(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-509932(P2016-509932A)
(43)【公表日】2016年4月4日
(54)【発明の名称】経皮弁を密閉するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20160307BHJP
【FI】
A61F2/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-562421(P2015-562421)
(86)(22)【出願日】2014年3月13日
(85)【翻訳文提出日】2015年10月30日
(86)【国際出願番号】IB2014001580
(87)【国際公開番号】WO2014181188
(87)【国際公開日】20141113
(31)【優先権主張番号】61/793,791
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】514271844
【氏名又は名称】バルブ メディカル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001346
【氏名又は名称】特許業務法人 松原・村木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リヒター、ヨラム
(72)【発明者】
【氏名】アーノルド、エミリー
(72)【発明者】
【氏名】コーエン、イラナ
(72)【発明者】
【氏名】ワイズ、エティ
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA27
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC20
4C097DD01
4C097EE03
4C097EE09
4C097EE17
4C097MM02
4C097SB10
(57)【要約】
固定具と生来の組織との間の密閉を改良する経皮弁装置およびシステムが提供される。固定具は外表面にヒドロゲル等の空間占拠材料を含み、当該空間占拠材料は、水性の環境に晒されると膨張し、固定具と生来の組織との間の隙間を塞ぐことで、弁シールとして作用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮弁装置であって、
複数の弁尖を有する弁部材と、
埋込み位置で前記弁部材を固定する固定具と、
空間占拠材料とを含み、
前記空間占拠材料は、前記固定具の表面に露出して位置し、前記固定具が水性の環境におかれると膨張することを特徴とする経皮弁装置。
【請求項2】
前記空間占拠材料は、ヒドロゲルであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記空間占拠材料は、前記固定具の外表面に位置することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記弁装置は、組立済み弁装置であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記装置は、前記弁部材である弁モジュールと、前記固定具である支持構造体とを備えた複数の装置モジュールを含むモジュール式弁装置であり、前記弁モジュールは、折り畳まれて組み立てられていない送達形態と、組み立てられた使用形態とを有し、前記支持構造体は、径方向に圧縮された送達形態と、径方向に拡張した使用形態とを有し、前記弁モジュールと前記支持構造体は、空間的に離間して送達され、送達装置から留置された後に、使用する経皮弁装置に組み込まれるように設計され、前記弁モジュールは、使用前に液体環境で保存されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記空間占拠材料は、前記支持構造体の内表面に位置することを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記空間占拠材料は、前記支持構造体の外表面および内表面に位置することを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記空間占拠材料は、前記固定具から離間する1つまたは複数の方向において所定量膨張することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記方向は、単一方向の径拡張であることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記方向は、二方向の径拡張であることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記二方向の径拡張は不均一であることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記不均一な径拡張は、径方向内側よりも径方向外側に大きく膨張することを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記固定具は、送達システムに装着する前に乾燥した環境で保存されることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
改良された密閉特性を有する経皮弁装置の製造方法であって、
a)マンドレルに固定具を取り付ける工程と、
b)前記マンドレルを回転させながら、前記固定具に1層または複数層の生体適合性材料のベースコートを塗布する工程と、
c)前記ベースコートの層を乾燥する工程と、
d)前記マンドレルを回転させながら、前記固定具に空間占拠材料の層を塗布する工程と、
