特表2016-516825(P2016-516825A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2016-516825筋ジストロフィーの治療のためのホスホジエステラーゼ5A阻害物質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-516825(P2016-516825A)
(43)【公表日】2016年6月9日
(54)【発明の名称】筋ジストロフィーの治療のためのホスホジエステラーゼ5A阻害物質
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20160513BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20160513BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20160513BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20160513BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61P21/02
   A61K31/4985
   A61K31/519
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2016-509147(P2016-509147)
(86)(22)【出願日】2014年4月21日
(85)【翻訳文提出日】2015年11月25日
(86)【国際出願番号】US2014034806
(87)【国際公開番号】WO2015050581
(87)【国際公開日】20150409
(31)【優先権主張番号】61/814,005
(32)【優先日】2013年4月19日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】514135801
【氏名又は名称】シーダーズ−サイナイ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ビクター ロナルド ジー.
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ゲイル ディー.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA942
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA94
(57)【要約】
本明細書において、ベッカー型筋ジストロフィーとデュシェンヌ型筋ジストロフィーとを含む筋ジストロフィーを治療する方法が記載される。本方法は、それを必要とする対象に、タダラフィルなどのホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質を投与することを含む。該PDE5A阻害物質を投与することは、機能的交感神経遮断(functional sympatholysis)の回復、ジストロフィン欠損筋膜への虚血侵襲の軽減、使用依存性筋損傷の減少などの有益な効果を有し、従って、筋ジストロフィー疾患の進行を遅らせることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、
筋ジストロフィーの治療を必要とする対象に、ある量のPDE5A阻害物質を投与することと
を含む、筋ジストロフィーを治療する方法。
【請求項2】
前記筋ジストロフィーがベッカー型筋ジストロフィー(BMD)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記筋ジストロフィーがデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、
機能的交感神経遮断(functional sympatholysis)の回復を必要とする対象に、ある量のPDE5A阻害物質を投与することと
を含む、機能的交感神経遮断を回復させる方法。
【請求項5】
ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、
ジストロフィン欠損筋膜への虚血侵襲の軽減を必要とする対象に、ある量のPDE5A阻害物質を投与することと
を含む、ジストロフィン欠損筋膜への虚血侵襲を軽減する方法。
【請求項6】
ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、
使用依存性筋損傷の減少を必要とする対象に、ある量のPDE5A阻害物質を投与することと
を含む、使用依存性筋損傷を減少させる方法。
【請求項7】
ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、
運動後の充血の軽減を必要とする対象に、ある量のPDE5A阻害物質を投与することと
を含む、運動後の充血を軽減する方法。
【請求項8】
前記PDE5A阻害物質がタダラフィルまたはその塩である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記PDE5A阻害物質がシルデナフィルまたはその塩である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記PDE5A阻害物質がバルデナフィルまたはその塩である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記対象がヒトである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記対象が、成人である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、成人男性である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記対象が、小児である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記PDE5A阻害物質の前記量が約0.5〜1.0mg/kg体重である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記PDE5A阻害物質の前記量が、重労作の期間の前に投与される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記PDE5A阻害物質の前記量が目覚めてすぐに投与される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法
【請求項18】
前記PDE5A阻害物質の前記量が、身体労作が計画された期間の前に投与される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記PDE5A阻害物質の前記量が約20mgである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記PDE5A阻害物質がタダラフィルであり、かつ前記量が約0.3mg/kg体重である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記PDE5A阻害物質がタダラフィルであり、かつ前記量が約0.6mg/kg体重である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
約20mgのタダラフィルまたはその塩を提供することと、
ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)の治療を必要とする成人対象に、約20mgのタダラフィルまたはその塩を投与することと
を含む、BMDを治療する方法。
【請求項23】
前記成人対象が男性である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
タダラフィル、シルデナフィル、またはそれらの塩のある量を提供することと、
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療を必要とするヒト対象に、タダラフィル、シルデナフィル、またはその塩の該量を投与することと
を含む、DMDを治療する方法。
【請求項25】
前記ヒト対象が子供である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
タダラフィルまたはその塩が提供され、かつ前記量が約0.3mg/kg体重である、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
タダラフィル、シルデナフィル、またはそれらの塩の前記量が約0.5mg/kg体重である、請求項24または25に記載の方法。
【請求項28】
タダラフィルまたはその塩が提供され、かつ前記量が約0.6mg/kg体重である、請求項24または25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、筋ジストロフィーの治療に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
本明細書におけるすべての刊行物は、各個々の刊行物または特許出願が具体的かつ個別に参照により組込まれていると示されているかのように、同程度に、参照により組み込まれている。以下の説明は、本発明を理解するのに有用であり得る情報を含む。これは、本明細書で提供される任意の情報が、先行技術であるかもしくは現在特許請求されている発明に関連する、または具体的にもしくは黙示的に参照される、任意の刊行物が先行技術であると、認めるものではない。
【0003】
ジストロフィンは、細胞内の細胞骨格と細胞外マトリックスとの間に物理的な連結を提供する大きな、ロッド状の、筋細胞膜タンパク質である(7)。ジストロフィン欠損により、筋細胞膜は不安定化し、筋線維は繰り返し収縮によって物理的損傷を受けやすくなる(8)。ジストロフィンは、筋細胞膜への他のタンパク質を標的とする足場タンパク質でもある。これらの中には、一酸化窒素合成酵素の神経アイソフォームの筋特異的スプライスバリアントであるnNOSμがあり(9、10)、これは、ジストロフィンのロッドドメインの中央部分と標的筋細胞膜のためのアダプタータンパク質のα−シントロフィン内の特定のスペクトリン様リピートを必要とする(11)。ジストロフィン欠損は、筋細胞膜のnNOSμの欠損を引き起し、nNOSμが減少し、残留タンパク質は筋細胞膜から細胞質ゾルに置き違えられる(9〜11)。
【0004】
健全な骨格筋の運動によって、筋細胞膜のnNOSμ由来の一酸化窒素(NO)は局部的なαアドレナリン作動性血管収縮を減衰させ、これにより、活動筋肉の代謝要求を満たすために、灌流が最適化される(12〜21)。本発明者らは、以前、この防御機構(機能的交感神経遮断(functional sympatholysis)と呼ばれる)が、mdxマウス(BMD及びDMDのモデル)、nNOS欠損マウス、及び機能的筋虚血(14、16)を引き起すDMDを有する男児で、失われることを発見した。機能的虚血発作の繰返しは、すでにジストロフィン欠損によって弱体化した筋線維の使用依存性傷害を加速し得る(14、16、19)。
【0005】
ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)は、進行性のX連鎖筋消耗疾患であり、治療法が存在しない(1〜3)。密接に関連しているデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の疾患のように、BMDは細胞骨格タンパク質ジストロフィンをコードする遺伝子の突然変異によって引き起される。DMDは、機能性ジストロフィンを生成しないフレーム外の突然変異によって引き起されるのに対し、BMDは、切断型または縮小ジストロフィンタンパク質を生成するインフレーム突然変異によって引き起される(4、5)。DMDよりも長引く臨床経過とほぼ正常な寿命にもかかわらず、BMDは、歩行の喪失に至る進行性の筋力低下による衰弱性疾患であり、関連する心筋症による心不全のリスクの増加もある(3)。
【0006】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、壊滅的なX連鎖筋消耗疾患であり、具体的な治療法はない。3500人に1人の男児出生に影響を与えるDMDは、筋ジストロフィーの全症例の80%を占める。1B ジストロフィー筋は、非常に早い年齢での歩行の損失につながる、ゆっくりとした進行性損傷を受け、その後の呼吸筋の衰弱及び心不全を伴う。しかし、本発明者らの一般的な理解にもかかわらず、疾患の正確な病態生理は、大部分は不明のままである。
【0007】
ジストロフィン異常症に関する基礎科学が盛んに行われてきたが、臨床解釈はなされてこなかった(6)。多くの研究と肯定的な結果が動物モデルで見られてきたが、ヒト対象に対するそれらの結果の解釈はいまだ成功していない。これは、動物モデルに与えられる用量が、典型的にはヒトの使用に許容されるものよりも数百または数千倍高いという事実に起因し得る。従って、より低い用量が与えられた場合、動物モデルで見られる治療効果は、ヒト対象には現れない。ジストロフィン遺伝子が筋ジストロフィーを引き起す原因であることは長い間知られているが、これだけの年月が過ぎても、治療は、疾患の影響を緩和するための副腎皮質ステロイド及び心臓保護薬の使用に限定されている。しかし、これは、疾患自体の進行を、治療又は減速するものではない。
