(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
本発明は、ブタンアミドを使用する、細胞含有生体試料中の細胞外核酸集団を安定化するための方法、組成物およびデバイスを提供する。本発明は、ブタンアミドが、細胞外核酸を含む細胞含有生体試料、特に、全血試料または血液由来試料、例えば血漿もしくは血清などの安定化に有効であるという、驚くべき発見に基づく。ブタンアミドは、細胞外核酸集団を安定化することができ、および特に、試料を採集した後に細胞外核酸集団がゲノムDNAで、特に断片化ゲノムDNAで、汚染されることになるリスクを低下させることが可能であることが判明した。
前記汎カスパーゼ阻害剤が、Q−VD−OPhおよびZ−Val−Ala−Asp(OMe)−FMKから成る群より選択され、およびさらに好ましくはQ−VD−OPhである、請求項5に記載の採集容器。
キレート剤、好ましくはEDTAを、前記細胞含有生体試料を前記容器に採集するとき、得られる前記混合物中の前記キレート剤の濃度が0.05mMから100mM、0.1mMから50mM、0.5mMから30mM、1mMから20mM、1.5mMから15mM、または2mMから15mMより選択される濃度範囲に存するような濃度で含む、請求項10に記載の採集容器。
前記ポリ(オキシエチレン)ポリマーが、少なくとも1500の分子量、好ましくは、2000から40000、2500から30000、3000から20000、3500から15000、4000から10000、4500から9000、5000から8000、および5500から7000より選択される範囲の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーである、請求項16から18の一項以上に記載の採集容器。
前記容器または組成物が、分子量が異なる少なくとも2つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、該分子量の差が、少なくとも100、好ましくは少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400または少なくとも500である、請求項16から19の一項以上に記載の採集容器。
前記容器または組成物が、1000以下の分子量、好ましくは、100から800、150から700、200から600、および200から500より選択される範囲の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーをさらに含む、請求項19に記載の採集容器。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、ブタンアミドの安定剤としての使用に基づく、細胞含有生体試料を安定化するための、特に、前記細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するための方法、組成物およびデバイスに、従って技術に関する。さらに、ブタンアミドと他の安定剤の有利な組み合わせを記載する。本明細書に開示する安定化技術は、細胞含有試料に含まれている細胞外核酸集団が汚染されることになる、したがって、その試料に含有されている損傷細胞および/または死細胞に由来する細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAで希釈されることになるリスクを低減させる。本発明の方法および組成物で達成される安定化は、安定化された試料の室温で長期間の、その試料の質、それぞれにその試料に含有されている細胞外核酸集団の組成物の質を危険にさらすことのない、保管および/または取り扱いを可能にする。試料を得た時点で細胞外核酸集団の組成が安定化され、したがって、実質的に保存されるので、試料採集と核酸単離の間の時間は、その細胞外核酸集団の組成に対する有意な負の影響なく、好適な安定化期間内で変更することができる。これは、例えば、試料の取り扱い/保管の変動が、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団の質に、それぞれに組成およびしたがってプロファイルにあまり影響を及ぼさないので、診断または予後予測の細胞外核酸分析の標準化を簡単にする。それ故、それぞれの細胞含有生体試料の分析、それぞれに、それぞれに安定化された試料から得られる細胞外核酸の分析は、より同等になる。さらに、本発明の教示は、保管/配送中に死滅または崩壊する細胞から別様に放出される細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAでの細胞外核酸の汚染を回避するため、それぞれに低減させるために、生体試料に含有されている細胞をその試料の無細胞部分から直接分離する必要を不要にする。この利点は、全血試料などの細胞含有生体試料の取り扱いを相当簡単にする。例えば、診療所で得られ、本発明の教示に従って安定化された全血試料を室温で配送することができ、受け取る臨床検査室においてその試料の細胞画分から細胞外核酸を含有する血漿を適便に分離することができる。しかし、本発明の教示は、細胞枯渇生体試料、または例えば血漿もしくは血清などの「無細胞」と一般に呼ばれる試料を処理するときにも有利である。それぞれの細胞枯渇または「無細胞」生体試料は、ゲノムDNAを含む残留細胞、特に白血球を(用いられる分離プロセスにも依存して)まだ含むことがある。前記残留細胞は、それらの残存する(潜在的に)細胞が配送プロセスまたは保管プロセス中に損傷されるか死滅する場合、細胞外核酸集団が細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAでますます汚染されることになるというリスクをもたらす。このリスクは、本発明が教示する安定化方法を用いると相当低減される。本発明の技術は、試料を採集し、ブタンアミドとおよび必要に応じて本明細書において教示するような1つ以上の追加の安定剤と接触させた時点でのその試料の細胞外核酸集団を効率的に保存することを可能にするので、前記試料を受取施設で適正に処理して、細胞内核酸での細胞外核酸集団の汚染を実質的に回避し、それぞれに低減させつつ前記試料から細胞外核酸を単離することができる。例えば研究所などの前記試料を受け取る施設は、細胞枯渇試料中、例えば、血漿中などに存在し得る残留細胞を含めて、それらの安定化された試料中に含まれている細胞を効率的に除去するために必要な機器、例えば高速遠心分離器(または他の手段、下記も参照されたし)なども通常は有する。かかる機器は、細胞含有生体試料を得る施設には存在しないことが多い。それ故、本発明には、大量の細胞を含む生体試料、例えば全血試料などを安定化するときに多くの利点があり、しかし、例えば、血漿、血清、尿、唾液、滑液、羊水、涙液、リンパ液、髄液(liquor)、脳脊髄液などのような、より少ないもしくはほんの少量の細胞を含む、または細胞を含有すると疑われるだけかもしれない生体試料を安定化するときにも重要な利点がある。
【0032】
A.安定化方法
第一の態様に従って、細胞含有生体試料をブタンアミドと接触させることによる、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団の好適な安定化方法を提供する。
【0033】
上に記載したように、ブタンアミドの安定剤としての使用に基づく前記方法は、細胞含有試料、例えば血液試料を効率的に安定化し、および特に、細胞含有試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化する。前記方法は、細胞外核酸集団が、含有されている細胞に由来する、例えば損傷細胞または死細胞に由来する細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAで重度に汚染されることになるリスクを低減させる。その結果、前記細胞含有試料を採集し、本発明による方法を用いて安定化した時点で前記細胞含有試料に含まれている細胞外核酸集団の組成を実質的に保存し、それぞれに安定化する。前記試料に含有されている細胞外核酸集団の組成およびしたがってプロファイルの保存は、細胞外核酸を後に診断目的で分析するとき、特に重要である。実施例によって証明するように、安定剤としてのブタンアミドの使用は、3日までの間の安定化効果を実現する。安定剤としてのブタンアミドの使用は、例えば、ブタンアミドは毒性でないので、例えば毒性物質N,N−ジメチルアセトアミドを使用する方法より有利である。これは、安定化組成物の取り扱いを簡単にするので、必須の恩恵である。さらに、ブタンアミドは架橋特性を有さないので、標準核酸単離法を用いてブタンアミドで安定化した試料から核酸を効率的に単離することができる。これは、例えば、安定化された試料のさらなる処理を簡単にし、およびまた細胞外核酸集団に含まれている希少標的核酸を後に検出できる機会を増加させるので、重要な利点である。
【0034】
本明細書において用いる場合の用語「細胞外核酸」(複数)または「細胞外核酸」(単数)は、特に、細胞に含有されない核酸を指す。それぞれの細胞外核酸は、多くの場合、無細胞核酸とも呼ばれる。これらの用語は、本明細書では同義語として用いている。したがって、細胞外核酸は、通常、試料中の1細胞の外部または複数の細胞の外部に存在する。用語「細胞外核酸」は、例えば、細胞外DNAならびに細胞外RNAも指す。例えば体液などの生体試料の無細胞画分(それぞれ部分)において見出される典型的な細胞外核酸の例としては、哺乳動物細胞外核酸、例えば、細胞外腫瘍関連または腫瘍由来DNAおよび/またはRNA、他の細胞外疾患関連DNAおよび/またはRNA、エピジェネティック修飾DNA、胎児DNAおよび/またはRNA、低分子干渉RNA(例えばmiRNAおよびsiRNAなど)など、ならびに非哺乳動物細胞外核酸、例えば、ウイルス核酸、細胞外核酸集団へと例えば原核生物(例えば細菌)、ウイルス、真核寄生虫または真菌から放出される病原体核酸などが挙げられるが、これらに限定されない。細胞外核酸集団は、損傷細胞または死細胞から放出されたある一定の量の細胞内核酸を通常含む。例えば、血液中に存在する細胞外核酸集団は、損傷細胞または死細胞から放出された細胞内グロビンmRNAを通常含む。これは、インビボで発生する自然プロセスである。細胞外核酸集団中に存在するかかる細胞内核酸は、後の核酸検出方法における対照という目的に役立つこともできる。本明細書に記載する安定化方法は、特に、細胞外核酸集団に含まれている細胞内核酸、例えばゲノムDNAの量が、細胞含有試料を採集した後、その試料のエクスビボでの取り扱いに起因して有意に増加するリスクを低減させる。したがって、エクスビボでの取り扱いのための細胞外核酸集団の変更を低減させ、さらに防止することができる。1つの実施形態によると、細胞含有生体試料は、例えば血液、血漿、血清、唾液、尿、髄液、脳脊髄液、痰、涙液、汗、羊水またはリンパ液などの体液であるか、またはそれらに由来する。本明細書において、本発明者らは、循環体液、例えば血液またはリンパ液から得られる細胞外核酸を循環細胞外核酸または循環無細胞核酸と呼ぶ。1つの実施形態によると、用語細胞外核酸は、特に、哺乳動物細胞外核酸を指す。例としては、疾患関連または疾患由来細胞外核酸、例えば、腫瘍関連または腫瘍由来細胞外核酸、炎症もしくは傷害、特に外傷に起因して放出される細胞外核酸、他の疾患に関係したおよび/もしくは他の疾患に起因して放出される細胞外核酸、または胎児に由来する細胞外核酸などが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載される場合の用語「細胞外核酸」(複数)または「細胞外核酸」(単数)は、他の細胞含有生体試料、特に、体液以外の生体試料から得られる細胞外核酸も指す。通常、試料は、1つより多くの種類またはタイプの細胞外核酸を含む。細胞外核酸は、細胞外DNAおよび細胞外RNAを包含する。
【0035】
本明細書において用いる場合の用語「細胞外核酸集団」は、特に、細胞含有試料に含まれている様々な細胞外核酸の集合体(collective)を指す。細胞含有試料は、通常、特徴的なおよびしたがってユニークな細胞外核酸集団を含む。したがって、特定試料の細胞外核酸集団に含まれる1つ以上の細胞外核酸のタイプ、種類、比および/または量は、重要な試料特性であり得る。上で論じたように、それ故、前記細胞外核酸集団を安定化することおよびしたがって試料を採集した状態で前記細胞外核酸集団を実質的に保存することは重要である。試料の細胞外核酸集団に含まれる1つ以上の細胞外核酸のその組成および/または量は、価値のある医学、予後予測または診断情報を提供することができるからである。したがって、細胞外核酸集団のプロファイルが効率的に安定化されると有利である。本明細書に記載する安定化技術は、試料採集および安定化後、細胞内核酸による、特にゲノムDNAによる、細胞外核酸集団の汚染およびしたがって希釈を低減させる。かくして、細胞外核酸集団の実質的保存が達成される。実施例によって証明するように、細胞外核酸集団の、含まれている細胞外核酸の量、質および/または組成に関する変化、特に、放出されたゲノムDNAの増加に起因する変化は、安定化期間にわたって、非安定化試料に比べてまたは血液試料もしくは血液由来試料の場合は例えばEDTAによって安定化されている対応する試料に比べて、相当低減される。1つの実施形態によると、T
0(安定化時点)から安定化期間の終わり(好ましくは、T
0の48時間、72時間または96時間後)までのゲノムDNAの増加は、非安定化試料に比べて、または血液試料もしくは血液に由来する試料の場合は例えばEDTAによって安定化されている対応する試料(例えば、1.5mgEDTA/mL安定化血液試料)に比べて、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%低減される。
【0036】
細胞含有生体試料をブタンアミドおよび必要に応じてさらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物は、ブタンアミドを、少なくとも0.1%(w/v)、少なくとも0.2%(w/v)、少なくとも0.3%(w/v)、少なくとも0.4%(w/v)、少なくとも0.5%(w/v)、少なくとも0.6%(w/v)、少なくとも0.75%(w/v)、少なくとも1%(w/v)、少なくとも1.25%(w/v)、少なくとも1.5%(w/v)、少なくとも1.75%(w/v)、少なくとも1.85%(w/v)、少なくとも2%(w/v)、少なくとも2.1%(w/v)、少なくとも2.2%(w/v)、少なくとも2.3%(w/v)、少なくとも2.4%(w/v)、少なくとも2.5%(w/v)、少なくとも2.6%(w/v)、少なくとも2.7%(w/v)、少なくとも2.8%(w/v)、少なくとも2.9%(w/v)または少なくとも3%(w/v)の濃度で含んでよい。ブタンアミドは、それが細胞含有生体試料、特に、細胞含有試料の無細胞部分に含有、されている細胞外核酸集団に対して安定化効果を発揮する濃度で使用される。実施例によって証明するように、ブタンアミドは、様々な濃度において有効である。当業者が日常の実験を用いて、例えば、実施例に記載する試験アッセイで異なるブタンアミド濃度を試験することによって、異なる試料タイプについての好適なブタンアミド濃度を決定することもできる。実施例によって証明するように、ブタンアミドについての好適な濃度範囲は、1つ以上の追加の安定剤をブタンアミドと併用するかどうかにも依存する。例えば、例えば血液などの細胞含有生体試料を安定化するために、本明細書に記載の1つ以上の追加の安定化添加剤、好ましくは、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤および/または式1に従う化合物(下記参照)をブタンアミドと併用する場合、より低濃度のブタンアミドを使用することができる。細胞含有生体試料および必要に応じてさらなる添加剤と混合するときのブタンアミドの好適な濃度範囲としては、0.1%(w/v)から15%まで、0.25%(w/v)から13%(w/v)、0.4%(w/v)から12%(w/v)、0.5%(w/v)から10%(w/v)、0.75%(w/v)から8%(w/v)、1%(w/v)から7.5%(w/v)、1.25%(w/v)から7%(w/v)、1.5%(w/v)から6.5%(w/v)、1.75%(w/v)から6%(w/v)、1.8%(w/v)から5.5%(w/v)、1.9%(w/v)から5.25%(w/v)、2%(w/v)から5%(w/v)、2.1%(w/v)から4.75%(w/v)、2.2%(w/v)から4.5%(w/v)、2.3%(w/v)から4.25%(w/v)、2.4%(w/v)から4%(w/v)、2.5%(w/v)から3.75%(w/v)または2.5%(w/v)から3.5%(w/v)が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態によると、細胞含有生体試料をブタンアミドおよび必要に応じてさらなる添加剤と接触させた後に得られる前記混合物は、ブタンアミドを、0.5%(w/v)から3.5%(w/v)、好ましくは0.75%(w/v)から3.25%、または0.9%(w/v)から3%(w/v)の範囲に存する濃度で含む。かかる濃度は、血液試料の安定化に特に好適である。実施例によって証明するように、これらの範囲に存する濃度でのブタンアミドの使用は、血液試料に対して優れた安定化効果をもたらし、およびさらに、血液試料に含有されている赤血球の溶血を防止する。2%(w/v)以下のより低いブタンアミド濃度は、特に、さらなる安定剤、例えば、好ましくはカスパーゼ阻害剤および/または式1に従う化合物をさらに使用するとき有効である。実施例によって証明するように、これらの安定剤の併用は、血液試料の安定化に特に有利である。
【0037】
提供する実施例によって証明するように、細胞含有試料の安定化には、および細胞外核酸集団のその組成の変化、特に、断片化ゲノムDNAでの汚染から生ずる変化を防ぐには、ブタンアミドのみで既に有効である。ブタンアミドを使用して血液試料を3日までの安定化期間、安定化することができた。例えば血液試料の通例の配送および取扱期間を考えるとこれで十分である。しかし、好ましい実施形態によると、細胞含有生体試料を少なくとも1つのアポトーシス阻害剤とさらに接触させる。本明細書において用いる場合の用語「アポトーシス阻害剤」は、特に、細胞含有生体試料中のその存在が、細胞のアポトーシスプロセスの低減、防止および/もしくは阻害を提供する、ならびに/またはアポトーシス刺激に対して細胞をより耐性にする化合物を指す。アポトーシス阻害剤としては、タンパク質、ペプチドまたはタンパク質様もしくはペプチド様分子、有機および無機分子が挙げられるが、これらに限定されない。アポトーシス阻害剤は、代謝阻害剤、核酸分解の、それぞれに核酸経路の阻害剤、酵素阻害剤、特にカスパーゼ阻害剤、カルパイン阻害剤およびアポトーシスプロセスに関与する他の酵素の阻害剤として作用する化合物を含む。代表的なアポトーシス阻害剤を表1に収載する。好ましくは、細胞含有生体試料の安定化のために使用される少なくとも1つのアポトーシス阻害剤は、代謝阻害剤、カスパーゼ阻害剤およびカルパイン阻害剤から成る群より選択される。各クラスの例を表1にそれぞれのカテゴリーで収載する。好ましくは、アポトーシス阻害剤は、細胞透過性である。同じアポトーシス阻害剤クラスまたは異なるアポトーシス阻害剤クラスいずれかからの、異なるアポトーシス阻害剤の組み合わせを使用すること、それぞれに、同じ作用機序または異なる作用機序いずれかによってアポトーシスを阻害する、異なるアポトーシス阻害剤の組み合わせを使用することも、本発明の範囲内である。
【0038】
本発明の有利な実施形態において、アポトーシス阻害剤は、カスパーゼ阻害剤である。カスパーゼ遺伝子ファミリーのメンバーは、アポトーシスに重要な役割を果たす。個々のカスパーゼの基質選好または特異性は、カスパーゼと結合についてうまく競合するペプチドの開発に活用されている。カスパーゼ特異的ペプチドを例えばアルデヒド化合物、ニトリル化合物またはケトン化合物にカップリングさせることによりカスパーゼ活性化の可逆的または不可逆的阻害剤を生成することができる。適する例は、下に記載する。したがって、好ましい実施形態によると、細胞含有生体試料をブタンアミドおよび少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤と接触させる。実施例によって証明するように、ブタンアミドとカスパーゼ阻害剤の併用は、達成される安定化効果を有意に改善する。特に、その安定化効果が長期間にわたって達成される。さらに、特に、大量の細胞を含有する生体試料であって、さらにそれらの組成が異なる生体試料、例えば血液試料などに関して、達成される安定化効果がより強く、より均一であることが判明した。例えば、異なるドナーに由来する血液試料は、エクスビボでの取り扱い中に発生する細胞外核酸集団の変化が異なることがある。一部の試料は、細胞外核酸集団のプロファイルの強い変化(特に、ゲノムDNAの強い増加)を示すが、他の試料では、前記効果があまり顕著でない。かかる試料はまた、安定化に対して異なった反応をし得る。異なるドナーから得た血液試料を安定化するためにブタンアミドとカスパーゼ阻害剤を併用すると、より均等化された、均一な安定化効果が達成された。したがって、元の血液試料の変動は、達成される安定化にあまりまたはさらには全く影響しなかった。それ故、好ましくは、細胞含有生体試料をブタンアミドおよび少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤と接触させる。得られた混合物中に存在するカスパーゼ阻害剤は、安定化を有意に支援する。ブタンアミドとカスパーゼ阻害剤の組み合わせは、とりわけ、生体試料に含まれている有核細胞を安定化し、それによって、細胞内核酸、例えば特にゲノムDNAが、生体試料に含まれている細胞から放出されることを防止する。カスパーゼ阻害剤とブタンアミドの組み合わせは、細胞外核酸集団が、試料に含有されている細胞に由来する細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAで汚染されるリスクを低減させるのに特に有効であることが判明した。記載したように、かかる汚染は、それが細胞外核酸を希釈し、さらにその細胞外核酸集団の組成およびしたがってプロファイルを変えるので、問題が多い。しかし、そのプロファイルの保存は、多くの場合、診断応用にとって重要である。さらに、試料中に存在する核酸、特にゲノムDNAの分解は、安定剤の前記組み合わせによって低減される。したがって、ブタンアミドと少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤の併用は、安定化効果を有意に改善し、それによって試料に含有されている細胞外核酸集団を、その生体試料を得、それぞれに採集した時点でその集団が示した状態に、長期保管期間中でさえ、実質的に保存することを支援する。細胞外核酸集団、特にその組成/プロファイルの信頼性のある保存は、先行技術に重要な貢献をする。本発明による組み合わせには、カスパーゼ阻害剤単独またはブタンアミド単独よりよい安定化効果がある。ブタンアミドとカスパーゼ阻害剤の組み合わせで達成される結果は、カスパーゼ阻害剤とN,Nジメチルアセトアミド(DMAA)の組み合わせで達成される安定化効果に匹敵した。安定剤のかかる組み合わせは、未公開PCT/EP2012/070211およびPCT/EP2012/068850に記載されている。これらの未公開出願が示すように、カスパーゼ阻害剤とDMAAの組み合わせは、全血試料などの細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団の安定化に非常に有効である。しかし、N,N−ジメチルアセトアミドは毒性物質である。それとは対照的に、ブタンアミドは毒性でなく、さらに、有害でも刺激性でもない。したがって、ブタンアミドとカスパーゼ阻害剤の組み合わせを使用することによる細胞含有生体試料の安定化は、カスパーゼ阻害剤とN,N−ジメチルアセトアミドの併用を超える重要な利点を有する。本発明は、毒性物質の使用を伴わない、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団の効率的安定化を可能にする。
【0039】
好ましくは、前記カスパーゼ阻害剤は、細胞透過性である。異なるカスパーゼ阻害剤の組み合わせを使用することも本発明の範囲内である。カスパーゼ遺伝子ファミリーのメンバーは、アポトーシスに重要な役割を果たす。個々のカスパーゼの基質選好または特異性は、カスパーゼと結合についてうまく競合するペプチドの開発に活用されている。カスパーゼ特異的ペプチドを例えばアルデヒド化合物、ニトリル化合物またはケトン化合物にカップリングさせることによりカスパーゼ活性化の可逆的または不可逆的阻害剤を生成することができる。例えば、Z−VAD−FMKなどのフルオロメチルケトン(FMK)誘導体化ペプチドは、追加の細胞毒性効果のない有効な不可逆的阻害剤として作用する。N末端およびOメチル側鎖にベンジルオキシカルボニル基(BOC)を有する、合成された阻害剤は、細胞透過性増強を呈示する。C末端にフェノキシ基を有する、さらなる好適なカスパーゼ阻害剤が合成される。例はQ−VD−OPhであり、これは、カスパーゼ阻害剤Z−VAD−FMKよりアポトーシスの防止およびしたがって安定化の支援にさらにいっそう有効である、細胞透過性の不可逆的広域カスパーゼ阻害剤である。
【0040】
1つの実施形態によると、細胞含有生体試料を安定化するためにブタンアミドと併用されるカスパーゼ阻害剤は、汎カスパーゼ阻害剤であり、したがって、広域カスパーゼ阻害剤である。1つの実施形態によると、前記カスパーゼ阻害剤は、改変カスパーゼ特異的ペプチドを含む。好ましくは、前記カスパーゼ特異的ペプチドは、アルデヒド化合物、ニトリル化合物またはケトン化合物によって改変されている。好ましい実施形態によると、前記カスパーゼ特異的ペプチドは、O−フェノキシ(OPh)基またはフルオロメチルケトン(FMK)基で好ましくはカルボキシル末端が修飾されている。1つの実施形態によると、前記カスパーゼ阻害剤は、Q−VD−OPhおよびZ−VAD(OMe)−FMKから成る群より選択される。1つの実施形態では、汎カスパーゼ阻害剤であるZ−VAD(OMe)−FMKを使用し、これは、競合的不可逆的ペプチド阻害剤であり、カスパーゼ−1ファミリー酵素およびカスパーゼ−3ファミリー酵素を遮断する。好ましい実施形態では、カスパーゼの広域阻害剤であるQ−VD−OPhを安定化のために使用する。Q−VD−OPhは、細胞透過性であり、アポトーシスによる細胞死を阻害する。Q−VD−OPhは、極めて高濃度でも細胞に対して毒性でなく、アミノ酸バリンおよびアスパラギン酸にコンジュゲートされたカルボキシ末端フェノキシ基を含む。それは、カスパーゼ−9とカスパーゼ−3、カスパーゼ−8とカスパーゼ−10、およびカスパーゼ−12という3つの主要アポトーシス経路によって媒介されるアポトーシスの防止に等しく有効である(Casertaら、2003)。本発明の教示に従って使用することができるさらなるカスパーゼ阻害剤を表1に収載する。1つの実施形態によると、細胞含有試料の安定化のために使用されるカスパーゼ阻害剤は、細胞の細胞内細胞死経路において下流に位置する1つ以上のカスパーゼ、例えばカスパーゼ−3に作用する。本発明の1つの実施形態において、前記カスパーゼ阻害剤は、カスパーゼ−3、カスパーゼ−8、カスパーゼ−9、カスパーゼ−10およびカスパーゼ−12から成る群より選択される1つ以上のカスパーゼに対する阻害剤である。記載したように、カスパーゼ阻害剤の併用も本発明の範囲内である。
【0041】
生体試料をブタンアミドおよび少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤(および必要に応じてさらなる添加剤)と接触させた後に得られる混合物は、カスパーゼ阻害剤(またはカスパーゼ阻害剤の組み合わせ)を少なくとも0.01μM、少なくとも0.05μM、少なくとも0.1μM、少なくとも0.5μM、少なくとも0.6μM、少なくとも0.7μM、少なくとも0.75μM 少なくとも0.8μM、少なくとも0.9μM、少なくとも1μM、少なくとも1.25μM、少なくとも1.5μM、少なくとも1.75μM、少なくとも2μM、少なくとも2.25μM、2.5μM、少なくとも2.75μM、少なくとも3μM、少なくとも3.25μMまたは少なくとも3.5μMの濃度で含んでよい。もちろん、安定化効果が維持されるならば、より高い濃度も使用することができる。細胞含有生体試料およびブタンアミド(および必要に応じてさらなる添加剤)と混合するときのカスパーゼ阻害剤(単数または複数)の好適な濃度範囲としては、0.01μMから100μM、0.1μMから75μM、0.25μMから50μM、0.5μMから40μM、0.6μMから30μM、0.7μMから35μM、0.8μMから30μM、0.9μMから25μM、1μMから20μM、1.1μMから17.5μM、1.25μMから15μM、または1.5μMから12.5μMが挙げられるが、これらに限定されない。濃度が高いほど有効であることが判明したが、良好な安定化結果は、より低い濃度においても達成された。したがって、効率的な安定化は、例えば、0.25μMから10μM、0.5μMから7.5μM、0.75μMから5μM、または1μMから3μMより選択される範囲の、より低濃度においても達成される。上に挙げた濃度は、単一のカスパーゼ阻害剤の使用、ならびにカスパーゼ阻害剤の併用にも適用される。カスパーゼ阻害剤の組み合わせを使用する場合、カスパーゼ阻害剤の前記混合物に使用する個々のカスパーゼ阻害剤の濃度は、アポトーシス阻害剤の組み合せの全体の濃度が、上に挙げた特徴を満たすならば、上に挙げた濃度より下に存してもよい。試料中に存在する細胞をなお効率的に安定化するおよび/または試料中に存在する核酸の分解を低減させる、より低いカスパーゼ阻害剤濃度の使用には、安定化の費用を低下させることができるという利点がある。とりわけ、カスパーゼ阻害剤はブタンアミドと併用、および必要に応じて、本明細書に記載の1つ以上の他の安定化添加剤と併用されるので、より低い濃度を用いることができる。上述の濃度は、特に、汎カスパーゼ阻害剤、特に、改変カスパーゼ特異的ペプチド、例えば、Q−VD−OPhおよび/またはZ−VAD(OMe)−FMKを使用するときに好適である。上述の濃度は、例えば、全血の安定化に非常に好適である。個々のカスパーゼ阻害剤のおよび/または他の細胞含有生体試料の好適な濃度範囲は、当業者が日常の実験を用いて、例えば、実施例に記載する試験アッセイで異なる濃度のそれぞれのカスパーゼ阻害剤を試験することにより決定することができる。1つの実施形態によると、前記カスパーゼ阻害剤は、有効量で、それぞれのカスパーゼ阻害剤を含有しない対照試料と比較して細胞含有生体試料におけるアポトーシスを少なくとも25パーセント、少なくとも30パーセント、少なくとも40パーセント、少なくとも50パーセント、好ましくは少なくとも75パーセント、さらに好ましくは少なくとも85パーセント減少または低減させる。
【0042】
1つの実施形態によると、安定化すべき細胞含有生体試料をブタンアミドおよび式1に従う少なくとも1つの化合物
【化3】
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基、C1−C4アルキル残基またはC1−C3アルキル残基、さらに好ましいC1−C2アルキル残基であり、R2およびR3は、同一であり、または異なり、水素残基、および線状または分岐した様式に配列された1〜20原子の炭素鎖長を有する炭化水素残基から選択され、ならびにR4は、酸素、硫黄またはセレン残基であり、好ましくは、R4は酸素である)
と接触させる。
【0043】
実施例によって証明するように、上で定義の式1に従う化合物は、単独でも、またはブタンアミドに加えて使用されるときでも、安定化効果の達成に有効である。式1に従う1つ以上の化合物の混合物も安定化のためにブタンアミドに加えて使用することができる。式1に従う1つ以上の化合物をブタンアミドに加えて使用することは、安定化に必要なブタンアミドの濃度を低下させるので、有利である。これは、ブタンアミドと式1に従う化合物とを含む安定化組成物の保管安定性が、特により低温で、増加されるので、有利である。これは、大量の細胞含有生体試料、例えば血液を安定化するための少ない体積の安定化組成物の使用を可能にする。
【0044】
1つの実施形態によると、細胞含有生体試料を安定化のためにブタンアミド、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、および式1に従う少なくとも1つの化合物と接触させる。好ましくは、前記細胞含有試料は、血液試料である。1つの実施形態によると、得られる混合物には、ブタンアミドが、3%(w/v)以下、2.5%(w/v)以下、好ましくは2.25%(w/v)以下、さらに好ましい2%(w/v)以下の濃度で含まれる。好適な範囲としては、例えば、0.1%から3%、0.3%から2.5%、0.5%から2%、および0.6%から1.75%−すべて(w/v)が挙げられる。
【0045】
式1に従う化合物のR2および/またはR3は、同一であり、または異なり、水素残基および炭化水素残基から選択される。したがって、式1に従う化合物は、第一級、第二級または第三級アミドであることができる。好ましくは式1に従う化合物は、カルボン酸アミドである。1つの実施形態によると、R2およびR3は、同一のまたは異なる炭化水素残基である。炭化水素残基R2および/またはR3は、互いに独立して、アルキル(短鎖アルキルおよび長鎖アルキルを含む)、アルケニル、アルコキシ、長鎖アルコキシ、シクロアルキル、アリール、ハロアルキル、アルキルシリル、アルキルシリルオキシ、アルキレン、アルケンジイル、アリーレン、カルボキシレートおよびカルボニルを含む群より選択することができる。一般的な基、例えば、アルキル、アルコキシ、アリール等を請求し、本明細書および本特許請求の範囲に記載する。好ましくは、以下の基を、本発明の範囲内の一般に記載する基の中で用いる:
(1)アルキル:好ましくは、短鎖アルキル、特に線状および分岐C1−C5アルキル、または長鎖アルキル:線状および分岐C5−C20アルキル;
(2)アルケニル:好ましくは、C2−C6アルケニル;
(3)シクロアルキル:好ましくは、C3−C8シクロアルキル;
(4)アルコキシ:好ましくは、C1−C6アルコキシ;
(5)長鎖アルコキシ:好ましくは、線状および分岐C5−C20アルコキシ;
(6)アルキレン:好ましくは、2から18個の炭素原子を有し、必要に応じてヘテロ原子を含有する、二価線状または分岐脂肪族、環式脂肪族または芳香族炭化水素残基、例えば、メチレン;1,1−エチレン;1,1−プロピリデン;1,2−プロピレン;1,3−プロピレン;2,2−プロピリデン;ブタン−2−オール−1,4−ジイル;プロパン−2−オール−1,3−ジイル;1,4−ブチレン;1,4−ペンチレン;1,6−ヘキシレン;1,7−へプチレン;1,8−オクチレン;1,9−ノニレン;1,10−デシレン;1,11−ウンデシレン;1,12−ドセジレン;シクロヘキサン−1,1−ジイル;シクロヘキサン−1,2−ジイル;シクロヘキサン−1,3−ジイル;シクロヘキサン−1,4−ジイル;シクロペンタン−1,1−ジイル;シクロペンタン−1,2−ジイル;およびシクロペンタン−1,3−ジイルを含む群より選択されるもの;
(7)アルケンジイル:好ましくは、1,2−プロペンジイル;1,2−ブテンジイル;2,3−ブテンジイル;1,2−ペンテンジイル;2,3−ペンテンジイル;1,2−ヘキセンジイル;2,3−ヘキセンジイル;および3,4−ヘキセンジイルを含む群より選択されるもの;
(8)アルキンジイル:−C≡C−に等しいもの;
(9)アリール:好ましくは、300Da未満の分子量を有する芳香族から選択されるもの;
(10)アリーレン;好ましくは、1,2−フェニレン;1,3−フェニレン;1,4−フェニレン;1,2−ナフタレニレン(naphtthalenylene);1,3−ナフタレニレン(naphtthalenylene);1,4−ナフタレニレン(naphtthalenylene);2,3−ナフタレニレン(naphtthalenylene);1−ヒドロキシ−2,3−フェニレン;1−ヒドロキシ−2,4−フェニレン;1−ヒドロキシ−2,5−フェニレン;1−ヒドロキシ−2,6−フェニレンを含む群より選択されるもの;
(11)カルボキシレート:好ましくは、基−C(O)OR(ここでのRは、水素;C1−C6アルキル;フェニル;C1−C6アルキル−C6H5;Li;Na;K;Cs;Mg;Caから選択される);