e)前記空間占拠材料の層を乾燥する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記工程d)の前に、前記マンドレルから余分なベースコート材料を除去する工程をさらに含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記固定具を、使用するまで乾燥した環境で保存する工程をさらに含むことを特徴とする請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記マンドレルは、ベースコートマンドレルであることを特徴とする請求項14から請求項16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記固定具がステントであることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記空間占拠材料は、ヒトロゲルであることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記ベースコートの層を塗布する工程は、スプレー塗布を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記空間占拠材料の層を塗布する工程は、スプレー塗布を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記空間占拠材料の層を塗布する工程は、前記固定具の外表面への塗布を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記空間占拠材料を塗布する工程は、前記固定具の内表面への塗布を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記空間占拠材料を塗布する工程は、前記固定具の外表面および内表面への塗布を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項25】
経皮弁装置の改良された密閉方法であって、
弁モジュールと支持構造体を含むモジュール式経皮弁装置を提供する工程であって、前記弁モジュールは、折り畳まれて組み立てられていない送達形態と、組み立てられた使用形態とを有し、前記支持構造体は、径方向に圧縮された送達形態と、径方向に拡張した使用形態とを有し、前記弁モジュールと前記支持構造体は、送達装置から留置された後に、使用する経皮弁装置に組み込まれるように設計され、前記支持構造体は、前記支持構造体の表面に取り付けられた空間占拠材料を有し、前記支持構造体は、使用するまで乾燥した環境で保存され、前記弁モジュールは、使用するまで液体環境で保存される工程と、
前記支持構造体と前記弁モジュールを送達装置に装着する工程と、
前記支持構造体と前記弁モジュールを、前記送達装置から液体環境を有する管状構造体に留置する工程と、
前記管状構造体の内部で前記支持構造体を拡張させる工程と、
前記管状構造体の前記液体環境で、組み立てられた弁装置を形成するため、前記支持構造体と前記弁モジュールを組み合わせる工程であって、前記空間占拠材料は、液体環境で膨張する特性を有し、接触する面間の隙間を塞ぐ工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
前記空間占拠材料は、前記支持構造体の外表面に取り付けられることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記空間占拠材料は、前記支持構造体の内表面に取り付けられることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記空間占拠材料は、前記支持構造体の外表面および内表面に取り付けられることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野] 本発明は、弁固定具と脈管壁の間をより効果的に密閉する改良された経皮弁装置システムに関する。特に、本発明はヒドロゲルシールに関する。当該システムは、シールまたは弁尖の品質を犠牲にしない、経皮弁装置の乾燥条件での保存にも対応している。例えば、モジュール式弁装置とともに使用される場合、弁モジュール(弁尖を含む)が弁尖の柔軟性を維持するために湿潤条件下で保存される一方で、当該システムでは、支持構造体(固定具)を乾燥条件下で保存することが可能になる。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景] 人体は、例えば、心臓弁、食道弁および胃弁、腸弁、ならびにリンパ系内の各種弁等の多種多様な自己弁を含んでいる。自己弁は、疾病、老化等の様々な理由により変性することがある。弁の機能不全には、弁尖が完全に開かないことによる狭窄、弁尖が適切に閉じないことによる逆流、或いはこれらの組合せがあるが、いずれにしても最小限の圧力損失で体液の流れを一方向に維持することはできなくなる。
【0003】
弁機能を回復して、弁に関連する器官の適切な機能を取り戻すことが望まれる。例えば、心臓の適切な弁機能は、弁を通して最小限の圧力損失で一方向に血流を維持することであり、その結果、血液循環と血圧を維持することができる。同様に、食道弁の適切な機能は、酸性の胃液分泌により食道の内層が炎症を起こしたり回復不能な損傷を受けたりすることがないようにするものである。弁置換術は一般的な解決策であり、弁は、外科手術−心臓切開と循環バイパス形成術を含む−により或いは経皮的に埋め込むことができる。補綴弁の経皮的な埋込みは、標準的な外科手術に比べて安全で、安価であり、患者の回復時間も短くなる。
【0004】
当技術分野では、多数の組立済み弁装置が公知であり、市販されている。組立済み弁装置は、送達に先立って弁尖が固定具(すなわち、埋込み位置に弁を固定する支持構造体またはフレーム)に取り付けられるものである。組立済み経皮補綴弁の限定されない例としては、例えば、米国特許第5,411,552号および第6,893,460号に記載されており、例えば、米国カリフォルニア州アーバインのMedtronic/CoreValve社によるCoreValve Revalving(登録商標)システム、米国カリフォルニア州アーバインのEdwards Lifesciences社によるEdwards-Sapien弁またはCribier-Edwards弁の他、例えば、米国カリフォルニア州パロアルトのAortTx社、米国カリフォルニア州キャンベルのSadra Medical社、米国カリフォルニア州サンタローザのDirect Flow Medical社、イタリア共和国サルッジャのSorin Group社により開発された装置が含まれる。これらの装置は、固定具(多くの場合ステント)内で弁尖を折り畳むことにより装置がかさばるので、比較的大きな径のカテーテルを必要とする。大径のカテーテルは、小径のカテーテルに比べて柔軟性が乏しい傾向があり、特に、かさばって柔軟性のない装置に装着され、狭い脈管、とりわけ湾曲した脈管を通して装着済みのカテーテルを操作する際は、実施的に脈管壁を損傷する可能性がある。
