特表2016-515090(P2016-515090A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2016-515090剥離された無欠陥、未酸化の2次元材料を大量に製造するためのスケーラブルなプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-515090(P2016-515090A)
(43)【公表日】2016年5月26日
(54)【発明の名称】剥離された無欠陥、未酸化の2次元材料を大量に製造するためのスケーラブルなプロセス
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20160422BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20160422BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20160422BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
   C08L101/00ZBP
   C08L21/00ZNM
   C08K3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2015-562238(P2015-562238)
(86)(22)【出願日】2014年3月14日
(85)【翻訳文提出日】2015年10月22日
(86)【国際出願番号】EP2014055183
(87)【国際公開番号】WO2014140324
(87)【国際公開日】20140918
(31)【優先権主張番号】61/786,068
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】1304770.9
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】GB
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】514073617
【氏名又は名称】ザ プロボースト,フェローズ,ファンデーション スカラーズ,アンド ジ アザー メンバーズ オブ ボード,オブ ザ カレッジ オブ ザ ホーリー アンド アンディバイデッド トリニティ オブ クイーン エリザベス ニア ダブリン
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】コールマン, ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】パトン, キース
【テーマコード(参考)】
4G146
4J002
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC01B
4G146AC16B
4G146AD03
4G146AD23
4G146AD24
4G146AD26
4G146AD28
4G146AD37
4G146CB07
4G146CB10
4G146CB15
4G146CB19
4G146CB21
4G146CB35
4G146DA07
4J002AA001
4J002AA011
4J002AA021
4J002AB021
4J002AC021
4J002AC031
4J002AC081
4J002BB031
4J002BB121
4J002BB151
4J002BC021
4J002BC051
4J002BD041
4J002BD101
4J002BD151
4J002BE041
4J002BF021
4J002BG061
4J002CG001
4J002DA026
4J002GH00
4J002GQ00
(57)【要約】
2次元材料を製造するために、未処理3次元材料を剥離するプロセスであって、未処理3次元材料を液体に混合して、混合物を得る工程;該混合物に剪断力を付与して、3次元材料を剥離し、溶液中に分散剥離2次元材料を製造する工程;および該分散剥離2次元材料が溶液中で遊離かつ非凝集状態を維持するように、該混合物に付与した該剪断力を除去する工程を含むプロセス。一実施形態において、2次元材料を製造するために、未処理3次元層状材料を剥離するプロセスが提供され、前記プロセスは未処理3次元層状材料を液体に混合して、混合物を得る工程;および該混合物に剪断力を付与して、3次元層状材料を剥離し、溶液中で遊離かつ非凝集状態の剥離分散2次元材料を製造する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元材料を製造するために、未処理3次元層状材料を剥離するプロセスであって、該プロセスは、
該未処理3次元層状材料を液体に混合して、混合物を得る工程;
該混合物に剪断力を付与して、3次元層状材料を剥離し、溶液中に分散剥離2次元材料を製造する工程;および
分散剥離2次元材料が溶液中で遊離かつ非凝集状態を維持するように、該混合物に付与した該剪断力を除去する工程を含む、プロセス。
【請求項2】
請求項1に記載のプロセスであって、2次元材料のフレークおよび非剥離3次元層状材料が、低速遠心分離、重力沈殿、濾過または流れ分離によって前記溶液から除去される、プロセス。
【請求項3】
請求項1および2に記載のプロセスであって、前記剪断力が1000s−1より高い剪断速度を生じる、プロセス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプロセスであって、前記2次元材料が実質的に非酸化である、プロセス。
【請求項5】
前記請求項のいずれか一項に記載のプロセスであって、前記混合物から薄膜層を形成することを可能にする工程をさらに含む、プロセス。
【請求項6】
請求項5に記載のプロセスであって、前記薄膜層を形成する工程が、真空濾過または加速蒸発によって形成される、プロセス。
【請求項7】
前記請求項のいずれか一項に記載のプロセスであって、前記層状材料がグラファイト、または式MXを有する任意の遷移金属二カルコゲン化物のような任意の3次元層状化合物または遷移金属酸化物、窒化ホウ素(BN)、BiTe、SbTe、TiNCl、または任意の他の無機層状化合物のような任意の他の層状材料から選択される、プロセス。
【請求項8】
請求項7に記載のプロセスであって、前記3次元層状材料がグラファイトであるプロセス。
【請求項9】
請求項7に記載のプロセスであって、前記3次元遷移金属二カルコゲン化物が、式MX[式中、1≦n≦3]を有する、プロセス。
【請求項10】
請求項9に記載のプロセスであって、Mが、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mn、Mo、W、Tc、Re、Ni、Pd、Pt、FeおよびRuを含む群から選択され;Xが、O、S、SeおよびTeを含む群から選択されるプロセス。
【請求項11】
前記請求項のいずれか一項に記載のプロセスであって、前記液体が、好適な溶媒、水−界面活性剤溶液、または好適な溶媒中のポリマーの溶液であってよいプロセス。
【請求項12】
請求項11に記載のプロセスであって、前記液体が増粘剤またはゲル化剤を含有していないプロセス。
【請求項13】
請求項11または12に記載のプロセスであって、前記水−界面活性剤溶液が、水およびコール酸ナトリウム(NaC)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、ドデシル硫酸リチウム(LDS)、デオキシコレート(DOC)、タウロデオキシコレート(TDOC)、ポリオキシエチレン(40)ノニルフェニルエーテル、分岐(IGEPAL CO−890(登録商標)(IGP))、ポリエチレングリコールp−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェニルエーテル(Triton−X 100(登録商標)(TX−100))を含む群から選択される界面活性剤の溶液を含むプロセス。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか一項に記載のプロセスであって、前記水−界面活性剤溶液中の界面活性剤と、プロセスに使用される前記3次元材料との濃度比が、1:400〜1:50であるプロセス。
【請求項15】
請求項11または12に記載のプロセスであって、好適な溶媒が、n−メチルピロリドン(NMP)、シクロヘキシルピロリドン、ジメチルホルムアミド、シクロペンタノン(CPO)、シクロヘキサノン、N−ホルミルピペリジン(NFP)、ビニルピロリドン(NVP)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMEU)、ブロモベンゼン、ベンゾニトリル、N−メチル−ピロリドン(NMP)、ベンジルベンゾエート、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(DMPU)、ガンマ−ブチラクトン(GBL)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−エチル−ピロリドン(NEP)、ジメチルアセトアミド(DMA)、シクロヘキシルピロリドン(CHP)、DMSO、ジベンジルエーテル、クロロホルム、イソプロピルアルコール(IPA)、クロロベンゼン、1−オクチル−2−ピロリドン(N8P)、1−3ジオキソラン、エチルアセテート、キノリン、ベンズアルデヒド、エタノールアミン、ジエチルフタレート、N−ドデシル−2−ピロリドン(N12P)、ピリジン、ジメチルフタレート、ホルムアミド、ビニルアセテート、アセトンを含む群から選択される、プロセス。
【請求項16】
請求項11および12に記載のプロセスであって、前記ポリマー−溶媒溶液が、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリブタジエン(PBD)、ポリ(スチレン−コ−ブタジエン)(PBS)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルクロリド(PVC)、ポリビニルアセテート(PVAc)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニリデンクロリド(PVDC)、およびセルロースアセテート(CA)を含む群から選択されるポリマーの溶液を含む、プロセス。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のプロセスであって、前記剥離2次元材料が、クロスフロー濾過またはタンジェンシャル濾過を使用して濃縮され洗浄されるプロセス。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載のプロセスであって、前記剥離2次元材料をマトリックスに挿入して複合物を形成する工程をさらに含むプロセス。
【請求項19】
請求項18に記載のプロセスであって、前記マトリックスが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマーまたはバイオポリマーを含む群から選択されるポリマーまたはコポリマーであるプロセス。
【請求項20】
2次元実質的非酸化グラフェンを製造するために、未処理3次元グラファイトを剥離するプロセスであって、該プロセスが、
該未処理グラファイトを液体に混合して、混合物を得る工程;
該混合物に剪断力を付与して、グラファイトを剥離し、溶液中に分散剥離グラフェンを製造する工程;および
該分散剥離グラフェンが溶液中で遊離かつ非凝集状態を維持するように、該混合物に付与した該剪断力を除去する工程を含む、プロセス。
【請求項21】
請求項20に記載のプロセスであって、前記グラフェンをマトリックスに挿入して複合物を形成する工程をさらに含む、プロセス。
【請求項22】
請求項21に記載のプロセスであって、前記マトリックスが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマーまたはバイオポリマーを含む群から選択されるポリマーまたはコポリマーであるプロセス。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか一項に記載のプロセスによって製造された剥離2次元材料と、任意の他のナノ材料との混合物を含むデバイス。
【請求項24】
請求項23に記載のデバイスであって、前記剥離材料がグラフェンであるデバイス。
【請求項25】
請求項23または24に記載のデバイスであって、前記ナノ材料が、グラフェン、無機層状化合物、1次元ナノ材料およびナノ粒子を含む群から選択されるデバイス。
【請求項26】
請求項24〜25のいずれか一項に記載のデバイスであって、電極、透明電極、キャパシタ、トランジスタ、太陽電池、発光ダイオード、バッテリ、バッテリ電極、キャパシタ、スーパーキャパシタ、センサ、ナノトランジスタ、ナノキャパシタ、ナノ発光ダイオード、およびナノ太陽電池を含む群から選択される、デバイス。
【請求項27】
