(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-510092(P2016-510092A)
(43)【公表日】2016年4月4日
(54)【発明の名称】紙製造におけるブライトネス改善のためのプロセスおよび組成物
(51)【国際特許分類】
D21H 21/32 20060101AFI20160307BHJP
D21H 21/30 20060101ALI20160307BHJP
D21C 9/10 20060101ALI20160307BHJP
【FI】
D21H21/32
D21H21/30
D21C9/10 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-500289(P2016-500289)
(86)(22)【出願日】2014年2月18日
(85)【翻訳文提出日】2015年9月14日
(86)【国際出願番号】US2014016901
(87)【国際公開番号】WO2014149302
(87)【国際公開日】20140925
(31)【優先権主張番号】13/839,091
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】515050220
【氏名又は名称】エコラブ ユーエスエイ インク
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダギーララ プラサッド ワイ
(72)【発明者】
【氏名】シェフチェンコ セルゲイ エム
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AC01
4L055AC06
4L055AC08
4L055AC09
4L055AD11
4L055AG04
4L055AG71
4L055AH07
4L055AH39
4L055AH50
4L055EA31
4L055FA12
(57)【要約】
製紙プロセスの異なる段階中に適用されると、パルプのブライトネスを保存し、および増強させ、パルプまたは紙の色も改善する組成物および方法が開示される。組成物および方法は、ブライトネスを維持し、または増強させ、黄変を防止し、紙製品の性能を増強させる。組成物は還元剤の混合物を含むことができ、また、光学的増白剤、キレート剤、ポリカルボキシレート類、または他の添加物を含むことができる。還元剤の混合物は、水素化ホウ素、例えば水素化ホウ素ナトリウム、および任意の他の還元剤、例えば亜硫酸塩または亜硫酸水素塩を含むことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増強されたブライトネスおよび増強された熱黄変耐性を有する漂白パルプ材料を調製するための方法であって:
i)漂白パルプ材料を提供する工程、ならびに
ii)前記漂白パルプ材料を、有効量の水素化ホウ素を含む還元剤の混合物と接触させる工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記漂白パルプ材料を1つ以上の光学的増白剤と接触させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記漂白パルプ材料を1つ以上のキレート剤と接触させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記漂白パルプ材料は、未使用パルプ、再生パルプ、クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、機械パルプ、再生紙、ティッシュペーパー、紙、紙製品、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記還元剤の混合物は、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、メタ重亜硫酸塩(ピロ亜硫酸塩)、スルホキシル酸塩、チオ硫酸塩、亜ジチオン酸塩(ハイドロサルファイト)、ポリチオン酸塩、ホルムアミジンスルフィン酸、ホルムアミジンスルフィン酸塩、およびホルムアミジンスルフィン酸誘導体からなる群より選択されるメンバーをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記還元剤の混合物は、亜硫酸水素ナトリウムをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記水素化ホウ素は、アルカリ土類金属水素化ホウ素類からなる群より選択されるメンバーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記水素化ホウ素は水素化ホウ素ナトリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上のキレート剤は、有機ホスホネート、有機ホスホネートの塩、ホスフェート、ホスフェートの塩、カルボン酸、カルボン酸の塩、ジチオカルバメート、ジチオカルバメートの塩、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上のキレート剤は、ジエチレン−トリアミン−ペンタメチレンホスホン酸(DTMPA)およびその塩、ジエチレン−トリアミン−ペンタメチレンホスホン酸(DTMPA)の塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)の塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の塩、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上の光学的増白剤は、ジスルホン酸化スチルベン、ジスルホン酸化スチルベン誘導体、テトラスルホン酸化スチルベン、テトラスルホン酸化スチルベン誘導体、ヘキサスルホン酸化スチルベン、およびヘキサスルホン酸化スチルベン誘導体からなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記漂白パルプ材料を1つ以上のポリカルボキシレート類と接触させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記1つ以上のポリカルボキシレート類は、部分的に中和されたポリアクリル酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記還元剤の混合物および前記1つ以上の光学的増白剤は、表面サイズ溶液と混合され、前記漂白パルプ材料にサイズプレスにおいて適用される、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