【0005】
送達装置の直径を最小化し、合併症を最小限に抑えて弁置換術処置の安全性を高めるように設計された経皮弁装置がより望ましい。また、身体管腔の壁をさらに損傷することなく、脈管内に配置することができる経皮補綴弁を提供することが望まれている。マルチコンポーネントまたはモジュール式の補綴弁装置−複数の組み立てられていない別箇のモジュールとして送達され、体内で組み立てることが可能な補綴弁−により、弁部材が固定具に取り付けられて固定具とともに折り畳まれている組立済み装置よりも小さな送達径に折り畳むことが可能となり、その結果、小径の送達装置を使用することが可能となる。例えば、米国特許出願公開第2010/0185275A1号(発明者Richter等)、米国特許出願公開第2011/0172784A1号(発明者Richter等)、米国特許出願公開第2013/0310917A1号(発明者Richter等)には、このような望ましいモジュール式経皮弁装置が記載されており、これらの各出願は、参照によりそのすべてが本願の開示内容に含まれるものとする。
【0006】
弁置換術を要する患者の弁埋込み部位および当該弁埋込み部位の周囲における生来の組織は均一ではなく、大きさや形状がさまざまである。例えば、大動脈弁を置換する場合、大動脈弁に対する冠状動脈口の位置は患者ごとにまちまちである。さらに、生来の弁組織が取り除かれる外科的弁置換術とは異なり、経皮補綴弁はたいていの場合、生来の弁尖を取り除くことなく、これらの上に埋め込まれる。これとは対照的に、現在入手可能な経皮補綴弁は、標準的なサイズのみである。固定具の形状は公知の一般的な組織に対応し、処置を開始するのに先立って埋込み部位を撮像することが当該部位に最適な弁装置を事前に選択することの助けになるが、固定具と脈管壁との間にできる隙間は不可避である。さらに、弁が動作する間にずれることを回避するため固定具が弁をしっかりと保持することが不可欠であるので、どの程度固定具を柔軟にするかについて制限がある。これは、モジュール式経皮弁または組立済み弁装置が経皮的弁置換術で使用される場合に当てはまる。
【0007】
このような要因により、固定具と生来の組織との間を適切に密閉して弁周囲逆流(PVL; perivalvular leakage)を確実に抑制するという、経皮弁装置の分野における課題が生じる。特に、解剖学的異常の併発と、特に石灰質沈着をともなう生来の弁尖の残物とによる固定具と脈管壁の間の隙間に起因して、固定具と埋込み部位の間での密着は、PVLを回避するためにその領域を密閉するのにとうてい理想的とは言えないものとなる。
【0008】
弁周囲逆流を抑制するため、経皮弁は、織物スカートまたは固定部材を覆うカバー、縫合カフに取り付けられるリブ構造を備えた柔軟なウェブ、または外フレアーフィンガーを備えた織物被覆スカート(fabric covered skirt with outwardly-flared fingers)を備えるものとして設計されている。これらの設計は、逆流を最小化するのに理想的ではない。これらの構造は隙間、特に生来の弁尖の石灰質沈着により形成された隙間を、スカートを傾けるためのフィンガーを用いて或いはフィンガーを用いることなく塞ぐには不適切である。なぜなら、フィンガーは平坦な材料、例えば、織物から構成され、隙間を塞ぐように膨張することがないからである。経皮的に埋め込まれた弁を通した逆流を抑制する1つの方法は、米国特許出願公開第2009/0054969号(発明者Salahieh等)に記載されている。屈従サックが固定具の外側周辺に設けられ、これらのサックを水、泡、血液またはヒドロゲルで充填することができる。サックには開口が設けられ、当該開口を通してサックを適切な材料で充填する。このような開口は、裏込め可能なフィッシュスケールスロットまたはサックの充填に用いることができる孔を含むか、或いはサックが管腔に向けて開口し、患者の血液で満たされるものとしてもよい。Salahiehサックの充填は、明らかに弁の送達および埋込み後に行われる。なぜなら、血液が血管腔に入ることが必要であり、送達前に水および泡を充填することで送達装置の体積/直径が容認できないほど増加し、配置された開口を備えたサック内のヒドロゲルが、湿潤条件下で保存しなければならない弁尖の保存中に水和するからである。弁装置の湿潤条件下での保存の間に早期に水和が起こることを回避するために、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI; transcatheter aortic valve implantation)に使用するヒドロゲルシステムが開発されている。ヒドロゲルは、ヒドロゲルを包み水溶液を浸透させる第1の膜と、第1の膜の周囲に設けられ、水溶液を透過させず、ストリング付きの切り離し窓を有する第2の膜とを有する二重サックの中に収納される。弁が埋め込まれた後、送達装置を取り除く際にストリングを引っ張ることで、窓の被覆が取り除かれ、透水性の第1の膜に水媒体が入ることが可能となる。このような解決策は複雑であり、製造するのにコストがかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、逆流を最小限に抑えるために弁を密閉する手段を含む経皮弁装置およびシステムであって、製造と留置が簡単であり、弁装置の保存条件に適合するものが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[発明の概要]
本発明は、弁周囲逆流(PVL; perivalvular leakage)および/または弁内逆流(intravalvular leakage)を抑制するために、弁装置を密閉する改良された機構を有するマルチコンポーネント或いはモジュール式の経皮弁装置およびシステムに関する。本発明の装置は、弁モジュールと支持構造体モジュールを含み、送達装置から留置した後に弁モジュールと支持構造体を組み合わせ、組み立てられた使用形態の経皮補綴弁を形成するためにその場で組み合わせてもよい。逆流を最小限にしたり解消したりするシールを提供するために、空間占拠材料が支持構造体の表面に位置している。空間占拠材料は、水性の環境で事前に設定した量だけ拡張するように設計される。拡張により、空間占拠材料が取り付けられた支持構造体と当該支持構造体に対向する面(例えば、脈管壁または弁モジュール)との間のあらゆる隙間が塞がれる。
【0011】
