(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-507691(P2016-507691A)
(43)【公表日】2016年3月10日
(54)【発明の名称】内燃機関空気経路制御のためのレートベースモデル予測制御方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20160212BHJP
G05B 13/04 20060101ALI20160212BHJP
F02M 26/00 20160101ALI20160212BHJP
F02B 37/24 20060101ALI20160212BHJP
【FI】
F02D45/00 372Z
G05B13/04
F02M25/07 550D
F02D45/00 370B
F02B37/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-549673(P2015-549673)
(86)(22)【出願日】2013年12月19日
(85)【翻訳文提出日】2015年8月24日
(86)【国際出願番号】US2013076391
(87)【国際公開番号】WO2014100334
(87)【国際公開日】20140626
(31)【優先権主張番号】13/724,957
(32)【優先日】2012年12月21日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(71)【出願人】
【識別番号】507238218
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100130133
【弁理士】
【氏名又は名称】曽根 太樹
(72)【発明者】
【氏名】マイク ホワーン
(72)【発明者】
【氏名】イルヤ ブイ.コルマノフスキー
【テーマコード(参考)】
3G005
3G062
3G384
5H004
【Fターム(参考)】
3G005DA02
3G005EA15
3G005EA16
3G005FA06
3G005GA04
3G005GB24
3G005GC07
3G005HA12
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3G062FA04
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3G062GA01
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3G384AA03
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3G384BA27
3G384DA06
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3G384DA08
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5H004GA18
5H004GB20
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5H004HB03
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5H004KB02
5H004KB04
5H004KB06
5H004KC27
5H004LA05
(57)【要約】
ディーゼル機関用の空気経路制御のためのレートベースモデル予測制御器は、吸気マニホールド気圧及びEGRバルブ流量の協調的な制御によって、タービンリフト及びEGRバルブ流量を、指定された設定値に調節する。制御器は、モデル予測制御のためのレートベース低次元化線形モデルを利用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関運転の間に可変ジオメトリタービン及びEGRバルブを制御する制御器を有した内燃機関を制御するための方法であって、
要求される機関タービンリフト及び要求されるEGR流量を生成するために、機関吸気マニホールド圧及びEGRバルブ流量に応じて前記制御器内のレートベースの予測モデルを用いることを含む方法。
【請求項2】
機関運転パラメータを用いて非線形モデルを展開することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
それぞれの機関運転ゾーンのため線形二次モデル予測制御器を展開することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
