(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
本発明は、発現がc−MAF発現の増加によって調整される1つ以上の遺伝子の発現レベルの決定に基づいた、がん患者において転移を生じる可能性を決定するための方法、ならびにがん患者、特に、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、および甲状腺がんに罹患した被験体のための個別対応の治療をデザインするための方法に関する。本発明はまた、c−MAF発現の調整の誘導に基づいたがん転移への素因を同定するマーカー遺伝子の同定方法に関する。本発明はさらに、がん、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がんの転移の処置および/または予防におけるPTHLH阻害剤およびPODXL阻害剤およびRERG活性化剤の使用に関する。
被験体における乳がんの転移をin vitroで予測する方法であって、該被験体から採取した腫瘍性組織のサンプルにおける、1つ以上の遺伝子であって、その発現が該腫瘍中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子の発現レベルを決定する工程を含み、基準値と比較した該1つ以上の遺伝子の発現レベルの変化が転移発生リスクの高さを示す、方法。
前記1つ以上の遺伝子であって、その発現がc−MAFの発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子が、表1に取り上げた遺伝子および表2中に示す遺伝子から形成される群から選択され、該1つ以上の遺伝子の発現レベルの調整が表1に取り上げた1つ以上の遺伝子の発現の増加および/または表2中に示す1つ以上の遺伝子の発現の減少である、請求項1に記載の方法。
前記1つ以上の遺伝子であって、その発現がc−MAFの発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子が、PTHLH、PODXL、およびRERGの群から選択される、請求項2に記載の方法。
乳がんに罹患した被験体のための個別化治療をin vitroでデザインする方法であって、該被験体から採取した腫瘍性組織サンプルの、1つ以上の遺伝子であって、その発現がc−MAFの発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子の発現レベルの決定を含み、基準値と比較した該1つ以上の遺伝子の発現レベルの変化が、該被験体が転移予防のための処置を受けるのに適切であること示す、方法。
前記1つ以上の遺伝子であって、その発現がc−MAFの発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子が、1つ以上の表1中に含まれる遺伝子および/または1つ以上の表2中に示された遺伝子によって形成される群から選択され、1つ以上の表1由来の遺伝子の発現レベルの調整が発現の増加を示し、そして/または1つ以上の表2由来の遺伝子の発現レベルの調整が発現の減少を示す、請求項4に記載の方法。
前記遺伝子であって、その発現がc−MAFの発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子が、PTHLH、PODXL、およびRERGの群から選択される、請求項5に記載の方法。
前記1つ以上の遺伝子であって、その発現がc−MAFの発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子の発現レベルの決定を、該遺伝子のRNAmの発現レベルの決定中に実施する/行う、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
c−MAFの発現レベルの増加に応答して調整される前記1つ以上の遺伝子の発現レベルの決定を、該遺伝子によってコードされるポリペプチドの発現レベルの決定中に実施する、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
乳がんの転移の処置および/または予防のための医薬の調製のための、遺伝子の発現または該遺伝子の発現産物の活性を阻害するための薬剤の使用であって、乳がん腫瘍細胞中での該遺伝子の発現が、該細胞中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して増加するか、前記細胞中のc−MAFの発現レベルの減少に応答して減少することによって該遺伝子が特徴づけられる、使用。
遺伝子発現を阻害する前記薬剤が、該遺伝子に特異的なsiRNA、該遺伝子に特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチド、該遺伝子に特異的なリボザイムから選択されるか、該遺伝子の発現産物の活性を阻害する薬剤が、該発現産物に特異的なインヒビター抗体、該発現産物のドミナントネガティブバリアント、および該発現産物由来の阻害性ペプチドによって形成される群から選択される、請求項12に記載の使用。
前記遺伝子であって、その発現が乳房腫瘍内のc−MAFの発現レベルの増加に応答して増加するか、その発現が乳房腫瘍内のc−MAFの発現レベルの低下に応答して減少する遺伝子が、表1中に記載の遺伝子から選択される、請求項12または13に記載の使用。
前記遺伝子であって、その発現が乳房腫瘍内のc−MAFの発現レベルの増加に応答して増加する遺伝子が、PHTLH遺伝子またはPODXL遺伝子である、請求項14に記載の使用。
乳がんの転移の処置および/または予防のための医薬の調製のための、遺伝子の発現または該遺伝子の発現産物の活性を刺激するための薬剤の使用であって、乳がん腫瘍細胞中での該遺伝子の発現が、該細胞中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して減少するか、該遺伝子の発現が、該細胞中のc−MAFの発現レベルの減少に応答して増加することによって該遺伝子が特徴づけられる、使用。
前記遺伝子の発現を刺激する前記薬剤が、該遺伝子のコード配列を含むポリヌクレオチドであるか、前記遺伝子産物の活性を刺激する前記薬剤が該遺伝子によってコードされるポリペプチドである、請求項16に記載の使用。
前記遺伝子であって、その発現が乳房腫瘍中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して減少するか、その発現が乳房腫瘍中のc−MAFの発現レベルの減少に応答して増加する遺伝子が、表2中に記載の遺伝子から選択される、請求項17に記載の使用。
工程(i)で決定された所与の遺伝子の発現が前記原発性腫瘍サンプル中のc−MAFレベルと直接相関し、c−MAF遺伝子発現の調整に応答した発現レベルの変化が該調整に直接相関する場合、これは、該遺伝子のレベルの高さが転移性向を示す、請求項23に記載の方法。
工程(i)で決定された所与の遺伝子の発現が前記原発性腫瘍サンプル中のc−MAFレベルと逆相関し、c−MAF遺伝子発現の調整に応答した発現レベルの変化が該調整に逆相関する場合、これは、該遺伝子レベルの低下が転移性向を示す、請求項23に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
一般的な表現および用語の定義
「c−MAFインヒビター」は、本発明中で使用する場合、c−MAF遺伝子の発現を部分的または完全に阻害すること(前記遺伝子の発現が引き起こされることからの予防(c−MAF遺伝子の転写の破壊および/またはc−MAF遺伝子発現に由来するmRNAの翻訳の遮断)およびc−MAFタンパク質活性の直接的阻害の両方)が可能な任意の分子をいう。c−MAF遺伝子発現インヒビターを、国際特許出願WO2005/046731号に例示の推定インヒビターがc−MAFのin vitroでの細胞増殖促進能力を遮断する能力に基づいた、WO2008098351号に記載のc−MAFを発現する細胞中でサイクリン−D2プロモーターまたはc−MAF応答領域(MAREまたはc−MAF応答エレメント)を含むプロモーターの調節下で推定インヒビターがレポーター遺伝子の転写能力を遮断する能力に基づいた、またはUS2009048117A号に記載のNFATc2およびc−MAFを発現する細胞中でPMA/イオノマイシンでの刺激に応答したIL−4プロモーターの調節下で推定インヒビターが遺伝子の発現を遮断する能力に基づいた方法を使用して同定することができる。
【0019】
本発明の文脈では「インヒビター抗体」は、特異的様式で発現産物に結合し、そのタンパク質の1つ以上の機能を阻害することができる抗体を意味する。
【0020】
用語「低分子干渉RNA」(「siRNA」)は、RNA干渉を誘導する二重鎖の小さなRNAインヒビターをいう。これらの分子は長さが異なり(一般に、18〜30塩基対)、アンチセンス鎖内のその標的mRNAとの相補性の程度が異なり得る。全てではないがいくつかのsiRNAは、センス鎖および/またはアンチセンス鎖の5’末端または3’末端上の顕著な不対塩基を特徴とする。用語「siRNA」は、2つの個別の鎖の二重鎖を含む。本明細書中で使用される場合、siRNA分子はRNA分子に制限されないが、モルホリンなどの1つ以上の化学修飾ヌクレオチドを有する核酸も含まれる。
【0021】
用語「shRNA」または「低分子ヘアピン型RNA」は、本明細書中で使用される場合、2本の鎖が一方の鎖の3’末端と他方の鎖の5’末端との間のヌクレオチドを破壊することなく鎖によって結合されて二重鎖構造を形成するdsRNAをいう。
【0022】
用語「遺伝子発現の増加」は、遺伝子の発現レベルが、コントロールサンプル中の同一遺伝子の発現レベルに対応する標準値または対照値と比較して高いという事実をいう。本発明によれば、遺伝子の発現レベルは、患者サンプルのレベルが、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%:少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれを超えて増加した場合に、標準値と比較して高いと見なされる。
【0023】
「c−MAF」は、本発明中で使用される場合、ホモ二量体またはヘテロ二量体に作用する、ロイシンジッパーを含む転写因子である「v−maf筋腱膜線維肉腫がん遺伝子ホモログ」(トリ)、MAFまたはMGC71685)としても公知の遺伝子をいう。DNA結合部位に応じて、コードされたタンパク質は、転写アクチベーターまたは転写リプレッサーであり得る。c−MAFをコードするDNA配列は、NCBIデータベースのアクセス番号NG_016440(2011年12月18日に一致するNCBIのバージョン)に記載されている。前述のDNA配列に2つの伝令RNAの転写が続き、これら2つの各々によりc−MAFタンパク質のアイソフォームであるアイソフォームαまたは1(長いc−MAFのアイソフォームに対応する)およびアイソフォームβまたは2(短いc−MAFのアイソフォームに対応する)のうちの1つに取って代わられる。前述の各アイソフォームの相補DNA配列は、NCBIデータベースのアクセス番号NM_005360.4およびNM_001031804.2(2011年12月18日に一致するNCBIのバージョン)にそれぞれ記載されている。
【0024】
用語「がん」または「癌」または「腫瘍」は、隣接組織に侵入して遠隔器官に広がることができる異常細胞の調節されない増殖によって特徴づけられる疾病をいう。この用語には、乳房、心臓、小腸、結腸、脾臓、腎臓、膀胱、頭部、頸部、卵巣、前立腺、脳、膵臓、皮膚、骨、骨髄、血液、胸腺、子宮、精巣、肝胆道系および肝臓のがん;さらに、腫瘍(腺腫、血管肉腫、星状細胞腫、上皮癌、胚細胞腫、膠芽細胞腫、神経膠腫、血管内皮腫、血管肉腫、血腫、肝芽腫、白血病、リンパ腫、髄芽腫、黒色腫、神経芽細胞腫、肝胆道がん、骨肉腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、肉腫、および奇形腫などが含まれるが、これらに限定されない)が含まれるが、これらに限定されない。さらに、この用語には、末端部黒子黒色腫、日光角化症腺癌、腺様嚢胞癌、腺腫、腺肉腫、腺扁平上皮癌、星細胞腫瘍、バルトリン腺癌、基底細胞癌、気管支腺癌、毛細血管カルチノイド、癌、癌肉腫、胆管癌、嚢胞腺腫、内胚葉洞腫瘍、子宮内膜過形成、子宮内膜間質部肉腫、類内膜腺癌、上衣肉腫、ユーイング肉腫、限局性結節性過形成、胚細胞腫瘍、膠芽細胞腫、グルカゴノーマ、血管芽細胞腫、血管内皮腫、血管腫、肝細胞腺腫、肝細胞腺腫症、肝細胞癌、肝胆道がん、インスリノーマ、上皮内新形成、扁平上皮細胞上皮内新形成、侵襲性扁平上皮癌、大細胞癌、平滑筋肉腫、黒色腫、悪性黒色腫、悪性中皮腫瘍、髄芽腫、髄様上皮腫、粘表皮癌、神経芽細胞腫、神経上皮腺癌、結節性黒色腫、骨肉腫、乳頭状漿液性腺癌、下垂体腫瘍、プラズマ細胞腫、偽肉腫、肺芽腫、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、肉腫、漿液性癌、小球性癌、軟部組織癌、ソマトスタチン分泌腫瘍、扁平上皮癌、扁平上皮がん、未分化癌、ブドウ膜黒色腫、疣状癌、ビポーマ、ウィルムス腫瘍、脳内がん、頭頸部がん、直腸がん、星状細胞腫、膠芽細胞腫、小球性がんおよび非小球性がん、転移性黒色腫、アンドロゲン非依存性転移性前立腺がん、アンドロゲン依存性転移性前立腺がん、および乳がんが含まれる。特定の発明に関して、がんは、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がんをいうが、具体的には乳がんをいう。
【0025】
表現「結腸がん」は、結腸、直腸、および虫垂の細胞の任意の悪性増殖性障害をいう。結腸がんという用語には、以下の疾病の病期のいずれかが含まれる。
−病期0:腸最内層中の初期のがん
−病期1:腸内層中のがん
−病期2:結腸筋肉壁を介して進行したがん
−病期3:リンパ節に進行したがん
−病期4:がんが他の器官に進行している。
【0026】
表現「乳がん(cancer de mama)」、「乳がん(cancer mamario)」、または「乳房がん(cancer de seno)」は、乳房組織に由来するがん型をいう。用語「乳がん」には、TNMシステムにしたがって任意の期に分類されたがんが含まれる。予後は期分類の結果と密接に関係し、期分類は、臨床試験および医療行為の両方において患者の処置を割り当てるためにも使用される。期分類に関する情報を以下に示す。
【0027】
・TX:原発性腫瘍の評価不可能。T0:原発性腫瘍の証拠なし。Tis:上皮内癌、非侵襲性 T1:腫瘍は2.0cmまたはそれより小さい。T2:腫瘍は2cmを超えるが、5cm以下である。T3:腫瘍は5cmを超える。T4:胸壁または皮膚上に成長した任意のサイズの腫瘍、炎症性乳がん。
・NX:隣接リンパ節転移の評価不可能。N0:がんがリンパ節へ広がっていない。N1:がんが1〜3つの腋窩リンパ節または1つの内胸リンパ節へ広がっている。N2:がんが4〜9つの腋窩リンパ節または複数の内胸リンパ節へ広がっている。N3:以下のうちの1つを適用する:
・10またはそれを超える腋窩リンパ節にがんが広がっているか、鎖骨直下のリンパ節にがんが広がっているか、鎖骨上部のリンパ節にがんが広がっているか、腋窩リンパ節ががんに侵され、且つ内乳房リンパ節に広がっているか、4つまたはそれを超える腋窩リンパ節ががんに侵され、且つ内胸リンパ節生検またはセンチネルリンパ節生検で最少量のがんが見いだされる。
【0028】
・Mx:遠隔進展(転移)の存在の評価が不可能。M0:遠隔進展なし。M1:鎖骨上リンパ節が含まれない遠隔器官への進展が起こっている。
【0029】
表現「肺がん」または「肺のがん」または「肺癌」は、任意の肺のがんをいい、非小細胞肺がん、非小球性肺がん(NSCLC)、および小細胞肺がんが含まれる。
【0030】
表現「腎臓がん」または「腎がん」または「腎癌」は、腎臓細胞の任意の悪性増殖性障害をいう。
【0031】
表現「甲状腺がん」または「甲状腺癌」は、甲状腺の任意の増殖性障害をいい、甲状腺乳頭癌および濾胞性甲状腺癌が含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
「統計的に有意な相関」は、2つの事象(候補遺伝子の発現レベルおよびc−MAF遺伝子の発現レベル)について言及するために本明細書中で使用される場合、これらの事象が関連し、変化が無作為でない確率が高いことを意味する。
【0033】
表現「がん、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がんに罹患した被験体、好ましくは乳がんに罹患した被験体における転移性がん発症の可能性を決定する」は、前記被験体に影響を及ぼすがんが将来的に転移するようになるか否かを決定するための証拠の使用をいう。本発明の文脈では、指標は、標準値と比較してc−MAF発現レベルの増加に応答して発現が調整される1つ以上の遺伝子の発現レベルの変化である。「遺伝子の発現レベルの変化」は、標準値と比較した遺伝子の発現レベルの上方または下方のいずれかの変動をいう。それ故、がん、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がんであるが、具体的には乳がんに罹患した被験体の転移の発生が「高い」、「増加した」、または「増強した」可能性は、標準値と比較したc−MAF発現レベルの増加に応答して発現が調整される1つ以上の遺伝子の発現レベルの変化に起因する。
【0034】
用語「遺伝子発現の減少」は、遺伝子の発現レベルが、コントロールサンプル中の同じ遺伝子の発現レベルに対応する標準値または対照値と比較して低下または減少した場合をいう。本発明の目的のために、標準値と比較した遺伝子の発現レベルは、患者サンプル中のレベルが、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%:少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれを超えて下がる場合に低下したと見なされる。
【0035】
用語「マーカー遺伝子」または「情報遺伝子(gen informativo)」は、本発明中で使用される場合、遺伝子自体が異なる表現型を有する集団中で、差次的様式で発現する遺伝子をいい、個別または他の遺伝子と組み合わせたその差次的発現が、無作為で期待されるよりも高い程度で特異的な表現型に関連する。
【0036】
ポドカリキシン様遺伝子としても公知の「PODXL遺伝子」は、シアロムチンファミリーの一部を形成するタンパク質をコードし、糸球体足細胞の重要成分である遺伝子をいう。足細胞は、糸球体基底膜の外面を覆う指状突起を有する高度に分化した上皮細胞である。このタンパク質をコードさせる他の生物学的活性には、以下が含まれる:膜−タンパク質複合体中のこのタンパク質の細胞内細胞骨格要素のNa+/H+交換体の調節因子との結合およびL−セレクチンへの結合。2つの転写PODXLバリアントの記載は、NCBIデータベース(2013年3月3日バージョン)においてアクセス番号NM_001018111.2(バリアント1)およびNM_005397.3(バリアント2)のもとで提出されている。PODXL遺伝子によってコードされるタンパク質の配列は、NCBIデータベース(2013年3月3日バージョン)においてアクセス番号NP_001018121.1(アイソフォーム1)およびNP_005388.2(アイソフォーム2)のもとで提出されている。
【0037】