一実施形態において、空間占拠材料は固定具の外表面に取り付けられる。空間占拠材料は、血液等の水性の流体または体液の存在下で拡張すなわち膨張する特性を有している。固定具の外表面に位置すると、膨張した空間占拠材料は、固定具と生来の組織との間にシールを形成して、PVLを抑制する。
【0012】
モジュール式経皮弁装置に適用した別の実施形態において、空間占拠材料は、支持構造体と弁モジュールを組み合わせるときに弁モジュールに隣接することになる位置で、支持構造体(固定具)の内表面に取り付けられる。支持構造体の内表面に位置すると、膨張した空間占拠材料が支持構造体と弁モジュールとの間にシールを形成し、これらの構造体の間で逆流を抑制する。
【0013】
モジュール式経皮弁装置に適用したさらに別の実施形態において、空間占拠材料は、支持構造体と弁モジュールを組み合わせるときに弁モジュールに隣接することになる位置で、支持構造体の外表面および支持構造体の内表面に取り付けられる。この実施形態では、膨張した空間占拠材料が、支持構造体と生来の組織との間にシールを形成するとともに支持構造体と弁モジュールとの間にシールを形成して、PVLならびに支持構造体と弁モジュールとの間の逆流を抑制する。
【0014】
本発明の利点は、経皮弁の従来技術における問題、すなわちPVLを解消するために、水性膨張する−ヒドロゲル等の空間占拠材料の有用性を活用することである。本発明の別の利点は、モジュール式経皮弁を含む実施形態において、弁尖とは別に固定具(または支持構造体)を乾燥条件下で保存することが可能になることであり、水性条件下での保存を必要としない弁尖を含む弁部材を備えた組立済み経皮弁装置に本発明を適用することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の詳細な説明] 本発明は、例えば、PVLを抑制するため、埋込み位置での弁シールを行う改良された機構を有する補綴経皮弁装置およびシステムを提供する。弁装置は、弁尖を有する弁部材と、埋込み位置で弁部材を固定する固定具と、固定具の表面(例えば、固定具の外表面)位置に位置する空間占拠材料(例えば、ヒドロゲル)を含む。空間占拠材料は、水性の環境(例えば、血液中)において、(例えば、膨張することで)拡張する特性を有しており、これにより空間占拠材料が空間(例えば、隣接する隙間(例えば、弁装置が埋め込まれた脈管壁等の生来の組織と固定具との間))を塞ぐことが可能となる。本発明によれば、空間占拠材料が水性流体と接触すると、空間占拠材料が1つまたは複数の方向に所定量拡張するように、装置を設計してもよい。単一方向の拡張ではない設計がなされた場合、所定の拡張量は不均一でもよい。したがって、例えば、径方向の(内外)2方向に拡張するよう設計される実施形態において、径方向内側よりも径方向外側に大きく膨張させてもよい。空間占拠材料を、例えば、固定具の外表面すべてまたは固定具の外表面の一部を覆うように塗布してもよい。
【0016】
本発明によると、弁装置はモジュール式弁装置であっても組立済み弁装置であってもよい。組立済み経皮弁装置は、送達前に相互に取り付けられる弁部材と固定具を含む。モジュール式弁装置は、経皮送達用の複数の装置モジュール、例えば、相互に分けて別々に送達され、例えば、埋込み位置または埋込み位置付近で送達装置から留置された後に組み合わせて弁装置を組み立てるように設計された経皮送達用の弁モジュールと支持構造体を含む。このようなモジュール式装置の例は、同時に係属する米国特許出願公開第2011/0172784A1号(発明者Richter等)、第2010/0185275A1号(発明者Richter等)および第2013/0310917A1号(発明者Richter等)に詳細が記載されており、これらの各出願は、参照によりそのすべてが本願の開示内容に含まれるものとする。空間占拠材料は、装置の固定具の外表面および/または内表面に位置し、固定具を配置する環境に晒されるものとすることができる。したがって、空間占拠材料は、水性の環境に晒されると拡張して、使用時に、例えば、支持構造体と生来の組織との間の空間または隙間および/またはモジュール式弁装置の支持構造体と弁モジュールとの間の空間または隙間を塞ぐ。
【0017】
いずれの実施形態においても、固定具は、使用前に乾燥した環境で保存(すなわち、固定具単独で或いは弁部材と一緒に)される。したがって、組立済み経皮弁装置では、湿潤条件下での保存を必要としない材料(例えば、合成材料が挙げられるがこれに限定されない)から弁尖が構成される場合または弁尖がアモルファス金属シートから作られる場合には、本発明は有益である。モジュール式弁装置の弁モジュールと支持構造体は留置前に物理的に分かれているので、これらを送達装置に装着するまで別箇に保存−異なる保存環境での保存を含む−してもよい。これにより、組立済み経皮弁装置または組み立てられていない経皮弁装置において、例えば、米国特許第7,331,991号(発明者Kheredvar)および米国特許出願公開第2005/0283231A1号(発明者Haug等)に記載されているような、弁部材および固定具が留置前に物理的に取り付けられている形態に対する優位性が得られる。なぜなら、現在入手可能な経皮弁装置の弁尖は、変性を防ぎ可撓性と柔軟性を維持するために、湿潤環境での保存が必要とされる生物学的材料または合成材料で構成される弁尖を含むからである。特に、保存された組織(例えば、補綴弁装置では最も一般的に使用される材料である心膜)から構成される弁尖は、水性の環境(例えば、保存液中)で保存しなければならない
【0018】
組立済み経皮弁装置と、固定具と弁部材が心膜から構成される弁尖を有する送達装置に装着される前に物理的に取り付けられている弁装置では、液体誘発型拡張機構(liquid-triggered expansion mechanism)を使用することができない。なぜなら、上述したように、組織を含む弁部材は使用に先立って水性液体中で保存しなければならないからである。ヒドロゲルは水性の環境で拡張するので、ヒドロゲルを実装する装置は、ヒドロゲルの膨張が所望されるまでは乾燥保存しなければならない。経皮弁装置では、特に、送達目的のために装置の直径を最小限に維持しなければならず、また膨張したヒドロゲルによって薄型の搬送形態を達成するための弁部材または固定具の設計意図が無になることになるので、ヒドロゲルの使用が制限される。
【0019】
