本発明による多層フィルムにおいては、層(X)および/または層(Y)の断面内に好ましい分散状態が形成されるために、ブロー比は1.6〜4.0であることが好ましく、ドロー比は5〜40であることが好ましい。ブロー比は2.2〜3.8であることがより好ましく、2.8〜3.6であることが最も好ましい。ドロー比は10〜30であることがより好ましく、15〜20であることが最も好ましい。
【0135】
リングダイのリップ間隙(mm)は、前述したような好ましいブロー比およびドロー比で製造したときに得られるフィルムが目的の厚さになるように調整すればよいのであるが、通常は0.2〜1.8(mm)であり、好ましくは0.3〜1.4(mm)であり、最も好ましくは0.4〜1.0(mm)である。リングダイは、厚さの精度と均一性の観点から、スパイラル型のリングを用いることが好ましく、また同様の観点から、回転式のダイを用いることが好ましい。
【0136】
スパイラル型のリングダイを使用する場合、ダイ側面にある流路オーバーラップ数が2〜8であることが好ましい。オーバーラップの数は、(ダイ中のスパイラル流路の数)×(スパイラル流路1本あたりの回転数)として計算される。
【0137】
特に層(X)を構成する樹脂においては、該層(X)の断面内に好ましい分散状態が形成されるために、流路のオーバーラップ数が2〜6であることがより好ましく、3〜5であることがさらに好ましい。
【0138】
本発明による生分解性フィルムをインフレーション法によって製造する場合、押出し温度は、通常は140〜240℃の範囲であり、150〜200℃が好ましく、リングダイ温度は、通常は140〜190℃の範囲であり、150〜180℃が好ましい。
【0139】
このようにして製造したフィルムに対しては、フィルムの熱収縮を抑制するために、加熱ロール上で、あるいはオーブン内で、熱処理を行ってもよい。印刷特性、ラミネート加工適性、コーティング適性などを向上させるために、コロナ放電処理やプラズマ処理など、様々な表面処理を行っても良い。
【実施例】
【0140】
以下に、本発明による多層フィルムを、実施例を参照することによってさらに具体的に説明するが、本発明がこれらに制限されるものと解釈してはならない。
【0141】
<測定方法および評価方法>
各実施例における測定や評価は、下記の条件で実施したものである。
(1)引張弾性率(MPa)
オリエンテック社製のTensilon(登録商標)UCT−T00を室温23℃および相対湿度65%の雰囲気中で使用して、引張弾性率の測定を行った。具体的には、測定方向の長さ150mmおよび幅10mmの短冊状の試験片を切り取り、初期引張チャック間距離50mmおよび引張速度200mm/分において、JIS K−7127(1999)に規定された方法にしたがってMD方向で10回の測定を行い、その平均値を計算して引張弾性率を得た。同様の手順を、CD方向についても実施した。
【0142】
(2)ヒートシール強度(N)
ヒートシール強度の測定は、Kopp−Labormaster 3000を統合型Laboratory−Sealer SGPE 3000と共に用いて行った。150Nの圧力および90℃の温度(これ以上の温度では深刻なブロッキングが生じた)において測定を実施した。シーリング時間は0.5秒とし、冷却時間は3秒とした。これより大きい圧力や長い冷却時間でも試験を行ったが、ほとんど同様の測定値であった。引張試験を0.2m/分の速度で行い、測定値をNewtonの単位で記録した。5つ以上のフィルム試験片で測定を行い、平均値を報告した。
【0143】
(3)層(X)中の分散相の厚さTx(nm)および層(Y)中の分散相の厚さTy(nm)
フィルムをルテニウム酸で染色し、エポキシ樹脂中に包埋し、フィルムの機械方向に平行かつフィルム表面に対して垂直な方向にウルトラミクロトームで切断することにより、超薄切片を作製した。透過型電子顕微鏡(日立製作所製H−7100型)を加速電圧100kVで用いて、まずフィルムの厚さ方向の断面全体が見える倍率で切断面を観察し、各層を厚さ方向に三等分して得られる三つの領域のそれぞれについて、厚さ方向の中央部分を5万倍の倍率で写真撮影した。このようにして、それぞれの層について3枚の写真を撮影した。
