(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-512764(P2016-512764A)
(43)【公表日】2016年5月9日
(54)【発明の名称】耳鳴りを治療する個人に合った聴覚−体性感覚刺激
(51)【国際特許分類】
A61F 11/00 20060101AFI20160404BHJP
【FI】
A61F11/00 350
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2016-503458(P2016-503458)
(86)(22)【出願日】2014年3月17日
(85)【翻訳文提出日】2015年11月12日
(86)【国際出願番号】US2014030765
(87)【国際公開番号】WO2014145914
(87)【国際公開日】20140918
(31)【優先権主張番号】61/800,607
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/803,062
(32)【優先日】2013年3月18日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】506277410
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァシティ オブ ミシガン
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ショア, スーザン
(72)【発明者】
【氏名】マーテル, デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ケーラー, セス
(57)【要約】
耳鳴りを治療するための個人個人に合わせた聴覚−体性感覚刺激であって、個人の脳活動をスパイクタイミング依存可塑性を通じて変化させるように、体性感覚系および聴覚系の刺激のタイミングを制御することにより耳鳴りを軽減するまたは止めるようにしたものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の耳鳴りを治療する方法であって、
第一の発火点および第一の発火周期、刺激オンセットならびに/または継続期間を有する聴覚刺激信号を生成することと、
被験体の体性感覚系を刺激するための体性感覚刺激信号であって、第二の発火点および第二の発火周期、刺激オンセットおよび/または継続期間を有する体性感覚刺激信号を生成することと、
耳鳴りを軽減するように前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を確定することとを含んでおり、
耳鳴りを軽減するために、前記第一の発火周期のオンセットが前記第二の発火周期のオンセットと重ならないように、前記第一の発火周期および前記第二の発火周期が非同期に維持される、方法。
【請求項2】
前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番を変更して所望の耳鳴り軽減を求めることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング差を調節して所望の耳鳴り軽減を求めることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記体性感覚系を脳に刺激を加えて刺激することにより、前記被験体に前記体性感覚刺激信号を伝えることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記被験体の顔刺激を通じて三叉神経にまた頚部脊髄神経に刺激を加えて前記体性感覚系を刺激することにより、前記被験体に前記体性感覚刺激信号を伝えることをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記被験体の深部脳領域に刺激を加えて前記体性感覚系を刺激することにより、前記被験体に前記体性感覚刺激信号を伝えることをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記被験体の脳の表面領域にまたは前記被験体の顔の表面構造もしくは首の表面構造に刺激を加えて前記体性感覚系を刺激することにより、前記被験体に前記体性感覚刺激信号を伝えることをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記聴覚刺激信号および前記体性感覚刺激信号のうちの少なくとも1つが機械的刺激または電気的刺激を通じて前記被験体に伝えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記被験体のタイミングプロファイルであって、
前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のさまざまなタイミング順番およびタイミング差のタイミングデータを含み、さらに、これら異なるタイミング順番およびタイミング差についての知覚耳鳴りデータを含む、タイミングプロファイルを求めることと、
前記聴覚刺激信号および前記体性感覚刺激信号の推奨耳鳴り治療計画を求める際にアクセスするために、前記タイミングプロファイルを格納することとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記被験体の初期タイミングプロファイルであって、
前記第一の発火点および前記第二の発火点の初期タイミング順番および初期タイミング差を含み、オンセット後の耳鳴りを軽減すると判断される、タイミングプロファイルを確定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
耳鳴りのオンセットを示す情報を受け取ることと、
前記耳鳴りを軽減するように前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を自動的に確定することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差をある期間にわたって調節して該ある期間にわたる耳鳴り軽減プロファイルを求めることと、
前記耳鳴り軽減プロファイルを格納することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を確定することが、前記耳鳴り軽減プロファイルにアクセスすることと、前記耳鳴り軽減プロファイルから前記タイミング順番および前記タイミング差を求めることとを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を確定することが、治療時間を特定することと、前記耳鳴り軽減プロファイルにアクセスすることと、前記耳鳴り軽減プロファイルから前記治療時間に対応する前記タイミング順番および前記タイミング差を特定することと、特定された対応する前記タイミング順番および前記タイミング差に基づいて、生成された前記聴覚刺激信号および前記体性感覚刺激信号を伝えることとを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
特定された前記治療時間が現在の時間である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
特定された前記治療時間が将来の時間である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
耳鳴りを軽減するように前記第一の発火周期および/または前記第二の発火周期を調節することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
耳鳴りを軽減するように前記第一の発火周期および/または前記第二の発火周期を周期的に調節することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を調節して特定のニューロンの発火頻度を選択的に増大または減少させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
被験体の聴覚疾患を治療するためのシステムであって、
プロセッサと、メモリーと、バイモーダル刺激システムとを備えており、
該バイモーダル刺激システムが、
第一の発火点および第一の発火周期、刺激オンセットならびに/または継続期間を有する聴覚刺激信号を生成し、
被験体の体性感覚系を刺激するための体性感覚刺激信号であって、第二の発火点および第二の発火周期、刺激オンセットならびに/または継続期間を有する体性感覚刺激信号を生成し、
耳鳴りを軽減するように前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を確定するように構成されており、
耳鳴りを軽減するために、前記第一の発火周期のオンセットが前記第二の発火周期のオンセットと重ならないように、前記第一の発火周期および前記第二の発火周期が非同期に維持されるように構成されてなる、システム。
【請求項21】
前記バイモーダル刺激システムが、前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番を変更して所望の耳鳴り軽減を求めるようにさらに構成されてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記バイモーダル刺激システムが、前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング差を調節して所望の耳鳴り軽減を求めるようにさらに構成されてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項23】
前記バイモーダル刺激システムが、前記体性感覚系を脳に刺激を加えて刺激することにより、前記被験体に前記体性感覚刺激信号を伝えるようにさらに構成されてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項24】
前記バイモーダル刺激システムが、前記被験体の顔刺激を通じて三叉神経におよび頚部脊髄神経に刺激を加えて前記体性感覚系を刺激することにより、前記被験体に前記体性感覚刺激信号を伝えるようにさらに構成されてなる、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記バイモーダル刺激システムが、前記被験体の深部脳領域に刺激を加えて前記体性感覚系を刺激することにより、前記被験体に前記体性感覚刺激信号を伝えるようにさらに構成されてなる、請求項23に記載のシステム。
【請求項26】
前記バイモーダル刺激システムが、前記被験体の脳の表面領域にまたは前記被験体の顔の表面構造もしくは首の表面構造に刺激を加えて前記体性感覚系を刺激することにより、前記被験体に前記体性感覚刺激信号を伝えるようにさらに構成されてなる、請求項23に記載のシステム。
【請求項27】
前記聴覚刺激信号および前記体性感覚刺激信号のうちの少なくとも1つが機械的刺激または電気的刺激を通じて前記被験体に伝えられてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項28】
前記バイモーダル刺激システムが、前記被験体のタイミングプロファイルであって、
前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のさまざまなタイミング順番およびタイミング差のタイミングデータを含み、さらに、これら異なるタイミング順番およびタイミング差についての知覚耳鳴りデータを含む、タイミングプロファイルを求め、
前記聴覚刺激信号および前記体性感覚刺激信号の推奨耳鳴り治療計画を求める際にアクセスするために前記タイミングプロファイルを格納するようにさらに構成されてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項29】
前記バイモーダル刺激システムが、前記被験体のための初期タイミングプロファイルであって、
前記第一の発火点および前記第二の発火点の初期タイミング順番および初期タイミング差を含み、オンセット後の耳鳴りを軽減すると判断される、タイミングプロファイルを求めるようにさらに構成されてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項30】
前記バイモーダル刺激システムが、耳鳴りのオンセットを示す情報を受け取り、前記耳鳴りを軽減するように前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を自動的に確定するようにさらに構成されてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項31】
前記バイモーダル刺激システムが、前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差をある期間にわたって調節して該ある期間にわたる耳鳴り軽減プロファイルを求め、該耳鳴り軽減プロファイルを格納するようにさらに構成されてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項32】
前記バイモーダル刺激システムが、前記耳鳴り軽減プロファイルにアクセスし、前記耳鳴り軽減プロファイルから前記タイミング順番および前記タイミング差を求めることにより、前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を確定するようにさらに構成されてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項33】
前記バイモーダル刺激システムが、治療時間を特定し、前記耳鳴り軽減プロファイルにアクセスし、前記耳鳴り軽減プロファイルから前記治療時間に対応する前記タイミング順番および前記タイミング差を特定し、特定された対応する前記タイミング順番および前記タイミング差に基づいて、生成された前記聴覚刺激信号および前記体性感覚刺激信号を伝えることにより、前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を確定するようにさらに構成されてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項34】
特定された前記治療時間が現在の時間である、請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
特定された前記治療時間が将来の時間である、請求項33に記載のシステム。
【請求項36】
前記バイモーダル刺激システムが、耳鳴りを軽減するように前記第一の発火周期および/または前記第二の発火周期を調節するようにさらに構成されてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項37】
前記バイモーダル刺激システムが、耳鳴りを軽減するように前記第一の発火周期および/または前記第二の発火周期を周期的に調節するようにさらに構成されてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項38】
前記バイモーダル刺激システムが、前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を調節して特定のニューロンの発火頻度を選択的に増大または減少させるようにさらに構成されてなる、請求項20に記載のシステム。
【請求項39】
前記聴覚疾患が耳鳴りである、請求項20に記載のシステム。
【請求項40】
前記聴覚疾患が聴覚過敏である、請求項20に記載のシステム。
【請求項41】
被験体の聴覚疾患を治療するためにプロセッサにより実行可能な一組のインストラクションを格納するコンピュータ読取可能格納媒体であって、
前記一組のインストラクションが、
第一の発火点および第一の発火周期、刺激オンセットならびに/または継続期間を有する聴覚刺激信号を生成するためのインストラクションと、
被験体の体性感覚系を刺激する体性感覚刺激信号であって、第二の発火点および第二の発火周期、刺激オンセットならびに/または継続期間を有する、体性感覚刺激信号を生成するためのインストラクションと、
前記耳鳴りを軽減するように前記第一の発火点と前記第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を確定するためのインストラクションとを含んでおり、
耳鳴りを軽減するために、前記第一の発火周期のオンセットが前記第二の発火周期のオンセットと重ならないように、前記第一の発火周期および前記第二の発火周期が非同期に維持されるように構成されてなる、コンピュータ読取可能格納媒体。
【請求項42】
前記聴覚疾患が耳鳴りである、請求項41に記載のコンピュータ読取可能格納媒体。
【請求項43】
前記聴覚疾患が聴覚過敏である、請求項41に記載のコンピュータ読取可能格納媒体。
【請求項44】
前記インストラクションが、聴覚刺激信号および体性感覚刺激信号の最適なパラメータ値を求めて前記聴覚疾患に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を変更するためのインストラクションをさらに含んでなる、請求項41に記載コンピュータ読取可能格納媒体。
【請求項45】
前記インストラクションが、前記聴覚疾患に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を増大させるためのインストラクションをさらに含んでなる、請求項41に記載のコンピュータ読取可能格納媒体。
【請求項46】
前記インストラクションが、前記聴覚疾患に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を減少させるためのインストラクションをさらに含んでなる、請求項41に記載のコンピュータ読取可能格納媒体。
【請求項47】
