(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-503338(P2016-503338A)
(43)【公表日】2016年2月4日
(54)【発明の名称】紙幣およびセキュリティ保護された文書の超臨界流体洗浄
(51)【国際特許分類】
B08B 3/08 20060101AFI20160108BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20160108BHJP
B08B 3/12 20060101ALI20160108BHJP
B08B 11/00 20060101ALI20160108BHJP
【FI】
B08B3/08 Z
B08B3/04 A
B08B3/12 C
B08B11/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2015-540666(P2015-540666)
(86)(22)【出願日】2013年9月9日
(85)【翻訳文提出日】2015年6月29日
(86)【国際出願番号】US2013058775
(87)【国際公開番号】WO2014070307
(87)【国際公開日】20140508
(31)【優先権主張番号】61/721,296
(32)【優先日】2012年11月1日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】500241376
【氏名又は名称】スペクトラ システムズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001450
【氏名又は名称】特許業務法人大島・西村・宮永商標特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】ラワンディー ネイビル エム.
【テーマコード(参考)】
3B116
3B201
【Fターム(参考)】
3B116AA46
3B116AB01
3B116BB02
3B116BB03
3B116BB83
3B116CC05
3B116CD22
3B116CD31
3B201AA46
3B201AB01
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3B201BB03
3B201BB83
3B201BB92
3B201CB01
3B201CC21
3B201CD22
3B201CD36
(57)【要約】
基材、視覚データおよびセキュリティ機能を含む、紙幣などのセキュリティ保護された書類を洗浄する方法およびシステムであって、基材を洗浄するのに十分でありかつセキュリティ機能および視覚データを損なわない温度および圧力および持続時間で、セキュリティ保護された書類を超臨界流体に曝露するステップを含み、ここで、基材を洗浄することは、基材から超臨界流体中に1つまたは複数の物質を取り除くことを含む。基材から取り除かれる物質は、汚染物質、汚れ、皮脂および病原体を含んでよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、視覚データ、およびセキュリティ機能を含む、セキュリティ保護された書類(secure instrument)を洗浄する方法であって、
前記基材を洗浄するのに十分でありかつ前記セキュリティ機能および前記視覚データを損なわない温度および圧力および持続時間で、前記セキュリティ保護された書類を超臨界流体に曝露するステップ;
を含み、
ここで、前記基材を洗浄することは、前記基材から前記超臨界流体中に1つまたは複数の物質を取り除くことを含む、
方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、
前記視覚データは、画像、認証情報、または両方を含む、
方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、
前記の1つまたは複数の物質は、汚染物質、汚れ、皮脂、病原体、またはこれらの任意の組み合わせを含む、
方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、
前記の1つまたは複数の物質のうちの少なくとも1つは、前記超臨界流体に可溶性である、
方法。
【請求項5】
請求項1の方法であって、
前記の曝露するステップは、前記セキュリティ保護された書類の中および周りに前記超臨界流体を流すステップをさらに含む、
方法。
【請求項6】
請求項5の方法であって、
前記の流すステップは、前記超臨界流体中で前記セキュリティ保護された書類を撹拌するステップを含む、
方法。
【請求項7】
請求項5の方法であって、
前記の流すステップは、前記超臨界流体を撹拌するステップを含む、
方法。
【請求項8】
請求項5の方法であって、
前記の流すステップは、前記超臨界流体中に超音波を当てるステップを含む、
方法。
【請求項9】
請求項1の方法であって、
洗浄することは、消毒することを含む、
方法。
【請求項10】
請求項1の方法であって、
前記超臨界流体は、CO2を含む、
方法。
【請求項11】
請求項1の方法であって、
前記超臨界流体は、イオン液体または別の気体をさらに含む、
方法。
【請求項12】
請求項1の方法であって、
前記セキュリティ保護された書類の適合性を判定するステップをさらに含む、
方法。
【請求項13】
請求項12の方法であって、
前記の適合性を判定するステップは、
前記セキュリティ保護された書類をスキャンして、前記セキュリティ保護された書類の1つまたは複数の特性に関する情報を取得するステップ;および、
前記の1つまたは複数の特性が、1つまたは複数の所定の基準を満たすかどうか判定するステップ、
を含む、
方法。
【請求項14】
請求項13の方法であって、
前記の所定の基準は、許容できるレベルの破れを含む、
方法。
【請求項15】
請求項13の方法であって、
前記の所定の基準は、許容できるレベルの軟弱さ(limpness)を含む、
方法。
【請求項16】
請求項13の方法であって、
前記の所定の基準は、許容できるレベルの落書きを含む、
方法。
【請求項17】
請求項13の方法であって、
前記の所定の基準は、許容できるレベルの汚れを含む、
方法。
【請求項18】
請求項1の方法であって、
前記セキュリティ保護された書類を認証するステップをさらに含む、
方法。
【請求項19】
請求項1の方法であって、
捕捉物質を前記超臨界流体に導入して、前記の1つまたは複数の物質の少なくとも一部分を前記超臨界流体から取り除くステップをさらに含む、
方法。
【請求項20】
請求項19の方法であって、
前記捕捉物質が高表面積材料を含む、
方法。
【請求項21】
請求項19の方法であって、
前記捕捉物質がヒュームドシリカを含む、
方法。
【請求項22】
請求項1の方法であって、
前記持続時間が30分〜12時間である、
方法。
【請求項23】
複数のセキュリティ保護された書類を洗浄する方法であって、
各セキュリティ保護された書類は、基材、視覚データおよびセキュリティ機能を含み、
1つまたは複数の所定の基準に基づいて前記セキュリティ保護された書類をソーティングするステップ;
前記基材を洗浄するのに十分でありかつ前記セキュリティ保護された書類の前記セキュリティ機能および前記視覚データを損なわない温度および圧力および持続時間で、前記セキュリティ保護された書類を超臨界流体に曝露するステップ;