【0008】
従って、BMDとDMDのための治療の飛躍的な進歩が緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
以下の実施形態およびその態様は、例示的で図示的であるように意図されるが範囲を限定しない組成物および方法に関連して、説明および図示される。
【0010】
本発明の様々な実施形態は、ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、筋ジストロフィーの治療を必要とする対象に、ある量のPDE5A阻害物質を投与することとを含む、筋ジストロフィーを治療する方法を提供する。
【0011】
様々な実施形態では、治療される筋ジストロフィーはベッカー型筋ジストロフィー(BMD)である。他の実施形態では、治療される筋ジストロフィーはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)である。
【0012】
本発明の様々な実施形態は、ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、機能的交感神経遮断の回復を必要とする対象に、ある量のPDE5A阻害物質を投与することとを含む、機能的交感神経遮断を回復させる方法を提供する。
【0013】
本発明の様々な実施形態は、ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、ジストロフィン欠損筋膜への虚血侵襲の軽減を必要とする対象に、ある量のPDE5A阻害物質を投与することとを含む、ジストロフィン欠損筋膜への虚血侵襲を軽減する方法を提供する。
【0014】
本発明の様々な実施形態は、ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、使用依存性筋損傷の減少を必要とする対象に、ある量のPDE5A阻害物質を投与することとを含む、使用依存性筋損傷を減少させる方法を提供する。
【0015】
本発明の様々な実施形態は、ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、運動後の充血の軽減を必要とする対象に、ある量のPDE5A阻害物質を投与することとを含む、運動後の充血を軽減する方法を提供する。
【0016】
様々な実施形態では、これらの方法で使用されるPDE5A阻害物質は、タダラフィルまたはその塩であることができる。様々な実施形態では、これらの方法で使用されるPDE5A阻害物質は、シルデナフィルまたはその塩であることができる。様々な実施形態では、これらの方法で使用されるPDE5A阻害物質は、バルデナフィルまたはその塩であることができる。
【0017】
様々な実施形態では、対象はヒトであることができる。様々な実施形態では、対象は成人であることができる。様々な実施形態では、対象は、成人男性であることができる。様々な実施形態では、対象は小児であることができる。
【0018】
様々な実施形態では、これらの方法で使用されるPDE5A阻害物質の量は、約0.5〜1.0mg/kg体重であることができる。様々な実施形態では、これらの方法で使用される量のPDE5A阻害物質は、重労作の期間の前に投与されることができる。様々な実施形態では、これらの方法で使用される量のPDE5A阻害物質は、目覚めてすぐに投与されることができる。様々な実施形態では、これらの方法で使用される量のPDE5A阻害物質は、身体労作が計画された期間の前に投与されることができる。様々な実施形態では、これらの方法で使用されるPDE5A阻害物質の量は、約20mgであることができる。
【0019】
本発明の様々な実施形態は、約20mgのタダラフィルまたはその塩を提供することと、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)の治療を必要とする成人対象に、約20mgのタダラフィルまたはその塩を投与することとを含む、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)を治療する方法を提供する。様々な実施形態では、成人対象は、男性であることができる。
【0020】
本発明の様々な実施形態は、約0.5mg/kg体重の、タダラフィル、シルデナフィル、またはそれらの塩を提供することと、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療を必要とするヒト対象に、約0.5mg/kg体重の、タダラフィル、シルデナフィル、またはそれらの塩を投与することとを含む、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を治療する方法を提供する。様々な実施形態では、ヒト対象は、子供であることができる。
【0021】
本発明の他の特徴及び利点は、実施例によって本発明の実施形態の様々な特徴を図示する添付図面と併せて記載される以下の詳細な説明から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
例示的な実施形態が、参照図面に示されている。本明細書に開示された実施形態及び図面は、限定的ではなく例示的とみなされるべきであることが意図されている。
図1図1A〜Dは、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)の患者で機能的交感神経遮断が損なわれていることを示す。(A)健康な対照対象由来の代表的なトレースに示されるように、前腕筋の酸素化(HbO+MbO)の下半身陰圧(LBNP)誘発低下は、軽度のハンドグリップ運動中に大きく減衰し、機能的交感神経遮断(すなわち、反射性血管収縮の正常な運動誘発減衰;灰色の楕円)を示す。(B)ハンドグリップは、機能的筋虚血を示すLBNP応答(赤い楕円)を減衰させることができないため、BMD患者由来の代表的なトレースは、交感神経遮断が損なわれていることを示している。各実験の終了時に、上腕カフは、前腕の循環を閉塞する超収縮期圧に膨張させ、全不安定信号(TLS)を算出するために、筋肉の酸素化の最大減少を生じさせた。(C、D)TLSの%(平均値±SEM)として表されている、7人の健常対照(C)及び10人のBMD患者(D)の要約データ。線形混合効果モデルを用いた、P<0.01安静対運動。
図2図2A〜Dは、タダラフィルが、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)患者の機能的筋虚血を軽減することを示している。(A)タダラフィルは、下半身陰圧(LBNP)による筋肉の酸素化(HbO+MbO)の低下の運動誘発減衰によって示されるように(灰色の楕円)、BMD患者の機能的交感神経遮断を回復させる。(B)対照的に、安静中及び運動中の相当するLBNP応答によって示されるように(赤い楕円)、プラセボは、同じ患者では効果がない。(C、D)10人のBMD患者由来の全不安定信号(TLS)の%(平均値±SEM)として表されている要約データ。患者のすべては、タダラフィル(C)、および次いでプラセボ(D)、またはその逆に関して、二重盲検クロスオーバー試験を完了した。P<0.01、線形混合効果モデルを用いた治療条件×運動条件の相互作用。
図3図3AおよびBは、タダラフィルの効果の一貫性を示す患者固有のデータを示す。(A)タダラフィルによって、10人のベッカー型筋ジストロフィー(BMD)患者のうち9人で、機能的交感神経遮断(反射性血管収縮の運動誘発減衰)が明らかであった。なぜなら、前腕筋の酸素化(HbO+MbO)の下半身陰圧(LBNP)誘発低下は、安静時(黒いバー)より運動中(灰色のバー)のほうが少ないからである。例外は、十分なタダラフィル血中濃度が達成された患者10(P10)であった。(B)プラセボでは、LBNP応答は、タダラフィルなしに交感神経遮断が明白である患者P9を除き、各患者について安静時と運動中で実質的に同じであるが、患者P2においては、交感神経遮断がタダラフィルによって大きく増加している可能性がある。データは、全不安定信号(TLS)の%(平均値±SEM)として表されている。
図4図4は、BMD患者由来の筋肉生検の免疫組織化学を示している。患者P5(エクソン45〜48の欠失)と患者P9(エクソン14〜44の欠失)由来の、ヘマトキシリンおよびエオシン(上図)で染色した筋生検の切片は、筋線維サイズの変動、内部核、線維症、及び脂肪組織の増加を含む典型的なジストロフィーの特徴を示す。P5とP9の両方由来の筋肉中には、ジストロフィンC末端(DYS−C)の染色が存在する。nNOSの細胞質染色は、P5とP9の両方において明らかであるが、対照筋肉において明らかではない。筋線維膜のnNOSの標識はP9に存在するが、P5では検出されない。下図は、長方形で囲まれた視野の高倍率の拡大図を示している。スケールバーは100μmである。
図5図5は、利き腕対非利き腕における機能的交感神経遮断の等価性を示している。10人のベッカー型筋ジストロフィー(BMD)患者のうち2人は左利きであり、他のすべての患者及び7人の健常対照は右利きであった。クロスオーバー試験では、機能的交感神経遮断はプラセボ治療中に損なわれている。なぜなら、ハンドグリップは、前腕筋の酸素化(HbO+MbO)の下半身陰圧(LBNP)誘発応答を減衰させることができず、機能的筋虚血を示しているからである。タダラフィルは、LBNP応答が運動時には小さいため、BMD患者における機能的交感神経遮断を回復させる。交感神経遮断は、ベースラインでの健常対照で明らかである。すべての場合において、利き腕と非利き腕の間に違いはない(P>0.05)。データは、全不安定信号(TLS)の%(平均値±SEM)として表されている。P<0.05、安静対運動。
図6図6は、イムノブロット実験を示している。患者(P)9、P5、及び健常対照対象(C)由来の筋肉サンプルを、ジストロフィン(DYS−C)のC末端の最後の17アミノ酸、ジストロフィンロッドドメイン(DYS−ロッド)のアミノ酸1181〜1388(エクソン26〜32をコードする)、及びデスミンの抗体で探査した。P9(エクソン14〜44の欠失)は減少した分子量のDYS−Cを表しているが、抗体によって認識されるエピトープの削除により、DYS−ロッドはない。P5(エクソン45〜48の欠失)は、分子量と量の両方で減少しているDys−CとDys−ロッドの両方を表している。デスミンはサンプルに関するタンパク質負荷を示している。
図7図7A〜Cは、DMD患者では機能的交感神経遮断が損なわれ、緊急タダラフィル治療によって回復することを示している。(A)前腕筋の酸素化(HbO+MbO)のLBNP誘発減少が軽度のハンドグリップ運動中に大きく減衰し(灰色の円)、機能的交感神経遮断を示すことを示す、健常対照対象由来の代表的トレース。(B及びC)ハンドグリップがLBNP応答を減衰させることができないため、交感神経遮断が損なわれること(B、赤い円)、及び、LBNPによる筋肉酸素化の減少の運動誘発減衰によって示されるように、タダラフィルが機能的交感神経遮断を回復させること(C、黒い円)、を示すDMD患者由来の代表的トレース。各実験の終了時に、上腕カフは、前腕の循環を閉塞する超収縮期圧に膨張させ、全不安定信号(TLS)を算出するために、筋肉の酸素化の最大減少を生じさせた。
図8図8は、DMD患者では機能的交感神経遮断が損なわれ、緊急タダラフィル治療によって回復することを示す、10人のDMD患者及び10人の健常対照の要約データを示している。全不安定信号(TLS)の%(平均値±SE)として表されているデータ。P<0.01、安静対運動。
図9図9は、6人のDMD患者において、シルデナフィルが機能的交感神経遮断を等しく回復させることを示している。全不安定信号(TLS)の%(平均値±SE)として表されているデータ。P<0.01、安静対運動。
図10図10は、DMDにおいては運動後の充血が損なわれ、タダラフィルによって回復することを示している。安静から運動後への変化%(平均値±SE)として表されているデータ。P<0.05、未治療との比較。†P<0.05、患者対対照。
図11図11は、運動後の充血がシルデナフィルとタダラフィルによって回復されることを示している。安静から運動後への変化%(平均値±SE)として表されているデータ。P<0.05、未治療との比較。
図12図12A〜Dは、2つの異なるホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害物質のシルデナフィル(AとB)及びタダラフィル(CとD)を用いて、各薬物につき、0.5mg/kg体重から始めて1.0mg/kg体重まで増量させていく用量で治療した、DMDの9人の男児の24時間の薬物動態学的データを示している。十分に洗浄するため、各薬物は少なくとも2週間離された。平均値±SEとして報告されたデータ。
図13A図13Aは、予防的治療を受けていない患者(n=4)と比較された、LBNP中の反射性血管収縮の運動誘発減衰の同様の減損によって実証されるように、アンジオテンシン変換酵素阻害物質(リシノプリル、n=4)またはアンジオテンシン受容体遮断薬(ロサルタン、n=1)のいずれかによる予防的心血管治療も、DMDにおける機能的交感神経遮断を回復させないことを示している。全不安定信号(TLS)の%(平均値±SE)として表されているデータ。
