(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-512038(P2016-512038A)
(43)【公表日】2016年4月25日
(54)【発明の名称】炭素含有物質の生物変換のための方法
(51)【国際特許分類】
C12P 5/02 20060101AFI20160328BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20160328BHJP
【FI】
C12P5/02
C12N15/00 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-502188(P2016-502188)
(86)(22)【出願日】2014年3月13日
(85)【翻訳文提出日】2015年10月21日
(86)【国際出願番号】US2014026586
(87)【国際公開番号】WO2014151864
(87)【国際公開日】20140925
(31)【優先権主張番号】61/792,798
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】512270988
【氏名又は名称】シリス エナジー、インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ショート、ジェイ エム.
(72)【発明者】
【氏名】バーテック、ロバート
【テーマコード(参考)】
4B024
4B064
【Fターム(参考)】
4B024AA03
4B024CA11
4B024EA04
4B024GA11
4B064AB03
4B064CA01
4B064CA02
4B064CA05
4B064CD04
4B064CD30
4B064DA16
(57)【要約】
【解決手段】 炭素含有物質中の少なくとも1つの成分を、少なくとも1つの炭化水素を有する異なる生成物に変換するための、微生物共同体が関与する方法。本方法においては、前記方法の回収量もしくは選択性を向上させ、または前記方法の速度を変化させるため、微生物共同体が、前記微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の相対個体数を増加または減少させる組成物と接触させられる。その組成物は、前記少なくとも1つの微生物種の細胞内経路に影響する組成物、前記少なくとも1つの微生物種が関与する細胞間シグナリング経路に影響する組成物、及び少なくとも1つのアンチセンスRNAから選択されうる。さらに、微生物共同体は、音波もしくは電磁シグナルなどのシグナルにさらされうる。あるいは、微生物共同体の環境の条件が変化させられうる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有物質中の少なくとも1つの成分を、少なくとも1つの炭化水素を有する異なる生成物に変換するための、微生物共同体が関与する方法であって、
前記微生物共同体を組成物と接触させる工程であって、
前記組成物は、前記微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の相対個体数を、前記微生物共同体中の少なくとも1つの他の微生物種に対して増加または減少させ、
前記組成物の非存在下で実施される同一の方法と比較して、前記方法の回収量もしくは選択性を向上させ、または前記方法の速度を変化させる、前記接触させる工程を有し、
前記組成物は、前記少なくとも1つの微生物種の細胞内経路に直接的または間接的に影響する組成物と、前記少なくとも1つの微生物種が関与する細胞間シグナリング経路に影響する組成物とから選択されるものである、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記細胞内経路が代謝経路である、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記細胞内経路がシグナリング経路である、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、前記細胞間シグナリング経路がクオラムセンシング経路である、方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、前記組成物が、前記少なくとも1つの微生物種のオートインデューサーに影響する、方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、前記組成物は前記少なくとも1つの微生物種の調節因子に影響し、前記調節因子はオートインデューサーを検出するために前記微生物によって必要とされる、方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、前記組成物が、前記少なくとも1つの微生物種の細胞内経路に影響する少なくとも1つの酵素と、前記少なくとも1つの微生物種が関与する細胞間シグナリング経路に影響する組成物とを有する、方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載の方法において、前記炭素含有物質が地下層中に存在する、方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項記載の方法において、前記炭素含有物質がex situ層中に存在する、方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項記載の方法において、前記炭素含有物質が石炭を有する、方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項記載の方法において、前記生成物がメタンを有する、方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項記載の方法において、前記組成物が、前記微生物共同体中の前記少なくとも1つの他の微生物種に対する、前記微生物共同体中の前記少なくとも1つの微生物種の相対個体数を減少させるための少なくとも1つの抗生物質を有する、方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項記載の方法において、前記組成物が液体形態である、方法。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項記載の方法において、前記組成物が固体形態である、方法。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか一項記載の方法において、前記組成物がエアロゾル形態である、方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項記載の方法において、前記組成物が、さらに、少なくとも1つの栄養物を有する、方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項記載の方法であって、さらに、
(a)個体数調節のための微生物を同定する工程、
(b)工程(a)において同定された前記微生物の、細胞内経路または細胞外シグナリング経路を同定する工程、
(c)工程(b)において同定された前記細胞内経路または細胞外シグナリング経路に影響する成分を同定する工程
を有する、方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法において、工程(c)において、前記細胞内経路または細胞外シグナリング経路に関与した標的がまず同定され、それから前記標的を阻害する能力を有する成分が同定される、方法。
【請求項19】
炭素含有物質中の少なくとも1つの成分を、少なくとも1つの炭化水素を有する異なる生成物に変換するための、微生物共同体が関与する方法であって、
前記微生物共同体を、少なくとも1つの生体分子を有する組成物と接触させる工程であって、
前記少なくとも1つの生体分子は、前記微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の相対個体数を、前記微生物共同体中の少なくとも1つの他の微生物種に対して増加または減少させ、
前記組成物の非存在下で実施される同一の方法と比較して、前記方法の回収量もしくは選択性を向上させ、または前記方法の速度を変化させる、前記接触させる工程を有する方法。
【請求項20】
請求項19記載の方法において、前記少なくとも1つの核酸結合オリゴヌクレオチドが共有結合によって送達剤に連結される、方法。
【請求項21】
請求項19記載の方法において、前記少なくとも1つの核酸結合オリゴヌクレオチドがリポソーム中にパッケージされる、方法。