前記被験体の聴覚疾患を治療するための方法であって、
聴覚刺激信号および体性感覚刺激信号の最適なパラメータ値を求めて前記聴覚疾患に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を変更することを含む、方法。
【請求項48】
前記方法が、前記聴覚疾患に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を増大させることをさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記方法が、前記聴覚疾患に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を減少させることをさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
被験体の聴覚疾患を治療するためのシステムであって、
プロセッサと、
メモリーと、
バイモーダル刺激システムとを備えており、
前記バイモーダル刺激システムが、聴覚刺激信号および体性感覚刺激信号の最適なパラメータ値を求めて前記聴覚疾患に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を変更するように構成されてなる、システム。
【請求項51】
前記バイモーダル刺激システムが、前記聴覚疾患に関与する伝導路聴覚および非聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を減少させるようにさらに構成されてなる、請求項50に記載のシステム。
【請求項52】
前記バイモーダル刺激システムが、前記聴覚疾患に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を減少させるようにさらに構成されてなる、請求項50に記載のシステム。
【請求項53】
治療方法であって、
脳波記録法試験、聴性脳幹応答(ABR)試験または精神物理学的耳鳴り適合試験のうちのいずれかにより評価される耳鳴り神経相関客観的尺度の削減を被験体にもたらす刺激パラメータを特定することにより、前記被験体のバイモーダル刺激のタイミングおよび間隔の初期パラメータをバイモーダル刺激システムで特定することを含む、方法。
【請求項54】
前記バイモーダル刺激が聴覚刺激信号と体性感覚刺激信号とを含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
治療システムであって、
プロセッサと、
メモリーと、
バイモーダル刺激システムとを備えており、
前記バイモーダル刺激システムが、脳波記録法試験、聴性脳幹応答(ABR)試験または精神物理学的耳鳴り適合試験のうちのいずれかにより評価される耳鳴り神経相関客観的尺度の削減を被験体にもたらす刺激パラメータを特定することにより、前記被験体のバイモーダル刺激のタイミングおよび間隔の初期パラメータを特定するようにさらに構成されてなる、システム。
【請求項56】
前記バイモーダル刺激が、聴覚刺激信号と体性感覚刺激信号とを含んでなる、請求項55に記載のシステム。
【請求項57】
被験体の聴覚疾患を治療するためにプロセッサにより実行可能な一組のインストラクションを格納するコンピュータ読取可能格納媒体であって、
前記一組のインストラクションが、脳波記録法試験、聴性脳幹応答(ABR)試験または精神物理学的耳鳴り適合試験のうちのいずれかにより評価される耳鳴り神経相関客観的尺度の削減を被験体にもたらす刺激パラメータを特定することにより、前記被験体のバイモーダル刺激のタイミングおよび間隔の初期パラメータを特定するためのインストラクションを含んでなる、コンピュータ読取可能格納媒体。
【請求項58】
前記バイモーダル刺激が聴覚刺激信号と体性感覚刺激信号とを含んでなる、請求項53に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、国立衛生研究所により与えられたR01DC004825(SES)T32 DC001(SDK)、PO1DC00078の下の政府支援により行われた。したがって、米国政府は本発明に一部の権利を有している。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本出願は、「耳鳴りを治療する個人に合った聴覚−体性感覚刺激」という表題を有する2013年3月15日に出願された米国出願第61/800,607号と、「耳鳴りを治療する個人に合った聴覚−体性感覚刺激」という表題を有する2013年3月18日に出願された米国出願第61/803,062号との両方の恩恵を要求し、ここで参照することによりその開示内容全体を援用するものである。
【0003】
本開示は、一般的に治療および耳鳴りに関するものであり、とくに耳鳴りを治療するために聴覚系および体性感覚系を刺激するバイモーダル刺激を用いることに関するものである。
【背景技術】
【0004】
本明細書に記載の背景技術の説明は開示内容の背景を概略的に示すことを目的としたものである。背景技術の欄に記載されている現時点で名前の挙がっている本発明者の研究および詳細な説明に記載の特徴事項は、本来、出願時における従来技術であるとみなすこともできなければ、本発明に対する従来技術として明示的または黙示的に認めたわけでもない。
【0005】
耳鳴りとは、音が実際には存在しない場合に実体のない音を被験体の耳または頭で感じる幻認識(phantom perception)のことである。主観的な現象として考えられる耳鳴の厳しさの程度は異なると考えられている。耳鳴りの1つの一般的な表現は「耳のあたりがジーンと鳴る」である。しかしながら、耳鳴りにはさまざまな形態が存在する。
【0006】
耳鳴りは聴覚系の体性感覚神経支配(somatosensory innervations)にリンクされている。たとえば、耳鳴り患者および正常な被験体の両方は、顔に対する圧力またはあごもしくは首の運動の如き体性感覚刺激がたとえば耳鳴りの知覚を引き起こしうるまたはその調子を変えうることを報告している。生理学の点では、集中した体性感覚入力および聴覚入力が背側蝸牛神経核(DCN)内で統合され、聴覚脳幹核が聴覚神経から求心性入力を受け取るようになっている。このDCNへの体性感覚入力は、耳鳴りと相関関係のあるDCN内に周波数特定性により抑制された活性過多(tonotopically−restricted hyperactivity)を誘発する役割を果たしていると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0027504号明細書
【特許文献2】米国特許第7613520号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. E. SHORE, European Journal of Neuroscience, 2005, Vol.21, pp.3334-3348
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
残念なことに、これらの技術は耳鳴りの軽減には不適当である。たとえば、一部の技術は、過度に侵入的であり、埋め込まれたプローブを通じて脳の深い部分にアクセスすることを必要とする。このことが、これらの技術が広範囲で用いられることの妨げとなっている。また、一部の技術は、外部刺激を用いて耳鳴りの一時的軽減をもたらすものの、患者の耳鳴りの根本的な原因に対処しておらず、患者をさらなる耳鳴り発作にかかりやすいままにしておき、それが治療直後であることも多い。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、多感覚統合の基礎となる機構としてインビボ(in vivo)で刺激タイミング依存可塑性を実証している。観測された刺激タイミング依存可塑性のタイミング規則および経時変化は、背側蝸牛神経核(DCN)においてインビトロ(in vitro)で実証されているスパイクタイミング依存可塑性のものと非常に類似している。スパイクタイミング依存可塑性は適合処理(adaptive processing)にとって重要であり、体性感覚入力の活性化により予測される音刺激応答を抑制することにより、発声(vocalizations)の如き身体生成信号の強調の度合いを抑えるための機構である。我々は、独特の多感覚刺激を通じてスパイクタイミング依存可塑性を操作することにより、異種感覚間の可塑性(cross−modal plasticity)が発症機序である幻音知覚または耳鳴りを軽減または止めることができる技術を開発した。
【0011】
本開示は、個人の脳活動をスパイクタイミング依存可塑性を通じて変更することにより、耳鳴りを軽減または止めるように体性感覚系および聴覚系の両方の刺激のタイミングを制御することができる技術術を提供している。我々は、DCNの多感覚ニューロンが、体性感覚刺激と聴覚刺激とを組み合わせて刺激された場合、音刺激応答(sound−evoked responses)および自発的活動(spontaneous activity)の永続的可塑性を示すことを見出した。我々は、音刺激と体性感覚刺激との間の間隔を変えることによって、このDCNのバイモーダル可塑性が刺激タイミング依存であることをインビボで初めて示した。観側された刺激タイミング依存可塑性のタイミング規則および経時変化は、並列の繊維シナプスからDCN主要細胞への部位においてインビトロで実証されているスパイクタイミング依存可塑性のものと非常によく類似している。さらに、ニューロンの発火の阻害程度は、ニューロンがHebbianタイミング規則に従うのかまたは反Hebbianタイミング規則に従うかに影響を与える。実証されているように、反Hebbianタイミング規則は適合フィルタリングを反映したものであって、このことは、DCNでは、体性感覚入力の活性化により予測される音刺激応答を抑制し、身体生成信号、たとえば自己発声(self−vocalization)を抑制する。
【0012】
ある実施形態によれば、被験体の耳鳴りを治療する方法は、第一の発火点および第一の発火周期を有する聴覚刺激信号を生成することと、被験体の体性感覚系を刺激するための体性感覚刺激信号であって、第二の発火点および第二の発火周期を有する体性感覚刺激信号を生成することと、耳鳴りを軽減するように第一の発火点と第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を確定することとを含み、耳鳴りを軽減するために、第一の発火周期のオンセットが第二の発火周期のオンセットと有意に重ならないように、第一の発火周期および第二の発火周期が非同期に維持される。
【0013】
他の実施形態では、被験体の聴覚疾患を治療するためのシステムは、プロセッサと、メモリーと、バイモーダル刺激システムとを備え、バイモーダル刺激システムは、第一の発火点および第一の発火周期、刺激オンセットならびに/または継続期間を有する聴覚刺激信号を生成し、被験体の体性感覚系を刺激するための体性感覚刺激信号であって、第二の発火点および第二の発火周期、刺激オンセットならびに/または継続期間を有する、体性感覚刺激信号を生成し、耳鳴りを軽減するように第一の発火点と第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を確定するようにさらに構成されており、耳鳴りを軽減するために、第一の発火周期のオンセットが第二の発火周期のオンセットと重ならないように第一の発火周期および第二の発火周期が非同期に維持される。
【0014】
さらに他の実施形態では、被験体の聴覚疾患を治療するためにプロセッサにより実行可能な一組のインストラクションを格納するコンピュータ読取可能格納媒体の一組のインストラクションは、第一の発火点および第一の発火周期、刺激オンセットならびに/または継続期間を有する聴覚刺激信号を生成するためのインストラクションと、被験体の体性感覚系を刺激するための体性感覚刺激信号であって、第二の発火点および第二の発火周期、刺激オンセットならびに/または継続期間を有する、体性感覚刺激信号を生成するためのインストラクションと、耳鳴りを軽減するように第一の発火点と第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を確定するためのインストラクションとを含み、耳鳴りを軽減するために、第一の発火周期のオンセットが第二の発火周期のオンセットと重ならないように、第一の発火周期および第二の発火周期が非同期に維持される。
【0015】
他の実施形態では、被験体の聴覚疾患を治療するためのプロセッサにより実行可能な一組のインストラクションを格納するコンピュータ読取可能格納媒体の一組のインストラクションは、聴覚刺激信号および体性感覚刺激信号の最適なパラメータ値を求めてたとえば背側蝸牛神経核、腹側蝸牛殻核、下丘、聴覚野および/または耳鳴りに関与する他の核を含む聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を変更するためのインストラクションを含む。さらに一般的には、最適なパラメータ値は、聴覚疾患(たとえば、耳鳴り)に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路のうちのいずれかに沿った発火頻度を変更するように求められる。
【0016】
他の実施形態では、被験体の聴覚疾患を治療するための方法は、聴覚刺激信号および体性感覚刺激信号の最適なパラメータ値を求めてたとえば背側蝸牛神経核、腹側蝸牛殻核、下丘、聴覚野および/または耳鳴りに関与する他の核を含む聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を変更することを含む。さらに一般的には、最適なパラメータ値は、聴覚疾患(たとえば、耳鳴り)に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路のうちのいずれかに沿った発火頻度を変更するように求められる。
【0017】
具体例によっては、かかる方法は、たとえば背側蝸牛神経核、腹側蝸牛殻核、下丘、聴覚野および/または耳鳴りに関与する他の核を含む聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を増大させることを含む。さらに一般的には、最適なパラメータ値は、聴覚疾患(たとえば、耳鳴り)に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路のうちのいずれかに沿った発火頻度を変更するように求められる。
【0018】
具体例によっては、かかる方法は、たとえば背側蝸牛神経核、腹側蝸牛殻核、下丘、聴覚野および/または耳鳴りに関与する他の核を含む聴覚伝導路内のニューロンの発火頻度を減少させることを含む。さらに一般的には、最適なパラメータ値は聴覚疾患(たとえば、耳鳴り)に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路のうちのいずれかに沿った発火頻度を変更するように求められる。
【0019】
他の実施形態では、被験体の聴覚疾患を治療するためのシステムは、プロセッサと、メモリーと、バイモーダル刺激システムとを備え、バイモーダル刺激システムは、聴覚刺激信号および体性感覚刺激信号の最適なパラメータ値を求めて背側蝸牛神経核、腹側蝸牛殻核および/または聴覚野のニューロンの発火頻度を変更するように構成されている。さらに一般的には、最適なパラメータ値は、聴覚疾患(たとえば、耳鳴り)に関与する聴覚伝導路および非聴覚伝導路のうちのいずれかに沿った発火頻度を変更するように求められる。
【0020】
さらに他の実施形態では、治療方法は、脳波記録法試験もしくは聴性脳幹応答(ABR)試験のうちのいずれかにより評価される耳鳴り神経相関客観的尺度(objective measure of neural correlates of tinnitus)または精神物理学的耳鳴り適合試験もしくは被験体質問票のうちのいずれかにより評価される耳鳴り認識主観的尺度(subjective measure of tinnitus perception)の削減を被験体にもたらす刺激パラメータを特定することにより、被験体のバイモーダル刺激のタイミングおよび間隔の初期パラメータをバイモーダル刺激システムで特定することを含む。
【0021】
他の実施形態では、治療システムは、プロセッサと、メモリーと、バイモーダル刺激システムとを備えており、バイモーダル刺激システムは、脳波記録法試験もしくは聴性脳幹応答(ABR)試験のうちのいずれかにより評価される耳鳴り神経相関客観的尺度または精神物理学的耳鳴り適合試験もしくは被験体質問票のうちのいずれかにより評価される耳鳴り認識主観的尺度の削減を被験体にもたらす刺激パラメータを特定することにより、被験体のバイモーダル刺激のタイミングおよび間隔の初期パラメータを特定するように構成されている。
【0022】
他の実施形態では、被験体の聴覚疾患を治療するためのプロセッサにより実行可能な一組のインストラクションを格納するコンピュータ読取可能格納媒体の一組のインストラクションは、脳波記録法試験もしくは聴性脳幹応答(ABR)試験のうちのいずれかにより評価される耳鳴り神経相関客観的尺度または精神物理学的耳鳴り適合試験もしくは被験体質問票のうちのいずれかにより評価される耳鳴り認識主観的尺度の削減を被験体にもたらす刺激パラメータを特定することにより、被験体のバイモーダル刺激のタイミングおよび間隔の初期パラメータを特定するためのインストラクションを含む。
【0023】
具体例によっては、バイモーダル刺激は聴覚刺激信号と体性感覚刺激信号とを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】2つの異なるタイプのシナプスをバイモーダル刺激するための多感覚刺激構成100の一例を示す図である。
【
図1B】図示されている例では5つのステップを有するバイモーダルペアリングプロトコルに従ってニューロンに対するバイモーダル刺激の影響を測定するためのプロトコル200の一例を示す図である。
