【実施例】
【0067】
実施例
実施例1
本研究は、糖尿病皮膚における細胞タンパク質のO-GlcNAc修飾増加が慢性糖尿病性皮膚潰瘍の患者で観察される創傷治癒遅延の一因であり得るかどうかを調べるために行った。高グルコース下でのヒトケラチノサイト培養によって高血糖をモデル化した。高血糖条件下で、(i)ケラチノサイトタンパク質のO-GlcNAc修飾レベルの上昇、及び重要なことに(ii)創傷閉鎖の遅延を観察した。創傷閉鎖の高血糖誘導遅延は、OGT(タンパク質へのGlcNAc成分の付加を担う遺伝子)のshRNA及びsiRNAノックダウンによって逆転した。この観察は、OGTの標的化が非治癒性糖尿病性創傷の治療に有益であり得ることを示唆する。
【0068】
非治癒性創傷は主要な病的状態である。このことは、慢性皮膚創傷を発症する傾向がある糖尿病患者には特に、真実である。 セリン及びスレオニン残基のO-グリコシル化は、タンパク質リン酸化と同様な共通の調節性翻訳後修飾である;細胞内タンパク質O-グリコシル化の増加は、糖尿病及び高血糖状態で観察されている。2つの細胞内酵素たるUDP-N-アセチルグルコサミン-ポリペプチド β-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(OGT)及びO-GlcNAc選択性N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(OGA)は、細胞内タンパク質基質のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の付加及び除去をそれぞれ媒介する。細胞内タンパク質のO-GlcNAc修飾の変化は糖尿病に関連し、糖尿病組織で観察されるタンパク質O-グリコシル化レベルの上昇は、観察されている、創傷治癒遅延の一因である基礎病態生理の幾らかを部分的に説明し得る。本発明者らは、マウスケラチノサイトにおけるOGT過剰発現によるタンパク質O-グリコシル化の増加がタンパク質O-グリコシル化の亢進及び超接着性表現型を生じることを以前に示した。本研究は、糖尿病皮膚における細胞タンパク質のO-GlcNAc修飾増加が慢性糖尿病性皮膚潰瘍の患者で観察される創傷治癒遅延の一因であり得るかどうかを調べるために行った。本研究で、本発明者らは、高血糖条件下で培養したヒトケラチノサイトがインビトロでO-GlcNAc修飾レベルの上昇及び創傷閉鎖速度の遅延を示すことを証明する。本発明者らは更に、RNA干渉(RNAi)によるOGTの特異的ノックダウンがこの効果を有意に逆転させることを証明し、そのことにより、糖尿病患者の創傷治癒遅延にOGT標的化治療介入の機会を開く。
【0069】
実験手順
材料. 細胞培養培地はInvitrogen(Carlsbad, CA)から入手した。shRNAプラスミドはOpen Biosystems(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)から購入し、University of North Carolina at Chapel Hill Lenti-shRNAコア施設にて、不活化レンチウイルス粒子中にパッケージングした。ヘアピン中の成熟センス鎖の配列は次のとおりであった:shOGT(TRCN0000035064;配列番号72):5'-GCCCTAAGTTTGAGTCCAAAT-3'、及びshOGA(TRCN0000134040):5'-CCAGAAACTTTCCTTGCTAAT-3'。TRCレンチウイルスeGFP shRNAを形質導入のポジティブコントロールとして使用した(Open Biosystems catalog #RHS4459)。マウスモノクローナルO-GlcNAc特異抗体(クローンRL2)はThermo Scientific(Waltham, MA)のものであった。GAPDHに対するウサギモノクローナル抗体はCell Signaling(Danvers, MA)のものであった。β-アクチンに対するマウスモノクローナル抗体及びOGT特異的抗体はSigma(St. Louis, MO)のものであった。ウサギポリクローナルOGT抗体はAbcam(Cambridge, MA)のものであった。マウス及びウサギ抗ヒツジホースラディッシュパーオキシダーゼ結合二次抗体はGE Healthcare(Pittsburgh, PA)のものであった。3'UUオーバーハングを有するコントロールsiRNA(センス鎖:GCAGUUAUAAUGACUAGAU)及びOGT siRNA(センス鎖:GCACAAUCCUGAUAAAUUU)はSigma-Aldrichから購入した。
【0070】
細胞培養及び引っ掻き創傷形成. 非トランスフェクト及びshRNAトランスフェクトHaCaT細胞を、正常又は高グルコースのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(それぞれ5.5mM又は25mMグルコース)(13)、1%ウシ胎仔血清(FBS)、1,000単位ペニシリン/mL、100μgストレプトマイシン/mL中で培養した。培地に、図に示した量のグルコース又はインヒビターを補充した。1μgピューロマイシン/mL培地を用いて、shRNAトランスフェクト細胞を選択した。引っ掻き創傷形成の6時間前にピューロマイシン含有培地を交換した。細胞を60時間(コンフルーエントまで)増殖させた後、スクラッチアッセイを行った。24ウェル培養プレート中のコンフルーエントな単層細胞を横切って線状に引っ掻いて引っ掻き創傷を形成し、続いて1×PBSで1回洗浄し、新鮮な培養培地の加えた。引っ掻いた直後にNikon TE2000-Uスピンディスク顕微鏡で10×倍率で写真撮影し、図に示した時間37℃でインキュベートした後に別のセットの写真撮影を行った。その後、Tscratchソフトウェアパッケージを用いて創傷を分析した(14)。当初創傷サイズが同じ創傷のみを評価し、比較した。
統計分析. エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を示す。Tscratchソフトウェアマニュアルの記載どおりに、スチューデントのt検定を非等分散で両側検定として行った。
【0071】
shRNAでのケラチノサイトの安定な形質導入。 HaCaT細胞をDMEM、10% FBS中で50〜60%コンフルーエントまで培養し、感染多重度(MOI)2で10μg/mLポリブレン及びshRNA(shGFP、shOGT又はshOGA)と5時間インキュベートし、その後に培地を新鮮なDMEMに交換した。翌日、1μg/mLピューロマイシン含有培地を細胞に加え、形質導入に成功した細胞を選択した。細胞培養物をピューロマイシン選択下で6〜8回継代後に実験に使用した。
イムノブロットシグナルの定量. サンプルを等量ロードし、以前に記載されたとおりSDS-PAGEで分離した。確立されたプロトコルに従ってイムノブロッティングを行い、増強化学発光(enhanced chemiluminescence;ECL)反応(Amersham Biosciences)により顕現させた。イムノブロットのタンパク質バンドを、GeneSnapソフトウェア(SynGENE, Frederick, MD)を用いて定量した。RL2染色については、3つの最も顕著なバンドを、GeneSnapソフトウェアを用いて分析した。
【0072】