機関速度範囲及び燃料比領域のための中央線形化ポイント周りの少なくとも1つの機関運転ゾーンを規定することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
機関運転ゾーン内の中央線形化ポイントで前記非線形モデルを線形化することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記非線形モデルに基づいて二次低減線形モデルを展開することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記線形モデルの導関数として前記レートベースの予測モデルを生成することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
区分的アフィン制御則の式、すなわち、
Hixaug≦Kkのとき、
uk+1=uk+Ts(Fixaug+Gi)
において、線形二次モデルとして線形モデルを生成することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記レートベースの予測モデル制御器に部分的インバージョンを適用して、EGRバルブ流量信号をEGRバルブ位置デューティサイクル信号に変換し、且つ、タービンリフト信号をタービンリフトデューティサイクル信号に変換することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
【数1】
によって、EGRスロットル制御器を展開することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの制御器出力のオーバーシュート制限を実行するため、単一の時刻を用いることによって、少なくとも1つの機関運転ゾーンのそれぞれにおける領域の数を減ずることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記単一の時刻が20の時間ステップを有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
機関状態を推定することと、
推定された前記機関状態に基づいて前記区分的アフィン制御則の前記領域を決定することと、
制御レートを決定するために前記区分的アフィン制御則の選択された前記領域と関連したフィードバックゲインを適用することと、
1つの機関入力に適用される制御値を決定するために前記制御レートを積分することと、を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
機関運転の間、タービンリフト及びEGR流量を生成するため、前記機関吸気マニホールド圧及び要求される前記EGRバルブ流量に応じて、プロセッサにより可変ジオメトリタービン及びEGRバルブを制御することと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
機関運転パラメータを用いて非線形モデルを展開することと、
機関運転ゾーン内の中央線形化ポイントで前記非線形モデルを線形化することと、
前記線形モデルの導関数として前記レートベースの予測モデルを生成することと、
区分的アフィン制御則の式、すなわち、
Hixaug≦Kkのとき、
uk+1=uk+Ts(Fixaug+Gi)
により、線形二次モデルとして線形モデルを生成することと、
機関状態を推定することと、
前記機関状態に基づいて前記区分的アフィン制御則の前記領域を決定することと、
制御レートを決定するために前記区分的アフィン制御則の選択された前記領域と関連したフィードバックゲインを適用することと、
1つの機関入力に適用される制御値を決定するために前記制御レートを積分することと、を含む、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、概して、内燃機関のための方法及び制御に関し、特にディーゼル機関を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のディーゼル機関は、機関シリンダに供給される空気量を増加させるために可変ジオメトリタービン(VGT:variable geometry turbine)を用いる。VGTは、機関シリンダに対して供給される空気量を変化させるためにタービンステータ吸込翼(turbine stator inlet vanes)の角度を変える。
【0003】
