特表2016-507455(P2016-507455A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2016-507455少なくとも1つの少なくとも二機能性多孔質層で被覆された透明基材、特にガラス基材、その製造方法及び使用
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  • 特表2016507455-少なくとも1つの少なくとも二機能性多孔質層で被覆された透明基材、特にガラス基材、その製造方法及び使用 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-507455(P2016-507455A)
(43)【公表日】2016年3月10日
(54)【発明の名称】少なくとも1つの少なくとも二機能性多孔質層で被覆された透明基材、特にガラス基材、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/25 20060101AFI20160212BHJP
   C03C 17/38 20060101ALI20160212BHJP
   G02B 1/111 20150101ALI20160212BHJP
【FI】
   C03C17/25 A
   C03C17/38
   G02B1/111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-550137(P2015-550137)
(86)(22)【出願日】2013年12月20日
(85)【翻訳文提出日】2015年8月31日
(86)【国際出願番号】FR2013053219
(87)【国際公開番号】WO2014102493
(87)【国際公開日】20140703
(31)【優先権主張番号】1262959
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(71)【出願人】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス)
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】アヌーシュカ ベナクリ
(72)【発明者】
【氏名】エロディ ブルジェ−ラミ
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ ギユモ
【テーマコード(参考)】
2K009
4G059
【Fターム(参考)】
2K009AA05
2K009BB01
2K009BB02
2K009CC09
2K009CC21
4G059AA01
4G059AC15
4G059EA02
4G059EA04
4G059EA05
4G059EB04
4G059EB07
(57)【要約】
本発明は、機能層で被覆された又は少なくとも2つの機能層の積重体で被覆された透明なガラス、セラミック又はガラスセラミック基材であり、上記機能層又は上記積重体の機能層の少なくとも1つが多孔質であり、かつ無機材料M1から製作されている基材であって、無機材料M1の当該多孔質機能層又は無機材料M1の多孔質機能層のうちの少なくとも1つが、その細孔のうちの少なくとも一部分の表面に、M1以外の少なくとも1種の無機材料M2を有することを特徴とするガラス、セラミック又はガラスセラミック基材に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能層で又は少なくとも2つの機能層の積重体で被覆された透明なガラス又はセラミック又はガラスセラミック基材であり、当該機能層又は当該積重体の機能層のうちの少なくとも1つが多孔質であり、そして無機材料M1で作製されている基材であって、無機材料M1の前記多孔質の機能層が、その細孔のうちの少なくとも一部のものの表面に、M1とは異なる少なくとも1種の無機材料M2を有することを特徴とする、被覆された透明なガラス又はセラミック又はガラスセラミック基材。
【請求項2】
前記無機材料M2が、無機材料M1の多孔質層のすべての前記細孔の表面に存在することを特徴とする、請求項1に記載の被覆基材。
【請求項3】
前記無機材料M1が、少なくとも1種の金属酸化物前駆体のゾル−ゲル溶液、及び/又は次の一般式:
nSiX4-n
(式中、
・nは、0、1、2又は3に等しく、好ましくは0又は1に等しく、
・X基は、アルコキシ基、アシルオキシ基又はハロゲン基から、好ましくはアルコキシ基から選択される加水分解性基を表し、nが0、1又は2に等しい場合には同一でも異なっていてもよく、
