(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
本開示の1つ以上の態様は、強化されていてもよい、ガラス基板上に配置された膜を備えた物品であって、その膜とガラス基板の間の界面が、その物品が改善された平均曲げ強度を有し、かつ膜がその用途にとって重要な機能特性を維持するように改良されている、物品に関する。その膜のいくつかの重要な機能特性は、光学的性質、電気的性質および/または機械的性質を含む。その膜とガラス基板の一方からその膜とガラス基板の他方への亀裂の橋渡しは、ガラス基板と膜との間にナノ多孔質亀裂軽減層を挿入することによって抑制できる。
前記亀裂軽減層が、前記応力拡大係数を少なくとも約10%減少させるか、または前記亀裂が前記ガラス基板に橋渡しするのに要する荷重を少なくとも約10%増加させる、請求項1記載の物品。
前記ガラス基板と前記亀裂軽減層が第1の界面を形成し、前記膜と前記亀裂軽減層が第2の界面を形成し、前記亀裂軽減層が、前記膜および前記ガラス基板の一方から始まる前記亀裂を前記第1の界面および前記第2の界面の一方または両方に実質的に平行な方向に該亀裂軽減層内に伝搬させるか、または前記膜および前記ガラス基板の一方から始まる前記亀裂を前記第1の界面または前記第2の界面のいずれかに実質的に沿って伝搬させる、請求項6または7記載の物品。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の詳細な説明において、本開示の実施の形態の完全な理解を与えるために、数多くの特定の詳細が述べられているであろう。しかしながら、本開示の実施の形態が、これらの特定の詳細のいくつかまたは全てを持たずに実施される場合があることが、当業者には明白であろう。他の例において、本開示を不必要に分かりにくくしないように、周知の特徴またはプロセスは詳しく記載されていないことがある。その上、共通または類似の要素を特定するために、同様のまたは同じ参照番号が使用されることがある。
【0017】
図1を参照すると、本開示の態様は、膜110およびガラス基板120を備えた物品100を含み、膜110とガラス基板120との間の界面特性は、その物品がその平均曲げ強度を実質的に維持し、その膜がその用途にとって重要な機能特性を維持するように改良されている。1つ以上の実施の形態において、その物品は、そのような改良後も維持される機能特性を示す。膜および/または物品の機能特性は、硬度、弾性率、破壊歪み、耐摩耗性、機械的耐久性、摩擦係数、導電率、電気抵抗率、電子移動度、電子または正孔キャリアドーピング、光屈折率、密度、不透明度、透明度、反射率、吸光係数、透過率などの、光学的性質、電気的性質および/または機械的性質を含んでよい。
【0018】
1つ以上の実施の形態において、膜とガラス基板の界面に対する改良は、膜110またはガラス基板120の一方から膜110またはガラス基板120の他方への1つ以上の亀裂の橋渡しを防ぎつつ、膜110および/または物品の他の機能特性を維持することを含む。
図1に示されるような、1つ以上の特定の実施の形態において、界面特性の改良は、ガラス基板120と膜110との間に亀裂軽減層130を配置することを含む。
【0019】
膜110および/または物品100に組み込まれた他の膜に適用されるような、「膜」という用語は、不連続堆積法または連続堆積法を含む、当該技術分野で公知の任意の方法により形成された1つ以上の層を含む。そのような層は、互いに直接接触していてもよい。その層は、同じ材料または複数の異なる材料から形成されてもよい。1つ以上の代わりの実施の形態において、そのような層は、それらの間に配置された異なる材料の介在層を有してもよい。1つ以上の実施の形態において、膜は、1つ以上の隣接した連続層および/または1つ以上の不連続の断続層(すなわち、互いに隣接して形成された異なる材料を有する層)を含んでもよい。
【0020】
ここに用いたように、「配置する(dispose)」という用語は、コーティングする、堆積するおよび/または当該技術分野において任意の公知の方法を使用して表面に材料を形成することを含む。配置された材料は、ここに定義された層または膜を構成することがある。「上に配置された」という句は、材料が表面と直接接触するように表面上に材料を形成する例を含み、また、配置された材料と表面との間に1つ以上の介在材料がある状態で、材料が表面に形成された例も含む。この介在材料は、ここに定義された、層または膜を構成してもよい。
【0021】
ここに用いたように、「平均曲げ強度」という用語は、リング・オン・リング試験、ボール・オン・リング試験、またはボール落下試験などの方法によって試験した、ガラス含有材料(例えば、物品および/またはガラス基板)の曲げ強度を称することが意図されている。「平均」という用語は、平均曲げ強度または任意の他の性質に関連して使用した場合、少なくとも5つのサンプル、少なくとも10のサンプル、または少なくとも15のサンプルまたは少なくとも20のサンプルについてのそのような性質の測定値の数学的平均に基づく。平均曲げ強度は、リング・オン・リング試験またはボール・オン・リング試験での破壊荷重の2母数ワイブル統計の尺度母数を称することがある。この尺度母数は、材料の破壊確率が63.2%である、ワイブル特徴強度とも呼ばれる。より広く、平均曲げ強度は、ガラス表面の曲げ強度が、破壊せずに耐えられるボール落下高さにより特徴付けられる、ボール落下試験などの他の試験により定義されてもよい。ガラス表面強度は、ガラス含有材料(例えば、物品および/またはガラス基板)を含む器具または装置が、表面曲げ応力を生じるであろう様々な向きで落とされる、装置構成内で試験してもよい。平均曲げ強度は、ある場合には、3点曲げ試験または4点曲げ試験などの、当該技術分野で公知の他の方法によって試験される強度も含んでもよい。ある場合には、これらの試験方法は、物品の縁強度により著しく影響を受けることがある。
【0022】
1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130は、膜110またはガラス基板120の一方から始まる1つ以上の亀裂の膜110またはガラス基板120の他方への橋渡しを防ぐかまたは抑制する。1つ以上の特定の実施の形態において、亀裂軽減層130は、膜110の平均破壊歪みを増加させることによって、膜110またはガラス基板120の一方から膜110またはガラス基板120の他方への亀裂の橋渡しを防ぐ。亀裂軽減層130は、ガラス基板上での形成または施用中に膜110に生じることがある応力を減少させることによって、膜110の平均破壊歪みを増加させることがある。そのような実施の形態において、膜110の平均破壊歪みの増加は、亀裂が、膜110またはガラス基板120の一方から膜110またはガラス基板120の他方に橋渡しされるのを防ぐと考えられる。他の実施の形態において、亀裂軽減層130は、膜110の破壊歪みを変化させない、すなわち、亀裂は荷重下で膜110にまだ生じるが、ガラス基板120と膜110との間のこれらの亀裂の橋渡しは、亀裂軽減層130により防がれるかまたは抑制される。これらの実施の形態において、亀裂軽減層130は、以下にさらに説明されるように、膜110内の亀裂がガラス基板120に橋渡しされるのを、亀裂先端鈍化、亀裂停止、亀裂逸らし、剥離、または他の関連する機構によって防ぐことがある。
【0023】
ここに用いたように、「橋渡しする(bridge)」または「橋渡し(bridging)」という用語は、亀裂、傷または欠陥の形成およびそのような亀裂、傷または欠陥のサイズの増加および/またはある材料、層または膜から別の材料、層または膜への伝搬を称する。例えば、橋渡しは、膜110内に存在する亀裂が、別の材料、層または膜(例えば、ガラス基板120)に伝搬する事例を含む。「橋渡しする」または「橋渡し」という用語は、亀裂が、異なる材料、異なる層および/または異なる膜の間の界面を横切る事例も含む。それらの材料、層および/または膜は、亀裂がそのような材料、層または膜の間を橋渡しするのに、互いに直接接触している必要はない。例えば、亀裂は、第1の材料から、その第1の材料とは直接接触していない第2の材料へと、第1と第2の材料の間に配置された中間材料を通じて橋渡しすることによって、橋渡ししてもよい。同じ筋書きが、複数の層および複数の膜並びに材料、層および膜の組合せにも適用されるであろう。ここに記載された物品において、亀裂は、膜110またはガラス基板120の一方から始まり、膜110またはガラス基板120の他方に橋渡しすることがある。ここに記載されるように、亀裂軽減層130は、亀裂が始まるところ(すなわち、膜110またはガラス基板120)にかかわらず、膜110とガラス基板120との間で橋渡しするのを防ぐであろう。
【0024】
「防ぐ」という用語は、亀裂の橋渡しの防止に関連する場合、1つ以上の選択された荷重レベル(または荷重の範囲)または曲げ状態での亀裂の橋渡しを防ぐことを称する。このことは、亀裂の橋渡しが、全ての荷重レベルまたは曲げ状態で防がれることを示唆するものではない。むしろ、このことは、概して、亀裂の橋渡しが、亀裂軽減層が存在しない場合に亀裂の橋渡しが通常生じるであろう特定の荷重、応力、または歪みのレベルまたは範囲で防がれることを示唆する。
【0025】
1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130は、膜110とガラス基板120との間の亀裂の橋渡しを防がないかもしれないが、むしろ、この亀裂軽減層は、亀裂軽減層を持たない物品と比べて、膜110とガラス基板120との間で橋渡しする亀裂の成長を抑制するであろう。したがって、1つ以上の実施の形態において、膜110とガラス基板120との間を橋渡しする既存の亀裂が、膜110および/またはガラス基板120の一方にあることがあるか、または亀裂が、荷重/応力の印加中に形成することがあるが、これらの亀裂の成長は、亀裂軽減層の存在により抑制される。ここに用いたように、「抑制する」という用語は、亀裂成長に関連して使用した場合、より低い荷重で成長する亀裂を、その時点で亀裂が成長するより高い荷重が物品に印加されるまで、遅らせることを含む。「抑制する」という用語は、物品に印加される所定の荷重または応力レベルでの亀裂の成長率(または速度)を減少させることも含む。
【0026】
他の実施の形態において、亀裂軽減層130は、膜110とガラス基板120との間の橋渡し以外に、亀裂伝搬の好ましい経路を形成することがある。言い換えれば、亀裂軽減層130は、膜110およびガラス基板120の一方に形成され、膜110およびガラス基板120の他方に伝搬する亀裂を亀裂軽減層130に逸らすことがある。そのような実施の形態において、亀裂は、膜と亀裂軽減層との界面および/または亀裂軽減層とガラス基板との界面に実質的に平行な方向に、亀裂軽減層130を通って伝搬することがある。1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130を備えた物品は、亀裂軽減層130を持たない物品を上回って改善された平均曲げ強度を示すことがある。
【0027】
以下の理論的破壊機構解析は、物品内に亀裂が橋渡しすることのある選択された様式を示している。
図2は、ガラス基板上に配置された膜内の亀裂の存在およびその可能性のある橋渡し様式を示す説明図である。
図2の番号が付けられた要素は、ガラス基板10;ガラス基板10の表面(番号が付けられていない)上の膜12;ガラス基板10と膜12との間の界面に入る両側の逸れ14;膜12内に発生し始めたが、膜12を完全に通り抜けなかった亀裂である停止亀裂16;膜12の表面に発生したが、ガラス基板10の表面に到達したときに、ガラス基板10に入り込まず、代わりに、
図2に示された横方向に移動し、次いで、別の位置でガラス基板10の表面に貫通した亀裂である「キンク(kinking)」18;膜12内で発生し、ガラス基板10に貫通した貫通亀裂11;片側の逸れ13;およびゼロ軸15と比べた、ガラス基板10における張力対圧縮のグラフ17である。この説明図は一定の縮尺ではなく、ガラス基板の厚さは、通常、図面の底部をさらに越えて延在する(図示せず)ことに留意のこと。図に示されるように、外部荷重の印加の際に(そのような場合、引張荷重が最も有害な状況である)、膜内の傷が優先的に促進されて、残留圧縮されたガラス基板内に亀裂が発生する前に、亀裂を形成し得る。
図2に示された筋書きにおいて、外部荷重が増加し続けると、亀裂は、ガラス基板に出くわすまで橋渡しする。亀裂が基板10の表面に到達したときに、亀裂が膜内で始まった場合、亀裂の可能性のある橋渡し様式には、(a)番号11により示されるような、経路を変えずに、ガラス基板中への貫通;(b)番号13により示されるような、膜とガラス基板との間の界面に沿った片側の逸れ;(c)番号14により示されるような、その界面に沿った両側の逸れ;(d)番号18により示されるような、その界面に沿った第1の逸れと、その後のガラス基板中へのキンク;または(e)微視的変形機構、例えば、亀裂先端での塑性、ナノスケール鈍化、またはナノスケール逸れによる、番号16により示されるような亀裂停止:がある。亀裂は、膜内で始まり、ガラス板中に橋渡しすることがある。上述した橋渡し様式は、亀裂がガラス基板内で始まり、膜中に橋渡しする場合、例えば、ガラス基板中の既存の亀裂または傷が、膜内の亀裂または傷を誘発するまたは核として生じ、そしてガラス基板から膜への亀裂の成長または伝搬をもたらし、亀裂を橋渡しする場合にも、適用できる。
【0028】
ガラス基板および/または膜に亀裂が貫通することにより、ガラス基板単独(すなわち、膜または亀裂軽減層を持たない)の平均曲げ強度と比べて、その物品とガラス基板の平均曲げ強度が低下する一方で、亀裂の逸れ、亀裂の鈍化または亀裂の停止(ここでは、亀裂軽減と集合的に称される)が、物品の曲げ強度を維持するのを助けるのに好ましい。亀裂の鈍化および亀裂の停止は、互いから区別することができる。亀裂の鈍化は、例えば、塑性変形または降伏機構により、増加する亀裂先端の半径を含むことがある。他方で、亀裂の停止は、例えば、亀裂先端での高圧縮応力との遭遇;低弾性率中間層の存在または低弾性率から高弾性率への界面移行により生じる、亀裂先端での応力拡大係数の減少;ある多結晶材料または複合材料におけるようなナノスケールの亀裂の逸れまたは亀裂のねじれ;亀裂先端での歪み硬化などの数多くの異なる機構を含み得る。
【0029】
理論により拘束されるものではないが、線形弾性破壊機構に関して、特定の可能性のある亀裂橋渡し経路を解析することができる。以下の段落において、1つの亀裂経路が実施例として使用され、破壊機構の概念が、問題を解析し、特定の範囲の材料特性に関して、物品の平均曲げ強度性能を維持するのに役立つ材料パラメータの要件を示すために、その亀裂経路に適用される。
【0030】
図3は、下記に、理論モデル骨格の説明図を示している。これは、膜12とガラス基板10との間の界面領域の単純化した概略図である。項μ
1、E
1、ν
1、およびμ
2、E
2、ν
2は、ガラス基板材料と膜材料の剛性率、ヤング率、ポアソン比であり、
【0031】
は、それぞれ、ガラス基板および基板と膜との間の界面の臨界エネルギー解放率である。
【0032】
膜と基板との間の弾性不一致を特徴付けるための共通パラメータは、下記に定義されるようなDundursのパラメータαおよびβ[1]であり、
【0039】
と定義される関係によりその材料の破壊靭性に密接に関連付けられることを指摘することには価値がある。
【0040】
膜に既存の傷があるという仮定の下で、引張荷重の際に、亀裂が、
図3に示されるように、垂直に下方に延びる。界面の右では、
【0042】
の場合、亀裂は界面に沿って逸れる傾向にあり、
【0044】
の場合、亀裂はガラス基板に貫通し、式中、G
dおよびG
pは、界面に沿って逸れた亀裂と、ガラス基板中に貫通した亀裂との間のエネルギー解放率である[1]。式(4)および(5)の左側で、比G
d/G
pは、弾性不一致パラメータαの強力な関数であり、βに弱く依存しており;右側で、
【0046】
図4は、両側に逸れた亀裂に関する基準から再現した、弾性不一致αの関数としてのG
d/G
pの傾向をグラフで示している。(Ming-Yuan, H. and J.W. Hutchinson, Crack deflection at an interface between dissimilar elastic materials. International Journal of Solids and Structures, 1989. 25(9): p. 1053-1067.)。
【0047】
それが、比G
d/G
pがαに強く依存していることの証拠である。負のαは、膜がガラス基板よりも硬いことを意味し、正のαは、膜がガラス基板よりも軟らかいことを意味している。
【0048】
は、αとは無関係であり、
図4における水平線である。基準(4)が満たされた場合、
図4において、その水平線より上の領域では、亀裂は、界面に沿って逸れる傾向にあり、したがって、基板の平均曲げ強度の維持にとって有益である。他方で、基準(5)が満たされた場合、
図4において、その水平線より下の領域では、亀裂は、ガラス基板中に貫通し、それにより平均曲げ強度が低下する傾向にある。
【0049】
上述した概念のために、以下において、インジウムスズ酸化物(ITO)を説明に役立つ実例として利用する。ガラス基板について、E
1=72GPa、ν
1=0.22、およびK
1c=0.7MPam
1/2;ITOについて、E
2=99.8GPa、ν
2=0.25。(Zeng, K., et al., Investigation of mechanical properties of transparent conducting oxide thin films. Thin Solid Films, 2003. 443(1-2): p. 60-65.)。ITO膜とガラス基板との間の界面靭性は、堆積条件に応じて、近似的に
【0050】
