特表2016-507242(P2016-507242A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-507242(P2016-507242A)
(43)【公表日】2016年3月10日
(54)【発明の名称】核酸の単離
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/34 20060101AFI20160212BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20160212BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20160212BHJP
【FI】
   C12P19/34 Z
   C12Q1/68 A
   C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2015-558426(P2015-558426)
(86)(22)【出願日】2014年2月18日
(85)【翻訳文提出日】2015年10月22日
(86)【国際出願番号】EP2014053154
(87)【国際公開番号】WO2014128129
(87)【国際公開日】20140828
(31)【優先権主張番号】13156609.3
(32)【優先日】2013年2月25日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】514281751
【氏名又は名称】バイオカーティス エヌ ヴイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン アッケル クーン
(72)【発明者】
【氏名】クラース バルト
(72)【発明者】
【氏名】デボゲレール ブノア
(72)【発明者】
【氏名】マルテンス ヘールト
(72)【発明者】
【氏名】サブロン エルヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ホールマンズ パスカル
(72)【発明者】
【氏名】イフェンス タニア
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B064
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA12
4B029GA08
4B029GB10
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QS02
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX01
4B064AF27
4B064CE02
4B064CE08
4B064DA13
(57)【要約】
試料を処理および解析するための改善された組成物ならびに試料を処理および解析する改善された方法を記載する。特に、該組成物および方法は、マイクロ流体システム内での下流の核酸処理が直接可能な核酸を生物学的試料から遊離させる。このような組成物、方法およびキットは、種々の生物学的状態の診断、病期分類あるいは特性評価に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料中に含まれた核酸を放出させるための方法であって:
−生物学的試料を、該試料の少なくとも一部を前記核酸を含むライセートに変換させるための組成物と接触させる工程であって、前記ライセートはマイクロ流体システムによって直接輸送可能である工程;
−該マイクロ流体システム内の該ライセート中に含まれた該核酸を解析する工程
を含む、生物学的試料中に含まれた核酸を放出させるための方法。
【請求項2】
−生物学的試料を、該試料の少なくとも一部を前記核酸を含むライセートに変換させるための組成物と接触させる工程であって、前記ライセートはマイクロ流体システムによって直接輸送可能である工程;
−核酸を該マイクロ流体システム内の該ライセート中で直接解析する工程
を含む、請求項1に記載の生物学的試料中に含まれた核酸を放出させるための方法。
【請求項3】
下流の核酸解析が熱サイクリングを必要とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
下流の核酸解析がPCRを必要とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
試料が固定試料、ワックス包埋試料またはFFPE試料である、請求項1〜4に記載の方法。
【請求項6】
該組成物が、少なくとも非イオン界面活性剤を含む液状化組成物である、請求項1〜5に記載の方法。
【請求項7】
核酸がDNAまたはRNAである、請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
界面活性剤が、式
R−O−(CHCHO)
(式中、n>7;n≧8;もしくはn=8;
および/または
Rは12≦C≦38を含む)
を有する非イオン界面活性剤である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
RがCH(CH−CH=CH−(CH、または、(CH11(CHである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
非イオン界面活性剤がOleth(登録商標)−8である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
生物学的試料から核酸を放出させるための組成物であって:
−該試料の少なくとも一部と接触させると、該試料の少なくとも一部をライセートに変換させ;
−少なくとも、式
R−O−(CHCHO)
(式中、n>7;n≧8;もしくはn=8;
および/または
Rは12≦C≦38を含む)
を有する非イオン界面活性剤を含む、
核酸を放出させるための組成物。
【請求項12】
液状化特性を有する、請求項11および12に記載の核酸を放出させるための組成物。
【請求項13】
非イオン界面活性剤が、式
R−O−(CHCHO)
(式中、RはCH(CH−CH=CH−(CHまたは(CH11(CHである)
を有する、請求項12に記載の核酸を放出させるための組成物。
【請求項14】
非イオン界面活性剤がOleth(登録商標)−8である、請求項13に記載の核酸を放出させるための組成物。
【請求項15】
前記ライセートがマイクロ流体システムによって直接輸送可能である、請求項10〜13に記載の核酸を放出させるための組成物。
【請求項16】
前記ライセートが、該ライセート中での核酸の直接解析のためにマイクロ流体システムによって直接輸送可能である、請求項11〜15に記載の試料から核酸を放出させるための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を処理および解析するための改善された組成物、ならびに、試料を処理および解析する改善された方法に関する。特に、本発明は、核酸を生物学的試料から遊離させて下流の核酸処理を直接行なうことを可能にするための組成物、方法およびキットに関する。このような組成物、方法およびキットは、種々の疾患の診断、病期分類あるいは他の特徴付けに有用である。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体システムおよびマイクロ流体システム同士の組合せは、診断のために魅力的であり、試料の前処理、試料/試薬の取り扱い、分離、反応および検出を含む全解析プロトコルが単一のプラットフォームに統合されて使用されるものであるため、供給源が限定的な状況で許容される。現在使用されている細胞の溶解方法は、機械的溶解、熱的溶解、化学的溶解または電気的溶解に基づいたものである。マイクロ流体検知システムでは、細胞または試料が溶解されたら、あるいは核酸が試料から遊離されたら、センサーに送られる前に核酸の精製または濃縮が必要とされる。広範な核酸抽出方法が利用可能であり、各々では、具体的な試料型に対して種々の型の化学的検査が適用され、最適化される。既存の抽出方法のほとんどは、その複雑な性質のため、マイクロ流体プラットフォームに統合することが適切でないか、または抽出工程の際に有意な核酸の損失がもたらされる。
【0003】
疾患の診断および予後の指標を評価するために、さまざまな生物学的試料が個体から採取される。新鮮組織検体、固定包埋試料および微細針吸引生検体(FNA)は、多くの場合、これらが疾患の検出のための生検体の組織学検査のために採取されたヒト検体に由来するものであるため、分子情報ならびに臨床的情報の両方を得るための重要な情報源である。固定剤(これにより、さまざまな(免疫−)組織化学的手順のための試料が調製される)で処理された組織は、核酸とアミノ酸間のさまざまな架橋性修飾を受ける(チャウ ワイ.エフ.エム.(Chaw Y.F.M.)ら バイオケミストリー(Biochemistry) 1980,19:5525−5531;メッツ ビー.(Metz B.)ら ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(J.Biol.Chem) 2004.279:6235−6243)。固定された組織は、次いで、固めた包埋物質(寒天、ゼラチンまたはワックスなど)の塊の中に封入され、組織学的試験のために1〜2個の細胞の層という薄い層厚の薄片に切断される。他の試料供給源からの核酸抽出と比べて、固定包埋試料薄片からの核酸抽出では包埋物質の除去というさらなる工程が必要とされる。
【0004】
組織試料を固定および保存するためにホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)を使用することは、ほぼ普遍的である。パラフィンを可溶化してFFPE試料から核酸を遊離させるいくつかの慣用的なプロトコルが利用可能である(ギルバート.エム.ティ.ピー.(Gilbert M.T.P.)ら,プロス ワン(PLoS One) 2007,2(6):e537)。従来の脱パラフィン方法は、有機溶媒(通常、キシレン)が使用される液状化工程から始め、続いて核酸抽出工程を行なう(ゲルツ(Goezl)ら,バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーション(Biochemical and Biophysical Research Communication)1985,Vol.130 No.1,p118−126)。キシレンは、可燃性、揮発性、毒性およびプラスチックと不適合性があり、自動化システムにおける使用にあまり適さないという大きな欠点を有する。