「PTHLH」(副甲状腺ホルモン様ホルモン遺伝子)は、ヒト12番染色体中に存在し、PTHrP(副甲状腺ホルモン関連タンパク質)として公知の副甲状腺ホルモンファミリーに属するタンパク質をコードする。このタンパク質は、軟骨内性骨発生、さらに、乳腺および歯の形成中の上皮と間葉との間の相互作用を制御する。このホルモンの受容体を、PTHR1と命名する。PTHLHに関するDNA配列は、NCBIデータベースにおいてアクセス番号NG_023197(2011年11月6日バージョン)のもとで提出されている。4つのPTHLH転写物バリアントの記載は、NCBIデータベース(2011年11月20日)においてアクセス番号NM_198965.1(バリアント1)、NM_002820.2(バリアント2)、NM_198964.1(バリアント3)、およびNM_198966.1(バリアント4)のもとで提出されている。同様に、PTHLH遺伝子によってコードされるタンパク質配列は、NCBIデータベース(1995年1月10日バージョン)においてアクセス番号AAA60360.1(フォームA)、AAA60358.1(フォームB)、およびAAA60359.1(フォームC)のもとで提出されている。
【0038】
Ras様エストロゲン制御成長阻害因子としても公知の「RERG遺伝子」は、RAS GTPアーゼスーパーファミリーの一部を形成するタンパク質をコードし、細胞増殖および腫瘍形成の阻害因子として作用する遺伝子をいう。2つの転写RERGバリアントの記載は、NCBIデータベース(2011年11月28日バージョン)においてアクセス番号NM_032918.2(バリアント1)およびNM_001190726.1(バリアント2)のもとで提出されている。RERG遺伝子によってコードされるタンパク質の配列は、NCBIデータベース(2011年11月28日)においてアクセス番号NP_116307(アイソフォーム1)およびNP_001177655(アイソフォーム2)のもとで提出されている。
【0039】
「転移」は、がんの源の最初の部位から別の器官への広がりをいう。これは、通常、血液系またはリンパ系を介して生じる。がん性細胞が広がって新規の腫瘍を生じる場合、これを続発性腫瘍または転移性腫瘍と呼ぶ。続発性腫瘍を形成するがん細胞は、元の腫瘍中のがん細胞に類似する。例えば、乳がんが肺に広がる(転移する)場合、続発性腫瘍は悪性乳がん細胞を含む。肺内の疾患を転移性乳がんと呼ぶ(肺がんではない)。この特定の発明の場合、転移は、骨に広がった(転移した)乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がんである。なおさらなる特定の発明に関して、転移は、骨に広がった(転移した)ER+乳がんである。
【0040】
「骨溶解性骨転移」は、腫瘍細胞による破骨細胞活性の刺激に起因して転移付近に骨吸収(骨密度の進行性の消失)を生じ、激痛、病的骨折、低カルシウム血症、脊髄の圧迫、および神経圧迫に起因する他の症候群によって特徴づけられる転移の型をいう。
【0041】
用語「ミクロRNA」または「miRNA」は、短い一本鎖RNA分子(典型的にはおよそ21〜23ヌクレオチド長)をいい、遺伝子発現を制御することができる。miRNAは、合成(換言すれば、組み換え)または天然であり得る。天然miRNAは、DNAから転写される遺伝子によってコードされ、一次転写物(「pri−miRNA」)から短いステム−ループ構造(「pre−miRNA」)、および、最後に成熟miRNAにプロセッシングされる。成熟miRNA分子は、1つ以上のmRNA分子に部分的に相補的であり、RNA干渉またはmRNAの翻訳阻害に類似の過程によって遺伝子発現を低下させる。
【0042】
「腫瘍組織サンプル」は、原発性腫瘍、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、より具体的にはER+またはER−Her2−乳がん由来の組織サンプルである。前記サンプルを、従来の方法(例えば、関連する医学的技術の専門家に周知の方法を使用した生検)によって得ることができる。生検サンプルを得る方法には、腫瘍を大きな部分に分割すること、または顕微解剖もしくは当該技術で公知の他の細胞分離方法が含まれる。腫瘍細胞を、さらに、小さなゲージの針を用いた吸引による細胞学によって得ることができる。サンプルの保存および取り扱いを簡潔にするために、サンプルをホルマリン中で固定し、パラインに浸漬するか、最初に凍結し、次いで急速凍結が可能な高度に低温の媒体中への浸漬によってOCTコンパウンドなどの組織凍結媒体に浸漬することができる。本発明によれば、サンプルはまた、腫瘍を起源とする組織、腫瘍を起源とするRNA、腫瘍を起源とするDNA、または腫瘍を起源とするタンパク質を含む任意の体液(血漿または血清(腫瘍を起源とするエキソソームまたはDNAが存在する血漿または血清など)が含まれるが、これらに限定されない)も含む。
【0043】
遺伝子発現産物の「ドミナントネガティブ変異体」という表現は、本発明で使用される場合、天然の発現産物の活性を干渉することができる前記発現産物のバリアントをいう。
【0044】
用語「インヒビターペプチド」は、本明細書中で使用される場合、発現産物に結合してその活性を阻害することができるペプチドをいう。
【0045】
用語「転移予測」を、本明細書中で、患者が転移を生じ得る確率をいうために使用する。本発明の予測方法を臨床的に使用して、特に各患者に最も適切な処置の選択について決定することができる。本発明の予測方法は、患者が化学療法などの処置レジメンに好ましく応答するかどうかを予測するための有益なツールである。予測は、予後因子を含むことができる。当該分野の専門家が理解するように、これが好ましいわけではないが、予測は診断または評価することができる100%の被験体に対して正確である必要はない。しかし、この用語は、被験体のかなりの部分を、決定された結果を有する確率がより高い被験体として同定することができることが必要である。被験体が統計的に有意である場合、これを、異なる公知の統計的評価ツール(例えば、信頼区間の決定、p値の決定、分類および詳細の交差検証率など(DowdyおよびWearden,Statistics for Research by Wiley,John&Sons,New York,1983に示すとおり))を使用して当該分野の専門家が決定することができる。推奨信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%である。p値は、好ましくは0.01、0.005、またはそれ未満である。
【0046】
用語「確率」は、本明細書中で使用される場合、十分に安定な条件下で全ての可能な結果が公知の無作為化実験を行うことによって結果(または結果のセット)が得られる頻度を測定する。確率は「高い」かまたは「低い」可能性がある。当該分野の専門家が理解するように、確率は評価される全被験体について100%である必要はないが、好ましくはそうあるべきである。相関関係が統計的に有意であるか否かを、異なる公知の統計的評価ツールを使用して(例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデント検定、マン・ホイットニー検定などによる)当該分野の技術者が大きな問題なく決定することができる。これらの統計ツールについてのさらなる情報を、DowdyおよびWearden,Statistics for Research.John Wiley&Sons,New York 1983に見出すことができる。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%である。p値は、好ましくは、0.05、0.02、0.01、またはそれ未満である。
【0047】
「乳房組織特異的プロモーター」は、本発明で使用される場合、プロモーターとして機能し、他の組織中で有意な発現を観察することなく乳房組織中で特異的に前記プロモーターに作動可能に会合した核酸の発現が可能な核酸の配列をいう。
【0048】
用語「被験体」または「患者」は、本明細書中で使用される場合、哺乳動物として分類されるすべての動物をいい、飼いならされた動物および家畜、霊長類およびヒト(例えば、ヒト、非ヒト霊長類)、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、または齧歯類が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、被験体は、任意の年齢または民族の男性または女性である。
【0049】
「原発性腫瘍」は、腫瘍が見出された組織または器官を起源とし、別の場所からその位置に転移していない腫瘍をいう。
【0050】
「ER+腫瘍」は、所定のレベルを超えるERを発現する腫瘍をいう。10fmol/mgを上回るかまたはそれと等しいERレベル(免疫組織化学媒体による、10%を超える核の陽性検出)が乳房腫瘍をER+と見なす通常の基準である。
【0051】
「ER−腫瘍」は、本発明で使用される場合、免疫組織化学的技術(例えば、Elizabeth Hら,2010,Journal of Clinical Oncology,28:2784−2795に記載の方法を使用)を使用して5%未満の腫瘍細胞の核がER発現を示す腫瘍をいう。
【0052】
「Her2−腫瘍」は、細胞がHER2遺伝子の増幅を示さない腫瘍をいう。腫瘍細胞は、ポリクローナル抗HER2抗体を使用した半定量的免疫組織化学アッセイ(例えば、HercepTestキット(Code K5204),Dako North America,Inc.,(Code K5204))を使用して得た値が0、1+、または2+である場合にHER2について陰性であると見なされる。あるいは、腫瘍は、核あたりのHER2遺伝子コピー数が4未満である場合か、FISHによって決定された17番染色体コピー数と比較したHER2遺伝子コピー数の比率が1.8未満である場合にHer2−と見なされる。腫瘍がHer2+またはHer2−であるかどうかを決定するための標準的アッセイは、例えば、the American Society of Clinical Oncology/College of American Pathologists guidelines(Wolff AC,ら J Clin Oncol.,2007,25:118−145;Wolff AC,ら,2007,Archives of Pathology Laboratory Medicine 131:18−43)に記載されている。
【0053】
「PR−腫瘍」は、プロゲステロン受容体を検出可能に発現しない腫瘍をいう。この文脈では、10fmol/mg未満のプロゲステロン受容体レベルおよび/または10%未満の陽性核の免疫組織化学的所見をPR陰性と見なす。
【0054】
「トリプルネガティブ腫瘍」は、ER−、PR−、およびHER2−であることによって特徴づけられる乳がんをいう。
【0055】
表現「基準値」は、患者から得たサンプルを用いて得た値/データの基準として使用される臨床検査値をいう。基準値または基準レベルは、絶対値、相対値、上限および/または下限を有する値、一連の値、平均値、中央値、平均の値、または対照値もしくは基準値に言及することによって示される値であり得る。基準値は、個別のサンプルから得た値(例えば、以前の時点に得た値ではなく研究対象の患者由来のサンプルから得た値など)に基づき得る。基準値は、多くのサンプル数(研究対象患者の暦年齢と一致する暦年齢群由来の被験体集団で得られた値など)に基づき得、または分析すべきサンプルのうちの組み込み/除外サンプルセットに基づき得る。
【0056】
表現「遺伝子に特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチド」は、本発明で使用される場合、配列が前記遺伝子の領域、前記遺伝子によってコードされたプレ−mRNAの領域、または前記遺伝子のmRNAの領域に部分的または完全に相補的であり、その結果、前記遺伝子、プレ−mRNA、またはmRNAと特異的にハイブリッド形成し、それによって遺伝子の転写またはmRNA翻訳を遮断することができるオリゴヌクレオチドをいう。
【0057】
アンチセンス核酸は、従来の塩基によって相補的に(すなわち、例えば、バイカテナリーDNAへの結合の場合、二重らせんの深い方の溝における特異的相互作用によって)薬物の潜在的標的に結合することができる。一般に、これらの方法は、技術でしばしば使用される技術範囲をいい、オリゴヌクレオチド配列への特異的結合に基づいた任意の方法が含まれる。
【0058】
本発明のアンチセンス構築物を、例えば、細胞内で転写される場合、標的遺伝子をコードする細胞mRNAの少なくとも1つの単一部分と相補的なRNAを産生する発現プラスミドとして提供することができる。あるいは、アンチセンス構築物は、ex vivoで生成されたオリゴヌクレオチドプローブであり、細胞に導入した場合に標的核酸のmRNAおよび/またはゲノム配列とハイブリッド形成して遺伝子発現を阻害する。前記オリゴヌクレオチドプローブは、好ましくは、内因性ヌクレアーゼ(例えば、エキソヌクレアーゼおよび/またはエンドヌクレアーゼ)に耐性であり、したがって、in vivoで安定な修飾オリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチド用の例示的な核酸分子は、ホスホルアミダイト、ホスホチオナートおよびメチルホスホチオナートDNAアナログである(米国特許第5176996号;同第5264564号;および同第5256775号も参照のこと)。さらに、アンチセンス治療で有用なオリゴマーの一般的な構築アプローチは、例えば、Van der Krolら,BioTechniques 6:958−976,1988;およびSteinら,Cancer Res 48:2659−2668,1988で概説されている。
【0059】
アンチセンスオリゴヌクレオチドに関して、翻訳開始部位に由来するオリゴデオキシリボヌクレオチドの領域(例えば、標的遺伝子の−10と+10との間)が好ましい。アンチセンスアプローチは、標的ポリペプチドをコードするmRNAと相補的なオリゴヌクレオチドのデザイン(DNAまたはRNAのいずれか)を含む。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNA転写物に結合して翻訳を防止する。
【0060】
mRNAの5’末端(例えば、5’非翻訳配列)に相補的であり、且つAUG開始コドンを含むオリゴヌクレオチドは、翻訳の阻害に最も効率的な様式で機能するはずである。しかし、mRNAの3’非翻訳配列に相補的な配列もmRNAの翻訳の阻害に有効であることが最近示されている(Wagner,Nature 372:333,1994)。したがって、相補オリゴヌクレオチドを、このmRNAの翻訳を阻害するためのアンチセンスアプローチで遺伝子の非コード5’または3’非翻訳領域のいずれかに対して使用することができる。mRNAの5’非翻訳領域に対する相補オリゴヌクレオチドを、AUG開始コドンの相補物中に含むべきである。mRNAのコード領域に対する相補オリゴヌクレオチドは、あまり有効な翻訳インヒビターではないが、本発明にしたがって使用することもできる。相補オリゴヌクレオチドがmRNAの5’領域、3’領域、またはコード領域とハイブリッド形成するようにデザインされる場合、アンチセンス核酸は、少なくとも6ヌクレオチド長を有するべきであり、好ましくは、およそ100ヌクレオチド長未満、より好ましくは、およそ50、25、17、または10ヌクレオチド長未満を有するべきである。
【0061】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、一本鎖もしくは二本鎖のDNAもしくはRNA、またはその化学的混合物、誘導体、もしくは改変バージョンに由来し得る。例えば、分子の安定性、そのハイブリッド形成能力などを改善するために、オリゴヌクレオチドの塩基の基、糖の基、またはリン酸骨格を改変することができる。オリゴヌクレオチドは、他の結合基(ペプチド(例えば、オリゴヌクレオチドを宿主細胞受容体に導くため)など)または細胞膜(例えば、Letsingerら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.86:6553−6556,1989;Lemaitreら,Proc.Natl.Acad.Sci.84:648−652,1987;PCT公開番号WO88/09810号を参照のこと)または血液脳関門(例えば、PCT公開番号WO89/10134を参照のこと)による輸送を容易にするための薬剤、挿入剤(例えば、Zon,Pharm.Res.5:539−549,1988を参照のこと)を含むことができる。この目的のために、オリゴヌクレオチドを、別の分子(例えば、ハイブリッド形成によって誘発されるペプチド、輸送剤、切断剤など)にコンジュゲートすることができる。
【0062】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの修飾された塩基の基を含むことができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、アラビノース、2−フルオロアラビノース、キシルロース、およびヘキソースが含まれるが、これらに限定されない群から選択される少なくとも1つの修飾された糖の基を含むことができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、中性ペプチドに類似の骨格を含むことができる。前記分子はペプチド核酸(PNA)オリゴマーと呼ばれ、例えば、Perry−O’Keefeら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.93:14670,1996およびEglomら,Nature 365:566,1993に記載されている。
【0063】
別の合成形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの修飾リン酸骨格を含む。さらなる合成形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、α−アノマーオリゴヌクレオチドである。
【0064】
標的mRNA配列のコード領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用することができるが、非翻訳転写領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドも使用することができる。
【0065】
いくつかの場合、アンチセンスを内因性mRNAの翻訳を抑制することができる細胞内濃度に到達させることが困難であり得る。したがって、好ましいアプローチは、アンチセンスオリゴヌクレオチドが強力pol IIIプロモーターまたは強力pol IIプロモーターの調節下に置かれた組み換えDNA構築物を使用することである。
【0066】
あるいは、標的遺伝子発現を、遺伝子制御領域(すなわち、プロモーターおよび/またはポテンシエーター)に相補的なデオキシリボヌクレオチド配列に、体内の標的細胞内での遺伝子転写を予防する三重らせん構造を形成するように指示することによって低下させることができる(一般に、Helene,Anticancer Drug Des.6(6):569−84,1991を参照のこと)。一定の合成形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドはアンチセンスモルホリノである。
【0067】
表現「RNA干渉」またはRNAiは、真核細胞で起こり得る遺伝子発現の配列特異的な転写後抑制過程である。一般に、この過程は、前記配列に相同な二本鎖RNA(dsRNA)によって誘導される特定のmRNA配列の分解を含む。このdsRNAは、RNアーゼII(ダイサー)型によりRNAをsiRNAに変換することによって遺伝子発現サイレンシングを行うことができる。