ケラチノサイトのsiRNAトランスフェクション. 3'-UUオーバーハングを有する、OGTに対するsiRNA(3'-GCACAAUCCUGAUAAAUUU-5')及びスクランブルコントロールsiRNA(3'-GCAGUUAUAAUGACUAGAU-5')を合成し、水中20mM(作業ストック)に希釈し、40%コンフルーエントなケラチノサイトを含む24ウェルプレートの各ウェルを、オリゴフェクタミン(Invitrogen)をプロトコルに従って用いてトランスフェクトした。簡潔には、3μLオリゴフェクタミン(Invitrogen)を12μLのOpti-MEM I(Invitrogen)に希釈し、8分間インキュベートした。その間に、3μLのsiRNAを50μLのOpti-MEM Iと混合し、これをオリゴフェクタミン希釈物に加え、複合体を形成させるために20分間放置した。次いで、32μLのOpti-MEMを混合物に添加し、(500μLの高グルコースDMEM中の)細胞に加えた。48時間後、培地を高グルコースDMEMに交換し、60時間の時点で、細胞をスクラッチアッセイに使用した。図に示す時点で写真撮影をした。
【0073】
結果
高血糖条件は、ヒトケラチノサイトでO-GlcNAcレベル亢進を生じる. 糖尿病皮膚でのO-GlcNAc修飾レベルの上昇が組織中の高グルコースレベルに関連するかどうかを調べるために、これら条件を、増殖培地中に種々の量のグルコースを補充してヒトケラチノサイト(HaCaT)を48時間増殖させることによって細胞培養物中で模倣した(
図1)。細胞溶解物のイムノブロットは、O-GlcNAc特異的抗体RL2で検出されるように、グルコースレベルの上昇が確かにケラチノサイト溶解物においてより多くのO-GlcNAc修飾を生じたことを示す(
図1A及び1B)。この用量依存的なO-GlcNアシル化増加により、ケラチノサイトにおけるグルコース濃度増加とO-GlcNAc修飾との間の連関が強調される。
ヒトケラチノサイトは、高血糖条件下で創傷治癒遅延を示す. そこで、高血糖条件がヒトケラチノサイトの創傷閉鎖速度に影響するかどうかを調べることとした。このために、「スクラッチアッセイ」を創傷治癒のインビトロモデルとして利用した(
図1C)。このアッセイは、HaCaT細胞を種々の量のグルコースと48時間プレインキュベートした後、コンフルーエントな細胞層に「創傷」を作成して行った。「創傷治癒」を16時間進行させることで、培養培地中のグルコースレベルの上昇は創傷閉鎖速度を用量依存的に減少させたことが示される(
図1D)。
【0074】
RNA干渉によるO-GlcNAc経路の鍵となる酵素の遺伝子ノックダウンは、ヒトケラチノサイト培養物において創傷閉鎖速度に影響する。HaCaT細胞における創傷閉鎖遅延とO-GlcNAc修飾レベル上昇との連関が明らかになったことで、更に、O-GlcNAcタンパク質修飾の付加及び除去を担う酵素(それぞれOGT及びOGA)の役割をより詳細に調べることとした。このために、いずれかの酵素に対するshRNAでHaCaT細胞を安定に形質導入し、細胞溶解物をイムノブロット分析で分析した(
図2A及び2B)。細胞溶解物のイムノブロット分析により、O-GlcNAcレベルに対するRNAiの影響が確証された。すなわち、shOGTはO-GlcNAc修飾レベルの有意な低減をした。shOGA形質導入細胞は、非形質転換コントロール及びshGPFコントロールと類似のO-GlcNAc修飾レベルを示した(
図2B)。shRNA形質導入細胞の引っ掻き創傷形成により、OGTのノックダウンは創傷閉鎖速度を有意に増加させる一方、OGAについてはそうでないことが示される(
図2C及び2D)。shGFP形質導入コントロールは、非形質導入細胞と有意に異ならなかった。まとめると、これらデータは、ヒトケラチノサイトにおいて、O-GlcNAc量の減少(shOGT)は創傷治癒を加速させる一方、O-GlcNAc除去の抑制(shOGA)は創傷治癒を阻害することを強く示唆し、よってO-GlcNAcレベルと創傷治癒速度との連関を強調するものである。
【0075】
OGTのsiRNAノックダウンは、高血糖条件で、ケラチノサイトのO-GlcNアシル化を減少させ、創傷閉鎖を加速させる. OGT遺伝子発現を標的するために治療上より適切なアプローチの使用可能性を調べるため、OGTをノックダウンする手段として小干渉RNA(siRNA)を試験した(
図3)。OGT mRNA配列に指向させた19マーsiRNAを合成し、HaCaT細胞を、コントロールとしてスクランブル配列を有するsiRNAを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、細胞溶解物をRL2及びOGT免疫反応性についてプロービングした(
図3A及び3B)。結果は、イムノブロットから定量されるように、OGTに対するsiRNAがOGTレベル及びRL2免疫反応性の両方の有意なノックダウンを生じることを示す。
次に、siRNAトランスフェクト細胞を引っ掻き創傷形成アッセイで試験して、この形態のOGT RNAiの創傷閉鎖に対する効果をインビトロで調べた。
図3Cは、26時間の時点での創傷治癒がOGT siRNAでコントロールsiRNA細胞及び非処理細胞の両方と比較して有意に進行することを示す(
図3D)。これら結果は、ヒトケラチノサイト中の細胞内O-GlcNAc修飾レベルが創傷閉鎖速度に連関しており、創傷閉鎖速度がOGTノックダウンを用いて操作され得ることを更に支持するものである。
【0076】
OGTのshRNAノックダウンはケラチノサイト細胞内タンパク質O-グリコシル化を減少させ;一方、OGAノックダウンはタンパク質O-グリコシル化を増大させる. GFP(コントロール)、OGT及びOGAを標的するshRNAで安定にトランスフェクトしたHaCaT細胞をコンフルーエントまで増殖させた。次いで、細胞溶解物を、
図8A及び
図8Bに示されるように、(i)O-GlcNAc修飾(RL2)、(ii)OGTタンパク質及び(iii)GAPDH(ローディングコントロール)に対する抗体を用いるイムノブロッティングで分析した。図に示されるように、OGTの遺伝子ノックダウンはO-GlcNAcタンパク質修飾を減少させ;一方、OGAの遺伝子ノックダウンはO-GlcNAcタンパク質修飾を増加させる。
OGTアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドは、試験マウスの皮膚で、創傷に局所塗布したとき、OGTタンパク質レベル及びO-GlcNAc修飾をダウンレギュレートする. 50μlのPluronic(登録商標) F-127ゲル中10nMのOGTアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドをWTマウスの全層皮膚創傷に創傷形成後t=0及びt=24時間で局所塗布した。OGTアンチセンスODN又はビヒクルコントロールで処置したマウスの損傷周囲皮膚を、創傷形成の48時間後に採集した。
図9に示すように、皮膚抽出物をSDSPAGEにより分離し、O-GlcNAc修飾(RL2)、OGTタンパク質又はGAPDH(ローディングコントロールとして)に対する抗体を用いるイムノブロットによりプロービングした。
【0077】
考察
増加している文献の証拠から、ヘクソサミン経路の変化が糖尿病の病態生理において鍵となる役割を演じていることが示唆される。例えば、マウスにおけるOGT過剰発現は糖尿病表現型を生じ(8)、O-GlcNアシル化レベルが健常コントロールと比して上昇していることが2型糖尿病患者の細胞及び組織で観察されている(9,15)。以前、本発明者らは、ケラチノサイト中でのOGT過剰発現が(i)細胞タンパク質のGlcNAc修飾を増加させ、(ii)細胞-細胞接着を顕著に亢進させることを報告した(12)。これら観察と一致して、漸増濃度のグルコース中で増殖させたヒトケラチノサイト培養物における用量依存的なタンパク質O-グリコシル化増加を観察した。更に、グルコース濃度増加及びO-GlcNAcタンパク質修飾は、創傷閉鎖遅延と用量依存的に関連付けられる。意義深いことに、OGT特異的shRNA又はsiRNAでのOGT活性のサイレンシングは、スクラッチモデルアッセイにおいて、高グルコース濃度の存在下でさえ、ケラチノサイトタンパク質のGlcNAc修飾を減少させ、創傷治癒を促進する。まとめると、これら観察から、酵素OGTにより媒介される細胞内O-グリコシル化の増加が、慢性糖尿病性皮膚創傷での損傷治癒遅延の一因である可能性が高いことが示唆される。