【請求項22】
請求項19記載の方法において、前記少なくとも1つの核酸結合オリゴヌクレオチドがプラスミドの形態である、方法。
【請求項23】
請求項19記載の方法において、前記少なくとも1つの核酸結合オリゴヌクレオチドがウイルス発現ベクターの形態である、方法。
【請求項24】
請求項19〜23のいずれか一項記載の方法において、前記少なくとも1つの核酸結合オリゴヌクレオチドが、前記少なくとも1つの微生物種の代謝経路の少なくとも1つのタンパク質の核酸を標的とする、方法。
【請求項25】
請求項19〜23のいずれか一項記載の方法において、前記少なくとも1つの核酸結合オリゴヌクレオチドが、前記少なくとも1つの微生物種が関与する細胞間シグナリング経路の少なくとも1つのタンパク質の核酸を標的とする、方法。
【請求項26】
請求項25記載の方法において、前記細胞間シグナリング経路がクオラムセンシング経路である、方法。
【請求項27】
請求項26記載の方法において、前記少なくとも1つの核酸結合オリゴヌクレオチドが、オートインデューサーの合成に関与するタンパク質の核酸を標的とする、方法。
【請求項28】
請求項26記載の方法において、前記少なくとも1つの核酸結合オリゴヌクレオチドが、オートインデューサーの分泌に関与するタンパク質の核酸を標的とする、方法。
【請求項29】
請求項26記載の方法において、前記少なくとも1つの核酸結合オリゴヌクレオチドが、オートインデューサーを検出するために使用される調節因子の合成に関与するタンパク質の核酸を標的とする、方法。
【請求項30】
請求項19〜23のいずれか一項記載の方法において、前記少なくとも1つの核酸結合オリゴヌクレオチドが、核酸とポリペプチドとからなる群から選択される1つまたはそれ以上の物質を標的とする、方法。
【請求項31】
請求項19〜23のいずれか一項記載の方法において、前記少なくとも1つの核酸結合オリゴヌクレオチドが、アンチセンスRNAとアンチセンスRNAを模倣する核酸類似体とからなる群から選択される1つまたはそれ以上の物質を標的とする、方法。
【請求項32】
請求項19〜23のいずれか一項記載の方法において、前記少なくとも1つの核酸結合オリゴヌクレオチドが、1つまたはそれ以上のマイクロRNAを標的とする、方法。
【請求項33】
炭素含有物質中の少なくとも1つの成分を、少なくとも1つの炭化水素を有する異なる生成物に変換するための、微生物共同体が関与する方法であって、
前記微生物共同体を、少なくとも1つの抗生物質を有する組成物と接触させる工程であって、
前記少なくとも1つの抗生物質は、前記微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の相対個体数を、前記微生物共同体中の少なくとも1つの他の微生物種に対して増加または減少させ、
前記組成物の非存在下で実施される同一の方法と比較して、前記方法の回収量もしくは選択性を向上させ、または前記方法の速度を変化させる、前記接触させる工程を有する方法。
【請求項34】
炭素含有物質中の少なくとも1つの成分を、少なくとも1つの炭化水素を有する異なる生成物に変換するための、微生物共同体が関与する方法であって、
前記微生物共同体をシグナルに曝す工程であって、
前記シグナルは、前記微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の相対個体数を、前記微生物共同体中の少なくとも1つの他の微生物種に対して増加または減少させ、
前記シグナルの非存在下で実施される同一の方法と比較して、前記方法の回収量もしくは選択性を向上させ、または前記方法の速度を変化させる、前記曝す工程を有し、
前記シグナルは、音波および電磁波からなる群から選択される、方法。
【請求項35】
請求項34記載の方法において、前記シグナルが、前記少なくとも1つの微生物種の細胞内経路に直接的または間接的に影響するシグナルと、前記少なくとも1つの微生物種が関与する細胞間シグナリング経路に影響するシグナルとから選択される、方法。
【請求項36】
炭素含有物質中の少なくとも1つの成分を、少なくとも1つの炭化水素を有する異なる生成物に変換するための、微生物共同体が関与する方法であって、
前記微生物共同体の環境の条件を変化させる工程であって、
前記微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の相対個体数を、前記微生物共同体中の少なくとも1つの他の微生物種に対して増加または減少させ、
前記変化した環境条件の非存在下で実施される同一の方法と比較して、前記方法の回収量もしくは選択性を向上させ、または前記方法の速度を変化させる、前記変化させる工程を有し、
前記環境条件は、前記少なくとも1つの微生物種の細胞内経路に直接的または間接的に影響する環境条件と、前記少なくとも1つの微生物種が関与する細胞間シグナリング経路に影響する環境条件とから選択される、方法。
【請求項37】
請求項36記載の方法において、前記環境条件が、環境の酸素含有量、及び環境の物理的条件から選択されるものである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地層の炭素含有物質の生物変換に関する。特に本開示は、生物変換法の1つまたはそれより多い様態を向上させるための、炭素含有物質への物質の導入を対象とする。
【背景技術】
【0002】
関連技術の開示
世界のエネルギー需要の増加は、エネルギー資源を取り出し、またそれらの資源の使用の環境影響を軽減する上での、先例のない課題を生み出している。歴史的には、古い油田及び炭鉱などの地下層は、容易に取り出し可能な物質が抽出されると、放棄される。しかしながら、これらの放棄されたリザーバーは、著しい量の炭素含有物質をなおも含有する。例えばワイオミング州北東部のPowder River Basinは、約1兆3000億トン足らずの石炭を含有するとなおも推定されている。Basinの残りの石炭のわずか1%が天然ガスに変換されただけでも、米国の現在の年間天然ガス需要(つまり、約23兆立方フィート)を向こう4年間、供給しうる。米国には、いくつかの他の放棄されたこの規模の石炭及び石油リザーバーが存在する。
【0003】
炭素含有物質を、メタン、他の気体もしくは液体の炭化水素類、または価値のある他の生成物などの、初期の石炭よりも容易に取り出し可能な低分子量炭化水素類へと自然に変換する、炭素含有性地下層中の固有の微生物が存在する。その微生物は通常、地下層中に共同体として存在する。共同体とは、お互いに依存し合いまたは相互作用する複数の種の微生物の混合物を意味する。残りの炭素含有物質を使用する潜在的に実用的な1つの方法は、地下層中の炭素含有物質をより効果的に代謝することでメタンなどの化合物を生産するように、地下層中の微生物を刺激することによる。この目的のため、いくつかの方法が開発されてきた。
【0004】
一定の方法は、炭素含有物質の処理のための、特定の種の細菌または培養菌の導入を伴う。例えば、米国特許第5,854,032号は、石炭をフミン酸に変換するため、石油に好熱性好気性培養菌ATCC 202096を導入する。
【0005】
米国特許第8,092,559号は、微生物によるメタンの生産を増強させるための方法を開示する。この方法は、in situの炭化水素に富む堆積物についての少なくとも1つの環境パラメータの特性を明らかにする工程、地層中に存在する炭化水素に富む堆積物に水溶液を導入する工程、及びメタンを有する気体混合物を回収する工程を含む。ここで、その水溶液は、in situ堆積物からのメタン生産率を上昇させるように、微生物共同体を刺激する。
【0006】
米国特許第8,176,978号は、地下の炭素含有層からの、メタン、二酸化炭素、気体及び液体の炭化水素類、並びに他の生成物の、in situ生産のための方法を開示する。この方法は、少なくとも1つの注入井を介して炭素含有性堆積物中へと流体を注入する工程、並びに注入された流体及び生成物を堆積物から少なくとも1つの生産井を通じて除去する工程を有する。堆積物の少なくとも一部内の流体圧力は、注入された流体の使用により、その流体圧力が堆積物のその部分に通常存在する流体圧力を超過するように制御される。
【0007】
WO 2011/142809は、石炭または他の炭素質物質から、メタン及び他の炭化水素生成物、燃料、または燃料前駆物質を生産するための、地層中の微生物共同体などの微生物共同体を刺激する方法を開示する。その微生物共同体は、例えばメタン生成細菌及び他の細菌を含み、その微生物共同体は物理的または化学的に電気刺激に応答する。微生物または微生物共同体の成長を刺激するために電気エネルギーが炭素質層中に導入され、形成された生成物がその層から取り出される。