請求項1〜22のいずれか一項に記載のプロセスによって製造される剥離グラフェンを含有する色素増感太陽電池電極。
【請求項28】
2次元材料を製造するために、未処理3次元層状材料を剥離するプロセスであって、該プロセスが、
該未処理3次元層状材料を液体に混合して、混合物を得る工程;および
該混合物に剪断力を付与して、該3次元層状材料を剥離し、溶液中で遊離かつ非凝集状態の剥離分散2次元材料を製造する工程を含む、プロセス。
【請求項29】
請求項1〜22のいずれか一項に記載のプロセスによって製造される2次元材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、原子的に薄い2次元材料、例えばグラフェンを製造するプロセスに関する。本発明は、特に、高品質、無欠陥、未酸化の2次元材料、例えばグラフェンを、工業量で製造するシンプルかつスケーラブルなプロセスに関する。そのような材料は、複合物、塗料および電子デバイスにおける用途を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
種々の2次元(2D)原子結晶が、自然界に存在する。最も単純かつ最も研究されているのはグラフェン(原子スケールの、炭素原子の2Dハニカム格子)であり、それに続くのが窒化ホウ素(BN)である。しかし、下記を包含するさらに何百もが存在する:遷移金属二カルコゲン化物(TMD)、例えば、二硫化モリブデン(MoS)、二セレン化ニオビウム(NbSe)、テルル化バナジウム(VTe)、遷移(transmission)金属酸化物、例えば、二酸化マンガン(MnO)、および他の層状化合物、例えば、テルル化アンチモン(SbTe)、テルル化ビスマス(BiTe)。正確な原子配置に依存して、これらの結晶は、金属、絶縁体または半導体であることができる。
【0003】
層状材料は多くの種類があり、1つのファミリーは、式MXを有する(式中、M=Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mn、Mo、W、Tc、Re、Ni、Pd、Pt、Fe、Ru;X=O、S、Se、Te;および1≦n≦3である)。一般的なグループは遷移金属二カルコゲン化物(TMD)であり、これは、カルコゲン原子の2つの層の間に挟まれた金属原子の六角形の層から成る。これらの三層シート内の結合は共有結合性であるが、TMD結晶内の隣接シートはファン・デル・ワース相互作用によって弱く結合している。金属原子の配位状態および酸化状態に依存して、TMDは金属性または半導体性であることができる。例えば、二硫化タングステン(WS)は半導体であるが、二硫化タンタル(TaS)およびテルル化プラチナ(PtTe)は金属である。この多様性は、電子工学の多くの分野でそれらを潜在的に有用にしている。
【0004】
過去10年間にわたって、グラフェンは、その様々な有用特性により全てのナノ材料の中で最も研究されている。グラフェンシートは、平面六角形配置に組織されたsp結合炭素原子の、原子的に薄い配列から成り、2004年にガイムおよびノボセロフ(Novosolov)によって最初に作製され、開発された。しかし、彼らは、グラファイトのマイクロメカニカル開裂によってグラフェンの個別シートを作製できたにすぎない
【0005】
グラフェンの新規電子的特性は、文書で充分裏づけされている。さらに、グラフェンは、様々な用途に理想的である。例えば、グラフェンは世に知られている最強の材料であり、大面積透明導電体に加工されており、複合物、塗料および電子デバイスの分野で極めて有望である。これらの極めて興味深い特性により、多くの新しいグラフェン製造法が開発されており、例えば、SiC基板のアニーリング、または金属支持体上での成長による製造法である。
【0006】
これらのグラフェン製造法は、現在までのところ極めて成功している。しかし、グラフェンの将来の多くの工業用途は、極めて大量のグラフェン生産を必要とする大面積塗料または複合充填剤のような部門である可能性が高い。スケーラブルでありかつ無欠陥グラフェンを大量に製造する方法が現在存在しない。このために、液相製造法が必要とされる可能性がある
【0007】
過去数年にわたって、グラフェン(および、より最近では他の2D材料)を妥当な量で製造する多くの方法が示されている。2つの主な方法は、化学蒸着(CVD)および液体剥離である。CVDは、主に電子用途のために、グラフェンまたは他の2D材料、例えばMoSの単層を表面で成長させるために使用することができる方法である。付着される一般的な量は、約10−7kg/mである。しかし、多くの用途、例えば、複合物における充填剤としてのグラフェンの使用は、はるかに多い量を必要とし、年間何トンもの量を必要とする可能性がある。さらに、CVDグラフェンの形態(表面上の単層)は、複合物または多孔質電極のような用途に適していない。液体剥離は、多用途形態(ミクロンサイズのフレーク)のグラフェンを大量に製造する唯一の方法であることが広く認められている。
【0008】
上記のように、グラファイトは、層状結晶の大ファミリーの一メンバーにすぎない。そのような結晶の基本ビルディングブロックは、材料の原子的に薄いシート、即ちグラファイトの場合はグラフェンである。これらの「ナノシート」は、積み重なり、ファン・デル・ワールス力によって結合している。原子間または分子間において、これらの力は比較的弱い。しかし、これらの力は、ナノシートの領域にわたって統合した場合に、極めて大きくなることができる。これは、ナノシートをそれらの親結晶から分離する(または剥離する)ことを難しくする。これを行う最も有望な方法は、液体環境で操作すること(液体剥離)に向かっている。
【0009】
グラフェンを剥離する最も一般的な方法は、グラファイトを酸化して、酸化グラファイトを形成することである。この場合、酸素含有基がグラフェンに共有結合している。これは結晶を膨張させ、層間の結合エネルギーを弱くする。それは、さらに、水が層間にインターカレートすることを可能にし、それがさらに結合を弱め、最終的に剥離を可能にする10。オキシド基は、還元によるか、または化学的もしくは熱的に除去することができる11。課題は、この方法によって作製されたグラフェンが極めて欠陥性であることである。それは常にナノシート中に欠損原子または穴をも含有し、これはグラフェンとみなすことができず単にグラフェン状としかみなせない程度にグラフェンの機械的特性および電気的特性をひどく損なう。従って、無欠陥グラフェンを製造するシンプルかつスケーラブルな方法を開発するために、酸化を使用することはできない。
【0010】
他の方法は、イオンのような化学種の結晶層間へのインターカレーションに基づき、グラファイト12およびMoS13を包含する層状材料を剥離するために広く付与されている。多くの場合イオン種の、インターカレーションは、層間隔を増加させ、層間接着を弱め、剥離に対するエネルギーバリアを減少させる。n−ブチルリチウム13またはIBr12のようなインターカラントは、電荷を層に移動させることができ、それによって層間結合のさらなる減少を生じる。後続処理、例えば、液体中での熱衝撃12または超音波処理13が、剥離プロセスを完了させる。剥離されたナノシートは、表面電荷13bによるかまたは界面活性剤添加12によって、静電気的に安定化させることができる。MoSの場合、この方法は、高度剥離ナノシートを生じる傾向があるが、周囲条件に対するそれの感受性に関連した欠点を有する13a。この場合の実際の不利点は、このプロセスが多段階を含むことである(インターカレーション、それに続く剥離)。重要なことに、インターカレーション段階は、遅く、周囲条件に感受性であり、かつスケーラブルでない。従って、インターカレーションは、無欠陥グラフェン(または他の2D材料)を製造するシンプルかつスケーラブルな方法を開発するために使用することができない。
【0011】
他の方法が発明者の一人によって開発された。それは、層状結晶、例えばグラファイト14またはMoSの、好適な溶媒15または界面活性剤水溶液16における超音波処理を含む。この場合、少量の液体(約100mL)中に分散している高レベルの超音波電力(約300W)が、非常に高い電力密度(約3000W/L)を生じる。分散したエネルギーは、結晶を個別ナノシートに分解する作用をする。しかし、このプロセスは、ナノシートが再凝集に対して安定化されていなければ、実際の剥離を生じることができない。これは、剥離ナノシートを、それらの表面との相互作用によって安定化する特定の溶媒を選択することによって14−15、または水−界面活性剤混合物もしくは水−ポリマー混合物中での音波処理によって、達成できる。界面活性剤分子(または、ある場合にはイオン)またはポリマー鎖が、ナノシート表面に固着して、ナノシートを再凝集に対して安定化する。この方法は、無欠陥グラフェンを1段階で製造することが既知であるので、かなり有利である。この方法の課題は、超音波剥離に必要とされる高エネルギー密度である。一般的な超音波処理装置を使用した場合、高電力密度が、少ない液体容量において達成できるにすぎない。これは、プロセスをスケールアップする唯一の方法が、使用される処理装置の数を増やすことであることを意味する。従って、コストが、製造されるグラフェン(または他の2Dナノシート)の量に比例して変化する。即ち、この方法は、いかなる規模の経済性も達成できず、従って、無欠陥グラフェンを製造するシンプルかつスケーラブルな方法の候補ではない。
【0012】
国際公開第WO2011/014347A1号パンフレットは、剪断混合の使用を記載しているが、インターカレーションまたはグラファイトオキシド経路を含む代替的アプローチを概説する際に記載しているにすぎない。中国特許出願第CN101671015A号は、ボールミリングの使用、それに続く音波処理段階を含むプロセスを記載している。同様に、中国特許出願第CN102583350A号は、混合物を音波処理段階に供給するために使用される「ギアグループ」において、グラファイト−液体混合物を処理することを記載している。さらに、UK特許出願第GB2483288A号は、バルク結晶から層状材料を剥離するプロセスを記載している。記載されているプロセスは、水−界面活性剤溶液中での剥離のためだけに音波処理を使用している。
【0013】
使用されている他の剥離法は、イオンインターカレーション、それに続く剪断混合である。この方法において、イオンは、層状結晶の層の間にインターカレーションされる。上記のように、インターカレーションは層間隔を増加させ、層間接着を弱め、剥離に対するエネルギーバリアを減少させる。これは、非常に重要な段階である。層を結合させている力をこのように弱めることは、剥離を促進するのに重要であると一般に考えられている。一旦これが達成されると、膨張した層状微結晶、例えばバーミキュライト17、TaS18、グラファイト(US5186919、US8132746)は、剪断混合と呼ばれるプロセスによって剥離することができる。このプロセスにおいて、インペラまたはロータ/スタータの組合せが、層状結晶を含有する液体中で高速で回転する。これによって、層状結晶を剥離する作用をし得る乱流を生じる。この技術の主な利点は、工業レベル(混合される成分に依存する)に潜在的にスケーラブルであることが既知のインペラまたはロータ/スタータを使用して混合することである。しかし、重大な欠点を有する。層間の結合を弱めるためにイオンインターカレーションを行う必要があるということは、該プロセスがシンプルでなく(一段階でない)、スケーラブルでもないことを意味する(インターカレーションプロセスは遅く、周囲条件に感受性であり、容易にまたは安価にスケーラブルでない)。さらに、残留イオンの存在がグラフェンの特性を低下させる場合があり、従って、事実上、夾雑物として作用する。この前処理は、時間を要し、高コストであり、特定の反応条件を必要とし、工業的スケールアップの可能性を制限し得る。
【0014】
インターカレーション段階が必要かどうかは検討の価値がある。標準ベンチトップ高剪断ミキサ(例えば、Silverson L5M)に関して、最大電力出力は約250Wである。これらは、一般に、約リットルサイズの量を混合するのに使用される(少量では混合が不充分である)。これは、分散電力密度が<250W/Lであることを意味する。これは、超音波処理に関して先に記載した数値の約10分の1である。従って、層状結晶におけるナノシートをつなぐ結合がインターカレーションのようなプロセスによって弱められていなければ、剪断混合は、該結合を壊すのに充分に強力ではないと一般に考えられている。従って、イオンインターカレーションに関連した制限により、剪断混合と組み合わせたイオンインターカレーションは、無欠陥のグラフェンまたは他のナノシートを製造するシンプルかつスケーラブルな方法の候補ではない。
【0015】