を含み、
ここで、前記基材を洗浄することは、1つまたは複数の物質を前記基材から前記超臨界流体に取り除くことを含む、
方法。
【請求項24】
請求項23の方法であって、
前記視覚データは、画像、認証情報、または両方を含む、
方法。
【請求項25】
請求項23の方法であって、
前記の1つまたは複数の物質は、汚染物質、汚れ、皮脂、病原体、またはこれらの任意の組み合わせを含む、
方法。
【請求項26】
請求項23の方法であって、
前記の1つまたは複数の物質のうちの少なくとも1つは、前記超臨界流体に可溶性である、
方法。
【請求項27】
請求項23の方法であって、
前記の曝露するステップは、前記セキュリティ保護された書類の中および周りに、前記超臨界流体を流すステップをさらに含む、
方法。
【請求項28】
請求項23の方法であって、
洗浄することは、消毒することを含む、
方法。
【請求項29】
請求項23の方法であって、
前記超臨界流体は、CO2を含む、
方法。
【請求項30】
請求項23の方法であって、
前記超臨界流体は、イオン液体または別の気体をさらに含む、
方法。
【請求項31】
請求項23の方法であって、
前記のソーティングするステップは、前記セキュリティ保護された書類をスキャンして、前記セキュリティ保護された書類の1つまたは複数の特性が、前記の1つまたは複数の所定の基準を満たすかどうか判定するステップを含む、
方法。
【請求項32】
請求項31の方法であって、
前記の所定の基準は、許容できるレベルの破れを含む、
方法。
【請求項33】
請求項31の方法であって、
前記の所定の基準は、許容できるレベルの軟弱さを含む、
方法。
【請求項34】
請求項31の方法であって、
前記の所定の基準は、許容できるレベルの落書きを含む、
方法。
【請求項35】
請求項31の方法であって、
前記の所定の基準は、許容できるレベルの汚れを含む、
方法。
【請求項36】
請求項23の方法であって、
前記セキュリティ保護された書類を認証するステップをさらに含む、
方法。
【請求項37】
請求項23の方法であって、
捕捉物質を前記超臨界流体に導入して、前記の1つまたは複数の物質の少なくとも一部分を前記超臨界流体から取り除くステップをさらに含む、
方法。
【請求項38】
請求項23の方法であって、
前記超臨界流体を再循環させるステップをさらに含む、
方法。
【請求項39】
基材、視覚データおよびセキュリティ機能を含む、セキュリティ保護された書類を洗浄するための器具であって、
前記基材を洗浄するのに十分でありかつ前記セキュリティ保護された書類の前記セキュリティ機能および前記視覚データを損なわない温度および圧力および持続時間で、超臨界流体を含むチャンバー;および
前記超臨界流体が前記セキュリティ保護された書類の中および周りを循環して1つまたは複数の物質を前記超臨界流体中に取り除くように、前記セキュリティ保護された書類をチャンバー内に保持する構造、
を含む、
器具。
【請求項40】
請求項39の器具であって、
前記チャンバー内の前記セキュリティ保護された書類の中および周りを、前記超臨界流体が循環するための撹拌機構をさらに含む、
器具。
【請求項41】
請求項39の器具であって、
前記のセキュリティ保護された書類を保持する構造は、トレイを含む、
器具。
【請求項42】
請求項39の器具であって、
前記の視覚データは、画像、認証データ、または両方を含む、
器具。
【請求項43】
請求項39の器具であって、
前記の1つまたは複数の物質は、汚染物質、汚れ、皮脂、病原体、またはこれらの任意の組み合わせを含む、
器具。
【請求項44】
請求項39の器具であって、
前記の1つまたは複数の物質のうちの少なくとも1つは、前記超臨界流体に可溶性である、
器具。
【請求項45】
請求項39の器具であって、
洗浄することは、消毒することを含む、
器具。
【請求項46】
請求項39の器具であって、
前記超臨界流体は、CO2を含む、
器具。
【請求項47】
請求項39の器具であって、
前記超臨界流体は、イオン液体または別の気体をさらに含む、
器具。
【請求項48】
請求項39の器具であって、
前記超臨界流体は、前記の1つまたは複数の物質の少なくとも一部分を前記超臨界流体から取り除くための、捕捉物質をさらに含む、
器具。
【請求項49】
複数のセキュリティ保護された書類を洗浄するための器具であって、
各セキュリティ保護された書類は、基材、視覚データおよびセキュリティ機能を含み、
前記セキュリティ保護された書類が1つまたは複数の所定の基準を満たす1つまたは複数の特性を有するかどうか判定するためのソーター;
前記の1つまたは複数の所定の基準を満たす、セキュリティ保護された書類を保持する構造;および、
前記基材を洗浄するのに十分でありかつ前記セキュリティ保護された書類の前記セキュリティ機能および前記視覚データを損なわない温度および圧力および持続時間で、超臨界流体を含むチャンバー;
を含み、
ここで、前記のセキュリティ保護された書類を保持する構造は、前記超臨界流体が前記セキュリティ保護された書類の中および周りを循環して1つまたは複数の物質を前記超臨界流体中に取り除くように、前記チャンバー内に配置することが可能である、
器具。
【請求項50】
請求項49の器具であって、
前記チャンバー内で前記セキュリティ保護された書類の中および周りに、前記超臨界流体を循環するための撹拌機構をさらに含む、
器具。
【請求項51】
請求項49の器具であって、
前記セキュリティ保護された書類を保持する構造は、トレイを含む、
器具。
【請求項52】
請求項49の器具であって、
前記視覚データは、画像、認証データ、または両方を含む、
器具。
【請求項53】
請求項49の器具であって、
前記の1つまたは複数の物質は、汚染物質、汚れ、皮脂、病原体、またはこれらの任意の組み合わせを含む、
器具。
【請求項54】
請求項49の器具であって、
前記の1つまたは複数の物質のうちの1つ(at one of)は、前記超臨界流体に可溶性である、
器具。
【請求項55】
請求項49の器具であって、
洗浄することは、消毒することを含む、
器具。
【請求項56】
請求項49の器具であって、
前記超臨界流体は、CO2を含む、
器具。
【請求項57】
請求項49の器具であって、
前記超臨界流体は、イオン液体または別の気体をさらに含む、
器具。
【請求項58】
請求項49の器具であって、
前記超臨界流体は、前記の1つまたは複数の物質の少なくとも一部分を前記超臨界流体から取り除くための、捕捉物質をさらに含む、
器具。
【請求項59】
請求項49の器具であって、
前記の所定の基準は、許容できるレベルの破れを含む、
器具。
【請求項60】
請求項49の器具であって、
前記の所定の基準は、許容できるレベルの軟弱さを含む、
器具。
【請求項61】
請求項49の器具であって、
前記の所定の基準は、許容できるレベルの落書きを含む、
器具。
【請求項62】
請求項49の器具であって、
前記の所定の基準は、許容できるレベルの汚れを含む、
器具。
【請求項63】
請求項49の器具であって、
前記の所定の基準は、前記セキュリティ保護された書類が真正であるかどうかである、
器具。
【請求項64】
少なくとも1つの画像、ペイントテクスチャ、および印刷を含む材料を復元する方法であって、