・R基は、炭素原子を介してケイ素に結合した非加水分解性有機基又は有機官能基を表し、nが2又は3に等しい場合には同一でも異なっていてもよい)
の少なくとも1種のオルガノシランのゾル−ゲル溶液の硬化により生ずる材料であり、当該金属酸化物前駆体及び当該オルガノシランが前記硬化の間に加水分解及び縮合を受けていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の被覆基材。
【請求項4】
金属酸化物前駆体が、Si、Ti、Zr、Al、Zn、Sn、Nb、Sbから選択される金属の酸化物の前駆体であることを特徴とする、請求項3に記載の被覆基材。
【請求項5】
前記X基が、−O−R’アルコキシ基(この式のR’はC1〜C4アルコキシ基を表す)、特にメトキシ又はエトキシ基、−O−C(O)R”アシルオキシ基(この式のR”はアルキル基を表し、例えばC1〜C6アルキル基など、特にメチル又はエチル基を表す)、ハロゲン基、例えばCl、Br及びIなど、及びこれらの組合せから選択されることを特徴とする、請求項3に記載の被覆基材。
【請求項6】
前記R基が、メチル、グリシジル又はグリシドキシプロプル基から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の被覆基材。
【請求項7】
前記細孔が無機材料M1の多孔質層の5〜74体積%に相当することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項8】
前記細孔が球状又は卵形であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項9】
前記無機材料M2が、前記無機材料M1の前記細孔の表面に吸着されたナノ粒子の形態であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項10】
前記無機材料M2が、前記細孔の内表面全体を覆う被膜の形態であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項11】
前記無機材料M2が、水中にナノ粒子の形態で分散させることができ、かつベースラテックスと呼ばれるラテックスの粒子の表面に、特にヘテロ凝集、有利には超音波撹拌を伴うヘテロ凝集によって吸着させることができる、無機相から得られることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項12】
前記材料M2の前記ナノ粒子が触媒ナノ粒子、例えば光触媒及び熱触媒ナノ粒子など、又は発光粒子であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項13】
前記材料M2が少なくとも1種の金属酸化物、例えばSi、Ti、Zr、Al、Zn、Sn、Nb、Sb、Ceの酸化物などをベースにしており、又はランタニドイオンを含有するバナジン酸塩をベースとしていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項14】
材料M1の前記層が50nm〜5μm、好ましくは100nm〜2μmの厚さを有し、かつそれが有する前記細孔が、30〜600nmの平均最大寸法を有することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項15】
前記ナノ粒子が5〜100nmの寸法を有することを特徴とする、請求項9及び11〜14のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項16】
前記細孔の内表面の前記被膜が2〜50nmの厚さを有することを特徴とする、請求項10〜14のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項17】
前記材料M1が加水分解したSiO2前駆体から得られ、かつ前記材料M2がTiO2であり、前記多孔質層が低屈折率でかつ自己クリーニング機能性を有する反射防止層であることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項18】
機能層の積重体を含み、その一部が細孔のうちの少なくとも一部のものの表面に無機材料M1とは異なる少なくとも1種の無機材料M2を有する無機材料M1の多孔質機能層がであって、前記多孔質機能層以外の機能層が液体法によって、又はスパッタリング、例えばPVD、CVDなどによって、あるいは液体熱分解によって被着されていることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の被覆基材。