(12)カルボニル:好ましくは、基−C(O)R(ここでのRは、水素;C1−C6アルキル;フェニル;C1−C6アルキル−C6H5およびアミン(アミドをもたらすもの)から選択され、前記アミンは、基:−NR’2(ここでの各R’は、水素;C1−C6アルキル;C1−C6アルキル−C6H5およびフェニルから独立して選択される)から選択され、ここで、両方のRがC1−C6アルキルを表す場合、それらはNC3からNC5複素環であって、他のアルキル鎖を形成するその環のアルキル置換基を有する複素環を形成することができる);
(13)アルキルシリル:好ましくは、基−SiR1R2R3(ここでのR1、R2およびR3は、互いに独立して、水素;アルキル;長鎖アルキル;フェニル;シクロアルキル;ハロアルキル;アルコキシ;長鎖アルコキシから選択される);
(14)アルキルシリルオキシ:好ましくは、基−O−SiR1R2R3(ここでのR1、R2およびR3は、互いに独立して、水素;アルキル;長鎖アルキル;フェニル;シクロアルキル;ハロアルキル;アルコキシ;長鎖アルコキシから選択される)。
【0046】
R2および/またはR3の鎖長nは、特に、値1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および20を有する。好ましくは、R2およびR3は、1〜10の炭素鎖長を有する。この場合、鎖長nは、詳細には、値1、2、3、4、5、6、7、8、9および10を有する。好ましくはR2およびR3は、1〜5の炭素鎖長を有し、この場合の鎖長は、詳細には、値1、2、3、4および5を有することができる。R2およびR3については、1または2の鎖長が特に好ましい。好ましくは、R2およびR3は、両方ともアルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基である。
【0047】
R1の鎖長nは、好ましくは値1、2、3、4または5を有する。R1については1または2の鎖長が特に好ましい。
【0049】
好ましい実施形態によると、式1に従う化合物は、カルボン酸アミドである。それは、第一級、第二級または第三級カルボン酸アミドであることができる。特に好ましい実施形態において、式1に従う化合物は、N,N−ジアルキル−カルボン酸アミドである。好ましいR1、R2、R3およびR4基は、上に記載してある。式1に従うそれぞれの化合物の使用には、さらに、細胞含有試料中の細胞内核酸、例えば、特にRNA、例えばmRNAおよび/またはmiRNA転写産物を安定化することができるという利点がある。細胞内核酸、特に、遺伝子転写産物レベルのこのさらなる安定化は、例えば、含有される細胞における標的転写産物または転写産物プロファイルの後の分析を可能にするので、有利である。1つの実施形態によると、式1に従う化合物は、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドおよびN,N−ジエチルホルムアミドから成る群より選択される。R4として酸素ではなく硫黄を含むそれぞれのチオ類似体も好適である。N,N−ジメチルアセトアミド(DMAA)は、例えば良好な安定化結果を達成するが、毒性物質である。好ましくは、細胞含有生体試料を安定化するために、式1に従う化合物を、GHS分類に従って毒性物質でないブタンアミドと併用する。
【0050】
特に好ましい実施形態によると、細胞含有生体試料を安定化のためにブタンアミド、およびN,N−ジアルキルプロパンアミドである式1に従う化合物と接触させ、好ましくは、前記試料をブタンアミドおよびN,N−ジメチルプロパンアミドと接触させる。好ましくは、カスパーゼ阻害剤を安定化のためにさらに使用する。1つの実施形態によると、細胞含有生体試料をブタンアミド、カスパーゼ阻害剤およびN,N−ジメチルプロパンアミドと接触させる。実施例で証明するように、カスパーゼ阻害剤、ブタンアミドおよびN,N−ジメチルプロパンアミドでの血液試料などの細胞含有生体試料の安定化は、優れた安定化結果を達成する。細胞外核酸集団の安定化、ならびに細胞内核酸の安定化は、それぞれの組み合わせで達成することができる。さらに、有利なことに、DMAAとは対照的にN,N−ジメチルプロパンアミドは毒性物質として分類されない。N,N−ジメチルプロパンアミドは高価な化合物であるが、N,N−ジメチルプロパンアミドとブタンアミド(および好ましくはさらにカスパーゼ阻害剤)の併用により、安定化のための低濃度のN,N−ジメチルプロパンアミドの使用が可能になり、その結果、細胞含有試料を安定化するための費用削減が可能になる。
【0051】
細胞含有生体試料をブタンアミドおよび式1に従う化合物と接触させた場合に得られる混合物、またはそれぞれの化合物(および必要に応じてさらなる添加剤、例えば、好ましくはカスパーゼ阻害剤)の混合物は、式1に従う化合物(またはかかる化合物の混合物)を、少なくとも0.1%、少なくとも0.25%、少なくとも0.5%、少なくとも0.75%、少なくとも1%、少なくとも1.25%または少なくとも1.5%の濃度で含んでよい。好適な濃度範囲としては、0.1%から30%、0.25%から20%、0.5%から15%、0.7%から10%、0.8%から7.5%、0.9%から6%、および1%から5%が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において用いる場合、百分率値で示す濃度または濃度範囲を、詳細には、液体組成物中の固体化合物、物質または組成物については体積当たりの重量(w/v)百分率として与え、および液体組成物中の液体化合物、物質または組成物については体積当たりの体積(v/v)百分率で与える。それぞれの濃度は、N,N−ジアルキル−カルボン酸アミド、好ましくはN−N−ジアルキルプロパンアミド、例えば、N,N−ジメチルプロパンアミドを追加の安定剤として使用するとき、特に適している。上に挙げた濃度は、例えば、全血または血液製剤、例えば血漿の安定化に非常に好適である。本発明による方法で使用するための式1に従う他の化合物および/または他の細胞含有生体試料についての好適な濃度範囲は、当業者が日常の実験を用いて、例えば、実施例に記載する試験アッセイで化合物をそれぞれその異なる濃度で試験することによって決定することもできる。
【0052】
1つの実施形態によると、細胞含有生体試料を安定化のためにブタンアミド、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、および上で定義の式1に従う少なくとも1つの化合物と接触させる。上に記載したように、好ましくは、非毒性である式1に従う化合物を使用する。非毒性剤であるN−N−ジアルキルプロパンアミド、例えば、N,N−ジメチルプロパンアミドとの併用が特に好ましい。
【0053】
1つの実施形態によると、安定化すべき細胞含有生体試料をブタンアミドおよび安定剤としての少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーと接触させる。
【0054】
用語ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、詳細には、エチレンオキシドのオリゴマーまたはポリマーを指す。それは、少なくとも2つのエチレンオキシド単位を含む。低分子量および高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーが公知である。それらの分子量は、通常、そのモノマーの分子量である44の倍数(multitutes)であり、100000までに及ぶことができる。本明細書に記載するそれぞれの分子量は、Daでのものである。ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、線状であってもよいし、または分岐していてもよく、または他の幾何形状を有してもよい。線状ポリ(オキシエチレン)ポリマーが好ましい。ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、非置換であってもよいし、置換されていてもよく、好ましくはポリエチレングリコールである。実施例で実証するように、ポリエチレングリコールは、様々な分子量で、および様々な濃度で、細胞に対する安定化効果を有し、したがって、ポリエチレングリコールをブタンアミドおよび必要に応じて他の安定剤と併用して、細胞含有試料中の細胞外核酸集団の安定化を、詳細には、細胞内核酸、例えば特にゲノムDNAによる細胞外核酸集団の希釈の低減を補助することによって支援することができる。しかし、ポリエチレングリコールについて示したような安定化効果を達成する他のポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用してもよい。述べたように、安定化効果を有する置換ポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えば、アルキルポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えばアルキルポリエチレングリコールを使用してもよいが、ポリ(オキシエチレン)エステル、ポリ(オキシエチレン)アミン、ポリ(オキシエチレン)チオール化合物、ポリ(オキシエチレン)グリセリドなども使用してよい。安定剤として使用されるポリ(オキシエチレン)ポリマーの好ましい実施形態は、ポリエチレングリコールである。それは、好ましくは分岐しておらず、および非置換であってもよくまたは置換されていてもよい。公知置換形態のポリエチレングリコールとしては、例えば一方または両方の末端がC1−C5アルキル基で置換されている、アルキルポリエチレングリコールが挙げられる。好ましくは、式HO−(CH
2CH
2O)
n−Hの非置換ポリエチレングリコールを使用する。本出願においてポリ(オキシエチレン)ポリマーについて一般に記載するすべての開示は、たとえ明確に述べていなくても、好ましい実施形態ポリエチレングリコールに具体的に当てはまり、好ましい実施形態ポリエチレングリコールを特に指す。様々な分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用することができる。好ましくは、用語ポリエチレングリコールは、具体的には好ましい実施形態ポリエチレングリコールにも当てはまるポリ(オキシエチレン)ポリマーについて本明細書に好適および好ましいと明記する分子量からも明白であるように、オリゴまたはポリマーを指す。
【0055】
ポリ(オキシエチレン)ポリマーの安定化効果とその分子量との間に相関関係を見いだした。低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーより高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーのほうが、より有効な安定剤であることが判明した。低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーで安定化効果の効率的支援を達成するためには、一般に、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと比較して高い濃度が推奨される。しかし、血液試料などの一部の応用例については、安定化のために使用する添加剤の量を低く保つほうが好ましい。したがって、より高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーは、より低濃度の当該ポリ(オキシエチレン)ポリマーの使用を可能にする上に、細胞外核酸集団に対して強い安定化効果を達成するので、複数の実施形態において安定剤として使用される。
【0056】
したがって、1つの実施形態によると、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーをさらなる安定剤としてブタンアミドとともに使用し、細胞含有試料と接触させる。前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、1500から50000、2000から40000、2500から30000、3000から20000、3500から15000、4000から10000、4500から9000、5000から8000、および5500から7000より選択される範囲に存する分子量を有してよい。これらの分子量は、ポリエチレングリコール、特に、非置換ポリエチレングリコールの使用に特に好ましい。非置換ポリエチレングリコールを実施例でも使用した。特定の分子量を有するポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量は、当業者には周知であるように、製造条件に従ってある一定の範囲内で変動し得る。
【0057】
高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、細胞含有試料に含有されている細胞外核酸集団の安定化を支援する濃度で使用する。当業者は、例えば、実施例に記載する試験アッセイで異なる濃度の特定の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを試験することによって、異なる試料タイプについての好適な濃度を決定することができる。実施例によって実証するように、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、様々な濃度で有効であり、ブタンアミドの安定化効果を支援する。達成される安定化効果および好ましい濃度は、ブタンアミドに加えて1つ以上のさらなる安定剤を使用するかどうかにも依存する。好ましい組み合わせを本明細書に記載する。1つの実施形態によると、細胞含有生体試料をブタンアミドおよび高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび必要に応じてさらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物は、前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、0.05%から4%(w/v)、0.1%から3%(w/v)、0.2%から2.5%(w/v)、0.25%から2%(w/v)、0.3%から1.75%(w/v)、および0.35%から1.5%(w/v)から選択される濃度範囲で含む。1つの実施形態によると、前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、より低い濃度範囲、例えば、0.25%から1.5%(w/v)、0.3%から1.25%(w/v)、0.35%から1%(w/v)、および0.4%から0.75%(w/v)で使用する。上記濃度範囲は、血液の安定化に特に好適である。1.5%(w/v)以下、1.25%(w/v)以下、1%(w/v)以下の濃度、および特に0.75%(w/v)以下の濃度での高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの使用は、ある一定の実施形態では有利である。安定剤と血液試料などの細胞含有試料とを含む得られる混合物中、ある一定のより高い濃度で高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用した複数の実施形態において、細胞外核酸の後の単離は、例えばシリカカラムの使用を含むある一定の標準的核酸単離手順を用いたとき、損なわれ得ることもあることが判明した。しかし、殆どの標準的核酸単離方法と適合性である安定化技術の使用、および広く使用されており確立されている細胞外核酸を単離するためのシリカカラムの使用は、有利である。試料を含有する安定化混合物中、1.5%(w/v)以下、1.25%(w/v)以下、1%(w/v)以下または0.75%以下の濃度での高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの使用は、かかる標準的方法を用いて、より大きな体積の安定化組成物を使用した場合でも、安定化された試料から細胞外核酸を良好な収率で効率的に単離することができることを支持する。これは、細胞外核酸集団に含まれている細胞外核酸および特に特定の標的核酸がほんの数コピーのみで存在することが多いので、有利である。実施例で実証するように、観察される障害(impairment)は、高分子量(ポリオキシエチレン)ポリマーを含有する安定化組成物の使用体積にも依存する。より小さい体積の安定化組成物の安定化への使用は、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーをより高濃度で使用した場合でもその障害を補償することができ、したがって、後の核酸単離を損なわせない。それ故、試料を含有する混合物中の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの全体の濃度を低下させること、および/または高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含有する安定化(stabilsation)組成物の体積を低減させることは、障害を低減させるまたはさらには回避するための代替選択肢である。実施例において実証されるこの体積依存効果は、有意であり、および試料を含有する混合物中のポリ(オキシエチレン)グリコールの全体の濃度は同じであるので非常に驚くべきことであった。
【0058】
1つの実施形態によると、安定化のためにブタンアミドに加えて使用するポリ(オキシエチレン)ポリマーは1500未満の分子量を有し、および1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであってもよい。細胞含有生体試料の細胞外核酸集団に対する安定化効果を支援することができる濃度でそれを使用する。当業者は、例えば、実施例に記載する試験アッセイにおいて異なる濃度を試験することにより、異なる試料タイプについての好適な濃度を決定することができる。それぞれのポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えば、1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、細胞含有生体試料を前記ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび必要に応じてさらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物中に、0.5%から10%、1.5%から9%、2%から8%、2から7%、2.5%から7%、および3%から6%から選択される濃度範囲で存在することができる。前記百分率値は、ポリ(オキシエチレン)ポリマーが固体である場合には(w/v)を指し、ポリ(オキシエチレン)ポリマーが液体である場合には(v/v)を指す。示した濃度は、血液試料の場合の使用に特に好適である。少なくとも1%、好ましくは少なくとも1.5%というより高い濃度は、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーがブタンアミドとの組み合わせで細胞外核酸集団の安定化を支援するのに有利である。1000以下、好ましくは700以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、より大きな体積の安定化組成物を使用した場合でさえ、安定化された試料からの細胞外核酸の後の単離を実質的に妨げないので、実質的により高い濃度で使用できることが判明した。しかし、安定化効果を達成するために要する量が多すぎる場合、これは、試料の処理および取り扱いに不便であり得る。どちらかと言えば少ない量または体積の安定剤で試料を安定化することが一般に好ましい。これは、特に、例えば血液試料などのある一定の試料の場合、試料に添加することができる安定剤の量は、使用する標準採集チューブによって制限される。例えば、10mL血液を採集するために使用される標準的な採集デバイスについては、おおよそ2mL安定剤を上限として添加することができる。
【0059】
1つの実施形態によると、分子量が異なる少なくとも2つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを、ブタンアミドに加えて、安定化のために使用する。それらは、同じ種類のものであってもよく、好ましくは、両方がポリエチレングリコール、例えば非置換ポリエチレングリコールである。1つの実施形態によると、分子量の差は、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも600、少なくとも700、少なくとも800、少なくとも900、または少なくとも1000である。この実施形態の特定の実施形態については後で詳細に記載するように、分子量が異なる2つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用することは有利である。本明細書に記載するように、ポリ(オキシエチレン)ポリマーの安定化効果は、それらの分子量に依存するように見える。試験した実施例において、分子量が高いほど、安定化効率が高いことが判明した。しかし、ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、それらの分子量に依存して後の核酸単離方法に対する効果が異なることがある。上に記載したように、より高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーの安定剤としての使用を含むある一定の実施形態において、特に、試料を含有する安定化用混合物においてより大きな体積の安定化組成物およびより高濃度のポリマーを使用する場合、ある一定の核酸単離方法での核酸の単離があまり効率的でないことが判明した。実施例によって実証するように、ある一定のシナリオで起こるかかる問題点を、分子量が異なるポリ(オキシエチレン)ポリマーの混合物を使用した場合に、克服することができる。したがって、ブタンアミドに加えて、分子量が異なる少なくとも2つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを安定化のために使用するこの実施形態は、達成される安定化効果に関して望まれる特徴と例えばある一定の下流での使用に必要とされる特徴とを有するポリ(オキシエチレン)ポリマーのバランスのとれた組成物を提供することが可能であるので、有利である。
【0060】
1つの実施形態によると、少なくとも1500の分子量を有する、上で定義の高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと併用し、さらに細胞含有試料を両方のタイプのポリ(オキシエチレン)ポリマーと接触させる。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの併用は、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーによって試料の有効な安定化を達成するために要する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度を低下させることが可能になるので、有利である。したがって、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、試料との混合物において、例えば、シリカカラムを伴うものなどのある一定の標準的方法を用いる、後の核酸単離を、実質的を損なわせない濃度で使用することができる。この実施形態は、使用することができる安定化組成物の体積または量に関してより大きな自由を与えるので、有利である。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは安定化を支援するが、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーとは対照的に、試験した実施例では、それらの実施例において、より高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーが、ある一定の濃度および/または体積で障害効果を示した方法、例えば、シリカカラムを伴う方法を用いたとき、核酸の後の単離に対する有意な障害は認めらなかった。したがって、ブタンアミドと高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの組み合わせを使用する細胞含有試料中の細胞外核酸集団の安定化は、有利な実施形態である。前記低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、上に記載した高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと同じ種類のものであることができる。前記低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーについても、ポリエチレングリコール、例えば、非置換ポリエチレングリコールを使用することが好ましい。前記低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、100から1000、150から800、150から700、好ましくは200から600、およびさらに好ましくは200から500より選択される範囲に存する分子量を有してよい。
【0061】
1つの実施形態によると、好ましくは血液である細胞含有生体試料をブタンアミドならびに高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーならびに必要に応じて安定化に用いられるさらなる添加剤と接触させた後に得られる混合物は、0.2%から1.5%(w/v)、好ましくは0.3%から1.25%(w/v)の範囲、およびある一定の実施形態では0.4(w/v)から0.75%(w/v)の範囲に存する濃度の、3000から40000、好ましくは4000から20000、さらに好ましい4500から10000の範囲の分子量を有し得る高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと、1.5%から8%、好ましくは2%から7%、または2%から6%より選択される範囲に存する濃度の、200から800、好ましくは200から600の範囲に存する分子量を好ましくは有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーとを含む。前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、好ましくは、ポリエチレングリコール、例えば、非置換ポリエチレングリコールである。ブタンアミドについての好適な濃度は、上に記載しており、この実施形態にも適用される。細胞含有生体試料は、この実施形態では血液であってよく、その血液試料をさらに抗凝固物質と接触させる。抗凝固物質の好適な例は、上に記載してある。
【0062】
1つの実施形態によると、細胞含有生体試料を、安定化のためにブタンアミド、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、ならびにさらに、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤および/または上で定義の式1に従う少なくとも1つの化合物と接触させる。特に、細胞含有生体試料を、安定化のために、ブタンアミド、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤と接触させてもよい。必要に応じて、上で定義の式1に従う少なくとも1つの化合物を、細胞含有試料の細胞外核酸集団を安定化するためにさらに使用してもよい。上に記載したように、好ましくは、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーは、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるか、または高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの組み合わせである。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、少なくとも1500の分子量、さらに好ましくは2000から40000、さらに好ましくは3000から20000、または4500から10000の範囲の分子量を好ましくは有する。ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、好ましくは、ポリエチレングリコール、例えば、非置換ポリエチレングリコールである。
【0063】
1つの実施形態によると、安定化すべき細胞含有生体試料を、ブタンアミド、および安定化支持剤(supporting stabilizing agent)としてのモノ−エチレングリコール(1,2−エタンジオール)と接触させる。特に、安定化すべき細胞含有生体試料を、ブタンアミド、モノ−エチレングリコールおよび本明細書に記載する他の化合物のいずれか1つ以上(少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、および少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、および/または上で定義の式1に従う少なくとも1つの化合物を含む)と接触させてもよい。
【0064】
安定剤の組み合わせを用いて観察される安定化効果は、単独で使用したときの個々の安定化剤のいずれについて観察される効果よりも強く、および/またはより低濃度の個々の安定剤の使用を可能にし、その結果、安定剤の組み合わせ使用を、魅力的な選択肢にする。さらに、例えば、血液試料を安定化する場合に特に有用である抗凝固物質およびキレート剤などの、さらなる添加剤を安定化のために使用することができる。
【0065】
本発明の背景技術で論じたように、細胞外核酸は、通常、細胞含有試料の細胞外部分に「裸」で存在せず、例えば、複合体中に放出され、保護されることにより、または小胞などの中に含有されることによりある程度は安定化されている。これは、細胞外核酸が既にある程度、本来安定化されている結果であり、したがって通常は、全血、血漿または血清などの細胞含有試料中のヌクレアーゼによって急速に分解されない。したがって、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸を安定化するつもりの場合、その細胞含有生体試料を得たまたは採集した後の主な問題の1つは、採集された細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団の、その細胞含有生体試料に含有されている損傷した細胞または死細胞に由来する細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAによる汚染である。これは、細胞外核酸を希釈し、さらに、細胞外核酸集団のプロファイルを変化させる。これは、血漿または血清などの細胞枯渇試料(これらは、少量の残留細胞を含むことがあったとしても「無細胞」と記載されることもある)を処理するときに問題ももたらす。本発明による安定化技術は、試料中に存在する細胞外核酸を実質的に保護し、例えば、含まれている細胞外核酸の分解を(非安定化試料と比較して、または例えば、血液の場合にはEDTAで安定化した試料と比較して、安定化期間にわたって、好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%。少なくとも85%、少なくとも90%、または最も好ましくは少なくとも95%)阻害するばかりでなく、さらに、得られた細胞含有生体試料中に含有されている細胞からのゲノムDNAの放出を効率的に低減させもする、および/またはそれぞれのゲノムDNAの断片化を低減させもするので、この点において特に有利である。1つの実施形態によると、細胞含有生体試料を安定化するためのブタンアミド、必要に応じて、しかし好ましくはカスパーゼ阻害剤、および必要に応じて、式1に従う化合物、および必要に応じて抗凝固物質の使用には、試料に含有されている細胞からのゲノムDNAの放出の結果として生ずるDNAの増加を非安定化試料と比較して低減させるという効果がある。1つの実施形態によると、ゲノムDNAの前記放出は、非安定化試料と比較して、またはEDTAで安定化されている対応する試料(特に、血液試料または血液に由来する試料、例えば血漿もしくは血清の場合)と比較して、安定化期間にわたって、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも10倍、少なくとも12倍、少なくとも15倍、少なくとも17倍、または少なくとも20倍低減される。1つの実施形態によると、ゲノムDNAの前記放出は、非安定化試料と比較して、またはEDTAで安定化されている対応する試料(特に、血液試料または血液に由来する試料、例えば血漿もしくは血清の場合)と比較して、安定化期間にわたって、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%低減される。DNAの前記放出は、例えば、本明細書における実施例セクションに記載するようにリボソーム18S DNAを定量することによって決定することができる。実施例で証明するように、本発明の教示を用いて達成可能な安定化は、安定化期間にわたってDNAのこの放出を著しく低減させる。したがって、1つの実施形態によると、ブタンアミドを必要に応じてカスパーゼ阻害剤および/または式1に従う化合物と組み合わせて達成される安定化効果は、例えば、実施例に記載する18S DNAアッセイで決定可能であるように、安定化された試料に含有されている細胞からのDNAの放出が、安定化期間にわたって、少なくとも下方に最大10倍、好ましくは少なくとも下方に最大7倍、さらに好ましくは少なくとも下方に最大5倍低減され、さらに好ましくは、例えば少なくとも下方に最大4倍低減される、さらに好ましくは少なくとも下方に最大3倍または2倍低減される結果となる。実施例によって証明するように、本発明の方法を用いて、少なくとも3日間の期間にわたる、および本明細書に記載の安定剤の組み合わせを用いる場合にはさらには6日までの、細胞外核酸集団の有効な安定化が達成可能である。この安定化効果は、例えば、安定化のために、好ましくはカスパーゼ阻害剤に加えて、さらにポリ(オキシエチレン)ポリマー、例えばポリエチレングリコールを使用する実施形態では、より長くなることさえ可能になる。例えば、実施例に記載する18S DNAアッセイで決定可能であるように、より短い保管、それぞれに安定化期間、例えば最大3日までの間、DNA放出を少なくとも下方に最大2倍までに低減させることができる。したがって、1つの実施形態によると、本発明による安定化方法を用いると、DNA放出を3日までの保管期間、下方に3倍以下または2倍以下低減させることができる。これは、先行技術の方法と比較して細胞外核酸集団の安定化の著しい改善である。これは、細胞外核酸を分析する任意の後の試験の精度を有意に増強する。ある一定の場合、例えば、試料材料を長距離輸送しなければならない場合、または(例えば、ある一定の国での場合であり得るように)長期間、例えば室温で保管しなければならない場合、本発明によるプロセスは、かかる期間の後、これらの試験を確実に行うことを可能にする。しかし、もちろん、所望される場合には試料をもっと前にさらに処理してもよい。必ずしも達成可能な全安定化期間を使用する必要はない。本発明を用いて、特にブタンアミドをカスパーゼ阻害剤と併用して、達成される安定化は、採集後の試料の異なる取り扱い/処理(例えば、保管条件および期間)の結果として生じ得る細胞外核酸集団の変動を低減させる。さらに、試料の架橋が起こらないような標準的方法を用いてそれぞれに安定化された試料から核酸を効率的に単離することができる。これは、細胞外核酸の分析に依存する分子分析の標準化を大きく改善する。
【0066】