【0144】
こうして撮影したそれぞれの写真を、フィルムの機械方向を縦にして置き、15cmX15cmの正方形を切り取り、機械方向の中央を横切る線を描く(すなわち、このようにして描いた線は、この正方形を上半分と下半分に二等分する)。この線と、フィルムの機械方向に伸びた楕円状またはフィルムの機械方向に伸びた層状の分散相の境界線との交点に基づいて、左右の両端部分にある相部分を除いたすべての分散相の厚さを0.1mm単位で測定した。同様にして、各層について3枚の写真を用いて分散相の厚さを測定し、すべての層について平均値を計算し、次いで、観測像中の1mmが20nmに相当すると仮定して分散相の厚さ(nm)(四捨五入によって整数とする)を計算した。
【0145】
分散相がフィルムの機械方向に延びているために、連続相と分散相との区別が困難である場合には、透過型電子顕微鏡(TEM)による分散構造の観察視野を、フィルムの機械方向に移動させることによって島構造の端部を見つけ、それを分散相であるとみなす。
【0146】
(4)溶融粘度(Pa・s)
島津製作所製のフローテスターCFT−500A(ダイ直径1mm、ダイ長さ10mm、およびプランジャー断面積1cm2)を用いて、温度200℃および予熱時間3分の条件下で溶融粘度(Pa・s)(10の位に四捨五入)の測定を行い、100sec-1の剪断速度における測定値を採用した。
【0147】
(5)表面エネルギー
表面エネルギーおよびその成分(分散力、極性力、水素結合力)が既知の4種類の測定液(本発明では、J.Panzer、J.Colloid Interface Sci.,44,142(1973)に記載されている水、ホルムアミド、エチレングリコール、およびヨウ化メチレンの値を用いた)を用意し、23℃の温度および65%の相対湿度の条件下でCA−D型接触角計(協和界面科学株式会社製)を使用して、フィルム上における各液体の接触角を測定した。測定はフィルムの任意に選んだ5点で行い、それらの平均値を接触角として採用した。この接触角の値を、拡張Fowkes式とYoung式から導き出した下記の式に代入することによって、それぞれの成分を計算した。
(γSd・γLd1/2+(γSp・γLp1/2+(γSh・γLh1/2
=γL(1+cosθ)/2
(式中、γS=γSd+γSp+γShおよびγL=γLd+γLp+γLhであり、ここでγS、γSd、γSp、およびγShはそれぞれ、フィルムの表面エネルギー成分、分散力成分、極性力成分、および水素結合力成分を表し、γL、γLd、γLp、およびγLhはそれぞれ、用いた測定液の表面エネルギー成分、分散力成分、極性力成分および水素結合力成分を表している。またθは、フィルム上における測定液の接触角を表している。)
【0148】
それぞれの液体について得られたθの測定値および測定液の表面エネルギーとその成分の値を上の式に代入し、連立方程式を解くことによってフィルムの表面エネルギーを計算した。
【0149】
(6)引裂き強度(mN)
エルメンドルフ引裂き強さをEN ISO 6383−2:2004に基づいて求めた。一定半径を持つフィルム試験片を作製し、Pro Tear Electronic Elmendorf Tear Tester 60−2200型を用いて測定を行った。それぞれのフィルム配向(機械方向と幅方向)について、10個のフィルム試験片の測定を行い、Tear Testerによって平均値をmNの単位で求めた。表に示した平均エルメンドルフ引裂き強さは、以下の式を用いて計算したものである:
引裂き強さ=(MDでの引裂き強さ+CDでの引裂き強さ)/2
【0150】
(7)層間接触強さ
フィルムの表面にコロナ処理を実施し、ポリウレタン系接着剤(三井化学ポリウレタン社製タケラック971/三井化学ポリウレタン社製タケネートA3/酢酸エチル(9:1:10))を塗布した後、厚さ20μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムのコロナ処理面を貼り合わせ、40℃で48時間のエージングを行うことによって、複合フィルムを作製した。このフィルムに対して、東洋ボールドウィン社製のテンシロン試験機を用いて剥離試験を実施し、剥離に要した荷重に基づいて下記の5段階で評価した。
