【実施例】
【0065】
以下の例は本発明の実施形態を例示することを目的とし、これらの具体例に範囲を限定することを意図しない。当業者は、不要な実験なしで、成功の可能性をもって他の実施形態を開発するために、本明細書に提供される開示および教示を適用することができる。全てのそのような実施形態は、本発明の一部とみなされる。
【0066】
(例1)N,N−ジメチルグリシル−L−プロリル)−L−グルタミン酸の合成
以下の非限定例は、本発明の化合物、N,N−ジメチルグリシル−L−プロリル−L−グルタミン酸の合成を例示する
【化3】
【0067】
全ての出発材料および他の試薬は、Aldrichから購入した;BOC=tert−ブトキシカルボニル;Bn=ベンジル。
【0068】
BOC−L−プロリン−(β−ベンジル)−L−グルタミン酸ベンジルエステル
0℃まで冷却させたジクロロメタン(50ml)中のBOC−プロリン[Anderson GW and McGregor AC: J. Amer. Chem. Soc.: 79, 6810, 1994]の溶液(10mmol)に、トリエチルアミン(1.39ml、10mmol)およびクロロギ酸エチル(0.96ml、10mmol)を加えた。生じた混合液を、30分間0℃で撹拌した。次にジベンジル−L−グルタメート(10mmol)の溶液を加え、混合液を2時間0℃で撹拌し、次に室温まで温め、一晩撹拌した。水性炭酸水素ナトリウムおよびクエン酸(2moll
-1)で反応混合液を洗浄し、次に乾燥させ(MgSO
4)、減圧で濃縮し、BOC−L−プロリン−L−グルタミン酸ジベンジルエステル(5.0g、95%)を得た。
【0069】
L−プロリン−L−グルタミン酸ジベンジルエステル
BOC−L−グルタミル−L−プロリンジベンジルエステル(3.4g、10mmol)の溶液を0℃まで冷却し、室温で2時間、トリフルオロ酢酸(25ml)で処理した。減圧下で揮発性物質の除去の後、残留物をエーテルで粉砕して、L−プロリン−L−グルタミン酸ジベンジルエステルを得た。
【0070】
N,N−ジメチルグリシル−L−プロリル−L−グルタミン酸
ジクロロメタン(10ml)中のジシクロヘキシルカルボジイミド(10.3mmol)の溶液を、ジクロロメタン(30ml)中のL−プロリン−L−グルタミン酸ジベンジルエステル(10mmol)、N,N−ジメチルグリシン(10mmol)およびトリエチルアミン(10.3mmol)の撹拌および冷却された(0℃)溶液に加えた。混合液を0℃で一晩、その後室温で3時間撹拌した。濾過後、濾液を減圧下で蒸発させた。生じた粗製のジベンジルエステルを酢酸エチル(30ml)および10%パラジウム炭(0.5g)を含有するメタノール(30ml)の混合液に溶解し、その後水素の取り込みが終わるまで常温常圧で水素化した。濾過した溶液を蒸発させ、残留物を酢酸エチルから再結晶させて、トリペプチド誘導体を得た。
【0071】
実施例の方法に従って代替のアミノ酸またはそれらのアミドもしくはエステルを使用することにより、式1の他の化合物が生成することが理解されよう。
【0072】
(例2)グリシル−L−2−メチル−L−プロリル−L−グルタメートの合成
【化4】
【0073】
L−2−メチルプロリンおよびL−グルタミン酸ジベンジルエステルp−トルエンスルホネートはBachemから、N−ベンジルオキシカルボニル−グリシンはAcros Organicsから、ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィン酸塩化物(BoPCl、97%)はAldrich Chem.Co.から購入した。
【0074】
メチルL−2−メチルプロリネート塩酸塩2
窒素雰囲気下の−5℃において、塩化チオニル(5.84cm
3、80.1mmol)を、無水メタノール(30cm
3)中の(L)−2−メチルプロリン1(0.43g、3.33mmol)の撹拌された溶液に用心深く滴下添加した。反応混合液を還流下で24時間加熱し、生じた淡黄色溶液を真空下で濃縮して乾燥させた。残留物をメタノールとトルエンの1:1の混合液(30cm
3)に溶解し、次に濃縮乾燥させて残留性塩化チオニルを除去した。この手順をさらに2回繰り返し、吸湿性の分光的に純粋なオフホワイト固体として塩酸塩2(0.62g、104%)を得た:
融点127-131℃; [α]
D -59.8 (c CH
2Cl
2中0.24); ν
max (フィルム)/cm
-1 3579, 3398 br, 2885, 2717, 2681, 2623, 2507, 1743, 1584, 1447, 1432, 1374, 1317, 1294, 1237, 1212, 1172, 1123, 981, 894, 861および764; δ
H (300 MHz; CDCl
3; Me
4Si) 1.88 (3H, s, Proα-CH
3), 1.70-2.30 (3H, br m, Proβ-H
AH
BおよびProγ-H
2), 2.30-2.60 (1H, br m, Proβ-H
AH
B), 3.40-3.84 (2H, br m, Proδ-H
2), 3.87 (3H, s, CO
2CH
3), 9.43 (1H, br s, NH)および10.49 (1H, br s, HCl); δ
C (75 MHz; CDCl
3) 21.1 (CH
3, Proα-CH
3), 22.4 (CH
2, Proγ-C), 35.6 (CH
2, Proβ-C), 45.2 (CH
2, Proδ-C), 53.7 (CH
3, CO
2CH
3), 68.4 (四重線, Proα-C)および170.7 (四重線, CO); m/z (FAB+) 323.1745 [M
2.H
35Cl.H
+: (C
7H
13NO
2)
2.H
35Cl.Hは323.1738を必要とする]および325.1718 [M
2.H
37Cl.H
+: (C
7H
13NO
2)
2.H
37Cl.Hは325.1708を必要とする].
【0075】
N−ベンジルオキシカルボニル−グリシル−L−2−メチルプロリン5
窒素雰囲気下の0℃で、無水トリエチルアミン(0.45cm
3、3.23mmol)を塩化メチレン(16cm
3)中のメチルL−2−メチルプロリネート塩酸塩2(0.42g、2.34mmol)およびN−ベンジルオキシカルボニル−グリシン(98.5%)3(0.52g、2.45mmol)の混合液に滴下添加した。生じた溶液を20分間撹拌し、0℃の塩化メチレン(8cm
3)中の1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(0.56g、2.71mmol)の溶液を滴下添加し、反応混合液を室温まで温め、さらなる20時間撹拌した。生じた白い混合液をCelite(商標)パッドを通して濾過し、1,3−ジシクロヘキシル尿素を部分的に除去し、パッドを塩化メチレン(50cm
3)で洗浄した。濾液を10%塩酸水(50cm
3)および飽和炭酸水素ナトリウム水(50cm
3)で連続して洗浄し、乾燥させ(MgSO
4)、濾過し、真空下で濃縮し、乾燥させた。フラッシュカラムクロマトグラフィー(35g SiO
2;30〜70%酢酸エチル−ヘキサン;勾配溶出)による残留物のさらなる精製は、白色半固体として1,3-ジシクロヘキシル尿素を含有する暫定的メチルN−ベンジルオキシカルボニル−グリシル−L−2−メチルプロリネート4(0.56g)を得た:R
f0.65(EtOAc);m/z(EI+)334.1534(M
+。C
17H
22N
2O
5は334.1529を必要とする)および224(1,3−ジシクロヘキシル尿素)。
【0076】
1,4−ジオキサン(33cm
3)中の不純物を含むプロリネート4(0.56g、約1.67mmol)の溶液に、1M水酸化ナトリウム水(10cm
3、10mmol)を滴下添加し、混合液を室温で19時間撹拌した。塩化メチレン(100cm
3)を次に加え、飽和炭酸水素ナトリウム水(2×100cm
3)で有機層を抽出した。合わせた水層を塩酸酸(32%)で注意深く酸性化し、塩化メチレン(2×100cm
3)で抽出し、合わせた有機層を乾燥させ(MgSO
4)、濾過し、真空下で濃縮して乾燥させた。続いて生じた残留物(0.47g)のフラッシュカラムクロマトグラフィーによる精製(17g SiO
2;50%酢酸エチル−ヘキサンから30%メタノール−ジクロロメタン;勾配溶出)は、塩酸塩2からの2段階でN保護ジペプチド5(0.45g、60%)を白色フォームとして与えた。NMR分析により、ジペプチド5は専らトランス配向配座異性体であることが示された:
R
f 0.50 (20% MeOH - CH
2Cl
2); [α]
D -62.3 (c CH
2Cl
2中0.20); ν
max (フィルム)/cm
-1 3583, 3324 br, 2980, 2942, 1722, 1649, 1529, 1454, 1432, 1373, 1337, 1251, 1219, 1179, 1053, 1027, 965, 912, 735および698; δ
H (300 MHz; CDCl
3; Me
4Si) 1.59 (3H, s, Proα-CH
3), 1.89 (1H, 6本線, J 18.8, 6.2および6.2, Proβ-H
AH
B), 2.01 (2H, dtt, J 18.7, 6.2および6.2, Proγ-H
2), 2.25-2.40 (1H, m, Proβ-H
AH
B), 3.54 (2H, t, J 6.6, Proδ-H
2), 3.89 (1H, dd, J 17.1および3.9, Glyα-H
AH
B), 4.04 (1H, dd, J 17.2および5.3, Glyα-H
AH
B), 5.11 (2H, s, OCH
2Ph), 5.84 (1H, br t, J 4.2, N-H), 7.22-7.43 (5H, m, Ph)および7.89 (1H, br s, -COOH); δ
C (75 MHz; CDCl
3) 21.3 (CH
3, Proα-CH
3), 23.8 (CH
2, Proγ-C), 38.2 (CH
2, Proβ-C), 43.6 (CH
2, Glyα-C), 47.2 (CH
2, Proδ-C), 66.7 (四重線, Proα-C), 66.8 (CH
2, OCH
2Ph), 127.9 (CH, Ph), 127.9 (CH, Ph), 128.4, (CH, Ph), 136.4 (四重線, Ph), 156.4 (四重線, NCO
2), 167.5 (四重線, Gly-CON)および176.7 (四重線, CO); m/z (EI+) 320.1368 (M
+.C
16H
20N
2O
5は320.1372を必要とする).
【0077】
ジベンジルN−ベンジルオキシカルボニル−グリシル−L−2−メチルプロリル−L−グルタメート7
室温の窒素下で、トリエチルアミン(0.50cm
3、3.59mmol)を塩化メチレン(60cm
3)中のジペプチド5(0.36g、1.12mmol)およびL−グルタミン酸ジベンジルエステルp−トルエンスルホネート6(0.73g、1.46mmol)の溶液に滴下添加し、反応混合液を10分間撹拌した。ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィン酸塩化物(BoPCl、97%)(0.37g、1.41mmol)を加え、無色溶液を17時間撹拌した。塩化メチレン溶液を10%塩酸水(50cm
3)および飽和炭酸水素ナトリウム水(50cm
3)で連続して洗浄し、乾燥させ(MgSO
4)、濾過し、真空下で蒸発させ、乾燥させた。反復(2×)フラッシュカラムクロマトグラフィー(24g SiO
2;30〜70%酢酸エチル−ヘキサン;勾配溶出)による生じた残留物の精製は、完全に保護されたトリペプチド7(0.63g、89%)を無色の油として与えた。NMR分析により、トリペプチド7は専らトランス配向配座異性体であることが示された:
R
f 0.55 (EtOAc); [α]
D -41.9 (c CH
2Cl
2中0.29); ν
max (フィルム)/cm
-1 3583, 3353 br, 2950, 1734, 1660, 1521, 1499, 1454, 1429, 1257, 1214, 1188, 1166, 1051, 911, 737および697; δ
H (400 MHz; CDCl
3; Me
4Si) 1.64 (3H, s, Proα-CH
3), 1.72 (1H, dt, J 12.8, 7.6および7.6, Proβ-H
AH
B), 1.92 (2H, 5本線, J 6.7, Proγ-H
2), 2.04 (1H, 6本線, J 7.3 Gluβ-H
AH
B), 2.17-2.27 (1H, m, Gluβ-H
AH
B), 2.35-2.51 (3H, m, Proβ-H
AH
BおよびGluγ-H
2), 3.37-3.57 (2H, m, Proδ-H
2), 3.90 (1H, dd, J 17.0および3.6, Glyα-H
AH
B), 4.00 (1H, dd, J 17.1および5.1, Glyα-H
AH
B), 4.56 (1H, td, J 7.7および4.9, Gluα-H), 5.05-5.20 (6H, m, 3 x OCH
2Ph), 5.66-5.72 (1H, br m, Gly-NH), 7.26-7.37 (15H, m, 3 x Ph)および7.44 (1H, d, J 7.2, Glu-NH); δ
C (100 MHz; CDCl
3) 21.9 (CH
3, Proα-CH
3), 23.4 (CH
2, Proγ-C), 26.6 (CH
2, Gluβ-C), 30.1 (CH
2, Gluγ-C), 38.3 (CH
2, Proβ-C), 43.9 (CH
2, Glyα-C), 47.6 (CH
2, Proδ-C), 52.2 (CH, Gluα-C), 66.4 (CH
2, OCH
2Ph), 66.8 (CH
2, OCH
2Ph), 67.1 (CH
2, OCH
2Ph), 68.2 (四重線, Proα-C), 127.9 (CH, Ph), 128.0 (CH, Ph), 128.1, (CH, Ph), 128.2, (CH, Ph), 128.2, (CH, Ph), 128.3, (CH, Ph), 128.4, (CH, Ph), 128.5, (CH, Ph), 128.5, (CH, Ph), 135.2 (四重線, Ph), 135.7 (四重線, Ph), 136.4 (四重線, Ph), 156.1 (四重線, NCO
2), 167.3 (四重線, Gly-CO), 171.4 (四重線, CO), 172.9 (四重線, CO)および173.4 (四重線, CO); m/z (FAB+) 630.2809 (MH
+.C
35H
40N
3O
8は630.2815を必要とする).
【0078】
グリシル−L−2−メチルプロリル−L−グルタミン酸(G−2−MePE)
光から保護された水素雰囲気下の室温で、91:9のメタノール−水(22cm
3)中の保護されたトリペプチド7(0.63g、1.00mmol)および10重量%のパラジウム活性炭(0.32g、0.30mmol)の混合液を23時間撹拌した。Celite(商標)パッドを通して反応混合液を濾過し、75:25のメタノール−水(200cm
3)でパッドを洗浄した。減圧下で濾液を濃縮して乾燥させ、残留物を無水ジエチルエーテルで粉砕して、G−2−MePEおよび暫定的メチルアミン8(0.27g、86%)の38:1混合物を極めて吸湿性の白色固体として与えた。混合物の分析的逆相HPLC研究[Altech Econosphere C
18Siカラム、150×4.6mm、5μm;H
2O(0.05%TFA)で5分間洗い流し、その後MeCNを溶出剤として1ml/分の流量で25分間にわたる固定勾配;ダイオードアレイを使用して検出]は、それが、それぞれ207および197nmで13.64および14.44分間の滞留時間を有する2つの溶出ピークの38:1混合物であることを示した。
1H NMR分析により、G−2−MePEは配座異性体の73:27のトランス:シス混合物であることが示された(比は、それぞれ主および副配座異性体のGluα−H陽子に帰属された、δ4.18および3.71での二重の二重項および三重項の相対強度から推定された)
融点144℃
φ; [α]
D -52.4 (c H
2O中0.19); δ
H (300 MHz; D
2O; 内部MeOH) 1.52 (3H, s, Proα-CH
3), 1.81-2.21 (6H, m, Proβ-H
2, Proγ-H
2およびGluβ-H
2), 2.34 (1.46H, t, J 7.2, Gluγ-H
2), 2.42
*(0.54H, t, J 7.3, Gluγ-H
2), 3.50-3.66 (2H, m, Proδ-H
2), 3.71
* (0.27H, t, J 6.2, Gluα-H), 3.85 (1H, d, J 16.6, Glyα-H
AH
B), 3.92 (1H, d, J 16.6, Glyα-H
AH
B)および4.18 (0.73H, dd, J 8.4および4.7, Gluα-H); δ
C (75 MHz; D
2O; 内部MeOH) 21.8 (CH
3, Proα-CH
3), 25.0 (CH
2, Proγ-C), 27.8
* (CH
2, Gluβ-C), 28.8 (CH
2, Gluβ-C), 32.9 (CH
2, Gluγ-C), 40.8 (CH
2, Proβ-C), 42.7 (CH
2, Glyα-C), 49.5 (CH
2, Proδ-C), 56.0
* (CH, Gluα-C), 56.4 (CH, Gluα-C), 69.8 (四重線, Proα-C), 166.5 (四重線, Gly-CO), 177.3 (四重線, Pro-CON), 179.2 (四重線, Gluα-CO), 180.2
* (四重線, Gluγ-CO)および180.6 (四重線, Gluγ-CO); m/z (FAB+) 316.1508 (MH
+.C
13H
22N
3O
6は316.1509を必要とする).