図13B図13Bは、予防的治療を受けていない患者(n=5)と比較された、LBNP中の反射性血管収縮の運動誘発減衰の同様の減損によって実証されるように、アンジオテンシン変換酵素阻害物質(リシノプリル、n=4)またはアンジオテンシン受容体遮断薬(ロサルタン、n=1)のいずれかによる予防的心血管治療も、DMDにおける機能的交感神経遮断を取返さないことを示している。全不安定信号(TLS)の%(平均値±SE)として表されているデータ。
図14図14A〜Dは、DMD患者では機能的交感神経遮断は損なわれ、緊急タダラフィル治療によって回復することを示している。(A)左図は、前腕筋の酸素化(HbO2+MbO2)のLBNP誘発減少が軽度のハンドグリップ運動中に大きく減衰し(円)、機能的交感神経遮断を示すことを示す、健常対照対象由来の代表的トレースを示している。各実験の終了時に、上腕カフは、前腕の循環を閉塞する超収縮期圧に膨張させ、全不安定信号(TLS)を算出するために、筋肉の酸素化の最大減少を生じさせた。右図は、安静及び運動中に試験した10人の健常対照由来の前腕筋酸素化データの要約であり、TLSの%として表されている。(B)ハンドグリップはLBNP応答を減衰させることができないため(円)、交感神経遮断が損なわれることを示す、ベースライン(治療前)のDMD患者由来の代表的なトレース。要約データは、DMDの10人の男児について右図に示されている。(C)前腕筋酸素化のLBNP誘発減少が、軽度のハンドグリップ運動中に大きく減衰していることを示す(円)、タダラフィルで治療したDMD対象由来の代表的トレース。要約データは、10人のDMD患者について右図に示されている。(D)前腕筋酸素化のLBNP誘発減少が、軽度のハンドグリップ運動中に大きく減衰していることを示す(円)、シルデナフィルで治療したDMD対象由来の代表的トレース。要約データは、6人のDMD患者について右図に示されている。データは平均値±SEとして報告されている。
図15図15AおよびBは、タダラフィルと比較して、シルデナフィルが同様に機能的交感神経遮断を回復させることを示している。(A)安静及び軽度のリズミカルなハンドグリップ運動時(n=6)の、近赤外分光法による前腕筋酸素化の下半身陰圧(LBNP)誘発低下。全不安定信号(TLS)の%として表されているデータ。平均値±SEとして報告されたデータ。(B)機能的交感神経遮断(反射性血管収縮の運動誘発減衰)に及ぼすタダラフィル及びシルデナフィルの効果を示す患者固有のデータ。P1〜P6はシルデナフィルとタダラフィルの両方を受け、P7〜P10はタダラフィルのみ受けた。重度の運動のアーチファクトにより、低用量のタダラフィルの最中のP9におけるデータ解析が妨げられた。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の説明
本明細書に引用される全ての参照文献は、完全に記載されているかのように、その全体が参照として援用されている。特に定義しなければ、本明細書で使用される技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 3rd ed., J. Wiley & Sons (New York, NY 2001); March, Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure 5th ed., J. Wiley & Sons (New York, NY 2001); 及び Sambrook and Russel, Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (Cold Spring Harbor, NY 2001)は、当業者に、本出願で使用される多くの用語に対する一般的な指針を与える。当業者は、本発明の実施において使用することができる、本明細書に記載のものと類似または同等の多くの方法及び材料を認識するであろう。実際、本発明は、記載される方法および材料に決して限定されるものではない。
【0024】
本明細書で使用される「治療」及び「治療する」は、治療的処置と予防的または防止的手段の両方を指し、その目的は、その治療が最終的に成功しなくても、疾患を防止、遅延、及び/または軽減することである。
【0025】
本発明者らは、本明細書で、PDE5A阻害物質タダラフィルがBMD患者の筋肉の異常血管表現型を救済し、運動するヒトの骨格筋の反射性血管収縮のNO依存性調節を完全に回復させることを示す。
【0026】
本発明者らは、本明細書で、急性PDE5阻害が、DMDを有する男児の機能的筋虚血を軽減することも示す。本発明者らは、DMDを有する男児では運動後の骨格筋血流量の運動誘発増加が損なわれるという最新の血管表現型も同定しており、運動後の充血も急性PDE5阻害によって回復されることを示す。
【0027】
BMDは、DMDより稀である(各々、男児出生数で、19,000人に1人対3,500人に1人)ので、BMDに集中した治療試験は少なく、臨床的にははるかに異質である(3、11、33、34、36)。しかし、BMDは、出生から筋細胞膜nNOSμを排除している多くの患者においては、疾患の初期段階で成人患者に予防的介入を試験する機会を与え、DMDをBMDに変換することを目的とするエクソンスキッピングから期待される利点への見通しを提供するという性質の的確な実験を提供する。DMD患者のほとんどは、副腎皮質ステロイド(デフラザコートまたはプレドニゾン)で治療されており、多くは、交感神経遮断に影響すると考えられる予防的心臓保護薬(1、2)で治療されているのに対し、本発明者らのBMD患者のほとんどは、試験薬以外の薬剤を服用していなかった。本発明者らは、NOを破壊する反応性酸素種(19、20、37)の産生によって交感神経遮断を損ない得る、心不全または高血圧症を有するBMD患者を除外した。
【0028】
機能的交感神経遮断はBMDと正常なLVEFとを有する成人外来患者の10人に9人には存在しなかったが、しかし、筋細胞膜nNOSμを発現することが示された1人の患者には存在したということは、筋細胞膜nNOSμが活動骨格筋における交感神経性血管収縮の通常の調節に不可欠であるという、ヒトにおける新たな証拠を提供している。このような調節が存在しない場合、着席しながら、日常生活の腕の運動の繰り返しを行うBMD患者の一般的な状態をシミュレートして、軽度の起立性ストレス中に軽い運動をすると、前腕の筋肉は虚血になる。成人のBMD患者における新しいデータは、DMDの小児患者(14)においては、mdxマウス(16)、nNOS欠損マウス(16)、筋細胞膜nNOSμが欠如したα−シントロフィン欠損マウス(19)、及び、一般的なBMD突然変異のように、nNOSμを筋細胞膜に向けることができない切断型ジストロフィンを生成するジストロフィンミニ遺伝子を発現するmdxトランスジェニックマウス(11)における場合と同様に、交感神経遮断も存在しないという本発明者らの以前の研究を拡張する。
【0029】
最近のマウスの研究は、損なわれた交感神経伝達、すなわち、安静中のmdx骨格筋においてさえ明らかである交感神経終末のレベルでの主要な神経欠損によって、運動中に克服するべき交感神経性血管収縮が少ないことを示唆している(38、39)。本発明者らのデータは、バルビツーレート麻酔をかけたマウスにおけるこの発見は、意識あるBMDヒト患者には適用できないことを示している。これは、安静にしているBMDマウスの筋肉における、交感神経刺激を反射するための血管収縮反応は、通常と区別できないからである。筋肉が運動されるまで、安静にしているDMD骨格筋における反射性交感神経性血管収縮も減衰しない(14)。
【0030】
本発明者らの研究の重要な発見は、プラセボを与えられた場合に交感神経遮断が欠如した9人のBMD患者のうちの8人において、タダラフィルが微小血管虚血を軽減し、血流量調節を完全に回復させたということである。タダラフィルの効果は、劇的かつ即時であり、単回投与で生じた。特定の理論に縛られることを望まないが、本発明者らは、PDE5A阻害物質が、ジストロフィン欠損骨格筋の細胞質ゾルに置き違えられたnNOSμから生じる残留NO−cGMPの信号を増加させると考えている。細胞質のnNOSは、ほとんどのBMD患者で発見されており(40)、実際本発明者らの2人の患者で検出され、該患者の筋生検組織が調査のために利用可能であった。タダラフィルは安静にしているBMDの骨格筋における反射性血管収縮にも体血圧にも影響を与えないということは、この設定におけるタダラフィルの運動固有の動作が、内皮NOS(eNOS)由来のNOまたは交感神経流出の中枢阻害のいずれも含まないことを示唆した。
【0031】
タダラフィルは、他のPDE5A阻害物質とは異なり、(臨床用量でのcAMPに影響を与えずに)cGMPに特異的であるため(41、42)、本発明者らのヒトのデータは、BMDとDMDとのための潜在的な新しい薬物標的として血管NO−cGMPのシグナリングを示唆する以前のmdxマウスの研究を確認するだけでなく、拡張する。Asaiらは、電気的に誘発された筋収縮による微小血管の流れの通常の増加は、麻酔下のmdxマウスでは鈍化し、ジストロフィー筋組織構造は、タダラフィルの出生前投与によって改善できることを示した(28)。しかし、この著者らは、血管の調節不全もタダラフィルによって改善されるかどうかを報告しなかった。Kobayashiらは、短期間の一連の並はずれた(すなわち、傷害を生成する)運動後のmdxマウスで、単回投与タダラフィルが、筋肉内細動脈のけいれん(並びに筋損傷及び疲労の指標)を、劇的に排除することを示した(29)。小林らのマウスの研究における最適用量は、臨床医学で使用される最も高いタダラフィル用量より500〜1,000倍高かったが、一方、本発明者らのBMD患者の機能的筋虚血を回復させる20mgのタダラフィル用量は、タダラフィルに対してFood and Drug Administration(FDA)が承認した他の指標である、勃起不全治療するために男性に臨床的に使用される用量と同じであり、肺高血圧症の成人患者を治療するために使用される用量の半分である。
【0032】
慢性のPDE5A阻害が勃起障害または肺高血圧を治療するのに用いられる場合、患者は耐性が生じない。対照的に、慢性のニトログリセリン(短時間作用性NOドナー)で、健常者は、NO媒介交感神経遮断を損なう反応性酸素種に起因するニトレート耐性が迅速に生じる(44)。本発明のデータは、筋細胞膜のnNOSμが、運動しているヒト骨格筋における交感神経性血管収縮の正常な調節に重要な役割を果し、BMDの想定される新たな治療戦略としてPDE5A阻害のファースト・イン・ヒューマン研究を構成する、という本発明者らの仮説と一致している。脆弱ジストロフィン欠損筋膜に対するPDE5A阻害物質によって虚血侵襲を軽減することは、使用依存性筋損傷を減少させることができ、それによって疾病の進行を遅らせる。また、PDE5A阻害は、NOSμの標的筋細胞膜を回復させ得るかまたは回復させ得ない、切断型BMD様ジストロフィンを生成するために、DMDについて調査中であるエクソンスキッピングに対する重要な補助的な物であることができる(49、50)。PDE5A阻害物質を再利用することは、新しい薬物開発が必要ではないので、筋ジストロフィーにおいて臨床診療を迅速に変え得る。筋細胞膜nNOSμの喪失は、後天性及び遺伝性のヒト神経筋疾患の重症例において、並びにステロイド筋疾患および(47)不使用萎縮(51)のマウスモデルにおいて一般的であるので(29、47)、本発明者らの研究の発見は、BMDを超えて広範な患者集団に拡張することができる。
【0033】
交感神経遮断が現代のDMD患者では損なわれているということは、DMD患者が任意の薬剤で治療される前に、10年にわたって十分なされた本発明者らの以前の観察を確認し、拡張する。グルココルチコイドは、DMDの医学的管理における最初の重要な進歩を示しているが、グルココルチコイド治療を受けた患者における本発明者らの新しいデータは、プレドニゾンにもデフラザコートにもよらない長期治療が、機能的虚血からジストロフィー筋を保護することを示している。ACE−I(リシノプリル)とARB(ロサルタン)が、DMDを有する男児において、心不全の発症を遅らせるための予防的治療としてますます使用されているが、これらの薬物が、NOを破壊する反応性酸素種を減らし、それによって高血圧及び心不全などの普通の後天的成人心血管疾患において交感神経遮断を回復させることができるとしても、本発明者らのデータは、リシノプリルにもロサルタンにもよらない長期治療が、DMDにおいて交感神経遮断を回復させることを示している。
【0034】
対照的に、本研究の独創的な発見は、現在の標準的ケアによって与えられるものに対して付加的な予想される利益を提供して、タダラフィルがDMDを有する男児において交感神経遮断を回復させるということである。この効果は、顕著で、即時的、かつ用量依存性である。本発明者らの研究で使用したより低い用量は、20mgの成人用量とほぼ同等であり、この用量は、本明細書では、BMDを有する成人の機能的虚血を軽減することを示しており、かつ勃起不全を治療するのにFDAによって承認された最高用量である。本発明者らのより高い用量は、成人肺高血圧症を治療するためにFDAによって承認された40mgの用量とほぼ同等であり、小児肺高血圧症を治療するのに最も一般的に使用されるのと同じ用量である。
【0035】