であり得る。(Cotterell, B. and Z. Chen, Buckling and cracking of thin films on compliant substrates under compression. International Journal of Fracture, 2000. 104(2): p. 169-179.)。これにより、弾性不一致α=−0.17および
【0051】
が得られる。これらの値が
図4にプロットされている。この破壊解析により、ITO膜について、ガラス基板に亀裂が貫通すると、ガラスの平均曲げ強度の低下を引き起こすと予測される。これは、強化ガラス基板または強力なガラス基板を含むガラス基板上に配置される様々なインジウムスズ酸化物膜または他の透明導電性酸化物膜に観察される潜在的な根本的な機構の内の1つであると考えられる。
図4に示されるように、平均曲げ強度の低下を軽減するための方法の1つは、適切な材料を選択して、弾性不一致αを変化させること(選択肢1)、または界面靭性を調節すること(選択肢2)であり得る。
【0052】
先に概説した理論的解析は、亀裂軽減層130を使用して、物品の強度をよりよく維持できることを示唆している。具体的には、ガラス基板120と膜110との間に亀裂軽減層を挿入することにより、ここに定義したように、亀裂の軽減をより好ましい経路にし、それゆえ、物品は、その強度をよりよく維持することができる。いくつかの実施の形態において、膜から始まる亀裂の応力拡大係数を変更して、軽減層130がある場合、亀裂が膜からガラス基板中に成長するのを抑制してもまたは防いでもよい。
【0053】
ガラス基板
図1を参照すると、物品100は、対向する主面122、124を有するガラス基板120(ここに記載したように、強化されていても強力であってもよい)、少なくとも1つの対向する主面(122または124)に配置された膜110および膜110とガラス基板120との間に配置された亀裂軽減層130を備えている。1つ以上の代わりの実施の形態において、亀裂軽減層130および膜110は、少なくとも1つの主面(122または124)上に配置されることに加え、またはその代わりに、ガラス基板の副面(minor surface)に配置されていてもよい。ここに用いたように、ガラス基板120は実質的に平らな板であってよいが、他の実施の形態は、湾曲したもしくは別なふうに形成または造形されたガラス基板を利用してもよい。ガラス基板120は、実質的に透き通り、透明であり、光を拡散しないことがある。このガラス基板は、約1.45から約1.55の範囲の屈折率を有することがある。1つ以上の実施の形態において、ガラス基板120は、ここにさらに詳しく記載するように、強化されていても、強力であると特徴付けられてもよい。ガラス基板120は、そのような強化前に、比較的無垢であり、傷を含まないことがある(例えば、表面傷の数が少ない、または平均表面傷サイズが約1マイクロメートル未満である)。強化されたまたは強力なガラス基板120が使用される場合、そのような基板は、そのような基板の1つ以上の対向する主面において、高い平均曲げ強度(強化されていないまたは強力ではないガラス基板と比べて)または高い表面破壊歪み(強化されていないまたは強力ではないガラス基板と比べて)を有すると特徴付けられるであろう。
【0054】
その上、または代わりに、ガラス基板120の厚さは、外観の理由および/または機能的理由のために、その寸法の1つ以上に沿って変動してもよい。例えば、ガラス基板120の縁は、ガラス基板120のより中央の領域と比べてより厚いことがある。ガラス基板120の長さと幅と厚さの寸法も、物品100の用途と利用法にしたがって、様々であってよい。
【0055】
1つ以上の実施の形態によるガラス基板120は、ガラス基板120が膜110、亀裂軽減層130および/または他の膜または層と組み合わされた前および後で測定されてもよい平均曲げ強度を有する。ここに記載された1つ以上の実施の形態において、物品100は、ガラス基板120の膜110、亀裂軽減層130および/または他の膜、層または材料との組合せ後に、そのような組合せ前のガラス基板120の平均曲げ強度と比べて、その平均曲げ強度を維持している。言い換えると、物品100の平均曲げ強度は、膜110、亀裂軽減層130および/または他の膜または層がガラス基板120上に配置される前と後で実質的に同じである。1つ以上の実施の形態において、物品100は、亀裂軽減層130を備えていない同様の物品の平均曲げ強度よりも実質的に大きい平均曲げ強度(例えば、介在する亀裂軽減層がなく、膜110とガラス基板120とを直接接触して備えた物品よりも高い強度)を有する。
【0056】
1つ以上の実施の形態によれば、ガラス基板120は、ガラス基板120が膜110、亀裂軽減層130および/または他の膜または層と組み合わされた前および後で測定されてもよい平均破壊歪みを有する。「平均破壊歪み」という用語は、亀裂が、追加の荷重を印加せずに伝搬し、通常は、所定の材料、層または膜が破滅的に破壊し、ことによると、ここに定義されるように、別の材料、層または膜に橋渡しさえする歪みを称する。平均破壊歪みは、例えば、ボール・オン・リング試験を使用して測定してよい。理論により拘束するものではないが、平均破壊歪みは、適切な数学的変換を使用して、平均曲げ強度に直接相関付けられるであろう。特定の実施の形態において、ここに記載されるように強化されても強力であってもよい、ガラス基板120は、0.5%以上、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.9%以上、1%以上、1.1%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上、1.5%以上またさらには2%以上の平均破壊歪みを有する。特定の実施の形態において、このガラス基板は、1.2%、1.4%、1.6%、1.8%、2.2%、2.4%、2.6%、2.8%または3%以上の平均破壊歪みを有する。膜110の平均破壊歪みは、ガラス基板120の平均破壊歪みおよび/または亀裂軽減層130の平均破壊歪みよりも小さいことがある。理論により拘束するものではないが、ガラス基板または任意の他の材料の平均破壊歪みは、そのような材料の表面品質に依存すると考えられる。ガラス基板に関して、特定のガラス基板の平均破壊歪みは、ガラス基板の表面品質に加え、またはその代わりに、使用されるイオン交換法または強化法の条件に依存する。
【0057】
1つ以上の実施の形態において、ガラス基板120は、膜110、亀裂軽減層130および/または他の膜または層との組合せ後に、その平均破壊歪みを維持している。言い換えると、ガラス基板120の平均破壊歪みは、膜110、亀裂軽減層130および/または他の膜または層がガラス基板120上に配置される前と後で実質的に同じである。1つ以上の実施の形態において、物品100は、亀裂軽減層130を備えていない同様の物品の平均破壊歪みより実質的に大きい平均破壊歪み(例えば、介在する亀裂軽減層がなく、膜110とガラス基板120とを直接接触して備えた物品よりも高い破壊歪み)を有する。例えば、物品100は、亀裂軽減層130を備えていない同様の物品の平均破壊歪みより少なくとも10%大きい、25%大きい、50%大きい、100%大きい、200%大きいまたは300%大きい平均破壊歪みを示すことがある。
【0058】
ガラス基板120は、様々な異なるプロセスを使用して設けてもよい。例えば、例示のガラス基板形成方法としては、フロートガラス法およびフュージョンドロー法やスロットドロー法などのダウンドロー法が挙げられる。
【0059】
フロートガラス法において、滑らかな表面および均一な厚さにより特徴付けられることのあるガラス基板は、溶融金属、通常はスズの床上に溶融ガラスを浮かせることによって製造される。例示のプロセスにおいて、溶融スズ床の表面上に供給される溶融ガラスが、浮いているガラスリボンを形成する。そのガラスリボンがスズ浴に沿って流れながら、ガラスリボンが、スズからローラ上に持ち上げられる固体のガラス基板に固化するまで、温度が徐々に低下する。一旦、浴から外されると、そのガラス基板は、さらに冷却し、アニールして、内部応力を減少させることができる。
【0060】
ダウンドロー法では、均一な厚さを有し、比較的無垢な表面を備えることがある、均一な厚さを有するガラス基板が製造される。ガラス基板の平均曲げ強度は、表面傷の量とサイズにより制御されるので、接触が最小の無垢表面は、初期強度がより高い。次いで、この高強度ガラス基板がさらに強化される(例えば、化学的に)と、結果として生じた強度は、ラップ仕上げされ、研磨された表面を有するガラス基板の強度よりも高いことがあり得る。ダウンドロー法により製造されたガラス基板は、約2mm未満の厚さまで板引き(drawn)されることがある。その上、ダウンドロー法により製造されたガラス基板は、非常に平らで滑らかな表面を有することがあり、これは、費用のかかる研削と研磨を必要とせずに、最終用途に使用することができる。
【0061】
フュージョンドロー法では、例えば、溶融ガラス原材料を受け入れるための通路を有する板引き用タンクが使用される。その通路は、通路の両側に通路の長手方向に沿って上部が開いた堰を有する。その通路が溶融材料で満たされると、溶融ガラスは堰を越えて溢れる。溶融ガラスは、重力のために、2つの流れるガラス膜として板引き用タンクの外面を下方に流れる。板引き用タンクのこれらの外面は、板引き用タンクの下の縁で接合するように、下方と内方に延在している。2つの流れるガラス膜は、この縁で結合して融合し、1つの流れるガラス基板を形成する。フュージョンドロー法は、通路を越えて流れる2つのガラス膜が共に融合するので、結果として得られるガラス基板の外面の両方とも、装置のどの部分とも接触しないという利点を提示する。このように、フュージョンドロー法により形成されたガラス基板の表面特性は、そのような接触により影響を受けない。
【0062】
スロットドロー法は、フュージョンドロー法とは異なる。スロットドロー法において、溶融原材料ガラスが板引き用タンクに供給される。板引き用タンクの底部に開放スロットがあり、このスロットは、スロットの長さに伸びるノズルを有している。溶融ガラスはスロット/ノズルを通って流れ、連続基板として下方に、アニール領域へと板引きされる。
【0063】
ガラス基板は、一旦形成されたら、強化ガラス基板を形成するために強化してもよい。ここに用いたように、「強化ガラス基板」という用語は、例えば、ガラス基板の表面にあるより小さいイオンの大きいイオンによるイオン交換により、化学強化されたガラス基板を称することがある。しかしながら、熱的焼き戻しなどの、当該技術分野で公知の他の強化方法を利用して、強化ガラス基板を形成してもよい。記載されるように、強化ガラス基板は、ガラス基板の強度の保存に役立つ表面圧縮応力をその表面に有するガラス基板を含んでよい。強力なガラス基板も、本開示の範囲に含まれ、特定の強化プロセスを経験していないことがあり、表面圧縮応力を有さないことがあるが、それでも強力であるガラス基板を含む。そのような強力なガラス基板物品は、約0.5%、0.7%、1%、1.5%より大きい、またさらには2%より大きい、平均破壊歪みを有するガラス板物品またはガラス基板として定義されることがある。そのような強力なガラス基板は、例えば、溶融とガラス基板の形成後に、無垢なガラス表面を保護することによって、製造することができる。そのような保護の例は、ガラス膜の表面が形成後に装置のどの部分にもまたは他の表面とも接触しない、フュージョンドロー法で行われる。フュージョンドロー法により形成されたガラス基板は、その強度を無垢な表面品質に由来する。無垢な表面品質は、ガラス基板の表面のエッチングまたは研磨およびその後の保護、並びに当該技術分野に公知の他の方法によって行っても差し支えない。1つ以上の実施の形態において、強化ガラス基板および強力なガラス基板の両方とも、例えば、リング・オン・リング試験またはボール・オン・リング試験を使用して測定した場合、約0.5%、0.7%、1%、1.5%より大きい、またさらには2%より大きい平均破壊歪みを有するガラス板物品から構成されることがある。
【0064】
上述したように、ここに記載されたガラス基板は、強化ガラス基板120を提供するために、イオン交換プロセスによって化学強化してよい。ガラス基板は、熱的焼き戻しなどの、当該技術分野に公知の他の方法によって強化してもよい。イオン交換プロセスにおいて、通常は、ガラス基板を所定の期間に亘り溶融塩浴中に浸漬することによって、ガラス基板の表面またはその近くのイオンが、塩浴からのより大きい金属イオンと交換される。1つの実施の形態において、溶融塩浴の温度は約350℃から450℃であり、所定の期間は約2から8時間である。より大きいイオンをガラス基板中に含ませることによって、表面近くの領域またはガラス基板の表面の領域とそれに隣接した領域に圧縮応力が生じるために、ガラス基板が強化される。その圧縮応力を釣り合わせるために、対応する引張応力がガラス基板の中央領域内またはその表面からある距離にある領域内に誘発される。この強化プロセスを利用したガラス基板は、より具体的には、化学強化ガラス基板120またはイオン交換ガラス基板120と記載されることもある。強化されていないガラス基板は、ここでは、非強化ガラス基板と称されることもある。
【0065】
一例において、強化ガラス基板120中のナトリウムイオンは、硝酸カリウム塩浴などの溶融浴からのカリウムイオンにより置換されるが、ルビジウムやセシウムなどの原子半径のより大きい他のアルカリ金属イオンも、そのガラス中のより小さいアルカリ金属イオンを置換し得る。特別な実施の形態によれば、ガラス中のより小さいアルカリ金属イオンは、Ag
+イオンにより置換され得る。同様に、以下に限られないが、硫酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物などの他のアルカリ金属塩をイオン交換プロセスに使用してもよい。
【0066】
ガラス網目構造が緩和し得る温度より低い温度で、より小さいイオンをより大きいイオンで置換すると、強化ガラス基板120の表面に亘り、応力プロファイルをもたらすイオン分布が生じる。入り込むイオンの体積がより大きいために、強化ガラス基板120の表面に圧縮応力(CS)が、その基板の中央に張力(中央張力、またはCT)が生じる。この圧縮応力は、以下の近似の関係式により中央張力に関連付けられる:
【0067】
式中、tは強化ガラス基板120の全厚であり、圧縮層の深さ(DOL)は、交換の深さである。交換の深さは、イオン交換プロセスにより促進されるイオン交換が行われる、強化ガラス基板120内の深さ(すなわち、ガラス基板の表面からガラス基板の中央領域までの距離)と記載されることがある。
【0068】
1つの実施の形態において、強化ガラス基板120は、300MPa以上、例えば、400MPa以上、450MPa以上、500MPa以上、550MPa以上、600MPa以上、650MPa以上、700MPa以上、750MPa以上または800MPa以上の表面圧縮応力を有し得る。この強化ガラス基板120は、15μm以上、20μm以上(例えば、25μm、30μm、35μm、40μm、45μm、50μm以上)の圧縮層の深さ、および/または10MPa以上、20MPa以上、30MPa以上、40MPa以上(例えば、42MPa、45MPa、または50MPa以上)であるが、100MPa未満(例えば、95、90、85、80、75、70、65、60、55MPa以下)の中央張力を有することがある。1つ以上の特定の実施の形態において、強化ガラス基板120は、以下の1つ以上を有する:500MPa超の表面圧縮応力、15μm超の圧縮層の深さ、および18MPa超の中央張力。
【0069】
理論により拘束されるものではないが、500MPa超の表面圧縮応力および約15μm超の圧縮層の深さを有する強化ガラス基板120は、通常、非強化ガラス基板(または、言い換えると、イオン交換または他の様式で強化されていないガラス基板)よりも大きい破壊歪みを有すると考えられる。いくつかの実施の形態において、ここに記載された1つ以上の実施の形態の利益は、多くの典型的な用途における取扱いまたは普通のガラス表面損傷事象の存在のために、これらのレベルの表面圧縮応力または圧縮層の深さを満たさない非強化タイプまたは弱く強化されたタイプのガラス基板に関するほど顕著ではないかもしれない。しかしながら、先に述べたように、ガラス基板の表面を引っ掻き傷または表面損傷から適切に保護できる(例えば、保護コーティングまたは他の層により)他の特定の用途において、フュージョン成形法などの方法を使用して、無垢なガラス表面品質の形成と保護によっても、比較的高い破壊歪みを有する強力なガラス基板を作製することができる。これらの代わりの用途において、ここに記載された1つ以上の実施の形態の利益を同様に実現できる。
【0070】
強化ガラス基板120として使用してよい例示のイオン交換可能なガラスとしては、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物またはアルカリアルミノホウケイ酸塩ガラス組成物が挙げられるが、他のガラス組成物も考えられる。ここに用いたように、「イオン交換可能な」は、ガラス基板が、そのガラス基板の表面またはその近くに位置する陽イオンを、サイズがそれより大きいか小さい同じ価数の陽イオンと交換できることを意味する。ガラス組成物の一例は、SiO
2、B
2O
3およびNa
2Oを含み、ここで、(SiO
2+B
2O
3)≧66モル%およびNa
2O≧9モル%である。ある実施の形態において、ガラス基板120は、少なくとも6質量%の酸化アルミニウムを有するガラス組成を有する。さらに別の実施の形態において、ガラス基板120は、アルカリ土類酸化物の含有量が少なくとも5質量%であるように、1種類以上のアルカリ土類酸化物を含むガラス組成を有する。適切なガラス組成物は、いくつかの実施の形態において、K
2O、MgO、およびCaOの内の少なくとも1つをさらに含む。特別な実施の形態において、ガラス基板120に使用されるガラス組成物は、61〜75モル%のSiO