【0005】
組織薄片試料からの核酸の調製は、典型的にはプロテイナーゼ工程、ほとんどの場合では界面活性剤の存在下での熱安定性プロテアーゼとのインキュベーションにより核酸を放出させ、下流の核酸解析に支障をきたし得る阻害物質を分解することが必要とされる。放出される核酸の量は、多くの場合、薄片中に実際に存在する組織が非常にわずかであるため微量であり、FFPE組織薄片の場合は、核酸は高頻度で分解されている。そのため、慣用的な方法では、ほとんどの場合で、自動化システムにおいて下流センサーに送られる前に核酸を濃縮する必要がある。
【0006】
脱パラフィンのための無毒性溶液が探求されており、FFPE試料に適用可能な核酸回収方法の改善が実験室規模レベルで得られるようになってきている(例えば、WAXFREE(商標) Kit(Trimgen製)、ExpressArt FFPE Clear RNAready Kit(Amplification Technologies製)、BiOstic(商標) FFPE Tissue Isolation Kit(Mo Bio Laboratories製)、および、QuickExtract(商標) FFPE DNA Extraction Kit(Epicentre製))。
【0007】
かかる改良の一例がWO2012/075133に記載されており、パラフィンまたはパラフィンブレンドなどの疎水性マトリックスに包埋された試料からのインサイチュ核酸単離のための方法が示されている。この場合、熱安定性プロテアーゼと、アルキレングリコール、ポリアルキレングリセロール、もしくは、76〜2900Daの平均分子量を有するブロックコポリマーまたは塩から選択される添加剤との存在下で乳化ライセートを作製する。種々の添加剤、例えばPEG200、PEG400、PEG1000、Brij30、Brij35P、Brij56およびBrij76が試料の乳化に使用される。乳化ライセートは、穏やかなカオトロープ(例えば、尿素またはホルムアミド)と加熱の存在下で得られる。該方法では、パラフィンの物理的分離の必要性および脱パラフィン工程でのキシレンなどの有機溶媒の使用が排除される。しかしながら、後続の乳化ライセートからの核酸の抽出には、依然として例えばポリメラーゼ連鎖反応による核酸定量などのさらなる下流のアプリケーションが必要とされ、かかる方法はマイクロ流体システムと適合性がない場合があり得る。
【0008】
核酸抽出プロトコルをマイクロ流体プラットフォームに統合するには、収量を最適にして核酸の損失を最小限にするための大きな努力が必要とされる。さらに、抽出は試料調製手順において時間のかかる工程でもある。また、抽出では、溶出される核酸のサイズの偏り(小断片の損失)が生じ、これは、分解された核酸を含むFFPE試料から核酸を単離する場合、特に問題となる。したがって、FFPE試料を含む広範な生物学的試料から核酸を、自動化マイクロ流体システムでの処理および下流での直接解析が可能な状態で得るために一様に適用可能な方法では、既存の方法と比べて大きな利点を得ることができるだろう。特に、一部の特定の核酸断片が失われ、長さと純度の偏りが生じるリスクのない、自動化マイクロ流体システムでの処理および下流での直接解析が可能な状態のFFPE試料は、既存の方法と比べて大きな利点をもたらし得る。
【0009】
したがって、試料調製プロセスを改善し、種々の生物学的試料中の核酸の自動化ハイスループット処理および検出を可能にする必要性が存在している。
【発明の概要】
【0010】
本発明により、増幅プロセスなどの下流のアプリケーションに支障をきたす状況の生物学的試料から遊離された核酸を提供する。本明細書に記載の組成物および方法により、下流の核酸解析前の別途の核酸抽出工程の要件が排除される。試料調製の本プロセスおよび組成物は、自動化処理を可能にし、マイクロ流体核酸診断システムへの実装に特に適する。本発明により従来技術の欠点が解決され、従来の方法では想定されない他の利点が得られ得る。
【0011】
特に、本発明により、増幅プロセスなどの下流のアプリケーションに支障をきたす状況の生物学的試料から遊離された核酸をマイクロ流体システム内で提供する。本明細書に記載の組成物および方法により、別途の核酸抽出工程の要件が排除され、核酸抽出工程の必要性が排除され、潜在的偏りが低減され、遊離された核酸を下流の核酸解析前に希釈する必要性が排除される。
【0012】
一般的な観点において、本発明の一態様は、
マイクロ流体システム内での核酸の直接解析が可能な核酸を生物学的試料から放出させるための方法を提供することにあり、
−試料を組成物と、下流の核酸解析システムと適合性のあるライセートがもたらされる条件下で接触させる工程
を含む。
【0013】
特に、本発明の一態様は、
マイクロ流体システム内での核酸の直接解析が可能な核酸を生物学的試料から放出させるための方法を提供することにあり、
−試料を組成物と、下流の核酸解析システムと適合性のあるライセートがもたらされる条件下で接触させる工程、および
−核酸を該ライセート中で直接解析する工程
を含む。
【0014】
より詳しくは、本発明の一態様は、
マイクロ流体システム内での核酸の直接解析が可能な核酸を生物学的試料から放出させるための方法を提供することにあり、
−試料を組成物と、下流の核酸解析システムと適合性のあるライセートがもたらされる条件下で接触させる工程、
−該ライセートをマイクロ流体システム内で核酸解析のために処理する工程、および
−核酸を該ライセート中で直接解析する工程
を含む。
【0015】
より詳しくは、本発明の一態様は、
マイクロ流体システム内での核酸の直接解析が可能な核酸を生物学的試料から放出させるための方法を提供することにあり、
−試料を組成物と、下流の核酸解析システムと適合性のあるライセートがもたらされる条件下で接触させる工程、および
−該マイクロ流体システム内の未希釈のまたは希釈が最小限の該ライセート中で核酸を直接解析する工程
を含む。
【0016】
より詳しくは、本発明の一態様は、
マイクロ流体システム内での核酸の直接解析が可能な核酸を生物学的試料から放出させるための方法を提供することにあり、
−試料を組成物と、下流の核酸解析システムと適合性のあるライセートがもたらされる条件下で接触させる工程、
−該ライセートをマイクロ流体システム内で核酸解析のために処理する工程、および
−該マイクロ流体システム内の未希釈または希釈が最小限の該ライセート中で核酸を直接解析する工程
を含む。
【0017】
特に、本発明の一態様は、生物学的試料中に含まれた核酸を放出させるための方法であって、
−生物学的試料を、該試料の少なくとも一部を前記核酸を含むライセートに変換させるための組成物と接触させる工程であって、前記ライセートはマイクロ流体システムによって直接輸送可能である工程;
−該マイクロ流体システム内の該ライセート中に含まれた該核酸を解析する工程
を含む方法を提供することである。
【0018】
より特別には、本発明の一態様は、生物学的試料中に含まれた核酸を放出させるための方法であって、
−生物学的試料を、該試料の少なくとも一部を前記核酸を含むライセートに変換させるための組成物と接触させる工程であって、前記ライセートはマイクロ流体システムによって直接輸送可能である工程;
−該核酸を該マイクロ流体システム内の該ライセート中で直接解析する工程
を含む方法を提供することである。
【0019】
本発明の方法は、本発明の方法と組成物とを併用して核酸測定の感度と精度を高めるために共働させることを包含している。
【0020】
したがって、本発明の一態様はまた、
生物学的試料から放出された核酸をマイクロ流体システム内で解析するための方法を提供することにあり、この方法には、
−試料を組成物と、下流の核酸解析システムと適合性のあるライセートがもたらされる条件下で接触させる工程、および
−核酸を該ライセート中で直接解析する工程
が組み込まれる。
【0021】
好ましくは、すべての態様において、核酸は、該マイクロ流体システム内の該ライセート中で直接解析される。
【0022】
本発明のさらなる一態様は、
生物学的試料から放出された核酸をマイクロ流体システム内で解析するための方法を提供することにあり、この方法には、
−試料を組成物と、下流の核酸解析システムと適合性のあるライセートがもたらされる条件下で接触させる工程、
−マイクロ流体システム内の該ライセートを核酸の直接解析のために処理する工程、および
−核酸を該ライセート中で直接解析する工程
が組み込まれる。
【0023】
具体的な実施形態において、本発明の方法は、新鮮組織試料および/または新鮮凍結組織試料および/または固定組織試料および/または包埋組織試料に対して適用可能である。具体的な実施形態において、生物学的試料は生検試料、固定試料、ワックス包埋試料および/またはFFPE試料である。
【0024】
具体的な実施形態において、本発明の方法で使用される組成物は、液状化特性を有するものである。好ましい実施形態では、この方法は、生物学的試料を含むワックスのワックスを液状化および/または溶解させることに適用可能である。
【0025】
具体的な実施形態において、本発明の方法で使用される組成物は、本明細書に記載の組成物の本質的な特性と同様の特性を有するものであった。
【0026】