前記還元剤の混合物および前記1つ以上の光学的増白剤を含む前記表面サイズ溶液のpHは約6から約11の間の範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法により調製された、増強されたブライトネスおよび増強された熱黄変耐性を有する漂白パルプ材料。
【請求項17】
貯蔵中の漂白パルプ材料のブライトネス損失および黄変を防止する方法であって、有効量の水素化ホウ素を含む還元剤の混合物を前記漂白パルプ材料に添加する工程を含み、ならびに、任意で、1つ以上のキレート剤、1つ以上のポリカルボキシレート類、またはそれらの組み合わせを前記漂白パルプ材料に添加する工程をさらに含み、任意で前記還元剤の混合物および任意的な1つ以上のキレート剤、および任意的な1つ以上のポリカルボキシレート類は前記漂白パルプに、漂白段階後に、貯蔵、ブレンディング、または移動チェストにおいて添加される、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法により調製された、増強されたブライトネスおよび増強された熱黄変耐性を有する漂白パルプ材料。
【請求項19】
還元剤の混合物を含む組成物であって、前記還元剤の混合物は水素化ホウ素および任意で亜硫酸塩および/または亜硫酸水素塩を含み、前記組成物は1つ以上の光学的増白剤をさらに含み、任意で、前記組成物は、1つ以上のキレート剤、1つ以上のポリカルボキシレート類、または前記1つ以上のキレート剤および前記1つ以上のポリカルボキシレート類の任意の組み合わせをさらに含む、組成物。
【請求項20】
前記還元剤の混合物は、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、メタ重亜硫酸塩(ピロ亜硫酸塩)、スルホキシル酸塩、チオ硫酸塩、亜ジチオン酸塩(ハイドロサルファイト)、ポリチオン酸塩、ホルムアミジンスルフィン酸、ホルムアミジンスルフィン酸塩、ホルムアミジンスルフィン酸誘導体、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択されるメンバーをさらに含み、さらに、前記水素化ホウ素は、アルカリ土類金属水素化ホウ素類からなる群より選択されるメンバーを含み、さらに、前記1つ以上のキレート剤は、有機ホスホネート、有機ホスホネートの塩、ホスフェート、ホスフェートの塩、カルボン酸、カルボン酸の塩、ジチオカルバメート、ジチオカルバメートの塩、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され、さらに、前記1つ以上の光学的増白剤はジスルホン酸化スチルベン、ジスルホン酸化スチルベン誘導体、テトラスルホン酸化スチルベン、テトラスルホン酸化スチルベン誘導体、ヘキサスルホン酸化スチルベン、およびヘキサスルホン酸化スチルベン誘導体からなる群より選択され、さらに、前記1つ以上のポリカルボキシレート類は部分的に中和されたポリアクリル酸を含む、請求項19に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示はパルプおよび紙製造において、ブライトネスおよび光学特性を改善し、ブライトネスの損失を防止し、熱黄変耐性を増強するための組成物およびプロセスに関する。より特定的には、この開示は、水素化ホウ素類を含む組成物に関し、これらは、単独で、または光学的増白剤の存在下のいずれかで、効果的に紙製品のブライトネスおよび光学特性を増強し、ならびにその熱安定性を増加させる。
【背景技術】
【0002】
機械または化学パルプ化方法のいずれかにより製造されたパルプは、使用した木材の型および離解プロセスによって、暗褐色からクリーム色の範囲とすることができる色を有する。パルプは漂白され、多様な用途のための白色紙製品が製造される。
【0003】
漂白は、未漂白パルプにおいて見出されるそれらの光吸収物質の除去または変更である。機械パルプの漂白では、目的は、リグニンを可溶化せずにパルプを脱色することである。還元(例えばハイドロサルファイトナトリウム)または酸化(例えば、過酸化水素)漂白剤のいずれかが通常使用される。漂白はしばしば、多段階プロセスである。化学パルプの漂白は、消化段階で開始する脱リグニンの拡張である。漂白はしばしば、多段階プロセスであり、この段階は、二酸化塩素漂白、酸素−アルカリ脱リグニン、および過酸化物漂白を含んでもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第8,246,780号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大部分が熱エージングに起因する変色は、漂白パルプを使用する製紙プロセスの様々な段階、ならびに得られた紙製品において、黄変およびブライトネス損失となる。産業界は、完成紙また紙製品の光学特性を改善する、化学品、例えば漂白剤および光学的増白剤に著しく投資している。しかしながら、今日まで、結果は、満足のいかないものであり、変色および黄変に起因する経済的損失は、産業界に大きな進行中の問題を提示する。したがって、ブライトネスの損失ならびにパルプおよび紙の望ましくない黄変を防止するための成功した、実用的な解決策が必要なままである。
【0006】
従来技術は、製紙プロセスにおいて、ブライトネスを改善し、安定化させ、黄変耐性を増強させるために開発されてきた(米国特許第8,246,780号を参照されたい、その内容は参照により、本出願に明確に組み込まれる)。さらなる開発において、本発明者らは、米国特許第8,246,780号で記載される組成物と、この参考文献において教示または示唆されていない、別の反応性化学物質の間の予想外の相乗作用に基づいて、この技術を著しく改善する方法を発見した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本開示は、増強されたブライトネスおよび増強された熱黄変耐性を有する漂白パルプ材料を調製するための方法を提供する。方法は、i)漂白パルプ材料を提供する工程、ならびにii)漂白パルプ材料を、有効量の水素化ホウ素を含む還元剤の混合物と接触させる工程を含む。
【0008】
別の態様では、本開示は、貯蔵中の漂白パルプ材料のブライトネス損失および黄変を防止する方法を提供する。方法は、有効量の水素化ホウ素を含む還元剤の混合物を漂白パルプ材料に添加する工程を含む。任意で、方法は、1つ以上のキレート剤、1つ以上のポリカルボキシレート類、またはそれらの組み合わせを漂白パルプ材料に添加する工程をさらに含む。任意で、還元剤の混合物および任意的な1つ以上のキレート剤、および任意的な1つ以上のポリカルボキシレート類は、漂白段階後、貯蔵、ブレンディング、または移動チェストにおいて、漂白パルプに添加することができる。
【0009】