2、7〜15モル%のAl
2O
3、0〜12モル%のB
2O
3、9〜21モル%のNa
2O、0〜4モル%のK
2O、0〜7モル%のMgO、および0〜3モル%のCaOを含んで差し支えない。
【0071】
必要に応じて強化されていても、強力であってもよい、ガラス基板120に適したさらに別の例のガラス組成物は、60〜70モル%のSiO
2、6〜14モル%のAl
2O
3、0〜15モル%のB
2O
3、0〜15モル%のLi
2O、0〜20モル%のNa
2O、0〜10モル%のK
2O、0〜8モル%のMgO、0〜10モル%のCaO、0〜5モル%のZrO
2、0〜1モル%のSnO
2、0〜1モル%のCeO
2、50ppm未満のAs
2O
3、および50ppm未満のSb
2O
3を含み、ここで、12モル%≦(Li
2O+Na
2O+K
2O)≦20モル%、および0モル%≦(MgO+CaO)≦10モル%である。
【0072】
必要に応じて強化されていても、強力であってもよい、ガラス基板120に適したさらにまた別の例のガラス組成物は、63.5〜66.5モル%のSiO
2、8〜12モル%のAl
2O
3、0〜3モル%のB
2O
3、0〜5モル%のLi
2O、8〜18モル%のNa
2O、0〜5モル%のK
2O、1〜7モル%のMgO、0〜2.5モル%のCaO、0〜3モル%のZrO
2、0.05〜0.25モル%のSnO
2、0.05〜0.5モル%のCeO
2、50ppm未満のAs
2O
3、および50ppm未満のSb
2O
3を含み、ここで、14モル%≦(Li
2O+Na
2O+K
2O)≦18モル%、および2モル%≦(MgO+CaO)≦7モル%である。
【0073】
特別な実施の形態において、必要に応じて強化されていても、強力であってもよい、ガラス基板120に適したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物は、アルミナ、少なくとも1種類のアルカリ金属およびいくつかの実施の形態において、50モル%超のSiO
2、他の実施の形態において、少なくとも58モル%のSiO
2、さらに他の実施の形態において、少なくとも60モル%のSiO
2を含み、ここで、比(Al
2O
3+B
2O
3)/Σ改質剤>1であり、この比において、成分はモル%で表され、改質剤はアルカリ金属酸化物である。このガラス組成物は、特別な実施の形態において、58〜72モル%のSiO
2、9〜17モル%のAl
2O
3、2〜12モル%のB
2O
3、8〜16モル%のNa
2O、および0〜4モル%のK
2Oを含み、比(Al
2O
3+B
2O
3)/Σ改質剤>1である。
【0074】
さらに別の実施の形態において、必要に応じて強化されていても、強力であってもよい、ガラス基板は、64〜68モル%のSiO
2、12〜16モル%のNa
2O、8〜12モル%のAl
2O
3、0〜3モル%のB
2O
3、2〜5モル%のK
2O、4〜6モル%のMgO、および0〜5モル%のCaOを含むアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物であって、66モル%≦SiO
2+B
2O
3+CaO≦69モル%、Na
2O+K
2O+B
2O
3+MgO+CaO+SrO>10モル%、5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%、(Na
2O+B
2O
3)−Al
2O
3≦2モル%、2モル%≦Na
2O−Al
2O
3≦6モル%、および4モル%≦(Na
2O+K
2O)−Al
2O
3≦10モル%である、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物を含むことがある。
【0075】
いくつかの実施の形態において、必要に応じて強化されていても、強力であってもよい、ガラス基板120は、2モル%以上のAl
2O
3および/またはZrO
2、または4モル%以上のAl
2O
3および/またはZrO
2を含むアルカリケイ酸塩ガラス組成物から構成されることがある。
【0076】
いくつかの実施の形態において、ガラス基板120に使用されるガラス基板には、Na
2SO
4、NaCl、NaF、NaBr、K
2SO
4、KCl、KF、KBr、およびSnO
2を含む群から選択される少なくとも1種類の清澄剤が0〜2モル%バッチ配合されることがある。
【0077】
1つ以上の実施の形態によるガラス基板120は、約50μmから5mmに及ぶ厚さを有し得る。例のガラス基板120の厚さは、100μmから500μmに及び、例えば、100、200、300、400または500μmである。さらに別の例のガラス基板120の厚さは、500μmから1000μmに及び、例えば、500、600、700、800、900または1000μmである。このガラス基板120は、1mm超、例えば、約2、3、4、または5mmの厚さを有してもよい。1つ以上の特定の実施の形態において、ガラス基板120は、2mm以下または1mm未満の厚さを有してもよい。ガラス基板120は、表面傷の影響をなくすまたは低減させるために、酸磨きまたは他の様式で処理されてもよい。
【0078】
膜
物品100は、ガラス基板120の表面上に配置された膜110を備えている。膜110は、ガラス基板120の一方または両方の主面122、124上に配置されてもよい。1つ以上の実施の形態において、膜110は、一方または両方の主面122、124上に配置されることに加えて、またはその代わりに、ガラス基板120の1つ以上の副面(図示せず)上に配置されていてもよい。1つ以上の実施の形態において、膜110は、目に容易に見える巨視的引っ掻き傷または欠陥を含まない。
【0079】
1つ以上の実施の形態において、膜は、ここに記載された機構により、そのような膜とガラス基板を備えた物品の平均曲げ強度を低下させることがある。1つ以上の実施の形態において、そのような機構は、膜が、その膜に発生した亀裂がガラス基板に橋渡しするために、物品の平均曲げ強度を低下させることがある例を含む。他の実施の形態において、その機構は、膜が、ガラス基板に発生した亀裂がその膜に橋渡しするために、物品の平均曲げ強度を低下させることがある例を含む。1つ以上の実施の形態の膜は、2%以下の破壊歪み、またはここに記載されたガラス基板の破壊歪みよりも小さい破壊歪みを示すことがある。これらの属性のいずれかを含む膜は、脆性であると特徴付けられるであろう。
【0080】
1つ以上の実施の形態によれば、膜110は、ガラス基板120の破壊歪みより低い破壊歪み(または亀裂開始歪みレベル)を有することがある。例えば、膜110は、約2%以下、約1.8%以下、約1.6%以下、約1.5%以下、約1.4%以下、約1.2%以下、約1%以下、約0.8%以下、約0.6%以下、約0.5%以下、約0.4%以下または約0.2%以下の破壊歪みを有することがある。いくつかの実施の形態において、膜110の破壊歪みは、500MPa超の表面圧縮応力および約15μm超の圧縮層の深さを有する強化ガラス基板120の破壊歪みより低いことがある。1つ以上の実施の形態において、膜110は、ガラス基板120の破壊歪みよりも、少なくとも0.1%低いまたは少ない、もしくはある場合には、少なくとも0.5%低いまたは少ない破壊歪みを有することがある。1つ以上の実施の形態において、膜110は、ガラス基板120の破壊歪みよりも、少なくとも0.15%、0.2%、0.25%、0.3%、0.35%、0.4%、0.45%、0.55%、0.6%、0.65%、0.7%、0.75%、0.8%、0.85%、0.9%、0.95%または1%低いまたは小さい破壊歪みを有することがある。
【0081】
例示の膜110は、少なくとも25GPaの弾性率および/または少なくとも1.75GPaの硬度を有することがあるが、この範囲から外れたいくつかの組合せも可能である。いくつかの実施の形態において、膜110は、50GPa以上またさらには70GPa以上の弾性率を有することがある。例えば、その膜の弾性率は、55GPa、60GPa、65GPa、75GPa、80GPa、85GPa以上であることがある。1つ以上の実施の形態において、膜110は、3.0GPa超の硬度を有することがある。例えば、膜110は、5GPa、5.5GPa、6GPa、6.5GPa、7GPa、7.5GPa、8GPa、8.5GPa、9GPa、9.5GPa、10GPa以上の硬度を有することがある。これらの弾性率値および硬度値は、膜の弾性率および硬度を測定するために一般に使用される公知のダイヤモンド・ナノインデンテーション法を使用して、そのような膜110について測定することができる。例示のダイヤモンド・ナノインデンテーション法では、バーコビッチ・ダイヤモンド圧子を利用してよい。
【0082】
ここに記載された膜110は、約10MPa・m
1/2未満、またはある場合には5MPa・m
1/2未満、またはある場合には1MPa・m
1/2未満の破壊靭性を示すこともある。例えば、その膜は、4.5MPa・m
1/2、4MPa・m
1/2、3.5MPa・m
1/2、3MPa・m
1/2、2.5MPa・m
1/2、2MPa・m
1/2、1.5MPa・m
1/2、1.4MPa・m
1/2、1.3MPa・m
1/2、1.2MPa・m
1/2、1.1MPa・m
1/2、0.9MPa・m
1/2、0.8MPa・m
1/2、0.7MPa・m
1/2、0.6MPa・m
1/2、0.5MPa・m
1/2、0.4MPa・m
1/2、0.3MPa・m
1/2、0.2MPa・m
1/2、0.1MPa・m
1/2以下の破壊靭性を有することもある。
【0083】
ここに記載された膜110は、約0.1kJ/m
2未満、またはある場合には0.01kJ/m
2未満の臨界歪みエネルギー解放率(G
IC=K
IC2/E)も有することがある。1つ以上の実施の形態において、膜110は、0.09kJ/m
2、0.08kJ/m
2、0.07kJ/m
2、0.06kJ/m
2、0.05kJ/m
2、0.04kJ/m
2、0.03kJ/m
2、0.02kJ/m
2、0.0075kJ/m
2、0.005kJ/m
2、0.0025kJ/m
2以下の臨界歪みエネルギー解放率を有することがある。
【0084】
1つ以上の実施の形態において、膜110は複数の層を含むことがある。1つ以上の実施の形態において、膜の複数の層の各々は、ここに他に記載されたように、物品の平均曲げ強度への層の影響および/または膜の破壊歪み、破壊靭性、または臨界歪みエネルギー解放率の値の1つ以上に基づいて、脆性であると特徴付けられることがある。1つの変形において、膜110の層は、弾性率および/または破壊靭性などの、同一の性質を有する必要はない。別の変形において、膜110の層は、互いに異なる材料を含んでもよい。
【0085】
1つ以上の実施の形態において、膜110は、膜に固有の、もしくは堆積または形成中に膜に導入された引張応力を有してもよい。ある場合には、膜110への引張応力は、他の所望の性質を維持しながら、避けるのが難しいことがある。この引張応力は、膜110により容易に亀裂を生じさせたり、破損したりし得る。例えば、ある場合には、この引張応力は、膜110の破壊歪み(亀裂開始歪み)を低下させることがある。さらに、膜110で始まる亀裂は、一部には、引張応力のために、適した条件下で、膜110からガラス基板120へとより容易に橋渡しし得る。その上、または代わりに、膜110の引張応力は、ガラス基板120で始まる亀裂が、適した条件下で、ガラス基板120から膜110へとより容易に橋渡しし得るので、膜110により容易に亀裂を生じさせたり、破損したりするであろう。以下により詳しく記載されるように、亀裂軽減層130は、膜110を堆積または形成中に緩和させ、ここで、膜は、亀裂軽減層130がガラス基板120上に配置された後に、ガラス基板120上に配置される。その上、または代わりに、亀裂軽減層130は、荷重の印加中(すなわち、リング・オン・リング試験中に膜が経験する屈曲などの、膜に外力が印加されている最中)、または物品100の屈曲中、膜110に局部的に生じる応力の量を低減させることがある。
【0086】
膜110の組成または材料は、特に制限されない。膜110の材料のいくつかの非限定的例としては、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5などの酸化物;SiO
xN
y、SiAl
xO
yN
z、およびAlO
xN
yなどの酸窒化物;SiN
x、AlN
x、立方晶窒化ホウ素、およびTiN
xなどの窒化物;SiC、TiC、およびWCなどの炭化物;酸炭化物およびオキシカーボナイトライドなどの先の組合せ(例えば、SiC
xO
yおよびSiC
xO
yN
z);SiおよびGeなどの半導体材料;インジウムスズ酸化物、酸化スズ、フッ素化酸化スズ、アルミニウム亜鉛酸化物、または酸化亜鉛などの透明導電体;カーボンナノチューブまたはグラフェン添加酸化物;銀または他の金属添加酸化物;高硬化シロキサンおよびシルセスキオキサンなどの高ケイ質高分子;ダイヤモンドまたはダイヤモンド状炭素材料;または破壊挙動を示すことのできる選択された金属膜が挙げられる。
【0087】
膜110は、真空蒸着技法、例えば、化学蒸着(例えば、プラズマ支援化学蒸着または大気圧化学蒸着)、物理蒸着(例えば、反応性または非反応性スパッタリングまたはレーザアブレーション)、熱蒸発、抵抗蒸発または電子ビーム蒸発、または原子層堆積によって、ガラス基板120上に配置することができる。膜110は、液体に基づく技法、例えば、ゾルゲルコーティング、高分子コーティング法を使用して、例えば、中でも、スピンコーティング法、スロットドローコーティング法、スライドコーティング法、巻線ロッドコーティング法、ブレード/ナイフコーティング法、エアナイフコーティング法、カーテンコーティング法、グラビアコーティング法、およびローラーコーティング法を使用して、ガラス基板120の1つ以上の主面122、124上に配置してもよい。いくつかの実施の形態において、膜110とガラス基板120との間、ガラス基板120と亀裂軽減層130との間、亀裂軽減層130の複数の層(もしあれば)の間、膜110の複数の層(もしあれば)の間および/または膜110と亀裂軽減層130との間に、シラン系材料などの接着促進剤を使用することが望ましいことがある。1つ以上の代わりの実施の形態において、膜110は、転写層としてガラス基板120上に配置してもよい。
【0088】
膜110の厚さは、物品100の使用目的に応じて様々であり得る。1つの実施の形態において、膜110の厚さは、約0.01μmから約0.5μmまたは約0.01μmから約20μmの範囲にあるであろう。別の実施の形態において、膜110は、約0.05μmから約10μm、約0.05μmから約0.5μm、約0.01μmから約0.15μm、または約0.015μmから約0.2μmの範囲の厚さを有してよい。
【0089】
いくつかの実施の形態において、
(1)光学干渉効果を最小にするために、ガラス基板120、亀裂軽減層130および/または他の膜または層のいずれかの屈折率と同様の屈折率、
(2)反射防止干渉効果を達成するために調整された屈折率(実および/または虚成分)、および/または
(3)UVまたはIR遮断または反射を達成するため、または着色/色付け効果を達成するためなどの、波長選択的反射効果または波長選択的吸収効果を達成するために調整された屈折率(実および/または虚成分)、
のいずれかを有する材料を膜110に含むことが都合よいであろう。1つ以上の実施の形態において、膜110は、ガラス基板120の屈折率より高いおよび/または亀裂軽減層130の屈折率より高い屈折率を有することがある。1つ以上の実施の形態において、その膜は、約1.7から約2.2の範囲、または約1.4から約1.6の範囲、または約1.6から約1.9の範囲の屈折率を有することがある。
【0090】
膜110は、多数の機能を果たしても、膜110以外の機能それとも膜110と同じ機能を果たす膜または層と一体化されてもよい。膜110は、UVまたはIR光反射または吸収層、反射防止層、防眩層、防汚層、自浄層、耐引掻性層、障壁層、パッシベーション層、気密層、拡散ブロック層、耐指紋性層などを含んでもよい。さらに、膜110は、導電層または半導体層、薄膜トランジスタ層、EMI遮蔽層、破損センサ、アラームセンサ、エレクトロクロミック材料、フォトクロミック材料、タッチセンシング層、または情報ディスプレイ層を含んでもよい。膜110および/または上述した層のいずれも、着色剤または色合い(tint)を含んでもよい。情報ディスプレイ層を物品100に組み込む場合、物品100は、タッチセンサ式ディスプレイ、透明ディスプレイ、またはヘッドアップディスプレイの一部を形成することがある。膜110が、光の異なる波長または色を選択的に透過、反射または吸収する干渉機能を果たすことが望ましいであろう。例えば、膜110は、ヘッドアップディスプレイ用途において目的の波長を選択的に反射することがある。
【0091】
膜110の機能特性としては、硬度、弾性率、破壊歪み、耐摩耗性、機械的耐久性、摩擦係数、導電率、電気抵抗率、電子移動度、電子または正孔キャリアドーピング、光屈折率、密度、不透明度、透明度、反射率、吸光係数、透過率などの、光学的性質、電気的性質および/または機械的性質が挙げられるであろう。これらの機能特性は、膜110がガラス基板120、亀裂軽減層130および/または物品100に含まれる他の膜と組み合わされた後に、実質的に維持されるか、またはさらに改善される。
【0092】
亀裂軽減層
1つ以上の実施の形態による亀裂軽減層130は、膜110の臨界歪みエネルギー解放率より大きい臨界歪みエネルギー解放率(G
IC=K
IC2/E)を有することがある。1つ以上の実施の形態において、膜110は、約0.1kJ/m
2以下の臨界歪みエネルギー解放率を有することがあり、亀裂軽減層130は、約0.1kJ/m
2超の臨界歪みエネルギー解放率を有することがある。亀裂軽減層130は、約1.0kJ/m