【0079】
(例3)in vitro神経保護
異なる起源の神経細胞の神経変性へのそれらの影響を判定するために、GPE類似体の治療効果を一連の実験においてin vitroで検討した。本明細書に記載されるin vitro系は当技術分野で確立されており、神経変性障害を患っているヒトでの効果を含む、in vivoで観察される神経保護効果の予測となることが公知である。
【0080】
材料および方法
以下の実験プロトコルは、University of Auckland Animal Ethics Committeeによって承認されたガイドラインに従った。
代謝された細胞培養上清の採取のための皮質星状神経膠細胞培養の調製
出産後1日目のラットからの1つの皮質半球を使用し、4mlのDMEMに収集した。5mlガラスピペットおよび18ゲージ針を使用して粉砕を行った。100μm細胞ストレーナーによって細胞懸濁液をふるい、50mlのDMEMで洗浄した(250gで5分間の遠心分離)。沈降物を、20mlのDMEM+10%ウシ胎児血清に再懸濁した。懸濁液を2つの25cm
3フラスコ(フラスコ当たり10ml)に加え、10%CO
2の存在下において37℃で培養し、続いて週に2回培地を交換した。細胞が集密に到達したとき、それらをPBSで3回洗浄し、Neurobasal/B27に適合させ、さらに3日間インキュベートした。一時的保存のために、この上清を−80℃で冷凍した。
【0081】
ラットE18/E19胚からの線条体および皮質組織の調製
母獣をCO
2処理によって屠殺し、次に帝王切開のために準備した。手術の後、胚をそれらの羊膜腔から取り出し、断首した。頭部は、線状体のためにはDMEM/F12培地、皮質のためにはPBS+0.65%D(+)−グルコース中の氷上に置いた。
【0082】
細胞の線条体組織抽出手順および調製
DMEM/F12培地に、完全な脳を腹部側を上向きにして頭蓋から取り出した。立体顕微鏡下で線状体を両半球から切り裂き、線条体組織を氷上のファルコンチューブに入れた。次にP1000ピペッタを使用して、線条体組織を1mlの容量に粉砕した。交互排出の剪断力を用いて、ピペットチップ内で溶液を約15回上下に優しくピペット操作することによって組織を粉砕した。組織断片は、30秒以内にファルコンチューブの底に沈殿した。次に、解離した単細胞の懸濁液を含有する上清を、氷上の新しい無菌ファルコンチューブに移した。それらを過剰に粉砕することによって既に解離した細胞を過度に傷つけるのを避けるために、組織断片を再び粉砕した。第1の管の組織断片に1ミリリットルの氷冷DMEM/F12培地を加え、前の通りに粉砕した。組織断片を沈殿させ、上清を氷上の新しい無菌ファルコンチューブに取り出した。4℃で5分間、細胞を250gで遠心分離した。
線条体細胞の平板培養および培養
ポリ−L−リジン(0.1mg/ml)をコーティングした96ウェルプレート(内部の60ウェルのみ)に、Neurobasal/B27培地(Invitrogen)に細胞数200,000/cm
2の密度で、線条体細胞を平板培養した。5%CO
2の存在下、細胞を100%湿度下の37℃で培養した。1日目、3日目および6日目に培地を交換した。
細胞の皮質組織抽出手順および調製
PBS+0.65%D(+)−グルコース含有ペトリ皿に、腹部側を上側にして2つの皮質半球をスパチュラによって完全な脳から注意深く取り出した。組織を固定するために皮質の吻側部分(嗅球の近く)に鉗子を入れ、側面に矢状方向の切り傷を2つつけて、パラホルムおよび嗅内皮質を取り出した。後部末端で前頭方向の切り傷をつけて、海馬構成体を取り出した。視覚皮質の領域17/18を捕えるために、最後の前頭切り傷は最後の切り傷から2、3ミリメートル離した。
【0083】
皮質をPBS+0.65%(+)−グルコース中の氷上に置き、5分間350gで遠心分離した。上清を取り出し、トリプシン/EDTA(0.05%/0.53mM)を37℃で8分間加えた。等量のDMEMおよび10%ウシ胎児血清を加えることによって、反応を停止した。遠心分離および以降のNeurobasal/B27培地での2回の洗浄によって、上清を取り出した。
1mlのNeurobasal/B27培地中でガラス製のパスツールピペットで1回、その後22ゲージ針を有する1mlインスリンシリンジを使用して2回、細胞を粉砕した。細胞懸濁液を100μm細胞ストレーナーに通過させ、1mlのNeurobasal/B27培地によって洗い落とした。細胞を計数し、60μl当たり細胞数50,000に調整した。
【0084】
皮質細胞の平板培養および培養
96ウェルプレートを0.2mg/mlポリ−L−リジンでコーティングし、その後PBS中の2μg/mlラミニンでコーティングし、その後60μlの皮質星状神経膠細胞馴化培地を各ウェルに加えた。その後、60μlの皮質細胞懸濁液を加えた。100%湿度下の37℃で、細胞を10%CO
2の存在下で培養した。1日目に、培地を全て交換し(1:1のNeurobasal/B27および星状神経膠細胞馴化培地)、1μMシトシン−β−D−アラビノフラノシド(有糸分裂阻害剤)を添加した。2日目および5日目に、培地の2/3を交換した。
【0085】
P8動物からの小脳微小外植片:調製、培養および固定
2つの半球の積層小脳皮質をP8ラットから外植し、PBS+0.65%D(+)グルコース溶液中で小片に切り分け、23ゲージ針で粉砕し、その後押圧で125μm孔径の篩に通した。得られた微小外植片を2回遠心分離し(培地交換)(60g)、無血清BSA添加STARTV培地(Biochrom)に入れた。培養のために、100%湿度下の34℃で、5%CO
2の存在下で、35mmサイズの6ウェルプレートに置かれた0.1mg/mlのポリ−L−リジンでコーティングしたカバーガラスの上に、40μlの細胞懸濁液を3時間接着させた。その後、1mlのSTARTV培地を毒素および薬物と一緒に加えた。100%湿度下の5%CO
2の存在下での培養の2〜3日後に、培養を監視(評価)した。細胞計数分析のために、パラホルムアルデヒドの上昇濃度(0.4%、1.2%、3%および4%で各々3分間)で培養を固定し、その後PBSで洗浄した。
【0086】
in vitroでの神経細胞への毒素および薬物投与ならびにデータ分析
GPE類似体の神経保護効果を研究するために、神経細胞に毒性損傷を引き起こすためにオカダ酸を使用してin vitroで一連の実験を実行した。オカダ酸は、ニューロンへの損傷を引き起こすことが公知である、当技術分野で認知された毒素である。さらに、オカダ酸による損傷の後の神経細胞または神経細胞機能の回復は、他の毒素によって引き起こされる損傷からの回復の予測となると認識されている。
ニューロンに毒性の損傷を引き起こすために、1:100部の30nMまたは100nMの濃度のオカダ酸および0.5mMの3−ニトロプロピオン酸にューロンを曝露させた(小脳微小外植片のためにだけ)。皮質培養のためにin vitroで8日目(DIV)に、線条体培養のために9DIVに、GPE(1nM−1mM)またはG−2−MePE(1nM−1mM)を使用した。インキュベーション時間は、24時間であった。生存率は、マルチウェルプレートリーダーでの595nmでの比色エンドポイントMTTアッセイによって判定した。小脳微小外植片のために、最も高い細胞密度を有する4つのウィンドウ(0.65mm
2の視野)を選択し、神経突起増生を示す細胞を計数した。
【0087】
結果
GPE類似体G−2−MePEは、全ての3つの試験したin vitro系で、同等の神経保護効果を示した(
図12〜15)。
皮質培養は10μM濃度のGPE(
図12)またはG−2−MePE(10μM、
図13)に応答し、神経保護はそれぞれ64%および59%であった。
培養の他の2つのタイプは、G−2−MePEのより低い用量で神経保護を実証した(小脳微小外植片:
図14および線条体細胞:
図15)。線条体細胞は、G−2−MePEの1nM〜1mMの範囲内で神経保護を実証し(
図15)、出産後の小脳微小外植片は約1nM〜約100nMの用量範囲内でG−2−MePEによる神経保護を実証した(
図14)。したがって、G−2−MePEは神経保護剤であり、神経変性障害を患っているヒトで治療効果を示すことができると結論づける。培養でニューロンに直接に投与されるときG−2−MePEは神経を保護することができるので、罹患動物の脳に直接に投与されるとき、そのG−2−MePEはin vivoで有効性を示すことができる。
(例4)加齢ラットでの線条体コリン作動性ニューロンへのG−2−MePEの影響
G−2−MePEがコリン作動性ニューロンに影響を及ぼすことができるかどうか判定するために、加齢ラットを研究した。コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)は、コリン作動性神経のための神経伝達物質アセチルコリンの生合成に関与する酵素である。ChATの免疫検出は、組織に存在するコリン作動性神経の数を判定するのに使用することができることは周知である。存在するコリン作動性神経の数が、脳でのコリン作動性神経路の生理機能に関連していることも周知である。
この実験では、18ヶ月齢のラットの脳での、ChAT陽性ニューロンの数へのG−2−MePEの影響を試験した。
【0088】
方法
18ヶ月齢雄ラットは、5つの処置のうちの1つを受けた。対照群は基剤(食塩水だけ、n=4)で処置され、4群はG−2−MePEの単一用量で処置された。0.012(n=4)、0.12(n=5)、1.2(In=5)および12mg/kg(n=3)の用量が、それぞれ皮下に与えられた。薬物処置の3日後に過量のペントバルビタールでラットを屠殺した。正常食塩水および4%パラホルムアルデヒドで脳を潅流し、潅流固定剤で一晩固定した。組織が沈むまで、0.1M PBS(pH7.4)中の25%スクロースに脳を保存した。線状体の凍結冠状切片をマイクロトームで切り、4℃で0.1M PBS中の0.1%アジ化ナトリウムに保存した。遊離浮遊切片法を使用する染色によって、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)の免疫反応性を確立した。簡潔には、抗体を1%ヤギ血清で希釈した。免疫組織化学染色の前に、4℃で一晩、切片を0.1M PBS/Triton(商標)中の0.2%トリトンにインキュベートした。50%メタノール中の1%H
2O
2で、切片を20分間前処置した。次に、振盪機の上で2日間、4D中のウサギ(Rb)抗ChAT(1:5000)抗体(一次抗体)と切片をインキュベートした。PBS/Triton(商標)(15分×3d)を使用して切片を洗浄し、次に室温で一晩、ヤギ抗ウサギビオチン化二次抗体(1:1000)とインキュベートした。切片を洗浄し、ExtrAvidin(商標)(Sigma)(1:1000)で3時間、続いて3、3−ジアミノベンジンテトラヒドロ塩化物(DAB、0.05%)中のH
2O
2(0.01%)でインキュベートして、着色した反応生成物を生成した。これらの切片をクロムミョウバンでコーティングしたスライドの上にマウントし、乾燥させ、脱水してカバーをした。
光学顕微鏡および1mm2×1000格子を使用して、ChATに対応する特異的免疫反応性を示す両方の半球の線条体ニューロンを計数した。計数のために使用した線条体領域のサイズは、イメージ分析装置を使用して測定した。mm
2当たりのニューロン総数を、群の間で比較した。
データは対応のあるt検定を使用して解析し、平均±SEMで提示した。結果を、
図16に示す。
【0089】
結果
図16は、G−2−MePEで処置した動物の脳でChAT免疫陽性ニューロン数が増加したことを示す。老齢ラットの脳でChATのレベルを増加させることにおいて、G−2−MePEの投与が有効なことをこれは明らかに示す。ChATはコリン作動性神経伝達物質アセチルコリンの合成に関与する酵素であるので、G−2−MePEが中央齢ラットの脳でコリン作動性伝達物質の量を増加させることができると結論づける。
【0090】
(例5)ラットでの空間参照記憶へのG−2−MePEの影響
G−2−MePEがChATを増加させることができ、したがってコリン作動性神経機能を向上させる能力を有することを実証したので、次に、G−2−MePEが認知および/記憶の年齢関連の変化の処置で役立つことができるかどうか検討した。したがって、記憶のための確立された検査を使用して、ラットで一連の研究を実行した。
実験1:モリス水迷路検査
モリス水迷路検査は、ラットで空間参照記憶を評価するためのよく認知された検査である。
対象
12、8または4ヶ月齢の雄ウィスターラットを使用した。
【0091】
方法
試験環境および機器
モリス水迷路検査は、無毒の色素で黒に着色した水を25cmの深さまで満たした黒いプラスチックプールを使用して実行した。壁も均一な黒色に見えるように、プールは円形の黒い挿入片を有した。プールの中央で交差する2つの想像上の直角の線によって、プールを4つの四半部(東西南北)に分けた。水面下2cmにあって見えないように、金属プラットホームをプールの端から50cmのSE四半部の地理的中心に置いた。訓練を通して、プラットホームはその位置のままであった。
【0092】
プラットホームに進むためにラットが使用することができる余分の迷路手がかり(すなわち部屋内のプールを囲むオブジェクト)を、実験で使用した。特徴のあるポスターまたは絵を、壁に掛けた。部屋内の家具は、検査期間中移動しなかった。プールの配置は、実験者による各方面からのそれへの容易なアクセスを可能にした。検査の間は毎日、プールを空にし、25℃±2℃の水で再び満たした。
プールの最も遠い点(実験者の位置に対して)は「北」と命名し、他の方位点「東」、「南」および「西」はそれぞれプールの右端、底および左端の点であった。これらの点は、プールの外側にテープで印を付けた。
【0093】
習得期間(Acquisition Phase)
各群のラットは、水中のプラットホームまで泳ぐように訓練された。
ラットは、4日連続で1日当たり6回の60秒試験を受けた。試験は、4つの出発位置(北、南、東、西)の1つのプールの壁に面している水にラットを入れることから始まった。任意の所与の試験の出発位置が前の試験のそれと異なるように、出発位置の順序は疑似ランダム的に選択し、いかなる出発位置も毎日の訓練中に2度より多く使用されなかった。所与の日に全てのラットについて位置の同じ順序を使用したが、日によって異なった。ラットがプラットホームを発見したとき、または60秒経過したときのいずれか早いときに試験は終了した。試験は、ストップウォッチで計時した。ラットがプラットホームを発見した場合は、ラットをそこに15秒間留まらせた後に保持容器に移動させた。プラットホームを発見しなかった場合は、ラットを手動でそこに導き、15秒間プラットホームに置いた。試験と試験の間隔は60秒であった。試験間のいかなる干渉も最小にするために、保持容器にはカバーをした。ラットの毎日の検査の終了時に、動物をタオルで乾燥させ、被毛が乾燥するまで保持バケツ内の暖房ランプの下に置いた。プラットホームを見つけるために要した時間(潜伏時間、秒)を、各訓練試験の各ラットについて得た。所与の試験でラットがプラットホームを発見しなかった場合は、それらの潜伏時間スコアはその試験の最大長(60秒)であった。
【0094】
薬物処置
習得期間の完了から3日後に、薬物または基剤を1週または3週の間連続的に注入するために、ハロセン麻酔の下で皮下にミニ浸透ポンプ(Alzet)を植え込んだ。注入の完了時に、ポンプを取り出し、傷を再縫合した。
5つの処置群は以下の通りであった:
1.食塩水1週間(nは当初7であったが、体重が急減した1匹のラットは除外され、下垂体腫瘍があったことが後に見出された);
2.食塩水3週間(n=8);
3.G−2−MePE低用量(0.96mg/日)1週間(n=8);
4.G−2−MePE低用量(0.96mg/日)3週間(n=8);
5.G−2−MePE高用量(4.8mg/日)3週間(n=7)。
4ヶ月齢(n=3)および8ヶ月齢(n=9)の対照ラットは、薬物処置を受けなかった。いかなる薬物を受ける前に群の平均成績がほぼ同等であるように、習得中のそれらの水泳時間に基づいて12ヶ月齢ラットを5群のうちの1つに割り当てた。
【0095】
保持(参照記憶)期間
元のプラットホーム位置を記憶するか再学習するラットの能力を、元の訓練の4週後に検査した。これは、3週ポンプ注入の場合は最低7日間、1週ポンプ注入の場合は21日間、残留薬物が洗い流されたであろうことを意味する。保持検査手順は、習得のそれと同一であった。薬物動態学的研究は、皮下投与されたG−2−MePEの血漿中濃度がほぼ一次動態学的パターンでピークまで上昇した後低下し、血漿中半減期(t
1/2)は約30〜60分であったことを示す。したがって、保持研究が実施されるときまでに、G−2−MePE含有ミニポンプを取り出してから少なくとも7日後に、G−2−MePEのほぼ全ては動物の循環から除かれていた。
【0096】
データ分析
習得および保持期間の日ごとの試験ごとに各ラットの水泳潜伏時間を記録し、期間中の変化は分散分析を使用して検討した。
3週間基剤および3週間高用量G−2−MePEを、習得および保持で比較した。3週にわたって与えられたG−2−MePE高用量は、4週遅れの後に元の水迷路作業の保持を向上させた。
【0097】
結果
図17は、対照として若齢対照(4ヶ月)を使用した、高用量(4.8mg/日)G−2−MePE処置および低用量(0.96mg/日)処置加齢ラットおよび食塩水処置加齢ラットの間の比較を示す。G−2−MePEによる処置の前に、加齢(12ヶ月齢)群の間に差はなかった。対照的に、プラットホームに到達するのに4ヶ月齢動物はより高齢の動物より少ない時間を必要とした。食塩水またはG−2−MePEのいずれかが投与された、検査のなかった3週間の後、習得期間の検査4日目および保持期間の検査1日目に必要とされた同様の時間に示されるように、食塩水だけを受けた動物は、プラットホームに到達する能力の向上を示さなかった。対照的に、高用量または低用量のG−2−MePEによる処置を受けた動物は、食塩水処置対照と比較して、プラットホームに到達するために必要とした時間の減少に反映される通り、記憶が向上した。さらに、G−2−MePE処置動物は、4ヶ月齢若齢動物(
図17)および8ヶ月齢動物(データ示さず)と類似の成績を有した。したがって、G−2−MePEは、若齢ラットに対して記憶欠陥を前に示していた中央齢ラット動物で記憶を向上させることができると結論づける。さらに、再検査するときまでにG−2−MePEは循環から洗い流されていたので、G−2−MePEの記憶増強効果はコリン作動性ニューロンの機能の向上による可能性があったと結論づける。
【0098】
実験2:8アーム放射状迷路検査
元の実験の5ヶ月後に、今では17ヶ月齢のラットを、放射状アーム迷路で空間作業記憶について再検査した。
方法
機器
機器は、各々アームの先端に食糧カップを有する8本の同一のアームに連絡している中央のプラットホームからなる。
