特表2015-537208(P2015-537208A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2015-537208心不全リスクの予測改善のためのバイオマーカー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-537208(P2015-537208A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】心不全リスクの予測改善のためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20151201BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
   G01N33/68
   C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2015-540148(P2015-540148)
(86)(22)【出願日】2013年11月4日
(85)【翻訳文提出日】2015年6月8日
(86)【国際出願番号】EP2013072943
(87)【国際公開番号】WO2014068113
(87)【国際公開日】20140508
(31)【優先権主張番号】61/721,475
(32)【優先日】2012年11月1日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(71)【出願人】
【識別番号】391058060
【氏名又は名称】ベイラー カレッジ オブ メディスン
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
(71)【出願人】
【識別番号】507412933
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・ノース・カロライナ・アット・チャペル・ヒル
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(72)【発明者】
【氏名】バランタイン,クリスティー・ミッチェル
(72)【発明者】
【氏名】ホーヘフェーン,ロン・コルネリス
(72)【発明者】
【氏名】ナンビ,ヴィジェイ
(72)【発明者】
【氏名】チャンブレス,ロイド・イー
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA36
2G045DA54
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QS03
4B063QS33
4B063QX02
(57)【要約】
本明細書の開示内容は、検査室診断法の分野に関する。具体的には、患者が心不全(HF)に罹患するリスクを、NT−proBNP、トロポニンT、および/またはナトリウム利尿ペプチドの検出に基づいて決定するための方法を開示する。患者試料からのバイオマーカーデータの採用によりHFリスクモデルの精度および速度を共に改善するための方法も開示する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を含む、被検体における心不全リスクの診断方法:
a.場合により被検体の単純化モデルファクターを得る;
b.被検体から得た生体試料においてトロポニンT(TnT)およびNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)の量を得る;
c.被検体から得た生体試料におけるTnTおよびNT−proBNPの量ならびに被検体の単純化モデルファクターに基づいて、単純化モデルスコアを得る;
d.臨床モデルスコアと比較した単純化モデルスコアのアラインメント値を得る;および
e.アラインメント値が閾値を超えれば、心不全リスクと診断する。
【請求項2】
下記を含む、被検体を心不全療法が必要であると同定するための方法:
a.場合により被検体の単純化モデルファクターを得る;
b.被検体から得た生体試料の一部分をトロポニンT(TnT)に対して免疫反応性である抗体と接触させる;
c.被検体から得た生体試料の一部分をNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)に対して免疫反応性である抗体と接触させる;
d.被検体から得た生体試料におけるTnTの量およびNT−proBNPの量を決定する;
e.被検体から得た生体試料におけるTnTおよびNT−proBNPの量ならびに被検体の単純化モデルファクターに基づいて、単純化モデルスコアを決定する;
f.単純化モデルスコアを臨床モデルスコアと比較してアラインメント値を決定する;および
g.アラインメント値が閾値を超えれば、その被検体を心不全療法が必要であると同定する。
【請求項3】
下記を含む、被検体において療法決断を促進するための方法:
a.場合により被検体の単純化モデルファクターを得る;
b.被検体から得た生体試料の第1部分をトロポニンT(TnT)に対して免疫反応性である第1抗体と接触させ、被検体から得た生体試料の第2部分をNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)に対して免疫反応性である第2抗体と接触させる;
c.被検体から得た生体試料におけるTnTの量およびNT−proBNPの量を決定する;
d.被検体から得た生体試料におけるTnTおよびNT−proBNPの量ならびに被検体の単純化モデルファクターに基づいて、単純化モデルスコアを決定する;および
e.単純化モデルスコア/曲線を臨床モデルスコアに当てはめる;
その際、閾値を超える適合度は心不全リスクに対する療法の必要性の指標である。
【請求項4】
下記を含む、心不全リスクをもつ被検体に対する治療を選択するための方法:
a.場合により被検体の単純化モデルファクターを得る;
b.被検体から得た生体試料の一部分をトロポニンT(TnT)に対して免疫反応性である抗体と接触させる;
c.被検体から得た生体試料の一部分をNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)に対して免疫反応性である抗体と接触させる;
d.被検体から得た生体試料におけるTnTの量およびNT−proBNPの量を接触工程に基づいて決定する;
e.被検体から得た生体試料におけるTnTおよびNT−proBNPの決定工程で決定した量ならびに被検体の単純化モデルファクターに基づいて、単純化モデルスコアを計算する;
f.単純化モデルスコアを臨床モデルスコアとアラインさせる;および
g.単純化モデルスコアが臨床モデルスコアと有意にアラインした場合、心不全治療を選択する。
【請求項5】
下記を含む、被検体における心不全リスクを予測するためのモデル:
a.被検体から得た単純化モデルファクター;
b.被検体から得た生体試料におけるトロポニンT(TnT)の量;および
c.被検体から得た生体試料におけるNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)の量;
その際、単純化モデルファクター、TnTの量、およびNT−proBNPの量を作動可能な状態で組み合わせ/計算して、被検体における心不全リスクを予測する。
【請求項6】
下記を含む、被検体において療法決断を促進するために適合させたシステム/デバイス/アッセイ:
a.被検体からの生体試料の第1部分をトロポニンT(TnT)に対して免疫反応性である第1抗体と接触させるための手段;
b.被検体から得た生体試料の第2部分をNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)に対して免疫反応性である第2抗体と接触させるための手段;
c.プロセッサーを備えたコンピューティングデバイス;および
d.プロセッサーが実行できる複数の指令であって、実行した際に、被検体から得た生体試料におけるTnTおよびNT−proBNPの量ならびに被検体の単純化モデルファクターに基づいて単純化モデルスコアを決定し、単純化モデルスコアが臨床モデルスコアと有意にアラインすれば心不全リスクに対する療法の必要性を指示する出力を提供する指令を含む、非一過性の機械可読媒体。
【請求項7】
下記を含む、被検体における臨床心不全リスクスコアを予測するための方法:
a.場合により被検体の単純化モデルファクターを得る;
b.被検体から得た生体試料においてトロポニンT(TnT)およびNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)の量を得る;
c.被検体から得た生体試料におけるTnTおよびNT−proBNPの量ならびに被検体の単純化モデルファクターに基づいて、単純化モデルスコアを得る;
d.臨床モデルスコアと比較した単純化モデルスコアのアラインメント値を得る;および
e.アラインメント値が閾値を超えれば、臨床心不全リスクスコアを予測する。
【請求項8】
下記を含む、被検体についての臨床心不全リスクスコアの予測精度を改善するための方法:
a.場合により被検体についての臨床心不全リスクスコアを得る;
b.被検体から得た生体試料においてトロポニンT(TnT)の量およびNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)の量を得る;および
c.TnTおよびNT−proBNPの量を臨床心不全リスクスコアと組み合わせて、被検体についての臨床心不全リスクスコアの予測精度を改善する。
【請求項9】
被検体における心不全リスクを診断するための、被検体の単純化リスクファクターと組み合わせた、被検体からの生体試料における
a.トロポニンTおよびNT−proBNP、および/または
b.トロポニンTに結合する検出剤およびNT−proBNPに結合する検出剤
の使用。
【請求項10】
被検体を心不全療法が必要であると同定するための、被検体の単純化リスクファクターと組み合わせた、被検体からの生体試料における
a.トロポニンTおよびNT−proBNP、および/または
b.トロポニンTに結合する検出剤およびNT−proBNPに結合する検出剤
の使用。
【請求項11】
心不全リスクをもつ被検体に対する治療を選択するための、被検体の単純化リスクファクターと組み合わせた、被検体からの生体試料における
a.トロポニンTおよびNT−proBNP、および/または
b.トロポニンTに結合する検出剤およびNT−proBNPに結合する検出剤
の使用。
【請求項12】
被検体における臨床心不全リスクスコアを予測するための、被検体の単純化リスクファクターと組み合わせた、被検体からの生体試料における
a.トロポニンTおよびNT−proBNP、および/または
b.トロポニンTに結合する検出剤およびNT−proBNPに結合する検出剤
の使用。
【請求項13】
臨床心不全リスクスコアの予測精度を改善するための、
a.トロポニンTおよびNT−proBNP、および/または
b.トロポニンTに結合する検出剤およびNT−proBNPに結合する検出剤
の使用。
【請求項14】
臨床心不全リスクスコアがHealth ABC、フラミンガムHFリスクスコア、またはAtherosclerosis Risk in Communities(ARIC)HFスコアである、請求項8に記載の方法、または請求項12に記載の使用。
【請求項15】
単純化モデルファクターが年齢、人種および性別である、請求項1〜5および7のいずれか1項に記載の方法、または請求項9〜11のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本明細書の開示内容は、検査室診断法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] 種々の心血管疾患のうち、心不全は今後、数十年間にわたって最大の発病率増大をもつと予想されている(Heidenreich, Circulation. 2011, 123(8): 933-44)。保健上、心不全リスクをもつ患者を同定することはきわめて重要である。特にリスクが早期に同定されれば、予防的に食事、行動、ライフスタイルその他の要因を変更することにより、患者が心不全を経験する可能性を劇的に低減できる。しかし、特に現在利用できる心不全予測方法が限られるため、心不全リスクをもつ患者の診断は依然として困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Heidenreich, Circulation. 2011, 123(8): 933-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