したがって、本発明の別の態様では、マイクロ流体システム内での核酸の直接解析が可能な核酸を生物学的試料から放出させるための組成物を提供し、該組成物は、下流の核酸解析システムと適合性のある界面活性剤を含むものである。好ましくは、生物学的試料から核酸を放出させるための組成物であって、マイクロ流体システム内のライセート中での核酸の直接解析が可能な該ライセートを形成するための組成物を提供し、該組成物は下流の核酸解析システムと適合性のある界面活性剤を含むものである。好ましくは、該組成物は試料と接触させるとライセートをもたらすものであり、該ライセートは未希釈形態で下流の核酸解析システムと適合性がある。好ましくは、該ライセートは未希釈形態または低倍率希釈形態で下流の核酸解析システムと適合性がある。好ましい実施形態では、該組成物は乳化特性を有し、下流の核酸解析と適合性のある非イオン界面活性剤を含むものである。好ましくは、非イオン界面活性剤は、式R−O−(CHCHO)Hを有するものであり、式中、n>7、n≧8、またはn=8;Rは12≦C≦38を含むものであり、Rはアルキル鎖であり、RはCH(CH−CH=CH−(CHであるか、またはRは(CH11(CH)である。好ましくは、非イオン界面活性剤は、C13(イソ−トリデシル)脂肪族アルコールPEGエーテルまたはオレイルアルコールPEGエーテルである。最も好ましくは、該界面活性剤はOleth(登録商標)−8である。Oleth(登録商標)−8は(Z)−3,6,9,12,15,18,21,24−オクタオキサドテトラコント−33−エン−1−オール(CAS番号27040−03−5)に相当する。
【0027】
特定の実施形態では、該組成物は、少なくとも非イオン界面活性剤、熱安定性プロテアーゼおよびpH緩衝剤を含むものであり、加熱下でワックス含有試料と接触させる場合の乳化ライセートを作製するために特に有用であり、該乳化ライセートは未希釈形態で、核酸解析のためのマイクロ流体システムと適合性があり、該システムによって直接処理され得る。好ましくは、乳化ライセートは未希釈形態または低倍率希釈形態で、核酸解析のためのマイクロ流体システムと適合性があり、該システムによって直接処理され得る。
【0028】
本発明のさらなる一態様は、マイクロ流体解析装置によって直接処理され得る核酸を試料から得るためのキットを提供することであり、該キットは少なくとも本発明の組成物を備えている。
【0029】
本発明のこれらおよびさらなる特徴は、特許請求の範囲および本明細書に示す詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】異なる2つの方法を用いてFFPE組織試料から得た液化ライセートのPCR適合性を示すグラフである。X軸は増幅サイクル数を表し;Y軸は相対蛍光単位(RFU)(103)を表す。増幅曲線は、デタージェントOleth(登録商標)−8含有液状化組成物(灰色)および市販の液状化バッファー(黒)を表し;バツ印の曲線はほぼ未希釈の試料を表し、丸印の曲線は4倍希釈試料を表す。低倍率希釈試料は80/20比のライセート/PCR増幅ミックスを表す。
図2】市販のバッファーとマイクロ流体qPCRシステムとの不適合性を示す写真である。丸印は市販のバッファーをマイクロ流体通液路を通してポンプ輸送した後のPCRチャンバ内における気泡の形成を表す。
図3】種々のDNA抽出/液状化方法後における、種々の量のメラニンを有するFFPE黒色腫試料由来のDNAに対して行なった実施アッセイを示すCqグラフである。X軸はFFPE試料を表し;Y軸は、得られたCq値を表し;バーは、市販の溶液を用いたDNA液状化(黒)、カラム系DNA抽出(濃い灰色)、および本発明によるDNA液状化(薄い灰色)を表す。小さい値ほどqPCR閾値が低く、したがってDNA解析の感度の改善を示す。
図4】実施例5で使用した高メラニン含有試料FFPE1、FFPE2およびFFPE3の視覚的表示である。
図5】温度上昇を併用した試料の液状化(A)およびHIFU処理と合わせた温度上昇を併用した試料の液状化(B)を示す写真である。
図6a】液化物質(×)ならびに代表的なFFPE試料(FFPE1)の単独の連続する10μm切片からのシリカ抽出RNA(□)で得られたqRT−PCR曲線である。
図6b】液化物質(×)ならびに代表的なFFPE試料(FFPE2)の単独の連続する10μm切片からのシリカ抽出RNA(□)で得られたqRT−PCR曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
生物学的組織試料からの核酸抽出のための手法では、一般的に2つの別個の工程:a/組織の消化、続いてb/核酸の精製が行われる。ワックス含有試料からの核酸抽出のための手法では、一般的に、3つの別個の工程:a/脱ワックス;続いてb/組織の消化;およびc/核酸の精製が行われる。総合的にみて、これらの方法は、ほとんどが高頻度で時間がかかり、および/または、完全に統合された診断システムに直接移行可能でなく、これは、ほとんどの場合、核酸抽出に複雑な試薬(例えば、エタノール)および下位工程(試料の遠心分離など)が必要とされるため、またはプラスチックとの不適合性(キシレン)もしくはフルイディックス(例えば、チャネル内での気泡形成による)のためである。ここで、本明細書において提供する方法および組成物により、試料からの事前の核酸精製を必要とすることなく、生物学的試料由来、例えばワックス含有試料由来の核酸の直接解析が可能になる。
【0032】
本明細書において、本発明により、種々の生物学的試料、例えばワックス含有試料から核酸を放出させるための組成物を提供する。該組成物は、マイクロ流体システム内での核酸の直接解析が可能である核酸を試料から放出させるための方法において、および、試料から放出された核酸をマイクロ流体システム内で解析するための方法において、用途が見出されている。具体的な適用では、該方法は、生物学的試料を組成物と、該試料からの核酸の放出が可能であるライセートがもたらされる条件下で接触させる工程を含み、該ライセートは、下流の核酸解析のために設計されたマイクロ流体システムと適合性がある。該ライセートは液状試料であり、単純なライセートであってもよく、あるいはまたプロテアーゼなどの酵素とのインキュベーションによる結果物であってもよい。本明細書において、「ライセート」の使用は、特に記載のない限り「ライセート」、「液状試料」または「消化物」を意味する。ライセートは、該ライセートから放出された核酸のさらなる精製を必要としない核酸の直接解析のための用意ができたものである。核酸はライセート中で直接解析され得る。
【0033】
核酸の直接解析は、溶解工程の際に使用したデタージェント、タンパク質、塩および試薬からの核酸の精製を必要としない、放出された核酸のライセート中での解析をいう。該方法は、自動化マイクロ流体システムでの処理および下流の直接解析が可能な条件下で、一部の特定の核酸断片が失われ、長さと純度の偏りが導入されるリスクを伴うことなく、広範な生物学的試料から核酸を得るために、一様に適用可能である。例えば、エタノール沈殿、フェノール−クロロホルム抽出またはミニカラム精製は必要とされない。精製工程を使用しない場合は遺伝情報が代表的であることが予測される。核酸解析、特に核酸増幅は、一部の場合では、例えば増幅酵素の強力な阻害物質の希釈、該酵素を不安定にする物質の希釈などという理由のため、低倍率希釈形態のライセートが必要とされる場合があり得る。核酸解析、特に核酸増幅は、核酸の増幅を行なうための物質の添加を必要とするものであっても、そうでなくてもよく、それに応じて最初のライセートの低倍率希釈が行なわれ得る。試料のさらなる下流処理に必要とされる物質は乾燥形式で供給してもよく、ライセートに直接溶解させてもよい。
【0034】
低倍率希釈形態は、核酸ライセートが核酸ライセート増幅物質で希釈されていることをいい、いずれの場合も未希釈から2倍希釈までの範囲である。
【0035】
したがって、本発明は、
−試料を組成物と、下流の核酸解析システムと適合性のあるライセートがもたらされる条件下で接触させる工程、
−該ライセートをマイクロ流体システム内で核酸解析のために処理する工程、および
−核酸を該ライセート中で直接解析する工程
を含む、マイクロ流体システム内での核酸の直接解析が可能な核酸を生物学的試料から放出させるための方法を提供する。
【0036】
特に、本発明は、生物学的試料中に含まれた核酸を放出させるための方法を提供し、この方法は、
−生物学的試料を、該試料の少なくとも一部を前記核酸を含むライセートに変換させるための組成物と接触させる工程であって、前記ライセートはマイクロ流体システムによって直接輸送可能である工程;
−該マイクロ流体システム内の該ライセート中に含まれた該核酸を解析する工程
を含む。
【0037】
特に、本発明は、生物学的試料中に含まれた核酸を放出させるための方法を提供し、この方法は、
−生物学的試料を、該試料の少なくとも一部を前記核酸を含むライセートに変換させるための組成物と接触させる工程であって、前記ライセートはマイクロ流体システムによって直接輸送可能である工程;
−該核酸を該マイクロ流体システム内の該ライセート中で直接解析する工程
を含む。
【0038】
よって、本発明は、生物学的試料から放出された核酸をマイクロ流体システム内で解析するための方法を提供し、この方法には、
−試料を組成物と、下流の核酸解析システムと適合性のあるライセートがもたらされる条件下で接触させる工程、
−マイクロ流体システム内の該ライセートを核酸の直接解析のために処理する工程、および
−核酸を該ライセート中で直接解析する工程
が組み込まれる。
【0039】
より特別には、本発明は、生物学的試料から放出された核酸をマイクロ流体システム内で解析するための方法を提供し、この方法には、
−マイクロ流体システム内で試料を組成物と、下流の核酸解析システムと適合性のあるライセートがもたらされる条件下で接触させる工程、
−該ライセートを前記マイクロ流体システム内で核酸の直接解析のために処理する工程、および
−核酸を該ライセート中で直接解析する工程
が組み込まれる。
【0040】
「核酸」(および等価な用語「ポリヌクレオチド」)は、本明細書で用いる場合、ヌクレオチドサブユニット間にホスホジエステル結合を含むリボヌクレオシドまたはデオキシリボヌクレオシドのポリマーをいう。核酸としては、限定されないが、ゲノムDNA、cDNA、hnRNA、mRNA、rRNA、tRNA、マイクロRNA、断片化核酸、細胞内小器官、例えばミトコンドリアから得られる核酸、および試料上または試料中に存在し得る微生物またはウイルスから得られる核酸が挙げられる。核酸は二本鎖であっても一本鎖であってもよく、環状であっても線状であってもよい。好ましくは、核酸は生物学的試料から放出される。核酸はDNAおよびRNAで構成されたものであり、RNAは好ましくは全RNAである。「試料または生物学的試料」は、核酸および/または細胞性物質を含むさまざまな生物学的供給源を包含していることを意図する。核酸および/また細胞性物質は、1種類以上の特定のマーカーが存在するかどうかを調べるための試験対象細胞由来のものである。包含される試料は、細胞培養物由来の試料、真核生物微生物または診断用試料、例えば、体液、体液析出物、洗浄液検体、微細針吸引物、生検試料、組織試料、がん細胞、患者由来の細胞、組織由来の細胞あるいは試験対象の個体由来のインビトロ培養細胞および/または疾患もしくは感染を処置した個体由来のインビトロ培養細胞、または法医学的試料である。体液試料の非限定的な例としては、全血、骨髄、脳脊髄液、腹水、胸膜液、リンパ液、血清、血漿、尿、乳糜、大便、精液、痰、乳頭吸引物、唾液、スワッブ検体、洗浄液(wash fluid)、灌流液(lavage fluid)および/またはブラシ採取検体が挙げられる。