検査手順
放射状迷路手順の前から最後まで、少なくとも10日間、ラットに部分的に食糧を与えなかった。
所定位置から実験者がラットの行動を明瞭に観察することができるように、迷路を組み立て、配置した。実験者は、それらの配向により迷路のアームを時計回りの方向で1から8まで番号をつけた。
【0099】
前訓練(薬物前)
1日目に、ドアをアームに挿入し、各ラットを5分間、20個の食糧ペレットを置いた中央プラットホームに閉じ込めた。これは1日に1回、4日の間続き、ラットの全てはペレットの一部を消費するのが観察された。次の日、ラットを5分間全迷路を探索させた。全てのアームは各アームの先端に位置する食糧カップに2つの食糧ペレットを餌として置き、各アームの入口および中央部に1つのペレットを置いた。2つの連続セッションで8本未満のアームを探索したラットについては、これを少なくとも5日間、最高8日間繰り返した。全てのラットは、前訓練の9日目に最終セッションを受けた。この点で、9日のうちの8日に1本のアームだけに侵入した高齢ラットの1匹を、この手順の将来の検査から除外するべきであると決められた。さもなければ、それらが前訓練で実施した探索の量に関係なく全ラットが含まれた。高齢群の間で、最終前訓練セッションで侵入したアームの数に、統計的有意差はなかった(薬物:F(2,31)=0.44、p=0.65)。
【0100】
薬物処置
検査の30日前(前訓練の5日後)に、3週間連続的に薬物を注入するために、17匹の雄ウィスター系月齢ラットに皮下ミニ浸透ポンプ(Alzet)を植え込んだ(ハロセン麻酔下)。注入の完了時に、ポンプを取り出して、傷を再縫合した(9日間、流失させた)。
処置群は以下の通りであった:
1.若齢対照(4ヶ月齢)、n=6;
2.食塩水n=10;
3.G−2−MePE低用量(2.4mg/kg/日)n=13
4.G−2−MePE高用量(12.4mg/kg/日)n=5
食塩水および低用量群は、それらが1週間または3週間の処置を受けたか否かを問わず、この実験の第1相(ラットが12ヶ月齢のとき)の処置を受けた全てのラットで構成される。食塩水および高用量群の各々の1匹のラットは、皮膚腫瘍のために落とされた。低用量ラットの1匹は、前訓練することができなかったという事実のために、この実験に加わらなかった(下記を参照する)。
【0101】
検査(薬物後)
作業記憶検査は、流出の9日目に開始した。ラットは、12日間に10回の毎日の訓練セッションを受けた。食糧カップに餌を置いたことだけ以外は、手順は前訓練の場合と同じであった。ラットは、8本のアームのいずれかを訪れることによって最高16回の選択をするのに6分あった。選択とは、全ての4つの足がアーム内にあることと規定された。実験者は、ペンと紙でアーム侵入の順序を記録した。全ての8本のアームに侵入するか、16回選択するか、または6分が経過した後に、セッションを終了した。全ての8本のアームに侵入するのに実際にかかった時間を記録した。
【0102】
データ分析
ラットが前に訪れていないアームに侵入したとき、アーム選択が正しいとみなした。成績は、以下のパラメータに従って毎日分類した:
1)正しい選択(CC)8〜12は、選択した回数の総数で割り算した正しい選択の回数である。検査で全8本のアームの訪問に失敗した動物については、この比の分母は12とみなされる。
2)有効な正しい選択(WCC)8〜12は、作業記憶データが導き出される尺度である。CC8〜12について上で記載されるようにデータを収集したが、このパラメータについては、セッションで全8本のアームに侵入したラットだけが含まれた。
8本未満のアームに侵入したラットは、どのアームを前に訪問したかを記憶することができず、したがって、いかなる理由であれ迷路を探索しなかった動物に対して、検査を完了することができないほどの記憶障害を有していたので、作業記憶を確認するために使用されなかった。
【0103】
結果
CC8〜12:10日間にわたって全ての群による全般的な向上があった(F(9,324)=4.01、p<0.0001)が、有意な群効果(F(3,36)=1.19、ns)または群×日数相互作用(F(27,324)=1.05、ns)はなかった(データ示さず)
WCC8〜12:
図18Aは、10日間の検査にわたる、WCC8〜12スコアによる習得プロファイルを示す。有意な群(F(3,12)=4.27、p=0.029)および日数(F(9,108)=2.09、p=0.036)の効果があったが、これらの因子間の相互作用は有意でなかった(F(27,108)=1.06、ns)。高用量G−2Me−PE群は日数全体で最大の向上を示し、若齢対照が続いた。低用量G−2Me−PEと食塩水の間に、ごくわずかな差しかなかった。
【0104】
図18Bは、高用量G−2−MePE(n=5)に曝露させたラットは、基剤処置ラットと比較して、食糧ペレットを得るためにより多くの正しい侵入を行ったことを示す結果を示す(
*p<0.05、n=10)。この研究から、G−2−MePEは加齢ラットで空間記憶を向上させると結論づける。
(例6)G−2−MePEは、加齢ラットの脳で神経芽細胞増殖を増加させ、星状細胞増加症を低減させる
ニューロン変性はニューロン数の減少をもたらすことができるので、1つの望ましい治療目的は脳のニューロン数を増加させることである。ニューロンは、ニューロンより分化していない細胞である神経芽細胞から導かれるが、神経系統の中にある。一般的に、神経芽細胞は、明確な細胞体、神経突起(軸索および樹状突起)を有し、最終的に他のニューロン(例えば、シナプス)と接続する成熟した表現型に成熟させる条件に曝露させられる。したがって、神経芽細胞増殖の測定は、神経細胞増殖の周知の早期マーカーになっている。したがって、医薬用薬剤によって誘導される神経芽細胞の増殖の増加を検出することは、動物で神経細胞の成長を予測するための認められた方法である。ラットおよびヒトは神経細胞増殖で類似の機構を共有するので、ラットでの神経芽細胞増殖の変化のin vivo検出は、ヒトでの類似の影響の予測となる。
認知機能障害の1つの組織学的相関物は、罹患動物の脳での星状細胞数の増加であることも知られている。したがって、神経芽細胞増殖を刺激すること、および星状細胞増加症を処置することにおいてG−2−MePEが役立つことができるかどうか判定するために、加齢ラットで一連の研究を実行した。
【0105】
方法および材料
免疫組織化学
これらの研究を実行するために、組織を固定してパラフィンに包埋し、標準的な方法を使用して切片を得た。海馬のレベルを含有する冠状切片(6μm)を切り、染色のためにクロムミョウバンでコーティングされたスライドの上にマウントした。切片をキシレンで脱パラフィンし、一連のエタノールで脱水し、0.1Mリン酸緩衝食塩水(PBS)中でインキュベートした。
【0106】
それぞれアポトーシスおよび増殖を経ている反応性グリア細胞および細胞に印を付けるために、グリア原線維酸性タンパク質(GFAP)および増殖細胞核抗原(PCNA)に対する一次抗体を使用した。抗原アンマスキング(カスパーゼ−3およびPCNA染色)のために、10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)中で切片を高パワーで1分間加熱した。内因性ペルオキシダーゼ活性をクエンチするために、50%メタノール中の1%H
2O
2で30分間全切片を前処理した。次に、非特異的なバックグラウンド染色をブロックするために、PBS中の1.5%の規定ウマ血清または2.5%の規定ヒツジ血清を室温で1時間適用した。次に切片を以下の一次抗体とインキュベートした:モノクローナルマウス抗GFAP抗体(Sigma、St.Louis、MO、USA、1:500に希釈);マウス抗PCNA抗体(DAKA、A/S、Denmark、1:100に希釈)。4℃で2日間の一次抗体とのインキュベーションの後(一晩インキュベートしたPCNA染色を除く)、切片をビオチン化ウマ抗マウスまたはヤギ抗ウサギ二次抗体(1:200、Sigma)と4℃で一晩インキュベートした。使用の1時間前に調製したExtrAvidin(商標)(Sigma、1:200)を室温で3時間適用し、次に0.05%3,3−ジアミノベンジジン(DAB)およびPBS中で反応させて褐色の反応生成物を生成した。切片を一連のアルコールからキシレンで脱水し、マウント剤でカバーガラスをかぶせた。
若齢(4ヶ月齢)、中央齢(9ヶ月齢)および老齢のラット(18ヶ月齢)の対照およびG−2−MePE処置群からとられた脳試料で、免疫組織化学的染色を実施した。
インキュベーション溶液から一次抗体が除かれたこと以外は、対照切片を同様に処理した。PCNA陽性細胞の数を脳室下ゾーンで数え、GFAP陽性細胞は大脳皮質で評価した。
【0107】
実験1:G−2−MePEは、加齢ラットの脳で神経芽細胞増殖を刺激する
脳室下ゾーン(SVZ)および歯状回(DG)は、成人の神経形成を受け入れる2つの脳領域である。SVZおよびDGでの神経形成の低減は、加齢に伴う記憶減退と相関することが多く報告されており、記憶向上への神経成長因子および上皮成長因子の影響は、SVZの前駆体増殖の増加によることが報告されている。細胞増殖のマーカーとしてPCNAを使用して、PCNAに陽性の細胞を計数することによって、SVZでの細胞増殖を調べた。選択された動物では、神経細胞特異的薬剤であるダブルコルチンで染色された通り、増殖細胞の少なくともいくつかは神経芽細胞と同定された。
18ヶ月齢雄ラットを、G2−MePEの単一用量(0、0.012、0.12、1.2、12mg/kgの用量)で腹腔内処置した。処置の3日後に脳を収集し、PCNAおよびGFAPの免疫組織化学的染色を実施した。PCNA陽性細胞をSVZで計数し、次に計数のために使用した心室壁の長さに従って細胞数を細胞数/mmとして平均した(
図19A)。最高用量(12mg/kg、n=5)で処置した群は、基剤処置群と比較してPCNA陽性細胞数の有意な増加を示した(
*p<0.05、n=7)。データは、神経形成の向上へのG−2PEの用量依存的影響を示した。
【0108】
蛍光二重標識は、PCNAと神経芽細胞のマーカーダブルコルチンとの共存を示した。
図19Bは、基剤処置ラット(左パネル)と比較した、G−2−MePEの最高用量(右パネル)で処置したラットでのPCNA(緑、×20)およびダブルコルチン(赤、×20)の増加を示すラットの脳の一部の写真である。2つのマーカーが共存することが明らかになった(
図19B、写真、×100)。G−2−MePEは神経芽細胞を含む脳細胞の増殖を刺激することができると、我々は結論づける。神経芽細胞はニューロンの前駆体細胞であるので、G−2−MePEは本発明の化合物で処置した動物の脳でニューロンの集団を増加させることができるとさらに結論づける。
【0109】
実験2:G−2−MePEは、中央齢ラットの脳のSVZで、神経芽細胞増殖を刺激する
G−2−MePE(1.2mg/kg)の影響を、9ヶ月齢の中央齢ラットで研究した。G−2−MePE(1.2mg/kg)または基剤を、腹腔内に(i.p.)投与した。PCNA免疫組織化学的染色を使用して、処置の3日後にSVZでの細胞増殖を調べた。
図19Cは、G−2−MePEの処置の後の、PCNA陽性細胞数の有意な増加を示す(
**p<0.005、n=4)。PCNAで染色した増殖細胞のいくつかは神経芽細胞と同定された(上の実験1を参照)ので、G−2−MePEは中央齢ラットの脳で神経芽細胞増殖を刺激することができると結論づける。
【0110】
実験3:加齢脳での星状細胞増加症
高齢での星状神経膠細胞の機能不全は炎症を誘発する可能性があり、さらなるニューロン変性につながることを益々多くの証拠が示唆している。活性化星状神経膠細胞の上方制御はかなり報告されており、おそらく抑圧された内因性神経形成を通した、加齢に伴う記憶減退と密接に関連する。
反応性星状神経膠細胞のマーカーとしてGFAPを使用して、G−2MePまたは基剤で処置した加齢ラットの海馬のCA4小領域でGFAP陽性細胞を計数した。加齢動物の海馬(
図20A)および大脳皮質で、反応性星状神経膠細胞の有意な増加を見出した。星状神経膠細胞のいくつかは、若齢(
*p<0.01)および中央齢ラット(
*#p<0.01)と比較して、老齢ラットでの毛細管と関連した(
図20Bの写真、矢印)。
脈管構成要素の一部として、GFAP陽性の星状神経膠細胞は血管形成で役割も果たし(
図20B、矢印)、脳での炎症性応答にも寄与する。したがって、老齢の脳で見られる上昇したGFAP星状神経膠細胞は、脳変性の慢性期を示すことができる。
【0111】
実験4:G−2−MePEは、老齢の脳で星状細胞増加症を低減する
老齢ラットの海馬のCA4小領域で、星状細胞増加症へのG−2−MePEの影響も評価した。18ヶ月齢雄ウィスターラットを、以下の通りに5つの処置群に割り当てた:基剤、0.12mg/kg/日、0.12、1.2および12mg/kg/日(各々n=6)。
コンピュータプログラム(Discovery 1)を使用して、GFAP陽性細胞を計数した。結果を、
図20Cおよび20Dに示す。G−2−MePEを腹腔内に投与し、GFAP陽性細胞の数を注射の3日後に調べた。視覚的スコアリング系(0=星状神経膠細胞なし、1=少数の星状神経膠細胞、2<50%、3>50%)を使用して、5つの異なる皮質領域で星状神経膠細胞の数を推定した。
G−2−MePEによる処置は、特に0.12および12mg/kgの用量で処置した群で、基剤処置群と比較して海馬のCA4領域で反応性星状神経膠細胞数を低減した(
図20C;
*p<0.05)。類似の効果が、大脳皮質でのG−2−MePEについて観察された(
図20D)。
【0112】
通例、ラット脳の皮質の深葉に位置するGFAP陽性の星状神経膠細胞はわずかしかなく、存在するものは通常白質トラックと密接に関連している。しかし、GFAP陽性の細胞が、血管と密接に関連して皮質の中間層にあることが見出された。
本明細書で提供される研究の結果は、加齢が脳でのいくつかの変化に関連していることを示す。第1に、年齢依存性の記憶喪失および認知機能の喪失がある。第2には、年齢依存性の星状神経膠細胞の増加がある。ラットでのこれらの知見の全ては互いと、ならびに実験動物およびヒトでの認知機能および記憶の維持におけるコリン作動性神経の公知の役割と一貫している。
【0113】
予想外なことに、老齢動物に送達されたGPE類似体G−2−MePEは、上の年齢関連の変化の全てを少なくとも部分的に逆戻りさせることを見出した。第1に、G−2−MePEは、神経毒オカダ酸または3−NPに曝露させた動物の脳細胞に存在するChATの量を増加させる。G−2−MePEのこの影響は、周知の神経保護薬剤GPEのそれを模倣した。これらの影響は、皮質細胞、小脳細胞および線条体細胞で見られ、これらの影響が脳の異なる部分に広範囲にわたることを示す。第2には、G−2−MePEは線状体でChATを増加させ、コリン作動性ニューロンがG−2−MePEに感受性であることを示す。これらの観察された化学的および組織学的変化は、行動の変化と平行していた。G−2−MePEで処置した老齢動物は、基剤処置対照と比較して2つの周知の検査系で記憶の向上を示した。次に、G−2−MePEは加齢脳で神経芽細胞増殖を誘導した。最後に、G−2−MePEによる処置は、加齢脳の海馬および皮質で観察された星状細胞増加症の増加を逆戻りさせた。本明細書で引用した研究の多くでは、検査への薬物送達の停止から十分な時間が経過し、存在する薬物はほとんどなかった可能性があることから、G−2−MePEの影響は、薬剤の急性効果によるものではなかった。
【0114】
(例7)GPEおよびG−2−MePEの薬物動態の比較
これらの研究の目的は、標準的な薬物動態学的方法を使用して、動物でGPEおよびG−2−MePEの薬物動態プロファイルをin vivoで比較することであった。
【0115】
方法
GPEおよびG2MePEの薬物動態を判定するために、180〜240gの重さの成体雄ウィスターラットを使用した。静脈内ボーラス注射および血液試料採取を促進するために、実験の3日前にハロセン麻酔の下で全てのラットに留置頸静脈カニューレを外科的に植え込んだ。6匹のラットの群に、0.1Mコハク酸緩衝液(pH6.5)に溶解した30mg/kg GPEまたは10mg/kg G2MePEのいずれかの単一の静脈内ボーラス注射を与えた。GPEまたはG2MePEの注射の10および0分前、ならびにGPEまたはG2MePEの注射の1、2、4、8、16、32、64および128分後に、哺乳動物組織のためのSigmaプロテアーゼ阻害剤カクテルを含有するヘパリン処置した管に、血液試料(各約220μl)を収集した。4℃で15分間、3000gで試料を遠心分離し、血漿を取り出し、抽出および放射線免疫検定法(「RIA」)または逆相HPLCによるアッセイまで−80℃で保存した。使用したRIAおよびHPLC方法は従来通りであった。
単一の静脈内ボーラス注射の後の薬物排泄は、式C=C
0e
-ktに従う一次過程であることが見出され、式中、Cは任意の時点での薬物濃度を表し、C
0は時間(t)がゼロに等しいときの濃度であり、kは1時間当たりの濃度の単位で表した一次速度定数である。kおよび半減期(t
1/2)は、Log C=−kt/2.3+log C
0のように、血漿中濃度対時間の片対数グラフの排泄段階での、線形回帰直線の勾配から計算された。結果は、平均±標準誤差で表した。
【0116】
結果
図21は、静脈内(i.v.)注射の後のGPEおよびG−2−MePEのin vivo血漿中濃度のグラフを示す。黒四角は各時点でのGPEの濃度を表し、黒三角は各時点でのG−2−MePEの濃度を表す。
GPEおよびG−2−MePEの血漿中濃度は、注射から1分間以内に著しく増加した。30mg/kgのGPEの注射の後、40.0±10.8mg/mlのピーク濃度が観察された。GPEの血漿中濃度は、その後一次動態学的過程に従って速やかに低下した。GPEの一次速度定数は0.15±0.014ng/ml/分であると見出され、t
1/2は4.95±0.43分であると見出され、血漿からのGPEの推定クリアランスは137.5±12.3ml/時間であると見出された。
【0117】
10mg/kgのG−2−MePEの注射の後、ピーク濃度は191±16.1mg/mlであると見出された。G−2−MePEの血漿中濃度は、その後一次動態学的過程に従って低下した。G−2−MePEの一次速度定数は0.033±0.001ng/ml/分であると見出され、t
1/2は20.7±0.35分であると見出され、推定クリアランスは30.1±0.5ml/時間であると見出された。
注射の後、送達されたG−2−MePEの用量(10mg/kg)と比較して送達されたGPEのより高い用量(30mg/kg)にもかかわらず、G−2−MePEの最大血漿中濃度はGPEの最大血漿中濃度より約4.8倍高かった。
G−2−MePEのより低い送達用量にもかかわらず、125分未満の全ての時点でGPEよりG−2−MePEの血漿中濃度が高いとの知見は、GPEの公知の血漿中濃度に基づくと全く予想外であった。G−2−MePEのt