最適な性能及び燃費を提供することに加えて、最新のディーゼル機関は、排気、とりわけ粒子状物質や窒素酸化物についての厳格な米国連邦規定も満たさなければならない。これらの要件をすべて満たすために、VGTを有するディーゼル機関は、より完全な燃焼や機関排気の削減のために、制御位置が可変な排気ガス再循環(EGR:exhaust gas recirculation)バルブを用い、可変量の機関排気ガスを機関シリンダへ再循環させる。
【0004】
機関は、機関速度、燃料使用、機関負荷などを含む広い範囲の動作条件で動作するので、性能、排気などを最適化するために、1つの制御器、典型的には複数の制御器が、機関制御器(ECU:engine control unit )内に組み込まれ、機関性能を検出するセンサに応じて各種機関アクチュエータを制御する。
【0005】
機関制御に対して、モデル予測制御(MPC:Model Predictive Control)の使用が広がっている。標準のMPCアプローチは、予測制御モデルに対して付加的な積分状態を加える、ゼロ状態から状態エラーまで(zero state-to-state error)を保証する積分型動作を組み込む。MPCモデルは、多数の異なる機関運転領域(燃料比及び機関速度)を使用し、機関アクチュエータを制御するために領域範囲毎に制御器を展開する。
【0006】
ディーゼル機関の気流に対して適用されるモデル予測制御の具体例では、可変ジオメトリタービン(VGT)、EGRスロットル、及びEGRバルブアクチュエータを用いて機関内の流量が制御される。これらのシステムは、結合度が強く、非線形性が高い。
【0007】
しかしながら、内燃機関に対する、特にディーゼル機関に対するモデル予測制御器の先行出願は、機関性能の複数の運転領域を利用しており、複数の運転領域の各々が個別の予測制御器を必要としている。さらに、各予測制御器は、制御機関変数(controlled engine variables)のオーバーシュート制限に関する課題が生じる積分型動作を用いている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
短縮された計算時間のための最小数の運転領域及びメモリ記憶要件を有する内燃機関で使用するモデル予測制御器を提供し、それと同時に機関制御性能変数のゼロ状態から状態トラッキングエラーまで(zero state-to-state tracking error)を提供することが望まれうる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
機関運転の間に可変ジオメトリタービン(VGT)及びEGRバルブを制御する制御器を有する内燃機関を制御する方法は、要求されたEGR流量及び機関タービンリフト(engine turbine lift)を生成するために、機関吸気口の吸気マニホールド圧及びEGRバルブ流量に応答する制御器内でレートベースの予測モデルを用いることを含む。
【0010】
本方法は、機関速度領域及び燃料比領域のための中央線形化ポイントのあたりの少なくとも1つの機関運転ゾーンを規定することをさらに含む。
【0011】
本方法は、機関運転パラメータの非線形モデルを展開することをさらに含む。
【0012】
本方法は、各ゾーン内において線形二次モデル予測制御器を展開することをさらに含む。
【0013】
本方法は、各運転ゾーンの範囲内の中央運転ポイントにて非線形モデルを線形化することをさらに含む。
【0014】
本方法は、非線形モデルに基づく二次低減線形モデルを展開することをさらに含む。
【0015】
本方法は、線形モデルの導関数としてレートベースの予測モデルを生成することをさらに含む。
【0016】
本方法は、次式(11)の区分的アフィン制御則の式で、線形二次モデルとして線形モデルを生成することをさらに含む。
H
ix
aug≦K
kのとき、
u
k+1=u
k+T
s(F
ix
aug+G
i) (11)
【0017】
本方法は、VGTデューティサイクル信号をVGTリフト制御信号に変換するためにEGR流量制御信号を変換するために、レートベースの予測モデル制御器出力に対して部分的インバージョンを適用することをさらに含む。
【0018】
本方法は、次式(13)に従ってEGRスロットル制御器を展開することをさらに含む。
【数1】
【0019】
本方法は、少なくとも1つの制御器出力のオーバーシュート制限を実施するために単一の時刻を用いることによって、少なくとも1つのゾーンの各々における領域の数を減少させることをさらに含む。
【0020】
本方法は、機関状態を推測し、推測された機関状態上の区分的アフィン制御則の領域を決定し、制御レートを決定するために区分的アフィン制御則の選択された領域に関連するフィードバックゲインを適用し、1つの機関入力に対して適用される制御値を決定するために制御レートを積分することを含む。