【請求項19】
無機材料M1の前駆体と複合水性ラテックスとの水性混合物の少なくとも1つの層を、液体法によってガラス又はセラミック又はガラス−セラミック基材上に被着させ、その複合水性ラテックスの粒子がそれぞれ、表面に材料M2を有する有機のコアからなること、そして当該有機のコアと前駆体及び複合ラテックスの前記混合物中に存在する水とがなくなるまで又は実質的になくなるまで加熱を行うことを特徴とする、請求項1〜18のいずれか一項に記載の被覆基材の製造方法。
【請求項20】
無機材料M1の前駆体として、少なくとも1種の金属酸化物前駆体のゾル−ゲル溶液、及び/又は次の一般式:
nSiX4-n
(式中、
・nは、0、1、2又は3に等しく、好ましくは0又は1に等しく、
・X基は、アルコキシ基、アシルオキシ基又はハロゲン基から、好ましくはアルコキシ基から選択される加水分解性基を表し、nが0、1又は2に等しい場合には同一でも異なっていてもよく、
・R基は、炭素原子を介してケイ素に結合した非加水分解性有機基又は有機官能基を表し、nが2又は3に等しい場合には同一でも異なっていてもよい)
の少なくとも1種のオルガノシランのゾル−ゲル溶液を使用し、当該無機材料M1を前記ゾル−ゲル溶液を硬化させることによって得、その間に前記金属酸化物前駆体と前記オルガノシランが加水分解と縮合を受けることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
金属酸化物前駆体が、Si、Ti、Zr、Al、Zn、Sn、Nb、Sbから選択される金属の酸化物の前駆体であることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記X基を、−O−R’アルコキシ基(この式のR’はC1〜C4アルコキシ基を表す)、特にメトキシ又はエトキシ基、−O−C(O)R”アシルオキシ基(この式のR”はアルキル基を表し、例えばC1〜C6アルキル基など、特にメチル又はエチル基を表す)、ハロゲン基、例えばCl、Br及びIなど、及びこれらの組合せから選択することを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記R基をメチル、グリシジル又はグリシドキシプロプル基から選択することを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
無機材料M1の前駆体としてテトラエトキシシラン(TEOS)を使用することを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記有機のコアを構成するポリマー又はコポリマーPの粒子が材料M2の前記ナノ粒子を表面に担持しているナノコンポジットラテックスを得るため、当該ポリマー又はコポリマーPの水性乳化重合によって得られたベースラテックスを、ヘテロ凝集条件下で、有利には超音波撹拌を伴うヘテロ凝集条件下で、有機材料M2のナノ粒子の水中分散液と混合することによって、前記複合水性ラテックスを調製することを特徴とする、請求項19〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記無機材料M2が多孔質層の細孔の内表面全体を覆うシェルの形態である場合、ポリマー又はコポリマーPの水性乳化重合によって得られたベースラテックスを、溶解した無機材料M2の前駆体と混合し、そして縮合反応が前記ベースラテックスの粒子の表面全体にわたって起こり、前記無機材料M2が前記粒子の被膜を形成するように反応条件を調整することによって、前記複合水性ラテックスを調製することを特徴とする、請求項19〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記ポリマー又はコポリマーPを、ポリ(メチルメタクリレート)、メチルメタクリレート/ブチルアクリレートコポリマー、及びポリスチレンから選択することを特徴とする、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1種の金属酸化物、例えばSi、Ti、Zr、Al、Zn、Sn、Nb、Sb、Ceの酸化物などをベースとする、又はランタニドイオンを含有するバナジン酸塩をベースとする材料M2を使用することを特徴とする、請求項19〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