【0078】
本発明者らが以前に報告したように(12)、細胞接着促進及び創傷治癒遅延に対するOGT活性増大の効果は、一部、ケラチノサイト細胞接着成分(デスモソーム、接着結合及び細胞骨格エレメントを含む)の調節に起因し得る。これに関連して、本発明者らは、以前に、プラコグロビン(接着結合及びデスモソーム細胞-細胞接着複合体の両方の成分)が、OGT過剰発現ケラチノサイトでO-グリコシル化増加により並進的に安定化されることを示した。プラコグロビンタンパク質レベルの上昇は、デスモソームの形成及びプラコグロビンに基づく接着結合を推進し、細胞-細胞接着を顕著に増強した(12)。これら観察は、ケラチノサイトにおいて、O-グリコシル化が、一部、プラコグロビンの翻訳後安定性を調節するように、そして意義深いことに、ケラチノサイト細胞-細胞接着を調節するように機能することを示唆する。創傷治癒の間、ケラチノサイトは創傷に移動して上皮再形成を促進する。創縁のケラチノサイトは、縁から離れ創傷へ移動できるように、後縁の隣接細胞への接着をダウンレギュレートしなければならない。細胞-細胞接着を増強させることにより、細胞内タンパク質O-グリコシル化の増加が創傷治癒を遅らせる一方、細胞内タンパク質O-グリコシル化のダウンレギュレーションは創傷治癒を促進することが示唆される。
【0079】
O-グリコシル化が遍在性の細胞内修飾であることは注目に値する。細胞接着及び構造タンパク質の修飾に加え、転写因子及び調節性酵素もまた、セリン及びスレオニン残基へのGlcNAcの付加を触媒するOGTにより修飾される。よって、OGT活性の効果は多面性である可能性が高い。接着に対する効果に加え、細胞内タンパク質O-グリコシル化レベルの変化は、細胞の増殖及び化学走性にも影響し得、観察された創傷治癒遅延の一因はこれら効果の組合せであり得る。
糖尿病性創傷は相当な保健医療負担の代表である。これら創傷の発生並びに当該創傷の治療に係る社会的及び財政的費用は、糖尿病の発生が肥満発生率増加及び人口高齢化に起因して増加するにつれて増大する可能性が高い。本発明者らは、高血糖ケラチノサイト培養物モデルにおいて、RNAiを用いるOGTのノックダウンによりO-GlcNアシル化の全体的レベルを減少させることで創傷治癒が加速されることを証明した。まとめると、これらデータは、OGTの局所的標的化が、糖尿病性潰瘍における治癒を促進する有効なアプローチを証明し得ることを示す。創傷における障壁機能の損傷によりオリゴヌクレオチドでのトランスフェクションが可能になることが以前に示されているので(16)、OGTに対するsiRNAの局所投与が慢性糖尿病性皮膚創傷及び創傷一般の治癒を促進する有効な治療方法であり得ることが示唆される。
【0080】
実施例2
糖尿病性創傷の治癒を促進するOGTアンチセンスオリゴヌクレオチドの局所送達
本発明者らのデータは、核原形質酵素であるO-GlcNAcトランスフェラーゼ(OGT)により触媒される細胞内タンパク質O-グリコシル化の増加が慢性糖尿病性皮膚創傷における創傷治癒遅延の一因であることを示している。本実施例に記載した研究は、糖尿病性皮膚創傷の治癒を、OGT特異的オリゴヌクレオチドの直接送達による皮膚中の酵素OGTのノックダウンによって加速させることができるかどうかを試験するものである。OGTアンチセンスオリゴヌクレオチド(OGTアンチセンスODN)及び/又はOGT siRNAの皮膚創傷部位への局所塗布によりOGT活性をダウンレギュレートさせることが通常の創傷及び糖尿病性創傷の治癒を加速させると考えられる。
本実施例に記載した研究は、以下:
I)糖尿病マウスモデルにおけるOGTノックダウンが創傷治癒速度を加速させることができるかどうかの決定、及び
II)OGT媒介性細胞内O-グリコシル化が創傷治癒を調節する機序の更なる特徴づけ
に関連する。
【0081】
糖尿病性創傷の治癒を促進するOGTアンチセンスオリゴヌクレオチドの局所送達
慢性創傷は、米国で6.5百万人の患者が罹患している主な病的状態であり、その治療に年間約250億ドルの費用を要している。糖尿病患者は、慢性非治癒性創傷の発症リスクが増大する。おそらくは、種々の因子が、慢性創傷(ニューロパシー、血管症並びにグルコースレベル上昇を生じる基礎疾患たる内分泌機能不全を含む)を発症する糖尿病患者の疾病素質の一因となる。
セリン及びスレオニン残基のO-グリコシル化は、タンパク質リン酸化と同様な共通の調節性翻訳後修飾である;細胞内タンパク質O-グリコシル化の増加は、糖尿病及び高血糖状態で観察されている。2つの細胞内酵素たるUDP-N-アセチルグルコサミン-ポリペプチドβ-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(OGT)及びO-GlcNAc選択性N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(OGA)は、細胞内タンパク質基質のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の付加及び除去をそれぞれ媒介する。細胞内タンパク質のO-GlcNAc修飾の変化は糖尿病に関連し、糖尿病組織で観察されるタンパク質O-グリコシル化レベルの上昇は、観察されている、創傷治癒遅延の一因である基礎病態生理の幾らかを部分的に説明し得る。
【0082】
ケラチノサイト中のOGT活性増大は創傷治癒を遅延させる。創傷治癒の間、ケラチノサイトは創傷に移動して上皮再形成を促進する。創縁のケラチノサイトは、縁から離れ創傷へ移動できるように、後縁の隣接細胞への接着をダウンレギュレートしなければならない。細胞-細胞接着を増強させることにより、細胞内タンパク質O-グリコシル化の増加が創傷治癒を遅らせる一方、細胞内タンパク質O-グリコシル化のダウンレギュレーションは創傷治癒を促進すると考えられる。この提案では、創傷治癒におけるO-グリコシル化の役割が更に特徴付けられる。予備試験として、スクラッチアッセイを用いて、OGT過剰発現ケラチノサイトでの創傷閉鎖時間をコントロールケラチノサイトと比較した(
図6)。細胞内タンパク質のOGT媒介O-グリコシル化の増加は、治癒の遅延を生じた。創傷形成の16時間後に、コントロールケラチノサイトは創傷を完全に閉鎖した。対照的に、OGT過剰発現ケラチノサイトは創傷を閉塞できなかった;創傷形成の16時間後で、50%未満の創傷閉鎖がOGT細胞で観察された。
【0083】
本発明者らは、(i)マウスケラチノサイトでのOGT過剰発現によるタンパク質O-グリコシル化の増加がタンパク質O-グリコシル化の増強及び超接着性表現型を生じ(
図2及び(17))、(ii)更なる高血糖条件下で培養したヒトケラチノサイトがO-GlcNAc修飾レベルの上昇及び創傷閉鎖速度の遅延を示す(
図7)ことをインビトロで証明した。本発明者らは、RNA干渉(RNAi)によるOGTの特異的ノックダウンがこの効果を有意に逆転させることを更に証明し(
図2、3、7)、そのことにより糖尿病患者における創傷治癒遅延にOGTを標的とする治療的介入の機会を開いた。OGTの阻害は糖尿病性創傷を含む慢性創傷の治癒を促進すると考えられる。本発明者らは、阻害性ヌクレオチド(例えば、OGTアンチセンスオリゴヌクレオチド又はsiRNA)の局所投与によりインビボで創傷治癒を促進させることを提案する。