【0008】
US 2010/0035309は、炭化水素含有層からの、水素炭素含有性流体の生体生産のための方法を開示する。その方法は、出発物質の芳香族炭化水素への化学基の付加により出発物質の芳香族炭化水素を活性化する1つまたはそれより多い酵素を含有する地層に嫌気性微生物共同体を提供する工程、1つまたはそれより多い中間体炭化水素を介して活性化芳香族炭化水素を水素炭素含有性流体へと変換する工程、及び地層から水素炭素含有性流体を取り出す工程を有する。
【0009】
米国特許第7,977,056号は、炭化水素含有層中におけるメタンの生体生産を増加させる刺激剤を同定する方法を開示する。その方法は、その層に由来する微生物から核酸配列を取得する工程、その核酸配列の遺伝子産物の存在を判定する工程であってその遺伝子産物は炭化水素からメタンへの変換に関与する経路における酵素である工程、及び、刺激剤の非存在下におけるメタン生産と比較して当該層における微生物に提供された場合にメタン生産を上昇させる刺激剤として作用するその酵素の基質、反応物、または補因子を同定する工程を有する。
【0010】
米国特許第7,832,475号は、メタン生産の増強のための方法を開示する。その方法は、少なくとも2つの微生物固体群を有する炭化水素含有層を提供する工程、その層に少なくとも1つの無差別の微生物固体群刺激修正を導入する工程、その刺激修正を微生物により消費する工程、その刺激修正を微生物により枯渇させる工程、少なくとも2つのブーストされた微生物固体群のうち少なくとも1つを飢餓にする工程、その飢餓にされた微生物固体群を選択的に縮小する工程、その少なくとも1つのブーストされた微生物固体群を選択的に維持する工程、そのブーストされた微生物固体群からメタンを生成する工程、及びそのメタンを回収する工程を有する。
【0011】
炭素含有物質を炭化水素生成物へと変換するための方法の回収量、選択性、及び/または速度を潜在的に向上させるため、代替的方法が探究されている。本開示は、その方法の回収量、選択性、及び/または速度を潜在的に増加させる目的のため、またはその方法の実施における他の利点を提供するために、炭素含有物質を1つまたはそれより多いメタンなどの炭化水素へと変換するための代替的方法を開示する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
1つ目の態様においては、本開示は、炭素含有物質中の少なくとも1つの成分を少なくとも1つの炭化水素を有する別の生成物へと変換するための、微生物共同体を伴う方法に関する。本方法においては、微生物共同体は、その微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の、その微生物共同体中の少なくとも1つの別の微生物種に対する、相対個体数の増加または減少を引き起こす、組成物に接触させられる。これは、その組成物の非存在下で実施される同一の方法と比較して、その方法の回収量もしくは選択性を向上させ、またはその方法の速度を変化させるためである。ここで、その組成物は、その少なくとも1つの微生物種の細胞内経路に直接的または間接的に影響する組成物、及びその少なくとも1つの微生物種が関与する細胞間シグナリング経路に直接的または間接的に影響する組成物から選択される。
【0013】
別の態様においては、本開示は、炭素含有物質中の少なくとも1つの成分を少なくとも1つの炭化水素を有する別の生成物へと変換するための、微生物共同体を伴う方法に関する。その微生物共同体の、酸素条件、または温度、圧力、及び生理的状態などの他の物理的条件などの微生物共同体の環境条件は、その微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の、その微生物共同体中の少なくとも1つの別の微生物種に対する相対個体数の、増加または減少を引き起こすように調節される(例えば制限される)。これは、その組成物の非存在下で実施される同一の方法と比較して、その方法の回収量もしくは選択性を向上させ、またはその方法の速度を変化させるためである。
【0014】
さらに別の態様においては、本開示の微生物共同体は、その微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の、その微生物共同体中の少なくとも1つの別の微生物種に対する相対個体数の、増加または減少を引き起こす、物理的シグナルに接触させられる。これは、その物理的シグナルの非存在下で実施される同一の方法と比較して、その方法の回収量もしくは選択性を向上させ、またはその方法の速度を変化させるためである。ここで、その物理的シグナルは、音波及び電磁波から選択される。
【0015】
別の態様においては、本開示は、炭素含有物質中の少なくとも1つの成分を少なくとも1つの炭化水素を有する別の生成物へと変換するための、微生物共同体を伴う方法に関する。その微生物共同体は、少なくとも1つの生体分子を有する組成物に接触させられる。その生体分子は、その微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の、その微生物共同体中の少なくとも1つの別の微生物種に対する相対個体数の、増加または減少を引き起こす、核酸及びポリペプチド標的化のための核酸結合オリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスRNAを模倣する核酸類似体、またはマイクロRNAなどである。その接触は、その組成物の非存在下で実施される同一の方法と比較して、その方法の回収量もしくは選択性を向上させ、またはその方法の速度を変化させるためである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
好ましい実施形態の詳細な開示
例証目的のため、本開示の原理は、様々な代表的な実施形態を参照することにより開示される。本明細書においては本開示の一定の実施形態が特に開示されるが、当業者は、同じ原理が、他のシステム及び方法に同等に応用可能であり、また他のシステム及び方法において用いられうることを容易に認識するであろう。本開示の開示される実施形態を詳細に説明する前に、本開示は、その応用において、示されるいかなる特定の実施形態の詳細にも限定されないことが理解されるべきである。さらに、本明細書で用いられる用語は、開示の目的のためであり、限定の目的のためではない。さらに、本明細書において一定の順序で提示される工程への参照とともに一定の方法が開示されるが、多くの場合、これらの工程は当業者により認識されうるあらゆる順序で実施されうる。従って、本新規方法は、本明細書において開示される特定の工程の段取りに限定されない。
【0017】
文脈が明らかに別に規定しない限り、本明細書において及び添付の特許請求の範囲において使用される単数形「a」、「an」、及び「the」は、複数形の参照対象を含むことが、留意されなければならない。さらに、用語「a」(または「an」)、「one or more」、及び「at least one」は、本明細書においては互換的に使用されうる。用語「comprising」、「including」、「having」、及び「constructed from」もまた、互換的に使用されうる。
【0018】
本明細書において使用される用語「炭素含有物質」は、地下層中に存在する、あらゆる高炭素含有量物質を含む。炭素含有物質の例は、オイルシェール、石炭、石炭層、廃棄石炭、石炭誘導体、褐炭、泥炭、オイル層、タールサンド、炭化水素混入土、石油スラッジ、掘削屑、及びそれらの類似物を含むがこれに限定されず、また、それらの状態、または周辺物さえも、オイルシェール、石炭、石炭層、廃棄石炭、石炭誘導体、褐炭、泥炭、瀝青、オイル層、タールサンド、炭化水素混入土、石油スラッジ、掘削屑、及びそれらの類似物に加え、含みさえしうる。
【0019】
本明細書で用いられる「石炭」は、褐炭から無煙炭にわたる一連の炭素質燃料のあらゆるものを指す。その一連の炭素質燃料の構成要素は、含有する水分、揮発物、及び固定炭素の相対量において互いに異なる。石炭は、主として多数の二重炭素結合を有する大分子の形態をとり、主に炭素、水素、及び混入した水で構成される。低ランク石炭堆積物は、主に石炭及び水から成る。エネルギーは、石炭などの炭素質分子、または石炭分子の可溶化から得られる炭素質分子の燃焼から得られうる。最も有用な石炭は、最大量の固定炭素と最小量の水分及び揮発物とを含有する、石炭を含む。
【0020】