記載したように、ブタンアミドに加えてさらなる添加剤を使用してもよい。上に記載したように、ブタンアミドを好ましくはカスパーゼ阻害剤と併用する。必要に応じて、ブタンアミドに加えて、またはブタンアミドとカスパーゼ阻害剤の組み合わせに加えて、式1に従う化合物を使用して、細胞含有生体試料に対する安定化効果をさらに増強することができ、および/またはブタンアミドの濃度の低下を可能にすることができる。1つの実施形態によると、併用される式1に従う化合物は、N−N−ジアルキルプロパンアミド、好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドである。さらに、上に記載したように、ブタンアミドに加えてポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用して、安定化効果を支援してもよい。ブタンアミドと、カスパーゼ阻害剤と、好ましくはポリエチレングリコールである少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーとの組み合わせが、特に好適である。加えて、式1に従う化合物を使用してもよい。
【0067】
安定化効果に寄与し得る好適な添加剤の選択は、安定化すべき細胞含有試料のタイプにも依存する。例えば、細胞含有生体試料として血液を処理する場合、血液凝固を防止するために抗凝固物質を含めることが有利であり、一般的でもある。抗凝固物質は、安定化すべき血液量の凝固を防止することができる濃度で使用する。抗凝固物質は、例えば、ヘパリン、キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸、クエン酸塩またはシュウ酸塩などのカルボン酸の塩、およびこれらの任意の組み合わせから成る群より選択してよい。有利な実施形態では、抗凝固物質はキレート剤である。キレート剤は、有機化合物であって、その有機化合物の2つ以上の原子によって金属と配位結合を形成することが可能である有機化合物である。本発明によるキレート剤としては、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジニトリロ四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)およびN,N−ビス(カルボキシメチル)グリシン(NTA)およびさらに例えばシトレートまたはオキサレートが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態によると、EDTAを抗凝固物質として使用する。本明細書において用いる場合、用語「EDTA」は、とりわけ、例えばK
2EDTA、K
3EDTAまたはNa
2EDTAなどのEDTA化合物のEDTA部分を示す。EDTAなどのキレート剤の使用には、DNaseおよびRNaseなどのヌクレアーゼを阻害し、それによって、例えば、ヌクレアーゼによる細胞外核酸の分解を防止するという有利な効果もある。したがって、EDTAなどのキレート剤の使用は、血液とは異なる細胞含有試料を使用する場合にも有利である。さらに、より高濃度で使用される/添加されるEDTAは安定化効果を支援することが判明した。しかし、EDTA単独では、本明細書に記載する目的のために十分な安定化効果を達成しない。しかし、本発明の教示と併用すると、詳細にはブタンアミド(および本明細書に記載するさらなる添加剤)と併用すると、EDTAは、上で論じた理由で安定化効果をさらに改善することができる。
【0068】
1つの実施形態によると、細胞含有生体試料をブタンアミドおよび必要に応じて1つ以上のさらなる添加剤と接触させたときに得られる混合物中のキレート剤、好ましくはEDTAの濃度は、接触ステップ後、0.1mMから100mM、0.5mMから50mM、1mMから30mM、2.5mMから25mM、5mMから20mM、および7.5mMから17.5mMより成る群から選択される範囲に存する。1つの実施形態によると、細胞含有生体試料をブタンアミドおよび必要に応じて1つ以上のさらなる添加剤と接触させたときに得られる混合物中のキレート剤、好ましくはEDTAの濃度は、0.5から40mg/mL、1から30mg/mL、1.6から25mg/mL、5から20mg/mL、および7.5から17.5mg/mLより成る群から選択される範囲に存する。それぞれの濃度は、血液試料、血漿試料および/または血清試料を安定化する場合に特に有効である。当業者が好適な濃度を決定することもできる。
【0069】
細胞含有試料の安定化をさらに支持するために、それぞれに細胞外核酸集団の保存を支持するために、さらなる添加剤を使用することもできる。それぞれの添加剤の例としては、ヌクレアーゼ阻害剤、特に、RNaseおよびDNase阻害化合物が挙げられるが、これらに限定されない。RNase阻害剤の例としては、抗ヌクレアーゼ抗体またはリボヌクレオシド−バナジル複合体が挙げられるが、これらに限定されない。安定化を支援するためのそれぞれのさらなる添加剤を選択する場合、安定化効果を弱めないおよび/または打ち消さないことに注意すべきである。したがって、例えばカオトロピック剤などの添加剤を、安定化する細胞含有生体試料に含有されている有核細胞の溶解および/もしくは分解をもたらすもしくは支援する、ならびに/または前記生体試料の無細胞画分に含有されている核酸の分解を支援する濃度で使用してはならない。それ故、好ましくは、安定化は、(i)有核細胞の溶解を誘導するもしくは促進する添加剤、(ii)一般に細胞の溶解を誘導もしくは促進する添加剤、および/または(iii)細胞含有生体試料の無細胞画分に含有されている核酸の分解をもたらす添加剤の使用を含まない。本明細書に記載する安定化方法は、細胞溶解に基づかず、細胞を保存するので、安定化期間後に細胞含有試料から細胞を分離することができ、その結果、細胞外核酸集団を含む無細胞画分または細胞枯渇画分を得ることを可能にする。本明細書に記載するブタンアミドベースの安定化のため、前記細胞外核酸集団は、試料採集および安定化の時点で存在する細胞外核酸集団に実質的に相当するまたは少なくとも近似している。さらに、分離した細胞から核酸を単離することができ、それを分析に利用することができる。上に記載したように、式1に従う化合物を含む組み合わせは、トランスクリプトーム安定化特性も有する。好ましいと上に記載している式1に従う化合物は、汚染された細胞のトランスクリプトームの安定化に特に好適である。このために、好ましくは、少なくとも3%、少なくとも3.5%、好ましくは少なくとも4%、さらに好ましい少なくとも5%の濃度を使用して、強いトランスクリプトーム安定化効果を達成する。したがって、ブタンアミドに加えての式1に従うかかる化合物の使用を含む方法は、細胞内核酸、特にRNAのさらなる安定化に好適である。細胞外核酸集団に加えてトランスクリプトームを安定化することにより、それぞれに安定化された試料は、遺伝子発現プロファイリングにも好適である。さらに、それぞれに安定化された試料は、所望される場合には、その同じ安定化された試料からの細胞外核酸集団および細胞内核酸集団の別個の分析を可能にする。
【0070】
本明細書に開示の安定化方法は、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド放出剤などのような架橋試薬の使用に基づく細胞含有試料中の細胞外核酸集団の安定化に用いられる現行技術の安定化方法を超える有意な利点を提供する。架橋試薬は、核酸分子間のまたは核酸とタンパク質間の分子間共有結合または分子内共有結合を生じさせる。この架橋効果は、かかる安定化された試料からの核酸の後の単離を妨げることができる。例えば、全血試料中の循環核酸の濃度は既に比較的低いので、かかる核酸の収量をさらに低減させるいかなる手段も回避すべきである。これは、例えば悪性腫瘍に由来するまたは妊娠第一期の発育中の胎児に由来する非常に希少な核酸分子を検出および分析するときに特に重要であり得る。実施例によって証明するように、本発明の方法は、安定化のために架橋剤を必要としない。したがって、1つの実施形態によると、本発明による安定化方法は、タンパク質−核酸架橋および/またはタンパク質−タンパク質架橋を誘導する架橋剤の使用を含まない。詳細には、前記安定化は、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド放出剤の使用を含まない。さらに、上に記載したように、1つの実施形態によると、本発明による安定化方法は、毒性物質と分類される添加剤の使用を含まない。
【0071】
本発明の有利な実施形態では、好ましくは血液試料または血液に由来する試料、例えば血漿もしくは血清である細胞含有生体試料を以下のものと接触させる:
a)ブタンアミド、好ましくは、前記細胞含有生体試料との混合物中のブタンアミドの濃度が0.25%(w/v)から7%(w/v)、0.4%(w/v)から5%(w/v)、0.5%(w/v)から4%(w/v)、0.75%(w/v)から3.5%(w/v)、または1%(w/v)から3%(w/v)の範囲に存する濃度でのブタンアミド;
b)少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、好ましくは、汎カスパーゼ阻害剤、さらに好ましいQ−VD−OPh、好ましくは、前記細胞含有生体試料との混合物中のカスパーゼ阻害剤の濃度が0.5μMから30μM、さらに好ましい0.75μMから25μM、さらに好ましい1μMから10μMの範囲に存する濃度での前記カスパーゼ阻害剤;ならびに
c)必要に応じて、上で定義した式1に従う少なくとも1つの化合物(好ましい実施形態、例えばN,N−ジアルキルカルボン酸アミド、特にN,N−ジアルキルプロパンアミド、好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミド、ならびに好適および好ましい濃度は上に記載してある)、および/または
d)必要に応じて、さらなる添加剤、好ましくはキレート剤、最も好ましくはEDTA、好ましくは、前記細胞含有生体試料との混合物中のEDTAの濃度が1mMから50mM、好ましくは1.5mMから25mM、さらに好ましい2mMから20mMの範囲に存する濃度でのEDTA。
【0072】
好ましくは、上記成分a)およびb)ならびに必要に応じてc)およびd)が安定化組成物に含まれる。
【0073】
本発明の有利な実施形態では、好ましくは血液試料または血液に由来する試料、例えば血漿もしくは血清である、細胞含有生体試料を以下のものと接触させる:
a)ブタンアミド、好ましくは、前記細胞含有生体試料との混合物中のブタンアミドの濃度が0.25%(w/v)から7%(w/v)、0.4%(w/v)から5%(w/v)、0.5%(w/v)から4%(w/v)、0.75%(w/v)から3.5%(w/v)、または1%(w/v)から3%(w/v)の範囲に存する濃度のブタンアミド;
b)少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー;
c)必要に応じて、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、好ましくは、汎カスパーゼ阻害剤、さらに好ましいQ−VD−OPh、好ましくは、前記細胞含有生体試料との混合物中のカスパーゼ阻害剤の濃度が0.5μMから30μM、さらに好ましい0.75μMから25μM、さらに好ましい1μMから10μMの範囲に存する濃度の前記カスパーゼ阻害剤;
d)必要に応じて、上で定義した式1に従う少なくとも1つの化合物(好ましい実施形態、例えばN,N−ジアルキルカルボン酸アミド、特にN,N−ジアルキルプロパンアミド、好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミド、ならびに好適および好ましい濃度は上に記載してある)および/または
e)必要に応じて、さらなる添加剤、好ましくはキレート剤、最も好ましくはEDTA。
【0074】
前記ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、1つの実施形態によると、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー、さらに好ましくは、ポリエチレングリコール、例えば非置換ポリエチレングリコールである。好適な分子量および濃度は上に記載してあり、それについては上の開示を参照する。1つの実施形態によると、前記細胞含有生体試料との混合物中の前記ポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度が、0.2%から1.5%(w/v)、0.25%から1.25%(w/v)、0.3%から1%(w/v)、または0.4%から0.75%(w/v)の範囲に存する濃度でそれを使用する。1つの実施形態によると、前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、少なくとも1500の分子量、好ましくは2000から40000、さらに好ましい3000から20000、または4500から10000の範囲の分子量を有する。有利な実施形態では、細胞含有試料をブタンアミド、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)グリコール、および少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤と接触させる。1つの実施形態によると、式1に従う化合物をさらに使用する。血液の安定化については、抗凝固物質、例えば、キレート剤、好ましくはEDTAの使用を有利には用いる。
【0075】
好ましくは、本発明の第三の態様による安定化組成物を細胞含有生体試料の安定化のために使用する。前記安定化組成物の成分を溶媒、例えば、水、緩衝液、例えば生物学的緩衝液、例えばMOPS、TRIS、PBSなどに含めることができ、それぞれに溶解することができる。さらに、前記成分を極性非プロトン性溶媒、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解してもよく、または前記安定化組成物が極性非プロトン性溶媒、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)を含んでもよい。
【0076】
ブタンアミド、必要に応じて少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤および必要に応じて式1に従う化合物、ならびに必要に応じて存在するさらなる添加剤、例えば抗凝固物質は、細胞含有生体試料を採集するためのデバイス、好ましくは容器の中に存在することができる。少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーをブタンアミドに加えて使用する場合、同じことが当てはまる。ブタンアミドおよび必要に応じて、安定化のためにさらに使用される1つ以上の化合物は、それぞれのデバイスの中に存在する安定化組成物中に存在することができ、または別々の実体(entity)として存在することができる。さらに、それらをそれぞれの採集デバイスに細胞含有生体試料の採集直前に添加することができ、またはそれらを採集デバイスに、細胞含有生体試料をそのデバイスに採集した直後に添加することができる。安定剤および必要に応じてさらなる添加剤(単数または複数)を別々に細胞含有生体試料に添加することも本発明の範囲内である。しかし、取り扱いの容易さのために、ブタンアミドおよび安定化のために使用する1つ以上のまたは任意のさらなる添加剤をそれぞれの採集デバイスに、例えば、単一組成物の形態で提供することが好ましい。しかし、それらが、採集デバイスの中に別々の成分または組成物として存在してもよい。1つの実施形態によると、ブタンアミドおよび安定化のために使用する1つ以上のまたはすべてのさらなる添加剤は、単一の安定化組成物に含有されない。有利な実施形態では、ブタンアミド、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、および必要に応じて上記の式1に従う化合物、および必要に応じてさらなる添加剤(単数または複数)、例えばEDTAなどの抗凝固物質などが採集デバイスの中に、細胞含有生体試料を添加する前に存在する。これにより、本発明の教示に従って使用する安定剤と接触すると直ぐに細胞含有生体試料が確実に安定化される。安定剤は、採集され、それぞれに前記容器の中に含まれている細胞含有生体試料量を安定化するのに有効な量で容器の中に存在する。上で論じたように、ブタンアミド、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、および必要に応じて上記の式1に従う化合物および必要に応じてさらなる添加剤(単数または複数)、例えばEDTAなどの抗凝固物質などは、採集デバイスの中に含まれている1組成物中に存在することができる。ブタンアミドに加えて少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用する場合、同じことが当てはまる。それぞれの採集デバイスについての好適なおよび好ましい実施形態も、本発明による第五の実施形態に関連して後で記載し、それについては前記開示を参照する。
【0077】
好ましくは、細胞含有生体試料を、その細胞含有生体試料の採集直後および/または採集中に、ブタンアミドおよび必要に応じてさらなる添加剤と接触させる。したがって、上に記載したように、好ましくは、安定化のために使用する剤を安定化組成物の形態で提供する。好ましくは、前記安定化組成物を液体形態で提供する。それを、例えば、細胞含有生体試料が採集中に直ちに安定化されるように試料採集デバイスに予め充填することができる。1つの実施形態によると、安定化組成物を細胞含有試料と、10:1から1:20、5:1から1:15、1:1から1:10、および1:2から1:5より選択される体積比で接触させる。これらの比は、血液試料の安定化に特に有用である。細胞含有試料、特に血液試料で得られる混合物中の添加剤の好適なおよび好ましい濃度は上に記載しており、それについてはそのそれぞれの開示を参照する。大きい試料体積の安定化を小さい体積の本発明による安定化組成物で達成できることが本発明の教示の特別な利点である。したがって、好ましくは、安定化組成物の試料に対する比は、1:2から1:7、さらに好ましくは1:3から1:5の範囲に存する。1つの実施形態によると、安定化組成物を細胞含有試料と1:10から1:5の体積比で接触させる。この比は、例えば血液の安定化に有利である。
【0078】
本明細書において用いる場合の用語「細胞含有生体試料」、「細胞含有試料」および類似の用語は、詳細には、少なくとも50、250、少なくとも500、少なくとも1000、少なくとも1500、少なくとも2000、または少なくとも5000細胞を含む試料を指す。さらに、かなりより多くの細胞を含む細胞含有試料も前記用語によって包含され、本発明による教示を用いて安定化することができる。しかし、用語「細胞含有生体試料」は、それぞれの試料が残留細胞を含むことが多いので、細胞枯渇試料(例えば血漿などの一般に「無細胞」と呼ばれる細胞枯渇試料を含む)も指し、したがって前記細胞枯渇試料も包含する。少なくとも、血漿などのいわゆる「無細胞」試料であっても残留量の細胞を含み、したがって、前記「無細胞」試料が、前記残留細胞から放出される細胞内核酸で細胞外核酸集団が汚染されることになるというリスクをもたらすということを完全には排除できないことが多い。それ故、それぞれの細胞枯渇および「無細胞」試料も、1つの実施形態によると、用語「細胞含有生体試料」によって包含される。したがって、「細胞含有試料」は、例えば全血でのように、大量の細胞を含むことがあるが、しかしほんの少量の細胞しか含まないこともある。それ故、用語「細胞含有生体試料」は、細胞を含有するリスクが疑われるだけかもしれない試料または細胞を含有するリスクをもたらすかもしれない試料も包含する。上で論じたように、少量の、それぞれ残留量の細胞しか含まない生体試料、例えば血漿(血漿は、一般に無細胞である言われるが、−調製方法に依存して−通常は少ない残留量の細胞を含有する)に関しても、これらの残留細胞も、含まれている細胞外核酸の望ましくない汚染をもたらすことがあるので、本発明による方法には相当な利点がある。本発明の安定化技術の使用は、残留量の細胞しか含まない、または残留量の細胞のリスクが単に疑われる、または残留量の細胞のリスクをもたらすそれぞれの生体試料が、上でも詳細に記載しているように、効率的に安定化され、その結果、その試料に含有されている細胞外核酸集団を保存することを確実にする。1つの実施形態によると、細胞部分は、細胞含有生体試料の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、さらに好ましくは少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%または少なくとも40%を構成する。細胞画分が40%より多くを構成する細胞含有試料も、本明細書に記載する教示を用いて安定化することができる。本発明による安定化方法の使用には、細胞含有生体試料の組成およびその試料に含有されている細胞の数に実質的に関係なく、前記試料に含有されている細胞外核酸集団を実質的に保存する、それぞれに安定化することができ、その結果、含有されている細胞外核酸の後の単離および/または分析を標準化することが可能になるという利点がある。
【0079】
1つの実施形態によると、細胞含有生体試料は、体液、および体液に由来する細胞含有試料、特に全血、血液に由来する試料、例えば血漿もしくは血清、バフィコート、尿、痰、涙液、リンパ液、汗、髄液、脳脊髄液、腹水、乳、糞便、気管支洗浄液、唾液、羊水、鼻分泌物、膣分泌物、精液/精漿、創傷分泌物、細胞培養物およびスワブ試料より成る群から選択される。1つの実施形態によると、細胞含有生体試料は、体液、身体の分泌物または身体の排泄物、好ましくは、体液、最も好ましくは、尿、リンパ液、全血、バフィコート、血漿または血清である。特に、細胞含有生体試料は、循環体液、例えば、血液またはリンパ液であり得る。好ましくは、本明細書に記載する教示を用いて安定化される細胞含有生体試料は、血液試料である。1つの実施形態によると、細胞含有生体試料をヒトから得た。細胞含有生体試料は、細胞外部分の中の細胞外核酸を含む。本発明による方法で安定化することができる細胞含有生体試料の他の例としては、細胞外核酸を含む、細胞懸濁物、細胞培養物、細胞培養物の上清などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
1つの実施形態によると、本発明による方法は、血液試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するためのものであり、前記血液試料をブタンアミドおよび抗凝固物質と接触させるステップを含み、安定化期間中、前記血液試料に含有されている細胞からその血液試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出が低減される。詳細には、本発明は、血液試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するための方法であって、前記血液試料をブタンアミド、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤および抗凝固物質と接触させるステップを含み、前記血液試料に含有されている有核細胞からその血液試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出が低減される方法を提供する。さらに、前記試料中に存在する核酸の分解がその安定化に起因して低減される。実施例で証明するように、カスパーゼ阻害剤は、例えば、ゲノムDNAの断片化を阻害することができる。本明細書に記載のポリ(オキシエチレン)ポリマーとの組み合わせは、これが白血球に対する安定化効果を有意に支援するので特に好ましい。詳細には、安定化の間、白血球の溶解が防止/低減される。1つの実施形態によると、前記方法は、血液試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するためのものであり、前記血液試料をブタンアミド、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、式1に従う化合物、好ましくは第三級カルボン酸アミド、特にN,N−ジアルキルプロパンアミド、さらに好ましいN,N−ジメチルプロパンアミド、および抗凝固物質と接触させるステップを含み、前記血液試料に含有されている細胞からその血液試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出を低減させる。好ましくは、前記安定化効果は、少なくとも48時間、好ましくは少なくとも78時間、達成される。1つの実施形態によると、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーをブタンアミドおよびカスパーゼ阻害剤と併用する。記載したように、加えてさらなる安定剤および添加剤を使用することができる。
【0081】
本発明による方法を用いて血液試料を安定化する場合のさらなる利点は、安定化期間中、溶血が有意に低減され得ることである。したがって、非安定化試料または標準的EDTA血液試料と比較して、溶血の発生は有意に少なく、防止される場合さえある。溶血は、赤血球の破裂であり、そしてそれらの細胞質の周囲の細胞外液への、例えば血漿への放出である。放出されるヘモグロビンが血清または血漿(pleamsa)を赤色に見えるようにするので、溶血の程度を例えば目視検査によって分析することができる。インビトロ溶血の大半の原因は、検体採集に関係づけられる。しかし、インビトロ溶血は、通常、エクスビボ保管中の血液試料でも適正な安定化方法を用いないと発生する。目的の細胞外核酸によっては、溶血は相当な問題であり得る。目的の細胞外核酸がDNAである場合、赤血球が核を含有しない、したがって、ゲノムDNAを含有しないので、溶血はあまり問題にならない。それ故、溶血中に赤血球から細胞内DNAは放出されない。目的の細胞外核酸がDNAである場合、特に、白血球の溶解または崩壊は問題である。この場合は細胞内RNAに加えてゲノムDNAが放出されるからである。したがって、目的の細胞外核酸が細胞外DNAである場合、特に、白血球の溶解を防止しなければならない。白血球は、それらの安定特性が互いに異なり得る。したがって、一部のタイプの白血球は他のものより安定している。しかし、一般に、白血球は赤血球より有意に安定している。それ故、赤血球の溶解は、白血球が溶解されたことを必ずしも示すとは限らない。溶解に対する白血球および赤血球のこの異なる感受性をまた、当該技術分野において用いて、例えば、赤血球を特異的に溶解する一方で白血球を保存して例えば白血球の収集を可能にした。しかし、目的の細胞外核酸がRNAである場合、溶血およびしたがって赤血球の溶解は問題となる。成熟赤血球もRNAを含有しないが、それらの前駆体(網状赤血球)は含有する。網状赤血球は、赤血球のおおよそ0.5%から1%を構成し、大量のグロビンRNAを含有する。それ故、特に、目的の細胞外核酸がRNAである場合、保管中の赤血球およびしたがって網状赤血球の溶解を防止して/低減させて、細胞外核酸集団、特に細胞外RNA集団のグロビンmRNAでの希釈を低減させるべきである。さらに、上に記載したように、本明細書に記載する安定化方法を用いて達成される細胞外核酸集団の組成およびしたがってプロファイルを維持することは、これが多くの診断応用にとって重要であるので、重要である。実施例によって証明するように、本発明による安定化方法を用いると溶血が効率的に防止/低減される。その結果、細胞外核酸集団は実質的に保存され、さらに、安定化された血液試料、特に、その安定化された血液試料から得られる血漿または血清は、溶血および一般に細胞溶解の防止に起因して、他の標準的実験室分析にも好適である。
【0082】
上に記載したように、および実施例によって実証するように、本発明の方法の使用は、冷蔵および凍結せずに細胞含有試料の長期間の安定化を可能にする。したがって、前記試料を室温でまたはさらには上昇した温度(例えば30℃までもしくはさらには40℃まで)で保持することができる。1つの実施形態によると、安定化効果は、少なくとも2日間、好ましくは少なくとも3日間、さらに好ましい少なくとも4日間、達成される。1つの実施形態によると、本発明による安定化方法は、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団の安定化を、冷蔵せずに、好ましくは室温で、少なくとも2日から3日、少なくとも2日から少なくとも6日および/または少なくとも2日から少なくとも7日の期間、達成する。好ましくは、前記安定化期間中、本発明による安定化方法には、試料に含有されている細胞が安定化される、試料に含有されている細胞からその試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出が低減される、および/または試料中に存在する核酸の分解が安定化に起因して低減されるという効果がある。特に、記載した安定化期間中、その安定化が、安定化期間中、安定化された生体試料に含有されている細胞に由来するゲノムDNAでの、その試料に含まれている細胞外DNA集団の希釈を低減させる。本発明による方法を用いて達成することができる安定化効果は上に詳細に記載しており、それについては上記開示を参照する。好ましくは前記安定化期間中の安定化は、その安定化期間中、安定化された試料に含有されている細胞に由来する細胞内核酸、特にゲノムDNAでの、その生体試料に含まれている細胞外核酸集団の汚染を低減させる。実施例で証明するように、血液試料を3日までまたはそれより長く室温で安定化することができた。6日までのまたはさらにいっそう長い室温でのより長期の保管中でさえ、ブタンアミドをカスパーゼ阻害剤および/または式1に従う化合物と併用したとき、細胞外核酸集団は(特に、非安定化試料と比較して、または例えば、EDTA処理などの標準的方法を用いて安定化された試料と比較して)実質的に安定化された。前記安定化効果は、たとえ経時的に減少することがあっても(これは、その細胞含有生体試料を得た源、例えばドナーにも依存し得る)、細胞外核酸の分析および/またはさらなる処理を可能にするために細胞外核酸集団の組成を保存するのになお十分なものである。したがって、本発明の方法に従って安定化された細胞含有生体試料、特に、ブタンアミドおよびカスパーゼ阻害剤で安定化された試料は、室温での長期保管後でさえ、それらの中に含有されている細胞外核酸の単離および分析になお好適であった。ブタンアミドと少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび必要に応じて少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤の併用は、細胞含有生体試料の安定性をさらにいっそう増加させ、およびそれ故、好適な保管時間をさらに有意に延長する。したがって、さらにいっそう長い保管/配送時間が考えられる。しかし、通例の保管および例えば、核酸単離および必要に応じて分析を行う研究所への配送時間は、通常は6または7日を超えず、通常は2または3日後に完了されるので、通常はより長い期間は必要ない。実施例で証明するように、この期間中、安定化効率が特に良好である。しかし、本発明による方法を用いて達成可能である長い安定化時間および安定化効率により、重要な安全係数が得られる。
【0083】
本発明による方法およびまた後で記載する安定化組成物は、安定化のために本発明の教示に従って使用される安定剤のブタンアミドおよび記載した組み合わせが、特に組み合わせで、高活性であるので、添加する小さい体積/量の安定剤での大きな体積の細胞含有生体試料の安定化を可能にする。これは、特に、試料に含有されている細胞外核酸を単離するために自動プロセスを用いることを意図するとき、試料のサイズ/体積がその後の核酸単離手順に対して相当な制限を課すので、重要な利点である。さらに、細胞外核酸は、通常、細胞含有生体試料中に少量でしか含まれないと考えなければならない。したがって、より大きな体積の細胞含有生体試料、例えば血液試料などの処理には、より多くの細胞外核酸をその試料から単離することができ、したがって後の分析に利用できるという利点がある。
【0084】
生体試料の安定化の直ぐ後に核酸の分析が続くこともあり、またはその安定化された試料から先ずは核酸を単離することもある。したがって、本発明の方法を用いて安定化された細胞含有生体試料を、核酸分析方法および/もしくは核酸検出方法で分析することができ、ならびに/またはさらに処理してもよい。例えば、安定化された試料から細胞外核酸を単離することができ、次いで、核酸分析方法および/もしくは核酸検出方法で分析することができ、またはさらに処理してもよい。核酸単離および分析に関する詳細は、本発明の第二の態様に関連して下に記載し、それについては前記開示を参照する。記載したように、本発明による安定化方法の1つの重要な利点は、安定化に起因して核酸の後の単離が、例えば安定化のためにホルムアミド放出剤などの架橋剤を使用する場合のようには、妨げられないことにある。
【0085】
B.核酸単離方法
第二の態様に従って、細胞含有生体試料から核酸を単離するための方法であって、
a)本発明の第一の態様に記載した方法に従って細胞含有試料を安定化するステップ;
b)安定化された試料から核酸を単離するステップ
を含む方法を提供する。
【0086】
好ましくは、前記方法は、細胞含有生体試料から細胞外核酸を単離するためのものであり、
a)本発明の第一の態様に記載した方法に従って細胞含有試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するステップ;
b)細胞外核酸を単離するステップ
を含む。
【0087】
上で論じたように、本発明による安定化には、試料に含有されている細胞外核酸集団が、その生体試料を得た、それぞれに採集した時点でそれが示した状態で実質的に保存されるという効果がある。詳細には、実施例で実証するように、保管/取り扱い中の、細胞内核酸、特にゲノムDNA、さらに具体的には断片化ゲノムDNAに起因する核酸の通常観察される大きな増加が、効率的に低減またはさらに防止される。理論に拘束されないが、本明細書に記載するブタンアミドベースの安定化は、安定化期間中、細胞を安定化し、および/または細胞の破壊を低減させ、その結果、細胞内核酸の放出を低減させると考えられる。前記方法により、所望の安定化期間の後、安定化された試料から細胞画分を分離することが可能になる。したがって、それぞれに安定化された試料から得られる細胞外核酸は、非安定化試料と比較して、分解細胞または死細胞に由来する細胞内核酸での有意に少ない汚染を含み、および特に、より少ない量の断片化ゲノムDNAを含む。さらに、本明細書に記載するユニークな安定化により、回収可能な細胞外核酸の量を増加させることが可能になる。上に記載したように、本発明による安定化は、架橋剤の使用を必要としない。これは、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド放出剤などの架橋剤の使用を含む先行技術法を超える重要な利点である。なぜなら、これらの試薬は、標準的核酸単離技術を用いるとき、回収可能な細胞外核酸量を架橋のために低減させることが多いからである。対照的に、架橋剤を必要としない本発明の安定化方法は、その後の核酸単離を妨げない。したがって、本発明の方法は、細胞外核酸の診断および予後予測能を改善する。さらに、本明細書に記載する安定化により、試料に含有されている細胞を分離する前に、および/またはステップb)で試料に含まれている核酸を単離する前に−室温であっても−長期間、試料を保管すること、および/または取り扱うこと、例えば輸送することが可能になる。ステップa)で行う安定化の詳細に関しては、上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。
【0088】
1つの実施形態によると、例えば全血試料などの細胞含有生体試料を、ステップa)で、ブタンアミドと、好ましくはカスパーゼ阻害剤である少なくとも1つのアポトーシス阻害剤と、必要に応じて、さらなる安定剤および/または添加剤とを使用して安定化する。上に記載したように、1つの実施形態によると、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを安定化のためにさらに(asdditionally)使用する。ステップa)で行う本発明による安定化方法の好適なおよび好ましい実施形態は上に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。安定化のためのブタンアミド、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤および必要に応じて式1に従う化合物の使用が特に好ましい。上に記載したように、これは、含有されている細胞のトランスクリプトームの安定化を達成することも可能にする。したがって、前記方法は、試料に含有されている細胞から細胞内核酸を単離するステップも含み得る。上に記載したように、それぞれの細胞を好ましくは前もって分離する。全血試料を安定化する場合、抗凝固物質、好ましくはキレート剤、例えばEDTAとの組み合わせが好ましい。上に記載したように、ブタンアミド、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、および少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤の、必要に応じて、本明細書に記載する1つ以上のさらなる添加剤と組み合わせた使用も有利である。ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、含有されている細胞の安定化を支持し、それによってゲノムDNAなどの細胞内核酸の放出を防止するので、ポリ(オキシエチレン)ポリマーのさらなる使用は有利である。