グラフェンを作製するために剪断混合を使用するグラファイト剥離を記載している論文がある17。Alhassanおよび共同研究者らは、水およびラポナイト(迅速ゲル化速度を有する添加剤)中でグラフェンを剥離するために、乱流を有する撹拌インプラ型ミキサを使用した。彼らは、ラポナイトの不存在において水または水と界面活性剤との溶液を使用した場合、グラフェンが急速に凝集し沈殿することを示した。筆者らは、グラフェン剥離の証拠を示しているが、安定化溶媒または界面活性剤の不存在において、グラファイト状材料の凝集および沈殿が生じることを記載している。従って、この論文の主旨は、液体中でのグラファイトの剪断混合によってグラフェンを作製できないということである。実際に、凝集を防止できた唯一の方法は、ラポナイトクレーの添加であり(これらは水中で剥離し得る平面ナノ粒子である)、それは水に添加した場合に固体ゲルとして硬化する。ラポナイトの不存在下に剥離グラフェンが観察されていない。混合は、常に、ラポナイトの存在下に行われた。
【0016】
ラポナイトは、帯電2次元ナノシートから成るクレーである。電荷は、層間に存在する可動性対イオンによって相殺される。イオン剥離と同様に、これらの対イオンは、剪断ミキサを使用してラポナイトが水中で容易に剥離されるはずであることを意味する。剥離の際に、特にこの操作に使用される高クレー濃度において、可動性対イオンが液体中に分散される。これは、グラフェン層間にインターカレートするのに使用できる多くのイオン化学種が存在することを意味し、それによって層間相互作用を弱めて剥離を促進する。このように、ラポナイトの存在がグラファイト剥離を可能にするのに必要である可能性がある。剥離グラフェンは、固体ポリマーに組み込むことによって、またはゲル化クレー材料を添加することによって、凝集に対して動態学的に安定化される(それぞれUS7906053および(14)を参照)。
【0017】
この場合の課題は、一旦グラフェンがクレーと混合されると、後に回収できないことである。従って、この方法は、グラフェンを生じるが、グラフェン製造法として使用できず、クレーの不存在においてグラフェンを生じることができない可能性が高い。このように、クレー添加は、剥離グラフェンの処理および収集を妨げる。
本発明の目的は、上記の課題の少なくとも1つを解決することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2011/014347号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明の概要
液体中で層状結晶を剥離する多くの方法が示されており、大部分の研究はグラフェンに集中している。しかし、記載されているどの方法も、無欠陥グラフェンおよび他の2次元ナノ材料を製造するための工業的にスケーラブルな一段階法として適格とするのに必要な全ての特性を有しているわけではない。
【0020】
本発明により、添付の特許請求の範囲に提示されているように、2次元材料を製造するために、未処理3次元層状材料を剥離するプロセスが提供され、前記プロセスは未処理層状材料を液体に混合して、混合物を得る工程;
該混合物に剪断力を付与して、3次元層状材料を剥離し、溶液中に分散剥離2次元材料を製造する工程;および
該分散剥離2次元材料が溶液中で遊離かつ非凝集状態を維持するように、該混合物に付与した該剪断力を除去する工程を含む。
【0021】
一実施形態において、2次元材料を製造するために、未処理3次元層状材料を剥離するプロセスが提供され、前記プロセスは未処理3次元層状材料を液体に混合して、混合物を得る工程;および
該混合物に剪断力を付与して、3次元層状材料を剥離し、溶液中で遊離かつ非凝集状態の剥離分散2次元材料を製造する工程を含む。
【0022】
上記の課題を解決するために本発明によって提供される解決法は、層状材料の剥離を生じるプロセスであって、大規模(工業規模)および商業規模の剥離層状材料(例えばグラフェン)量を生産するためにスケールアップすることができるプロセスを含む。
【0023】
本明細書において、「遊離」という用語は、剥離2次元材料が、溶液中でゲル化剤または増粘剤、例えばラポナイトクレーによって包まれておらず、束縛されていないことを意味するものと理解すべきである。剥離2次元材料は、ブラウン運動により溶液中で自由に移動できる。例えば、剥離グラフェンの「遊離」性は、貯蔵または将来使用のための剥離グラフェンのその後の収集を容易にする。
【0024】
本発明の一実施形態において、2次元材料のフレークおよび3次元層状材料を、低速遠心分離、重力沈殿、濾過または流れ分離によって、溶液から除去し得る。
【0025】
本発明の一実施形態において、本プロセスは、前記混合物からの薄膜層の形成を可能にする工程をさらに含み得る。薄膜層を形成する工程は、真空濾過または加速蒸発によって行い得る。他の手段、例えば、ディップコーティング、ラングミュア・ブロジェット・コーティング、スプレーコーティング、グラビアコーティング、スピンコーティングまたは他の手段を使用して、薄膜を後に形成し得ることは当業者に理解される。
【0026】
剪断力を付与する工程後に、混合物は、2次元原子結晶、例えばグラフェンの分散液を含む。層状材料は、どのような3次元層状化合物であってもよく、例えば、グラファイト、または式MXを有する任意の遷移金属二カルコゲン化物、または任意の他の層状材料、例えば、遷移金属酸化物、窒化ホウ素(BN)、BiTe、SbTe、TiNCl、MoO3、または任意の他の無機層状化合物であってよい。3次元遷移金属二カルコゲン化物が式MXを有する場合、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mn、Mo、W、Tc、Re、Ni、Pd、Pt、FeおよびRuを含む群から選択してよく、Xは、O、S、SeおよびTeを含む群から選択してよく;1≦n≦3である。
【0027】
本発明の一実施形態において、液体は、好適な溶媒、水−界面活性剤溶液、またはポリマー−溶媒溶液であってよい。好適には、溶媒は下記を含む群から選択し得る:n−メチルピロリドン(NMP)、シクロヘキシルピロリドン、ジメチルホルムアミド、シクロペンタノン(CPO)、シクロヘキサノン、N−ホルミルピペリジン(NFP)、ビニルピロリドン(NVP)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMEU)、ブロモベンゼン、ベンゾニトリル、N−メチル−ピロリドン(NMP)、ベンジルベンゾエート、N,N’−ジメチルプロピレン尿素(DMPU)、ガンマ−ブチラクトン(Butrylactone)(GBL)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−エチル−ピロリドン(NEP)、ジメチルアセトアミド(DMA)、シクロヘキシルピロリドン(CHP)、DMSO、ジベンジルエーテル、クロロホルム、イソプロピルアルコール(IPA)、クロロベンゼン、1−オクチル−2−ピロリドン(N8P)、1−3ジオキソラン、エチルアセテート、キノリン、ベンズアルデヒド、エタノールアミン、ジエチルフタレート、N−ドデシル−2−ピロリドン(N12P)、ピリジン、ジメチルフタレート、ホルムアミド、ビニルアセテート、アセトン等。好ましくは、溶液は、増粘剤ではなく、ゲル化剤/凝固剤でもない。
【0028】
本発明の一実施形態において、水−界面活性剤溶液は、水、および下記を含む群から選択される界面活性剤の溶液を含有する:コール酸ナトリウム(NaC)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、ドデシル硫酸リチウム(LDS)、デオキシコレート(DOC)、タウロデオキシコレート(TDOC)、ポリオキシエチレン(40)ノニルフェニルエーテル、分岐(IGEPAL CO−890(登録商標)(IGP))、ポリエチレングリコールp−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェニルエーテル(Triton−X 100(登録商標)(TX−100))。
【0029】
一実施形態において、本プロセスに使用される水−界面活性剤溶液中の界面活性剤と3次元材料との濃度比は、1:400〜1:50、例えば、1:400、1:350、1:300、1:250、1:200、1:100、1:75、1:50であり、好ましい比率は1:400〜1:300、例えば、1:390、1:380、1:375、1:370、1:360、1:350、1:340、1:330、1:320、1:310、1:300である。
【0030】
本発明の一実施形態において、ポリマー−溶媒溶液は、下記を含む群から選択されるポリマーの溶液を含む:ポリビニルアルコール(PVA)、ポリブタジエン(PBD)、ポリ(スチレン−コ−ブタジエン)(PBS)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルクロリド(PVC)、ポリビニルアセテート(PVAc)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニリデンクロリド(PVDC)、およびセルロースアセテート(CA)。ポリマーは任意の適切な溶媒に溶解させることができる。
【0031】
一実施形態において、剥離2次元材料は、クロスフロー濾過またはタンジェンシャル濾過によって濃縮され洗浄される。本明細書において「クロスフロー濾過またはタンジェンシャル濾過」という用語は、剥離2次元分散液を濃縮し洗浄するプロセスであって、圧力低下が付与される濾過膜に接線方向に該分散液を通すことによって行われるプロセスを意味するものと理解すべきである。この圧力低下は、液体が通過するための推進力を供給し、一方、液体流は、粒子が膜の孔を塞ぐのを防止する。
【0032】
一実施形態において、本プロセスは、剥離2次元材料をマトリックスに挿入して、複合物を形成する工程をさらに含み得る。好適には、マトリックスは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマーまたはバイオポリマーを含む群から選択されるポリマーまたはコポリマーである。
【0033】
本発明の一実施形態において、剪断力は、どのような好適な時間にわたって付与してもよく、例えば、30秒〜600分、1分〜300分、好ましくは30分〜240分、より好ましくは30分〜180分、理想的には約30分〜120分である。これは、約60分後に約0.001〜1mg/mLの濃度のグラフェン分散液を生じる。
【0034】
一実施形態において、そのエネルギーは、下記時間にわたって付与し得る:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59または60分。これは使用者が望む回数繰り返してよく、例えば、所望量の剥離材料が得られるまで、1回、2回、3回、4回等繰り返してよい。
【0035】
本発明のさらなる実施形態において、2次元実質的非酸化グラフェンを製造するために、未処理3次元グラファイトを剥離するプロセスを提供し、本プロセスは未処理グラファイトを液体に混合して、混合物を得る工程;
該混合物に剪断力を付与して、3次元グラファイトを剥離し、分散剥離2次元グラフェンを製造する工程;および
分散剥離2次元グラフェンが溶液中で遊離かつ非凝集状態を維持するように、該混合物に付与した該剪断力を除去する工程を含む。
【0036】
本明細書において「実質的非酸化」という用語は、剥離2次元材料、例えばグラフェンが、反応性または酸化性化学材料を使用せずに製造され、それによって、該2次元生成物が実質的に初期状態であり非酸化であることを意味するものと理解すべきである。該生成物の物理的特性は変化しないままである。
【0037】
上記課題を解決するために本発明によって提供される解決法は、グラファイトの剥離を生じるプロセスであって、大規模(工業規模)および商業規模の剥離グラフェン量を生産するためにスケールアップすることができるプロセスを含む。
【0038】
一実施形態において、本プロセスは、グラフェンをマトリックスに挿入して、複合物を形成する工程をさらに含み得る。好適には、マトリックスは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマーまたはバイオポリマーを含む群から選択されるポリマーまたはコポリマーである。
【0039】
本発明の一実施形態において、本発明のプロセスによって製造される剥離グラフェンを、ポリマーの機械的強化のために使用して、ポリマーの透過性を減少させ、ポリマーの伝導性(電気および熱)を高め、透明導電体および電極材料を製造することができる。
【0040】
本明細書における「ポリマー」という用語は、反復構造単位から成る大分子(高分子)を意味するものと理解すべきである。これらのサブユニットは、一般に、共有化学結合によってつながっている。「ポリマー」という用語はプラスチックを指す場合があるが、該用語は、実際は、種々の特性を有する天然および合成の材料を含む広範囲な種類を包含する。そのようなポリマーは、熱可塑性樹脂、エラストマーまたはバイオポリマーであってよい。
【0041】
「コポリマー」という用語は、2つ(またはそれより多い)モノマー種から誘導されるポリマー(例えば、下記ポリマーのいずれか2つの組合せ)を意味するものと理解すべきである。コポリマーの例は、PETが共重合によって修飾されたPETG(ポリエチレンテレフタレートグリコール)であるが、それに限定されない。PETGは、射出成形またはシート押出することができ優れたバリア性能を有するコンテナ工業に使用される透明非結晶性熱可塑性樹脂である。