本明細書で用いられる用語「微生物」は、細菌、古細菌、及び菌類を含む。この微生物は、炭素含有物質に固有であってもよく、または外来性であってもよい。その微生物は、例として、Archaeoglobales、Thermotogales、Cytophaga群、Azospirillum群、Paracoccus亜群、Sphingomonas群、Nitrosomonas群、Azoarcus群、Acidovorax亜群、Oxalobacter群、Thiobacillus群、Xanthomonas群、Oceanospirillum群、Pseudomonas及び類縁体、Marinobacter hydrocarbonoclasticus群、Pseudoalteromonas群、Vibrio亜群、Aeromonas群、Desulfovibrio群、Desulfuromonas群、Desulfobulbus集合体、Campylobacter群、Acidimicrobium群、Frankia亜群、Arthrobacter及び類縁体、Nocardioides亜群、Thermoanaerobacter及び類縁体、Bacillus megaterium群、Carnobacterium群、Clostridium及び類縁体、並びに、Methanobacteriales、Methanomicrobacteria及び類縁体、Methanopyrales、及びMethanococcalesなどの古細菌を含みうる。
【0021】
微生物のより具体的な例は、例えば、Aerobacter、Aeromonas、Alcaligenes、Bacillus、Bacteroides、Clostridium、Escherichia、Klebsiella、Leptospira、Micrococcus、Neisseria、Paracolobacterium、Proteus、Pseudomonas、Rhodopseudomonas、Sarcina、Serratia、Streptococcus及びStreptomyces、Methanobacterium omelianskii、Mb. Formicium、Mb. Sohngenii、Methanosarcina barkeri、Ms. Methanica、Mc. Masei、Methanobacterium thermoautotrophicum、Methanobacterium bryantii、Methanobrevibacter smithii、Methanobrevibacter arboriphilus、Methanobrevibacter ruminantium、Methanospirillum hungatei、Methanococcus vannielli、Methanothrix soehngenii、Methanothrix sp.、Methanosarcina mazei、Methanosarcina thermophilia、Methanobacteriaceae、Methanosarcinaceae、Methanosaetaceae、Methanocorpusculaceae、Methaanomicrobiaceae、他の古細菌、並びにこれらの組合せを含みうる。
【0022】
本明細書において用いられる用語「微生物共同体」は、炭素含有物質中の微生物を指し、微生物の2つまたはそれより多い種または株を含有する微生物集合体、また特にそれぞれの種または株が他との相互作用から恩恵を受ける微生物集合体を含む。微生物共同体中の種または株は、炭素含有物質に固有であってもよく、または炭素含有物質にとって外来性(外部から炭素含有物質に導入された)であってもよい。
【0023】
本明細書で用いられる用語「生物変換」または「変換」は、炭素含有物質中の微生物共同体による、炭素含有物質の、メタン並びに他の有用な気体及び液体成分を含みうる生成物への変換を指す。用語「生成物」は、石炭などの炭素含有物質から、生物変換により得られる組成物を指す。その生成物は、例えばメタン、セタン、ブタン、及び他の小さな有機物質などの炭化水素、並びに脂肪酸などの、燃料としてまたは燃料の生産において有用である有機物質と、水素及び二酸化炭素を含む気体などの無機物質とを含むが、これらに限定されない。
【0024】
その変換方法は、各工程に1つまたはそれより多い微生物が関与しうる、複数の反応工程を伴いうる。さらに、変換方法に直接的に関与する微生物は、変換方法に関与する他の微生物、または変換方法に間接的に関与しうる微生物共同体中の他の微生物と相互作用しうる。変換方法における間接的な関与は、変換方法に直接的に関与する微生物との、栄養物もしくは反応物、変換方法に直接的に関与する微生物の促進もしくは阻害、及び/または微生物共同体が条件を変化させることにより機能する環境への影響に関する、競合を伴う。条件を変化させるとは、毒素、食物要素、反応物の存在を増加もしくは減少させ、あるいは、酸素濃度を低下させる、または共同体を音波もしくは電磁電流にさらすなどの、物理的パラメータを変化させることなどである。別の1つの態様においては、本発明は、例えばクオラムセンシングメカニズムの操作もしくは変更により、微生物間のシグナリングに影響を及ぼすために使用されうる。
【0025】
本開示は、少なくともいくらかの炭素含有物質を、少なくとも1つの炭化水素を有する生成物へと変換する方法を提供する。1つの態様においては、本方法は、炭素含有物質へ、その中の微生物または微生物共同体と相互作用する目的で、組成物を導入する工程を有する。
【0026】
1つの態様においては、炭素含有物質に導入される組成物は、少なくとも1つの微生物種の個体数の増加または減少を引き起こしうる。少なくとも1つの微生物種の個体数の増加または減少は、微生物共同体中の少なくとも1つの別の微生物種の個体数との比較で判定されうる。その微生物共同体中には、両微生物が存在する。あるいは、少なくとも1つの微生物種の個体数の増加または減少は、炭素含有物質への組成物の導入前後のその微生物の個体数の比較により、絶対的な基準に基づき判定されうる。
【0027】
少なくとも1つの微生物種の個体数の調節は、例えば、炭素含有物質の炭化水素生成物への変換のための方法の、回収量、選択性を向上させ、またはその方法の反応速度を変化させるために用いられうる。これは、同じ炭素含有層においてその層中への組成物の導入なしに実施される、同一の方法との比較で判定されうる。
【0028】
少なくとも1つの個体数種の調節は、変換方法の律速工程に関与する特定の微生物の個体数を増強するのにもまた、用いられうる。この微生物は、その個体数を増加させることにより増強されうる。それは、栄養物に関して競合し、かつ/または、変換方法への関与においてその微生物により使用される1つまたはそれより多い反応物に関して競合する、微生物の個体数を減少させることによる。微生物との競合を低下させることにより、栄養物及び/または必要な反応物へのアクセスの向上ゆえに、微生物の個体数は増加するかもしれず、かつ/または同じ個体数の微生物がより高い回収量を提供することができるかもしれない。
【0029】
別の実施形態においては、栄養物を増加させ、毒素の濃度を低下させ、好ましい微生物を促進し、かつ/または共同体中の競合する微生物を阻害する目的で、組成物が導入されうる。ゆえに、1つの態様においては、特定の栄養物成分が共同体中の特定の微生物に適すると認定されるかもしれず、その栄養物の供給がその組成物により上昇しうる。例えば、その組成物は、同じ栄養物に依存する競合する微生物を阻害しうる。あるいは、その組成物はその栄養物を供給する微生物の成長を促進しうる。
【0030】
別の一態様においては、共同体中の特定の微生物に有害であり、またはその微生物の活性を阻害する、特定の毒素または抗生物質が同定されうる。導入される組成物は、炭素含有物質中のその毒素または抗生物質の濃度を低下させるための成分を含有しうる。例えば、その毒素または抗生物質と結合または反応する物質は、この目的に関して有用でありうる。また、その毒素を吸収または中和する物質も有用となりうる。
【0031】
別の一態様においては、導入される組成物は、好ましい微生物の固体群及び/または活性を促進するために使用されうる。1つの実施形態においては、望ましくない毒素を消費する微生物の固体群及び/または活性を増強する成分が導入されうる。別の一態様においては、組成物は、本方法の望ましくない副生成物を、望ましい最終生成物と、炭素含有物質変換方法における反応物として有用な生成物とのうちの1つまたは両方へと変換する、微生物の固体群及び/または活性を促進するために使用されうる。斯くして、望ましくない副生成物は、望ましい最終生成物へと変換されるかもしれず、または炭素含有物質変換方法へと戻されてその方法において望ましい最終生成物へと変換されるかもしれない。
【0032】