さらなる態様では、本開示は、水素化ホウ素を含む還元剤の混合物、および1つ以上の光学的増白剤を含む組成物を提供する。任意で、組成物はまた、1つ以上のキレート剤、1つ以上のポリカルボキシレート類、または、1つ以上のキレート剤および1つ以上のポリカルボキシレート類の任意の組み合わせを含むことができる。
【0010】
前記は、下記詳細な説明が、よりよく理解され得るように、本開示の特徴および技術利点をかなり広く、概説したものである。本出願の特許請求の範囲の主題を形成する、本開示の追加の特徴および利点は、以下で記載されるであろう。開示される概念および特定の実施形態を、本開示の同じ目的を実施するための他の実施形態を改変または設計するための基礎として用意に使用することができることは、当業者により認識されるべきである。そのような等価の実施形態は、添付の特許請求の範囲で明記される本開示の精神および範囲から逸脱しないこともまた、当業者により自覚されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この開示は、高い光学ブライトネスを示す紙および紙製品を製造するための改善されたプロセスを提供する。漂白パルプ、および漂白パルプから調製された紙製品の熱黄変に対するブライトネス安定化、色改善、およびブライトネス増強は、本明細書で規定される水素化ホウ素を含む還元剤の混合物をパルプ、紙、板紙、および/またはティッシュに、製紙プロセスにおける任意の段階で添加することにより達成することができる。
【0012】
ブライトネスは、紙からの青色光(457nm)の反射率により、0%(真っ黒)から100%(MgO標準(約96%の絶対ブライトネスを有する)に対して)のスケールで、パルプまたは紙の白色度を説明するために使用される用語である。「熱ブライトネス損失」は時間、温度および水分の影響下での紙およびパルプにおけるブライトネス損失である(非光化学ブライトネス損失)。「貯蔵中のブライトネス損失」は貯蔵条件下での時間に伴う熱ブライトネス損失である。
【0013】
漂白パルプ材料の黄変(ブライトネス逆転)は、ある期間にわたる、漂白パルプ、漂白パルプから調製された紙、板紙、ティッシュペーパー、および関連材料のブライトネスの損失である。
【0014】
本明細書で記載される還元剤は、製紙プロセスにおいて使用される任意の漂白パルプ材料および漂白パルプから調製された任意の紙製品において使用するのに好適である。本明細書では、「漂白パルプ材料」は、漂白パルプおよび漂白パルプから調製された紙製品、例えば紙、板紙、ティッシュ、などを意味する。
【0015】
この開示による還元剤は、漂白パルプ中の官能基をより高い酸化カテゴリからより低い酸化カテゴリに変換することができる化学物質を含む。この変換の利点としては、抄紙機におけるブライトネス安定性の増加および光学的増白剤の性能の増強が挙げられる。
【0016】
一態様では、還元剤は水素化ホウ素を含む還元剤の混合物を含み、1つ以上の還元剤は、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、メタ重亜硫酸塩(ピロ亜硫酸塩)、スルホキシル酸塩、チオ硫酸塩、亜ジチオン酸塩(ハイドロサルファイト)、ポリチオン酸塩、およびホルムアミジンスルフィン酸および/またはその塩からなる群より選択される。還元剤の混合物は水素化ホウ素および前記追加の還元剤の任意の組み合わせを含むことができる。例えば、還元剤の混合物は、水素化ホウ素、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、およびメタ重亜硫酸塩を含むことができる。
【0017】
本明細書では、「亜硫酸塩」は、亜硫酸、H
2SO
3の二塩基性金属塩を意味し、二塩基性アルカリおよびアルカリ土類金属塩、例えば、亜硫酸ナトリウム(Na
2SO
3)、亜硫酸カルシウム(CaSO
3)、などが挙げられる。
【0018】
「亜硫酸水素塩」は、亜硫酸の一塩基性金属塩を意味し、アルカリおよびアルカリ土類金属一塩基性塩、例えば亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO
3)、亜硫酸水素マグネシウム(Mg(HSO
3)
2)、などが挙げられる。
【0019】
「スルホキシル酸塩」は、スルホキシル酸、H
2SO
2の塩を意味し、スルホキシル酸亜鉛(ZnSO
2)、などが挙げられる。
【0020】
「メタ重亜硫酸塩(ピロ亜硫酸塩)」は、ピロ亜硫酸、H
2S
2O
5の塩を意味し、メタ重亜硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
5)などが挙げられる。
【0021】
「チオ硫酸塩」は、チオ亜硫酸、H
2S
2O
3の塩を意味し、チオ硫酸カリウム(Na
2S
2O
3)などが挙げられる。
【0022】
「ポリチオン酸塩」は、ポリチオン酸、H
2S
nO
6(n=2−6)の塩を意味し、トリチオン酸ナトリウム(Na
2S
3O
6)、ジチオン酸、H
2S
2O
6の塩、例えばジチオン酸ナトリウムNa
2S
2O
6などが挙げられる。
【0023】
「亜ジチオン酸塩(ハイドロサルファイト)」は、亜ジチオン酸(ヒドロ亜硫酸、次亜硫酸)、H
2S
2O
4の塩を意味し、亜ジチオン酸(ハイドロサルファイト)ナトリウム(Na
2S
2O
4)、亜ジチオン酸マグネシウム(MgS
2O
4)などが挙げられる。
【0024】
「ホルムアミジンスルフィン酸(FAS)」は、式H
2NC(=NH)SO
2Hの化合物ならびにその塩および誘導体を意味し、ナトリウム塩H
2NC(=NH)SO
2Naが挙げられる。
【0025】
「水素化ホウ素類」は、式M(+n)(BH
4)nの化合物を意味し、ここで、Mは金属カチオンである。1を超える型の金属を含む複合水素化ホウ素類もまた含まれる。水素化ホウ素類は、水との接触で分解しない条件下で、水溶性とすることができる。
【0026】
「塩」は、無機または有機アニオン性対イオンの金属、アンモニウム、置換アンモニウム、またはホスホニウム塩を意味する。代表的な金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、などが挙げられる。代表的なアニオン性対イオンとしては、亜硫酸、亜硫酸水素、スルホキシル酸、メタ重亜硫酸、チオ硫酸、ポリチオン酸、ハイドロサルファイト、ホルムアミジンスルフィン酸、などが挙げられる。
【0027】
一態様では、還元剤の混合物の成分は、2つの群から選択される。群1から、還元剤の混合物は、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、メタ重亜硫酸塩(ピロ亜硫酸塩)、スルホキシル酸塩、チオ硫酸塩、亜ジチオン酸塩(ハイドロサルファイト)、ポリチオン酸塩、およびホルムアミジンスルフィン酸ならびにその塩および誘導体から選択される1つ以上の化合物を含むことができる。群2から、還元剤の混合物は1つ以上の水素化ホウ素類を含むことができる。一態様では、1つ以上の水素化ホウ素類は、水素化ホウ素ナトリウム、NaBH