【0042】
「熱硬化性樹脂」という用語は、化学結合によって連結したポリマーによって形成され、高度架橋ポリマー構造を有する材料を意味するものと理解すべきである。熱硬化性材料における化学結合によって生じる高度架橋構造は、熱可塑性材料またはエラストマー材料と比較した場合の高い機械的強度および物理的強度に直接的に関与している。
【0043】
本発明の一実施形態において、ポリマーは下記を含む群から選択し得る熱可塑性樹脂であるが、それらに限定されない:アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルクロリド、ポリアミド、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、エチレン−ビニルアセテート、エチレンビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン、液晶ポリマー、ポリブタジエン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリウレタン、およびポリビニルアセテート。
【0044】
本発明の一実施形態において、ポリマーは下記を含む群から選択し得る熱硬化性樹脂であるが、それらに限定されない:加硫ゴム、ベークライト(ポリオキシベンジルメチレングリコールアンハイドライド)、尿素−ホルムアルデヒドフォーム、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド、シアン酸エステルまたはポリシアヌレート、シリコーン、およびその他の当業者に既知の熱硬化性樹脂。
【0045】
本発明の一実施形態において、ポリマーは下記を含む群から選択し得るエラストマーであるが、それらに限定されない:ポリブタジエン、ブタジエンおよびアクリロニトリルコポリマー(NBR)、天然および合成ゴム、ポリエステルアミド、クロロプレン(chloropene)ゴム、ポリ(スチレン−b−ブタジエン)コポリマー、ポリシロキサン(例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS))、ポリイソプレン、ポリウレタン、ポリクロロプレン、塩素化ポリエチレン、ポリエステル/エーテルウレタン、ポリエチレンプロピレン、クロロスルホン化(chlorosulphanated)ポリエチレン、ポリアルキレンオキシド、およびそれらの混合物。
【0046】
本発明の一実施形態において、ポリマーは下記を含む群から選択し得るバイオポリマーであるが、それらに限定されない:ゼラチン、リグニン、セルロース、ポリアルキレンエステル、ポリビニルアルコール、ポリアミドエステル、ポリアルキレンエステル、ポリ無水物、ポリラクチド(PLA)およびそのコポリマー、ならびにポリヒドロキシアルカノエート(PHA)。
【0047】
本発明の一実施形態において、ポリマーは下記を含む群から選択されるコポリマーであるが、それらに限定されない:プロピレンとエチレンとのコポリマー、アセタールコポリマー(ポリオキシメチレン)、ポリメチルペンテンコポリマー(PMP)、非結晶性コポリエステル(PETG)、アクリルおよびアクリレートコポリマー、ポリカーボネート(PC)コポリマー、スチレンブロックコポリマー(SBC)[これは、以下を包含する:ポリ(スチレン−ブタジエン−スチレン)(SBS)、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)(SIS)、ポリ(スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン)(SEBS)]、エチレンビニルアセテート(EVA)、およびエチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)等。
【0048】
他の実施形態において、上記プロセスによって製造される2次元材料を提供する。
【0049】
本発明の他の実施形態において、上記のプロセスによって製造される剥離層状材料を含有するデバイスを提供する。例えば、デバイスは、基板上のグラフェンの薄膜であってよく、またはデバイスは、グラフェンによってコーティングされた部品であってもよい。
【0050】
一実施形態において、デバイスは、上記のプロセスによって製造されるグラフェンと、他のナノ材料との混合物を含有し得る。好適には、ナノ材料は、ナノシート、剥離無機層状化合物、カーボンナノチューブ、ナノワイヤ、ナノ粒子等を含む群から選択される。
【0051】
一実施形態において、デバイスは下記を含む群から選択し得るが、それらに限定されない:電極、透明電極、キャパシタ、トランジスタ、太陽電池、色素増感太陽電池、発光ダイオード、熱電デバイス、絶縁誘導体、バッテリ、バッテリ電極、キャパシタ、スーパーキャパシタ、センサ(例えば、化学および生物センサ)、ナノトランジスタ、ナノキャパシタ、ナノ発光ダイオード、およびナノ太陽電池。
【0052】
本発明の一実施形態において、上記プロセスによって製造される剥離グラフェンまたは他の層状化合物を含有する色素増感太陽電池電極を提供する。
【0053】
本明細書において、「剪断力」という用語は、非ゼロ剪断速度が発生するような、液体中でのインペラ、プロペラまたはブレード回転の結果を意味するものと理解すべきである。標準的な市販混合装置が、3次元層状材料からの剥離2次元材料のスケールアップ製造に使用するのに好適である。剪断力は、乱流混合またはラメラ(層流)混合のいずれかを生じ得る。層流混合の利点は、それを生じるためにより少ない電力が必要とされる点である(従って、低コストである)。
【0054】
一実施形態において、発生した剪断力は、1000s−1より高い、好ましくは2000s−1より高い、より好ましくは3000s−1より高い剪断速度を生じる。
【0055】
本明細書において「未処理3次元層状材料」という用語は、剥離2次元材料、例えばグラフェンを製造するために出発材料を本発明のプロセスに付与する前に、何らの処理もされていない該出発材料、例えばグラファイトを意味するものと理解すべきである。
【0056】
本明細書において「低速遠心分離」という用語は、遠心分離機における分散液の回転、それに続く沈殿物からの上澄みの分離を意味するものと理解すべきである。一般的な回転速度は300〜10000rpmである。しかし、該用語は、試料を重力下に静置して、非剥離グラファイトの沈殿を生じることも意味し得る。さらに、沈殿物は好適な静置時間後に除去することができる。流れ分離またはクロスフロー濾過のような他の代替技術も使用することができる。
【0057】
本明細書において、「実質的非酸化グラフェン」という用語は、共有結合酸化物が結合していないグラフェンを意味するものと理解すべきである。そのような材料は、純粋グラフェンの初期sp混成構造を保持している。従って、この材料は純粋グラフェンの特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図面の簡単な説明
単に例として挙げている本発明の実施形態を、添付の図面に関連して説明することにより、本発明がより深く理解される。
【0059】
図1図1Aは、Silversonミキサ(NMPを溶媒とする)を使用して製造したグラフェンフレークのTEM画像を示す図である。混合時間=30分、容量=3L、C=80mg/mL、N=7000rpm。図1Bは、Silversonミキサ(t=30分、C=80mg/mL、N=3200rpm、V=1500mL)を使用して製造したグラフェンフレークの典型的ラマンスペクトルを示す図である。
【0060】
図2図2は、Silversonミキサを使用して溶媒NMP(および、ある場合には2つの他の液体)に浸漬したグラファイトを処理することによって調製したグラフェンンの濃度に関するデータを概説する図である。下記パラメータを変化させてグラフェン分散液を調製した:混合時間、t;グラファイト濃度、C;ロータ径、D;ロータ速度(rpm)、N;混合容器の容量、V。A)混合時間tの関数としてプロットした分散濃度Cを示す図である。注記:線は下記タイプの挙動を示す:C=Atτ(ここで、τは常に0.5に近い)。いくつかの場合に、所定時間後の濃度飽和tsatを有する限定範囲のみで、直線的挙動が観察される。B)VN−1−3に対してプロットしたtsatの測定値のグラフである。直線性は、容器中の全液体をある回数ロータに通した後に濃度が飽和することを示している。C)Aの数値[C=Atτより]であって、図2Aにおけるような適合データによって見出され、グラファイト濃度Cに対してプロットしたAの数値を示す図である。D)ロータ径Dに対してプロットしたAの数値を示す図である。E)混合速度Nに対してプロットしたAの数値を示す図である。水−界面活性剤溶液および水−ポリマー溶液中でグラファイトを混合することによって調製したグラフェンに関するデータも示している。F)液体容量に対してプロットしたAの数値を示す図である。G)複合変数に対してプロットしたグラフェン濃度を示す図である、H)同様にプロットしたグラフェン生成速度を示す図であり、全てのデータがテキストに記載されているスケーリング則に従っていることを示している。
【0061】
図3図3は、Silversonミキサ(NMPを溶媒とする)を使用して製造したMoSフレークのTEM画像を示す図である。混合時間=5分、容量=2L、C=50mg/mL、N=4000rpm。
【0062】
図4図4は、Silversonミキサを使用して、溶媒NMPに浸漬した粉末MoSを処理することによって調製した剥離MoSの濃度に関するデータを概説する図である。下記パラメータを変化させてMoS分散液を調製した:混合時間、t;層状結晶濃度、C;ロータ径、D;ロータ速度(rpm)、N;混合容器の容量、V。A)混合時間tの関数としてプロットした分散濃度Cを示す図である。B)層状結晶濃度Cに対してプロットしたCの数値を示す図である。C)ロータ径Dに対してプロットしたCの数値を示す図である。D)混合速度Nに対してプロットしたCの数値を示す図である。E)液体容量に対してプロットしたCの数値を示す図である。F)複合変数に対してプロットしたMoS濃度を示す図であり、全てのデータがテキストに記載されているスケーリング則に従っていることを示している。
【0063】
図5】A)Kenwoodブレンダ(水およびFairy Liquid(登録商標)を溶媒とする)を使用して製造したグラフェンフレークのTEM画像を示す図である。混合時間=15分、容量=500mL、C=100mg/mL。B)同条件で製造したグラフェンフレークの典型的ラマンスペクトルを示す図である。
【0064】
図6】A)高いおよび低い初期グラファイト濃度に関して測定したグラフェン対界面活性剤比(G:FL)の関数としてのグラフェン濃度を示す図である。これは、8:1の最適G:FL比を立証している。B)種々の初期グラファイト濃度に関して、混合時間の関数としてのグラフェン濃度を示す図である。全ての場合に直線的挙動が見られる。C)種々の混合時間に関して、初期グラファイト濃度の関数としてのグラフェン濃度を示す図である。全ての場合に、グラファイト濃度<100mg/mLに関して直線的挙動が見られる。
【0065】
図7】A)混合時間の関数としてプロットしたグラフェン収率を示す図である。B)初期グラファイト濃度の関数としてプロットしたグラフェン生成率(右軸)を示す図である。C)液体容量Vに対してプロットしたグラフェン濃度を示す図である(両対数)。
【0066】
図8】A)ミキサ剥離グラフェンフレークのTEM画像を示す図である。B)ミキサ剥離グラフェンフレークの原子構造を示す高解像度走査TEM画像を示す図である。C〜F)ラマン、XPSおよびナノシート厚さの特徴付けを、各処理パラメータの高値および低値の両方を使用して調製した多くの分散液に関して行った図である(グラファイト濃度、C;混合時間、t;液体容量、V;ロータ速度、N;ロータ径、D)。図8C図8Eは、ラマンスペクトル、XPSスペクトル、およびフレーク厚さヒストグラムの例をそれぞれ示す図である。分散液タイプはパネルに示されている。図8Fは、分散液タイプに対してプロットしたラマン、XPSおよびフレーク厚さデータから抽出した情報を示す図である。青−平均フレーク厚さ、<N>;黒−C−C結合に関係したXPSスペクトルのフラクション;赤−ラマンDおよびGバンドの強度比。
【0067】
図9】A)TEMによって測定したフレーク長さのヒストグラムの例を示す図である。B〜F)B)混合時間、C)初期グラファイト濃度、D)ロータ径、E)ロータ速度、F)液体容量に対してプロットした平均フレーク長さを示す図である。BおよびDにおいて、実線は、プロセス依存性フレーク長さの平均を表わす。EおよびFにおいて、実線は、下記適合パラメータを有する数式11に適合している:E)EPP=70.3mJ/mおよびLCF=800nm;F)EPP=70.3mJ/mおよびLCF=1000nm。
