(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-537179(P2015-537179A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】複数の異なるタイプの横エレメントを有した、無段変速機用の駆動ベルト及び該駆動ベルトを備えた無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16G 5/16 20060101AFI20151201BHJP
【FI】
F16G5/16 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-546998(P2015-546998)
(86)(22)【出願日】2013年12月11日
(85)【翻訳文提出日】2015年8月11日
(86)【国際出願番号】EP2013076245
(87)【国際公開番号】WO2014090882
(87)【国際公開日】20140619
(31)【優先権主張番号】1039950
(32)【優先日】2012年12月12日
(33)【優先権主張国】NL
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】エリク ファン デル ノル
(57)【要約】
相互に所定のプーリ角度(Φ
P)で方向付けられているそれぞれ2つのプーリシーブ(4,5)を備えたプーリ(1,2)と、リングセット(31)及び複数の横エレメント(32)を備えた駆動ベルト(3)とを有した変速機であって、前記横エレメント(32)はそれぞれ、互いに接触角度(Φ
C−I;Φ
C−II)で方向付けられた2つの接触面(37)によって前記プーリシーブ(4,5)に接触する。前記駆動ベルト(3)は2つのタイプの横エレメント(32−I,32−II)を含み、これら2つのタイプは、該2つのタイプの横エレメント(32−I,32−II)の前記接触面(37)の間にそれぞれ形成される接触角度(Φ
C−I,Φ
C−II)が異なることにより区別される。この変速機では、全て同じ接触角度(Φ
C)を有する横エレメント(32)を備えた駆動ベルトを使用する変速機と比較して運転中に発生するノイズが減じられている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互にプーリ角度(ΦP)を形成する2つのプーリシーブ(4,5)を備えたプーリ(1,2)と、リング状のキャリア(31)及び該キャリア(31)上に摺動可能かつ連続的に配置された複数の横エレメント(32)を備えた駆動ベルト(3)とを有した変速機であって、前記横エレメント(32)にはそれぞれ、1つの前面(39)と、1つの後面(38)と、前記変速機の前記プーリ(1,2)の前記プーリシーブ(4,5)に摩擦接触する複数の接触面(37)とが設けられており、前記前面(39)と前記後面(38)との間では前記横エレメントは厚さ方向で延在しており、前記接触面(37)は前記駆動ベルト(3)の所定の接触角度(ΦC)を成して互いに方向付けられていて、前記接触面(37)の間では前記横エレメント(32)は幅方向で延在している、変速機において、
前記駆動ベルト(3)の前記横エレメント(32−I,32−II)の前記接触角度(ΦC−I,ΦC−II)は、2つの母集団にグループ分けすることができ、一方の母集団の前記横エレメント(32−I;32−II)の接触角度(ΦC−I;ΦC−II)の平均値は前記プーリ角度(ΦP)よりも小さく、他方の母集団の前記横エレメント(32−I;32−II)の接触角度(ΦC−I;ΦC−II)の平均値は前記プーリ角度(ΦP)よりも大きく、前記各母集団の横エレメント(32−I;32−II)の接触角度(ΦC−I;ΦC−II)の上記両平均値の差は、前記2つの別の母集団の2つの横エレメント(32−I,32−II)から成る全ての対の接触角度(ΦC−I,ΦC−II)の間の差以上であることを特徴とする、変速機。
【請求項2】