【0021】
他の態様において、本方法は、プロセッサによって実行された場合に、タービンリフト及び要求されたEGR流量を制御する吸気マニホールド圧及びEGRバルブ流量に対して応答するレートベースの予測モデル制御器を用いるように機能することが可能な命令を含むコンピュータ利用可能な媒体上に具体化されたコンピュータプログラムを明確に実行する制御器を有する。
【0022】
本機関制御方法の様々な特徴、効果、及び他の用途は、以下の詳細な説明及び以下の図面を参照することによってさらに明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】レートベースの予測モデル制御器を用いるディーゼル機関の図的表現である。
【
図2】レートベースの予測モデル制御器に対する入力及び出力を示すブロック図である。
【
図3】
図2のレートベースの予測モデル制御器を用いる機関の概略ブロック図である。
【
図4】シーケンスステップを表し、レートベースの予測モデル制御方法を操作するフローチャートである。
【
図5】EGRバルブ位置に対するサンプル数を表すグラフである。
【
図6】VGTデューティサイクルを表すグラフである。
【
図7】オーバーシュート制限の実行を表すグラフである。
【
図8】吸気圧の予測された軌跡を経時的に表すグラフである。
【
図9】経時的にサンプリングされた領域の数を表すグラフである。
【
図10】吸気圧及びEGRレートの時刻歴を表すグラフである。
【
図11】EGRスロットル位置の時刻歴を表すグラフである。
【
図12】EGRバルブ流量及び指定されたEGRバルブ流量の時刻歴を表すグラフである。
【
図13】は、指定されたVGTリフトの時刻歴を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ここで
図1を参照すると、ディーゼル機関を例として以下説明する内燃機関20は、複数のシリンダ24を収容するエンジンブロック22を含む。燃料供給源(図示せず)に接続された燃料レール26は、シリンダ24毎に1つの燃料噴射器を備えた複数の燃料噴射器28にディーゼル燃料を供給する。
【0025】
吸気マニホールド30は、各シリンダに吸気を供給するためのシリンダ24に連結される。吸気マニホールド圧力センサ32は、吸気マニホールド気圧を測定するために吸気マニホールド30に連結される。
【0026】
排気マニホールド34は、エンジンブロック22から離れているシリンダ24からの燃焼ガスを運ぶ。
【0027】
EGRバルブ40は、吸気マニホールド30と排気マニホールド34との間のバイパス経路内に連結され、シリンダ24への供給のために、排気マニホールド34からの排気ガスの一部を吸気マニホールド32に戻して再循環させる。EGRクーラー42は、EGRバルブ40とともにバイパス経路内に連結されてもよい。
【0028】
EGRスロットル44は、ガス循環を制御するために可変ジオメトリタービン(VGT)48のコンプレッサ46からの気流経路内に取り付けられる。
【0029】
インタークーラー50は、EGRスロットル44の前方の吸気経路内に取り付けられてもよい。
【0030】
可変ジオメトリタービン48は、タービン入力翼の角度を制御することで、コンプレッサ46を介して吸気マニホールド圧を制御する。
【0031】
本方法によれば、機関20に対するレートベースの予測モデル制御(RB−MPC)は、
図2に示すように、吸気マニホールド圧62及びEGRバルブ流量64などの複数の制御入力を用いる。部分的な非線形インバージョンは、以下に記載するように、VGTリフトデューティサイクル及びEGRバルブ位置に対して、2つの入力62、64をそれぞれ戻すために用いられる。部分的インバージョンは、モデルの非線形性度合いを低減するとともに、機関運転領域をカバーするゾーンの数を減らし、従って計算の複雑さを小さくすることに向けた第1のステップである。
【0032】
部分的インバージョンは、DCゲイン反転に対処する必要もない。制御器60の設計は、動作の各ゾーン内の低次元化線形化機関モデル(reduced order linearized engine models)に対する、機関速度と燃料比からなる機関運転領域の分割を用いる。制御及び状態の制約下で良好なトラッキング性能に対しては、単一のゾーンのみを用いてもよい。それにより、制御器の較正時間と同様に、ECU内のROM利用を低減することができる。個別の制御器は、EGRスロットルの使用のために用いられることができる。
【0033】
オンボード二次計画法に基づくものの代わりに、明示的なMPCの解が計算でき、
図3のECU70内で使用される。この実装は、有限の計算能力及びコードの単純さから動機づけられる。
