(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-536898(P2015-536898A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】フルオロスルホニル基を含むイミド塩を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/086 20060101AFI20151201BHJP
【FI】
C01B21/086
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-543497(P2015-543497)
(86)(22)【出願日】2013年11月19日
(85)【翻訳文提出日】2015年7月17日
(86)【国際出願番号】FR2013052785
(87)【国際公開番号】WO2014080120
(87)【国際公開日】20140530
(31)【優先権主張番号】1261127
(32)【優先日】2012年11月22日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オデュロー,ソフィ
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,グレゴリー
(57)【要約】
本発明は少なくとも1つのフルオロスルホニル基を含むフッ素化化合物を得るためのフッ素化方法に関する。さらに具体的には、以下のスキームに従って、少なくとも1つの有機溶媒中、式(I)の化合物と無水フッ化水素酸を反応させる少なくとも1つの段階を含む、式(II)のフッ素化化合物を調製するための方法に関する。
[式中、
R
1=Clであり、R
2=F
1である特別の場合を除き、R
1はR
2であり、R
1がR
2である場合、R
1およびR
2は、F、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2HF
4、C
2H
2F
3、C
2H
3F
2、C
2F
5、C
3F
7、C
3H
2F
5、C
3H
4F
3、C
3HF
6、C
4F
9、C
4H
2F
7、C
4H
4F
5、C
5F
11、C
3F
5OCF
3、C
2F
4OCF
3、C
2H
2F
2OCF
3、CF
2OCF
3、C
6F
13、C
7F
15、C
8F
17またはC
9F
19などのハメットパラメーターσ
pが0を超える電子求引性基を表し、およびMが水素原子、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属または4級アンモニウムカチオンを表す]
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II)のフッ素化化合物を調製するための方法であって、
以下のスキームに従って、少なくとも1つの有機溶媒中で、式(I)の化合物:
【化1】
[式中、
R
1=Clであり、R
2=F
1である特別の場合を除き、R
1はR
2であり、およびR
1がR
2である場合、R
1およびR
2が、F、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2HF
4、C
2H
2F
3、C
2H
3F
2、C
2F
5、C
3F
7、C
3H
2F
5、C
3H
4F
3、C
3HF
6、C
4F
9、C
4H
2F
7、C
4H
4F
5、C
5F
11、C
3F
5OCF
3、C
2F
4OCF
3、C
2H
2F
2OCF
3、CF
2OCF
3、C
6F
13、C
7F
15、C
8F
17またはC
9F
19などのハメットパラメーターσ
pが0を超える電子求引性基を表し、ならびにMが水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属または4級アンモニウムカチオンを表す]
と無水フッ化水素酸を反応させる少なくとも1つの段階を含む、方法。
【請求項2】
有機溶媒が、1と70の間のドナー数、有利には5と65の間のドナー数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機溶媒が、エステル、ニトリルもしくはジニトリル、エーテルもしくはジエーテル、アミンまたはホスフィンから選択することができる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
反応段階が、0℃と溶媒または混合溶媒の沸点の間の温度T、好ましくは5℃と溶媒または混合溶媒の沸点の間の温度Tで行われることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
反応段階が、0と16バールの絶対圧の間の圧力Pで行われることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
無水HFを反応させる段階に先立ち、式(I)の化合物が溶媒または混合溶媒中で溶解されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式(I)の化合物と溶媒または混合溶媒との重量比が、0.001と10の間である、および好ましくは0.005と5の間であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
式(I)の化合物と使用されるHFとのモル比が、0.01と0.5の間、および好ましくは0.05と0.5の間であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