前記材料を洗浄するのに十分でありかつ前記画像、ペイントテクスチャ、または印刷を損なわない温度および圧力および持続時間で、前記材料を超臨界流体に曝露するステップを含み、
ここで、前記材料を洗浄することは、1つまたは複数の物質を前記材料から前記超臨界流体中に取り除くことを含む、
方法。
【請求項65】
請求項64の方法であって、
前記材料は、印刷を含む文書である、
方法。
【請求項66】
請求項64の方法であって、
前記材料は、アートワークである、
方法。
【請求項67】
請求項66の方法であって、
前記アートワークは、ペイントテクスチャを有する絵を含む、
方法。
【請求項68】
請求項64の方法であって、
前記の1つまたは複数の物質は、汚染物質、汚れ、皮脂、病原体、またはこれらの任意の組み合わせを含む、
方法。
【請求項69】
請求項64の方法であって、
前記超臨界流体は、CO2を含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2012年11月1日に出願された米国仮出願第61/721,296号からの優先権を主張するものである。
[技術分野]
本発明は、一般に、紙幣などのセキュリティ保護された文書(secure documents)を、それらの破損を誘発せずに洗浄することに関する。より具体的には、本発明は、セキュリティ保護された文書または紙幣を、それらの視覚データ、インキ、基材またはセキュリティ機能を破損させずに洗浄するための、超臨界流体の使用に関する。その処理は、セキュリティ保護された文書または紙幣の消毒にも効果的である。
【背景技術】
【0002】
紙幣などの高セキュリティ文書は、様々な材料から形成される基材を有する。米国では、紙幣は、75%の綿繊維および25%の麻繊維の組み合わせの不織布から作られる。他の大部分の国では、パルプに基づく基材が用いられる。カナダなどの一部の国では、綿および紙の混紡の紙幣が用いられている。さらに、オーストラリア、ニュージーランドおよびカナダのような国々は、ポリマー基材(例えば二軸配向ポリプロピレンを含む基材)を有する紙幣を発行している。基材(1層または複数層の基材材料を含んでよい)は、セキュリティ機能、例えば、積層されたポリマーまたは紙のセキュリティスレッド、硬貨地板、および基材中に直接形成された透かしを含んでよい。例えば、米国紙幣は、視覚的識別のために、全体的に散在する赤および青の繊維の小断片を含む。
【0003】
また、紙幣は、基材上に印刷された視覚データも含む。視覚データは、肖像画などの画像、シリアルナンバーなどの認証情報、または両方を含んでよい。基材上に印刷するために用いられるインキは、油類および増量剤をブレンドした特別な乾燥着色顔料、および、層状のマイクロ干渉層を含む蛍光体チップを含んでよい。そのようなインキは、フレキソインキ、グラビアインキ、およびより厚い凹版インキを含む。
【0004】
紙幣などの高セキュリティ文書は、一般に、模倣困難であって素人でさえ印刷された情報または文書の真正性をチェックすることが可能な、多くの場合セキュリティ要素を備える基材材料上に形成される。セキュリティ要素は、例えば、紙幣の表面上の特定領域に見ることができる窓付きセキュリティスレッド、透明または金属化されたエンボス型ホログラムを有する応用箔(applied foil)、印刷技術または印刷浮き出し技術により生産される、「潜像」と呼ばれる空浮き出し(異なる視野角から異なる情報をレンダーリングする)、光学的可変顔料を含み視野角に応じて異なる色彩効果を生じる印刷物、および、金属光沢(例えば金、銀またはブロンズ調)を有する金属効果インキを含む印刷物であってよい。これらの肉眼での特徴に加え、準公的なセキュリティスレッド、繊維およびインキ(紫外線(「UV」)または赤外線(「IR」)源を用いた照明下で蛍光またはリン光を発する)が存在する。
【0005】
紙幣における他のセキュリティ機能は、番号透かし、ギロシェ模様(模様出し旋盤によって、または数学的に作られる、狭い幾何学的模様)、マイクロプリント、電子透かし、磁気インキおよびスレッド、脱金属セキュリティスレッド、ホログラフィック機能、蛍光インキ、レンチキュラーレンズアレイのセキュリティスレッド、および、蛍光および非蛍光セキュリティスレッドを含む。
【0006】
高レベルの隠されたセキュリティ機能は、ENIGMA(De La Rue International)およびM(Geiseke and Devrient)を含む。通貨における重要なセキュリティ機能は、M機能であり、「M」とは「機械可読」を指す。M機能は、紙基材に組み込まれた無色の無機オキシド、印刷インキ、セキュリティインキ、またはセキュリティスレッドであり、紙幣の外観にいかなる変化も生じない。粉末状のM機能を一筋に(in a trail)紙基材に吹き付けて、特定の紙幣の額面金額を特定し得る。強い光源からのフラッシュを当てると、M機能は瞬時に、急速に消える光バンドを発する。この繰り返し可能で特徴的な、紙幣の光バンドは、読取装置により認証することができる。中央銀行は、M機能のセキュリティを、それを認識する特別なセンサーの使用を要求することによって保護している。
【0007】
偽造者がより巧みになってきているので、そのような文書におけるセキュリティ機能も同様に、広範な詐欺行為を防止するために、より高度になっていかなければならない。そのようなセキュリティ保護された文書の基材は、より高度になってきているので、それらを生産するコストもまた増大していて、したがって、摩耗した通貨の交換物を作るのは非常に費用がかかる。したがって、セキュリティがあることに加えて、そのような文書は、高レベルの耐久性を有していなければならないということが重要である。
【0008】
紙幣は、様々な理由のために流通から取り除かれる。ある研究によれば、紙幣の81%は汚れのために取り除かれ、9%は機械的手段に起因する破損(特に破れ)のために取り除かれ、5%は紙幣上の落書きのために取り除かれ、4%は全体的な摩耗および破れのために取り除かれ、そして、1%はセキュリティ要素の破損のために取り除かれる。一般に、排斥される紙幣全体の60%〜80%は汚れが原因である。
【0009】
紙幣は、公衆による使用における紙幣の汚れおよび破れのために、流通時間が有限である。例えば、米国紙幣が破れるまで、約4,000回(最初に前に、そしてそれから後ろに)二重に折り畳まれる。紙幣は、それらの使用可能寿命中に多くの方法で扱われ、様々な機械的ストレスを経験し、および、紙幣を汚してそれらの認証および使用を困難にさせる可能性がある物質に接触させられる。紙幣寿命(最も低い額面金額が最も短い)の主な決定因子の一つは、汚れである。オランダ国立銀行による研究は、汚れの主な原因は、指の接触後の沈着皮脂(皮脂は最終的に酸化されて黄色くなる)であることを示した。さらに、パキスタンのカラチ大学の微生物学部による研究は、通貨紙幣は、皮膚灼熱および敗血症感染に加えて、下痢および尿路感染を引き起こす汚染物質も運搬し得ることを結論付けた。ある研究は、紙幣の26%が高レベルの細菌を含み、紙幣の80%が細菌の何らかの形跡を有することを見いだした。さらにより懸念される知見は、紙幣上の病原体(細菌およびウイルスを含む)が、抗生物質に対する耐性を獲得する可能性があり、感染性疾患の治療をより困難にさせることであった。
【0010】