【0034】
レートベースの予測モデルは、以下の要素を含む。
・吸気圧及びEGR率についての設定値を指示する設定値マップ。
・ディーゼル機関モデルの低次元線形化に基づく予測モデル。
・吸気圧及び最大EGR流量の時間変化制約を行いながら、要求されたVGTリフト及び要求されたEGR流量を生成する明示的なモデル予測制御器。
・VGTデューティサイクル(閉度(percent closed))及びEGRバルブ位置(開度(percent open))を算出する部分的インバージョンブロック。
・吸気圧、ECU推定EGR率、及び質量空気流(MAF)の測定に基づくカルマンフィルタ推定。
・要求EGR流量と最大EGR流量との間のマージンに基づいてスロットルを閉じるEGRスロットル(閉度)制御器。
・検索されたマルコフ連鎖ベースのMPC領域選択工程は、明示的なモデル予測制御器の適切な領域のための尤度オーダーである。
【0035】
機関20についての非線形モデルは
図4のステップ100に表すことができ、平均値と、物理学を利用したグレーボックスモデル化法と、データ適合度を用いる。モデル内の主な動的な状態は、吸気マニホールド圧、排気マニホールド圧、プレスロットル圧、ターボチャージャタービン速度、EGRクーラー出口温度、吸気マニホールド密度、排気マニホールド密度、吸気マニホールド燃焼ガス留分、排気マニホールド既燃ガス留分、及び機関温度である。モデルに対する入力は、機関速度、燃料比、VGTデューティサイクル、及びEGRスロットル位置である。
【0036】
モデルをより線形にするために、制御入力は、VGTデューティサイクル及びEGRバルブ位置の代わりに、吸気マニホールド圧62及びEGRバルブ流量64となるように選択される。制御指針は、指示された制御入力62、64からVGTデューティサイクル及びEGRバルブ位置を取り出すために部分的な非線形インバージョンを利用する。残りの入力、すなわち、機関速度、燃料比、EGRスロットル位置は、不変のままである。出力は、VGTリフト及びEGRバルブ流量、及び図示しないMAFとして選択される。MAFは、カルマンファイバへの入力としてのみ用いられる。
【0037】
機関運転領域(燃料比及び機関速度領域)は、選択された運転ポイントを中心とするゾーンに分割される。各運転ポイントにおいて、非線形モデルは線形化され、10次線形モデルになる。平衡型のトランケーションが、モデル次数を削減するために適用される。ハンケルの特異値及び初期設計の分析に基づいて、線形モデルの次数を二次までに削減できることが判明した。低次元化モデルの状態が物理的状態を変えるので、測定された出力からそれらを推定するために状態オブザーバ用いられる。制御器ROMサイズが小さくなり、且つ状態オブザーバが低次元であるので、線形の設計及びモデルの次数を小さくすることは有用である。
【0038】
ステップ102において、レートベースの予測モデルを定式化するために、二次元連続時間線形モデルが用いられる。その後、ステップ104において、レートベースモデルは、以下のように、線形モデルの導関数として生成される。
【数2】
ここで、ξは、2つの低次元化状態、
【数3】
及び出力y、吸気圧及びEGR率の状態微分から構成される拡張状態である。uは、出力(VGTリフト、EGRバルブ流量)のベクトルであり、dは、測定された外乱(EGRスロットル位置、機関速度、及び燃料比)のベクトルである。その後、A、B
1、B
2、Cに対応する連続時間システム実現は、T
S=32ミリ秒のサンプリング周期で離散時間に変換されてA
d、B
1d、B
2d、C
dをそれぞれ生成する。レートベースの予測モデル(RB−MPC)は、以下の式を有する。
【数4】
【0039】
本モデルは、制御レート
【数5】
を最適化することになる。状態
【数6】
は、制御の現在値である。d
k、測定された外乱の微分は拡張され代わりに0≦λ≦1は、外乱微分の予測減衰率であり、シミュレーションo
k及びr
kに基づいて選択される。
【0040】
増分コストは、トラッキングエラー、制御努力、及びスラック変数を重み付けする。k=1が現在時刻であるとした場合、結果として生じる最適化問題は、以下の式を有する。
【数7】
制御制約の影響下にあり、
【数8】
1:
sの制御範囲を用い、
【数9】
n∈I⊂{1,2,‥‥,N
c}にて断続的に実行されるソフトな吸気圧オーバーシュート制約の影響下にあり、
【数10】
ここでξ
d=[0r
N]
Tは、所望の定常値である。端末のコスト(ξ
N−ξ
d)
TP(ξ
N−ξ
d)は、関連する無制約のLQ問題の代数的リカッチ方程式の解に対応するP行列を用いる。
【0041】