<剥離条件>
フィルム幅: 25.4mm
剥離速度: 100mm/分
剥離角度: 90°で剥離
<評価>
剥離荷重10g未満: 1
10g以上30g未満:2
30g以上50g未満:3
50g以上100g未満:4
100g以上またはフィルムの破壊:5
【0151】
(8)樹脂(b)の配向パラメータ
以下の装置を以下の条件で用いてラマン分光法による測定を行った。
・装置: T−64000(Jobin Yvon社製)
・条件: 測定モード;マイクロラマン分光法
対物レンズ;100倍
ビーム直径;1μm
光源;アルゴンイオンレーザー/514.5nm
レーザーパワー;100mW
回折格子;シングル600gr/mm
スリット;100μm
検出器;CCD/Jobin Yvon 1024×256
【0152】
測定に用いるフィルムをサンプリングし、エポキシ樹脂中に包埋し、ミクロトームを用いて切断することにより、フィルムの切片を作製した。ここでは、フィルムの機械方向に垂直な表面を持つ5個の切片と、幅方向に垂直な表面を持つ5個の切片を作製し、各試料の層(X)の中央を測定した。
【0153】
測定に用いるレーザービーム(入射光)は、偏光子を用いて偏光させた。偏光方向が入射光の偏光方向に平行となるように偏光子を配置し、その偏光子を通過する光線を検出し、ラマンバンド強度を求めた。
【0154】
各試料の層(X)について、試料を、その機械方向または幅方向がレーザービーム(入射光)の偏光方向と平行になるように設置してスペクトルを測定し、次に試料を、その機械方向または幅方向がレーザービーム(入射光)の偏光方向と垂直になるように設置してスペクトルを測定してスペクトルを測定した。
【0155】
樹脂(b)がポリブチレンアジペート・テレフタレートの場合、配向パラメータOは以下の式によって計算した。測定は5回行って平均値を計算し、次に小数点以下第1位に四捨五入することによって、配向パラメータの値を得た。この計算値は、フィルムの機械方向に平行な表面を持つ切片とフィルムの幅方向に平行な表面を持つ切片について得た。
O(配向パラメータ)=I1612平行/I1612垂直
1612平行:機械方向または幅方向に対して平行に偏光させた光線で測定したラマンスペクトルにおける1612cm-1のラマンバンド強度。
1612垂直:機械方向または幅方向に対して垂直に偏光させた光線で測定したラマンスペクトルにおける1612cm-1のラマンバンド強度。
【0156】
樹脂(b)の配向パラメータの計算に用いるラマンバンド強度を求めるために選択するラマンバンドは、樹脂(b)に固有のラマンスペクトルバンドであることが重要であり、バンドは、他のバンドと重なる部分が非常に小さく、試料への入射光の偏光方向を制御することによって強度を大きく変化させ得るものであれば、適当なものを任意に選ぶことができる。たとえば、樹脂(b)としてポリブチレンアジペート・テレフタレート樹脂を使用する場合には、1612cm-1のC=C伸縮バンドを用いることができる。
【0157】
このようにして選択したバンドの振動方向が分子鎖と垂直な場合には、断面がフィルムの機械方向に平行な試料の配向パラメータは、機械方向に対して垂直な方向に偏光させたレーザービームで測定したラマンバンド強度を、機械方向に対して平行な方向に偏光させたレーザービームで測定したラマンバンド強度で除すことによって計算することが可能であり、また、断面がフィルムの幅方向に平行な試料の配向パラメータは、幅方向に対して垂直方向に偏光させたレーザービームで測定したラマンバンド強度を、幅方向に対して平行な方向に偏光させたレーザービームで測定したラマンバンド強度で除すことによって計算することが可能である。
【0158】