【0068】
用語「核酸」は、本明細書中で使用される場合、2つまたはそれを超えるデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、またはヌクレオチドのアナログ分子、ならびに天然の核酸と構造的に類似するが、核酸骨格(例えば、天然の核酸中のリン酸)、核酸糖(例えば、天然のDNAについてのデオキシリボースおよび天然のRNA中のリボース)、および核酸塩基(例えば、天然の核酸中のアデノシン、シトシン、グアニン、チミジン、またはプリン)のうちの1つ以上が(例えば、化学修飾によって)天然の核酸と異なる分子を有するポリマーをいう。
【0069】
「アンチセンス配列」は、本明細書中で使用される場合、標的DNA(アンチセンス)配列またはmRNA(センス)配列に結合することができるモノカテナリー核酸配列(RNAまたはDNA)を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはセンスオリゴヌクレオチドを含む。所与のタンパク質をコードするcDNA配列に基づいてアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはセンスオリゴヌクレオチドを作製する能力については、例えば、SteinおよびCohen,Cancer Res.48:2659,(1988)およびvan der Krolら,BioTechniques 6:958,(1988)に記載されている。
【0070】
本明細書中で使用される場合、用語「リボザイム」または「RNA酵素」または「触媒RNA」は、化学反応を触媒するRNA分子をいう。多数の天然リボザイムは、1つ以上のそれ自体のホスホジエステル結合の加水分解または他のRNA中の結合の加水分解を触媒するが、リボソームのアミノトランスフェラーゼ活性、DNAリガーゼのライゲーション活性、および従来のタンパク質酵素によって行われる多数の他の化学反応を触媒することも見出されている。
【0071】
処置という用語は、疾患を緩和または排除するか、前記疾患に関連する1つ以上の症状を軽減または排除するか、患者が以下に広範に定義された臨床的利益を得ることができるような薬物の投与をいう:腫瘍サイズの低下、転移の発生またはサイズの低下、腫瘍成長の低下または阻止、寛解の誘導、再発前の期間の延長、腫瘍に関連する疼痛の軽減、腫瘍細胞分裂の阻害、腫瘍細胞の根絶、腫瘍細胞のアポトーシスの誘導、腫瘍再発の低下、低下、および/または患者の生存率の増加。
【0072】
がん、具体的には乳がんに罹患した被験体におけるin vitroでの転移の予測方法
本発明者らは、発現がc−MAF発現と正または負に相関する遺伝子の群を同定した。具体的には、本発明者らは、以下の理由によって特徴づけられる一連の遺伝子を同定した(i)原発性腫瘍中のそれらの発現がMAF発現と有意に相関すること、および(ii)MCF7細胞内でのそれらの発現がMAFを発現するMCF7から誘導された、骨に高度に転移した細胞中のc−MAF過剰発現(長いアイソフォームまたは短いアイソフォーム)またはc−MAFサイレンシングによって改変されること。これらの条件を満たす遺伝子は、c−MAFによって媒介される骨転移プログラムのメンバーであると考えられる。これらの遺伝子を、表1(c−MAFプログラムによって増加する遺伝子)および表2(MAFプログラムによって抑制される遺伝子)に示す。機能獲得型実験および臨床相関データを使用して、本発明者らは、ER+乳がんの骨転移過程の原因となる標的遺伝子としての、およびc−MAFによって媒介される骨転移プログラムの一部としてのPTHLH、PODXL、およびRERGの役割を機能的に確認した。
【0073】
したがって、最初の問題として、本発明は、被験体におけるがん、具体的には乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、より具体的には乳がんの転移のin vitroでの予測方法(以後、本発明の第1の方法)であって、前記被験体の腫瘍組織サンプルにおける、1つ以上の遺伝子であって、その発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子の発現レベルを決定する工程を含み、ここで、基準値と比較した1つ以上の遺伝子の発現レベルの変化が転移発生リスクの高さを示す方法に関する。
【0074】
本発明の第1の方法は、第1の工程として、がん、具体的には乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、より具体的には乳がんに罹患した被験体の腫瘍組織サンプルにおける、1つ以上の遺伝子であって、その発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子の発現レベルを定量する工程を含む。
【0075】
表現「発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子」は、本発明で使用される場合、発現がc−MAF発現レベルの変化に応答して有意に改変される遺伝子をいう。発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子には、原発性腫瘍サンプル中の発現がc−MAF発現と有意に相関する遺伝子および/またはc−MAF発現レベルの変化に応答して乳がん細胞中で発現が改変される遺伝子が含まれる。
【0076】
好ましい形態で実施する場合、発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子には、高c−MAF発現を示す原発性腫瘍サンプル中で発現が増加する遺伝子および/またはがん細胞、好ましくは乳房細胞、結腸細胞、肺細胞、腎臓細胞、または甲状腺細胞、さらにより好ましくは乳房細胞中でc−MAF発現レベルの増加に応答して発現が増加する遺伝子および/またはがん細胞、好ましくは、乳房細胞、結腸細胞、肺細胞、腎臓細胞、または甲状腺細胞、さらにより好ましくは乳房細胞中でc−MAF発現のサイレンシングに応答して発現が減少する遺伝子が含まれる。
【0077】
好ましい形態で実施する場合、発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子には、高c−MAF発現を示す原発性腫瘍サンプル中で発現が減少する遺伝子および/またはがん細胞、好ましくは乳房細胞、結腸細胞、肺細胞、腎臓細胞、または甲状腺細胞、さらにより好ましくは乳房細胞中でc−MAF発現レベルの増加に応答して発現が減少する遺伝子および/またはがん細胞、好ましくは乳房細胞、結腸細胞、肺細胞、腎臓細胞、または甲状腺細胞、さらにより好ましくは乳房細胞中でc−MAF発現サイレンシングに応答して発現が増加する遺伝子が含まれる。
【0078】
本発明では、「増加した」または「増大した」発現レベルは、基準値レベルより高いレベルをいう発現レベルと理解される。特に、被験体サンプル中の発現レベルが基準値と比較して少なくとも1.1倍、1.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、またはそれをさらに超える場合に、被験体由来のサンプルが発現レベルの増加を示すと見なすことができる。
【0079】
さらに、本発明では、「減少した」または「低下した」発現レベルは、基準値より低いレベルをいう発現レベルである。特に、基準サンプル中の発現レベルが被験体のサンプルと比較して少なくとも1.1倍、1.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、またはそれを超える場合に被験体由来のサンプルが発現レベルの減少を示すとみなすことができる。
【0080】
好ましい形態で実施する場合、本発明の第1の方法は、がん、具体的には乳がんに罹患した被験体の腫瘍組織サンプル中での、表1に示す遺伝子の群から選択される1つ以上の遺伝子および/または表2に示す遺伝子の群から選択される1つ以上の遺伝子の発現レベルを定量する工程を含む。
【0086】
【表2-2】
表1は、(i)発現のレベルが原発性腫瘍サンプル中のc−MAF発現レベルと直接相関すること、および(ii)発現のレベルが、c−MAF発現が乳がん細胞株において誘導される場合に増加するか、c−MAFがサイレンシングされる場合に減少することによって特徴づけられる76種の遺伝子の群に対応する。
【0087】
本発明の第1の方法によれば、基準値と比較した1つ以上の表1に示す遺伝子の発現レベルの増加は、被験体において転移を発症する確率が高いことを示す。
【0088】
本発明の第1の方法によって実施することが好ましい場合、PTHLH遺伝子の発現レベルを定量し、その結果、PTHLH遺伝子の発現レベルが基準値と比較して増加する場合、被験体において転移を発症する確率が高いことを示す。本発明の第1の方法別の好ましい実施では、PODXL遺伝子の発現レベルを定量し、その結果、PODXL遺伝子の発現レベルが基準値と比較して増加する場合、被験体において転移を発症する確率が高いことを示す。
【0089】
表2は、(i)発現のレベルが原発性腫瘍サンプル中のc−MAF発現レベルと逆相関すること、および(ii)発現のレベルが、c−MAF発現が乳がん細胞株において誘導される場合に減少するか、c−MAFが乳がん細胞株においてサイレンシングされる場合に増加することによって特徴づけられる33種の遺伝子の群に対応する。
【0090】
本発明の第1の方法によれば、基準値と比較した1つ以上の表2に示す遺伝子の発現レベルの減少は、被験体において転移を発症する確率が高いことを示す。
【0091】
本発明の第1の方法によって実施することが好ましい場合、RERG遺伝子の発現レベルを定量し、その結果、RERG遺伝子の発現レベルが基準値と比較して減少する場合、被験体において転移を発症する確率が高いことを示す。
【0092】
当業者が理解するように、遺伝子発現レベルを、前記遺伝子の、または前記遺伝子によってコードされるタンパク質の伝令RNAレベルの測定によって決定することができる。
【0093】
この目的のために、生物学的サンプルを処理して組織または細胞の構造を物理的または機械的に脱凝集し、それによって水溶液または有機溶液中に細胞内成分を放出させて核酸を調製することができる。核酸を、当業者に公知の手順および市販の手順によって抽出する(Sambroock,J.,ら,“Molecular cloning:a Laboratory Manual”,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,N.Y.,Vol.1−3.)。
【0094】
したがって、発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子の発現レベルを、前記遺伝子の転写に起因するRNA(伝令RNAまたはmRNA)あるいは前記遺伝子の相補DNA(cDNA)から定量することができる。したがって、本発明の特定の実施では、発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子の遺伝子発現レベルの定量は、前記遺伝子の伝令RNA、前記mRNAのフラグメント、前記遺伝子に相補的なDNA、前記cDNAのフラグメント、またはその混合物の定量を含む。
【0095】
実際的に、任意の従来の方法を本発明の文脈下で使用して、発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子またはその対応するcDNAによってコードされるmRNAレベルを検出および定量することができる。例として、制限されないが、前記遺伝子によってコードされるmRNAレベルを、従来の方法(例えば、mRNAを増幅させる工程および前記mRNA増幅の産物を定量する工程(電気泳動および染色など)を含む方法、または、あるいは、サザンブロットおよび適切なプローブの使用、ノーザンブロットおよびc−MAFによって調整される目的の遺伝子のmRNAまたはその対応するcDNAの特異的プローブの使用、S1ヌクレアーゼ、RT−LCR、ハイブリッド形成、マイクロアレイなどを使用したマッピング、好ましくは適切なマーカーを使用したリアルタイム定量PCRによって定量することができる。同様に、遺伝子c−MAFによってコードされる前記mRNAに対応するcDNAのレベルを、従来の技術を使用して定量することもでき、この場合、本発明の方法は、対応するmRNAの逆転写(RT)による対応cDNAの合成、それに続く増幅および前記cDNA増幅の産物の定量工程を含む。発現レベルを定量する従来の方法を、例えば、Sambrookら,2001.(上に引用したとおり)に見出すことができる。
【0096】
特定の実施形態では、発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子の発現レベルの定量を、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはDNAアレイもしくはRNAアレイを使用して行う。さらに、発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子の発現レベルの定量を、この遺伝子によってコードされるタンパク質またはそのタンパク質の任意の機能的に等価なバリアントの発現レベルの定量によって行うこともできる。発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子の発現レベルの定量を、上記タンパク質の任意のアイソフォームの発現レベルの定量によって行うこともできる。したがって、特定の実施形態では、発現レベルがc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子によってコードされるタンパク質レベルの定量は、そのタンパク質の定量を含む。
【0097】
タンパク質の発現レベルを、被験体のサンプル中の前記タンパク質を検出および定量することができる任意の従来の方法の使用によって定量することができる。例として、制限されないが、前記タンパク質のレベルを、例えば、タンパク質(または抗原決定基を含むそのフラグメント)に結合することができる抗体を使用し、その後に形成された複合体を定量することによって定量することができる。これらのアッセイで使用した抗体を、標識してもしなくても良い。使用することができるマーカーの例示的な例には、放射性同位体、酵素、フルオロフォア、化学発光試薬、酵素基質または補因子、酵素インヒビター、粒子、色素などが含まれる。非標識抗体(一次抗体)および標識抗体(二次抗体)を使用する本発明で使用することができる広範な種々の公知のアッセイが存在し、これらの技術には、ウェスタンブロットまたはウェスタントランスファー、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、RIA(放射免疫アッセイ)、競合的EIA(競合的酵素免疫アッセイ)、DAS−ELISA(二重抗体サンドイッチELISA)、免疫細胞化学的技術および免疫組織化学的技術、特異的抗体を含むバイオチップまたはタンパク質マイクロアレイの使用に基づく技術、またはディップスティックなどの形式でのコロイド沈殿に基づくアッセイが含まれる。前記タンパク質の他の検出および定量方法には、アフィニティクロマトグラフィ技術、リガンド結合アッセイなどが含まれる。免疫学的方法を使用する場合、タンパク質の量を検出するために高い親和性でそのタンパク質に結合することが公知の任意の抗体または試薬を使用することができる。しかし、抗体(例えば、ポリクローナル血清、ハイブリドーマ上清またはモノクローナル抗体、抗体フラグメント、Fv、Fab、Fab’およびF(ab’)2、scFv、ダイアボディ、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、およびヒト化抗体)の使用が好ましい。本発明の文脈で使用することができるPTHrPタンパク質またはRERGタンパク質に対する市販抗体が市場に存在する。PTHrPタンパク質に特異的な抗体には、AbcamのヒトPTHrPを認識するマウスモノクローナル抗体3H1−5G8(ab115488)、Abbiotechのラット、マウス、およびヒトのPTHrPを認識するウサギポリクローナル抗体P12272(カタログ番号251478)、BioVisionのヒトPTHrPを認識するウサギポリクローナル抗体(カタログ番号5652−100)、またはNovus BiologicalsのヒトPTHrPを認識するマウスモノクローナル抗体(カタログ番号NBP1−26542)などが含まれるが、これらに限定されない。RERGタンパク質に特異的な抗体には、Santa CruzのヒトRERGを認識するヤギポリクローナル抗体(sc−109008およびsc−109009)、ProteinTechのヒト、ラット、およびマウスのRERGを認識するウサギポリクローナル抗体(10687−1−AP)、AbcamのラットRERGを認識するウサギポリクローナル抗体(ab115806)、およびNovus BiologicalsのヒトRERGを認識するマウスポリクローナル抗体(H00085004−B01)が含まれるが、これらに限定されない。
【0098】
具体的には、本発明において、タンパク質レベルを、ウェスタンブロット、ELISA、またはタンパク質アレイによって定量する。
【0099】
第2段階では、本発明の第1の方法は、第1段階で分析した遺伝子について得られた発現レベルの基準範囲に対する比較を含む。
【0100】
がん、好ましくは乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらにより好ましくは乳がんに罹患した被験体の腫瘍組織サンプルにおける、1つ以上の遺伝子であって、その発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子の発現レベルの測定および基準範囲との比較の後、この(これらの)遺伝子の発現レベルが基準範囲と比較して増加する場合、被験体において転移を発症する確率が高いと結論付けることができる。
【0101】
本発明の第1の方法を具体的に実施する場合、がん、具体的には乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらにより具体的には乳がんに罹患した被験体の腫瘍組織サンプルにおける表1に含まれる1つ以上の遺伝子の発現レベルが基準範囲と比較して増加する場合、および/または、がん、具体的には乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらにより具体的には乳がんに罹患した被験体の腫瘍組織サンプルにおける表2に含まれる1つ以上の遺伝子の発現レベルが基準範囲と比較して減少する場合、被験体において転移を発症する確率が高い。
【0102】
発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子発現レベルの決定には、基準範囲に相関する必要がある。分析下での腫瘍タイプに依存して、基準範囲の厳密な性質は変化し得る。したがって、転移を発症する確率を決定する場合、基準範囲は、転移していないがん、特に乳がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらにより特に乳がんを有する被験体の腫瘍組織サンプルから導かれるか、その基準範囲は、転移していないがん、具体的には乳がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらにより特に乳がんを有する被験体の生検サンプル中に回収された腫瘍組織で測定される発現レベルの中央値に相当する。