相互にプーリ角度(ΦP)を形成する2つのプーリシーブ(4,5)を備えたプーリ(1,2)と、リング状のキャリア(31)及び該キャリア(31)上に摺動可能かつ連続的に配置された複数の横エレメント(32)を備えた駆動ベルト(3)とを有した変速機であって、前記横エレメント(32)にはそれぞれ、1つの前面(39)と、1つの後面(38)と、前記変速機の前記プーリ(1,2)の前記プーリシーブ(4,5)に摩擦接触する複数の接触面(37)とが設けられており、前記前面(39)と前記後面(38)との間では前記横エレメントは厚さ方向で延在しており、前記接触面(37)は前記駆動ベルト(3)の所定の接触角度(ΦC)を成して互いに方向付けられていて、前記接触面(37)の間では前記横エレメント(32)は幅方向で延在している、変速機において、
前記駆動ベルト(3)の前記横エレメント(32−I,32−II)の前記接触角度(ΦC−I,ΦC−II)は、2つの母集団にグループ分けすることができ、一方の母集団の前記横エレメント(32−I;32−II)の接触角度(ΦC−I;ΦC−II)の平均値は前記プーリ角度(ΦP)よりも小さく、他方の母集団の前記横エレメント(32−I;32−II)の接触角度(ΦC−I;ΦC−II)の平均値は前記プーリ角度(ΦP)よりも大きく、前記横エレメント(32−I;32−II)の前記接触角度(ΦC−I;ΦC−II)の標準偏差は、各母集団内で0.07よりも小さいことを特徴とする、変速機。
【請求項3】
前記一方の母集団の前記横エレメント(32−I;32−II)の前記接触角度(ΦC−I;ΦC−II)の平均値は、前記プーリ角度(ΦP)よりも少なくとも0.2°小さく、前記他方の母集団の前記横エレメント(32−I;32−II)の前記接触角度(ΦC−I;ΦC−II)の平均値は、前記プーリ角度(ΦP)よりも0.2°大きい、請求項1又は2記載の変速機。
【請求項4】
前記プーリ角度は22.0°であって、前記一方の母集団の前記横エレメント(32−I;32−II)の前記接触角度(ΦC−I;ΦC−II)は21.7°±0.2°であって、前記他方の母集団の前記横エレメント(32−I;32−II)の前記接触角度(ΦC−I;ΦC−II)は22.3°±0.2°である、請求項1から3までのいずれか1項記載の変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無段変速機用の駆動ベルトに関し、この駆動ベルトは特に、変速機の2つのプーリの周りに配置されるように形成されており、プーリに接触する複数の個別の横エレメントと、該横エレメントを変速機内で支持しかつガイドする1つ以上のエンドレスの、即ちリング状のキャリアとを有している。このような形式の駆動ベルトはプッシュベルトとしても公知である。
【0002】
駆動ベルトのエンドレスキャリアは典型的には、相互に重ねられた、連続したフレキシブルな複数の金属帯から成っていて、リングセットとしても公知である。エンドレスキャリアは、横エレメントに設けられた溝内に少なくとも部分的に挿入されている。駆動ベルトが1つのエンドレスキャリアしか有していない場合、このようなキャリアは典型的には、駆動ベルトの半径方向外側に向かって開かれた、横エレメントの中央溝内に取り付けられる。しかしながら通常、駆動ベルトは少なくとも2つのエンドレスキャリアを有しており、これらのエンドレスキャリアはそれぞれ、横エレメントの、即ち駆動ベルトの、軸方向側又は横方向側に向かってそれぞれ開かれた、横エレメントの2つの溝のそれぞれ一方に取り付けられている。
【0003】
駆動ベルトの横エレメントは、実質的に連続した列として、エンドレスキャリアの周面に沿って摺動可能に配置されていて、これによりこれらのエレメントは、駆動ベルトの動きに関する力を伝達することができる。横エレメントは2つの主ボディ面を有していて、これらの面は少なくとも部分的に、互いにほぼ平行に延在しており、横エレメントの周方向の側面によって横エレメントの(局所的な)厚さにわたって互いに隔てられている。キャリアの周面に沿って見ると、横エレメントは比較的小さい寸法、即ち厚さを有しており、従って数百の横エレメントが駆動ベルト内に設けられている。 ベルトが湾曲した軌道(部分)に沿って可動であるように、互いに隣接した横エレメントは互いに傾斜させることができなければならない。このような相対的な傾斜運動を可能にし、制御するために、駆動ベルトに設けられた互いに接触する2つの隣接した横エレメントの2つの主ボディ面のうちの少なくとも一方には、軸方向に延在する、各主ボディ面の凸状に丸み付けられた部分の形の、いわゆるロッキングエッジが設けられている。