方法が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩または4級アンモニウムカチオン塩を得るための、フッ素化段階後にカチオン交換段階を含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
式(II)の化合物が、LiN(FSO2)2、LiNSO2CF3SO2F、LiNSO2C2F5SO2F、LiNSO2CF2OCF3SO2F、LiNSO2C3HF6SO2F、LiNSO2C4F9SO2F、LiNSO2C5F11SO2F、LiNSO2C6F13SO2F、LiNSO2C7F15SO2F、LiNSO2C8F17SO2Fまたは
LiNSO2C9F19SO2Fであることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は少なくとも1つのフルオロスルホニル基を含むフッ素化化合物を得るためのフッ素化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホニルイミド型のアニオンは、極めて弱塩基性という理由から、電池の中では無機塩の形態でまたはスーパーコンデンサーの中では有機塩の形態でエネルギー貯蔵分野においてまたはイオン液体の分野において益々一般的になっている。電池市場は完全に拡大しており、電池の製造コストの低減は主要な挑戦になりつつあり、大規模で低コストのこのタイプのアニオンの合成方法が必要である。
【0003】
リチウムイオン電池の特定の分野において、最も一般的に使用されている塩はLiPF
6であるが、該塩は限られた熱安定性、加水分解に対する不安定性などの数々の不利益があり、そのため電池の安定性を低減させている。最近、FSO
2-基を有する新規な塩が研究されてきており、例えば、よリ良いイオン電導率と加水分解に対する耐性などの数々の利点が明らかになっている。これらの塩の一つ、LiFSI(LiN(FSO
2)
2)がLiPF
6に代わる優れた候補となる極めて有利な性質を示した。
【0004】
LiFSIまたはその対応する酸の合成法はほとんど記述されていないが、これらすべての方法のうちで重要な段階は、S−F結合の形成段階であることが明らかである。
【0005】
Appel&Eisenbauer,Chem Ber.95,246−8,1962で記載された最初の合成経路はフルオロスルホン酸(FSO
3H)と尿素との反応からなる。FSO
3Hの使用によって、生成物は既に形成されているS−F結合を有し得るが、その腐食性と毒性から該方法の工業化には至っていない。
【0006】
二番目の経路(Ruff&Lustig,Inorg.Synth.1968,11,138_43)は、最初に以下の式(ClSO
2)
2NHを有するジクロロ化合物を合成し、次いでAsF
3を用いて塩素/フッ素交換することからなる。しかしながら、該方法もAsF
3の高価格と毒性のため工業化できない。
【0007】
文献WO02/053494号には、非プロトン性溶媒中で、アルカリ金属カチオンまたはオニウム型(NR
4+)のカチオンであってもよい一価のカチオンのフッ素化物を用いる、(ClSO
2)
2NHのCl/F交換からなる第三番目の経路が記載されている。該文献によれば、反応が非常に遅いことが判っている。
【0008】
文献WO07/068822号の実施例10には、無水フッ化水素酸中でのビス(フルオロスルホニル)イミドの合成が記載されている。したがって、該反応はオートクレーブ中で、種々の反応温度と反応時間で、1gのビス(クロロスルホニル)イミドと4gの無水HFで行われる。該文献は130℃の温度においても反応収率が55%を超えないことを教示している。さらに、該文献は不純物の存在によって工業的規模では分離が困難となることを教示している。該文献はHFによる、ビス(フルオロスルホニル)イミドの合成が満足できないと結論づけ、そしてフッ化リチウムの使用を推奨している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2002/053494号
【特許文献2】国際公開第2007/068822号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】APPEL & EISENBAUER、CHEM BER.95,246−8,1962
【非特許文献2】Ruff & Lustig、Inorg.Synth.1968,11,138_43
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
この予想に拘わらず、本出願人は無水フッ化水素酸を用いて、少なくとも1つのフルオロスルホニル基[ビス(フルオロスルホニル)イミドを含む]を含むフッ素化化合物を製造するための方法を開発した。該方法は、工業的規模をあてはめることが容易であるという利点を有し、HFが安価であるという利点も有している。
【0012】
式(I)の化合物であるR
1(SO
2)
2ClNMと無水フッ化水素酸を、有機溶媒中で反応させた場合、驚くべきことにフッ素化化合物の収率が事実上定量的であることが本出願人により見出された。
【0013】
本発明によるフッ素化化合物を調製するための方法は、少なくとも1つの有機溶媒中、式(I)の化合物と無水フッ化水素酸を反応させる少なくとも1つの段階を含む。本発明による、無水フッ化水素酸を反応させる段階は以下のスキームで表すことができる。
【0014】
【化1】
[式中、
R
1=Clであり、R
2=Fである特別の場合を除き、R
1はR
2である。R
1がR
2である場合、R
1およびR
2が、F、CF
3、CHF
2、CH
2F、C
2HF
4、C
2H
2F
3、C
2H
3F
2、C
2F
5、C
3F
7、C
3H
2F
5、C
3H
4F
3、C
3HF
6、C
4F
9、C
4H
2F
7、C
4H
4F
5、C
5F
11、C
3F
5OCF
3、C
2F
4OCF