本発明はモジュール式経皮弁装置との使用には限定されないが、湿潤条件下での保存を必要としない弁尖は組立済み経皮弁装置での使用目的で開発されることが考えられるため、とりわけモジュール式弁装置の利点をさらに説明する。弁モジュールとは異なり、弁モジュール用の固定具として機能する支持構造体モジュールは、湿潤条件下での保存を必要としない。本発明は、改良された密閉特性を有する弁装置を提供するために、これらの異なる特性を利用する。特に、空間占拠材料は、弁モジュールではなく支持構造体上に位置するので、弁モジュールとは異なる環境で保存することができる。
【0020】
したがって、本発明のいずれの実施形態においても、空間占拠材料が位置する装置の部分(すなわち固定具)は、送達システムに装着されて留置されるまで、乾燥した状態に保たれる。これにより、空間占拠材料として、例えば、必要時よりも前に拡張すなわち膨張することを回避するために乾燥条件下での保存を必要とするヒドロゲルを用いることができる。
【0021】
さらに、保存の利点に加えて、例えば、ヒドロゲル等の水性液体誘発型空間占拠材料(aqueous liquid-triggered space-occupying material)を使用することで、当該技術分野における布地を素材とする手段に比較して優れたシールが提供されることが期待される。ヒドロゲル等の空間占拠材料は、従来技術の織物スカートや織布よりも好適に拡張して小さな隙間や空間を塞ぐことができる。織物スカートや織布は、固有の構造により、これらをどのようにしてどこに配置するかという点で制約を受ける−織物スカートや織布は膨張して空間を塞ぐことができない−ので、本発明に比較すると劣っている。
【0022】
本発明の1つの目的は、経皮弁装置であって、複数の弁尖を有する弁部材と、埋込み位置で前記弁部材を固定する固定具と、空間占拠材料とを含み、前記空間占拠材料は、前記固定具の表面に位置し、前記固定具が使用前に乾燥した環境で保存されることを特徴とする装置を提供することである。
【0023】
また、本発明の1つの目的は、経皮弁装置システムであって、複数の弁尖を有する弁部材と、埋込み位置で前記弁部材を固定する固定具と、空間占拠材料と、送達システムとを含み、前記空間占拠材料は、前記固定具の表面に位置し、前記固定具が前記送達システムに装着される前に乾燥した環境で保存されることを特徴とするシステムを提供することである。
【0024】
本発明の1つの目的は、経皮弁装置であって、前記弁装置の固定具の表面に位置する空間占拠材料を含み、前記空間占拠材料が、前記固定具の表面と、脈管壁の表面および弁部材の表面からなる群から選択される対向面との間の空間を塞ぐことで、前記各面どうしの間にシールを形成することを特徴とする装置を提供することである。
【0025】
空間占拠材料は、ヒドロゲルまたは水性の環境に晒されると乾燥状態のときよりも体積が大きくなるような任意の材料を用いることができる。ヒドロゲルが拡張すると、固定具と対向面との間、例えば、固定具と生来の組織との間および/または固定具と弁部材との間にシールを形成する。一実施形態では、空間占拠材料は、固定具の外側の脈管壁表面に配置され、当該外表面の全部または一部を覆うものでもよい。別の実施形態では、空間占拠材料は、固定具の内側の管腔表面に配置され、当該内表面の全部または一部を覆うものでもよい。さらに別の実施形態では、空間占拠材料は、固定具の外側の脈管壁表面と内側の管腔表面に配置され、当該外表面の全部または一部と当該内表面の全部または一部を覆うものでもよい。
【0026】
また、本発明の1つの目的は、経皮弁装置の改良された密閉方法であって、弁尖を有する弁部材と固定具とを含む経皮弁装置の固定具の表面に空間占拠材料を取り付ける工程と、前記弁装置を使用するまでの間乾燥した環境で保存する工程と、を含む方法を提供することである。
【0027】
また、本発明の1つの目的は、経皮弁装置の改良された密閉方法であって、空間占拠材料をモジュール式経皮弁装置の装置モジュールの表面に取り付ける工程であって、前記モジュール式経皮弁装置が弁モジュールと支持構造体を含み、前記弁モジュールと前記支持構造体のそれぞれが、小径の組み立てられていない送達形態と、径が拡張した使用形態とを含み、前記空間占拠材料が取り付けられる前記装置モジュールが前記支持構造体である工程と、前記支持構造体を、使用するまで乾燥した環境で保存し、前記弁モジュールを、使用するまで液体環境で保存する工程と、前記支持構造体と前記弁モジュールを送達装置に装着する工程と、前記支持構造体と前記弁モジュールを、前記送達装置から液体環境を有する管状構造体に留置する工程と、前記管状構造体の内部で前記支持構造体を拡張させる工程と、前記管状構造体の前記液体環境で、組み立てられた弁装置を形成するため、前記支持構造体と前記弁モジュールを組み合わせる工程を含み、前記空間占拠材料は、液体環境で膨張する特性を有し、接触する面間の隙間を塞いでシールを形成することを特徴とする方法を提供することである。
【0028】
さらに、本発明の1つの目的は、複数の弁尖を有する弁部材と、埋込み位置で前記弁部材を固定する固定具と、前記固定具の表面に取り付けられる空間占拠材料と、を含む経皮弁装置の製造方法を提供することである。
【0029】
本発明の装置およびシステムを、幾つかの実施形態を参照して、以下に検討ないし説明する。各実施形態は、本発明の例示的な理解のために示し、本発明の特定の機能を概略的に示すものである。当業者であれば、本発明の範囲における他の類似の実施形態を容易に均等のものと理解するであろう。各実施形態は、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0030】
[発明の実施形態]
本発明の一実施形態では、空間占拠材料が、埋め込まれた弁の表面とその周囲の組織との間の空間を埋めて、弁周囲逆流(PVL)を防ぐシールを形成している。この実施形態では、空間占拠材料が装置フレームの外表面またはモジュール式経皮弁装置の支持構造体に位置している。外表面は、弁装置を脈管内で必要に応じて留置するときの生来の組織に隣接する面を意味する。空間占拠材料は、材料をバンド状または層状にしたもの、或いはスカート、コーティングまたは拡張時に当該表面どうしの間にシールを形成する材料の任意のパターンでよい。
【0031】