4のアルカリ性溶液を含み、これはおよそ12%のNaBH
4およびおよそ39%のNaOHを含むが、いくつかの実施形態では、NaBH
4は約5%から約25%の範囲、NaOHは約25%から約50%の範囲とすることができる。
【0028】
一態様では、還元剤の混合物は亜硫酸水素ナトリウムおよび水素化ホウ素ナトリウムを含む。別の態様では、還元剤の混合物は、亜硫酸水素ナトリウムおよび水素化ホウ素ナトリウム、NaBH
4のアルカリ性溶液(およそ12%のNaBH
4およびおよそ39%のNaOHを含む)を含むが、いくつかの実施形態では、NaBH
4は、約5%から約25%の範囲とすることができ、NaOHは、約25%から約50%の範囲とすることができる。
【0029】
本開示のプロセスは、従来の製紙機器上で実施することができる。製紙機器は動作および機械設計が変動するが、紙が異なる機器上で製造されるプロセスは共通の段階を含む。製紙は典型的には、パルプ化段階、漂白段階、ストック調製段階、ウェットエンド段階、およびドライエンド段階を含む。
【0030】
パルプ化段階では、個々のセルロース繊維はセルロース源から、機械作用、化学作用、または両方のいずれかにより、解放される。代表的なセルロース源としては、木材および同様の「木質」植物、大豆、コメ、綿、わら、亜麻、アバカ、麻、バガス、リグニン含有植物、など、ならびに元の紙および再生紙、ティッシュペーパー、および板紙が挙げられるが、それらに限定されない。そのようなパルプとしては、砕木(GWD)、漂白砕木、サーモメカニカルパルプ(TMP)、漂白サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、漂白ケミサーモメカニカルパルプ、脱墨パルプ、クラフトパルプ、漂白クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、および漂白亜硫酸パルプが挙げられるが、それらに限定されない。再生パルプは、リサイクリング段階で漂白されても、されなくてもよいが、もともと漂白されていると推定される。以前に漂白に供されていない、以上で記載されるパルプのいずれも、本明細書で記載されるように、漂白することができ、漂白パルプ材料が提供される。
【0031】
この開示の一態様では、漂白パルプ材料は、未使用パルプ、再生パルプ、クラフト、亜硫酸パルプ、機械パルプ、そのようなパルプの任意の組み合わせ、再生紙、ティッシュペーパー、およびそのような列挙されたパルプまたはそれらの組み合わせから製造された任意の紙からなる群より選択される。
【0032】
この開示の利点は、印刷グレードのクラフトメカニカル紙において、より高価格のクラフトパルプの代わりにより低価格の機械パルプを使用することが可能になることである。本明細書で記載される化学および方法の使用により、黄変に対するブライトネスおよび安定性が増加し、よって、より高い量の機械パルプの使用が可能になり、得られた紙製品における品質の損失なしで、対応するコストの低減が得られる。
【0033】
製紙プロセスでは、パルプは、ストック調製段階において、水に懸濁される。増白剤、染料、顔料、フィラー、抗菌薬、消泡剤、pH調整剤、および濾水助剤などの添加物もまた、ストックにこの段階で添加され得る。この用語がこの開示において使用されるように、「ストック調製」は、ストック懸濁液の希釈、スクリーニング、およびクリーニングのような動作を含み、それらはウェブの形成前に起こり得る。
【0034】
製紙プロセスのウェットエンド段階は、製紙機のワイヤーまたはフェルト上にストック懸濁液またはパルプスラリーを堆積させ、繊維の連続ウェブを形成させる工程、ウェブの濾水工程、およびウェブの圧密化(「プレス加工」)によりシートを形成させる工程を含む。当技術分野で知られているいずれの製紙機も、本開示のプロセスと共に使用するのに好適である。そのような機械としてはシリンダー機械、フォードリニア機械、ツインワイヤー形成機械、ティッシュ機械、など、およびそれらの改良物が挙げられる。
【0035】
製紙プロセスのドライエンド段階では、ウェブが乾燥され、追加の処理加工、例えばサイズレス、カレンダー仕上げ、表面改質剤を用いたスプレーコーティング、印刷、切断、波形加工、などに供され得る。サイズプレスおよびカレンダウォーターボックスに加えて、乾燥させた紙は、スプレーブームを用いて、スプレーコーティングにより、コートすることができる。
【0036】
この開示にしたがい、発明者らは、ある一定の還元剤、例えば水素化ホウ素類は、以下で記載されるように、他の還元剤、例えば亜硫酸水素ナトリウム、および/またはキレート剤と組み合わせると、パルプの熱安定性の増加、およびパルプにおける発色構造の低減により、予想外に、かつ効果的に紙製品のブライトネスを増強させることを発見した。
【0037】
本開示の一態様では、1つ以上のキレート剤は、漂白パルプまたは紙製品に、還元剤の混合物と組み合わせて添加される。この開示による好適なキレート剤としては、パルプ構成要素と着色生成物を形成し、漂白パルプまたは紙製品における発色反応を触媒する遷移金属をキレート化することができる化合物が挙げられる。
【0038】
一態様では、キレート剤は、有機ホスホネート、ホスフェート、カルボン酸、ジチオカルバメート、前のメンバーのいずれかの塩、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される化合物である。
【0039】
「有機ホスホネート」は、単一のC−P結合を含むホスホン酸、HP(O)(OH)
2の有機誘導体、例えばHEDP(CH
3C(OH)(P(O)(OH)
2)、1−ヒドロキシ−1,3−プロパンジイルビス−ホスホン酸((HO)
2P(O)CH(OH)CH
2CH
2P(O)(OH)
2))、好ましくはC−P結合に隣接して(近傍に)単一のC−N結合を含むもの、例えばDTMPA((HO)
2P(O)CH
2N[CH
2CH
2N(CH
2P(O)(OH)
2)
2]
2)、AMP(N(CH
2P(O)(OH)
2)
3)、PAPEMP((HO)
2P(O)CH
2)
2NCH(CH
3)CH
2(OCH
2CH(CH
3))
2N(CH
2)
6N(CH
2P(O)(OH)
2)
2)、HMDTMP((HO)
2P(O)CH
2)
2N(CH
2)
6N(CH
2P(O)(OH)
2)
2)、HEBMP(N(CH
2P(O)(OH)
2)
2CH
2CH
2OH)、などを意味する。
【0040】
「有機ホスフェート」は、単一のC−P結合を含む、亜リン酸、P(O)(OH)