前臨床試験で使用された主要PDE5阻害物質であったシルデナフィルと、タダラフィルは、異なる化学構造にもかかわらず、DMDを有する男児において交感神経遮断を回復させる能力では実質的に同等であったということは、作用機構としてのPDE5阻害を強く暗示している。PDE5は、cGMP特異的ホスホジエステラーゼであるので、本発明者らのデータは、PDE5阻害は、ジストロフィンがない場合に、筋細胞膜から置き違えられた細胞質ゾルのnNOSから生じる残留NO−cGMPの信号をブーストするという仮説を支持している。PDE5阻害物質が、安静にしているDMD骨格筋の反射性血管収縮または血流量にも、全身血圧にも影響しないということは、運動固有の活性が、内皮NOS由来のNOにも交感神経流出の中枢阻害にも関与しないことを示唆している。
【0036】
さらに、タダラフィルが交感神経遮断だけでなく、運動誘発の充血も正常化したが、これは、DMDを有する男児では著しく鈍化したということは、将来性のあるmdxマウス研究の非常に類似した臨床解釈のためのさらなる証拠を提供している。この新規な知見は、運動しているヒト骨格筋から放出されたNOが、アルファ−アドレナリン刺激がなくても、血管拡張作用を正常に発揮することも示唆している。血流量データはさらに、運動誘発充血を完全に回復させるためには、交感神経遮断の場合よりも高い程度のPDE5阻害が必要であることを示唆している。交感神経遮断は、具体的に最も遠位の骨格筋の微小血管における神経性血管収縮反応の減衰を反映しているのに対し、運動誘発充血は、複数の血管セグメントと完全には理解されていない複数の活動的な血管拡張のメカニズムとに関係する。
【0037】
本データは、PDE5阻害はDMD患者のための治療であるという説得力のある証拠を提供し、疾患の進行を遅くし、生活の全体的な質を改善するために、推定治療標的としてDMDにおける血管仮説を進める。
【0038】
本発明の様々な実施形態は、少なくとも部分的に、これらの発見に基づいている。
【0039】
本発明の様々な実施形態は、筋ジストロフィーを治療する方法を提供する。様々な実施形態では、筋ジストロフィーの治療は、筋ジストロフィーの疾患の進行を減速する。様々な実施形態では、本方法は、筋ジストロフィーの治療を必要とする対象にある量のホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)またはその塩を投与することを含む。他の実施形態では、本方法は、ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、筋ジストロフィーの治療を必要とする対象にある量のPDE5A阻害物質を投与することとを含む。
【0040】
特定の実施形態では、筋ジストロフィーはベッカー型筋ジストロフィー(BMD)であり、他の実施形態では、筋ジストロフィーはデュシェンヌ型筋ジストロフィーである。
【0041】
本発明の様々な実施形態は、機能的交感神経遮断の回復を必要とする対象にある量のPDE5A阻害物質を投与することを含む、機能的交感神経遮断を回復させる方法を提供する。様々な実施形態では、本方法は、ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、機能的交感神経遮断の治療を必要とする対象にある量のPDE5A阻害物質を投与することとを含む。様々な実施形態では、本方法は、機能的交感神経遮断を、少なくともまたは最大で1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、95、96、97、98、99、または100%回復させる。
【0042】
本発明の様々な実施形態は、ジストロフィン欠損筋膜への虚血侵襲を軽減する方法を提供する。様々な実施形態では、本方法は、ジストロフィン欠損筋膜への虚血侵襲の軽減を必要とする対象にある量のホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)またはその塩を投与することを含む。他の実施形態では、本方法は、ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、ジストロフィン欠損筋膜への虚血侵襲の軽減を必要とする対象にある量のPDE5A阻害物質を投与することとを含む。
【0043】
本発明の様々な実施形態は、使用依存性筋損傷を減少させる方法を提供する。様々な実施形態では、本方法は、使用依存性筋損傷を減少させることを必要とする対象にある量のホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)またはその塩を投与することを含む。他の実施形態では、本方法は、ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、使用依存性筋損傷の減少を必要とする対象にある量のPDE5A阻害物質を投与することとを含む。
【0044】
本発明の様々な実施形態は、運動後の充血を軽減する方法を提供する。様々な実施形態では、本方法は、運動後の充血を軽減することを必要とする対象にある量のホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)またはその塩を投与することを含む。他の実施形態では、本方法は、ホスホジエステラーゼ5A(PDE5A)阻害物質またはその塩を提供することと、運動後の充血の軽減を必要とする対象にある量のPDE5A阻害物質を投与することとを含む。
【0045】
様々な実施形態では、PDE5A阻害物質は、アバナフィル、ロデナフィル、ミロデナフィル、シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、ウデナフィル、ザプリナスト、UK357903((ファイザー)1−エチル−4−{3−[3−エチル−6,7−ジヒドロ−7−オキソ−2−(2−ピリジルメチル)−2H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−5−イル]−2−(2−メトキシエトキシ)−5−ピリジルスルホニル}ピペラジン))、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0046】
いくつかの実施形態では、PDE5A阻害物質はタダラフィル又はその塩である。いくつかの実施形態では、PDE5A阻害物質はシルデナフィルまたはその塩である。いくつかの実施形態では、PDE5A阻害物質はバルデナフィルまたはその塩である。いくつかの実施形態では、PDE5A阻害物質はUK357903である。
【0047】
いくつかの実施形態では、対象はヒトである。特定の実施形態では、対象は成人である。特定の実施形態では、対象は成人男性である。例えば、BMDが治療される実施形態では、成人男性において治療される。他の実施形態では、対象は成人女性である。いくつかの実施形態では、対象は小児(例えば、17歳以下)である。特定の実施形態では、対象は、男児である。例えば、DMDが治療される実施形態では、男児において治療される。
【0048】
いくつかの実施形態では、PDE5A阻害物質の量は、約1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、10、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、125、130、140、または150mgである。
【0049】
特定の実施形態では、PDE5A阻害物質の量は、例えば、重労作の期間の前、より高いレベルの身体活動が予想される日の前といった、必要に応じて使用する1回投与治療に対する。例えば、子供が通常よりも活動的であることが予想される遊園地にいる日の1日前に、1回用量を子供に投与することができる。これらの実施形態では、PDE5A阻害物質の量は、約0.5〜1.0mg/kg体重、または約1.0〜2.0mg/kg体重であることができる。
【0050】
特定の実施形態では、PDE5A阻害物質の量は、連続的な毎日の使用のための量である。連続用量の量は少なく、例えば、100mg以下、50mg以下、または20mg以下となる。
【0051】
PDE5A阻害物質がタダラフィル又はその塩である、いくつかの実施形態では、その量は、約2.5、5、10、または20mgである。PDE5A阻害物質がタダラフィル又はその塩である、いくつかの実施形態では、その量は、約1、2、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、または40mgである。特定の実施形態では、その量は、約0.5〜1.0mg/kg体重である。子供が治療される実施形態では、0.5〜1.0mg/kg体重の量は、用量が0.5〜1.0mg/kg体重に達しなくても、典型的には40mgを超えない(例えば、重い子供において)。特定の実施形態では、その量は、例えば、必要に応じて使用する(例えば、重労作の期間の前、より高いレベルの身体活動が予想される日の前に)ための1回投与治療に対し、1日当たり約20〜40mgである。特定の実施形態では、その量は、連続的な毎日の使用に対し、1日あたり20mg以下であり、例えば、約1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20mgである。連続的な毎日の使用に関する特定の実施形態では、その量は、約0.2〜0.7mg/kg体重、または約0.3〜0.6mg/kg体重である。特定の実施形態では、その量は約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、または0.7mg/kgである。特定の実施形態では、その量は、約0.3mg/kgである。特定の実施形態では、その量は、約0.6mg/kgである。子供が治療される実施形態では、0.2〜0.7mg/kg体重、または約0.3〜0.6mg/kg体重の量は、(例えば、重い子供において)用量が0.5〜1.0mg/kg体重に達しなくても、典型的には40mgを超えない。典型的には、連続的な毎日の使用の用量は、40mg/日を超えない。
【0052】
PDE5A阻害物質がシルデナフィル又はその塩である、いくつかの実施形態では、その量は、約20、25、50、または100mgである。PDE5A阻害物質がシルデナフィル又はその塩である、いくつかの実施形態では、その量は、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、75、80、90、100、110、120、125、130、140、または150mgである。特定の実施形態では、その量は、約0.5〜1.0mg/kg体重である。特定の実施形態では、その量は、例えば、必要に応じて(例えば、重労作の期間の前に、またはより高いレベルの身体活動が予想される日の前に)使用するための1回投与治療に対し、1日当たり約20〜40mgである。特定の実施形態では、その量は、連続的な毎日の使用に対し、1日あたり20mg以下であり、例えば、約1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20mgである。連続的な毎日の使用に関する特定の実施形態では、その量は、約0.2〜0.7mg/kg体重、または約0.3〜0.6mg/kg体重である。子供が治療される実施形態では、0.2〜0.7mg/kg体重、または約0.3〜0.6mg/kg体重の量は、(例えば、重い子供において)用量が0.5〜1.0mg/kg体重に達しなくても、典型的には40mgを超えない。典型的には、連続的な毎日の使用の用量は、40mg/日を超えない。
【0053】
PDE5A阻害物質がバルデナフィル又はその塩である、いくつかの実施形態では、その量は、約2.5、5、10、または20mgである。PDE5A阻害物質がバルデナフィル又はその塩である、いくつかの実施形態では、その量は、約1、2、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、または30mgである。特定の実施形態では、その量は、約0.5〜1.0mg/kg体重である。特定の実施形態では、その量は、例えば、必要に応じて(例えば、重労作の期間の前に、またはより高いレベルの身体活動が予想される日の前に)使用するための1回投与治療に対し、1日当たり約20〜40mgである。特定の実施形態では、その量は、連続的な毎日の使用に対し、1日あたり20mg以下であり、例えば、約1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20mgである。連続的な毎日の使用に関する特定の実施形態では、その量は、約0.2〜0.7mg/kg体重、または約0.3〜0.6mg/kg体重である。子供が治療される実施形態では、0.2〜0.7mg/kg体重、または約0.3〜0.6mg/kg体重の量は、(例えば、重い子供において)用量が0.5〜1.0mg/kg体重に達しなくても、典型的には40mgを超えない。典型的には、連続的な毎日の使用の用量は、40mgを超えない。
【0054】
特定の実施形態では、上記量のPDE5A阻害物質は、1日に1、2、3、4、または5回投与される。特定の実施形態では、上記量のPDE5A阻害物質は、1日に1回投与される(例えば、タダラフィルは、1日に1回投与される)。特定の実施形態では、上記量のPDE5A阻害物質は、1日に3回またはある期間にわたって1日に3回投与される(例えば、シルデナフィルは、1日に3回投与される)。
【0055】
いくつかの実施形態では、上記量のPDE5A阻害物質は、身体労作が計画された期間の前に投与される。いくつかの実施形態では、上記量のPDE5A阻害物質は、身体労作が計画された期間の約4、3、2、または1時間前に投与される。特定の実施形態では、上記量のPDE5Aは、身体労作が計画された期間の約2.5、3、または3.5時間前に投与される。特定の実施形態では、上記量のPDE5Aは、身体労作が計画された期間の約3時間前に投与される。