[0003] したがって、本明細書の開示内容の基礎となる技術的課題は、高い心不全リスクをもつ個体を同定するための改善された手段および方法を提供することであるとみることができる。この課題は、特許請求の範囲および以下の明細書に記載する開示内容の態様により解決される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[0004] 本明細書の開示内容は、検査室診断法の分野に関する。1観点において、患者の心不全(HF)リスクの改善された診断方法を開示する。具体的には、患者のHFリスクの診断は、患者の試料において特定のバイオマーカーの量を決定し、このデータを患者データと組み合わせることによって改善できる。1観点において、臨床HFリスクモデルからの患者データの一部または全部を用いてHFリスクの診断を改善することができ、これにはたとえば診断精度の改善が含まれる。他の観点において、バイオマーカー量とごく小さなサブセットの容易に入手できる患者データの組合わせを用いてHFリスクの診断を改善することができ、これにはたとえば診断速度の改善が含まれる。1観点において、測定するバイオマーカーはトロポニンおよびナトリウム利尿ペプチドである。
【0006】
[0005] 本明細書に開示する方法は、手動で実施でき、あるいは自動化できる。開示する方法の1以上の工程を、たとえば患者試料においてトロポニンおよび/またはナトリウム利尿ペプチドの量を決定するための適切なロボット装置およびセンサー装置により、あるいは患者からの試料において決定したトロポニンおよび/またはナトリウム利尿ペプチドの量と適切な基準量を比較するコンピューター実装した工程により、自動化できる。
【0007】
[0006] 開示する種々の観点の前記態様を単独で、または開示する範囲から逸脱することなくそのいずれかの組合わせで使用できる。具体的な観点は以下のより詳細な記載および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
[0007] 以下の図面を考慮すれば、開示内容をより良く理解できる;これらは説明の目的で述べるものであり、決して開示内容の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
図1-1】[0008] 図1−1:男性についての推定リスクの十分位数における10年以内のHF事象の分布(%)。ARICモデル、ARIC+cTnTおよびNT−proBNPモデル、ならびに年齢、人種+cTnTおよびNT−proBNPモデルに従った、男性の推定リスクの十分位数における10年以内の心不全(HF)事象の分布。注釈:トロポニンを6カテゴリーとしてモデル化し、NT−proBNPを対数変換する。ARIC心不全リスク予測モデル、すなわちARICモデルは、幾つかの構成要素、たとえば年齢、人種、性別、収縮期血圧、拡張期血圧、抗高血圧薬の使用、現在/以前の喫煙、糖尿病、肥満指数(BMI)、頻発性(prevalent)冠動脈性心疾患、および心拍数を含む。
図1-2】[0008] 図1−2:男性についての推定リスクの十分位数による10年のHFリスク。ARICモデル、ARIC+cTnTおよびNT−proBNPモデル、ならびに年齢、人種+cTnTおよびNT−proBNPモデルに従った、男性の推定リスクの十分位数による10年の心不全(HF)事象のリスク。トロポニンを6カテゴリーとしてモデル化する。NT−proBNPを対数変換する。ARICモデルは本明細書に先に記載したものである。
図2-1】[0010] 図2−1:女性についての推定リスクの十分位数における10年以内のHF事象の分布(%)。ARICモデル、ARIC+cTnTおよびNT−proBNPモデル、ならびに年齢、人種+cTnTおよびNT−proBNPモデルに従った、女性の推定リスクの十分位数における10年以内の心不全(HF)事象の分布。トロポニンを6カテゴリーとしてモデル化する。NT−proBNPを対数変換する。ARICモデルは本明細書に先に記載したものである。
図2-2】[0011] 図2−2:女性についての推定リスクの十分位数による10年のHFリスク。ARICモデル、ARIC+cTnTおよびNT−proBNPモデル、ならびに年齢、人種+cTnTおよびNT−proBNPモデルに従った、女性の推定リスクの十分位数による10年の心不全(HF)事象のリスク。
図3-1】[0012] 図3−1:男性におけるcTnT/NT−proBNPレベルによる10年のHFリスク。年齢および人種について調整した、男性におけるcTnT/NT−proBNPによる10年の心不全(HF)事象のリスク。
図3-2】[0013] 図3−2:女性におけるcTnT/NT−proBNPレベルによる10年のHFリスク。年齢および人種について調整した、女性におけるcTnT/NT−proBNPによる10年の心不全(HF)事象のリスク。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[0014] 本明細書に開示する態様は、すべてを網羅すること、あるいは以下の詳細な記載に開示する厳密な形態に開示内容を限定することを意図したものではない。むしろ、態様は他の当業者がそれらの教示を利用できるように選択および記載される。
【0010】
[0015] 用語“心不全”または“HF”は、先にAtherosclerosis Risk in Communities(ARIC)試験(Agarwal, et al., Circ Heart Fail. 2012; 5(4): 422-9)に記載されている。簡単に言えば、いずれかのポジションの428.xのICD−9コードを用いた退院記録、またはそれぞれ428.xもしくはI50のICD−9もしくはICD−10コードを用いた死亡診断書は、HFの指標であるとみなされた。症候性HFを治療するために根拠に基づく多数の有効な療法が開発されているが、長期転帰は依然として不良である。したがって、HFの予防および予測は依然として重要な目標である。
【0011】
[0016] 本明細書中で用いる用語“リスクを予測する”は、一定の時間ウインドウ以内、すなわち予測ウインドウ以内に被検体がHFに罹患する確率を査定することを表わす。しかし、当業者に理解されるように、そのような査定は通常は調査される被検体すべてについて拘束力をもつことを意図してはいない。しかし、この用語は、統計学的に有意部分の被検体について適正かつ正確に予測を行なえることを要求する。ある部分が統計学的に有意であるかどうかは、多様な周知の統計学的評価ツール、たとえば信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定(Student’s t-test)、およびマン−ホイットニー検定(Mann-Whitney test)を用いて当業者が判定できる。適切な統計学的評価ツールに関する詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research (John Wiley & Sons, New York 1983)にある。適切な信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。適切なp値は、0.1、0.05、0.01、0.005または0.0001である。
【0012】
[0017] 現在のHFリスク予測の1方法は、リスクをもつ個体の予防および早期診断を容易にするために作成された。American College of Cardiology/ American Heart Association (AHA) HF writing committeeは、HFについて単純な新しいA〜Dステージ判定システムを提唱し、そこでは、たとえばステージAおよびBはHFを発症するリスクファクターまたは環境をもつけれども臨床症状をもたないものと定義された(Hunt et al., 2005, J. Am. Coll Cardiol. 46(6): e1-82, Hunt et al., 2001, Circulation. 104(24): 2996-3007)。他の既存のリスク査定法より簡単ではあるが、このステージ判定システムの単純さは限界も生じる。たとえば、ランダム集団において、このステージ判定システムは45歳以上の個体の大部分をステージAまたはBと同定した(約56パーセント)(Ammar et al., 2007, Circulation. 115(12): 1563-70)。したがって、大部分の無症候性個体が“リスクをもつ”と分類され、HFを発症するのは少数にすぎなかった。この過剰同定は、リスク層別化の改善が必要であろうということを指摘する。
【0013】
[0018] リスク予測の精度を改善するために、この10年間で、Health ABC(Butler et al., 2008, Circ Heart Fail. 1(2): 125-33)、フラミンガム(Framingham)HFリスクスコア(Kannel et al., 1999, Arch Intern Med. 159(11): 1197-204)、そしてより最近になって、Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)HFスコア(Agarwal et al., 2012, Circ Heart Fail. 5(4): 422-29)などの臨床リスク予測ツールが現われた。しかし、医師による臨床リスクスコアの採用は少なく、ある研究は約50%の医師がそれらを実際に使用しているにすぎないと報告しており、それはこれらの臨床リスクスコアも著しい欠点を含むことを示唆する(Mosca, et al., 2005, Circulation. 111(4): 499-510)。欧州における他の研究は、臨床リスクスコアの使用がこれよりさらに少ないと報告している(Bonnevie L, et al., 2005, European J. Cardio. Prev. Rehab. 12(1): 52-5; Hobbs et al., 2002, Family Practice. 19(6): 596-604)。
【0014】
[0019] ARIC試験は、心血管疾患発病率の前向き二人種(白人および黒人)試験であり、その際、被検体(n=15,792)は1987〜1989年に米国内の4地域から募集された。この試験は臨床リスクスコアを作成できる方法の一例を提供する(Chamberlain A.M. et al., 2011, Am J Cardiol. 107(1): 85-91)。参加者は医学的、社会的および人口統計学的データを含めた広範囲にわたる検査を受けた。試験の参加者は3年ごとに再検査され、1回目の検査(ベースライン)は1987〜89年、2回目は1990〜92年、3回目は1993〜95年、4回目の最終検査は1996〜98年に行なわれた。医学的データには、収縮期および拡張期血圧、抗高血圧薬の使用、現在/以前の喫煙、糖尿病、肥満指数、ならびに血液試料が含まれた。この試験に関するこれ以上の詳細は、Agarwal et al., 2012, Circ Heart Fail. 5(4): 422-29に提示されている。
【0015】
[0020] 用語“臨床モデルスコア”は、被検体のHFリスクに対応するいずれかの値を表わす。ある態様において、この値は番号、量または曲線である。ある態様において、臨床モデルスコアは、医師が利用できる臨床ベースのツールのひとつにより作成される。特定の態様において、臨床モデルスコアは、たとえばHealth ABC HFリスクスコア、フラミンガムHFリスクスコア、またはARIC HFスコアにより提供される。患者の臨床モデルスコアは、患者情報源、たとえば患者記録データベース、病歴、またはこれらに類する何らかの記録であって必ずしも臨床設定でなくてもよいものからも取得できる。したがって、臨床モデルスコアは過去の、または公開された患者データを用いて作成することもできる。臨床モデルスコアは、いずれかの供給源からの患者データを用い、患者のHFリスクを精確に予測できるいずれか既知のツールまたはモデルを用いて作成でき、本明細書に記載する代表的態様に限定することを意図しない。
【0016】