【0041】
特定の実施形態では、試料は、新鮮試料、新鮮凍結試料、微細針吸引物、保存のために処理済みであり、固定処理による反応性部位の架橋を含み得る試料、ワックス接触もしくはワックス包埋試料、またはFFPE薄片の形態のFFPE試料である。新鮮凍結試料は、OCT−化合物中などの冷凍固化性媒体中で硬化させて包埋した試料である。微細針吸引物には、本明細書で用いる場合、限定されないが、遠心分離後にワックス包埋した細胞(事前の固定処理あり、またはなし)が包含される。
【0042】
「ワックス」は、組織化学技術分野で組織化学的解析または他の解析のために生物学的試料を包埋するために使用され、通常、高級炭化水素、多くの場合、例えばエステルまたは高級脂肪酸と高級グリコールの複合混合物からなるものであり、起源が鉱物、天然または合成のものであり得る組成物をいう。
【0043】
パラフィンは、組織化学分野で最も一般的に使用されているワックスの一例である。用語「パラフィン」は、一般式C2n+2を有する炭化水素を示す「アルカン」と同義的に使用される。本明細書で用いる場合、用語「パラフィン」は、パラフィンワックスおよびパラフィンブレンドの型の包埋媒体を包含する。「パラフィンワックス」は、20≦n≦40の範囲に含まれるアルカンの混合物をいう。パラフィンブレンドは、さらに、包埋手順においてパラフィンの特性を向上させ得る物質を包含する。
【0044】
化学固定剤は、組織を分解から保護し、細胞および細胞内成分の構造の維持を補助するものである。包埋生物学的試料は、一般的に、ホルマリン固定パラフィン包埋試料(FFPE試料)の形態で保存または保管される。「FFPE」は、中性緩衝ホルマリン(通常、リン酸緩衝生理食塩水中4%のホルムアルデヒド)に曝露することによって処理した組織または細胞であって、続いて、疎水性マトリックス、例えば、パラフィンまたはパラフィンブレンド中に、該パラフィンまたはパラフィンブレンドが該組織または細胞中に浸潤するように充分に浸漬されたものである組織または細胞をいう。
【0045】
実施例のセクションに示した非限定的な一例として、本発明の方法は黒色腫試料に対して成功裡に実施される。したがって、本発明の特定の実施形態では、試料は、生物学的状態、例えば健康状態、疾患または感染について調べている個体由来の生物学的試料である。あるいはまた、試料は、生物学的状態は診断されたが予後または治療的介入、例えば、処置選択肢または処置の成果について調べている個体由来のものである。具体的な実施形態では、生物学的状態が疾患であり、新生物障害、特に腫瘍またはがんを伴うものである。
【0046】
生物学的状態、疾患、感染または治療的介入に対する応答はマーカーの使用により評価され得る。
【0047】
「マーカー」、「試験マーカー」、「バイオマーカー」または「生物学的マーカー」は、客観的に測定および評価される指標であり、特定の生物学的状態に特異的な細胞性成分をいう。マーカーは、核酸またはタンパク質成分またはその一部分であり得る。好ましくは核酸、DNAまたはRNAである。
【0048】
一実施形態において、マーカーは、限定されないが、疾患または感染と関連している転座、マイクロサテライト、対立遺伝子、変異、単一ヌクレオチド多型(SNP)、挿入、欠失、スプライスバリアント、トランスポゾン、マイクロRNAの発現プロフィールなどを包含していることを意図する。一部の実施形態では、SNP、挿入、欠失または転座を確認するためにDNAが使用される。他の実施形態では、発現レベルを確認するためにRNAが使用される。発現レベルは、最終的にSNPまたは他の遺伝的変異と関連付けられ得る。実施例のセクションは、本発明の方法がBRAF遺伝子の存在を検出するために成功裡に使用されたことを示す。この遺伝子の変異型の存在を検出するための特異的アッセイが存在している(例えば、ハンフォード(Hamfjord)ら,ディアゴノステック
モレキュラー ファソロジー(Diagn Mol Pathol) 2011;20:158−165に基づいたもの)。したがって、特定の実施形態では、マーカーは、がんもしくは疾患の処置の成果の予測、処置に適する患者の選択、採用すべき処置計画の選択または処置計画の変更の選択のために、がんまたは疾患の診断または予後に適用可能なマーカーである。特定の実施形態では、マーカーには、疾患と関連している核酸の修飾、好ましくは、変異、SNP、挿入、欠失または転座が包含される。
【0049】
本発明の方法では、試料は組成物と接触させて、核酸を放出させるライセートを供給し、この組成物はマイクロ流体解析装置での使用のために最適化させる。該組成物はマイクロ流体システムによって輸送可能なものである。したがって、提供される方法の特定の実施形態では、かかる接触工程は、マイクロ流体システム自体において行なわれるものであってもよく、これに代えて、マイクロ流体システム解析の前に実験者による手作業のピペッティングを必要とするものであってもよい。したがって、特定の実施形態では、マイクロ流体システムは試料を受容し、解析前に本発明の方法を用いて該試料を処理するものであり得る。特定の実施形態では、上記システムは事前に調製したライセートを受容して解析するものである。
【0050】
「接触させる」とは、試料と組成物を、一緒に合わせること、曝露すること、インキュベートすること、または混合することを意図する。
【0051】
本発明の方法は、本発明の物理的方法(加熱、HiFuなど)および生化学的方法(酵素、塩、還元剤など)と組成物を併用して核酸測定の感度と精度を高めるために共働させることを包含している。実施例のセクションに示すように、該組成物を加熱およびHIFUに供することにより、撹拌または振盪と併用した加熱に供した組成物と比べて改善された乳化能がもたらされる。特に、60℃あたりの温度(例えば、60℃±1℃;60℃±2℃、60℃±3℃、60℃±4℃、60℃±5℃)まで加熱することにより改善された乳化効果がもたらされる。好ましい実施形態では、温度を室温から60℃まで段階的に上昇させた後、HIFU処理を行なう。好ましくは、HIFU出力は2.25Wを超えない。
【0052】
「放出させる」とは、遊離させること、得ることおよび/または架橋を元に戻すことをいう。核酸を試料から遊離させるためには、該組成物によるプロテアーゼ活性およびpH緩衝が必要とされ得る。放出には、該組成物による、検査対象の試料中に存在する核酸以外の成分の潜在的析出活性および固定剤の除去/溶解が必要とされ得る。放出には、加熱または高密度焦点式超音波(HIFU)などの条件が必要とされ得る。FFPE試料から得られる核酸は、典型的には、ヌクレオチド同士の架橋およびヌクレオチドタンパク質間の架橋、塩基修飾ならびに核酸の完全性に影響を及ぼす他の化学修飾を含むものである。
【0053】
一実施形態において、ライセートおよび/または試料から放出された成分は、微細加工診断解析装置でマイクロ流体システムを用いて処理される。「マイクロ流体システム」は小規模の、典型的にはミリメートル未満の規模に幾何学的に制約された、流体の挙動、厳密な制御および操作を取り扱うシステムをいう。小容量の流体は、必要とされるサイズが小さくエネルギー消費が少ないマイクロ規模で移動、混合、分離あるいは処理される。マイクロ流体システムとしては、マイクロ空圧システムなどの構造物、すなわち、オフチップ流体(圧力源、液ポンプ、マイクロバルブなど)の取り扱いのためのマイクロシステム、ならびにマイクロリットル、ナノリットルおよびピコリットル容量(マイクロ流体チャネルなど)のオンチップの取り扱いのためのマイクロ流体構造物が挙げられる。マイクロ流体システムは、検出、ならびに試料の前処理および試料調製などのアッセイ作業を1つのシステムに統合するを目的としたものである。マイクロ流体解析を実施するためのデバイスおよび方法は、DNAマイクロアレイもしくはタンパク質マイクロアレイをベースにしたバイオチップおよび/または熱サイクリング(例えば、PCR、LCRなど)を実施するためのデバイスおよび/または配列決定するためのデバイスが組み込まれたものであり得る。本発明の特定の実施形態では、マイクロ流体システムは、システム外での試料および液状化バッファーの操作が必要とされる微細加工解析システムが組み込まれたものである。好ましい実施形態では、マイクロ流体システムには、本発明の方法に記載のライセートを準備するための工程が統合されており、試料投入から結果が出るまでのアッセイを完結させる完全統合型システムである。したがって、核酸解析に関して、マイクロ流体システムは、核酸の調製および放出ならびにマーカー解析(例えば、標的の増幅および検出)が同時に実施される統合型マイクロシステムであり得る。特に、本発明の方法は、生物学的試料を、マイクロ流体システム内の該試料の少なくとも一部を前記核酸を含むライセートに変換させるための組成物と接触させる工程(前記ライセートは該マイクロ流体システムによって直接輸送可能である)、および、核酸を該マイクロ流体システム内の該ライセート中で直接解析する工程を含むものである。したがって、本発明の方法に従って作製されるライセートは、このようにマイクロ流体システムによって直接輸送可能なものであるのがよい。
【0054】
好適なマイクロシステムは、EP1896180、EP1904234およびEP2419705に記載されており、本明細書の説明である特定の実施形態に適宜組み込まれる。好ましくは、1つ以上の反応チャンバと1つ以上の流体チャンバを含むカートリッジ系システムが使用される。一部の流体チャンバには、試料からライセートを作製するために使用される流体が収容され得る。他のチャンバには、洗浄用流体および増幅溶液などの流体が収容され得る。反応チャンバは、異なる検出工程、例えば洗浄、溶解および増幅を行なうために使用される。