混合物の前記層をスピンコーティングによって被着させることを特徴とする、請求項19〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
複数層の積重体を形成するために、少なくとも1つの他の機能層を、当該複数層の積重体にとって望ましい順に、液体法によって、又はスパッタリング、例えばPVD、CVDなどによって、あるいは液状熱分解によって被着させることを特徴とする、請求項19〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の被覆基材又は請求項19〜30のいずれか一項に記載の方法によって製造した被覆基材の、光電デバイスの、例えば光発電モジュール及び発光素子の、構成要素としての、あるいは建物及び輸送車両用の単一もしくは複合式の、モノリシック構造の又は積層グレージングユニットの構成要素としての使用。
【請求項32】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の被覆基材又は請求項19〜30のいずれか一項に記載の方法によって製造した被覆基材をカバーガラスラスとして含む光発電モジュール。
【請求項33】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の被覆基材又は請求項19〜30のいずれか一項に記載の方法によって製造した被覆基材を含む有機発光ダイオードのような発光素子。
【請求項34】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の少なくとも1つの被覆基材又は請求項19〜30のいずれか一項に記載の方法によって製造した少なくとも1つの被覆基材を複合式グレージングユニットのガラスのペイン又はシートとして含む、建物及び輸送車両用の単一又は複合式の、モノリシック構造の又は積層グレージングユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの少なくとも二機能性の多孔質層で被覆された透明な基材、特にガラス基材、当該被覆基材の製造方法、及び光電デバイス又はグレージングユニットの構成要素としてのその使用に関する。
【0002】
液体法によって被着した低屈折率を有する層(反射防止層)で被覆した、光発電市場を対象としたグレージングユニットが知られている。この層は、シリカ前駆体及び有機ナノ粒子(ラテックス)を用いてゾル−ゲル法により製造される。このような方法で作製されるこの多孔質層は、安価であり、かつきわめて優れた反射防止の望ましい光学性能を有するとともに、これらの性能が環境(大気の湿度、汚染)に対し安定であるという利点を有する。
【0003】
国際公開第2008/059170号には、一連の密閉気孔を有するゾル−ゲル型の、そのような本質的に無機の多孔質層の形成が記載されている。
【0004】
フランス国特許出願公開第2974800号明細書には、複数の層の積重体で被覆された透明基材が記載されており、その多孔質層は少なくとも1つの他の層で覆われている。この積重体の各層は、それらの特定の光学的及び機械的特性のために選ばれる。例えば、屈折率勾配を作り出すために屈折率が変化する複数層が使用される。
【0005】
従来技術による少なくとも1つの多孔質層で被覆された支持体は全く申し分ない。しかしながら、それらは、以下の所見から、改良できるであろうことが分かってきた。その所見というのは、次のとおりである。
・既知の多孔質層は反射防止という単一機能を有する。例えば、そのような反射防止多孔質層で被覆した基材を光発電パネル用のカバーガラスとして使用した場合、すぐに汚れるようになることがある。したがって、層の中心部に第二の機能、特に自浄又は「クリーニングしやすい」機能を加えることによって、こうして反射防止被膜で被覆したガラス及びグレージングユニットに付加価値を付けることができよう。上記のカバーガラスの場合には、汚れの軽減はそのモジュールのエネルギー関数の向上を可能にしよう。
・多孔質シリカ層は、層が加水分解により老化する際に劣化する。詳しく言うと、ガラス基材の腐食がシリカ層の可溶化を引き起こすことがあり、それがあまり緻密でないシリカゲル層の形で再析出することがある。別の材料を細孔の表面に加えることで、この問題を解決できる可能性がある。