[0021] 用語“トロポニン”は、すべてのトロポニンイソ型を表わす。これらのイソ型は当技術分野で周知であり、たとえばAnderson et al., 1995, Circ. Res. 76(4): 681-86、およびFerrieres et al., 1998, Clin. Chem. 44(3): 487-93に記載されている。開示する方法では、トロポニンはトロポニンT(“TnT”)および/またはトロポニンI(“TnI”)を表わすことができる。したがって、本明細書に開示する方法では、両方のトロポニンを一緒に、すなわち同時もしくは連続的に、または個別に、すなわち他のイソ型を全く測定せずに、測定できる。用語“トロポニン”は、上記の特定のトロポニン類の、すなわちトロポニンTまたはトロポニンIの、バリアントをも包含し、これには心臓トロポニンT(“cTnT”)が含まれる。ヒト トロポニンTおよびヒト トロポニンIのアミノ酸配列は、Anderson et al., 1995およびFerrieres et al., 1998に記載されている。これらの文献をそれらに示されるトロポニンT(“TnT”)および/またはトロポニンI(“TnI”)ならびにそのバリアントの具体的配列に関して本明細書に援用する。心筋細胞の収縮装置の一部であるTnTは、これまで心筋の壊死または損傷のバイオマーカーとして用いられてきた。低レベルの循環型心臓トロポニンT(“cTnT”)を、高感度アッセイ、たとえば、Elecsys(登録商標)トロポニンT hs(Roche Diagnostics)により測定できる。
【0017】
[0022] 用語“NT−pro Bタイプのナトリウム利尿ペプチド”または“NT−proBNP”は、脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモン(NT−proBNP)、すなわち脳ナトリウム利尿ペプチドの76アミノ酸のN末端フラグメントを表わす。ヒトBNPおよびNT−proBNPの構造は、たとえば国際特許出願公開番号WO 02/089657およびWO 02/083913に詳細に記載されている。ある態様において、本明細書中で用いるヒトNT−proBNPは、欧州特許番号EP 0 648 228 B1に開示されるヒトNT−proBNPである。これらの文献をそれらに開示されるNT−proBNPおよびそのバリアントの具体的配列に関して本明細書に援用する。
【0018】
[0023] NT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)、すなわち神経ホルモン活性化および血流動態ストレスのバイオマーカーのレベルは、それ以前に心血管疾患が認識されていない成体における突発性(incident)HFと関係づけられてきた。血中のNT−proBNPレベルは急性うっ血性HFと関連づけられており、それの存在は転帰不良を伴なう患者の指標である(Bhalla et al., 2004, Congest Heart Fail. 10 (1 Suppl 1): 3-27)。NT−proBNPの血漿濃度は、無症候性または症候性の左心室機能障害を伴なう患者においても一般に増大し、冠動脈疾患および心筋虚血と関連する。
【0019】
[0024] 用語“ナトリウム利尿ペプチド”は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)タイプおよび脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)タイプのペプチド、ならびに同じ予測力価をもつそのバリアントを含む。本明細書の開示によるナトリウム利尿ペプチドは、ANPタイプおよびBNPタイプのペプチドならびにそのバリアントを含む(たとえば、Bonow, 1996, Circulation 93(11): 1946-50を参照)。ANPタイプのペプチドは、pre−proANP、proANP、NT−proANP、およびANPを含む。BNPタイプのペプチドは、pre−proBNP、proBNP、NT−proBNP、およびBNPを含む。pre−proペプチド(pre−proBNPの場合は134個のアミノ酸)は短いシグナルペプチドを含み、それが酵素により開裂除去されてproペプチド(proBNPの場合は108個のアミノ酸)を放出する。このproペプチドがさらに開裂して、N末端proペプチド(NT−proペプチド;NT−proBNPの場合は76個のアミノ酸)と活性ホルモン(BNPの場合は32個のアミノ酸、ANPの場合は28個のアミノ酸)になる。開示する方法に用いるのに適したナトリウム利尿ペプチドには、NT−proANP、ANP、NT−proBNP、BNP、およびそのバリアントが含まれる。ANPおよびBNPは活性ホルモンであり、それらのそれぞれの不活性カウンターパートであるNT−proANPおよびNT−proBNPより短い半減期をもつ。BNPは血中で代謝され、これに対しNT−proBNPは無傷分子として血中を循環し、そのまま腎排出される。NT−proBNPのインビボ半減期は、わずか20分の半減期をもつBNPのものより120分長い(Smith et al., 2000, J. Endocrinol. 167(2): 239-46)。NT−proBNPについての予備分析はより堅牢であり、試料を中央検査室へ容易に運搬できる(Mueller et al., 2004, Clin. Chem. Lab. Med. 42(8): 942-44)。血液試料を室温で数日間保存でき、あるいは回収損失なしに郵送または輸送できる。これと対照的に、BNPを室温または4℃で48時間保存すると、少なくとも20%の濃度損失が生じる(Mueller et al., 2004; Wu et al., 2004, Clin. Chem. 50(5): 867-73)。したがって、目的とするタイムコースまたは特性に応じて、活性形または不活性形のいずれかのナトリウム利尿ペプチドの測定が有利である可能性がある。特定の態様において、ナトリウム利尿ペプチドはNT−proBNPまたはそのバリアントである。
【0020】
[0025] TnTまたはNT−proBNPは突発性HFに関しては独立した予後情報を提供できるが、それらがARIC HFモデルなどの臨床的に確証されたリスク査定ツールよりもリスク予測をどの程度まで改善するかは不明である。本明細書に開示する1態様において、HFリスクを診断する際に特定のバイオマーカーレベルのレベルを決定することの効果および有望な価値を評価するために、新規なHFリスク予測の方法およびモデルを作成する。多様な組合わせのモデルファクター、患者変数およびバイオマーカーを考慮に入れたモデルを作成した。これらのモデル、モデルファクター、患者変数、および各モデルと関連するバイオマーカーを、本明細書に開示する表にさらに記載する。
【0021】
[0026] これらのモデルがHFリスクの予測を改善する能力について、統計学的な識別および検量の手段を用いてこれらのモデルの比較試験を行なった;まとめた形で後記の表Aに示し、さらに表4および5ならびに実施例に詳細に記載する。
【0022】
[0027] 1態様において、被検体のHFリスクの診断方法を本明細書に開示する。特定の態様において、ARICモデルの拡張を開示し、その際、バイオマーカーデータをHFリスク計算に組み込むとHFリスク予測が有意に改善される。これらの結果のまとめについては表A:モデル1対モデル2を参照。1態様において、トロポニン(すなわち、cTnT)およびNT−proBNPのデータをARICモデルからのHFリスクスコアと組み合わせることにより、HFリスク予測の精度を有意に改善できる。特定の態様において、バイオマーカーデータは患者試料中のバイオマーカーの量である。
【0023】
[0028] 表4(データを後記に詳細に示す)は、バイオマーカーデータがHFリスク予測に組み込まれた各モデルの精度を比較する。精度を曲線下面積(AUC)、正味再分類指数(net reclassification indices)(NRI)、および積分識別指数(integrated discrimination indices)(IDI)の差により測定する;これらはすべてセンサリング(censoring)を考慮した方法で計算された(Nambi, et al., 2010, J. Am Coll Cardiol. 55(15): 1600-7)。cTnTまたはNT−proBNPのいずれかのデータをARIC HFモデルに組み込むと、AUCおよびNRIスコアにより示されるように、男性および女性の両方においてHF予測精度が増大した(表4)。さらに、cTnTおよびNT−proBNPの両方のデータを組み込むと、よりいっそう著しい予想外の予測精度増大が生じた(表4および5)。特別な態様において、cTnTおよびNT−proBNPなどのバイオマーカーはHFリスク予測の精度における累積的または相乗的な増大をもたらす。
【0024】
[0029] cTnTおよびNT−proBNPの両方をARIC HFモデルに組み込むと、明らかに最良の統計学的HFリスク予測モデルが得られた。たとえば表A:モデル1対モデル2を参照。意外にも、この最適化モデルは、冠動脈性心疾患における他の高精度試験と対比してリスク予測の精度を改善した(Polonsky, et al., 2010, JAMA. 303(16): 1610-6)。これらの結果は、バイオマーカーデータをHF予測モデルに統合するとそのモデルの予測能が有意に改善されることを示す。したがって、バイオマーカーデータの統合を現在受け入れられているHF予測モデルに組み込んで、改善されたHF予測モデルを得ることができる。この改善されたHF予測モデルを用いて、患者被検体についてのより精確な臨床HFリスクスコアを作成することができる。
【0025】
[0030] 改善されたHFリスク予測精度は常にHFリスクを予測するための医学的診断モデルの主な目標であるが、特定のHFリスク予測の限界を避ける別のモデルも望まれている。臨床リスクスコア、たとえばARICスコアは、患者についてリスクスコアを作成できるまでに著しい量の診療時間が必要である。大部分の臨床リスクスコアは、臨床リスクスコアを作成できるまでに医師が患者変数またはリスクファクターのかなりのリストを収集する必要がある。たとえば、ARICスコアを作成するために必要な臨床ファクターを表1および4に示す。実際に、時間不足は医師が臨床リスクスコアを彼らの実務にほとんど適用しない主な理由のひとつである(Mosca et al. 2005, Circulation. 111(4): 499-510)。臨床実務でリスクスコアを実施する際のこれらの難点を考慮すると、単純化された、しかもそれに匹敵する方法があれば、確実に臨床実務でHFリスク予測のためにより頻繁に用いられるであろう。しかし、より迅速に心不全リスクスコアを作成できる従来の試験は無いか、あるいは許容できない精度をもつ。
【0026】
[0031] 他の観点において、単純化モデルファクターを用いて被検体の心不全リスクを精確に診断できる新規なHFリスク予測方法およびモデルを本明細書に開示する。予想外に、バイオマーカー量のデータとサブセットの患者変数を統合すると、完全ARIC臨床モデルに匹敵する精度を備えた単純化モデルが得られた。
【0027】
[0032] 用語“単純化モデルファクター”は、患者においてHFのリスクを精確に予測するのに十分なセットの患者データ変数を表わす。他の態様において、単純化モデルファクターは、臨床モデルスコアを用いてHFリスクを計算するのに必要な1以上の変数のいずれかの組合わせを含む。他の態様において、単純化モデルファクターは、すべてではない下記の例を含めたいずれかのHFリスクモデルの1以上の構成要素変数から選択される:前記で考察したARICモデル、Health ABCモデル、フラミンガムHFリスクモデル、および/またはAHAステージ判定モデル。さらに他の態様において、単純化モデルファクターは、すべてではない下記の例のうち1以上を含むことができる:年齢、人種、性別、収縮期血圧、拡張期血圧、抗高血圧薬の使用、現在/以前の喫煙、糖尿病、肥満指数(BMI)、頻発性冠動脈性心疾患、および心拍数。1態様において、単純化モデルファクターは年齢、人種、および性別である。他の態様において、単純化モデルファクターは年齢および人種である。特定の態様において、HFリスクモデルを適用する前にまず患者集団を1以上の患者変数により規定する。たとえば、1態様において、性特異的モデルを用いて前記のようにHFリスクを評価することができる。モデリングの前に患者集団を規定する必要がある理由は、患者変数は他の患者変数と相互作用して歪んだデータおよびより低い予測精度を生じることが知られているからである。
【0028】