【0004】
横エレメントの前記面の部分で、主として軸方向、即ち幅方向に向けられた部分は、段状に形成されていて、プーリと摩擦により係合するように形成されており、特にこの係合は、プーリの2つの円錐状のシーブの間に幅方向で挟まれることにより行われる。プーリシーブと係合する横エレメントの前記面の部分は接触面と言われる。横エレメントの接触面とプーリシーブとの間の摩擦接続により、これらの間で力を伝達することができ、これにより駆動ベルトは、一方のプーリから他方のプーリへと駆動トルクと回転運動とを伝達することができる。駆動ベルトをプーリシーブに力を伝達するようにこのように摩擦的に接触させると同時に、これらのシーブに対して相対的に半径方向で移動できるようにするために、駆動ベルトの横エレメントの前記両接触面は、半径方向内側で互いに向かって角度をつけられている。横エレメントの接触面の間に形成されるこの角度はベルトの接触角度と言われ、この接触角度は、プーリのシーブの円錐面の間に形成される角度に近似している。この後者の角度はプーリ角度と言われる。
【0005】
無段変速機の運転中、駆動ベルトとプーリとが回転している間に、横エレメントが継続的かつ周期的にプーリシーブを打ち付けることによって音が発生するという現象が広く知られている。このような音は変速機本来の動作を妨害するものではないが、車両エンジンや、(噛み合う)ギア、又は(回転する)車輪といった他の音源のノイズレベルが低いときには特に、(車両の)運転者にとって騒音と感じられる恐れがある。従って、無段変速機を設計するうえで、特にそこで使用される駆動ベルトを設計するうえで、運転中にベルトによって発生するノイズを最小化すること、少なくとも人に聞こえる範囲で最小化することが普遍的な開発目的となっている。
【0006】
変速機の運転中に生じる上述した打撃ノイズを減じる明白な手段は、横エレメントの質量を減じることによってプーリシーブと横エレメントとの衝突力を減じることである。選択的な手段として欧州特許公開第0305023号明細書により、互いに異なる厚さの2つ以上のタイプの横エレメントを備えたベルトを設けることが提案されている。この異なるタイプの横エレメントは互いに混合されて、ベルトの周面に沿って配置されている。これにより、変速機の運転中、横エレメントは異なる間隔で連続的にプーリに打ち付けられ、これにより打撃ノイズは2つ(又はそれ以上の)周波数にわたって分散されることにより減衰される。しかしながら、この後者の手段によって得られる効果及び/又は達成されるものは限定的である。何故ならば、横エレメントの異なるタイプ間の厚さの差は、機能的及び製造的な理由のために限定的なものだからである。例えば、変速機の操作のスムーズさは、最薄の横エレメントにおいて最良であり、さらにはリングセット内で横エレメントにより生じる接触応力は、最薄の横エレメントにおいて最小であるからである。
【0007】
本発明は、操作中に発生する打撃ノイズを減じる新しい手段を提供することを課題としており、この新しい手段は好適には、1つ又はそれ以上の公知の手段に付加的に適用することができるものである。下記請求項1に記載の無段変速機はこのような新しい手段を含み、好適には、このような手段を含まない別の形式の比較可能な変速機と比較して運転中に発生するノイズを減じている。
【0008】
特に、プーリ角度以下である接触角度を有する第1のタイプの横エレメントと、プーリ角度以上である接触角度を有する第2のタイプの横エレメントとを設けることにより、これら2つのタイプの横エレメントは互いに異なる接触角度を有していて、プーリシーブとの接触は、前記2つのタイプの横エレメントの間で互いに異なる半径方向の位置で行われ、従って、プーリシーブに対して相対的に互いに異なる速度で行われる。このような(相対)速度差により、打撃ノイズは、2つの周波数にわたって分散されることにより減衰される。従って、本発明による新しい手段の背景にある作動原理は、互いに異なる厚さを有する2つ以上のタイプの横エレメントを設けた駆動ベルトに相当するものである。