・多孔質材料の機械的性質は、緻密な材料のそれよりも本質的に劣る。これは、反射防止多孔質層の場合、比較的低い耐引掻き性によってはっきり示される。多孔質シリカ層内に別の緻密な材料を加えることにより、その機械的性質を向上させることができよう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人の会社は、上述の問題のすべてに対応することを可能にする解決策を探し求めた結果、多孔質層自体の機能性に加えて、任意の種類のものでよい少なくとも1つの他の機能性を含む少なくとも二機能性の多孔質層を提案するものである。この解決策は、都合よく調節可能であって、かつ問題の用途に応じて調節される様々な特性を有する複数層の積重体を構築することを可能にするという追加の利点をもたらす、様々な特性を有する基材の提案を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、この目的のために、ナノコンポジットラテックス(本明細書中では以下、複合ラテックスと呼ぶこともある)の使用によって細孔の表面へ機能付与を行うことが提案される。このようなラテックスは、無機材料で、特に無機粒子で表面被覆された有機ナノ粒子の分散液の形をしており、この無機材料は、ポリマー粒子の表面に物理吸着(例えば静電相互作用)又は化学吸着(無機材料とポリマーとの強い結合)することができ、このような粒子形態は「ラズベリー形態」と呼ばれることがある。
【0008】
このようなアプローチの追加の利点は、第二の材料が細孔を塞がず、ここでは細孔の表面にのみ付着することである。したがって、この第二の材料が高価であるか、又は反射防止効果を制限することになる光学特性を有する場合、層内のその量を最小限に抑えながら、その表面特性の恩恵が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】例5Cに対応する多孔質層のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
したがって、本発明がまず対象とするのは、機能層で又は少なくとも2つの機能層の積重体で被覆された透明なガラス又はセラミック又はガラスセラミック基材であり、当該機能層又は当該積重体の機能層のうちの少なくとも1つが多孔質であり、そして無機材料M1で作製されている基材であって、無機材料M1の多孔質の当該機能層が、その細孔のうちの少なくとも一部のものの表面に、M1とは異なる少なくとも1種の無機材料M2を有することを特徴とする基材である。
【0011】
「M1とは異なる無機材料M2」という表現は、同じ化学的性質であるが物理的形態を異にすることができる、例えばより低密度のシリカ及びより高密度のシリカなどの、材料を包含する。
【0012】
無機材料M2は、無機材料M1の多孔質層のすべての細孔の表面に存在するのが有利である。
【0013】
無機材料M1は、有利には、少なくとも1種の金属酸化物前駆体のゾル−ゲル溶液、及び/又は次の一般式:
nSiX4-n
(式中、
・nは、0、1、2又は3に等しく、好ましくは0又は1に等しく、
・X基は、アルコキシ基、アシルオキシ基又はハロゲン基から、好ましくはアルコキシ基から選択される加水分解性基を表し、nが0、1又は2に等しい場合には同一でも異なっていてもよく、
・R基は、炭素原子を介してケイ素に結合した非加水分解性有機基又は有機官能基を表し、nが2又は3に等しい場合には同一でも異なっていてもよい)
の少なくとも1種のオルガノシランのゾル−ゲル溶液の硬化により得られる材料であることができ、上記金属酸化物前駆体及び上記オルガノシランは上記硬化の間に加水分解及び縮合を受けている。
【0014】
具体的には、金属酸化物前駆体は、Si、Ti、Zr、Al、Zn、Sn、Nb、Sbから選択される金属の酸化物の前駆体であることができる。
【0015】
X基は、有利には、−O−R’アルコキシ基(この式のR’はC1〜C4アルキル基を表す)、特にメトキシ又はエトキシ基、−O−C(O)R”アシルオキシ基(この式のR”はアルキル基を表し、例えばC1〜C6アルキル基など、特にメチル又はエチル基を表す)、ハロゲン基、例えばCl、Br及びIなど、及びこれらの組合せから選択することができる。
【0016】
R基は、有利には、メチル、グリシジル又はグリシドキシプロピル基から選択することができる。
【0017】
細孔は、例えば、無機材料M1の多孔質層の5〜74体積%に相当することができる。
【0018】
多孔質層の細孔は、球状又は卵形であることができる。
【0019】
無機材料M2は、有利には、無機材料M1の細孔の表面に吸着したナノ粒子の形態であることができる。
【0020】
無機材料M2はまた、細孔の内面全体を覆うシェルの形態であることもできる。