【0055】
本明細書の説明である好ましい実施形態では、アッセイの実施に必要とされるすべての試薬がマイクロ流体デバイス内に、該デバイスが核酸アッセイを行なうための内蔵型使い捨て装置となるように予め配置されている。好適な手段としては、DNAマイクロアレイもしくはタンパク質マイクロアレイをベースにしたバイオチップおよび/または熱サイクリング(例えば、PCR、LCRなど)を実施するためのデバイスおよび/または配列決定のための手段が挙げられる。好ましくは、マイクロ流体システムは、熱サイクリング、好ましくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、または、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を実施するための手段が組み込まれたものである。PCR法は当該技術分野でよく知られており、核酸の融解の反応のための加熱および冷却ならびに該核酸の酵素的複製の反復サイクルからなるサーマルサイクリングに依存するものである。かかる増幅反応には、典型的には、標的核酸および反応成分、例えば、熱安定性DNAポリメラーゼ(例えば、Taqポリメラーゼ)、核酸合成の開始に必要とされるヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド(例えば、プライマー、プローブ、ブロッカーなど)が使用される。好ましい適用では、マイクロシステムは、マイクロ流体デバイス内に存在させた乾燥形態の試薬を用いた熱サイクリングを負荷するものである。試料を本発明に記載のようにして処理するとライセートが形成され、マイクロ流体デバイス内に予め配置された試薬が試験の時点でこのライセートによって再構成される。したがって、このライセートにより、該ライセート中で直接の下流の核酸解析が可能になる。典型的には、ライセートおよび必要に応じて試薬をアッセイの実施に指向させるためにマイクロ空圧コントローラが使用される。アッセイは、エンドポイント検出を含むものであってもリアルタイム検出を含むものであってもよく、どちらの方法も当該技術分野でよく知られている。
【0056】
実施例のセクションで用いているPCR関連の専門用語:
「Cq」は、蛍光が閾値を超えて増大したときの部分サイクル数である定量サイクルをいう。また、Ct(閾値サイクル)とも称される。
「閾値」は、Cq測定に使用される任意単位の蛍光レベルをいい、増幅プロットのベースラインより上で対数増殖期内に設定するのがよい。
「ベースライン」は、蛍光の変化がほとんどまたはまったくないPCRの初期サイクルをいう。
「増幅プロット」は、サイクル数に対する蛍光シグナルのプロットをいう。
「RFUまたは相対蛍光単位」は、蛍光検出を用いる解析に使用される測定単位である。
【0057】
また、本発明の一態様は、マイクロ流体システム内での核酸の直接解析が可能な核酸を生物学的試料から放出させるための組成物を提供することであり、該組成物は下流の核酸解析システムと適合性のある界面活性剤を含むものである。好ましくは、該組成物は、試料と接触させるとライセートをもたらすものであり、該ライセートは未希釈形態で該ライセート中で直接下流の核酸解析が可能であり、また、該ライセートは下流の核酸解析システムと適合性がある。重要なこととして、該ライセートはマイクロ流体システムによって直接輸送可能なものであるのがよい。特定の実施形態では、該組成物は乳化活性を有するものであり、少なくとも界面活性剤、好ましくは非イオン界面活性剤を含むものである。好ましくは、ライセートは未希釈形態または低倍率希釈形態である。
【0058】
「エマルジョン」は、通常、非混和性(混合不能またはブレンド不能)である2種類以上の液の混合物である。乳化剤(emulsifier)(“emulgent”としても知られている)はエマルジョンをその速度論的安定性を増大させることにより安定化させる物質である。乳化剤の一類型は「表面活性物質」または界面活性剤として知られている。
【0059】
「界面活性剤」は、本明細書で用いる場合、液体の表面張力、2種類の液体間の界面張力、または液体と固体間の界面張力を低下させる化合物をいう。このような表面活性剤は、一般的に疎水性部分と親水性部分を含むものである。界面活性剤は、数あるなかでも乳化剤として作用し得るものであり得る。界面活性剤は、1つ以上の荷電基を含んでいるかどうかに応じてアニオン系、ノニオン系、両性イオン系またはカチオン系に類別され得る。
【0060】
非イオン界面活性剤は、無電荷の極性基を含むものであり、電荷は有していない。非イオン界面活性剤の例は:BigCHAP(すなわち、N,N−ビス[3−(D−グルコンアミド)プロピル]コラミド);ビス(ポリエチレングリコールビスプミダゾイル(bispmidazoyl)カルボニル]);ポリオキシエチレンアルコール、例えば、Brij(R)30(ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル)、Brij(R)35(ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル)、Brij(R)35P、Brij(R)52(ポリオキシエチレン2セチルエーテル)、Brij(R)56(ポリオキシエチレン10セチルエーテル)、Brij(R)58(ポリオキシエチレン20セチルエーテル)、Brij(R)72(ポリオキシエチレン2ステアリルエーテル)、Brij(R)76(ポリオキシエチレン10ステアリルエーテル)、Brij(R)78(ポリオキシエチレン20ステアリルエーテル)、Brij(R)78P、Brij(R)92(ポリオキシエチレン2オレイルエーテル);Brij(R)92V(ポリオキシエチレン2オレイルエーテル)、Brij(R)96V、Brij(R)97(ポリオキシエチレン10オレイルエーテル)、Brij(R)98(ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル)、Brij(R)58P、およびBrij(R)700(ポリオキシエチレン(I OO)ステアリルエーテル);クレモフォール(R)EL(すなわち、ポリオキシエチレングリセロールリシノレート(thhcinoleat)35;ポリオキシル35ヒマシ油);デカエチレングリコールモノドデシルエーテル;デカエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル;デカエチレングリコールモノトリデシルエーテル;N−デカノイル−N−メチルグルカミン;n−デシル[アルファ]−D−グルコピラノシド;デシル[ベータ]−D−マルトピラノシド;ジギトニン;n−ドデカノイル−N−メチルグルカミド;n−ドデシル[アルファ]−D−マルトシド;n−ドデシル[ベータ]−D−マルトシド;ヘプタエチレングリコールモノデシルエーテル;ヘプタエチレングリコールモノドデシルエーテル;ヘプタエチレングリコールモノテトラデシルエーテル;n−ヘキサデシル[ベータ]−D−マルトシド;ヘキサエチレングリコールモノドデシルエーテル;ヘキサエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル;ヘキサエチレングリコールモノオクタデシルエーテル;ヘキサエチレングリコールモノテトラデシルエーテル;Igepal(R)CA−630(すなわち、ノニルフェニル−ポリエチレングリコール、(オクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノール、オクチルフェニル−ポリエチレングリコール);メチル−6−O−(N−ヘプチルカルバモイル)−[アルファ]−D−グルコピラノシド;ノナエチレングリコールモノドデシルエーテル;N−ノナノイル−N−メチルグルカミン;オクタエチレングリコールモノデシルエーテル;オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル;オクタエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル;オクタエチレングリコールモノオクタデシルエーテル;オクタエチレングリコールモノテトラデシルエーテル;オクチル−[ベータ]−D−グルコピラノシド;ペンタエチレングリコールモノデシルエーテル;ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル;ペンタエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル;ペンタエチレングリコールモノヘキシルエーテル;ペンタエチレングリコールモノオクタデシルエーテル;ペンタエチレングリコールモノオクチルエーテル;ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル;ポリエチレングリコールエーテルW−1;ポリオキシエチレン10トリデシルエーテル;ポリオキシエチレン100ステアレート;ポリオキシエチレン20イソヘキサデシルエーテル;ポリオキシエチレン20オレイルエーテル;ポリオキシエチレン40ステアレート;ポリオキシエチレン50ステアレート;ポリオキシエチレン8ステアレート;ポリオキシエチレンビス(イミダゾリルカルボニル);ポリオキシエチレン25プロピレングリコールステアレート;キラヤ樹皮由来のサポニン;ソルビタン脂肪酸エステル、例えば、Span(R)20(ソルビタンモノラウレート)、Span(R)40(ソルビタンモノパルミテート)、Span(R)60(ソルビタンモノステアレート)、Span(R)65(ソルビタントリステアレート)、Span(R)80(ソルビタンモノオレエート)、およびSpan(R)85(ソルビタントリオレエート);ポリエチレングリコールの種々のアルキルエーテル、例えば、Tergitol(R)Type 15−S−12、Tergitol(R)Type 15−S−30、Tergitol(R)Type 15−S−5、Tergitol(R)Type 15−S−7、Tergitol(R)Type 15−S−9、Tergitol(R)Type NP−10(ノニルフェノールエトキシレート)、Tergitol(R)Type NP−4、Tergitol(R)Type