この実施形態の一態様では、空間占拠材料は専用に設計されたスカートの一部であり、当該スカートは支持構造体(または固定具)のみを覆う。特に、専用に設計されたスカートである空間占拠材料は、支持構造体(固定具)の外部、例えば、外面または外表面のみを覆うものでよい。空間占拠材料が支持構造体の外部を覆うので、液体と接触して膨張すると、空間占拠材料が弁装置とその周囲の生来の組織との間の空間または隙間を塞ぐ。このような空間または隙間を塞ぐことにより、空間占拠材料はシールを形成し、弁周囲逆流を抑制または完全に防止する。
【0032】
別の実施形態では、空間占拠材料が支持構造体の内表面に位置している。内表面は、装置が留置されて組み立てられるときに弁モジュールの外表面に隣接する支持構造体の管腔面の部分を意味する。この実施形態では、空間占拠材料が膨張して、支持構造体と弁モジュールの隣接面どうしの間の隙間を塞ぐ。空間占拠材料はバンドまたは材料の層、スカート、コーティングまたは拡張時に当該隣接面どうしの間にシールを形成する材料の任意のパターンでよい。この実施形態は、シール材を必要とせずに、支持構造体が十分に滑らかな脈管壁に対して十分に展開して、支持構造体と脈管壁の間の隙間を塞ぐことが期待されるので有益である。
【0033】
さらに別の実施形態(図示せず)では、空間占拠材料が支持構造体の外表面および内表面の両方に位置し、空間占拠材料が膨張すると、支持構造体と生来の脈管との間および支持構造体と弁モジュールとの間で隙間を塞ぐものであってもよい。
【0034】
空間占拠部材は高度に柔軟で、生体適合性があり、身体管腔での使用に対して安定性を有するものである。好適には、空間占拠材料は、水媒体との接触時に膨張を生じる親水特性を損なうことなく、支持構造体または固定具モジュールの拡張に比例して伸張することができる構造を有する。
【0035】
本発明において有用な空間占拠材料の一例は、ヒドロゲルである。本発明において有用なヒドロゲルは、親水性ではあるが水溶性ではない架橋ポリマーを含む材料である。このようなヒドロゲルが水性流体、例えば、血液または他の体液と接触すると、空間占拠材料が水性流体をそのポリマー構造内に吸収して、拡張すなわち膨張する。ヒドロゲルは、シールを形成するために、素早く、ゆっくりと或いは時間が遅れてから膨張する。このようなヒドロゲルの例としては、親水性ポリウレタン、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル(PHEMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、コラーゲン、ポリエチレン・オキシド(PEO)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMAA)、ポリ(n−ビニル−2−ピロリドン)(PNVP)、ポリアクリルアミド、セルロースエーテル、およびPEGを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。当業者に公知の他の生体適合性ヒドルゲルも本発明において有用であることが理解される。
【0036】
空間占拠材料がコーティング、例えば、支持構造体に取り付けられたスカート表面のコーティングである実施形態では、空間占拠材料が単一方向に拡張することが好ましい。例えば、空間占拠材料は、拡張すなわち膨張が装置から離間する一つの方向、すなわちシールを必要とする方向に発生するように設計され、装置に塗布することができる。
【0037】
改良されたシールを備える経皮弁装置の製造方法も提供される。一実施形態において、当該方法は、マンドレルに固定具を取り付ける工程と、前記マンドレルを回転させながら、前記固定具に1層または複数層の生体適合性材料のベースコートを塗布する工程と、前記ベースコートの層を乾燥する工程と、前記マンドレルを回転させながら、前記固定具に空間占拠材料の層を塗布する工程と、前記空間占拠材料の層を乾燥する工程と、を含む。この方法は、前記空間占拠材料の層を塗布する前記工程の前に、前記マンドレルから余分なベースコート材料を除去する工程をさらに含むものでもよい。この実施形態の一態様では、マンドレルがベースコートマンドレルである。この実施形態の一態様では、固定具がステントである。この実施形態の一態様では、空間占拠材料がヒドロゲルである。この実施形態の一態様では、前記乾燥工程が約5分間行われる。この実施形態の一態様では、前記ベースコートの層を塗布する前記工程はスプレー塗布を含む。この実施形態の一態様では、前記空間占拠材料の層を塗布する前記工程はスプレー塗布を含む。この実施形態の別の態様では、前記空間占拠材料の層を塗布する工程の前に、前記固定具が前記マンドレルから取り除かれ、前記空間占拠材料の層を塗布する前記工程は浸漬被覆を含む。
【0038】
「ベースコートマンドレル」は、固定具またはステントよりも小さい直径を有し、マンドレルと固定具の間にコーティングを挿入することができる。理論に限定されることなく、1つまたは複数のベースコート層により、金属製とすることができる固定具の表面処理を行って、後続の製造段階における空間占拠材料の付着性を改良することができる。
【0039】
スプレー塗布は、例えば、Vortex Sono-tek
TMノズルまたはその他の任意の適切なツールを用いて行うことができる。一実施形態では、スプレー塗布はアルゴン圧下で行われる。代替的に、スプレー塗布を他の不活性ガスの圧力下で行うこともできる。
【0040】
本発明の方法の別の実施形態では、マンドレルの使用を省略して、前記ベースコート層を塗布する前記工程が浸漬被覆を含み、前記空間占拠材料の層を塗布する前記工程が浸漬被覆を含む。浸漬被覆は、固定具の内表面および外表面の両方に空間占拠材料を塗布する場合に好適である。別の実施形態では、前記1層または複数層のベースコート層と空間占拠材料の層が固定具の内表面に塗布される。この実施形態では、固定具の外表面を、前記1層または複数層のベースコート層を塗布する前または後にマスキングしてもよく、空間占拠材料を浸漬被覆により塗布してもよい。各種の層を塗布する他の手段は、当該技術分野の範囲内である。同様に、空間占拠材料が固定具の一部にのみ塗布される場合、前記1層または複数層のベースコート層を塗布する工程の後、マスクを使用して、被覆すべき部分のみを露出させてもよい。
【0041】
一実施形態では、ベースコートがCarbosil