そのような「汚い」お金は、発展途上国に単に限られるものではない。米国から出る汚染通貨に関するいくつかの研究が同様に明らかとなった。オハイオ州のWright−Patterson Medical Centerの内分泌学部に関して行なわれた最近の調査では、研究員が、ハイスクールのスポーツイベントでのコンセッションスタンドおよび食料品店チェックアウトカウンターから、68枚の1ドル紙幣を集め、それらを細菌汚染に関して調べた。検出可能な微生物を含まないものは4枚の紙幣(6%)のみであった。
【0011】
小さい国々でさえ流通している紙幣の量は膨大であることを考慮に入れれば、紙幣の適合性の判定は、コスト管理において重要なだけでなく、処理スピードおよび精度の観点から、重大な技術的挑戦も提起する。さらに、紙幣の汚さの程度は、客観的なルールで簡単に捉えることができない。結果として、紙幣の適合性の正確な判定は費用の観点から関心をひくだけでなく、より清潔な紙幣は公衆にとってより魅力的でより安全でもある。研究は、汚れが、白色光および特定波長の光源の両方を用いた紙幣適合センサーにより、流通に適さない紙幣を分類する主な理由の一つであることを示した。
【0012】
これらの基材の耐久性および汚れ耐性を改善するために、文書の寿命および流通に対する適合性を拡張する汚れ防止剤および/または耐湿性保護層を有する、価値ある文書を使用することが知られている。そのような保護層は、典型的に、セルロースエステルまたはセルロースエーテル(より大部分として)および微粉化ワックス(より少ない部分として)を含み、紙幣一面に塗布される。微粉化ワックスは、油、インキバインダーまたはそれらの混合物と混練または混合することにより分散される。保護層とともに印刷されたばかりのシートは、困難なく、そして1枚のシートからのいかなる黒インキも下のシートに染みずに、積み重ねることができる。
【0013】
バインダーのみを含み充填剤を含まない別のコーティング組成物は、紙幣の紙(その多孔性に起因して高い表面粗さまたは広い表面積を有する)に塗布されている。組成物は層状に塗布され、滑らかな表面の厚みを有し、したがって、汚れの沈着が生じる可能性がほとんどない。さらに、コーティングは十分に薄く、紙の他の所定の特性を損なわない。
【0014】
この方法の問題は、公知の保護層は長持ちせず、または非常に摩耗することである。水ベースのラッカーを含む従来の保護層は、通常、要求の厳しい必要プロファイルを完全に満たすことができない。例えば、非常に優れた汚れの防止および付着の質は、液体の透過性に対する耐性と矛盾し、逆もまた同様である。したがって、水ベースのラッカーは、現在のところ、架橋剤の形態での第二の構成要素が添加される場合のみ、セキュリティ印刷、および特に紙幣印刷における、保護層に対する高い要求を満たす。
【0015】
紙幣に関する別の問題は、中央銀行が、納税者への費用で、摩耗して汚れた紙幣を交換しなければならないことである。米国では、製造される紙幣の量は、1年あたり何十億の紙幣(典型的に40〜60億)である。紙幣の生産は、特に、より高い額面金額(公衆に利用可能でありかつ高スピードのソーターを用いて中央銀行および紙幣受領機によって機械可読である、多くのセキュリティ機能を有する)では、費用がかかる。Geiseke and Devrient,De La Rue International and Toshibaにより製造された紙幣ソーターは、典型的に、10〜40枚の紙幣/秒の速度で紙幣を処理し、紙幣のトラベルパスにおいてセンサーを用いて多くの診断を行なう。これらのセンサーは、認証センサーおよび紙幣適合センサーの組み合わせである。適合センサーは、主に、取り込み画像のイメージングおよび分析を用いて、紙幣を破棄すべきかまたは流通に戻すべきか、判断する。
【0016】
より高い額面金額は、公衆、商業銀行、単一紙幣受領装置および中央銀行により用いられるための、レベルI、IIおよびIllのセキュリティ機能を含むため、紙幣交換の費用は重大である。米国では、例えば、通貨交換予算は74700万ドルであり、以下のような内訳である:
【0017】
1ドルおよび2ドル紙幣−−5.2セント/紙幣
5ドルおよび10ドル紙幣−−8.5セント/紙幣
20ドルおよび50ドル紙幣−−9.2セント/紙幣
100ドル紙幣−−7.7セント/紙幣
2013年10月に交換すべき100ドル紙幣−13セント/紙幣
【0018】
世界中で年間1500億枚を超える新しい紙幣が製造および印刷されているので、不適合の通貨の交換費用は、年間100億ドルに達している。紙幣の交換に加えて、不適合と判定された細断紙幣の破棄に関するかなりの廃棄物処理費用がある。これは、世界中に流通する1500億の紙幣の合計に基づき、世界中で年間通算して約150,000トンの廃棄物となる。これは、ポリマー紙幣(焼却および埋立処分に関するより大きな環境問題も提起する)については、特に問題である。
【0019】
これらの事実に基づいて、汚れているが破れていない、または裂けていない紙幣を洗浄する方法であって、紙幣の印刷およびセキュリティ機能を攻撃しない方法を用いる必要がある。特定のクラスの適合性パラメーターを適用して、特定された紙幣を、流通に戻すか破棄するかのいずれにすべきか決定する前に、印刷およびセキュリティ機能を攻撃しない方法を用いて洗浄するシステムがさらに必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、汚れているが破れていない、または裂けていない紙幣を洗浄する方法およびシステムを提供することであり、その方法は、紙幣の印刷およびセキュリティ機能を攻撃しない。本発明のさらなる目的は、特定のクラスの適合性パラメーターを適用して、特定された紙幣を、流通に戻すか破棄するかのいずれにすべきか決定する前に、紙幣の印刷およびセキュリティ機能を攻撃しない超臨界流体を用いて洗浄するシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
一般に、一態様では、本発明の特徴は、基材、視覚データおよびセキュリティ機能を含む、セキュリティ保護された書類(secure instrument)を洗浄する方法であって、基材を洗浄するのに十分でありかつセキュリティ機能および視覚データを損なわない、温度および圧力および持続時間で、セキュリティ保護された書類を超臨界流体に曝露するステップを含み、ここで、基材を洗浄することは、1つまたは複数の物質を、基材から超臨界流体中に取り除くことを含む。
【0022】
本発明の実施は、1つまたは複数の以下の特徴を含む。視覚データは、画像、認証情報、または両方を含んでよい。1つまたは複数の物質は、汚染物質、汚れ、皮脂、病原体、またはこれらの任意の組み合わせを含んでよい。1つまたは複数の物質のうちの少なくとも1つは、超臨界流体に可溶性であってよい。
【0023】
曝露するステップは、超臨界流体を、セキュリティ保護された書類の中および周りに流すステップをさらに含んでよい。流すステップは、超臨界流体中でセキュリティ保護された書類を撹拌するステップ、超臨界流体を撹拌するステップ、および超臨界流体中に超音波を当てるステップを含んでよい。洗浄するステップは、消毒するステップを含んでよい。超臨界流体はCO
2を含んでよく、イオン液体または別の気体をさらに含んでよい。
【0024】