【0084】
糖尿病における細胞内O-グリコシル化. 高血糖(グルコース過剰)はグルコサミン経路に流れ込み、細胞内タンパク質を修飾するOGTに過剰なUDP-GlcNAcを提供する(18)。過剰なグルコースはグルコサミンに変換され、最終的には細胞内タンパク質のOGT修飾のドナー基質であるUDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)に変換される。結果的に、高血糖は、種々のタンパク質のO-グリコシル化増加に関連付けられる(18-22)。高血糖状態(糖尿病を含む)で観察される細胞内タンパク質のGlcNAc修飾増加は、糖尿病に関連する病理の幾つかの一因であると考えられている。例えば、膵臓β-細胞は高レベルのOGTを有し、細胞内O-GlcNAc修飾の変化に感受性であり、筋肉及び脂肪組織でのOGT過剰発現はトランスジェニックマウスモデルにおいて糖尿病を引き起こす(23)。
【0085】
糖尿病と細胞内タンパク質O-グリコシル化増加を引き起こす変異との遺伝的関連性. O-GlcNAcase(OGA)をコードする遺伝子中の早期終止を生じる変異は、メキシコ系アメリカ人において、成人発症II型糖尿病の遺伝的素因と関連付けられている(24)。OGAは細胞内タンパク質からGlcNAcを除去し、同定されたOGA変異は、タンパク質O-グリコシル化レベルの上昇を生じる。この観察は、糖尿病における細胞内O-グリコシル化増加の病理学的役割についての更なる支持を提供する。
【0086】
以下を含む予備的研究により、酵素OGTにより媒介される細胞内O-グリコシル化の増加が、慢性糖尿病性皮膚創傷での創傷治癒遅延の一因であることが示唆される:
ケラチノサイト中のOGT過剰発現は、(i)細胞タンパク質のGlcNAc修飾を増加させ、(ii)細胞-細胞接着を有意に増強し(
図7)(1)、(iii)創傷治癒のケラチノサイトスクラッチアッセイモデルで創傷閉鎖を遅延させる(
図6);
細胞タンパク質のGlcNAc修飾の増加が糖尿病マウスの皮膚で観察される(
図5);
ヒトケラチノサイト培養物中でのグルコース濃度増大がケラチノサイトタンパク質のGlcNAc修飾増加と関連付けられ、創傷閉鎖を用量依存的に阻害する(
図7);及び
OGT特異的shRNA又はsiRNAでのOGT活性のサイレンシングがケラチノサイトタンパク質のGlcNAc修飾を減少させ、スクラッチモデルアッセイにおいて、高グルコース濃度の存在下でさえ創傷治癒を促進する(
図2、3、7)。
【0087】
本発明者らが以前に報告したとおり(17)、細胞接着促進及び創傷治癒遅延に対するOGT活性増大の効果は、一部、ケラチノサイト細胞接着成分(デスモソーム、接着結合及び細胞骨格エレメントを含む)の調節に起因し得る。
よって、(i)グルコース濃度の増加、OGT活性の増大又はOGA活性の減少による細胞内タンパク質O-グリコシル化の増加による上皮創傷治癒の遅延、及び(ii)タンパク質O-グリコシル化を減少させるOGT特異的shRNA又はsiRNAによる創傷治癒の加速は、慢性糖尿病性皮膚創傷の治癒遅延におけるこの経路の役割を支持する。
【0088】
糖尿病及び高血糖状態におけるケラチノサイト創傷治癒の調節因子としてのOGTの同定並びにOGT活性のダウンレギュレーションによる創傷治癒の促進の証明は、高度に新規で革新的な観察である。インビボでOGT活性をダウンレギュレートする局所アンチセンスOGT ODNの開発は、OGT阻害が慢性糖尿病性創傷の治癒を加速させるという概念を証明する。更に、創傷へのアンチセンスODNの局所送達は、ヒト対象者において、創傷に存在する障壁損傷に起因して標的遺伝子をダウンレギュレートすることが証明される。よって、OGTアンチセンスODNの局所送達は、治癒を促進する高度に新規な、実用的で実行可能なアプローチであり、慢性非治癒性糖尿病性創傷のケアに有意義な進歩をもたらす。治癒時間の短縮により、局所OGTアンチセンスODNは、これら創傷のケアの直接費用及び患者の生産性喪失による間接費用の両方を低減すると予期される。この提案により、糖尿病性皮膚創傷の治癒が、OGT特異的オリゴヌクレオチドの直接送達による皮膚の酵素OGTのノックダウンによって加速されるかどうかが検討される。これは、OGT阻害がインビボで治癒を促進できるという概念の証明により、慢性糖尿病性皮膚創傷の患者でのOGTアンチセンスODNの並進的臨床研究に迅速に繋がる可能性を有する高リスクで、影響力の大きい研究である。
【0089】
アプローチ/方法:
I.糖尿病マウスモデルにおけるOGTノックダウンが創傷治癒速度を加速できるかの決定
糖尿病マウスモデル.初期インビボ研究では、Jackson Laboratories(Bar Harbor, ME)から入手した、充分に特徴付けられ容易に入手可能なストレプトゾチシン(STZ)誘導糖尿病C57BL/6Jマウスに焦点を当てる;非糖尿病C57BL/6JマウスをWTコントロールとして使用する。或いは、確立プロトコルを用いて、ストレプトゾチシン(STZ)の腹腔内注射(50mg STZ/kg体重,1日1回×5日)により、6〜8週齢雄性C57BL/6Jマウスに糖尿病を誘導することができる。注射の10日後、血中グルコースレベルを測定して糖尿病マウス(すなわち、非絶食時血中グルコースレベル>300〜400mg/dl)を同定した。試験し得る更なる糖尿病マウスモデルとしては、食餌誘導肥満モデル(プレ糖尿病性2型糖尿病モデル)及び/又はdb/dbマウス(共にJackson laboratoriesから入手可能)が挙げられる。
【0090】
糖尿病マウスモデルにおける創傷治癒実験.マウスを麻酔し、剃毛し、6mmパンチ生検で皮膚を切除して背側中央に全層創傷(直径6mmの円形,面積113mm
2)を作成する。創傷を作成したマウスは、何も処置しないか(グループ1)、ビヒクル単独を投与するか(グループ2)、又はビヒクル中のOGTアンチセンス-ODN(OGTアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド)で局所的に処置するか(グループ3)又はビヒクル中のコントロール(OGTセンス)ODNで局所的に処置する(グループ4)。4つの全層切除創傷を、糖尿病マウス及びコントロールマウスの剃毛した背中に背側正中線の両側で作成する。1つの創傷には氷上で冷却した30% Pluronic F-127ゲル(SIGMA)中1μMのOGTアンチセンス-ODNを、1つの創傷には1μMのコントロールOGTセンス-ODNを、1つの創傷にはビヒクル単独を適用し、残る創傷には何もしない。OGTノックダウンの程度及びO-GlcNAc修飾に対する効果を調べる実験のため、創傷及び周囲皮膚を8mmパンチ生検で種々の時点で採集する(最低8マウス/時点)。
【0091】
インビボ投与の最適化.最適な濃度及び投与レジメンを特定するため、ビヒクル中のOGTアンチセンスODNの用量応答曲線をWTバックグランドのC57BL/6Jマウスにおいて用いる。ビヒクル中0.01μM〜10μMのODN濃度を最初に用いる。なぜなら、公表された研究により、インビボで、この濃度が試験動物の皮膚でノックダウンに有効であることが示されているからである。30% Pluronic(登録商標) F-127ゲル(SIGMA)が当初のODN送達用ビヒクルである。なぜなら、これは、インビボでのODN局所送達に有効であることが証明されているからである;しかし、更なるビヒクルを調べてもよい。インビボで最適な投与レジメンを決定するために時間経過研究を行う。例えば、単回送達後のOGTノックダウンの持続性を、局所ODN適用の24時間後、48時間後、4日後及び7日後に試験動物の皮膚の生検により評価する。OGTノックダウンのレベル及び細胞内タンパク質O-GlcNAc修飾の効果を、(i)皮膚生検切片の免疫蛍光及び/又は免疫ペルオキシダーゼ染色、及び(ii)OGTに対する抗体及びO-GlcNAcに対する抗体での皮膚抽出物のイムノブロットによりアッセイする。局所ODNの投与レジメンは、ノックダウン効果の半減期に基づく。例えば、ノックダウンが48時間持続する場合、隔日の局所ODN投与レジメンをインビボ創傷治癒研究に利用する。