別の一態様においては、導入される組成物は、好ましくない微生物の固体群または活性を阻害するために使用されうる。そのような好ましくない微生物は、望ましくない副生成物の生成を促進する微生物でありうる。そのような望ましくない微生物は、望ましい微生物の固体群及び/または活性を阻害するもの、または硫化水素などの望ましくない毒素を生成する微生物でありうる。
【0033】
炭素含有物質の生成物への変換は、in situで、つまり炭素含有物質が天然に存在する地質学的または地下層中で、実施されうる。変換は、ex situでも、つまり炭素含有物質が天然に存在する場所以外の場所でもまた、実施されうる。Ex situ変換は、バイオリアクター、ex situリアクター、ピット、地上構造物、及びそれらに類似する場所などの場所で実施されうる。例えば、炭素含有物質は、それが天然に存在する場所からまず取り出され、それから本開示の方法が適用されうる。非限定的な例として、バイオリアクターは、生物活性環境を支持するあらゆる装置またはシステムを指しうる。
【0034】
本方法の一態様においては、組成物は、あらゆる適切な方法により炭素含有物質に導入されうる。1つの実施形態においては、組成物は流体として炭素含有物質に導入されうる。流体は、注入により炭素含有物質中に導入されうる。別の一実施形態においては、組成物は、固体形であってもよく、また炭素含有物質のすぐ近くに存在してもよい。ここで、流体は、その組成物を溶解し、かつ/またはその組成物を炭素含有物質へと分布させてもよい。さらに別の一実施形態においては、組成物は、エアロゾルとして送達されてもよく、また炭素含有物質と接触するように組成物を吹精することにより導入されてもよい。炭素含有物質に本発明の組成物を導入するために利用されうる適切な方法は、例えば、US 2010/000732、US 2010/032157、US 2012/043084、及びUS 2012/0199492において開示されるものなどである。これらの公報の開示内容は、本参照により本明細書に組み込まれる。
【0035】
導入される組成物もしくは存在するシグナリング分子の濃度に影響を及ぼすため、または微生物共同体に送達される物理的シグナルもしくは微生物共同体の環境条件を修正するために、流速は調節されうる。例えば、流体流速(または移動)が修正されてもよく、これによりシグナリング分子の濃度を直接的または間接的に変化させる。とくに、組成物または物理的シグナルを石炭へ送達するためのフィルリザーバーと、生成物を取り出すための(同じ箇所または異なる箇所における)リカバリーリザーバーとを有する構成においては。栄養物または他の組成物を含む組成物は望ましい濃度で送達されうる。また、ポンピング方法、流体移動、及び内在流体希釈度は、組成物またはシグナリング分子のin situ濃度をさらに修正するために、修正されうる。流体及び流体希釈度は、ex situで計画設計されうる。いったん望ましい濃度に到達すると、生成物が生成され取り出されうる。
【0036】
炭素含有物質中の微生物及び/または微生物共同体は、完全に固有であってもよく、この場合は炭素含有物質中の全ての微生物種がその炭素含有物質中に天然に存在している。あるいは、いくらかの実施形態においては、炭素含有物質中の微生物及び/または共同体は、少なくとも1つの外来性の種、または外来性の微生物で固体群が捕捉される少なくとも1つの種を含んでもよい。
【0037】
炭素含有物質中の微生物及び/または微生物共同体は、炭素含有物質の炭化水素生成物への変換の態様の原因であって、その変換は一般に、様々な微生物の活性により影響される熱化学的工程を介して起こる。微生物共同体中の複数の異なる種が、役割を果たし、かつ/または本変換方法に寄与しうる。また、各別個の種も、役割を果たし、かつ/または本変換方法に寄与しうる。さらに、各別個の種は、異なる種間の相互作用に影響してもよく、あるいは1つまたはそれより多い他の種に、微生物共同体中におけるその種の個体数及び/または有効性を変化させうるように影響してもよい。
【0038】
例えば、特定の微生物共同体においては、1つまたはそれより多い微生物種は、本変換方法の回収量または選択性を向上させる能力を有しうる。この向上は、いくつかの異なる手段のうちの1つまたはそれより多い手段で、引き起こされうる。例えば、1つの実施形態においては、特定の微生物が本変換方法の律速工程と関連づけられ、その微生物の個体数の増加はその律速工程からの回収量を増加させ、これにより本変換‘方法の全回収量、速度、及び/または選択性を上昇させうる。あるいは、望ましくない副生成物を生産する方法工程の反応速度は、本発明の方法により低下させられうる。
【0039】
別の一実施形態においては、本変換反応の律速工程に関与する微生物の成長を強化するシグナルなどの、望ましい細胞外シグナリングを生産する微生物の成長を促進することが望ましいかもしれない。斯くして、望ましい微生物の固体群に間接的に影響を及ぼす可能性がありうる。
【0040】
別の一態様においては、少なくとも1つの微生物種が、本変換方法の回収量または選択性に対し阻害効果を有しうる。共同体中の有用な微生物種の相対個体数が増加する場合、本変換方法の全回収量または選択性が増強されうる。一方、阻害性の微生物種の相対個体数を減少させることも、また、本変換方法の全回収量を増強し、本変換方法の反応速度または選択性を変化させうる。微生物、及び炭素源からのメタン生産の変換におけるその役割の1つの研究が、WO WO/2011/159924において見つけられうる。この公報は、その全体が本参照により本明細書に組み込まれる。
【0041】
結合タンパク質は、低酸素環境などのストレス性環境における細胞分裂に修正を加えることが知られている。例えば、低酸素環境においては、HIF−1アルファタンパク質はDNA鎖上にDNA複製複合体を搭載させるタンパク質に結合してその複合体が活性化されるのを防止し、斯くして細胞が分裂するのを妨げる(M.E. Hubbi, et al., "A Nontranscriptional Role for HIF−1 as a Direct Inhibitor of DNA Replication," Science Signaling, 2013; 6 (262))。
【0042】
本開示の一態様においては、組成物は、微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の、微生物共同体中の少なくとも1つの別の微生物種に対する相対個体数の、増加または減少を引き起こす能力がある結合タンパク質などの、少なくとも1つのタンパク質を有する。本開示の一態様においては、そのタンパク質は酵素である。酵素は、微生物共同体中の少なくとも1つの種に有利に働くまたは不利に働く条件を生み出す酵素、少なくとも1つの微生物種の細胞内経路に影響する酵素、及び少なくとも1つの微生物種が関与する細胞間シグナリング経路に影響する酵素から選択されうる。
【0043】
本発明に適切な酵素は、アセチルキシランエステラーゼ、アルコールオキシダーゼ類、アロファネートヒドロラーゼ、アルファアミラーゼ、アルファマンノシダーゼ、アルファ−L−アラビノフラノシダーゼ、アルファ−L−ラムノシダーゼ類、アンモニアモノオキシゲナーゼ、アミラーゼ類、アミロ−アルファ−1,6−グルコシダーゼ、アリールエステラーゼ、細菌性アルファ−L−ラムノシダーゼ、細菌性プラナーゼ類、ベータ−ガラクトシダーゼ、ベータ−グルコシダーゼ、カルボキシラーゼ類、カルボキシルエステラーゼ、カルボキシムコノラクトンデカルボキシラーゼ、カタラーゼ類、カテコールジオキシゲナーゼ、セルラーゼ類、キトビアーゼ/ベータ−ヘキソ−アミニダーゼ、COデヒドロゲナーゼ、CoAリガーゼ、デカルボキシラーゼ類、ジエンラクトンヒドロラーゼ、ジオキシゲナーゼ類、ジスムターゼ類、ドーパ4,5−ジオキシゲナーゼ、エステラーゼ類、ファミリー4グリコシルヒドロラーゼ類、グルカナーゼ類、グルコデキストラナーゼ類、グルコシダーゼ類、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、グリコシルヒドロラーゼ類、ヒアルロニダーゼ類、ヒドラターゼ類/デカルボキシラーゼ類、ヒドロゲナーゼ類、ヒドロラーゼ類、イソアミラーゼ類、ラッカーゼ類、レバンスクラーゼ類/インベルターゼ類、マンデル酸ラセマーゼ類、マンノシルオリゴ糖グルコシダーゼ類、メリビアーゼ類、MethanomicrobialesオプテリンS−メチルトランセフェラーゼ類、メテニルテトラヒドロメタノプテリンシクロヒドロラーゼ類、メチル補酵素Mリダクターゼ、メチルムコノラクトンメチル−イソメラーゼ、モノオキシゲナーゼ類、ムコノラクトンデルタ−イソメラーゼ、ニトロゲナーゼ類、O−メチルトランスフェラーゼ類、オキシダーゼ類、オキシドリダクターゼ類、オキシゲナーゼ類、ペクチンエステラーゼ類、ペリプラズム性ペクチン酸リアーゼ、ペルオキシダーゼ類、フェノールヒドロキシラーゼ、フェノールオキシダーゼ類、フェノール酸デカルボキシラーゼ、フィタノイル−CoAジオキシゲナーゼ、多糖デアセチラーゼ、プラナーゼ類、リダクターゼ類、テトラヒドロメタン−オプテリンS−メチルトランスフェラーゼ、Thermotogaグルカノトランスフェラーゼ、及びトリプトファン2,3−ジオキシゲナーゼを含みうる。