【0103】
この基準サンプルを、典型的には、対象集団由来の等量のサンプルの組み合わせによって得る。典型的な基準サンプルを、一般に、臨床的に十分報告されている被験体および転移の非存在が十分定義された被験体から得る。かかるサンプルでは、正常(基準)濃度のバイオマーカーを、例えば、基準集団の平均濃度を提供することによって決定することができる。マーカーの基準濃度を決定する際、いくつかの検討事項を考慮する。これらの検討事項の中に、年齢、体重、性別、患者の全身的健康状態などがある。例えば、少なくとも2人、少なくとも10人から好ましくは100人超、1000人超の被験体の群由来の等量を基準群として採用し、好ましくは前述の検討事項(例えば、種々の年齢カテゴリー)にしたがって分類する。基準レベルに由来して回収されたサンプルは、好ましくは、研究中の患者と同一タイプのがんを有する被験体で構成される。
【0104】
一旦中央値が確立されると、患者の腫瘍組織中のこのマーカーのレベルをこの中央値と比較することができ、このような方法で、発現レベルの「増加」に割り当てることができる。被験体間の変動(例えば、年齢、人種などに関する態様)に起因して、遺伝子発現の絶対基準範囲を確立することは非常に困難である(事実上不可能ではないにせよ)。したがって、具体的には、本発明で、発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子発現の、発現の「増加」または「減少」の基準範囲を、疾患が任意の前述の方法によって十分に報告されている1つまたはいくつかの単離サンプル中の、発現がc−MAFによって調整される遺伝子発現レベルをアッセイする工程を含む従来の手段によってパーセンタイルを計算することによって決定する。次いで、レベルの「低下」を、好ましくは、発現レベルが正常集団中で50パーセンタイルに等しいかまたはそれ未満(例えば、正常集団中で60パーセンタイルに等しいかまたはそれ未満、正常集団中で70パーセンタイルに等しいかまたはそれ未満、正常集団中で80パーセンタイルに等しいかまたはそれ未満、正常集団中で90パーセンタイルに等しいかまたはそれ未満、正常集団中で95パーセンタイルに等しいかまたはそれ未満の発現レベルが含まれる)であるサンプルに割り当てることができる。次いで、発現レベルの「増加」を、好ましくは、発現レベルが正常集団中で50パーセンタイルに等しいかまたはそれを超える(例えば、正常集団中で60パーセンタイルに等しいかまたはそれを超える、正常集団中で70パーセンタイルに等しいかまたはそれを超える、正常集団中で80パーセンタイルに等しいかまたはそれを超える、正常集団中で90パーセンタイルに等しいかまたはそれを超える、正常集団中で95パーセンタイルに等しいかまたはそれを超える発現レベルが含まれる)サンプルに割り当てることができる。
【0105】
具体的には、本発明では、がんは、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、および甲状腺がんによって形成される群から選択される。本発明において好ましいがんは乳がんである。任意のタイプのER+乳がんまたはトリプルネガティブ乳がんがさらにより好ましい。
【0106】
本発明の第1の方法を実施する場合、がん、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらにより特に乳がんに罹患した被験体における好ましい転移は骨転移である。本発明の第1の方法を実施する場合、がん、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらにより特に乳がんに罹患した被験体におけるなおさらに好ましい転移は骨溶解性骨転移である。
【0107】
がん、特に乳がんに罹患した被験体のための個別化治療をデザインする方法
技術の現状が公知である場合、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がんなどのがんに罹患した被験体に施される処置は、転移を発症する確率の高さが関連することに基づいて異なり得る。転移を有する確率が高い場合、最適な処置には、化学療法のような全身処置が含まれる。
【0108】
したがって、本発明で説明される事項にしたがって、発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子の発現レベルの変化が転移を発症する確率に関連することを考慮して、c−MAFによって調整されたこれらの遺伝子のレベルの決定は、がんを有する被験体のための最も適切な治療に関する決定の一助となる。
【0109】
したがって、他の態様では、本発明は、がん、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらに特に乳がんに罹患した被験体のための個別化治療をデザインするin vitro方法(以後、本発明の第2の方法)であって、被験体の腫瘍組織サンプルにおける、1つ以上の遺伝子であって、その発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子の発現レベルを決定する工程を含み、基準範囲と比較した1つ以上の遺伝子の発現レベルの変化が、被験体が転移予防のための治療を受けることが可能であること示す、方法に関する。
【0110】
本発明の第2の方法は、第1段階で、がん、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらにより特に乳がんに罹患した被験体の腫瘍組織サンプルの、1つ以上の遺伝子であって、その発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子の発現レベルを定量する工程を含む。
【0111】
本発明の第2の方法を具体的に実施する場合、発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される1つまたは複数の遺伝子は、被験体の腫瘍組織サンプルにおける表1中に含まれる遺伝子および/または表2中に含まれる1つ以上の遺伝子から形成される群から選択され、ここで、1つ以上の表1由来の遺伝子の発現レベルが基準範囲と比較して増加し、そして/または1つ以上の表2由来の遺伝子の発現レベルが基準範囲と比較して減少する場合、被験体は転移予防のための治療を受けることが可能である。
【0112】
本発明の第2の方法を実施する場合、PTHLH遺伝子の好ましい発現レベルを定量し、その結果、PTHLH遺伝子発現レベルが基準範囲と比較して増加する場合、被験体は転移予防のための治療を受けることが可能である。
【0113】
本発明の第2の方法を実施する場合、PODXL遺伝子の好ましい発現レベルを定量し、その結果、PODXL遺伝子発現レベルが基準範囲と比較して増加する場合、被験体は転移予防のための治療を受けることが可能である。
【0114】
本発明の第2の方法を実施する場合、RERG遺伝子の好ましい発現レベルを定量し、その結果、RERG遺伝子発現レベルが基準範囲と比較して減少する場合、被験体は転移予防のための治療を受けることが可能である。
【0115】
本発明の第2の方法を具体的に実施する場合、がんは、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がんによって形成される群から選択され、好ましくは乳がんである。本発明の第2の方法をさらにより具体的に実施する場合、乳がんは、任意のタイプのER+またはER−HER2−(ER−HER2−PR+またはER−HER2−PR−)乳がんであり得る。
【0116】
本発明の第2の方法を具体的に実施する場合、転移は骨転移である。本発明の第2の方法をさらにより具体的に実施する場合、骨転移は骨溶解性転移である。
【0117】
本発明の第2の方法の場合、サンプルは、被験体の原発性腫瘍組織サンプルである。
【0118】
第2段階では、被験体の腫瘍サンプルにおける、1つ以上の遺伝子であって、その発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子の発現を基準範囲と比較する。この基準範囲を、発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される遺伝子の、コントロールサンプル中の発現レベルから得る。分析中の腫瘍タイプに依存して、コントロールサンプルの厳密な性質は変化し得る。したがって、好ましいコントロールサンプルは、転移していない乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がんを有する被験体の腫瘍組織サンプルである。コントロールサンプルが、転移を発症していないER+乳がんを有する被験体の腫瘍組織サンプルであることがさらにより好ましい。あるいは、基準範囲は、転移を発症していない、がん、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、なおさらに特にER+乳がんを有する被験体の生検で回収された腫瘍組織サンプルで測定されたc−MAF発現レベルの中央値に相当する。
【0119】
本発明の第2の方法の第2段階では、がん、具体的には乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらにより具体的には乳がんに罹患した被験体の腫瘍組織サンプル(simple)において、発現がc−MAF発現レベルの増加に応答して調整される1つ以上の遺伝子について得た発現レベルを基準範囲と比較し、その結果、これらの遺伝子の1つ以上の発現レベルが基準範囲と比較して変化する場合、被験体が転移予防(被験体が依然として転移を発症していない場合)および/または転移の処置(被験体が既に転移を発症している場合)のための治療を受けることが可能であると結論付けることができる。
【0120】
がんが転移を起こした場合、全身処置(化学療法、ホルモン処置、免疫療法、またはこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない)。さらに、放射線療法および/または手術を使用することができる。処置の選択は、一般に、原発性がんの型、サイズ、転移の位置、年齢、患者の一般的な健康状態、および以前に使用した処置の型に依存する。
【0121】
乳がんなどのがんを有する被験体において転移の予防および/または処置を目的とした処置には、化学療法、ホルモン療法、および免疫療法が含まれる。
【0122】
化学療法は、がん細胞を死滅させるための薬物を使用する。アンフェタミンを、典型的には、経口または静脈内に摂取する。時折、化学療法を放射線処置と共に使用する。乳がんに適切な化学療法上の処置には、アントラサイクリン(ドキソルビシン、エピルビシン、ペグ化リポソーム封入ドキソルビシン)、タキサン(パクリタキセル、ドセタキセル、ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセル)、5−フルオロウラシル、ビンカアルカロイド(ビノレルビン、ビンブラスチン)、ゲムシタビン、白金塩(シスプラチンおよびカルボプラチン)、シクロホスファミド、エトポシド、および1つ以上の上記のレジメンの組み合わせ(シクロホスファミド−アントラサイクリン+/−5−フルオロウラシル(例えば、ドキソルビシン−シクロホスファミド(AC)、エピルビシン−シクロホスファミド、(EC)シクロホスファミド−エピルビシン−5−フルオロウラシル(CEF)、シクロホスファミド−ドキソルビシン−5−フルオロウラシル(CAF)、5−フルオロウラシル−エピルビシン−シクロホスファミド(FEC))、シクロホスファミド−メトトレキサート−5−フルオロウラシル(CMF)、アントラサイクリン/タキサン(例えば、ドキソルビシン−パクリタキセルまたはドキソルビシン−ドセタキセル)、ドセタキセル−カペシタビン、ゲムシタビン−パクリタキセル、タキサン−白金塩(例えば、パクリタキセル−カルボプラチンまたはドセタキセル−カルボプラチン)など)が含まれるが、これらに限定されない。
【0123】
ホルモン療法は、いくつかのホルモンがいくつかのがんの成長を促進するという事実に基づく。例えば、女性において卵巣によって産生されるエストロゲンは、時折、乳がんの成長を促進する。これらのホルモンの産生を停止させる種々の方法が存在する。1つの方法は、ホルモンを産生する器官(女性の場合は卵巣、男性の場合は精巣)を外科的に除去することによる。より頻繁には、これらの器官のホルモン産生を防止するか、これらのホルモンのがん細胞に対する作用を防止するための薬物を使用することができる。
【0124】
免疫療法は、免疫系自体が患者のがんと戦うことを補助する処置である。転移を有する患者を処置するために使用される免疫療法にはいくつかの型が存在する。これらには、サイトカイン、モノクローナル抗体、および抗腫瘍ワクチンが含まれるが、これらに限定されない。
【0125】
発現がc−MAF発現と正に相関する遺伝子の阻害に基づく治療方法
本発明者らは、乳房腫瘍の異種移植片によって生じる骨転移の転移増殖モデルにおけるPHTLHの阻害により転移内の骨溶解性病変の数が減少することを述べた。これは、発現が乳房腫瘍中のc−MAF発現の増加に応答して増加する(または発現が乳房腫瘍中のc−MAF発現の減少に応答して減少する)遺伝子がER+乳がんからの骨転移過程における原因標的遺伝子であり、したがって、それを阻害することは、乳がん転移の出現の停止に有用であり得ることを示す。
【0126】
他方では、本発明者らは、精製マウス骨髄細胞に基づいた実験モデルにおける骨髄細胞への接着アッセイにおいて転移性遺伝子PODXL発現の相関を機能的に確認した(実施例5)。PODXL発現は、PODXL遺伝子の内因性レベルの増加を担うc−MAFの高発現レベルを示す高転移性骨細胞MCF7においてin vivoで低下した。したがって、この遺伝子は、ER+乳がんにおける骨転移過程での予後マーカーおよび原因標的遺伝子として、ならびにc−MAFによって媒介される骨転移プログラムの一部として有益である。
【0127】
したがって、他の態様では、本発明は、転移性がん、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらにより特に乳がんの処置および/または予防のための薬物の調製のための、遺伝子の発現または遺伝子産物の活性を阻害する薬剤の使用であって、遺伝子が、腫瘍細胞、特に乳房、結腸、肺、腎臓、または甲状腺、さらにより特には乳房で見出される腫瘍細胞でのその発現によって特徴づけられ、これらの細胞におけるc−MAF発現レベルの増加に応答して増加するか、これらの細胞におけるc−MAF発現レベルの低下に応答して減少する、使用に関する。
【0128】
別の態様では、本発明は、転移性がん、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらにより特に乳がんの処置および/または予防で用いる遺伝子の発現または遺伝子産物の活性を阻害する薬剤であって、遺伝子が、腫瘍細胞、特に乳房、結腸、肺、腎臓、または甲状腺、さらにより特には乳房で見出される腫瘍細胞でのその発現によって特徴づけられ、これらの細胞におけるc−MAF発現レベルの増加に応答して増加するか、これらの細胞におけるc−MAF発現レベルの低下に応答して減少する、薬剤に関する。
【0129】
別の態様では、本発明は、被験体における転移性がん、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、さらにより特に乳がんを処置および/または予防する方法であって、遺伝子発現または遺伝子産物の活性を阻害する薬剤を投与することを含み、遺伝子発現または遺伝子産物の活性が、腫瘍細胞、特に乳房、結腸、肺、腎臓、または甲状腺、さらにより特には乳房で見出される腫瘍細胞でのその発現によって特徴づけられ、これらの細胞におけるc−MAF発現レベルの増加に応答して増加するか、これらの細胞におけるc−MAF発現レベルの低下に応答して減少する、方法に関する。
【0130】
表現「遺伝子発現を阻害する薬剤」は、遺伝子転写の減少をもたらすこと、mRNAを不安定化すること、および/またはmRNA翻訳を減少させることが可能な任意の分子をいう。
【0131】
発現の阻害剤を、化合物の以下の能力を決定するための標準的な方法によって同定することができる:一定の遺伝子の転写を阻害する能力(RT−PCR、ノーザンブロットおよびハイブリッド形成、ランオンアッセイなど)、mRNAを不安定化するかmRNAの翻訳を阻害する能力(網状赤血球ライセートまたはコムギ胚芽ライセートにおけるin vitro翻訳アッセイ)。本発明では、化合物が、遺伝子のmRNA量を減少させる、遺伝子の転写を減少させる、および/または遺伝子の翻訳を少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%(この発現産物の完全な不活化)減少させることができる場合に、その化合物が遺伝子発現のインヒビターであると見なす。
【0132】
本発明で用いる遺伝子発現の阻害剤の例には、遺伝子特異的アンチセンスオリゴヌクレオチド、遺伝子特異的干渉RNA(siRNA)、および遺伝子特異的触媒RNAまたはリボザイムが含まれるが、これらに限定されない。
【0133】
本発明で用いる遺伝子発現のための好ましい阻害剤は、遺伝子特異的アンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0134】
遺伝子発現の阻害にも好ましい薬剤は、遺伝子特異的干渉RNAである。低分子干渉RNAまたはsiRNAは、RNA干渉によって標的遺伝子発現を阻害することができる薬剤である。siRNAを化学合成することができるか、転写によってin vitroで得ることができるか、標的細胞においてin vivoで合成することができる。典型的には、siRNAは、15ヌクレオチド長と40ヌクレオチド長との間の二本鎖RNAからなり、1〜6ヌクレオチドの3’および/または5’突出領域を含み得る。突出領域の長さは、siRNA分子の全長と無関係である。siRNAは、標的メッセンジャーの分解または転写後サイレンシングによって作用する。
【0135】
本発明のsiRNAは、PTHLHをコードする遺伝子のmRNAと、PODXLをコードする遺伝子と、またはタンパク質をコードするゲノム配列と実質的に相同である。「実質的に相同な」は、上記siRNAが干渉RNAを手段として標的mRNAを分解させることができる方法で、該siRNAが標的mRNAと十分に相補的であるか類似する配列を有すると理解される。この干渉を生じさせるのに適切なsiRNAには、RNAによって形成されたsiRNAおよび以下などの異なる化学修飾を含むsiRNAが含まれる。
【0136】
−ヌクレオチド間の連結が天然で生じる連結と異なる(ホスホロチオアート連結など)siRNA、
−RNA鎖のフルオロフォアなどの機能的反応物との結合体、
−異なる2’位のヒドロキシル官能基での修飾によるRNA鎖の末端、特に3’末端の修飾物、
−2’−O−メチルリボースp2’−O−フルオロリボースなどの2’位でO−アルキル化された残存物などの修飾糖を有するヌクレオチド、
−ハロゲン化塩基(例えば、5−ブロモウラシルおよび5−ヨードウラシル)、アルキル化塩基(例えば、7−メチルグアノシン)などの修飾塩基を有するヌクレオチド。
【0137】
siRNAを、そのままで(上記特徴を有する二本鎖RNAの形態を意味する)使用することができる。あるいは、目的の細胞中での発現に適切なプロモーターの調節下でsiRNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖を含むベクターを使用することが可能である。