NP−40、Tergitol(R)Type NP−7、Tergitol(R)Type NP−9(ノニルフェノールポリエチレングリコールエーテル)、Tergitol(R)MIN FOAM 1×、Tergitol(R)MIN FOAM 2×、Tergitol(R)Type TMN−10(ポリエチレングリコールトリメチル(thmethyl)ノニルエーテル)、Tergitol(R)Type TMN−6(ポリエチレングリコールトリメチルノニルエーテル)、Triton(R)770、Triton(R)CF−10(ベンジル−ポリエチレングリコールtert−オクチルフェニルエーテル)、Triton(R)CF−21、Triton(R)CF−32、Triton(R)DF−12、Triton(R)DF−16、Triton(R)GR−5M、Triton(R)N−42、Triton(R)N−57、Triton(R)N−60、Triton(R)N−101(すなわち、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル;ポリオキシエチレン分枝ノニルフェニルエーテル)、Triton(R)QS−15、Triton(R)QS−44、Triton(R)RW−75(すなわち、ポリエチレングリコール260モノ(ヘキサデシル/オクタデシル)エーテルおよび1−オクタデカノール)、Triton(R)SP−135、Triton(R)SP−190、Triton(R)W−30、Triton(R)X−15、Triton(R)X−45(すなわち、ポリエチレングリコール4−tert−オクチルフェニルエーテル;4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル−ポリエチレングリコール)、Triton(R)X−100(t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノール;ポリエチレングリコールtert−オクチルフェニルエーテル;4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル−ポリエチレングリコール)、Triton(R)X−102、Triton(R)X−114(ポリエチレングリコールtert−オクチルフェニルエーテル;(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル−ポリエチレングリコール)、Triton(R)X−165、Triton(R)X−305、Triton(R)X−405(すなわち、ポリオキシエチレン(40)イソオクチルシクロヘキシルエーテル;ポリエチレングリコールtert−オクチルフェニルエーテル)、Triton(R)X−705−70、Triton(R)X−151、Triton(R)X−200、Triton(R)X−207、Triton(R)X−301、Triton(R)XL−80N、and Triton(R)XQS−20;テトラデシル−[ベータ]−D−マルトシド;テトラエチレングリコールモノデシルエーテル;テトラエチレングリコールモノドデシルエーテル;テトラエチレングリコールモノテトラデシルエーテル;トリエチレングリコールモノデシルエーテル;トリエチレン(thethylene)グリコールモノドデシルエーテル;トリエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル;トリエチレングリコールモノオクチルエーテル;トリエチレングリコールモノテトラデシルエーテル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、例えば、TWEEN(登録商標)20(ポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート)、TWEEN(登録商標)20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、TWEEN(登録商標)21(ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノラウレート)、TWEEN(登録商標)40(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート)、TWEEN(登録商標)60(ポリエチレングリコールソルビタンモノステアレート;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート)、TWEEN(登録商標)61(ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノステアレート)、TWEEN(登録商標)65(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンthステアレート)、TWEEN(登録商標)80(ポリエチレングリコールソルビタンモノオレエート;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)、TWEEN(登録商標)81(ポリオキシエチレン(5)ソルビタンモノオレエート)、およびTWEEN(登録商標)85(ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエート);チロキサポール;n−ウンデシル[ベータ]−D−グルコピラノシド、MEGA−8(オクタノイル−N−メチルグルカミド);MEGA−9(ノナノイル−N−メチルグルカミド);MEGA−10(デカノイル−N−メチルグルカミド);メチルヘプチルカルバモイル グルコピラノシド;オクチル−グルコピラノシド;オクチル−チオグルコピラノシド;オクチル−[ベータ]−チオグルコピラノシド;ならびにその種々の組合せである。
【0061】
実施例のセクションに示すように、非イオン界面活性剤、例えば、R−O−(CHCHO)Hの式(式中、エチレンオキシド数は7より大きい(n>7))を有するポリグリコールエーテルを含む組成物での試料の処理により、別途の核酸単離工程を必要としない熱サイクリングの用意ができたライセートがもたらされる。
【0062】
好ましい実施形態では、非イオン界面活性剤は、式R−O−(CHCHO)Hを有するCx脂肪族アルコールPEGエーテルであり、
式中、n>7;n≧8;もしくはn=8;および/または
Rが12≦C≦38を含むものである;好ましくはRがC13を含むものである;
好ましくはRがC38を含むものである;最も好ましくはRがCH(CH−CH=CH−(CH(オレイルもしくはシス−9−オクタデセニル)であるか;または最も好ましくはRが(CH11(CHである。
【0063】
このように、特定の実施形態では、nは7、8、9、10、11、12またはそれ以上である;および/またはRはC12、C13、C14、C15、C16、C17、C18、C19、C20、C21、C23、C24、C25、C26、C27、C28、C29、C30、C31、C32、C33、C34、C35、C36、C37、C38を含むものである。非イオン界面活性剤は鎖状であってもよく、分枝構造を有するものであってもよい。非イオン界面活性剤は周囲温度で液状であってもよく固形であってもよい。
【0064】
好ましい実施形態では、8つのエチレンオキシド残基を有する非イオン界面活性剤はC13脂肪族アルコールPEGエーテル;イソ−トリデシル脂肪族アルコールPEGエーテル;またはオレイル脂肪族アルコールPEGエーテルである。
【0065】
最も好ましくは、非イオン界面活性剤は、Genapol(登録商標)X−080であり、Rが(CH11(CHであり、nが8である。
【0066】
最も好ましくは、非イオン界面活性剤はOleth(登録商標)−8であり、RはCH(CH−CH=CH−(CHであり、nは8である。
【0067】
Genapol(登録商標)X−080はSigma−Aldrich(登録商標)で市販されている化学製品であり、そのケミカル・アブストラクツ・サービス番号(CAS番号)は9043−30−5である。Oleth(登録商標)−8は(Z)−3,6,9,12,15,18,21,24−オクタオキサドテトラコント−33−エン−1−オール(CAS番号27040−03−5)に相当する。
【0068】
実施例のセクションに示すように、液状化組成物はOleth(登録商標)−8を含む。非イオン界面活性剤は約0.10〜約0.40%、約0.15〜約0.35%、約0.20〜約0.30%、約0.25%または0.25%で存在する。Oleth(登録商標)−8のストック溶液は、通常DMSO(50%w/v)で作製されるため、好ましい組成物の一例はさらにDMSOを含むものである。したがって、DMSOは、組成物中に存在するOleth(登録商標)−8の量に相対する量で存在する。非イオン界面活性剤が約0.35%または0.25%で存在するならば、DMSOが約0.35%または0.25%で存在する。
【0069】
慣用的な液状化方法では、液状化組成物中に有機溶媒が組み込まれるか、またはかかる下流のアプリケーションを可能にするための有機溶媒が使用される。既に述べたように、これは、核酸などの成分をワックス包埋試料から単離するための方法において特にそうである(例えば、パラフィンを溶解させるためのキシレン)。本発明の方法では有機溶媒が必要とされず、非イオン界面活性剤が組み込まれた本発明の方法により、包埋ワックスの除去および有機溶媒の使用なしでの成分の遊離の自動化が可能になるという利点を有する。これは、遊離された核酸が、例えば下流(downscale)の増幅処理のような酵素活性が必要とされる下流(downscale)のアプリケーションに支障をきたす条件および環境におかれるため、特に有益である。したがって、特定の実施形態では、液状化組成物は有機溶媒を含んでいない。好ましい実施形態では、ワックス包埋薄片を液状化バッファー中に浸漬させることにより液状化を行なう。典型的には、総試料面積はパラフィン含めて、約20cm〜約1mmの間で種々である。例えば、20cmの総試料面積では4cmの5枚の薄片が得られ得る。典型的には、ワックス包埋薄片の量は約50μm〜約3μm、約40μm〜約3μm、約30μm〜約3μm、約20μm〜約3μm、約15μm〜約5μm、約13μm〜約5μm、約12μm〜約5μm、約11μm〜約5μm、約10μm〜約5μmの間、10μm、9μm、8μm、7μm、6μmまたは5μmで種々である。典型的には、薄片は、約10ml〜約50μL、約5ml〜約250μL、約1ml〜約500μLの範囲の容量の液状化組成物で液化される。好ましくは、薄片は、約1ml、900μL、800μL、700μLまたは600μLの液状化組成物中で液化される。より好ましくは、薄片は、約1ml、900μL、800μL、700μL、600μL、500μL、400μL、300μLまたは200μLの液状化組成物中で液化される。