[0033] 以下に示す表Aは、本明細書に開示するモデル間の比較試験のまとめを示す。単純化モデルが臨床的価値をもつためには、単純化モデルの精度はARIC HFモデル(モデル1;表A)に匹敵すべきである。簡単に言えば、年齢、人種、性別、および特定のバイオマーカー類のみを組み込んだ単純化“実験モデル(lab model)”(モデル3;表A)を、バイオマーカーを含まない完全ARIC HFモデル(モデル1;表A)と対比試験した。特定の1態様において、バイオマーカーデータを追加すると実験モデルは完全ARIC HFモデルに匹敵する精度でHFを予測でき、しかも実験モデルは容易に得られる小セットの単純化モデルファクターを必要とするにすぎない:年齢、人種、および性別。表5および図1〜2にさらに詳細に示すように、実験モデルはバイオマーカーを何ら含まないARIC HFモデルに匹敵する精度でHFリスクを予測した。バイオマーカーを含む完全ARIC HFモデル(モデル2:ARIC+cTnT+NTproBNP;表A)は、最高の精度でHFを予測した。
【0029】
【表A】
【0030】
[0034] 本明細書に開示するように、バイオマーカーデータを臨床HF予測モデルに組み込むと予測精度を改善でき、したがって予測精度の有意の損失なしに臨床HFモデルの患者変数構成要素の多くを省略できる。さらに、1態様に示すように、より時間がかかる、および/または労力を要する患者変数の多くを、予測精度の損失なしに排除できる。この予想外の結果により、患者試料からのバイオマーカーデータの収集を大きなサブセットの患者変数の代わりとして利用できることが確証される。
【0031】
[0035] 例示にすぎないが、本明細書に開示する実験モデルは、臨床HFモデルに匹敵する予測精度を達成するために医師が患者の糖尿病状態を判定する必要はない。患者が糖尿病であるかどうかを直ちに判定する(これには、患者試料を第三者検査室へ送付し、そこから戻すために、著しい時間が必要な可能性がある)必要性を排除することによって、実験モデルを用いて患者をそれよりはるかに容易にHFリスクについて診断できる。さらに、たとえば単純化モデルファクターが年齢、人種、および性別である特定の例では、医師がいない場合、医師ではないスタッフメンバーがこれらの患者変数を得ることができ、これによっても著しく速やかにHFリスク結果を得ることができる。労力を要する他の患者変数、たとえば肥満指数、収縮期血圧、拡張期血圧または心拍数を得る工程を排除することにより、はるかに効率的なHF予測モデルが得られる。HFを予測するためのこのより効率的なモデルは、たとえばコスト、時間および訓練の削減をもたらし、したがって医師が実務に採用するのが増加すると期待される。
【0032】
[0036] 特定の態様において、本明細書に開示するHFリスクの診断方法を自動化できる。1態様において、統計記録による(actuarial)HFについてのリスク推定値の提供は開示する実験モデルに基づいて単純化でき、大部分の施設で糸球体濾過速度の推定(estimation of glomerular filtration rate)(eGFR)について現在行なわれているように自動的に実施できる(Johnson et al., 2012, Med. J. Aust. 197(4): 224-5)。実際に、血清クレアチニンの各測定についてeGFR(種々のカットポイントと共に)レポーティングが要求された場合、幾つかのレポートは臨床実務における有益なプラスの影響を示唆している(Cortes-Sanabria L. et al., 2008, Am. J. Kidney Dis. 51(5): 777-88)。単純化モデルの自動的実施は、HFリスク予測についての臨床実務の改善をもたらすことができ、それは保健に対する著しい改善となるであろう。
【0033】
[0037] 開業医は、HFについての患者可変リスクファクター(たとえば、高血圧症)をもつどの個体にさらなるイメージングまたは検査を施すかの判定にしばしば苦労する。1態様において、HFリスクについての実験モデルは、HFについて高いリスクをもつ個体を医師が検査質検査またはリスクスコアに基づいて同定できるようにし、これにより心エコー図などのイメージング検査を取得すべきかどうかについての判定の情報を得ることができる。したがって、本明細書に開示する方法は医師が追加検査のために限られた数の個体のみを適切に指示する際の補助となるであろう。
【0034】
[0038] さらに、HFリスクの早期検出はリスクファクターの挙動および介在に変化をもたらすことができ、これには根本的阻止(リスクファクターの発現の阻止)が含まれ、それはHFを含めた種々のCVDの発病率の顕著な低下と関連し(Folsom, et al., 2009, Circ. Heart Fail, 2(1): 11-7.)、明らかにHF低減における将来の試みの焦点となるはずである。
【0035】
[0039] ある態様において、同様に考慮されるのは単純化HFリスクスコアの作成であり、これは使用する特定の実験モデルに従った患者HFリスクを表わすであろう。単純化HFリスクスコアは、単一の数値、曲線、一連の数値、変化の定量化、または他のいずれかの代表的な量であってもよい。この単純化HFリスクスコアを、いずれかの個数のモデルスコア、対照、モデル曲線、公開されたまたは臨床由来の閾値、および当業者に自明である他のいずれかの診断値と比較することができる。単純化HFリスクスコアと精確な臨床HFリスクスコアの比較は、特定の単純化実験モデルの精度を判定するための手段の一例にすぎない。量、スコアまたは曲線と1以上の他の結果との比較は統計学の分野で周知である。単純化HFリスクスコアと臨床HFリスクスコアまたは他の何らかの閾値のいずれかとの比較は、患者のHFリスクを判定する方法の一例にすぎず、本明細書の開示内容に対する限定と解釈すべきではない。
【0036】
[0040] 他の観点において、本明細書に開示する方法およびモデルは臨床試験のデザインについての情報を得るために使用できる。一例において、実験モデルを用いて、臨床試験に適格な患者のセットについて迅速にHFリスクスコアを作成することができる。これらのリスクスコアを用いて、試験される薬物、デバイス、生物製剤、および/または他の医療介入から利益を受ける可能性が最も高い患者であることが明らかな最高リスク個体を同定できる。他の態様において、特定の試験について単純化モデルファクターを同定し、次いで病歴データまたは保存試料を包含するようにデータ源を拡張する。たとえば、バイオマーカーについて検査するための実用可能な患者試料があれば、患者の年齢、人種および性別のみに基づいてその患者のHFリスクを予測できる。これに対し、ARICモデルは、必要な患者変数がすべて試料と共に記録および記憶されていない限り、保存試料に精確に適用することはできない。
【0037】
[0041] 開示する方法のさらに他の観点において、患者試料中のトロポニンの量が検出不能である場合、HFの予測リスクを無視できる。本明細書に開示するように、cTnTを査定した場合(表6)、HFを発病したほぼすべての個体が検出可能な濃度のcTnTをもっていた。この結果は、検出不能なcTnTレベルが高い陰性予測値をもつことを示唆する。本明細書に開示するいずれかのモデルを用いると、患者試料から得られるcTnTレベルが検出不能であることはその患者についてHFリスクを無視できると予測するために採用できる。
【0038】
[0042] 本明細書中で用いる用語“NT−proBNP”、“ナトリウム利尿ペプチド”、および“トロポニン”は、上記の特定のポリペプチドのバリアントをも包含する。そのようなバリアントは、少なくとも本明細書に開示する特定のポリペプチドと同じ本質的な生物学的および免疫学的特性をもつ。特に、それらを本明細書中で述べるものと同じ特異的アッセイにより、たとえばそれらのポリペプチドを特異的に認識するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いるELISAアッセイにより検出できれば、それらは同じ本質的な生物学的および免疫学的特性を共有する。さらに、本明細書中で述べるバリアントは少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失および/または付加をもつアミノ酸配列をもつはずであり、その際、バリアントのアミノ酸配列はなお、本明細書に開示するポリペプチドのアミノ酸配列と、そのペプチドの全長にわたって、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%、同一であることを理解すべきである。アミノ酸配列または核酸配列の配列同一性に関して、用語“少なくとも約”は、指示した厳密な数値を超える配列同一性を表わす。2つのアミノ酸配列間の同一度は、当技術分野で周知のアルゴリズムにより判定できる。特定の態様において、同一度は比較ウインドウにわたって最適状態でアラインさせた2つの配列の比較により決定すべきであり、その際、比較ウインドウ内のアミノ酸配列フラグメントは、最適アラインメントのために、基準配列(付加または欠失を含まないもの)と比較して付加または欠失(たとえば、ギャップまたはオーバーハング)を含むことができる。そのパーセントは、両方の配列に同一アミノ酸残基が現われる位置の数を決定して一致位置の数を求め、その一致位置の数を比較ウインドウ内の位置の総数で割り、その結果に100を掛けて配列同一パーセントを求めることにより計算される。比較のための最適な配列アラインメントは、下記により実施できる:Smith and Waterman, 1981, Adv. Appl. Math. 2: 482-89の局所相同アルゴリズム(local homology algorithm)、Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48(3): 443-53の相同アラインメントアルゴリズム(homology alignment algorithm)、Pearson and Lipman, 1988, PNAS U.S.A. 85(8): 2444-48の類似性検索法(search for similarity method)、これらのアルゴリズムのコンピューター化実装(GAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、およびTFASTA;Wisconsin Genetics Software Package中, Genetics Computer Group (GCG), Madison, WI)、または目視検査。比較のための2つの配列が同定されていれば、好ましくはGAPおよびBESTFITを用いてそれらの最適アラインメントを決定し、こうして同一度を決定できる。1態様において、ギャップ重みにつき5.00、ギャップ重み長さにつき0.30のデフォルト値を用いる。前記に述べたバリアントは、対立遺伝子バリアント、または他のいずれかの種特異的なホモログ(homolog)、パラログ(paralog)もしくはオルソログ(ortholog)であってもよい。さらに、本明細書中で述べるバリアントには、特定のポリペプチドまたは前記タイプのバリアントの、フラグメントまたはサブユニットが含まれる;ただし、これらのフラグメントが前記に述べた本質的な免疫学的特性および/または生物活性をもつ限りにおいてである。そのようなフラグメントは、たとえば本明細書に開示するポリペプチドの分解生成物であってもよい。翻訳後修飾、たとえばリン酸化またはミリスチル化のため異なるバリアントも含まれる。
【0039】
[0043] 本明細書中で述べるNT−proBNP、ナトリウム利尿ペプチド、トロポニン、または他のいずれかのペプチドまたはポリペプチドの量の決定は、量または濃度を測定することに関する。特定の態様において、そのような測定は半定量的または定量的である。測定は直接または間接的に行なうことができる。直接測定は、ペプチドまたはポリペプチド自体から得られる信号であってその強度が試料中に存在するペプチドの分子数と直接相関する信号に基づいて、ペプチドまたはポリペプチドの量または濃度を測定することに関する。そのような信号 −本明細書中で時には強度信号と呼ぶ− は、たとえばペプチドまたはポリペプチドの特異的な物理的または化学的特性の強度値を測定することによって得ることができる。間接測定には、二次成分(すなわち、そのペプチドまたはポリペプチド自体ではない成分)または生物学的読出し系、たとえば測定可能な細胞応答、リガンド、標識、または酵素反応生成物から得られる信号を測定することが含まれる。
【0040】