【0021】
無機材料M2は、水中にナノ粒子の形態で分散させることができ、かつベースラテックスと呼ばれるラテックスの粒子の表面に、特にヘテロ凝集、有利には超音波撹拌を伴うヘテロ凝集によって吸着させることができる、無機相から得るのが有利である。
【0022】
材料M2のナノ粒子は、触媒ナノ粒子、例えば光触媒及び熱触媒ナノ粒子など、又は発光粒子であることができる。
【0023】
材料M2は、少なくとも1種の金属酸化物、例えばSi、Ti、Zr、Al、Zn、Sn、Nb、Sb、Ceの酸化物をベースとし、又はランタニドイオンを含有するバナジン酸塩をベースとすることができる。
【0024】
材料M1の層は、50nm〜5μm、好ましくは100nm〜2μmの厚さを有することができ、またそれが有する細孔は30〜600nmの平均最大寸法を有する。
【0025】
材料M1の細孔の表面に吸着したナノ粒子の場合、それらは5〜100nmの寸法を有することができる。
【0026】
無機材料M2が細孔の内面全体を覆うシェルの形態である場合、このシェルは2〜50nmの厚さを有することができる。
【0027】
一つのより特別な実施形態によれば、材料M1は加水分解したSiO2前駆体から得られ、材料M2はTiO2であり、多孔質層は低屈折率を有する反射防止層であってかつそれは自己クリーニング機能性を有する。
【0028】
一つの特別な実施形態では、本発明による被覆基材は機能層の積重体を含み、その一部が細孔のうちの少なくとも一部のものの表面にM1とは異なる少なくとも1種の無機材料M2を有する無機材料M1の多孔質機能層であって、前述の多孔質機能層以外の機能層は液体法によって、又はスパッタリング、例えばPVD、CVDなどによって、あるいは液体熱分解によって被着されている。
【0029】
本発明はまた、上で定義した被覆基材の製造方法にも関しており、この方法は、無機材料M1の前駆体と複合水性ラテックスとの水性混合物の少なくとも1つの層を、液体法によってガラス又はセラミック又はガラスセラミック基材上に被着させ、その複合水性ラテックスの粒子がそれぞれ、表面に材料M2を有する有機のコアからなること、そして当該有機のコアと前駆体及び複合ラテックスの混合物中に存在する水とがなくなるまで又は実質的になくなるまで加熱を行うことを特徴とする。
【0030】
無機材料M1の前駆体としては、少なくとも1種の金属酸化物前駆体及び/又は次の一般式:
nSiX4-n
(式中、
・nは、0、1、2又は3に等しく、好ましくは0又は1に等しく、
・X基は、アルコキシ基、アシルオキシ基又はハロゲン基から、好ましくはアルコキシ基から選択される加水分解性基を表し、nが0、1又は2に等しい場合には同一でも異なっていてもよく、
・R基は、炭素原子を介してケイ素に結合した非加水分解性有機基又は有機官能基を表し、nが2又は3に等しい場合には同一でも異なっていてもよい)
の少なくとも1種のオルガノシランのゾル−ゲル溶液を使用するのが有利であり、上記ゾル−ゲル溶液の硬化によって無機材料M1が得られ、その間に上記金属酸化物前駆体及び上記オルガノシランは加水分解と縮合を受ける。
【0031】
金属酸化物前駆体は、Si、Ti、Zr、Al、Zn、Sn、Nb、Sbから選択される金属の酸化物の前駆体であることができる。
【0032】
X基は、−O−R’アルコキシ基(この式のR’はC1〜C4アルキル基を表す)、特にメトキシ又はエトキシ基、−O−C(O)R”アシルオキシ基(この式のR”はアルキル基を表し、例えばC1〜C6アルキル基など、特にメチル又はエチル基を表す)、ハロゲン基、例えばCl、Br及びIなど、及びこれらの組合せから選択することができる。
【0033】
R基は、メチル、グリシジル又はグリシドキシプロピル基から選択することができる。
【0034】
一つの特別な実施形態では、無機材料M1の前駆体としてテトラエトキシシラン(TEOS)を使用する。
【0035】
一つの特に有利な実施形態によれば、ナノコンポジットラテックスを得るために、ポリマー又はコポリマーPの水性乳化重合によって得られたベースラテックスを、ヘテロ凝集条件下で、有利には超音波撹拌を伴うヘテロ凝集条件下で、有機材料M2のナノ粒子の水中分散液と混合することによって複合水性ラテックスを調製する。前述の有機のコアを構成するポリマー又はコポリマーPの粒子は、表面に材料M2の上記ナノ粒子を担持している。
【0036】
ヘテロ凝集及び超音波撹拌の結果として、ナノ粒子で被覆されたポリマー粒子の安定な分散液が得られる。
【0037】