【
図1C】
図1Bの5つのステップの各々について5つの発火頻度対時間プロット(発火頻度マップ)を示す図である。
【
図2A】体性感覚刺激と聴覚刺激との間の7つの異なるバイモーダルタイミング値についてスパイク数対時間プロットを示す図である。
【
図2B】Hebbian型の場合について、
図1Bのプロトコルに対応するバイモーダル刺激後の異なる時間(たとえば,5分、15分、25分)における発火頻度の変化対時間プロットを示す図である。
【
図2C】反Hebbian型の場合について、
図1Bのプロトコルに対応するバイモーダル刺激後の異なる時間(たとえば,5分、15分、25分)における発火頻度の変化対時間プロットを示す図である。
【
図2D】増強型の場合について、
図1Bのプロトコルに対応するバイモーダル刺激後の異なる時間(たとえば,5分、15分、25分)における発火頻度の変化対時間プロットを示す図である。
【
図2E】抑制型の場合について、
図1Bのプロトコルに対応するバイモーダル刺激後の異なる時間(たとえば,5分、15分、25分)における発火頻度の変化対時間プロットを示す図である。
【
図2F】
図2Bのグループについて、それに対応する識別子とともに平均単一ユニットタイミング規則(mean single unit timing rules)を示すプロットである。
【
図2G】
図2Cのグループについて、それに対応する識別子とともに平均単一ユニットタイミング規則を示すプロットである。
【
図2H】
図2Dのグループについて、それに対応する識別子とともに平均単一ユニットタイミング規則を示すプロットである。
【
図2I】
図2Eのグループについて、それに対応する識別子とともに平均単一ユニットタイミング規則を示すプロットである。
【
図3A】バイモーダル刺激後の異なる時間における発火頻度マップを示すプロットであって、最大増強および最大抑制を示す図である。
【
図3B】バイモーダル刺激後の異なる延長時間についてのスパイク頻度を示すプロットである。
【
図4】一例に従って発火頻度の変化対バイモーダル間隔を示すプロットであって、バイモーダル可塑性の刺激タイミング依存性の集団推定(population estimate)を示す図である。
【
図5A】バイモーダル刺激対ユニモーダルトーン刺激について発火頻度の変化を示すプロットである。
【
図5B】バイモーダル刺激対ユニモーダル体性感覚刺激について発火頻度の変化を示すプロットである。
【
図6A】Hebbianタイミング規則に従う阻害型応答の場合の5p5刺激に対する6つの異なるニューロンの応答を示す図である。
【
図6B】Hebbianタイミング規則に従う興奮型応答の場合の5p5刺激に対する6つの異なるニューロンの応答を示す図である。
【
図6C】反Hebbianタイミング規則に従う阻害型応答の場合の5p5刺激に対する6つの異なるニューロンの応答を示す図である。
【
図6D】反Hebbianタイミング規則に従う興奮型応答の場合の5p5刺激に対する6つの異なるニューロンの応答を示す図である。
【
図7A】タイプI、タイプI−III、タイプIIIおよびタイプIVの応答マップ分類について、Hebbian−likeユニットおよび反Hebbian−likeユニットを示すニューロンのパーセンテージをプロットした図である。
【
図7B】ビルドアップユニット(buildup units)またはポーザビルドアップユニット(pauser−buildup units)についての発火頻度の変化対バイモーダル間隔プロットであって、タイプI応答領域またはタイプII応答領域がHebbian−likeタイミング規則を示す図である。
【
図7C】ビルドアップユニットまたはポーザビルドアップユニットについての発火頻度の変化対バイモーダル間隔プロットであって、タイプIV応答領域またはタイプIV−T応答領域が反Hebbian−likeタイミング規則を示す図である。
【
図8】発火頻度の変化対自然発生頻度の変化のプロットであって、線形回帰分析を示す図である。
【
図9】一例に従って、雑音暴露、耳鳴りギャップ検出試験、聴覚脳幹応答しきい値測定値や、モルモットのコントロール領域、暴露領域および耳鳴り領域への区分を示す複数のプロットである。
【
図10A】驚愕に基づく耳鳴り用のギャップ検出アセイ試験を示す概略図であって、ギャップなしトライアル(上の列)とギャップありトライアル(50ミリ秒ギャップ、驚愕音から50ミリ秒前、下方の2列)とを示す図である。各試験には、10ミリ秒の115dBの驚愕パルス(暗棒)を埋め込んだ背景音(灰色棒)が含まれている。モルモットは驚愕刺激に応答して驚愕し、その応答の強度は各矢印の高さによって示される。耳鳴りのない動物では、ギャップにより、驚愕に対する応答が抑制される(中央の列)。耳鳴りのある動物では、ギャップは耳鳴りにより埋められ(下の列)、驚愕に対する応答はギャップがない場合の驚愕に対する応答(上の列の矢印)に比べてより少ない減退を示している。
【
図10B】耳鳴りの兆候のない(左側の棒)および耳鳴りの兆候のある(右側の棒)2つの分布に区分された正規化された驚愕分布(白線)を示すヒストグラムである。
【
図10C】正規化された驚愕値が耳鳴りあり分布または耳鳴りなし分布に属する事後確率を示すプロットである。
【
図10D】コントロール動物(sham animals)についての暴露後の正規化された驚愕観測の区分分布を示すヒストグラムである。
【
図10E】コントロール動物および暴露動物(exposed animals)からのベースライン観測(暴露前)の正規化された驚愕観測の区分分布を示すヒストグラムである。
【
図10F】暴露動物からの暴露後の正規化された驚愕観測の区分分布を示すヒストグラムである。
【
図11A】一例に従って、雑音暴露被験体グループの左側の耳(暴露されている)についてのABRしきい値シフト対頻度を示すプロットである。
【
図11B】一例に従って、雑音暴露被験体グループの右側の耳(暴露されていない)についてのABRしきい値シフト対頻度を示すプロットである。
【
図11C】一例に従って、コントロール被験体グループの左側の耳(暴露されている)についてのABRしきい値シフト対頻度を示すプロットである。
【
図11D】一例に従って、コントロール被験体グループの右側の耳(暴露されていない)についてのABRしきい値シフト対頻度を示すプロットである。
【
図12A】異なる周波数帯において耳鳴りの兆候を示すコントロールモルモット(白い棒)および暴露モルモット(暗い棒)のパーセントを示す図である。
【
図12B】コントロール動物(白棒)と暴露動物(黒棒)と比較して、各周波数帯域における正規化された驚愕応答強度を示す図である。
【
図12C】耳鳴りのある動物(ET)と耳鳴りのない動物(ENT)とコントロール動物とを比較して、各周波数帯域における正規化された驚愕応答強度を示す図である。
【
図13A】コントロールモルモットの一例と雑音暴露モルモットの一例とからなる単一ユニットのHebbianタイミング規則の2つの例を示す図である。パネルの上の絵は、Sp5刺激および音刺激の相対的な順番を示している。絵中の縦線はSp5刺激を表わし、正弦波はトーン刺激を表わしている。
【
図13B】コントロールモルモットの一例と雑音暴露モルモットの一例とからなる単一ユニットの反Hebbianタイミング規則の2つの例を示す図である。
【
図13C】コントロール動物(左)および雑音暴露動物(右)からのHebbian−like(H)タイミング規則、反Hebbian−like(aH)タイミング規則、増強型(E)タイミング規則、および抑制型(S)タイミング規則を示す主要なユニットのパーセントを示す図である。積み重ねられた棒グラフは、損傷周波数領域よりも下方(黒色)、内側(白色)および上方(灰色)のユニット数を示す図である。
【
図13D】コントロール動物のHebbianから暴露動物の反Hebbianhへとタイミング規則がシフトすることを示す図である。平均タイミング規則は、コントロールモルモットおよび暴露モルモットからのユニットについての音刺激発火頻度のバイモーダル可塑性を表す。
【
図14A】コントロールモルモット、ENTモルモットおよびETモルモットからのユニットについての音刺激発火頻度のバイモーダル可塑性を表す平均タイミング規則を示す図である。パネルの上の絵は、Sp5刺激および音刺激の相対的な順番を示しており、縦線はSp5刺激を表わし、正弦波はトーン刺激を表わしている。
【
図14B】コントロール動物(左)、ENT動物(中間)およびET動物(右)からのHebbian−like(H)タイミング規則、反Hebbian−like(aH)タイミング規則、増強型(E)タイミング規則および抑制型(S)タイミング規則を示すユニットのパーセントを示す図である。
【
図15A】コントロールユニット、ENTユニットおよびETユニットについて、各ユニットのバイモーダル刺激前の自然発火頻度を各ユニットの最適周波数の関数として示す図である。
【
図15B】最適周波数が12kHz未満であるユニットについての平均自然頻度を示す図である。
【
図15C】最適周波数が12kHzを超えるユニットの平均自然頻度を示す図である。
【
図15D】コントロールモルモット、ENTモルモットおよびETモルモットからのユニットについての自然発火頻度のバイモーダル可塑性を表す平均タイミング規則を示す図である。
【
図16】一例に従って、異なる試験グループ(コントロール、ETおよびENT)についてのSp5刺激に対する応答の分布を示すプロットである。
【
図17A】一例に従って本明細書に記載の耳鳴り軽減技術を実現するためのハードウェアシステムの一例を示す図である。
【
図17B】一例に従って本明細書に記載の技術を実現するためにコンピュータ上のインストラクションにより実行されうるソフトウェアプラットフォームを示す図である。
【
図18】一例に従って本明細書に記載の技術を実行するためのバイモーダル刺激システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
幻音知覚、すなわち耳鳴りを軽減するまたは止めるために多感覚刺激(multisensory stimuli)を与える例が説明されている。体性感覚系および聴覚系の両方が直感的ではなくタイミングを計って刺激される。すなわち、自然発生的活性(spontaneous activity)を減退させて耳鳴りを軽減するまたは止めるよう目標となるニューロンのスパイクタイミング依存可塑性を活性化させるように、聴覚刺激と体性感覚刺激との間の間隔が用いられる。
【0026】
従来のバイモーダル刺激技術は、複数の系を同時に刺激することに依存しており、基底核から聴覚野への神経調節性入力を刺激する迷走神経刺激を音刺激と同時にトリガすることが、皮質トポグラフィック周波数マップ(cortical topographic frequency map)の再マッピング(remapping)をトリガして、耳鳴りの如き疾患を治療すると考えられていた。最近の研究では、皮質の再マッピングが耳鳴りには必要なものではないことが報告されている。しかしながら、本技術の開発のために、DCN内のバイモーダル可塑性の誘導が異なる方法で、すなわちバイモーダル刺激前後の音刺激発火頻度(sound−evoked firing rate)および自然発火頻度(spontaneous firing rate)を測定することによりインビボで評価された。これらの例では、刺激される第二のシステムは体性感覚系である。
【0027】
図1Aは2つの異なるタイプのシナプスをバイモーダル刺激するための例示の多感覚刺激構成100である。
図1Aには、相互に結合されるさまざまなタイプの細胞(Gr=顆粒細胞、St=星細胞)が示されている。この例では、体性感覚系の刺激は、平行な繊維−紡錘状体(Fu)(たとえば、体性感覚系の面および部分で―平行な繊維が体性感覚系を紡錘状の蝸牛神経核細胞および車軸細胞と結合する)および車軸細胞(Ca)シナプス(たとえば、蝸牛神経核細胞の一部)を活性化するために5p5に加えられる電気的なパルス102と、紡錘状体細胞(Fu)および車軸細胞(Ca)のスパイク活性を誘発するために聴覚系に加えられる50ミリ秒トーンバースト(tone burst)104とがペアになって達成されている。バイモーダル刺激後、DCNの中に挿入された多重チャンネル電極106を用いてかつ標準プロトコルに従って、背側蝸牛神経核 ユニット(Dorsal cochlear nucleus unit)のユニモーダルトーンに対する応答および自発的活性を記録した。
【0028】
図1Bには、バイモーダルペアリングプロトコルに従ってバイモーダル刺激を実現するための例示のプロトコル200が示されている。
図1Cは、
図1Bのバイモーダル刺激ペアリングの各々について、それに対応する発火頻度を示すプロットである。図示されているように、具体例によっては、本技術は、バイモーダル刺激により音に対する応答を抑制(suppress)させる場合もあれば増強(enhance)させる場合もある。たとえば
図1Cに示されているように、バイモーダル刺激、とくにバイモーダル刺激の相対的なタイミングは、異なる発火条件下で、トーンに対する自発的活性および応答(初期段階202)がバイモーダル刺激(204)から5分後(206)、15分後(208)および25分後(210)に抑制されるように調節されている。この結果が
図1Cのプロットに示されている。本明細書に記載の具体例におけるバイモーダルによる増強および抑制は、バイモーダル刺激前の異なる時間におけるユニモーダル(聴覚)応答強度とバイモーダル刺激後のユニモーダル応答強度とを比較することにより測定した。これらは、以前にDehmelらにより2012年に発表された可塑性を反映する「遅い」変化、すなわち永続的な変化と一致するものである。この「バイモーダル可塑性」は、バイモーダル増強およびバイモーダル抑制がバイモーダル刺激中の応答をユニモーダル(聴覚)応答と比較することにより測定されたバイモーダル統合と対をなすものである。
【0029】
いずれの場合であっても、具体例によっては、本技術は、聴覚刺激および体性感覚刺激を用いて刺激し、ある時間待機し、効果が依然として存在することを観側することを含んでいる場合もある。この結果は、耳鳴りを永続的に抑制させるのに必要な永続的効果(long−lasting effect)を示し、耳鳴りの抑制にはあまり重要でない即効(immediate effects)とは対をなすものであると考えられる。
【0030】
図示したように、バイモーダル可塑性は刺激−タイミング依存性がある。インビボ刺激タイミング依存可塑性が内在的なHebbianおよび反Hebbianスパイクタイミング依存可塑性(STDP)を反映するものであることが報告されている。我々の技術のために刺激タイミング依存性を評価するにあたって、ある具体例では、バイモーダル刺激プロトコル(
図1B)をさまざまなバイモーダル間隔、たとえば5p5刺激オンセットから音オンセットを減算して得られた差を用いて繰り返した。
図2Aの具体例に記載のように、体性感覚刺激と聴覚刺激との間のさまざまなタイミングにおける聴覚応答のプロット示しており、体性感覚系刺激(5p5)が聴覚刺激に先行する場合には聴覚応答がバイモーダル刺激後に抑制されたが、聴覚刺激が体性感覚刺激に先行する場合には聴覚応答が増強された。このことは、バイモーダル間隔(BI)の値が0ミリ秒未満の値(たとえば、−40ミリ秒、−20ミリ秒、−10ミリ秒、および、バイモーダル間隔(BI)の値が0ミリ秒超える値(10ミリ秒、20ミリ秒、40ミリ秒)に相当する。すなわち、マイナスのバイモーダル間隔は体性感覚刺激が聴覚刺激に先行することを示し、プラスのバイモーダル間隔は聴覚刺激が体性感覚刺激に先行することを示している。バイモーダル可塑性は、音刺激発火頻度が、試験されたバイモーダル間隔のうちの全部でなくとも一部のバイモーダル間隔において、バイモーダル刺激後に増大または減少した場合に刺激タイミング依存性ありと判断された。我々が見出しことは、音に対する応答がバイモーダルペアリングプロトコルにより変化を受けた全てのユニットが刺激タイミング依存性を示した(すなわち、少なくとも1つのバイモーダル間隔の試験後に発火頻度が少なくとも20%増大または減少した)ことである。本明細書に記載されているように、発火頻度の増加量または減少量は変更されてもよい。いうまでもなくここに記載の量は一例として提供されている。
【0031】
刺激タイミング依存可塑性を示す各ユニットについて、タイミング規則をバイモーダル間隔の関数としての発火頻度のパーセント変化から構築した。これらのタイミング規則が
図2B〜
図2Eに示されており、各図には、
図1Bに記載のバイモーダル刺激に暴露してから5分後(220)、15分後(222)および25分後(224)のプロットが示されている。タイミング規則をHebbian−like(
図2B)と、反Hebbian−like(
図2C)と、増強型(
図2D)と、抑制型(
図2E)とに分類したる。
図2F〜
図2Iには、各グループについての平均単一ユニットタイミング規則がそれに対応する識別子とともに示されている。図示されているように、Hebbian−likeユニットは体性感覚刺激が聴覚刺激に先行した場合に最大限に増強され、聴覚刺激が体性感覚刺激に先行した場合に最大限に抑制され、並列の紡錘状の細胞シナプスにおけるHebbian STDPを反映しているようであった(n=5、
図2Bおよび
図2F)。反Hebbian−likeユニットは、体性感覚刺激が聴覚刺激に先行した場合に最大限に抑制され、聴覚刺激が体性感覚刺激に先行した場合に最大限に増強され(n=7、
図2C,
図2G)、並列の紡錘状の細胞シナプスにおけるHebbian STDPと並列の車軸シナプスにおける反Hebbian STDPをペアリングしたものを反映しているようであった。他のユニットは、全てのバイモーダルペアリングプロトコルにより増強される(n=2、
図2D、
図2H)かまたは抑制される(n=2、
図2E、