2以上の臨界歪みエネルギー解放率を有することがある。特定の実施の形態において、亀裂軽減層130は、約0.05kJ/m
2から約100kJ/m
2の範囲の臨界歪みエネルギー解放率を有することがあるのに対し、膜110は、約0.05kJ/m
2未満の臨界歪みエネルギー解放率を有することがある。亀裂軽減層130は、約0.05kJ/m
2から約90kJ/m
2、約0.5kJ/m
2から約80kJ/m
2、約0.5kJ/m
2から約70kJ/m
2、約0.5kJ/m
2から約60kJ/m
2、約0.5kJ/m
2から約50kJ/m
2、約0.5kJ/m
2から約40kJ/m
2、約0.5kJ/m
2から約30kJ/m
2、約0.5kJ/m
2から約20kJ/m
2、約0.5kJ/m
2から約10kJ/m
2、約0.5kJ/m
2から約5kJ/m
2、約1kJ/m
2から約100kJ/m
2、約5kJ/m
2から約100kJ/m
2、約10kJ/m
2から約100kJ/m
2、約20kJ/m
2から約100kJ/m
2、約30kJ/m
2から約100kJ/m
2、約40kJ/m
2から約100kJ/m
2、約50kJ/m
2から約100kJ/m
2、約60kJ/m
2から約100kJ/m
2、約70kJ/m
2から約100kJ/m
2、約80kJ/m
2から約100kJ/m
2、約90kJ/m
2から約100kJ/m
2、約0.05kJ/m
2から約1kJ/m
2、約1kJ/m
2から約5kJ/m
2、約5kJ/m
2から約10kJ/m
2、約10kJ/m
2から約20kJ/m
2、約20kJ/m
2から約30kJ/m
2、約30kJ/m
2から約40kJ/m
2、約40kJ/m
2から約50kJ/m
2、約50kJ/m
2から約60kJ/m
2、約60kJ/m
2から約70kJ/m
2、約70kJ/m
2から約80kJ/m
2、および約80kJ/m
2から約90kJ/m
2の範囲の臨界歪みエネルギー解放率を有することがある。
【0093】
そのような実施の形態において、亀裂軽減層130は、膜110よりも大きい臨界歪みエネルギー解放率を有し、したがって、膜110とガラス基板120の一方から、膜110とガラス基板120の他方への亀裂の橋渡しにより歪みエネルギーを解放することができる。そのような歪みエネルギー解放により、亀裂が、膜110とガラス基板120との間の界面を横切って橋渡しするのを停止する、あるいは、亀裂軽減層130を通って橋渡しすることもある、膜110とガラス基板120との間の界面をすでに橋渡ししている亀裂の成長を抑制することがある。亀裂成長のこの抑制は、例えば、亀裂軽減層を持たない同様の物品と比べて、著しい亀裂成長を誘起するために、より高い要求応力、歪みまたは荷重レベルをもたらすことがある。いくつかの実施の形態において、亀裂成長のこの抑制は、橋渡しする亀裂の先端での応力拡大係数がより低いことから生じるであろう。この低い応力拡大係数は、亀裂軽減層の比較的低い弾性率または低い降伏応力または著しい塑性変形により誘起されるであろう。1つ以上の実施の形態において、これらの亀裂軽減機構の1つ以上は、亀裂が始まるところ(すなわち、膜110またはガラス基板120)には関係なく起こる。
【0094】
1つ以上の実施の形態によれば、亀裂軽減層130は、膜110の平均破壊歪みより大きい平均破壊歪みを有することがある。1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130は、約0.5%、0.7%、1%、1.5%、2%、またさらには4%以上の平均破壊歪みを有することがある。亀裂軽減層130は、0.6%、0.8%、0.9%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.2%、2.4%、2.6%、2.8%、3%、3.2%、3.4%、3.6%、3.8%、5%または6%以上の平均破壊歪みを有することがある。1つ以上の実施の形態において、膜110は、1.5%、1.0%、0.7%、0.5%、またさらには0.4%以下の平均破壊歪み(亀裂開始歪み)を有することがある。膜110は、1.4%、1.3%、1.2%、1.1%、0.9%、0.8%、0.6%、0.3%、0.2%、0.1%以下の平均破壊歪みを有することがある。ガラス基板120の平均破壊歪みは、膜110の平均破壊歪みより大きいことがあり、いくつかの実施の形態において、亀裂軽減層130の平均破壊歪みより大きいことがある。いくつかの特定の実施の形態において、亀裂軽減層130は、ガラス基板上の亀裂軽減層のどのようなマイナスの機械的効果を最小にするために、ガラス基板より大きい平均破壊歪みを有することがある。
【0095】
1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130は、1MPa・m
1/2以上、例えば、2MPa・m
1/2以上、または5MPa・m
1/2以上の破壊靭性を有することがある。亀裂軽減層130は、約1MPa・m
1/2から約5MPa・m
1/2、または約2MPa・m
1/2から約4MPa・m
1/2の範囲の破壊靭性を有することもある。1つ以上の特定の実施の形態において、亀裂軽減層130は、6MPa・m
1/2、7MPa・m
1/2、8MPa・m
1/2、9MPa・m
1/2、10MPa・m
1/2以上の破壊靭性を有することがある。そのような実施の形態において、亀裂軽減層130の平均破壊歪みおよび/または破壊靭性特性により、亀裂が、膜110とガラス基板120との間の界面を横切って橋渡しするのを防ぐ。1つ以上の実施の形態において、この亀裂軽減機構は、亀裂が始まるところ(すなわち、膜110またはガラス基板120)には関係なく起こる。あるいは、亀裂軽減層130の破壊靭性は、以下により詳しく記載するように、低い靱性の亀裂軽減層を提供するために低くてもよい。そのような実施の形態において、亀裂軽減層130は、ガラス基板120または膜いずれかの破壊靭性の約50%または50%未満である破壊靭性を示すことがある。より特別な実施の形態において、亀裂軽減層130の破壊靭性は、ガラス基板120または膜いずれかの破壊靭性の約25%または25%未満であることがある。例えば、亀裂軽減層130は、約1MPa・m
1/2以下、0.75MPa・m
1/2以下、0.5MPa・m
1/2以下、0.4MPa・m
1/2以下、0.3MPa・m
1/2以下、0.25MPa・m
1/2以下、0.2MPa・m
1/2以下、およびそれらの間の全ての範囲および部分的な範囲の破壊靭性を示すことがある。
【0096】
亀裂軽減層130は、ガラス基板120の屈折率より高い屈折率を有することがある。1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130の屈折率は、膜110の屈折率より低いことがある。より特別な実施の形態において、亀裂軽減層130の屈折率は、ガラス基板120の屈折率と膜110の屈折率の間であることがある。例えば、亀裂軽減層130の屈折率は、約1.45から約1.95、約1.5から約1.8、または約1.6から約1.75の範囲にあることがある。あるいは、亀裂軽減層は、ガラス基板と実質的に等しい屈折率、または可視波長範囲の広い範囲(例えば、約450から650nm)に亘りガラス基板より0.05屈折率単位以下、大きいか小さい屈折率を有することがある。
【0097】
1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130は、高温プロセスに耐えることができる。そのようなプロセスとしては、化学蒸着(例えば、プラズマ支援化学蒸着)、物理蒸着(例えば、反応性または非反応性スパッタリングまたはレーザアブレーション)、熱蒸発または電子ビーム蒸発、および/または原子層堆積などの真空蒸着プロセスが挙げられる。1つ以上の特定の実施の形態において、亀裂軽減層は、膜110および/またはガラス基板120上に配置される他の膜が、真空蒸着によって亀裂軽減層130上に堆積される、真空蒸着プロセスに耐えることができる。ここに用いたように、「耐える」という用語は、100℃、200℃、300℃、400℃を超える温度および潜在的なさらに高い温度に対する亀裂軽減層130の耐性を含む。いくつかの実施の形態において、亀裂軽減層130は、膜110および/またはガラス基板上(および亀裂軽減層130上)の他の膜の堆積後、亀裂軽減層130が10%以下、8%以下、6%以下、4%以下、2%以下または1%以下の質量損失を経験した場合、真空蒸着または温度処理プロセスに耐えると考えてよい。亀裂軽減層が質量損失を経験する蒸着プロセス(または蒸着プロセス後の試験)としては、約100℃以上、200℃以上、300℃以上、400℃以上の温度;特定の気体(例えば、酸素、窒素、アルゴンなど)が豊富な環境;および/または蒸着が、高真空(例えば、10
-6トル)、大気条件下および/またはそれらの間の圧力(例えば、10ミリトル)で行われることがある環境が挙げられる。ここに論じられるように、亀裂軽減層130を形成するのに使用される材料は、高温許容度(すなわち、真空蒸着プロセスなどの高温プロセスに耐える能力)および/またはその環境許容度(すなわち、特定の気体が豊富な環境または特定の圧力の環境に耐える能力)について、特別に選択してよい。これらの許容度としては、高温許容度、高真空許容度、低真空ガス放出、プラズマまたはイオン化ガスに対する高い許容度、オゾンに対する高い許容度、UVに対する高い許容度、溶媒に対する高い許容度、もしくは酸または塩基に対する高い許容度が挙げられるであろう。ある場合には、亀裂軽減層130は、ASTM E595によるガス放出試験に合格するように選択されることがある。
【0098】
1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130は、ガラス基板120の平均曲げ強度の低下を防ぐ。別の実施の形態において、亀裂軽減層130は、膜110がガラス基板120の平均曲げ強度を低下させるのを防ぐ。亀裂軽減層130は、亀裂が膜110とガラス基板120との間で橋渡しするのを防ぐことがある。1つ以上の実施の形態の亀裂軽減層130は、膜110の平均破壊歪みを増加させることがあり、それゆえ、ガラス基板120の平均曲げ強度の低下を防ぐ。1つ以上の代わりの実施の形態において、亀裂軽減層130は、そのような亀裂軽減層を備えていないが、ここに記載したようなガラス基板と膜を備えた物品と比べた場合、物品100の平均曲げ強度を増加させる。
【0099】
亀裂軽減層130は、ある場合には、ガラス基板120の平均破壊歪みの低下を防ぐことがあるのに対し、他の場合には、亀裂軽減層130は、膜110がガラス基板120の平均破壊歪みを低下させるのを防ぐことがある。別の実施の形態において、亀裂軽減層130は、亀裂が膜110とガラス基板120との間で橋渡しするのを防ぎ、それゆえ、膜110がガラス基板120の平均破壊歪み低下させるのを防ぐ。1つ以上の代わりの実施の形態において、亀裂軽減層130は、物品100の平均破壊歪みを、亀裂軽減層を備えていないが、ここに記載したようなガラス基板と膜を備えた物品の平均曲げ強度と比べた場合、この平均破壊歪みを増加させる。
【0100】
1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130は、低い弾性率および/または低い硬度を有することがある。低弾性率材料および低硬度材料は、多くの低弾性率材料は低硬度材料でもあるので、実質的に重複する。しかしながら、これらの2つの性質(すなわち、低弾性率および低硬度)は、亀裂が、膜110とガラス基板120との間で橋渡しする前に、緩和する(すなわち、逸らす、停止させる、または鈍化させる)ことができる2つの異なる機構または方法を強調するので、ここでは区別される。1つ以上の実施の形態において、低弾性率の亀裂軽減層は、亀裂軽減層130を通って橋渡ししていることもある、膜110とガラス基板120との間の界面を横切ってすでに橋渡ししている亀裂の成長を抑制することがある。亀裂成長のこの抑制は、例えば、亀裂軽減層を持たない同様の物品と比べて、著しい亀裂成長を誘起するために、より高い要求応力、歪みまたは荷重レベルをもたらすことがある。亀裂軽減層130は、亀裂軽減層130が、亀裂を膜110とガラス基板120の一方から膜110とガラス基板120の他方へと駆動または伝搬させることができないほど低い弾性率を有することがある。いくつかの実施の形態において、亀裂成長のこの抑制は、橋渡しする亀裂の先端での低下した応力拡大係数から生じるであろう。この低下した応力拡大係数は、亀裂軽減層の比較的低い弾性率により誘起されるであろう。そのような亀裂軽減層は、ガラス基板よりも小さい、約50GPa未満、約30GPa未満、約15GPa未満、またさらには約5GPa未満の弾性率を有することがある。応力拡大係数は、亀裂成長の駆動力を示すものとして受けとめられている。応力拡大係数の減少は、膜からガラス基板への亀裂成長を遅延させるまたは抑制すると考えられる(低弾性率層を持たない場合に必要とされるであろうものよりも、より高い荷重レベルがガラス基板内の亀裂成長に要求されることを意味する)。
【0101】
亀裂軽減層130は、約3.0GPa未満、2.0GPa未満、またさらには1.0GPa未満の硬度を有することがある。これらの弾性率値および硬度値は、膜の弾性率および硬度を決定するために通常使用される公知のダイヤモンド・ナノインデンテーション法を使用して測定することができる。例示のダイヤモンド・ナノインデンテーション法では、バーコビッチ・ダイヤモンド圧子が使用される。
【0102】
1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130は、低い降伏応力、低い剛性率、塑性または延性変形、または破壊せずに歪みエネルギー解放するための他の公知の性質も示すであろう。亀裂軽減層が低降伏応力を示す実施の形態において、その降伏応力は、500MPa未満、100MPa未満、またさらには10MPa未満であることがある。
【0103】
亀裂軽減層130が、低い弾性率、低い降伏応力、または塑性および/または延性変形挙動を示す実施の形態において、この亀裂軽減層130は、歪みエネルギーを解放し、膜110とガラス基板120との間の亀裂の橋渡しまたは伝搬を防ぐように変形することができる。これらの延性亀裂軽減層は、亀裂軽減層について先に列挙した高い破壊歪み値を示すこともある。
【0104】
例示の亀裂軽減層130は、高分子膜であることがある。そのような膜は、堆積された膜110内の応力の高い値を支持できない低い弾性率または低いTgを有することがあり、それゆえ、膜110を部分的に緩和させ、その中の引張応力を低下させながら、ガラス基板120への応力の伝達を最小にする。これにより、高分子膜を持たない筋書きと比べて、ガラス基板上の傷の応力拡大係数を減少させる。
【0105】
1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130は、膜110で始まる亀裂とガラス基板120で始まる亀裂の整合を物理的に防ぐ。言い換えると、膜110に存在する亀裂は、ガラス基板120に存在する亀裂と整合できない。何故ならば、亀裂軽減層130がそのような整合を物理的に防ぐからである。あるいは、または加えて、亀裂軽減層130は、亀裂伝搬のための蛇行した経路を提供して、歪みエネルギー解放のための代わりの経路を提供し、ガラス基板120と膜110との間の亀裂の橋渡しを最小にするかまたは防ぐ、人工的な微細構造を有することがある。
【0106】
1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130は、SiO
2、SiO、SiO
x、Al
2O
3などの多孔質酸化物;TiO
2、ZrO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、GeO
2および当該技術分野で公知の類似の材料;この中に他の場所で述べられた膜の多孔質版、例えば、多孔質インジウムスズ酸化物、多孔質アルミニウム亜鉛酸化物、または多孔質フッ素化酸化スズ;多孔質窒化物または炭化物、例えば、Si
3N
4、AlN、TiN、TiC;多孔質酸炭化物およびオキシカーボナイトライド、例えば、SiC
xO
yおよびSiC
xO
yN
z;SiまたはGeなどの多孔質半導体;SiO
xN
y、AlO
xN
y、またはSiAl
xO
yN
zなどの多孔質酸窒化物;Al、Cu、Ti、Fe、Ag、Au、および他の金属などの多孔質金属;強靱またはナノ構造無機物質(多孔質または非多孔質であってもよい)、例えば、酸化亜鉛、特定のAl合金、Cu合金、鉄鋼、または安定化正方晶ジルコニア(転移強化、部分安定化、イットリア安定化、セリア安定化、カルシア安定化、およびマグネシア安定化ジルコニアを含む);ジルコニア強化セラミック(ジルコニア強化アルミナを含む);セラミック−セラミック複合体;炭素−セラミック複合体;繊維またはウィスカ強化セラミックまたはガラスセラミック(例えば、SiCまたはSi
3N