【0009】
なお、公知の駆動ベルトの接触角度は、製造時の誤差や不正確さの結果として既に幾分ばらつきがある。例えば、従来の駆動ベルトでは、プーリ角度が22.0°の場合、横エレメント間で接触角度は0.2°ばらつきがあるもので、例えば22.0°±0.2°であるか、又は、統計的にみた場合、横エレメントの接触角度の標準偏差は0.07°である。特開2002−303354号公報によると、このように製造時に自然に生じる誤差的な側面により、このような接触角度がより限られたものとなるように製造時に管理されている変速機と比較して変速機ノイズは減衰されるものだという。特に特開2002−303354号公報によると、このノイズ減衰効果は、接触角度について製造時の許容標準偏差を0.2°まで増大させることにより改善できるそうだ。しかしながらこのように大きな標準偏差は、比較的不正確な製造プロセスに対応するもので、即ち、比較的不正確な製造プロセスでしか達成されない。このような製造プロセスは、その他の製品寸法も結果として不正確に製造される恐れがあるので著しく不利益である。少なくとも実際には、製造される横エレメントの接触角度のばらつきだけを増大させ、横エレメントのその他の寸法は不変の精度で製造する、即ち適用可能な誤差内に保つように製造プロセスを配置し、かつ/又は制御するのは困難であり、コストもかかろう。
【0010】
本発明による新しい駆動ベルトは、(統計的に)識別可能な2つのグループに横エレメントをわけている。例えば、前記22.0°のプーリ角度と組み合わせる場合、前記第1のタイプの横エレメントは22.3°±0.2°の比較的大きな接触角を有していて良く、第2のタイプの横エレメントは21.7°±0.2°の比較的小さな接触角を有していて良い。
【0011】
なお、典型的な変速機と駆動ベルトの設計では、ベルトの(周方向の)全長は、500〜750mmの範囲の値を有している。このような典型的な駆動ベルト設計の横エレメントは全て、ロッキングエッジで測定して24〜30mmの範囲にあるほぼ同じ幅を有していて、かつ同様にロッキングエッジで測定して1.4〜2.0mmの範囲にあるほぼ同じ厚さを有していて、かつ半径方向で測定して約6mm延在する接触面を有している。このような典型的な駆動ベルト設計では、厚さの差は0.14〜0.20mmを超えるものではなく、これは打撃ノイズを減衰するために駆動ベルトに組み込まれた異なるタイプの横エレメント間で現実的に達成可能である。駆動ベルトの横エレメントにおけるこのような約10%の厚さの差により、横エレメントがプーリシーブを打ち付ける打撃の周波数は論理的には最大で約200Hzの範囲にわたって分散すると見積もることができる。しかしながら、本発明による新しい手段を適用する場合、プーリのプーリシーブに対する横エレメントの初期接触点は、プーリシーブの半径方向で約6mm間隔を置いていて、即ち、接触面の高さ分だけ互いに隔てられている。この後者の駆動ベルト設計により、横部材がプーリシーブを打撃することにより生じるノイズの周波数は論理的には約800Hzの範囲にわたって分散されると見積もることができる。このノイズ減衰効果は打撃周波数の分散の効果に直接関係しているので、本発明による新しい手段により、公知の手段に対して単に選択肢が提供されるだけでなく、著しく効率の良いものが提供される。
【0012】
以下に、本発明による新しい駆動ベルト設計の1つ又は複数の実施態様を、添付の図面につき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】エンドレスキャリアと複数の横エレメントとを備えた駆動ベルトであって、2つのプーリ上を走行する駆動ベルトを有した無段変速機を概略的に示した斜視図である。
【
図2】公知の駆動ベルトを該駆動ベルトの周方向に向けて見た断面図である。
【
図3】公知の駆動ベルトの横エレメントを幅方向に向けて見た図である。
【
図4】プーリと初期接触している駆動ベルトの横エレメントを示す3つの概略的な図である。
【