【0089】
例えば全血での場合のように、細胞含有生体試料が大量の細胞を含む場合、細胞を残りの試料から分離して、安定化された試料の無細胞の、それぞれに細胞低減または細胞枯渇画分を得、次いで、ステップb)においてそれらから細胞外核酸を単離する。したがって、1つの実施形態によると、ステップa)およびステップb)の間に細胞含有試料から細胞を除去する。この中間ステップは、任意選択のものでしかなく、例えば、血漿もしくは血清などの少量の残留細胞しか含まない試料を処理する場合、および/または目的の細胞外核酸がDNAである場合、もう用いられないこともある。本発明の安定化のために、含有細胞からの安定化期間中のゲノムDNAの放出が低減されるか、またはさらには防止され、およびさらに、特にブタンアミドに加えてカスパーゼ阻害剤を使用すると、ゲノムDNAの断片化が低減される。本明細書に記載するように、その相当大きいサイズのために、非断片化ゲノムDNAをより小さい細胞外DNAと区別することができる。これにより、サイズ選択的単離プロトコルを使用することによって非断片化ゲノムDNAの存在下でさえ細胞外DNAを選択的に単離することが可能になる。しかし、結果を改善するためには、ステップb)で細胞外核酸を単離する前にその安定化された試料から細胞(または潜在的に残存細胞)を除去して、そうしなければ核酸単離中に細胞から放出される細胞内核酸での細胞外核酸集団の汚染を低減させることが好ましい。含有細胞の除去は、目的の細胞外核酸がRNAである場合、細胞内RNAと細胞外RNAを区別することが困難であり得るため、およびさらに細胞外RNAの希釈をそれによって防止することができるので、特に有利である。しかし、目的の細胞外核酸がDNAである場合もステップb)の前の細胞枯渇ステップが一般に有利であり、したがって好ましい。なぜなら、これによりステップb)での標準的核酸単離手順の使用が可能になるからである。細胞含有生体試料のタイプに依存して、細胞(残留細胞を含む)を、例えば、遠心分離、好ましくは高速遠心分離によって、または遠心分離ステップを避けるべき場合には遠心分離以外の手段、例えば濾過、沈降もしくは表面への結合、例えば(必要に応じて磁性)粒子上への結合によって、分離および除去することができる。それぞれの細胞分離方法は先行技術分野において周知であり、したがって、それらを詳細に記載する必要なはい。それぞれの細胞枯渇ステップを自動試料分離プロトコルに容易に含めることもできる。それぞれに除去された細胞を、所望される場合には、さらに処理してもよい。細胞を、例えば、保管することができ、分析することができ、および/または除去された細胞から生体分子、例えば核酸もしくはタンパク質などを単離することができる。さらに、特に、式1に従う化合物、例えばDMPAを細胞含有試料の安定化のためにさらに使用すると、細胞内RNAなどの細胞内核酸を安定化できることが判明した。トランスクリプトームのさらなる安定化は、例えば、インビトロ診断のための重要なバイオマーカーであり得る単離された細胞内核酸中の転写産物のプロファイルの分析を可能にするので、有利である。
【0090】
さらに、安定化された試料を処理するためのさらなる中間ステップを含めることも本発明の範囲内である。
【0091】
ステップb)で、好ましくは、安定化された試料の無細胞の、それぞれに細胞枯渇画分から、例えば、安定化された細胞含有試料が血液試料である場合には上清からまたは血漿および/または血清から、細胞外核酸を単離する。細胞外核酸を単離するために、安定化された試料、それぞれに得られた細胞枯渇試料から核酸を単離するのに好適である任意の公知核酸単離方法を使用することができる。それぞれの精製方法の例としては、抽出、固相抽出、シリカベースの精製方法、磁性粒子ベースの精製、フェノール−クロロホルム抽出、クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー(アニオン交換表面を使用)、電気泳動、濾過、沈殿およびこれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。例えば、配列特異的結合を可能にする固体支持体にカップリングされた適切なプローブを使用することによって、特異的標的細胞外核酸を特異的に単離することも本発明の範囲内である。当業者に公知の任意の他の核酸単離技術も使用することができる。1つの実施形態によると、ステップb)でカオトロピック剤および/またはアルコールを使用して核酸を単離する。好ましくは、核酸を固相、好ましくは、シリカを含むまたはアニオン交換官能基を有する固相に結合させることによって、核酸を単離する。それぞれの方法は先行技術分野において周知であり、したがって、詳細な記載を一切必要としない。細胞外核酸を単離するために好適な方法およびキット、例えば、QIAamp(登録商標)Circulating Nucleic Acid Kit(QIAGEN)、Chemagic Circulating NA Kit(Chemagen)、NucleoSpin Plasma XS Kit(Macherey−Nagel)、Plasma/Serum Circulating DNA Purification Kit(Norgen Biotek)、Plasma/Serum Circulating RNA Purification Kit(Norgen Biotek)、High Pure Viral Nucleic Acid Large Volume Kit(Roche)、ならびに細胞外核酸の抽出および精製に好適な他の市販キット、も市販されている。
【0092】
1つの実施形態によると、ステップa)の後に得られる安定化された細胞含有試料から、または必要に応じて、安定化された細胞含有試料から中間ステップで細胞を除去した後に得られる試料から、全核酸を単離する。好ましくは、前記核酸をtheから、または安定化された試料の無細胞の、それぞれに細胞枯渇画分から単離する。例えば、全核酸を血漿または血清から単離することができ、細胞外核酸はこれらの抽出された核酸中の一部として含まれる。安定化された試料に含有されている細胞を核酸単離前に効率的に除去すると、単離された全核酸は、細胞外核酸を主として含むまたはさらには細胞外核酸から成る。
【0093】
少なくとも主として特異的標的核酸を単離することも本発明の範囲内である。標的核酸は、例えば、ある一定のタイプの細胞外核酸、例えばDNAまたはRNA(mRNA、ミクロRNAを含む)、他の非コード核酸、エピジェネティック修飾核酸、および他の核酸であることができる。例えば、標的細胞外核酸はDNAであることができ、および非標的細胞外核酸はRNAであることができ、その逆も同じである。DNAまたはRNAの単離を特に目的にする標的特異的核酸単離方法は、先行技術分野において周知であり、したがって、本明細書での詳細な記載を一切必要としない。1つの実施形態によると、非標的核酸を特異的に破壊する適切な酵素、例えば、標的核酸がDNAである場合にはRNase、または標的核酸がRNAである場合にはDNaseを添加することにより、非標的核酸を破壊する。前記酵素を溶解混合物もしくは結合混合物に添加することができ、または細胞外核酸を固相に結合させた後に前記酵素を添加することができる。それぞれの非標的核酸消化ステップを行うための好適な実施形態は先行技術分野において公知であり、したがって、本明細書でのさらなる記載を一切必要としない。DNAおよびRNAを固体支持体に結合させる場合に実施可能な1つの実施形態によると、標的核酸に対して選択的な溶離条件を適用して、固体支持体から標的核酸を主としておよびしたがって選択的に回収することができる。1つの実施形態によると、非標的核酸、例えばRNAが結合しない条件下で標的核酸、例えばDNAを固相に選択的に結合させる単離方法を用いる。好適な結合条件は、先行技術分野において周知であり、例えば、国際公開第95/21849号パンフレットに記載されている。1つの実施形態によると、非標的核酸の少なくとも一部分を適切な条件下で固相に結合させ、次いで、その固相に結合した非標的核酸を、標的細胞外核酸を含む残りの試料から分離することによって、非標的核酸を除去する。これは、例えば、主に非標的核酸、例えばDNAを固相に結合させるが、非標的核酸、例えばRNAは試料中に残存する条件下で好適な固相を添加し、その非標的核酸、例えばRNAを別のステップでそこから回収することによって達成することができる。標的核酸から非標的核酸を選択的に除去するための好適な方法は、例えば、欧州特許第0880537号明細書および国際公開第95/21849号パンフレットに記載されており、それらは参照により本明細書に援用されている。所望される場合には、前記非標的核酸をさらに使用してもよく、例えば、固相から溶離するなど、例えば、さらに処理してもよい。しかし、それを廃棄してもよい。例えば、標的核酸の単離後にヌクレアーゼを使用して非標的核酸またはその残存物を消化することも、本発明の範囲内である。
【0094】
用語標的核酸は、特定の種類の核酸、例えば、ある一定の疾患マーカーであることが公知である特定の細胞外核酸を指すこともある。上で論じたように、細胞外核酸の単離は、例えば、標的核酸の選択的単離を支持する適切な捕捉プローブを使用することによる、それぞれの標的核酸の特異的単離も含むことがある。
【0095】
用語標的核酸は、ある一定の長さを有する核酸、例えば、5000nt以下、2000nt以下、1000nt以下、900nt以下、800nt以下、700nt以下、600nt以下、500nt以下、400nt以下または350nt以下の長さを有する核酸を指すこともある。ある一定の最大サイズの標的核酸の単離は、本発明に関して有利であり得る。細胞外核酸が、通常、2000nt未満、1000nt未満および多くの場合さらには500nt未満のサイズを有することは公知である。本明細書に示すサイズ、それぞれにサイズ範囲は、鎖長を指す。すなわち、二本鎖核酸、例えば二本鎖DNAの場合、それはbpを指す。ステップb)におけるより小さい核酸の選択的単離は、単離された核酸中の得られる細胞外核酸部分を増加させることができる。本発明による安定化方法により、特に、ゲノムDNAの放出の阻害および/または放出されたゲノムDNAの断片化の阻害のため、より小さい細胞外核酸集団からのかかる高分子量ゲノムDNAのより効率的な分離が可能になる。本発明による安定化技術を用いるとゲノムDNAと細胞外核酸の間の実質的サイズ差が本質的に保存されるので、例えばサイズ選択的核酸単離プロトコルを用いて、ゲノムDNAをより効率的に除去することができる。この効率的安定化のため、本明細書に記載するように安定化された試料中のゲノムDNA(通常、>10,000bpより大きい)と細胞外核酸(通常、<1000nt/bp)の間のサイズ差が通常は比較的大きいので、ある一定の標的長の核酸を選択的に単離するための公知方法を用いることができる。したがって、1つの実施形態によると、ステップb)は、5000nt以下、2000nt以下、1500nt以下、1000nt以下、900nt以下、800nt以下、700nt以下、600nt以下または500nt以下の長さを有する標的核酸を選択的に単離するステップを含む。核酸のそれぞれのサイズ選択的単離を達成するために好適な方法、例えば高分子量ゲノムDNAを枯渇させることによる方法は、先行技術分野において公知であり、したがって、本明細書での詳細な記載を必要としない。標的サイズのDNAの古典的単離方法は、ゲルでのDNAの分離、所望のゲルバンド(単数または複数)の切り出し、そしてその後のゲル断片(単数または複数)からの標的サイズのDNAの単離を含む。別の広く用いられている技術は、ポリエチレングリコールベースの緩衝液でのサイズ選択的沈殿(LisおよびSchleif Nucleic Acids Res.1975 3月;2(3):383−9)またはカルボキシル官能化ビーズ上への結合/沈殿(DeAngelisら、Nuc.Acid.Res.1995、第23巻(22)、4742−3;米国特許第5,898,071号明細書および米国特許第5,705,628号明細書、Beckman−Coulterによって商品化されているもの(AmPure XP;SPRIselect)ならびに米国特許第6,534,262号明細書)である。さらに、アニオン交換基を含む固体支持体および可変pH値の使用に基づくサイズ選択的単離方法が公知である。サイズ選択的単離は、単離された細胞外核酸中の細胞内核酸量を低減させるためのさらなる機会を与える。例えば、目的の標的細胞外核酸がDNAである場合、核酸単離ステップb)中のゲノムDNAの除去は、残留細胞を除去するための核酸抽出を開始する前の血漿試料の別の高g−力遠心分離(high g−force centrifugation)を補うまたはさらには置き換えることもできた。特にブタンアミドに加えてカスパーゼ阻害剤を使用すると、前記残留細胞から放出されるゲノムDNAの大量分解が本発明による安定化のために防止され、および従って、ステップb)においてサイズ選択的核酸単離プロトコルを用いることにより前記非断片化または低断片化のゲノムDNAを枯渇させることができる。多くの臨床検査室は、かかる高g−力遠心分離を行うことが可能な遠心分離器または特に微量の残留細胞を除去するための他の手段を持っていないので、この選択肢は特に有利である。
【0096】
次いで、ステップc)で好適なアッセイおよび/または分析方法を用いてそれらの単離された細胞外核酸を分析および/またはさらに処理することができる。例えば、それらを同定することができ、改変することができ、少なくとも1つの酵素と接触させることができ、増幅することができ、逆転写することができ、クローニングすることができ、配列決定することができ、プローブと接触させることができ、(それらの存在または不在を)検出することができ、および/または定量することができる。それぞれの方法が先行技術分野において周知であり、一般に、医療、診断および/または予後予測分野において細胞外核酸を分析するために応用されている(本発明の背景技術における詳細な記載も参照されたい)。したがって、細胞外核酸をステップb)において必要に応じて全核酸、全RNAおよび/または全DNAの一部として単離(上記参照)した後、それを分析して、例えば、多数の新生物疾患、特に、前悪性疾患および悪性疾患、例えば、様々な形態の腫瘍またはがんをはじめとする(しかしこれらに限定されない)疾患状態の存在、不在または重症度を同定することができる。例えば、単離された細胞外核酸を分析して、非侵襲性出生前遺伝子検査、それぞれにスクリーニング、疾患スクリーニング、病原体スクリーニング、腫瘍学、がんスクリーニング、早期がんスクリーニング、がん治療モニタリング、遺伝子検査(遺伝子型判定)、感染症検査、傷害診断、外傷診断、移植医療もしくは多くの他の疾患を含む(しかしこれらに限定されない)、多くの応用分野において診断および/または予後予測マーカー(例えば、胎児由来または腫瘍由来細胞外核酸)を検出することができ、したがって、単離された細胞外核酸は、診断および/または予後予測に適切なものである。1つの実施形態によると、単離された細胞外核酸を分析して、疾患または胎児の特性を同定および/または特性評価する。したがって、上で論じたように、本明細書に記載する単離方法は、核酸分析および/または処理のステップc)をさらに含むことがある。
【0097】
したがって、1つの実施形態によると、単離された細胞外核酸をステップcで分析して、疾患および/または少なくとも1つの胎児特性を同定する、検出する、スクリーニングする、モニターするまたは排除する。単離された細胞外核酸の分析/さらなる処理は、増幅技術、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、等温増幅、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Q−PCR)、デジタルPCR、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、質量分析、蛍光検出、紫外線分光法、ハイブリダイゼーションアッセイ、DNAまたはRNAシーケンシング、次世代シーケンシング、制限分析、逆転写、NASBA、対立遺伝子特異的ポリメラーゼ連鎖反応、ポリメラーゼサイクリングアセンブリ(PCA)、非対称ポリメラーゼ連鎖反応、線形後指数関数的ポリメラーゼ連鎖反応(LATE−PCR)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、ホットスタートポリメラーゼ連鎖反応、配列間特異的ポリメラーゼ連鎖反応(ISSR)、逆ポリメラーゼ連鎖反応、ライゲーション媒介ポリメラーゼ連鎖反応、メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(MSP)、マルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応、ネステッドポリメラーゼ連鎖反応、固相ポリメラーゼ連鎖反応またはこれらの任意の組み合わせを含む(しかしそれらに限定されない)、任意の核酸分析/処理方法を用いて行うことができる。それぞれの技術は当業者に周知であり、したがって、ここでさらなる記載を必要としない。
【0098】
1つの実施形態によると、本発明の教示に従って細胞含有生体試料を採集し、それぞれに安定化した後、少なくとも1日から3日まで、または2日から7日までに単離ステップb)および分析ステップc)のいずれかまたは両方を行う。本発明による方法を用いて細胞含有生体試料、特に血液試料、それぞれにそれらに含有されている細胞外核酸集団を安定化することができる好適な期間も安定化方法に関連して上に記載しており、そのそれぞれの開示はここにも適用される。1つの実施形態によると、本発明による方法に従って細胞含有生体試料を採集し安定化した少なくとも1日後、少なくとも2日後または少なくとも3日後に、核酸単離ステップb)を行う。
【0099】
C.安定化組成物
さらに、本発明の第三の態様に従って、細胞含有生体試料を安定化するのに好適な組成物であって、ブタンアミドと、アポトーシス阻害剤、抗凝固物質および式1に従う化合物
【化4】
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基、C1−C4アルキル残基またはC1−C3アルキル残基、好ましくはC1−C2アルキル残基であり、R2およびR3は、同一であり、または異なり、水素残基、および線状または分岐した様式に配列された1〜20原子の炭素鎖長を有する炭化水素残基から選択され、ならびにR4は、酸素、硫黄またはセレン残基であり、好ましくは、R4は酸素である)
から成る群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤とを含む組成物を提供する。
【0100】
上で論じたように、本発明によって提供される安定化組成物、特に、ブタンアミドとアポトーシス阻害剤とを含むものは、含まれている細胞および含まれている細胞外核酸を安定化し、それによって安定化の時点に細胞外核酸集団を実質的に保存する、それぞれに安定化することにより、細胞含有生体試料、特に、血液、血漿および/または血清の安定化に特に有効である。それぞれの安定化組成物は、好ましくは全血である細胞含有生体試料の、室温での少なくとも2日間、好ましくは少なくとも3日間またはさらにはそれより長く、その血液試料、それぞれにその試料に含有されている細胞外核酸集団の質を実質的に損なわせることなく、保管および/または取り扱い、例えば配送を可能にする。もちろん、全可能安定化期間を使用することは必須ではない。所望される場合には試料をもっと前に処理してもよい。生体試料を安定化組成物と接触させることで、含有されている細胞外核酸を単離する前、必要に応じて分析および/または処理する前に室温においてもその試料を保管すること、およびまたは取り扱うこと、例えば配送することが可能になる。したがって、細胞含有試料の採集および安定化と核酸抽出の間の時間は、その試料に含有されている集団、それぞれに細胞外核酸集団の組成に実質的な影響を及ぼすことなく変えることができる。特に、細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAでの細胞外核酸組成の希釈、それぞれに汚染を低減させ、またはさらには防止する。好ましくは、細胞含有生体試料の採集直後または採集中にその細胞含有試料と安定化組成物を接触させる。
【0101】
1つの実施形態によると、ブタンアミドを含む安定化組成物は、さらにカスパーゼ阻害剤を含む。カスパーゼ阻害剤とブタンアミドの併用、ならびにカスパーゼ阻害剤の好適および好ましい実施形態の使用の利点は、第一の態様による安定化方法に関連して上に詳細に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。好ましくは、前記カスパーゼ阻害剤は、汎カスパーゼ阻害剤である。好ましくは、前記カスパーゼ阻害剤は、改変カスパーゼ特異的ペプチド、好ましくはC末端がO−フェノキシ基で修飾されたもの、例えばQ−VD−OPhである。
【0102】
1つの実施形態によると、前記組成物は、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーをさらに含む。ポリ(オキシエチレン)ポリマーとブタンアミドの併用、ならびにポリ(オキシエチレン)ポリマーの好適および好ましい実施形態の使用の利点は、第一の態様による安定化方法に関連して上に詳細に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。ポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量は、例えば100から40000の範囲に存してよい。好ましくはポリ(オキシエチレン)ポリマーは、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーである。好ましくは、ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、ポリエチレングリコール、例えば、非置換ポリエチレングリコールである。ある一定の実施形態において、前記分子量は、1500から40000、2000から30000、2500から25000、3000から20000、3500から15000、好ましくは4000から10000、4500から9000、および5000から8000より選択される範囲に存してよい。好ましくは、ブタンアミドと少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーとを含む前記組成物は、さらにカスパーゼ阻害剤を含む。
【0103】
特定の実施形態において、ブタンアミドと高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーとを含む安定化組成物は、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量より少なくとも100、好ましくは少なくとも200、少なくとも300または少なくとも400低い分子量を有する少なくとも1つのさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーをさらに含む。第一の態様による安定化方法に関連して上に記載したように、分子量の異なるポリ(オキシエチレン)ポリマーの併用は有利である。好ましくは、両方のポリ(オキシエチレン)ポリマーがポリエチレングリコール、例えば、非置換ポリエチレングリコールである。有利な実施形態によると、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む安定化組成物は、さらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーとして1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーをさらに含む。詳細は、第一の態様による安定化方法に関連して上に記載してあり、それについてはそのそれぞれの開示を参照し、そのそれぞれ開示はここにも適用される。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、好ましくは、ポリエチレングリコール、例えば、非置換ポリエチレングリコールである。低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量は、100から1000、150から800より選択される範囲に存してよく、好ましくは、200から600の範囲に存する。
【0104】
1つの実施形態によると、ブタンアミドを含む安定化組成物は、式1に従う少なくとも1つの化合物
【化5】
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基、C1−C4アルキル残基、C1−C3アルキル残基、さらに好ましいC1−C2アルキル残基であり、R2およびR3は、同一であり、または異なり、水素残基、および線状または分岐した様式に配列された1〜20原子の炭素鎖長を有する炭化水素残基から選択され、ならびにR4は、酸素、硫黄またはセレン残基である)
をさらに含む。好ましい実施形態は、安定化方法に関連して上に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。式1に従う化合物は、第一級、第二級または第三級カルボン酸アミドであることができる。好ましくは、式1に従う少なくとも1つの化合物は、N,N−ジアルキル−カルボン酸アミドである。好ましくは、毒性物質に分類されない、式1に従う化合物を使用する。1つの実施形態によると、前記組成物は、ブタンアミドおよびN,N−ジアルキルプロパンアミド、好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドを含む。N,N−ジメチルプロパンアミドは、毒性物質に分類されない。さらに、N,N−ジメチルプロパンアミドには、細胞内核酸を安定化することが可能であり、特に、適切な濃度で使用すると転写産物プロファイルを安定化し得るという有利な効果がある。好ましくは、ブタンアミドと式1に従う化合物とを含む前記組成物は、さらにカスパーゼ阻害剤を含む。1つの実施形態によると、それは、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーをさらに含む。
【0105】
1つの実施形態によると、安定化組成物は、ブタンアミドおよび少なくとも1つの抗凝固物質を含む。この実施形態は、血液試料または血液に由来する細胞含有試料の安定化に特に好適である。1つの実施形態によると、安定化組成物は、ブタンアミドおよびキレート剤を含む。抗凝固物質としても機能する好適なキレート剤、ならびに安定化のための好適な濃度も、本発明による方法に関連して上に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。好ましくは、EDTAを抗凝固物質として、それぞれにキレート剤として使用する。血液を安定化するために、安定化組成物は、好ましくは、ブタンアミドと、少なくとも1つのアポトーシス阻害剤、好ましくはカスパーゼ阻害剤と、抗凝固物質と、必要に応じて、式1に従う少なくとも1つの化合物とを含む。式1に従う化合物は、好ましくは、N,N−ジアルキルプロパンアミド、好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドである。血液を安定化するために、安定化組成物は、ブタンアミドと、少なくとも1つのアポトーシス阻害剤、好ましくはカスパーゼ阻害剤と、抗凝固物質と、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコールと、必要に応じて、式1に従う少なくとも1つの化合物とを含んでよい。式1に従う化合物は、好ましくは、N,N−ジアルキルプロパンアミド、好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドである。
【0106】
安定化組成物は、上に記載したようなさらなる添加剤も含んでよい。
【0107】
アポトーシス阻害剤、特に、カスパーゼ阻害剤、式1に従う化合物および抗凝固物質の好適なおよび好ましい実施形態は、安定化方法に関連して上で詳細に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。同じことが少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーに関して適用される。さらに、安定化組成物と細胞含有生体試料とを含む安定化混合物における安定化のために使用することができる個々の剤の好適なおよび好ましい濃度は上に記載しており、当業者は、安定化組成物中の前記剤の適切な濃度を選択して、安定化組成物の所期の量を安定化する細胞含有試料の所期の量と混合するときにその混合物中の前記濃度を達成することができる。安定化組成物に関しては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。
【0108】
1つの実施形態によると、本発明の安定化組成物は、以下の特徴の1つ以上、好ましくは少なくとも2つ、少なくとも3つ、およびより好ましいすべてを有する:
i)前記組成物は、ブタンアミドを5%(w/v)から50%(w/v)、7.5%(w/v)から40%(w/v)、10%(w/v)から35%(w/v)、12.5%(w/v)から30%(w/v)、もしくは15%(w/v)から25%(w/v)の濃度で含む、
ii)前記組成物は、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤を含む
iii)前記組成物は、式1に従う少なくとも1つの化合物、好ましくはN−N−ジメチルプロパンアミドを、2%から50%、3%から40%、3.5%から30%、4%から25%、4.5%から20%、もしくは5%から17.5%の濃度で含む、および/または
iv)前記組成物は、抗凝固物質を含む。
【0109】
1つの実施形態によると、本発明の安定化組成物は、以下の特徴の1つ以上、好ましくは少なくとも2つ、少なくとも3つ、およびより好ましいすべてを有する:
i)前記組成物は、ブタンアミドを5%(w/v)から50%(w/v)、7.5%(w/v)から40%(w/v)、10%(w/v)から35%(w/v)、12.5%(w/v)から30%(w/v)、もしくは15%(w/v)から25%(w/v)の濃度で含む、
ii)前記組成物は、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、好ましくは汎カスパーゼ阻害剤、さらに好ましいQ−VD−OPhを含む;
iii)前記組成物は、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくは、少なくとも1500の分子量、好ましくは2000から40000、さらに好ましい3000から20000、または4500から10000の範囲の分子量を有する少なくとも1つの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む;
iv)前記組成物は、式1に従う少なくとも1つの化合物、好ましくはN−N−ジメチルプロパンアミドを、2%から50%、3%から40%、3.5%から30%、4%から25%、4.5%から20%、もしくは5%から17.5%の濃度で含む、および/または
v)前記組成物は、抗凝固物質および/もしくキレート剤、好ましくはEDTAを含む。
【0110】
上に記載したように、1つの実施形態によると、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、使用するその高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量より少なくとも100、好ましくは少なくとも200、少なくとも300または少なくとも400低い分子量を有する少なくとも1つのさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーと併用する。前記さらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーは、1000以下の分子量を有する、好ましくは200から800、または200から600の範囲の分子量を有する、低分子量ポリ(オキシエチレン)であってよい。詳細は、第一の態様による方法に関連して上に記載した。
【0111】
1つの実施形態によると、安定化組成物は液体である。
【0112】
1つの実施形態に従って、ブタンアミドと、好ましくはポリエチレングリコールである少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーとを含む液体の安定化組成物を提供する。続いて、血液試料の安定化に特に好ましい安定化組成物中に存在する場合の個々の剤の濃度を示す。例えば、下に示す濃度の安定剤を含む0.5mLから2mL、好ましくは1mLから1.5mLの液体の安定化組成物を、10mL血液を安定化するために使用することができる。1つの実施形態によると、前記組成物は、ブタンアミドおよび、少なくとも1500の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを0.4%から35%(w/v)、0.8%から25%(w/v)、1.5%から20%(w/v)、3%から15%(w/v)、および4%から10%(w/v)より選択される濃度で含む。1つの実施形態によると、前記液体の安定化組成物は、ブタンアミドおよび、好ましくはポリエチレングリコールである1000以下の分子量を有する低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを0.8%から92.0%、3.8%から76.7%、11.5%から53.7%、および19.2%から38.3%より選択される濃度で含む。上述の濃度は、低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーが液体であるか否かに依存して(w/v)または(v/v)を指す。上に記載したように、1つの実施形態によると、前記安定化組成物は、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと併用するときに好適な濃度範囲の例としては、0.4%から30.7%、0.8%から15.3%、1%から10%、1.5%から7.7%、および3.1%から5.4%より選択される濃度が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態によると、前記液体の安定化組成物は、ブタンアミドを、0.4%から38.3%、0.8%から23.0%、2.3%から11.5%、および3.8%から9.2%−すべて(w/v)−より選択される濃度で含む。1つの実施形態によると、前記液体の安定化組成物は、カスパーゼ阻害剤を、0.1μMから220μM、0.8μMから115.0μM、7.7μMから76.7μM、および23.0μMから50μMより選択される濃度で含む。1つの実施形態によると、前記液体組成物は、キレート剤、好ましくはEDTA、例えばK
2EDTAを、9.5mMから1100mM、20mMから750mM、50mMから600mM、75mMから550mM、100mMから500mM、および125mMから450mMより選択される濃度で含む。
【0113】