【0138】
siRNA発現に適切なベクターは、転写の際にループを形成する分離領域によって分離された1つの単一DNA鎖がタンデムに配置されたsiRNAの2つの鎖をコードするDNAの2つの領域に存在し、単一のプロモーターがDNA分子を転写させてshRNAを生じるベクターである。
【0139】
あるいは、siRNAを形成する各鎖が異なる転写単位の転写から形成されるベクターを使用することが可能である。これらのベクターは、次に、収束および分岐転写ベクターに分けられる。分岐転写ベクターでは、siRNAを形成するDNA鎖の各1つをコードする転写単位は、各DNA鎖の転写が同一でも異なっていてもよい適切なそれ自体に依存する方法でベクター中にタンデムに局在する(Wang,J.ら,2003,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,100:5103−5106 y Lee,N.S.,ら,2002,Nat.Biotechnol.,20:500−505)。収束転写ベクターでは、siRNAを生じるDNA領域は、2つの逆位プロモーターが隣接したDNA領域のセンス鎖およびアンチセンス鎖を形成することが見出されている。センスRNA鎖およびアンチセンスRNA鎖の転写後、鎖はハイブリッド形成して機能的siRNAを形成する。ベクターは、2つのU6プロモーター(Tran,N.ら,2003,BMC Biotechnol.,3:21)、マウスU6プロモーターおよびヒトH1プロモーター(Zheng,L.,ら,2004,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,135−140 y WO2005026322号)、ならびにヒトU6プロモーターおよびマウスH1プロモーター(Kaykas,A.y Moon,R.,2004,BMC Cell Biol.,5:16)を使用するベクターにおいて逆位プロモーター系として記載されている。
【0140】
収束ベクターおよび分岐ベクター由来のsiRNA発現での使用に適切なプロモーターには、siRNAを発現するのに望ましい細胞に適合する任意のプロモーターまたはプロモーター対が含まれる。したがって、本発明の開発に適切なプロモーターには、構成性プロモーター(真核生物ウイルス(ポリオーマウイルス、アデノウイルス、SV40、CMV、トリ肉種ウイルス、B型肝炎ウイルスなど)のゲノム由来のプロモーター、メタロチオネインプロモーター遺伝子、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼプロモーター、レトロウイルスのLTR領域、免疫グロブリンプロモーター、アクチンプロモーター、EF−1αプロモーターなど)、ならびにタンパク質の発現が分子または外因性シグナルの付加に依存する誘導性プロモーター(テトラサイクリン系、NF−kBおよびUV光系、Cre−lox系、熱ショックプロモーター、WO/2006/135436号に記載のRNAポリメラーゼII制御プロモーターなど)、ならびに組織特異的プロモーター(例えば、WO2006012221号に記載のPSAプロモーター)が含まれるが、これらに限定される必要はない。構成性に作用するRNAポリメラーゼIIIプロモーターが本発明に好ましいプロモーターである。RNAポリメラーゼIIIプロモーターは、5S RNA、tRNA、7SL RNA、およびU6 snRNAなどの限られた数の遺伝子中にある。他のRNAポリメラーゼIIIプロモーターと異なり、タイプIIIプロモーターは、いかなる遺伝子内配列を必要としないが、−34位および−24位のTATAボックス、−66位と−47位との間の近位配列エレメント(PSE)、および、いくつかの場合、−265位と−149との間の遠位配列エレメント(DSE)を含む5’方向の配列を必要とする。RNAポリメラーゼIIIタイプIIIは、ヒトまたはマウスのH1遺伝子およびU6遺伝子の好ましいプロモーターである。2つのヒトまたはマウスのU6プロモーター、1つのマウスU6プロモーターおよび1つのヒトH1プロモーター、または1つのヒトU6プロモーターおよび1つのマウスH1プロモーターがさらにより好ましい。本発明の文脈では、乳房腫瘍、好ましくはER+乳房腫瘍中で目的の遺伝子を特異的に発現させるのに特に適切であり、したがって好ましいプロモーターは、αERまたはサイクリンD1プロモーターである。
【0141】
siRNAを、ループ領域またはヘアピン領域によって連結されたsiRNAを形成す逆平行鎖によって特徴づけられるいわゆるshRNA(低分子ヘアピン型RNA)から細胞内に生成することができる。siRNAは、プラスミドまたはウイルス、特にレトロウイルスによってコードされ得、プロモーターの調節下にある。shRNAの発現に適切なプロモーターは、siRNA発現についての前述の段落中に示すプロモーターである。
【0142】
siRNAおよびshRNAの発現に適切なベクターには、原核生物発現ベクター(pUC18、pUC19、pBluescriptおよび派生物、mp18、mp19、pBR322、pMB9、ColEl 、pCRl 、RP4など)、ファージベクターおよびシャトルベクター(pSA3およびpAT28など)、酵母発現ベクター(2−ミクロンプラスミド、組込みプラスミド、YEpベクター、セントロメアプラスミドおよび類似のベクターなど)、昆虫細胞の発現ベクター(pACシリーズおよびpVLシリーズのベクターなど)、植物細胞の発現ベクター(pIBIシリーズ、pEarleyGate、pAVA、pCAMBIA、pGSA、pGWB、pMDC、pMY、pORE、および類似のベクターなど)、ならびにウイルスベクター(アデノウイルス、アデノウイルス随伴ウイルス、およびレトロウイルス、特にレンチウイルス)および非ウイルスベクター(pcDNA3、pHCMV/Zeo、pCR3.1、pEFl/His、pIND/GS、pRc/HCMV2、pSV40/Zeo2、pTRACER−HCMV、pUB6/V5−His、pVAXl、pZeoSV2、pCI、pSVLおよびpKSV−10、pBPV−1、pML2d、およびpTDTlなど)に基づく巨大真核細胞発現ベクターが含まれる。レンチウイルスベクターは、開発に好ましいベクターである。
【0143】
本発明のsiRNAおよびshRNAを、当業者に公知の一連の技術の使用によって得ることができる。siRNAをデザインするための塩基として使用されるヌクレオチド配列領域は制限されず、コード配列の領域(開始コドンと終結コドンとの間)を含むことができるか、あるいは、5’または3’非翻訳領域(好ましくは25ヌクレオチド長と50ヌクレオチド長との間)の配列および開始コドンと比較してセンス3’位中の任意の位置の配列を含むことができる。siRNAをデザインする方法は、AA(N19)TTモチーフ(式中、Nは、遺伝子配列、特にPTHLHまたはPODXL中の任意のヌクレオチドであり得る)の同定およびGC含量が高いモチーフの選択を含む。かかるモチーフが見出されない場合、NA(N21)(式中、Nは任意のヌクレオチドであり得る)を同定することが可能である。
【0144】
遺伝子特異的DNA酵素は、遺伝子発現阻害に好ましい薬剤である。DNA酵素には、アンチセンステクノロジーおよびリボザイムのいくつかの機械的特徴が組み込まれている。DNA酵素は、アンチセンスオリゴヌクレオチドに類似するが、リボザイムに類似しない特定の核酸の標的配列を認識するようにデザインされ、標的核酸を触媒的および特異的に切断する。
【0145】
遺伝子発現を阻害するのに好ましい薬剤は、標的mRNAの転写物を触媒的に切断して、その活性が阻害されることが望ましいPTHLHまたはPODXLをコードするmRNAの翻訳を防止するようにデザインされたリボザイムである。リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒することができるRNA酵素分子である(概説については、Rossi,Current Biology 4:469−471,1994を参照のこと)。リボザイム作用機構は、相補的標的RNAへの特異的分子配列ハイブリッド形成、その後の内ヌクレオチド結合分解性切断事象を含む。リボザイム分子の組成は、好ましくは、1つ以上の標的mRNAに相補的な配列およびmRNA分解を担う周知の配列または機能的に等価な配列を含む(例えば、米国特許第5093246号を参照のこと)。
【0146】
本発明で使用されるリボザイムには、ハンマーヘッド型リボザイム、エンドリボヌクレアーゼRNA(以後、「Cechリボザイム」(Zaugら,Science 224:574−578,1984)が含まれる。
【0147】
リボザイムは、修飾オリゴヌクレオチド(例えば、安定性、誘導などを改善するため)から構成することができ、in vivoで標的遺伝子を発現する細胞に分布させるべきである。好ましい分布方法は、トランスフェクトされた細胞が内因性標的メッセンジャーを破壊して翻訳を阻害するのに十分な量のリボザイムを産生する方法で、強力pol IIIまたはpol II構成性プロモーターの調節下にてリボザイムを「コードする」DNA構築物を使用することを含む。リボザイムは、他のアンチセンス分子と異なり、触媒性であるので、必要とする細胞内有効濃度は低い。
【0148】
遺伝子産物の活性を阻害する化合物の場合、これらの化合物を、かかる産物の活性を決定することができる特異的アッセイの使用によって同定することができる。必要に応じて、遺伝子産物の活性を阻害する化合物を、転移増殖能力の高い乳がん転移の動物モデルにおいて阻害剤が骨溶解性病変の形成を減少させ、そして/または転移性病変中の破骨細胞をin vitroで分化させる能力の決定に基づいて特徴づけられる、本発明の実施例3に説明されたアッセイの使用によって同定することができる。本発明では、化合物が遺伝子産物の活性を少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%(遺伝子産物の完全な不活化)減少させることができる場合、化合物は、遺伝子産物の活性のインヒビターであると見なす。
【0149】
本発明で用いる遺伝子産物の活性を阻害する薬剤の例には、遺伝子産物の特異的インヒビター抗体、遺伝子産物のネガティブドミナントバリアント、および遺伝子産物の阻害性ペプチドが含まれるが、これらに限定されない。
【0150】
別の好ましい遺伝子産物の活性を阻害する薬剤は、この産物の特異的インヒビター抗体である。抗体を、当業者に公知の任意の方法を使用して調製することができ、これらの方法のいくつかは、既に述べられている。したがって、ポリクローナル抗体を、阻害されることが望ましいタンパク質を用いた動物の免疫によって調製する。モノクローナル抗体を、Kohler,Milsteinらに記載の方法(Nature,1975,256:495)の使用によって調製する。本発明の文脈で適切な抗体には、抗原を結合する可変領域および定常領域を含むインタクトな抗体、Fab、F(ab’)2、およびFab’フラグメント、Fv、scFv、ナノボディ、ダイアボディ、ならびに二重特異性抗体が含まれる。特にPTHLHまたはPODXLへのタンパク質結合能力を有する抗体を同定した後、このタンパク質の活性を阻害することができる抗体を、薬剤インヒビターを同定するアッセイを使用して選択する。
【0151】
遺伝子産物の活性を阻害するための別の好ましい薬剤は、産物の阻害性ペプチドである。
【0152】
遺伝子産物の活性を阻害するための別の好ましい薬剤は、この遺伝子産物の「ネガティブドミナント変異体」である。本発明は、遺伝子産物のネガティブドミナント変異体および該変異体をコードするポリヌクレオチドの使用を考慮する。本発明のポリヌクレオチドの転写を制御するために使用することができるプロモーターは構成性プロモーターであり得る。これは、構成性プロモーターが、転写活性が外部シグナルを必要とする転写プロモーターまたは誘導性プロモーターを基本的に誘導することができることを意味する。転写の制御に適切な構成性プロモーターは、とりわけ、CMVプロモーター、SV40プロモーター、DHFRプロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、伸長因子1a(EF1a)プロモーター、アルブミンプロモーター、ApoA1プロモーター、ケラチンプロモーター、CD3プロモーター、免疫グロブリン重鎖または軽鎖プロモーター、ニューロフィラメントプロモーター、ニューロン特異性エノラーゼプロモーター、L7プロモーター、CD2プロモーター、ミオシン軽鎖プロモーター、HOXプロモーター、チミジンキナーゼプロモーター、RNAポリメラーゼIIプロモーター、MyoDプロモーター、ホスホグリセロキナーゼ(PGK)、低密度リポタンパク質プロモーター、アクチンプロモーターである。トランス活性化因子発現を制御する好ましいプロモーターは、PGKプロモーターである。本発明のポリヌクレオチド転写を制御するのに好ましいプロモーターは、ファージT7RNAポリメラーゼである。
【0153】
好ましくは、本発明の文脈で使用することができる誘導性プロモーターは、誘導剤に応答し、誘導剤の非存在下で基礎発現を全く示さないか僅かしか示さず、3’位に局在した遺伝子の活性化を促進することができるプロモーターである。誘導剤のタイプに基づいて、誘導性プロモーターを、Tetオン/オフプロモーター(Gossen,M.y H.Bujard(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:5547−5551;Gossen,M.ら,1995,Science 268:1766−1769;Rossi,F.M.V. y H.M.Blau,1998,Curr.Opin.Biotechnol.9:451−456);Pipオン/オフプロモーター(米国特許第6287813号);抗プロゲスチン依存性プロモーター(米国特許出願公開第2004132086号)、エクジソン依存性プロモーター(Christophersonら,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:6314−6318;Noら,1996,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:3346−3351,Suhrら,1998,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95:7999−8004 y WO9738117号)、メタロチオネイン依存性プロモーター(WO8604920号)、およびラパマイシン依存性プロモーター(Riveraら,1996,Nat.Med.2:1028−32)として分類する。
【0154】
c−MAFのドミナントネガティブバリアントをコードするポリヌクレオチドの発現に適切なベクターには、原核生物の発現ベクター(pUC18、pUC19、Bluescriptおよびその派生物、mp18、mp19、pBR322、pMB9、ColEl、pCRa、RP4など)、ファージベクターおよび「シャトル」ベクター(pSA3およびpAT28など)、酵母の発現ベクター(2ミクロンプラスミドベクター、組込みプラスミド、YEpベクター、セントロメアおよび類似のプラスミドなど)、昆虫細胞発現ベクター(pACおよびpVLシリーズのベクターなど)、植物発現ベクター(pIBI、pEarleyGate、pAVA、pCAMBIA、pGSA、pGWB、pMDC、pMY、pOREシリーズのベクターおよび類似のベクターなど)、ならびにウイルスベクター(アデノウイルスまたはアデノウイルス随伴ウイルス(レトロウイルス、特にレンチウイルスなど)および非ウイルスベクター(pSilencer 4.1−CMV(Ambion)、pcDNA3、pcDNA3.1/hyg pHCMV/Zeo、pCR3.1、pEF1/His、pIND/GS、pRc/HCMV2、pSV40/Zeo2、pTracer−HCMV、pUB6/V5−His、pVAX1、pZeoSV2、pCI、pSVLおよびpKSV−10、pBPV−1、pML2dおよびpTDT1など)のいずれかに基づく高等真核細胞の発現ベクター、から誘導されたベクターが含まれる。
【0155】
1つの好ましい実施形態では、発現が腫瘍、特に乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、または甲状腺腫瘍、より特に乳房腫瘍中のc−MAF発現レベルの増加に応答して増加するか、発現が腫瘍、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、より特に乳がん中のc−MAFの発現レベルの減少に応じて減少する遺伝子(表1に記載の遺伝子)を選択する。
【0156】
なおさらに好ましい実施形態では、発現が乳房腫瘍中のc−MAF発現レベルの増加に応答して増加する遺伝子はPHTLH遺伝子である。1つの別の好ましい実施形態では、発現が乳房腫瘍中のc−MAF発現レベルの増加に応答して増加する遺伝子はPODXL遺伝子である。
【0157】
したがって、PHTHL発現またはこの遺伝子の発現産物の活性を阻害する薬剤には、PHTHL遺伝子の特異的siRNA、PHTHL遺伝子の特異的アンチセンスオリゴヌクレオチド、PHTHL遺伝子の特異的リボザイム、PHTHLタンパク質の特異的抗体インヒビター、前記発現産物のドミナントネガティブPHTHLバリアント、およびPHTHLインヒビターペプチドが含まれるが、これらに限定されない。
【0158】
PODXL発現またはこの遺伝子の発現産物の活性の阻害剤には、PODXL遺伝子の特異的siRNA、PODXL遺伝子の特異的アンチセンスオリゴヌクレオチド、PODXL遺伝子の特異的リボザイム、PODXLタンパク質の特異的インヒビター抗体、発現産物のPODXLドミナントネガティブバリアント、およびPODXLインヒビターペプチドが含まれるが、これらに限定されない。
【0159】
PTHLH特異的siRNAには、とりわけ、市販のsiRNA(AbgentのPTHLH用プレデザインsiRNA(カタログ番号RI14318)、QiagenのマウスPTHLH用siRNA(GS19227)、Cambridge BioscienceのヒトPTHLH用siRNA二重鎖(カタログ番号SR303874)など)が含まれるが、これらに限定されない。
【0160】
PODXL特異的siRNAには、とりわけ、市販のsiRNA(Santa Cruz Biotechnologyのsc−44765 siRNA 、OriGeneのヒトPODXL用siRNA二重鎖(SR303611)、またはCambridge BioscienceのヒトPODXL用siRNA二重鎖(カタログ番号SR303611)など)が含まれるが、これらに限定されない。
【0161】
本発明の使用に有効なPTHLHインヒビター抗体には、とりわけ、AbcamのヒトPTHLHを認識する3H1−5G8マウスモノクローナル抗体(ab115488)、Abbiotechのラット、マウス、およびヒトのPTHLHを認識するP12272ウサギポリクローナル抗体(カタログ番号251478)、BioVisionのヒトPTHLHを認識するウサギポリクローナル抗体(カタログ番号5652−100)、またはNovus BiologicalのヒトPTHLHを認識するマウスモノクローナル抗体(カタログ番号NBP1−26542)が含まれるが、これらに限定されない。
【0162】