その方法は、セキュリティ保護された書類の適合性を判定するステップをさらに含んでよい。適合性の判定は、セキュリティ保護された書類をスキャンして、セキュリティ保護された書類の1つまたは複数の特性に関する情報を取得するステップ、および、その1つまたは複数の特性が1つまたは複数の所定の基準を満たすかどうか判定するステップを含んでよい。所定の基準は、許容できるレベルの破れ、許容できるレベルの軟弱さ、許容できるレベルの落書き、および許容できるレベルの汚れを含んでよい。その方法は、セキュリティ保護された書類を認証するステップをさらに含んでよい。
【0025】
その方法は、捕捉材料を超臨界流体に導入して1つまたは複数の物質の少なくとも一部分を超臨界流体から取り除くステップをさらに含んでよい。捕捉材料は、高表面積材料(ヒュームドシリカを含んでよい)を含んでよい。その方法では、持続時間は30分〜12時間であり得る。
【0026】
一般に、別の態様では、本発明の特徴は、複数のセキュリティ保護された書類を洗浄する方法であって、各セキュリティ保護された書類は、基材、視覚データおよびセキュリティ機能を含み、1つまたは複数の所定の基準に基づきセキュリティ保護された書類をソーティングするステップ、基材を洗浄するのに十分でありかつセキュリティ保護された書類のセキュリティ機能および視覚データを損なわない温度および圧力および持続時間で、セキュリティ保護された書類を超臨界流体に曝露するステップを含み、ここで、基材を洗浄することは、1つまたは複数の物質を、基材から超臨界流体中に取り除くことを含む。
【0027】
本発明の実施は、1つまたは複数の以下の特徴を含んでよい。ソーティングするステップは、セキュリティ保護された書類をスキャンして、セキュリティ保護された書類の1つまたは複数の特性が、1つまたは複数の所定の基準を満たすかどうか決定するステップを含んでよい。その方法は、超臨界流体を再循環させるステップをさらに含んでよい。
【0028】
一般に、別の態様では、本発明の特徴は、基材、視覚データおよびセキュリティ機能を含む、セキュリティ保護された書類を洗浄する器具であって、基材を洗浄するのに十分でありかつセキュリティ保護された書類のセキュリティ機能および視覚データを損なわない温度および圧力および持続時間で、超臨界流体を含むチャンバー、および、超臨界流体がセキュリティ保護された書類の中および周りを循環して1つまたは複数の物質を超臨界流体中に取り除くようにセキュリティ保護された書類をチャンバー内に保持する構造を含む。
【0029】
本発明の実施は、1つまたは複数の以下の特徴を含んでよい。器具は、超臨界流体を、チャンバー内のセキュリティ保護された書類の中および周りに循環させるための撹拌機構を含んでよい。セキュリティ保護された書類を保持する構造は、トレイを含んでよい。
【0030】
一般に、別の態様では、本発明の特徴は、複数のセキュリティ保護された書類を洗浄するための器具であって、各セキュリティ保護された書類は、基材、視覚データおよびセキュリティ機能を含み、セキュリティ保護された書類が1つまたは複数の所定の基準を満たす1つまたは複数の特性を有するかどうか判定するソーター、1つまたは複数の所定の基準を満たすセキュリティ保護された書類を保持する構造、および、基材を洗浄するのに十分でありかつセキュリティ保護された書類のセキュリティ機能および視覚データを損なわない温度および圧力および持続時間で、超臨界流体を含むチャンバーを含み、ここで、セキュリティ保護された書類を保持する構造は、超臨界流体がセキュリティ保護された書類の中および周りを循環して1つまたは複数の物質を超臨界流体中に取り除くように、チャンバー内に配置することが可能である。
【0031】
一般に、別の態様では、本発明の特徴は、少なくとも1つの画像、ペイントテクスチャ、および印刷物を含む材料を復元する方法であって、材料を洗浄するのに十分でありかつ、画像、ペイントテクスチャ、または印刷物を損なわない温度および圧力および持続時間で、材料を超臨界流体に曝露するステップを含み、ここで材料を洗浄することは、1つまたは複数の物質を、材料から超臨界流体中に取り除くことを含む。
【0032】
本発明の実施は、1つまたは複数の以下の特徴を含んでよい。材料は、印刷物またはアートワークを含む文書であってよく、ペイントテクスチャを有する絵を含む。1つまたは複数の物質は、汚染物質、汚れ、皮脂、病原体、またはこれらの任意の組み合わせを含んでよい。超臨界流体はCO
2を含んでよい。
【0033】
上述および他の態様、特徴および利点は、添付図面に関する以下の詳細な説明から、より容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、二酸化炭素に関する超臨界流体の相図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施態様による、紙幣の洗浄およびソーティングを示す、フローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の別の実施態様による、紙幣の洗浄およびソーティングを示す、フローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の洗浄サイクルを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、例示的な高圧超臨界流体チャンバーである。
【
図6】
図6は、皮脂層でのコーティングおよび酸化の前および後の、米国1ドル紙幣の同じ部分の比較である。
【
図7A】
図7Aは、皮脂処理前、皮脂処理後、および、超臨界流体を用いた洗浄後の、米国1ドル紙幣の画像である。
【
図8】
図8は、本発明による超臨界CO
2洗浄の前および後の両方の、酸化皮脂で覆われた紙幣の反射スペクトルを示す。
【
図9】
図9は、本発明による5ユーロ紙幣の洗浄結果を示す。
【
図10A】
図10Aは、超臨界流体を用いた洗浄の前および後の、モーターオイルで汚れた紙幣である。
【
図11】
図11は、本発明による洗浄の前および後の両方の、紙幣中のセキュリティスレッドの蛍光スペクトルを示す。
【
図12】
図12は、本発明による洗浄の前および後の両方の、紙幣中のセキュリティスレッドの蛍光スペクトルを示す。
【
図13】
図13は、ロシア・ルーブルのセキュリティファイバーにおける、UVにより励起される放射特性のロバスト性を示す。
【
図14】
図14は、中国元上の印刷における、UVにより励起される放射セキュリティ機能のロバスト性を示す。
【
図15】
図15は、超臨界流体への曝露の前および後の、英国ポンド上の印刷における、UVにより励起される放射セキュリティ機能のロバスト性を示す。
【
図16】
図16Aおよび
図16Bは、それぞれ、流通している、および流通していない、米国1ドル紙幣に関する過渡応答を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、超臨界流体を用いた、紙幣などのセキュリティ保護された文書の洗浄を提供する。より具体的には、本発明は、セキュリティ保護された文書および紙幣を、超臨界流体を用いて、それらの視覚データ、インキ、基材、またはそこに含まれるセキュリティ機能を、破損あるいは損なわない方法で洗浄する方法を提供する。セキュリティ機能および視覚データは、公衆に対して、または機械可読試験において、それらの使用目的に関して認識可能なままであれば、損なわれていない。セキュリティ保護された文書の基材から取り除くことのできる物質は、汚染物質、汚れ、ユーザーの手からの皮脂、および病原体(細菌およびウイルスを含む)を含む。そのような洗浄は、紙幣を消毒する効果も、有し得る。超臨界流体洗浄の使用は、交換される紙幣の数を年間10%低減することを可能にし、一方で、かなりの割合の汚れた紙幣が流通に戻ることを許し、したがって、政府を世界的に年間およそ10億ドル節約させ、不適合な紙幣に関連する環境への影響を低減することが見込まれる。紙幣の年間の生産が10%低減すると、推定されるカーボンフットプリントの減少は、10