図5】3つの特別な駆動ベルト設計により生じるノイズを、音振幅と周波数との関連で極めて概略的な形式で示したグラフである。
【0014】
図面において、同じ参照符号は、同じ又は類似の構造及び/又は部分を示している。
【0015】
図1の無段変速機の概略的な図には駆動ベルト3が示されている。この駆動ベルト3は2つのプーリ1,2の上を走行するもので、フレキシブルなエンドレスキャリア31と、このエンドレスキャリア31の周面に取り付けられていてこの周面に沿って配置された複数の横エレメント32から成る実質的に連続的な列とを含んでいる。図示した変速機の構成では、上プーリ1は下プーリ2よりも速く回転する。プーリ1,2の2つの円錐状のシーブ4,5の間の距離を変更することにより、各プーリ1,2の駆動ベルト3のいわゆる走行半径Rを相互に対応する形式で変更することができ、結果として2つのプーリ1,2の回転速度の間の(変速)比は可変であり得る。
【0016】
図2には駆動ベルト3が、このベルト3の周方向又は長手方向Lで見た、即ち、ベルト3の軸方向又は幅方向Wと半径方向又は高さ方向Hとに対して垂直方向で見た断面図で示されている。
図2には2つのエンドレスキャリア31の存在が示されており、これらのエンドレスキャリア31は
図2に横断面が示されている。これらのエンドレスキャリア31は、駆動ベルト3の複数の横エレメント32を支持しかつガイドする。これら横エレメント32のうち1つが
図2に正面図で示されている。
【0017】
駆動ベルト3の横エレメント32とエンドレスキャリア31とは典型的には金属、通常は合金鋼から製造されている。横エレメント32は、各プーリ1,2のシーブ4,5の間で働くクランプ力を、横エレメント32の接触面37を介して受け取る。このような接触面37は、横エレメント32の各軸方向面に設けられている。これらの接触面37は、半径方向外側に向かって互いに離れていき、これにより鋭角が両接触面37の間で規定され、これは駆動ベルト3の接触角Φ
Cと記載されている。この接触角は、各プーリ1,2のシーブ4,5の間に規定されるV角度にほぼ適合し、このV角度はプーリ角度Φ
Pと記載される。
【0018】
横エレメント32は動くことができ、即ち、エンドレスキャリア31に沿って周方向Lでスライドすることができる。これにより、互いに押し付けられエンドレスキャリア31に沿って駆動ベルト3とプーリ1,2の回転方向で互いに前進方向に押される横エレメント32によって、変速機プーリ1,2間でトルクが伝達される。この実施態様では、
図2に、エンドレスキャリア31が5つの個別のエンドレス帯からそれぞれ成っていて、これらのエンドレス帯は互いに同心的に重ねられて、エンドレスキャリア31を形成していることが示されている。実際には、エンドレスキャリア31はしばしば、5つよりも多くの、例えば9又は12又はそれ以上のエンドレス帯を有している。
【0019】
前述した通りの方向で
図3にも示されている駆動ベルト3の横エレメント32には、互いに反対側に位置する2つの溝33が設けられている。これらの溝33はそれぞれ、横エレメント32の各軸方向面に向かって開かれており、各エンドレスキャリア31(の小さい部分)をそれぞれ収容している。従って、横エレメント32の第1の部分又はベース部分34は、エンドレスキャリア31よりも半径方向内側に位置していて、横エレメント32の第2の部分又は中間部分35は、両エンドレスキャリア31の間に位置していて、横エレメント32の第3の部分又は頭頂部分36はエンドレスキャリア31よりも半径方向外側に延在している。各溝33の半径方向内側の面は、横エレメント32のベース部分34のいわゆる支持面42によって画定されている。この支持面42は、半径方向外側に、概して横エレメント32の頭頂部分36の方向に向いていて、エンドレスキャリア31の内面に接触している。
【0020】
互いに反対の周方向Lに向いている横エレメント32の2つの主ボディ面38,39のうちの第1の面又は後面38はほぼ扁平である。横エレメント32の他方の面又主ボディ前面39にはいわゆるロッキングエッジ18が設けられている。このロッキングエッジ18は、半径方向Hで、前面39の上方部分と下方部分との間に移行部を形成している。前面39の上方部分は後面38に対してほぼ平行に延在していて、下方部分は後面38に向かって延在するように傾斜している。