本発明の使用に有効なPODXLインヒビター抗体には、ヒトPODXLのN末端領域を認識するab62594ウサギポリクローナル抗体、またはヒトPODXLを認識するsc−23903マウスモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology)が含まれるが、これらに限定されない。
【0163】
PTHLH阻害ペプチドには、以下が含まれるが、これらに限定されない:
−PTHLH短縮バリアント(配列LLHDKGKSIQDLRRRFFLHHLIAEIHTA(配列番号8)を有するhPTHrP(7−34)、PTHrP(3−34)、PTHrP(8−34)、PTHrP(9−34)、PTHrP(10−34)など)ならびにアミド化バリアント、ならびにPTHLHの10位、11位、および12位に対応するアミノ酸のそれぞれAsn(Asn10バリアント)、Leu(Leu11バリアント)、およびD−Trp(D−Trp12バリアント)による置換により生じるバリアント、および特に、ペプチド[Nle
8,18、Tyr
34]bPTH(7−34)NH
2、[Tyr
34] bPTH(7−34)NH
2、hPTHrP(7−34)、[Leu
11、D−Trp
12]hPTHrP(7−34)
2、[Asn
10Leu
11]hPTHrP(7−34)−NH
2、および[Asn
10、Leu
11、D−Trp
12]hPTHrP(7−34)−NH
2(Nuttら,1990,Endocrinology 127:491−493 ,Doppeltら,1986,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:7557−7560ならびに米国特許第6362163号および同第5527772号に記載)。
【0164】
−TIPペプチド(1−39)(隆起漏斗ペプチド1−39)としてのTIP(隆起漏斗ペプチド)短縮誘導体およびその誘導体(Hoareら,Peptides 23:989−998,2002に記載)
−ペプチドNCT00051779(Chugai Pharmaceuticals)
−米国特許出願公開第2007203071AA号の表1〜5に記載のペプチド
−その構造がWO04103273A2号の式1に示されるペプチド
−Olstadら(Peptides 1995,16:1031−1037)およびRoubiniら(Biochemistry,1992,31:4026−4033)による記載のペプチド
−Nuttら(Endocrinology,1990,127:491−3)に記載のペプチド[Asn10Leu11]−PTHrP(7−34)−NH2および[Asn10,leu11,D−Trp12]−PTHrP−(7−34)−NH2
−任意の前述のペプチドのFc結合体(WO04060386号による記載のペプチドなど)
−これらのペプチドの機能的に等価なバリアント。
【0165】
用語「機能的に等価なバリアント」は、本発明で使用される場合、1つ以上のアミノ酸の修飾、挿入、および/または欠失によって本発明のペプチド配列から誘導されたペプチドであり、但し、前記ペプチドの機能が、修飾、挿入、および/または欠失のない対応する本発明のペプチドの機能と比較して少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも80%維持されることを条件とする。本発明での使用に適切なバリアントには、上記のペプチド配列と比較して少なくとも25%、少なくとも40%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を示すバリアントが含まれる。2つのアミノ酸配列間の同一度を、従来の方法、例えば、先行技術の既知の配列の標準的なアラインメントアルゴリズム(例えば、BLAST(Altschul SFら Basic Local Alignment Search Tool.J Mol Biol.1990 Oct 5;215(3):403−10)など)によって決定することができる。
【0166】
他のPTHLHインヒビターには、WO2011003935号に記載のPTHLH N末端領域に特異的に結合するポリペプチドが含まれるが、これに限定されない。
【0167】
本発明の第1の使用の特定の形態では、がんは、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、好ましくは乳がんのがんである。
【0168】
本発明の第2の使用のさらにより特定の形態では、乳がんは、ER+型またはトリプルネガティブ型である。
【0169】
本発明の使用の特定の形態では、がん転移、特に乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、好ましくは乳がんの転移は骨転移である。さらにより特定の形態では、骨転移は骨溶解性転移である。
【0170】
c−MAF発現と逆相関する発現を使用した遺伝子活性化に基づいた治療方法
本発明者らは、RERG遺伝子発現レベルがc−MAF発現レベルと逆相関し、乳房腫瘍RERG発現の増加が転移細胞数を低下させることができることを示した。したがって、これは、発現がc−MAFによって下方制御される遺伝子発現の調整を乳がん転移の処置および/または予防のために使用することができることを証明している。この場合、本発明者は、RERG活性化剤の使用により転移細胞数を低下させることができることを示した。
【0171】
したがって、1つの態様では、本発明は、がん転移、特に乳がん転移、結腸がん転移、肺がん転移、腎臓がん転移、または甲状腺がん転移、より特に乳がん転移の処置および/または予防のための医薬の調製のための、遺伝子の発現または前記遺伝子の発現産物の活性を刺激する薬剤の使用であって、前記遺伝子が、腫瘍細胞でのその発現、特に、乳がん細胞、結腸がん細胞、肺がん細胞、腎臓がん細胞、または甲状腺がん細胞、より特に乳がん細胞中でのその発現が前記細胞中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して減少するか、その発現が前記細胞中のc−MAFの発現レベルの減少に応答して増加するという点で特徴づけられる、使用に関する。
【0172】
別の態様では、本発明は、がん転移、特に乳がん転移、結腸がん転移、肺がん転移、腎臓がん転移、または甲状腺がん転移、より特に乳がん転移の処置および/または予防のための医薬の調製で用いる遺伝子の発現またはこの遺伝子の発現産物の活性を刺激する薬剤であって、前記遺伝子が、腫瘍細胞でのその発現、特に、乳がん細胞、結腸がん細胞、肺がん細胞、腎臓がん細胞、または甲状腺がん細胞、より特に乳がん細胞中でのその発現が前記細胞中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して減少するか、その発現がこれらの細胞におけるc−MAFの発現レベルの減少に応答して増加するという点で特徴づけられる、薬剤に関する。
【0173】
別の態様では、本発明は、被験体におけるがん転移、特に、乳がん転移、結腸がん転移、肺がん転移、腎臓がん転移、または甲状腺がん転移、より特に乳がん転移の処置および/または予防のための方法であって、遺伝子の発現または前記遺伝子の発現産物の活性を刺激する薬剤を前記被験体に投与することを含み、前記遺伝子が、その腫瘍細胞発現、特に、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、より特に乳がんの細胞発現が前記細胞中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して減少するか、その発現が前記細胞中のc−MAFの発現レベルの減少に応答して増加することにより特徴づけられる、方法に関する。
【0174】
1つの好ましい実施形態では、前記遺伝子の発現を刺激する薬剤は前記遺伝子のコード配列を含むポリヌクレオチドであるか、前記遺伝子の発現産物の活性を刺激する薬剤は前記遺伝子によってコードされるポリペプチドである。
【0175】
別の態様では、この遺伝子の発現を刺激するポリヌクレオチドは、遺伝子構築物の一部になることができる。好ましくは、遺伝子構築物は、本発明のポリヌクレオチドを、ポリヌクレオチドの発現の制御に適切な領域(プロモーター、転写ターミネーター、非翻訳5’および3’領域、ポリアデニル化シグナル、および類似物が含まれる)と共に含む。
【0176】
原則として、プロモーターが、ポリヌクレオチドを発現することが望まれる細胞と適合することを条件として、本発明の文脈中のクローニングベクターのために任意のプロモーターを使用することができる。したがって、本発明の実施形態に適切なプロモーターには、構成性プロモーター(真核生物のウイルスゲノムの派生物(ポリオーマウイルス、アデノウイルス、SV40、CMV、トリ肉種ウイルス、B型肝炎ウイルス、メタロチオネイン遺伝子プロモーター、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子プロモーター、レトロウイルスのLTR領域など)、免疫グロブリン遺伝子プロモーター、アクチン遺伝子プロモーター、EF−1α遺伝子プロモーターなど)ならびにタンパク質の発現が分子の付加または外因性シグナルの付加に依存する誘導性プロモーター(テトラサイクリン系、NFκB/UV光系、Cre/Lox系、および熱ショック遺伝子プロモーター、制御性RNAポリメラーゼIIプロモーター(WO/2006/135436号に記載)など)が含まれるが、これらに必ずしも限定されない。
【0177】
1つの好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドを、乳房組織特異的プロモーターに作動可能に連結する。本発明での使用に適切な乳房組織の特異的プロモーターの例には、以下が例示的に含まれる:
−ストロメライシン3プロモーター(Bassetら,Nature 348.:699,1990)
−ムチン様糖タンパク質(DF3,MUCI)のプロモーター((Abeら Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:282,1993)
−c−erbB−3プロモーター、c−erbB−2プロモーター、またはc−erbB−4プロモーター
−マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)のプロモーター,
−ホエイ酸性タンパク質のプロモーター
−ヒトα−ラクトアルブミンプロモーター
−ヒツジβ−ラクトグロブリンプロモーター。
【0178】
1つの好ましい実施形態では、遺伝子の発現を刺激する薬剤はベクターの一部である。したがって、本発明は、以下から誘導されるベクターの使用を意図する:原核生物の発現ベクター(pUC18、pUC19、Bluescriptおよびその派生物、mp18、mp19、pBR322、pMB9、ColEl、pCRl、RP4など)、ファージベクターおよび「シャトル」ベクター(pSA3およびpAT28など)、酵母の発現ベクター(例えば2−ミクロンプラスミド型ベクター、組込みプラスミド、YEPベクター、セントロメアプラスミドなど)、昆虫細胞発現ベクター(例えばpACおよびpVLシリーズのベクターなど)、植物発現ベクター(pIBI、pEarleyGate、pAVA、pCAMBIA、pGSA、pGWB、pMDC、pMY、およびpOREシリーズのベクターなど)、ウイルスベクターおよび非ウイルスベクターのいずれかに基づく高等真核細胞の発現ベクター(pcDNA3、pHCMV/Zeo、pCR3.1、pEFL/His、pIND/GS、pRc/HCMV2、pSV40/Zeo2、pTRACER−HCMV、pUB6/V5−His、pVAXl、pZeoSV2、pCI、pSVLおよびpKSV−10、pBPV−1、pML2d、およびpTDTlなど)。
【0179】
1つの好ましい実施形態では、遺伝子発現を刺激する薬剤は、ウイルスベクターの形態で送達される。本発明の使用に適切なウイルスベクターには、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ワクシニアウイルス由来ベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)、およびヘルペスウイルスが含まれるが、これらに限定されない。
【0180】
本発明は、培養哺乳動物細胞中に発現構築物を移入するためのいくつかの非ウイルス法を含む。これらには、リン酸カルシウム沈降、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーション、直接微量注入、DNA負荷リポソームおよびリポフェクタミン−DNA複合体、細胞超音波処理、高速微小発射体を使用した遺伝子銃、および受容体媒介トランスフェクションが含まれる。これらの技術のうちのいくつかを応用して、in vivoまたはex vivoで正確に使用することができる。
【0181】
本発明のさらなる実施形態では、遺伝子の発現を刺激する薬剤を、リポソーム中に封入することができる。リポソームは、リン脂質二分子層の膜および内部水性媒体によって特徴づけられる小胞構造物である。
【0182】
本発明は、遺伝子の発現または前記遺伝子の発現産物の活性を局所、局部、または全身で促進する薬剤の投与を意図する。薬剤の投与を局在化の様式で行うことができ、この場合、薬剤を腫瘍、腫瘍脈管構造、腫瘍関連リンパ管、腫瘍に関連する管に直接投与する。投与は、腹腔内、胸膜内、小胞内、または髄腔内であり得る。遺伝子療法は、腫瘍関連メンバーの脈管構造中への局部投与を含み得る。
【0183】
ポリペプチドを遺伝子の発現産物の活性を刺激する薬剤として使用する場合、本発明は、細胞内部へのタンパク質の移動を促進することができるペプチド(HIV−1 TATタンパク質由来のTatペプチド、D.melanogasterアンテナペディアタンパク質のホメオドメインの第3のヘリックス、単純ヘルペスウイルスのVP22タンパク質、およびアルギニンオリゴマーなど)で改変したポリペプチドのバリアントの使用を意図する(Lindgren,A.ら,2000,Trends Pharmacol.Sci,21:99−103,Schwarze,S.R.ら,2000,Trends Pharmacol.Sci.,21:45−48,Lundberg,Mら,2003,Mol.Therapy 8:143−150およびSnyder,E.L.およびDowdy,S.F.,2004,Pharm.Res.21:389−393)。
【0184】
より好ましい実施形態では、発現が腫瘍、特に、乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、または甲状腺腫瘍、特に乳房腫瘍中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して減少するか、発現が腫瘍、特に、乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、または甲状腺腫瘍、特に乳房腫瘍中のc−MAFの発現レベルの減少に応答して増加する遺伝子は、表2に記載の遺伝子から選択される。
【0185】
なおさらに好ましい実施形態では、発現が腫瘍、特に、乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、または甲状腺腫瘍、特に乳房腫瘍中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して減少する遺伝子は、RERG遺伝子である。
【0186】
本発明の第2の使用の特定の実施形態では、RERG活性化剤は、
(i)RERGをコードする核酸またはRERGの機能的に等価なバリアントおよび
(ii)RERGタンパク質または機能的に等価なバリアントRERG
からなる群から選択される。
【0187】
1つの好ましい実施形態では、RERGをコードする核酸は、NCBIデータベース(2011年11月28日バージョン)の受入番号NM_032918.2(バリアント1)およびNM_001190726.1(バリアント2)から収集した2つの転写バリアントのうちのいずれかに対応する。
【0188】
用語「RERGタンパク質の機能的に等価なバリアント」は、配列が1つ以上のアミノ酸の置換、挿入、または欠失によってRERGタンパク質から誘導され、RERGタンパク質と実質的に同一の機能を保持する(細胞増殖および腫瘍形成のインヒビターとして作用することを意味する)ポリペプチドを意味すると理解される。RERGタンパク質バリアントを、RERGが細胞増殖を阻害する能力に基づいた方法(本発明の実施例4に記載の方法など)を使用して同定することができる。
【0189】
本発明によれば、バリアントは、好ましくは、任意のRERG遺伝子バリアントのヌクレオチド配列または任意のRERGタンパク質のアイソフォームのアミノ酸配列と、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する。上記バリアントと上記定義の遺伝子またはRERGタンパク質の特定の配列との間の同一性の程度を、当業者に周知のコンピュータアルゴリズムおよび方法を使用して決定する。2つの核酸配列間の同一性を、好ましくは、BLASTNアルゴリズムを使用して決定し、2つのアミノ酸配列間の同一性を、好ましくは、BLASTPを使用して決定する(BLAST Manual,Altschul,S.ら algorithm.,NCBI NLM NIH Bethesda,Md .20894,Altschul,S.,y col.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))。
【0190】
1つの好ましい実施形態では、がんは、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、より特に乳がんである。1つの好ましい実施形態では、乳がんは、ER+がんおよびER−Her2−がんからなる群から選択される。1つの好ましい実施形態では、骨転移は骨転移である。なおさらに好ましい実施形態では、骨転移は骨溶解性転移である。
【0191】
薬学的組成物および投与方法
発現が腫瘍、特に乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、または甲状腺腫瘍、より特に乳房腫瘍中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して増加するか、発現が腫瘍、特に、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、より特に乳がん中のc−MAFの発現レベルの減少に応答して減少する遺伝子の発現を阻害する薬剤、発現が腫瘍、特に乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、または甲状腺腫瘍、より特に乳房腫瘍中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して増加するか、発現が腫瘍、特に乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、または甲状腺腫瘍、より特に乳房腫瘍中のc−MAFの発現レベルの減少に応答して減少する遺伝子の発現産物の活性を阻害する薬剤、発現が腫瘍、特に、乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、または甲状腺腫瘍、より特に乳房腫瘍中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して減少するか、発現が腫瘍、特に、乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、または甲状腺腫瘍、より特に乳房腫瘍中のc−MAFの発現レベルの減少に応答して増加する遺伝子の発現を刺激する薬剤、および/または発現が腫瘍、特に乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、腎臓腫瘍、または甲状腺腫瘍、より特に乳房腫瘍中のc−MAFの発現レベルの増加に応答して減少するか、発現がc−MAFの発現レベルの減少に応答して増加する遺伝子の発現産物の活性を刺激する薬剤を、典型的には、薬学的に許容され得るキャリアと組み合わせて投与する。