1/2は、GPEのt
1/2より4倍以上長かった。
【0118】
GPEのそれと比較したG−2−MePEの半減期の増加に関する知見は、GPEのt
1/2に基づくと完全に予想外であった。G−2−MePEのt
1/2の増加は、G−2−MePEが循環からより遅く排除されることを意味する。この知見は、GPEのクリアランス速度に基づくと全く予想外である。
【0119】
これらの研究から、G−2−MePEは、ヒトを含む動物の脳で加齢の有害作用の多くを逆戻りさせることが可能である、強力な薬剤であると結論づける。したがって、G−2−MePEを含むGPE類似体は、神経保護、記憶の向上、神経芽細胞増殖の増加および星状細胞増加症の低減を含む望ましい治療効果をもたらすことができ、ヒトで加齢の有害作用を逆戻りさせるか軽減することにおいて役立つことができる。
本発明を特定の好ましい実施形態に関して記載したが、本出願に記載される状態のために本発明の化合物の同等物を調製し、投与することができることは、その知識およびこの開示に関係がある分野の当業者に明らかになり、全てのそのような同等物は、本出願の請求項の範囲に含まれるものとする。
【0120】
(例8)レット症候群の処置I
レット症候群(RTT)モデルにおける寿命および長期増強へのG−2−MePEの影響
G−2−MePE処置がレット症候群の発達および進行に影響を与えることができるかどうかをその障害のマウスモデルで判定するために、ヘミ接合性MeCP2(1lox)雄マウスを使用した。MeCP2ノックアウト(MeCP2−KO)マウス系は、ヒト障害、レット症候群に特徴的な生理的および神経学的異常の範囲および重症度を厳密に模倣するとして、当技術分野で広く認められる。
【0121】
全ての実験はUniversity of Texas Southwestern Medical Centerで実施され、University of Texas Southwestern Medical Center Animal Care and Use Committeeに承認された。G−2−MePEはAlbany Molecular Research Inc.(Albany、NY)によって合成され、Neuren Pharmaceuticals Limitedによって供給された。
【0122】
方法
処置
ヘミ接合性MeCP2(1lox)雄マウスを、20mg/kg/日のG−2−MePEまたは食塩水で処置した(0.01%BSA、生存実験では1群当たりn=15、LTP実験ではn=20)。処置は、生後4週から腹腔内に投与した。生存実験のために、処置は実験期間を通して維持された。LTP実験のために、マウスを9週目まで処置し、その時点で切片調製のために使用した。
生存
MeCP2欠損変異マウスは、約4〜6週齢でRTT症状を起こし、10〜12週で死ぬ(Chen et al., 2001. Nat Genet 27: 327-331)。野生型対照およびMeCP2欠損動物の生存を、基剤処置およびG−2−MePE処置群で比較した。生存は処置の開始(4週)から毎週測定し、各毎週の区間(x軸)に生存したマウスの割合(y軸)を示すために、カプランマイアー生存曲線を生成するために使用した(
図22を参照)。
【0123】
長期増強(電気生理)
MeCP2欠損マウスは、機能的および超微細構造的シナプスの機能不全、海馬依存性記憶および海馬長期増強(LTP)のかなりの障害を患うことが以前に報告されている(Moretti et al. The Journal of Neuroscience. 2006. 26(1):319-327)。RTTモデルでシナプスの機能へのG−2−MePE処置の影響を検査するために、基剤およびG−2−MePEで処置した9週齢の動物で海馬LTPを比較した。そうするために、食塩水またはG−2−MePEで処置したMeCP2欠損マウスからの海馬の切片のニューロンで、ベースライン電位の%としてのfEPSPの勾配を測定した(
図23)。
【0124】
結果
図22は、G−2−MePE処置がMeCP2欠損マウスの生存を増加させたことを示す。野生型マウス(上の線)は対照動物であり、したがってそれらの生存は各時点で100%であった。食塩水だけで処置したMeCP2欠損マウスは、野生型マウスより非常に速やかに死に(点線)、その結果、約11週までにMeCP欠損マウスのわずか50%が生存した。しかし、驚くほど対照的に、G−2−MePEで処置したMeCP2欠損マウスは、食塩水処置マウスより実質的に長く生存することを予想外に見出した。約15週後に、動物の50%は生存した。初期に提示されたデータは、MeCP2マウスが生存に関して影響を受け、その結果、未処置の場合には動物の50パーセントが11週までに死んでいたことを示した。G−2−MePE処置動物は向上した生存を示し、50パーセントが16週で死んでいた。この研究では、寿命データは一貫しない獣医学的処置によって損なわれ、その結果、マウスは一貫してそれらの歯を削らなかったが、これは、実験の開始時に認知されなかったmecp2マウスの必要条件である。結果は、レット症候群に無関係な早期の動物死が観察された(特に対照群で)。データの再調査は、対照群を再実行したときに、群での差がより小さいとはいえ、G−2−MePEの効果が持続することを示した(50パーセント死までの時間は対照で13.5週、G−2−MePE処置動物では16週)。mecp2マウスのG−2−MePE処置によって、安全性の懸念は提議されなかった。
これらの結果は、G−2−MePEがMeCP2欠損マウスの生存を実質的に増加させることができることを実証する。MeCP2欠損マウスはレット症候群のヒトでの病理および治療効力の予測となるので、G−2−MePEがレット症候群を有するヒトの寿命を長くすることができると結論づける。
【0125】
図23は、食塩水処置した変異マウスと比較してMeCP2欠損動物でfEPSP勾配によって測定したときに、G−2−MePE処置が海馬の長期増強(LTP)を増加させたかどうか判定するための研究の結果を示す。
図23に示すように、予想外にも、G−2−MePEは、食塩水だけで処置した動物と比較してMeCP2欠損マウスでfESPSの勾配を増加させることを見出した。
これらの結果は、MeCP2欠損マウスのin vivo処置でG−2−MePEが役立つことができることを実証した。MeCP2欠損マウスはレット症候群のヒトでの病理および治療効力の予測となるので、G−2−MePEがレット症候群を有するヒトのための有効な療法となることができると結論づける。
(例9)G−2−MePEは樹状突起の分枝を向上させ、樹状突起棘を長くする
樹状突起へのG−2−MePE処置の影響を評価する。トランスジェニックmecp2ノックアウトマウス(n=15〜20)に、G−2−MePEを腹腔内に1日1回、20mg/kgの用量で投与した。屠殺後、下の表1に従って、9週後にゴルジ染色の後に樹状突起棘密度、棘の長さおよび分枝を調べた:
【0126】
【表1】
【0127】
樹状突起の長さは、食塩水(3匹の別々のマウスから3つのニューロンを分析した、n=9)またはG−2−MePE(第4週から20mg/kg i.p.1/日;3匹の別々のマウスから3つのニューロンを分析した、n=9)で処置した9週齢雄mecp2無突然変異マウスからの代表的な海馬CA1ニューロンの細胞体からの距離によって評価した。
G−2−MePEは樹状突起の分枝を向上させ、樹状突起棘を長くすることが観察された。
図24は、この研究の結果を表す。μmで表した樹状突起の長さ(縦軸)を、細胞体からの距離(μm;水平軸)に対してプロットする。細胞体の近くに樹状突起がある細胞の場合、樹状突起は短かった。しかし、細胞体からの距離が増加するに従って、食塩水処置(白四角)は、細胞体から70μmの距離の最大値まで増加し、細胞体からさらに離れた距離に低下した樹状突起長を生成した。対照的に、G−2MePE(黒四角)による処置は、細胞体からの距離の範囲の多くにわたって、より長い樹状突起を生成した。
【0128】
(例10)マウスでのレット症候群の処置II
マウスの交配および遺伝子タイピング
MeCP2生殖細胞系無対立遺伝子マウスを使用する(Chen et al., 2001)。遺伝子タイピングは、Chen et al.(Chen et al., 2001)の通りに実施する。
G−2−MePE処置
生存測定、夜間の活動分析およびイムノブロット分析のために、G−2−MePE(Albany Molecular Research Inc.(Albany、NY)によって合成され、Neuren Pharmaceuticals Limitedによって提供された)を腹腔内注射(20mg/kg、基剤=食塩水、0.01%BSA)により毎日投与する。処置はP15から始まり、実験中維持される。細胞内生理実験のために、P15からそれらが急性切片調製のために使用されるP28〜P32まで、2週の間毎日マウスをG−2−MePE(20mg/kg体重、基剤=食塩水、0.01%BSA)で注射する。光学式画像化実験のために、まぶた縫合の日から画像化の日まで毎日マウスをG−2−MePE(20mg/kg体重、基剤=食塩水、0.01%BSA)で注射する。
【0129】
切片生理学調製
ビブラトームを使用して<4℃ ACSFで、知覚運動皮質当たりの冠状切片(300μm厚)を切る。スライシングから20分間は37℃で、実験の残り期間中は室温で、切片をインキュベートする。切片をWarnerチャンバーに移し、層5に位置する視覚的に同定された錘体神経から記録をとる。126mM NaCl、25mM NaHCO3、1mM NaHPO4、3mM KCl、2mM MgSO4、2mM CaCl2および14mMブドウ糖を含有する人工脳脊髄液(ACSF)を315〜320mOsmおよびpH7.4に調整し、95%O2/5%CO2で泡立たせる。細胞内ピペット溶液は、100mMグルコン酸カリウム、20mM KCl、10mM HEPES、4mM MgATP、0.3mM NaGTPおよび10mM Na−ホスホクレアチンを含有した。
【0130】
細胞内完全細胞記録
Sutter P−80プラー(Sutter Instruments)を使用してホウ珪酸塩ピペット(3〜5MΩ、WPI)を抜く。赤外線DICオプティクス(Zeiss)を有するAchroplan 40×水浸レンズで細胞を可視化し、ビデオモニタに投影される赤外線カメラ(Hamamatsu)で検出する。BNC−2110コネクタブロックおよびMシリーズ二重チャネル収集カード(National Instruments)に接続されているMulticlamp 700B増幅器(Axon Instruments)を使用して、Matlab(Mathworks、Natick、Mass.)に記述されているカスタム収集およびリアルタイム解析ソフトウェアによって、実験を進めた。ギガシールおよび破裂を達成し、低レベルのリークおよび直列抵抗について完全細胞記録を連続的に検証する。各記録のために、入力および直列抵抗を測定するために5mV試験パルスを約10回電圧固定で加える。その後、誘発ファイヤリング速度および細胞興奮性を数量化するために、電流固定で約10回のパルス(500ミリ秒、10pAインクリメントで40〜140pA)を加える。アクセス抵抗性、リークおよび細胞内在性の興奮性が、群を横断して一貫していることを検証する。最後に、−60mVの電圧固定下の自発的なEPSCを10kHzでサンプリングし、低域通過を1kHzでフィルタリングする。Matlabに記述されたカスタムソフトウェアパッケージを使用して分析を実施し、全ての事象は自動化された閾値によって検出され、各事象について実験者によって個々に盲目的に検証される。
【0131】
ゴルジ染色
P28マウスからの試料(<1cm)を、10%ホルマリンおよび3%重クロム酸カリで24時間固定する。次に、室温の暗所の2%硝酸銀に2日間、組織を移す。次に、これらの試料からの切片を50μm厚で切り、蒸留水に入れる。運動皮質に対応する切片をスライドの上にマウントし、10分間空気乾燥させ、次に95%アルコール、100%アルコールおよびキシレンの逐次的なすすぎを通して脱水し、次にカバーガラスで密封した。Zeiss Pascal 5 Exciter共焦点顕微鏡を使用して、10×(完全細胞)および100×(棘画像化)で画像を取得する。
【0132】
内在性シグナルの光学式画像化
この実験のために、成体の(>P60)野生型(SVEVまたはBL6)およびMeCP2(+/−)突然変異雌(BL6)を使用する。野生型対照群は、MeCP2+/−雌または野生型の年齢を一致させたSVEV雌の野生型同腹仔で構成される。片目の遮断のために、アベルチン(0.016ml/g)で動物に麻酔をかけ、片目のまぶたを4日間縫合する。画像化の前に、縫合を取り除き、遮断した目を再び開いた。遮断縫合が元のままである動物および遮断された目の状態が健康そうである動物だけを、画像化セッションのために使用する。G−2−MePEシグナル伝達活性化のために、G−2−MePE含有溶液を遮断の全期間中毎日腹腔内(IP)に注射する。画像化セッションのために、マウスにウレタンで麻酔をかける(1.5g/kg;最終投薬量まで各々20〜30分、全投薬量の20%をIP投与し、0.02mlの1%クロロプロチキセンも最初の投与と一緒に注射される)。運動を最小にするために、頭蓋を露出させ、オーダーメードのプレートを頭部に接着する。dremelドリルで頭蓋をV1の上で薄くし、食塩水(1.5%)中のアガロース溶液およびガラス製カバーガラスでカバーをする。画像化セッションの間、動物には継続的に酸素を与え、暖房ブランケットでその温度を維持し、目を周期的にシリコーン油で処置し、生理的状態を継続的に監視する。いずれかの片目に与えられる周期的刺激を表示するモニターの前に、麻酔下マウスを置く。刺激は、均一な灰色の背景の前で9秒/サイクルで漂流している、寸法が9°×72°の縦または水平の白い棒からなった。頭蓋表面は赤色光(630nm)で照らし、25分の各刺激セッションの間に15フレーム/秒の速度で輝度の変化をCCDカメラ(Cascade 512B、Roper Scientific)で捕捉する。遅いシグナルノイズを取り除くために側頭の高域フィルター(135フレーム)を用い、その後、刺激周波数に対応する側頭の高速フーリエ変換(FFT)構成要素を各ピクセルで抽出するために、シグナルをコンピュータ処理する。各目への視覚的誘発反応の強度を測定するために、FFT振幅を使用する。眼球優位性指数は、ODI=(Rcontra−Ripsi)/(Rcontra+Ripsi)として、各ピクセルでの各目の応答(R)から導かれる。両眼ゾーンは、画像化した半球と同側の目の刺激によって活性化された領域と規定される。
【0133】
心拍数測定
リアルタイム心拍数は、テールクリップセンサー(Mouse OX Oximeter−Oakmont、PA)を使用して測定する。マウスは麻酔されていないが、取り付けた開放系プラスチック管の中に物理的に拘束する。記録セッションの前に、慣れさせるために実験動物を収容するケージの中に管を一晩置く。体温は、記録時間中、約82〜84°Fに維持する。各マウスについて15分の3試験を記録し、マウスは8週齢であり、P15から基剤またはG−2−MePEで処置する。
夜間活動の測定
赤外線活性化運動モニタリングチャンバー(Opto−Varimax−MiniA;Columbus Instruments、Columbus、Ohio)を使用することにより、自発的な運動活動を測定する。実験ごとに、記録を開始する少なくとも3時間前に、マウスをチャンバー内に置く。通常の12時間暗サイクル(午後7時〜午前7時)の間、運動を監視する。1時点当たり1動物当たり1つの暗サイクルを収集する。
結果
G−2−MePE処置がRTT疾患の主な特徴の発達に影響を与えるかどうか試験するために、2週齢の突然変異動物にそれらの寿命の間、腹腔内注射を毎日与える。下に詳述するように、シナプスの生理、シナプスの分子組成および皮質可塑性の測定、ならびに健康関連の測定、例えば心拍数、運動活動レベルおよび寿命を次に取得する。
【0134】
MeCP2突然変異マウスのシナプス生理へのG−2−MePEの影響
近年の研究は、MeCP2−/yマウスの複数の脳領域にわたるニューロンが、BDNFの過剰発現によって救済される表現型(Chang et al., 2006)である自発的活動の重大な低減を提示することを報告している(Chang et al., 2006;Chao et al., 2007;Dani et al., 2005;Nelson et al., 2006)。同様に、IGF1誘導体の急性適用は、ラット海馬培養で誘発興奮性シナプス後電流(EPSC)振幅を40%上昇させることが示されている(Ramsey et al., 2005;Xing et al., 2007)。MeCP2−/y生理的表現型を救済することにおけるG−2−MePEの効力を試験するために、急性脳切片で細胞内の完全細胞記録を取得し、層5の皮質ニューロンで興奮性シナプスドライブ(自発的なEPSC振幅および周波数)を測定する。ここで、−/y動物から記録されるEPSCは、野生型動物で測定されるEPSCと比較して、振幅が有意に低い。この傾向は、G−2−MePEで処置したMeCP2−/y動物から記録されるEPSCで部分的に反転され、それらは基剤処置MeCP2−/yマウスからのEPSCより振幅が有意に大きい。細胞全体で平均したときにも、これらの差が見られる。これらの測定全体にわたって、アクセス抵抗性、リークおよび細胞内在性の興奮性が、群を横断して一貫していることも検証する。EPSC区間の数量化は、野生型とMeCP2−/y動物の間でEPSC事象間の区間のわずかな増加(EPSC周波数の低減)も示す(P=0.04、コルモゴロフ−スミルノフ検査)。したがって、我々の知見は、MeCP2−/yマウスの皮質細胞での興奮性シナプスドライブの低減、およびG−2−MePE処置に続くその部分的救済が、一部、この領域での興奮性伝達を媒介するシナプスの強度の変化の結果としての、EPSC振幅の変化によることを示す。
【0135】
G−2−MePE処置は、皮質棘成熟を刺激する
ニューロンをまばらにおよび明確に標識するためにゴルジ染色を使用し、標識細胞で樹状突起の棘の密度および形態を測定するために高分解能共焦画像化を適用し、臨界期間マウス(P28)からの運動皮質の切片中の層5の錘体神経に分析を制限した。
低倍率画像化は錐体細胞の樹状突起の範囲を明らかに正確に示すが、シナプス接触を数え、各棘の形態学的クラスを判定するためにより高い倍率を使用する。我々は、棘を大きくふくらんだ(「キノコ」、M)、短くずんぐりした(「ずんぐりした」、S)、短く細い(「細い」、T)または糸状仮足(F)と分類する。単位枝当たりの棘の密度の比較は、処置によりノックアウトで大きく改善される、ノックアウトニューロンでの棘密度の低下の傾向を示す。
【0136】