【0092】
インビボ創傷治癒アッセイ.完全な創傷閉鎖が達成されるまで種々の時点で動物を臨床的に検査する。完全治癒まで非処置マウス、ビヒクルコントロールマウス及びOGTアンチセンス-ODN処置マウスの創傷閉鎖を毎日測定する。個々のマウスの創傷をデジタル撮影して創傷面積を定量し(Sigma-Scan;Sigma-Aldrich)、標準化して初期創傷サイズ(100%)のパーセンテージとして表す(9)。各時点について平均値(n=8〜10動物/群)±SEMをプロットする。コントロール群とOGTアンチセンス-ODN処理群との比較にはスチューデントのt検定を用いる。創傷が完全に治癒したら、UNC-CHのAnimal Care Committeeが承認したプロトコルに従ってマウスを断頭により犠牲にする。皮膚組織サンプルを、抗OGT特異抗体及びO-GlcNAc特異抗体(クローンRL2又はCTD110)をそれぞれ用いる皮膚生検の直接免疫蛍光染色及び免疫ペルオキシダーゼ染色により、OGTレベル及び機能的観点からタンパク質 O-GlcNAc修飾について分析する。OGT及びRL2に対する抗体並びにCTD 110.1 O-GlcNAc特異抗体を利用する組織抽出物のイムノブロットは、OGTアンチセンスODN送達及びOGTの機能的ノックダウンの有効性を調べる更なるアプローチである。
【0093】
II.OGT媒介O-グリコシル化がインビトロ及びインビボで創傷治癒を調節する機序の更なる特徴決定
接着に加え、細胞増殖及び/又は化学走性の調節もまた、高血糖条件又はOGT過剰発現ケラチノサイトで観察される創傷治癒遅延の一因であり得る。本研究は、(1)細胞-細胞接着、(2)細胞増殖、(3)化学走性に対する、ケラチノサイト細胞内タンパク質のGlcNAc修飾増大の効果を更に特徴付けるものである。(i)OGT活性の効果が多面性である可能性が高く、(ii)細胞内O-グリコシル化レベルが細胞増殖、化学走性及び接着を変化させ、(iii)これら効果の組合せが、観察される創傷治癒遅延の一因であると考えられる。
【0094】
理論的根拠:本発明者らが単層スクラッチアッセイを用いて得た予備データは、ケラチノサイトでの細胞内O-グリコシル化の増加が創傷治癒を遅らせ、OGTノックダウンが創傷治癒を加速させることを示す。O-グリコシル化は遍在性の細胞内修飾である。細胞接着及び構造タンパク質の修飾に加え、転写因子及び調節性酵素もまた、セリン及びスレオニン残基へのGlcNAcのOGT触媒性付加により修飾される。接着に加え、細胞増殖及び/又は化学走性のO-GlcNAc媒介性調節もまた、高血糖条件又はOGT過剰発現ケラチノサイトで観察される創傷治癒遅延の一因であり得る。本研究は、(1)細胞-細胞接着、(2)細胞増殖、(3)化学走性に対する、ケラチノサイト細胞内タンパク質のGlcNAc修飾増加の効果を特徴付ける。(i)OGT活性の効果が多面性である可能性が高く、(ii)細胞内O-グリコシル化レベルが細胞増殖、化学走性及び接着を変化させ、(iii)これら効果の組合せが、観察される創傷治癒遅延の一因であると考えられる。
【0095】
インビトロアッセイ.初代ヒトケラチノサイト及び恒久的にトランスフェクトした不死化ケラチノサイト細胞株を用いて、細胞内O-グリコシル化の変化の効果を調べる。O-グリコシル化レベルを、細胞株でのヒトOGTのトランスフェクション、内因性OGT及び内因性OGAのshRNAノックダウン、増大濃度の細胞外グルコースへの細胞の曝露、OGAインヒビターPUGNAcの使用により操作する。これらツールを用いて細胞内O-グリコシル化レベルを操作して、下記で概説するように、(1)細胞増殖、(2)細胞移動、(3)細胞-細胞接着、(4)創傷閉鎖の変化についてアッセイする。
細胞内O-グリコシル化レベルが細胞増殖に影響するかどうかを決定する。細胞増殖のアッセイとして、定量分析を容易にするBrDu取込み実験及び
3H-チミジン代謝物放射性標識実験が挙げられる。ヒトOGTを不死化ケラチノサイトA431扁平細胞ガン腫に一過性にトランスフェクトした予備結果に基づき、OGT活性及び細胞内O-グリコシル化の増加が増殖を低下させる一方、O-グリコシル化の減少は増殖を増大させると予想される。
【0096】
細胞内O-グリコシル化レベルが細胞の化学走性に影響するかどうかを決定する。ケラチノサイトの運動性を刺激することが知られている種々の物質(ウシ胎仔血清、EGF、PDGF及びGPCRアゴニストを含む)に対する化学走性の変化についてアッセイするために改変ボイデンチャンバアッセイを用いる。OGT活性及び細胞内O-グリコシル化の増加が化学走性を低下させると予想される。
細胞内O-グリコシル化レベルが細胞-細胞接着に影響するかどうかを決定する。ディスパーゼアッセイを用いて、細胞-細胞接着を直接測定し、接着結合及びデスモソーム成分に対する抗体を用いるイムノブロット及びIF分析により接合タンパク質成分の効果を分析して、接合タンパク質レベル及び細胞局在に対するOGTの効果を以前に記載されたように決定する(17)。OGT活性及び細胞内O-グリコシル化の増加が細胞-細胞接着を増強すると予想される。
【0097】
創傷治癒モデル(i.スクラッチモデル及びii.器官型モデル)で全3つ効果を同時に試験する。ケラチノサイト単層スクラッチアッセイ及び皮膚等価器官型培養物の両方を用いて、創傷治癒に対する細胞内O-グリコシル化の効果を調べる。恒久的にトランスフェクトしたOGTケラチノサイトを用いて、これらモデル系で細胞内O-グリコシル化の増加を引き起こす。加えて、単層培養物中のケラチノサイト又は皮膚等価物の構築に使用したケラチノサイトにおけるOGT又はO-GlcNAcaseのshRNAノックダウンにより、内因性OGT及びOGA活性の変化を調べることが可能になる。OGT shRNA及びOGA shRNAをそれぞれ用いて、創傷治癒プロセスに対する、細胞内O-グリコシル化の減少及び増加の効果を調べる。(1)細胞-細胞接着、(2)細胞移動、(3)細胞増殖、(4)創傷閉鎖の変化についてアッセイする。本発明者らは、OGT活性及び細胞内O-グリコシル化の増加が創傷治癒を低下させると予想される。
【0098】
インビトロアッセイ:
OGT活性の操作.幾つかのアプローチを用いて、細胞及び組織モデル系内でOGT活性をモジュレートする。本発明者らは、それぞれクローン化マウス及びヒトOGTの過剰発現を引き起こす、恒久的にトランスフェクトされたマウス及びヒトケラチノサイト細胞株を作製している。加えて、本発明者らは、OGT及びOGA mRNA、タンパク質及び活性の内因性レベルを顕著に低減するに有効であることが本発明者らにより示されている、OGT及びOGAに対するshRNA構築物を有している。細胞外グルコース濃度のモジュレーションもまた、細胞内タンパク質GlcNAc修飾を変化させることが示されている(2)。最後に、OGAインヒビター、具体的にはPUGNACを用いて、セリン及びスレオニン残基からのGlcNACの除去を触媒する酵素を阻害することによって細胞内O-グリコシル化を増加させることができる。
【0099】