図2ではロッキングエッジ18は概略的に1つの線によってのみ示されているが、実際にはロッキングエッジ18は主として、凸状に湾曲された移行面の形状で設けられている。従って横エレメント32の上述した上方部分は、主ボディ面38,39の間にほぼ一定の寸法を有している。即ち、これは周方向Lで見てわかる。この寸法は典型的には、横エレメント32の厚さとして基準となる。
【0021】
これらの
図1〜
図3に基づき、変速機1の運転中、即ち、プーリ1,2及びその駆動ベルト3の回転中、駆動ベルト3の横エレメント32がプーリ1,2と摩擦接続するので、これら横エレメント32は連続的に、プーリ1,2のシーブ4,5に打ち付けられることが明らかである。駆動ベルト3の任意の回転速度で、このような連続的な打ち付けが一定の間隔で生じるので、特定の聞き取れる周波数でノイズが発生する。
図5には、このような打撃ノイズを概略的に表したものがグラフで示されている。このグラフでは、ノイズの音レベル、即ち振幅が実線で周波数に関して示されている。
図5の実線は、従来のベルトによっては打撃ノイズが、極めて小さな分散を伴う1つの周波数に集中していることを示している。この分散は、製造誤差及びシステム全体における他の不連続性に基づくものである。
【0022】
このような打撃ノイズの振幅を減じる努力において、異なる厚さの横エレメント32をランダムに駆動ベルト3に組み込み、これにより連続的な打撃が異なる間隔で生じるようにする方式が提案された。このような設計的手段により、打撃ノイズは、
図5のグラフに点線で(概略的に)示されたような周波数の範囲にわたって分散されている。このような分散により、打撃ノイズの振幅は好適には減じられている。
【0023】
本発明によれば、選択的な設計的手段が打撃ノイズの振幅を減じるために提案されている。特に2つのタイプの横エレメント32を駆動ベルト3に組み込むことが提案されている。2つのタイプの横エレメント32のうち第1のタイプIによれば、少なくとも1つのプーリ1,2のシーブ4,5の間に形成されるプーリ角度Φ
Pよりも小さい接触角度Φ
C−Iが形成され、第2のタイプIIによれば、前記プーリ角度Φ
Pよりも大きな接触角度Φ
C−IIが形成される。結果として、第1のタイプIの横エレメント32は、少なくとも1つのプーリ1,2のシーブ4,5に、シーブ4,5の接触面37の底部又は半径方向内側の端部で接触し、第2のタイプIIの横エレメント32については、このような第1の接触は、接触面37の頭頂部又は半径方向外側端部で生じる。
【0024】
この後者の選択的な設計的手段は、
図4の特に部分B、Cに示されている。
図4の両図面部分B、Cは、
図4の図面部分Aの点線で囲まれた楕円の領域を拡大して示したもので、部分Bは、駆動ベルト3に組み込まれた横エレメント32の2つのタイプI,IIのうち前記第1のタイプ32−Iを示していて、部分Cによっては、前記第2のタイプ32−IIが示されている。横エレメント32の公知の厚さ変更と同様に、この後者の接触角変更も、周波数の分散による打撃ノイズの減少効果を有している。
図5のグラフに一点鎖線により(概略的に)示したように、接触角度の変更による横エレメント32の打撃ノイズの周波数分散及び振幅の減少の方が、横エレメント32の厚さ変更よるものよりも特により効果的である。
【0025】
運転中、及び運転後にプーリ1,2と駆動ベルト3との間に加えられる力に基づき、横エレメント32−I,32−IIはプーリシーブ4,5と初期接触し、これらの横エレメント32−I,32−IIは僅かに弾性的に変形されて、接触面37の高さ全体に沿って、即ち、前記頭頂端部又は底端部だけではなく、プーリシーブ4,5に接触する。この弾性的な変形は、意図的なものでありかつ必然であるが、実際にはプーリ角度Φ
Pに対して相対的に適用される最大接触角度Φ
C−I,Φ
C−IIを制限する。現在は、接触角度Φ
C−I、Φ
C−IIは、プーリ角度Φ
Pの1°以内に維持されるべきだと考えられている。
【国際調査報告】