【0044】
いくらかの代表的な実施形態においては、組成物中での使用のために選択される酵素は、微生物共同体中の少なくとも1つの種に対して有利に働くまたは不利に働く条件を生み出しうる。炭素含有物質中の成分を、本変換方法の回収量、速度、もしくは選択性を向上させるために少なくとも1つの微生物種の成長を促進する物質、または本変換方法の回収量、速度、及び/もしくは選択性に対して阻害性である少なくとも1つの種の成長を阻害する物質へと変換することにより、酵素はこの目的を達成しうる。
【0045】
いくらかの他の代表的な実施形態においては、酵素は、本変換方法の回収量、速度、及び/もしくは選択性を増進する少なくとも1つの微生物種の成長を阻害する炭素含有物質中の成分、または本方法の回収量、速度、及び/もしくは選択性に対して阻害性である少なくとも1つの種の成長を促進する成分を破壊しうる。斯くして、酵素は、微生物共同体中の1つまたはそれより多い微生物種の相対個体数に間接的に影響を及ぼすために使用されうる。
【0046】
他の実施形態においては、組成物中の酵素は、微生物共同体中の種間の細胞外シグナリングを妨害するために使用されうる。微生物共同体中の複数の微生物種は、種が互いに情報伝達し、ある程度は、相互作用しかつ依存し合うコミュニティーのようである。一定の微生物間の細胞外シグナリングを妨害するための酵素の使用は、そのコミュニティーにおけるバランスを変化させ、それにより本変換方法の回収量、速度、及び/もしくは選択性を上昇させるために微生物共同体を操作するために用いられうる。
【0047】
細菌は、シグナリングシステムにより互いに情報伝達する手段を有することで知られている。例えば、バイオフィルムの形成を阻害するそのようなシグナリングシステムの1つは、細菌に泳ぎ去る能力を与える鞭毛を細菌に生産させる(Jindong Zan, et al., "A complex LuxR−LuxI type quorum sensing network in a roseobacterial marine sponge symbiant activates flagellar motility and inhibits biofilm formation," Molecular Microbiology, vol. 85, page 916, 2012)。
【0048】
代表的な実施形態においては、標的化される細胞外シグナリングはクオラムセンシングである。微生物は、クオラムセンシングにより、環境中に存在するオートインデューサーと呼ばれる化学分子を検出し、その化学分子に用量依存的様式で応答する。オートインデューサーは、同じ種の微生物、または異なる種の微生物より生産されうる。オートインデューサーの濃度が臨界閾値に達すると、微生物はそのオートインデューサーを検出し、自身の遺伝子発現を変化させることによりこのシグナルに応答する。クオラムセンシングは、共同体中の微生物が、多細胞体に類似する集団性コミュニティーとしてふるまうことを可能にする。
【0049】
クオラムセンシングは、微生物共同体中の異なる微生物群間で異なる。例えば、グラム陰性細菌はLuxIRシステムを用いうる。LuxIRシステムはオートインデューサーとしてアシルホモセリンラクトン類(AHL)を有する。AHLは、共通のホモセリンラクトン部分を有するが、アシル側鎖は可変性である。グラム陰性細菌は、AHLを合成するためにはLuxIタンパク質またはこのタンパク質のホモログを使用し、一方で、オートインデューサーに結合しその細菌内の遺伝子発現を調節する調節因子としてはLuxR(またはLuxRのホモログ)を使用する。1つの種により生産されたAHLは他の種のLuxR調節因子とは相互作用するとしても稀にしか相互作用しないため、LuxIRシステムは優れた特異性を示す。
【0050】
グラム陽性細菌はオリゴペプチドシステムを使用し、オリコペプチドシステムはペプチドをオートインデューサーとして使用する。そのペプチドは、細胞質にて前駆体ペプチドとして生産され、それから切断され、修飾され、周囲環境へと輸出される。そのオートインデューサーは、オートインデューサーを検出し、それからその細菌内の遺伝子発現を調節する応答調節因子をリン酸化/活性化する、膜結合型センサーキナーゼタンパク質の外部部分を有する二成分複合体により検出される。このペプチドオートインデューサーはまた、それを生産する種に特異的であるようでもある。
【0051】
三番目に主要なクオラムセンシングであるLuxSシステムは、グラム陰性及びグラム陽性種の両者を含む幅広い種類の細菌において見られ、オートインデューサーAI−2を使用する。AI−2は二成分システムLuxP/LuxQ(調節因子)により検出され、これにより起こるリン酸化カスケードは遺伝子発現の調節を引き起こす。
【0052】
細菌成長は、しばしばクオラムシステムに依存する。例えば、いくらかの細菌は、コミュニティー中ではよく成長するが、単独の細菌細胞からは容易には培養されえない。一定の細菌の細菌成長は、これらの細菌がクオラムセンシングシステムにより環境中に一定のオートインデューサーを検出しない場合、停止されるようである。
【0053】
1つの実施形態においては、本開示は、少なくとも1つの細菌種の成長を特異的に阻害するため、少なくとも1つの細菌種のクオラムセンシングシステムを妨害するための酵素を使用する。酵素は、クオラムセンシングシステムの様々な態様、とくに細胞外部位を標的化するために、使用されうる。代表的な実施形態においては、酵素は、特定の細菌種の成長に関連するその特定の細菌種のオートインデューサーを特異的に分解するために、使用されうる。その種がその環境中に十分な量の必要なオートインデューサーを検出しなくなるため、その種の成長は斯くして阻害される。
【0054】
別の代表的な一実施形態においては、細菌種の調節因子を特異的に分解するために、酵素が使用されうる。その種はオートインデューサーを検出するのに調節因子に依存するため、調節因子が分解された細菌は、環境中のオートインデューサーを検出することができなくなる。従って、その種の細菌種の成長もまた、斯くして阻害されうる。一定の実施形態においては、酵素は、複数のオートインデューサー、及び/または共通部位を共有する複数の調節因子を分解することが可能でありうる。したがって、複数の細菌種の成長が単一の酵素によって阻害されうる。あるいは、細菌共同体中の複数のオートインデューサー及び/または複数の調節因子分解し、これにより複数の細菌種の成長を阻害するために、複数の酵素が使用されうる。
【0055】
Hazan, R., et al., "Homeostatic Interplay between Bacterial Cell−Cell Signaling and Iron in Virulence,"(2010), PLoS Pathog. 6(3):e1000810, dio:10.1371/journal.ppat. 100810は、クオラムセンシングシグナリング経路に関与する組成物を同定するための方法を開示する。また、Kaper, J. B. and Sperandio, V., "Bacterial Cell−to−Cell Signaling in the Gastrointestinal Tract," Infection and Immunity, June 2005, pp. 3197〜3209は、クオラムセンシングの特性決定とそれに関与する組成物を開示する。本論文は、特定の細菌種についてのクオラムセンシングシステム、オートインデューサー及び調節される表現型が、既存の方法を用いて同定されうることを示す。これらの参考文献の開示内容は、その全体が本参照により本明細書に組み込まれる。
【0056】
微生物共同体の適切なメンバーの相対個体数の増加は、オートインデューサーを活性化することによってもまた達成されうる。例えば、ホウ酸成分は、AI−2前駆体に、種間の情報伝達のための「普遍的」シグナルである活性化AI−2を生成させることが発見されている(Chen X., et al., Nature 2002 Jan 31; 415(6871): 545〜9、この全体が本参照により本明細書に組み込まれる)。
【0057】