総合的に、これらの結果は、ノックアウトで樹状突起の接触の数および成熟状態の欠陥が、G−2−MePEの投与に続いて処置することができる方法で、興奮性伝達での機能的欠損を支える可能性を示す。
成体MeCP2+/−マウスでの眼球優位性(OD)可塑性は、G−2−MePEによって低減される
OD可塑性の発達上の変化は一部IGF−1経路の活性化によって制御され、(1〜3)IGF−1の投与は野生型若齢マウスでOD可塑性を低減することができる(Tropea et al., 2006)。したがって、G−2−MePE処置が成体MeCP2突然変異体で観察される長期OD可塑性を安定させることができるかどうか試験する。P60齢以上の雌MeCP2+/−マウスの片目を4日間遮断し、同時にG−2−MePEで処置する。G−2−MePE処置は、成体Mecp2+/−マウスでOD可塑性を低減し、G−2−MePEがシナプスの安定化または成熟を実際に速やかに誘導することができることを示す。
MeCP2−/yマウスの徐脈をG−2−MePEによって処置する
神経生理学症状の改善におけるG−2−MePEの効力を検討することに加えて、生物体の健康状態へのその影響を特徴付けようと努める。臨床および実験の証拠は、レット症候群患者での不安定な呼吸リズムおよびベースラインの心臓迷走神経緊張の減少などの自律神経系機能不全を示す(Julu et al., 2001)。交感神経系を通して血圧ホメオスターシスを調節するフィードバック機構、例えば過換気によって誘導される心拍数の減少の制御不良は、レット症候群患者で一般的であり、生命にかかわる心臓不整脈を引き起こすことがある(Acampa and Guideri, 2006; Julu et al., 2001)。
【0137】
よく理解されていないが、心臓の自律神経障害の発生病理は、脳幹での未熟なニューロン接続が原因である可能性を示唆する。MeCP2−/yマウスでの心拍数異常、およびG−2−MePE処置の影響を検討するために、基剤またはG−2−MePEで処置した非麻酔下の野生型およびMeCP2−/y動物でリアルタイム心拍数を監視する。野生型マウスは、1分当たり750拍動を中心とする心拍数測定値の規則的分布を示す。対照的に、MeCP2−/yマウスは、平均がより低いより不規則な心拍数を示し、その発生はG−2−MePEによる処置の後に有意に低減される。
G−2−MePE投与は、運動活動および寿命を向上させる
MeCP2−/yマウスは、それらが次第に不活発になる4〜6週齢から始まるレット様症状を起こし、歩行運動失調を起こし、10〜12週齢で死ぬ(Chen et al., 2001)。ケージ化領域の中での夜間の赤外線交差事象を数えることによって、6週後にマウスでベースライン運動活動も記録する。MeCP2ノックアウトマウス(KO)は、野生型マウス(WT)と比較して著しく低減された運動活動レベルを示すが、G−2−MePE(KO−T)による処置はこれらのレベルを上げる。
最後に、MeCP2KO同腹仔と比較して、G−2−MePEで処置したMeCP2−/yマウスは、平均余命の約50%の増加を示す(0.5確率生存率の増加)。
【0138】
海馬でのニューロン細胞体サイズへのG−2−MePE処置の影響も測定する。運動活動について上で記載したように、マウスをG−2−MePEで処置する。海馬のCA3領域内のニューロンでの細胞体サイズは、野生型動物と比較してMeCP2 KO動物で有意に損なわれる。G−2−MePE処置はKO動物で平均細胞体サイズを増加させるが、野生型動物では細胞体サイズにほとんど影響を及ぼさない。
(例11)マウスでのレット症候群における生存への経口G−2−MePEの影響
レット症候群は、運動技能の喪失を含む慢性衰弱性障害であるため、容易に投与される調製物を使用してレット症候群を処置するのが望ましい。このため、G−2−MePEおよび関連化合物の予想外の有益な治療的および薬物動態特性を利用することができる(米国特許第7,041,314号、同第7,605,177号、同第7,714,070号、同第7,863,309号、ならびに米国出願第11/315,784号および同第12/903,844号)。
【0139】
したがって、米国特許出願公開第2009/0074865号において記載されている通り、MeCP2欠損マウスにG−2−MePEを経口投与する。手短に言うと、薬学的に有効量のG−2−MePE(動物1匹当たり20または80mg/kg)を含有する、水溶剤、油中水型エマルジョン(マイクロエマルジョン、粗いエマルジョン、または液状結晶)、またはゲル組成物を毎日投与する。MeCP2欠損動物の対照では、食塩水だけを投与し、野生型動物を使用して、上記の例8において記載されている研究の設計と類似のベースラインデータを得る。
野生型動物では、生存は、各時点において100%と定義される。MeCP2欠損動物では、生存は実質的に低下する。しかし、G−2−MePEをMeCP2欠損マウスに経口投与した後、生存は実質的に上昇する。
【0140】
(例12)マウスでのレット症候群における発作活性へのG−2MePEの影響
発作は、レット症候群の状況を処置するのに、突出して危険で困難であるので、MeCP2欠損動物において発作活性へのG−2MePEの影響を決定する。G−2−MePEは、神経変性疾患を有する動物における発作活性を処置するのに有効となり得る(米国特許第7,714,020号)。したがって、G−2−MePEがMeCP2欠損マウスにおいて発作活性も処置し得るかどうかを決定するための実験を実施する。
米国特許第7,714,020号において記載されている方法を使用し、食塩水またはG−2−MePEのどちらか一方により処置された野生型マウスおよびMeCP2欠損マウスの脳波記録を得る。
G−2MePEが、運動発作および非けいれん性発作の両方を軽減するのに有効となり得ることが見出される。
【0141】
結論
MeCP2欠損動物におけるin vivoおよびin vitro研究に基づくと、G−2−MePEは、レット症候群を有するヒトを処置するのに有効な療法となり得ると結論づける。さらに、G−2−MePEは、天然化合物((1〜3)IGF−1;グリシル−プロリル−グルタミン酸またはGPE)(
図21)よりも、予想外に長い半減期を有しているので、G−2−MePEの使用は、GPEを含めた他の医薬剤よりも明確かつかなりの利点を有すると結論づける。
【0142】
例えば、G−2−MePEは、経口投与後に、消化管細胞により分解されない、消化管細胞により吸収される、および中枢神経系において活性である(参照により本明細書に完全に組み込まれている、Wenらの米国出願第12/283,684号、米国出願公開第2009/0074865号、米国特許第7,887,839号)。したがって、G−2MePEは、静脈、皮下、脳室内、または非経口で送達する必要がない。実際に、マイクロエマルジョン、粗いエマルジョン、液状結晶調製物、ナノカプセル、およびヒドロゲルを含む、経口用製剤は、神経機能を改善し、かつ神経変性状態を処置することができる、錠剤、カプセル剤およびゲル剤などの経口投与調製物の製造に使用することができる(米国特許第7,887,839号)。本発明の化合物は、患者の運動機能が錠剤またはカプセル剤の嚥下に要する機能を欠く状況で使用することができる。いくつかのタイプの化合物を経口投与するための可溶性ゲル剤が存在しており、これらは、本発明の化合物または組成物を患者に送達するため使用することができる。G−2−MePEは、容易に経口投与することができ、かつレット症候群を含む神経変性障害を処置するのに経口で有効であるので、G−2−MePEは、レット症候群患者の長期療法に都合がよくかつ利益をもたらし得る。
さらに、レット症候群は、他の自閉症スペクトラム障害と主要な特徴を共有しているので、本発明の化合物は、他のASDを有する動物、ならびに自閉症、アスペルガー症候群、小児統合失調障害および特定不能の広汎性発達障害(PDD−NOS)を有するヒトにおいて、治療的利益を実現するのに有用となり得る。
【0143】
(例13)ASDの処置
Shank3欠損マウスモデル
ASDに伴う22q13欠失症候群のモデルとして、Shank3欠損マウスを、本研究に使用する。
22q13欠失症候群は、Shank3遺伝子における欠失または突然変異と連鎖している(Bonaglia et al, 2006)。Shank3遺伝子は、グルタミン酸作動性シナプスにおいて、フレームワークを形成する、マスター足場タンパク質をコードする(Boeckers et al, 2006)。Shank3は、シナプス後肥厚(PSD)のコアの重要な部分であり、α−アミノ−3−ヒドロキシル−5−メチル−4−イソオキサゾール−プロピオン酸(AMPA)、向代謝性グルタミン酸(mGlu)、およびN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)グルタミン酸受容体、ならびに細胞骨格要素の構成要素を含めた、PSDおよびシナプスに対する多くの重要な機能的要素を動員する。22q13欠失/Shank3突然変異の割合を探求する最近の研究により、Shank3のハプロ不全は、ASD症例の0.5%〜1%の頻度で、ASDの単一遺伝子型を引き起こすおそれがあることが示唆される(Durand et al, 2007;Moessner et al, 2007;Gauthier et al, 2008)。
【0144】
完全長Shank3の発現の撹乱したマウスモデルの生成は、当分野において以前に説明されている(Bozdagi et al., Molecular Autism 2010, 1:15, p4)。手短に言うと、Bruce4 C57BL/6胚性幹細胞を使用し、エクソン4およびエクソン9の前に挿入されるloxP部位を有するマウス系を生成した。フロックスアレルを切り取り、エクソン4〜エクソン9を欠失させ、すなわちShank3のアンキリン反復ドメインを完全に欠失させて系を維持した。異型接合体−異型接合体の交雑由来のメンデル頻度を含む、野生型(+/+)、異型接合体(+/−)およびノックアウト(−/−)マウスを作製した。完全長Shank3 mRNAの50%減少は、異型接合体(qPCR)、およびShank3タンパク質の発現低下において確認された(Shank3抗体N69/46によるイムノブロッティングによる)。
野生型マウスと異型接合体との交雑により生成した異型接合体マウスを使用して、本例において、22q13欠失症候群の原因であるShank3のハプロ不全を最良にモデル化する。
【0145】
方法
薬物処置
1〜3ヶ月齢の野生型および異型接合体Shank3欠損マウスを4種の処置群:プラセボ処置野生型、プラセボ処置Shank3欠損群、および2種のShank3欠損G−2−MePE処置群に分割する。これらの動物に、プラセボ(水)、または水に製剤化したG−2−MePEを、14日間、b.i.dで経口投与して与える。G−2−MePEは、2種の用量:15または60mg/kgで投与する。
方法論
方法論の詳細な説明は、Bozdagiら(Molecular Autism 2010, 1:15)において見出すことができる。
【0146】
行動解析
行動評価は、いくつかの時点で行い、Bozdagiらにより記載されている方法論に則る、社会的交流および超音波社会伝達の解析を含む。手短に言えば、各処置群における雄−雌の社会的交流を評価するものである。対象となる雄は、集団で収容され、清潔な敷わらを有するクリーンケージ中で個別に試験される。各試験セッションは5分間、続く。各対象マウスを、様々な慣れていない発情C57BL/6J雌とペアにする。デジタル閉回路テレビカメラ(Panasonic、Secaucus、NJ、米国)を、ケージから水平に30cmのところに置く。超音波マイクロホン(Avisoft UltraSoundGate condenser microphone capsule CM15;Avisoft Bioacoustics、Berlin、ドイツ)をケージの上20cmに設置する。マイクロホンのサンプリング周波数は250kHzであり、解像度は16ビットである。使用した機器は、対象の雄とパートナーの雌により発せされる鳴き声を区別することができないが、マウスの雄−雌の交流の間の鳴き声の優勢は、通常、雄により発せられる。装置全体は、25ワットの単一赤色光により照明される、消音環境チャンバ(ENV−018V;Med Associates、St Albans、VT、米国)中に入れられている。続いて、Noldus Observerソフトウエア(Noldus Information Technology、Leesburg、VA、米国)を使用し、対象の遺伝子型および処置群を知らされていない実験責任者により、鼻と鼻との臭い嗅ぎ、鼻と肛門性器との臭い嗅ぎ、および他の体の領域の臭い嗅ぎの測定について、対象の雄からのビデオを採点評価する。超音波発声は、遺伝子型/処置群の情報を知らされていない、高度の訓練を受けた2名の実験責任者により、手動で特定し、統計のまとめをAvisoft packageを使用して計算する。評価者間信頼性は、95%である。データは、独立スチューデントt検定を使用して解析する。
【0147】
嗅覚の馴化/脱馴化試験を、各群について、雄および雌マウスで実施する。この方法論は、以前に説明されている通りである(Silverman et al 2010, Yang et al 2009およびSilverman et al 2010)。非社会的および社会的匂いは、以下の順:水、水、水(蒸留水);アーモンド、アーモンド、アーモンド(1:100希釈アーモンド抽出物;バナナ、バナナ、バナナ(1:100希釈人工バナナフレーバー);社会1、社会1、社会1(慣れていない性別を適合させたB6マウスを収容しているケージの底をぬぐったもの);および社会2、社会2、社会2(異なる群の慣れていない性別を適合させた129/SvImJマウスを収容している第2のケージの底をぬぐったもの)で、各2分間、ホームケージに逐次挿入した一連の綿棒に提供される。各馴化事象および各脱馴化事象の各セットについて、一元反復測定ANOVAを各処置群内で行い、次いで、テューキー事後検定を行う。
【0148】
海馬のスライスの電気生理学
ティッシュチョッパーを使用して、検死後短時間の海馬のスライス(350μm)をマウスから調製する。スライスを32℃に維持し、実験を32℃で行う。スライスは、NaCl、125.0;KCl、2.5;MgSO
4、1.3;NaH
2PO
4、1.0;NaHCO
3、26.2;CaCl
2、2.5;グルコース、11.0(mM)を含有する、リンガー溶液により灌流する。このリンガー溶液を、細胞外記録(電極溶液:3M NaCl)の間、32℃で、95%O2/5%CO2で泡立てた。領域CA3に置いたバイポーラ−タングステン電極を用いて、シャッファー側枝−求心性交連の刺激(30秒毎に100マイクロ秒のパルス)により喚起される、領域CA1における放射状層から記録される興奮性シナプス後場電位(fEPSP)のベースラインが確立する前に、スライスを1時間維持する。試験刺激強度は、最大応答の半分となる振幅を有するfEPSPが得られるよう調節する。この初期EPSP傾き(mV/ミリ秒)は、4回の連続応答の平均波形から決定する。入力−出力(I/O)曲線は、低Mg
2+(0.1mM)溶液において、ファイバーボレー増幅に対してfEPSP傾きをプロットすることにより生成される。AMPA受容体媒介性およびNMDA受容体媒介性I/Oの関係は、イオントロピー性グルタミン酸受容体アンタゴニスト:2−アミノ−2−ホスホノペンタン酸APV(50μM)および6−シアノ−7−ニトロキノキサリン−2,3−ジオンCNQX(100μM)の存在下で測定される。一対のパルス応答は、10〜200ミリ秒の刺激時間間隔で測定し、第1の刺激パルスに対する第2の刺激パルスへの平均応答比として表される。
【0149】
LTPは、対照マウスおよび遺伝子組換えマウスについて、高周波数刺激(100Hz、5分間空けて1秒の刺激を4回)、またはシータバースト刺激(TBS)(200ミリ秒空けて、100Hzで4回のパルスを10バースト)、または単一100Hz刺激のいずれかにより、誘発される。長期抑制(LTD)を誘発するため、シャッファー側枝を低周波数刺激またはペアドパルス低周波数刺激(1Hzで15分間、900回のパルス)により刺激して、mGlu受容体依存性LTDを誘発する。データは、平均±SDとして表され、統計解析は、αレベル0.05で有意性を設定し、分散分析(ANOVA)またはスチューデントt検定を使用して行う。
【0150】
結果
行動
雄の試験対象による合計の社会的臭い嗅ぎの累積時間は、プラセボ処置野生型群よりも、プラセボ処置Shank3欠損群の方が短い。さらに、雄−雌社会的交流の間、超音波発声は、野生型対照によるものよりも、プラセボ処置Shank3欠損群によるものの方が少なく発せられる。
2種のShank3欠損群におけるG−2−MePE処置により、プラセボ処置Shank3欠損群と比べて、合計の社会的臭い嗅ぎの累積時間がかなり増加する。さらに、G−2−MePE処置群は、プラセボ処置突然変異体群よりも超音波発声数が増加することを示す。
マウスが社会的フェロモンを検知できることを確認しようとした嗅覚の馴化/脱馴化研究において、4つの群すべてが、正常な馴化レベル(一連の3つの同じ臭い嗅ぎに消費した時間の減少により示される)および期待される脱馴化(異なる臭い嗅ぎの消費の増加により示される)を示す。
【0151】
電気生理学
刺激強度に対して興奮性シナプス後場電位(fEPSP)傾きをプロットすると、対照群に対してプラセボ処置Shank3欠損群における、I/O曲線の減衰が実証される。異型接合体のプラセボ処置群では、野生型対照群と比べて、I/O関数の平均傾きの50%減少を反映して、AMPA受容体媒介性電場電位の低下も観察する。対照的に、シナプスNMDA受容体機能を測定するため、競合的AMPA/カイニン酸受容体アンタゴニストCNQXの存在下で、I/O関係を解析すると、野生型とプラセボ処置異型接合体群との間に差はない。これらの結果は、Shank3異型接合体マウスにおいて、AMPA受容体媒介性基礎伝達の特異的な低下があることを示している。
両方の異型接合体群におけるG−2−MePE処置により、AMPA受容体媒介性電場電位が正常化され、プラセボ処置Shank3欠損群と比べて、I/O関数の平均傾きの増加が引き起こされる。
プラセボ処置Shank3欠損群におけるLTPの維持は、野生型対照と比べて、明らかに損なわれている。TBS LTP試験(200ミリ秒空けて、100Hzで4回のパルスを10バースト)もまた、プラセボ処置Shank3欠損群において、TBS後60分で、増強作用がかなり低下することを示す。LTPで観察されるシナプス可塑性の改変とは対照的に、突然変異体群では、長期抑制(LTD)は有意に変化しなかった。G−2−MePE処置により、プラセボ処置Shank3欠損群と比べて、Shank3欠損群の両方において、海馬の長期増強(LTP)、およびその維持が向上した。