4繊維またはウィスカ強化セラミック);金属−セラミック複合体;多孔質または非多孔質ハイブリッド有機−無機材料、例えば、ナノ複合材料、高分子−セラミック複合体、高分子−ガラス複合体、繊維強化高分子、炭素−ナノチューブ−またはグラフェン−セラミック複合体、シルセスキオキサン、ポリシルセスキオキサン、または「ORMOSIL」(有機修飾シリカまたはケイ酸塩)、および/または様々な多孔質または非多孔質高分子材料、例えば、シロキサン、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリアクリル酸、PI(ポリイミド)、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、PAI(ポリアミドイミド)、ポリカーボネート、ポルスルホン、PSUまたはPPSU(ポリアリールスルホン)、フルオロポリマー、フッ素エラストマー、ラクタム、多環式オレフィン、および以下に限られないが、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、PMMA(ポリ(メチルメタクリレート))、BCB(ベンゾシクロブテン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PES(ポリエーテルスルホン)およびPAR(ポリアリレート)などのポリ(アリーレンエーテル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート=ポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート))、FEP(フッ素化エチレンプロピレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(ペルフルオロアルコキシポリマー、例えば、商標名のテフロン(登録商標)、Neoflon(登録商標))、および類似の材料を含む同様の材料を含んでよい。他の適切な材料としては、変性ポリカーボネート、あるタイプのエポキシ、シアン酸エステル、PPS(ポリフェニルスルフィド)、ポリフェニレン、ポリピロロン、ポリキノキサリン、およびビスマレイミドが挙げられる。いくつかの実施の形態において、適切なポリアクリレートとしては、ポリ(ブチルアクリレート)が挙げられる。ある場合には、シロキサン、シルセスキオキサン、ポリイミド、BCB、フルオロポリマー、およびここに列挙されたかまたは当該技術分野で公知の他のものなどの高温高分子材料を選択することが望ましいであろう。何故ならば、これらの材料は、膜110の堆積および/または硬化のための幅広い温度に耐えるからである。BCBポリマーの例としては、Dow Chemical社からのCyclotene(商標)樹脂が挙げられる。ポリイミドおよびポリイミド前駆体の例としては、HD MicrosystemsからのPyralin(商標)樹脂またはSigma Aldrichからのエレクトロニクスグレードのポリアミド酸溶液(カタログ番号431206)が挙げられる。前記ポリイミドとしては、米国特許第5325219号明細書および関連文献、または“Preparation and Properties of a High Temperature, Flexible and Colorless ITO Coated Polyimide Substrate”, European Polymer Journal, 43, p.3368, 2007;“Flexible Organic Electroluminescent Devices Based on Fluorine-Containing Colorless Polyimide Substrates”, Advanced Materials, 14, 18, p. 1275, 2002;および“Alignment layer effects on thin liquid crystal cells,” Appl. Phys. Lett. 92, 061102, 2008などの当該技術分野に公知の他の研究に開示されたものなどのフッ素化または非フッ素化ポリイミドが挙げられるであろう。シルセスキオキサンの例としては、HoneywellからのAccuglass(登録商標)Spin−on−GlassまたはDow CorningからのFOx(登録商標)Flowable Oxideが挙げられる。
【0107】
亀裂軽減層130は、様々な方法によって、膜110とガラス基板120との間に配置してよい。亀裂軽減層130は、真空蒸着技法、例えば、化学蒸着(例えば、プラズマ支援化学蒸着)、物理蒸着(例えば、反応性または非反応性スパッタリングまたはレーザアブレーション)、熱蒸発、抵抗蒸発または電子ビーム蒸発、および/または原子層堆積を使用して、配置することができる。亀裂軽減層130は、液体に基づく堆積技法、例えば、ゾルゲルコーティングまたは高分子コーティング法を使用して、例えば、中でも、スピンコーティング法、噴霧コーティング法、スロットドローコーティング法、スライドコーティング法、巻線ロッドコーティング法、ブレード/ナイフコーティング法、エアナイフコーティング法、カーテンコーティング法、ローラーコーティング法、グラビアコーティング法、および当該技術分野で公知の他の方法を使用して、配置してもよい。
【0108】
1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130は、多孔質層、またはより詳しくは、ナノ多孔質層を含むことがある。ここに用いたように、「ナノ多孔質」という用語は、従来定義された「細孔」(例えば、開口または空隙)を有する材料を含み、同じまたは同様の化学組成を有する十分に緻密な材料に予測されるより低い密度またはより低い弾性率により特徴付けられる材料も含む。そのように、ナノ多孔質層中の「細孔」は、柱状空隙、原子空孔、球状細孔、粒間または粒子間の隙間、低密度または変動する密度の領域、もしくはナノ多孔質層の密度または弾性率の巨視的減少をもたらす任意の他の形状を取ることがある。気孔率の容積分率は、ナノスケールの細孔を有し、光拡散がないか、または光拡散が非常に低い材料について、公知の方法を使用した屈折率測定から推測できる。1つ以上の実施の形態において、気孔率の容積分率は、約5%超、約10%超、または約20%超であることがある。いくつかの実施の形態において、気孔率の容積分率は、取扱い中または最終用途でのナノ多孔質層の機械的耐久性を維持するために、約90%未満、または約60%未満であることがある。
【0109】
ナノ多孔質層は、実質的に光学的透明であり、光拡散がない、例えば、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、およびそれらの間の全ての範囲および部分的な範囲の光透過ヘイズを有することがある。ナノ多孔質層の透過ヘイズは、ここに定義されるように、細孔の平均径を制御することによって、制御されることがある。ナノ多孔質層における例示の平均細孔径は、200nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下、5nm以下およびそれらの間の全ての範囲および部分的な範囲を含むことがある。これらの細孔径は、光拡散測定から推測できるか、または透過電子顕微鏡法(TEM)および他の公知の方法を使用して、直接解析できる。いくつかの実施の形態のナノ多孔質層は、低弾性率を有することがあり、この中の他の場所に記載されたように、亀裂の橋渡しを防ぐことにより、または亀裂成長を抑制することにより、物品を強化する働きをすることがある。
【0110】
他の場合には、ナノ多孔質層は、膜およびガラス基板の一方から始まり、膜およびガラス基板の他方に向かって伝搬する1つ以上の亀裂の先端での応力拡大係数(K
IC)を減少させることがある。低弾性率の亀裂軽減層がない場合、亀裂先端での応力拡大係数は、膜内の亀裂のサイズが膜の厚さに近づくに連れて(例えば、膜からの亀裂がガラス基板との界面に近づくに連れて)、著しく増加する。亀裂先端での応力拡大係数が増加するこの条件は、膜からガラス基板への亀裂の貫通に有利に働く。逆に、亀裂が膜および低弾性率の亀裂軽減層を通って成長するまたは伝搬するある場合には、亀裂が低弾性率の亀裂軽減層とガラス基板との間の界面に近づくに連れて、亀裂先端での応力拡大係数は著しく減少する。亀裂先端での応力拡大係数の減少は、亀裂軽減層が、ガラス基板の弾性率より低い弾性率を有する場合に、特に顕著である。低弾性率の亀裂軽減層の存在により、応力拡大係数が減少すると、ガラス基板中に亀裂が成長する傾向が抑制され、それゆえ、低弾性率の亀裂軽減層を持たない同様の物品と比べて、物品の全体的な平均曲げ強度が増加する。
【0111】
亀裂軽減層がナノ多孔質層を備えた1つ以上の実施の形態において、その亀裂軽減層は、膜および/または亀裂軽減層に亀裂の成長または亀裂の形成を生じる荷重プロセス中に、少なくとも部分的に剥離することがある。この剥離は、亀裂軽減層とガラス基板との間の界面で生じる。他の実施の形態において、亀裂軽減層と膜との間の界面で、その膜は、膜に亀裂の成長または形成を生じる荷重プロセス中に、少なくとも部分的に剥離することがある。理論により拘束されるものではないが、亀裂軽減層および/または膜の剥離または部分的剥離により、ガラス基板における応力集中が軽減される。したがって、ガラス基板における応力集中が軽減されることにより、ガラス基板(および最終的には物品)が破壊するのに要する荷重または歪みレベルが上昇すると考えられる。このようにして、ナノ多孔質層を備えた亀裂軽減層は、亀裂軽減層を持たない物品と比べて、その物品の平均曲げ強度の減少を防ぐか、または平均曲げ強度を増加させる。
【0112】
1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層は、膜またはガラス基板から始まり、亀裂軽減層に入る亀裂を、亀裂軽減層内に留めることがある。代わりに、またはそれに加え、亀裂軽減層は、膜とガラス基板の内の一方から始まる亀裂が、そのような膜とガラス基板の他方へ伝搬するのを効果的に閉じ込める。これらの挙動は、亀裂の逸れとして個別にまたは集合的に特徴付けられるであろう。亀裂軽減層は、膜またはガラス基板から始まり、亀裂軽減層に入る亀裂を、ガラス基板または膜に伝搬させる代わりに、その亀裂が亀裂軽減層中に逸れ、その中に留まる良好な状態を作り出すことによって、亀裂軽減層内に留まらせることがある。1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層は、膜またはガラス基板から始まり、亀裂軽減層に入る亀裂を、ガラス基板または膜に伝搬させる代わりに、亀裂が亀裂軽減層中におよび/またはその中を通って伝搬するための、それほど蛇行していない経路を作り出すことによって、亀裂軽減層内に留まらせることがある。1つ以上の実施の形態において、ナノ多孔質層を備えることができる、亀裂軽減層は、低い破壊靭性および/または低い臨界歪みエネルギー解放率を示す低靭性層を提供することがある。これらの属性(すなわち、低い破壊靭性および低い臨界歪みエネルギー解放率)の1つ以上により、亀裂軽減層を通って膜および/またはガラス基板に入る代わりに、この亀裂は亀裂軽減層中に逸れることがある。例えば、亀裂軽減層130は、約1MPa・m
1/2以下、0.75MPa・m
1/2以下、0.5MPa・m
1/2以下、0.4MPa・m
1/2以下、0.3MPa・m
1/2以下、0.25MPa・m
1/2以下、0.2MPa・m
1/2以下、およびそれらの間の全ての範囲および部分的な範囲の破壊靭性を示すことがある。他の例において、亀裂軽減層は、ガラス基板の臨界歪みエネルギー解放率の0.25倍未満または0.5倍未満の歪みエネルギー解放率を示すことがある。特定の実施の形態において、亀裂軽減層の臨界歪みエネルギー解放率は、約0.05kJ/m
2未満、約0.005kJ/m
2未満、約0.003kJ/m
2未満、約0.002kJ/m
2未満、約0.001kJ/m
2未満であり得るが、いくつかの実施の形態において、約0.0001kJ/m
2超(すなわち、約0.1J/m
2超)であり得る。亀裂軽減層がナノ多孔質層を備えた実施の形態において、膜とガラス基板の内の一方から始まる亀裂は、亀裂軽減層により逸らされ、亀裂軽減層130とガラス基板120により形成された界面および膜110と亀裂軽減層130により形成された界面に実質的に平行な方向に、亀裂軽減層を通って伝搬することがある。そのような実施の形態において、亀裂軽減層130は、亀裂伝搬の好ましい経路を提供する。このようにして、亀裂は、膜とガラス基板との間の橋渡しから逸らされる。
【0113】
1つ以上の実施の形態において、ナノ多孔質層は、無機材料を含むことがある。1つ以上の特定の実施の形態において、亀裂軽減層は、ナノ多孔質層のみを含み、全てナノ多孔質である。このナノ多孔質層は、無機材料を含むことがあり、あるいは、有機材料を排除することがある。1つ以上の実施の形態のナノ多孔質層は、より高い温度許容度、UV、オゾンまたはプラズマ処理に対するロバスト性、UV透明度、環境老化に対するロバスト性、真空中における低いガス放出などを示すことがある。そのようなナノ多孔質層は、真空蒸着ナノ多孔質層として特徴付けられることがある。その上、無機材料の使用により、形成技法における融通性が提供される。例えば、そのような無機ナノ多孔質層は、真空蒸着(例えば、熱蒸発、電子ビーム蒸発、RFスパッタリング、DCスパッタリング、化学蒸着、プラズマ支援化学蒸着、大気圧化学蒸着など)により形成されることがある。膜も真空蒸着により形成される場合、亀裂軽減層と膜の両方は、同じまたは同様の真空蒸着槽内で、または同じまたは類似のコーティング設備を使用して、形成することができる。
【0114】
1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層は、低い固有膜応力を示す無機ナノ多孔質層を備えることがある。特定の実施の形態において、そのような亀裂軽減層は、亀裂軽減層中の固有膜応力を制御する技法(例えば、真空蒸着)を使用して(例えば、いくつかのゾルゲルコーティング法に対して)形成されることがある。固有膜応力を制御すると、亀裂軽減層の破壊歪みなどの他の機械的性質の制御も可能になることがある。
【0115】
亀裂軽減層の気孔率および機械的性質は、真空槽中の気体のわずかな超過気圧、低温堆積、堆積速度制御、およびプラズマおよび/またはイオンビームエネルギー変調などの堆積法を注意深く制御することによって、制御できる。蒸着方法が通常使用されるが、亀裂軽減層に所望の気孔率および機械的性質を与えるために、他の公知の方法を使用しても差し支えない。例えば、ナノ多孔質層を備えた亀裂軽減層は、スピンコーティング法、浸漬被覆法、スロット/スリットコーティング法、ローラーコーティング法、グラビアコーティング法、および吹付け塗りなどの、湿式化学法またはゾルゲル法によって形成することもできる。後に溶解または熱分解する細孔形成剤(ブロックコポリマー細孔形成剤など)の使用、相分離法、または粒子間の隙間が部分的に空洞のままである微粒子またはナノ粒子層の流延法によって、湿式被覆ナノ多孔質層に、気孔率を導入できる。
【0116】
いくつかの実施の形態において、ナノ多孔質層は、光学干渉効果を最小にするために、ガラス基板および/または膜および/または追加の層(ここに記載されたような)のいずれかと同様の屈折率を示すことがある。加えて、または代わりに、ナノ多孔質層は、反射防止干渉効果を達成するために調整された屈折率を示すことがある。ナノ多孔質層の屈折率は、ナノ多孔質層のナノ気孔率を制御することによって、いくぶん変更することができる。例えば、ある場合には、目的とする気孔率レベルを有するナノ多孔質層に製造されたときに、約1.4から約1.8の範囲の中間屈折率、またはガラス基板に近い屈折率(例えば、約1.45から約1.6の範囲)を示すことができる、Al
2O
3、TiO
2、Nb
2O
5、Si
3N
4、またはAlNなどの、屈折率が比較的高い材料を選択することが望ましいであろう。ナノ多孔質層の屈折率は、当該技術分野に公知の「実効屈折率」モデルを使用して、気孔率レベルに関連付けることができる。
【0117】
亀裂軽減層130の厚さは、約0.01μmから約10μm(10nmから10,000nm)の範囲または約0.04μmから約0.5μm(40nmから約500nm)の範囲にあるであろう;しかしながら、膜がずっと薄いことがあり得る場合には、例えば、亀裂軽減層130は、約0.1nmから約2nmの厚さを有する単分子の「単層」であることがある。1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130の厚さは、約0.02μmから約10μm、約0.03μmから約10μm、約0.04μmから約10μm、約0.05μmから約10μm、約0.06μmから約10μm、約0.07μmから約10μm、約0.08μmから約10μm、約0.09μmから約10μm、約0.1μmから約10μm、約0.01μmから約9μm、約0.01μmから約8μm、約0.01μmから約7μm、約0.01μmから約6μm、約0.01μmから約5μm、約0.01μmから約4μm、約0.01μmから約3μm、約0.01μmから約2μm、約0.01μmから約1マイクロメートル、約0.02μmから約1マイクロメートル、約0.03から約1μm、約0.04μmから約0.5μm、約0.05μmから約0.25μm、または約0.05μmから約0.15μmの範囲にある。
【0118】
1つ以上の実施の形態において、ガラス基板120、膜110および/または亀裂軽減層130の厚さは、互いに関して特定されることがある。例えば、亀裂軽減層は、膜の厚さの約10倍以下の厚さを有することがある。別の例において、膜110が約85nmの厚さを有する場合、亀裂軽減層130は、約850nm以下の厚さを有することがある。さらに別の例において、亀裂軽減層130の厚さは、約35nmから約80nmの範囲にあることがあり、膜110は、約30nmから約300nmの範囲の厚さを有することがある。1つの変形において、亀裂軽減層は、膜の厚さの約9倍、8倍、7倍、6倍、5倍、4倍、3倍または2倍以下の厚さを有することがある。別の変形において、膜の厚さおよび亀裂軽減層の厚さは各々、約10μm未満、約5μm未満、約2μm未満、約1μm未満、約0.5μm未満、または約0.2μm未満である。亀裂軽減層130の厚さの膜110の厚さに対する比は、いくつかの実施の形態において、約1:1から約1:8の範囲、約1:2から約1:6の範囲、約1:3から約1:5の範囲、または約1:3から約1:4の範囲にあることがある。別の変形において、亀裂軽減層の厚さは約0.1μm未満であり、膜の厚さは亀裂軽減層の厚さより大きい。
【0119】