【0070】
特定の実施形態では、該組成物はさらにタンパク質分解酵素を含む。プロテアーゼはプロテイナーゼとしても知られているタンパク質分解酵素であり、タンパク質の消化に関与する。好ましい実施形態では、プロテアーゼは、有効性を損なうことなく適度な温度まで加熱することができる熱安定性プロテアーゼ、例えばプロテイナーゼKである。改変された、または天然に存在する熱安定性プロテアーゼの他の例は当該技術分野でよく知られている。組成物中のプロテアーゼの濃度は約0.1μg/ml〜約5000μg/ml、約1μg/ml〜約4000μg/ml、約10μg/ml〜約3000μg/ml、約100μg/ml〜約2000μg/mlである。好ましくは、該濃度は約500μg/ml〜約1500μg/ml、約600μg/ml〜約1400μg/ml、約800μg/ml〜約1200μg/ml、約900μg/ml〜約1100μg/ml、約950μg/ml〜約1050μg/mlであるか、または約0.1、1、2、3、4、5、10、15、20、30、50、75、100、125、150、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1500μg/mlもしくはその間の任意の範囲である。好ましい一実施形態では、組成物中のプロテアーゼの濃度は約1000μg/mlまたは1000μg/mlである。核酸の増幅はプロテアーゼの失活後に行なわれる。したがって、核酸の直接解析にはプロテアーゼ失活工程が含まれ得る。
【0071】
試験結果を改善するための方法の1つは、与えられた試料から得られるシグナルを増大させることである。シグナルの増大は、数あるなかでも、標的への到達可能性を増大させることにより得ることができる。特定の条件、例えば、加熱温度、HIFU、曝露時間、混合および緩衝などの実施により乳化ライセートの量および標的分子の遊離で改善され得る。
【0072】
特定の実施形態では、試料から核酸を遊離させるための液状化組成物は加熱を必要とする。具体的な実施形態において、乳化ライセートの作製に適した条件は、液状化組成物を、生物学的試料から核酸を放出させるのに適した温度でインキュベートすることを必要とするものである。可溶化時間に影響を及ぼす因子としては、温度、検体切片の厚みおよびワックスの組成が挙げられる。本発明の方法におけるインキュベーションは、所望の核酸が試料から意図する解析のために充分な量と濃度で放出されるのに適した時間と温度でなされる。特定の実施形態では、インキュベーションは、室温(20℃)から高温までの種々の温度で行なわれる。特定の実施形態では、インキュベーションは約35℃〜約99℃、約45℃〜約95℃、約52℃〜約90℃、約60℃〜約80℃、約55℃〜約65℃の範囲の温度で行なわれる。好ましくは、インキュベーションは55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、60℃、61℃、62℃、63℃、64℃または65℃の温度でなされる。初期温度の後、組成物中に存在する酵素(例えば、タンパク質分解酵素)の機能を失活させるために高温にされ得る。典型的な失活温度は約90℃〜約99℃、約92℃〜約97℃で種々である。好ましくは失活温度は約95℃である。
【0073】
典型的には、ワックス包埋検体を本発明の液状化組成物と、ワックス包埋検体の全部または一部が可溶化させるのに充分な時間接触させる。約2分間から約20分間までの種々のインキュベーション時間で良好な結果が得られた。本願記載の実施例では、液状化は、1枚の10μmのFFPE薄片を1mlの液状化組成物中に浸漬させた後、60℃で20分間および95℃で10分間加熱することにより行なった。実施例のセクションに示すように、乳化ライセート中に放出されたDNAは、パラフィンおよび/または核酸のキシレンまたはエタノールでの抽出を必要としない直接マイクロ流体解析に適したものであった。
【0074】
試料および液状化組成物を混合および加熱するための慣用的な方法は当該技術分野でよく知られている。小容量適用および微細加工解析装置での処理では、試料の加熱およびマイクロキャビテーションのために高密度焦点式超音波(HIFU、または場合によってはFUSとも略記される)を適用することが有益であり得る。特定の実施形態では、HIFUは加熱のため、または加熱工程後に適用される。好ましい実施形態では、HIFU出力は約2ワット〜約15ワット、約6ワット〜約9ワットの範囲である。好ましくは、HIFU出力は2ワット〜10ワット、またはその間の任意の範囲である。最も好ましくは、HIFU出力は4ワット、またはそれより低い任意の値である。好ましくは、HIFU出力は2、2.25、2.5、2.75、3、3.25、3.5、3.75または4ワットであり、5〜20分間適用される。
【0075】
特定の実施形態では、組成物は、約pH6〜約pH10、約pH7〜約pH9の範囲である緩衝能を有する。典型的には、本発明の組成物は10mM Tris pH8を含むものである。
【0076】
本発明の方法における組成物での試料の処理によりライセートがもたらされる。
本発明の一部の実施形態では、非イオン界面活性剤を含むライセートは、乳化ライセートであろうとなかろうと、下流の核酸解析と適合性があることが要件である。そのため、さらなる処理には、非イオン界面活性剤を含む組成物(例えば、液状化組成物、乳化ライセート)の充分な希釈が必要とされ得る。充分な希釈係数は約5倍〜約2倍、4倍〜約4倍〜約2倍、またはその間の任意の範囲の範囲である。好ましくは、組成物は約3倍に希釈される。好ましい一実施形態では、組成物を試料と接触させることにより得られるライセートは、未希釈形態でさらなる下流処理および核酸解析に使用される。さらに好ましい一実施形態では、組成物は約2倍に希釈される。
【0077】
増幅の不足の最も一般的な原因は、試験対象試料の1種類以上の望ましくない成分が核酸精製時に充分に排除されていない場合の増幅阻害である。さまざまな組織の色素細胞に含まれるメラニンは、標準的なDNA/RNA手順において核酸と共精製され、その存在はPCR、RT−PCRまたは他の下流の核酸解析方法に対して阻害効果を有する。この問題は、メラニンを核酸から、例えば、カラムクロマトグラフィー、濾過、核酸沈殿、BSAの添加によって、または阻害物質に対して感受性の低いポリメラーゼの使用によって分離することにより回避され得る。本発明の実施例のセクションに示すように、この問題は、メラニンによる増幅の阻害を抑制する非イオン界面活性剤を含む充分な液状化組成物を供給することにより解決される。したがって、特定の実施形態では、液状化組成物には、メラニンによる増幅の阻害を抑制する非イオン界面活性剤が必要とされる。さらに、非イオン界面活性剤は、例えば限定はされないが、ヘモグロビン、ヘム、ミオグロビン、免疫グロブリン(immunoglobin)、ラクトフェリン、タールまたはコラーゲンなどの阻害物質による増幅の阻害を抑制するものであり得る。
【0078】
したがって、ライセートは、該ライセート中に存在する放出された核酸の精製を必要とせずに核酸の直接解析のための処理が可能である。しかしながら、必ずしも必要ではないが、ライセートの一部または全部を核酸の抽出または単離のための手順に供してもよい。これは一部の特定のアッセイセットアップでは好都合であると思われる。核酸抽出に適用可能な方法は当該技術分野でよく知られている。
【0079】
前述の一般説明および詳細説明はどちらも例示的および説明的なものであるにすぎず、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものでないことは理解されよう。本明細書において、特に記載のない限り単数形の使用は複数形を包含している。本明細書において、特に記載のない限り「または(もしくは)」の使用は「および/または」を意味する。用語「〜を含む」(“including”、“includes”または“included”)の使用は非限定的である。
【0080】
セクションの見出しは編成の目的のためにすぎず、記載の主題を限定するものと解釈すべきでない。本明細書において挙げた文献、例えば特許、特許出願、論文および書籍はすべて、引用によりその全体が任意の目的のために明示的に組み込まれる。
【実施例】
【0081】
実施例1.FFPE試料からの核酸放出のための液状化方法
ヒトFFPE試料を液状化組成物と接触させて、核酸が放出される乳化ライセートを得た。組成物には、組織試料の消化がパラフィンの存在下で行なわれるようにパラフィンの乳化を可能にする添加剤を含める。組成物は、非イオンデタージェントを含む液状化バッファーである。液状化組成物は、10mM Tris pH8、0.25%Oleth(登録商標)−8および1mg/mlのプロテイナーゼKからなるものである。Oleth(登録商標)−8のストック溶液はDMSO(50%w/v)で作製するため、組成物はさらに0.25%のDMSOを含む。55℃〜65℃の種々の適用加熱条件および2分間〜20分間の種々のインキュベーション時間で良好な液状化結果が得られた。本記載の実施例では、液状化は、1枚の10μmのFFPE薄片を1mlの液状化組成物中に浸漬させた後、60℃で20分間および95℃で10分間加熱することにより行なった。さらなる実施例に示すように、乳化ライセート中に放出されたDNAは、パラフィンのキシレンまたはエタノールでの抽出を必要としない直接マイクロ流体解析に適したものであった。
【0082】
実施例2.液状化とカラム系抽出でのDNA収量の比較