これとは逆に、このようにして選択したバンドの振動方向が分子鎖と平行な場合には、断面がフィルムの機械方向に平行な試料の配向パラメータは、機械方向に対して平行な方向に偏光させたレーザービームで測定したラマンバンド強度を、機械方向に対して垂直な方向に偏光させたレーザービームで測定したラマンバンド強度で除すことによって計算することが可能であり、また、断面がフィルムの幅方向に平行な試料の配向パラメータは、幅方向に対して平行方向に偏光させたレーザービームで測定したラマンバンド強度を、幅方向に対して垂直な方向に偏光させたレーザービームで測定したラマンバンド強度で除すことによって計算することが可能である。
【0159】
(9)質量平均分子量および数平均分子量
日本ウォーターズ社製のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)Waters 2690を用い、40℃のカラム温度においてクロロホルム溶媒で測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法によって計算した。
【0160】
<乳酸系樹脂>
以下の3種類の乳酸系樹脂A1、A2、およびA3を準備した。
乳酸系樹脂A1:
質量平均分子量が175,000、D体含有量が12.0mol%、融点を持たず、温度200℃および剪断速度100sec-1における溶融粘度が1,250Pa・sであるホモポリ乳酸。
乳酸系樹脂A2:
質量平均分子量が200,000、D体含有量が1.4mol%、融点が170℃、温度200℃および剪断速度100sec-1における溶融粘度が1,400Pa・sであるホモポリ乳酸。
乳酸系樹脂A3:
質量平均分子量が200,000、D体含有量が5.0mol%、融点が150℃、温度200℃および剪断速度100sec-1における溶融粘度が1,400Pa・sであるホモポリ乳酸。
【0161】
上記の質量平均分子量の測定は、日本ウォーターズ(株)製のWarters 2690を用い、40℃のカラム温度において、ポリメチルメタクリレートを標準として、クロロホルム溶媒で行った。
【0162】
乳酸系樹脂の融点の測定は、100℃の熱風オーブン中で24時間加熱し、次にセイコーインスツル社製の示差走査熱量計RDC220のアルミニウム製トレイ上に試料5mgを取り、25℃から250℃まで昇温速度20℃/分で加熱しつつ結晶融解ピークの温度を求めることによって行った。
【0163】
<生分解性樹脂>
以下の4種類の生分解性樹脂B1、B2、B3、およびB4を準備した。
生分解性樹脂B1:
ポリブチレンアジペート・テレフタレート樹脂(BASF社製、エコフレックス(商品名)FBX7011、温度200℃および剪断速度100sec-1における溶融粘度1,200Pa・s)
生分解性樹脂B2:
ポリブチレンサクシネート・アジペート系樹脂(昭和高分子社製のビオノーレ(商品名、登録商標)#3001、温度200℃および剪断速度100sec-1における溶融粘度1,250Pa・s)
生分解性樹脂B3:
ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシヘキサノエート)(カネカ社製のアオニレックス(商品名)、温度200℃および剪断速度100sec-1における溶融粘度800Pa・s)
生分解性樹脂B4:
ポリブチレンアジペート・テレフタレート樹脂(BASF社製、エコフレックス(商品名)FBX7020、温度200℃および剪断速度100sec-1における溶融粘度650Pa・s)
【0164】
<ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体>
以下の2種類のポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体樹脂C1およびC2を準備した。
ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体C1:
撹拌機付きの反応容器中で、数平均分子量8,000のポリエチレングリコール62質量部、L−ラクチド38質量部、およびオクチル酸スズ0.05質量部を混合して、窒素雰囲気中において160℃で3時間重合することにより、数平均分子量8,000のポリエチレングリコールの各末端に数平均分子量2,500のポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体C1を生成した。C1全体を100質量%としたとき、ポリ乳酸セグメントの質量含有量は38質量%であった。