前記物品の1つ以上の実施の形態は、ポリイミドからなる亀裂軽減層130を備えている。そのような実施の形態において、亀裂軽減層130が使用される場合、膜110は機能特性(例えば、導電率)を維持し、物品100はその平均曲げ強度を維持する。そのような実施の形態において、膜110は、インジウムスズ酸化物層などの、透明な導電性酸化物層を1つ以上備えることがある。その上、ガラス基板120は、強化、またはより詳しくは、化学強化されていることがある。これらの実施の形態において、亀裂軽減層の構成部材としてポリイミドまたは他の高温耐性高分子を使用することが好ましいであろう。何故ならば、これらの高温耐性高分子は、特定の膜のときには厳しいこともある真空蒸着条件に耐えられるからであり、これは所望の膜特性を維持できるようにする上での重要な要因である。
【0120】
加えて、または代わりに、インジウムスズ酸化物からなる膜110およびポリイミドからなる亀裂軽減層130は、全体として低い光反射率を有する積層体を形成する。例えば、そのような積層体の全体の(または全)反射率は、450〜650nm、420〜680nm、またさらには400〜700nmの可視波長範囲に亘り、10%以下、8%以下、7%以下、6.5%以下、6%以下、5.5%以下であることがある。ポリイミド亀裂軽減層130およびインジウムスズ酸化物膜110がある被包または接着層により覆われている特定の実施の形態について、外側の未被覆ガラス界面のみからの反射率が約4%である、
図10、11、および12の光反射率のシミュレーションに示されるように、一方の外側の裸の(または未被覆の)ガラス界面からの反射率を含む、先の反射率数が引用されている。このように、この膜積層体構造および膜とガラスの被覆界面のみからの反射率(外側の未被覆ガラス界面の反射率を引く)は、約1.45〜1.65の被包材の屈折率を有する典型的な被包材(すなわち、追加の膜または層)により覆われた場合、450〜650nm、420〜680nm、またさらには400〜700nmの可視波長範囲に亘り、約5%、4%、3%、2%未満、またさらには約1.5%未満である。その上、この積層体構造は高い光透過率を示すことがあり、これは、一般関係式:透過率=100%−反射率−吸収率によれば、低い反射率と低い吸収率の両方を示す。この積層体構造の透過率値(ガラス基板または被包材槽のみに関連する反射率と吸収率を無視した場合)は、約1.45〜1.65の被包材の屈折率を有する典型的な被包材(すなわち、追加の膜または層)により覆われた場合、450〜650nm、420〜680nm、またさらには400〜700nmの可視波長範囲に亘り、約75%、80%、85%、90%、95%、またさらには98%超であることがある。
【0121】
前記物品の1つ以上の実施の形態は、ナノ多孔質の蒸着SiO
2からなる亀裂軽減層130を備えている。そのような実施の形態において、亀裂軽減層130が使用される場合、膜110は機能特性(例えば、導電率)を維持し、物品100は、その平均曲げ強度を維持するか、または亀裂軽減層130を持たない、膜110とガラス基板120を備えた同様の物品に対して改善された平均曲げ強度を有する。そのような実施の形態において、膜110は、インジウムスズ酸化物層などの、透明な導電性酸化物層を1つ以上備えることがある。その上、ガラス基板120は、強化、またはより詳しくは、化学強化されていることがある。これらの実施の形態において、この中の他の場所に述べられた、温度、真空、および環境耐性要因のために、ある用途に、無機のナノ多孔質亀裂軽減層を使用してもよい。
【0122】
亀裂軽減層130が、気孔率の有無にかかわらず、延性特性を有するまたは塑性変形可能であることが望ましい場合、亀裂軽減層130に、高分子または有機−無機ハイブリッド材料を使用することができる。その上、亀裂軽減層130は、AlまたはCuなどの延性金属膜を備えてもよい。
【0123】
いくつかの実施の形態において、塑性変形への傾向の有用な尺度は、破断点伸び(「%」または「歪み値」として表される)である。これらの実施の形態において、亀裂軽減層130は、延性または塑性変形可能であることがあり、歪み値で、約1%超、2%超、5%超、またさらには10%超の破断点伸びを示す材料を含むことがある。亀裂軽減層130は、膜110よりも高い破断点伸びを有することがある。延性または塑性変形可能である、亀裂軽減層130に使用するための例示の材料としては、有機−無機ハイブリッド材料、以下に限られないが、ポリイミド、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PES(ポリエーテルスルホン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PPSU(ポリフェニルスルホン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリエステルを含む先に列挙した材料、および当該技術分野に公知の同様の材料を含む、多種多様な金属および高分子が挙げられる。延性または塑性変形可能である亀裂軽減層130が使用される場合、その亀裂軽減層130は、高い靱性も有することがある。例えば、亀裂軽減層130は、0.5MPa・m
1/2以上、またはある場合には、5MPa・m
1/2以上の破壊靭性を有することがある。この亀裂軽減層は、高い臨界歪みエネルギー解放率も有することがあり、それらの値は、先に列挙されている。
【0124】
物品100の光学的性質は、膜110、亀裂軽減層130および/またはガラス基板120の性質の内の1つ以上を変えることによって調節してよい。例えば、物品100は、約400nmから約700nmの可視波長範囲に亘り、10%以下、8%以下、7%以下、6.9%以下、6.8%以下、6.7%以下、6.6%以下、6.5%以下、6.4%以下、6.3%以下、6.2%以下、6.1%以下、および/または6%以下の全反射率を示すことがある。範囲は先に特定したようにさらに様々であってよく、膜積層体/被覆ガラス界面のみに関する範囲は先に列挙されている。より特別な実施の形態において、ここに記載された物品100は、亀裂軽減層130を持たない物品よりも、低い平均反射率および大きい平均曲げ強度を示すことがある。1つ以上の代わりの実施の形態において、物品100の光学的性質、電気的性質または機械的性質の少なくとも2つが、ガラス基板120、膜110および/または亀裂軽減層130の厚さを変えることによって、調節されることがある。その上、または代わりに、物品100の平均曲げ強度は、ガラス基板120、膜110および/または亀裂軽減層130の厚さを変更することによって調節されるまたは改善されることがある。
【0125】
物品100は、ガラス基板上に配置された1つ以上の追加の膜を備えてもよい。1つ以上の実施の形態において、この1つ以上の追加の膜は、膜110上に、またはこの膜と反対側の主面上に配置されてもよい。この追加の膜は、膜110と直接接触して配置されてもよい。1つ以上の実施の形態において、追加の膜は、1)ガラス基板120と亀裂軽減層130と、または2)亀裂軽減層130と膜110と:の間に配置されることがある。1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130と膜110の両方が、ガラス基板120と追加の膜との間に位置していることがある。追加の層としては、保護層、接着層、平坦化層、抗分化層(anti-splintering layer)、光学的接着層、表示層、偏光層、光吸収層、反射変調干渉層、耐引掻性層、障壁層、パッシベーション層、気密層、拡散ブロック層およびそれらの組合せ、並びにこれらの機能または関連する機能を実行するために当該技術分野に公知の他の層が挙げられるであろう。適切な保護層または障壁層の例としては、SiO
x、SiN
y、SiC
xN
y、他の同様の材料およびそれらの組合せを含有する層が挙げられる。そのような層は、膜110、亀裂軽減層130および/またはガラス基板120の光学的性質に一致するまたは補うために、変更することもできる。例えば、保護層は、亀裂軽減層130、膜110、またはガラス基板120と同様の屈折率を有するように選択してもよい。異なる屈折率および/または厚さを有する多数の追加の膜を様々な理由のために挿入できることが、当業者には明白である。追加の膜(並びに亀裂軽減層130および膜110)の屈折率、厚さおよび他の性質は、本開示の精神から逸脱せずに、さらに変更および最適化してもよい。他の場合には、例えば、亀裂軽減層130が膜より高い屈折率を有することがある、代わりの膜設計を採用することができる。他の場合には、亀裂軽減層130は、ここに開示された実施の形態と実施例より、さらに低い弾性率または大きい延性または塑性を有するように作られてもよい。
【0126】
1つ以上の実施の形態において、記載された物品100は、情報表示装置および/またはタッチセンシング装置に使用されることがある。1つ以上の代わりの実施の形態において、物品100は、例えば、自動車または航空機の窓に使用すべきガラス−高分子−ガラスの合わせガラスとして、積層構造の一部であってよい。これらの積層体における中間層として使用される例示の高分子材料はPVB(ポリビニルブチラール)であり、使用できる、当該技術分野で公知である他の中間層材料が数多くある。その上、合わせガラスの構造に様々な選択肢があり、それらは、特に制限されない。物品100は、例えば、自動車のフロントガラス、サンルーフ、またはサイド窓ガラスとして、最終用途において、曲げられる、または造形されることがある。物品100の厚さは、設計上の理由または機械的理由のいずれかのために、様々であり得る;例えば、物品100は、その物品の中央よりも縁が厚いことがあり得る。物品100は、表面傷の影響をなくすまたは減少させるために、酸磨きまたは他の様式で処理してもよい。
【0127】
本開示の別の態様は、ここに記載された物品を備えたタッチセンシング装置に関する。1つ以上の実施の形態において、このタッチセンサ装置は、ガラス基板120(強化されていても、強化されていなくてもよい)、透明導電性酸化物からなる膜110および亀裂軽減層130を備えることがある。この透明導電性酸化物としては、インジウムスズ酸化物、アルミニウム亜鉛酸化物、フッ素化酸化スズ、または当該技術分野で公知の他のものが挙げられる。1つ以上の実施の形態において、膜110は、ガラス基板120上に不連続に配置されている。言い換えると、膜110は、ガラス基板120の個別領域に配置されることがある。その膜を有する個別領域は、パターン化または被覆領域(図示せず)を形成し、一方で、膜のない個別領域は、無地または未被覆領域(図示せず)を形成する。1つ以上の実施の形態において、パターン化または被覆領域および無地または未被覆領域は、ガラス基板120の表面上に膜110を連続的に配置し、次いで、個別領域に膜110がないように、個別領域において膜110を選択的にエッチングで除去することによって、形成される。膜110は、Transene Co.から市販されているTE−100エッチング液などの、HClまたはFeCl
3水溶液などのエッチング液を使用して、エッチングにより除去してもよい。1つ以上の実施の形態において、亀裂軽減層130は、エッチング液により著しくは劣化しないまたは除去されない。あるいは、膜110は、パターン化または被覆領域および無地または未被覆領域を形成するように、ガラス基板120の表面の個別領域上に選択的に堆積させてもよい。
【0128】
1つ以上の実施の形態において、未被覆領域は、被覆領域の全反射率と同様の全反射率を有する。1つ以上の特定の実施の形態において、無地のまたは未被覆領域は、約450nmから約650nm、約420nmから約680nm、またさらには約400nmから約700nmの範囲の可視波長に亘り、パターン化または被覆領域の全反射率と、約5%以下、4.5%以下、4%以下、3.5%以下、3%以下、2.5%以下、2.0%以下、1.5%以下、またさらには1%以下しか異ならない全反射率を有する。
【0129】
本開示の別の態様によれば、亀裂軽減層130と、インジウムスズ酸化物または他の透明導電性酸化物を含むことがある膜110の両方を備えた物品は、タッチセンシング装置におけるそのような物品の使用に許容される抵抗率を示す。1つ以上の実施の形態において、膜110は、ここに開示された物品中に存在する場合、約100オーム/□以下、80オーム/□以下、50オーム/□以下、またさらには30オーム/□以下のシート抵抗を示す。そのような実施の形態において、膜は、約200nm以下、150nm以下、100nm以下、80nm以下、50nm以下またさらには35nm以下の厚さを有することがある。1つ以上の特定の実施の形態において、そのような膜は、物品中に存在する場合、10×10
-4オーム・cm以下、8×10
-4オーム・cm以下、5×10
-4オーム・cm以下、またさらには3×10
-4オーム・cm以下、の抵抗率を示す。このように、膜110は、ここに開示された物品100中に存在する場合、透明導電性酸化物膜および投影型静電容量タッチセンサ装置を含むタッチセンサ用途に使用される他のそのような膜に予想される電気性能と光学性能を都合よく維持できる。
【0130】
ここの開示は、インタラクティブではない、すなわちディスプレイ用の物品を有する物品に適用することもできる;例えば、そのような物品は、装置が、ディスプレイに使用され、インタラクティブであり得るガラス前面、および非常に広い意味で「装飾」と称してもよい背面(背面は、ある色が「塗られて」差し支えなく、アートワークまたは製造業者、モデルおよびシリアル番号についての情報、模様付けまたは他の特徴を有して差し支えないことを意味する)を有する場合に使用されることがある。
【0131】
本開示の別の態様は、物品100を形成する方法に関する。1つ以上の実施の形態において、そのような方法は、ガラス基板120を提供する工程、ガラス基板120の表面(例えば、主面122、124の1つ以上および/または1つ以上の副面)上に亀裂軽減層130を配置する工程、亀裂軽減層130上に膜を配置し、それゆえ、亀裂軽減層130が膜110とガラス基板120との間に配置される工程を有してなる。1つ以上の実施の形態において、この方法は、真空蒸着プロセスにより、膜110および/または亀裂軽減層130を配置する工程を含む。特定の実施の形態において、そのような真空蒸着プロセスは、少なくとも約100℃、200℃、300℃、400℃およびそれらの間の全ての範囲および部分的な範囲の温度を使用することがある。いくつかの実施の形態において、その亀裂軽減層は、ここに記載されるように、湿式法により形成してよい。1つ以上の実施の形態において、前記方法は、溶媒希釈剤により希釈された亀裂軽減層溶液を提供する工程を含む。1つ以上の実施の形態において、前記方法は、溶媒希釈剤により、50:50、40:60、30:70または20:80の比で亀裂軽減層溶液を希釈する工程、または30質量%、20質量%、10質量%、5質量%、2質量%、1質量%、または0.1質量%およびそれらの間の全ての範囲および部分的な範囲の高分子を含む高分子/溶媒混合物を形成する工程を含む。希釈された亀裂軽減層は、当該技術分野で公知の様々な湿式法によりガラス基板に施してよい。
【0132】
1つ以上の特定の実施の形態において、前記方法は、亀裂軽減層130および/または膜110の厚さを制御する工程を含む。ここに開示された膜の厚さを制御する工程は、所望の厚さまたは所定の厚さを有する膜が施されるように、膜を形成するための1つ以上の工程を制御することによって行われることがある。さらにより特別な実施の形態において、前記方法は、亀裂軽減層130および/または膜110の厚さを制御して、ガラス基板120の平均曲げ強度および/または膜110の機能特性を維持する工程を含む。
【0133】
1つ以上の実施の形態において、前記方法は、亀裂軽減層130に気孔率を形成する工程を含むことがある。この方法は、必要に応じて、ここに他に記載されたように、亀裂軽減層の気孔率を制御する工程を含むことがある。この方法は、亀裂軽減層の堆積法および製造法の制御により、亀裂軽減層および/または膜の固有膜応力を制御する工程をさらに含むことがある。
【0134】
前記方法は、ガラス基板120上に追加の膜を配置する工程を含むことがある。1つ以上の実施の形態において、前記方法は、追加の膜が、ガラス基板120と亀裂軽減層130との間、亀裂軽減層130と膜110との間に配置されるように、または膜110が亀裂軽減層130と追加の膜との間に配置されるように、ガラス基板上に追加の膜を配置する工程を含むことがある。あるいは、前記方法は、膜が上に配置された表面とは反対側のガラス基板120の主面上に追加の膜を配置する工程を含むことがある。この追加の膜としては、保護層、接着層、平坦化層、抗分化層、光学的接着層、表示層、偏光層、光吸収層、反射変調干渉層、耐引掻性層、障壁層、パッシベーション層、気密層、拡散ブロック層、またはそれらの組合せが挙げられるであろう。
【0135】
1つ以上の実施の形態において、前記方法は、亀裂軽減層130、膜110および/または追加の膜をガラス基板上に配置する前または後に、ガラス基板120を強化する工程を含む。ガラス基板120は、化学強化されても、他の様式で強化されてもよい。ガラス基板120は、亀裂軽減層130をガラス基板120上に配置した後であるが、膜110をガラス基板120上に配置する前に強化してもよい。ガラス基板120は、亀裂軽減層130と膜110をガラス基板120上に配置した後であるが、ガラス基板上に追加の膜(もしあれば)を配置する前に、強化してもよい。追加の膜が使用されない場合、ガラス基板120は、亀裂軽減層130と膜110をガラス基板120上に配置した後に強化してもよい。
【実施例】
【0136】
以下の実施例は、本開示の特定の非限定的実施の形態を提示するものである。
【0137】
実施例1A〜1J
実施例1A〜1Jは、本開示の1つ以上の実施の形態または従来技術のガラス基板による物品を含む。実施例1A〜1Jの各々では、61モル%≦SiO
2≦75モル%;7モル%≦Al
2O
3≦15モル%;0モル%≦B
2O
3≦12モル%;9モル%≦Na
2O≦21モル%;0モル%≦K
2O≦4モル%;0モル%≦MgO≦7モル%;0モル%≦CaO≦3モル%;および0モル%≦SnO