本発明によって提供される安定化組成物は、細胞含有生体試料を安定化し、したがって、試料に含有されている有核細胞についての、および好ましくは無核細胞についても、溶解および/または破壊を誘導しない。したがって、前記安定化組成物は、添加剤を、該添加剤がそれぞれの細胞および好ましくは一般に細胞の細胞溶解を誘導または促進する濃度で含まない。例えば、実施例セクションに記載するアッセイ方法によって決定することができるように、前記安定化組成物は、試料に含まれている細胞の損傷を低減させることもある。詳細には、本明細書に記載する安定化組成物は、細胞含有生体試料に含有されている細胞からその試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出を低減させることが可能である。さらに、特にカスパーゼ阻害剤を含むとき、前記安定化組成物は、安定化された試料中に存在する核酸、特にゲノムDNAの分解を低減させることが可能である。記載したように、前記安定化組成物は、安定化された生体試料に含有されている細胞に由来するゲノムDNAでの、その試料に含まれている細胞外DNA集団の汚染を低下または防止することが可能である。好ましくは、それは、安定化された試料に含有されている細胞に由来する細胞内核酸、特にDNAおよびRNAでの、その生体試料に含まれている細胞外核酸集団の汚染を低下または防止することが可能である。好ましくは、前記安定化組成物は、タンパク質−DNA架橋および/またはタンパク質−タンパク質架橋を誘導する架橋剤を含まない。詳細には、前記安定化組成物は、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒドもしくはホルムアルデヒド放出剤、または同様の架橋剤を含まない。好ましくは、前記安定化組成物は、GHSに従って毒性物質に分類される剤を含まない。好ましくは、本発明の安定化組成物は、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団を、冷蔵せずに、好ましくは室温で、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも2日から3日、少なくとも2日から6日、および/または少なくとも2日から7日より選択される期間、安定化することが可能である。特に、上記安定化効果の1つ以上、好ましくはすべてが、定義された安定化期間中に達成される。
【0114】
1つの実施形態によると、前記安定化組成物は、安定化剤、すなわち、ブタンアミドと、アポトーシス阻害剤(好ましくはカスパーゼ阻害剤である)、式1に従う化合物、および抗凝固物質(好ましくはキレート剤、例えばEDTAである)のうちの1つ以上と、必要に応じて溶媒および/または緩衝剤とから本質的に成る。1つの実施形態によると、前記安定化組成物は、1つ以上のポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。
【0115】
前記安定化組成物を固体形態で提供してもよいし、半液体形態で提供してもよし、または液体で提供してもよい。固体組成物は、例えば、安定化すべき細胞含有生体試料が固体を溶解するための液体(例えば、細胞含有体液、培地中の細胞、尿など)を含有する場合、または固体組成物を溶解するためにそれに液体、例えば水を添加する場合、好適な選択肢である。固体の安定化組成物を使用する利点は、固体が、通常、化学的により安定していることである。しかし、液体の安定化組成物も使用してよい。液体組成物は、安定化すべき試料との混合を迅速に達成することができ、その結果、試料がその液体の安定化組成物と接触するやいなや即時安定化効果を基本的にもたらすことができるという利点を、多くの場合、有する。好ましくは、前記液体の安定化組成物中に存在する安定剤(単数または複数)は、溶解状態で安定したままであり、および使用者による前処理−例えば、限られた溶解度の沈殿物の溶解することなど−を、この種の前処理は安定化効率の変動のリスクをもたらすので、必要としない。それぞれの保管安定な液体の安定化組成物の例は、ブタンアミド、カスパーゼ阻害剤、および式1に従う化合物、好ましくはN,N−ジアルキルプロパンアミド、例えばN,N−ジメチルプロパンアミドを含む。それぞれの保管安定な液体の安定化組成物のさらなる例は、ブタンアミド、カスパーゼ阻害剤、および少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。
【0116】
本発明は、細胞含有生体試料と混合された本発明の第三の態様による安定化組成物を含む混合物も提供する。細胞含有生体試料の好適なおよび好ましい例、ならびにその細胞含有生体試料と混合するときの安定剤(単数または複数)の好適な濃度は、とりわけ本発明による安定化方法に関連して上に記載してある。それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。記載したように、好ましくは、細胞含有試料は血液試料である。
【0117】
1つの実施形態によると、本発明の安定化組成物は、試料を採集時または採集中に直ちに安定化するために試料採集デバイスに予め充填される。1つの実施形態によると、前記安定化組成物を細胞含有生体試料と、10:1から1:20、5:1から1:15、1:1から1:10、および1:2から1:5より選択される体積比で接触させる。本発明の安定化組成物の特別な利点は、大きい試料体積の安定化を小さい体積の安定化組成物で達成することができることである。したがって、好ましくは、安定化組成物の試料に対する比は、1:2から1:7、さらに好ましくは1:3から1:5の範囲に存する。1つの実施形態によると、安定化組成物を細胞含有生体試料と、1:10から1:5の体積比で接触させる。
【0118】
本発明の第三の態様による安定化組成物を使用して、好ましくは血液試料などの細胞含有試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化することができる。少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーのさらなる使用は、特に有利である。さらに、本発明の第三の態様による安定化組成物は、試料に含有されている細胞、および/または細胞内核酸の安定化にも使用してよい。上に記載したように、前記安定化組成物は、細胞を安定させ、それによって、とりわけ、細胞含有生体試料に含まれている細胞からのゲノムDNAおよび他の細胞内核酸の放出を低減することができる。それによって、ゲノムDNAおよび他の細胞内核酸での細胞外核酸集団の汚染を低減させる。さらに、特に、安定化組成物が式1に従う化合物、例えば、特に、好ましいと上に記載したようなカルボン酸アミドを含む場合、トランスクリプトームを安定化することができる。
【0119】
D.使用
第四の態様によると、本発明は、細胞含有生体試料および特に、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するための、ブタンアミドおよび好ましくは第三の態様による安定化組成物の使用に関する。特に、本発明の第一の態様による方法において安定化組成物を使用することができる。前記方法の詳細は上に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。さらなる態様によると、本発明は、細胞含有生体試料中の細胞および/またはトランスクリプトームを安定化するための、第三の態様による組成物の使用に関する。好ましくは、上に記載したように、前記組成物は、細胞含有生体試料が血液である場合、抗凝固物質を含み、それは、好ましい実施形態である。
【0120】
G.製造方法
本発明の第三の態様による安定化組成物を製造方法であって、前記安定化組成物の成分を混合して、好ましくは、溶液をもたらす製造方法をも提供する。
【0121】
E.採集デバイス
本発明の安定化組成物を試料採集デバイス、特に、採血アセンブリ、例えば採血容器に組み込み、それにより、新たな有用なバージョンのかかるデバイスを提供することもできる。かかるデバイスは、典型的に、開口端と閉鎖端を有する容器を含む。前記容器は、好ましくは、採血チューブである。前記容器タイプは、採集すべき試料にも依存し、他の好適な形式は下に記載する。
【0122】
さらに、第五の態様に従って、本発明は、細胞含有生体試料を採集するための容器であって、ブタンアミドと、
−アポトーシス阻害剤、
−抗凝固物質および
−式1に従う化合物
【化6】
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基、C1−C4アルキル残基またはC1−C3アルキル残基、好ましくはC1−C2アルキル残基であり、R2およびR3は、同一であり、または異なり、水素残基、および線状または分岐した様式に配列された1〜20原子の炭素鎖長を有する炭化水素残基から選択され、ならびにR4は、酸素、硫黄またはセレン残基であり、好ましくは、R4は酸素である)
から成る群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤とを含む容器を提供する。
【0123】
さらに、前記容器は、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくは少なくとも1つのポリエチレングリコールを含み得る。
【0124】
それぞれの容器、例えば試料採集チューブの提供には、試料をそれぞれの容器に採集したときのその試料が迅速に安定化されるという利点がある。細胞含有生体試料、好ましくは血液試料を採集するための容器は、本発明による安定化組成物を含み得る。安定化のためのブタンアミドおよび必要に応じて1つ以上のさらなる添加剤の使用ならびに安定化組成物に関する詳細は上に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。
【0125】
1つの実施形態に従って、細胞含有生体試料を受け取るおよび採集するための採集容器であって、以下のものを含む容器を提供する:
a)ブタンアミドであって、前記細胞含有生体試料を前記容器に採集するとき、得られる混合物中のブタンアミドの濃度が、少なくとも0.25%(w/v)、少なくとも0.3%(w/v)、少なくとも0.4%(w/v)、少なくとも0.5%(w/v)、少なくとも0.75%(w/v)または少なくとも1%(w/v)、少なくとも1.5%(w/v)、少なくとも1.75%(w/v)、少なくとも2%(w/v)または少なくとも2.5%(w/v)であるような濃度の、および好ましくは、前記得られる混合物が、0.25%(w/v)から15%(w/v)、0.5%(w/v)から12.5%(w/v)、0.75%(w/v)から10%(w/v)、0.8%(w/v)から9%(w/v)、0.9%(w/v)から8%(w/v)、1%(w/v)から7%(w/v)、1.1%(w/v)から6%(w/v)、1.2%(w/v)から6%(w/v)、1.3%(w/v)から5.5%(w/v)、1.4%(w/v)から5.25%(w/v)、1.5%(w/v)から5%(w/v)、1.75%(w/v)から4.75%(w/v)、2.0%(w/v)から4.5%(w/v)、2.2%(w/v)から4.25%(w/v)、2.3%(w/v)から4%(w/v)、2.4%(w/v)から3.75%(w/v)または2.5%(w/v)から3.5%(w/v)の範囲に存する濃度のブタンアミドを含むような濃度の、ブタンアミド;および
b)少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤であって、前記細胞含有生体試料を前記容器に採集するとき、得られる混合物中のカスパーゼ阻害剤の濃度が、少なくとも0.01μM、少なくとも0.1μM、少なくとも0.25μM、少なくとも0.5μM、少なくとも0.6μM、少なくとも0.7μM、少なくとも0.8μM、少なくとも0.9μMor少なくとも1μMであるような濃度の、および好ましくは、前記得られる混合物が、0.01μMから100μM、0.1μMから75μM、0.25μMから50μM、0.5μMから40μM、0.6μMから30μM、0.7μMから35μM、0.8μMから30μM、0.9μMから25μM、1μMから20μM、1.1μMから17.5μM、1.25μMから15μMまたは1.5μMから12.5μMの範囲に存する濃度のカスパーゼ阻害剤を含むような濃度での、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤。
【0126】
1つの実施形態によると、前記容器は、さらに、以下のものを含む:
c)式1に従う化合物、好ましくは、非毒性化合物、好ましくは、N,N−ジアルキルプロパンアミド、さらに好ましいN,N−ジメチルプロパンアミドであって、前記細胞含有生体試料を前記容器に採集するとき、得られる混合物中の式1に従う化合物の濃度が、少なくとも0.1%、少なくとも0.5%、少なくとも0.75%、少なくとも1%、少なくとも1.25%または少なくとも1.5%であるような濃度の、および好ましくは、前記得られる混合物が、0.1%から30%、0.25%から20%、0.5%から15%、0.7%から10%、0.8%から7.5%、0.9%から6%、または1%から5%の範囲に存する濃度の式1に従う化合物を含むような濃度の、式1に従う化合物。
【0127】
式1に従う化合物の好適なおよび好ましい実施形態は、安定化方法および安定化組成物に関連して上に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示はここにも適用される。実施例によって証明するように、カスパーゼ阻害剤とブタンアミドとN,N−ジメチルプロパンアミドとを含む安定化組成物は、細胞含有生体試料、特に、全血試料の安定化に非常に有効である。
【0128】
1つの実施形態に従って、細胞含有生体試料を受け取るおよび採集するための採集容器であって、以下のものを含む容器を提供する:
a)ブタンアミドであって、前記細胞含有生体試料を前記容器に採集するとき、得られる混合物中のブタンアミドの濃度が、少なくとも0.25%(w/v)、少なくとも0.3%(w/v)、少なくとも0.4%(w/v)、少なくとも0.5%(w/v)または少なくとも0.75%(w/v)であるような濃度の、および好ましくは前記得られる混合物が、0.1%から5%、0.2%から3.5%、0.3%から3%、0.5%から2.5%、および0.6%から2%−すべて(w/v)−の範囲に存する濃度のブタンアミドを含むような濃度の、ブタンアミド;および
b)少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤であって、前記細胞含有生体試料を前記容器に採集するとき、得られる混合物中のカスパーゼ阻害剤の濃度が、少なくとも0.01μM、少なくとも0.1μM、少なくとも0.25μM、少なくとも0.5μM、少なくとも0.6μM、少なくとも0.7μM、少なくとも0.8μM、少なくとも0.9μMまたは少なくとも1μMであるような濃度の、および好ましくは、前記得られる混合物が、0.01μMから100μM、0.1μMから75μM、0.25μMから50μM、0.5μMから40μM、0.6μMから30μM、0.7μMから35μM、0.8μMから30μM、0.9μMから25μM、1μMから20μM、1.1μMから17.5μM、1.25μMから15μMまたは1.5μMから12.5μMの範囲に存する濃度のカスパーゼ阻害剤を含むような濃度の、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤;および
c)少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー。
【0129】
ポリ(オキシエチレン)ポリマーおよびまたポリ(オキシエチレン)ポリマーの組み合わせに関する好適なおよび好ましい実施形態は、上に詳細に記載しており、それについては上記開示を参照し、その上記開示もここにも適用される。1つの実施形態によると、少なくとも1500の分子量、好ましくは2000から40000、さらに好ましい3000から20000、または4500から10000の範囲の分子量を有する高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを使用する。好ましくは、それは、ポリエチレングリコール、例えば非置換ポリエチレングリコールである。それは、細胞含有生体試料を容器に採集するとき、得られる混合物中のポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度が、0.05%から4%(w/v)、0.1%から3%(w/v)、0.2%から2.5%(w/v)、0.25%から2%(w/v)、0.3%から1.75%(w/v)および0.35%から1.5%(w/v)より選択される範囲に、好ましくは0.25%から1.5%(w/v)、0.3%から1.25%(w/v)、0.35%から1%(w/v)または0.4%から0.75%(w/v)の範囲に存するような濃度で、容器に含まれてよい。
【0130】
1つの実施形態によると、前記容器は、少なくとも1つのさらなる添加剤、好ましくは抗凝固物質、例えば、キレート剤、好ましくはEDTAをさらに含む。この実施形態は、前記容器が、血液、または血液に由来する試料、例えば血漿もしくは血清を採集するためのものである場合、特に好適である。前記抗凝固物質は、血液の凝固を防止することが可能である濃度で含まれる。好適な抗凝固物質は、第一の態様による方法に関連して上に記載しており、それについては上の開示を参照し、その上の開示はここにも適用される。1つの実施形態によると、前記容器は、キレート剤、好ましくはEDTAを、細胞含有生体試料を前記容器に採集するとき、得られる混合物中のキレート剤の濃度が、0.05mMから100mM、0.1mMから50mM、0.5mMから30mM、1mMから20mM、1.5mMから15mMまたは2mMから15mMより選択される濃度範囲に存するような濃度で含む。1つの態様によると、前記容器は、キレート剤、好ましくはEDTAを、細胞含有生体試料を前記容器に採集するとき、得られる混合物中のキレート剤の濃度が、0.5から40mg/mL、1から30mg/mL、1.6から25mg/mL、5から20mg/mL、および7.5から17.5mg/mLより選択される濃度範囲に存するような濃度で含む。
【0131】
前記採集容器に含まれる安定化に使用した安定化組成物および/または個々の化合物を、液体;半液体、または乾燥形態で提供することができる。上で論じたように、ブタンアミド、ならびにアポトーシス阻害剤、抗凝固物質および式1に従う化合物から成る群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤を安定化組成物の形態で提供することができる。少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを、安定化を支持するためにブタンアミドと併用する場合、同じことが適用される。安定化のために使用する化合物を前記容器に別々の実体として提供してもよく、および異なる形態で前記容器に提供してもよい。例えば、ブタンアミドを乾燥形態で提供してもよく、その一方で式1に従う化合物を液体として提供してもよい。他の組み合わせも実施可能である。さらに、安定化組成物の形態でのブタンアミドおよび例えばアポトーシス阻害剤と、抗凝固物質および/または式1に従う化合物とを別々に容器に提供することは範囲内である。好適な処方および製造選択肢は当業者に公知である。
【0132】
全血を安定化するために、抗凝固物質、例えばEDTAを前記容器に、例えば安定化組成物に包含することが好ましい。乾燥形態は、例えば、安定化すべき生体試料が固体を溶解するための液体(例えば、細胞含有体液、培地中の細胞、尿など)を含有する場合、または固体を溶解するためにそれに液体、例えば水または他の溶媒を添加する場合、好適な選択肢である。固体の安定化組成物を使用する利点は、固体が、通常、化学的に液体より安定していることである。1つの実施形態によると、前記容器の内壁を本発明による安定化組成物で、またはその個々の成分、例えば抗凝固物質などで処理/被覆する。例えば噴霧乾燥法を用いて、前記組成物または成分を前記内壁に塗布することができる。液体除去技術を安定化組成物に対して実施して、実質的に固体状態の保護組成物を得ることができる。液体除去条件は、施される液体の安定化組成物の元の量の少なくとも約50重量%、少なくとも約75重量%、または少なくとも約85重量%の除去をもたらすような条件であってもよい。液体除去条件は、得られる組成物が、皮膜、ゲルまたは他の実質的に固体もしくは高粘稠層の形態であるために十分な液体の除去をもたらすような条件であってもよい。例えば、それは、実質的に不動のコーティング(好ましくは、細胞含有試料(好ましくは血液製剤試料である)と接触させると再び溶解するか別様に分散させることができるコーティング)をもたらし得る。凍結乾燥または他の技術を利用して、保護剤の実質的に固体形態(例えば、1つ以上のペレット形態)を実現し得ることが可能である。したがって、液体除去条件は、考慮中の試料(例えば、全血試料)と接触させると、保護剤が試料中に分散し、その試料中の成分(例えば、細胞外核酸)を実質的に保護する材料をもたらすような条件であってもよい。液体除去条件は、実質的に結晶性のない残存組成物、その残存組成物が周囲温度で実質的に不動である十分に高い粘度を有する残存組成物、または両方をもたらすような条件であってもよい。
【0133】
しかし、また、液体組成物を使用してよく、液体組成物には血液の安定化に利点を有する。液体組成物には、安定化すべき細胞含有生体試料との混合を迅速に達成することができ、それによって基本的に、その試料を液体の安定化組成物と接触させるやいなや即時安定化効果をもたらすという利点が、多くの場合ある。さらに、液体組成物は、より大量の安定化組成物を使用する、したがって噴霧乾燥できないか噴霧乾燥が難しい場合、または前記組成物が乾燥組成物をもたらすことを妨げる場合に有利である。好ましくは、液体の安定化組成物中に存在する安定剤は、溶解状態で安定したままであり、および使用者による前処理−例えば、限られた溶解度の沈殿物の溶解など−を、この種の前処理は安定化効率の変動のリスクをもたらすので、必要としない。本明細書に記載するように、ブタンアミドと、式1に従う化合物、好ましくはN,N−ジアルキルプロパンアミド、好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドと、必要に応じてカスパーゼ阻害剤、必要に応じて抗凝固物質、例えばEDTAとを含む安定化組成物は、保管安定である。特に、それは、広い温度範囲にわたって保管安定である。血液を安定化するために、1つの実施形態によると、すべての成分が安定化組成物中に存在する。上に記載したように、有利な実施形態では、安定化組成物は、好ましくはポリエチレングリコールである、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーをさらに含む。
【0134】
安定化組成物は、容器に、前記容器に採集する試料量の安定化をもたらすのに有効な量で含まれる。1つの実施形態によると、液体の安定化組成物を生体試料と、10:1から1:20、5:1から1:15、1:1から1:10、および1:2から1:5より選択される体積比で接触させる。1つの実施形態によると、液体の安定化組成物を生体試料と、1:10から1:5の体積比で接触させる。大きい試料体積の安定化を小さい体積の安定化組成物で達成できることが、本発明の安定化組成物の特別な利点である。したがって、好ましくは、安定化組成物の試料に対する比は、1:2から1:7、さらに好ましい1:3から1:5の範囲に存する。
【0135】
1つの実施形態によると、前記容器を排気する。排気は、好ましくは、特定の体積の流体の細胞含有生体試料を内部に引き込むのに有効である。それにより、正確な量の試料を、前記容器に含まれている予め充填された量の安定化組成物と確実に接触させ、およびしたがって、安定化を確実に効率的にする。1つの実施形態によると、前記容器は、セプタムによって封止された開口端を有するチューブを含む。例えば、前記容器は、固体または液体いずれかの形態の定義された量の安定化組成物が予め充填され、定義された真空度を与えられ、セプタムで封止されている。前記セプタムは、標準的な試料採取用付属品(例えば、カニューレなど)に適合可能であるように構成される。例えばカニューレと接触したとき、前記真空度によって予め決められる試料量が前記容器内に採集される。それぞれの実施形態は、採血に特に有利である。適する容器は、例えば、米国特許第6,776,959号明細書に開示されている。
【0136】
本発明による容器は、ガラス製、プラスチック製、または他の好適な材料製であることができる。プラスチック材料は、酸素不透過性材料であることができ、または酸素不透過層を含有することができる。あるいは、前記容器は、通気性プラスチック材料製であることができる。本発明による容器は、好ましくは、透明材料製である。適する透明熱可塑性材料の例としては、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリエチレンテレフタレートが挙げられる。前記容器は、採集する生体試料の必要とされる体積に従って選択される好適な寸法を有し得る。上に記載したように、好ましくは、前記容器を大気圧より低い内部圧力に排気する。かかる実施形態は、全血などの体液の採集に特に好適である。前記圧力は、好ましくは、前記容器に所定体積の生体試料を引き込むように選択される。かかる真空チューブに加えて、非真空チューブ、機械式分離チューブ(mechanical separator tube)またはゲル―バリアチューブも、特に血液試料採集用の、試料容器として使用することができる。適する容器およびキャッピングデバイスは、米国特許第5,860,397号明細書および米国特許出願公開第2004/0043505号明細書に開示されている。細胞含有試料を採集するための容器として、さらなる採集デバイス、例えば注射器、尿採集デバイスまたは他の採集デバイスも使用することができる。容器のタイプは、採集すべき試料タイプにも依存することがあり、好適な容器も当業者に利用可能である。
【0137】
1つの実施形態によると、前記容器は、開口上部と、底部と、チャンバーを規定するそれらとの間に広がる側壁とを有し、ブタンアミド、ならびにアポトーシス阻害剤、抗凝固物質および式1に従う化合物から成る群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤、または本発明による安定化組成物がそのチャンバー内に含まれる。それは、そのチャンバー内に液体形態で含まれることもあり、または固体形態で含まれることもある。1つの実施形態によると、それは液体である。1つの実施形態によると、さらに少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコールが前記チャンバー内にさらに含まれる。1つの実施形態によると、前記容器はチューブであり、その底部は、閉鎖底部であり、前記容器は、開口上部にクロージャーを備えており、前記チャンバーは、減圧下にある。前記チャンバーにおける減圧の利点は上に記載した。好ましくは、前記クロージャーは、針またはカニューレでの貫入が可能であり、指定体積の液体試料を前記チャンバーに引き込むように減圧を選択する。1つの実施形態によると、前記チャンバーは、指定体積の液体試料を前記チャンバーに引き込むように選択された減圧下にあり、前記安定化組成物は液体であり、該安定化組成物の前記指定体積の細胞含有試料に対する体積比が10:1から1:20、5:1から1:15、1:1から1:10、および1:2から1:5より選択されるように前記チャンバーの中に配置される。1つの実施形態によると、前記比は、1:10から1:5である。付随する利点は上に記載した。
【0138】
好ましくは、前記容器は、患者からの採血用である。
【0139】
F.細胞含有試料の採集方法
第六の態様に従って、本発明の第五の態様による容器のチャンバーに患者からの細胞含有生体試料を直接採集するステップを含む方法を提供する。容器および細胞含有生体試料に関する詳細は上に記載した。それについてはそのそれぞれの開示を参照する。1つの実施形態によると、血液試料を採集し、好ましくは、それを患者から抜き取って容器に入れる。
【0140】
本明細書に開示する方法および組成物は、細胞含有生体試料を安定化し、例えば、細胞含有生体試料の採集後、前記生体試料に含まれている細胞に由来する細胞内核酸であって、細胞損傷、それぞれに細胞溶解に起因して放出され得る細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAで、細胞外核酸集団が汚染、特に希釈されるというリスクを低減しながら、細胞外核酸の十分な保存および単離を可能にする。本発明よる方法、ならびに組成物および開示するデバイス(例えば、採集容器)は、細胞外核酸の分解を低減することを可能にし、細胞溶解および/または細胞からのゲノム核酸、特に断片化ゲノムDNAの放出を低減することも可能にし、したがって本発明に従う教示により、試料に含有されている細胞外核酸は細胞内核酸で汚染されることにならず、それぞれに、それぞれの汚染が低減される。上で論じたように、細胞外核酸および細胞内核酸、特に断片化ゲノムDNAの混合は、生体試料中の細胞外核酸の量のあらゆる測定の精度を低下させ得る。上で論じたように、本発明の重要な利点は、試料に含有されている細胞(特に、白血球、または全血、血漿もしくは血清の場合は白血球の型)および細胞外核酸の両方を本質的に同時に安定化する可能性である。これは、ゲノムDNAなどの細胞核酸が試料の無細胞部分に放出されることおよび目的の、含まれている細胞外核酸(および関連バイオマーカー)を希釈することを防止するのに役立つ。本明細書で論じるように、細胞含有生体試料、例えば全血または血漿と本発明の教示に従って使用される安定剤(単数または複数)との接触により、細胞外核酸を単離する前の期間、試料を保管することが可能になる。さらに好ましくは、細胞含有生体試料、例えば血液または血漿を安定剤(単数または複数)と接触させる場所(例えば、医療施設)で採取し、その後、核酸単離および試験プロセスのために別の遠隔地(例えば、研究所)に輸送してもよい。さらに、上に記載したように、安定剤のある一定の組み合わせは、さらに含有細胞のトランスクリプトームを安定化するのに特に有効であり、これには上記の利点がある。
【0141】
さらに、本明細書に開示の安定化技術は、架橋試薬、例えば、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド放出剤などの使用を含む公知の現行技術の安定化試薬を超える利点をもたらす。なぜなら、本発明による試料の安定化は、かかる架橋試薬の使用を必要としないからである。架橋試薬は、核酸分子間または核酸とタンパク質間の分子間共有結合または分子内共有結合を引き起こす。この作用は、複雑な生体試料からの精製または抽出後の、かかる安定化され、部分的に架橋された核酸の回収の低減をもたらし得る。例えば、全血試料中の循環核酸の濃度は既に比較的低いので、かかる核酸の収量をさらに低減させるいずれの手段も回避すべきである。これは、悪性腫瘍に由来するまたは妊娠第一期の発育中の胎児に由来する非常に希少な核酸分子を検出および分析するとき、特に重要であり得る。したがって、1つの実施形態によると、架橋剤、例えば、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド放出剤は、前記安定化組成物には含まれず、それぞれに、安定化のためにさらに使用されない。
【0142】
本発明は、本明細書に開示する例示的方法および材料により限定されず、本明細書に記載するものと同様または等価のあらゆる方法および材料を本発明の実施形態の実施および試験に使用することができる。数値範囲は、範囲を規定する数を含む。本明細書において提供する表題は、本明細書を全体として参照することにより読み取ることができる本発明の様々な態様または実施形態に対する限定ではない。
【0143】
本明細書において用いる場合の用語「溶液」は、特に、液体組成物、好ましくは水性組成物を指す。それは、1相だけの均質混合物であってもよいが、溶液が、例えば沈殿物、特に安定剤などの含有化学物質の沈殿物などの固体添加剤を含むことも、本発明の範囲内である。
【0144】
ヌクレオチド(nt)に関して本明細書に示すサイズ、それぞれにサイズ範囲は鎖長を指し、一本鎖分子ならびに二本鎖分子の長さを記載するために用いている。二本鎖分子の場合、前記ヌクレオチドは対合している。
【0145】
1つの実施形態によると、方法の場合に、ある一定のステップを含むとしてまたは組成物、溶液および/もしくは緩衝液の場合に、ある一定の成分を含むとして本明細書に記載する主題は、それぞれのステップまたは成分から成る主題を指す。本明細書に記載する好ましい実施形態を選択および組み合わせることは好ましく、好ましい実施形態のそれぞれの組み合わせから生ずる特定の主題も本開示に属する。
【0146】
特に好ましい態様および実施形態を下記に再び記載する。
【0147】
第一の態様において、本発明は、細胞含有生体試料をブタンアミドと接触させることによって細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するための方法に特に関する。1つの実施形態によると、前記細胞含有生体試料を少なくとも1つのアポトーシス(apoptose)阻害剤、好ましくはカスパーゼ阻害剤とさらに接触させる。1つの実施形態によると、前記試料を、汎カスパーゼ阻害剤であるカスパーゼ阻害剤とさらに接触させ、好ましくは、前記汎カスパーゼ阻害剤は、Q−VD−OPhおよびZ−Val−Ala−Asp(OMe)−FMKから成る群より選択され、前記カスパーゼ阻害剤は、好ましくはQ−VD−OPhである。
【0148】
1つの実施形態によると、前記細胞含有生体試料をさらに少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーと接触させる。前記ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、好ましくは、ポリエチレングリコール、例えば非置換ポリエチレングリコールである。上に記載したように、前記少なくとも1つのポリマーは、100から40000の範囲の分子量を有し得、好適な実施形態は上に記載してある。好ましくは、前記少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーは、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーであるか、または高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーとの組み合わせである。前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、好ましくは、少なくとも1500の分子量、さらに好ましくは2000から40000、さらに好ましい3000から20000、または4500から10000の範囲の分子量を有する。好適な濃度は上に記載してある。
【0149】
1つの実施形態によると、前記細胞含有生体試料を、式1に従う少なくとも1つの化合物
【化7】
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基、C1−C4アルキル残基またはC1−C3アルキル残基、さらに好ましいC1−C2アルキル残基であり、R2およびR3は、同一であり、または異なり、水素残基、および線状または分岐した様式に配列された1〜20原子の炭素鎖長を有する炭化水素残基から選択され、ならびにR4は、酸素、硫黄またはセレン残基であり、好ましくは、R4は酸素である)
とさらに接触させる。式1に従う化合物は、好ましくは第三級カルボン酸アミドであり、およびこの場合、好ましくは、式1に従う化合物は、N,N−ジアルキル−カルボン酸アミドである。式1に従う化合物は、好ましくは、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、およびN,N−ジメチルプロパンアミドから成る群より選択される。式1に従う化合物は、好ましくはN,N−ジアルキルプロパンアミド、さらに好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドである。式1に従う化合物は、好ましくは毒性物質でない。ブタンアミドに加えて、式1に従うかかる化合物およびカスパーゼ阻害剤を使用することが特に好ましい。
【0150】
1つの実施形態によると、細胞含有生体試料は、血液試料、または血液に由来する試料であり、前記試料を抗凝固物質、好ましくはキレート剤、さらに好ましくはEDTAとさらに接触させる。
【0151】