[0044] 本明細書の開示によれば、ペプチドまたはポリペプチドの量の決定は、試料中のペプチドの量を決定するためのあらゆる既知手段により達成できる。それらの手段には、イムノアッセイデバイス、および標識分子を多様なサンドイッチ、競合その他のアッセイ様式で利用できる方法が含まれる。それらのアッセイは、ペプチドまたはポリペプチドの存在または非存在の指標となる信号を発するであろう。さらに、信号強度を試料中に存在するポリペプチドの量に直接的または間接的(たとえば、反比例)に相関させることができる。他の適切な方法は、ペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性、たとえばそれの厳密な分子質量またはNMRスペクトルを測定することを含む。それらの方法は、バイオセンサー、イムノアッセイに連携した光学機器、バイオチップ、および分析機器、たとえば質量分析計、NMR分析器、またはクロマトグラフィー機器を含むことができる。他の適切な方法にはマイクロプレートELISAベースの方法、全自動またはロボット式イムノアッセイ(たとえば、Roche ELECSYS(商標)およびcobas(登録商標)分析器、たとえばcobas(登録商標)4000およびcobas(登録商標)6000分析器シリーズ、ならびにcobas(登録商標)8000モジュラー分析器シリーズで得られる;これらは当技術分野で周知である)、CBA(酵素によるコバルト結合アッセイ(Cobalt Binding Assay)、たとえばROCHE−HITACHI(商標)分析器で得られる)、およびラテックス凝集アッセイ(たとえば、ROCHE−HITACHI(商標)分析器で得られる)が含まれる。
【0041】
[0045] 開示する方法の1態様において、ペプチドまたはポリペプチドの量は、その強度がペプチドまたはポリペプチドの量の指標となる細胞応答を誘発できる細胞を、適切な期間、そのペプチドまたはポリペプチドと接触させ、そして細胞応答を測定することにより決定される。細胞応答を測定するために、試料または処理済み試料を、好ましくは細胞培養物に添加し、細胞内または細胞外応答を測定することができる。細胞応答には、測定可能なレポーター遺伝子発現、または物質、たとえばペプチド、ポリペプチドもしくは小分子の分泌を含めることができる。この発現または物質は、ペプチドまたはポリペプチドの量に相関する強度信号を発すべきである。
【0042】
[0046] 開示する方法の他の態様において、ペプチドまたはポリペプチドの量は、試料中のペプチドまたはポリペプチドから得られる特異的な強度信号を測定することにより決定される。前記のように、そのような信号は、質量スペクトルにみられるペプチドもしくはポリペプチドに特異的なm/z変数で観察される信号強度、またはペプチドもしくはポリペプチドに特異的なNMRスペクトルであってもよい。
【0043】
[0047] 開示する方法の他の態様において、ペプチドまたはポリペプチドの量は、ペプチドを特異的リガンドと接触させ、場合により結合していないリガンドを分離し、そして結合したリガンドの量を測定することにより決定される。結合したリガンドは強度信号を発するであろう。本明細書の開示による結合には、共有結合および非共有結合の両方が含まれる。本明細書の開示によるリガンドは、本明細書に記載するペプチドまたはポリペプチドに結合するいずれかの化合物、たとえばペプチド、ポリペプチド、核酸、または小分子であってもよい。適切なリガンドには、抗体、核酸、ペプチドまたはポリペプチド、たとえば前記のペプチドまたはポリペプチドに対する受容体または結合パートナー、およびそのフラグメント(前記ペプチドに対する結合ドメインを含むもの)、ならびにアプタマー、たとえば核酸アプタマーまたはペプチドアプタマーが含まれる。そのようなリガンドを作成する方法は当技術分野で周知である。たとえば、適切な抗体またはアプタマーの同定および作成は供給業者によっても提供される。当業者は、より高い親和性または特異性を備えたそのようなリガンドの誘導体を開発する方法に精通している。たとえば、核酸、ペプチドまたはポリペプチドにランダム変異を導入することができる。これらの誘導体を、次いで当技術分野で既知のスクリーニング法、たとえばファージディスプレー法に従って、結合について試験することができる。本明細書中で述べる抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方、ならびに抗原またはハプテンを結合できるそのフラグメント、たとえばFv、FabおよびF(ab)フラグメントが含まれる。本明細書の開示には、一本鎖抗体、および目的とする抗原特異性を示す非ヒト−ドナー抗体のアミノ酸配列をヒト−アクセプター抗体の配列と組み合わせたヒト化ハイブリッド抗体も含まれる。ドナー配列は通常は少なくともドナーの抗原結合性アミノ酸残基を含むであろうが、ドナー抗体の他の構造関連および/または機能関連アミノ酸残基も含むことができる。そのようなハイブリッドは、当技術分野で周知である幾つかの方法で作成できる。ある態様において、リガンドまたは作用剤は前記のペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合する。本明細書の開示による特異的結合は、リガンドまたは作用剤が、分析すべき試料中に存在する他のペプチド、ポリペプチドまたは物質に実質的に結合(それらと“交差反応”)すべきではないことを意味する。特定の態様において、特異的に結合されるペプチドまたはポリペプチドは、他のいずれかの関連ペプチドまたはポリペプチドより少なくとも3倍高い、より好ましくは少なくとも10倍高い、よりさらに好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合されるべきである。非特異的結合は、たとえばウェスタンブロット上でのそれのサイズに従って、または試料中での相対的に高いそれの存在量によって、それをなお明白に識別および測定できるならば許容できる。リガンドの結合は、当技術分野で周知であるいずれかの方法により測定できる。特定の態様において、その方法は半定量的または定量的である。適切な方法を以下に記載する。
【0044】
[0048] 第1に、リガンドの結合は、直接的に、たとえばNMRまたは表面プラズモン共鳴により測定できる。
[0049] 第2に、リガンドが、目的とするペプチドまたはポリペプチドの酵素活性の基質としても作用するならば、酵素反応生成物を測定してもよい(たとえば、プロテアーゼの量は開裂した基質の量をたとえばウェスタンブロットで測定することにより測定できる)。あるいは、リガンドが酵素特性そのものを示す場合があり、その“リガンド/ペプチドまたはポリペプチド”複合体、すなわちそれぞれペプチドまたはポリペプチドが結合したリガンドを、強度信号の発生による検出を可能にする適切な基質と接触させることができる。酵素反応生成物の測定のために、基質の量を飽和状態にすることができる。反応前に基質を検出可能な標識で標識化することもできる。1態様において、適切な期間、試料を基質と接触させる。適切な期間は、検出可能かつ測定可能な量の生成物を生成させるのに必要な時間を表わす。生成物の量を測定する代わりに、一定の(たとえば、検出可能な)量の生成物が出現するのに必要な時間を測定することができる。
【0045】
[0050] 第3に、リガンドの検出および測定を可能にする標識にリガンドを共有結合または非共有結合させてもよい。標識化は、直接法または間接法により実施できる。直接標識化は、標識をリガンドに直接(共有または非共有)結合させることを伴なう。間接標識化は、二次リガンドを一次リガンドに(共有または非共有)結合させることを伴なう。二次リガンドは一次リガンドに特異的に結合すべきである。この二次リガンドは適切な標識とカップリングさせることができ、および/または二次リガンドに結合する三次リガンドのターゲット(レセプター)であってもよい。二次、三次またはよりさらに高次のリガンドは、信号を増強するためにしばしば用いられる。適切な二次およびより高次のリガンドには、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン−ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)を含めることができる。リガンドまたは基質に、当技術分野で既知である1以上のタグを“タグ付け”することもできる。その際、そのようなタグはより高次のリガンドにとってのターゲットであってもよい。適切なタグには、ビオチン、ジゴキシゲニン、His−タグ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc−タグ、インフルエンザAウイルス−ヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質などが含まれる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグはN末端および/またはC末端にあってもよい。適切な標識は、適切な検出法により検出できるいずれかの標識である。代表的な標識には、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダン(acridan)エステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁性標識(たとえば、常磁性および超常磁性標識を含む磁性ビーズ)、および蛍光標識が含まれる。酵素活性標識には、たとえば西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびその誘導体が含まれる。検出に適した基質には、ジ−アミノ−ベンジジン(DAB)、3,3’−5,5’−テトラメチルベンジジン、NBT−BCIP(4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェート;既製原液としてRoche Diagnosticsから入手できる)、CDP−STAR(商標)(Amersham Biosciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が含まれる。適切な酵素−基質の組合わせは、有色反応生成物、蛍光または化学発光を生じることができ、それらを当技術分野で既知の方法に従って測定できる(たとえば、感光性フィルムまたは適切なカメラシステムを用いて)。酵素反応の測定については、前記に挙げた基準を同様に適用する。代表的な蛍光標識には、蛍光タンパク質(たとえば、GFPおよびそれの誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(たとえば、Alexa 568)が含まれる。他の蛍光標識を、たとえばMolecular Probes(オレゴン州)から入手できる。蛍光標識としての量子ドットの使用も考慮される。代表的な放射性標識には、35S、125I、32P、33Pなどが含まれる。放射性標識は、いずれか既知の適切な方法、たとえば感光性フィルムまたはホスフォイメージャー(phosphor imager)により検出できる。本明細書の開示による適切な測定法には、下記のものも含まれる:沈降法(特に免疫沈降法)、電気化学発光(電気的に発生する化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(electrochemiluminescence sandwich immunoassay)(ECLIA)、解離増強型ランタニド蛍光イムノアッセイ(dissociation-enhanced lanthanide fluoro immuno assay)(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、タービディメトリー(濁度測定)、ネフェロメトリー(比濁分析)、ラテックス増強型のタービディメトリーもしくはネフェロメトリー、または固相免疫試験。当技術分野で周知である他の方法(たとえば、ゲル電気泳動、2Dゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)、ウェスタンブロット法、および質量分析)を、単独で、または前記の標識法もしくは他の検出法と組み合わせて使用できる。
【0046】