6トンのCO
2と同等である。
【0036】
超臨界流体、特に他の気体およびイオン液体を含む添加剤と混合されたCO
2は、様々な有機物に対する効果的な溶媒であり、多くの洗浄および抽出用途(医薬品製造、香水製造、およびカフェイン除去を含む)に用いられている。二酸化炭素に関する超臨界流体の相図を
図1に示す。CO
2は、72.9 atmおよび304.25 Kに超臨界点を有する。
【0037】
超臨界相の場合は、CO
2材料は液体の密度に近い密度を有するが、気体様物質の空間充填特性を有する。超臨界相においてCO
2に曝露されると、多くの有機材料は、相図の特定領域において化学攻撃せずに可溶性になる。特に、材料は、それらの自由エネルギーが低下した場合に、超臨界流体中に取り除かれ得る。特に、紙幣の汚れの主な原因である皮脂などの油性物質(酸化後または加水分解後を含む)、ならびに、他の油類および汚染物質は、超臨界CO
2および他の超臨界流体混合物に可溶性である。注目すべき重要な点は、CO
2は室温および室圧で昇華するため、この洗浄後の紙幣は乾燥していることである。さらに、超臨界洗浄剤としてのCO
2は、最も影響の低い温室ガス構成要素の一つとして環境影響が非常に低い。CO
2の使用と関連する任意の環境影響は、例えば焼却または埋立により不適合の通貨を処分する費用および環境への悪影響と比較して、最小限である。さらに、CO
2は、汚染物質を除去後に、洗浄システムにおいて再利用および再流通に再生可能である。
【0038】
他の超臨界流体を、特に微量で、本発明の洗浄システムにおいて用いてよい。例えば、N
2Oを超臨界流体としてそれ自体で用いてよく、またはCO
2と組み合わせて用いてよい。双極子種として、N
2Oは、システムにおいてCO
2だけでは達成できないある程度の溶解度を作り出す。同様に、COまたはSF
6を超臨界流体としてそれ自体で用いてよく、またはCO
2と組み合わせて用いてよい。SF
6は、その高い電気陰性特性のため、洗浄システムにおいて特に有用である。
【0039】
中央銀行は、光学的および機械的な検査システム(紙幣を調べて、それらを破棄すべきか、または流通に送り返すことができるか決定する)を備えた、高スピードのソーティング機を用いる。特に、そのような高スピードのソーティング機を用いて、紙幣の真正性および適合性の両方を調べることができる。最も大きなソーティング機は、1秒あたり40枚の紙幣を操作し、偽造品および再流通に適さない紙幣を取り除くための16個ものセンサーを有し得る。適合センサーは、主に光学的画像分析を行ない、多くのパラメーター(破れ、テープ、落書きおよび汚れを含む)を調べる。他のセンサーを用いて、紙幣が適合または交換しなければならない場合の判定に関する別の測定基準として、紙幣の軟弱さを判定してよい。さらに、紙幣を認証して、紙幣のセキュリティ機能(公衆および機械可読のセキュリティ機能の両方を含む)を用いてそれらが偽造であるか否か判定してよい。認証情報(機械合理的(machine reasonable)であり得る)は、紙幣上に印刷された英数字または画像データであってもよい。
【0040】
本開示は、入ってくる紙幣を分析するための適合性センサー(汚れのために不適合だが、そうでなければ、軟弱さ、および、破れ、裂けおよび落書きが無いという観点から、まだ存続可能である紙幣を選択する)を含む、紙幣を洗浄するシステムを提供する。許容できる適合性特性に関するこれらのパラメーターは、人口趨勢および紙幣受領の測定基準に基づき、特定の中央銀行により決定および最適化することができる。一実施態様では(
図2に示す)、全ての紙幣を超臨界流体洗浄チャンバー内で洗浄して、それから、それらが所定の適合性基準を満たすかどうかに応じて、再流通または破棄および/または細断のいずれかにソートしてよい。
図3に示すように、別の実施態様では、それらの汚れレベルが無ければ適合する紙幣を、超臨界流体洗浄チャンバーへ送ることができる。選択された紙幣をチャンバー内に置き、最適な圧力、温度、および持続時間で、特定の紙幣の額面金額、デザインおよび基材に超臨界CO
2を適用し、汚れ沈着を紙幣から取り除く。必要な、または最適な温度、圧力および持続時間は、超臨界流体中の液体(単数)または液体(複数)、ならびに、イオン流体または他の気体などの任意の添加に依存する。洗浄された紙幣は、それから、第二のソーティングシステムへ送ってよく、それは、超臨界流体で洗浄された紙幣を受領して適合性測定を行ない、公衆による再利用への準備がされているものを、うまく洗浄されなかったものから分類する。後者は、破棄および/または細断のために、ソートおよび分離してよい。
【0041】
ソートされた紙幣、またはそうでなければ本発明の洗浄処理に供される予定の紙幣を、保持構造またはトレイ(超臨界流体チャンバー内に配置してよく、そして、洗浄を完了するために超臨界流体がそれらの中および周りを流れることができるようにする)に置いてよい。超臨界流体チャンバー内での洗浄処理は、撹拌機構の使用によりさらに高めることができ、超臨界流体中に超音波を当ててよく、紙幣(またはそれらを保持する構造)を撹拌してよく、またはそうでなければ、超臨界流体を撹拌してよい。
【0042】
一実施態様では、紙幣は0.1mmの厚みを有し、0.5mmの距離で互いに分離してホルダーまたはトレイ内に保持することができる。この形状に基づき、約1m
3の容量を有する超臨界流体チャンバーは、1日あたり100万枚を超える紙幣を洗浄することができる。米国が年間で300億枚の紙幣を処理することを考慮に入れれば、約100m
3の容量を有する超臨界流体チャンバーは、最初に紙幣をソーティングしなくても、全ての処理される米国通貨を洗浄することができる。
【0043】
紙幣から剥がれる皮脂がチャンバーを覆うのを防止するため、または、紙幣上に再沈着するのを防ぐため、および、超臨界CO
2が溶液中の皮脂で飽和するのを防ぐため、捕捉物質を供給して超臨界CO
2から皮脂を除去してよい。多くの捕捉剤を用いて超臨界CO
2溶液から皮脂を除去し得るが、ヒュームドシリカを好ましくは用いる。捕捉物質は、超臨界流体の飽和を防ぐのを助け、汚染物質が付着し得る高表面積材料であり得る。ヒュームドシリカは、合成の非晶質のコロイド状二酸化ケイ素である。それは、1800℃にて水素−酸素炎中で、四塩化ケイ素などのクロロシラン類の蒸気加水分解により産生される。燃焼工程において、非晶質シリカの溶融球が形成される。ヒュームドシリカは、球状の形をした一次粒子からなる白いフワフワの粉末であり、直径が平均7〜40ナノメートルの範囲であり、グラムあたり400〜50平方メートルの表面積である。一次粒子は単独では存在せず;それらは集合体および凝集体を形成する。ヒュームドシリカの技術的特性は、一次粒子によってのみ決定されるのではなく、凝集体のサイズ分布にもよる。ヒュームドシリカは、明確に定義された凝集体サイズを有さない。平均一次粒子サイズが増大するにつれ、粒子サイズ分布はより広くなり、凝集体を形成する傾向は減少する[0]。