【0192】
用語「キャリア」は、有効成分と共に投与される希釈剤または賦形剤をいう。かかる薬学的キャリアは、無菌の液体(水および油(石油、動物、植物または合成起源の油(ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油、および類似物など)が含まれる)など)であり得る。これらを、好ましくは、特に注射液のための水キャリアまたは生理食塩水ならびにデキストロース水溶液およびグリセロール水溶液として使用する。適切な薬学的キャリアは、EW Martinによる“Remington’s Pharmaceutical Sciences”,1995に記載されている。好ましくは、本発明のキャリアは、動物、より特にはヒトでの使用のため連邦政府の規制当局によって認可されているか、米国薬局方または他の一般的に認識されている薬局方に列挙されている。
【0193】
本発明の薬学的組成物の投与に望ましい医薬形態を製造するために必要なビヒクルおよび補助物質は、とりわけ、選択された薬学的投与形態に依存する。薬学的組成物の前記薬学的投与形態を、当業者に公知の従来の方法にしたがって製造する。使用すべき有効成分、賦形剤の異なる投与方法およびこれらの生成手順の概説を、“Tratado de Farmacia Galenica”,C.Fauli i Trillo,Luzan 5,S.A.de Ediciones,1993中に見出すことができる。薬学的組成物の例には、経口投与、局所投与、または非経口投与のための任意の固体組成物(錠剤、丸薬、カプセル、顆粒など)または液体(溶液、懸濁液、または乳濁液)が含まれる。さらに、薬学的組成物は、必要に応じて、安定剤、懸濁化剤、防腐剤、および界面活性剤などを含むことができる。
【0194】
医薬品で用いるために、本発明のインヒビター/アクチベーター剤は、単独またはさらなる活性剤と組み合わせたプロドラッグ、塩、溶媒和物または包接体の形態であってよく、薬学的観点から許容され得る賦形剤とともに製剤化することができる。本発明での使用に好ましい賦形剤には、糖、デンプン、セルロース、ゴム、およびタンパク質が含まれる。特定の実施形態では、本発明の薬学的組成物を、薬学的な固体投薬形態(例えば、錠剤、カプセル、糖剤、顆粒、坐剤、無菌結晶、または再構成して液体形態を得ることができる無定形固体など)、液体(例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、エリキシル、ローション、軟膏など)または半固体(ゲル、膏薬、およびクリームなど)に製剤化するものとする。本発明の薬学的組成物を、任意の経路(経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、室内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸内、局所、舌下、または直腸が含まれるが、これらに限定されない)によって投与することができる。使用すべき有効成分、賦形剤の異なる投与形態、およびその製造プロセスの概説を、Tratado de Farmacia Galenica,C.Fauli i Trillo,Luzan 5,S.A.de Ediciones,1993(Remington’s Pharmaceutical Sciences(AR Gennaro,Ed),20版,Williams&Wilkins PA,USA(2000)中)中に見出すことができる。薬学的に許容され得るキャリアの例は先行技術で公知であり、リン酸緩衝生理食塩水、水、乳濁液(油/水乳濁液など)、種々のタイプの湿潤剤、滅菌溶液などが含まれる。かかるキャリアを含む組成物を、先行技術で公知の従来の方法によって製剤化することができる。
【0195】
核酸(siRNA、siRNAもしくはshRNAをコードするポリヌクレオチド、またはドミナントネガティブをコードするポリヌクレオチド)を投与する場合、本発明は、特に前記核酸の投与のために調製された薬学的組成物を意図する。薬学的組成物は、前記核酸を裸の形態で(すなわち、生物のヌクレアーゼによる分解から核酸を防御する化合物の非存在下で)含むことができ、これは、トランスフェクションのために使用する試薬に関連する毒性を排除するという利点を伴う。裸の化合物の適切な投与経路には、血管内、腫瘍内、頭蓋内、腹腔内、脾臓内、筋肉内、網膜下、皮下、粘膜、局所、および経口経路が含まれる(Templeton,2002,DNA Cell Biol,21:857−867)。あるいは、核酸は、コレステロールに結合させるか、細胞膜を通した移動を促進することができる化合物(HIV−1 TATタンパク質由来のTat(Tatペプチド)、D.melanogasterアンテナペディアタンパク質のホメオドメインの第3のヘリックス、単純ヘルペスウイルスVP22タンパク質、アルギニンオリゴマー、およびWO07069090号に記載のペプチドなどのペプチド)に結合させ、リポソームの一部を形成して、投与することができる(Lindgren,A.ら,2000,Trends Pharmacol.Sci,21:99−103,Schwarze,S.R.ら,2000,Trends Pharmacol.Sci.,21:45−48,Lundberg,Mら,2003,Mol Therapy 8:143−150およびSnyder,E.L.およびDowdy,S.F.,2004,Pharm.Res.21:389−393)。あるいは、ポリヌクレオチドは、プラスミドベクターまたはウイルスベクター、好ましくはアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、またはレトロウイルス(マウス白血病ウイルス(MLV)またはレンチウイルス(HIV、FIV、EIAV)に基づくウイルスなど)に基づいたベクターの一部を形成して、投与することができる。
【0196】
インヒビター/アクチベーターまたはこれらを含む薬学的化合物を、10mg/キログラム体重未満、好ましくは、5、2、1、0.5、0.1、0.05、0.01、0.005、0.001、0.0005、0.0001、0.00005、または0.00001mg/kg体重未満の用量で投与することができる。単位用量を、注射、吸入によるか、局所投与を介して投与することができる。
【0197】
用量は、処置すべき状態の重症度および応答に依存し、状態が寛解に向かうことが認められるまで数日間または数ヶ月間の間で変動し得る。至適投薬量を、患者の系内の薬剤の濃度の定期的測定の実施によって決定することができる。至適用量を、動物モデルにおけるin vitroまたはin vivoでの予備試験によって得たEC50の値を使用して決定することができる。単位用量を、1日1回または少なくとも1日1回、好ましくは、少なくとも1日1回を2、4、8、または30日間投与することができる。あるいは、初回用量を投与し、その後は一般に初回用量より少量の1回または数回の維持量を投与することが可能である。維持レジメンは、0.01μg〜1.4mg/kg体重/日の範囲の用量(例えば、10、1、0.1、0.01、0.001、または0.00001mg/kg体重/日)で患者を処置することを含むことができる。維持量を、好ましくは、最大で5、10、または30日毎に1回投与する。処置を、患者が被っている苦痛のタイプ、その重症度、および患者の状態(status)/状態(condition)に応じて変動する期間継続すべきである。処置後、患者の進展を、疾患が施した処置に応答しない事象において用量を増加させるべきかどうか、または、疾病の改善が認められた事象または望ましくない副作用が認められた事象で用量を減少させるべきかどうかを決定するために、モニタリングすべきである。
【0198】
転移性向を示すマーカー(blueprint)遺伝子の同定方法
本発明者らは、乳がんに罹患した患者が転移を生じる性向/感受性に関する遺伝子を同定することが可能である方法を開発した。この方法論は、乳房腫瘍中の発現がc−MAFの発現に相関し、乳がん細胞株中の発現がc−MAFの発現レベルの変化に応答して変化することが認められる遺伝子の同定に基づく。
【0199】
そのような方法で、別の態様では、本発明は、がん、特に、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がんであるが、特に乳がんに罹患した患者の転移性向の遺伝子マーカーの同定のためのin vitro法(以後、本明細書では本発明の遺伝子同定方法)であって、
(i)原発性乳がん腫瘍サンプル中の候補遺伝子およびc−MAF遺伝子の発現レベルを決定する工程、および
(ii)c−MAF遺伝子発現の調整に応答した乳がん細胞の集団中の前記候補遺伝子の発現レベルの変化を決定する工程
を含み、
ここで、前記遺伝子の発現レベルが原発性がん腫瘍サンプル、特に、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、より特には乳がんの腫瘍サンプル中のc−MAFの発現と統計学的に有意に相関することが証明され、c−MAF遺伝子の発現の改変の結果としての発現レベルの変化が前記遺伝子レベルの変化と統計的に相関することが証明され、このことは、前記遺伝子が患者の転移の性向/傾向のマーカーであることを示す、方法に関する。
【0200】
第1相では、本発明における遺伝子の同定方法は、原発性がん腫瘍サンプル、特に、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、より特には乳がんの腫瘍サンプルにおける候補遺伝子およびc−MAF遺伝子の発現レベルを決定する工程を含む。
【0201】
原発性組織サンプル中の前記候補遺伝子およびc−MAF遺伝子の発現レベルを、がん、特に乳がんを有する患者の転移発生を予測するために、本質的にin vitro法の文脈に記載のように決定することができる。好ましい方法では、前記候補遺伝子およびc−MAF遺伝子の発現レベルを、前記遺伝子の相補DNA(cDNA)に基づいた前記遺伝子(RNAメッセンジャーまたはmRNA)の転写に起因するRNAを使用するか、前記遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルの定量によって行うことができる。
【0202】
第2段階では、本発明の遺伝子の同定方法は、c−MAF遺伝子の発現の調整に応答したがん細胞の集団、特に、乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がんの集団、より特には乳がんの集団中の前記候補遺伝子の発現レベルの変化を決定する工程を含む。
【0203】
候補遺伝子の発現レベルの変化の決定には、2つの特定の時点の間にc−MAFの発現レベルの変化がもたらされたそれらの時点で腫瘍細胞中の発現レベルが決定される必要がある。前記第1の時点と前記第2の時点との間でのc−MAFの発現レベルの前記変化は、c−MAF発現の増加またはc−MAF発現レベルの減少を示し得る。
【0204】
好ましい方法では、段階(ii)中に行われるc−MAFレベルの調整により、c−MAFレベルが増加する。これを達成するために、この段階で、c−MAFまたはc−MAFのいくつかの部分をコードするポリヌクレオチドが細胞中に導入される必要がある。細胞中への目的の遺伝子の適切な導入方法および細胞中での目的の遺伝子の発現に適切な配置は、発現がc−MAF発現に対して逆相関を示し、本方法で同一の形態で使用される遺伝子の活性化に基づいた治療方法の文脈で記載されている。
【0205】
標的/所与の細胞集団中でのc−MAFの発現レベルの増加を誘導する目的で、c−MAFをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することによってその細胞を改変することが可能であり、このポリヌクレオチドは、腫瘍(乳がん、結腸がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がんなどであるが、好ましくは乳がん)の細胞発現を容易にするプロモーターに作動可能に連結されている。前記ポリヌクレオチドを、通常、前記ポリヌクレオチドに加えて、宿主原核生物中でのその増殖を保証するためのさらなる配列(例えば、適用起源)および選択マーカーを含むベクターの一部を形成することによって作製する。例として、乳がん腫瘍細胞中での目的遺伝子の発現に適切な以下のプロモーターを使用することができる:
−ストロメライシン3のプロモーター(Bassetら,Nature 348:699,1990)
−ムチンに類似する糖タンパク質(DF3,MUCI)のプロモーター((Abeら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:282,1993)
−プロモーターc−erbB−3、c−erbB−2、またはc−erbB−4
−マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)のプロモーター
−ホエイ酸性タンパク質のプロモーター
−ヒトα−ラクトアルブミンのプロモーター
−ウシβ−ラクトグロブリンのプロモーター 。
【0206】
c−MAFをコードするポリヌクレオチドまたは前記ポリヌクレオチドを含むベクターを、科学分野の当業者に公知の任意のトランスフェクション法を使用して研究の対象である細胞に導入する(Ausubel,F.M.ら,Current Protocols in Molecular biology,John Wiley & Sons Inc,2003の 9.1節〜9.5節を参照のこと)。特に、細胞を、リン酸カルシウムでのDNA共沈、DEAE−デキストラン、ポリブレン(polibreon)、エレクトロポレーション、微量注入、リポソームによって媒介される融合、リポフェクション、レトロウイルスによる感染、および遺伝子銃トランスフェクションを使用してトランスフェクトすることができる。
【0207】
あるいは、細胞を、その細胞中へのc−MAFタンパク質の導入によって改変することができる。これのために、本発明は、細胞内部への(細胞内レベル)タンパク質の移動を促進することができるペプチド(HIV−1 Tatタンパク質由来のTat、Drosophila melanogasterアンテナペディアタンパク質のホメオドメインの第3のヘリックス、単純ヘルペスウイルスのVP22タンパク質、およびアルギニンオリゴマーなどのペプチド)によって改変されたc−MAFのバリアントの使用を提供する(Lindgren,A.ら,2000,Trends Pharmacol.Sci,21:99−103,Schwarze,S.R.ら,2000,Trends Pharmacol.Sci.,21:45−48,Lundberg,Mら,2003,Mol.Therapy 8:143−150 y Snyder,E.L.およびDowdy,S.F.,2004,Pharm.Res.21:389−393)。
【0208】
より特異的なモデルでは、c−MAF発現は、c−MAFの短いアイソフォームの、がん細胞、特に、乳がん細胞、ならびに結腸がん細胞、肺がん細胞、腎臓がん細胞、または甲状腺がん細胞、より特には乳がん細胞での発現中に増加する。別のさらにより特定のモデルでは、c−MAF発現は、c−MAFの長いアイソフォームの、がん細胞、特に、乳がん細胞、ならびに結腸がん細胞、肺がん細胞、腎臓がん細胞、または甲状腺がん細胞、より特には乳がん細胞中での発現中に増加する。さらにより特定のモデルでは、c−MAF発現は、c−MAFの長いアイソフォームおよび短いアイソフォームの、がん細胞、特に、乳がん細胞、ならびに結腸がん細胞、肺がん細胞、腎臓がん細胞、または甲状腺がん細胞、より特には乳がん細胞中での共発現中に増加する。
【0209】
第2の工程中に起こるc−MAFレベルの調整がc−MAFレベルの減少に関与する事象では、この工程は、c−MAFをサイレンシングすることができる薬剤の細胞への導入が必要である。完全ではないが例として、c−MAFレベルを低下させるのに適切な薬剤の例には、前記遺伝子に特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチド、前記遺伝子に特異的なRNA干渉(RNAi)プロセス、前記遺伝子のための触媒RNAまたは特異的なリボ核酸酵素、c−MAF阻害剤、およびインヒビター抗体が含まれる。
【0210】
c−MAFのためのRNA干渉(RNAi)プロセスには、1つの鎖がACGGCUCGAGCAGCGACAA(配列番号1)であるWO2005046731号に記載のRNAiが含まれる。c−MAFに特異的なRNAiの他の配列には、CUUACCAGUGUGUUCACAA(配列番号2)、UGGAAGACUACUACUGGAUG(配列番号3)、AUUUGCAGUCAUGGAGAACC(配列番号4)、CAAGGAGAAAUACGAGAAGU(配列番号5)、ACAAGGAGAAAUACGAGAAG(配列番号6)y ACCUGGAAGACUACUACUGG(配列番号7)が含まれるが、これらに限定されない。
【0211】
本発明の文脈で使用することができるc−MAFのドミナントネガティブには、c−MAFと二量体化することができるが、ホモ二量体化およびAP−1ファミリーの他のメンバー(FosおよびJunなど)とのヘテロ二量体化が不可能である場合に転写を活性化する能力を欠く変異体が含まれる。そのようなものとして、c−MAFのネガティブドミナントは、細胞中に存在し、且つトランス活性化のドメインを含むアミノ末端の2/3を欠く任意の小mafタンパク質であり得る(例えば、mafK、mafF、mafg、およびpi8)(Fujiwaraら(1993)Oncogene 8,2371−2380;Igarashiら(1995)J.Biol.Chem.270,7615−7624;Andrewsら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90,11488−11492;Kataokaら(1995)Mol.Cell.Biol.15,2180−2190)(Kataokaら(1996)Oncogene 12,53−62)。
【0212】
あるいは、c−MAFのドミナントネガティブタンパク質には、他のタンパク質との二量体化能力を維持するが、転写を活性化する能力を欠くc−MAFのバリアントが含まれる。これらのバリアントは、例えば、タンパク質のN末端に存在するc−MAFのトランス活性化のためのドメインを欠くバリアントである。そのようなものとして、c−MAFドミナントネガティブバリアントには、例として、少なくともアミノ酸1〜122、少なくともアミノ酸1〜187、または少なくともアミノ酸1〜257(米国特許第6274338号に記載のヒトc−MAFのナンバリングを考慮)が除かれたバリアントが含まれる。
【0213】
本発明の方法の特定のモデルでは、工程(i)で使用される腫瘍サンプルを、乳がん腫瘍、または結腸がん腫瘍、肺がん腫瘍、腎臓がん腫瘍、または甲状腺がん腫瘍、より特には乳がん腫瘍から採取する。本発明の方法のより特定のモデルでは、工程(i)で使用される腫瘍サンプル、特に、乳がん腫瘍のサンプルを、ER腫瘍およびトリプルネガティブ腫瘍から採取する。好ましいモデルでは、工程(ii)で使用されるがん細胞、特に、乳がん腫瘍由来のがん細胞はER+であるか、トリプルネガティブ腫瘍から採取された。さらにより特定のモデルでは、転移は骨転移である。