【0152】
考察
乏しい社会的適格性および反復性の行動は、一般的な特徴であり、ASDの形態すべての重要な診断手段である。遅い知的発達および不十分な言語技術の発達もやはり、アスペルガー症候群を除いて、ASDすべてにおいて存在する、一般的な特徴である。
【0153】
上記のこの動物モデルは、臨床的なヒト状態と類似した症状を実証するものとして、当分野において容認されてきた。上で考察した突然変異体モデル(NLGN3、NLGN4、CADM1、NRXN1、FMR1、shank3)はすべて、社会的技能の障害または社会的不安の増加を示す。海馬への興奮性伝達の減少は、NRXN1、shank3、MeCP2、およびFMR1突然変異体動物モデルにおいて特定されている。現在のところ、ASDの多元発生モデルまたは多因子性モデルが記載されている。ヒト集団においてASDを生じることが知られている遺伝子欠損に基づく上記の動物モデルは、ASD療法の効力を試験するための最良の機会を提供する。
したがって、ASDの動物モデルにおけるG−2−MePEの効力は、ASDを患っているヒト対象において、その効力をかなり予測する。
【0154】
(例14)G−2−MePE処置により、レット症候群のin vitroヒトモデルにおける、ニューロンの形態が変化する
ニューロンの形態へのG−2−MePEの影響を試験するため、Marchetto et al., A model for neural development and treatment of Rett syndrome using human induced pluripotent stem cells, Cell 143:527-539 (2010)(補足情報を含む)において記載されているRTTのin vitroモデルを使用した。このモデルは、様々なMeCP2突然変異を有するヒトRTT患者の線維芽細胞から発生する人工多能性幹細胞(iPSC)を使用する。
【0155】
方法
細胞培養およびレトロウイルス感染
RTT線維芽細胞(4種の異なるMeCP2突然変異を有する)、および対照の線維芽細胞は、皮膚生検の移植片から生成する。標的MeCP2遺伝子に対するshRNAを、レンチウイルスベクターLentiLox3.7にクローニングする(Marchettoらに記載さている通り)。線維芽細胞は、レトロウイルスリプログラミングベクター(Sox2、Oct4、c−Myc、およびKlf4)により感染させる。感染の2日後、hESC培地を含む、有糸分裂的に不活性なマウス胚線維芽細胞に線維芽細胞を植え付ける。2週間後、線維芽細胞のバックグラウンドから発現したiPSCコロニーを手で採取し、胚幹細胞培養培地mTeSR(商標)(Stem Cell Technologies)を使用するマトリゲルコーティング皿(BD)上のフィーダーフリー条件に移し、手で継代する。生成したクローンの遺伝子発現プロファイルをヒトゲノムAffymetrix Gene Chip(商標)アレイを使用して測定し、リプログラミングが成功していることを確認する。
【0156】
ニューロンの分化:NPCおよび成熟ニューロン
ニューロンの前駆細胞(NPC)を得るため、細胞クラスターの機械的解離、およびFGF2を含まないhESC培地中の低粘着性皿上に5〜7日間、植え付けることにより胚様体(EB)を形成させる。その後、EBを、DMEM/F12およびN2培地(分裂終了細胞の成長および発現用の無血清補給物)中のポリオルニチン/ラミニンコーティング皿上に植え付ける。得られたロゼットを7日後に採集し、アクターゼにより解離させ、NPC培地(DMEM/F12;0.5X N2;0.5X B27およびFGF2)によりコーティングされている皿上に植え付ける。同一条件のアクターゼを用い、1〜2代の継代後にNPCの均質集団を達成する。成熟ニューロンを得るため、浮遊EBを1uMまたはレチノイン酸により、3週間処理する(4週間の分化の合計時間を与える)。成熟EBを、37℃で1時間、パパインおよびDNAseにより解離させ、FGF2を含まないNPC培地中のポリオルニチン/ラミニンコーティング皿に植え付ける。
【0157】
G−2−MePEによる処理
RTTのニューロン培養を、1週間、G−2−MePE(1nM〜10μM)により処理する。
免疫細胞化学およびニューロン形態の定量
細胞は、4%パラホルムアルデヒド中で固定化し、PBS中の0.5%Triton−X100により浸透化する。次に、0.5%Triton−X100および5%ロバ血清を含有するPBS中、室温で1時間、細胞をブロッキングする。蛍光シグナルは、Zeiss倒立顕微鏡を使用して検出し、画像はPhotoshop CS3により加工する。以下の一次抗体を使用する。TRA−1−60、TRA−1−81(1:100)、NanogおよびLin28(1:500)、ヒトNestin(1:100)、Tuj−1(1:500)、Map2(1:100);meCP2(1:1000;VGLUT1(1:200)、Psd95(1:500)、GFP(1:200)、Sox1(1:250)、Mushasi1(1:200)ならびにme3H3K27(1:500)。細胞体サイズは、Syn::EGFP(商標)を使用してニューロンを特定した後、適切なソフトウエア(例えばImageJ)を使用して測定する。ニューロンの樹状突起および棘の形態を、zスタック光学セクションの個々の投影から検討し、z面において値をもつ解像度と相関する0.5um増分でスキャンする。各光学セクションは、500lpsにおいて3回スキャンし、次いでカルマンフィルターした結果である。シナプスの定量に関すると、画像は、Biorad radiance2100(商標)共焦点顕微鏡を使用し、1umのz−ステップにより撮影する。シナプスの定量は、遺伝子型に対して盲検で行う。Map2に陽性のプロセスに沿って、VGLUT1斑点だけを計数する。統計的有意性は、二元ANOVA検定およびボンフェローニ事後検定を使用して試験する。
【0158】
カルシウムイメージング
ヒトiPSC由来のニューロンネットワークを、Syn:DsRedレポーター構築物を有するレンチウイルスベクターにより感染させる。細胞培養物を滅菌Krebs HEPES緩衝液(KHB)により2回洗浄し、KHB中、室温で40分間、2〜5μM Fluo−4AM(商標)(Molecular Probes/Invitrogen、Carlsbad、CA)によりインキュベートする。KHBで2回洗浄することにより、過剰の色素を除去し、さらに20分間のインキュベートを行い、細胞内色素濃度を平衡にして、脱エステル化させる。Olympus IX81倒立型蛍光共焦点顕微鏡(オリンパスオプティカル(Olympus Optical)、日本)に488nm(FITC)フィルターを備えたHamamatsu ORCA−ER(商標)デジタルカメラ(浜松ホトニクス株式会社、日本)を使用し、5000フレームの低速度撮影画像シーケンス(100倍率)を、336×256ピクセルの領域において、28Hzで取得する。画像は、MetaMorph7.7(商標)(MDS Analytical Technologies、Sunnyvale、CA)により取得する。続いて、ImageJ(商標)およびMatlab7.2(商標)(Mathworks、Natick、MA)における書換え型ルーチンを使用して、画像を加工する。
【0159】
電気生理学
分化の6週間後に、星状神経膠細胞と共培養した細胞から、全細胞パッチクランプ記録を行う。新鮮なHEPES−緩衝化食塩水(処方に関する補足方法を参照されたい)により、浴を絶えず灌流する。記録用マイクロピペット(tip resistance3−6MΩ)を、補足文書において記載されている内部溶液により満たす。記録は、Axopatch200B(商標)増幅器(Axon Instruments)を使用して行う。シグナルは、2kHzでフィルターをかけて、5kHzでサンプリングする。全細胞キャパシタンスは、完全に補償される。直列抵抗は補償されないが、10mVパルスに応答して、容量性電流の増幅により、実験中、モニターされる。記録はすべて、室温で行い、化学品はSigmaから購入する。自発性シナプス後電流の周波数および振幅は、Mini Analysis Program(商標)ソフトウエア(Synaptosoft、Leonia、NJ)を用いて測定する。WTおよびRTT群の統計的比較は、p=0.05の有意水準で、ノンパラメトリックコルモゴロフ−スミルノフ両側検定を用いて行う。EPSCは、CNQXまたはDNQX(10〜20μM)によりブロッキングし、IPSPは、ビククリン(20μM)により阻害させる。
【0160】
結果
RTT iPSC由来のニューロンは、グルタミン酸作動性シナプス数の低下、棘密度の低下、およびより小さな細胞体サイズにより特徴づけられる。RTTニューロンもまた、ある種の電気生理学的欠陥、すなわち対照と比較した場合、自発的シナプス電流の周波数および振幅の有意な低下を示す。RTTニューロンは、細胞内カルシウム移行の頻度が低下することを示す。
RTT表現型のいかなる病変も弱体化し得るかどうかを試験するため、上記のモデルにおいて、G−2−MePEを試験する。
細胞培養物を各薬物濃度により処理すると、非処理RTT対照と比べて、処理されたRTT細胞培養物の形態学的および生理学的パラメータのすべてが改善される。具体的には、G−2−MePE処理RTT細胞において、グルタミン酸作動性シナプス数がかなり増加することを観察している。G−2−MePE処理の濃度はすべて、RTT由来ニューロンにおけるVGLUT1斑点数を増加させる。G−2−MePE処理は、自発性シナプス後電流の周波数および振幅、ならびにG−2−MePE処理RTTニューロンのシナプス活性により生じるカルシウム移行の頻度を正常にする。
ヒトRTTの本in vitroモデルでは、RTT患者由来のiPSC、およびそれらから分化したニューロンは、MeCP2発現の異常により特徴づけられる。本発明の上記の詳細な説明において考察した通り、RTT症例の大部分は、MeCP2遺伝子の突然変異を伴う。したがって、ヒトRTTの本in vitroモデルにおけるG−2−MePEの効力は、RTTを患っているヒト対象において、その効力をかなり予測する。
【0161】
(例15)レット症候群を有するヒトにおけるG−2−MePEの影響
方法
レット症候群を有する30名の対象を動員する。対象は女性であり、16〜29歳の年齢である(平均=12.1、SD=4.4)。対象はすべて、IQ<60であり、MECP2遺伝子の突然変異を有する。対象はまた、EEGにおけるエーテルスパイク活性、または高速フーリエ変換(FFT)により検出されるEEGの低周波数帯域の増加も示す。対象には、併用医薬が研究前の少なくとも6週間安定であるように指示される。不注意の徴候を処置するための医薬品を服用している対象は、午前中に試験を受け、午後にはその医薬品を服用するよう指示される。QTc間隔が>451の対象を除外する。
この研究は、プラセボ、T.I.Dで5日間10mg/kgの経口G−2−MePE、またはT.I.Dで30mg/kgの経口G−2−MePEのいずれかの3種の用量を用いた無作為二重盲検プラセボ対照並行試験である。
【0162】
対象は、以下の文書:レット症候群自然経過/臨床的重症度尺度(Rett Syndrome Natural History/Clinical Severity Scale)、異常行動チェックリスト−コミュニティ版(ABC)、ヴァインランド(Vinelands)、重症度の臨床全般印象(Clinical Global Impression of Severity)(CGI−S)、および介護人が記入した介護者負担質問票(their carers completed the Caregiver Strain Questionnaire)(CSQ)を使用して、ベースラインで試験する。
対象は、睡眠ポリグラフ技法を使用して、24時間連続的にEEG、ECG、および呼吸速度の初期ベースライン記録を可能にするため、入院を基本とするクリニックに入れられる。手の動きも、Q−Sensor(商標)を使用して記録する。派生EEG測定は、以下:EEGにおける単位時間当たりのスパイク、EEGの周波数帯域での総パワー、QTcおよび心拍変動(HRV)、ならびに呼吸不整を含む。
有害事象もまた、有害事象の標準安全尺度およびSMURF誘発を使用して記録する。
統計的に、G−2−MePEによる処置の影響は、ベースラインスコアからの変化への処置の影響に対する、共分散の反復解析(ANCOVA)を行うことにより解析する。
【0163】
結果
G−2−MePEによる処置は、プラセボによる処置の間に存在するものほど多くの有害事象を生じることはなく、有害事象はすべて、短期間かつ軽度の重症度である。深刻な有害事象は報告されてない。QTCが増加する例は報告されていない。
呼吸速度または心拍変動には影響を及ぼさないことが観察される。
G−2−MePEによる処置により、EEGにおける単位時間当たりのスパイクの総合的に有意な低下が生じる。T.I.Dで30mg/kgの経口G−2−MePEによる処置は、プラセボと比較して、スパイク活性を低下させる。この用量のG−2−MePEはまた、プラセボと比較して、EEGのデルタ帯域の出力も低下させる。
G−2−MePEによる処置はまた、Q−Sensor(商標)デバイスを使用して計数される、24時間の期間当たりの手の動きの合計も低下させる。この効果は、プラセボと比較して、T.I.D.で30mg/kgの用量に対して顕著である。
G−2−MePEによる処置は、レット症候群自然経過/臨床的重症度スコアへの有意な影響は全体的にない。しかし、T.I.Dで30mg/kgの経口G−2−MePEにより、プラセボと比較すると、以下の準尺度:「試験によるこの通院における非言語的伝達(Nonverbal Communication at this visit by exam)」、「この通院におけるてんかん/発作(Epilepsy/Seizures at this visit)」、および「手の使用」に対して有意な影響が生じる。
【0164】
結論
G−2−MePEによる処置により、本研究において中枢神経系機能にかなりの改善が生じる。比較的短期間の処置にもかかわらず、脳の電気的活性の異常が低減し、これは効力の明確な兆候である。こうした効果は、用量依存的であり、T.I.Dで30mg/kgの経口G−2−MePEの処置後に見られる。これらの効果は、G−2−MePE投与後のレット症候群のmecp2ノックアウトトランスジェニックマウスモデルにおいて見られる、CNS機能の改善を反映する。
用量依存的効果はまた、客観的な計数デバイス、および主観的な評点により評価される、手の使用に関しても観察される。これは、無目的な手書き動作は、レット症候群の臨床表現型の特徴であること、およびこの障害に特有であることの両方なので、興味深い。
レット症候群自然経過/臨床的重症度尺度の非言語的伝達の評点は、処置により改善される。この尺度は、アイコンタクトを主に評価する。これは、G−2−MePEによる長期間処置が、集団における社会的関係性を改善し得るという見込みを提起する。
G−2−MePEは、この集団において十分に耐容される。QTc間隔の延長または無呼吸などの、患者集団における特定の懸念の標準尺度または領域のどちらにおいても、影響は観察されない。
【0165】
(例16)自閉症スペクトラム障害を有するヒトへのG−2−MePEの影響
方法
G−2−MePEがASDの症状を処置できるかどうかを決定するため、ASDを有するヒトにおいて研究を実施する。自閉症スペクトラム障害を有する20名の対象を動員する。対象は男性であり、16〜65歳の年齢である(平均=18.1、SD=3.4)。対象はすべて、IQ>60であり、自閉症障害またはアスペルガー障害の厳密なDSM−IV−TR診断を受けている。対象はまた、ADI−RおよびADOS−G文書に従い、自閉症スペクトラム障害に対する基準も満たしており、自閉症スペクトラム障害に対して提案されているDSM−V基準を満たす。対象には、併用医薬が研究前の少なくとも6週間安定であるように指示される。不注意の徴候を処置するための医薬品を服用している対象は、午前中に試験を受け、午後にはその医薬品を服用するよう指示される。自閉症に適応される非定型抗精神病医薬品により良好に処置される対象は、除外される。対象には、脆弱X症候群または結節性硬化症を含む、既知の遺伝障害についてスクリーニングがかけられ、脆弱X症候群または結節性硬化症を有する対象は除外される。制御不能なてんかんを有する対象は除外される。
【0166】
本研究は、3つの相との二重盲検のプラセボ対照クロスオーバー試験である。対象は、無作為順序で、クロスオーバーの各相に入れられる。この試験相では、対象は、プラセボ、T.I.Dで5日間、10mg/kgの経口G−2−MePE、またはT.I.Dで30mg/kgの経口G−2−MePEのいずれかを投与される。クロスオーバーの各相は、14日間のウォッシュアウト期間により、分離される。
対象は、以下の文書:ウェクスラーIQ、異常行動チェックリスト−コミュニティ版(ABC)、ヴァインランド、エール−ブラウン強迫観念強迫行為尺度(YBOCS)強迫行為準尺度(compulsion subscale)、対人応答性尺度(SRS)、重症度の臨床全般印象(CGI−S)、および介護人が記入した介護者負担質問票(CSQ)を使用して、ベースラインで試験する。
【0167】
対象は、2種の作業、すなわち目から心を読むテスト−改訂版(RMET)、および視線追跡(Eye Tracking)(ET)作業、ならびに改善に関する臨床全般印象(CGI−I)が与えられる。作業は、プラセボ、またはG−2−MePEのいずれかの用量の投与の2時間後に開始する。RMETは、わずかな感情的な顔の表情の目から感情を読み取る能力を評価する、コンピュータをベースとする作業であり、自閉症患者の感情認知の試験に広く使用されている(2001年)。重要なことに、REMTは、単回用量の医薬剤でさえも改善を検知することができる(Guastella et al., 2010)。視線追跡の問題は、ヒトの顔の写真の目を見る消費時間が短い自閉症患者の特徴である。やはり、単回投与の薬物介入により、自閉症における視線追跡の欠陥を改善し得る(Andari et al, 2010)。
有害事象もまた、標準安全尺度を使用して記録される。
統計的に、G−2−MePEによる処置の影響は、ベースラインスコアからの変化への処置の影響に対する、共分散の反復解析(ANCOVA)を行うことにより解析する。
結果
G−2−MePEによる処置は、プラセボによる処置の間に存在するものほど多くの有害事象を生じることはなく、有害事象はすべて、短期間かつ軽度の重症度である。深刻な有害事象は報告されていない。
G−2−MePEによる処置により、RMET試験の成果において、総合的にかなりの改善がもたらされる。T.I.Dで30mg/kgの経口G−2−MePEにより処置すると、RMETに対する正答率が向上する。