[0051] ペプチドまたはポリペプチドの量は、前記に明記したペプチドまたはポリペプチドに対するリガンドを含む固体支持体を、そのペプチドまたはポリペプチドを含む試料と接触させ、そして支持体に結合しているペプチドまたはポリペプチドの量を測定することによっても決定できる。リガンドは核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体およびアプタマーからなる群から選択でき、固体支持体上に固定化された形態で存在することができる。固体支持体を作成するための材料は当技術分野で周知であり、特に市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンのチップおよび表面、ニトロセルロースのストリップ、膜、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレーのウェルおよび壁、およびプラスチックチューブを含む。リガンドまたは作用剤を多種多様なキャリヤーに結合させることができる。周知のキャリヤーの例には、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然および改質セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、および磁鉄鉱が含まれる。本明細書に開示する目的に関して、キャリヤーの性質は可溶性または不溶性のいずれであってもよい。それらのリガンドを固定/固定化するのに適した方法は周知であり、イオン性、疎水性、共有結合性の相互作用などが含まれるが、これらに限定されない。本明細書の開示に従ってアレイとして“懸濁アレイ”を用いることも考慮される(Nolan et al., 2002, Trends Biotechnol. 20(1): 9-12)。そのような懸濁アレイには、キャリヤー、たとえばマクイロビーズまたはマイクロスフェアが懸濁状態で存在する。アレイは、種々のリガンドを保有する、おそらく標識された種々のマクイロビーズまたはマイクロスフェアからなる。そのようなアレイを調製する方法、たとえば固相化学および光不安定保護基に基づくものが一般に知られている(U.S. Patent No. 5,744,305)。
【0047】
[0052] 用語“試料”は、体液の試料、分離した細胞の試料、または組織もしくは臓器からの試料を表わす。体液の試料は周知の方法により得ることができ、たとえば血液、血漿、血清または尿の試料を含む。開示する方法の特定の態様において、試料は血液、血漿または血清である。組織または臓器の試料は、組織または臓器から、たとえば生検により得ることができる。分離した細胞は、体液または組織もしくは臓器から、遠心分離またはセルソーティングなどの分離法により得ることができる。ある態様において、細胞、組織または臓器の試料は、本明細書中で述べるペプチドを発現または産生する細胞、組織または臓器から得られる。
【0048】
[0053] 本明細書中で用いる用語“比較する”は、分析すべき試料が含むペプチドまたはポリペプチドの量を、本明細書の他の箇所に明記する適切な基準源と比較することを包含する。本明細書中で用いる比較するとは、対応するパラメーターまたは数値の比較を表わすことを理解すべきである;たとえば、絶対量を絶対基準量と比較し、一方で濃度を基準濃度と比較し、あるいは検査試料から得られる強度信号を標準試料の同じタイプの強度信号と比較する。比較は、手動で、またはコンピューター支援により実施できる。コンピューター支援による比較のために、決定した量の数値を、データベースに記憶された適切な基準に対応する数値とコンピュータープログラムにより比較することができる。コンピュータープログラムはさらに比較の結果を評価することができ、すなわち目的とする査定を適切な出力フォーマットで自動的に提供する。本明細書に開示する方法の工程a)で決定した量と基準量の比較に基づいて、患者が本明細書中に述べる合併症のうち1以上に罹患するリスクを予測できる。したがって、基準量は、比較した量の差または類似性のいずれかにより心不全のリスクをもつ患者を同定できるように選定すべきである。
【0049】
[0054] したがって、本明細書中で用いる用語“基準量”は、患者が高い心不全リスクをもつかどうかを予測できる量を表わす。基準量は閾値量を規定してもよく、それによればその閾値より大きな量は高いHFリスクをもつ被検体の指標となるべきである。個々の被検体に適用できる基準量は、種々の生理学的パラメーター、たとえば年齢、性別または亜集団に応じて、および本明細書中で述べるポリペプチドまたはペプチドの決定に用いる手段に応じて、異なる可能性がある。適切な基準量は、本明細書に開示する方法により、検査試料と一緒に、すなわち同時または逐次に分析される標準試料から決定できる。特定の態様において、閾値として用いられる基準量は、正常値上限(upper limit of normal)(ULN)、たとえばHFを発病していない被検体および/または最小のHFリスクをもつ被検体の集団からの試料にみられる生理学的量の上限に由来するものであってもよい。一定の被検体集団についてのULNは、種々の周知手法により決定できる。適切な手法は、本明細書に開示する方法で決定すべきペプチドまたはポリペプチドの量についてその集団の中央値または平均値を決定するものであってもよい。適切な基準量の限定ではない例を本明細書に記載する。
【0050】
[0055] 診断マーカーの(すなわち、NT−proBNP、ナトリウム利尿ペプチドおよび/またはトロポニンの)基準量を確立し、そして患者試料中のマーカーのレベルを簡単に基準量と比較することができる。診断および/または予後判定試験の感度および特異度は試験の分析の“質”に依存するだけでなく、それらは異常な結果を構成するものの定義にも依存する。
【0051】
[0056] 当業者に周知の統計学的方法を用いて、リスクをもつ患者とリスクをもたない患者に分けるために使用できる閾値量を規定することができる。この目的に適した統計学的方法は、受信者操作特性(Receiver Operating Characteristic)曲線、または“ROC”曲線の計算である。ROC曲線は、一般に変数の数値を“正常”および“疾患”集団におけるそれの相対頻度に対してプロットすることにより計算される。いずれか特定のマーカーについて、疾患を伴なう被検体と伴なわない被検体についてのマーカーレベルの分布がオーバーラップする可能性があろう。そのような条件下で、試験は正常を疾患から100%の精度で絶対的に区別するわけではなく、そのオーバーラップ領域はその試験が正常を疾患から区別できない領域を指示する。それより上(またはそれより下;その疾患についてマーカーがどのように変化するかによる)ではその試験が異常であるとみなされ、それより下ではその試験が正常であるとみなされる閾値を選択することができる。ROC曲線下面積は、認知された測定がある状態を正確に同定できるであろう確率の尺度である。さらなる情報については、Dowdy and Wearden, Statistics for Research (John Wiley & Sons, New York 1983)を参照。ROC曲線は、試験結果が必ずしも精確な数字を与えない場合ですら使用できる。結果をランク付けできる限り、ROC曲線を作成できる。たとえば、“疾患”試料に関する試験結果を程度に従ってランク付けできる(たとえば、1=低、2=普通、および3=高)。このランク付けを“正常”集団の結果と相関させてROC曲線を作成することができる。これらの方法は当技術分野で周知である。たとえば、Hanley et al., 1982, Radiology 143(1): 29-36を参照。
【0052】
[0057] 特定の態様において、マーカー(すなわち、NT−proBNP、ナトリウム利尿ペプチド、および/またはトロポニン)は、少なくとも約70%の感度、または少なくとも約80%の感度、または少なくとも約85%の感度、または少なくとも約90%の感度、または少なくとも約95%の感度を、少なくとも約70%の特異度、または少なくとも約80%の特異度、または少なくとも約85%の特異度、または少なくとも約90%の特異度、または少なくとも約95%の特異度と合わせて示すように選択される。特定の態様において、感度と特異度の両方が少なくとも約75%、または少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%である。
【0053】
[0058] 用語“約”は、指示した量の±30%、または指示した量の±20%、または指示した量の±10%、または指示した量の±5%を示すものとする。
[0059] 本明細書中で用いる用語“検出剤”は、本明細書中で述べるバイオマーカーが試料中に存在する場合にそのひとつを特異的に認識してそれに結合することができる作用剤を表わす。さらに、検出剤は、その検出剤とバイオマーカーにより形成された複合体の直接検出または間接検出を可能にするものでなければならない。直接検出は、その検出剤に検出可能な標識を含有させることにより達成できる。間接標識化は、バイオマーカーおよび検出剤を含む複合体に特異的に結合する第2の作用剤により達成でき、その際、この第2の作用剤は検出可能な信号を発することができるものである。検出剤として使用できる適切な化合物は当技術分野で周知である。開示する方法のある態様において、検出剤はバイオマーカーに特異的に結合する抗体(たとえば、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体)またはアプタマーである。
【0054】
[0060] さらに、本明細書の開示内容は、患者のHFのリスクを予測するためのデバイスに関する。1態様において、デバイスは、患者から得た試料においてNT−proBNPおよび/またはトロポニンの量を決定するための分析ユニット;ならびに決定した量を適切な基準量と比較し、HFのリスクを予測するための、評価ユニットを含む。他の態様において、デバイスは別の構成要素を含む。
【0055】
[0061] 本明細書中で用いる用語“デバイス”は、少なくとも本明細書に開示する方法を実施するように互いに作動可能な状態で連結した前記手段を含むシステムに関する。開示する方法のマーカーの量を決定するのに適した手段、および比較を実施するための手段は、開示する方法に関連して前記に開示されている。作動する様式でそれらの手段を連結する方法は、そのデバイスに含まれる手段のタイプに依存するであろう。たとえば、本明細書に開示する遺伝子産物の量を自動的に決定するための分析ユニットを適用する場合、目的とする結果を得るために、その自動的に作動する分析ユニットにより得られるデータを、たとえば評価ユニットとしてのコンピューターにより処理することができる。ある態様において、そのような場合、それらの手段は単一デバイスから構成される。
【0056】
[0062] ある態様において、リスクをもつ患者のHFのリスクを予測するためのデバイスは、適用した試料中のNT−proBNPおよび/またはトロポニンの量を測定するための分析ユニット、ならびに得られたデータを処理するための評価ユニットを含む。特定の態様において、評価ユニットは、記憶された基準量を備えたデータベース、およびコンピューターにタンジブル状態で埋め込まれた(tangibly embedded)場合に決定量とデータベースに記憶された基準量との比較を実施するコンピュータープログラムコードを含む。他の態様において、評価ユニットは、比較の結果をリスク予測に配属するさらなるコンピュータープログラムコードを含む。そのような場合、評価ユニットは基準量がリスクに配属されたさらなるデータベースを含むことが考慮される。
【0057】
[0063] あるいは、NT−proBNPおよび/またはトロポニンの量を測定するために試験片などの手段を用いる場合、評価ユニットは決定量を基準量に配属する対照片または対照表を含むことができる。ある態様において、試験片はNT−proBNPおよび/またはトロポニンに特異的に結合するリガンドにカップリングしている。他の態様において、試験片またはデバイスは、それらのリガンドへのNT−proBNPおよび/またはトロポニンの結合を検出するための手段を含む。検出に適した手段は、開示する方法に関連する態様に関して開示されている。そのような場合、分析ユニットと評価ユニットは、そのシステムのユーザーがマニュアルに示された指令および説明によって量の決定結果とその診断値または予後値を一緒にするという点で、作動可能な状態で連結している。そのような態様においては分析ユニットと評価ユニットは分離したデバイスとして存在してもよく、ある態様においてはキットとして一緒にパッケージされている。当業者にはこれらの手段を連結させる方法が分かるであろう。適切なデバイスは、専門医の特別な知識がなくても適用できるものである;たとえば、試料を装填するだけでよい試験片または電子デバイス。結果を生データの出力として得ることができ、それは医師による解釈を必要とする。しかし、特定の態様において、デバイスの出力は生データを処理したもの、すなわち評価したものであり、それは医師による解釈を必要としない。他の適切なデバイスは、開示する方法に従って前記に述べた分析ユニット/デバイス(たとえば、バイオセンサー、アレイ、遺伝子産物を特異的に認識するリガンドにカップリングした固体支持体、プラズモン表面共鳴デバイス、NMR分光計、または質量分析計)、または評価ユニット/デバイスを含む。