細菌は、競合する固体群に対して、個体間で協力することが知られている。Science, 7 September 2012: Vol. 337 no. 6099 pp. 1228〜1231において、Cordero, et al.は、他の遺伝子型は耐性であるのに、固体群中のいくつかの遺伝子型によって広範囲の抗生物質が生産されることを示した。これは、同種間の協力を示唆する。斯くして生産された抗生物質は、ゆえに、単に各固体の成功を増強するよりもむしろ、固体群間の競合を媒介しうる("Ecological Populations of Bacteria Act as Socially Cohesive Units of Antibiotics Production and Resistance")。本参照文献の開示内容は、その全体が本参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
本開示の別の態様においては、組成物は、微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の、微生物共同体中の少なくとも1つの別の微生物種に対する、相対固体数の減少を引き起こす能力がある少なくとも1つの抗生物質を含みうる。一定の綱の微生物の個体数は、微生物共同体に抗生物質を導入することにより低下しうる。
【0059】
本発明のための適切な抗生物質は、アンピシリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、ホスホマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ペニシリン、リファンピシン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、及びバンコマイシンを含む。
【0060】
本発明の1つの実施形態においては、固体群は、音波または電磁電流などの物理的シグナルにさらされる。微生物がこれらの物理的シグナルを生成しそれに応答しうることを示す、実験に基づく証拠が存在する(Trends Microbiol., 2011 March: 19(3);105〜113"When Microbial Conversions get Physical"、この全体が本参照により本明細書に組み込まれる)。
【0061】
1つの実施形態においては、組成物は、微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の、微生物共同体中の少なくとも1つの別の微生物種に対する相対個体数の、増加または減少を引き起こす能力を有する、核酸及びポリペプチドの標的化のための核酸結合オリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスRNAを模倣する核酸類似体、またはマイクロRNAなどの、少なくとも1つの生体分子を含みうる。生体分子は、1つまたはそれより多い微生物種の成長を阻害するため、また1つまたはそれより多い微生物種の成長を促進するために、使用されうる。核酸結合オリゴヌクレオチドなどのいくらかの生体分子の高い特異性ゆえ、成長阻害は。例えば核酸結合オリゴヌクレオチドに結合する同じ配列ドメインを共有する核酸を有する種などの、単一の種または種群に対してのみであるかもしれない。
【0062】
1つの代表的な実施形態においては、本開示は、微生物種の代謝経路における構成要素の核酸を標的化するために、核酸結合オリゴヌクレオチドを使用する。その種における代謝経路の妨害は、その微生物の成長を阻害するだろう。さらに別の代表的な一実施形態においては、本開示は、微生物種のシグナリング経路における構成要素を標的化するために、核酸結合オリゴヌクレオチドを使用する。種におけるシグナリング経路の妨害は、その微生物の成長を阻害するだろう。微生物の成長を妨害するために標的化されうる、代謝経路及びシグナリング経路は、多く存在する。核酸結合オリゴヌクレオチドは、これらの代謝またはシグナリング経路の1つまたはそれより多くにおける、タンパク質または核酸を標的化しうる。
【0063】
核酸結合オリゴヌクレオチドは、クオラムセンシングどの細胞外シグナリングを妨害するためにも、また使用されうる。例えば、核酸結合オリゴヌクレオチドは、オートインデューサーの合成に関与するタンパク質の核酸を標的化するために、使用されうる。これは、オートインデューサーの合成を低下させるまたは防止するためである。あるいは、核酸結合オリゴヌクレオチドは、オートインデューサーを検出する調節因子の核酸を標的化するために、使用されうる。環境中にオートインデューサーが存在しない、または微生物がオートインデューサーを検出するための調節因子を有さない場合、クオラムセンシングは妨害される。従って、成長がクオラムセンシングに依存する種の成長は、斯くして阻害されうる。
【0064】
1つの実施形態においては、リボソームRNA、とくにそのA部位などの、細菌種内のRNAとハイブリッド形成しうる核酸分子を同定するために、FRETシステムが使用されうる。これらの核酸分子は、細菌の綱または種の成長を特異的に阻害するための抗生物質として使用されうる。
【0065】
核酸結合オリゴヌクレオチドは、細菌種の成長を阻害するために、多くの他の方法で使用されうる。例えば、構造タンパク質の核酸は、1つまたはそれより多い核酸結合オリゴヌクレオチドによって標的化されうる。構造タンパク質の欠乏は、微生物の成長の阻害を引き起こしうる。別の実施例においては、微生物の繁殖に関与するタンパク質の核酸が標的化されうる。これにより微生物の繁殖を阻害するためである。
【0066】
本開示のいくらかの実施形態においては、核酸結合オリゴヌクレオチドは、微生物の細胞による核酸結合オリゴヌクレオチドの取込みを増強するように改変されうる。核酸結合オリゴヌクレオチドを改変する1つの方法は、送達剤への共有結合性連結による。例えば、核酸結合オリゴヌクレオチドは、核酸結合オリゴヌクレオチドの取込みを促進するペプチド導入ドメイン(PTD)と共役させられうる(Meade et al., "Enhancing the cellular Uptake of siRNA Duplexes Following Noncovalent Packaging with Protein Transduction Domain Peptides," Adv. Drug Deliv. Rev., March 2008 1; 60(4−5): 530〜536を参照)。他の適切な送達剤は、Minis Transit TKO親油性剤、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、及びポリカチオン類(例えば、ポリリジン)を含む。
【0067】
微生物の細胞への核酸結合オリゴヌクレオチドの送達を促進するためには、リポソームもまた使用されうる。本開示における使用のための適切なリポソームは、標準的なベシクル形成性脂質から形成される。そのベシクル形成性脂質は、中性または負に帯電したリン脂質、及びコレステロールなどのステロールを一般に含む。脂質の選択は、望ましいリポソームサイズ及び血流中におけるリポソームの半減期などの要素の検討により、一般に手引きされる。リポソームの調製については、米国特許第4,235,871号、第4,501,728号、第4,837,028号、及び第5,019,369号で開示されるように、様々な方法が公知である。これらの特許は、その全体が本参照により本明細書に組み込まれる。
【0068】
さらに他の実施形態においては、核酸結合オリゴヌクレオチドは、微生物の細胞内に導入されるプラスミドから発現されうる。本開示においては、微生物細胞において核酸結合オリゴヌクレオチドを発現することができる、あらゆるベクターが使用されうる。
【0069】
さらに他の実施形態においては、核酸結合オリゴヌクレオチドを微生物細胞中へ送達するためには、ウイルス発現ベクターもまた使用されうる。微生物細胞中で発現されるべき核酸結合オリゴヌクレオチドのためのコード配列を受け入れることができる、あらゆるウイルスベクターが使用されうる。バクテリオファージは、ウイルス発現ベクターの適切な例である。ウイルスベクターが微生物細胞に入った後、核酸結合オリゴヌクレオチドがそのベクターから生産されうる。
【0070】
本発明の方法は、1つまたはそれより多い微生物を選択する工程、及びその微生物の固体群に影響を及ぼすために有用である1つまたはそれより多い組成物を同定する工程を含みうる。
【0071】