【0056】
いくつかの実施形態では、連続的な毎日の投与は、上記のPDE5A阻害物質の量を目覚めてすぐに毎朝摂取することで行うことができる。いくつかの実施形態では、上記量のPDE5A阻害物質は、その日の目覚めてすぐに毎日摂取される。例えば、遅いシフトで雇用されている対象では、その日の目覚めは、午後になってもよい。従って、これらの対象では、毎日の量は、目覚めてすぐに午後に摂取される。
【0057】
いくつかの実施形態では、上記量のPDE5A阻害物質は身体活動の前に投与される。
【0058】
特定の実施形態では、上記量のPDE5A阻害物質は、1、2、3、4、5、6、または7日間投与される。特定の実施形態では、上記量のPDE5A阻害物質は、1、2、3、4、5、6、7、または8週間投与される。特定の実施形態では、上記量のPDE5A阻害物質は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12ヶ月間投与される。特定の実施形態では、上記量は、無限に投与され得る。
【0059】
本発明の様々な実施形態は、約20mgのタダラフィルまたはその塩を提供することと、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)の治療を必要とする成人対象に、上記約20mgのタダラフィルまたはその塩を投与することとを含む、BMDを治療する方法を提供する。様々な実施形態では、成人対象は男性である。
【0060】
本発明の様々な実施形態は、約0.5〜1.0mg/kgのタダラフィルまたはその塩を提供することと、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療を必要とする小児対象に、上記約0.5〜1.0mg/kgのタダラフィルまたはその塩を投与することとを含む、DMDを治療する方法を提供する。様々な実施形態では、小児対象は男である。
【0061】
本発明の様々な実施形態は、約0.3〜0.6mg/kgのタダラフィルまたはその塩を提供することと、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療を必要とする小児に、上記約0.3〜0.6mg/kgのタダラフィルまたはその塩を投与することとを含む、小児供のDMDを治療する方法を提供する。様々な実施形態では、小児対象は男性である。特定の実施形態では、約0.3mg/kgのタダラフィル又はその塩が提供され、投与される。特定の実施形態では、約0.6mg/kgのタダラフィル又はその塩。
【0062】
様々な実施形態において、本発明は、治療有効量のPDE5A阻害物質とともに、薬学的に許容可能な賦形剤を含む薬学的組成物を提供する。「薬学的に許容可能な賦形剤」は、一般に安全で、非毒性であり、望ましい薬学的組成物の調製に有用な賦形剤を意味し、ヒトの薬学的使用のためだけでなく獣医学的使用のためにも許容可能な賦形剤を含む。このような賦形剤は、固体、液体、半固体、または、エアロゾル組成物の場合には、気体であってもよい。
【0063】
様々な実施形態において、本発明に係る薬学的組成物は、任意の投与経路を介した送達のために製剤化することができる。「投与経路」は、当該技術分野で知られている任意の投与経路を指すことができ、エアロゾル、鼻腔、口腔、粘膜、経皮または非経口を含むが、これらに限定されない。「経皮」投与は、外用クリームまたは軟膏の使用または経皮パッチの手段によって達成することができる。「非経口」は、一般に、眼窩内、注入、動脈内、嚢内、心臓内、皮内、筋肉内、腹腔内、肺内、脊髄内、胸骨内、鞘内、子宮内、静脈内、くも膜下、被膜下、皮下、経粘膜、または経気管を含む、注射に関連する投与経路を指す。非経口経路によって、組成物は、注入または注射のために溶液または懸濁液の形態であってもよいか、または凍結乾燥粉末としての形態であってもよい。経腸経路によって、薬学的組成物は、制御された放出を可能にする錠剤、ゲルカプセル、糖衣錠、シロップ、懸濁液、溶液、粉末、顆粒、エマルション、ミクロスフェアもしくはナノスフェア、または脂質ベシクルもしくはポリマーベシクルの形態であることができる。非経口経路によって、組成物は、注入または注射用の溶液または懸濁液の形態であってもよい。局所的経路によって、本発明に係る化合物に基づく薬学的組成物は、皮膚及び粘膜を治療するために製剤化することができ、軟膏、クリーム、乳液、膏薬、粉末、含浸パッド、溶液、ゲル、スプレー、ローション、または懸濁液の形態である。それらは、制御された放出を可能にするマイクロスフェアまたはナノスフェアまたは脂質ベシクルまたはポリマーベシクルまたはポリマーパッチおよびヒドロゲルの形態であることができる。これらの局所的経路組成物は、臨床的徴候に応じて、無水形態または水性形態のいずれかであることができる。眼経路によって、それらは点眼剤の形態であってもよい。
【0064】
本発明に係る薬学的組成物は、任意の薬学的に許容可能な担体も含有することができる。本明細書で使用される「薬学的に許容可能な担体」は、目的の化合物を、1つの組織、器官、または身体の一部から、他の組織、器官、または身体の一部へ担持または輸送することに関与する、薬学的に許容可能な材料、組成物、またはビヒクルを指す。例えば、担体は、液体または固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、またはカプセル化材料、またはそれらの組合せであってもよい。担体の各成分は、製剤の他の成分と適合性でなければならないという点で、「薬学的に許容可能」でなければならない。担体の各成分は、それが接触し得る任意の組織または器官との接触に使用するのにも適していなければならない。このことは、担体の各成分が、毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、またはその治療上の利点を過度に上回る任意の他の合併症の危険性を担持してはならないことを意味する。
【0065】
本発明に係る薬学的組成物は、経口投与用に、カプセル化すること、錠剤化すること、またはエマルジョンもしくはシロップ剤に調製することもできる。薬学的に許容可能な固体または液体担体を、組成物を増強または安定化するために、または組成物の調製を容易にするために添加してもよい。液体担体は、シロップ、ピーナッツ油、オリーブ油、グリセリン、生理食塩水、アルコール、および水を含む。固体単体は、デンプン、ラクトース、硫酸カルシウム、二水和物、石膏、ステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸、タルク、ペクチン、アカシア、寒天、またはゼラチンを含む。担体は、単独でまたはワックスとともに、グリセリルモノステアレートまたはグリセリルジステアレートなどの徐放性材料も含むことができる。
【0066】
薬学的調製物は、錠剤形態のために製粉、混合、造粒、及び、必要な場合には圧縮を含むか、または、硬質ゼラチンのカプセル形態のために製粉、混合、及び充填を含む、薬学の従来の技術に従って作製される。液体担体が使用される場合、調製物はシロップ、エリキシル、エマルション、または水性もしくは非水性懸濁液の形態である。このような液体製剤は、直接経口投与するか、または軟質ゼラチンカプセルに充填することができる。
【0067】
本発明に係る薬学的組成物は、治療有効量で送達され得る。正確な治療有効量は、所与の対象における治療の有効性の点で最も有効な結果をもたらす組成物の量である。この量は、様々な要因に依存して変化しうる。この要因は、治療化合物の特性(活性、薬物動態、薬力学、および生物学的利用能を含む)、対象の生理的状態(年齢、性別、疾患の種類及び段階、一般的身体状態、所与の用量に対する応答性、並びに薬剤の種類を含む)、製剤において薬学的に許容可能な担体の性質、及び投与経路を含むが、これらに限定されない。追加のガイダンスについては、Remington:The Science and Practice of Pharmacy (Gennaro ed. 20th edition, Williams & Wilkins PA, USA)(2000)を参照。
【0068】
キット
本発明は、筋ジストロフィーの治療のためにキットにも指向している。このキットは、本発明の筋ジストロフィーを治療する方法を実施するのに有用である。このキットは、本発明の組成物のうちの少なくとも1つを含む、材料または成分の組合せである。従って、いくつかの実施形態では、このキットは、上述のPDE5A阻害物質を含む組成物を含有する。
【0069】
本発明のキットで構成される成分の正確な性質は、その意図された目的に依存する。例えば、いくつかの実施形態は、筋ジストロフィーを治療する目的のために構成される。一実施形態では、キットは、特にヒト対象を治療する目的のために構成される。他の実施形態では、キットは、特に成人対象を治療する目的のために構成される。他の実施形態では、キットは、特に子供を治療する目的のために構成される。他の実施形態では、キットは、特にDMDを治療する目的のために構成される。他の実施形態では、キットは、特にBMDを治療する目的のために構成される。他の実施形態では、キットは、特に連続的な毎日の用量を提供する目的のために構成される。他の実施形態では、キットは、特に必要に応じて使用用量を提供する目的のために構成される。さらなる実施形態では、キットは、農場動物、家畜、実験動物などの対象を治療する、獣医学的用途のために構成されるが、これらに限定されない。
【0070】
使用説明書がキットに含まれ得る。「使用説明書」は、典型的には、望ましい結果をもたらすためにキットの成分を使用する際に使用される技術を説明する具体的な表現を含む。これらは、筋ジストロフィーを治療すること、BMDを治療すること、DMDを治療すること、脆弱なジストロフィン欠損筋膜への虚血侵襲を軽減すること、使用依存性筋損傷を減少させること、筋ジストロフィーの疾患進行を遅延させることなどである。必要に応じて、キットは、当業者が容易に認識されるであろう、希釈剤、緩衝剤、薬学的に許容可能な担体、シリンジ、カテーテル、アプリケータ、ピペット操作または測定のツール、包帯材料または他の有用な道具類などの、他の有用な成分も含む。
【0071】
キットに組み立てられた材料または成分は、それらの操作性および有用性を維持する任意の便利で適切な方法で格納されて、施術者に提供することができる。例えば、成分は、溶解、脱水、または凍結乾燥形態であることができ、それらは室温、冷蔵または冷凍温度で提供することができる。成分は、典型的には、適切な包装材料に収容されている。本明細書で使用される場合、用語「包装材料」は、本明細書等に記載されるPDE5A阻害物質などのキットの内容物を収容するために使用される1つ以上の物理的構造物を指す。包装材料は、好ましくは無菌の、汚染のない環境を提供するために、周知の方法で構成される。キットに用いられる包装材料は、通常、治療的処置に利用されるものである。本明細書で使用される場合、用語「パッケージ」は、個々のキット成分を保持することができる、ガラス、プラスチック、紙、箔等などの適切な固体マトリックスまたは材料を指す。従って、例えば、パッケージは、適切な量のPDE5A阻害物質を含む組成物を収容するために使用されるプラスチック製のボトルであり得る。包装材料は、一般に、キット及び/またはその成分の内容及び/または目的を示す外部ラベルを有する。
【実施例】
【0072】
以下の実施例は、特許請求された本発明をさらによく例示するために提供されており、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。具体的な材料が言及されている範囲では、実施例は例示の目的のためだけのものであり、本発明を限定するものではない。当業者は、本発明の能力を行使することなく、かつ本発明の範囲から逸脱することなく、同等の手段または反応物を開発することができる。
【0073】
実施例1−ベッカー型筋ジストロフィー
対象
本発明者らは、正常なLVEFを有する18〜55歳の10人の歩行可能なBMDを有する男性患者、及び年齢とBMIが一致する7人の健常男性対照を調査した。すべての患者は、BMDの既存の臨床診断を受けており、本発明者らは、ジストロフィン遺伝子の直接配列決定解析で確認した(University of Utah Genome Center, Salt Lake City,UT)。
【0074】
潜在的な対象(症例と対照の両方)は、もし彼らが、高血圧の病歴もしくは測定血圧>140/90mmHg;糖尿病;病歴、身体検査、上昇脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、もしくは心エコー法によるLVEF<50%による心不全;夜間人工呼吸器のサポート;血清クレアチニン≧1.5mg/d;物質乱用(アルコールを含む)もしくは他の精神疾患の病歴;またはタダラフィルの禁忌(ニトレート、αアドレナリン遮断薬、他のPDE5A阻害物質、もしくは強力なシトクロムP4503A4の阻害物質の使用)を有していた場合、調査から除外した。
【0075】
この調査は、シーダーズ−シナイメディカルセンターの施設内審査委員会によって承認され、各対象は十分な説明に基づく書面同意を与えて参加した。この試験でタダラフィルを使用するために、調査中の新規薬物申請のための権利放棄がFDAによって付与された。本研究はclinicaltrials.gov(識別子NCT01070511)で登録された。