1つの実施形態によると、前記試料に含有されている細胞を安定化し、その安定化のために、前記試料に含有されている細胞から前記試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出が低減される、および/または前記試料中に存在する核酸の分解が低減される。1つの実施形態によると、前記安定化は、安定化された生体試料に含有されている細胞に由来するゲノムDNAでの、その試料に含まれている細胞外DNA集団の汚染を安定化期間中、低減させる。1つの実施形態によると、前記安定化は、安定化された生体試料に含有されている細胞に由来する細胞内核酸での、その試料に含まれている細胞外核酸集団の汚染を安定化期間中、低減させる。
【0152】
1つの実施形態によると、前記細胞含有生体試料をブタンアミドおよび必要に応じて安定化のために使用するさらなる添加剤と接触させた後、得られる混合物は、ブタンアミドを少なくとも0.25%、少なくとも0.3%、少なくとも0.4%、少なくとも0.5%、少なくとも0.75%、少なくとも1%、少なくとも1.5%、少なくとも1.75%、少なくとも2%または少なくとも2.5%の濃度で含む。1つの実施形態によると、前記細胞含有生体試料をブタンアミドおよび必要に応じて安定化のために使用するさらなる添加剤と接触させた後、得られる混合物は、ブタンアミドを0.25%から15%、0.5%から12.5%、0.75%から10%、1%から9%、1.25%から8%、1.5%から7%、1.75%から6%、1.8%から5.5%、1.9%から5.25%、2%から5%、2.1%から4.75%、2.2%から4.5%、2.3%から4.25%、2.4%から4%、2.5%から3.75%または0.75%から2%の濃度範囲で含む。ブタンアミドについての濃度は、好ましくは(w/v)である。
【0153】
1つの実施形態によると、前記細胞含有生体試料をブタンアミド、カスパーゼ阻害剤、および必要に応じて安定化のために使用するさらなる添加剤と接触させた後、得られる混合物は、上に記載したように好ましくは汎カスパーゼ阻害剤であるカスパーゼ阻害剤を、
i)少なくとも0.01μM、少なくとも0.1μM、少なくとも0.25μM、少なくとも0.5μM、少なくとも0.6μM、少なくとも0.7μM、少なくとも0.8μM、少なくとも0.9μMまたは少なくとも1μMの濃度で、および/または
ii)0.01μMから100μM、0.1μMから75μM、0.25μMから50μM、0.5μMから40μM、0.6μMから30μM、0.7μMから35μM、0.8μMから30μM、0.9μMから25μM、1μMから20μM、1.1μMから17.5μM、1.25μMから15μMまたは1.5μMから12.5μMの範囲に存する濃度で
含む。
【0154】
1つの実施形態によると、前記細胞含有生体試料をブタンアミド、少なくとも1000の分子量を有する少なくとも1つの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマー、および必要に応じて安定化のために使用するさらなる添加剤と接触させた後、得られる混合物は、前記少なくとも1つの高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、
i)0.05%から4%(w/v)、0.1%から3%(w/v)、0.2%から2.5%(w/v)、0.25%から2%(w/v)、0.3%から1.75%(w/v)および0.35%から1.5%(w/v)の範囲に存する濃度で;および/または
ii)0.25%から1.5%(w/v)、0.3%から1.25%(w/v)、0.35%から1%(w/v)および0.4%から0.75%(w/v)の範囲に存する濃度で
含む。
【0155】
1つの実施形態によると、前記細胞含有生体試料をブタンアミド、式1に従う化合物、および必要に応じて安定化のために使用するさらなる添加剤と接触させた後、得られる混合物は、式1に従う化合物を、
i)少なくとも0.1%、少なくとも0.25%、少なくとも0.5%、少なくとも0.75%、少なくとも1%、少なくとも1.25%または少なくとも1.5%の濃度で、および/または
ii)0.1%から30%、0.25%から20%、0.5%から15%、0.7%から10%、0.8%から7.5%、0.9%から6%または1%から5%の範囲に存する濃度で
含む。
【0156】
1つの実施形態によると、前記細胞含有生体試料をブタンアミド、抗凝固物質、および必要に応じて安定化のために使用するさらなる添加剤と接触させた後、得られる混合物は、好ましくはEDTAである抗凝固物質を、0.05mMから100mM、0.05mMから50mM、0.1mMから30mM、0.5mMから25mM、1mMから20mM、1.5mMから15mMおよび2mMから10mMより選択される濃度範囲で含む。
【0157】
1つの実施形態によると、安定化のために、前記細胞含有試料を、以下のものを含む安定化組成物:
a)ブタンアミド;
b)少なくとも1つの汎カスパーゼ阻害剤;
c)必要に応じて、式1に従う少なくとも1つの化合物、好ましくはN,N−ジアルキルカルボン酸アミド、さらに好ましいN,N−ジアルキルプロパンアミド;および
d)必要に応じて、抗凝固物質、好ましくはキレート剤、さらに好ましくはEDTA
と接触させ、および好ましくは、前記細胞含有試料を本明細書で定義するとおりの安定化組成物と接触させる。
【0158】
1つの実施形態によると、安定化のために、前記細胞含有試料を、以下のものを含む安定化組成物:
a)ブタンアミド;
b)少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコール;
c)必要に応じて、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、好ましくは汎カスパーゼ阻害剤;
d)必要に応じて、式1に従う少なくとも1つの化合物、好ましくはN,N−ジアルキルカルボン酸アミド、さらに好ましいN,N−ジアルキルプロパンアミド;および
e)必要に応じて、抗凝固物質、好ましくはキレート剤、さらに好ましくはEDTA
と接触させ、および好ましくは、前記細胞含有試料を本明細書で定義するとおりの安定化組成物と接触させる。
【0159】
ブタンアミド、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーおよび少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤での安定化が特に有利である。
【0160】
1つの実施形態によると、前記安定化は、冷蔵せずに、好ましくは室温で、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも2日から3日、少なくとも2日から6日、および/または少なくとも2日から7日から選択される期間、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団の安定化を達成する。1つの実施形態によると、前記安定化は、その安定化期間中、前記細胞含有生体試料に含有されている細胞の安定化を達成し、かつ安定化された前記試料に含まれている前記細胞からのゲノムDNAの放出を低減させる。1つの実施形態によると、前記安定化は、添加剤の、前記添加剤が有核細胞の溶解を誘導または促進する濃度での使用を含まない。特に、前記安定化は、カオトロピック剤などの溶解剤の使用を含まない。1つの実施形態によると、前記安定化は、タンパク質−核酸架橋および/もしくはタンパク質−タンパク質架橋を誘導する架橋剤の使用を含まず、ならびに/または前記安定化は、毒性物質の使用を含まない。
【0161】
1つの実施形態によると、前記細胞含有生体試料は、以下の特徴の1つ以上を有する:
a)それは、体液、全血、血液に由来する試料、血漿、血清、リンパ液、尿、髄液、脳脊髄液、腹水、乳、糞便、気管支洗浄液、唾液、羊水、精液/精漿、スワブ/スミア、身体の分泌物、鼻分泌物、膣分泌物、創傷分泌物および排泄物ならびに細胞培養上清からなる群より選択される;
b)それは細胞枯渇体液または細胞含有体液である;
c)それは細胞含有体液である;
d)それは循環体液である;
e)それは血液、血漿、血清または尿から選択される;
f)それは血液である。
【0162】
1つの実施形態によると、前記方法は、血液試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するための方法であって、前記血液試料をブタンアミドおよび抗凝固物質と接触させるステップを含み、前記血液試料に含有されている細胞から前記血液試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出が低減される方法である。1つの実施形態によると、前記方法は、血液試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するための方法であって、前記血液試料をブタンアミド、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、および抗凝固物質と接触させるステップを含み、前記血液試料に含有されている細胞から前記血液試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出が低減される方法である。1つの実施形態によると、前記方法は、血液試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するための方法であって、前記血液試料をブタンアミド、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、式1に従う少なくとも1つの化合物、および抗凝固物質と接触させるステップを含み、前記血液試料に含有されている細胞から前記血液試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出が低減される方法である。
【0163】
1つの実施形態によると、前記安定化は、安定化期間中、溶血を低減させる。1つの実施形態によると、ブタンアミドおよび必要に応じて安定化のために使用するさらなる添加剤が安定化組成物に含まれ、およびこの場合、安定化組成物の、指定体積の細胞含有試料に対する体積比は、10:1から1:20、5:1から1:15、1:1から1:10、および1:2から1:5より選択される。1つの実施形態によると、それは1:10から1:5である。
【0164】
1つの実施形態によると、安定化期間後、前記方法は、以下の1つ以上を含む
a)安定化された試料を核酸分析および/または検出方法に供する;
b)安定化された試料から細胞外核酸を単離する;
c)安定化された試料から細胞外核酸を単離し、単離された核酸を分析および/または検出する;
d)安定化された試料に含まれている細胞を除去する;
e)安定化された試料に含まれている細胞を除去した後、核酸の単離、分析および/または検出ステップを行う;
f)安定化された試料から細胞を除去し、その安定化された試料の無細胞部分または細胞枯渇部分から細胞外核酸を単離する;
g)(i)安定化された試料、(ii)細胞が除去された安定化された試料および/または(iii)試料から除去された細胞を保管する;
h)安定化された試料から細胞を除去し、廃棄する;および/または
i)安定化された試料から細胞を除去し、その安定化された試料から除去された細胞から核酸を単離する;
j)安定化された試料から細胞を除去し、その安定化された試料の無細胞部分または細胞枯渇部分から、サイズ選択的核酸単離方法を用いて細胞外核酸を単離する。
【0165】
第二の態様において、本発明は、
a)第一の態様による方法に従って細胞含有生体試料を安定化するステップ;および
b)その安定化された試料から核酸を単離するステップ
を含む、安定化された細胞含有生体試料から核酸を単離するための方法に特に関する。
【0166】
特に、前記第二の態様は、
a)第一の態様による細胞外核酸集団を安定化するための方法に従って細胞含有試料中の細胞外核酸集団を安定化するステップ;および
b)細胞外核酸を単離するステップ
を含む、安定化された細胞含有生体試料から細胞外核酸を単離するための方法を提供する。
【0167】
1つの実施形態によると、前記方法は、ステップa)およびステップb)の間に細胞含有生体試料から細胞を除去するステップを含み、ステップb)は、安定化された試料の無細胞部分または細胞枯渇部分から細胞外核酸を単離するステップを含む。1つの実施形態によると、前記方法は、以下のステップの1つ以上の実施を含む:
a)安定化された試料を核酸分析および/または検出方法に供する;
b)安定化された試料から細胞外核酸を単離する;
c)安定化された試料から細胞外核酸を単離し、単離された核酸を分析および/または検出する;
d)安定化された試料に含まれている細胞を除去する;
e)安定化された試料に含まれている細胞を除去した後、核酸の単離、分析および/または検出ステップを行う;
f)安定化された試料から細胞を除去し、その安定化された試料の無細胞部分または細胞枯渇部分から細胞外核酸を単離する;
g)(i)安定化された試料、(ii)細胞が除去された安定化された試料および/または(iii)試料から除去された細胞を保管する;
h)安定化された試料から細胞を除去し、廃棄する;および/または
i)安定化された試料から細胞を除去し、その安定化された試料から除去された細胞から核酸を単離する;
j)安定化された試料から細胞を除去し、その安定化された試料の無細胞部分または細胞枯渇部分から、サイズ選択的核酸単離方法を用いて細胞外核酸を単離する。
【0168】
1つの実施形態によると、前記細胞含有試料は血液試料であり、この場合、ステップa)での安定化は、第一の態様による方法について定義したとおりに行う。
【0169】
1つの実施形態によると、前記単離された細胞外核酸をさらなるステップc)において処理および/または分析し、ならびに好ましくは、
i)改変する;
ii)少なくとも1つの酵素と接触させる;
iii)増幅する;
iv)逆転写する;
v)クローニングする;
vi)配列決定する;
vii)プローブと接触させる;
viii)検出する;
ix)定量する;および/または
x)同定する。
【0170】
1つの実施形態によると、ステップb)で単離される細胞外核酸集団は、以下の特徴の1つ以上を有する:
i)それは単離される全核酸の一部分として含まれる;
ii)それはDNAとRNAの混合物である;
iii)それは主としてDNAを含む;
iv)それは主としてRNAを含む;
v)それは哺乳動物細胞外核酸を含む;
vi)それは循環細胞外核酸を含む;
vii)それは疾患関連核酸を含む;
viii)それは腫瘍関連核酸または腫瘍由来核酸を含む;
ix)それは炎症関連核酸を含む;
x)それはウイルス核酸を含む;
xi)それは病原体核酸を含む;および/または
xii)それは胎児核酸を含む。
【0171】
1つの実施形態によると、ステップc)で分析されるおよび/またはさらに処理される、好ましくは検出される細胞外核酸は、次の特徴と1つ以上を有する:
i)それはDNAである;
ii)それはRNAである;
iii)それは哺乳動物細胞外核酸である;
iv)それは循環細胞外核酸である;
v)それは疾患関連核酸である;
vi)それは腫瘍関連核酸または腫瘍由来核酸である;
vii)それは炎症関連核酸である;
viii)それはウイルス核酸である;
ix)それは病原体核酸である;
x)それは胎児核酸である。
【0172】
第三の態様において、本発明は、細胞含有生体試料を安定化するのに好適な組成物であって、ブタンアミドと、アポトーシス阻害剤、抗凝固物質および式1に従う化合物
【化8】
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基、C1−C4アルキル残基またはC1−C3アルキル残基、好ましくはC1−C2アルキル残基であり、R2およびR3は、同一であり、または異なり、水素残基、および線状または分岐した様式に配列された1〜20原子の炭素鎖長を有する炭化水素残基から選択され、ならびにR4は、酸素、硫黄またはセレン残基であり、好ましくは、R4は酸素である)
から成る群より選択される少なくとも1つのさらなる添加剤とを含む組成物に特に関する。
【0173】
1つの実施形態によると、前記組成物は、アポトーシス阻害剤、好ましくはカスパーゼ阻害剤を含む。1つの実施形態によると、前記組成物は、Q−VD−OPhおよびZ−Val−Ala−Asp(OMe)−FMKから成る群より選択される汎カスパーゼ阻害剤を含み、およびこの場合、前記カスパーゼ阻害剤は、さらに好ましくはQ−VD−OPhである。
【0174】
1つの実施形態によると、前記組成物は、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーをさらに含む。上に記載したように、好ましくは、前記少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーは、高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーである、または高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーと低分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーの組み合わせである。前記ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、好ましくは、ポリエチレングリコール、例えば非置換ポリエチレングリコールである。前記高分子量ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、少なくとも1500の分子量、さらに好ましくは2000から40000、さらに好ましい3000から20000、または4500から10000の範囲の分子量を好ましくは有する。好ましくは、前記組成物は、カスパーゼ阻害剤をさらに含む。
【0175】
1つの実施形態によると、前記組成物は、式1に従う少なくとも1つの化合物
【化9】
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基、C1−C4アルキル残基またはC1−C3アルキル残基、好ましくはC1−C2アルキル残基であり、R2およびR3は、同一であり、または異なり、水素残基、および線状または分岐した様式に配列された1〜20原子の炭素鎖長を有する炭化水素残基から選択され、ならびにR4は、酸素、硫黄またはセレン残基であり、好ましくは、R4は酸素である)
を含む。式1に従う化合物は、好ましくは第三級カルボン酸アミドであり、およびこの場合、好ましくは、式1に従う化合物は、N,N−ジアルキル−カルボン酸アミドである。式1に従う化合物は、好ましくは、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、およびN,N−ジメチルプロパンアミドから成る群より選択される。式1に従う化合物は、好ましくはN,N−ジアルキルプロパンアミド、さらに好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドである。式1に従う化合物は、好ましくは毒性物質でない。好ましくは、式1に従う化合物をカスパーゼ阻害剤およびブタンアミドと併用する。1つの実施形態によると、前記組成物は、少なくとも1つの抗凝固物質、好ましくはキレート剤を含む。
【0176】
1つの実施形態によると、前記組成物は、以下の特徴の1つ以上を有する:
a)それは、細胞を安定させること、および細胞含有生体試料に含有されている細胞からその試料の無細胞部分へのゲノムDNAの放出を低減させることが可能である;
b)それは、安定化された試料中に存在する核酸、特にゲノムDNAの分解を低減させることが可能である;
c)それは、安定化された試料に含有されている細胞に由来するゲノムDNAでの、その生体試料に含まれている細胞DNA集団の汚染を低減または防止することが可能である;
d)それは、安定化された生体試料に含有されている細胞に由来する細胞内核酸での、その試料に含まれている細胞外核酸集団の汚染を低減または防止することが可能である;
e)前記安定化組成物は、添加剤を、前記添加剤が細胞溶解を誘導または促進する濃度で含まない;
f)前記安定化組成物は、タンパク質−DNA架橋および/またはタンパク質−タンパク質架橋を誘導する架橋剤を含まない;
g)前記安定化組成物は、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、またはホルムアルデヒド放出剤を含まない;
h)前記安定化組成物は、毒性物質を含まない;および/または
i)それは、細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団を、冷蔵せずに、好ましくは室温で、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも2日から3日、少なくとも2日から6日、および/または少なくとも2日から7日より選択される期間、安定化することが可能である。
【0177】
1つの実施形態によると、前記安定化組成物は、安定化するべき所期の量の細胞含有生体試料(好ましくは血液である)と混合したときに、得られる混合物が、
− ブタンアミドを、i)少なくとも0.25%、少なくとも0.3%、少なくとも0.4%、少なくとも0.5%、少なくとも0.75%、少なくとも1%、少なくとも1.5%、少なくとも1.75%、少なくとも2%もしくは少なくとも2.5%の濃度で、および/またはii)0.25%から15%、0.5%から12.5%、0.75%から10%、1%から9%、1.25%から8%、1.5%から7%、1.75%から6%、1.8%から5.5%、1.9%から5.25%、2%から5%、2.1%から4.75%、2.2%から4.5%、2.3%から4.25%、2.4%から4%、2.5%から3.75%または0.75%から2%の濃度範囲で;
− カスパーゼ阻害剤を、存在する場合、i)少なくとも0.01μM、少なくとも0.1μM、少なくとも0.25μM、少なくとも0.5μM、少なくとも0.6μM、少なくとも0.7μM、少なくとも0.8μM、少なくとも0.9μMもしくは少なくとも1μMの濃度で、および/またはii)0.01μMから100μM、0.1μMから75μM、0.25μMから50μM、0.5μMから40μM、0.6μMから30μM、0.7μMから35μM、0.8μMから30μM、0.9μMから25μM、1μMから20μM、1.1μMから17.5μM、1.25μMから15μMまたは1.5μMから12.5μMの範囲に存する濃度で;
− 式1に従う化合物を、存在する場合、i)少なくとも0.1%、少なくとも0.5%、少なくとも0.75%、少なくとも1%、少なくとも1.25%もしくは少なくとも1.5%の濃度で、および/またはii)0.1%から30%、0.25%から20%、0.5%から15%、0.7%から10%、0.8%から7.5%、0.9%から6%、もしくは1%から5%の範囲に存する濃度で;および/または
− 抗凝固物質を、存在する場合、0.05mMから100mM、0.05mMから50mM、0.1mMから30mM、0.5mMから25mM、1mMから20mM、1.5mMから15mM、および2mMから10mMより選択される濃度範囲で
含む濃度で、前記安定化剤を含む。
【0178】
1つの実施形態によると、前記安定化組成物は、安定化するべき所期の量の細胞含有生体試料(好ましくは血液である)と混合したとき、得られる混合物が、ポリ(オキシエチレン)ポリマーを、i)0.05%から4%(w/v)、0.1%から3%(w/v)、0.2%から2.5%(w/v)、0.25%から2%(w/v)、0.3%から1.75%(w/v)および0.35%から1.5%(w/v)の範囲に存する濃度で;ならびに/または、ii)0.25%から1.5%(w/v)、0.3%から1.25%(w/v)、0.35%から1%(w/v)および0.4%から0.75%(w/v)の範囲に存する濃度で含む濃度で、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。
【0179】
1つの実施形態によると、前記組成物は、以下の特徴の1つ以上を有する;
i)前記組成物は、ブタンアミドを5%から50%、7.5%から40%、10%から35%、12.5%から30%、または15%から25%の濃度で含む、
ii)前記組成物は、少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤を含む、
iii)前記組成物は、式1に従う少なくとも1つの化合物、好ましくはN−N−ジメチルプロパンアミドを、2%から50%、3%から40%、3.5%から30%、4%から25%、4.5%から20%、または5%から17.5%の濃度で含む、および/または
iv)前記組成物は、抗凝固物質を含む。
【0180】
1つの実施形態によると、前記組成物は、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。
【0181】
1つの実施形態によると、前記組成物を固体形態、半液体形態、または液体形態で提供する。1つの実施形態によると、前記安定化組成物は、細胞含有生体試料との混合物として存在し、およびこの場合、前記細胞含有生体試料は、以下の特徴の1つ以上を有する:
a)それは、体液、全血、血液に由来する試料、血漿、血清、リンパ液、尿、髄液、脳脊髄液、腹水、乳、糞便、気管支洗浄液、唾液、羊水、精液/精漿、スワブ/スミア、身体の分泌物、鼻分泌物、膣分泌物、創傷分泌物および排泄物ならびに細胞培養上清からなる群より選択される;
b)それは細胞枯渇体液または細胞含有体液である;
c)それは細胞含有体液である;
d)それは循環体液である;
e)それは血液、血漿、血清または尿から選択される;
f)それは血液である。
【0182】
特に、前記混合物は、上で定義の濃度の特徴の1つ以上を有する。さらに、前記安定化組成物の、指定体積の細胞含有試料に対する体積比は、10:1から1:20、5:1から1:15、1:1から1:10、および1:2から1:5より選択される。1つの実施形態によると、それは1:10から10:1である
【0183】
第四の態様において、本発明は、細胞含有生体試料中の細胞外核酸集団を安定化するための本発明の第三の態様による組成物の使用に特に関する。1つの実施形態によると、前記組成物は抗凝固物質を含み、およびこの場合、前記細胞含有生体試料は血液である。1つの実施形態によると、前記組成物を本発明の第一または第二の態様による方法で使用する。
【0184】
第五の態様において、本発明は、細胞含有生体試料、好ましくは血液、血漿または血清試料の採集に好適な容器であって、前記細胞含有生体試料に含まれている細胞外核酸集団を安定化するのに好適な安定化組成物を含み、前記安定化組成物がブタンアミドを含むものである容器に特に関する。1つの実施形態によると、前記安定化組成物は、
a)少なくとも1つのアポトーシス(apoptose)阻害剤、好ましくはカスパーゼ阻害剤;および/または
b)式1に従う少なくとも1つの化合物
【化10】
(式中、R1は、水素残基またはアルキル残基、好ましくはC1−C5アルキル残基、C1−C4アルキル残基またはC1−C3アルキル残基、さらに好ましいC1−C2アルキル残基であり、R2およびR3は、同一であり、または異なり、水素残基、および線状または分岐した様式に配列された1〜20原子の炭素鎖長を有する炭化水素残基から選択され、ならびにR4は、酸素、硫黄またはセレン残基であり、好ましくは、R4は酸素である);および/または
c)抗凝固物質、好ましくはキレート剤、さらに好ましくはEDTA
をさらに含む。
【0185】
1つの実施形態によると、前記安定化組成物は、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくはポリエチレングリコールを含む。1つの実施形態によると、前記安定化組成物は、ブタンアミド、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーおよびアポトーシス(apoptose)阻害剤、好ましくはカスパーゼ阻害剤を含む。
【0186】
式1に従う化合物は、好ましくはN,N−ジアルキルプロパンアミド、さらに好ましくはN,N−ジメチルプロパンアミドである。前記アポトーシス(apoptose)阻害剤は、好ましくは汎カスパーゼ阻害剤であり、前記汎カスパーゼ阻害剤は、好ましくは、Q−VD−OPhおよびZ−Val−Ala−Asp(OMe)−FMKから成る群より選択され、およびさらに好ましくはQ−VD−OPhである。1つの実施形態によると、前記安定化組成物は、
a)ブタンアミド;
b)少なくとも1つの汎カスパーゼ阻害剤;
c)必要に応じて、式1に従う少なくとも1つの化合物、好ましくはN,N−ジアルキルカルボン酸アミド、さらに好ましいN,N−ジメチルプロパンアミド;および
d)必要に応じて、抗凝固物質、好ましくはキレート剤、さらに好ましくはEDTA
を含む。
【0187】
1つの実施形態によると、前記安定化組成物または前記容器は、タンパク質−核酸架橋および/またはタンパク質−タンパク質架橋を誘導する架橋剤を含まず;および/またはこの場合、前記安定化組成物または前記容器は、毒性物質を含まない。1つの実施形態によると、前記安定化組成物は、本発明の第三の態様による組成物である。1つの実施形態によると、前記容器は、本発明の他の態様について本明細書中で定義したとおりの特徴の1つ以上を有する。
【0188】
第六の態様において、本発明は、本発明の第五の態様による容器のチャンバーへの、患者からの試料を採集するステップを含む方法に関する。
【0189】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【表1-13】
【表1-14】
【表1-15】
【表1-16】
【表1-17】
【表1-18】
【表1-19】
【表1-20】
【表1-21】
【表1-22】
【表1-23】
【表1-24】
【表1-25】
【実施例】
【0190】
以下の実施例は、単に例証を目的とするものであり、いかなる点においても本発明を限定するものと解釈すべきでないことを理解されたい。
【0191】
いつかの異なる化合物を、単独での、またはカスパーゼ阻害剤および/もしくは式1に従う異なる化合物と組み合わせての、細胞含有生体試料、ここでは全血試料、を安定化するそれらの能力について試験した。リファレンス試料(EDTAで安定化した血液)と比較して、ブタンアミド(BA)は、血液試料を効率的に安定化できることは判明し、詳細には、安定化された血液試料に含まれている細胞から細胞外核酸集団へのゲノムDNAの放出を阻害することが判明した。さらに、ブタンアミドとカスパーゼ阻害剤の併用は、達成される安定化効果を有意に改善することが判明した。詳細には、安定化のためのブタンアミドとカスパーゼ阻害剤の併用は、長期安定化効果をもたらし、およびさらに、異なるドナーから得た血液試料で達成される安定化効果に関してより少ない変動を示した。その併用が血液試料の均一で信頼性のある安定化方法を提供するので、これは重要な利点である。
【0192】
実施例1
実施例1では、EDTAで安定化した血液試料に対する単独でのまたはカスパーゼ阻害剤と組み合わせてのブタンアミドの安定化効果を試験し、リファレンスとしてのEDTAで安定化した血液と比較した。
【0193】
採血および血液安定化
2名の異なるドナーからの血液を10mL K2 EDTAチューブ(BD)に採集した。4.5mLのそれぞれに採集した血液を0.9mLの2つの異なる安定化溶液AおよびBと混合した。前記安定化溶液は、(1mLの安定化溶液あたり)以下のものを含有した:
【0194】
A:水中34.2mg K2 EDTAおよび0.15gまたは0.18gのブタンアミド。安定化溶液Aを使用したとき、血液/安定化混合物中、次の最終濃度を得た:7.2mg K2 EDTA/mLおよび2.5%(w/v)または3%(w/v)ブタンアミド。
【0195】
B:34.2mg K2 EDTA、0.18g ブタンアミドおよび1.2μL キノリン−Val−Asp−CH2−OPH(カスパーゼ阻害剤)溶液(1mgを388μL DMSOに溶解)。安定化溶液Bを使用したとき、血液/安定化混合物中、次の最終濃度を得た:7.2mg K2 EDTA/mL、3%(w/v)ブタンアミドおよび1μM キノリン−Val−Asp−CH2−OPH(カスパーゼ阻害剤)。
【0196】
すべての安定化された血液試料を、条件および試験時点ごとに三重反復で用意した。安定化溶液と血液を混合した直後の時点0(リファレンス)で、血漿を生成し、循環細胞外DNAを抽出した。残りの安定化された血液試料を3日間および6日間、室温で保管した。
【0197】
リファレンス対照として、EDTAで安定化した血液試料(さらなる添加剤なしでK2 EDTAチューブに採集したもの)も3日間および6日間、保管した。
【0198】
細胞外核酸単離および分析
血液が入っているチューブを4回反転させることによって、安定化血液試料および非安定化(EDTA)血液試料から血漿を生成した。次いで、それらのチューブを10分間、1900×gで、4℃で遠心分離した。2.5mLの血漿画分を新鮮な15mLファルコンチューブに移し、10分間、16,000×gで、4℃で遠心分離した。2mLのそれぞれに清澄化された血漿を、QIAamp循環核酸キット(QIAGEN)をその製造業者の指示にしたがって使用する細胞外核酸単離に使用した。
【0199】
単離された細胞外DNAを、異なる断片長の18SリボソームDNA:
18SリボソームDNA:66bpアンプリコン
18SリボソームDNA:500bpアンプリコン
を標的にする2つの異なるqPCRアッセイを用いて分析した。
【0200】
【表2-1】
【表2-2】
【0201】
個々の試料のサイクル閾値を、gDNA標準曲線に従って、溶離液中のgDNA量に変換した。保管時点のgDNA量を同じドナーからの時間ゼロのgDNAレベルと比較した。それを倍増加(fold increase)として図に示す。特に、保管後の血液試料の血漿画分中の500bp断片の増加は、白血球の溶解/破壊の指標である。したがって、放出される500bpDNAの量が少ないほど、安定化方法の性能がよい。
【0202】
結果
結果を
図1および2に示す。異なるアンプリコン長の18S rRNA遺伝子を使用する異なる安定化溶液での時点0に対するDNAの増加(倍変化)を示す。バーは、条件および試験時点ごとの三重反復試料の平均値である。本発明による、したがってブタンアミドを含む、すべての安定化溶液は、3日間、室温での保管後、非安定化EDTA血液と比較して有意に少ない放出DNA量を示す。明らかなように、安定化溶液Aの添加は、被験試料において少なくとも3日間の安定化を達成した。安定化効果は、EDTAで安定化したリファレンス試料と比較して有意に改善された。3日間の安定化効果は、血液試料についての通例の配送/保管時間をカバーするので、多くの応用例に十分なものである。さらに、カスパーゼ阻害剤をさらに含む本発明による安定化溶液Bは、少なくとも6日間の長期安定化効果を達成した。さらに、数名の異なるドナーからの血液試料に対して安定化溶液を試験したとき、ブタンアミドとカスパーゼ阻害剤の組み合わせで達成される安定化効果は、達成される安定化効果に関してより少ない変動を示すことが判明した(データを示さない)。したがって、ブタンアミドとカスパーゼ阻害剤を併用したとき安定化が有意に改善した。
【0203】
実施例2
実施例2では、EDTAで安定化した血液試料に対する、カスパーゼ阻害剤と組み合わせたブタンアミドの安定化効果を試験し、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAA)と組み合わせたカスパーゼ阻害剤の安定化効果およびリファレンスとしてのEDTAで安定化した血液と比較した。
【0204】
採血および血液安定化
4名の異なるドナーからの血液を10mL K2EDTAチューブ(BD)に採集した。4.5mLの血液を0.9mLの異なる安定化溶液と混合し、これらの安定化溶液は(1mLの安定化溶液あたり)以下のものを含有した:
− 34.2mg K2EDTA
− 1.2μL キノリン−Val−Asp−CH2−OPH(カスパーゼ阻害剤)溶液(1mgを388μL DMSOに溶解)
− 0.15g、0.18gまたは0.21g ブタンアミドまたは0.3mL DMAA、それぞれ。
【0205】
それにより、血液/安定化混合物において、以下の最終濃度を得た:
− 7.2 K2EDTA/mL
− 1μM キノリン−Val−Asp−CH2−OPH(カスパーゼ阻害剤)