図2I)かのいずれかであった。図示されてはいないが、単一ユニットクラスタおよび多重ユニットクラスタを比較すると(このことは、本技術を用いれば、これらの電極を用いて1つ以上のニューロンから記録を取った後、主成分分析技術を用いてそれらのうちの一部を単一ニューロン(ユニット)の応答に分割することができることを意味する)、多重ユニットクラスタの中に、同じようなHebbian−likeタイミング規則(n=25)、反Hebbian−likeタイミング規則(n=18)、増強型タイミング規則(n=18)、抑制型タイミング規則(n=12)が観側されることが分かった。33個の多重ユニットがバイモーダル間隔に対して抑制型および増強型の複雑な依存性を示した(図示せず)。
【0032】
DCN内の並列繊維シナプスではシナプス可塑性が数分にわたって生じる。バイモーダル可塑性経時変化をシナプス可塑性経時変化と比較するために、単一ユニットおよび多重ユニットの両方について、
図1Bのプロトコルを用いてバイモーダル可塑性をバイモーダル刺激から5分後、15分後および25分後に測定した。最大の増強および抑制ならびに最大の増強および抑制を誘発したバイモーダル間隔を用いてDCN神経細胞集団(DCN neural population)に対するバイモーダル刺激の影響を推定した。バイモーダル刺激後の発火頻度の変化は多くの場合バイモーダル刺激から5分後よりも15分後または25分後に大きかった(たとえば
図2B〜
図2Eを参照)。
図3A(上端)に示されているように、最大バイモーダル増強はバイモーダルペアリング(bimodal pairing)から15分後に頭打ちとなり、25分後に戻り始めた。それとは対照的に、
図3A(下端)に示されているように、最大バイモーダル抑制は25分間にわたって生じ続けた。バイモーダルペアリングから、最大抑制中央値は25分後の−28%(n=126)で、最大増強中央値は25分までの40%(n=126)であった。これらのデータは、バイモーダル刺激ペアリングの適用から25分後にトーン応答がベースラインの方に向けて戻り始めたことを示している。しかしながら、この提供されているパフォーマンスは一例である。具体例によっては、トーンに対する応答がバイモーダルペアリングから90分以内にベースラインレベルに回復している場合もある(たとえば、
図3Bを参照)。
【0033】
体性感覚系および聴覚系のバイモーダル刺激の適切なタイミングおよび順番を決定するにあたって、
図2F〜
図2Iおよび
図3Aのような発火頻度マップを用いて刺激タイミング依存可塑性の評価を行うようにしてもよい。図示された具体例では、DCN神経細胞集団は反Hebbian−like刺激タイミング依存可塑性が優性である。バイモーダル間隔を用いて最大のバイモーダル増強およびバイモーダル抑制および特定するための技術を持つことにより、DCNのバイモーダル可塑性の刺激タイミング依存性の集団推定(population estimate)が可能となる。
図4には一例が示されている。最も効果的なバイモーダルペアリングプロトコル(たとえば、バイモーダル間隔)がトーン刺激(聴覚)から20もしくは40ミリ秒後にSp5(体性感覚刺激)が続くもの、トーン刺激とSp5が同時なものまたはSp5がトーン刺激に10ミリ秒先行するものからなっている場合、バイモーダル刺激が増強型である可能性が最も高かった。それとは対照的に、最も効果的なバイモーダル刺激プロトコルが、Sp5がトーン刺激に20もしくは40ミリ秒先行するものまたはトーンから10ミリ秒後に続くものであった場合、バイモーダル抑制が誘発される結果となった。
【0034】
また我々は、我々のバイモーダル刺激技術がユニモーダル刺激よりも持続性の強い効果を誘発することも見出した。STDPが永続的なバイモーダル可塑性の基礎となるという我々の提案する仮説は、聴覚刺激と体性感覚刺激とをペアにすることにより、トーン誘発応答の永続的な抑制または増強が誘発されるということを意味する。このことを試験するために、バイモーダル刺激がユニモーダル刺激(すなわち、音刺激またはSp5刺激のいずれかのみ)に交換されたプロトコル間にユニモーダルトーン誘発応答の変化を測定した。
図5Aおよび5Bには、それぞれ、バイモーダル刺激対ユニモーダルトーン刺激(
図5A)およびバイモーダル刺激対ユニモーダル体性感覚刺激(
図5B)についての発火頻度の変化が示されている。最大のバイモーダル増強およびバイモーダル抑制は、ユニモーダルトーン刺激後のトーン誘発応答の増強または抑制よりも有意に大きかった(
図5A)。しかしながら、バイモーダル刺激後の最大増強ではなくバイモーダル刺激後の最大抑制のみがユニモーダル5p5刺激のものよりも大きかった(
図5B)。以上のように、体性感覚入力および聴覚入力の両方による活性化は、聴覚入力または体性感覚入力のいずれか一方よる活性化よりもDCNユニット応答に対する永続的な効果が大きい。
【0035】
我々は、バイモーダル刺激のタイミングおよび順番を変えた試験から、Sp5刺激により興奮させられたユニットはHebbianタイミング規則を示し、Sp5刺激により抑制させられたユニットは反Hebbianタイミング規則を示すことを見出した。これまで、体性感覚ニューロンの活性化はDCNニューロンに興奮型応答、阻害型応答または複雑型応答を誘発することが示されている。体性感覚刺激は、個々の紡錘状細胞において、入力が並列繊維入力から直接にまたは阻害性介在ニューロン(車軸細胞)を介してその紡錘状細胞へ運ばれるかに応じて興奮型応答または阻害型応答を引き起こすようになっている。5p5刺激振幅は副しきい値体性感覚入力(sub−threshold somatosensory inputs)を活性化するように選択されているが、ユニモーダル5p5刺激に対して、11ユニットが測定可能な興奮型応答または阻害型応答を示し、Hebbianタイミング規則または反Hebbianタイミング規則を明確に特徴付けるものである。たとえば、ある具体例では、我々は、音刺激応答に対する体性感覚刺激の影響を観側することによりこのことを評価した。体性感覚刺激が音刺激応答に影響を与えているものの、体性感覚刺激自体が応答を引き起こしているわけではない場合、副しきい値(sub threshold)であると定義された。5p5刺激に対して興奮型応答で応答した6ユニットのうちの5ユニットは、Hebbianタイミング規則を示し、Hebbianタイミング規則が並列繊維から紡錘状細胞シナプスを経由する場合に当てはまることを示唆した(
図6Aおよび6B)。それとは対照的に、5p5刺激に対して阻害型で応答した5ユニットのうちの4ユニットは、反Hebbianタイミング規則を示し、並列繊維から車軸細胞シナプスへの経由に依存する反Hebbian示唆した(
図6Cおよび
図6D)。明確な刺激−タイミング依存性を示さなかったユニットは、5p5刺激単独によって興奮させられる可能性または阻害させられる可能性が同じ程度であった(図示せず)。
【0036】
また我々は、バイモーダル刺激タイミング規則が阻害型入力と相関することも見出した。阻害型入力は対象となっているニューロンの応答速度を減少させる他のニューロンからの神経細胞接続(neural connection)のことである。これを調べるために、モルモットの従来の生理学的応答スキームに従って、ユニットが周波数応答マップにより分類された(n=63ユニット、タイプ1、11,111、I−111、IVおよびIV−T)。ここで、タイプは音に対するにユニットの応答に反映される阻害量(the amount of inhibition)のことを意味し、タイプ1は最小阻害量を有し、タイプIVが最大阻害量を有しており、それらの時間的応答特性が最適周波数におけるものである(n=66ユニット、ビルドアップ(buildup)、ポーズビルドアップ(pause−buildup)、チョッパ(chopper)、オンセット(onset)およびプライマリライク(primary−like))。これらの生理学的応答特性は、体性感覚神経支配を含むDCNニューロンの固有の形態学的なネットワーク特性(intrinsic,morphological、and network properties of DCN neurons)にリンクされている。我々は、Hebbianタイミング規則および反Hebbian−likeタイミング規則に従うユニットの割合(proportion)がそれらの応答野に反映される阻害程度に相関することを見出した。たとえば、
図7Aは、紡錘状または巨大細胞に通常関連するタイプI、タイプI−III、タイプIIIおよびタイプIV応答マップ分類についてHebbianタイミング規則および反Hebbian−likeタイミング規則に従うユニットの割合を示している。Hebbian−likeタイミング規則は、最適周波数から離れた周波数または高い強度において、有意の阻害を伴うタイプIII応答野またはタイプIV応答野を備えたユニットよりも阻害を伴わないタイプI応答野を備えたユニット観側される可能性が高かった。したがって、阻害の少ないユニットはHebbian規則に従う傾向があり、阻害の多いユニットは反Hebbian規則に従う傾向があった。
【0037】
側頭野応答タイプおよび受容野応答タイプがそれぞれ組み合わせられたユニットのグループについても、タイミング規則およびバイモーダル可塑性強度が比較された。2つのニューロンクラスが矛盾しないバイモーダルタイミング規則を示した。タイプI応答野またはタイプII応答野を備えたビルドアップユニットまたはポーザビルドアップユニットは明確なHebbian−likeタイミング規則を示した(
図7B)。それとは対照的に、タイプIV応答マップまたはタイプIV−T応答マップを備えたオンセットユニット(onset units)は反Hebbianタイミング規則のみ示した(
図7C)。
【0038】
また我々は、自発的頻度変化が音刺激発火頻度の変化と相関することも見出した。−20ミリ秒を除いて(0.21<R2<0.48)バイモーダル刺激後の全てのバイモーダル間隔について、音刺激発火頻度の変化と自然発火頻度の変化とが有意に相関していた。音刺激発火頻度と自然発火頻度との最も高い相関は+10ミリ秒のバイモーダル間隔の後に観側された(
図8、線形回帰分析、DF=82、R2=0.48、p=2.62e−13)。しかしながら、−20ミリ秒の間隔のバイモーダル刺激の後では、音刺激発火頻度と自然発火頻度との間には有意な相関が見られなかった。
【0039】
この予期せぬ結果に至った理由の一部はバイモーダル可塑性に対するネットワークおよび固有の特性の影響によるものであると考えられている。たとえば、本明細書で展開してきたHebbian−likeから、反Hebbian−like、そして複合体へと続くタイミング規則の連続性が、さまざまなタイプのDCN神経細胞に起因するものであり、固有の機構またはネットワーク機構がSTDPとともに働きバイモーダル可塑性を制御していることを示唆していると考えられている。また我々は、バイモーダル可塑性タイミング規則が上位オリーブ複合体(superior olovary complex)または被蓋核からのコリン作動性入力(cholinergic input)による影響を受ける可能性があるとも考えている。被蓋核は、DCN内のSTDPを変え、並列繊維から紡錘状細胞シナプスへの部位においてHebbian LTPを反Hebbian LTDへと変換するようになっている。
【0040】
さまざまな生理学的クラスのDCNニューロンが異なった刺激タイミング依存性を示すという我々の判断は、生理学的(および恐らく形態学的)にサブタイプのDCNニューロンが多重モード入力に対して異なる機能を実行することを意味する。我々のデータは、阻害型影響の少ないDCNニューロン(タイプIの受容野)がHebbian−like刺激タイミング依存を示す可能性が高く、阻害型影響が有意なDCNニューロン(タイプIIIおよびタイプIVの受容野)が反Hebbian−like刺激タイミング依存を示す可能性が高いことを示している。このことは、垂直細胞または車軸細胞では、ポストシナプススパイクパターン(post−synaptic spiking patterns)が阻害により影響を受け、紡錘状細胞では、ポストシナプススパイクパターンが永続的または早期過分極阻害(pre−hyperpolarization)により決まる可能性が高いことを反映している。他のシステムにおけるSTDP誘発のためのタイミング規則は、プレシナプス活性(pre−synaptic activity)およびポストシナプススパイク(post−synaptic spikes)の相対的なタイミングのみでなくポストシナプススパイクの数およびパターンにも依存する。
【0041】
それに代えて、DCN主要細胞への音刺激阻害源が、Hebbian−like刺激タイミング依存可塑性をも主に示し、受取側ニューロンに反Hebbian−likeタイミング規則をもたらしてもよい。1つの源はタイプllニューロン、すなわち推定垂直細胞(putative vertical cells)であってもよい。タイプllニューロンは、紡錘状巨大細胞に対して阻害し、体性感覚および並列繊維入力により阻害され、さらに、我々が見出したように、Hebbian−like刺激タイミング依存可塑性を示す。
【0042】
Hebbian STDPおよび反Hebbian STDPは小脳のような回路(cerebellar−like circuits)における適応処理のための重要な機構である。これらの回路における刺激に対する神経応答は、一次知覚入力と運動制御または二次知覚入力により供給される誤差信号との間の相関により誘発される永続的な適応を示す。我々は、DCN内の多重感覚適応処理(multisensory adaptive processing)のための機構を評価する最初のインビボ実験について説明する。したがって、我々は、DCN内の適応処理が、体性感覚入力により先行される自己生成音の如き聴覚信号により予測される音に対する応答を抑制するための機構であることを示す。本明細書には、耳鳴り、聴覚過敏などを軽減するための最適な方法を求めるための技術を含むさまざまな技術が説明されているが、複数の変形例が、考えられているとともに、この開示内容を読んだ当業者にとって明らかである。たとえば、これらの技術はDCN内の音定位信号(sound localization signals)を耳介または頭の位置に適応させてもよい。大部分のDCNニューロンが反Hebbian−likeタイミング規則を示し、5p5刺激がトーン刺激に先行する場合に応答が抑制され、トーン刺激が5p5刺激に先行する場合に応答が増強される。この観測は、先行する体性感覚の活性化により予測される自己生成音をDCNニューロンが取り消してしまうという仮説と一致している。
【0043】
耳鳴りを誘発する雑音の後のDCN内の自然発火頻度が上昇するという報告は、この構造が耳鳴り動物モデルにおける幻音または「耳鳴り」の生成サイトであること暗示している。聴覚損害後、DCNニューロンの体性感覚刺激に対する感応度が高くなるので、DCN内のバイモーダル可塑性が、体性耳鳴り(somatic tinnitus)、すなわち頭および首の圧力または操作による幻音知覚のピッチおよび高さの変更になんらかの役割を果していると考えられている。実際、我々が示しているように、バイモーダル刺激の影響が、たとえば5p5刺激がトーン刺激に先行する場合に、正常動物における抑制から挙動証拠により耳鳴りを患っていると考えられるモルモットにおける増強へとシフトしてしまう。このことは、バイモーダル可塑性が耳鳴りにおけるDCN活性過多に寄与する可能性を示唆している。
【0044】
第一の例示的試験プロトコル:以下には、
図1A〜
図1Cに対応する一組の例示的試験手順に用いられる実験手順が説明されている。動物:ミシガン大学のコロニーからの着色雄モルモット(n=5)(300〜400g、Ann、Arbor、MI)が用いられた。手術方式および電極配置:モルモットに麻酔をかけ(S.D.、ケタミンおよびキシラジン;40mg/kg、10mg/kg)、モルモットの頭を外耳道の中に入れ咬み棒(bite bar)と中空の耳棒(hollow ear bars)とを用いて定位固定装置に固定した。中核体温を38℃に維持した。左側開頭術を行ない、少量の小脳を(傍片葉を完全なまま残して)吸引して記録電極を視覚的に配置することを可能とした。つま先ピンチに対する応答によって示された場合、追加服用量のケタミンおよびキシラジン(I.M.)を少なくとも一時間ごとに投与した。モルモットの状態を体温、呼吸速度、心拍数およびユニットしきい値(unit threshold)を評価することにより監視した。
【0045】
同心状のバイポーラ刺激電極(FHC、Bowdoin、ME)をフルオロゴールド(fluorogold)に浸けて5p5の中に定位固定装置を用いて挿入した;水平−10°下方、正中線(midline)から0.28+/−0.03cmの距離だけ側向(lateral)、横静脈洞(transverse sinus)より0.25+/−0.02cmの距離だけ尾側(caudal)、小脳の表面より0.9+/−0.1cmの距離だけ下方(below)。電極の位置を殺傷後に再確認した。4つのシャンクを有する32チャンネルのシリコン基板電極(サイト間隔(site spacing)=100μm、シャンクピッチ=250μm、サイト領域(site area)=177μm
2、インピーダンス=1〜3ミリオーム、NeuroNexus、Arbor、MIより入手可能)をDCN表面に配置した。各メディアル‐ツ‐ラタラルシャンク(each medial−to−lateral shank)を異なる等周波数層(iso−frequency layer)内に配置した。次いで、各シャンクの最上側サイトが音に応答するまで電極を0.8〜1.0μmの距離だけ下げてDCNの中へ挿入した。1匹のモルモットでは、記録プロトコルの完了後、5p5刺激電極を同じ位置に留めながらDCN電極をさらにメディアル位置(medial loacation)に移動し、新たな周波数を選択して刺激を実行した。
【0046】