【0068】
図10図10は、ミキサ剥離グラフェンの付与を示す図である。A)(左)PET、および(右)PET:グラフェン−0.07%の、溶融処理片を示す図である。B)複合物破面から突き出たグラフェンシートのヘリウムイオン顕微鏡写真図である。C)PETおよびPET:グラフェン−0.07%の代表的応力−歪み曲線を示す図である。D)真空濾過グラフェンフィルムの表面のSEM画像を示す図である。E)ITO/Pt対電極を有する色素増感太陽電池、およびITO/Ptがミキサ剥離グラフェンで置き換えられた色素増感太陽電池の、I−V曲線を示す図である。F)(黒)100nm厚グラフェンフィルムおよび(赤)MnOで被覆した100nm厚グラフェンフィルムから成るスーパーキャパシタ電極の、走査速度の関数としての静電容量(サイクリックボルタンメトリ(cyclicvoltametry)より)を示す図である。G)Fで記載したフィルムについての、インピーダンス位相角対周波数を示す図である。H)噴霧堆積グラフェン薄膜についての、シート抵抗の関数としての透過率を示す図である。
【0069】
図11図11は、種々の初期グラファイト濃度についての、界面活性剤濃度へのグラフェン濃度の依存性を示す図である。全てのグラファイト濃度について、剥離グラフェン濃度は界面活性剤濃度の増加に伴って増加する。しかし、C/C約300−400において、初期グラファイト濃度に依存して、挙動が変化する。Cの低値において、グラフェン濃度は減少し始め、高Cにおいて、グラフェン濃度は、より遅い速度であるが増加し続ける。
【0070】
図12図12は、界面活性剤濃度を減少させるために、最適グラフェン剥離条件を得るための性能指数プロットを示す図である。グラファイト濃度と界面活性剤濃度の最適組合せを得るために、粗性能指数を求めた。その目的は、界面活性剤対グラフェン比(C/C)を最小限にしつつグラフェン濃度(C)を最大にすることであり、従って、最大にする必要があるパラメータは
【数1】
である。図11からのデータを、図12にC対C/Cとして再プロットし、定数
【数2】
の線も示されている。ここで得られる最大値は、C=100g/LおよびC=0.25g/Lに関する。
【0071】
図13図13は、ラマンスペクトルからのD/G強度比の変化を示す図である。示されているデータはCおよびCの両方の変動に関し、平均フレークサイズが界面活性剤濃度の増加に伴って減少することを示している。ラマンスペクトルからのD/G強度比の測定も、界面活性剤濃度が高くなると共に平均フレークサイズが減少していることを示す。これは、CおよびC/Cの両方を変化させた場合に、初期グラファイト濃度に関係なく見られる。
【0072】
図14図14は、クロスフロー濾過またはタンジェンシャルフロー濾過の概略図である。供給液は膜表面に沿って連続的に流れて、粒子が孔を塞ぐのを防止し、透過流束が維持されるのを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0073】
図面の詳細な説明
数年間にわたって、剥離グラフェンおよび他の層状材料が、複合物のような用途に大量に必要とされることが認識されている。本発明は、剥離2次元層状化合物、例えばMoSおよびグラフェンの製造のための、シンプルかつスケーラブルなプロセスを提供するという課題に取り組む。
【0074】
グラフェンのような剥離2次元層状化合物のために、本プロセスは、純粋(未処理)グラファイトを例として採用する。本プロセスは、グラファイトを前処理せずに使用可能形態のグラフェンを製造することができ、複雑かつ/または有害な化学工程の必要性をなくすことを明らかに示している。該技術は、高スケーラブルであり、大量の処理を可能にすることが既知である。本質的に、本発明は、無欠陥グラフェンの一段階の工業的にスケーラブルな製造法を提供する。
【0075】
本発明は、3Dグラファイトを再凝集しない個別2次元グラフェン層またはフレークに分離するための、迅速、シンプルかつ高収量なプロセスを提供する。このプロセスは、有害溶媒を使用せずに達成することができる。剥離グラフェンは、迅速に、安価にかつ容易に、分散液から、薄膜または複合物に形成することができる。
【0076】
剥離グラフェンは、電子デバイスのための理想的ビルディングブロックである。例えば、薄膜形態において、それらは、ディスプレイ、ウインドウ、キャパシタ、太陽電池、発光ダイオード、バッテリまたはスーパーキャパシタ等における、電極または透明電極に使用することができる。
剥離グラフェンが個別フレーク形態である場合、それらは下記のために使用することができる:
(i) ナノスケールデバイス(例えば、ナノトランジスタ、ナノキャパシタ、ナノ発光ダイオード、ナノ太陽電池等)における電極;
(ii) ナノデバイス(例えば、ナノトランジスタ)における活性層。
【0077】
剥離グラフェンは、ポリマー(または他の材料、例えばAlまたはTiのような金属)のマトリックスに埋め込まれている場合、機械的特性、電気的特性、熱的特性またはバリア特性(即ち、気体/蒸気不透過性)を強化することができる。
【0078】
本発明のプロセスを使用してグラフェンフレークを剥離するために、グラファイトを液体(溶媒NMP、水−界面活性剤溶液および水−ポリマー溶液を使用)中でグラフェンに剥離できるかを判断する試験を行った。下記の2つの異なるタイプのミキサを使用した:ロータ・スタータ高剪断ミキサ(Silverson L5M)、および高速インペラ含有タンク(KenwoodキッチンブレンダBL 370型)。
【0079】
Silverson L5Mミキサは、標準混合ヘッドおよび正方形孔高剪断スクリーンを備えたロータ・スタータ高剪断ミキサである。ロータは、31.2mmの直径および5.1mmの厚さの4つのブレードを有する。正方形孔高剪断スクリーンは、31.5mmの内径および1.75mmの厚さを有し、ブレードとスクリーンとの間に0.15mmの隙間を与えている。スクリーンは、4列に配列された1辺2mmの96個の孔を有する。ロータは、8000rpmの最大回転速度を有し、全荷重(高粘性液体の場合)時に6000rpmに減少し、100rpm間隔で連続的に可変である。
【0080】
このミキサを使用して、グラファイトが液体中で剥離されて大量のナノシートを生成し得ることが本明細書において明らかに示されている。これは、NMPのような溶媒中、および水−界面活性剤溶液または水−ポリマー溶液中で、達成できることが本明細書において示されている。しかし、分かりやすくするために、以下の説明は、NMP中でグラフェンを与えるためのグラファイトの剥離に焦点を合わせている。
【0081】
最初の試験は、Silverson L5Mを使用する約1LのNMP中でのグラファイトの混合が、黒い液体を与えることを示した。この液体を1500rpmで90分間遠心分離して、あらゆる非剥離グラファイトを除去した。それに続く顕微鏡検査は、遠心分離した液体が大量の剥離グラフェンナノシートを含有していることを示した。TEMは、これらが非常に薄く、約1〜約10単層の厚さ範囲、および500〜800μmの長さを有していることを示した(図1A参照)。ラマンスペクトルは、図1Bに示されている。最も重要な特徴は、約1300cm−1におけるDバンド、および約1600cm−1におけるCバンドである。これらのバンドは、それぞれ、欠陥およびグラファイト状炭素に関係している。Dバンド対Gバンドの強度比は、欠陥含有量の尺度であり、この場合は約0.37である。グラフェンフレークが基底面欠陥を含有せずエッジ欠陥のみを含有する場合、横方向フレークサイズLは、この比から、下記数式:
【数3】
[ここで、Lの単位はミクロンである]
によって推定することができることが示唆される。従って、I/I〜0.37の測定値は、L=0.7μmの値を意味する。これは、測定されたフレーク長さ(TEMによる)と完全に一致している。このように、ラマンスペクトルは、フレークが基底面欠陥を含有せず、従って高品質であることを示唆している。
【0082】
一旦、このようにしてグラフェンを生成できることが確認されれば、次の段階は、どのくらいの量を生成できるか、およびどのパラメータがこれを制御しているかを考察することであった。グラファイトを、明確に規定された濃度(C)で溶媒NMPに混合し、ミキサを使用して処理した。非剥離グラファイトを遠心分離によって除去し、上澄みを収集して、グラフェン分散液を得た。どのくらいの量のグラフェンが生成されるかを測定する最も簡単な方法は、遠心分離後の分散液のセル長当たりの吸収、Abs/lを測定し、ランベルト・ベールの法則(Abs/l=αC;この研究においてαは3778(mg/mL)−1−1と測定された)を使用して、分散濃度C(体積当たりの質量)を得ることである。分散濃度は、混合時間t、混合速度(ロータ速度(rpm))N、ロータ径D、液体容量V、添加されたグラファイトの初期濃度Cに依存すると考えられる。文献から、剪断混合によって生じる混合物の特性は、冪法則のようなパラメータに依存することが既知である18。従って、分散濃度Cは下記のようにスケーリングすると考えられる:
【数4】
【0083】
冪指数χ、τ、μ、δ、υの実際値が、プロセスがスケーラブルであるかどうかを制御する。
【0084】
従って、分散濃度の上記各パラメータへの依存関係を調査することが重要である。最も単純なパラメータは混合時間tである。多くの分散液を、C、N、VおよびDのある特定の数値を使用して、様々な混合時間で生成した。全ての場合において、分散濃度を測定した。この種のデータの2つの例が図2Aに見られる。このデータは、1/2に非常に近い冪指数(即ち、t1/2、適合線)を有する冪法則として、分散濃度Cが混合時間tと共に増加することを明らかに示している。この挙動は常に観察されたが、いくつかの場合には、ある特定時間を超えて濃度が飽和する傾向があった。これにより、平均して、時間の冪指数はτ=1/2であると言うことができ、従って
【数5】
[ここで、
【数6】
]。
【0085】
これらの実験において、濃度対混合時間を、N、D、VおよびCの種々の組合せに関して測定した。少なくとも13の場合において、濃度が、ある特定時間tsat後に飽和する傾向があった。tsatは、組合せVN−1−3において直線的にスケーリングすることが見出された(図2B)。直線性とは、容器中の全ての液体をある特定回数でロータに通した後に、濃度が飽和することを意味する19。この時間(tsat)は、その時間を超えてグラフェンをそれ以上生成できない最大混合時間を表わす。
【0086】
次に、様々な他のパラメータ(N、V、C、D)について、濃度の時間への依存性を測定した。ほとんどの場合(指定のない限り)、溶媒はNMPであった。全ての場合に、ほぼ平方根挙動が見出され(少なくとも短い混合時間の場合)、データを適合させ、Aを算出した。一般に、下記のパラメータを使用し、パラメータを1つずつ変化させた:N=4500rpm、C=50mg/mL、V=1500mL、およびD=3.1cm。Aは、種々のパラメータの各数値に関する濃度対時間データから見出された。
【0087】
一組の実験において、下記のパラメータ(N=4500rpm、V=1500mL、およびD=3.1cm)を維持し、Cおよび混合時間を変化させた。各組の時間依存データからAを算出した。図2Cは、Aをグラファイト濃度の関数として示している。このグラフは、直線的挙動、即ちC∝Cを示している(これは数式2のχ=1であることを示す)。
【0088】
一組の実験において、下記のパラメータ(N=4500rpm、C=50mg/mL、およびV=1500mL)を維持し、Dおよび混合時間を変化させた。各組の時間依存データからAを算出した。図2Dは、Aをロータ径Dの関数として示している。このグラフは、冪法則挙動、即ちC∝D1.78を示している(これは数式2のδ=1.78であることを示す)。
【0089】
一組の実験において、下記のパラメータ(C=50mg/mL、V=1500mL、およびD=3.1cm)を維持し、Nおよび混合時間を変化させた。各組の時間依存データからAを算出した。図2Eの黒い四角は、Aをロータ速度N(rpm)の関数として示している。このグラフは、初期急増、それに続く冪法則挙動、即ちC∝N1.37を示している(これは数式2のμ=1.37であることを示す)。この急増は、最低ロータ速度Nminが、グラフェンを剥離するために必要であることを示す。
【0090】
一組の実験において、下記のパラメータ(N=4500rpm、C=50mg/mL、およびD=3.1cm)を維持し、Vおよび混合時間を変化させた。各組の時間依存データからAを算出した。図2Fは、Aを液体容量Vの関数として示している。これらの実験は様々な円筒形容器で行った。種々の液体容量まで満たす場合に、1L、3Lおよび5Lの最大容量の容器を試験した。種々の容量の様々な他の円筒形容器を、1つの液体高さhまで満たし、hが容器の直径と等しくなるようにして試験した。そのような条件は、幾何学的相似として既知である。全てのデータが、同じ冪法則挙動、即ちC∝V−0.56を示す(これは数式2のυ=−0.56であることを示す)。