【0076】
ジストロフィン遺伝子の直接配列決定解析
ジストロフィン遺伝子の変異スクリーニングが、全血から単離されたゲノムDNAの多重ライゲーション依存プローブ増幅(MLPA)により行われた(52)。試験は、筋肉の主要なmRNA転写物アイソフォーム(Dp427m、参照mRNA転写物NM004006)の79個のすべてのコーディングエクソンにおける重複をスクリーニングするために、MLPAを用いて、ジストロフィン遺伝子におけるシングルまたはマルチのエクソンの重複を調査した。MLPAは、MRC−オランダからのP034とP035キットを用いて、記載されているように(53)行った。これらMLPA反応は、ゲノムDNA上で実施した。エクソン欠失の程度は、各限定エクソンが存在しないことを確認するために、4つの独立したプライマー対を用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(54)によって確認した。
【0077】
血行動態測定
対象は仰臥位で調査した。心拍数は、自動化されたオシロメトリック血圧測定(Welch Allyn Vital Signs Monitor 300 Series, Skaneateles Falls, NY)により心電図及び血圧によって連続的に測定した。
【0078】
NIR分光法における骨格筋の酸素化
前腕の筋肉の酸素化は、近赤外(NIR)分光法を用いて測定された。これは、700〜900nmの範囲の波長のレーザ光は、容易に骨格筋に侵入し、ヘモグロビンおよびミオグロビンの鉄ポルフィリン部分に吸収されるという原理に基づいている。NIR光吸収の変化は、酸素化ヘモグロビンとミオグロビン(HbOとMbO)の相対濃度の変化に比例する。それらのほぼ同一の吸収スペクトルのため、HbOとMbOの個々の寄与を決定することはできない。直径1mmよりも大きな血管は、血液の高い吸光係数により、光子の最大吸収体となるため、NIR信号は、微小血管系で主に発生する酸素化の変化を反映する。従って、NIR分光法は、その使用に対する組織の酸素運搬の妥当性に関する継続的な測定を提供する。
【0079】
NIR光の組織吸収をモニタするには、カスタマイズされた柔軟なゴム製のケースに収納された5本の光ファイババンドル(光電子増倍管に接続された4本の発光バンドル及び1本の検出器バンドル)が、ハンドグリップの最中に回復する主要な筋肉である、深指屈筋の上の皮膚に接着剤で配置される。4つの固定されたエミッタ−検出器距離(1.5、2.0、2.5、及び3.0cm)は、皮膚と皮下非筋肉組織(55)からの散乱の直接的算出、従って、減算を可能にした。各発光バンドルは、2つのレーザダイオード光源を含んでいた。1つは酸素化及び脱酸素化したHb/Mbの種が同様の吸収係数を示す波長である、830nmの光源であり、もう1つは、光が主に脱酸素化した種によって吸収される波長である、690nmの光源である。2つの波長間の吸収の違いは、HbO+MbO(56)である。NIR信号は、5Hzの速度でサンプリングされ、検証アルゴリズムを使用してHbO+MbO濃度に変換され、50の連続したサンプルの移動平均として表示され、解析(OxiplexTS, ISS, Inc. Champaign, IL)のためにデジタルで保存された。各実験の前に、各波長での吸収と散乱係数は、外部標準に対して較正された。各実験後、カフは、「全不安定信号」(TLS、筋肉組織の酸素化のベースラインと最下点の間の差)を確立するために、上腕上で250mmHgの超収縮期圧力に膨張させた。前腕組織の酸素化の変化は、TLSの%として表した。
【0080】
ハンドグリップ運動
ハンドグリップ運動は、ダイナモメータ(Stoelting, Wood Dale, ILによって修正されたSmedley Hand Dynamometer)によって行われた。MVCを決定するために、各対象はダイナモメータをできるだけ固くグリップするように頼まれた。力の出力は、対象に視覚的なフィードバックを提供するために、コンピュータ画面上に表示された。対象は、7分間に20%MVCでの断続的な等尺性ハンドグリップ(20ハンドグリップ/分、50%のデューティサイクル)を行った。この軽度のレベルのハンドグリップ運動だけでは、骨格筋への交感神経流出を活性化しない(13、57)。
【0081】
下半身陰圧による反射性交感神経活性化
上記のように、対象の下半身を腸骨稜のレベルまで陰圧チャンバ内に収容した(13)。チャンバ内の圧力は、Statham transducer(Gould Inc., Oxnard, CA)を用いて測定した。−20mmHgでのLBNPは軽度の起立性ストレス(すなわち、仰臥位から座位への移行)をシミュレートする。この技術は、心肺圧受容器を開放して、全身の動脈圧を変更することなく、骨格筋の血管系への交感神経性血管収縮駆動において再現性の高い反射性増加を生じさせる(13、58〜60)。
【0082】
機能的交感神経遮断
反射性血管収縮の運動誘発減衰(すなわち、機能的交感神経遮断)を測定するために、LBNPを安静時に適用し(a)、次いで軽度のハンドグリップ運動に併発させた(b)。反射性血管収縮は、NIR分光法による前腕筋の酸素化のLBNP誘発の減少として測定した。このアプローチは、これらの条件下で反射性神経性血管収縮の有効な尺度を提供する(13)。
【0083】
BP、心拍数、ハンドグリップ力、及びNIR信号が、安静時に及び7分間の運動期間の3分〜5分の間に適用された2分間のLBNPへの応答で記録された。
【0084】
症例−対照の調査のためのプロトコール
すべての対象は、臨床検査、総合的な血液化学パネル、心電図、及び心エコー図により、適格性についてスクリーニングされた。BMD患者も、CK、BNP、及びDNAのために、採血された。すべての適格な対象では、機能的交感神経遮断が、2つの別々の日に両腕(順不同)で測定された。すべての4つの測定値は、各対象の平均値を算出するために平均された。
【0085】
タダラフィル緊急治療試験のためのプロトコール
症例−対照プロトコールを完了したすべてのBMD患者は、(タダラフィルの17.5時間の消失半減期を考慮して)クロスオーバーの前の2週間の洗浄期間を伴う、ランダム化されたプラセボ対照二重盲検クロスオーバーデザインを利用した、タダラフィル治療試験も完了した。患者は、調査前夜に(有害事象を試験するために)経口タダラフィルまたはプラセボの10mgの試験投与を受け、翌朝、機能的交感神経遮断(両腕の)の測定の少なくとも3時間前に(ピークタダラフィル吸収を可能にするために)、タダラフィルまたはプラセボの20mg錠を受けた。タダラフィル/プラセボの順序はランダムであった。薬物またはプラセボの試験投与と調査投与の両方のために、研究薬剤師は、患者及び研究者に見えないように、タダラフィル錠剤またはラクトース粉末(プラセボ)を不透明なカプセル中に配置した。患者は、安全性の監視のためおよび盲検が維持されているかどうかを評価するための両方で、潜在的なタダラフィル固有の副作用について質問された。タダラフィルの血中濃度は、高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析(NMS Labs Willow Grove, PA)を用いて測定した。
【0086】
免疫組織化学
2人の患者(P5及びP9)由来の針筋生検材料が、標準的な技術を用いて得られ、最適切断温度(OCT)化合物に取り付けられ、液体窒素で冷却したイソペンタン中で凍結された。凍結切片(6μm)を切断し、SuperFrost(登録商標)プラススライド上に取り付けた。切片は、nNOS(NCL−NOS−1、Novocastra、1:400)、及びジストロフィンC末端(NCL−DYS2、Novocastra社、1:1000)のモノクローナル抗体を用いてインキュベートした。免疫検出は、高感度の検出プロトコール(製造業者の指示によるX−Cell−Plus HRP Detection−Menapath MPXCPDAB−U100)を用いて行った。切片は、液体の安定DAB(Menapath)で視覚化され、Carazziのヘマトキシリンで対比染色され、脱水され、永久的に取り付けられた。陰性対照では、一次抗体は除外された。患者の生検は、以前に健康な個体から得られた正常な組織構造およびタンパク質発現を有する保存された筋肉のサンプルと比較された。ヘマトキシリン及びエオシン染色が、標準的プロトコールを用いて行われた。
【0087】
統計
患者および対照のベースライン特性を、不等分散に適用される自由度に関するウェルチ変動によるスチューデントt検定を用いて比較した。反射性血管収縮の運動誘発減衰(機能的交感神経遮断)を、安静時のLBNP誘発のΔHbO+MbO(TLS%)対ハンドグリップ中のΔHbO+MbOのLBNP誘発の低下を比較することによって評価した。症例−対照調査における各対象について、各試験日の両腕由来の平均データは、安静時のLBNP応答とハンドグリップ中のLBNP応答の単一の値を導出するために平均化した。これらのデータは、コルモゴロフ−スミルノフ検定により正規性を、レーベン検定により分散の均一性を評価した。本発明者らは、グループ(BMD患者または対照)と運動状態(安静またはハンドグリップ)の固定効果と個々の対象に関するランダムな効果による線形混合効果モデルを用いて、LBNP中のΔHbO2+MbO2におけるグループ差について、試験した。タダラフィルの治療試験では、両腕由来のデータは、プラセボの最中及びタダラフィルの最中のLBNP応答に関する患者固有の値を得るために平均化された。主な分析は、ランダム効果として配列内の配列、期間、薬物治療、運動状態、ベースライン値、及び対象に関する固定効果を含む、2つの期間とランダム化クロスオーバーデザインの2つの治療に適した線形混合効果モデルであった。キャリーオーバー効果(配列効果を使用して)及び期間効果の試験を行ったが、どちらの効果も統計的には有意でなかった。キャリーオーバー効果の有意な閾値は0.1であった。他のすべての変数については、0.05未満の両側P値は統計的有意性を示すと考えられた。すべての解析はR、バージョン2.13.1で行った。データは平均±標準誤差(SEM)として表されている。
【0088】
イムノブロット
全筋肉溶解物を抽出し、ウエスタンブロットを、以前に公表されたプロトコール(61)に従って実施した。膜は、筋肉タンパク質の指標として、ジストロフィンC末端(1:100)、ジストロフィンロッドドメイン(NCL−DYS1、Novocastra、1:300)、及び抗デスミン(Dako、1:400)の抗体で探索した。次いで、膜は、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)結合ウサギ抗マウス免疫グロブリンG(IgG)二次抗体(Dako、1:300)でインキュベートし、続いて化学発光検出(SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate, Pierce)を行った。
【0089】
結果
適格性についてスクリーニングした15人の患者のうち、5人の男性を除外した。2人は、ハンドグリップを実行するには余りにも虚弱であり、1人は左室駆出率(LVEF)が低下しており、1人は高血圧を有しており、1人は突然変異分析によりBMDを有していなかった。BMD患者には夜間の人工呼吸器のサポートはなかった。
【0090】
調査グループに関する特性
個々のBMD患者のベースライン特性と疾患の重症度の指標が表1に示されている。最も深刻に影響を受けた患者P10は、車椅子を使用することが多かったが、すべての患者は歩行可能であった。10人の患者のうちの6人(P1〜P6)は、nNOSμの標的筋細胞膜(11、33、34)に関与するジストロフィンのスペクトリン様リピートをコードするエクソン欠失を有していた。予想通りに、すべての10人の対象は、クレアチンキナーゼ(CK)レベルを上昇させていた。
【0091】
(表1)ベッカー型筋ジストロフィー患者のベースライン特性
P、患者;CK、クレアチンキナーゼ。
【0092】
表2に示すように、患者および対照は、年齢、肥満度(BMI)、血圧(BP)、心拍数、及びLVEFで一致させた。予想した通り、BMD患者は、両腕のグリップ強度が、より低かった(ハンドグリップ最大随意収縮、MVCで測定)。
【0093】
(表2)2つの調査グループのベースライン比較
BMI、肥満度;MVC、最大随意収縮;SBP、収縮期血圧;DBP、拡張期血圧;HR、心拍数;LVEF、左室駆出率。
*P<0.05対対照。
【0094】
機能的交感神経遮断はBMDにおいて損なわれる
患者対対照における筋肉の血流量調節を比較するために、本発明者らは、機能的交感神経遮断を評価したが、これは、通常、代謝的に活性な骨格筋の灌流を確実にする防御機構である、反射性交感神経性血管収縮の運動誘発減衰を指す。機能的交感神経遮断は、対象の前腕の筋肉が安静であるかまたは軽度のリズミカルなハンドグリップ運動を行っているかのいずれかで、同じ反射性交感神経刺激を、つまり、軽度の起立性ストレスをシミュレートし、骨格筋循環に反射性交感神経活性化を誘発するために心臓の圧受容器に係合させる下半身陰圧(LBNP)を適用することによって評価した。骨格筋の微小血管の交感神経性収縮は、LBNPに応答して、前腕筋の酸素化の減少として、つまり近赤外分光法により測定された酸素化ヘモグロビンプラス酸素化ミオグロビン(HbO+MbO)として測定した。
【0095】