聴覚刺激および体性感覚刺激:ユニモーダルトーンに応答した神経活動をバイモーダル刺激プロトコル前およびバイモーダル刺激プロトコルから5分後、15分後および25分後に記録した(
図1B)。Open ExとRX8 DSP(TDT、Alachula、FL)とを用いて、サンプリング周波数を12ビットの精度で100kHzに設定し、余弦ウィンドウ(2ミリ秒の上昇時間/下降時間)でゲート制御したトーン信号(持続時間50ミリ秒)を生成した。HB7アンプ(TDT、Alachula、FL)により動かされるシールドスピーカー(DT770、Beyer)により、音を中空耳棒を通じて左側の耳に伝えた。外耳道を近似する「A」細長チューブにより中空耳棒に取り付けられたコンデンサーマイクロホンを用いてシステム応答を測定した。システム応答を説明するために、プログラマブル減衰器(PA5、TDT、Alachula、FL)を用いて音レベルを調節し、較正された(calibrated)レベル(dB SPL)を200Hz〜24kHzの周波数で伝えた。
【0047】
バイモーダル刺激プロトコルには、50ミリ秒のトーンとDCNを提供すると知られている5p5位置の電気的活性化とを組み合わせた500回のトライアルが含まれた。切り離された特注の定電流源を用いて同心状のバイポーラ電極を通じて5つの二相(100μs/相)電流パルスを1000Hzで5p5に伝えた。動きアーチファクト(movement artifact)を引き起こさない最も高いレベル(範囲:50〜70IA)に電流振幅を設定した。トーンレベル(60〜65dB SPL)および周波数については、記録時間中固定し、ほとんどの記録サイトからの音に対する応答を確実に引き起こすように選択された。バイモーダル間隔は、5p5刺激オンセットからトーン刺激オンセットを減算したものとして定義した。マイナス値は、5p5刺激がトーン刺激に先行していることを示し、プラス値はトーン刺激が5p5刺激に先行していることを示している。バイモーダル可塑性の刺激−タイミング依存性を評価するために、異なるバイモーダル間隔を用いた。各記録セッション時、全て条件を試験し終わるまで、バイモーダル間隔を−40、−20、−10、0、+10、+20、+40または+60ミリ秒の間隔から無作為に選択した。ユニモーダル制御プロトコルについては、電流振幅を0μAに設定するかまたは音響レベルを0dB SPLに設定した。
【0048】
スパイクの検出および選別:多重チャンネ記録電極から記録された電圧をPZ2プリアンプ(Fs=12kHz、TDT、Alachua、FL、USAから入手可能)を用いてデジタル化し、オンラインスパイク検出前に、バックグラウンドノイズを2.5標準偏差だけ上まわるように設定した固定電圧しきい値を用いてバンドパスフィルタリングした(300Hz〜3kHz)(RZ2、TDT、Alachua、FL、USA)。Open Explorer(TDT、Alachua、FL、USA)を用いてスパイク波形断片(spike waveform snippets)およびタイムスタンプ(timestamps)を、PCに保存し、波形形状の主成分と分散を固定し(95%)および5つのクラスタを有するK−平均クラスタ分析とを用いて選別した(OpenSorter、TDT、Alachua、FL、USA)。J2値がle−5を超えるクラスタはよく分離しているとは認めず結合(combined)した。波形形状および振幅の一貫性により単一ユニットを同定した。電流刺激のオンセットから15ミリ秒までのスパイクは、電気的なアーチファクトおよびリンギング(ringing)により劣化しているので、全ての分析から除外した。多重ユニットクラスタは分離された単一ユニットとして同定することができなかったが、波形形状、振幅および応答特性は記録期間中一貫していた。
【0049】
実験計画標準分類スキームに従って音に対するユニット応答の特徴づけをするために、トーン刺激を5p5刺激よりも前に加えた。トライアルとトライアルとの間で(200ミリ秒トライアル、50ミリ秒トーン)トーンレベル(0〜85dB SPL、5dB段階)および周波数(200Hz〜23kHz、0.1オクターブ段階)を変更した、各条件を10〜20回繰り返した。5p5刺激用の電流振幅を同側顔面痙攣(ipsilateral facial twitches)を引き起こさない最も高い振幅に設定した(60〜80 IA)。加えられた電流振幅では、体性感覚刺激に対してスープラしきい値応答(supra−threshold responses)を示したユニットはほとんどなかったものの、バイモーダル効果により証明されるように、サブしきい値応答が引き起こされたことは明白であった。
【0050】
ユニモーダルトライアルをバイモーダル刺激プロトコルの前、バイモーダル刺激プロトコルから5分後、15分後および25分後の4時点で記録した(
図1B)。バイモーダル刺激プロトコルと同じレベル(60〜65dB SPL)で加えられたユニモーダルトーン(TONE)に対する応答を記録した(200トライアル、毎秒5トライアル)。バイモーダル刺激プロトコル前後の各時点で自発的活性(SPONT)を2分間記録した。全てのユニモーダルトーンおよびレイトレベルファンクション(rate level functions)はバイモーダル刺激のために用いられたものと同じ周波数(frequency)であった。
図1Bに記載の記録ブロック全体(202〜210のペアを結合したもの)は30〜35分間持続した。ユニモーダル記録が各時点で5〜7分間持続し、バイモーダル刺激プロトコルが4〜5分間持続した。無作為に、試験された各バイモーダル間隔(−40、−20、−10、0、10、20、40または60ミリ秒)について、
図1Bの記録ブロックを繰り返した。1匹のモルモットにおいて、ユニモーダルトーン刺激またはユニモーダルSp5刺激をバイモーダル刺激と交換したコントロール記録ブロックを繰り返した。最後の記録ブロックの後、バイモーダル刺激後の回復を評価するために、ユニモーダルトーン刺激に対する応答を可能な限り長い時間にわたって15〜30分ごとに測定した。
【0051】
ユニットの特性:全てのユニットを最適周波数、しきい値、周波数応答マップおよび最適周波数における時間応答パターンにより特徴付けした。応答マップは、50ミリ秒間のトーン刺激中の音刺激発火頻度から各トライアルの最後の50ミリ秒中の自然発火頻度を減算したものを演算することにより構築した。音のない場合の全てのトライアルの平均スパイク頻度を発火頻度が2.5標準偏差だけ上まわるまたは下まわる場合に、興奮型(excitation)または阻害型(inhibition)が有意であると判断した。トーンレベルがしきい値を10〜30dBだけ上まわり、周波数が同定された最適周波数の0.1オクターブ内にある50〜200トライアルから、各ユニットについてのポスト刺激時間ヒストグラム(post−stimulus time histogram)を構築した。受容野によるユニット分類(unit classification by receptive field)およびポスト刺激時間ヒストグラムにより、それぞれ、DCN内の各ニューロンのシナプスドライブおよび固有処理(intrinsic processing)の間接的な証拠が提供されている。
【0052】
図9〜
図16には、我々が刺激タイミング依存バイモーダル可塑性を用いて耳鳴りモルモットモデルのSTDPメタ可塑性を評価するために行なった他の例示の試験からの結果が示されている。我々は、バイモーダル可塑性タイミング規則が、より広いものであり、コントロールモルモットまたは騒音ダメージ後のモルモットよりも耳鳴りのあるモルモットにおいて反Hebbianである可能性が高いこと、また、このことが、耳鳴りがDCN内のSTDPメタ可塑性にリンクされている可能性を示唆していることを見出した。
【0053】
以下にさらに議論されるように、この例示のプロトコル試験では、耳鳴りを発症させると知られている聴性脳幹応答しきい値に一時的なシフトをもたらす狭周波数帯域の騒音にモルモットを暴露した。聴覚驚愕のギャップ誘発プレパルス阻害(behavioral testing by gap−induced prepulse inhibition of the acoustic startle)による挙動試験によれば60パーセントのモルモットが耳鳴りを発症した。雑音暴露および耳鳴り誘発に続いて、間隔および順番が異なるペアをなした体性感覚刺激および聴覚刺激の前後における音に対する応答を比較することにより、刺激タイミング依存可塑性を測定した。我々は、耳鳴りが確認された動物におけるタイミング規則がより広いものであり、耳鳴りを発症していなコントロール動物または雑音が暴露された動物におけるタイミング規則よりも反Hebbianである可能性が高いことを見出した。さらに、暴露された耳鳴りのある動物はコントロール動物または暴露された耳鳴りのない動物のいずれよりも抑制型の応答が弱かった。耳鳴りのある動物におけるより広いタイミング規則およびより弱いバイモーダル抑制は、DCNへの体性感覚入力が耳鳴りにおいて増強効果を高めることを示唆した。これらの結果は、耳鳴りの発症がDCNのスパイクタイミング依存可塑性にリンクされていることを示唆し、本技術が将来的に耳鳴りの治療を提供するという我々の先に記載した主張をさらに裏付けた。
【0054】
実証されているように、耳鳴りのある動物におけるSTDPが耳鳴りのない動物におけるSTDPと比較されている。これらのさらなる実験により、順番および間隔に基づいてバイモーダル刺激を用いてDCN内の発火頻度を変更可能な方法の如き本明細書に記載の技術を用いることにより、信号を聴覚野へ送るニューロンの大多数の発火頻度の減少をもたらすバイモーダル刺激の特定の順番および間隔を見出すことができることがさらに証明された。したがって、これらのさらなる実験は、発火頻度を増大または減少させるタイミング規則を求めるための特定のタイミング規則および技術の耳鳴り知覚表象に寄与しうるニューロンにおけるさらなる例を提供する。これらのタイミング規則から、我々は、発火頻度を減少させて耳鳴りを治療するための規則を理解することができるようになる。たとえば、DCN内のバイモーダルSTDPの役割は、体性感覚入力と相関する聴覚神経活性の時空パターンを特定することである。正常なシステムでは、狭いSTDPタイミング規則は、体性感覚イベントと密に相関する聴覚神経入力に対するDCNニューロンの応答を高めるかまたは抑制する。耳鳴り動物におけるより広いタイミング規則は、体性感覚イベントが反Hebbian可塑性またはHebbian可塑性をトリガする可能性を高め、自発的および誘発的な聴神経体スパイクパターン(spontaneous,as well as driven,auditory nerve spiking patterns)に対する応答性を高める。結果として生じる活性過多は耳鳴りの神経表象でありうる。この機構は、雑音暴露後に観測される小粒細胞の抵抗の減少と協力的に働き、体性感覚入力の強さをさらに増強しうる。さらに、耳鳴り動物におけるバイモーダル抑制の対応する減少は活性過多をさらに増強すると考えられる。バイモーダル刺激タイミング依存可塑性の耳鳴りに関連する変化は、体性感覚の入力が耳鳴りを発症しなかった動物に比べて耳鳴りを発症した動物におけるDCN神経活性に対してより大きな影響を与えることを示唆している。同様のプロセスが視覚野にも存在しており、視覚奪取後のより広げられたSTDPタイミング規則が正常な視覚野におけるよりも低い自然発火頻度で視覚野への自発的入力の長期増強を引き起こす。
【0055】
この例から、我々は、ある周波数範囲にわたるバイモーダル刺激効果のシフトに固有の複数の効果に気づいた。このことは、患者の耳鳴り感度の周波数範囲が患者によって異なっているためとくに有益であり、バイモーダル刺激の有用な実施範囲を特定することを重要なこととしている。
【0056】
我々は、7kHzを中心とする狭周波数帯域の雑音の暴露が7〜16kHz間のしきい値の一次的なシフトを誘発することを実証した。聴性脳幹応答(ABR)しきい値によって実証されているように、雑音暴露によりTTSが誘発された。たとえば、暴露されていない耳(
図11B)ではなく暴露されている耳(
図11A)におけるABRしきい値は、暴露直後に上昇し、雑音暴露から1週後までにベースラインに戻った。最大しきい値上昇は第一の暴露後9kHzにおいて35dB(平均)+/−3.5dB(s.d.)であり、第二の暴露後10kHzで19dB(平均)+/−2.1dB(s.d.)であった。また、しきい値はある帯域において暴露周波数から暴露周波数を2オクターブ上まわるところまで上昇した。暴露されたコントロールモルモットにおけるABRしきい値はいずれの耳においてもベースラインを超えて上昇することはなかった(
図11Cおよび
図11D)。暴露後1(230)、回復1(232)、暴露後2(234)、回復2(236)および最終時点(238)についてのデータが全て示されている。
【0057】
また我々は、狭周波数帯域雑音への暴露が60%のモルモットにおいて12〜14kHz帯域で耳鳴りを誘発することを実証した。聴覚性驚愕ギャップ誘発プレパルス阻害(GPIAS)を用いて周波数特有耳鳴り知覚表象(frequency specific tinnitus percept)の証拠について各モルモットを評価した。ベースライン驚愕試験中、全てのモルモットが、ギャップがない場合よりもギャップがある場合に、より小さな驚愕応答で正常なギャップ検出を示した。ベースライン中、全てのモルモットが0.5下まわる正規化された驚愕応答を示した。正規化された驚愕応答とは、ギャップのない驚愕応答振幅(ANG)に対するギャッププレパルス(gap prepulse)のある驚愕応答振幅(AG)の比として定義される。耳鳴りの証拠と考えられる障害ギャップ検出(impaired gap detection)は、有意に上昇した正規化された驚愕応答により特定された。TTS誘発雑音暴露後、暴露されたモルモットの60パーセントが12〜14kHz帯域において耳鳴りを有していると特定された。また、その半分が4〜8kHz、8〜10kHzまたは16〜18kHzの帯域で耳鳴りの証拠も示した(
図12A)。したがって、1214kHz帯域において耳鳴りの証拠を示すモルモットを、耳鳴りを示す暴露グループ(ET)に入れた。試験されたいずれの周波数帯域においても耳鳴りの証拠を示さなかった暴露されたモルモットの残りの40%を、耳鳴りを示さない暴露グループ(ENT)に入れ、コントロール動物は別のグループ(コントロール(sham))と見なした。
【0058】
ETとENTとのグループ分けを有効にするために、全ての暴露されたモルモットとコントロールモルモットとの間(
図12B)、および、ETモルモット、ENTモルモットおよびコントロールモルモットの間(
図12C)でギャップ検出能力を比較した。全ての暴露されたモルモットについて、いずれの周波数帯域においても正規化された驚愕応答は有意に上昇しなかった(
図12B)。しかしながら、正規化された驚愕応答は、ENTグループではなくETグループでは、4〜6、8〜10および12〜14kHz帯域おいて有意に上昇し、障害ギャップ検出能力を示した(
図12C)。ETグループまたはENTグループのいずれにおいても、正規化された驚愕応答は、BBNバックグラウンド信号および16〜18kHzバックグラウンド信号について有意に上昇しなかった(
図12C)。
【0059】
我々は、バイモーダル可塑性タイミング規則が、主に反Hebbianであり、雑音を暴露された動物では抑制されることを見出した。我々は、バイモーダル可塑性の刺激タイミング依存性を測定し、正常動物ではHebbian−likeタイミング規則が優位であることを実証した。耳鳴りに起因する神経機構の変化から雑音暴露に起因する神経機構の変化を分離するために、刺激タイミング依存バイモーダル可塑性を、コントロールモルモット(n=100ユニット)および暴露モルモット(n=288ユニット)からの主要な細胞ユニット間でまず比較した後、耳鳴りを発症した(ET)または耳鳴りを発症しなかった(ENT)暴露された動物間で比較した。バイモーダル可塑性については、バイモーダル刺激から15分後の音刺激平均発火頻度の有意な変化を特定することにより評価した。バイモーダル可塑性の刺激タイミングへの依存性については、
図1Aのプロトコルを用いるとともにバイモーダルペアリングプロトコルにおけるバイモーダル間隔(10、20および40ミリ秒)および順番(Sp5またはトーンの先行)を変更しながらバイモーダル可塑性を繰り返し測定することにより確認した。バイモーダル間隔については、発火頻度が前と15分後とで有意に異なっている(t−検定、p<0.05)場合にバイモーダル可塑性を有意に引き起こしていると分類した。
【0060】
タイミング規則は、さまざまなバイモーダルペアリングの順番および間隔から15分後に観測された音刺激発火頻度の変化をプロットすることにより各ユニットについて構築した。これらのタイミング規則は、Hebbian−like(n=132、
図13Aに示されているコントロール動物および雑音が暴露された動物からの例)、反Hebbian−like(n=69、
図13Bに示されているコントロール動物および雑音が暴露された動物からの例)、増強型(n=44)、または抑制型(n=143)に分類された。Hebbian−likeタイミング規則に従うユニットでは、音刺激発火頻度が、Sp5刺激がトーンオンセットに先行している場合にバイモーダル刺激後に増大し、Sp5刺激がトーン刺激に続く場合にバイモーダル刺激後に減少した(
図13A)。増強型バイモーダル可塑性についての時間ウインドウ(temporal window)がETグループからの雑音を暴露された動物からのユニットにおいてより広く、また、増強がバイモーダル間隔から−10、10および20ミリ秒の後に観測されていることに留意されたい。それに対して、コントロール動物からのユニットでは、増強が10および20ミリ秒のバイモーダル間隔においてのみ観測されている。反Hebbian−likeタイミング規則に従うユニットでは、音刺激発火頻度が、トーンオンセットに続くSp5刺激から15分後に増大し、トーンオンセットに先行するSp5刺激から15分後に減少した(