3、C
2H
2F
2OCF
3、CF
2OCF
3、C
6F
13、C
7F
15、C
8F
17またはC
9F
19などのハメットパラメーターσ
pが0を超える電子求引性基を表し;
Mが水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属または4級アンモニウムカチオンを表す]
【0015】
有機溶媒は、好ましくは1と70の間、有利には5と65の間のドナー数を有する。溶媒のドナー数は−△Hの値を表し、△Hは溶媒と五塩化アンチモンとの間の相互作用のエンタルピーである(Journal of Solution Chemistry、vol.13、No.9、1984)。溶媒として、特にエステル、ニトリルもしくはジニトリル、エーテルもしくはジエーテル、アミンまたはホスフィンが挙げられる。
【0016】
メチルアセテート、エチルアセテート、ブチルアセテート、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル、グルタロニトリル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、ピリジン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィンおよびジエチルイソプロピルホスフィンが溶媒として好適であり得る。
【0017】
無水フッ化水素酸を反応させる段階は、好ましくは0℃と使用した溶媒または混合溶媒の沸点の間の温度で行うことができる。有利にはこの温度が5℃と溶媒または混合溶媒の沸点の間の温度である。
【0018】
本発明によれば、無水フッ化水素酸を反応させる段階は、好ましくは絶対圧の0と16バールの間の圧力Pで行うことができる。
【0019】
本発明による方法は、好ましくは無水HFを反応させる段階に先立って、式(I)の化合物を溶媒または混合溶媒に溶解することによって行う。
【0020】
式(I)の化合物と溶媒または混合溶媒の重量比は、好ましくは0.001と10の間であり、および有利には0.005と5の間である。
【0021】
HFを、好ましくはガス状形態で反応媒体に導入する。
【0022】
式(I)の化合物と使用されるHFとのモル比は、好ましくは0.01と0.5の間であり、および有利には0.05と0.5の間である。
【0023】
HFを反応させる段階は密閉系または開放系で行うことができる。
【0024】
明細書の説明に束縛されないで、ドナー溶媒を使用すると溶媒−HF複合体が形成され、そのためフッ素原子の求核性を増幅させることができる。そのような複合体の使用によって、余計な分裂反応を回避しながら、式(I)の化合物の穏和なフッ素化が起こる。
【0025】
本発明の方法によって、85%と100%の間のフッ素化収率が可能となり、先行技術の方法と比較して格段に増大している。
【0026】
式(I)のMがHである場合、本発明による方法はアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩または4級アンモニウムカチオン塩を得るため、フッ素化段階後にカチオン交換段階を含むことができる。
【0027】
本発明による方法は、以下の化学式:LiN(FSO
2)
2、LiNSO
2CF
3SO
2F、LiNSO
2C
2F
5SO
2F、LiNSO
2CF
2OCF
3SO
2F、LiNSO
2C
3HF
6SO
2F、LiNSO
2C
4F
9SO
2F、LiNSO
2C
5F
11SO
2F、LiNSO
2C
6F
13SO
2F、LiNSO
2C
7F
15SO
2F、LiNSO
2C
8F
17SO
2FおよびLiNSO
2C
9F
19SO
2Fを有するフッ素化化合物を調製するのに特に有益である。
【0028】
本発明を以下の実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
800mlオートクレーブ中で、28gの(ClSO
2)
2NHを50mlのアセトニトリルに溶解する。次いで、10gのHFを添加する。圧力は絶対圧0.34バールであり、温度を10℃に維持する。密閉系で、撹拌しながら18時間反応させる。過剰のHFをポンプで除去する。次いで反応媒体を炭酸リチウムで処理する。溶液を濾過し、次いで留去し、そして残渣を
19FNMRで分析する。分析では85%の完全にフッ素化された生成物(FSO
2)
2NLi、7.5%のFSO
3Liおよび7.5%のFSO
2NH
2を示す。後者2つは出発物質の分解の際に生成した化合物である。
【0030】
[実施例2]
800mlオートクレーブ中で、31.7gの(ClSO
2)
2NHを50mlのアセトニトリルに溶解する。次いで、10gのHFを添加する。圧力は絶対圧0.75バールであり、温度を20℃に維持する。密閉系で、撹拌しながら18時間反応させる。過剰のHFをポンプで除去する。次いで反応媒体を炭酸リチウムで処理する。溶液を濾過し、次いで留去し、そして残渣を
19FNMRで分析する。分析では100%の完全にフッ素化された生成物(FSO
2)
2NLiの存在を示し、分解生成物のFSO
3LiおよびFSO
2NH
2は示さない。
【0031】
[実施例3]
800mlオートクレーブ中で、61gの(ClSO
2)
2NHを50mlの1,4-ジオキサンに溶解する。次いで、20gのHFを添加する。圧力は絶対圧2.3バールであり、温度を25℃に維持する。密閉系で、撹拌しながら18時間反応させる。過剰のHFをポンプで除去する。次いで反応媒体を炭酸リチウムで処理する。溶液を濾過し、次いで留去し、そして残渣を
19FNMRで分析する。分析では100%の完全にフッ素化された生成物(FSO
2)
2NLiの存在を示し、分解生成物のFSO
3LiおよびFSO
2NH
2は示さない。
【国際調査報告】