− 2.5、3または3.5%(w/v)ブタンアミドまたは5%(v/v)DMAA、それぞれ。
【0206】
すべての安定化された血液試料を、条件および試験時点ごとに三重反復で用意した。安定化溶液と血液を混合した直後の時点0(リファレンス)で、血漿を生成し、循環細胞外DNAを抽出した。残りの安定化された血液試料を3日間および6日間、室温で保管した。
【0207】
リファレンス対照として、EDTAで安定化した血液試料(さらなる添加剤なし)も3日間および6日間、保管した。
【0208】
細胞外核酸単離および分析
実施例1に記載したように血漿を調製し、細胞外核酸を単離し、分析した。
【0209】
結果
4名の異なるドナーからのqPCR分析結果を
図3から6に示す。異なるアンプリコン長の18SrRNA遺伝子を使用する、2.5%、3%および3.5%ブタンアミドまたは5%DMAAによる時点0に対するDNAの増加(倍変化)を示す。バー(barr)は、条件および試験時点ごとの三重反復試料の平均値である。使用したすべての安定化溶液が、3日間および6日間、室温での保管後、リファレンスのEDTA血液試料と比較して有意に少ない放出DNA量を示した。ブタンアミドの3つすべての被験濃度が、DMAAに少なくとも匹敵する安定化能、およびEDTA血液と比較して明白な利点を示した。DMAAは、特にカスパーゼ阻害剤と組み合わせた、血液試料のための安定剤である(未公開PCT/EP2012/070211およびPCT/EP2012/068850を参照されたい)。本実施例によって証明するように、ブタンアミドは、その安定化特性に関して少なくとも同等に有効である。さらに、ブタンアミドは毒性でなく、有害でも刺激性でもないので、ブタンアミドにはDMAAを超える有意な利点がある。したがって、本発明は、毒性でも有害でもない安定化組成物の提供を可能にする。これは、安定化組成物の取り扱い、ならびに使用者にとっての安定化された試料の取り扱いを簡単にする。
【0210】
さらに、溶血に対する異なる安定化溶液の効果(血漿画分の赤色の増加として明らかである)を6日の保管後にそれらの安定化された試料の目視検査によって分析した。
図7に示す結果は、溶血の防止が、4名すべてのドナーについてEDTA対照におけるものより本発明による安定化溶液でのほうが明白に良好であったことおよびさらにDMAAで安定化した試料に匹敵したことを実証する。
【0211】
実施例3
実施例3では、EDTAで安定化した血液試料に対するブタンアミド、カスパーゼ阻害剤およびN,N−ジメチルプロパンアミド(DMPA)の安定化効果を試験し、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAA)と組み合わせたカスパーゼ阻害剤の安定化効果およびリファレンスとしてのEDTA血液と比較した。
【0212】
採血および血液安定化
採血および血液安定化は、概して、実施例2に記載したとおり行ったが、異なる安定化溶液を使用した。血液/安定化混合物において、以下の最終濃度を用意した
− 7.2mg K2EDTA/mL(全試料)
− 1μM キノリン−Val−Asp−CH2−OPH(カスパーゼ阻害剤)(全試料)および
− 0.5%(w/v)ブタンアミドおよび2.5%(v/v)DMPA;または
− 1.5%(w/v)ブタンアミドおよび1.5%(v/v)DMPA;または
− 2%(w/v)ブタンアミドおよび1%(v/v)DMPA;または
− 5%(v/v)DMAA。
【0213】
細胞外核酸単離および分析
実施例1に記載したように血漿を調製し、細胞外核酸を単離し、分析した。
【0214】
結果
結果を
図8から11に示す。異なるアンプリコン長の18SrRNA遺伝子に基づく本発明による安定化溶液(カスパーゼ阻害剤(1μM キノリン−Val−Asp−CH2−OPH)、および抗凝固物質としてのEDTAに加えて、(i)0.5%ブタンアミドおよび2.5%DMPA、(ii)1.5%ブタンアミドおよび1.5%DMPAまたは(iii)2%ブタンアミドおよび1%DMPAを含む)での時間ゼロに対するDNAの増加(倍変化)を示す。バーは、条件および試験時点ごとの三重反復試料の平均値を示す。本発明によるすべての安定化溶液は、3日間および6日間、室温での保管後、リファレンスのEDTA血液と比較して有意に少ない放出DNA量を示した。3つすべての被験濃度のブタンアミドが、DMPAとの組み合わせで、匹敵する安定化能(DMAAを含む安定化溶液と比較して)を示し、かつリファレンスのEDTA血液と比較して明白な利点を示した。ブタンアミドおよびDMPAの併用は、安定化効果を保持しながら、より低濃度のブタンアミドの使用を可能にする。これは利点である。なぜなら、ブタンアミドを高濃度で含む安定化溶液は、安定化組成物を低温で保管するとブタンアミドの沈殿を生じさせることがあるからである。したがって、ブタンアミドと式1に従う化合物、例えばDMPAとの併用は、より低い温度で配送することもできる、非常に有効な、保管安定なおよび特に温度安定な安定化組成物の提供を可能にする。かかる安定化組成物におけるブタンアミドとN,N−ジメチルプロパンアミドとの組み合わせは、達成される良好な安定化特性のため、およびさらにブタンアミドとN,N−ジメチルプロパンアミドの両方が毒性でないため、有利である。さらに、溶血に対する異なる安定化溶液の効果(血漿画分の赤色の増加として明らかである)を6日の保管後にそれらの安定化された試料の目視検査によって分析した。
図11に示す結果は、溶血の防止が、4名すべてのドナーについてEDTA対照におけるものより本発明による安定化溶液でのほうが明白に良好であったこと、およびそれがDMAAで安定化した試料に匹敵したことを実証する。したがって、溶血を効率的に低減させ、防止することさえできる。
【0215】
実施例4
実施例4では、血液試料を安定化するために、異なる濃度のブタンアミドをカスパーゼ阻害剤と併用した。この場合もやはり、分析の焦点は、18S rDNAの増加を分析することによって決定されるような細胞外核酸集団の安定化であった。試料の安定化および処理は、実施例2に記載したように行った。血液試料に被験安定化溶液を添加したとき、血液/安定化溶液混合物において、以下の最終濃度を得た:
【0216】
7.2mg K2 EDTA/mL、1μM キノリン−Val−Asp−CH2−OPH(カスパーゼ阻害剤)および異なる濃度のブタンアミド(0.5%(w/v)、1.5%(w/v)および2.5%(w/v))。
【0217】
図12は、得られた安定性結果を示す。明らかなように、ブタンアミドは、カスパーゼ阻害剤との組み合わせでは、より低濃度でも、ブタンアミドで安定化した試料中の18S rDNA増加の有意な低減から分かるように、細胞外核酸集団の安定化に有効であった。
【0218】
実施例5
実施例5では、単独でのおよびDMAAと組み合わせたカスパーゼ阻害剤の、血液試料に対する安定化効果を明らかにする。
【0219】
1.材料および方法
1.1 血漿の分離
全血から血漿を分離するために、血液試料を15分間、5000rpmで遠心分離し、得られた血漿試料を再び10分間、16,000×gで、4℃で遠心分離した。
【0220】
得られた血漿を、その中に含有されている核酸を単離するために使用した。
【0221】
1.2 核酸精製
得られた血漿試料から、QIAamp(登録商標)Circulating NA Kit(QIAGEN、ハンドブックに準拠)を使用して循環の細胞外核酸を精製した。簡単に言うと:
− 10mL 試料投入;
− 溶解:1mL プロテイナーゼKおよび8mL Buffer ACL(QIAGEN)
− 結合:18mL Buffer ACB(QIAGEN)
− 洗浄ステップ:ハンドブックに対する変更なしでハンドブックに準拠
− 60μL Buffer AVE(QIAGEN)で溶離
【0222】
1.3 溶離液の分析
核酸精製後に得た溶離液は、すべての試料(第6/7日試料を含む)を精製するまで−20℃で保管した。その後、同じ条件の溶離液をプールし、次のように試験した:
【0223】
1.3.1 チップゲル電気泳動(2100 Bioanalyzer;Agilent Technologies;Inc.、米国)を、1μLではなく1.5μLの試料をウェルに移したことを除いて製造業者の指示(ハンドブックAgilent DNA 7500およびDNA 12000Kit Guideを参照されたい)に従って使用する、DNAサイズ分布の決定による血球安定性/DNA放出の測定。
【0224】
1.3.2 DNA分解(標的:500および66bp長のリボソーム18S DNAコード配列)に感受性の、リアルタイムPCRアッセイでのDNA定量。
【0225】
以下のことを適応させてQuantiTect(登録商標)Multiplex PCRハンドブック(Qiagen)に準拠してDNAデュプレックスアッセイを行った:
− プライマー濃度を8μMから16μMに拡大した。
− アニーリング/伸長ステップを1分から2分に延長した。
(試料を増幅前に1:10希釈した)
【0226】
qPCRに関する詳細については、実施例1を参照する。
【0227】
2.実施した実験および結果
続いて、行った実験に関する詳細を説明する。本実施例で用いた方法の詳細は、上の1のもとで記載した。
【0228】
2.1 カスパーゼ阻害剤の添加による安定化
広域カスパーゼ阻害剤として作用する2つの異なるオリゴペプチド、Q−VD−OPhおよびZ−Val−Ala−Asp(OMe)−FMKを試験した:
【0229】
【表3】
【0230】
各被験カスパーゼ阻害剤を全血試料に添加した(10mL血液中20μMの最終濃度;血液をVacutainer K2E Tubes;BDに採集した)。全血試料をセクション1(血漿調製および核酸単離)に記載したように処理した。
【0231】
チップゲル電気泳動の結果
溶離した循環無細胞DNAを、チップゲル電気泳動を用いてサイズにより分離した(方法に関する詳細については上を参照されたい)。
図13は、得られた結果を示す。DMSO対照およびK2E血液(本発明の教示に従って処理していないもの)は、同じラダー様バンドパターンを示す。このパターンは、アポトーシスが起こる試料で発生する。アポトーシス中、エンドヌクレアーゼがゲノムDNAをヌクレオソーム間リンカー領域で分解し、約180bpのまたは180bpの倍数のDNA断片を生じさせる。したがって、アポトーシスは、明確なラダー様パターンを示す試料で発生する。さらに、パターンの強度(暗い色)が決め手となる。より暗いバンドほど、より多くのゲノムDNAが細胞から放出され、したがって細胞外核酸集団を汚染する。
【0232】
図13は、DMSO対照およびK2E血液試料が第3日で既に強いラダー様パターンを示し、それが第7日にはよりいっそう強くなることを示している。したがって、ゲノムDNAは、試料に含有されている細胞から放出され、そしてまた分解された。この放出され、分解されたDNAは、試料に含有されている無細胞核酸を汚染する。それ故、これらの試料では許容され得る安定化が達成されない。
【0233】
対照的に、Z−Val−Ala−Asp(OMe)−FMKで処理した全血試料は、対照と比較して特に第7日に低減されたラダー様パターンを示し、これは、アポトーシスに起因するゲノムDNAの放出、それぞれにゲノムDNA断片化の阻害を示す。この効果は、
図14に示す結果によって確認される(下記参照)。この効果は、Q−VD−OPhで処理した血液試料ではよりいっそう顕著であり、この試料は、第3日および第7日で既に有意に低減されたラダー様パターンを示す。それ故、ゲノムDNAの放出および分解、特に断片化は、カスパーゼ阻害剤Q−VD−OPhの添加によって有効に防止、それぞれに低減される。
【0234】
DNA定量の結果
溶離した循環無細胞DNAを、DNA分解に感受性であるリアルタイムPCRアッセイでも定量した(方法の詳細については実施例1を参照されたい)。
図14は、室温で保管7日以内の細胞外核酸集団の安定化に対する被験カスパーゼ阻害剤の効果、ここではDNAの増加、を示す(18S DNAデュプレックスアッセイ)。
【0235】
定量的リアルタイムPCRによるリボソーム18S DNAの検出は、第0日から第3または7日へのDNAのx倍増加の計算を可能にする(計算:第3日(または第7日)のコピー数を第0日のコピー数で割る)。
図14に示す結果は、カスパーゼ阻害剤、特にQ−VD−OPhを全血試料に添加したときの低減されたDNA増加を実証する。標準試料と比較してZ−Val−Ala−Asp(OMe)−FMKの安定化効果は、第7日ではより顕著であり、それによって
図13に示されている結果が確証された。
【0236】
要約
リアルタイムPCRおよびゲル電気泳動の結果を要約すると、Q−VD−OPhまたはZ−Val−Ala−Asp(OMe)−FMKの添加は、DNA断片化を阻害し、およびさらに、ゲノムDNAの血漿への放出を低減させることが実証された。したがって、全血へのカスパーゼ阻害剤の添加は、室温においてさえ試料および特に細胞外核酸集団の安定化に有効である。それ故、ブタンアミドとカスパーゼ阻害剤とを併用することが好ましい。組み合わせた両方の安定剤は、安定化効果を有意に改善し、延長する。したがって、ブタンアミドおよびカスパーゼ阻害剤の使用を含む本発明による安定化方法の使用は安定化を改善し、そして室温でさえ試料の質を危険にさらすことなく全血試料の配送を可能にする。より長い保管期間中にもゲノムDNAの放出を完全に防止するために、Q−VD−OPhの濃度を増加させてもよい。
【0237】
2.2.N,N−ジメチルアセトアミド(DMAA)の添加による安定化
2つの異なる濃度のDMAAをK
2EDTAとともに試験し、単独のEDTA(K2E BD;18mg K
2EDTA)と比較した。
【0238】
DMAAを全血試料(10mL血液中、0.75%および1.5%最終濃度;血液をVacutainer K2E Tubes;BDに採集した)の反復試験試料(replicate)に添加した。
【0239】
血液試料を最長6日間、室温でインキュベートした。第0、3および6日に、全血試料を1912×gで15分間、室温で遠心分離し、その後、血漿試料を16,000×gで10分間、4℃で遠心分離した。材料および方法セクションに記載したプロトコルに従ってDNA単離のために1mLの試料投入量を使用した。DNAを80μL EB緩衝液で溶離し、実施例1に記載したRT PCRアッセイで定量した。
【0240】
DNA定量の結果
図15は、血漿中のゲノムDNAの増加に対する被験濃度のDMAAの効果を示す。DMAAの添加は、血漿へのゲノムDNAの放出を有意に低減させる。全血に添加するDMAAが多いほど、放出されるDNAが少ない。DMAAを全血試料に添加した場合、保管3日以内に無細胞DNAのごく微量の増加が観察された。
【0241】
要約すると、DMAAの添加は、血漿へのゲノムDNAの放出を低減させる。したがって、血液試料へのDMAAの添加は、室温においてさえ試料の安定化に有効である。しかし、DMAAは、毒性物質である。
【0242】
2.3.ccfDNAレベルに対するDMAA濃度およびOPH(カスパーゼ阻害剤)濃度の組み合わせの影響
10mL全血試料を先ずBD Vacutainer K2E−EDTA(4.45mM EDTA=リファレンス)に採集した。次いで、2mLの下記溶液を添加した(所与の濃度は、安定化された血液溶液中の最終濃度を表す)。各条件を異なるドナーからの6本のチューブで試験した。
【0243】
1:EDTAリファレンス(BD Vacutainer K2E)
2:50mg EDTA、1μM OPH;
3:50mg EDTA、2μM OPH;
4:50mg EDTA、1μM OPH、5%DMAA;
5:50mg EDTA、1μM OPH、10%DMAA;
6:50mg EDTA、2μM OPH、5%DMAA;
7:50mg EDTA;2μM OPHおよび10%DMAA。
【0244】
試料インキュベーション、血漿の単離、および清澄化された血漿画分からの核酸からの単離を実施例1に記載したように行った。しかし、3,000rpmでの第一の遠心分離ステップ後、同一安定化条件の血漿試料をプールした後に血漿清澄化のための第二の遠心分離ステップ(16,000×g)を行った。結果を
図16に示す。明らかなように、カスパーゼ阻害剤およびDMAAを使用する組み合わせは、単独のカスパーゼ阻害剤より有効である。さらに、上の実施例によって証明したように、非毒性物質ブタンアミドはDMAAと同等に有効であり、それ故、非毒性安定化の代替手段となる。
図17は、
図16と同じ結果を、しかしリファレンスデータの除外(exclosure)のため異なるスケーリングで、示す。
【0245】
2.4.検出限界(LoD)
細胞外核酸は、多くの場合、試料に非常に少量で含まれる。したがって、安定化された試料中の細胞外核酸を効率的に保存するばかりでなく、その後、その安定化された試料からの高収率での細胞外核酸の単離を可能にもする安定化手順を有することは、重要である。実施例5.(2.4)は、ホルムアルデヒド放出剤の使用を含まない安定化方法が、安定化された試料から細胞外核酸を高収率で単離することができる点で、先行技術の安定化方法より優れていることを実証する。これは、検出限界を有利に低下させ、したがって、細胞外核酸の集団内の希少な標的核酸も確実に決定できるようにする。
【0246】
以下の安定化溶液/チューブを比較した:
1.Cell−free RNA BCT(Streck Inc、カタログ番号218976−安定剤としてホルムアルデヒド放出剤を含む)
2.BD Vacutainer K2E(BD、カタログ番号367525−EDTAを含む)=リファレンス
3.QGN安定化(5%DMAA、14mM EDTA、2μM OPH(カスパーゼ阻害剤))
【0247】
全血試料をcell−free RNA BCTおよびBD Vacutainer K2Eチューブに採集した。BDチューブに採集した血液の二分の一に、QGN安定化溶液を添加した。それ故、本発明に従って安定化した試料は、BD Vacutainer安定化が寄与する追加量のEDTAを含む。それらの試料を3,000× rpmで10分間、遠心分離し、得られた血漿を等分して1.5mL反復試験試料(replicate)にした。その後、次の量のDNAスパイクイン対照(1,000bp)を試料ごとに添加した:1,000コピー、5000コピー、100コピー、50コピーおよび10コピー。
【0248】
500から10コピー/試料の8つの反復試験試料、1,000コピー/試料および5コピー/試料の4つの反復試験試料を調製した。それらの試料を3日間、室温でインキュベートした。血漿試料からの細胞外核酸の単離を可能にするQIAsymphony virus/bacteria Cell−free 1000アプリケーションを用いて、QIAsymphony SP自動化システムで試料調製を行った。核酸を60μLで溶離した。その後のPCRを三重反復で行った。
【0249】
結果を
図18に示す。明らかなように、BD EDTAチューブまたは本発明による安定化溶液いずれかを使用したとき、100%ヒット≧1,000コピー/試料を得た。これは、カスパーゼ阻害剤およびDMAAを含む安定化溶液を使用したときに核酸の単離が害されなかったことを示す。対照的に、ホルムアルデヒド放出剤(Streck)の使用に基づく安定化は、核酸単離の強い阻害を示す。明らかなように、有意に少ない核酸をそれぞれの試料から、500またはさらには1,000コピーをスパイクインした試料を用いても、単離することができた。さらに、
図18は、カスパーゼ阻害剤およびDMAAを使用して安定化した試料で最高感度が得られたことを示す。試料あたりたった10コピーしかスパイクインしなかった実施形態についてでさえ、13%の正のPCRヒットが得られた。したがって、ホルムアルデヒド放出剤を使用しない安定化方法は、非常に存在量の少ない細胞外核酸であってもその後のそれらの回収を可能にする。これは、架橋に基づく安定化を超える重要な利点である。なぜなら、かかる方法を診断応用および例えば、希少な標的細胞外核酸、例えば腫瘍由来細胞外核酸または胎児核酸などの検出に特に好適なものにするからである。特に、より少ないコピー数の場合、ホルムアルデヒド放出剤の使用に基づく安定化溶液は、非常に低い性能を有し、最も高い検出限界を示した。これは、表4によっても確証される。
【0250】
【表4】
【0251】
前記表から分かるように、1000bp断片について、EDTA試料で達成された結果と、DMAAおよびカスパーゼ阻害剤を含む安定化溶液で達成された結果は、同程度である。したがって、この安定化は、その後の核酸単離を害さない。ホルムアルデヒド放出剤を使用する安定化は、最高の検出限界を示しており、したがって、その後の核酸単離を強度に損なわせたことを明示する。
【0252】
これは、
図19および20に示す結果によっても確証される。明らかなように、EDTAで安定化した試料と、カスパーゼ阻害剤およびDMAAで安定化した試料について(18S rDNA qPCRによって測定して)匹敵するccfDNA収量が得られる。しかし、ホルムアルデヒド放出剤の使用を含む安定化(Streckチューブ)については低減されたccfDNA収量が得られた。ホルムアルデヒドで安定化した試料の収量は、EDTAで安定化した試料と比較しておおよそ50%低減された。対照的に、ホルムアルデヒド放出剤を含まない安定化試薬は、従来の核酸単離方法を用いたとき、ccfDNA収量に対して有害効果を示さなかった。上の実施例1から4によって分かるように、安定剤としてブタンアミドを使用する安定化方法は、下流の核酸単離に関してDMAAと同等の性能を示す。それ故、ホルムアルデヒド放出剤ベースの安定化との間接的比較を行うことができる。したがって、架橋剤の使用を含まないブタンアミドベースの安定化にもccfDNA収量に対する有害効果がない。これは、かかる安定化方法を既存の核酸単離手順およびワークフローに組み込むことを可能にするので、重要な利点である。ブタンアミドの使用に基づく本発明による方法で類似の結果が達成される。同じく架橋剤を使用しないので、核酸単離を損なわせない。
【0253】
実施例6
使用する略語:
BA:ブタンアミド
ccfDNA:循環の無細胞DNA
DMPA:ジメチルプロピオンアミド
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
PEG:ポリエチレングリコール
【0254】
実施例6では、単独での、またはブタンアミドとの、ならびに必要に応じてカスパーゼ阻害剤および/または第三級アミドを含む、組み合わせでの、ポリエチレングリコール(PEG)を、細胞含有生体試料、ここでは血液試料を安定化するその能力について試験した。リファレンス試料(EDTA血液)と比較して、PEGは、ゲノムDNAの細胞外核酸集団への放出を防止するという方法で、全血試料中の白血球を効率的に安定化できることが判明した。この安定化効果を、異なる分子量のPEGについて、および異なる濃度で使用して、実証した。PEGを無水粉末もしくは液体として、純粋な試薬として添加することができ、または水溶液に溶解することができることを実証した。単独でのPEGは、それ自体で強い安定化効果を有するが、ブタンアミドとの組み合わせでも安定化を有意に改善する。好ましくは、さらにカスパーゼ阻害剤を使用する。第0日(採血直後)と第6日(室温で6日の保管)の間の白血球から血漿へと放出されるDNAの増加を再現可能に、2倍またはさらにはより多く低減させることがこの有利な併用によって達成されることを実証する。したがって、安定化効果を最大6日まで、またはさらにはそれより長く延長することもできる。この達成される長期効率的安定化は、血液試料などの細胞含有試料についての均一で確実な安定化方法を提供するので、重要な利点である。さらに、これらの実施例は、高分子量PEGと低分子量PEGの併用が、強い安定化効果を達成し、例えばシリカカラムベースの核酸単離方法を用いて、細胞外核酸を安定化された試料から効率的に単離することができるので、有利であることの証拠となる。
【0255】
材料および方法
別段の指示がない限り、実施例6では以下の手順に従った:
【0256】
採血および血液安定化
全血1mLにつき1.8mg K2EDTAを有する10mL噴霧乾燥EDTAチューブ(BD)に血液を採取した。採取後30分以内に、安定化試薬を直接添加するか、または安定化試薬を収容している新たなチューブにその血液をデカントした。チューブを10回反転させることによって血液と試薬を混合した。安定化された血液試料を直立に立てて室温で保管した。
【0257】
血漿の調製
全血試料を周囲温度で15分間、3,000rpm(1分あたりの分離(resolution per minute))で遠心分離した。清澄な血漿画分をピペッティングによって取り出し、新鮮な遠心分離チューブに移した。第二ラウンドでは、血漿試料を4℃で10分間、16,000×gで遠心分離した。上清を新たなチューブに写し、ccfDNAの精製に直接使用するか、または使用するまで−20℃で保管した。
【0258】
ccfDNAの精製
「1mL、2mLまたは3mL血清または血漿からの循環核酸の精製」についてのプロトコルを用いて、QIAamp循環核酸キット(QIAGEN GmbH)で血漿からDNAを単離した。別段の明記がない限り、2mLの血漿をプロテイナーゼKおよび溶解緩衝液ACLと混合し、30分間、60℃でインキュベートし、緩衝液ACBと混合し、製造業者の推奨に従って、QIAvac 24 Plus真空マニホールドを使用してQIAamp Miniカラム(核酸を結合するためのシリカ固相を具備する)に結合させ、洗浄し、60μL溶離緩衝液AVEで溶離した。
【0259】
単離された細胞外DNAを分析するための定量的リアルタイムPCRアッセイ
単離された細胞外DNAを、3μLの溶離液を使用して、Abi Prism HT7900(Life technologies)でのリアルタイムPCRアッセイで分析した。QuantiTect Multiplex PCR Kit試薬(QIAGEN GmbH)を使用する20μLアッセイ体積で、ヒト18S rDNA遺伝子の2つの断片、66bp断片および500bp、をマルチプレックスPCRで増幅した。個々の試料のサイクル閾値(Ct値)を、gDNA標準曲線に従って溶離液中のgDNAの量に変換した:3000から0.3ゲノム当量に希釈したヒトゲノムDNA(1ゲノム当量は、約6.6pgのヒトゲノムDNAに等しい)を用いて作成した標準曲線との比較により完全定量を達成した。保管時点(一般に、採血後6日)のgDNA量を同じドナーからの時間ゼロのgDNAレベルと比較した。定量的リアルタイムPCR Targetによって検出された、使用したDNA標的配列に関する詳細は上の表2に要約してある。
【0260】
66bp断片の定量を再び用いて、血漿中の18S rDNAコピーの総量を偏向させた(deflect)。500bpの定量を用いて、アポトーシスに由来するまたは全血から機械的に溶解された白血球に由来する18S rDNAコピーの量を決定した。無細胞DNAは、典型的に140〜170bpの長さを有する。それ故、500bp断片は、アポトーシス血球、溶解血球または別様に破壊された血球に由来すると考えられる。T0と6日保管の間の500bp断片からのコピー数の増加を安定性効率の測定値として使用した。したがって、放出500bpDNAの量が少ないほど、安定化方法の性能が良い。より多い放出500bp DNA量は、白血球の溶解が起こるたこと、およびしたがって、細胞外核酸集団が細胞内ゲノムDNAで汚染されたことを示す。
【0261】
異なる安定化組成物でのその後の実験には、複数の異なる個々のドナーからの血液試料を使用した。採血後の時点0(第0日)に対する室温で異なる時点(日数)についての保管された安定化血液または非安定化血液中の18S rDNA遺伝子の66bp断片および500bp断片のコピー数の平均倍変化を、個々のドナー試料各々について単一計算した。対応する単一計算平均値(倍変化)の平均を、使用した異なる安定化組成物の安定化効率の尺度として用いた。血液試料は、それらの組成のおよびドナーに依存する含有細胞外核酸の量の自然な個々の変動のもとになるので、これは、標準偏差上昇をもたらし得る。
【0262】
5.ヘモグロビンの測定
血漿の溶血変色と線形相関があることが判っている414nmでの吸光度をspectramax光度計で測定した。
【0263】
実施例6で試験した条件
【0264】
6.1.実施例6.1
実施例6.1では、水不在下でBA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)と組み合わせた、異なる分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)の安定化効果を試験し、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)の組み合わせのアプローチと比較した。さらに、血漿試料中のかかる安定化混合物の溶血に対する効果を並行して測定した。EDTA血液試料は、非安定化リファレンス対照としての役割を果たした。
【0265】
採血および血液安定化
10mL噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10mL全血の試料を、水を添加することなく異なる分子量のPEGを伴うまたは伴わないブタンアミド(BA)およびEDTAの混合物で安定化した。DMSOに溶解したカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)をピペッティングによって添加した。血漿を5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2mL血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
【0266】
安定化されたすべての血液試料を条件および試験時点あたり三重反復で用意した。安定化溶液と血液とを混合した直後の時点0(リファレンス時点)で、血漿を生成し、循環細胞外DNAを抽出した。リファレンス対照として、EDTAで安定化した血液試料(さらなる添加剤なしでK2 EDTAチューブに採集したもの)も0または6日間保管し、三重反復で分析した。
【0267】
安定化試薬混合物の組成(10mL K2EDTA全血各々について):
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:100mg BA、132mg K2EDTA、10μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量2mL
− PEG(600、1000または3000)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:250mg PEG(600、1000または3000)、100mg BA、132mg K2EDTA、10μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)(水なし)
【0268】
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:1%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG(600、1000または3000)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:2.5%(w/v)PEG(600、1000または3000)、1%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
【0269】
結果
採血後時点0(第0日)に対する室温で6日間保管した8名のドナーからの安定化血液または非安定化血液中の18S rDNA遺伝子の66bp断片および500bp断片のコピー数の平均変化(x倍変化)を8名の血液ドナーの各々について単一計算した。
図21は、条件あたり8名のドナーからのコピー数の対応する平均倍変化を示すものである。すべての安定化組成物は、室温で6日間の保管後、非安定化対照(EDTA血液)と比較して、平均倍変化が有意により少ない増加なので、有意に少ない放出されたゲノムDNA量を示す。したがって、安定化効果は、6日というこの長い安定化期間全体にわたってでさえ達成された。
図21は、血液試料をさらにポリエチレングリコールと接触させることが、達成される安定化効果を有意に改善したことを実証する。それ故、異なる分子量のPEGは、安定化効果の改善に非常に有効であった。平均倍変化の増加が一貫して2倍より低く、複数の実施形態において1倍より低いことさえあったからである。すなわち、第6日でのDNAレベルは、基礎時点(第0日)のものに匹敵する。
【0270】
要約すると、カスパーゼ阻害剤およびブタンアミドを含む安定化組成物の安定化効果は、ポリエチレングリコールと併用すると有意に増加させることができる。ポリエチレングリコールは、異なる分子量で有効であった。さらに、これらの結果は、PEGの分子量を増加させるとPEGの安定化特性が増加したことを示す。これは、使用したPEGの分子量と得られる試料の安定化効果との間に正の相関関係があることを示す。高い分子量のほうが、達成される安定化効果を改善した。
【0271】
6.2.実施例6.2
実施例6.2では、水不在下でEDTAとBAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせの安定化効果を試験し、異なる量(0.2g、0.3gまたは0.4g)の、600の分子量を有するPEG(PEG600)をさらに含む対応する組成物と比較した。EDTA血液は、非安定化リファレンスとしての役割を果たした。
【0272】
採血および血液安定化
10mL噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した6名のドナーからの10mL全血の試料を、水を添加することなく、異なる量の、600の分子量を有するPEG(PEG600)を伴うまたは伴わないブタンアミド(BA)およびEDTAの混合物で安定化した。さらに、DMSOに溶解したカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)をピペッティングによって添加した。血漿を5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2mL血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を条件および試験時点ごとに三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。リファレンス対照として、EDTAで安定化した血液試料(さらなる添加剤なしでK2 EDTAチューブに採集したもの)も6日間、保管した。
【0273】
安定化試薬混合物の組成(10mL K2EDTA全血各々について):
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:100mg BA、182mg K2EDTA、10μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量2mL
− PEG600(0.2〜0.4g)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:200、300および400mg PEG600、100mg BA、188mg K2EDTA、10μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)
【0274】
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:1%(w/v)BA、20mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG600(0.2〜0.4g)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:2、3および4%(w/v)PEG600、1%(w/v)BA、20mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
【0275】
結果
平均倍変化として図示した6名の個々のドナーの試料からの定量的リアルタイムPCR解析の結果を