1つの態様においては、本発明の方法は、その固体群に影響を及ぼすことが望ましい1つまたはそれより多い微生物を選択する。これらの微生物は、様々な異なる基準に基づいて選択されうる。従って、微生物は、炭素含有物質の炭化水素への変換の方法への直接的関与に基づき、またはその方法への間接的関与に基づいて、選択されうる。例えば、望ましい微生物と栄養物及び/または原料に関して競合する微生物が、個体数調節のために選択されうる。毒素もしくは抗生物質を生産する、またはさもなければ変換反応のための環境に有害な影響を及ぼす微生物が、選択されてもよい。望ましい細胞外シグナリングを生産する微生物もまた、選択されうる。また、微生物が生産する酵素もしくはタンパク質の量もしくは種類に基づき、または微生物が生成する廃棄物質に基づいて、微生物が選択されてもよい。
【0072】
特定の微生物または微生物群が個体数調節のために選択されると、本方法はそれから、上で開示された基準のうち1つまたはそれより多くに基づいて、特定の微生物の個体数が増加または減少させられるべきかを決定しうる。いったんこれが決定されると、この目標を達成するために、本方法に従う様々な方策が用いられうる。
【0073】
微生物の同定の後、本発明は、望ましい目標を達成するために微生物の細胞外シグナリング経路が操作されうる微生物種の、細胞内経路を同定しうる。そのような経路が同定されると、その経路の必要な構成要素または態様が、阻害のために同定されうる。例えば、細胞外クオラムセンシング経路に影響を及ぼすために、オートインデューサーまたはオートインデューサーの検出に関与する調節因子が標的化されうる。他のシグナリング因子もまた、同定されかつ標的化されうる。あるいは、細胞間経路の構成要素が同定されかつ標的化され、または経路に使用される受容体が標的化されかつ遮断されうる。
【0074】
あるいは、その微生物中において、アンチセンスRNAの標的が同定されうる。標的が同定されると、適切なアンチセンスRNAが選択され、微生物の固体群に影響を及ぼすように用いられる。アンチセンスRNAのための適切な標的は、例えば、ミトコンドリア中に見られる構成要素、または細胞内もしくは細胞間シグナリングに関与する構成要素でありうる。また、例えば酵素の生産に関与する細胞の構成要素が、阻害のために標的化されうる。
【0075】
さらなる代替的な方法は、選択された微生物を標的化する抗生物質を選択することである。好ましくは、特定の微生物を特異的に標的化するため、この目的のためには選択的抗生物質が選択される。
【0076】
『Targeted Split Biomolecular Conjugates for the Treatment of Disease, Malignancies and Disorders, and Methods of their Production』と題する特許出願公開番号WO2008/133709は、本発明の方法に有用である組成物の種類を開示する。その組成物は、核酸及びポリペプチドに対する標的化のための、分割型生体分子複合体である。その分割型生体分子複合体は、プローブに結合させられた、分割型エフェクタータンパク質断片を有する。プローブと、病原性核酸配列または病原性タンパク質などの標的核酸または標的ポリペプチドとの両者の相互作用は、分割型エフェクター断片を合わせ、エフェクター分子の再組立を促進する。エフェクター分子によっては、そのタンパク質の補完は、細胞効果をもたらす。本発明の方法においては、そのような組成物が、本明細書において開示されるように用いられうる。
【0077】
微生物固体群に影響を及ぼすために使用される組成物が同定されると、その組成物は、炭素含有物質への送達のために適切な組成物へと調合される。適切な組成物は、上に開示される。
【0078】
本発明における使用のための適切な成分の選択に関する別の考慮事項は、微生物共同体中に存在する他の微生物種に対するその潜在的な影響である。ゆえに、本開示のいくらかの態様においては、微生物共同体中に存在する他の微生物種に対する提案された成分の影響を決定するために、追加の試験または分析が実施されうる。この目的のため、反応のシミュレーションがコンピューターもしくは他の適切な手段を使用して実効されてもよく、または小規模な変換反応が用意され、その変換反応への特定の成分の導入の結果が試験されてもよい。
【0079】
本開示の一態様においては、炭素含有物質に導入される組成物は、微生物共同体中の少なくとも1つの他の微生物種に対する、微生物共同体中の少なくとも1つの微生物種の個体数の、増加または減少を引き起こす能力を有する、少なくとも1つの栄養物を有する。
【0080】
微生物共同体中の異なる微生物種については、異なる栄養物要件が存在する。その結果、特定の微生物及びその栄養物要件の知識に基づき、微生物共同体を特定の方法で操作するために、特定の栄養物が選択されうる。斯くして、例えば、反応の回収量、選択性を向上させ、または速度を変化させる目的のため、微生物共同体中の少なくともいくらかの種の相対個体数に影響を及ぼすために、特定の栄養物が用いられうる。
【0081】
その栄養物は、1つまたはそれより多い微生物種が依存する物質であってもよく、あるいは、その栄養物は、1つまたはそれより多い微生物種が依存する物質に変換されうるまたは変換されるであろう物質であってもよい。反対に、その栄養素はそれ自身が、本変換方法の回収量、選択性、または速度に対して阻害性である微生物種を妨害する物質であってもよく、あるいは、その栄養素は、本変換方法の回収量、選択性、または速度に対して阻害性である微生物種を妨害する物質に変換されてもよい。
【0082】
本発明のための適切な栄養物は、アンモニウム、アスコルビン酸、ビオチン、カルシウム、パントテン酸カルシウム、塩素、コバルト、銅、葉酸、鉄、K
2HPO
4、KNO
3、マグネシウム、マンガン、モリブデン、Na
2HPO
4、NaNO
3、NH
4Cl、NH
4NO
3、ニッケル、ニコチン酸、p−アミノ安息香酸、リン、カリウム、ピリドキシン塩酸塩、リボフラビン、セレン、ナトリウム、チアミン、チオクト酸、タングステン、ビタミンB12、ビタミン類、及び亜鉛を含む。
【0083】
ゆえに、本方法の一態様においては、本変換方法に影響を及ぼすため、組成物は、1つもしくはそれより多い微生物種に加えて、または1つもしくはそれより多い微生物種との組合せで、導入されうる。追加の微生物種は、様々な異なる目的のために提供されうる。例えば、本変換方法の律速工程に関与する特定の微生物は、その律速工程の反応速度または回収量を上昇させるために追加されうる。別の一実施形態においては、栄養物を増加させ、毒素の濃度を減少させ、かつ/または本変換方法に関与する共同体中の異なる微生物に関して競合する微生物を阻害する目的のために、特定の微生物が導入されうる。これらの目的の2つまたはそれより多くを達成するために、1つまたはそれより多い微生物種が導入されうる。
【0084】
いくらかの実施形態においては、本開示における使用のための特定の組成物を選択するために、本変換方法、及び/または本変換方法のための環境の、研究またはコンピューターシミュレーションが利用されうる。例えば、US 2010/0081184において開示される方法が、この目的のために利用されうる。この公報の開示内容は、本参照により本明細書に組み込まれる。
【0085】
本開示のいくらかの実施形態においては、炭素含有物質は、炭素含有物質の透過性を上昇させるために前処理されてもよく、このようにして、微生物共同体により変換されることになる炭素含有物質中の大きい炭素質分子の感受性を上昇させる。石炭及びオイルシェールなどの炭素含有物質中の有機物質の可用性を向上させるためには、物理的(例えば、破砕及び類似手法)及び化学的手法(例えば、酢酸、水酸化ナトリウム、過炭酸塩、過酸化物、及び類似物などだがこれらに限定されない、界面活性剤、酸、塩基、酸化剤での処理)が適用されうる。これらの方法は、より多い有機物質を放出させるべく石炭、オイルシェール、褐炭、石炭誘導体、及び類似構造物を破壊するため、またはことによると、これらをより小さい有機化合物への分解に対してより敏感にするためにさえ、これらの方法が使用されうる。いくらかの適切な前処理方法は、US 2010/0139913、WO 2010/1071533、及びUS 2010/0262987において開示され、これらの公報の開示内容は、本参照により本明細書に組み込まれる。
【0086】
さらに、本発明は、例えばWO 2011/142809において開示される電気刺激方法などの、炭素含有物質の生物変換を変化させるための他の方法と共に、使用されうる。この公報の開示内容は、本参照により本明細書に組み込まれる。
【0087】
しかしながら、本開示の多数の性質及び長所は、先の開示において本開示の構造及び機能の詳細と共に明らかにされてきたが、本開示は例証的のみであり、特に本開示の原理内での要素の形、サイズ、配置の事項においては、添付の特許請求の範囲が表現される、用語の広い一般の意味により示される全範囲に渡り、詳細に変更がなされうることが理解されるべきである。
【国際調査報告】