【0044】
洗浄処理の間、用いられる全てのCO
2は、好ましくは捕捉され、環境中へのその放出を防ぐ。捕捉されたCO
2は、後に続く洗浄処理での使用のためにさらに再生され、洗浄工程の全体的な環境影響を減らす。本発明の洗浄処理は、埋立または焼却により処分しなければならない何千トンもの細断通貨を減らすことにより、環境への影響を最小限化する。
【0045】
図4は、本発明の洗浄サイクルを示す。代替の実施態様では、洗浄システムは、金庫室内部の超臨界流体の状態がその中に保管されている紙幣を洗浄するのを補助することが可能な、現金保管金庫室内に提供してよい。これは、まだ処理されていない紙幣を用いて実行することができ、中央銀行による標準的な処理後に、再流通に適合する紙幣をより高い収率で生じる。そのような超臨界流体洗浄チャンバー金庫室は、商業銀行に設置することもでき、それらはこのステップを行うことによる利益を享受し得る。
【0046】
試験は、高圧超臨界流体チャンバーを用いて、紙幣について行なった。例示的なチャンバーを
図5に示し、それは、超臨界相中のCO
2とともにその内部に20ドル紙幣を示す。チャンバーは、1’’プレキシガラスポリマーで作られた覗き窓を有する、3/4’’アルミニウムで作られた。チャンバーは、磨き棒鋼AISI C1018(cold finished AISI C1018 steel bars)から構成されるネジ付きの上端および下端キャップを有する、冷間引抜の丸くて継ぎ目のない機械的チュービング(MT−1018)から構築した。組み立てたチャンバーは、6.75’’の直径およびおよそ12.75’’の長さを有した。直径は5.875’’であり、壁の厚みは0.4375’’のままであった。チャンバーは、パージングを満たすために、洗浄チャンバーの前のシリンダー壁に機械加工されたデュアル1/4(npt)ねじ継手を有し、そして、圧力モニターおよび安全放出バルブの取り付けのために、トップカバー中に第二のセットの1/4(npt)ねじ山を有した。製造部品を、0.0001’’〜0.0003’’の無電解ニッケルめっきで耐食のためにコーティングした。チャンバーは、25℃〜60℃の範囲の温度、および、最高で2000psiまでの圧力、30分〜12時間の持続時間で操作することができた。さらに、チャンバーを水性超音波浴に浸漬させて洗浄処理を高めることができた。
【0047】
本明細書に記載の試験は、全ての紙幣について同一の温度および圧力で行なった。手短には、試験は、紙幣のセキュリティ機能を損なわずに、皮脂、コーヒー、およびモーターオイルが紙幣から除去されることを示した。さらに、1つの試験では、1コロニーのミクロコッカス・ルテウス(皮膚細菌)、および234コロニーの酵母(真菌類)を有する米国1ドル紙幣は、本発明の方法を用いて洗浄および消毒され、紙幣上に残った病原体はなかった。
【0048】
本発明の洗浄処理の試験では、紙幣を、主に18%の遊離脂肪酸、37.8%の牛脂、および18.3%のラノリンからなる皮脂材料でコーティングした。コーティング後、紙幣を温度制御チャンバー内に90℃および65%相対的湿度で8日間置き、加速劣化および紙幣流通をシミュレートした。酸化発生後、皮脂は黄色がかった色になり(インデックスマッチング効果を伴う)、流通通貨に見られるものに似た汚れた紙幣を生じた。例えば、
図6は、皮脂層でのコーティングおよび酸化の前および後の新しい米国1ドル紙幣の同じ部分の対照比較を示す。
【0049】
紙幣が汚れた時点で、それらを50℃および1600psiで3〜8時間、超臨界CO
2を用いて洗浄した。特性化は、洗浄処理の前および後の、UV光の下で見られる様々な環境光セキュリティ機能の残存可能性、および機械可読機能、例えば磁気、および高レベルの隠れた機能、例えばENIGMA(De La Rue International)およびM(Giesekeand Devrient)を判定することを目的とした。皮脂の除去は、拡散反射スペクトルの測定により試験し、そして、UV特性は、キャリブレーション蛍光光度計の使用前後で特徴付けた。さらに、多孔性を社内開発された光ポロシメーターを用いて測定し、それは、米国紙幣の超臨界CO
2洗浄処理に起因する相対的変化の判定を可能にした。欧米および中国からのパルプ系紙幣、ならびに、印刷前に無機不透明層でコーティングされた二軸配向ポリプロピレン製のポリマー紙幣を、これらの方法を用いて全て試験した。
【0050】
およそ75%の綿繊維および25%の麻繊維であってUnited States Bureau of Engraving and Printingにより印刷された、紙製の米国紙幣に重点を置き、多くの紙幣について実験を行なった。洗浄処理の結果を、
図7Aおよび
図7Bに見ることができる。
図7Aは、皮脂処理前、皮脂処理後、および、50℃で8時間、超音波撹拌しながら超臨界CO
2で洗浄後の、米国1ドル紙幣の画像を示す。米国紙幣は、新品の場合であっても、黄色がかった色の紙幣をもたらす皮脂様の染みを含むことに注目することが重要である。したがって、米国紙幣の限界のために、洗浄は、あるがままの全ての皮脂を除去するには効果的に見えないかもしれない。
図7Bは、
図7Aに示した米国1ドル紙幣のそれぞれに関するスペクトルを示す。これらの結果に基づき、超臨界CO
2洗浄処理は、米国紙幣から酸化皮脂を効果的に除去した。その処理は、約20%の沈着皮脂層を除去し、そして、混合物のより大きな脂肪酸構成要素である可能性がある500nm〜650nmの領域における吸収の原因となる部分を優先的に除去すると考えられる。
【0051】
この方法での洗浄結果は、
図8のグラフにも見ることができる。このように、近紫外線および可視スペクトルを通過する紙幣の反射率が10%近く増大することから明らかなように、本明細書に記載の処理は、紙幣から相当な量の汚れを洗浄することが分かる。そのような洗浄は、紙幣の洗浄度および外観を良くするだけでなく、紙幣上のセキュリティ機能の機械可読性を高める。
【0052】
図9に見られるように、5ユーロ紙幣について示される結果全体は、洗浄処理の明らかな結果を示す。画像の左側は、超臨界CO
2を1600psiおよび55℃で8時間用いて洗浄した紙幣の一部を示す。洗浄前に、紙幣をベイ皮脂(Bey sebum)で覆って90℃および70%相対的湿度で9日間保管した。
【0053】
紙幣の超臨界洗浄の有効性を示す別の実証として、その処理をモーターオイル(例えば、Shell ASE 20)で汚れた紙幣について試験した。
図10Aは、モーターオイルで汚れた紙幣の洗浄前および洗浄後を示す。画像は、洗浄処理の有効性を明らかに示し、
図10Bのデータは、洗浄前および洗浄後の拡散反射スペクトルを示す。
【0054】
これらの洗浄技術を用いた、汚れた紙幣の再生に関する実現可能性の重要な点は、重要かつ費用のかかる、紙幣の公衆および機械可読のセキュリティ機能の完全性および利便性を維持しながら、酸化した油類および他の汚染物質を乾燥除去することである。全ての紙幣の光学的試験は、フレキソ印刷、グラビア、および、凹版および光学的可変インキを含み、洗浄後に印刷の品質またはコントラストにおける変化は見られないことを明らかにした。
【0055】