2≦1モル%の組成を有するガラス基板を使用した。それらのガラス基板の厚さは0.7mmであった。実施例1A〜1Eにおいて、ガラス基板をイオン交換により強化して、約690MPaの表面圧縮応力(CS)および約23μmの圧縮層の深さ(DOL)を提供した。実施例1Fのガラス基板はイオン交換により強化しなかった。実施例1G〜1Jにおいて、強化したガラス板は、イオン交換により強化して、約740MPaの表面圧縮応力および約44μmの圧縮層の深さを提供した。ポリイミドからなる亀裂軽減層および/またはインジウムスズ酸化物からなる膜を、表1において下記に与えられるように、強化ガラス基板および(非強化)ガラス基板上に配置した。実施例1A、1E、1F、1Gおよび1Hは、亀裂軽減層を備えていなかったので、比較として示されている。
【0138】
【表1】
【0139】
強化ガラス基板を備えた実施例(すなわち、実施例1A〜1Eおよび1G〜1J)について、イオン交換プロセスは、約350℃から450℃の範囲の温度に加熱した溶融硝酸カリウム(KNO
3)浴中にガラス基板を浸漬することによって行った。ガラス基板は、3〜8時間の期間に亘りその浴中に浸漬して、表1に与えられた表面CSおよび圧縮DOLを達成した。イオン交換プロセスを完了した後、実施例1A〜1Eおよび1G〜1Jのガラス基板を、50〜70℃の温度を有する、Semiclean KGにより供給された、1〜4%の濃度のKOH清浄液中で洗浄した。この清浄液は、40〜110KHzで超音波撹拌した。次いで、これらの強化ガラス基板を脱イオン水(これも、40〜110KHzで超音波撹拌した)で濯ぎ、その後、乾燥させた。実施例1Fも、実施例1A〜1Eおよび1G〜1Jと同じ様式で、洗浄し、濯ぎ、乾燥させた。亀裂軽減層を使用した、実施例1B〜1D、1I、および1Jにおいて、以下の手法を採用した。亀裂軽減層を配置する前に、次いで、強化ガラス基板を、130℃の温度でホットプレート上において10分間に亘り焼成し、次いで、取り出して、約2分間に亘り冷ました。
【0140】
アミノシラン系接着促進剤(VM−652の名称でHD Microsystemsから供給)を強化ガラス基板に施し、20秒間に亘り湿った状態のままにした。この接着促進剤を、ガラス基板およびその上に施された接着促進剤を、標準的な真空チャックスピンコータ内において5000rpmで回転させることによって、強化ガラス基板から振り落とした。接着促進剤の施用後、下記に提示した様々な体積比を使用して、N−メチル−2−ピロリドンを含む溶媒希釈剤(T9038/9の名称でHD Microsystemsにより供給)で事前に希釈したポリイミドの溶液(PI−2555の名称でHD Mycrosystemsにより供給)を強化ガラス基板に施した。約1mLのこの高分子溶液を、50×50mm平方の各ガラスサンプルに施した。次いで、ポリイミド溶液を有する強化ガラス基板を、3〜5秒間に亘り500rpmで回転させ、その後、30〜90秒間に亘り500〜5000rpmで回転させ、その後、15秒間に亘り5000rpmで随意的な最終回転工程を行って、所望の厚さおよび/または濃度の亀裂軽減層を得た。実施例1Bは、155nmのポリイミド厚を有し、溶媒希釈剤で30:70の比に希釈されたポリイミド溶液を使用して調製し、最初に、3秒間に亘り500rpmで回転させ、その後、60秒間に亘り4000rpmで回転させた。実施例1Cは、220nmのポリイミド厚を有し、溶媒希釈剤で30:70の比に希釈されたポリイミド溶液を使用して調製し、最初に、3秒間に亘り500rpmで回転させ、その後、90秒間に亘り1500rpmで回転させた。実施例1Dは、290nmのポリイミド厚を有し、溶媒希釈剤で40:60の比に希釈されたポリイミド溶液を使用して調製し、最初に、3秒間に亘り500rpmで回転させ、その後、90秒間に亘り1000rpmで回転させた。実施例1B〜1Dについては、高分子溶液を施し、溶液の温度が約15℃であったときに、ガラス基板上にスピンコートした。この温度は、溶媒の蒸発を遅くし、温度がより高い溶液よりもいくぶん薄い膜を生じる傾向にある。実施例1Iは、490nmのポリイミド厚を有し、溶媒希釈剤で50:50の比に希釈されたポリイミド溶液を使用して調製し、最初に、5秒間に亘り500rpmで回転させ、その後、45秒間に亘り1500rpmで回転させ、最後に、15秒間に亘り5000rpmで回転させた。実施例1Jは、45nmのポリイミド厚を有し、溶媒希釈剤で20:80の比に希釈されたポリイミド溶液を使用して調製し、最初に、5秒間に亘り500rpmで回転させ、その後、30秒間に亘り2000rpmで回転させ、最後に、15秒間に亘り5000rpmで回転させた。実施例1Iおよび1Jについて、高分子溶液は、その溶液をガラス基板上に施し、スピンコーティングする前に、少なくとも1時間に亘り室温(すなわち、約25℃)で平衡させた。
【0141】
次いで、先に概説したようなスピンコーティング工程の直後に、亀裂軽減層を含む実施例を乾燥させ、2〜3分間に亘り130℃の温度でホットプレート上において焼成し、次いで、280トルの圧力で作動しているN
2硬化炉(YESから供給)内に入れ、90分間に亘り240℃の温度で硬化させた。公知のデータおよび試験により得られた情報に基づいて、結果として得られた亀裂軽減層は、硬化後に、約2.5GPaから約10GPaの弾性率および約10%の破断点伸びを有した。
【0142】
表1に示されるように、インジウムスズ酸化物含有膜を実施例に施した。このインジウムスズ酸化物膜は、903iのモデル名でKDFから供給されたシステムを使用して、酸化物ターゲットからスパッタリングした。このスパッタリングターゲットも、KDFから供給され、10:90の質量比で存在するSnO
2およびIn
2O
3を含んだ。この膜は、600WのDC電力を供給して、約0.5sccm(標準状態下の立方センチメートル毎分)(約8.45×10
-4Pa・m
3/s)の流量で流した酸素および30sccm(約5.07×10
-2Pa・m
3/s)の流量で流したアルゴンの存在下で、10ミリトルの圧力でスパッタリングした。表1に示したように、膜を配置した後、実施例は、空気中において60分間に亘り約200℃の温度でアニールした。亀裂軽減層を備えなかった実施例(すなわち、実施例1E、1F、および1H)については、ガラス基板は、同じKDFシステム内でのプラズマ洗浄工程を使用して、膜の堆積前に前処理した。そのプラズマ洗浄工程では、1分間に亘り、15ミリトルの圧力、50sccm(約8.45×10
-2Pa・m
3/s)のアルゴン流、5sccm(約8.45×10
-3Pa・m
3/s)の酸素流、および400WのRF電力を使用した。
【0143】
実施例1A〜1Jの物品および強化ガラス基板の平均曲げ強度の保持を実証するために、
図5に示されるように、リング・オン・リング破壊荷重試験を使用して、それらの物品およびガラス基板を試験した。リング・オン・リング破壊荷重試験について、実施例1B〜1Fおよび1H〜1J(膜および/または亀裂軽減層を有する)は、膜および/または亀裂軽減層が張力下にある面について試験した。実施例1Aおよび1G(膜または亀裂軽減層を持たない)について、強化ガラス基板の片面が同様に張力下にあった。リング・オン・リング破壊荷重試験のパラメータは、1.6mmの接触半径、1.2mm/分のクロスヘッド速度、0.5インチ(約1.27cm)の荷重リング直径、および1インチ(約2.54cm)の支持リング直径を含んだ。試験前に、接着膜を物品と強化ガラス基板の両面に配置して、破砕したガラス片を留めた。
【0144】
図5に示されるように、ポリイミドを含み、約45nmから約490nmの範囲の厚さを有する亀裂軽減層の付加により、亀裂軽減層または膜を持たないガラス板とほぼ同じ平均曲げ強度を維持した物品が得られた。さらに、亀裂軽減層を有する物品は、膜だけを有する強化ガラス基板および非強化ガラス基板よりも大きい平均曲げ強度を示した。比較のために、その上に膜だけが配置された強化ガラス基板および非強化ガラス基板(すなわち、実施例1E、1F、および1H)は、平均曲げ強度の相当な減少を示した。
【0145】
実施例2A〜2D
実施例2A〜2Dの各々では、61モル%≦SiO
2≦75モル%;7モル%≦Al
2O
3≦15モル%;0モル%≦B
2O
3≦12モル%;9モル%≦Na
2O≦21モル%;0モル%≦K
2O≦4モル%;0モル%≦MgO≦7モル%;0モル%≦CaO≦3モル%;および0モル%≦SnO
2≦1モル%の組成を有するガラス基板を使用した。それらのガラス基板は、0.7mmの厚さを有し、イオン交換により強化し、実施例1A〜1Jに関して記載したのと同じプロセスを使用して、亀裂軽減層および/または膜との組合せのために調製した。実施例2A〜2Dの強化ガラス基板は、約776MPaの表面圧縮応力(CS)および約41.4μmの圧縮層の深さ(DOL)を有した。ポリイミドからなる亀裂軽減層およびインジウムスズ酸化物からなる膜を、実施例1A〜1Jに関して記載した方法を使用して、表2において下記に与えられるように、強化ガラス基板上に配置して、実施例2A〜2Dの物品を提供した。接着促進剤は、実施例1B〜1D、1Iおよび1Jと同じ様式で利用した。実施例2Aは、250nmのポリイミド厚を有し、溶媒希釈剤で30:70の比に希釈されたポリイミド溶液を使用して調製し、最初に、3秒間に亘り500rpmで回転させ、その後、60秒間に亘り4000rpmで回転させた。実施例2Bは、90nmのポリイミド厚を有し、溶媒希釈剤で20:80の比に希釈されたポリイミド溶液を使用して調製し、最初に、3秒間に亘り500rpmで回転させ、その後、60秒間に亘り4000rpmで回転させた。実施例2Aおよび2Bについて、高分子溶液は、その溶液をガラス基板上に施し、スピンコーティングする前に、少なくとも1時間に亘り室温(約25℃)で平衡させた。これらのポリイミド被覆サンプルの乾燥、焼成および硬化は、実施例1B〜1D、1Iおよび1Jと同じ様式で行った。実施例2Cおよび2Dは、亀裂軽減層を備えていなかったので、比較例として示した。
【0146】
【表2】
【0147】
ボール落下破壊高さ試験について、実施例2A〜2Cの物品(膜および/または亀裂軽減層を有する)を、膜および/または亀裂軽減層が張力下にある面で試験した。膜も亀裂軽減層も持たない実施例2Dについて、強化ガラス基板の片面が同様に張力下にあった。質量が128gであり、直径が31.75mmである鋼球を利用した。物品および強化ガラス基板の各々は、50mm×50mmのサイズを有し、各縁で支持された。試験前に、接着膜を物品と強化ガラス基板の両面に配置して、破砕したガラス片を留めた。
【0148】
図6に示されるように、実施例2Aおよび2Bの物品は、ボール落下破壊高さ試験を使用して、実施例2Dの強化ガラス基板と同じまたは同様の平均曲げ強度を示し、亀裂軽減層を備えた物品がそれぞれの平均曲げ強度を維持したことを示し、一方で、膜のみを備えた物品(亀裂軽減層を持たない)(すなわち、実施例2C)は、平均曲げ強度の著しい低減またはより低レベルの平均曲げ強度を示した。
【0149】
実施例3A〜3C
実施例3A〜3Cは、
図7〜9に示された予言的な実施例であり、関連するモデル化光反射率データが
図10〜12に示されている。実施例3Aおよび3Bは、それぞれ、以下に記載されている実施例4Cおよび4Eに相関する。実施例3A〜3Cは、各々が、ガラス基板302、312、322、ガラス基板302、312、322上に配置されたポリイミドを含む亀裂軽減層304、314、324、および亀裂軽減層がガラス基板と膜との間にあるように、ガラス基板302、312、322上に配置されたインジウムスズ酸化物を含む膜306、316、326を備えた、物品300、310、320を含む。実施例3A〜3Cの各々において、ガラス基板は、約0.2mmから約2.0mmの範囲の厚さを有する。実施例3Aは、74nmの厚さを有する亀裂軽減層304および115nmの厚さを有する膜306を備えている。実施例3Bは、85nmの厚さを有する亀裂軽減層314および23nmの厚さを有する膜316を備えている。実施例3Cは、64nmの厚さを有する亀裂軽減層324および115nmの厚さを有する膜326を備えている。実施例3Cは、亀裂軽減層324と膜326との間に配置された、保護層として機能する、SiO
xN
yを含む追加の膜328を備えている。この追加の膜328の厚さは10nmである。実施例3A〜3Cにおいて、ガラス基板302、312、322は、約1.45〜1.55の範囲の屈折率を有し、亀裂軽減層304、314、324は、約1.6〜1.75の範囲の屈折率を有し、膜306、316、326は、約1.8〜2.2の範囲の屈折率を有する。実施例3Cにおいて、SiO
xN
yを含む追加の膜328は、亀裂軽減層324の屈折率と同様の屈折率を有する。実施例3A〜3Cの各々は、接着剤を含むことがある第2の追加の膜(
図10、11および12に示されている)を含むことがありり、これは、モデル化実施例4においてより十分に記載される。
【0150】
物品300、310、320の各々において、亀裂軽減層および膜の厚さは、良好な光学的性質および良好な機械的性質を同時に達成するように最適化された。前述の実施例は、物品300、310、320に使用された亀裂軽減層および膜の厚さ範囲が、その物品について高い平均曲げ強度を維持するのに効果的であることを示し、一方で、モデル化実施例4Cおよび4E(下記に記載される)は、物品300、310、320が、低い光反射率を同時に達成することを示している。最適化は、実施例1A〜1Jに関して記載した1つ以上の工程パラメータを制御または調節することによって達成されることがある。
【0151】
モデル化実施例4
実施例4Cおよび4E、並びに比較実施例4A、4B、4Dおよび4Fは、表3における以下の情報を使用して、光学的にモデル化した。実施例4Cおよび4Eは、実施例3Aおよび3Bに相関する。
【0152】
【表3】
【0153】
比較実施例4Aおよび4Bの物品は、1.0mmの厚さを有するガラス基板を使用してモデル化されたものであり、
図10に示されている。モデル化比較実施例4Aにおいて、100nmの厚さを有する膜がガラス基板上に配置され、その膜上に追加の膜が配置され、よって、その膜は、
図10に示されるように、ガラス基板と追加の膜との間に配置されている。比較実施例4Bにおいて、そのモデルは、これも
図10に示されるように、介在する膜がなく、ガラス基板上に配置された追加の膜を備えていた。実施例4Aおよび4Bの追加の膜は、約1.52の屈折率を有する接着剤を備えている。光学モデルにおいて、追加の膜/接着剤層は、「非常に厚い」と扱われ、空気が入力周囲媒質である光学モデルにおいて、それが出口周囲媒質を表すことを意味する。これは、そのモデルに接着剤の離れた背面からの反射率が含まれない実際的事例を提示している。何故ならば、接着剤層のこの背面は、接着剤層中に透過する光の実質的に全てを吸収するまたは散乱させる、偏光層、表示層、およびデバイス層などの追加の光吸収構造に貼り合わされているからである。接着剤は、保護層、平坦化層、抗分化層、または光学的接着層および追加の膜に関してここに開示された他の層の1つ以上を表す。
図10に示されるように、インジウムスズ酸化物などの高屈折率膜の存在は、適切に設計された層構造または亀裂軽減層がないと、通常、可視スペクトルに亘り、物品における屈折率の著しい増加を生じる。
【0154】
実施例4Cおよび4Dの物品は、1.0mmの厚さを有するガラス基板を使用してモデル化されたものであり、
図11に示されている。モデル化実施例4Cにおいて、74nmの厚さを有し、ポリイミドを含む亀裂軽減層がガラス基板の表面上に配置され、インジウムスズ酸化物から構成され、115nmの厚さを有する膜がその亀裂軽減層上に配置され、追加の膜がその膜上に配置されている。
図11に示されるように、亀裂軽減層はガラス基板と膜との間に配置され、その膜は亀裂軽減層と追加の膜との間に配置されている。実施例4Dにおいて、モデル化物品は、
図11に示されるように、膜が含まれていないことを除いて、実施例4Cのモデル化物品と同一である。実施例4Cおよび実施例4Dの追加の膜は、約1.52の屈折率を有する接着剤を含む。その接着剤は、「非常に厚い」としても特徴付けられる。接着剤は、保護層、平坦化層、抗分化層、または光学的接着層および追加の膜に関してここに開示された他の層の1つ以上を表す。そのような層は、タッチスクリーン装置に通常使用されることがある。
図11に示されるように、膜を有する物品と、有さない物品の反射率は、可視スペクトルの大半に亘り同様である。したがって、膜の存在により、亀裂軽減層を持たない物品の反射率が著しく増加することを示した、比較実施例4Aと比べると、亀裂軽減層は、膜の存在によってそうでなければ生じた屈折率の任意の増加または変動を軽減させる。その上、ガラス基板、膜および亀裂軽減層を備えた物品は、約450から約650nm、約420nmから約680nm、またさらには約400nmから約700nmなどの可視波長範囲に亘り、膜を持たない同じ物品(それでも、亀裂軽減層をまだ備えることがある)の屈折率と、実質的に同様の、すなわち、その屈折率の5%、4.5%、4%、3.5%、3%、2.5%、2%、1.5%またさらには1%以内である全反射率を示す。
【0155】
実施例4Cおよび4Dの物品(すなわち、膜を有する物品と膜を持たない物品)の両方に関して、
図11に示された全反射率を使用して、タッチセンサにおける、パターン化または被覆領域(すなわち、透明導電性酸化物からなる膜を有する領域)と、無地または未被覆領域(すなわち、膜を持たない領域)との間のコントラストを実証することができる。実施例4Cおよび4Dによりシミュレーションされるタッチセンサパターン(表3に与えられた屈折率値を使用して)は、450〜650nmの波長範囲において、パターン化または被覆領域(膜を含む)と、無地または未被覆領域(膜を含まない)との間の絶対反射率レベルの変化が約1.5%未満であるために、ほとんど「目に見えない」。実施例4Cおよび4Dの物品は、低い絶対反射率レベルも有し、この同じ波長範囲に亘り全反射率は約6%未満である。約4%の全反射率は、空気との前面(未被覆)ガラスとの界面に由来し、約2%未満の全反射率が、ガラス基板の被覆側(すなわち、亀裂軽減層、膜および接着剤との界面)に由来する。