3の有機誘導体を意味し、トリエタノールアミントリ(リン酸エステル)(N(CH
2CH
2OP(O)(OH)
2)
3)、などが挙げられる。
【0041】
「カルボン酸」は、1つ以上のカルボキシル基(複数可)、−C(O)OHを含む有機化合物、好ましくは、C−CO
2H結合に隣接して(近傍に)単一のC−N結合を含むアミノカルボン酸、例えばEDTA((HO
2CCH
2)
2NCH
2CH
2N(CH
2CO
2H)
2)、DTPA((HO
2CCH
2)
2NCH
2CH
2N(CH
2CO
2H)CH
2CH
2N(CH
2CO
2H)
2)、など、ならびにそのアルカリおよびアルカリ土類金属塩を意味する。
【0042】
「ジチオカルバメート」は、モノマジチオカルバメート、ポリマジチオカルバメート、ポリジアリルアミンジチオカルバメート、2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン、エチレンビスジチオカルバミン酸二ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸二ナトリウム、などを含む。
【0043】
一態様では、キレート剤はホスホネートである。
【0044】
特定の態様では、ホスホネートはジエチレン−トリアミン−ペンタメチレンホスホン酸(DTMPA)および/またはその塩である。
【0045】
別の態様では、キレート剤はカルボン酸である。
【0046】
特定の態様では、カルボン酸は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)およびその塩、ならびにエチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびその塩の1つ、またはその組み合わせである。
【0047】
発明者らはまた、還元剤の混合物が極めて最小量の1つ以上の水素化ホウ素類を含む、例えば、還元剤の混合物の約1%から約10%が1つ以上の水素化ホウ素類である場合、1つ以上の光学的増白剤(「OBA」)と組み合わせると、最小量の水素化ホウ素は、著しく、かつ予想外にOBAの効果を増強し、よって、相乗作用が、還元剤の混合物の成分とOBAの間で見出されることも発見した。還元剤の混合物は、最小量の1つ以上の水素化ホウ素類しか含まない場合であっても、カラースキームを改善する。これにより、匹敵するブライトネスおよび色を達成するのに必要な、OBAおよび増白剤、例えば青色染料の量が低減される。OBAおよび染料のいくらかを、最小量の1つ以上の水素化ホウ素類しか含まない、ここで開示される還元剤の混合物で置き換えると、パルプおよび紙製造者は、紙製品における許容されるレベルのブライトネスを維持し、かつ標的色を達成しながら、生産コストを低減させ、かつ、存在するOBAおよび染料の全体量を低減させることができる。いくつかの態様では、染料を完全に排除し、色を維持することも可能であり得る。
【0048】
前記段落は、最小量の1つ以上の水素化ホウ素類が、還元剤の混合物の他の成分(他の還元剤)に対して有する効果に対して同じように適用可能である。例えば、発明者らは、還元剤の混合物が最小量の1つ以上の水素化ホウ素類を含む、例えば、還元剤の混合物の約1%から約10%が1つ以上の水素化ホウ素類である場合、最小量の1つ以上の水素化ホウ素類は、著しく、かつ予想外に還元剤の混合物中の他の還元剤の効果を増強させることを発見した。還元剤の混合物は、他の還元剤に加えて最小量の1つ以上の水素化ホウ素類しか含まない場合であっても、カラースキームを改善する。これにより、匹敵するブライトネスおよび色を達成するのに必要な、還元剤の混合物中の1つ以上の水素化ホウ素類以外の還元剤の量が低減される。最小量の1つ以上の水素化ホウ素類のみを還元剤の混合物に添加しながら、還元剤の混合物中の還元剤の量を低下させると、パルプおよび紙製造者は、紙製品において許容されるレベルのブライトネスを維持し、またはブライトネスのレベルをさらに改善し、かつ標的色を達成しながら、生産コストを低減させることができる。
【0049】
したがって、別の実施形態では、1つ以上のOBAが、還元剤の混合物に加えて、漂白パルプまたは紙製品に添加され、任意で、1つ以上のキレート剤もまた、添加される。
【0050】
「光学的増白剤」は、ストック完成紙料に添加した時に、紫外線を吸収して、可視スペクトルにおける高周波(青色)でそれを再放出し、よって白色に輝く外観を紙シートに提供する蛍光染料または顔料である。代表的な光学的増白剤としては、アゾール、ビフェニル、クマリン、フラン、アニオン性、カチオン性、およびアニオン性(中性)化合物を含むイオン性増白剤、および前記の任意の組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
【0051】
還元剤、キレート剤、および/または光学的増白剤の添加量は、漂白パルプまたは漂白パルプから調製された紙製品の所望のブライトネスおよび黄変耐性を達成するのに必要な量であり、当業者であれば、キレート剤または光学的増白剤の特性、処理されるパルプまたは紙、および適用方法に基づいて、容易に決定し得る。
【0052】
漂白パルプまたは紙製品に添加される還元剤の混合物の有効量は、ここで開示される還元剤で処理されていないパルプまたは紙と比べて、パルプまたは紙のブライトネスおよび熱黄変耐性を増強させる混合物の量である。ブライトネスおよび熱黄変耐性を決定するための方法は本明細書で記載される。
【0053】
一態様では、オーブン乾燥されたパルプに基づいて、約0.005から約2重量パーセントの還元剤の混合物が漂白パルプまたは紙製品に添加される。他の態様では、オーブン乾燥されたパルプに基づいて、約0.05から約0.25重量パーセントの還元剤の混合物が漂白パルプまたは紙製品に添加される。これらの態様のいずれにおいても、還元剤の混合物は約1%から約25%の、1つ以上の水素化ホウ素類を含むことができる。例えば、還元剤の混合物は、約99%から約90%の、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、メタ重亜硫酸塩(ピロ亜硫酸塩)、スルホキシル酸塩、チオ硫酸塩、亜ジチオン酸塩(ハイドロサルファイト)、ポリチオン酸塩、およびホルムアミジンスルフィン酸ならびにその塩および誘導体からなる群より選択される、1つ以上の還元剤、および約1%から約10%の1つ以上の水素化ホウ素類を含むことができる。追加の例として、還元剤の混合物は、約99%から約90%の亜硫酸水素ナトリウムおよび約1%から約10%の水素化ホウ素ナトリウムを含むことができる。
【0054】