【0214】
本発明での使用に適切な他のc−MAF化合物インヒビターには、以下が含まれる:
【0220】
【表3-6】
c−MAFの他のインヒビターは、以下の表(表4)に示すように特許出願WO2005063252号に記載されている。
【0226】
【表4-6】

さらにより特定の(特異的な)別のモデルでは、c−MAFの発現レベルは、c−MAFの短いアイソフォームの、乳がん腫瘍細胞、または結腸、肺、腎臓、または甲状腺由来のがん細胞であるが、より特には乳がん由来のがん細胞のサイレンシングによって減少する。別のモデルでは、c−MAFレベルは、c−MAFの長いアイソフォームの、乳がん腫瘍細胞、または結腸、肺、腎臓、または甲状腺由来のがん細胞であるが、より特には乳がん由来のがん細胞のサイレンシングによって減少する。さらにより特定の別のモデルでは、c−MAFレベルは、c−MAFの長いアイソフォームおよび短いアイソフォームの、乳がん腫瘍細胞、または結腸、肺、腎臓、または甲状腺由来のがん細胞であるが、より特には乳がん由来のがん細胞のサイレンシングによって減少する。がん細胞、特に乳がん細胞、または結腸、肺、腎臓、または甲状腺のがん細胞、より特には乳がん由来のがん細胞の集団をこれらのがん型に罹患した患者から採取した生検サンプルから得ることができるか、乳がん細胞株などのこれらのがん型の細胞株(MCF−7、T47DおよびMDA−MB−231、MDA−MB−435、MDA−MB−468、BT20、SkBr3、HCC−1937、BT−474およびZR75.1からの細胞株が含まれるが、これらに限定されない)であり得る。好ましいモデルでは、工程(ii)を、MCF7乳がん細胞株由来の細胞を使用して行う。結腸がん細胞株には、HCA−7、KM12C、KM12SM、KM12l4a、SW480、SW620が含まれるが、これらに限定されない。肺がん細胞株には、NCI−H1781、NCI−H1373、LC319、A549、PC14、SK−MES−1、NCI−H2170、NCI−H1703、NCI−H520、LU61、LX1、SBC−3、SBC−5、DMS273、およびDMS114が含まれるが、これらに限定されない。肺がん細胞株には、786−0、769−P、A−498、SW−156、SW−839、A−704、ACHN、CaKi−1、およびCaKi−2が含まれるが、これらに限定されない。肺がん細胞株には、BCPAP、KTC−1、K1、TCP1、FTC133、ML1、8505C、SW1736、Cal−62、T235、T238、Uhth−104、Uhth−104、HTh74、KAT18、TTA1、FRO81−2、HTh7、C643、BHT101、およびKTC−2が含まれるが、これらに限定されない。
【0227】
一旦以下:(i)乳がん腫瘍細胞、または結腸がん腫瘍細胞、肺がん腫瘍細胞、腎臓がん腫瘍細胞、もしくは甲状腺がん腫瘍細胞、より特には乳がん腫瘍細胞など由来の原発性がん腫瘍サンプル中の候補遺伝子およびc−MAF遺伝子の発現レベル、および(ii)c−MAF遺伝子発現の調整に応答したがん細胞(乳がん、肺がん、腎臓がん、または甲状腺がん、より特には乳がんなどのがん細胞)の集団中の前記候補遺伝子の発現レベルの変化が決定されると、転移の性向(傾向)の同定のためのin vitroでマーカー遺伝子を同定する方法は、
(i)原発性がん腫瘍サンプル中の前記遺伝子およびc−MAF遺伝子の発現レベルの比較、および
(ii)c−MAF遺伝子発現の調整に応答した発現レベルの、前記遺伝子レベルの変化との比較
を含む。
【0228】
行われたモデルでは、工程(i)で同定/決定した前記遺伝子の発現が原発性腫瘍サンプル中のc−MAFのレベルと直接相関する場合、および、c−MAF遺伝子の発現の調整に応答した発現レベルの変化が前記調整と直接相関する場合、これは、前記遺伝子レベルの上昇が転移性向を示すことを示す。
【0229】
別の好ましいモデルでは、工程(i)で決定した前記遺伝子の発現が原発性腫瘍サンプル中のc−MAFのレベルと逆相関する場合、および、c−MAF遺伝子の発現の調整に応答した発現レベルの変化が前記調整と負に相関する場合、これは、前記遺伝子レベルの低下が転移性向を示すことを示す。
【0230】
原発性腫瘍サンプル中の候補遺伝子の発現とc−MAFの発現との間の相関は、基準値に関連する両方の遺伝子の発現レベルの比較によって得られ、両方の遺伝子が同一サンプル中で基準値と比較してその発現の変動を示す場合に両遺伝子の発現間に相関関係があると見なされる。相関は、直接相関(基準値と比較した候補遺伝子の発現の増加が前記遺伝子の基準値と比較したc−MAF発現の増加と相関するか、基準値と比較した候補遺伝子発現の低下が前記遺伝子の基準値と比較してc−MAF遺伝子発現の減少と関連する)または逆相関(基準値と比較した候補遺伝子の発現の増加が前記遺伝子の基準値と比較してc−MAF発現の減少増加と関連するか、基準値と比較した候補遺伝子の発現の低下が前記遺伝子の基準値と比較してc−MAF遺伝子発現の増加と関連する)であり得る。
【0231】
c−MAF遺伝子の調整に応答した候補遺伝子の発現レベルの変化の間の相関は、c−MAF遺伝子の発現の調整の誘導前の前記遺伝子の発現レベルおよびc−MAF遺伝子発現が調整された後の同一サンプル中の前記遺伝子の発現レベルの決定によって実現され、c−MAF発現の変化に付随する様式で候補遺伝子の発現が変動した場合に相関すると見なされる。相関は、直接相関(候補遺伝子発現がc−MAF発現の増加に伴って増加するか、遺伝子発現の減少がc−MAF発現の減少に伴って減少する)または逆相関(候補遺伝子発現がc−MAF発現の減少に伴って増加するか、候補遺伝子発現が、基準値と比較して、この遺伝子の基準値と比較したc−MAF発現の増加に伴って減少する)であり得る。
【0232】
候補遺伝子の発現レベルがc−MAF発現が変化する前のレベルと比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%:少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれを超えて増加する場合、c−MAF発現の変動に関して付随する様式で候補遺伝子の発現が増加すると見なされる。
【0233】
候補遺伝子の発現レベルがc−MAF発現が変化する前のレベルと比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%:少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれを超えて減少する場合、c−MAF発現の変動に関して付随する様式で候補遺伝子の発現が減少すると見なされる。
【0234】
好ましい様式では、転移は骨転移である。
【0235】
本発明を以下の実施例を用いて記載する。実施例は、例示のみを目的とすると見なすものとし、本発明の範囲を制限しない。
【実施例】
【0236】
I.材料および方法
実験研究モデル
乳がんER+およびER−PR−Her2−の転移研究のための新規の実験モデルを開発した。この目的を達成するために、MCF7として公知の乳がんER+のヒト細胞株(GFP/ルシフェラーゼを発現させるベクターを使用して安定な形態でトランスフェクトされたもの)を使用した。種々の器官で転移能力を有する細胞を選択することができるように、この細胞株を、室内または(尾)尾静脈への注射によって免疫不全マウス(Balb−c/ヌード)に接種した。ラットにエストロゲンの皮下移植を行って、実験期間中これらのホルモンの存在を保証した。
【0237】
転移集団の選択
異なる組織中の転移性集団を、転移性病変由来の細胞の同定および単離によって選択した。これのために、異なる時間で目的の器官内の腫瘍細胞の確立および成長を検出し、腫瘍性細胞の存在数を定量することが可能であるテクノロジーを導入した生物発光画像化技術を使用した。このテクノロジーの適用のために、ルシフェラーゼおよびGFPの遺伝子を発現するように細胞に形質導入したが、これらについて非侵襲性の方法を使用してin vivoにてリアルタイムでモニタリング/観察が可能である。その感度および速度のレベルに起因する好ましい方法としてXenogen IVISタイプの装置およびLivingimageソフトウェアを使用して、全身麻酔下の動物についての発光画像(ルシフェラーゼ活性)をキャプチャーする。転移性細胞を単離するために、腫瘍病変を切開し、次いで、レーザー誘起蛍光(GFP)(緑色蛍光タンパク質)での掃引を使用した細胞数測定技術を使用して宿主生物の転移性細胞を他の細胞から単離する。一旦これらの細胞が単離されると、特異的組織を介するその向性を富化/供給するためにこのプロセスを繰り返す。これらの手順を使用して、組織特異性を有する特異的転移性集団(骨および脳への転移が含まれる)を単離した。
【0238】
一旦転移性集団が同定および単離されると、高性能の転写分析を行った。概して、このストラテジーにより、転写が増強される遺伝子(予後不良のがん性細胞における代謝過程のメディエーターとして作用するいくつかの遺伝子が含まれる)が同定可能であった。特異的な組織および器官内の転移性細胞による転移増殖において発現が変化する遺伝子の関連を、不偏in vivo選択手順によって確認した。骨への転移増殖能力が高い選択された細胞集団をBoM2と呼んだ。
【0239】
発現がc−MAFの発現に相関する遺伝子群の同定
349個の原発性乳房腫瘍のゲノムワイドな転写プロフィールの比較により、発現がc−MAFの発現と良好に正に(直接)相関する遺伝子を同定し、または良好に負に(逆)相関する遺伝子を同定した。この様式で得た遺伝子を、所定の細胞モデルにおけるc−MAF発現と比較したその発現の分析によって確認した。MCF7 ER+乳がん細胞株を、これらの細胞株がc−MAF遺伝子の長いアイソフォームまたは短いアイソフォームを十分に発現するように改変し、Affymetrix U133A2Plusを使用してRNAmの発現プロフィールを決定した。日常的なテクノロジーを使用して、c−MAFが枯渇したMCF−7骨転移細胞の派生物を得た。前述の細胞集団の遺伝子発現プロフィールを決定し、c−MAFの発現の機能として有意に改変された遺伝子を選択した。これらの結果により、骨へのc−MAFの転移プログラムを得ることが可能となり、それには99個の遺伝子が含まれ(これらのうちの76個の遺伝子が過剰発現され(表1)、33個の遺伝子が抑制された(表2))、その発現は原発性乳がん腫瘍内のc−MAFの発現レベルと有意に相関し、使用される少なくとも1つの細胞条件下でc−MAFの機能によって変化する。骨へのc−MAFの転移プログラムには、サイトカイン、細胞接着分子、膜に係留したプロテアーゼ、シグナル伝達メディエーター、および転写因子が含まれる。
【0240】
ER+乳がん細胞における発現レベルの変化が観察されたこの遺伝子群を、確認作業に供した。このために、候補遺伝子の発現レベルを、原発性乳がん腫瘍および転移性コホート(乳がんに罹患した患者由来の560個の原発性乳がん腫瘍および46個の転移性細胞を含む)を使用して得た遺伝子発現プロフィールと比較した。
【0241】
バイオインフォマティクスおよび計算生物学
転移が豊富な遺伝子群を得てその臨床相関を検証するために、R統計パッケージおよびBioconductorを使用した。データ処理のための特定の機能および構造をインポートし、ウェブサイトwww.bioconductor.orgにて公的オープンアクセス可能である。
【0242】
実施例1
関連遺伝子の選択
c−MAFの発現レベルの変化に応答して単一のER+乳がん細胞株由来の細胞において差次的様式で発現する遺伝子を選択することを目的とする分析を行った(表1、
図1B)。c−MAFによって媒介される骨転移プログラムを決定づける遺伝子および機能を、以下の基準にしたがって選択した:
i)原発性腫瘍中での発現がc−MAFの発現に有意に相関する遺伝子、
ii)c−MAFがMCF7細胞中で過剰発現される場合(長いアイソフォームまたは短いアイソフォーム)またはc−MAFを発現するMCF7に由来する高転移性骨細胞中のc−MAF発現が低下する場合に、発現がc−MAF発現で改変される遺伝子、および
iii)原発性腫瘍およびii)中の言及された細胞条件の1つにおけるMAFの発現に相関する遺伝子が、c−MAFによって媒介される骨転移プログラムのメンバーと見なされること。
【0243】
これらの基準に基づいて、発現レベルがc−MAFの発現レベルに相関する遺伝子を同定し、発現レベルの変動がER+原発性乳がん腫瘍中のc−MAFの発現とどのように関連するのかを決定した(表1)。
【0244】
実施例2:
骨転移の発症で富化される遺伝子の治療的価値および予後的価値
本明細書中で開発した転移性細胞集団の選択のための実験系によって骨転移で富化した遺伝子を、乳がんに罹患した患者由来の560個の原発性乳がん腫瘍および58個の転移物の発現プロフィールおよび臨床記録を含む2つの異なるデータベースの比較によって評価した。これらの腫瘍は、乳がんの全てのサブタイプおよび転移の局在を代表する。データベースおよび関連する臨床記録の両方を公的に入手可能である(GSE 2603、2034、12276、および14020)。
【0245】
骨転移物から採取した遺伝子のER+原発性腫瘍中での遺伝子発現は、骨での再発と有意に相関し、骨への転移とも相関したが(
図1A)、他の組織への転移と相関しなかった(
図1B)。
【0246】
実施例3
c−MAFによって媒介された骨転移についてのプログラムのメンバーのin vivoでの機能確認:PTHLH遺伝子
先の分析中に陽性を示し、且つc−MAFの発現に直接相関する転移性PTHLH遺伝子(表1および
図3)を、マウスの乳がん転移の異種移植片実験モデルにおける骨転移増殖試験で機能的に確認した。候補遺伝子が転移のプロセスを指示することを確認するための標準的な近似/アプローチは、c−MAFを発現する低転移性細胞におけるPTHLH機能の損失のサンプルであった。c−MAF遺伝子の発現は、in vivoで骨への転移が中程度の細胞MCF7で誘導され、この細胞は遺伝子c−MAFの低レベルの発現を示す。c−MAFの過剰発現は、PTHLH遺伝子の内因性レベルの増加を担っていた(
図3)。この文脈では、次いで、サイトカインPTHLHの活性を、アンタゴニストペプチドを使用して遮断した(
図3)。
【0247】
遺伝子の形質導入のプロセスでは、レンチウイルス系を使用して、腫瘍細胞に感染させ、該細胞中で候補遺伝子の発現を導入した。c−MAF遺伝子およびそのエフェクターPTHLHの転移を促進する機能を、マウスの心臓内に接種した転移性細胞の生物発光画像化を組み込んだモニタリングテクノロジーを使用して決定した。全ての場合、空のレンチウイルスベクターを感染させた対応する対照細胞を、比較を目的として免疫不全ラットの並行コホートに注射した(
図3)。骨溶解性病変の形成能力を評価し、in vivoでの転移性病変中の破骨細胞の分化、およびこの過程におけるPTHLHの原因となる機能も評価した(
図3)。
【0248】
機能獲得実験および臨床相関に関連するデータにより、ER+乳がんの場合の骨転移過程において有効に因果のある予後マーカーおよび標的遺伝子としての、ならびにc−MAF遺伝子によって媒介される骨転移プログラムの一部としてのPTHLHの役割を機能的に確認することが可能となった。
【0249】
実施例4
c−MAF遺伝子によって媒介される骨転移プログラムのメンバーのin vivo機能確認;RERG遺伝子
転移抑制遺伝子RERGは、増殖に関与する。実施した先の分析は、RERG遺伝子の発現がc−MAFの発現と逆相関することを実証した(表2および
図2)。RERG遺伝子を、ラットの乳がん転移異種移植実験モデルにおいて骨における転移増殖試験で機能的に確認した。
【0250】
転移におけるRERG遺伝子の関与を、高転移性細胞における機能獲得試験によって確認した。in vivoで選択した骨への高転移性細胞(BoM2)中でRERGの発現が誘導され、これはc−MAF遺伝子の発現レベルの上昇を示し、RERGの内因性レベルの抑制を担っていた(
図2)。
【0251】
遺伝子形質導入過程では、レンチウイルス系を使用して、腫瘍細胞に感染させ、該細胞中の候補遺伝子の発現を導入した。RERGを抑制して転移を容易にする機能を、マウスの心臓内に接種した転移性細胞をモニタリングするための生物発光画像化技術を使用して決定した。全ての場合、空のレンチウイルスベクターを感染させた対応する対照細胞を、比較を目的として免疫不全ラットの並行コホートに注射した(
図2)。c−MAFの損失は、より高いRERG発現および転移性細胞増殖の減少に関与する(
図2)。高レベルのc−MAFを発現する骨への高転移性を示す細胞(BoM2)中のRERGの過剰発現により、これらの細胞が骨に転移増殖する能力を低下させた(
図2)。この低下は、マーカーKi−67によって測定した場合に増殖率の低下を伴った(
図2)。
【0252】
c−MAF過剰発現の文脈での機能獲得実験および臨床相関に関連するデータにより、ER+乳がんの場合の骨転移過程において有効に因果のある予後マーカーおよび標的遺伝子としての、ならびにc−MAF遺伝子によって媒介される骨転移プログラムの一部としてのRERGの役割を機能的に確認することが可能となった。
【0253】
実施例5
c−MAFによって媒介される骨転移プログラムのメンバーのin vivo機能確認:PODXL遺伝子
先の分析で陽性であり、且つc−MAFの発現に直接相関するPODXL転移性遺伝子(表1および
図4)を、マウス由来の精製骨髄細胞に基づいた実験モデルにおける骨髄由来の細胞への接着試験で機能的に確認した。脈管構造から採取した内皮細胞または肺の細胞外基質由来のタンパク質を使用して接着過程を繰り返した場合に、PODXLの存在下でのより高い接着およびより高レベルのc−MAFのいずれも認められないが、むしろ正反対であることを考慮すると、この接着過程は骨細胞特異的である(
図4)。候補遺伝子が転移過程を指示することを確認するための標準的な近似は、高転移性細胞(骨細胞または内皮細胞のいずれか)における機能喪失試験であった。PODXL遺伝子の発現は、in vivoで骨への転移性が高い細胞MCF7で低下し、高レベルのc−MAF遺伝子発現がPODXL遺伝子の内因性レベルの増加を担うことを示していた。
【0254】
干渉RNAの形質導入の過程では、腫瘍細胞に感染してRNAi候補の発現を導入するレンチウイルス系を使用した。PODXL遺伝子の転移を促進する機能を、内皮細胞層上の転移性細胞または骨髄由来の細胞に適用した蛍光画像化技術(テクノロジー)を使用して決定した。全ての場合、空のレンチウイルスベクターを感染させた対応する対照細胞を、比較を目的として使用した(
図4)。2つのペプチドRGESおよびRGDS(1番目はインテグリンに結合せず、2番目はこれらと競合して細胞接着を予防する)を使用してこの過程がインテグリン活性に関連するかどうかを評価した。結論として、この過程におけるPODXLの原因となる機能が、インテグリンを介した相互作用によって潜在的に確認された(
図4)。
【0255】
機能喪失および相関データに関連する実験により、ER+乳がんの骨への転移過程の原因である予後マーカーおよび標的遺伝子としての、ならびにc−MAF遺伝子によって媒介される骨転移プログラムの一部としてのPODXLの役割を機能的に確認することが可能となる。
【0256】
配列表由来の用語「配列表」および「人工配列」を、それぞれ、「配列表」および「人工配列」として解釈する。