【0156】
実施例4Eおよび比較実施例4Fの物品は、それぞれ、実施例4Cおよび比較実施例4Dと同じ様式でモデル化した;しかしながら、亀裂軽減層(ポリイミドからなる)は85nmの厚さを有し、膜(インジウムスズ酸化物からなる)は23nmの厚さを有した。実施例4Eは、ガラス基板、このガラス基板上に配置された亀裂軽減層、この亀裂軽減層上に配置された膜、およびその膜上に配置された追加の膜を備えていた。比較実施例4Fは、膜を備えなかったことを除いて、実施例4Eと同一である。
図12に示されるように、膜を持つガラスと膜の基板および膜を持たないものの全反射率は、可視スペクトルの大半に亘り同様である。したがって、亀裂軽減層を持たない物品の全反射率を著しく増加させた膜の存在を示した、比較実施例4Aと比べた場合、亀裂軽減層の存在は、膜の存在によりそうでなければ生じた反射率のどのような増加または変動も軽減する。言い換えると、ガラス基板、膜および亀裂軽減層を備えた物品は、膜を持たない同じ物品と、実質的に同様の、すなわち、その5%、4.5%、4%、3.5%、3%、2.5%、2%、1.5%またさらには1%以内である全反射率を示す。
【0157】
実施例3およびモデル化実施例4に基づいて、ここに開示された物品は、低い絶対反射率および膜を備えた領域と、膜を備えていない領域との間の小さい屈折率変化(例えば、<1.5%)を有することがあり、
図11および12に示されるように、パターン化タッチセンサをほとんど「目に見えなく」する。
【0158】
実施例4の光学モデル化に使用した膜とガラス基板の屈折率値は、実験用膜、光反射率測定、および文献に公知の推定値から得た。これらの屈折率値は、材料とプロセスの選択に基づいて変えることができ、ここに特定した最適な膜厚に対して相補的な変更が必要であることが当業者に明白であろう。その上、表4における屈折率値のわずかな変動は、本開示の精神から逸脱せずに、材料とプロセスの変更によって達成できることが当業者に明白であろう。同様に、膜と基板の厚さと設計におけるわずかな変化は、本開示の精神から逸脱せずに、使用できる。さらに、実施例3およびモデル化実施例4における亀裂軽減層は、同様の屈折率を有する追加の材料からなるように選択することができ、ある場合には、ポリイミドを含まないことがある。例えば、実施例3および4における亀裂軽減層は、ナノ多孔質層、代わりの高分子材料、またはこの中の他の場所に述べられた他の材料からなることがある。
【0159】
実施例5:ナノ多孔質亀裂軽減層
実施例5A〜5Gは、0.7mm厚のイオン交換により強化したアルミノケイ酸塩ガラス基板を提供することによって作製した。このガラス基板は、61モル%≦SiO
2≦75モル%;7モル%≦Al
2O
3≦15モル%;0モル%≦B
2O
3≦12モル%;9モル%≦Na
2O≦21モル%;0モル%≦K
2O≦4モル%;0モル%≦MgO≦7モル%;0モル%≦CaO≦3モル%;および0モル%≦SnO
2≦1モル%の組成を含んだ。このガラス基板を、3〜8時間に亘り約350〜450℃の温度を有するKNO
3溶融塩浴中でイオン交換した。このイオン交換ガラス基板は、約687MPaの表面圧縮応力および約24マイクロメートルのイオン交換層の深さを有した。次いで、ガラス基板を、40〜110kHzで超音波撹拌しながら、約50〜70℃の温度を有するKOH清浄液(1〜4%のSemiclean KG)中で洗浄し、同じ周波数範囲で超音波処理しながら、脱イオン水で濯ぎ、乾燥させた。
【0160】
図5Aのガラス基板は裸のままにし、その上に層も膜も配置されていなかった。5オングストローム/秒の堆積速度、7.3×10
-4トルの堆積圧力、100sccm(約0.17Pa・m
3/s)の酸素流量、100sccm(約0.17Pa・m
3/s)のアルゴン流量、および最初に25℃であった基板温度(これは、堆積プロセスにより生じる熱のために、堆積中に約50℃まで上昇した)を使用して、実施例5B、5C、5Fおよび5Gのガラス基板の各々に、ナノ多孔質SiO
2層を堆積させた。その結果として得られたナノ多孔質SiO
2層は、550nmの波長で1.38の屈折率を有した。これは、21%の推定気孔率となる。ナノ多孔質SiO
2層は、ナノインデンテーションを使用して、20GPaの弾性率を有すると測定された。実施例5Bおよび5Fは、約200nmの厚さを有するナノ多孔質SiO
2層を備え、実施例5Cおよび5Gは、約500nmの厚さを有するナノ多孔質SiO
2層を備えた。
【0161】
実施例5D〜5E(ナノ多孔質層を備えなかった)および実施例5Fと5G(各々がナノ多孔質層を備えた)のガラス基板を、約100nmの厚さを有するインジウムスズ酸化物(ITO)膜でさらに被覆した。これらのITO膜は、スパッタリング法およびKDF製、モデル903iのITOコーティングシステムを使用して形成した。これもKDFにより供給された、SnO
2:In
2O
3=10:90(質量)のスパッタリングターゲットを利用した。ITO膜は、5sscm(約8.45×10
-3Pa・m
3/s)の流量の90:10の混合Ar:O
2、95sccm(約0.16Pa・m
3/s)のAr流、および1000WのDC電力を使用して、15ミリトルの圧力でスパッタリングターゲットした。堆積後、実施例5E〜5Gを、空気中において60分間に亘り200℃でアニールした。実施例5Dはアニールしなかった。表5には、実施例5A〜5Gの属性および処理が纏められている。
【0162】
【表4】
【0163】
図5A〜5Gの平均曲げ強度を、実施例1A〜1Jと同じ様式で評価した。
図13および14に示されるように、実施例5Fおよび5G(各々が、ガラス基板とITO膜との間に配置された蒸着したナノ多孔質SiO
2層を備えていた)は、実施例5Dおよび5E(ITO膜のみを備えていた)よりも改善された強度を示した。実施例5Dおよび5Eは、実施例5A(裸のガラス基板であった)に対して平均曲げ強度の実質的な減少も示した。ITO膜を備えていなかった、実施例5Bおよび5Cは、実施例5Aとほぼ同じ平均曲げ強度を示し、ナノ多孔質SiO
2層がガラス基板の強度を低下させなかったことを示す。
【0164】
100nm厚のITO膜のみを備え、アニールしなかった、実施例5Dは、その物品のワイブル特徴強度を約106kgf(約1040N)に低下させた。実施例5Fおよび5Gにおいて、ガラス基板と100nmのITO膜との間に200〜500nmのナノ多孔質SiO
2層を加えると(同じアニールサイクル)、特徴的な曲げ強度が175〜183kgf(約1720〜1790N)に上昇した。
【0165】
実験的スクリーニングにおいて、ナノ多孔質SiO
2層の上面に堆積されたITO膜は、ガラス基板上に直接堆積されたITO膜(介在するナノ多孔質SiO
2層がない)に匹敵する抵抗率レベルを示した。実施例5D〜5Gについて、シート抵抗は、35〜95Ω/□に及んだ(約10×10
-4Ω・cm未満の抵抗率に相当する)。
【0166】
実施例6:酸窒化アルミニウム膜を有する高分子亀裂軽減層
実施例6A〜6Fは、1.0mm厚のイオン交換により強化したアルミノケイ酸塩ガラス基板を提供することによって作製した。このガラス基板は、61モル%≦SiO
2≦75モル%;7モル%≦Al
2O
3≦15モル%;0モル%≦B
2O
3≦12モル%;9モル%≦Na
2O≦21モル%;0モル%≦K
2O≦4モル%;0モル%≦MgO≦7モル%;0モル%≦CaO≦3モル%;および0モル%≦SnO
2≦1モル%の組成を有した。このガラス基板を、3〜8時間に亘り約350〜450℃の温度を有するKNO
3溶融塩浴中でイオン交換して、強化ガラス基板を提供した。この強化ガラス基板は、約885MPaの圧縮応力および約42マイクロメートルのイオン交換層の深さを有した。次いで、強化ガラス基板を、40〜110kHzで超音波撹拌しながら、約50〜70℃の温度を有するKOH清浄液(1〜4%のSemiclean KG)中で洗浄し、同じ周波数範囲で超音波処理しながら、脱イオン水で濯ぎ、乾燥させた。
【0167】
比較実施例6Aの強化ガラス基板は、裸のままにし、その上に層も膜も配置されていなかった。約2000nmの厚さを有するAlO
xN
y膜を、比較実施例6Bの強化ガラス基板上に配置し、このAlO
xN
y膜とガラス基板との間に亀裂軽減層は配置されていなかった。ポリイミドを含む亀裂軽減層を実施例6C〜6Dのガラス基板上に配置し、ポリエーテルイミドを含む亀裂軽減層を実施例6E〜6Fのガラス基板上に配置した。実施例6C〜6Fの亀裂軽減層は、表6に纏められているように、様々な厚さを有した。2000nmの厚さを有するAlO
xN
y膜を、実施例6C〜6Fの各々の亀裂軽減層上に配置した。これらのAlO
xN
y膜は、比較実施例6Bと同じ様式で、実施例6C〜6Fの亀裂軽減層上に配置した。
【0168】
実施例6C〜6Fにおいて、以下の手法を使用して、亀裂軽減層を形成した。亀裂軽減層を配置する前に、強化ガラス基板を、約130℃の温度でホットプレート上で10分間焼成し、次いで、取り出して、約2分間冷ました。アミノシラン系接着促進剤(VM−652の名称でHD Microsystemsから供給)を強化ガラス基板の一方の主面に施し、20秒間に亘り湿った状態のままにした。この接着促進剤を、その上に接着促進剤が施されたガラス基板を、標準的な真空チャックスピンコータ内において5000rpmで回転させることによって、強化ガラス基板から振り落とした。接着促進剤の施用後、実施例6Cおよび6Dをポリイミドの溶液(PI−2555の名称でHD Mycrosystemsにより供給)と組み合わせた。このポリイミド溶液を、ある場合には、下記に提示した様々な体積比を使用して、N−メチル−2−ピロリドンを含む希釈剤(T9038/9の名称でHD Microsystemsにより供給)で希釈し、実施例6Cおよび6Dの強化ガラス基板に施した。約1mLのこの高分子溶液を、50×50mm平方の各ガラスサンプルに施した。次いで、ポリイミド溶液を有する強化ガラス基板を、3秒間に亘り500rpmで回転させ、その後、45秒間に亘り1000〜3000rpmで回転させて、所望の厚さおよび/または濃度の亀裂軽減層を得た。実施例6Cは、970nmのポリイミド厚を有し、溶媒希釈剤で60:40の比に希釈されたポリイミド溶液を使用して調製し、最初に、3秒間に亘り500rpmで回転させ、その後、45秒間に亘り2000rpmで回転させた。実施例6Dは、4800nmのポリイミド厚を有し、溶媒希釈剤で希釈されていないポリイミド溶液を使用して調製し、最初に、3秒間に亘り500rpmで回転させ、その後、45秒間に亘り1500rpmで回転させた。
【0169】
実施例6Eおよび6Fは、ポリエーテルイミド(PEI)(製品番号700193でAldrichからペレットとして供給された)溶液を使用したことを除いて、同様に調製した。このPEIは、実施例6Cおよび6Dに使用したのと同じ溶媒希釈剤中に溶解させて、5〜20質量%の間のPEI濃度を有する溶液を提供し、30秒間に亘り5000rpmの速度でスピンコーティングして、所望の厚さおよび/または濃度の亀裂軽減層を得た。実施例6Eは、185nmのPEI厚を有し、5質量%のPEI溶液(残りは溶媒希釈剤からなる)を使用して調製し、その後、30秒間に亘り5000rpmで回転させた。実施例6Fは、4000nmのPEI厚を有し、20質量%のPEI溶液(残りは溶媒希釈剤からなる)を使用して調製し、その後、30秒間に亘り5000rpmで回転させた。
【0170】
次いで、実施例6C〜6Fを2〜3分間に亘り130℃の温度でホットプレート上において焼成し、次に、280トルの圧力で作動しているN
2硬化炉(YESから供給)内に入れ、90分間に亘り240℃の温度で硬化させた。
【0171】
次いで、115sccm(0.194Pa・m
3/s)の流量で流したアルゴン、50sccm(約8.45×10
-2Pa・m
3/s)の流量で流した窒素および2sccm(3.38×10
-2Pa・m
3/s)の流量で流した酸素の存在下において、約0.75ミリトルの圧力で真空槽を使用して、AlO
xN
y膜を、アルミニウムターゲットからのDC反応性スパッタリングにより、裸のガラス上(比較実施例6B)または亀裂軽減層上(実施例6C〜6F)のいずれかに堆積させた。DC電力は4000Wで供給した。このAlO
xN
y膜は、約70オングストローム/分の堆積速度で形成した。表6には、実施例6A〜6Fの属性が纏められている。
【0172】
【表5】
【0173】
実施例6A〜6Fの平均曲げ強度は、実施例1A〜1Jと同じ様式で、リング・オン・リング強度試験で評価した。
図15および16に示されるように、実施例6C〜6F(各々が高分子亀裂軽減層を備えていた)の全ては、介在する亀裂軽減層がなく、ガラス基板上に直接配置されたAlO
xN
y膜を備えた、比較例6Bと比べると、改善された平均曲げ強度(リング・オン・リング破壊荷重で報告されている)を示した。その上、それぞれ、4800nmおよび4000nmの厚さを有する亀裂軽減層を備えた、実施例6Dおよび6Fは、元の未被覆のガラス基板(比較実施例6A)と実質的に同じまたは統計的に重複する平均曲げ強度を示した。ガラス基板上に直接被覆された2000nmのAlO
xN
y膜を備えた、比較実施例6Bは、比較実施例6A(すなわち、未被覆の「対照」ガラスサンプル)の約677kgf(約6630N)の特徴強度と比べて、被覆ガラス物品のワイブル特徴強度を約153kgf(約1500N)に低下させた。表6に示されるような、比較において、実施例6Cは約208kgf(約2010N)の特徴強度を有し、実施例6Dは約636kgf(約6230N)の特徴強度を有し、実施例6Eは約252kgf(約2470N)の特徴強度を有し、実施例6Fは約660kgf(約6470N)の特徴強度を有した。比較実施例6Bの実施例6C〜6Fとの比較により、亀裂軽減層は実施例6Cおよび6Fの物品の平均曲げ強度を実質的に改善し、実施例6C〜6Fの物品が、同じガラス基板と同じ膜を備えるが、亀裂軽減層を備えていない物品(例えば、比較実施例6B)と比べて、改善された平均曲げ強度を有することが示される。
【0174】
実施例7:酸窒化アルミニウム膜を有する多孔質無機亀裂軽減層
実施例7A〜7Bは、1.0mm厚のイオン交換により強化したアルミノケイ酸塩ガラス基板を提供することによって作製した。このガラス基板は、61モル%≦SiO
2≦75モル%;7モル%≦Al
2O
3≦15モル%;0モル%≦B
2O
3≦12モル%;9モル%≦Na
2O≦21モル%;0モル%≦K
2O≦4モル%;0モル%≦MgO≦7モル%;0モル%≦CaO≦3モル%;および0モル%≦SnO
2≦1モル%の組成を有した。このガラス基板を、3〜8時間に亘り約350〜450℃の温度を有するKNO
3溶融塩浴中でイオン交換して、強化ガラス基板を提供した。この強化ガラス基板は、約885MPaの圧縮応力および約42マイクロメートルのイオン交換層の深さを有した。次いで、ガラス基板を、40〜110kHzで超音波撹拌しながら、約50〜70℃の温度を有するKOH清浄液(1〜4%のSemiclean KG)中で洗浄し、同じ周波数範囲で超音波処理しながら、脱イオン水で濯ぎ、乾燥させた。
【0175】
比較実施例7Aの5つのガラス基板を裸のままにし、その上に層も膜も配置されていなかった。5オングストローム/秒の堆積速度、9.0×10
-4トルの堆積圧力、150sccm(約0.25Pa・m
3/s)の酸素流量、100sccm(約0.17Pa・m
3/s)のアルゴン流量、および最初に25℃であった基板温度(これは、堆積プロセスにより生じる熱のために、堆積中に約50℃まで上昇した)で、SiO前駆体材料の抵抗熱蒸発を使用して、真空槽内において、実施例7Bの5つのガラス基板に、ナノ多孔質SiO
2層を堆積させた。次いで、実施例7Bの5つのサンプルに、115sccm(0.194Pa・m
3/s)の流量で流したアルゴン、50sccm(約8.45×10
-2Pa・m
3/s)の流量で流した窒素および4sccm(6.76×10
-2Pa・m
3/s)の流量で流した酸素の存在下において、約0.75ミリトルの圧力で、アルミニウムターゲットからのDC反応性スパッタリングにより、2000nmのAlO
xN
y膜をさらに被覆した。DC電力は4000Wで供給した。このAlO
xN
y膜は、約70オングストローム/分の堆積速度で形成した。表7には、実施例7A〜7Bの属性および平均強度値が纏められている。表7に示されるように、この組からの未被覆ガラスサンプル(比較実施例7A)の平均強度は、この場合、RoR破壊荷重で5つの試験サンプルの平均値として計算して、約330kgf(約3230)であった。実施例7Bのサンプルの平均強度は約391kgf(約3830N)であった。平均強度値の標準偏差を考えると、これらの2つのサンプル組(比較実施例7Aおよび実施例7B)の強度分布は、統計的に類似している、または実質的に同じであることが、当業者には容易に理解されるであろう。ワイブル分布解析により、同様の統計的結論が得られる。比較実施例6Bに示されるように、類似のガラス基板上に直接配置された類似の2000nm厚のAlO
xN
y膜により、約140〜160kgf(約1370〜1570N)のRoR平均破壊荷重値が得られた。このように、実施例7Bの亀裂軽減層により、亀裂軽減層を持たずに製造された同じまたは実質的に同一の物品と比べて、被覆ガラス強度における実質的な改善がもたらされた。
【0176】
【表6】
【0177】
説明目的のために、限られた数の実施の形態に関して本開示を記載してきたが、この開示の恩恵を受けた当業者には、ここに開示された開示範囲から逸脱しない他の実施の形態も想起できることが認識されるであろう。したがって、本開示の精神および範囲から逸脱せずに、当業者に様々な改変、適用および選択肢が想起されるであろう。