無機材料M2が多孔質層の細孔の内表面全体を覆うシェルの形態である場合、複合水性ラテックスは、ポリマー又はコポリマーPの水性乳化重合によって得られたベースラテックスを、溶解した無機材料M2の前駆体と混合し、そして縮合反応がベースラテックスの粒子の表面全体にわたって起こり無機材料M2により上記粒子の被膜を形成するように、反応条件を調整することによって調製することができる。
【0038】
ポリマー又はコポリマーPは、ポリ(メチルメタクリレート)、メチルメタクリレート/ブチルアクリレートコポリマー、及びポリスチレンから選択することができる。
【0039】
有利には、少なくとも1種の金属酸化物、例えばSi、Ti、Zr、Al、Zn、Sn、Nb、Sb、Ceの酸化物などをベースとする、又はランタニドイオンを含有するバナジン酸塩をベースとする材料M2を使用することができる。
【0040】
混合物の層は、スピンコーティングによって被着させることができる。
【0041】
複数層の積重体を形成するためには、少なくとも1つの他の機能層を、それらの層の積重体のために求められる順に、液体法によって、又はスパッタリング、例えばPVD、CVDなどによって、あるいは液体熱分解によって、被着させることが有利である。
【0042】
本発明のもう一つの対象は、上記で定義した被覆基材又は上記で定義した方法によって製造した被覆基材を、光電デバイスの、例えば光発電モジュール及び発光素子などの構成要素として、あるいは建物及び輸送車両用の単一もしくは複合式の、モノリシック構造又は積層グレージングユニットの構成要素として使用することである。
【0043】
本発明の別の対象は、上記で定義した被覆基材又は上記で定義した方法によって製造した被覆基材をカバーガラスとして含む光発電モジュールである。
【0044】
本発明の別の対象は、上記で定義した被覆基材又は上記で定義した方法によって製造した被覆基材を含む有機発光ダイオード(OLED)のような発光素子である。
【0045】
本発明の別の対象は、上記で定義した少なくとも1つの被覆基材又は上記で定義した方法によって製造した少なくとも1つの被覆基材を複合式グレージングユニットのガラスのペイン又はシートとして含む、建物及び輸送車両用の単一又は複合式の、モノリシック構造又は積層グレージングユニットである。
【0046】
下記の例は本発明を例示するものであるが、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0047】
〔例1:加水分解したシリカ前駆体ゾル(シリカゾルと称する)の調製〕
14.2mlのテトラエトキシシラン(TEOS)(nSi=シリカ前駆体のモル数=6.4×10-2モル)、11.2mlのエタノール(3nSiモルのエタノール)、及び4.62mlの塩酸脱イオン水溶液(pH=2.5)(4nSiモルの水)を、丸底フラスコに入れた。この混合物を、撹拌しながら60分間60℃にした。次いで、できるだけ多くのエタノールを除去することによって水中に2.90モル/lの濃度でシリカ前駆体を含有する溶液の調製を目指した。所望の濃度を得るために、溶液の最終体積を22mlにする必要があった。
【0048】
第一段階後に、ゾルはエタノール(最初のエタノールに加えて、加水分解によって生じたエタノール)を7nSiモル含有していた。これは26mlの体積に相当した(エタノールの濃度は0.79に等しい)。
【0049】
第一段階から得られたゾルに、20mlの塩酸溶液(pH=2.5)を加えた。この混合物からエタノールを除去するため、それをロータリーエバポレータ中で真空下に置き、穏やかに加熱した。
【0050】
この段階後、塩酸溶液(pH=2.5)の添加により溶液の体積を22mlにし、シリカゾルが準備できた。
【0051】
〔例2:ベースラテックスの調製〕
機械式攪拌機、凝縮器、及び窒素のバブリング注入口を備え、サーモスタットで70℃に制御した500mlのジャケット付き反応器中に、151gの脱イオン水(抵抗率>16M)と、2種類の界面活性剤、すなわち0.45gのTERGITOL(商標)NP−30(ダウケミカル社)及び0.02gのドデシル硫酸ナトリウムとを入れた。
【0052】
同時に、一方ではモノマー、すなわち24gのメチルメタクリレート(MMA、99%、Aldrich社)及び6.1gのブチルアクリレート(ABu、Aldrich社)を、他方では開始剤、すなわち少量の水(上記の151gから抜き出した)で希釈した0.3gの過硫酸ナトリウムを、フォールディングスカートストッパーを備えた別々のフラスコに入れた。
【0053】