ポリエーテルセグメントとポリ乳酸セグメントとのブロック共重合体C2:
撹拌機付きの反応容器中で、数平均分子量4,000のポリエチレングリコール62質量部、L−ラクチド38質量部、およびオクチル酸スズ0.05質量部を混合して、窒素雰囲気中において160℃で3時間重合することにより、数平均分子量4,000のポリエチレングリコールの各末端に数平均分子量2,500のポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体C1を生成した。C2全体を100質量%としたとき、ポリ乳酸セグメントの質量含有量は56質量%であった。
【0165】
<相溶化剤>
以下の2種類の相溶化剤D1およびD2を準備した。
相溶化剤D1:
エポキシ基含有スチレン/アクリル酸エステル共重合体(BASF社製のJONCRYL ADR−4368、エポキシドを二つ以上有する化合物)
相溶化剤D2:
ポリカルボジイミド(日清紡製のカルボジライトLA−1、カルボジイミドを二つ以上有する化合物)
【0166】
<粒子>
以下の1種類の粒子E1のみを準備した。
粒子E1:
炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製のカルテックスR(商品名)、平均粒子径2.8μm、ステアリン酸を主成分とする脂肪酸で表面処理、表面処理剤の含有量3質量%以下)
【0167】
<多層フィルムの作製>
比較例1
層(X)を作製するための原料として、乳酸系樹脂(A1)45質量部と生分解性樹脂(B1)55質量部をシリンダー温度190℃、スクリュー径30mm、およびL/D比30の真空ベント式2軸押出機に供給し、真空ベントポートから装置を脱気しつつ溶融混練した。層(Y)を作製するための原料として、生分解性樹脂(B1)55質量部と乳酸系樹脂(A1)45質量部をシリンダー温度190℃、スクリュー径30mm、およびL/D比30の真空ベント式2軸押出機に供給し、真空ベントポートから装置を脱気しつつ溶融混練した。
【0168】
これら2種類の溶融混練樹脂を、層(Y)/層(X)/層(Y)の積層比が1/8/1の積層フィルムが形成されるように、直径250mm、リップ間隙1.0mm、層(X)を構成する樹脂の流路のオーバーラップ数(X)(その数をXで表す)が4、層(Y)を構成する樹脂の流路のオーバーラップ数(Y)(その数をYで表す)が4、温度が160℃のスパイラル型の2樹脂用3層リングダイに供給する。リップ間隙から押出された溶融樹脂にエアーリングから冷却風を吹きつけつつ、チューブ内に乾燥風を供給することによってブロー比3.0でバブルを形成し、続いて、得られたフィルムをニップロールで平面上に折りたたみながら、ドロー比17および最終的厚さが20μmとなるように吐出量と引取り速度を調整し、次に両端部をエッジカッターで2枚の短冊形フィルムに切り開き、それぞれを別々に巻き取った。得られたフィルムの構造と物性を表1に示した。
【0169】
実施例1〜34、比較例2〜6
実施例1〜34および比較例2〜6では、層(X)と層(Y)の原料組成、リングダイのリップ間隙、層(X)を構成する樹脂の流路のオーバーラップ数(X)、ブロー比、およびドロー比を表1〜4に記載したように変更したこと以外は比較例1と同様の手順により、最終的厚さが20μmのフィルムを作製した。得られたフィルムの構造と物性を表1〜4に示した。
【0170】
【表1】
【0171】
【表2】
【0172】
【表3】
【0173】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明による多層フィルムは、高い柔軟性、耐引裂き性、ヒートシール性、層間接触強さ、および生分解性を有しており、それらを必要とするような野菜、果物、肉、魚、その他の生鮮製品用の小袋、ショッピングバッグ、買い物袋などの袋類や、ごみ袋、堆肥袋、コンポスト袋、その他各種の袋類や包装用の材料のほか、マルチング用フィルム、その他の農業資材、および医療・衛生材料などとして好ましく使用することができる。
【国際調査報告】