一態様では、オーブン乾燥されたパルプに基づいて、約0.001から約1重量パーセントのホスホネート、ホスフェートまたはカルボン酸キレート剤、および/または約0.002から約0.02重量パーセントのジチオカルバメートキレート剤が、還元剤の混合物に加えて、漂白パルプまたは紙製品に添加される。別の態様では、オーブン乾燥されたパルプに基づいて、約0.01から約0.1重量パーセントのホスホネート、ホスフェートまたはカルボン酸キレート剤、および/または約0.002から約0.02重量パーセントのジチオカルバメートキレート剤が、還元剤の混合物に加えて、漂白パルプまたは紙製品に添加される。
【0055】
ある一定の態様では、光学的増白剤が、還元剤の混合物に加えて、オーブン乾燥されたパルプに基づいて、約0.005から約2重量パーセントの光学的増白剤の量で添加される。他の態様では、光学的増白剤が、還元剤の混合物に加えて、オーブン乾燥されたパルプに基づいて、約0.05から約1重量パーセントの光学的増白剤の量で添加される。
【0056】
還元剤の混合物、キレート剤、および/または光学的増白剤は、製紙またはティッシュ製造プロセスにおけるいずれの点においても、漂白パルプまたは紙に添加することができる。代表的な添加点としては、下記が挙げられるが、それらに限定されない:(a)レイテンシーチェスト(latency chest)中のパルプスラリーに対して、(b)漂白段階後、貯蔵、ブレンディングまたは移動チェストにおけるパルプに対して、(c)漂白、洗浄および脱水、続いてシリンダーまたはフラッシュ乾燥後のパルプに対して、(d)クリーナー前後、(e)抄紙機へッドボックスへのファンポンプの前後、(f)抄紙機白水に対して、(g)サイロまたはセーブオールに対して、(h)例えば、サイズプレス、コーターまたはスプレーバーを使用するプレスセクションにおいて、(i)例えば、サイズプレス、コーターまたはスプレーバーを使用する乾燥セクションにおいて、(j)ウェハボックスを使用するカレンダ上、(k)オフマシンコーターまたはサイズプレスにおける紙上、および/または(l)カール制御ユニットにおいて。
【0057】
還元剤の混合物、キレート剤、および/または光学的増白剤が添加されるべきである正確な位置は、関与する特定の機器、使用される正確なプロセス条件、などに依存するであろう。場合によっては、還元剤の混合物、キレート剤、および/または光学的増白剤は、最適有効性のために1つ以上の位置で添加されてもよい。
【0058】
適用は、製紙プロセスで従来使用される任意の手段により実施することができ、「分割供給」が挙げられ、これにより、還元剤の混合物、キレート剤、および/または光学的増白剤の一部が、製紙プロセスの一点で、例えば、パルプまたはウェットシート上に(乾燥機前)適用され、残りの部分がその後の点、例えば、サイズプレスにおいて添加される。
【0059】
キレート剤(複数可)および/または光学的増白剤(複数可)は、還元剤の混合物の前後、またはこれと同時に、漂白パルプまたは紙製品に添加することができる。光学的増白剤(複数可)および/またはキレート剤(複数可)はまた、還元剤の混合物と調合してもよい。
【0060】
一態様では、還元剤の混合物および1つ以上の光学的増白剤は表面サイズ溶液と混合され、サイズプレスで適用される。
【0061】
別の態様では、還元剤の混合物は、漂白段階後、貯蔵、ブレンディングまたは移動チェストにおいて漂白パルプに添加される。
【0062】
これらの様々な位置で、還元剤の混合物、キレート剤、および/または光学的増白剤はまた、製紙において典型的に使用される担体または添加物、例えば歩留向上剤、サイズ助剤および溶液、デンプン、沈降炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、または他のクレイもしくはフィラー、および増白添加物と共に添加することができる。
【0063】
一態様では、還元剤の混合物、キレート剤、および/または光学的増白剤は、1つ以上の部分的に中和されたポリカルボン酸、例えばポリアクリル酸(CH
3CH(CO
2H)[CH
2CH(CO
2H)]
nCH
2CH
2CO
2H(式中、nは約10から約50,000である)と組み合わせて使用される。ポリカルボン酸は、水酸化ナトリウムなどのアルカリで中和して標的pH(以下で記載されるように典型的には5−6)とすることができる。
【0064】
本開示によれば、1つ以上のキレート剤、還元剤の混合物、および1つ以上のポリカルボン酸を含む調合物が提供される。調合物は好ましくは約4−7のpHを有する。ある一定の態様では、調合物は約5から約6の間のpHを有する。
【0065】
一態様では、還元剤の混合物、1つ以上の光学的増白剤、任意で1つ以上のキレート剤、および任意で1つ以上のポリカルボキシレート類を含む調合物が提供される。この態様による調合物は約7−11のpHを有し、ある一定の態様では、pHは約9から約10の間である。
【0066】
還元剤の混合物、キレート剤、光学的増白剤、および/またはポリカルボキシレート類は、製紙において従来使用される他の添加物に加えて、最終紙製品の1つ以上の特性を改善する、紙自体を製造するプロセスを補助する、または両方のために使用してもよい。これらの添加物は一般に、機能添加物または制御添加物のいずれかとして特徴付けられる。
【0067】
機能添加物は典型的にはある一定の特定的に所望される特性を改善または最終紙製品に付与するために使用されるそれらの添加物であり、これらとしては、増白剤、染料、フィラー、サイズ剤、デンプン、および接着剤が挙げられるが、それらに限定されない。
【0068】
他方、制御添加物は、紙の物理的性質に著しく影響を与えることなく、全体のプロセスを改善するために、紙を製造するプロセス中に組み込まれる添加物である。制御添加物としては、殺生物剤、歩留向上剤、消泡剤、pH調整剤、ピッチ制御剤、および濾水助剤が挙げられる。本開示のプロセスを使用して製造される紙および紙製品は1つ以上の機能添加物および/または1つ以上の制御添加物を含み得る。
【0069】
顔料および染料もまた添加することができ、それらは紙に色を付与する。染料は、共役二重結合系を有する有機化合物、アゾ化合物、金属アゾ化合物、アントラキノン類、トリアリールメタンなどのトリアリール化合物、キノリンおよび関連化合物、酸性染料(ミョウバンなどの有機カチオンと共に使用される、スルホン酸基を含むアニオン性有機染料)、塩基性染料(アミン官能基を含む、カチオン性有機染料)、直接染料(高分子量であり、セルロースに対する特定の直接的親和力を有する酸型染料)、ならびに上記列挙された好適な染料化合物の組み合わせを含む。顔料は、白色または着色とされ得る微細化ミネラルである。製紙業界において最も一般的に使用される顔料はクレイ、炭酸カルシウム、および二酸化チタンである。
【0070】