TM(カルボシル)、例えば、Carbosil 20 90A/THF 2.0% w/wでよい。カルボシルまたは当該技術分野で公知の類似の材料は、ヒドロゲルの一方向への拡張を制限する手段を提供する。ベースコートはスプレー塗布以外の当該技術分野で公知の方法によって塗布してもよいが、スプレー塗布が好適である。一実施形態では、ベースコートが第1の層と第2の層を含む。この実施形態の一態様では、第2のベースコート層を塗布する前に、マンドレルと固定具はPTFEシートを用いて表面処理が施される。この実施形態の一態様では、第1の層を塗布する工程は、第2の層を塗布する工程よりも処理時間が長い。例えば、一例として、第1の層は約10分間塗布され、第2の層は約6分間塗布されるものとしてもよい。
【0042】
一実施形態では、ヒドロゲルは、Technofilic
TM/DCM 1.6% w/wでよい。例えば、固定具に塗布するヒドロゲルの量、固定具に塗布するヒドロゲルの種類、スプレーの流量(ml/min)、噴霧時間、層数または浸漬回数を変更することにより、ヒドロゲルの拡張量を異ならしめることができる。一実施形態では、ヒドロゲルの層をスプレー塗布するための流量は、2ml/minで43分間である。一実施形態では、ヒドロゲル層の乾燥は2段階(ステップ)で行われる。第1の乾燥ステップは、90℃で20分間真空オーブン中で行われ、第2の乾燥ステップは、60℃で3時間真空オーブン中で行われる。
【0043】
本発明によるモジュール式弁装置の装置モジュールの実施例 上述したように、モジュール式経皮弁装置は個別に送達され、弁が埋め込まれる身体管腔の内部で組み合わされる。機能的な視点から見ると、複数の装置モジュールは、支持構造体と弁モジュールを含むものでよい。支持構造体は装置の骨格または根幹を提供するもので、弁モジュールを収容し、弁モジュールを身体管腔の内部における所定位置で保持する。弁モジュールは弁装置の弁尖を含み、使用形態に組み立てると、入口端部と出口端部を有する導管を提供する。本明細書中で使用される「装置モジュール」という用語は、組み立てられていない状態で送達され、生体内で弁装置に組み立てられることができる、モジュール式弁装置のコンポーネント(構成要素)を意味し、例えば、支持構造体、弁尖サブ構造体(leaflets substructure)または弁部分(例えば、弁組立体の一部)を含む。本明細書中で使用される「弁モジュール」という用語は、組み立てられていない折り畳まれた形態で送達され、1つまたは複数の弁尖を含む常設弁装置の一部(例えば、弁組立体)を形成するように組み合わせることができる1つまたは複数の装置モジュールを意味する。したがって、弁モジュールは単一装置モジュールであるか、以下により詳しく説明するように、複数の装置モジュールを含むものとすることができる。モジュール式経皮弁装置の例としは、米国特許出願公開第2010/0185275A1号(発明者Richter等)、米国特許出願公開第2011/0172784A1号(発明者Richter等)、米国特許出願公開第2013/0310917A1号(発明者Richter等)に記載されたものが挙げられ、これらの各出願は、参照によりそのすべてが本願の開示内容に含まれるものとする。マルチコンポーネントおよびモジュール式という用語は、本明細書においては交換可能に用いられる。「埋込み部位」、「埋込み位置」、「標的部位」という用語は、本明細書において交換可能に用いられる。
【0044】
モジュール式経皮弁装置の弁モジュールは、以下に記載するように、支持構造体または装置フレームから物理的に分けて別箇に送達され、組み立てられた弁装置を形成するため、埋込み部位または埋込み部位付近で支持構造体に組み合わされてもよい。したがって、送達または送達装置への装着に先立って、支持構造体または装置フレーム−例えば、装置の固定具−を弁モジュールから分離して保存することができる。以下により詳しく説明するモジュール式弁装置、特に弁モジュールと、送達および組み立て方法により、本発明が実施される弁の実施形態を説明するが、これは例示目的であり発明を限定することを意味するものではない。当業者であれば、本発明の新規な密閉システムおよび方法を他の種類の弁と共に用いてもよいことは容易に理解できるであろう。
【0045】
モジュール式弁装置は、カテーテル等の送達装置を介して、組み立てられた形態ではなく、例えば、支持構造体と弁モジュールのように部品に分けて(装置モジュールとして)、経皮的に導入される。装置モジュールは、物理的に分離した状態で或いは装置モジュールを完全な弁装置に組み立てるために使用可能なプルワイヤでつながれた状態で送達される。装置モジュールは、これらが組み合わされて組み立てられた弁装置を形成する身体の所望の位置、例えば、弁の埋込み部位付近、弁の埋込み部位、または埋込み部位からある程度距離を置いた位置に送達されるものとすることができる。
【0046】
装置モジュールは、埋込み部位で順次組み立てられるか或いは埋込み部位とは異なる部位で組み立てられ(その後、埋め込まれる)るものとすることができる。装置モジュールは、特定の弁置換術処置に適した任意の順序で組み立てられて、埋め込むことができる。弁モジュールは、係止機構で支持構造体に取り付けるものでよいが、さらに或いは代替的に、支持構造体の外表面に空間占拠材料が位置する部分では、支持構造体と弁モジュールを締まりばめにより接続してもよい。
【0047】
弁モジュールは任意の数の形態をとることができる。一実施形態では、モジュール式弁装置の複数の装置モジュールが、支持構造体と、組み立てて弁組立体を構成する複数の弁部分(それぞれが弁尖を含む)を含む。複数の弁部分は、嵌合することで流体の一方向の流れを許容するように開閉する弁組立体を形成できるような形状を有している。弁部分すなわち弁尖は、正常に機能する自己弁の生理的作用に厳密に一致するように機能する。支持構造体および弁部分を管腔内に順次送達してもよい。弁部分を支持構造体の内部で組み立てて弁組立体としてもよく、弁部分を組み立てて弁組立体とし、それをさらに支持構造体の内部に組み込むものとしてもよい。代替的に、弁部分を支持構造体に1つずつ取り付けて、組み立てられた弁装置を形成してもよい。
【0048】