O-グリコシル化のアッセイ.細胞内タンパク質のOGT媒介性GlcNAc修飾の増加を検出するために幾つかのアッセイを用いる。GlcNAc修飾タンパク質の検出は、(i)市販のGlcNAc特異的モノクローナル抗体RL2(26-29)(Affinity Bioreagents)又はCTD110.6(Covance)を用いるイムノブロット、(ii)
3H-GlcNAC中での細胞培養によるタンパク質基質中への放射性標識の特異的取込み、又は(iii)ガラクトシルトランスフェラーゼ放射性標識による;β1,4-ガラクトトランスフェラーゼは、ドナーUDP-ガラクトース由来のガラクトースの、N-アセチルグルコサミンのOH-4への付加を触媒し、したがってGlcNAc修飾細胞タンパク質中への
3H-ガラクトースの特異的取込みに利用できる(30)。本発明者らは、これらアプローチの各々を用いてプラコグロビンO-グリコシル化を証明している(17)。
【0100】
細胞増殖のアッセイ.細胞を、10μMのチミジンアナログである5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)(新たに複製されるDNA中に優先的に取り込まれる)と3時間インキュベートし、5%スクロース(pH7.0)を含有する4%パラホルムアルデヒド中で20分間室温にて固定する。BrdUを取り込んだ核を抗-BrdU抗体で検出し、Zeiss蛍光顕微鏡を用いて計数する。一点につき少なくとも500細胞をスコア決定する(ランダムに選択した少なくとも5つの異なる視野を含む)。或いは、増殖中のケラチノサイトを
3H-チミジンで標識する;各実験条件について規定数の細胞に取り込まれた
3Hシグナルレベルが、細胞増殖の直接の定量的尺度を提供する。増殖速度を測定する他のアプローチとして、クリスタルバイオレット又はMTTでの染色及び陽性染色細胞数の計数が挙げられる。
【0101】
細胞-細胞接着のアッセイは、記載されているようなディスパーゼに基づく解離アッセイによる(17,31,32)。簡潔には、12又は24ウェル組織培養プレートで3連でコンフルーエントまで増殖させた細胞を、PBSで2回洗浄し、0.25又は0.05mlのディスパーゼII(2.4U/ml;Roche Diagnostics GmbH)中で37℃にて1時間インキュベートし、ClayAdams転頭器で前後に10回揺り動かし、フラグメント数を計数する。
【0102】
化学走性のアッセイ.ポリカーボネートフィルター(25×80mm,12μm孔サイズ)を用いる改変ボイデンチャンバで化学走性を測定する。化学誘引物質を下部チャンバに加え、細胞を5×10
4細胞/ウェルで上部チャンバに加える。指定した時点(0〜12時間)で、上部膜表面に存在する非移動性細胞を機械的に除去し、フィルターを横断して下面に至った細胞を固定し、Diff-Quik(Fisher Scientific, Pittsburgh, PA)で染色する。移動した細胞を顕微鏡にて10倍の対物レンズで計数する。各データ点について、ランダムに選択した4つの視野を各々2回計数し、3つの個々のウェルの平均±標準偏差(SD)を決定する。化学走性に対するOGT媒介性細胞内O-グリコシル化の効果は、全体的でもあり得るし、経路特異的でもあり得る。これら可能性を区別するため、アッセイを種々の化学遊走物質(増殖因子、例えばEGF及びPDGF、血清並びにGPCRアゴニスト)について行う。
【0103】
インビボアッセイ:
細胞接着の変化に加えて、OGTは増殖に影響し得る。Ki67(核増殖抗原;33)についての皮膚生検の免疫組織化学的染色によって、ケラチノサイト増殖をインビボでアッセイして、創傷形成後のインビボでのケラチノサイト増殖に対するOGTノックダウンの効果を測定する。
創傷治癒の間、炎症性浸潤(好中球による早期浸潤及びその後のマクロファージによる浸潤を含む)に進行性の変化が存在する。炎症変化は早期創傷治癒を損なうと考えられるので、インビボでの創傷炎症に対するOGTノックダウンの効果を決定するため、OGTアンチセンスODNの効果のための組織サンプルを、炎症性浸潤に対する効果についても更に分析する。
【0104】
創傷形成後のd1及びd3で創傷の皮膚生検によって好中球及びマクロファージの浸潤を評価する。切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色し、高倍率視野あたりの細胞の計数により好中球を定量する。加えて、創傷中へ浸潤した好中球を定量する更なる手段としてミエロペルオキシダーゼの染色も用いる。マクロファージは皮膚生検サンプルの染色により定量する。
【0105】
参考文献
1. Sen, C. K., Gordillo, G. M., Roy, S., Kirsner, R., Lambert, L., Hunt, T. K., Gottrup, F., Gurtner, G. C., and Longaker, M. T. (2009) Human skin wounds: a major and snowballing threat to public health and the economy. Wound Repair Regen 17, 763-771
2. Hart, G. W., Housley, M. P., and Slawson, C. (2007) Cycling of O-linked beta-N-acetylglucosamine on nucleocytoplasmic proteins. Nature 446, 1017-1022
3. Konrad, R. J., Janowski, K. M., and Kudlow, J. E. (2000) Glucose and streptozotocin stimulate p135 O-glycosylation in pancreatic islets. Biochem Biophys Res Commun 267, 26-32
4. Liu, K., Paterson, A. J., Chin, E., and Kudlow, J. E. (2000) Glucose stimulates protein modification by O-linked GlcNAc in pancreatic beta cells: linkage of O-linked GlcNAc to beta cell death. Proc Natl Acad Sci U S A 97, 2820-2825
5. Dentin, R., Hedrick, S., Xie, J., Yates, J., 3rd, and Montminy, M. (2008) Hepatic glucose sensing via the CREB coactivator CRTC2. Science 319, 1402-1405
6. Konrad, R. J., Tolar, J. F., Hale, J. E., Knierman, M. D., Becker, G. W., and Kudlow, J. E. (2001) Purification of the O-glycosylated protein p135 and identification as O-GlcNAc transferase. Biochem Biophys Res Commun 288, 1136-1140
7. Konrad, R. J., Mikolaenko, I., Tolar, J. F., Liu, K., and Kudlow, J. E. (2001) The potential mechanism of the diabetogenic action of streptozotocin: inhibition of pancreatic beta-cell O-GlcNAc-selective N-acetyl-beta-D-glucosaminidase. Biochem J 356, 31-41