反応器の内容物と、そしてまた2つのフラスコの内容物を、窒素バブリングによって15分間脱気した。
【0054】
次いで、上記モノマー及び重合開始剤を、機械的に撹拌(250rpm)しながら一度に反応器へ導入した。全反応を、窒素流が反応媒体の真上に保持されている密閉反応器中で行わせた。反応媒体は、モノマーの添加後、モノマーの液滴の形成のせいで急速に濁るようになった。数分後、媒質は白色、すなわちすでに形成された粒子による光散乱の兆候を呈した。重合を2時間続け、そして反応器から抜き出した。達成された転化率は99.1%であった。
【0055】
ラテックスの特性を、動的光散乱(Particle size analysis − Photon correlation spectroscopy 13321:1996, International Standards Organization)、及びMalvern社によって販売されているZetaSizer装置でのゼータ電位の測定によって調べた。こうして測定した対象物の平均直径は230nmであり、多分散性指数は0.016である。ゼータ電位は−31.8mVで測定する。
【0056】
〔例3:ヘテロ凝集によるナノコンポジットラテックスの調製〕
先に調製して超音波浴に入れた10gのラテックスにTiO2ナノ粒子を、これらナノ粒子の5.7gの水分散液を添加することによって加えた。
【0057】
使用したTiO2粒子の分散液は、Cristal Global社によってSA−300Aの呼称で販売されている製品であって、約330m2/gのBET比表面積及び50nm程度の平均直径を有するTiO2粒子の、分散液の総重量に対して23重量%の濃度の安定水性分散液に相当するものであった。
【0058】
超音波浴の使用により、少量のTiO2ナノ粒子をラテックス懸濁液に加える場合に観察される凝集現象の抑制を可能にした。この即時の不安定化は、TiO2粒子とポリマー粒子とのきわめて強い静電相互作用に関係している。
【0059】
〔例4A〜4D:例1からのシリカゾルと例3からのナノコンポジットラテックスとの混合物の調製〕
例1からのシリカゾルと例3からのナノコンポジットラテックスの4種類の混合物を下記表1に示した比率で作った。
【0060】
【表1】
【0061】
〔例5A〜5D:本発明による多孔質層の形成〕
パスツールピペットを使用して、例4A〜4Dの混合物のそれぞれを、回転可能な水平支持体に固定したガラス板の表面全体に被着させ、そして支持体を均一な層が得られるまで2000rpmで60秒間回転させた(スピンコート技術)。
【0062】
次いで、層のそれぞれを450℃で1.5時間焼成した。
【0063】
それらの多孔質層の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を撮影し、これらの画像においてTiO2ナノ粒子が敷き詰められた細孔にとって望ましい形態が観察された。添付の単一図は、例5Cに対応する多孔質層のSEM画像を示している。
【0064】
これらの層のそれぞれについて屈折率を楕円偏光法により600nmで測定し、またそれらの反射率を紫外可視分光法により600nmで測定した。
【0065】
結果を下記の表2で報告する。
【0066】
【表2】
【0067】
被覆基材の反射率はベースガラスのそれ(4%)よりも低くなり得ることが注目される。
【0068】
表1に示した多孔率及び表2に示した屈折率を使用して多孔率の関数としてプロットすることができる屈折率測定用のグラフは直線を示し、したがって、屈折率の調整が簡単であることが示唆され、またBruggmanの有効媒質モデルとの一致が示される。
【0069】
〔例6:光触媒試験〕
これら多孔質層のUV−A光下での光触媒活性を評価するために、ステアリン酸光分解試験を行った。
【0070】
この試験は、層の上にスピンコートによって、層の汚染物質として使用する一定量のステアリン酸を付着させ、そして付着後と、その後315〜400nmの範囲のUV光へ曝露する間のその濃度変化を、透過IR分光法により監視するものである。
【0071】
この透過赤外スペクトルを、ステアリン酸の付着前に得られた試料のスペクトルを差し引くことによって再処理する。続いて、2825〜2950cm-1の領域を中心とする透過率スペクトルの逆数から吸光度スペクトルを得る。試料がUV−A光に曝されるにつれて、吸収スペクトル上でステアリン酸の固有振動のバンドの強度が低下するのが観察される。
【0072】
この試験では、例5Aの層が150分を超えるUV−A放射の下でステアリン酸の付着量の18%を分解させた。
図1
【国際調査報告】