【0058】
[0064] さらに、本明細書の開示内容は患者のHFリスクを予測するための、下記のものを含むキットに関する:患者から得た試料においてNT−proBNPおよび/またはトロポニンの量を決定するための分析剤;ならびに分析剤により決定した量を適切な基準量と比較するための評価ユニットであって、さらに心不全リスクの予測を可能にするユニット。
【0059】
[0065] 本明細書中で用いる用語“キット”は、前記構成要素の集合体を表わし、それらは一緒にパッケージされていてもよく、一緒にパッケージされていなくてもよい。キットの構成要素は個別のバイアルに収容されていてもよく(すなわち、個別のパーツのキットとして)、あるいは単一バイアルに入れて提供されてもよい。さらに、本明細書に開示するキットは本明細書に述べる方法を実施するために用いられるものであることを理解すべきである。ある態様において、前記に述べた方法を実施するためにすべての構成要素をすぐに使用できる様式で提供することが考慮される。特定の態様において、キットは開示する方法を実施するための指令をも収容している。指令は紙または電子形態のユーザーマニュアルにより提供できる。たとえば、マニュアルは、本明細書に開示するキットを用いて前記方法を実施した際に得られた結果を解釈するための指令を含むことができる。キットは分析剤を含むべきである。この分析剤は、患者から得た試料においてNT−proBNPおよび/またはトロポニンを特異的に認識できる。さらにある態様において、分析剤(単数または複数)は、NT−proBNPおよび/またはトロポニンに結合するとその強度が試料中に存在するNT−proBNPおよび/またはトロポニンの量に相関する検出可能な信号を発生できなければならない。発生する信号のタイプに応じて、当技術分野で周知である信号検出方法を適用できる。本明細書に開示するキットに使用できる分析剤には、抗体またはアプタマーが含まれる。分析剤は、本明細書に記載する試験片上に存在してもよい。検出されたNT−proBNPおよび/またはトロポニンの量を次いで評価ユニットでさらに評価することができる。本明細書に開示するキットに用いるのに適した評価ユニットには、本明細書中で述べるものが含まれる。
【0060】
[0066] 本発明はさらに、被検体における心不全リスクを診断するための、被検体を心不全療法が必要であると同定するための、心不全リスクをもつ被検体に対する治療を選択するための、または被検体における臨床心不全リスクスコアを予測するための、被検体の単純化リスクファクターと組み合わせた、被検体からの生体試料における
a.トロポニンTおよびNT−proBNP、ならびに/あるいは;
b.トロポニンTに結合する検出剤およびNT−proBNPに結合する検出剤
の使用に関する。
【0061】
[0067] さらに本発明は、臨床心不全リスクスコアの予測精度を改善するための、
a.トロポニンTおよびNT−proBNP、ならびに/あるいは;
b.トロポニンTに結合する検出剤およびNT−proBNPに結合する検出剤
の使用に関する。
【0062】
[0068] すべての刊行物、特許および出願を全体として、そのような参考文献がそれぞれ具体的かつ個別にその全体を援用すると指示されたと同様に、本明細書に援用する。
[0069] この開示内容を代表的デザインをもつものとして記載したが、本明細書の開示内容をこの開示内容の精神および範囲内でさらに改変することができる。したがって、本出願はそれの一般原理を用いた開示内容の変更、使用または適合をいずれも含むものとする。さらに、この出願は、本明細書の開示内容からの逸脱であってこの開示内容が属する技術分野における既知または通例の慣習の範囲内にある逸脱を含むものとする。
【0063】
[0070] 開示内容の1態様は、下記を含む、被検体における心不全リスクの診断方法に関する:a)被検体の単純化モデルファクターを得る;b)被検体から得た生体試料においてトロポニンT(TnT)およびNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)の量を得る;c)被検体から得た生体試料におけるTnTおよびNT−proBNPの量ならびに被検体の単純化モデルファクターに基づいて、単純化モデルスコアを得る;d)臨床モデルスコアと比較した単純化モデルスコアのアラインメント値を得る;そしてe)アラインメント値が閾値を超えれば、心不全リスクの診断を施す。
【0064】
[0071] 開示内容の他の態様は、下記を含む、被検体を心不全療法が必要であると同定するための方法に関する:a)被検体の単純化モデルファクターを得る;b)被検体から得た生体試料の一部分をトロポニンT(TnT)に対して免疫反応性である抗体と接触させる;c)被検体から得た生体試料の一部分をNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)に対して免疫反応性である抗体と接触させる;d)被検体から得た生体試料におけるTnTの量およびNT−proBNPの量を決定する;e)被検体から得た生体試料におけるTnTおよびNT−proBNPの量ならびに被検体の単純化モデルファクターに基づいて、単純化モデルスコアを決定する;f)単純化モデルスコアを臨床モデルスコアと比較してアラインメント値を決定する;そしてg)アラインメント値が閾値を超えれば、その被検体を心不全療法が必要であると同定する。
【0065】
[0072] 開示内容の他の態様は、下記を含む、被検体において療法決断を促進するための方法に関する:a)被検体の単純化モデルファクターを得る;b)被検体から得た生体試料の第1部分をトロポニンT(TnT)に対して免疫反応性である第1抗体と接触させ、被検体から得た生体試料の第2部分をNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)に対して免疫反応性である第2抗体と接触させる;c)被検体から得た生体試料におけるTnTの量およびNT−proBNPの量を決定する;d)被検体から得た生体試料におけるTnTおよびNT−proBNPの量ならびに被検体の単純化モデルファクターに基づいて、単純化モデルスコアを決定する;そしてe)単純化モデルスコア/曲線を臨床モデルスコアに当てはめる;その際、閾値を超える適合度は心不全リスクに対する療法の必要性の指標である。
【0066】
[0073] 開示内容の他の態様は、下記を含む、心不全リスクをもつ被検体に対する治療を選択するための方法に関する:a)被検体の単純化モデルファクターを得る;b)被検体から得た生体試料の一部分をトロポニンT(TnT)に対して免疫反応性である抗体と接触させる;c)被検体から得た生体試料の一部分をNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)に対して免疫反応性である抗体と接触させる;d)被検体から得た生体試料におけるTnTの量およびNT−proBNPの量を接触工程に基づいて決定する;e)被検体から得た生体試料におけるTnTおよびNT−proBNPの決定工程で決定した量ならびに被検体の単純化モデルファクターに基づいて、単純化モデルスコアを計算する;f)単純化モデルスコアを臨床モデルスコアとアラインさせる;そしてg)単純化モデルスコアが臨床モデルスコアと有意にアラインした場合、心不全治療を選択する。
【0067】
[0074] 開示内容の他の態様は、下記を含む、被検体における心不全リスクを予測するためのモデルに関する:a)被検体から得た単純化モデルファクター;b)被検体から得た生体試料におけるトロポニンT(TnT)の量;およびc)被検体から得た生体試料におけるNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)の量;その際、単純化モデルファクター、TnTの量、およびNT−proBNPの量を作動可能な状態で組み合わせ/計算して、被検体における心不全リスクを予測する。
【0068】
[0075] 開示内容の他の態様は、下記を含む、被検体において療法決断を促進するために適合させたシステム/デバイス/アッセイに関する:a)被検体からの生体試料の第1部分をトロポニンT(TnT)に対して免疫反応性である第1抗体と接触させるための手段;b)被検体から得た生体試料の第2部分をNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)に対して免疫反応性である第2抗体と接触させるための手段;c)プロセッサーを備えたコンピューティングデバイス;ならびにd)プロセッサーが実行できる複数の指令、すなわち実行した際に、被検体から得た生体試料におけるTnTおよびNT−proBNPの量ならびに被検体の単純化モデルファクターに基づいて単純化モデルスコアを決定し、単純化モデルスコアが臨床モデルスコアと有意にアラインすれば心不全リスクに対する療法の必要性を指示する出力を提供する指令を含む、非一過性の機械可読媒体。
【0069】
[0076] 開示内容の他の態様は、下記を含む、被検体における臨床心不全リスクスコアを予測するための方法に関する:a)被検体の単純化モデルファクターを得る;b)被検体から得た生体試料においてトロポニンT(TnT)およびNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)の量を得る;c)被検体から得た生体試料におけるTnTおよびNT−proBNPの量ならびに被検体の単純化モデルファクターに基づいて、単純化モデルスコアを得る;d)臨床モデルスコアと比較した単純化モデルスコアのアラインメント値を得る;そしてe)アラインメント値が閾値を超えれば、臨床心不全リスクスコアを予測する。
【0070】
[0077] 開示内容のさらに他の態様は、下記を含む、被検体についての臨床心不全リスクスコアの予測精度を改善するための方法に関する:a)被検体についての臨床心不全リスクスコアを得る;b)被検体から得た生体試料においてトロポニンT(TnT)の量およびNT−proBタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)の量を得る;そしてc)TnTおよびNT−proBNPの量を臨床心不全リスクスコアと組み合わせて、被検体についての臨床心不全リスクスコアの予測精度を改善する。
【0071】
[0078] 以下の実施例および図は本明細書の開示内容の種々の態様を立証する目的で提示され、その真の範囲は特許請求の範囲に述べられている。これらの実施例は決して本明細書の開示内容の範囲または精神を限定することを意図したものではなく、そのように解釈すべきではない。提示した方法を開示内容の精神から逸脱することなく改変できることも理解すべきである。
【実施例】
【0072】
実施例1:ARIC試験集団
[0079] 4回目のARIC試験(1997−99年)に従って得たデータを用いて試験集団を作成した。11,656人の適格な個体から、その人種が白人でも黒人でもない者(n=31)、ワシントン群、メリーランド州またはミネアポリス中心部からの黒人参加者(n=38)、試験1で頻発性(prevalent)HFを伴なっていた者(n=410)、試験1でHF状態を示さなかった者(n=199)、ARIC HFモデルについての共変数をもたない者(n=354)試験1と4の間でHF入院を伴なった者(n=229)、ARIC HFモデルについての共変数をもたない者(n=354)、cTnT値をもたない者(n=365)、またはNT−proBNP値をもたない者(n=9)、および極端なNT−proBNP≧6025pg/mlをもつ者(n=6)、または十分な承諾が得られなかった者(n=249)を除外すると、分析に適格である適切な試料を伴なう9,868人の個体が残った。検出感度限界未満のバイオマーカーレベルをもつ参加者を検出下限の半分に割り当てた。試験集団の平均年齢は62.7歳であった;44%は男性であり、約79.5%は白人であった。試験集団の他の人口統計は表1に示されている。すべてのうち約46%の被検体は高血圧症であり、一方、約16%は糖尿病を伴なっていた。全体として約74%が下記のうち少なくとも1つのリスクファクターをもっていた:糖尿病、高血圧症、肥満症、メタボリックシンドローム、または少なくとも“ステージA”心不全をもつと分類される頻発性心血管疾患;一方、約26%はこれらのリスクファクターをもたず、“ステージ0”と表記された(たとえば、表6および7を参照)。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例2.ARIC参加者のcTnTおよびNT−proBNPレベルの決定