カラム系抽出方法および本記載の液状化手順によって得た10μmのFFPE薄片のDNA収量を比較した。カラム系DNA抽出は、Qiagen QIAamp DNA FFPE Tissue Kitを用いて、製造業者の使用説明書に従って行なった。溶出後、抽出されたDNAの容量を、液化DNAとの比較が可能となるように1mlに調整した。DNA濃度を、Qubit蛍光光度計2.0のQubit dsDNA BR アッセイキットを用いて、製造業者の使用説明書に従って測定した。ΔCq(Liq−Extr)は、液化DNAとカラム抽出DNAのCqの差を表す;Cq値は、野生型BRAF遺伝子についてハンフォード(Hamfjord)ら(ディアゴノステック モレキュラー ファソロジー(Diagn Mol Pathol) 2011;20:158−165)に基づいてTaqMan(登録商標)系qPCR反応を行なうことにより得た。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示すように、試料2(これは、本発明の液状化方法後のDNA収量と比べた場合、抽出方法後のDNA収量の方が高かった)を除くすべての試料でDNA収量は液状化方法での方が高かった。また、表1の右端の列に示すように、液状化とカラム系抽出で得られたDNAのCq値の差は、液状化条件の方が、より多くの標的DNAのコピーが増幅され得ることを示す。DNAの定量結果と整合して、試料2のみでマイナスのΔCq値が示され、この液化薄片中の増幅可能なDNAが少ないことに対応する。
【0085】
実施例3.市販の液状化方法を用いたDNAのqPCRの機能性
本発明の乳化ライセート中および市販の液状化組成物QuickExtract(商標) FFPE DNA Extraction Solution(Epicentre,Madison,Wisconsin)中で遊離されたDNAのqPCRの機能性を比較した。10μmのFFPE薄片の液状化およびその後のqPCR解析を先の実施例に記載のようにして行なった。市販の液状化組成物(Epicentre QuickExtract(商標) FFPE DNA Extraction Solution)の容量を、本発明の液状化組成物との1:1の比較が可能となるように調整した。得られた液化ライセートをqPCR用の供給物質として使用した;反応は25μlの反応容量で、ハンフォード(Hamfjord)ら(ディアゴノステック モレキュラー ファソロジー(Diagn Mol Pathol) 2011;20:158−165)に基づいた野生型BRAF遺伝子についてのTaqMan(登録商標)系検出反応を用いて行なった。
【0086】
図1に、デタージェントOleth(登録商標)−8含有乳化ライセート中のFFPE試料から遊離されたDNA(灰色)と市販の液状化組成物中のFFPE試料から遊離されたDNA(黒)に関する増幅結果を示す。バツ印の曲線は、ほぼ未希釈の乳化ライセート試料(20μL/5μL,鋳型/PCRミックス)での増幅を表し、丸印の曲線は4倍希釈の乳化ライセート試料での増幅を表す。80%鋳型条件下では、市販の液状化組成物はPCRを完全に阻害し、したがってqPCR解析を可能にするためにさらに4倍希釈が必要であった。対照的に、デタージェントOleth(登録商標)−8を含む本発明の液状化組成物は下流の直接PCR解析と適合性があり、より多くの鋳型DNA(高コピー数)をPCRに使用することが可能となり、それによりPCR解析の感度が改善される。
【0087】
実施例4.マイクロ流体システム内での液状化組成物の機能性
いくつかの液状化組成物の機能性をマイクロ流体システム処理において調べた。
3種類の異なるFFPE試料の液状化を、4種類の異なるバッファー(デタージェントあり/なしおよびプロテイナーゼKあり/なし)を用いて、各条件に対して単独の連続する10μmのFFPE薄片を用いて行なった。試料の液状化およびPCR処理は、EP1896180、EP1904234およびEP2419705に記載のマイクロ流体システムにおいて行なった。試料を1mlの液状化組成物中で液化させ、前述の条件を用いて加熱した。得られた液化混合物を未希釈でqPCR用の供給物質とし、前述の増幅条件を使用した。増幅可能なDNAを試験対象の液化混合物に関して、野生型BRAF遺伝子のqPCRによって評価した。
【0088】
表2に、デタージェントを含む組成物で得られたΔCq値をデタージェントなしの参照組成物と比較してまとめる。マイクロ流体カートリッジ内のマイクロ流体の通液路の状況では、Oleth(登録商標)−8などのデタージェントが液状化組成物に添加されてCq値が下がり(平均3.8)、これはデタージェントなしの参照組成物と比べて改善されたDNAの遊離を示す。プロテイナーゼKの添加によってCq値がさらに改善される(平均1.5)。したがって、液状化組成物へのデタージェントの添加により、3種類のFFPE試料からのDNAの放出において改善がみられる。
【0089】
【表2】
【0090】
また、マイクロ流体システム内での市販の液状化バッファーQuickExtract(商標) FFPE DNA Extraction Solution(Epicentre,Madison,Wisconsin)の機能性も試験した。市販の液状化バッファーをマイクロ流体カートリッジのマイクロ流体通液路を通して5つのPCRチャンバに再現可能にポンプ輸送すると気泡の形成がもたらされた(図2、丸印のPCRチャンバ)。このような気泡は、PCRチャンバへの充填後のqPCR解析を障害するため回避されるべきである。対照的に、Oleth(登録商標)−8含有液状化バッファーをPCRチャンバに移送した場合は気泡は観察されず、Oleth(登録商標)−8の物理化学的特性はカートリッジのマイクロ流体と適合性があることを示す。
【0091】
実施例5.PCR阻害物質の存在下での液状化組成物の機能性
よく知られたPCR阻害物質であるメラニンを種々の量で含む試料のDNA抽出または液状化後の成績を比較した。試料1つあたり1枚のFFPE薄片をi)800μLのOleth(登録商標)−8含有液状化組成物中で液化させるか、またはii)市販の液状化組成物(Epicentre QuickExtract(商標) FFPE DNA Extraction Solution)中で液化させるか、またはiii)カラム系抽出方法(Qiagen QIAamp DNA FFPE Tissueキット)を用いて製造業者の使用説明書に従って処理し、200μLのHOもしくはTE中で溶出させるか、のいずれかとした。液状化は先に記載のとおりに行ない、得られた混合物を未希釈でPCR用の供給物質として使用した。qPCR反応は記載のとおりに行なった。図3は、種々の量のよく知られたPCR阻害物質であるメラニンを含む5種類の異なるFFPE試料のqPCRの成績に対するDNA遊離手順の効果を示す。試料1〜4は多量のメラニンを含む(例えば、試料4では>95%)が、試料5はメラニンを含まない。本発明の液状化組成物では市販の液状化組成物と比べて、メラニンの存在に関係なく優れたDNAのPCR増幅がもたらされる。本発明の液状化組成物では、概して、高メラニン含有試料に対し、カラム系DNA抽出と比べてより良好な下流プロセスとの適合性がもたらされる。これは、例えば、異なる方法後のFFPE4に関する図3に示したCq値から明白である。メラニンが存在しない場合は同様の成績が観察された。したがって、すぐにわからないか、または既知でない他のリアルタイムPCR阻害物質が試料中に存在する場合があり得、これに対して請求項に記載の組成物により成績の改善がもたらされる。図4は、この実験で使用した3種類の高メラニン含有試料の視覚的表示である。
【0092】
実施例6 ベンチでの溶解およびIdyllaカートリッジの溶解チャンバ内での溶解での液状化バッファーの乳化能
両条件について、同じFFPE塊から連続的に切断した1枚の10μm薄片を1mlの液状化バッファー中に浸漬させた。ベンチプロトコルでは、薄片を60℃まで15分間、1.5ml容チューブ(エッペンドルフ)内でヒートブロック(エッペンドルフ)を用いて、振盪(800rpm)しながら昇温させた。カートリッジでは、ペルチェ(加熱)とピエゾ(高密度焦点式超音波またはHIFU)機能化の併用によって、温度を約5分間で段階的に上げた(室温、45℃、50℃、54℃および58℃)。最後の工程では、温度を60℃まで上昇させ、2.25Wを絶対に超えないHIFU出力下で10分間維持した。両処理後、0.5mlを光学的透明性の高い丸底チューブ(5ml BD falcon)に移し、室温まで冷却し、最大出力でボルテックスした。見た目は同一の2つの薄片を同じバッファーおよび容量中で液化させたが、HIFU処理ではベンチ加熱/振盪と比べて卓越したパラフィンエマルジョンが得られる。HIFU処理ではボルテックス後、再現可能により多くの不透明な液状物(liquefact)がもたらされ、チューブの壁面上のパラフィン堆積物(矢印)が少ない。
【0093】
実施例7.液化物質およびシリカ抽出RNAで得られたqRT−PCR曲線
上記の図は、代表的な2つのFFPE試料(FFPE1およびFFPE2)の単独の連続する10μm切片での液化物質およびシリカ抽出RNAで得られたqRT−PCR曲線を示す。液状化条件のRNA鋳型物質は、FFPE切片を上記の液状化方法により処理することにより得た。手短にいうと、FFPE切片を液状化組成物と接触させ、60℃まで15分間、続いて95℃まで10分間、1.5ml容チューブ(エッペンドルフ)内でヒートブロック(エッペンドルフ)を用いて、振盪しながら(800rpm)加熱した。シリカ抽出条件のRNA鋳型物質は、FFPE切片を、Qiagen QIAamp RNA FFPE Tissue Kitを用いて製造業者の使用説明書に従って処理することにより得た。続いて、各方法によって得た5μLの鋳型を25μLのqRT−PCR反応液中で、ハウスキーピング遺伝子B2MでのRNA特異的アッセイを用いて解析した。
【0094】
図7は、FFPE切片からのRNAの遊離液状化またはシリカ抽出方法のいずれかを使用することにより、同様の閾値サイクル(C)が得られることを示す。
したがって、乳化ライセート中で放出されたRNAは直接マイクロ流体解析に適したものであった。
【0095】
当業者には、本明細書を検討し、本明細書に開示した発明を実施することにより本発明の他の実施形態が明らかとなろう。本明細書および本実施例は例示にすぎないとみなされたく、本発明の真の範囲および精神は以下の特許請求の範囲に示されていることを意図する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
【国際調査報告】