フィラーは紙に添加され、不透明度およびブライトネスを増加させる。フィラーとしては、炭酸カルシウム(方解石)、沈降炭酸カルシウム(PCC)、硫酸カルシウム(様々な水和形態を含む)、アルミン酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸マグネシウム、例えばタルク、二酸化チタン(TiO
2)、例えばアナターゼまたはルチル、水和SiO
2およびAl
2O
3からなるクレイまたはカオリン
、合成クレイ、雲母、バーミキュライト、無機凝集体、パーライト、砂、砂利、砂岩、ガラスビーズ、エアロゲル、キセロゲル、シーゲル(seagel)、フライアッシュ、アルミナ、ミクロスフェア、中空ガラス球、多孔性セラミック球、コルク、シーズ、軽量ポリマ、ゾノトライト(結晶ケイ酸カルシウムゲル)、軽石、剥離岩、廃棄コンクリート製品、部分的に水和されまたは水和されない水硬セメント粒子、珪藻土、ならびにそのような化合物の組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
【0071】
サイズ剤は製造プロセス中に紙に添加され、紙に浸透する液体に対する耐性の発展を助ける。サイズ剤は内部サイズ剤または外部(表面)サイズ剤とすることができ、ハードサイジング、スラックサイジング、または両方のサイジング法のために使用することができる。より特定的には、サイズ剤としては、ロジン、ミョウバン(Al
2(SO
4)
3)とともに沈殿されたロジン、アビエチン酸およびアビエチン酸同族体、例えばネオアビエチン酸およびレボピマール酸、ステアリン酸およびステアリン酸誘導体、炭酸ジルコニウムアンモニウム、シリコーンおよびシリコーン−含有化合物、フッ素化学物質、アルキルコハク酸無水物(ASA)、ASAまたはAKDのカチオン性デンプンとのエマルジョン、ミョウバンを組み入れたASA、デンプン、ヒドロキシメチルデンプン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、アルギナート、ろう、ろうエマルジョン、およびそのようなサイズ剤の組み合わせが挙げられる。
【0072】
デンプンは製紙において多くの用途を有する。例えば、保持剤、乾燥紙力増強剤、および表面サイズ剤として機能する。デンプンとしては、アミロース、アミロペクチン、様々な量のアミロースおよびアミロペクチン、例えば25%のアミロースおよび75%のアミロペクチン(コーンスターチ)、ならびに20%のアミロースおよび80%のアミロペクチン(ジャガイモデンプン)を含むデンプン、酵素処理されたデンプン、加水分解デンプン、当技術分野で「ペースト化デンプン」としても知られている加熱デンプン、デンプンの三級アミンとの反応から得られる、四級アンモニウム塩を形成するようなカチオン性デンプン、アニオン性デンプン、両性デンプン(カチオン性およびアニオン性両方の官能性を含む)、セルロースおよびセルロース誘導化合物、およびこれらの化合物の組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
【0073】
この開示の方法および組成物により、明るい表面を有する紙製品が得られる。その上、この開示の組成物はさらに、紙を通常使用中の長期変色から保護する。
【0074】
一態様では、本開示は、増強されたブライトネスおよび熱黄変耐性を有する紙製品を製造する方法を提供する。方法は、i)漂白パルプを提供する工程、ii)漂白パルプを含む水性ストック懸濁液を形成する工程、iii)ストック懸濁液を濾水し、シートを形成させる工程、ならびにiv)シートを乾燥させる工程を含み、有効量の還元剤の混合物が漂白パルプに、ストック懸濁液に、またはシート上に添加される。方法はまた、1つ以上のキレート剤、1つ以上の光学的増白剤、および/または1つ以上のポリカルボキシレート類、またはそれらの任意の組み合わせを漂白パルプに、ストック懸濁液に、またはシート上に添加する工程を含むことができる。この方法により調製された紙製品もまた、本開示に包含されることが意図される。
【0075】
別の態様では、増強されたブライトネスおよび増強された熱黄変耐性を有する漂白パルプ材料を調製するための方法が開示される。方法は、i)漂白パルプ材料を提供する工程、ならびにii)漂白パルプ材料を、有効量の水素化ホウ素を含む還元剤の混合物と接触させる工程を含む。この方法により調製された紙製品もまた、本開示に包含されることが意図される。
【0076】
さらなる態様では、貯蔵中の漂白パルプ材料のブライトネス損失および黄変を防止する方法が提供される。方法は、有効量の、水素化ホウ素を含む還元剤の混合物を漂白パルプ材料に添加する工程を含む。方法は任意で、1つ以上のキレート剤を漂白パルプ材料に添加する工程を含む。方法はまた任意で、1つ以上のポリカルボキシレート類を漂白パルプ材料に添加する工程を含む。この方法によれば、還元剤の混合物および任意的な1つ以上のキレート剤、および任意的な1つ以上のポリカルボキシレート類は、漂白段階後、貯蔵、ブレンディング、または移動チェストにおいて漂白パルプに添加することができる。この方法により調製された紙製品もまた、本開示に包含されることが意図される。
【0077】
本発明者らは、還元剤の混合物のある一定の成分間での予想外の、劇的な増強効果、例えば1つ以上の水素化ホウ素類が亜硫酸塩または亜硫酸水素塩などの他の還元剤に対して有する効果を発見した。いずれの理論にも縛られることは望まないが、水素化ホウ素成分は、還元剤の混合物中の他の還元剤、例えば亜硫酸塩および亜硫酸水素塩の非生産的消費を、それらの非標的成分との反応を防止することにより、防止すると言うことができるであろう。1つ以上の水素化ホウ素類は、還元剤の混合物中の他の還元化学物質、例えば亜硫酸塩および亜硫酸水素塩を活性化し、増強された効果を達成する活性化剤として作用するとも、言うことができる。これらの効果は下記実施例において見ることができる。よって、還元剤の混合物の各成分は、果たすことが知られている同じ機能を単純に果たすわけではない。還元剤の混合物の水素化ホウ素成分は、例えば、還元剤の混合物の他の成分に対し増強効果を有する。よって、還元剤の混合物中の1つ以上の水素化ホウ素類、および本明細書で開示される添加物のいずれか、例えばOBAを含む本処理の効果は、1つ以上の水素化ホウ素類を組み込まなかった同様の技術の前の開示よりも予想外に強い。その上、増強された効果または相乗効果を生成させるのに必要とされる1つ以上の水素化ホウ素類の量はかなり最小である。
【0078】