[0080] 実施例1に記載した4回目のARIC試験中に採集した保存血液試料を用いて心臓トロポニンT(cTnT)およびNT−proBNPレベルを測定した。
【0075】
[0081] アッセイ法:心臓トロポニンT(cTnT)を第5世代の高感度アッセイ(Elecsys(登録商標)トロポニンT hs;Roche Diagnostics,米国インディアナ州インディアナポリス)を用いて測定した(Hermsen, D. et al. 2007, Clin Lab.,53(1-2): 1-9)。cobas e 411自動分析計(Roche Diagnostics)を用いてcTnTの量を定量した。ARIC試験における変動源、アッセイ間信頼度係数、測定の反復性、および変動係数に関する詳細なレポートは以前に記載されている(Agarwal et al., 2012, Circ Heart Fail. 5(4): 422-29; Saunders, A. T. et al., 2011, Circulation. 123(13): 1367-76)。簡単に言えば、cTnTアッセイの検出下限および上限は、それぞれ3および10,000ng/Lであり、定量限界(<10%の中間精度変動係数で再現性をもって測定できる最低分析物濃度)は13ng/Lである。外れ値(>3の標準偏差)を除く前と後の418の盲検重複品質管理試料に基づく信頼度係数およびアッセイ間変動係数は、それぞれ0.98および23.1%、ならびに0.99および15%であった。103の試験に基づくcTnTレベル29ng/Lおよび2378ng/Lでのアッセイ間変動係数は、それぞれ6.2%および2.6%であった。
【0076】
[0082] N末端pro Bタイプのナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)を、同様に自動cobas e 411分析計(Roche Diagnostics)で、測定範囲5〜35,000pg/mLおよび定量限界35pg/mLのElecsys(登録商標)proBNP II電気化学発光イムノアッセイ(Roche Diagnostics,米国インディアナ州インディアナポリス)を用いて測定した。NT−proBNPの変動係数は以前に記載されている(Bayes-Genis, A. et al., 2004, Eur J Heart Fail. 6(3): 301-308)。外れ値(>3の標準偏差)を除く前と後の418の盲検重複品質管理試料に基づく信頼度係数およびアッセイ間変動係数は、それぞれ1.00および9.9%、ならびに1.00および6.7%であった。83の試験に基づく、NT−proBNPレベル121.6pg/mLおよび4059.1pg/mLでのアッセイ間変動係数は、それぞれ6.97%および6.76%であった。NT−proBNPアッセイは、Agarwal et al., 2011, Clin Chem. 57:891-897によってさらに詳細に記載されている。
【0077】
[0083] トロポニンを6カテゴリーとして評価した:検出不能、3〜5ng/L、6〜8ng/L、9〜13ng/L、14〜25ng/L、および≧25ng/L。以前に公開されたAgarwal et al., 2012, Circ Heart Fail. 5(4): 422-29による臨床HFモデルにおいて行なわれたように、NT−proBNPの対数を用いた。リスク予測モデルを完成させる前に、cTnT、NT−proBNPと、完全ARIC患者データ変数またはサブセットの単純化した変数のいずれかとの間の相互作用を調べた。性別および若干の患者リスクファクターとの相互作用がみられたので、性特異的モデルを用いた。性特異的モデルを用いた場合、リスク予測モデルにおける他の変数との相互作用はもはや統計学的に有意ではなかった。
【0078】
実施例3.Coxハザード比(Cox Hazard Ratio)の決定
[0084] Cox比例ハザードモデルを用いて、cTnT(表2)およびNT−proBNP(表3)とHFの発病との関連についてのハザード比を決定した。モデルファクターを、年齢、人種およびcTnT(表3)またはNT−proBNP(表2)について調整した。モデルファクターをARIC心不全リスク予測モデルのすべての構成要素およびcTnT(表3)またはNT−proBNP(表2)のいずれかについて調整した場合にもハザード比を決定した。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
[0085] 突発性HFについてのハザード比はcTnTレベルの増大と共に増大し、cTnT値>25ng/L(0.025μg/L)について男性では4.31(95% CI 2.6,7.14)、女性では5.28(95% CI 3.32,8.37)のハザード比であった(表2)。同様に、モデルファクターを最小限度または完全に調整した場合、NT−proBNPレベルは男性および女性の両方において突発性HFと正の関連性があった(表3)。
【0082】
実施例4.バイオマーカーデータを統合したHFリスク予測モデルと統合しないものとの比較
[0086] バイオマーカーデータの統合がHF予測精度を改善するかどうかを判定するために、10年間の経過観察で識別および校正の統計学的手段を用いて各モデルのHF予測能における改善を評価した。統計学的手段には、センサリング(censoring)を考慮しながら、受信者操作特性曲線(receiver operator characteristics curve)下面積(AUC)、正味再分類指数(net reclassification index)(NRI)、および積分識別指数(integrated discrimination indices)(IDI)の改善が含まれていた。NRIを記述する際、これまでHFリスクカテゴリーは記載されていないので、冠動脈心疾患リスク予測カテゴリー、すなわち0〜5%、5〜10%、10〜20%、および>20%の10年リスクを用いた。さらに、“連続NRI”を最近の記載に従って計算した(Pencina, et al., 2011, Stat Med. 30(1): 11-21)。モデルの適合度をそれが記述されている同じデータで検査する場合に起きる可能性があるオーバーオプティミズム(over optimism)について調整するために、また95%信頼区間を備えるために、ブートストラップ(Bootstrap)(n=1000)を実施した(Harrell, et al., 1996, Stat Med. 15:361-87)。アッセイした統計学的メトリクスに関して、HFリスクを予測するための最良のモデルは、両方のバイオマーカーcTnTおよびNT−proBNPからのデータを、すべての被検患者変数を含むARIC HFモデルと組み合わせたものであった。cTnTおよびlog(NT−proBNP)データをARIC HFモデルに追加すると強い改善が示され、AUCが男性において0.779から0.836に、女性において0.776から0.817に増大し、その結果、NRIが男性において19.6%、女性において19.9%になった。全体として、ほぼ38%の男性および31%の女性が、cTnTおよびlog NT−proBNPをARIC HFモデルに追加することにより再分類された。ARICモデルとARIC+cTnT+log(NT−proBNP)モデルの比較により、連続NRIが男性について54.7%、女性について50.7%になった(表4)。年齢、人種+cTnT+log(NT−proBNP)モデルとARIC+cTnT+log(NT−proBNP)モデルの間に追加の患者変数を組み込むと、HF予測精度が改善された。ARIC HFモデル+NT−proBNPを含むモデルにcTnTを追加するとリスク予測が改善され、ARIC HFモデル+cTnTを含むモデルにNT−proBNPを追加した場合も同様であった(表4,列4〜5)。これらのバイオマーカーはそれぞれ、個別に、最も顕著には組み合わせると、ARIC HF予測モデルの精度を有意に改善する。
【0083】
【表4-1】
【0084】
【表4-2】
【0085】
実施例5.単純化実験モデルと臨床HFモデルの比較
[0087] 種々のモデルを推定リスクの十分位数およびそれぞれの十分位数内で起きるHF事象の推定パーセントにより記述した。年齢、人種、ならびにcTnTおよびNT−proBNPの両方を考慮した実験モデルは、バイオマーカーを含まないARIC HFモデルに匹敵し、AUC、NRIまたはIDIに統計学的な有意差がなかった(表5)。この結果は、サブセットの患者変数を含む単純化実験モデルが臨床ARICモデルに匹敵する精度でHFを予測できることを示す。
【0086】
[0088] ARICモデル、実験モデル、およびARIC+cTnT+log(NT−proBNP)モデルは男性(図1−1および1−2)および女性(図2−1および2−2)の両方において推定リスク値を共有し、約60〜75%の突発性HF事象が最高3つの十分位数の推定リスクにおいて起きた(男性において約10%を超える10年リスク、女性において約7%を超える10年リスク)。
【0087】
[0089] モデル適合度を評価するGronnesby−Borgan試験統計学を用いて、これらのモデルをさらに試験した。Gronnesby & Borgan, 1996, Lifetime Data Anal., 2:315-28。有意‘p’値はモデル適合度不良と関連する。結果を表5に示す。ARICモデル、実験モデル、およびARIC+cTnT+log(NT−proBNP)モデルのモデル適合度スコアは、男性においてはすべて同等であり(表5,カラム3)、より簡単な実験モデルが臨床ARIC HFモデルに匹敵する精度でHFリスクを予測する能力を支持する。
【0088】
【表5】
【0089】
実施例6.有効なcTnTおよびNT−proBNPカットポイントの同定
[0090] 重みなしおよび重みつき両方のYouden指数(Youden et al., 1950, Cancer, 3: 32-35)を規定することにより、有効なcTnTおよびNT−proBNPカットポイントを同定した。突発性HF出現を“除外(rule-out)”および“確定(rule-in)”するのに有効なカットポイントを評価するために、重みなしYouden指数を(感度+特異度)−1と規定し、一方、重みつきYouden指数は、より高い重要性を感度2*(0.75*の感度+0.25*の特異度)−1または特異度2*(0.25*の感度+0.75*の特異度)−1のいずれかに与えることにより記述された。検出限界未満のレベルをもつ参加者を、平均値の計算のために検出下限の半分に割り当てた。cTnTおよびNT−proBNPとHF事象には、連続的でかなり単調な関連性がある(図3−1および3−2)ので、即時同定のための明瞭なカットポイントは現われなかった。
【0090】
[0091] しかし、有効なcTnTおよびNT−proBNPカットポイントを同定できるように、個体をリスクファクターの数および彼らのHF発現の有無により分類した。個体が下記のいずれかの存在を示した場合、その個体を“ステージA”HFリスクとして分類した:高血圧症、糖尿病、肥満症、メタボリックシンドローム、および頻発性心血管疾患);単純にするために、リスクファクターをもたない個体をステージ0と表わした。次いでcTnTおよびNT−proBNPの分布をHFステージおよび突発性HF状態により記述した(表6および7)。cTnTを考慮した場合、HFを発症した個体のほぼすべてが検出可能な濃度のcTnTをもっていた(表6)。この結果は、検出不能なcTnTレベルは高い陰性予測値をもつことを強く示唆する。3つのリスクファクターについて、突発性HFを発現しなかった男性および女性が、それぞれ約11ng/Lおよび約6ng/Lの平均cTnT値をもっていた。これは、リスクファクターをもたずにHFを発現した者の平均値に類似していた(男性において約10ng/L、女性において約6ng/L)(表6)。突発性HFを発現した者において、数値はリスクファクターの増大に伴なって高くなり、これはこれらのカットポイント(男性において10ng/L、女性において6ng/L)がHFの予測においてcTnT値の有効なカットポイントであることを示唆する。
【0091】
NT−proBNPを考慮した場合にも同様な結果がみられた(表7)。NT−proBNPレベルルについて、幾何平均をexp(平均log(NT−proBNP))として計算した。
【0092】
【表6】
【0093】
【表7】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
【国際調査報告】