8. McClain, D. A., Lubas, W. A., Cooksey, R. C., Hazel, M., Parker, G. J., Love, D. C., and Hanover, J. A. (2002) Altered glycan-dependent signaling induces insulin resistance and hyperleptinemia. Proc Natl Acad Sci U S A 99, 10695-10699
9. Park, K., Saudek, C. D., and Hart, G. W. (2010) Increased expression of beta-N-acetylglucosaminidase in erythrocytes from individuals with pre-diabetes and diabetes. Diabetes 59, 1845-1850
10. Lehman, D. M., Fu, D. J., Freeman, A. B., Hunt, K. J., Leach, R. J., Johnson-Pais, T., Hamlington, J., Dyer, T. D., Arya, R., Abboud, H., Goring, H. H., Duggirala, R., Blangero, J., Konrad, R. J., and Stern, M. P. (2005) A single nucleotide polymorphism in MGEA5 encoding O-GlcNAc-selective N-acetyl-beta-D glucosaminidase is associated with type 2 diabetes in Mexican Americans. Diabetes 54, 1214-1221
11. Gurtner, G. C., Werner, S., Barrandon, Y., and Longaker, M. T. (2008) Wound repair and regeneration. Nature 453, 314-321
12. Hu, P., Berkowitz, P., Madden, V. J., and Rubenstein, D. S. (2006) Stabilization of plakoglobin and enhanced keratinocyte cell-cell adhesion by intracellular O-glycosylation. J Biol Chem 281, 12786-12791
13. Clark, R. J., McDonough, P. M., Swanson, E., Trost, S. U., Suzuki, M., Fukuda, M., and Dillmann, W. H. (2003) Diabetes and the accompanying hyperglycemia impairs cardiomyocyte calcium cycling through increased nuclear O-GlcNAcylation. J Biol Chem
14. Geback, T., Schulz, M. M., Koumoutsakos, P., and Detmar, M. (2009) TScratch: a novel and simple software tool for automated analysis of monolayer wound healing assays. Biotechniques 46, 265-274
15. Jensen, R. V., Zachara, N. E., Nielsen, P. H., Kimose, H. H., Kristiansen, S. B., and Botker, H. E. (2013) Impact of O-GlcNAc on cardioprotection by remote ischaemic preconditioning in non-diabetic and diabetic patients. Cardiovasc Res 97, 369-378
16. Wang, C. M., Lincoln, J., Cook, J. E., and Becker, D. L. (2007) Abnormal connexin expression underlies delayed wound healing in diabetic skin. Diabetes 56, 2809-2817
17. Hu, P., Berkowitz, P., Madden, V. J., and Rubenstein, D. S. (2006) Stabilization of plakoglobin and enhanced keratinocyte cell-cell adhesion by intracellular O-glycosylation. J Biol Chem 281, 12786-12791
18. Konrad, R. J., Janowski, K. M., and Kudlow, J. E. (2000) Glucose and streptozotocin stimulate p135 O-glycosylation in pancreatic islets. Biochem Biophys Res Commun 267, 26-32
19. Liu, K., Paterson, A. J., Chin, E., and Kudlow, J. E. (2000) Glucose stimulates protein modification by O-linked GlcNAc in pancreatic beta cells: linkage of O-linked GlcNAc to beta cell death. Proc Natl Acad Sci U S A 97, 2820-2825
20. Dentin, R., Hedrick, S., Xie, J., Yates, J., 3rd, and Montminy, M. (2008) Hepatic glucose sensing via the CREB coactivator CRTC2. Science 319, 1402-1405
21. Konrad, R. J., Tolar, J. F., Hale, J. E., Knierman, M. D., Becker, G. W., and Kudlow, J. E. (2001) Purification of the O-glycosylated protein p135 and identification as O-GlcNAc transferase. Biochemical & Biophysical Research Communications. 288, 1136-1140
22. Konrad, R. J., Mikolaenko, I., Tolar, J. F., Liu, K., and Kudlow, J. E. (2001) The potential mechanism of the diabetogenic action of streptozotocin: inhibition of pancreatic beta-cell O-GlcNAc-selective N-acetyl-beta-D-glucosaminidase. Biochem J 356, 31-41