【0091】
本発明者らは、グラファイトを、界面活性剤−水溶液およびポリマー−水溶液に混合することによるグラフェンの生成も立証している。溶媒水に溶解させたポリマーポリビニルアルコールを使用したが、任意の適切な溶媒に溶解させた任意の溶解性ポリマーを使用し得る。理想的には、溶媒とポリマーとの組合せは、グラフェン、ポリマーおよび溶媒のヒルデブランド溶解度パラメータが近くなるように選択される(それぞれ約4MPa1/2の範囲内)。ポリマーの溶液の例は、テトラヒドロフラン(THF)またはシクロヘキサンのような溶媒中の、ポリブタジエン(PBD)、ポリ(スチレン−コ−ブタジエン)(PBS)、ポリスチレン(PS)、ポリ(ビニルクロリド)(PVC)、ポリ(ビニルアセテート)(PVAc)、ポリカーボネート(PC)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(ビニリデンクロリド)(PVDC)、およびセルロースアセテート(CA)の溶液である。さらに、使用した界面活性剤は溶媒水に溶解させたコール酸ナトリウムであったが、どのような界面活性剤も使用し得る。これらの実験において、ポリビニルアルコール−水溶液およびコール酸ナトリウム−水溶液の両方について、下記のパラメータ:C=50mg/mL、V=1500mL、およびD=3.1cmを維持し、Nおよび混合時間を変化させた。各組の時間依存データからAを算出した。図2Eの白丸および白三角は、それぞれ、界面活性剤安定化分散液およびポリマー安定化分散液について、Aをロータ速度N(rpm)の関数として示している。このグラフは、両方の場合に、NMP分散液に関して観察されたのと同じ冪指数を有する冪法則挙動、即ちC∝N1.37を示している。
【0092】
上記のデータは、
【数7】
を示している。
【0093】
これは、濃度対C1/21.371.78−0.56に関する全ての収集データをプロットすることによって試験することができる。
【0094】
ここで、全てのデータは、3桁にわたる単一マスター曲線上に位置する(図2G)。これは、測定されたスケーリング挙動が汎用的であり、様々なパラメータにおいて保持されることを裏付けている。
【0095】
しかし、濃度よりさらに興味深いパラメータは、グラフェン生成速度(または、任意の剥離2次元材料生成速度)である。これは、下記のように定義される:
【数8】
【0096】
これは、
【数9】
を意味する。
上記で測定した冪指数を使用して、それは次のように記載することができる:
【数10】
【0097】
これが正しければ、ここで示されている全てのデータは、PをC−1/21.371.780.44に対してプロットした場合に、同じ直線上に存在するはずである。
【0098】
これが正しいことが図2Dに示されている。これは、初めて、混合パラメータを用いたグラフェン生成速度のスケーラビリティの特徴付けを示すものである。
【0099】
他の層状化合物の剪断剥離
他の3次元層状化合物を剥離する例として、遷移金属二カルコゲン化物(TMD)MoSを使用した。その方法は、純粋(未処理)粉末MoS(層状結晶)を選び、それを使用して、前処理せずに使用可能な形態の剥離MoSのナノシートを作製し、複雑かつ/または有害な化学工程の必要性をなくす。その技術は、高度にスケーラブルであり、大量の処理を可能にすることが立証されている。本質的に、本発明は、凝集しない個別ナノシートを製造する一段階の工業的にスケーラブルな方法を提供する。このプロセスは、有害な溶媒を使用せずに達成することができる。剥離MoSは、分散液から迅速に、安価にかつ容易に、薄膜または複合物に形成することができる。MoSを例として使用するが、このプロセスは、様々な材料(BN、WS、MoSe、TaS、PtTe、NbSe、VTe、MnO、SbTe、BiTe等を包含する)に付与することができる。
【0100】
本発明のプロセスを使用してMoSフレークを剥離するために、層状MoS結晶を液体(溶媒NMPを使用したが、他の好適な溶媒を使用し得る)中でMoSナノシートに剥離できるかどうかを判断するための試験を行った。グラフェンの例に関して先に記載したように、ロータ・スタータ高剪断ミキサ(Silverson L5M)をこの試験に使用した。
【0101】
粉末MoSを、大きいビーカ(2500mL)中で、溶媒(NMP)に添加することによって混合を行う。混合ヘッドをビーカに挿入し、剪断力を所定時間にわたって付与する。初期試験は、Silverson L5Mを使用した約2LのNMP中での層状結晶の混合が、黒い液体を生じることを示した。この液体を1500rpmで90分間遠心分離して、あらゆる非剥離層状結晶を除去した。次の顕微鏡分析は、遠心分離した液体が多量の剥離MoSナノシートを含有していることを示した。TEMは、これらが非常に薄く、約1〜約10単層の厚さ範囲、および300〜1000nmの長さを有することを示した(図3A参照)。高解像度TEMは、ナノシートが高品質であることを示した(図3B参照)。
【0102】
一旦、このようにしてMoSを生成できることが確認されれば、次の段階は、グラフェンに関して先に行ったように、どのくらいの量を生成できるか、およびどのパラメータがこれを制御しているかを考察することであった。層状MoS結晶を、明確に規定された濃度(C)で溶媒NMPに混合し、ミキサを使用して処理した。非剥離層状結晶を遠心分離によって除去し、上澄みを収集して、MoSナノシートの分散液を得た。どのくらいの量のMoSが生成されるかを測定する最も簡単な方法は、遠心分離後の分散液のセル長当たりの吸収、Abs/lを測定し、ランベルト・ベールの法則(Abs/l=αC;この研究においてαは1190(mg/mL)−1−1と測定された)を使用して、分散濃度(体積当たりの質量)を得ることである。分散濃度は、混合時間t、混合速度(ロータ速度(rpm))N、ロータ径D、液体容量V、添加された層状結晶の初期濃度Cに依存すると考えられる。文献から、剪断混合によって生じる混合物の特性は、冪法則のようなパラメータに依存する傾向があることが既知である18。従って、分散濃度Cは、上記数式(2)のようにスケーリングすると考えられる(即ち:C∝Cχτμδυ)。
【0103】
グラフェンに関して先に立証したように、冪指数χ、τ、μ、δ、υの実際値が、プロセスがスケーラブルであるかどうかを制御する。
【0104】
従って、分散濃度の上記各パラメータへの依存関係を調査することが重要である。最も単純なパラメータは混合時間tである。多くの分散液を、C、N、VおよびDのある特定の数値を使用して、様々な混合時間で生成した。全ての場合において、分散濃度を測定した。この種のデータの2つの例が図4Aに見られる。このデータは、1/2に非常に近い冪指数(即ち、t0.56、適合線)を有する冪法則として、分散濃度Cが混合時間tと共に増加することを明らかに示している。
【0105】
次に、様々な他のパラメータ(N、V、C、D)について、濃度の時間への依存性を測定した。全ての場合において、溶媒はNMPであった。一般に、下記のパラメータを使用し、パラメータを1つずつ変化させた:N=4000rpm、C=50mg/mL、V=2000mL、t=5分、およびD=3.1cm。
【0106】
一組の実験において、下記のパラメータ(N=4000rpm、V=2000mL、D=3.1cm、およびt=5分)を維持し、Cを変化させた。図4Bは、Cを層状結晶濃度の関数として示している。このグラフは、冪法則挙動、即ちC∝C0.69を示している(これは、数式2のχ=0.69であることを示す)。
【0107】
一組の実験において、下記のパラメータ(N=4500rpm、C=50mg/mL、t=5分、およびV=1500mL)を維持し、Dを変化させた。図4Cは、Cをロータ径Dの関数として示している。このグラフは、冪法則挙動、即ちC∝D1.83を示している(これは、数式2のδ=1.83であることを示す)。
【0108】
一組の実験において、下記のパラメータ(C=50mg/mL、V=1500mL、t=5分、およびD=3.1cm)を維持し、Nを変化させた。図4Dの黒い四角は、Cをロータ速度N(rpm)の関数として示している。このグラフは、冪法則挙動、即ちC∝N1.26を示している(これは、数式2のμ=1.26であることを示す)。
【0109】
一組の実験において、下記のパラメータ(N=4500rpm、C=50mg/mL、t=5分、およびD=3.1cm)を維持し、Vを変化させた。図4Eは、Cを液体容量Vの関数として示している。全てのデータが、同じ冪法則挙動、即ちC∝V−0.49を示す(これは、数式2のυ=−0.49であることを示す)。
上記のデータは、
【数11】
を示している。
【0110】
これは、濃度対C0.690.561.261.83−0.49に関する全ての収集データをプロットすることによって試験することができる。
【0111】
ここで、全てのデータは、単一マスター曲線上に位置する(図4F)。これは、測定されたスケーリング挙動が汎用的であり、様々なパラメータにおいて保持されることを裏付けている。
【0112】
しかし、濃度よりさらに興味深いパラメータは、MoS生成速度(または、任意の剥離2次元材料生成速度)である。これは、上記数式(6)のように定義され、即ち、
【数12】
である。
【0113】
数式3をデータに付与すると、この方法で、MoSを1.9g/時の速度で生成できることを示す。これは、他の方法で達成できるよりかなり速い生成速度である。
【0114】
MoSは多くの層状化合物の1つにすぎない。この方法が汎用的であることを示すために、様々な他の層状化合物(BN、WS、MoSe、およびMoTe)を剪断混合によって剥離した(表1参照)。全ての場合に、溶媒NMPを使用した。各材料に関して、固定した組の混合パラメータ(C=25mg/mL、N=4000RPM、D=32mm、V=1000mL、t=5分)を使用して混合を行った。混合した後、分散液を1500rpmで90分間遠心分離して、あらゆる非剥離層状結晶を除去した。全ての場合に、着色した液体が得られ、材料が剥離されていることを示した。次に、上澄みを、事前秤量した膜で濾過し、乾燥させた。次に、秤量して、分散材料の質量を得、それにより分散濃度を得た。剥離BNの濃度は非常に高く、0.17mg/mLであった。他の材料は、より低い濃度を示し、0.03mg/mLに近かった。しかし、NMPはこれらの材料に理想的な溶媒でないことに留意すべきである15,20。より適切な溶媒を使用すれば、分散濃度は劇的に増加するはずである。特に、シクロヘキシルピロリドンおよびガンマ−ブチラクトンのような溶媒が、WS、MoS、MoSe、およびMoTeに適切である。
【0115】
【表1】
【0116】
スケールアップに対する適合性
上記タイプのスケーリング分析は、混合パラメータが変更される場合(例えばスケールアップの間)に生成速度の予測を可能にするので、非常に重要である。スケールアップの際に、ロータ径が、混合容器の直径に比例して増加する可能性がある。固定した容器形状に関して、これは、D∝V1/3として表わすことができる。
【0117】
さらに、一般的な混合操作はtsat後に停止される(その後に僅かな増加が得られるので)。図2Bのデータにより、これはt∝V/NDを意味する。
【0118】
これらのパラメータを数式7bに代入すると、これらの条件下のスケールアップは、下記数式:
【数13】
の生成速度を与えることを示す。
【0119】
この数式は、スケールアップが可能であることを示しているので重要である。この手順がスケーラブルであるならば、生成速度は、容器の容量(即ちV)が増加するにつれて、理想的には比例的より速く、増加するはずである。これは、単により大きい混合タンクを使用するだけで、生成を増加させることを可能にする。重要なことに、該容量の冪指数は>1であり、生成が、混合容器の容量に比例的であるより少し速くスケーリングすることを示している。これは、規模の経済を達成するための基本である。さらに、該数式は、生成速度を最大にするためにグラファイト濃度およびロータ速度を最大にする必要があることを示している。
【0120】
スケールアップで得られる生成速度を予測するために、数式(7b)を使用することができる。一般的な混合操作は、C=50mg/mL、N=4500rpmおよびV=1.5Lに対して、0.033mg/秒の生成速度を与えた。V=3000L、N=7000rpmおよびC=100mg/mLの中程度のスケールへのスケールアップは、150g/時の生成速度(例えばグラフェンの生成速度)を与え得る。1日に16時間、1週間に5日間稼働した場合、これは混合容器当たり年間約0.5トンを与える。
【0121】
そのようなスケールアップは、シェルフ(shelf)、市販混合装置の使用によって可能である。これは、どのようなスケールアップ剥離法の実施にもかなり有利である。
【0122】
グラフェン生成のメカニズム
ロータrpm、Nの関数としてのグラフェン濃度に関するデータ(図2E)は、最低限のN(それより小さいNだと極僅かのグラフェンしか形成されない)を明らかに示している。これは、グラフェンの剪断剥離を表わす簡単なモデルを開発することによって理解することができる。最初に、本発明者らは、ロータ速度N(rpm)を使用するよりもむしろ、より基本的なパラメータが剪断速度