本発明の別の特徴は、紙幣上のセキュリティ機能が、洗浄処理によって全体的に影響を受けないか、または若干低減するかのいずれかであることである。とりわけ、磁気インキ、UV活性の蛍光の特性、ホログラム、金属化および脱金属化スレッド、および光学的可変インキは、全て、洗浄処理後に完全なままで機能性が残っている。
図11に示すように、米国20ドル紙幣中のセキュリティスレッドの蛍光は、全く影響しない。さらに、米国5ドル紙幣におけるスレッドの蛍光は、超臨界CO
2への極度の曝露後、わずかに減少する;しかしながら、性能は、視覚および機械検証プロセスを損なうほど劣化しない。
図12は、超臨界CO
2への曝露による洗浄前および洗浄後の両方における、様々な紙幣、すなわち、米国5ドル、米国10ドル、米国20ドル、米国50ドル、米国100ドル、および50ルピー紙幣における、セキュリティスレッドの蛍光を示す。
【0056】
放射性セキュリティスレッドに加えて、ポリマーのセキュリティ繊維(例えば多くの世界の紙幣に典型的に見られるもの)を試験した。例えば、ロシア・ルーブル中の繊維に対する洗浄処理の効果を調べた。
図13に示すデータは、ロシア100ルーブル紙幣におけるセキュリティ繊維に関する、洗浄処理に対する、UVにより励起される放射特性のロバスト性を示す。
【0057】
長UVにより励起される放射性セキュリティ機能もまた同様に、リソグラフィー、フレキソ印刷、グラビア、および凹版方法を用いて、紙幣上に印刷されることが多い。この例は、元、ユーロ、および英国ポンドである。これら(および他の通貨)における印刷された放射性特性を試験し、結果は、
図14に中国元に関するデータにより示すように、それらのほとんどが非常にロバストであることを示した。
【0058】
二色のUV放射性模様を有するUK紙幣での実験は、これらの顔料は部分的に分解されることが明らかとなった。熱曝露のみ用いた実験は、これは溶解の結果またはCO
2との反応のいずれかであり、フルオロフォアまたは蛍光体の熱分解ではないことを確証した。
図15は、50℃で8時間、超臨界CO
2に曝露した前後の模様および生じたスペクトル変化を示す。インキは洗浄処理に対して弾力性(resilient)があるように処方することができるが、既存のインキ系の一部はそうでないことが、中国元の例の弾力性(resilience)から明らかである。
【0059】
前に述べたように、機械可読のセキュリティ機能は、紙幣セキュリティにおいて重要な役割を果たす。最も一般的な機械可読セキュリティ機能は、磁気および静電容量に基づいていて、現金自動預入支払機から両替機および自動販売機に至るまで、単一の紙幣受領アプリケーションにおいて最も頻繁に使用されている。
【0060】
多くの紙幣、特に米国紙幣およびヨーロッパ紙幣で使用される磁気インキは、ロバストであり、50℃で最大で16時間の超臨界流体洗浄処理によって変化しないことが分かった。また、容量機械可読機能、例えばセキュリティスレッドで用いられるもの(金属化に依存する)も、最大で16時間の試験を乗り切った。
【0061】
公衆領域(public domain)においておよび商業銀行により用いられる機械可読機能に加えて、中央銀行は、1つまたは複数の隠された機能(典型的に、高スピードのソーター上で最高で40枚の紙幣/秒のスピードで解読される)を採用する。これらの機能は、中央銀行、執行当局、およびそれらを供給する国々にのみ知られている。これらの技術の1つは、Sigreid Otto of Geiseke and Devrientにより開発された、30年を超える古さのM機能である。このセキュリティ機能は、無機材料に基づくので、超臨界流体洗浄処理に対して弾力的(resilient)ことが分かった。大部分の放射性インキと同様に、そのロバスト性を維持する重要な点は、それがプリント形式である場合は、ベース材料の適切な選択にある。De La Rue Internationalからの、様々なEnigmaセキュリティ機能シグネチャを試験し、50℃で16時間の洗浄処理後にロバストであり変化しないことが分かった。
【0062】
紙幣の適合性を判定するのに用いられる別の重要なパラメーターは、軟弱さである。紙幣が流通に置かれている場合、折り畳み、取り扱い、および紙幣受領での使用による機械的摩耗は、機械的弾性の喪失をもたらし、紙幣を軟弱にさせる。この「軟弱さ(limpness)」は、機械的摩耗による紙幣の多孔性における変化に直接的に関係することが示されている。紙幣の多孔性は、使用に伴って増加し、より低い有効弾性定数として現れる。軟弱さは、音響および超音波反射を用いて、自動的なソーティング環境で測定される。
【0063】
紙幣の多孔性を測定して、超臨界CO
2および温度上昇の、基材に対する効果を判定した。超臨界CO
2は、繊維ネットワークの膨張を生じさせることができ(ヒステリシスを有し得る)、紙幣をより多孔質性にさせることができた。紙は非平衡ネットワークなので、穏やかな(relaxed)超臨界CO
2処理は、最初の状態と比較して小型化(compacted)され得ることも可能である。
【0064】
輸送種としてArを用いた自作の過渡ガス拡散装置を使用して、測定を行なった。Arガスを、紙幣の別側に光学的に検出した。このシステムは、電磁弁を用いてArの突発を作りだし、それは、ネットワークを通って拡散する際に検出された。実際には、遅延時間は、ボイド率−屈曲(totuousity)の結果の尺度であった。
図16Aおよび
図16Bは、それぞれ、流通している米国1ドル紙幣および流通していないものに関する過渡応答を示す。図は、流通しない紙幣は、より少ない多孔性を有し、黄色追跡(yellow trace)に示されるArパルスと比較して、シグナル低下およびより長い遅延の両方をもたらすことを示す。
図17Aおよび
図17Bは、超臨界CO
2洗浄の前および後の、流通しない紙幣のシグナルを示し、その処理が、紙幣の多孔性(したがって軟弱さ)に効果がないことを示す。
【0065】
また、本明細書に記載の紙幣の洗浄方法を用いて、他の材料(画像、ペイントテクスチャ、印刷、またはそれらの組み合わせを含んでよい)を、画像、ペイントテクスチャ、および印刷の完全性を損なわずに、洗浄および復元してもよい。材料は、復元が望まれるもの(制限されないが、文書およびアートワーク、例えば絵を含む)であってよい。紙幣を洗浄する方法と同様に、超臨界流体、例えばCO
2を用いて、物質(制限されないが、汚染物質、汚れ、皮脂、および病原体を含む)を、材料上にあり得る任意の画像、ペイントテクスチャ、または印刷を破損せずに、材料から取り除き得る。
【0066】
上記の実施態様および実施例は説明のためであり、本開示の意図または添付の特許請求の範囲から逸脱せずに、多くのバリエーションをそれらに導入することができる。例えば、本明細書中の異なる説明的および例示的な実施態様の要素および/または特徴は、本開示の範囲内で、互いに組み合わせてよく、および/または、互いに置換してよい。本発明の目的は、本発明を特徴付ける新規性の様々な特徴とともに、これに添付する特許請求の範囲において詳細事項とともに指摘され、本開示の一部分を形成する。本発明、その操作上の利点、および、その使用により達成される具体的な目的を、さらに理解するために、添付図面および本発明の好ましい実施態様が説明されている説明的事項を参照すべきである。
【国際調査報告】