G−2−MePEによる処置により、ET試験において、目の領域を見るのに消費した時間に、総合的にかなりの改善がもたらされる。処置期間の終了時におけるCGI−Iスコアは、有意な差を示す。正の処置効果は、ベースラインCSQスコアと相関がある。
【0168】
結論
G−2−MePEによる処置により、目から心を読むテスト−改訂版および視線追跡作業における成果にかなりの改善がもたらされる。これらの効果は、用量依存的であり、T.I.Dで30mg/kgの経口G−2−MePEの処置後に見られる。
これらの尺度の改善は、社会的情報処理の過程改善を反映する。社会的交流欠陥は、自閉症スペクトラム障害に対する中心的な症状診断であり、したがって、このことは重要な知見である。
G−2−MePEはまた、改善に関する臨床全般印象により指標が示される、機能の総合的な改善も生じる。本研究からの症例報告書のフリーテキスト注記には、社会的関係性の改善に関係するこうした効果が示されている。このことは、RMETおよびET作業において観察される変化が、日常生活における社会活動に関連し得ることを暗示している。
G−2−MePEは、この集団において十分に耐容される。
【0169】
(例17)自閉症スペクトラム障害へのG−2−MePEの影響を決定するための動物モデル
G−2−MePEの影響を以下のASDの遺伝モデル:Tbx1異型接合体マウス、Cntnap2ノックアウトマウス、およびSlc9a6ノックアウトマウスでさらに試験する。G−2−MePEを、脆弱X症候群のfmr1ノックアウトマウスモデルでも試験する。
Tbx1. TBX1遺伝子の突然変異は、自閉症スペクトラム障害を伴う(Paylor et al., 2006)。トランスジェニックTbx1マウスは、社会的交流、超音波発声、反復性の行動、および作業記憶に選択的に障害がある(Hiramoto et al., 2011)。
Cntnap2. コンタクチン関連タンパク質様2(CNTNAP2)遺伝子の突然変異体を有する患者の3分の2は、自閉症スペクトラム障害と診断される(Alarcon et al., 2008;Arking et al., 2008;Bakkaloglu et al., 2008;Strauss et al., 2006;Vernes et al., 2008)。Cntnap2ノックアウト(KO)マウスは、社会的行動、超音波発声、および反復性の行動におけるASD関連表現型を示す(Penagarikano et al., 2011)。
Slc9a6. この遺伝子は、ASD症候群に関与しており、ナトリウム−水素(sodim−hydrigen)交換輸送体6(NHE6)をコードする。SLC9A6における突然変異は、知的障害(Gilfillan et al., 2008)および自閉行動(Garbern et al., 2010)を伴う。Slc9a6について、KOマウスは、運動過多、および小脳機能障害を示す(Stromme et al., 2011)。
Fmr1. FMR1遺伝子をサイレンシングすると脆弱X症候群が生じ、この表現型には、自閉症が含まれる。脆弱X症候群の患者の3分の2は、自閉症スペクトラム障害のスクリーニング基準を満たす(Harris et al., 2008)。脆弱X症候群の小児患者も、発作閾値の低下を示す。fmr1ノックアウトマウスは、若年性発作感受性を含めた、脆弱X症候群の表現型の多くを複製する(Yan et al., 2004)。
【0170】
方法
上記モデルの各々における動物は、引用文献において記載されている方法論に従って生成する。遺伝モデルごとに、対応する野生型動物も得る。各モデルにおける動物を、3つの群(n=10〜n=20):プラセボ処置野生型マウス、突然変異体G−2−MePE処置群、および突然変異体プラセボ処置対照群に分ける。
この処置は、腹腔内投与する:プラセボ(食塩水)またはG−2−MePEを20mg/kg/日。
各モデルにおいて示されるASDの重要な特徴の測定は、引用文献に従って行われる。
結果
G−2−MePE処置により、ASD表現型に関連するすべての尺度が改善される。
【0171】
(例18)脆弱X症候群におけるG−2−MePEの影響
マーティンベル症候群またはマーカーX症候群としても知られている脆弱X症候群(FXS)は、自閉症の最も一般的な単一遺伝子が原因であり、精神発達遅滞の最も一般的な遺伝的原因である。多様な知的障害、細長い顔、大きな耳および大きな精巣(巨精巣症)などの身体的特徴、ならびに常同性運動、社会的不安、および注意欠陥多動性障害(ADHD)を含む神経行動表現型により特徴づけられる。FXSの症状および徴候は、はい歩き動作、歩行動作またはひねり動作、拍手動作または手の噛みつき動作の遅延、活動過多行動または強迫観念行動、精神発達遅滞、会話および言語発達の遅延、アイコンタクトを避ける傾向、常同性運動、社会的不安、および注意欠陥多動性障害(ADHD)を含むことができる。
【0172】
FXSが根底にある遺伝学的基礎は、X染色体上の脆弱X精神発達遅滞1遺伝子(FMR1)のCGG反復の拡張である。このFMR1遺伝子により、脆弱X精神発達遅滞タンパク質またはFMRPと呼ばれる、タンパク質が生じる。正常な人々のFMR1遺伝子は、10倍〜約40倍よりも少ない反復である、トリヌクレオチドセグメント(CGG)を含有する。これらの反復CGGセグメントは、他のトリヌクレオチドセグメント(AGG)に散在しており、このトリヌクレオチドセグメントは、FMRPをコードするオリゴヌクレオチドを安定化することができる。罹患男性の場合、CGGトリヌクレオチドは、約200倍から1000倍を超えて反復していることがあり、これにより、FMRPをコードするオリゴヌクレオチド(すなわち、FMR1 RNA)を不安定にする。これにより、正常な神経発達に必要な十分な量の脆弱X精神発達遅滞タンパク質(FMRP)の発現に失敗する。具体的に脆弱X症候群に対して利益を示す、薬物処置は現在のところ存在していない。
【0173】
脆弱X症候群のFMR1ノックアウトマウスモデル
FXSの遺伝学的基礎は、公知であるので、FXSの原因および特徴を研究するのに有用な動物系を作製することは可能である。fmr1遺伝子ノックアウト突然変異体マウスが入手可能であり、巨精巣症、学習欠陥および活動過多を含む、臨床的FXSの多くの特徴を示す。臨床的FXSと同様に、fmr1ノックアウト(fmr1 KO)モデルは、神経プルーニング(neuronal pruning)に失敗していることを示し、このことは、樹状スーパーヌメラシー、ならびにERKおよびAktの過剰リン酸化を示している。結果として、fmr1ノックアウトマウスは、ヒト対象において、FXSの薬物処置の可能性を試験するための価値のあるツールである。fmr1 KOマウスにおいて、G−2−MePEによる処置は、FXSの徴候および症状の多くを改善するのに有効であることを実証する。
fmr1ノックアウトマウスモデルにおいて、G−2−MePEの影響を検討した。以下の尺度を解析した。
【0174】
a)(i)オープンフィールド試験、(ii)連続通路試験、(iii)高架式十字迷路試験、(iv)脈絡恐怖条件づけ試験、ならびに(v)社会的行動試験を用いて、不安状態、自発運動行動および社会活動、学習および種に典型的な行動を評価した。
【0175】
齧歯動物では、新しい環境に曝露されると、通常、不安が誘発される。罰および欲求不満となるご褒美なしと共に、目新しさは、内部不安状態を反映する、行動抑制を引き起こすことができる(Gray (1987) Br J Psychol 69:417-434)。齧歯動物では、不安に内在する行動抑制は、凍結行動、すなわち自発運動の減少、または社会的交流などの進行中の行動の減少として表現される。この凍結行動は、不安および忌避に感受性の高い脆弱X症候群患者を含めたヒト対象(Gray (1987) Br J Psychol 69:417-434)では、不安の体験中に見られる注意および中断の増加に匹敵する(Tranfaglia (2011) Dev Neurosci. 33:337-348)。齧歯動物における不安はまた、開放空間の中央または持ち上げられた状況などの環境に晒され続けることを嫌がることとしても表現される(Pellow et al, (1985) J Neurosci Methods 14:149-167)。したがって、自発運動または閉鎖空間の嗜好を測定すると、オープンフィールド、連続通路、および高架式十字迷路装置において、不安を指数化することができる。
【0176】
通常、この不安は、繰り返し曝露すると軽減する。不安のこうした軽減は、進行中の行動の増加、したがって、凍結動作の減少または自発運動の増加のどちらかとして反映される。不安におけるこうした減少は、実験状況への馴化として説明することができる。この馴化は、目新しさを知覚することが減少することを反映し、以前の体験の記憶に依存する。すなわち、自発運動は、齧歯動物が試験環境に慣れるので、この環境への繰り返し曝露の間に変化するであろう。この変化は、齧歯動物がその環境に以前に曝露されたという記憶を形成しない場合、起こることはないであろう。したがって、オープンフィールドへの馴化は、齧歯動物において認知能力に障害がある場合、変わり得る。齧歯動物はまた、ある環境を罰の提示と関連させて学ぶことになり、罰を伴う環境への曝露時には、凍結行動を示すことになろう。この応答は、脈絡恐怖条件づけとして知られており、これはやはり、記憶への環境情報をコード化することができる能力に依存する(Garcia et al (1997) J Neurophysiol. 78:76-81)。
b)(i)海馬における樹状突起棘密度、および(ii)精巣重量を含めた、表現型の解剖学的側面も測定した。
c)全リン酸化ERKおよびAktの脳レベルをアッセイした。
【0177】
ERKの活性化は、この神経細胞内のシグナル伝達タンパク質のリン酸化に反映される。ERKは、ヒトの脳において、免疫組織化学により活性化されものとして、通常、明らかにされていない(Perry et al (1999) Neuroreport. 10:2411-2415)。しかし、CNS機能に影響を及ぼす障害では、ERKが異常に活性化され得る。このことは、アルツハイマー病(Perry et al (1999)および自閉症(Zou et al (2011) Genes Brain Behav. 10:615-624)において起こる。ERKのリン酸化はまた、脆弱X症候群において、およびこの障害のfmr1ノックアウトマウスモデルにおいて脳でも起こる(Wang et al (2012) J Neurochem. 121:672-679)。
【0178】
Aktの活性化は、アルツハイマー病(Griffin et al (2005) J Neurochem. 93:105-117)などの脳における病変状態、および自殺者(Karege et al (2007) Biol Psychiatry. 61:240-245)でも見られる。脆弱X症候群では、Aktの異常リン酸化(mToR経路)が脳においても見られる(Hoeffer et al (2012) Genes Brain Behav. 11:332-341)。
脆弱X症候群などの自閉症スペクトラム障害における、ヒトの脳中のERKおよびAktの異常活性化のこうした知見は、脆弱X症候群のfmr1ノックアウトマウスモデルに反映され、したがって、有効なモデルと見なすことができる。
【0179】
動物
Fmr1ノックアウト(fmr1 KOマウスおよび野生型の同腹子(Jackson Laboratory)を、C57BL/6Jバックグラウンド上で生成し、第8世代を超えるために、C57BL/6Jバックグラウンド上に繰り返し戻し交配した。マウスを集団で収容(1ケージ当たり4〜6匹)し、特に明記しない限り、動物すべてに食物および水を自由摂取させた。マウスを、温度管理環境(21±1℃)中、12時間の明/暗周期(19:00〜7:00の間消灯)で維持した。
作業を、1日当たりに行われる作業を1つ以下で、記載されている順序で行った。
試験を開始する前に、動物に1週間の最低順応期間を許した。予防的処置または治療的処置は、順応期間中、行わなかった。健常な動物だけを研究に入れた。
実験中、マウスはすべて、同じ装置で一度試験し、非実験動物は、実験前に数分間、この装置に入れた。次に、この装置を各マウスの試験前に、湿潤ティッシュおよび乾燥ティッシュにより清潔にした。この目的は、実験対象すべてにとって、低いが一定のマウスのバックグラウンド匂いを作り出すことであった。
実験者は、全試験およびデータ解析の間、遺伝子型および処置を知らされていなかった。
実験は、UK Animals(Scientific Procedures)Act、1986の要件に則って行った。
これらの動物を以下の処置群に分けた。
1.fmr1 KO+基剤(食塩水)
2.Wt+基剤(食塩水)
3.fmr1 KO+G−2−MePE(食塩水中100mg/kg)
4.Wt+G−2−MePE(食塩水中100mg/kg)
【0180】
G−2−MePEは、1日1回、食塩水0.1ml中100mg/kgの用量をi.p.で、28日間、投与した。基剤処置動物は、0.1ml食塩水を28日間、毎日注射した。その後、薬物または基剤処置を停止し、すべての試験が終了するまで、動物を連日、試験した。最後に、pAktおよびpERKの発現を決定するために、動物を犠牲にした。
本例において使用する場合、用語「G−2−MePE」、「NNZ」、「NNZ2566」、「NNZ−2566」、および「2566」は、同じ意味を有しており、互換的である。G−2−MePEは、IGF(1〜3)(「GPE」)と比べて、予想外に長いin vivo半減期を有することが示され、すなわち、脆弱X症候群を有するヒトを含めた動物の療法に対する良好な候補と見なされた。
【0181】
1.解剖学的解析
海馬細胞の培養物を野生型およびfmr1 KO胎児マウス(妊娠の14〜16日)から調製した。in vitroで3日後、緑色の蛍光タンパク質(GFP)を使用して、培養の時間的経過中に、樹状突起棘密度をモニターした(Ethell and Yamaguchi, 1999;Ethell et al., 2001, Henkemeyer et al., 2003)。樹状突起棘は、通常、in vitroで7〜14日(DIV)の間で形成される。14DIVまでに、ほとんどの樹状突起物は、棘である。fmr1 KOおよびWTの海馬の一次細胞培養物における、樹状突起棘密度への、G−2−MePE、ポジティブ対照(mGluR5アンタゴニストである、2−メチル−6−(フェニルエチニル)−ピリジンまたはMPEP)、および基剤対照の影響を評価した。Fmr1 KOおよび野生型培養物は、17DIVに処理した。
処置群:
1. 0.5nMのG−2−MePE
2. 5nMのG−2−MePE
3. 50nMのG−2−MePE
4. 20μM濃度のMPEP
5. MPEP−基剤およびG−2−MePE-基剤(食塩水)
【0182】
棘の形態、神経突起増生、およびシナプス形成などの、in vitro薬物効果を検出する能力がある、迅速な薬物試験の可能性を開く、コンパートメント化した培養系であるマイクロ流体チャンバ(
図31Aを参照されたい)を使用した。コンパートメント化チャンバにおける、処置済みおよび未処置ニューロンは、ウエスタンブロット分析のためにも使用することができる。このコンパートメント化培養は、メッセンジャーの順行性および逆行性輸送、ならびにFXSに関連するタンパク質への、薬物の効果を評価する新規な手法である。この領域の免疫検出および処置において、この手法に、もっぱら軸索コンパートメントへの接近を提供する他の新規な可能性も考えられる。
【0183】
統計学的解析
パラメトリックデータは、二元ANOVA(対象因子間としての遺伝子型および性別)を使用して解析した。研究すべてに関して、データを正規分布した。p値<0.05が、全体にわたり、統計学的に有意であると見なした。
【0184】
2.リン酸化ERKおよびAktの発現のウエスタンブロット分析
リン酸化細胞外シグナル制御タンパク質キナーゼ(ERK)およびタンパク質キナーゼB(Akt)の発現は、以前に説明されている通り(Lopez Verrilli et al.2009)、行動実験において処理されたエーテル基剤またはG−2MePE(100mg/kg、i.p.;28日間)を投与したfmr1 KO動物および野生型動物由来のリンパ球において、ウエスタンブロット分析により測定した。ERKは、成長因子伝達、増殖、ストレスおよびアポトーシスに対するサイトカイン応答の原因になる、古典的なMAPKシグナル伝達タンパク質である。Aktは、PI3K/Akt/mTORシグナル伝達経路において、重要な構成要素であり、核内因子κB(NfκB)およびBcl−2ファミリータンパク質などの多くの下流エフェクターに結合して調節することにより、細胞生存および代謝を調節している。
【0185】
ウエスタンブロットを行うために、Akt(1/1000)(細胞シグナル伝達)、ERK1/2(1/2000)(細胞シグナル伝達)、抗ホスホAkt(1/1000)および抗ホスホ−ERK(1/2000)(細胞シグナル伝達)に対して、抗体を使用した。AktおよびERK1/2タンパク質の全含有量(リン酸化されているもの)は、抗ホスホAkt(1/1000)および抗ホスホERK抗体(1/2000)(細胞シグナル伝達)を含む膜をブロッティングすることにより評価した。AktまたはERKリン酸化を、同一試料中のタンパク質含有量に正規化し、基低レベルを100%と見なして、基底条件に対する変化%として表した。タンパク質負荷は、b−アクチン抗体(1/1000)(Sigma Chemical Co.)を含む膜をストリッピングおよび再ブロッティングすることにより評価した。
【0186】
3.行動試験
a.オープンフィールド試験
オープンフィールドは、10cmの正方形に分割した、50×30cmの灰色の周囲を囲ったPVCアリ−ナである。マウスを、試験の5〜20分前に、実験室に持ち込んだ。マウスを隅に面するようにして正方形の隅に置き、3分間観察した。入った正方形(体全部)および立ち上がり(両前肢が地面から離れているが、グルーミングの一部としてではない)数を数えた。最初の立ち上がり(後脚)までの潜伏時間も書き留めた。フィールド周囲のマウスの動きを、300秒間、ビデオ追跡装置(vNT4.0、観測点)により記録した。各試験について、マウスが最も明るいところであるフィールドの中央部分への侵入潜伏時間、この中央領域において消費した総時間、および全行動(cmでの進路長さについて)を、初期曝露、初期曝露の10分後、および初期曝露の24時間後に記録した。
オープンフィールドチャンバに曝露されている間に、マウスは環境に馴化し、したがって、それほど動き回らず、経時的に示される移動が減少した。移動および立ち上がりは、3回の曝露中に記録した。10分間および24時間において、運動または立ち上がりが減少しなかったことは、それぞれ短期間および長期間の記憶に欠陥があることを示した。