23. McClain, D. A., Lubas, W. A., Cooksey, R. C., Hazel, M., Parker, G. J., Love, D. C., and Hanover, J. A. (2002) Altered glycan-dependent signaling induces insulin resistance and hyperleptinemia. Proc Natl Acad Sci U S A 99, 10695-10699
24. Lehman, D. M., Fu, D. J., Freeman, A. B., Hunt, K. J., Leach, R. J., Johnson-Pais, T., Hamlington, J., Dyer, T. D., Arya, R., Abboud, H., Goring, H. H., Duggirala, R., Blangero, J., Konrad, R. J., and Stern, M. P. (2005) A single nucleotide polymorphism in MGEA5 encoding O-GlcNAc-selective N-acetyl-beta-D glucosaminidase is associated with type 2 diabetes in Mexican Americans. Diabetes 54, 1214-1221
25. Kung, H. N., Yang, M. J., Chang, C. F., Chau, Y. P., and Lu, K. S. (2008) In vitro and in vivo wound healing-promoting activities of beta-lapachone. Am J Physiol Cell Physiol 295, C931-943
26. Snow, C. M., Senior, A., and Gerace, L. (1987) Monoclonal antibodies identify a group of nuclear pore complex glycoproteins. Journal of Cell Biology 104, 1143-1156
27. Starr, C. M., and Hanover, J. A. (1990) Glycosylation of nuclear pore protein p62. Reticulocyte lysate catalyzes O-linked N-acetylglucosamine addition in vitro. Journal of Biological Chemistry 265, 6868-6873
28. Holt, G. D., Snow, C. M., Senior, A., Haltiwanger, R. S., Gerace, L., and Hart, G. W. (1987) Nuclear pore complex glycoproteins contain cytoplasmically disposed O-linked N-acetylglucosamine. Journal of Cell Biology 104, 1157-1164
29. Sayeski, P. P., and Kudlow, J. E. (1996) Glucose metabolism to glucosamine is necessary for glucose stimulation of transforming growth factor-alpha gene transcription. Journal of Biological Chemistry 271, 15237-15243
30. Roquemore, E. P., Chou, T. Y., and Hart, G. W. (1994) Detection of O-linked N-acetylglucosamine (O-GlcNAc) on cytoplasmic and nuclear proteins. Methods in Enzymology 230, 443-460
31. Huen, A. C., Park, J. K., Godsel, L. M., Chen, X., Bannon, L. J., Amargo, E. V., Hudson, T. Y., Mongiu, A. K., Leigh, I. M., Kelsell, D. P., Gumbiner, B. M., and Green, K. J. (2002) Intermediate filament-membrane attachments function synergistically with actin-dependent contacts to regulate intercellular adhesive strength. J Cell Biol 159, 1005-1017
32. Ishii, K., Harada, R., Matsuo, I., Shirakata, Y., Hashimoto, K., and Amagai, M. (2005) In vitro keratinocyte dissociation assay for evaluation of the pathogenicity of anti-desmoglein 3 IgG autoantibodies in pemphigus vulgaris. J Invest Dermatol 124, 939-946
33. Usui, M. L., Mansbridge, J. N., Carter, W. G., Fujita, M., and Olerud, J. E. (2008) Keratinocyte migration, proliferation, and differentiation in chronic ulcers from patients with diabetes and normal wounds. J Histochem Cytochem 56, 687-696
【0106】
本明細書で言及した全ての刊行物、特許及び特許出願は、各個の刊行物、特許又は特許出願が個別具体的に引用により組み込まれると示されている場合と同程度に、引用により本明細書中に組み込まれる。
本明細書に開示された主題の種々の詳細は、本明細書に開示された主題の範囲を逸脱することなく、変更することが可能であると理解される。更に、上記の説明は、単なる例証の目的に過ぎず、限定のためのものではない。
【0107】
配列表フリーテキスト
配列番号1はOGTセンスDNA/ヌクレオチド配列(コード領域:3141 nt)である。
配列番号2はOGTポリペプチド配列(1046 aa)である。
配列番号3はOGT逆平行配列/OGTアンチセンスDNA配列である。
配列番号4〜11はOGTアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドであり、配列番号4、5及び6はコード領域であり、配列番号7及び8は3'UTR領域を特定し、配列番号9、10及び11はイントロンを特定する。
配列番号12〜168は、OGTアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(コード領域)を特定する。
配列番号169〜171はOGT siRNAである。
配列番号172はOGT shRNAである。
配列番号173はOGTセンスDNA/ヌクレオチド配列(調節領域、イントロン及びコード配列を含む完全配列)である(49836 nt)。