図13B)。その他のユニットにおける応答は、試験されたバイモーダル間隔においてバイモーダル刺激後に増強または抑制された(個々のユニットは図示せず)。
【0061】
コントロール動物からのユニットは、正常動物に類似する割合でタイミング規則クラスに分配され、ほとんどのユニットがHebbian−likeタイミング規則を示した(
図13C)。それとは対照的に、雑音暴露後では、Hebbianタイミング規則または増強型タイミング規則に従うユニットに比べて、反Hebbianタイミング規則および抑制型タイミング規則に従うユニットが有意に多くなった(カイ二乗比例テスト、コントロール動物対暴露動物、DF=3、カイ2=25.2564、p<0.0001)(
図13C)。ユニットをTTS周波数領域(8〜16kHz)内のBFを有するものとこれらの領域外(8kHz未満および16kHz超)のものとにさらに分けると、反HebbianクラスにおいてTTS周波数領域内のユニットがユニットのうちの最も高い割合(パーセンテージ)を占めていることが分かる。
【0062】
平均タイミング規則(mean timing rules)は、特定の間隔におけるDCN集団活性(DCN population activity)に対する体性感覚−聴覚ペアリングの影響を評価するものである。バイモーダル刺激から15分後の全てのコントロールユニットおよび暴露ユニットからの平均集団タイミング規則(mean population timing rules)から、雑音を暴露された動物において、平均集団タイミング規則がHebbian−likeから反Hebbian−likeへシフトしていることが明らかになる(
図13D)。コントロール動物では、平均集団タイミング規則がHebbian−likeであり、音刺激発火頻度は、Sp5刺激が音刺激に先行する場合(プラスの値)に増強され、Sp5が音刺激に続く場合(マイナスの値)に抑制される(
図13D、コントロール動物)。雑音を暴露された動物では、それとは逆のことが生じ、音刺激発火頻度は、Sp5刺激が音刺激に先行する場合に抑制され、Sp5刺激が音刺激に続く場合に増強される(
図13D、暴露動物)。暴露グループ(Group)およびバイモーダル間隔(BI)に対する2元配置分散分析(two−way ANOVA)から、バイモーダル間隔の有意な主効果に加えてバイモーダル間隔と暴露グループとの間の有意な相互作用が明らかになった(Group−F(1)=1.38、p=0.240、BI−F(5)=5.37、p<0.001;暴露グループ×バイモーダル間隔−F(5)=14.47、p<0.001)。
図13Dには、Tukey−Kramerポストホック試験(Turkey−Kramer’s post−hoc tests)に従って暴露グループ間で有意の差があると判断されたバイモーダル間隔が星印により示されている。
【0063】
我々は、反Hebbian型バイモーダル増強(anti−Hebbian bimodal enhancement)が耳鳴りを示すモルモットにおいてより広く、抑制型バイモーダル可塑性が耳鳴りのない動物においてより広いことを見出した。バイモーダル刺激タイミング依存可塑性における耳鳴り特有の差を確定するために、我々は、順番および間隔が異なるバイモーダル刺激の前および15分後のコントロールモルモット(n=100ユニット)、ENTモルモット(n=63ユニット)およびETモルモット(n=225ユニット)の間の応答を比較した。ETユニット、ENTユニットおよびコントロールユニットの平均集団タイミング規則から、ETグループとENTグループの両方においてバイモーダル可塑性がHebbian−likeタイミング規則から反Hebbian−likeタイミング規則へ変換されることが明らかになった(
図14A)。ET動物では、増強が生じたバイモーダル間隔(−40、−20、−10および10ミリ秒)がENTグループ(−20ミリ秒)におけるよりも多くあり、ET動物の曲線の増強過程(enhancement phase)のタイミング規則が広がっていることが明らかになった。ET動物およびENT動物の両方について発火頻度が+20ミリ秒において抑制されていることが観測されたが、ENT動物の曲線の抑制過程(suppressive phase)が広がっていた。ENT動物では、ET動物における+20ミリ秒のみと比較して、+10および+20ミリ秒の両方において抑制が生じていた(
図14A)。 ET動物における増強過程およびENT動物の抑制過程のタイミング規則の拡大は、最大増強および最大抑制がそれぞれ+20ミリ秒および−10ミリ秒のバイモーダル間隔において生じているコントロール動物の狭い、Hebbian−likeタイミング規則とは対照的であった。耳鳴りグループ(TG)およびバイモーダル間隔(BI)に対する2 元配置分散分析から、耳鳴りグループおよびバイモーダル間隔の有意な主効果に加えてバイモーダル間隔と暴露グループとの間の有意な相互作用が明らかになった(TG−F(2)=4.02、p=0.018、BI−F(5)=4.72、p<0.001、TG×BI−F(10)=7.34、p<0.001)。
図14Aには、Tukey−Kramerポストホック試験に従って耳鳴りグループ間で有意の差があると判断されたバイモーダル間隔が星印で示されている。
【0064】
集団タイミング規則のシフトに対応して、反Hebbian−likeユニットは、ET動物において最も一般的であり、抑制型ユニットはENT動物において優位であった(
図14B、カイ二乗=52.82、DF=11、p<0.001、
図14Bの星印)。ET動物における反Hebbian−likeユニットへのシフトは耳鳴り周波数帯域内のユニットにおいてより顕著であった。
【0065】
また我々は、雑音を暴露された動物において、タイミング規則がより広く、反Hebbianであることも実証した。上述のように、我々は、バイモーダル可塑性に対するスパイクタイミング依存シナプス可塑性の寄与を示すためにバイモーダル可塑性の刺激タイミング依存性を測定した。これらの具体例では、我々は、コントロールモルモット(n=100ユニット)、ENTモルモット(n=63ユニット)およびETモルモット(n=225ユニット)からの応答を順番および間隔が異なるバイモーダル刺激の前ならびに3分後および15分後に記録した(
図13A)。
【0066】
バイモーダル刺激から3分後および15分後の全てのコントロールユニットおよび雑音を暴露されたユニットからの平均集団タイミング規則から、雑音を暴露された動物において、雑音暴露が平均集団タイミング規則をHebbian−likeから反Hebbian−likeへシフトすることが明らかになった(
図13B)。バイモーダル刺激から3分後および15分後のコントロール動物では、平均集団タイミング規則は、Hebbian−likeであり、音刺激発火頻度が、Sp5刺激が音刺激に先行する場合に増強され、Sp5が音刺激に続く場合に抑制された(
図13B、符号302)。雑音を暴露された動物では、逆のことが生じ、音刺激発火頻度は、Sp5が音刺激に先行する場合に抑制され、Sp5が音刺激に続く場合に増強された(
図13B、符号306)。
【0067】
また我々は、タイミング規則が耳鳴りない動物と比較すると、雑音を暴露された耳鳴りのある動物において最も広いことも実証した。ETユニット、ENTユニットおよびコントロールユニットについての平均集団タイミング規則は、バイモーダル刺激から15分後の永続的なバイモーダル可塑性がETグループとENTグループの両方においてHebbian−likeタイミング規則から反Hebbian−likeタイミング規則へ変換することを明らかにしたが、ETグループのみにおいてより広かった(
図13C)。それに加えて、コントロールモルモットでは、最大増強および最大抑制がそれぞれ10ミリ秒および−20ミリ秒で観測され、同様に、ENT動物では、最大増強および最大抑制がそれぞれ−20ミリ秒および+20ミリ秒のバイモーダル間隔で観測された。しかしながら、ET動物では、最大増強および最大抑制が試験された最も広いバイモーダル間隔で観測され(+40および−40ミリ秒)た。このことは、バイモーダル可塑性タイミング規則が耳鳴り起因して広がることを示唆している。
【0068】
我々は、反Hebbianバイモーダル可塑性が耳鳴りのある動物において優位であり、抑制型バイモーダル可塑性が耳鳴りのない動物において優位であることを見出した。タイミング規則は、個々のユニットについてバイモーダル刺激から15分後の応答から構築し、先に記載のスキームに従ってHebbian−likeタイミング規則(n=132)、反Hebbian−likeタイミング規則(n=69)、抑制型タイミング規則(n=143)、または、増強型タイミング規則(n = 44)へと分類した。コントロール動物からのユニットは、タイミング規則クラス間で正常動物からのユニットと同じような分布を示したが、雑音暴露後では、反Hebbian−likeユニットがET動物において最も一般的であり、抑制型ユニットがENT動物において優位であった(
図14A)。このことは、集団タイミング規則がHebbian−likeから反Hebbian−likeへとシフトすることと一致する(
図13C)。
【0069】
図14B〜
図14Gには、コントロール動物およびET動物からのHebbianユニット、反Hebbianユニットおよび抑制型ユニットにつての平均タイミング規則が示されている。Hebbian−likeタイミング規則はコントロール動物およびET動物の両方において類似し、非常に変化しやすいものであった(
図14B〜
図14C)。それに加えて、バイモーダル抑制はコントロール動物よりもET動物においてより弱かった(14F〜14G)。
【0070】
また我々は、自然頻度(spontaneous rates)の反Hebbianバイモーダル可塑性が雑音を暴露された耳鳴のあるモルモットにおいて優位であり、自然頻度の抑制型バイモーダル可塑性が耳鳴りのない動物において優位であることも見出した。耳鳴りはDCNおよび他の聴覚構造体の自発的活性過多に起因するものである。バイモーダル刺激の前に測定された自然発火頻度から、しきい値シフトを伴う周波数領域におけるETグループの自然発火頻度の上昇および耳鳴りの証拠が明らかとなったが(12kHz未満、
図15Aおよび
図15B)、このことは12kHz以上には当てはまらなかった(
図15Aおよび
図15C)。したがって、コントロール動物、ENT動物およびET動物における後の自発的活性(subsequent spontaneous activity)に対するバイモーダル刺激の影響を評価することが重要である。
図15Dは、これら3つのグループにおけるさまざまなバイモーダルペアリングの順番および間隔から15分後のDCNニューロンにおいて観測された自発的活性の変化をプロットしたものである。ENT動物からのユニットの自然頻度の変化から構築されたこれらのタイミング規則は全体的に抑制型であった。それとは対照的に、ET動物からのユニットは、反Hebbian−likeタイミング規則を示し、−20ミリ秒の間隔において増強を示し、全てのプラスの間隔においてENT動物よりも抑制の程度が小さかった。耳鳴りグループ(TG)およびバイモーダル間隔(BI)に対する2元配置分散分析から、耳鳴りグループの有意な主効果に加えてバイモーダル間隔と暴露グループとの間の有意な相互作用が明らかになった(TG−F(2)=14.06、p<0.0001、BI−F(5)=1.12、p=0.35、TGxBI−F(10)=2.41、p=0.008)。
【0071】
さらに我々は、暴露された耳鳴り動物が暴露されなかった耳鳴り動物に比べて、Sp5刺激に対する興奮型応答がより高いことも実証した。興奮型ユニモーダルSp5に対する応答、阻害型ユニモーダルSp5に対する応答および複雑型ユニモーダルSp5に対する応答の分布がTTS誘発雑音暴露および耳鳴りと異なるか否かを明らかにするためにSp5刺激のみに対する応答を記録した(
図16)。データプロット1は興奮型ユニモーダル応答の場合である。データプロット2は混合型応答の場合である。データプロット3は阻害型ユニモーダル応答の場合である。ユニモーダルのSp5応答は、コントロール動物よりET動物においてより興奮型である可能性が高く、阻害型である可能性が低かった。それとは対照的に、ENT動物において、ユニモーダル応答は、複雑型(E/In)である可能性が高かった。
【0072】
したがって、上述のように、雑音暴露に起因する刺激タイミング依存性の変化を明らかにするために、バイモーダル可塑性タイミング規則をコントロール動物と全ての雑音を暴露された動物との間で比較した。我々は、3つの有意な雑音暴露に起因する変化を観測した。1)タイミング規則はHebbianよりも反Hebbianである可能性が高かった。2)タイミング規則はより広かった。3)タイミング規則は増強型より抑制型である可能性が高かった。雑音暴露誘発耳鳴りにとくに起因する変化を明らかにするために、我々は、雑音を暴露された耳鳴りのある動物からのタイミング規則を、雑音を暴露された耳鳴りのない動物およびコントロール動物からのタイミング規則と比較した。耳鳴り動物におけるバイモーダル可塑性に2つの著しい違いがあった。1)タイミング規則は、抑制型タイミング規則または増強型タイミング規則よりもHebbianまたは反Hebbianタイミング規則により影響される可能性が高かった。2)反Hebbianタイミング規則はより広かった。これらの結果はSTDPの基本的な変化を表わしている可能性が高く、耳鳴りを発症させる際のSTDPの潜在的な役割を示唆している。
【0073】
DCN内のバイモーダルSTDPの役割は、体性感覚入力と相関する聴覚神経活性における時空パターン(spatiotemporal patterns)を特定することにある。正常なシステムでは、狭いSTDPタイミング規則は、体性感覚イベントと密に相関する聴覚神経入力に対するDCNニューロンの応答を高めるかまたは抑制する。耳鳴り動物におけるより広いタイミング規則は、反Hebbian可塑性またはHebbian可塑性をトリガする体性感覚イベントの可能性を増大し、高められた応答に結びつくことに、自発的なおよび刺激による聴覚神経スパイクパターンに対する応答を高める。結果として生じる活性過多は耳鳴りの神経表象でありえる。この機構は、体性感覚入力の強さをさらに増強する雑音暴露後に観測される小粒細胞抵抗の減少と協力的に働くと考えられる。さらに、それに対応する耳鳴り動物におけるバイモーダル抑制の減少は活性過多をさらに増強すると考えられる。バイモーダル刺激タイミング依存可塑性の耳鳴りに起因する変化は、体性感覚入力が耳鳴りを発症しなかった動物よりも耳鳴りを発症した動物におけるDCN神経活性に対してより大きな影響を与えることを示唆している。
【0074】
我々は、雑音暴露および耳鳴りが 体性感覚神経分布の再分布(redistribution of somatosensory innervation)、グリセリン作動性車軸細胞の影響の減退、コリン作動性神経調節、ならびにNMDARおよびPKCを媒介とする信号カスケードの潜在的な変化の組み合わせにより誘発される可能性の高いSTDPメタ可塑性に関連するものであると考えている。
【0075】
したがって、これらの結果は、DCN内のSTDPメタ可塑性が耳鳴りの新たな神経相関であることを裏付けている。雑音暴露後のDCN内のSTDP変化の特定の組み合わせが自発的神経活性をDCN内の耳鳴りを表わすスパイクパターンおよび聴覚系におけるより高い聴覚構造に向かって駆り立てると考えられている。高次中枢におけるメタ可塑性の影響は、自発的活性をさらに知覚認識の方向に向かって駆り立てることができる。結果的に、これらの実験は、耳鳴り治療における本技術の特有のかつ予想外の利点をさらに実証している。
【0076】
図9〜
図16に対応する第二の組の例示の試験手順のために用いられた実験手順は以下の通りであった。動物:この研究にはElm Hillコロニーからの着色された雌モルモット(n=16、300〜400g、Arbor、MI)を用いた。実験計画:この研究は、音刺激応答および自発的活性の刺激タイミング依存バイモーダル可塑性に対して雑音暴露誘発耳鳴りがどのように影響するかを評価するように設計された。耳鳴り用の聴覚驚愕に基づくギャップ検出アセイ(
図9、プロット「B」)を用いて2時間にわたって雑音を暴露した前後に16匹の雌モルモット(Elm Hill、10匹が雑音暴露、6匹が疑似暴露)の行動を週二回試験した(
図9、プロット「A」、97dB雑音、7kHzを中心とする1/4オクターブバンド)。まず、10匹のモルモットをベースラインギャップ検出試験から3〜6週間後に狭周波数帯雑音に暴露した。6〜8週間後、各モルモットを同じ狭周波数帯雑音に2回目の暴露をした。それと同時に、残りの6匹のモルモットを疑似暴露した。ギャップ検出(B)を始める前に聴性脳幹応答(ABR)しきい値を測定した。測定は、しきい値シフト(E1&E2)を評価するために第一の雑音暴露および第二の雑音暴露の直後と、しきい値の回復(R1&R2)評価するために各雑音暴露から1週間後と、ユニット記録(F、
図9、プロット「C」)直前とで行なった。第二の雑音暴露から4〜6週間後、急性DCN記録調製(acute DCN recoding preparation)における単一ユニット自発的活性、多重ユニット自発的活性、レイトレベル関数(rate level functions)、および、バイモーダル刺激タイミング依存可塑性を評価して記録し、コントロールグループと暴露グループとの間および耳鳴りのあるグループと耳鳴りのないグループとの間で比較した(
図9、プロット「D」)。
【0077】