安静にしている前腕筋では、LBNPは同等の反射血管収縮を示し、BMD患者と健常対照個体における前腕筋の酸素化(HbO+MbO)において同等の減少を引き起した(図1A、B)。単独のハンドグリップ運動による酸素消費量の増加中に、筋肉の酸素化は急速に新たな定常状態レベルに到達して、両グループで減少した。健常対照でLBNPがハンドグリップに重畳された場合には、筋肉の酸素化の反射減少は、機能的交感神経遮断を示して、60±8%だけ減衰した(ΔHbO2+MbO2:安静時−18±1%対ハンドグリップ中−7±2%、P<0.01)。しかし、このような減衰はBMD患者では見られず(ΔHbO+MbO:安静時−19±2%対ハンドグリップ中−17±2%、P>0.10)、交感神経遮断が損なわれたことを示し、従って機能的筋虚血を示した(図1C、D)。
【0096】
タダラフィルはBMDにおいて機能的交感神経遮断を回復させる
次いで、タダラフィルが、BMDにおいて交感神経遮断を回復させるかどうかを試験するために、すべての10人の患者が二重盲検ランダム化クロスオーバー試験を完了した。患者は、タダラフィルの単一の20mgカプセルまたはプラセボカプセルのいずれかを受けた後、交感神経遮断を評価するために、研究薬剤師によってランダムに割り当てられた。2週間の洗浄期間後、対象が他の治療を受けた後に(タダラフィルグループは研究薬剤師によってプラセボを受けるように切替えられた、及びその逆)交感神経遮断が再評価された。図2に示されるように、タダラフィル治療はBMD患者において機能的交感神経遮断を回復させた。タダラフィル治療の後にLBNPがハンドグリップに重畳された場合、筋肉の酸素化の反射性減少は、52±12%だけ減衰した(ΔHbO+MbO:安静時−17±2%対ハンドグリップ中−9±2%、P<0.01)。対照的に、プラセボで処置したBMD患者は効果を示さなかった。安静時と運動中で、LBNPは同等の筋肉の酸素化の減少を引き起した(ΔHbO2+MbO2:安静時−18±2%対ハンドグリップ中−17±2%、P>0.1)。
【0097】
治療試験のプラセボ腕におけるハンドグリップ中の各患者のLBNP応答と、症例−対照調査におけるそれとを比較すると、クラス内相関はr=0.80であり、有効な薬物治療がない場合の損なわれた機能的交感神経遮断の再現性を示した。また、タダラフィル治療の患者における機能的交感神経遮断の程度は、正常(健常対照、P>0.1)と区別できなかった。利き手は交感神経遮断実験の結果に影響を及ぼさなかった(図5)。
【0098】
図3は、タダラフィル及びプラセボに対する患者固有の応答を示している。10人のBMD患者のうち9人は、タダラフィル後に交感神経遮断を有していたが、プラセボに関しては、1人の患者(P9)のみ交感神経遮断を有していた。この患者におけるエクソン14〜44の欠失は、まだnNOSμを筋細胞膜に向けることができる切断型ジストロフィンタンパク質をもたらす(35)と予想されうる。
【0099】
図4は、P9及び、比較により、エクソン45〜48の欠失を有する患者の1人(P5)由来の筋生検サンプルに対して行った免疫組織化学実験の結果を示す。筋細胞膜のnNOSの発現は、P9において検出された(減少したレベルで)が、P5では(予想した通り)検出されなかった。細胞質のnNOSの発現は両方の患者で検出された。両方の患者において、切片のジストロフィンC末端染色は、正常な筋肉と同様であったが、イムノブロット分析は、両方の患者で、BMDの切断型または縮小ジストロフィンの特性を示した(図6)。ピークタダラフィル血中濃度は170〜310ng/ml(平均:260±13ng/ml)の範囲であった。タダラフィル後に交感神経遮断のない1人の患者(P10)では、タダラフィルのピーク血中濃度は300ng/mlであった。タダラフィルは、収縮期血圧(116±3対114±4mmHg、タダラフィル前対タダラフィル後)、拡張期血圧(72±2対73±3mmHg)、または心拍数(84±4対80±4回/分)に影響しなかった(P>0.05)。タダラフィルに関しては、有害事象または副作用はなかった。具体的には、患者は、試験用量または調査用量のいずれかのタダラフィルまたはプラセボのいずれかで、自発的な陰茎勃起、紅潮、または視覚障害を経験しなかった。
【0100】
実施例2−デュシェンヌ型筋ジストロフィー
対象
本発明者らは、DMDを有し正常な左室駆出率(>50%)を有する歩行可能な男児(8〜13歳)、および、健康な対照を提供するための健康な同年代の男児を募集した。すべての患者は、事前のDMDの臨床診断を受けた。
【0101】
潜在的な対象(症例と対照の両方)は、彼らが、高血圧の病歴もしくは測定BP>120/80mmHgを有していた場合;糖尿病を有していた場合;病歴、身体検査、もしくは二次元心エコー検査による左室駆出率<50%による心不全を有していた場合;夜間人工呼吸器のサポートを使用していた場合;または、ホスホジエステラーゼ阻害物質への任意の禁忌(ニトレート、αアドレナリン遮断薬、他のPDE5A阻害物質、または強力なシトクロムP4503A4の阻害物質の使用)を有していた場合、調査から除外した。
【0102】
血行動態測定
対象は仰臥位で調査した。心拍数は心電図により連続的に測定し、血圧は、子供のカフを使用して自動オシロメトリック血圧測定(Welch Allyn Vital Signs Monitor 300 Series)により測定された。
【0103】
近赤外分光法による骨格筋の酸素化
前腕筋の酸素化は、上述のように、近赤外(NIR)分光法を用いて測定された。4B簡潔には、ハンドグリップ中、オプトードは深指屈筋の筋腹の上に置かれ、主要な筋肉が採用された。オプトードは、カスタマイズされた柔軟なゴム製のケース内に収容され、確実に互いに対して一定かつ不変のオプトードの位置になるようにされ、接着剤を用いて皮膚に固定した。オプトードは、外光からの干渉またはNIR透過光の損失を最小限にするために、光学的に密で黒のビニールシートで覆った。前腕は、オプトードの動きを最小限にするために弾性包帯を巻きつけた。
【0104】
NIR信号は、5Hzの速度でサンプリングし、検証されたアルゴリズムでHbO+MbO濃度に変換し、50の連続したサンプルの移動平均として表示し、解析のためにデジタルで保存した(OxiplexTS,ISS Inc.)。各実験の前に、吸収および散乱係数は、外部標準に対して較正した。各実験後、カフは全不安定信号(TLS、筋肉組織の酸素化のベースラインと最下点の間の差)を確立するために上腕上で200mmHgの超収縮期圧まで膨張させた。前腕組織の酸素化の変化は、TLSの%として表した。
【0105】
ドップラー超音波による上腕動脈の血流量
上腕動脈平均血流速度(MBV)は、パルスドップラー超音波検査(Siemens iE33)を使用して運動している腕から測定した。データは、腋窩の遠位の皮膚表面に配置された60°の角度の超音波照射で、9MHzのプローブを用いて連続的に取得した。超音波のゲートは、一定強度で全体血管断面の完全な超音波照射を確実にするために最適化した。ドップラーオーディオ信号は、検証されたドップラーオーディオコンバータを用いてリアルタイム流速信号に変換され、8B PowerLabデータ収集システム(ADInstruments, CO)を用いて記録された。上腕動脈の直径は、安静時に3回通り、B―モードのイメージングにより測定された。以前の報告は、上腕動脈の直径は、ハンドグリップ運動の広い範囲にわたって安静時の値から変化しないことを示している。上腕動脈の血流量は、MBV(cm/s)・πr・60として算出された。ここでrは上腕動脈の半径である。
【0106】
ハンドグリップ運動
ハンドグリップ運動はダイナモメータ(Stoeltingによって変更されたSmedley Hand Dynamometer)を用いて行った。最大随意収縮(MVC)を決定するために、各対象は、ダイナモメータをできるだけ強くグリップするように頼まれた。力の出力は、対象に視覚的なフィードバックを提供するために、コンピュータ画面上に表示された。対象は、7分間20%MVCで、断続的な等尺性ハンドグリップ(20ハンドグリップ/分、50%デューティサイクル)を行った。この軽度のレベルのハンドグリップ運動だけでは、骨格筋への交感神経流出を活性化しない。9B、10B
【0107】
下半身陰圧による反射性交感神経活性化
対象の下半身は、上述のように、腸骨稜のレベルまで陰圧室内に収容された。9B チャンバの圧力は、Statham transducer(Gould Inc.)により測定された。−20mmHgでの下半身陰圧(LBNP)は軽度の起立性ストレス(すなわち、仰臥位から座位への移行)をシミュレートする。この技術は、全身の血圧を変えることなく、主に心肺圧受容器を開放し、骨格筋の血管系への交感神経性血管収縮駆動における再現性の高い反射性増加を生じさせる。9B
【0108】
機能的交感神経遮断
対象の下半身は、上述のように、腸骨稜のレベルまで陰圧室内に収容された。チャンバの圧力は、Statham transducer(Gould Inc.)により測定された。−20〜−30mmHgの下半身陰圧(LBNP)は、仰臥位から座位への移行に起因する軽度の起立性ストレスをシミュレートする。この技術は、全身の血圧を変えることなく、主に心肺圧受容器を開放し、骨格筋の血管系への交感神経性血管収縮駆動における再現性の高い反射性増加を生じさせる。反射性血管収縮の運動誘発減衰(すなわち、機能的交感神経遮断)を測定するために、LBNPは、(i)安静時に適用され、次いで、(ii)20%MVCでの軽度のリズム的ハンドグリップに併発させられた。反射性血管収縮は、NIR分光法による前腕筋の酸素化におけるLBNP誘発の減少として測定した。LBNP室内の圧力をトリガとして使用して、Powerlabソフトウェアは、LBNP開始前の20秒間とLBNP停止前の20秒間とのHbO+MbO信号を平均化するようにプログラムされた。これらの平均値の差は、前腕筋組織の酸素化のLBNP誘発変化とされた(20)。血圧、心拍数、及びハンドグリップ力も、安静時に及び7分間の運動プロトコールの3分〜5分の間に適用された2分間のLBNPへの応答で記録された。
【0109】
運動誘発の充血
安静時から運動後への上腕動脈の血流量の増加の%として定義される、骨格筋血流量の運動誘導性の変化を評価するために、安静時において及び運動後の60秒間、上腕動脈の血流量が測定された。血管コンダクタンスは平均動脈圧で割った前腕血流量として算出された。
【0110】
薬物動態試験及び薬物血中濃度
薬物動態学的測定のための血清血液試料が、各治療(シルデナフィルとタダラフィル)及び各用量(0.5対1.0mg/kg)の後に、0時間、0.25時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、8時間、及び24時間において、患者から採取された。血中濃度は、高速液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(NMS Labs)を用いて測定された。
【0111】
プロトコール − 症例−対照調査
すべての対象は、12誘導心電図と2次元経胸壁心エコー図の臨床検査によって適格化についてスクリーニングした。機能的交感神経遮断は左腕を用いて測定した。
【0112】
プロトコール − ホスホジエステラーゼ阻害
患者は、(タダラフィルの17.5時間の消失半減期を考慮するために)クロスオーバーの前に2週間の洗浄期間を伴うオープンラベルクロスオーバー方式でシルデナフィルまたはタダラフィルのいずれかを受けた。患者は、1日目に0.5mg/kgの経口シルデナフィルまたはタダラフィルを、続いて2日目に1.0mg/kgのシルデナフィルまたはタダラフィルを受けた。続いて、患者は反対の薬物に関して2週間後にクロスオーバーした。実験は、ピーク血中濃度を用いた実験と一致するように、経口治療の1時間後(シルデナフィル)または3時間後(タダラフィル)に行った。患者は、調査訪問を通して、潜在的な副作用について質問された。
【0113】
統計
患者と対照のベースライン特性が、スチューデントt検定を用いて比較された。反射性血管収縮の運動誘発減衰(機能的交感神経遮断)を、安静時のLBNP誘発のΔHbO2+MbO2(TLS%)対ハンドグリップ中のΔHbO2+MbO2のLBNP誘発の低下を比較することによって評価した。ΔHbO2+MbO2のグループ差は、スチューデントt検定を用いて評価した。安静時のLBNP誘発ΔHbO2+MbO2(TLS%)対ハンドグリップ中のΔHbO2+MbO2のLBNP誘発の低下に及ぼす薬物治療の効果が、スチューデントt検定を用いて、各患者に対するベースラインと比較された。上腕動脈の血流量のΔ%のグループ差が、スチューデントのt検定を用いて評価された。上腕動脈の血流量のΔ%に対する薬物治療の効果は、スチューデントt検定を用いて比較された。すべての分析は、SigmaPlotで行った。特に指定しない限り、データは、平均値±SEMとして表されている。
【0114】
結果(12人のDMDを有する男児と10人の健常対照のすべてを用いた分析)
本発明者らは、12人のDMDを有する男児と10人の年齢を一致させた健常な男性対照を調査した。本発明者らのDMD患者のベースライン特性と疾患の重症度の指標を表3に示す。男児たちの一部は、特により長い距離をカバーするために、車椅子またはスクーターを使用したが、すべての患者は、歩行可能であった。
【0115】
(表3)
【0116】