【数14】
であることに注目し、ここで、
【数15】
である(ΔRはロータ−スタータギャップである)。以下に、
【数16】
に関して考察する。
【0123】
非ゼロ剪断速度を有する流動流体に入れた弱く結合し最初に積み重なっている2つの四角いプレートレットについて考察する。上のシートと下のシートとの速度差は、誘起剪断応力σを生じる。これは、剪断離層を生じ得る。
【0124】
上記誘起応力は、F=σLによって、誘起力Fに関係づけることができる。
【0125】
付与された応力は、下記のようにニュートンの法則によって剪断速度に関係づけられる:
【数17】
、よって
【数18】
または
【数19】
【0126】
上記誘起力を評価するために、離層プロセスのエネルギー機構を考察する必要がある。この状況は、下記の3つのタイプに分類できる界面エネルギーに関して分析することができる:液体−液体(LL)、液体−プレートレット(LP)、およびプレートレット−プレートレット(PP)。
【0127】
剪断がシートを部分的に離層し、それによって1つのシートがその初期積み重ね位置に対してxの距離でスライドしたと想定する。界面エネルギーの合計から算出されるそのエネルギーは、
【数20】
であり、ここで、ELL、EPLおよびEPPは、液体−液体界面、プレートレット−プレートレット界面、および液体−プレートレット界面に関する局所界面結合である。負符号は相互作用エネルギーが負であることを示し、束縛状態を表わす(ELL、EPLおよびEPPが全て正量である)。
【0128】
離層のための最小限の付与力を推定することができる:
【数21】
【0129】
幾何平均近似式
【数22】
を使用して
【数23】
を得る。
【0130】
これにより、横方向サイズLのフレークの剥離のための最低剪断速度の式を、以下のように記載することができる:
【数24】
ここで、ELLおよびEppは、液体およびプレートレットの表面エネルギーと考えることができる。液体の表面エネルギーは、その表面張力と区別する必要がある。液体表面エネルギーELLは、下記数式により、表面張力Γと関係づけられる21
【数25】
ここで、SLLは、液体表面エントロピーである。表面エントロピーは、0.07〜0.14mJ/mKの範囲の数値を有する傾向がある一般的な液体特性である。所定の種類の液体は、非常に近似したSLLの数値を有する傾向があり、例えばDMFおよびトルエンは、SLL=0.11mJ/mKに近い数値を有することが示されている22。従って、普遍的数値は約0.1mJ/mKとすることができる。NMPの表面張力は40mJ/mであり、これは表面エネルギーが室温で69mJ/mであることを意味する。
【0131】
図2Eのデータより、Nmin=1000rpm、従って、
【数26】
である。下記のように、この剪断速度(約800rpm)においてミキサ中で剥離したフレークのサイズは、L〜800nmである。数式10を付与すると、これは約67または約71mJ/mのグラフェンの表面エネルギーと一致している。これは、グラファイトの溶媒剥離から推定されるグラフェンの表面エネルギーと完全に一致している14,23
【0132】
上記メカニズムは、局所剪断速度が剥離を生じさせるための最低値より高いことだけを必要とすることが確認された。これは、層流または乱流に関しても当てはまり得る。これは、乱流がグラフェンの剪断剥離に必要でないことを意味する。
【0133】
フレーク長さの測定
フレーク長さが混合パラメータにどのように依存するかを判断するために、TEM実験を行った。1つずつパラメータを変化させ、他のパラメータは下記の組からの一定値を使用して、多くの分散液を作製した:グラファイト濃度、C=50mg/mL;混合時間、t=20分;液体容量、V=4.5L;ロータ速度、N=4500rpm;ロータ径、D=32mm。これらの分散液のそれぞれについて、低解像度TEM顕微鏡写真(セクション3.1に記載)を収集し、ランダムに選択した100個のフレークの寸法を測定した。TEMグリッドの穴から落ちた非常に小さいフレーク部分により、データが、より大きいフレークに少し偏り得ることも確認された。
【0134】
図9Aに、フレーク長さのヒストグラムの例が示されている。これらのヒストグラムは一般に広範囲であり、フレーク長さが約100nm〜約3000nmにわたっている。本発明者らは、これらのヒストグラムから平均フレーク長さを算出した。図9B図9Fにおいて、これらのデータが処理パラメータに対してプロットされている。不可避分散にもかかわらず、ほとんどの場合、フレーク長さは処理パラメータに概して非依存性である。この挙動からの最も明白な逸脱は、Nを変化させた場合のデータである(図9F)。ここで、フレーク長さはNの増加と共に減少し、N>6000rpmに関して、L〜500nmにおいて飽和していると考えられる。
【0135】
フレークサイズは、上記のメカニズムによって制御されると考えられる。数式(10)は、所定サイズのフレークを剥離するために必要とされる最低剪断速度を表わしている。しかし、様々な横方向サイズを有するグラファイト微結晶が存在する場合、所定剪断速度で剥離することができる最小フレークサイズを表わすものと解釈することができる:
【数27】
【0136】
剥離を生じるために充分な力が伝達されるために最小フレーク面積が必要とされるので、そのような最小サイズが存在する。これは、様々な横方向微結晶サイズを有するグラファイトの剪断剥離(固定
【数28】
)がこの最小サイズより大きい微結晶の剥離を生じることを意味する。これは、Lminより大きい様々な横方向サイズでのグラフェンフレークの生成を意味する。しかし、剥離後、分散液を遠心分離にかけて、あらゆる非剥離微結晶を除去する。これは、あるカットオフサイズ、LCFより大きい微結晶および剥離フレークの両方を除去すると考えられる。明らかに、LCFは遠心分離条件に依存する。従って、遠心分離後に、残留フレークは、横方向サイズLmin≦L≦LCFの範囲で存在する。
【0137】
平均フレークサイズは、
【数29】
として概算することができる。
【0138】
変数を
【数30】
からNに変更することによって、下記数式を得る:
【数31】
【0139】
これは、Lmin<LCFの場合に有効である。
【0140】
図9に示すように、このデータは、平均L対NおよびDのデータを充分に表わしている。
【0141】
この数式は、近似式:
【数32】
を付与して、
【数33】
[ここで、ΔEは、溶媒表面エネルギーとプレートレット表面エネルギーとの差である]
を得ることによって、さらに単純化することができる。これは、どうして、フレーク長さが溶媒とプレートレットとの表面エネルギー差に感受性であると考えられるかを説明している。
【0142】
溶媒制限
上記で概説したメカニズムは、溶媒中でのグラフェン生成に対する自然限界を示唆している。Lmin≧LCFであるとき、生成された全てのグラフェンフレークは、遠心分離によって採取するのに充分な大きさである。
これは、下記の場合に起こる:
【数34】
【0143】
従って、実験室規模の剥離において、LCF=1μm、Epp=70mJ/m、N=6000rpm(10s−1)およびD=32mmとすれば、グラフェン生成限界は
【数35】
=0.045である。η〜0.002とすれば、これは
【数36】
=2mJ/mの概算を与える。これは、比較的狭い範囲であり、比較的少ない溶媒が剪断剥離に好適であることを意味する。しかし、スケールアップ時に、その状況はより有利である:LCF=1μm、Epp=70mJ/mおよびND=5m/s(即ち、スケールアップに適切な最大値)とすれば、グラフェン生成限界は
【数37】
=0.18である。η〜0.002とすれば、これは
【数38】
=8mJ/mの概算を与える。これは、グラフェンの剪断剥離のスケールアップ時に、62〜78mJ/mの表面エネルギー範囲の溶媒を使用できることを意味する。これは、32〜48mJ/mの表面張力範囲に相当する。これは、グラフェン14,23(または、他の層状化合物15,20)を剥離するのに使用できる溶媒の多くを包含する比較的広い範囲である。
【0144】
液体の役割
液体環境における剪断混合は、明らかに、液体の存在を必要とする。しかし、液体は、安定化したフレーク(即ち、凝集しないフレーク)の剥離を得るためにある特定の特性を有する必要がある。上記セクションでの情報は、液体が溶媒である場合、該溶媒は極めて特殊な特性、即ち、表面エネルギー(または表面張力)と粘度の組合せを有している必要があることを、明らかに示している。この組合せは、混合プロセスの規模に依存する。NMPは数式(12)に示されている基準を満たすので、ここではNMPが使用されている。しかし、少数の他の溶媒、例えばシクロヘキシルピロリドンも可能である。しかし、水がグラフェンの剪断剥離に有効な溶媒であり得る状況は存在しない。適切な剪断パラメータ(即ち、臨界値より高い剪断速度)と適切な溶媒との組合せは、混合の成功に重要である。
【0145】
撹拌タンクにおけるグラフェン生成
インペラを備えたタンクを使用する試験も行った。簡単にするために、Kenwoodキッチンブレンダを使用した。これは、底部で約100mmの直径を有し、上部で約125mmに広がる先細直径のジャグから成る。該ジャグに、ジャグの全長にわたる4つのバッフルが取り付けられており、該バッフルは、液体中に4mm突き出している壁に固定され、1mmの厚さを有する。インペラは4つのブレードから成る。2つのブレードは水平より僅かに上に角度がつけられ、53mmの直径を有し、他の2つのブレードは水平より下に角度がつけられ、58mmの直径を有する。ジャグ容量は1.6Lである(しかし、作業容量は1.2Lにすぎない)。21000±2000rpmの回転速度を有する400Wモータがそれに取り付けられている。この装置を使用して、ブレンダのプラスチック製本体故に、水/界面活性剤混合物を使用する実験だけを行った(NMPのような溶媒はプラスチックを溶解させる)。しかし、金属性撹拌タンクが市販されており、溶媒混合に容易に使用することができる。一般に使用されている周知のキッチン界面活性剤、Fairy Liquid(登録商標)を使用して、高価な工業用界面活性剤が必要でないことを示した。
【0146】
上記のように、初期試験は、Kenwood BL 370を使用した約1Lの水/界面活性剤溶液中でのグラファイトの混合が黒い液体を生じることを示した。それに続く顕微鏡分析は、この液体が多量の剥離グラフェンナノシートを含有することを示した。TEMは、これらが極めて薄く、約1〜約10単層の厚さ範囲、1200±60nmの長さであることを示した(t=30分、C=100mg/mL、図5A)。ラマンスペクトルが図5Bに示されている。Silversonミキサに関して、Dバンド対Gバンドの強度比がこのサイズのフレークと一致し、基底面欠陥の兆候を示していない。
【0147】
Kenwoodミキサを使用した場合、ブレードの直径および速度が固定されているので、t、CおよびVだけを変化させることができる。しかし、界面活性剤濃度はもう1つの変数である。グラフェン対界面活性剤比(G:FL)の関数としての分散グラフェン濃度を、高い(100mg/mL)および低い(20mg/mL)初期グラファイト濃度に関して測定した。このデータは、8:1の最適G:FL比を示す。この比を全ての後続実験に使用した。この比は使用されている界面活性剤に依存することに留意すべきである。
【0148】
次に、様々な初期グラフェン濃度に関して、混合時間の関数としての分散グラフェンの濃度を測定した。このデータは、図6Bおよび図6Cにおいて、2つの方法で、即ちC対t(図6B)およびC対C図6C)として、プロットされている。このデータは、該濃度が混合時間に比例してスケーリングすることを示している(ロータ/スタータ高剪断ミキサと対照的)。さらに、C<100mg/mLに関して、該濃度がCに比例してスケーリングすることも見出された。この初期グラファイト濃度より高い場合、分散グラフェン濃度がよりゆっくり増加する傾向がある。この挙動は、下記のように要約することができる:
C∝C
【0149】
これは、グラフェン収率を、
Y=dC/dC
として定義することを可能にし、かつ生成速度を、
P=dM/dt=VdC/dt
として定義することを可能にする。
【0150】
これらのパラメータが図7Aおよび図7Bにプロットされている。収率は、混合時間に比例して増加し、30分後に0.14%に達する。これらの収率は低いと考えられるが、実質的には、非剥離グラファイトは混合操作後に収集でき、出発材料として再使用できるのでこれは問題ではない。図7Bにおいて、C=100mg/mLまでは、生成速度が初期グラファイト濃度に比例して増加する。これを超えると、生成が少しゆっくり増加する。200mg/mLの初期グラフェン濃度に関して、生成速度は約200mg/時である(容量V=500mL)。
【0151】
図7Cに示されるように、濃度に対する液体容量の作用も試験した。容量に伴う濃度のゆっくりした減少が明らかに観察され、下記によって表わすことができる:
【数39】
これは、濃度のスケーリング法則を、
【数40】
として記述することができることを意味する。
そして、同等の生成速度のスケーリング法則は、
【数41】
として記述できる。
【0152】
上記のように、容量をスケールアップすることによって何を達成できるかを推定することができる。200mg/時の最高生成が、V=500mLで達成された。これは、1000L規模で混合した場合、高剪断ミキサに極めて類似した約90g/時の生成速度が予測できることを意味する。
【0153】
剥離グラフェンの品質
剪断混合に関連した高生成速度が、フレーク品質を犠牲にして達成されるのではないことを立証することが重要である。図8Aに、高品質グラフェンフレークのTEM画像が示されている。そのような画像は、フレークが原子スケールで損傷されているかどうかについて情報を与えていない。図8Bに、上記のプロセスによってミキサで生成されたグラフェン単層の高解像度走査TEM画像が示されている。この画像から、原子構造が、欠陥の兆候を有さず完全であることが明らかである。
【0154】
より定量的なフレーク品質の分析を得るために、ラマン分光分析、X線光電子分光分析(XPS)、およびフレーク厚さ測定を、様々なミキサパラメータで生成したグラフェンに関して行った。一般に、使用したパラメータは一定値で固定させた(t=20分、C=50mg/mL、D=32mm、V=1500mL、およびN=4500rpm)。しかし、各試料に関して、1つのパラメータを変化させて、試料が各処理パラメータの高値および低値で生成されるようにした。分散液を遠心分離し、次に、ラマン分析およびXPS分析用のフィルムを作製するために使用し、TEM分析のためにグリッドに滴下した。
【0155】
図8Cにおいて、典型的なラマンスペクトルが示されている(高D値で生成されたグラフェン)。D:Gバンド比が比較的低く、これらのフレークの欠陥含有量が低いことを示している。本明細書の他の箇所に記載されているように、欠陥バンドの大きさは、エッジ欠陥の存在および基底面欠陥の不存在に完全に一致している。従って、この方法によって生成されたグラフェンフレークは無欠陥であると言える。
【0156】
図8Dにおいて、典型的なCls XPSスペクトルが示されている(高N値で生成されたグラフェン)。このスペクトルは、約284eVにおけるC−Cピークによって支配されており、これは、グラファイト状炭素に関係している。それより弱い多くのピークが、より高い結合エネルギーにおいて見られる。これらは、C−H、C−NおよびC=Oに関係し、これらが残留NMPの存在と一致していることを示唆している。それらは、ほぼ3:1:0.6の強度比を有し、NMPに関して予測される3:1:1の比に近似している。これらのピークがNMPによって説明できるということは、グラフェンの酸化が混合中に起きておらず、従って、この方法によって生成されたグラフェンフレークは非酸化であると言えることを示唆している。これは、グラフェンの酸化がグラフェンの物理的特性に重大な変化を生じるので極めて重要である。有用な特性の多くは、酸化時に失われる。
【0157】
図8Eにおいて、フレーク厚さのヒストグラムが示されている(非弾性散乱電子によって失われた電子ビームの強度によって測定され、試料は高V値で調製された)。平均フレーク厚さは約6層である。これは、かなりの薄さであり、音波処理によって得られる薄さに近い。これは、剪断混合が優れた剥離度を与えることを示す。
【0158】
図8Fは、全試料に関するラマン、XPSおよび厚さのデータの要約を示す。このデータは、混合パラメータの各組合せに関して、平均フレーク厚さ、C−CピークによるCls XPSスペクトルのフラクション、および平均D:G比を示している。各パラメータが混合パラメータと共にほとんど変化しないことが明らかに示されている。これは、試験した全ての混合パラメータ組合せによって生成されたグラフェンが、実質的に同じであることを明らかに示している。さらに、これらのフレークは充分に剥離され、欠陥および酸化物を含有していない。
【0159】
界面活性剤濃度および2次元材料収率
水/界面活性剤溶液中での任意の2次元材料(例えばグラフェン)の剥離が立証され、溶媒分散液より毒性の点で有利であるが、グラフェンフレーク表面における界面活性剤残留物の存在は、多くの後続用途に不利となり得る。例えば、それはフレーク間の接合を増加させ、それによって、より低い伝導性のフィルムを生じる。従って、プロセス収率を損なわずに可能な最低界面活性剤濃度を使用する必要がある。剥離グラフェンの濃度は、溶液中の界面活性剤の濃度に依存すると考えられる。
【0160】
界面活性剤濃度を最小限にしつつ剥離2次元材料の収率を最適化するために、水−界面活性剤溶液中の界面活性剤の最適濃度を調査する目的で、一連の実験を行った。グラファイトを出発3次元材料として使用した。これらの実験の知見は、本明細書に記載されている全ての3次元出発材料に付与できるものと理解すべきである。全ての場合に、液体容量、ロータ速度、ロータ径および処理時間を、それぞれ、600mL、4500rpm、32mmおよび60分で一定に維持した。初期グラファイト濃度(C)および界面活性剤濃度(C)を変化させ、後者は、所望のグラファイト対界面活性剤濃度(C/C)により設定した。高剪断ミキサにおける剥離後に、分散液を1500rpmで150分間遠心分離して、非剥離グラファイトおよび低剥離フレークを除去した。次に、上澄みをUV−Vis分光法によって分析して、グラフェン濃度を測定する。ラマンスペクトルを記録するためのフィルムを製造するために、上澄みをさらに0.22μm細孔アルミナ膜で濾過した。
【0161】
グラフェンの収率は、初期グラフェン濃度に比例的に依存することが先に示されている。グラファイト対界面活性剤濃度が一定に維持される場合、上記に示されたのと同じ挙動が全てのグラファイト濃度において見られることが予測された。従って、グラファイト濃度を100g/L〜10g/Lで変化させ、界面活性剤濃度を0.017g/L〜2g/Lで変化させた(C/C=800〜50)。図11に示されるように、全てのグラファイト濃度に関して、剥離グラフェン濃度は界面活性剤濃度の増加と共に増加する。しかし、
【数42】
において、挙動が、初期グラファイト濃度に依存して変化する。低C値において、グラフェン濃度は減少し始め、高C値において、グラフェン濃度はより遅い速度ではあるが増加し続ける。
【0162】
グラファイト濃度と界面活性剤濃度の最適組合せを得るために、性能指数を求めた。その目的は、界面活性剤対グラフェン比(C/C)を最小限にしつつグラフェン濃度(C)を最大にすることであり、従って、最大にする必要があるパラメータは
【数43】
である。
【0163】
図11のデータが図12にC対C/Cとして再プロットされ、定数
【数44】
の線も示されている。ここで得られる最大値は、C=100g/LおよびC=0.25g/Lに関する。
【0164】
ラマンスペクトルからのD/G強度比の測定は、界面活性剤濃度が増加するにつれて、平均フレークサイズが減少することをも示唆している。これは、CおよびC/Cの両方を変化させた場合に、図13に示されるように、初期グラファイト濃度に関係なく見られる。
【0165】
剥離2次元材料の濃縮および洗浄
剪断剥離は、例えば無欠陥グラフェンの、高生成速度が可能であるが、多くの用途は、1g/Lを超える濃度のグラフェン分散液を必要とする。上記のように、剥離が水/界面活性剤溶液中で行われた場合、分散液から界面活性剤を除去することも必要となり得る。分散液からグラフェンの自立フィルムを得るために全量真空濾過が以前から使用されており、この方法は、フィルム形成の間に、界面活性剤残留物をグラフェンから洗い落とすことを可能にする。しかし、工業生産に必要な大きい規模において、このアプローチは、孔閉塞により極めて遅くなる。
【0166】
グラフェン分散液を濃縮し洗浄する代替法は、クロスフローまたはタンジェンシャルフロー濾過装置を使用することである。この濾過設計において、供給材料を濾過膜に接線方向に通し、該濾過膜に圧力低下が付与される。この圧力低下は、液体が通過するための推進力を供給し、一方、液体流は、粒子が膜の孔を塞ぐのを防止する。これは、図14に概略図で示されている。一般に、膜を横切る多数の流路が、必要濃縮係数を得るために必要とされ、これを達成するために再循環ループが使用される。そのようなシステムを使用して、約0.5g/Lの初期濃度の分散液を28g/Lに首尾よく濃縮し、次に、洗浄して、界面活性剤分子を溶液から除去している。中空繊維およびカセット形状の両方が、この濃縮および洗浄手順に首尾よく使用されている。これは、付与におけるより容易な処理のために、高濃度のグラフェン分散液(または、高濃度の任意の剥離2次元材料)、例えばペーストおよびインクの調製を可能する。
【0167】
ミキサ剥離グラフェンの用途
剪断混合によって生成されたグラフェンは高品質であるので、様々な用途において有用となり得る。これは、本明細書において、5つの異なる用途におけるミキサ剥離グラフェンの使用例を示すことによって説明される。おそらく、大量生産グラフェンフレークの最も重要な用途は、複合物における充填剤としての用途である。プラスチック工業と適合性にするために、そのような複合物は溶融処理によって製造する必要がある。これらの実験のために、Brabenderメルトミキサを使用して、剥離グラフェンを塑性ポリエチレンテレフタレート(PET)に混合している。図10Aに、PETシート、およびグラフェン/PETシート(0.07%グラフェン)の写真が示されており、これらは両方とも溶融混合によって作製されている。図10Bのヘリウムイオン顕微鏡写真図は、グラフェンフレークが複合物内で充分に剥離されていることを示す。機械的特性試験(図10C参照)は、複合物の強度がPETの強度の約2倍であることを示している。これは、グラフェンを充填剤として使用した強化の最高記録と一致している。
【0168】
多くの可能な用途は、グラフェンフレークの薄膜を必要とする。真空濾過された薄いグラフェンフィルムのSEM画像が図10Dに示されている。そのようなフィルムは、色素増感太陽電池における白金/イリジウムスズオキシド(Pt/ITO)対電極の両方と置き換えて使用することができ、効率がほんの少し低下するだけである(図10E参照)。Pt/ITO対電極は比較的高価なので、安価なグラフェンで置き換えることは有意なコスト節減になる。
【0169】
同様のフィルムを使用して、妥当な静電容量を有するスーパーキャパシタ電極を作製することができる(図10F参照)。静電容量は、グラフェンをMnOでコーティングすることによって、さらに増加させることができる。そのようなスーパーキャパシタは、低い時定数と共に比較的高い静電容量を有し、120Hz acライン濾過用途のためのマイクロスーパーキャパシタ用途に理想的である。120Hzにおける位相角を「標準感度」として使用することができ;グラフェン電極はФ120=79°を示し(MnOコーティング電極はФ120=71°を与える)、市販のアルミニウム電解キャパシタ(83°)に匹敵する数値である(図10G参照)。または、グラフェンフィルムを噴霧堆積させて、半透明になるのに充分な薄さにすることができる。10〜100kΩ/sqのシート抵抗に関して、55〜70%の透過率を達成することができる(図10H参照)。これらのフィルムは、性能ではなくコストが重要である用途、例えばオーブン窓用の静電気散逸器または熱シールドに使用することができ、酸化物系透明伝導体と競合する可能性がある。
【0170】
本発明は、剥離2次元材料の生成、例えばグラフェン生成のための、シンプルかつスケーラブルなプロセスを提供するという課題に取り組んでいる。そのプロセスは、純粋グラファイトを採用し、それを使用して、該グラファイトの前処理なしに使用可能形態のグラフェンを生成し、複雑かつ/または有害な化学工程の必要性をなくしている。該技術は、高度にスケーラブルであり、大量の処理を可能にすることが分かっている。重要なことに、その生成率は、液体容量が増加すると共に増加する。これは、規模の経済を達成することを可能にする。極めて高い生成率(g/時)が本明細書において立証され、グラフェン(および上記のような他の2次元材料)について新たに解明されたスケーリング法則を付与して、mレベルへのスケールアップにおいてkg/日の生成が達成できるはずである。
【0171】
本明細書において、「含む、含んだ、および含んでいる」またはあらゆるその変化形、ならびに「包含する、包含した、および包含している」またはあらゆるその変化形は、完全に交換可能であるとみなされ、それらは可能な最も広い解釈を与えられるべきであり、その逆も同様である。
【0172】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、構成および詳細の両方において変化し得る。
文献
【数45】
【数46】
図3
図11
図12
図13
図1
図2
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図14
【国際調査報告】