耳鳴り用のギャップ検出試験:先に記載のプロトコル(Dehmel et al.、2012b)に従って、週に2回耳鳴り用の驚愕に基づくギャップ検出アセイを用いてモルモットの行動を試験した。簡単にいえば、モルモットを圧電式力測定プレート上に置いて大きな広帯域周波数雑音(驚愕刺激、115dB、200〜20kHz)により引き起こされる運動を測定した。各トライルは、驚愕刺激オンセットの50ミリ秒前に埋め込まれている50ミリ秒のサイレントギャップ(silent gap)のある(ギャップありトライアル)またはない(ギャップなしトライアル)バックグラウンド雑音から構成されていた。この60dBバックグラウンド雑音とは、広帯域周波数雑音、または、帯域が2kHzでありおよび低遮断周波数が4、8、12、16または20kHzであるバンドパスフィルタによりフィルタリングされた雑音のことである。トライアルとトライアルとの間の間隔は18〜24秒の間で任意に変更した。各試験日について、正規化された驚愕応答の計測値を[AG/ANG]比として演算した。ここで、AGはある日のギャップを有する10回のトライアルからの驚愕応答の平均振幅のことであり、ANGは、同日のギャップのない10回のトライアルからの驚愕応答の平均振幅のことである(
図10A)。各周波数帯域(12kHzを図示)ついての耳鳴り証拠を求めるための各周波数帯域内の正規化された驚愕応答を評価するために、全ての動物からの全ての観測値からの正規化された驚愕トライアルの分布をガウス混合モデル(統計ツール箱、Matlabリリース2012b)を用いて解析した。ここでは、正規化された驚愕観測値は、2つの分布、正常分布(
図10B、402)と耳鳴り分布(
図10B、404)とのうちの一方から取り出される仮定される。事後確率が0.55を超えた場合、正規化された驚愕観測値を耳鳴りグループの中に入れた(
図10C、406)。各周波数帯域について、ガウス混合モデルにより定められたしきい値を用いて、雑音暴露後のコントロール動物(コントロール動物、
図10D)、雑音暴露前の全ての動物(ベースライン、
図10E)、および雑音暴露後の暴露された動物(暴露された動物、
図10F)からの正規化された驚愕応答の分布を耳鳴りのある観測および耳鳴りない観測に分割した。ベースライン試験中に見つかったものよりも多くの耳鳴り観側を実証した暴露グループからの動物は、試験された周波数帯域内において耳鳴りを有すると考えた。
図10D〜
図10Fについては、耳鳴りなしに対応する分布402のみに符号を付けた。他の分布は耳鳴りありに対応する分布404に相当する。統計評価のために、暴露されなかった動物をコントロールグループに割り当て、耳鳴りの証拠のない雑音を暴露された動物を暴露された耳鳴りのない(ENT)グループに割り当て、耳鳴りの証拠のある雑音を暴露された動物を暴露された耳鳴りのある(ET)グループに割り当てた。プレパルス阻害(pre−pulse inhibition)をギャップ検出と同じ方法で評価した。プレパルス阻害について、全てのグループの動物が騒音ダメージの前後で差を示さなかった。この結果は、騒音ダメージによりベースライン一時的処理(baseline temporal processing)が変わらなかったためにギャップ検出における全ての変化が、一時的処理機能障害または難聴によるものではなく、耳鳴りが「ギャップを埋める」結果によるものであることを意味するととらえた。
【0078】
神経記録のための外科的アプローチ:モルモットに麻酔をかけ(ケタミンとキシラジンの皮下注射;40mg/kg、10mg/kg;切開サイトで、4mg/kgリドカインを皮下注射)、眼軟膏をモルモットの目に投与した。咬み棒を用いてモルモットの頭部を定位固定装置に固定し、中空の耳棒を外耳道の中に挿入した。中核温度を38℃に維持した。左側開頭術を行ない、少量の小脳を(傍片葉を完全なまま残して)吸引して記録電極を視覚的に配置することを可能とした。つま先ピンチに対する応答によって示された場合、追加服用量のケタミンおよびキシラジン(I.M.)を少なくとも一時間ごとに投与した。体温、呼吸速度、心拍数、ユニットしきい値を評価することによりモルモットの生理学的状態を監視した。神経記録の完了後、これらのモルモットをペントビナトールナトリウム(sodium pentobarbitol)のI.P.注射により殺傷し、断頭した。
【0079】
電極配置:同心状のバイポーラ刺激電極(FHC、Bowdoin、ME)をフルオロゴールドに浸けた後5p5の中に定位固定装置を用いて挿入した;水平から−10°下方、正中線から0.28+/−0.03cmの距離だけ側向、横静脈洞より0.25+/−0.02cmの距離だけ尾側、小脳表面より0.9+/−0.1cmの距離だけ下方。殺傷後、解剖により電極の位置を確認した。4つのシャンクを有する32チャンネルのシリコン基板電極(サイト間隔=100μm、シャンクピッチ=250μm、サイト領域=177μm
2、インピーダンス=1〜3ミリオーム、NeuroNexus、Arbor、MI)をDCN表面に配置した。シャンクを吻〜尾(rostral−to−caudal)のほぼ等周波数層(iso−frequency layer)内に配置した。各シャンクのトップサイトが音に対して応答しなかった場合、電極を雑音に応答するまで下げた。
聴覚刺激および体性感覚刺激:Open ExとRX8 DSP(TDT、Alachula、FL)とを用いてサンプリング周波数を100kHzに12ビットの精度で設定し、余弦ウインドウでゲート制御されるトーン信号(持続時間50ミリ秒、2ミリ秒の上昇/下降時間)を生成した。HB7アンプ(TDT、Alachula、FL)により動かされるシールドスピーカー(DT770、Beyer)により、音を中空耳棒を通じて左側の耳に伝えた。外耳道を近似する1/4インチ細長チューブにより中空耳棒に取り付けられたコンデンサーマイクロホンを用いてシステム応答を測定した。システム応答を説明するために、プログラマブル減衰器(PA5、TDT、Alachula、FL)を用いて音レベルを調整し、較正されたレベル(dB SPL)を200Hz〜24kHzの周波数で伝えた。同心状のバイポーラ電極を介してSp5へ伝えられる1000Hzの3つの二相(100μs/相)電流パルスを用いて、DCNに向けて突出すると知られている体性感覚脳幹核(somatosensory brainstem nuclei)内のニューロンを活性化した。動きアーチファクトを引き起こさない最も高いレベル(範囲:50〜70μA)に電流振幅を設定した。
【0080】
刺激タイミング依存バイモーダル可塑性の評価:確立されているインビボバイモーダル可塑性誘発プロトコル(in vivo bimodal plasticity induction protocol)を用いて、全てのモルモット内の刺激タイミング依存可塑性を評価した。要するに、バイモーダル刺激プロトコルの前、3分後および15分後の3つの時点で自発的活性およびユニモーダルトーン刺激に対する応答を記録した。この具体例におけるバイモーダル刺激プロトコルは、50ミリ秒トーン刺激とSp5活性化とを組み合わせた300回のトライアルからなっていた。バイモーダル間隔は、Sp5刺激オンセット時間からトーン刺激オンセット時間を減算したものとして定義された。したがって、プラスのバイモーダル間隔はSp5を先行するトーン刺激を示し、マイナスのバイモーダル間隔はトーンを先行するSp5刺激を示している。バイモーダル間隔を変えてバイモーダル刺激の前後のユニモーダルトーン刺激発火頻度の変化を測定することによって刺激タイミング依存性を評価した。−40、−20、−10、0、10、20、および40ミリ秒から任意に選択したトーンと体性感覚刺激との間のバイモーダル間隔を用いて記録ブロックを繰り返した。バイモーダル刺激がユニモーダルトーン刺激またはSp5刺激と交換されるコントロール記録ブロックも含まれた。バイモーダル刺激後の回復を評価するために、可能な限り長い時間にわたって、ユニモーダルトーンに対する応答を15〜30分ごとに測定した。
【0081】
バイモーダル刺激後の回復を評価するために、最後のバイモーダル刺激ブロック後にユニモーダルトーンに対する応答を15〜30分ごとに最大2時間にわたって測定した。Sp5刺激が音刺激に先行した場合およびSp5刺激が音刺激に続く場合の発火頻度の平均変化(すなわち、バイモーダル後の発火頻度からバイモーダル刺激前の発火頻度を減算したもの)を比較することよって、主要な細胞ユニット(タイプII受容野のユニット以外)のタイミング規則をHebbian、反Hebbian、抑性型、または増強型に分類した。タイミング規則分類は先に用いたものと一致するものだった。コントロール動物とET動物およびENT動物を比較するために、バイモーダル刺激前に第一の記録ブロックからの自然発火頻度を測定した。
【0082】
スパイクの検出および選別:各サイトからの電圧をPZ2プリアンプ(Fs=12kHz、TDT、Alachua、FL、USA)を用いてデジタル化してバンドパスフィルタリングした(band−pass filtered、300Hz〜3kHz)。オンラインスパイク検出には、バックグラウンドノイズを2.5標準偏差だけ上まわるように設定した電圧しきい値を用いた(RZ2、TDT、Alachua、FL、USA)。タイムスタンプおよび波形断片を、PCに保存し、波形形状の主成分と分散を固定し(95%)および5つのクラスタを有するK−平均クラスタ分析とを用いて選別した(TDT、Offline Sorter)。クラスタ識別性は、ペアクラスタ統計(p>0.05、Plexon Offline Sorter)を用いてかつ訓練された観測者によって視覚的に確認された。スパイクが80%のチャンネルにわたって1ミリ秒ウインドウ内に存在した場合、そのウインドウ内のスパイクをアーチファクトと考え、さらなる分析から排除した。この研究では、多重ユニットクラスタの波形形状、振幅および応答特性は、記録期間にわたって一貫性があった。
【0083】
本明細書に記載のように、本技術は、耳鳴り周波数として特定される周波数または耳鳴りを軽減すると判断される他の周波数でバイモーダル刺激の聴覚コンポーネントを加えるようにしてもてもよい。さらなる具体例では、本技術は、耳鳴周波数で、たとえば+10ミリ秒または+20ミリ秒のタイミング間隔(すなわち、聴覚刺激前の体性感覚刺激)を提供してもよい。「非耳鳴」周波数の場合は、タイミング間隔は、たとえば−10ミリ秒および−20ミリ秒(すなわち、体性感覚刺激前の聴覚刺激)である。このことは、蝸牛神経核(cochlear nucleus)の耳鳴周波数領域で発生する活性過多を軽減し耳鳴りに関連しない領域における活性を増大することにより全ての周波数にわたって発火頻度を「等しくする」効果を有している。さらに、具体例によっては、本明細書に記載の治療技術は、バイモーダル間隔の統計的分布を提供するようになっていてもよい。たとえば、−15ミリ秒を中心とし2ミリ秒の標準偏差を有するガウス分布から取り出される間隔における体性感覚刺激と耳鳴周波数とを対にするようにしてもよい。また非耳鳴周波数の場合は、0ミリ秒を中心とする広いガウス分布または均等分布(uniform distribution)から取り出される間隔と対にするようにしてもよいし、または、+15ミリ秒を中心とし2ミリ秒の標準偏差を有するガウス分布から取り出される間隔と対にするようにしてもよい。たとえばバイモーダル間隔をある統計的分布にわたって変更すると、いくつかの特徴が生じうる。このことは、初期のバイモーダル間隔の微調整を可能とし、初期の間隔が推定値である場合に役に立つ可能性がある。さらに、ニューロンは、異なる好ましい抑制型タイミングを有しうる。したがって、本技術は、異なるトライアルにおいてバイモーダル間隔を変更することによって、一部のニューロンに対して最大の抑制をそして他のニューロンに対して部分な抑制を容易に達成することができる。さらに、ある分布を有するバイモーダル処理を適用することにより、好ましい間隔が聴覚系の状態に応じて時間の経過とともに変わる可能性に対処することもできる。
【0084】
図17Aおよび
図17Bには、本明細書に記載の耳鳴り軽減技術を実現するために用いられうる例示のハードウェアシステムおよびソフトウェダイアグラムが示されている。
図17Aにはバイモーダル刺激マシン900が示されている。このバイモーダル刺激マシン900は、たとえば表示スクリーンを介してユーザにユーザインターフェイス904を提供するインストラクションを実行し、患者のバイモーダル刺激を行うためのインストラクションをバイモーダル刺激マシン900へ提供しうるコンピュータ906と相互作用する処理ユニット902(および図示されていないメモリー)を備えている。本明細書の具体例に記載のように、コンピュータ906は信号およびデータの分析を行ってタイミング制御事項を求めるようになっていてもよい。このタイミング制御事項には、たとえば17Aに示されている具体例における音声信号発生器908および電気的信号発生器910を介して送信される2つの刺激信号である聴覚刺激信号および体性感覚刺激信号の順番、間隔、周波数、振幅などが含まれる。 バイモーダル刺激マシン900およびコンピュータ906のうちの一方または両方によりさまざまな事項が実行されるものとして記載されているが、いうまでもなく、本明細書に記載の事項のうちのいずれかがこれらのうちの一方または両方により実行されるようになっていてもよい。本明細書では、これらを個々にもしくは集合的に例示のバイモーダル刺激システムと呼ぶ場合もある。また、本明細書には、
図18を含めて他の具体例も提供されている。
【0085】
図17Bにはソフトウェアプラットフォーム950が示されている。このソフトウェアプラットフォーム950は、本技術のさまざまな例示の実施形態では、バイモーダル刺激マシン900、コンピュータ906またはそれらを組み合わせたものに搭載されるインストラクションによって実行されるようになっていてもよい。開始モード952がブートプロセス954により動作を開始する。バイモーダル刺激マシン900はブートプロセス954から入力モード956へ入る。バイモーダル刺激マシン900は、入力モード956から、当該バイモーダル刺激マシンが入力モード956にいるかまたはプロトコルモード(また処理モードとも呼ばれる)960にいるかを判定ブロック958で判定する。バイモーダル刺激マシンが入力モード956にいるかまたはプロトコルモード960にいるかはたとえばユーザによって選択されるようになっていてもよい。システムシャットダウン959の開始までにまだ5分あることを示すユーザ入力待機コール命令を表すオプションブロック957が示されている。プラットフォーム950は、入力モード956において、ユーザインターフェイスがオンか否かをブロック962で判定する。ユーザインターフェイスがオンでない場合、ブロック964でオンにされる。いずれの場合であっても、制御が入力待機ブロック966へ渡される。入力待機ブロック966は、ブロック968を通じてユーザからの入力を待つようになっているが、さらに詳細にいえば、トライアルバイモーダル刺激手順をユーザが実行したいか否かについてユーザに質問するようになっていてもよい。実行したい場合、ユーザはブロック969で要求を入力した後、制御をブロック966へ戻し、プロトコルスイッチングモードイニシエータ970へと戻る。そうでなければ、ブロック968は制御をシャットダウン手順959へ渡す。
【0086】
ブロック958でプロトコルモードが存在すると、制御が、プロトコルモード960へ渡される、さらに詳細にいえば、聴覚系および体性感覚系の刺激信号の順番、間隔、周波数、振幅を含むパラメータを判定する更新パラメータブロック972へ渡される。具体例によっては、これらのパラメータが前のプロセスパラメータの履歴データから取り出される場合もある。具体例によっては、これらのパラメータが、測定された患者の生理学的データの如き患者の現時点のデータおよび/または履歴データから予測的に求められる場合もある。具体例によっては、これらのパラメータが患者の入力から求められる場合もある。たとえば、バイモーダル刺激マシン900が、ラップトップコンピューター、タブレットコンピューター、モバイルスマートフォン、ネットブック(netbook)、ノート型コンピュータ、個人用携帯情報端末、ハンドヘルド装置、またはデスクトップ装置の如きポイントオブケア用のコンピュータ(point of care computer)として実装される場合、ユーザには、耳鳴りまたは聴覚過敏などが十分に治療されるまで、聴覚系および体性感覚系の刺激信号ためのパラメータの選択をユーザに可能とするユーザインターフェイスが提供されるようになっていてもよい。したがって、スマート装置として、バイモーダル刺激マシン900は、ユーザが治療の日時を記録することを含む治療のための最適なパラメータセッティングを特定する際に、それらのパラメータを記録するようになっていてもよい。具体例によっては、スマート装置は、パラメータ値の粗チューニング調節スケールを適用するパラメータ範囲対微細チューニング調節スケールを適用するパラメータ範囲が選択的に求められる最適な調節スケールを自動的に決定するようにさらになっている場合もある。このようにして、スマート装置は被験体にパラメータ値が予測された範囲に接近するまでパラメータの粗調節をさせることを可能とするようになっており、この粗調節後、スマート装置は患者が正確なパラメータを求める際にさらに良好な制御を可能とするための微細調節スケールへと切り換わるようになっていてもよい。
【0087】
いずれの場合であっても、図示されている具体例では、ブロック972は、格納されているデータからのバイモーダル刺激用のパラメータを更新するようになっており、また、これらのパラメータはブロック974を介してトランスデューサ908、910の如きハードウェアへ送られ、バイモーダル刺激治療が患者に提供されるようになっている。この治療は、決められたまたは前もって決められた期間にわたるものであってもよい。したがって、具体例によっては、ブロック976で治療プロトコルが終了したと判定されるまで所望の期間にわたってバイモーダル刺激治療を連続的に継続するように制御ループが用いられる場合もある。治療期間は、システムにより自動的に決められてもよいし、患者もしくは医療従事者により設定されてもよいし、患者の履歴データから決められてもよいし、または、特定された患者集団全体の履歴データから決められてもよい。これらは一例として提供されたものにすぎない。設定されたプロトコルモードが終了する(ブロック976で判定される)と、プロトコルモードはブロック978で入力モードへ切り替えられる。具体例によっては、ユーザは、聴覚系刺激と体性感覚系刺激との間のタイミングに影響を与えるさまざまなパラメータ、たとえば繰り返しカウントならびに強度、周波数、分離時間、遅延時間および継続期間の如き刺激パラメータを調整するようになっていてもよい。具体例によっては、このような制御は1ミリ秒わたって達成される場合もあればまたはそれよりもさらに短い時間にわたる制御である場合もある。