明示的な制御器内の領域数を削減するために、制御区間は単一のステップが選択された。予測範囲を選択するためのMPCガイドラインを用いて、且つシミュレーションで制御器を調整した後に、出力制約区間は、N
C=30ステップとして設定され、予測範囲は、N=50ステップとして設定された。
【0042】
明示的なMPCレートベース制御器60は、ステップ106においてMatlab用のMPTツールボックスを用いて、区分的アフィン制御則の式で生成される。制御器60は、次式(11)の区分的アフィン制御則の式を有する。
もしH
ix
aug≦K
kであれば、
u
k+1=u
k+T
s(F
ix
aug+G
i) (11)
ここで、i∈{1,‥‥,nr}は、i番目の多面体領域を示し、
【数11】
は、要求制御レート、
【数12】
及び、
【数13】
を与え、ここで、
【数14】
は、推定されたプラントモデル状態である。式(12)において全拡張状態X
augは、16次である。
【0043】
EGRバルブ位置制御信号をEGR流量制御信号に置換し、且つVGTデューティサイクル信号をVGTリフト制御信号に置換するために、部分的インバージョンがレートベースの予測モデル制御器60に適用される。EGRバルブ流量は、吸気圧、排気圧、出口温度、EGRバルブ位置、及び機関速度の関数である。EGRバルブ位置に対するEGR流量のインバージョンは、ホアンら[2013年]に記載されている。EGRバルブ流量はECU推定として利用可能であるため、PID制御器も、また、EGR流量推定と要求EGR流量との差分に対して適用できる。
図5は、PID制御器がなくても、インバージョンが充分に正確であることを示唆する。較差は、PIDフィードバックによって、及びアウターループMPCフィードバックによって補償される。
【0044】
部分的インバージョン(但し、VGTリフトは測定されないので動的補償はない)は、MPC制御器によって要求されたVGTライフを、指定されたVGTデューティサイクルに変換するためにも用いられる。空気圧式のVGTアクチュエータダイナミクスは複雑であり、ヒステリシスを含む。それでも、モデルは、VGTリフト、機関速度、排気圧、及び出口温度(これらはECUが推定するときに利用可能である)をVGTデューティサイクルに変換する(
図6を参照)。
【0045】
スロットル制御器は、RB−MPC制御器60から分離されており、以下の式を有する。
【数15】
そうでなければ
【0046】
スロットル制御器は、スロットル位置を機関速度に設定し、スロットル位置フィードフォワードマップによって予め定められ、マージンM
egrを有する燃料依存の設定値θ
reqは、要求されたEGR流量
【数16】
の間に維持される。このマージンが損なわれると、PID制御器、C
PID(8)が適用されて、EGRスロットルを閉じることでマージンを修復する。
【0047】
いくつかの指針が、計算の複雑さを低減するために用いられることができる。生成された領域の数を低減するために断続的な制約の実施が用いられる。その後、あまり用いてない領域が取り除かれる。マルコフ連鎖領域選択工程も、動作領域を識別するのに必要な平均時間を削減するために用いられる。表1は、最悪ケースの計算の複雑さRB−MPCと、6ずつ又は1ずつ増加する吸気圧オーバーシュート制約の実施とを比較しており、n
rは1つのゾーン当たりの領域の数である。
【0049】
典型的な駆動サイクルにわたる広範囲なシミュレーションにより、あまり用いてない領域は、計算の複雑さを低減するために取り除かれ得る。さらに、小さい領域(すなわち、小さいチェビシェフ半径がある領域)は、取り除かれ得る。領域の除去により、選択された領域が次式によって与えられる。
i∈arg min
i{max
j{H
ijx
aug‐K
ij}}) (14)
ここで、jは、x
augが厳密に属するi番目の領域の定義において見出されるj番目の不等式に対応する。断続的な制約の実施を用いる指針のために、領域の約半分が、さらに取り除かれている。
【0050】
領域の数は、アクティブな制約の取り得る組み合わせ数に依存する。そのために、領域の数を低減するためには、予測範囲にわたるあらゆる瞬間で制約を実行するアプローチは、より少ない時間での強化された制約を実行することに改善される。RB−MPC60の最終的な設計は、吸気圧オーバーシュート制約を行うために、単一の時刻(20ステップ先)を用いるだけである。
【0051】
図7は、RB−MPC制御器60によるこのアプローチを説明する。この例において、本アプローチは、吸気圧設定値における124kPa〜232kPaステップに対応する、5〜55mm