表4に示されるように、患者及び対照は、年齢、肥満度(BMI)、血圧、及び左室駆出率についてよく一致した。安静時の心拍数は、DMDを有する男児においては著しく高く(P<0.05)、かつ、予想された通り、グリップ強度は、対照に比較して、DMDを有する男児ではずっと低かった(P<0.05)。
【0117】
(表4)健常対照と比較したデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者のベースライン特性
平均値±SE。*は、健常対照と著しく異なることを示す(P<0.05)。
【0118】
薬物動態研究及び安全性データ
9人のDMD患者が、シルデナフィルまたはタダラフィルの2つの異なる経口投与(0.5または1.0mg/kg)の後の薬物血中濃度の経時変化を評価する本発明者らの薬物動態研究に参加した。1人の患者は、シルデナフィルの試験に参加しなかった。1人の患者は、0.5mg/kgのタダラフィル後に、4時間を超えて持続する勃起を生じ、より高用量には増加させなかった。平均グループ応答曲線が図12に示されている。ピークシルデナフィル血中濃度は、0.5mg/kg:82.5±26.6ng/mL;1.0mg/kg:167.5±34.1ng/mLの用量依存的に増加して、経口投与1時間後に達成された。同様に、タダラフィルの血中濃度も、経口投与から2時間〜4時間の間でピーク血中濃度に達し、0.5mg/kg:286.31.3ng/mL; 1.0mg/kg:492.5±47.3ng/mLの用量依存的に応答した。予想されたとおり、タダラフィルは、24時間まで血液中で高いままであったのに対し、シルデナフィルは、摂取後4時間でベースラインレベル近傍に戻っていた。
【0119】
顔面紅潮は、経口PDE5阻害では非常に一般的であり、治療から数時間持続した。安静時血圧は、いずれのPDE5阻害物質によっても影響を受けなかった。上記のように、1人の患者は、低用量のタダラフィルで4時間以上持続する勃起を生じたので、より高い用量に増加させなかった。2番目の男児は、低用量のタダラフィルで3時間、より高容量のタダラフィルで4時間継続する長時間の勃起を経験した。
【0120】
機能的交感神経遮断はDMDにおいて損なわれかつPDE5阻害によって回復される
機能的交感神経遮断、つまり、反射性交感神経性血管収縮の運動誘発減衰は、安静時および軽度のリズミカルなハンドグリップ運動中に対象の前腕筋肉に同じ反射性刺激(下半身陰圧)を適用することによって評価した(図7)。骨格筋の微小血管の交感神経性収縮を、NIR分光法によって、前腕筋の酸素化の減少として測定した。NIR分光法は、重度の動きアーチファクトのために、2人のDMD患者には適用できず、従って、データは10人のみで報告される。安静にしている前腕筋では、LBNPは、DMD患者と健常対照における前腕筋の酸素化(HbO+MbO)において同等の減少を引き起した(図8)。健常対照においてハンドグリップにLBNPを重畳すると、筋肉酸素化の反射性減少は、54±8%だけ減衰し(ΔHbO+MbO:安静時−19±3%対ハンドグリップ中−9±2%、P<0.01)、機能的交感神経遮断を示した。対照的に、このような減衰は、DMD患者では観察されず(ΔHbO2+MbO2:安静時−15±4%対ハンドグリップ中−14±3%)、損なわれた交感神経遮断、従って機能的筋虚血を示した(図8)。注目すべきことに、本発明者らの結果は、アンジオテンシン変換酵素阻害物質(すなわち、リシノプリル)、またはアンジオテンシン受容体遮断薬(すなわち、ロサルタン、図12)による予防的心臓治療からは独立したままである。
【0121】
次に、本発明者らは、DMDにおいて機能的交感神経遮断を回復させるために、シルデナフィル及びタダラフィルの2つの異なるPDE5阻害物質の能力を試験した。図8及び図9に示すように、タダラフィル治療は、DMD患者において、用量依存的に機能的交感神経遮断を回復させた。0.5mg/kgのタダラフィル治療後に、ハンドグリップ運動にLBNPを重畳すると、筋肉酸素化の反射性減少は、57±16%だけ減衰した(ΔHbO+MbO:安静時−20±2%対ハンドグリップ中−9±3%、P<0.01)。さらに、タダラフィルの用量を1.0mg/kgに増加すると、筋肉酸素化のLBNP誘発減少はさらに大きく80±11%減衰した(ΔHbO+MbO:安静時−16±2%対ハンドグリップ中−4±2%、P<0.01)。サブセットの患者でも、本発明者らは、異なるPDE5阻害物質(シルデナフィル、図9)を使用してこれらの結果を確認した;ΔHbO+MbO0.5mg/kg:安静時−18±4%対ハンドグリップ中−10±3%、P<0.05;1.0mg/kg:安静時−20±3%対ハンドグリップ中−1±3%、P<0.01。
【0122】
運動後の充血はDMDで鈍くなりかつPDE5阻害によって回復される
運動後の充血、つまり、骨格筋の血流量の運動誘発増加は、上腕動脈のパルスドップラー超音波を使用して、安静から運動直後への筋肉の血流量の変化として評価した。図10に示されるように、ハンドグリップ運動は、健常対照において骨格筋の血流量の71±13%の増加を引き起した。対照的に、DMDを有する男児では、ハンドグリップ運動は、骨格筋の血流量のずっと小さい増加(28±6%)を引き起した。タダラフィルまたはシルデナフィルのいずれかによるPDE5阻害は、DMDの患者において運動後の充血および血管コンダクタンスを回復させた(図10及び11)。いずれのPDE5阻害物質への応答においても、血圧、心拍数、またはベースラインの血流量の差異は観察されなかった。また、上腕動脈の直径の変化は、軽度のハンドグリップ運動では見出されなかった。従って、血管コンダクタンスは上腕動脈の血流量と同様の応答を共有していた(表5)。
【0123】
(表5)デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者及び年齢を一致させた健常対照の安静時とその後のリズミカルなハンドグリップ運動(20%最大随意収縮)における前腕血流量および血行動態。平均値±SEとして報告されたデータ。
【0124】
結果−(DMDを有する12人の男児のうちの10人及び10人の健常対照の分析)
データは、DMDを有する10人の男児と10人の健常対照について示されている。動きアーチファクトにより、DMDを有する2人の男児のデータ分析は除外された。これらの10人の患者のベースライン特性と疾患の重症度の指標は、表6に示されている。すべての患者は歩行可能であったが、何人かは車椅子またはスクーターを使用することが多かった。すべてのDMD患者は、グルココルチコイド(デフラザコートまたはプレドニゾンのいずれか)によるバックグラウンド治療を受けていた。10人の患者のうち5人も、予防的心臓薬(リシノプリルまたはロサルタンのいずれか)を受けていた。
【0125】
(表6)デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者のベースライン特性
coQ10、コエンザイムQ10;hGH、ヒト成長ホルモン;Ca2+−carbonate、炭酸カルシウム;VD、ビタミンD(コレカルシフェロール);MV、マルチビタミン。
【0126】
患者と対照は、年齢、肥満度(BMI)、血圧、及び左室駆出率でよく一致した(表7)。予想された通り、安静時の心拍数はDMDを有する男児の方が高く(健常対照に対してP<0.05)、最大随意収縮(MVC、すなわちグリップ強度)はずっと低かった(P<0.05)。
【0127】
(表7)健常対照と比較したデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者のベースライン特性
平均値±SEとして報告されたデータ。*は、健常対照と著しく異なることを示す(P<0.05)。BMI、肥満度;MVC、最大随意収縮;SBP、収縮期血圧;DBP、拡張期血圧;HR、心拍数;LVEF、左室駆出率。
【0128】
機能的交感神経遮断はDMDにおいて損なわれかつPDE5阻害によって回復される
安静にしている前腕筋では、LBNPは、患者と健常対照における前腕筋の酸素化(HbO+MbO)において同等の減少を引き起した(図14)。健常対照においてハンドグリップにLBNPを重畳すると、筋肉酸素化の反射性減少は、54±8%だけ減衰し(ΔHbO+MbO:安静時−18±3%対ハンドグリップ中−9±2%、P<0.01)、機能的交感神経遮断を示した。対照的に、このような減衰は、DMD患者では観察されず(ΔHbO2+MbO2:安静時−14±2%対ハンドグリップ中−13±2%)、機能的筋虚血を示した(図14)。DMDを有する男児では、交感神経遮断は、予防的心臓薬で治療した(n=5)または治療しなかった男児(n=5)で、同様に損なわれた(図13B)。
【0129】
タダラフィルは、DMDを有する男児において、用量依存的に機能的交感神経遮断を回復させた(図14)。0.5mg/kgのタダラフィル用量で、筋肉酸素化の反射性減少は、45±8%だけ減衰した(ΔHbO+MbO:安静時−20±2%対ハンドグリップ中−11±1%、P<0.01)。この応答は、正常から区別できない(P=ns対健常対照)。1.0mg/kg用量は、超正常の63±5%の減衰を引き起した(ΔHbO+MbO:安静時−17±1%対ハンドグリップ中−7±1%、P<0.01)。サブセットの患者(n=6)で、本発明者らはシルデナフィルでこれらの結果を確認した(図14及び15A)。個々のデータは補足図15Bに示されている。
【0130】
運動誘発充血はDMDを有する男児において鈍くなりかつタダラフィルによって回復される
ハンドグリップ運動は、健常対照のベースラインに対し、78±12%だけ上腕動脈の血流量を増加させたが、DMDを有する男児ではほんの32±5%であった(P<0.05、図10)。DMDにおいて、タダラフィルは用量依存的に運動誘発充血を顕著に回復させた(表5)。シルデナフィルに関しても、同様の傾向が見られたが、治療効果は統計的に有意でなかった(図11)。
【0131】
薬物動態データ
DMDを有する9人の男児が薬物動態調査を完了した。平均グループ応答曲線が図12に示されている。0.5mg/kg用量に対しては2.4±0.09時間、1.0mg/kg用量に対しては3.2±0.5時間の消失半減期で、経口シルデナフィル投与後約1時間で、血中濃度はピークに達した。対照的に、0.5mg/kg用量に対しては24.9±3.1時間、1.0mg/kg用量に対しては39.5±6.6時間の消失半減期で、経口タダラフィル投与後2〜4時間で、血中濃度はピークに達した。
【0132】
安全性データ
顔面紅潮は、いずれかのPDE5阻害物質を両方の用量で用いたすべての男児に生じた。血圧は、いずれの薬物によっても影響されなかった。1人の患者は、低用量のタダラフィル後、6時間持続する陰茎勃起を生じ、より高用量には増加させなかった。第2の患者は、低用量のタダラフィル後3時間、高用量のタダラフィル後4時間持続する勃起を経験した。どちらの場合も、勃起は、苦痛がなく、かつ自然に消散した。
【0133】
参照文献
【0134】
参照文献
【0135】
本発明の様々な態様は、詳細な説明において上記に説明されている。これらの説明は上記の実施形態を直接説明すると同時に、当業者が本明細書で示されかつ説明される具体的な実施形態に対する改変および/またはバリエーションを想到し得ることが理解される。本説明の範囲内に入る任意のこのような改変および/またはバリエーションは同様にその中に含まれることが意図される。特に記載のない限り、本明細書および特許請求の範囲における語および句が当技術分野における当業者に通常およびいつもの意味を与えることが本発明者らの意図である。
【0136】
本出願の提出の時点では本出願人には認識されている本発明の様々な実施形態に関する前記の説明は例証および説明する目的のためのものである。本説明は、網羅的であることも、開示された厳密な形態ならびに上記の教示に鑑みて可能である多くの改変およびバリエーションに本発明を限定することも意図しない。記載された実施形態は、本発明の原理およびその実際の適用を説明するのに役立ち、かつ、当業者が、本発明を、企図された特定の使用に適している場合と同様に様々な態様においておよび様々な態様とともに用いることが可能であるように役立つ。従って、本発明は本発明を実施するために開示された特定の実施形態に限定されるものではないことが意図される。
【0137】
本発明の特定の実施形態は示されておりかつ説明されていると同時に、本明細書における教示に基づいて、本発明およびそのより幅広い態様を逸脱することなく変更および改変がなされることができ、従って、添付の特許請求の範囲がその範囲内に、本発明の真の精神内および範囲内である場合と同様にすべてのこのような変更および改変を包含するものであることが当業者には明らかであると考えられる。全体として本明細書において使用される用語は一般には、「開放的」用語(例えば、用語「含む(including)」は「〜を含むが〜に限定されない(including but not limited to)」として解釈されるべきであり、用語「〜を有する(having)」は「少なくとも〜を有する(having at least)」として解釈されるべきであり、用語「含む(includes)」は「〜を含むが〜に限定されない(includes but is not limited to)」として解釈されるべきであるなど)として意図されることが当業者には理解されると考えられる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図13
図14
図15A
図15B
【国際調査報告】