【0088】
図18には、本発明の方法にかかるブロックを実現するための例示のバイモーダル刺激システムが示されており、当該装置はコンピュータ12の形態を有する汎用の計算デバイスを有している。コンピュータ12の構成部品には、たとえば処理ユニット14およびシステムメモリ16が含まれる。コンピュータ12は、モデムまたは他のネットワークインターフェイス75を介しかつローカルエリアネットワーク(LAN)72および/または広域ネットワーク(WAN)73を介する1つ以上の遠隔コンピュータ、たとえば遠隔コンピュータ70−1、70−2、…70nへの論理結合を用いて、ネットワーク環境で動作するようになっている。これらの遠隔コンピュータ70はコンピュータ12のような他のコンピュータを有していてもよいが、具体例によっては、これらの遠隔コンピュータ70は、(i)聴覚刺激マシン、(ii)体性感覚刺激マシン、(iii)信号記録データベースシステム、(iv)スキャナおよび/または(v)信号フィルタリングシステムのうちの1つ以上を有している。
【0089】
図示されている具体例では、コンピュータ12は、マシン70−1という符号の付いたバイモーダル刺激マシンに接続されている。バイモーダル刺激マシン70−1は、本明細書に記載の技術に従ってバイモーダル刺激信号を送信するための複数の刺激リード線を有するスタンドアローンシステムであってもよい。他の具体例では、一連の刺激プローブがコンピュータ12に直接接続されている場合もある。
【0090】
通常、コンピュータ12は、コンピュータ12によるアクセス可能ないかなる入手可能な媒体であってもよいさまざまなコンピュータ読取可能媒体を有しており、また、揮発性媒体および不揮発性媒体、着脱可能媒体および着脱不能媒体を有している。システムメモリ16は、読取専用メモリー(ROM)およびランダムアクセスメモリー(RAM))の如き揮発性および/または不揮発性メモリーの形態をとるコンピュータ格納媒体を有している。ROMは基本入出力システム(BIOS)を有していてもよい。通常、RAMは、オペレーティングシステム20、アプリケーションプログラム22、他のプログラムモジュール24およびプログラムデータ26を含むデータおよび/またはプログラムモジュールを有している。たとえば、本明細書に記載の耳鳴り検出、バイモーダル刺激分析およびバイモーダル刺激治療技術は、アプリケーションプログラムブロック22に格納されかつコンピュータ12により実行可能なインストラクションとして実現されてもよい。また、コンピュータ12は、着脱可能コンピュータ格納媒体/着脱不能コンピュータ格納媒体、揮発性コンピュータ格納媒体/不揮発性コンピュータ格納媒体、たとえばハードディスクドライブ、磁気ディスクから読み取るまたは磁気ディスクに書き込む磁気ディスクドライブ、光ディスクから読み込むまたは光ディスクに書き込む光ディスクドライブをさらに有していてもよい。
【0091】
ユーザは、キーボード30およびポインティングデバイス32の如き入力デバイスを介してコンピュータ12の中へコマンドおよび情報を入力するようになっていてもよい。ポインティングデバイス32はマウス、トラックボールまたはタッチパッドと通常呼ばれている。他の入力デバイス(図示せず)には、マイクロホン、ジョイスティック、ゲームパッド、衛星放送アンテナ、スキャナなどが含まれうる。これらおよび他の入力デバイスは、システムバスと結合されているユーザ入力インターフェイス35を介して処理ユニット14に接続されていることが多いが、他のインターフェイスおよびバス構造、たとえばパラレルポート、ゲームポートまたはユニバーサルシリアルバス(USB)により接続されていてもよい。モニター40または他のタイプの表示デバイスが、インターフェイス、たとえばビデオインターフェイス42を介してプロセッサ14に接続されていてもよい。モニターに加えて、コンピュータは他の周辺出力デバイス、たとえばスピーカー50およびプリンター52をさらに有していてもよい。これらは出力周辺デバイスインターフェイス55を介して接続されていてもよい。
【0092】
一般的に、本明細書の技術は、コンピュータ12により実行するためのいかなるコンピュータ言語によりコード化されてもよい。刺激インストラクションデータは、遠隔コンピュータ70−1、70−2、…70nで求められるようになっていてもよいし、または、コンピュータ12のコンピュータ記憶デバイスのうちのいずれにおいて求められるようになっていてもよい。同様に、これらのインストラクションは、これらのコンピュータおよびデバイスのうちのいずれに格納されてもよい。さらに、遠隔コンピュータ70−1、70−2、…70nは、バイモーダル刺激の有効性の認識を示すインストラクションを患者から受け取り、それに応じて、コンピュータ12または遠隔コンピュータが刺激制御信号を調節するようになっていてもよい。
【0093】
ユーザは、バイモーダル刺激を設定する条件パラメータを、入力機構を介して入力または選択するようになっていてもよい。他の具体例では、たとえばどのようなタイプの分析を実行するかに基づいて、バイモーダル刺激用のパラメータが前もって選択されるようになっていてもよいまたは自動的に決定されるようになっていてもよい。実行可能プログラムの出力は、表示装置(たとえば、モニター40)に表示されてもよし、プリンター52へ送られてもよいし、コンピュータ12により後の使用のために格納されてもよいし、他のシステム、たとえば遠隔コンピュータ70のうちの1つに提供されてもよい。当該出力は、たとえば、イメージ(たとえば、本明細書に記載の図)、グラフ、表またはそれらを組み合わせたものの形態をとっていてもよい。図示されているように、当該システムのオペレーションが将来参照するためにログデータベースに記録されるようになっていてもよい。このログデータベースは後でアクセス可能となっていてもよい。
【0094】
たとえば本明細書においては(たとえば、
図17A、17Bおよび
図18)、記載のシステムにより、耳鳴りを治療する技術の実現が可能となる。さらにいうまでもなく、これらの図のマシンおよび/またはソフトウェアのうちのいずれかにより実現されるような本明細書に記載の具体例は、他のいかなるこのようなマシンおよび/またはソフトウェアによって実現されてもよい。これらの技術は、第一の発火点および第一の発火周期、刺激オンセットならびに/または継続期間を有する聴覚刺激信号(たとえば、純音(pure tone)、狭周波数帯域雑音、広帯域雑音、高調波複合音などや、それらを組み合わせたもの)を生成することを含んでいる。また、これらの技術は、被験体の体性感覚系を刺激する体性感覚刺激信号を生成することをさらに含んでいてもよい。この体性感覚刺激信号は、第二の発火点および第二の発火周期、刺激オンセットならびに/または継続期間を有している。次いで、耳鳴りを軽減するように第一の発火点と第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差が確定されるようになっていてもよい。耳鳴りを軽減するために、第一の発火周期および第二の発火周期は、非同期に維持され、第一の発火周期のオンセットが第二の発火周期のオンセットと重ならないようになっていてもよい。具体例によっては、第一の発火点および第二の発火点は全体的に重なってない場合もある。具体例によっては、第一の発火点が第二の発火点よりも前に位置している場合もあり、他の具体例では、発火点の順番がそれとは逆になっている場合もある。耳鳴りの所望の軽減または照明を決めるために、たとえば被験体の応答に基づいてタイミング順番が変更されてもよい。
【0095】
たとえば、バイモーダル刺激マシン70−1は、耳鳴りを軽減するまたは止めるように第一の発火条件および第二の発火条件(たとえば、発火点、発火周期、継続期間、電気的信号および聴覚信号の刺激信号パターン、刺激信号強度)を確定するように制御可能となっていてもよい。具体例によっては、マシン70−1は、脳に刺激を加えて体性感覚系を刺激することによって被験体に体性感覚刺激信号を加えるように位置決めされるプローブを有していている場合もある。具体例によっては、マシン70−1は、被験体の顔の刺激による三叉神経にまたは頚部脊髄神経に刺激を加えて体性感覚系を刺激することによって体性感覚刺激信号の加えるプローブを有している場合もある。具体例によっては、これらのプローブは体性感覚系を刺激する深部脳領域プローブである場合もある。したがって具体例によっては、被験体への体性感覚刺激信号は、被験体の脳の表面領域、被験体の顔の表面構造または被験体の首の表面構造に刺激を加えて体性感覚系を刺激することによって生じるものである場合もある。これらの刺激は、聴覚刺激であっても体性感覚刺激であっても、機械的刺激または電気的刺激によって提供されてもよい。
【0096】
バイモーダル刺激を加えることに加えて、記載のシステムが、被験体のタイミングプロファイルを求めるために用いられてもよい。タイミングプロファイルは、第一の発火点と第二の発火点との間の異なるタイミング順番およびタイミング差からなるタイミングデータを含み、また、異なるタイミング順番およびタイミング差の知覚された耳鳴りデータを含んでいることを含んでいてもよい。このデータは、タイミングプロファイルデータとして、たとえばメモリー16に格納されてもよい。この格納されたデータは、聴覚刺激信号および体性感覚刺激信号を用いたバイモーダル刺激用の推奨耳鳴り治療計画を決めるために後でマシン12により用いられてもよい。
【0097】
たとえば被験体に刺激マシン70−1を通じてさまざまなタイミング順番が提供され、被験体がマシン70−1を用いて(または他の入力デバイスを用いてもしくはマシン12を用いて言葉で施術者開業者に)知覚された耳鳴りの軽減を応答するようになっていてもよい。バイモーダル刺激条件とともに、この知覚データがマシン12により記録され、この特定の被験体が患っている耳鳴りを軽減するためのタイミングプロファイルが作成される。このプロファイルは、複数の試験を経て、すなわち当該患者について集められた履歴データに基づいて作成されていてもよい。
【0098】
具体例によっては、このタイミングプロファイルを用いて、マシン12は、被験体ための初期のタイミングプロファイルを求めるようになっている場合もある。この初期のタイミングプロファイルは、第一の発火点および第二の発火点の初期のタイミング順番およびの初期の差を有している。タイミングプロファイルはオンセット後の耳鳴りを軽減するように求められている。
【0099】
このように、本明細書に記載のシステムは、耳鳴りを軽減するために第一の発火点と第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を自動的に作成することができる。
【0100】
具体例によっては、タイミングプロファイルは地球時間データを有するように作成されるようになっている場合もある。したがって、このタイミングプロファイルは、患者にとって耳鳴りがより頻繁に生じると予想される曜日、時刻などを有している。マシン12は、このタイミングプロファイルの例に基づいて耳鳴りのオンセットを未然に防ぐようにするためにタイミングプロファイルを用いてもよい。
【0101】
したがって、マシン12は、発火点と発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を調節してある期間の耳鳴り軽減プロファイルを求めるようになっていてもよい。バイモーダル刺激を加えるためにこのプロファイルに後でアクセスすることができる。たとえば、治療時間が特定されると(たとえば、将来のある時点、または、被験体が耳鳴りを知覚してバイモーダル刺激治療を始動するが如きトリガから)、このプロファイルがアクセスされ治療時間のタイミング順番およびタイミング差が特定され、次いで、それが刺激マシン70−1を用いて加えられるようになっていてもよい。具体例によっては、マシン12が第一の発火周期および/または第二の発火周期を周期的に調節して耳鳴り軽減に影響を与えるようになっている場合もある。いずれの場合であっても、先の記載から明らかなように、第一の発火点と第二の発火点との間のタイミング順番およびタイミング差を調節して特定のニューロンの発火頻度を選択的に増大または減少させる。
【0102】
例示の実施形態が耳鳴り治療について記載されているが、本技術は耳鳴りの治療に限定されるものではない。本技術はいかなる数の聴覚疾患の治療に用いられてもよく、その一例が聴覚過敏である。さらに、アプリケーションプログラム22は、聴覚疾患の治療のための他のインストラクションを有していてもよい。これらには、背側蝸牛神経核、腹側蝸牛殻核および/または聴覚野のニューロンの発火頻度を増大させるためのインストラクション、背側蝸牛神経核、腹側蝸牛殻核、下丘、聴覚野および/または耳鳴りに関連する他の核のニューロンの発火頻度を減少させるためのインストラクションが含まれている。
【0103】
具体例によっては、コンピュータ12は、聴覚刺激信号および体性感覚刺激信号の最適なパラメータ値を求めて背側蝸牛神経核、腹側蝸牛殻核および/または聴覚野のニューロンの発火頻度を変更するようになっている場合もある。
【0104】
具体例によっては、コンピュータ12は、脳波記録法(electroencephalography)試験、聴性脳幹応答(ABR)試験または精神物理学的耳鳴り適合(psycophysical tinnitus matching)試験のうちのいずれかにより評価される耳鳴り神経相関客観的尺度の削減を被験体中にもたらす刺激パラメータを特定することにより、被験体のバイモーダル刺激のタイミングおよび間隔の初期パラメータを特定するようになっている場合もある。
【0105】
いうまでもなく、本技術に従って、特定のタイミングの聴覚−体性感覚刺激を通じて目標とする神経抑制または神経増強を用いて、いかなる数の聴覚疾患を治療するようにしてもよい。これらには人工内耳および中枢性聴覚処理障害が含まれる。人工内耳については、移植後の周波数特定性の再配置(tonotopic remapping)が徐々に発生してインプラントトレーニング(implant training)に役割を果たす可能性が高い。トレーニング中、人工内耳刺激そして後続する体性感覚刺激が増強された応答をもたらし、周波数特定性の再配置を加速する可能性がある。聴覚処理障害については、区別しにくい複合音そしてそれに続いて体性感覚刺激を提示すると、その複合音に対する増強された応答がもたらされ、より優れた神経表象(neural representation)がもたらされる。
【0106】
いうまでもなく、以上の記載は一例として提供されたものにすぎず、本技術の範囲内において複数の変更が行われてもよい。
【0107】
さらに一般的にいえば、上記のさまざまなブロック、オペレーション、および技術は、ハードウェアで実現されてもよいし、ファームウェアで実現されてもよいし、ソフトウェアで実現されてもよいし、またはハードウェア、ファームウェアおよび/もしくはソフトウェアを任意に組み合わせたもので実現されてもよい。ハードウェアで実現される場合、ブロック、オペレーション、技術などのうちの一部または全部が、たとえばカスタム集積回路(IC)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルロジックアレイ(FPGA)、プログラマブルロジックアレイ(PLA)などで実現されてもよい。
【0108】
ソフトウェアで実現される場合、当該ソフトウェアは、いかなるコンピュータ可読取り可能メモリー、たとえば磁気ディスク、光ディスクもしくは他の格納媒体、コンピュータのRAM、ROMもしくはフラッシュメモリー、プロセッサ、ハードディスクドライブ、光ディスクドライブ、テープドライブなどに格納されてもよい。それと同様に、ソフトウェアは、たとえばコンピュータ読取可能ディスクまたは他の移送可能なコンピュータ記憶機構などを含むいかなる公知のまたは所望の配送方法によりまたは通信媒体によりユーザまたはシステムに配送されてもよい。通常、通信媒体は、コンピュータ読取可能インストラクション、データ構造、プログラムモジュール、または他のデータを搬送波または他の移送機構の如き変調されたデータ信号で具象化する。用語「変調されたデータ信号」とは、情報をコード化するように設定または変更された1つ以上の特性を有する信号のことを意味する。一例として、通信媒体には、有線ネットワークまたは直接有線接続の如き有線媒体や、音響周波数、ラジオ周波数、赤外線などの如き無線媒体などが含まれる。したがって、ソフトウェアは、電話線、DSLライン、ケーブルテレビライン、無線通信チャンネル、インターネットなどの如き通信チャンネルを介してユーザまたはシステムに提供されるようになっていてもよい(このことは、移送可能な格納媒体によりソフトウェアを提供することと同じまたは交換可能であると考えられている)。
【0109】
さらに、本発明が特定の具体例を参照して説明されているが、このことは例示のみを意図したものであり、本発明を限定することを意図したものではない。当業者にとって明らかなように、本発明の技術的思想および技術範囲から逸脱することなく開示の実施形態に変更、追加および/または削除を加えてもよい。
【0110】
したがって、本発明の教示に従って構成された装置が本明細書に記載されているが、本発明の技術範囲はそれに限定されるわけではない。これに反して、本発明は、文言上または均等論により添付の特許請求の範囲に含まれる本発明の教示にかかる全ての実施形態を全て網羅する。
【国際調査報告】