3/ストロークの燃料比における大きなステップの間に、オーバーシュート制約を扱うことができる。過渡的な挙動は、レートベースアプローチを用いる有益性を強調するものである。
【0052】
RB−MPCの性能の有益性は、区間N=50ステップを超えるRB−MPCに対して予測された軌跡を示す
図9でさらに例示される。
【0053】
図9において、線形化ポイント3250rpmと比べて、1750rpmの線形化ポイントがシミュレーションの動作条件3500rpmからさらに離れていても、RB−MPCのための予測された軌跡は、実際の軌跡に近い。
【0054】
RB−MPC制御器60を用いる場合、計算コストは、領域ごとに不等式をチェックすることに左右される。マルコフ連鎖プロセスは、現在尤度オーダー内にある領域x
augを検索することによって平均ケース領域選択工程を高速化しようとするものである。駆動周期シミュレーション及び訪れた領域の軌跡から、領域遷移の関連マルコフ連鎖モデルのための遷移確率行列が生成される。各エントリは、列でインデックスを付けられた、前の領域からの遷移確率を表す。その後、確率遷移行列は、前領域ごとに、現領域をチェックするオーダーを生成するために分類される。
図8は、このシミュレーションの間にチェックされた領域の数を示す。最悪のケースにおける計算時間は、表1に示されるものと同一である。これは、x
augが確かに10番目の領域内にあるか、又はx
augが取り除かれた領域の1つの中であるかがチェックされた10の領域に対応する。大多数のシミュレーションについて、単一の領域のみがチェックされる。このことは、概して、x
augが前回の時間ステップの間と同じ領域内にとどまるために予測できる。
【0055】
シミュレーションは、
図10〜
図13に示すような機関20の非線形モデルのRB−MPC制御器60をもたらす。これらの図は、5〜55mm
3のストロークの間に1000〜4000rpmまでの機関速度領域及び燃料比をカバーする燃料ステップ応答を示す。機関速度は、100秒毎に500rpm上昇する。単一のRB−MPC制御器60が用いられ、線形化ポイントは、1750rpm、45mm
3/ストロークに位置する。制御器は、全運転領域を通じて充分なトラッキング性能及びオーバーシュート制約操作を実証する。
図11から明らかなように、EGRスロットルは、時々、例えば25秒で閉じ、これはEGR流量マージンを修復するためにEGRスロットル設定値によって指示されたものよりも大きい。
【0056】
図4に戻って参照すると、一旦レートベースの予測モデル制御器60がステップ106において生成されれば、制御器60は、
図3に示すように機関20のECU70内に実装される。
【0057】
ECU70は、コンピュータ利用可能な媒体上に明確に具体化され、プロセッサ実装によって上記のレートベースの予測モデル制御器が実行された場合に、命令を含むコンピュータプログラムを実行するプロセッサを有する。
【0058】
ECU70は、情報を操作又は処理することができる、あらゆるタイプの装置若しくは複数の装置であってもよく、中央処理装置を含んでもよい。中央処理装置は、単一のプロセッサ又は複数のプロセッサで実現される。
【0059】
中央処理装置は、ランダムアクセスメモリ又は他の適切なタイプの格納装置になり得るメモリにアクセスする。メモリは、中央処理装置によってアクセスされるコード及びデータを含むことができる。メモリは、本明細書に記載された方法を実行するために用いられるレートベースの予測モデル制御器を含む、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムをさらに含むことができる。
【0060】
レートベースの予測モデル制御器60を用いるECU70は、アルゴリズム又は数式によって領域に分割される機関状態スペースを推定することになる。一旦状態が状態110に決定されれば、ECU70は、レートベースの予測モデル制御器60を介して、ステップ108で推定された状態を用いることによって、ステップ112で生成された区分的アフィン制御則の領域を決定する。
【0061】
ステップ112において一旦領域が決定されると、ECU70は、ステップ114において、レートベースの予測モデル制御器60を介して、選択された領域に対応する、メモリ内に記憶されたフィードバックゲインを適用し、アクチュエータ60、62の制御レートを決定する。そして、ECU70は、ステップ116において、レートベースの予測モデル制御器60を介して、ステップ114から決定された制御レートを積分してアクチュエータ60又は62のための制御値を決定し、その後、ECU60によってアクチュエータの出力60又は62に適用される。
【国際調査報告】