【0187】
結果
移動時間
基剤処置fmr1 KOマウスは、基剤処置野生型群と比べて、オープンフィールドにおいてより長い距離を動き、fmr1 KO動物では活動過多であることを実証した。この活動過多は、G−2−MePEの投与により、fmr1 KO動物では元に戻った。fmr1ノックアウトマウスでは、G−2−MePEにより、2回目および3回目の試験で、移動がかなり減少したことが観察され、これらの動物において、試験環境の記憶保持が改善されたこと、および総合的に立ち上がりが減少したこと(すなわち、活動過多の弱化)を示唆した(
図25)。
G−2−MePE処置のこうした効果は、実質的かつ統計的に有意であり、従来技術に基づくと完全に予想外であった。
【0188】
立ち上がり行動
基剤処置fmr1 KOマウスは、基剤処置野生型対照と比べて、立ち上がり行動が増加することを示した。G−2−MePEは、野生型マウスでは効果がないが、fmr1 KOマウスでは、立ち上がり行動がかなり減少した。fmr1 KOマウスは、10分間で馴化を示さず、これは、短期間の記憶欠陥を示すものである。短期間および長期間の記憶試験の間、G−2−MePE処置fmr1 KOマウスは、野生型+基剤対照とは差がなかった(
図26)。
G−2−MePE処置のこうした効果は、実質的かつ統計的に有意であり、従来技術に基づくと完全に予想外であった。
【0189】
b.連続通路試験
連続通路試験を使用して、fmr1 KOマウスにおいて、不安へのG−2−MePEの影響を評価した。装置は、4つの連続した、徐々に不安を惹起する直線的に連結した通路からなる(各連続通路は、より明るい色でペイントされており、低い壁を有し、かつ/または前の通路よりも狭くなる)。動物を端の壁に面するように通路1の閉端に置いた。各通路に最初に侵入した潜伏時間、各通路において消費した時間量、および各通路に侵入した回数を、300秒の全試験時間中に記録した。
結果
野生型マウスは、通路1において最も多くの時間を消費し、次第に、その後の通路ではそれほど時間を消費しなかった。Fmr1 KOマウスは、活動過多であり、すべての通路で時間を消費した。この場合、通路選択の欠如は、FXSモデルマウスの活動過多の性質に関係している可能性が高い。G−2−MePEによる処置により、fmr1ノックアウト動物において、正常な行動パターンに戻り、FXSの行動表現型が元に戻ることと一致した(
図27)。
G−2−MePE処置のこうした効果は、実質的かつ統計的に有意であり、従来技術に基づくと完全に予想外であった。
【0190】
c.高架式十字迷路
高架式十字迷路(EPM)は、不安および自発運動を試験するための、さらなる試験システムである。EPMは、Listerの説明に従って組み立てた(Lister 1987)。手短に言えば、迷路は、十字の形状で、床の高さより上に持ち上げられている、互いに対向した2つの開放アームおよび2つの閉鎖アームからなった。この開放アームは、一層むき出しになっており、したがって、より不安を惹起した。したがって、野生型マウスは、閉鎖アームにおいてより多くの時間を消費し、閉鎖アームにより多く訪れた。マウスは、5分間試験され、それらの行動を記録した。行われた測定には、アームおよび迷路の中央において消費した時間、ならびにアーム侵入の回数が含まれた。
【0191】
結果
野生型マウスと比べて、fmr1ノックアウトマウスは、活動過多および認知障害が組み合わさった行動パターンを示した。驚くべきことに、fmr1ノックアウトマウスは、アーム侵入の総回数がわずかに減少したこと(行動が低下した指標)(
図28A)、および全アーム侵入の百分率として、開放アームになされた侵入の比が明らかに増加したしたこと(
図28B)を示した。この行動表現型は、G−2−MePEを投与されたfmr1ノックアウト動物では観察されなかった(
図28Aおよび28B)。実際に、「パーセント開放アーム侵入」という尺度は、薬物処置により完全に正常化した。中央(ここで、開放アームまたは閉鎖アームへの侵入選択が行われる)において消費した時間は、ベンゾジアゼピンなどの抗不安性化合物による処置により減少することが知られている。基剤処置fmr1ノックアウトマウスは、中央において消費した時間が非常に顕著に増加することを示した(
図28C)。したがって、このことは、どちらのアームに侵入するかというためらいを反映したものであり、突然変異体動物において、認知欠陥の指標となり得る。中央空間で余分に消費した時間(
図28C)は、恐らく、アーム侵入総回数の減少が根底にある。中央で消費した時間は、28日間のG−2−MePE処置により、正常化した。
G−2−MePE処置のこうした効果は、実質的かつ統計的に有意であり、従来技術に基づくと完全に予想外であった。
【0192】
d.脈絡恐怖条件づけ
脈絡恐怖条件づけは、条件づけ(学習)手順の最も基礎となるものである。それは、新規環境(暗チャンバ)に動物を置くこと、嫌忌的な刺激を与えること(脚に、0.2mAの電気ショックを1秒間)、次にその刺激を除くことが含まれる。動物を同じ環境に戻すと、動物が嫌忌的な刺激を伴う環境を記憶して連想する場合、一般に、凍結応答を実証することになろう。凍結は、恐怖に対する種に特異的な応答であり、呼吸を除く運動がなくなるものとして定義される。
脆弱X症候群の臨床的徴候は、精神発達遅滞であり、この場合、学習および記憶が、大いに障害を受ける可能性がある。恐怖条件づけ作業において、G−2−MePEおよび基剤処置fmr1 KO、および野生型動物を試験し、この場合、脈絡に対する応答における凍結行動を測定した。これらの試験では、マウスは、嫌忌的な体験(脚へのショック)と環境的合図(暗チャンバ)との間の相関を学習かつ記憶しなければならなかった。試験前に、0.2mAで1秒間の脚へのショックに対するマウスの反応について、マウスを観察し、それらが刺激を検知した証拠として、両方の遺伝子型において、発声、ジャンプ行動、および過度の走りがあることに気付いた。
【0193】
結果
基剤処置fmr1 KOマウスは、野生型マウスと比べて、条件づけ脈絡に曝露された際の凍結行動の割合がかなり低いことを示した。G−2−MePEにより処置した場合、fmr1 KO群は、G−2−MePE処置野生型群と比較した場合、凍結行動に有意な差を示さなかった。G−2−MePE処置により、fmr1 KOマウスモデルにおいて脈絡恐怖条件づけで見られた欠陥が正常化するものと結論づける。また、基剤と比較して、fmr1 KO動物における凍結行動の率が、統計的に有意(
**)に低下し、fmr1ノックアウトマウスにおいて見られた認知欠陥が元に戻ることを反映すると結論づけた。こうしたG−2−MePE処置の効果は、完全に予想外であった(
図29)。
G−2−MePE処置のこれらの効果は、実質的であり、従来技術に基づくと完全に予想外であった。
【0194】
e.社会的行動
マウスは、社会的な種であり、この種は、群れで、接近、追尾、匂い嗅ぎ、仲間のグルーミング、遭遇に対する攻撃、性的交流、親の行動、巣作り、および眠りを含めた、容易に点数化できる社会的行動に従事する。本研究において、マウスにおける社会的認知および社会的記憶は、反復曝露の際に、親交を誘発するために新しいマウスを臭い嗅ぎに消費した時間の量、および新たな刺激動物が導入された場合に臭い嗅ぎが高いレベルに戻ることを評価することにより評価した。
【0195】
結果
一連の匂い嗅ぎ
Fmr1ノックアウトマウスは、与えられたマウスへの匂い嗅ぎが高まることを示し(基剤処置野生型対照に対して
***p<0.001)(
図30A)、社会的行動において、機能異常があることを示唆した。この影響は、G−2−MePE(100mg/kg、i.p.)による28日間の処置によってなくなった。G−2−MePEは、野生型群では、有意な効果はなかった。G−2−MePE処置fmr1 KO動物の匂い嗅ぎ行動は、G−2−MePE処置野生型群とは、有意な差がなかった。G−2MePEは、fmr1 KOマウスで見られた社会的行動における異常を正常化したと結論づける。G−2−MePE処置fmr1 KO動物は、基剤処置fmr1 KO動物ほど、実質的にかつ統計的に有意に、臭い嗅ぎをしなかったことを示すことも見出した。G−2−MePEのこうした効果は、実質的、統計的に有意であり、従来技術に基づくと完全に予想外であった(
図30A)。
【0196】
種に典型的な行動
マウスは、自発的に、実験室で多くの基材に穴を掘る。この行動は、野生の祖先に起因し、この場合、マウスは、土に埋められている、発見すべき種子、穀物、昆虫、および他の食物、またはマウスの自然の生息場所にある落ち葉を求めて探し回ると思われる。それは一般的な自然の齧歯動物の行動を引き出すものであり、管理された実験室条件下で定量的なデータをもたらし、かつプリオン疾患、脆弱X、系統差、および脳の病変にかなり敏感なことが分かっている。野生型とfmr1 KO群の両方の巣作りおよびガラス玉覆い隠し行動への、G−2−MePEの影響を試験した。
【0197】
結果
図30Bおよび30Cは、fmr1 KOマウスは、野生型マウスほど、ガラス玉覆い隠し(
図30A)および営巣(
図30B)にかなり従事しないことを示している。それらのすべてが種に典型的な行動である、巣作りおよびガラス玉覆い隠しに関する、海馬の病変により生じる強固な障害は、FXS患者において十分に確立されている症状である、空間学習および記憶の障害を補足する。G−2−MePEは、野生型マウスでは、有意な効果はなかった。fmr1 KOマウスにG−2−MePEを投与した後、この群は、G−2−MePE処置野生型群とは有意な差がなかった。G−2−MePE処置により、fmr1 KO動物において、ガラス玉覆い隠し行動が正常化されると結論づける。同じ効果プロファイルが、営巣行動においても見られた。fmr1 KO動物において、G−2−MePEは、ガラス玉覆い隠し行動および営巣行動の両方が増加することも見出した。
G−2−MePE処置のこうした効果は、実質的であり、従来技術に基づくと完全に予想外であった。
【0198】
4.樹状突起棘は、in vitroのfmr1 KOマウスのニューロンにおいて増加する
樹状突起棘数は、正常の野生型動物に比べて、fmr1 KOマウスにおいて増加する。G−2−MePEが、この異常が元に戻るのに有用となり得るかどうかを決定するため、Fmr1 KOマウスのニューロンを、マイクロ流体チャンバ中で培養し、GFPを使用して形態を視覚化した。fmr1 KO動物に由来するニューロンは、対照の培養物(0.26±0.08)と比べると、0.5nMのG−2−MePEにより処置しても、有意な改善を示さず(平均±SD、n=3の独立した実験:0.33±0.07)、5nM(0.29±0.05)でも有意な改善を示さなかったことを観察した。興味深いことに、G−2−MePEを50nMで培養物に添加した場合(0.26±0.10)、WT対照(0.28±0.09)と比較して、樹状突起棘の有意な減少を観察した。これらの値は、一対事後解析により有意な差(p<0.005)となり、従来技術に基づくと完全に予想外であった。
【0199】
5.巨精巣症
Fmr1ノックアウトマウスは、ヒト脆弱X症候群患者(巨精巣症)がそうである通り、精巣サイズおよび重量の増加を示した。WT−基剤注入動物、およびWT−G−2−MePE注入動物、ならびにfmr1 KO−基剤処置動物、およびfmr1 KO−G−2−MePE処置動物における精巣重量を測定した。巨精巣症は、WTの同腹の動物と比較して、fmr1 KOマウスにおいて明白であり、12〜28%の精巣重量の増加を示した。基剤処置野生型マウスにおける精巣の平均重量は18mgであり、基剤処置fmr1ノックアウトマウスでは、22.47mg(p<0.001)であった。G−2−MePE処置WTマウスでは、平均精巣重量は18.36mgであり、fmr1 KOのG−2−MePE処置マウスでは、精巣重量は18.7へとかなり減少した。G−2−MePE処置後のFXSマウスにおける、精巣の縮小という本発明者らの観察を支持して、精巣において、GpI mGluR RNAがかなり多量に発現し、細精管および生殖細胞において、高いレベルでmGluR5とmGluR1の両方が発現するのを伴うことが、Storto(2001)により以前に発表されているが、そこでのそれらの機能は知られていない。しかし、mGluRアンタゴニストによる処置後に、FXSマウスにおける巨精巣症の軽減という矛盾した報告が存在することに留意することは興味深く、(同じ実験室からでさえも)現在のところ、精巣におけるmGluRの役割は、十分に理解されていないことを示している。作用機序にかかわらず、G−2−MePEは、frm1 KO動物において巨精巣症を元に戻すのに有効であることを見出した。
【0200】
G−2−MePEは、野生型マウスにおいて精巣重量にほとんど影響を及ぼさなかった。しかし、G−2−MePE投与は、fmr1ノックアウトマウスにおいて見られる精巣重量の増加を有意に元に戻した(
図32)。G−2−MePEのこうした効果は、実質的、統計的に有意であり、従来技術に基づくと完全に予想外であった。
【0201】
5.Ras−Mek−ERKおよびAkt発現
ニューロンは、脆弱X精神発達遅滞タンパク質により非常に影響を受け、このタンパク質は、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ−Akt−哺乳類ラパマイシン標的(mTOR)、およびRas-ERKシグナル伝達カスケードを介して、局所的な樹状突起翻訳を調節し、mGluR5シグナル伝達カスケードに関与する。これらの経路がG−2−MePE処置により影響を受けるかどうかを決定するため、行動試験が終了した後(G−2−MePEを最後に注射して12日後)、動物を犠牲にして、pERKおよびpAktの発現を測定した。ここで、G−2−MePE(100mg/kg)によるfmr1 KOマウスを4週間処置すると、半定量的ホスホ特異的ウエスタンブロット法によりアッセイすると、リン酸化ERK1/2経路タンパク質のレベルに影響を及ぼすことを実証した。この効果が、G−2−MePEにより最後に処置を行って12日後に、動物で観察されたことは、まったく予想外のことであった。
【0202】
全ERK発現は、fmr1ノックアウトまたは薬物処置のいずれによっても有意に影響を受けなかったが(
図33Cおよび33D)、fmr1 KOのG−2−MePE処置マウスでは、ERK発現レベルの増加が観察された(p<0.05)。
リン酸化ERK(pERK)のレベルによって指標とされる、ERK活性化は、野生型対照と比べて、基剤処置fmr1ノックアウトマウスにおいて増加した(
図33Aおよび33B)。G−2−MePEによる4週間の処置により、fmr1 KO基剤処置マウスと比べて、fmr1 KOマウスの脳において増加したpERKがかなり低下した。ウエスタンブロットを、存在しているGAPDHタンパク質の量に正規化した。fmr1 KO−基剤処置マウスにおいて増加したERK1/2リン酸化(Thr202/Tyr204)は、G−2−MePEによる処置によってかなり低下した(p<0.05)。
脆弱X症候群を有する個体について以前に報告された通り、mTORシグナル伝達、およびmTORにより活性化される別の翻訳イニシエータであるeIF4Fを活性化するタンパク質である、リン酸化Aktのレベルが、基剤処置野生型マウスと比べて、基剤処置fmr1 KOマウスの脳においてかなり増加したことを観察した。総合的に、G−2−MePEにより処置されたfmr1 KOマウスにおける全Aktと比べて(p<0.05)、Aktリン酸化がかなり低下することを観察した(
図34Aおよび34B)。G−2−MePE処置のこうした結果は、実質的、統計的に有意であり、従来技術に基づくと完全に予想外であった。
【0203】
結論
結論として、優れた表面的妥当性を有する脆弱X症候群のモデルである、fmr1ノックアウトマウスにおいて記載した研究は、以下にまとめられている通り、G−2−MePEによる処置の場合にすべてが逆戻りした野生型マウスと比べて、多くの表現型変化があることを明確に実証した。
【0204】
・活動過多:
− fmr1 KOマウスは、オープンフィールド試験、連続通路試験、および高架式十字迷路試験において活動過多を示した。この活動過多は、G−2−MePEにより元に戻った。総合的に、これらのデータは、得られた他の行動試験データ、および脆弱X症候群患者において示される重要な欠陥と一致する。これらの異常は、G−2−MePEによる処置によって元に戻った。
・学習:
− fmr1 KOマウスは、馴化(短期記憶)に欠陥を示し、この欠陥は、G−2−MePE処置により元に戻った。
− fmr1 KOマウスは、脈絡恐怖条件づけにおける学習欠陥を示し、この欠陥は、G−2−MePEにより元に戻った。
・社会的行動および複雑な種に典型的な行動:
− fmr1 KOマウスは、異常な社会的交流を示し、これはG−2−MePEにより元に戻り;
− fmr1 KOマウスは、ガラス玉覆い隠し、および次の建物(next building)において異常を示し、これらは、G−2−MePEにより元に戻った。
【0205】
・CNSおよび末梢形態および分子経路:
− fmr1 KOマウスに由来する海馬のニューロンは、in vitroでの樹状突起棘数の増加を示し、効果は、G−2−MePEにより元に戻り;
− G−2−MePEにより、fmr1 KOマウスの脳において、ERKおよびAktの異常な活性化は元に戻った。
・巨精巣症
− fmr1 KO対照マウスは、巨精巣症を示し、これは、G−2−MePEにより元に戻った。
fmr1欠乏ミラー効果を有するマウスの徴候および症状が、脆弱X症候群(FXS)を有するヒトにおいて見られるので、ならびにfmr1 KOマウスにおける根底にある遺伝子欠損が、FXSを有するヒトと同じであるので、これらの結果は、脆弱X症候群を有するヒトにおいて、効果をかなり予測すると結論づける。
【0206】
fmr1ノックアウト動物において観察されるG−2−MePEの効果は、動物における正常なニューロンおよびシナプス状態を誘発する薬物の能力による可能性が高いと結論づける。この結論は、以下の知見により支持される。(1)G−2−MePEは、約30分間のin vivoでの血漿半減期を有した。(2)fmr1ノックアウト動物の行動試験の正常化は、行動試験を実施する時までに、動物の身体から、G−2−MePEが恐らく完全に洗い流されたかなり後に観察された。(3)pAktおよびpERKの発現の測定は、G−2−MePEが恐らく洗い流されたかなり後に行われた。
したがって、G−2−MePEは、脆弱X症候群および他の自閉症スペクトラム障害を患っているヒトに対する有効な処置となり得ると結論づける。
【0207】
参照文献
本明細書で引用した、以下の参照文献、ならびにすべての特許、特許出願、および他の出版物は、参照により完全に組み込まれている。
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