発明者らはまた、還元剤の混合物のある一定の成分、例えば水素化ホウ素成分と還元剤の混合物と共に添加することができる他の添加物、例えばOBAおよび/またはキレート剤の間の予想外の、劇的な増強効果を発見した。これらの効果は、下記実施例において見ることができる。よって、処理の各成分は、果たすことが知られている同じ機能を単純に果たすわけではない。還元剤の混合物の水素化ホウ素成分は、例えば、OBAおよび/またはキレート剤に対して増強効果を有する。よって、還元剤の混合物中の水素化ホウ素および本明細書で開示される添加物のいずれか、例えばOBAを含む本処理の効果は、1つ以上の水素化ホウ素類を組み込まなかった同様の技術の前の開示よりも予想外に強い。その上、増強された効果または相乗効果を生成させるのに必要とされる水素化ホウ素の量はかなり最小である。
【0079】
前記は、下記実施例を参照してよりよく理解され得るが、これらは説明目的のために提供されるものであって、本開示の範囲を制限することを意図しない。実施例から示されるように、性能はpH依存性であるが、ブライトネス改善は広いpH範囲、例えば約6から約11にわたって観察される。よって、利点として、サイズ剤溶液の他の要求に基づく最適pHを選択することができる。
【実施例1】
【0080】
【表1】
【0081】
これらの実施例では、十分な50%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、試験される薬剤または組成物に対して適切なpHが達成した。これらの実施例における全てのパーセンテージは重量パーセント乾燥パルプを基本に提供される。これらの実施例では、下記用語は、示された意味を有する。BrはISOブライトネスR457(TAPPI 525)、YeはE313黄色度、WIはE313白色度、TMPはサーモメカニカルパルプ、CTMPはケミサーモメカニカルパルプ、RMPはリファイナーメカニカルパルプ、OBAは光学的増白剤、DTPAは(HO
2CCH
2)
2NCH
2CH
2N(CH
2CO
2H)CH
2CH
2N(CH
2CO
2H)
2、ならびにMix1は水素化ホウ素ナトリウム、NaBH
4のアルカリ性溶液であり、これはおよそ39%のNaOHおよびおよそ12%NaBH
4を含む。
【0082】
<処理>
市販の漂白クラフト紙シートを実験で使用した。この場合、還元剤を表面サイジングにより適用し、続いて、ドラム乾燥させた(ドラム乾燥中の温度:100℃)。試験された薬剤または組成物溶液の投入量は、パルプサンプルの乾燥重量に基づいて決定した。薬剤または組成物溶液は、サイズ剤溶液中での浸漬により適用した。試験シートは、実験室ドラム乾燥機を用いて均一条件下で乾燥させた(1回)。
試験機器は下記の通りとした:
実験室ドラム乾燥機、
「エルレフォ(Elrepho)3000」または「テクノダインカラータッチ(Technodyne Color Touch)2(Model ISO)」またはブライトネス測定のための別の機器、
マイクロピペット、
表面サイズ剤適用キット(パッド、サイズ剤、3本の適用ロッド)、
恒湿室(23℃、50%湿度)、
紙サンプルを有するフローティングプラスチックボックスを収容する水浴/サーモスタット、ならびに
浸漬方法のための100mL適用キュベット。
乾燥表面適用手順(表面サイズ剤、浸漬方法):
1.恒湿室で紙シートを調整する。標的乾燥重量は2.5gである。
2.シートの1/8ストリップを切断する(0.31g)。
3.50ml試験管内で、所定のピックアップ割合および標的添加量に基づき、事前蒸解されたデンプン(必要なら)および還元剤化合物溶液の溶液を調製する。
4.紙ストリップを溶液中に10秒浸漬し、取り出し、35秒滴下させ、それから、それをプレスにかける。
5.試験シートをドラム乾燥し、室温で平衡化させる。
6.ブライトネスおよび黄色度を測定する。
【0083】
パルプ適用手順:
これらの実験を、(a)還元成分の相乗作用のメカニズムを明確にする、および(b)その結果を漂白領域に拡大する可能性を探る目的で実施した。化学物質を直接、パルプにシリンジにより隔壁を介して窒素下で添加し、ガラスフラスコ内のパルプ(5%稠度)と混合した。フラスコを70℃で1時間維持した。スラリーをさらに希釈し、標準的手順に従ってハンドシートを調製した。
【0084】
【表2】
【0085】
【表3A】
【表3B】
【0086】
【表4】
【0087】
【表5】
【0088】
効果は本出願の表3において容易に見ることができる。ここで、例えば、発明者らは、水素化ホウ素を混合物中に含めた場合、0.25%および0.125%ハイドロサルファイトナトリウム(sodium hydrosulfide)(HS)を用いて、著しいブライトネス改善を達成し、効果は、水素化ホウ素およびHSから別々に得たものより強い。これは、少量の水素化ホウ素を用いると、主成分として、硫黄系反応性化学物質、例えば亜硫酸水素ナトリウムを含む組成物とすることができる、主製品の要求量を著しく低減させることができることを意味する。水素化ホウ素増強はまた、表4および5において容易に見ることができる。Mix1はそれ自体、ブライトネスを減少させるが、少量で、EWと共に適用されると、表1で記される組成物「EW」の効果を増強する。
【0089】
本明細書で開示され、特許請求される組成物および方法は全て、本開示を考慮すると、必要以上の実験をせずに製造および実施することができる。この発明は多くの異なる形態で具体化することができるが、発明の特定の好ましい実施形態が本明細書で詳細に記載されている。本開示は、発明の原理の例示であり、発明を説明される特定の実施形態に限定することを意図しない。加えて、明確に逆のことが述べられない限り、「1つの(a)」という用語の使用は、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を含むことが意図される。
【0090】
絶対的にまたは近似的に与えられるいずれの範囲も、両方を含むことが意図され、本明細書で使用されるいずれの定義も明確にすることを意図し、限定することを意図しない。発明の広い範囲を明記する数値範囲およびパラメータは近似値であるにもかかわらず、具体例で明記される数値は可能な限り正確に報告される。しかしながら、いずれの数値も、本質的に、それらの個々の試験測定において見出される標準偏差に必然的に起因するある一定の誤差を含む。その上、本明細書で開示される全ての範囲は、その中に包含される任意のおよび全てのサブレンジ(全ての少数および整数値を含む)を含むと理解されるべきである。
【0091】
さらに、本発明は、本明細書で記載される様々な実施形態のいくつかまたは全ての任意のおよび全ての可能な組み合わせを含む。本明細書で記載される現在のところ好ましい実施形態に対する様々な変更および改変は当業者に明らかであることもまた理解されるべきである。そのような変更および改変は、本発明の精神および範囲から逸脱せずに、かつその意図される利点を縮小させずに可能である。そのため、そのような変更および改変は添付の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
【国際調査報告】