別の実施形態では、モジュール式弁装置は2つの装置モジュール、すなわち支持構造体と、一体型弁コンポーネントである弁モジュールとを含み、これら2つの装置モジュールを順次管腔に送達して、身体内で組み立ててもよい。一体型弁コンポーネントは、弁コンポーネントを薄型送達形態へと折り畳むのに便利な形状を備えた、組み立てられていない形態と、導管を有する組み立てられた使用形態とを有するものでよい。この実施形態では、一体型弁コンポーネントは、組み立てられていない形態において、弁尖サブ構造体−第1端部と、第2端部と、縦方向軸(base-to-apex axis)とを有する実質的に平坦な一層構造体−とすることができる。組み立てられていない弁尖サブ構造体を(例えば、1つの軸に沿って巻くことで)丸めて送達形態にし、支持構造体から離間して(または支持構造体に固定して接続されて)送達し、丸めたものを展開して弁コンポーネントに組み付け(使用形態)て、第1端部と第2端部を相互に係止するものでよい。弁尖サブ構造体は、弁尖サブ構造体と共に丸められてリング状に形成されることで、弁尖サブ構造体をその組み立てられた使用形態に変形させることを補助する塑性変形部材を含む。代替的に、弁尖サブ構造体は、送達形態と事前に設定された使用形態を有する形状記憶合金から形成される自己組立部材を含むものとすることもできる。
【0049】
モジュール式弁装置が2つの弁モジュール(支持構造体と、一体型弁コンポーネント(当該弁コンポーネントを薄型搬送形態へと折り畳むのに便利な形状を提供する組み立てられていない形態と、導管を有する組み立てられた使用形態とを有する))を含むさらに別の実施形態では、組み立てられていない形態の一体型弁コンポーネントは、弁尖リング−第1端部と、第2端部と、縦方向軸(base-to-apex axis)とを有する実質的に平坦な二層構造体−である。組み立てられていない弁尖リングを(例えば、1つの軸に沿って巻くことで)丸めて送達形態にすることができる。折り畳まれて組み立てられていない弁尖リングを送達し、その後、展開して弁コンポーネント(使用形態)に組み立ててもよい。弁尖リングは、塑性変形可能なリング部材を含んでいてもよく、当該塑性変形可能なリング部材は、弁尖リングを組み立てられていない形態に維持することができる組み立てられていない形態と、弁尖リングを組み立てられた使用形態に維持するために拡張される組み立てられた形態とを有していてもよい。代替的に、弁尖リングは、送達形態と事前に設定された使用形態を有する形状記憶合金から形成される自己組立部材を含むものとすることもできる。
【0050】
さらに別の実施形態では、弁モジュールは、ピボットを備えた二重リング弁フレームを有する一体型自己組立式弁モジュールでよく、当該弁モジュールは、米国特許出願公開第2013/0310917A1号に記載されているように、狭小な送達径に折り畳まれ、送達装置から留置した後に自己拡張して、支持モジュールと組み合わせるために集まる。
【0051】
弁モジュールのこれらいずれの実施形態も、組み立てられていない形態から組み立てられた使用形態に組み立てられた後、支持構造体と組み合わせて完全な弁装置を形成するものとしてもよい。弁モジュールのこれらの非限定的な実施形態は、例えば、同時に係属する米国特許出願公開第2011/0172784A1号の
図1から
図10および段落26〜38、45〜46および51〜69と、同時に係属する米国特許出願公開第2010/0185275A1号の
図1から
図6および段落36〜44および65〜82と、同時に係属する米国特許出願公開第2013/0310917A1号の
図1から
図7および段落11〜16、39〜44および52〜67に詳細が記載されており、これらの各出願は、参照によりそのすべてが本願の開示内容に含まれるものとする。
【0052】
支持構造体は好適には半径方向に拡張可能であり、そのため半径方向に圧縮された(拡張されない)状態で送達され、その後、埋込みと弁装置組立てのために拡張されてもよい。支持構造体は、管腔内での装置の位置を維持しつつ弁コンポーネントを支持することができるように十分に耐久性がある生体適合性材料から製造することができ、半径方向に圧縮された状態での支持構造体の送達と、送達装置からの留置時における圧縮された支持構造体の拡張を両立するものである。支持構造体は、ステンレス鋼または形状記憶合金(例えば、ニチノールまたは当該技術分野で公知の好適な原子組成のアモルファス金属合金)から製造されるか、或いは当該技術分野で公知の好適な生体適合性材料から製造することができる。適切な支持構造体の非限定的な実施形態の一例としては、ステントが挙げられる。ステントまたは他の任意の支持構造体は、自己拡張またはバルーン拡張することが可能である。
【0053】
本明細書において、「組立済み/組み立てられた(assembled)」という用語は、弁組立体、弁コンポーネントまたは弁装置が使用形態(例えば、平坦で、丸められたまたは分離した装置モジュールではなく、実質的に筒状である)にあるが、各モジュールが相互に係止されている必要はないことを意味する。組み立てられた形態は、弁モジュールが実質的に筒状であり、所定位置に弁尖を備えた導管を提供する使用形態と呼ぶこともできる。「組み立てられていない」弁モジュールは、送達(送達形態)のために折り畳まれるか或いは展開されて組立て待機状態にあるものとすることができる。「組み立てられていない」一体型弁コンポーネントは、第1端部および第2端部を有する弁尖構造体を含むものとすることができ、上述したように、リング状に配置することで、端部どうしを合わせて組み立てられた弁コンポーネント(使用形態)を形成してもよい。同様に、上述したように、「組み立てられていない」弁組立体は、送達用に最も効果的にモジュールを折り畳むために、相互にタンデム形(例えば、リング状に配置するのではなく直列状に配置)に取り付けることができる複数の弁部分を含む。代替的に、各弁部分を取り付けず、個別に送達してもよい。
【0054】
弁モジュールは、米国特許出願公開第2010/0179649号(発明者Richter等)に詳細を記載するように、脈管壁に対する支持構造体の位置を微細に再調整できる或いは留置後に支持構造体に対する弁モジュールの位置を微細に再調整できるように、支持構造体に調節自在に接続してもよく、当該出願は参照によりそのすべてが本願の開示内容に含まれるものとする。好適には、弁モジュールが微調整機構を含む場合、空間占拠材料が拡張して弁モジュールおよび支持構造体をシールする前に、支持構造体に対して弁モジュールの位置が微調整される。
【0055】
当業者であれば、本発明の精神または権利範囲から逸脱することなく、諸実施形態として特に本明細書中に示されて記載された事項に対して、多くの変形、追加、変更およびその他の適用を加えることができることが理解されるであろう。したがって、以下の特許請求の範囲に記載されるように、本発明の範囲は、予見できるあらゆる変形例、追加例、変更例または適用例を含むことを意図するものである。
【国際調査報告】