図22に示す。0.2g、0.3gまたは0.4g PEG600による時間ゼロに対するDNA(66bp断片および500bp断片)の増加(平均倍増加)を示す。すべての被験安定化組成物は、室温で6日間の保管後、リファレンスのEDTA血液と比較して有意に低い放出DNA量を示した。その安定化効果は、細胞含有試料をポリエチレングリコールとさらに接触させると有意に改善した。3つすべてのPEGベースの安定化アプローチにおける両方の18S rDNAアンプリコンコピー数の平均倍変化は、PEGを含まない組成物(BA、EDTA、Q−VD−OPh)と比較して明らかに少なかった。x倍変化は、全ての場合、2倍より低かった。この実施例は、細胞外核酸集団を安定化するための、異なる量のポリエチレングリコールのさらなる使用が、カスパーゼ阻害剤およびブタンアミドで達成される安定化結果を有意に改善することを実証する。
【0276】
6.3.実施例6.3
実施例6.3では、水の存在下で採血管中に直接凍結乾燥させた、高分子量PEG(PEG3000)、EDTA、BAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)を含む試薬混合物の安定化効果を試験し、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)を含む溶液で同時に処理した試料と比較した。
【0277】
採血および血液安定化
10mL噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10mL全血の試料を、PEG3000を伴うまたは伴わないブタンアミド(BA)とEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物で安定化した。凍結乾燥のために、カスパーゼ阻害剤、EDTA、BAおよびPEGを含むすべての成分を水に溶解した。1mLの体積(最終濃度は下記参照)を5mLチューブの中でドライフリーザーEpsilon 2−25D(Christ GmbH)で凍結乾燥させた。K2EDTAチューブから、凍結乾燥させた安定化試薬を有する5mLチューブに血液を移し、チューブを10回反転させることによって安定化した。リファレンスとして、試薬を新たに調製し、DMSOに溶解したカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)をピペッティングによって添加した。
【0278】
血漿を5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2mL血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
【0279】
安定化試薬混合物の組成(10mL K2EDTA全血各々について):
− 新たに調製したBA、EDTA、Q−VD−OPh:100mg BA、132mg K2EDTA、10μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量2mL
− 新たに調製したPEG3000、BA、EDTA、Q−VD−OPh:250mg PEG3000、100mg BA、132mg K2EDTA、10μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)(水なし)
【0280】
5mLチューブへの凍結乾燥のための0.5mL中の安定化試薬混合物の組成:
− 凍結乾燥:125mg PEG3000、50mg BA、67.5mg K2EDTA、5μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)を含有する0.5mLの安定化試薬
【0281】
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:1%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG3000、BA、EDTA、Q−VD−OPh:1%(w/v)PEG 3000、1%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
【0282】
結果
結果を
図23に示す。18S rDNA遺伝子の異なるアンプリコン長に基づく、時間ゼロに対する採血6日後のDNAの増加(平均倍変化)を示す。この場合もやはり、これらの結果は、ポリエチレングリコールを安定化のためにさらに使用すると安定化効果が有意に改善すること、およびそれがBA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)で達成される安定化効果を増強することを実証する。また、試験した長期安定化期間(6日)中のx倍変化は2倍より低かった。さらに、この実施例は、これらの安定化組成物が新たに調製したものであってもよく、または凍結乾燥形態であってもよいことを実証する。
【0283】
6.4.実施例6.4
実施例6.4では、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)をさらに含む安定化水溶液中の異なる分子量を有するPEG(PEG300、PEG600、PEG1000)の安定化効果を試験し、BA、ジメチルプロピオンアミド(DMPA)、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)で共処理した試料と比較した。非安定化EDTA血液は、リファレンス対照としての役割を果たした。
【0284】
採血および血液安定化
10mL噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10mL全血の試料を、異なる分子量のPEGを伴うまたは伴わない水溶液中のブタンアミドとEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物で安定化した。血漿を5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2mL血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
【0285】
安定化試薬混合物の組成(10mL K2EDTA全血各々について):
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μL DMPA、68.4mg K2EDTA、12μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量2mL
− PEG(300、600または1000)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:287.5mg PEG(300、600または1000)、115mg BA、154.5mg K2EDTA、11.5μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量1.5mL
【0286】
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG(300、600または1000)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:2.5%(w/v)PEG、1%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
【0287】
結果
図24は、達成された安定化結果を示す。明らかなように、異なる分子量のPEGを含む水性安定化組成物は、ブタンアミドおよびカスパーゼ阻害剤で達成される安定化効果を増加させた。汚染するゲノムDNAの量の低減から分かるように、白血球の安定化が有意に改善された。これらの結果は、その安定化効果が使用するPEGの分子量の増加に伴って増加することも実証する。500bp断片の増加は、1000の分子量を有するポリエチレングリコールを使用すると2倍より下に低減された。
【0288】
6.5.実施例6.5
ここでは、安定化水溶液中の漸減PEG濃度(2%、1.5%、1%または0.7%)の安定化効果をブタンアミド、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで試験した。非安定化EDTA血液は、リファレンス対照としての役割を果たした。BAとEDTAとQ−VD−OPhとを含む組成物を並行して試験した。
【0289】
採血および血液安定化
10mL噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10mL全血の試料を、異なる濃度のPEG6000を伴うまたは伴わない水溶液中のブタンアミドとEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物で安定化した。血漿を5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2mL血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
【0290】
安定化試薬混合物の組成(10mL K2EDTA全血各々について):
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:110mg BA、147mg K2EDTA、11μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量1mL
− PEG6000(2〜0.7%)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:220、165、110、77mg PEG6000、110mg BA、147mg K2EDTA、11μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量1mL
【0291】
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、EDTA、Q−VD−OPh:1%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000(2〜0.7%)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:2、1.5、1、0.7%(w/v)PEG6000、1%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
【0292】
結果
実施例6.5では、漸減濃度(decreasing concentration)のより分子量の高いPEG6000を、ブタンアミド、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤との組み合わせで利用したときの白血球の安定化に対するそれらの影響について試験した。
図25は、定量的リアルタイムPCRによって18S rDNAの増加を分析することにより決定して、細胞外核酸集団の得られた安定化結果を図示するものである。PEGを含む本発明によるすべての安定化組成物は、室温で6日間の保管後、有意に少ない放出DNA量を示し、それによって、かかる長い安定化期間中、ブタンアミド、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤を含む安定化アプローチを改善する。さらに、明らかなように、高分子量ポリエチレングリコールを異なる濃度で使用して水溶液中の白血球を安定化することができ、それによってゲノムDNAでの細胞外核酸集団の汚染を低減させることができる。さらに、この場合もやはり、PEGはブタンアミドおよびカスパーゼ阻害剤の安定化効果を増加させ、それによって非常に有効な安定化アプローチを提供することが証明される。
【0293】
6.6.実施例6.6
実施例6.6では、異なる体積を有する安定化水溶液中のPEGを、EDTA、カスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)およびBAと組み合わせによる安定化効果を試験した。非安定化EDTA血液は、リファレンス対照としての役割を果たした。BAとDMPAとEDTAとQ−VD−OPhとを含む組成物を並行して試験した。
【0294】
採血および血液安定化
10mL噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10mL全血の試料を、異なる体積0.8mLおよび1.2mLを有する水溶液中のPEG6000とブタンアミドとEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物で安定化した。血漿を5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2mL血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
【0295】
安定化試薬混合物の組成(10mL K2EDTA全血各々について):
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μL DMPA、68.4mg K2EDTA、12μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量2mL
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh:112mg PEG6000、56mg BA、150mg K2EDTA、2.23μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量1.2mLまたは0.8mL
【0296】
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh 全量1.2mL:1%(w/v)PEG6000、0.5%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、1μM Q−VD−OPh
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh 全量0.8mL:1.04%(w/v)PEG6000、0.52%(w/v)BA、15.6mg/mL K2EDTA、1.03μM Q−VD−OPh
【0297】
結果
図26は、これらの安定化アッセイの結果である。採血後時点0(第0日)に対する、室温で6日間保管した安定化血液または非安定化血液中の異なる18S rDNA遺伝子アンプリコン(66bpまたは500bp)のDNAコピーのコピー数の平均変化(倍変化)を示す。本結果は、ポリエチレングリコールを異なるアミドと組み合わせて異なる体積の水溶液中の白血球を安定化することができ、それによって、細胞外核酸集団が細胞内核酸での希釈の防止により保護される、安定化された血液試料が得られることを実証する。
【0298】
6.7.実施例6.7
実施例6.7では、安定化水溶液中の安定化試薬の効果を溶血アッセイによって試験する。
【0299】
採血および血液安定化
10mL噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10mL全血の試料を、水を添加した、PEGを伴うまたは伴わないブタンアミドとEDTAとの混合物またはブタンアミドと併せたDMPAとEDTAとの混合物で安定化した。DMSOに溶解したカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)をピペッティングによって添加した。血漿を5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から直接生成した。残りの血液は、さらに3、6および10日間、室温で保管した後、血漿を生成した。分光光度計を用いて414nmでの吸光度を測定することによってヘモグロビン含有量を決定した。
【0300】
安定化試薬混合物の組成(10mL K2EDTA全血各々について):
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μL DMPA、68.4mg K2EDTA、12μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量2mL
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh:137.5mg PEG6000、55mg BA、165mg K2EDTA、11μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量1.0mL
【0301】
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh:1.25%(w/v)PEG6000、0.5%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
【0302】
結果
図27は、8名の異なるドナーからの血漿試料における0、3、6および10日の保管後の溶血に対する効果を示す。
図27は、8名のドナーからの溶血の平均増加を血漿画分における414nmでの吸光度の増加として図示する。
【0303】
図27から分かるように、EDTA対照実験では、溶血が保管時間の経過とともに上昇するのに対し、EDTAリファレンスと比較してEDTAおよびBAと併せてPEG6000を含有する本発明による安定化水溶液を用いると分析時点で溶血が低減された。注目すべきこととして、EDTA対照で見られる保管第6日から保管第10日への溶血増加は、本発明の安定化試薬組成物および水を含むすべての被験溶液中で本質的に低減される。PEG含有水溶液中での低減される溶血の程度は、BA、DMPA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)併用による試料の安定化に匹敵した。したがって、水性安定化組成物は、溶血を効率的に低減させるので有利である。
【0304】
6.8.実施例6.8
実施例6.8では、ccfDNAコピー数に対する異なる分子量のPEG(PEG300、PEG600、PEG1000、PEG3000)の使用の効果を、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで試験し、非安定化EDTA対照血液と比較する。BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)含有組成物を並行して試験した。
【0305】
採血および血液安定化
10mL噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10mL全血の試料を、漸増分子量(increasing molecular weight)のPEGを含む水溶液中のブタンアミドとEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで安定化した。採血の1時間後、5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を直接生成した。ccfDNAを2mL血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
【0306】
安定化試薬混合物の組成(10mL K2EDTA全血各々について):
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μL DMPA、68.4mg K2EDTA、12μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量2mL
− PEG(300、600、1000、もしくは3000)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:287.5mL PEG300または287.5mg PEG(600,1000もしくは3000)、115mg BA、154.5mg K2EDTA、11.5μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量1.5mL
【0307】
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG(300、600、1000、もしくは3000)、BA、EDTA、Q−VD−OPh:2.5%(v/vまたはw/v)PEG、1%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
【0308】
結果
8名の異なるドナーからの絶対定量的リアルタイムPCR分析の結果を
図28に平均として示す。詳細には、採血後第0日の、ドナーの安定化血液試料または非安定化血液試料中の異なる18S rDNA遺伝子アンプリコン(66bpまたは500bp)のDNAの絶対コピー数の平均を示す。その目的は、シリカカラムベースの核酸単離手順を用いるときの、後の核酸収量に対する使用された安定化アプローチの効果を試験することであった。
図28は、EDTAリファレンス試料(非安定化アプローチ)と比較して、またはBAとDMPAとEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)とを含有する安定化された血液溶液と比較して、より高分子量のPEGの添加が血漿中の検出可能アンプリコン遺伝子コピー数の低減をもたらしたことを示す。これらの結果は、安定化のための漸増分子量または漸増鎖長を有するPEGの使用が、より高濃度で使用すると、安定化された試料から細胞外核酸を単離するためにシリカカラムベースの核酸単離アプローチを用いる場合に血漿中の検出可能ccfDNA遺伝子コピー数の低減をもたらし得ることを示す。
【0309】
6.9.実施例6.9
実施例6.9では、異なる濃度(1.0%。1.25%または1.5%)のPEG6000を、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで試験した。EDTAは安定化血液試料、リファレンス対照としての役割を果たした。BA、DMPA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)含有血液混合物を並行して分析した。
【0310】
採血および血液安定化
10mL噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10mL全血の試料を、体積1.5mLから10mLの血液において、PEG6000を伴う(漸増濃度のPEGを用いて)または伴わないアミド(DMPAおよび/またはBA)とEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで安定化した。採血の1時間後、5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を生成した。ccfDNAを2mL血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
【0311】
10mL K2EDTA全血各々についての安定化試薬混合物の組成:
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μL DMPA、68.4mg K2EDTA、12μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量2mL
− PEG6000(1〜1.5%)、BA、EDTA、Q−VD−OPh−全量1.5mL:115、144および172mg PEG6000、115mg BA、155mg K2EDTA、11.5μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量1.5mL
【0312】
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh:1、1.25および1.5%(w/v)PEG6000、1%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
【0313】
結果
実施例6.9の結果を
図29に示す。異なる濃度(1.0%、1.25%または1.5%)のPEG6000と、BAと、EDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)とを含む本発明による安定化組成物での、18S rDNA遺伝子の異なるアンプリコン長に基づく、8名のドナーから採血後第0日のccfDNAの絶対コピー数の平均減少を示す。
図29は、PEGを含有する安定化された血漿中の18S rDNA遺伝子の66bp断片および500bp断片の絶対コピー数の低減が、PEG濃度依存的様式で起こることを示す。これは、安定化溶液中の、漸増濃度のより大きな分子量のPEG(PEG6000)が、シリカカラムベースの核酸単離アプローチを使用したときに血漿中の検出可能ccfDNA遺伝子コピー数の低減をもたらすことを実証する。
【0314】
6.10.実施例6.10
実施例6.10では、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで高分子量PEG(PEG6000)を含む異なる体積の水性安定化組成物の安定化効果を分析した。2つのアミド(DMPA、BA)と、EDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせを含む安定化溶液とともにインキュベートした血液を並行して分析した。EDTA血液は非安定化リファレンスとしての役割を果たした。
【0315】
採血および血液安定化
10mL噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10mL全血の試料を、異なる体積の水溶液中の、PEG6000を伴うまたは伴わないアミド(DMPAおよび/またはBA)とEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせで安定化した。採血の1時間後、5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を生成した。ccfDNAを2mL血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
【0316】
10mL K2EDTA全血各々についての安定化試薬混合物の組成:
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μL DMPA、68.4mg K2EDTA、12μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量2mL
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh−全量1mL:110mg PEG6000、110mg BA、147mg K2EDTA、11μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量1mL
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh−全量1.5mL:115mg PEG6000、115mg BA、155mg K2EDTA、11.5μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量1.5mL
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh−全量2mL:120mg PEG6000、120mg BA、162mg K2EDTA、12μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量2mL
【0317】
それによって、前記混合物中の異なる成分の次の最終濃度を血液との接触後に得る:
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh 全量1、1.5または2mL:1%(w/v)PEG6000、1%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
【0318】
結果
実施例6.10では、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との組み合わせでPEG6000を含む本発明による異なる体積(1mL、1.5mLまたは2mL)の安定化溶液を試験した。
図30に示す結果は、安定化された試料中の2つの被験18S rDNA遺伝子の断片の絶対コピー数の低減が安定化試薬の体積に依存することを実証する。したがって、高分子量PEGを含有する安定化組成物の体積の増加(およびしたがって安定化組成物の血液に対する比の増加)は、血漿中の検出可能ccfDNA遺伝子コピー数の低減をもたらす。1mL安定化溶液について示した結果から明らかであるように、より少ない体積を使用するとコピー数は有意に低減されなかった。
【0319】
6.11.実施例6.11
実施例6.11では、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)を有する安定化水溶液と併せた高分子量PEG(0.5%PEG6000)と低分子量PEG(2.5%または5%PEG300)との組み合わせの安定化効果を分析した。2つのアミド(DMPA、BA)とEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物を含む安定化溶液とともにインキュベートした血液を共分析した。EDTA血液は、非安定化リファレンス対照としての役割を果たした。
【0320】
採血および血液安定化
10mL噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10mL全血の試料を、1.5mLの体積を有する水溶液中のPEG300およびPEG6000、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物で安定化した。5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2mL血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
【0321】
安定化試薬混合物の組成(10mL K2EDTA全血各々について):
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μL DMPA、68.4mg K2EDTA、12μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量2mL
− 0.5%PEG6000、2.5または5%PEG300、BA、EDTA、Q−VD−OPh−1.5mL:57.5mg PEG6000、287.5μLまたは575μL PEG300、115mg BA、155mg K2EDTA、11.5μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量1.5mL
【0322】
それによって、全血/安定化混合物中の異なる成分の次の最終濃度を得た:
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、PEG300、BA、EDTA、Q−VD−OPh−1.5mL:0.5%(w/v)PEG6000、2.5または5%(v/v)PEG300、1%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
【0323】
結果
図31は、8名のドナーからの、採血後時点0(第0日)に対する室温で6日間保管した前記ドナーからの安定化血液または非安定化血液中の被験66bpまたは500bp長18S rDNA遺伝子アンプリコンのコピー数の平均変化(x倍変化)としての、qPCR分析の結果を示す。非安定化EDTA血液対照はコピー数の平均倍変化の上昇を明らかにしたが、PEGを含有するすべての安定化組成物は、18S rDNA遺伝子アンプリコンコピー数の平均x倍変化に関して少ない増加しか示さなかった。これらの結果は、被験PEG含有安定化組成物の類似した安定化能を示す。達成される安定化は、BAとDMPAとEDTAとカスパーゼ阻害剤とを含む安定化組成物を増量させ、それにより、この場合もやはり、ポリエチレングリコールをさらに使用したときに達成される重要な利点を実証した。
【0324】
加えて、高分子量PEGと低分子量PEGとの組み合わせを有する、使用される安定化溶液の記載した有利な安定化能は、ccfDNAコピー数の低減を伴わないことが確認された。これは、採血後0日に血漿中の18S rDNAの絶対コピー数の変化について同じ溶液を試験することによって分析した。
図32は、得られた結果を示す。得られた絶対コピー数は、BAとDMPAとEDTAとカスパーゼ阻害剤とを含む安定化組成物と同様であった。それ故、絶対ccfDNAコピー数の有意な低減は、このアッセイで検出されなかった。したがって、異なる分子量PEGの組み合わせ、特に、高分子量PEGと低分子量PEGとの組み合わせを、BAを含有する異なる体積の水溶液に組み合わせて、特に白血球を安定化することにより、血液試料中の細胞外核酸集団を、シリカ膜を含む標準的核酸単離手順を用いたときに絶対ccfDNAコピー数の有意な低減がなく、有効に安定化することができる。
【0325】
6.12.実施例6.12
実施例6.12では、安定化水溶液の効果を溶血アッセイによって試験した。ここでは、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)と組み合わせた、高分子量PEG(0.5%PEG6000)と低分子量PEG(2.5%または5%PEG300)との組み合わせを分析した。2つのアミド(DMPA、BA)とEDTAとカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物を含む安定化溶液とともにインキュベートした血液を共分析した。EDTA血液は、非安定化リファレンス対照としての役割を果たした。
【0326】
採血および血液安定化
10mL噴霧乾燥K2EDTAチューブに採集した8名のドナーからの10mL全血の試料を、1.5mLの体積を有する水溶液中のPEG300およびPEG6000、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)との混合物で安定化した。5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を直接生成した。残りの血液は、さらに6日間、室温で保管した後、血漿を生成した。分光光度計を用いて414nmでの吸光度を測定することによってヘモグロビン含有量を決定した。
【0327】
安定化試薬混合物の組成(10mL K2EDTA全血各々について):
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:180mg BA、180μL DMPA、68.4mg K2EDTA、12μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量2mL
− 0.5%PEG6000、2.5または5%PEG300、BA、EDTA、Q−VD−OPh:57.5mg PEG6000、287.5μLまたは575μL PEG300、115mg BA、155mg K2EDTA、11.5μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量1.5mL
【0328】
それによって、全血/安定化混合物中の異なる成分の次の最終濃度を得た:
− 非安定化:1.8mg/mL K2EDTA
− BA、DMPA、EDTA、Q−VD−OPh:1.5%(w/v)BA、1.5%(v/v)DMPA、7.2mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− PEG6000、PEG300、BA、EDTA、Q−VD−OPh:0.5%(w/v)PEG6000、2.5または5%(v/v)PEG300、1%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
【0329】
結果
図33は、採取後0日および6日の血液保管後の8名の異なるドナーからの血漿試料における溶血に対する、異なる分子量のPEGとBAとを含む分析した水溶液の効果を示す。
図33は、0日および6日の血液保管後の血漿画分における414nmでの吸光度の増加として溶血の増加を示す。
【0330】
図33から分かるように、EDTA対照実験は、保管後0日の最初の時点と比較して6日の血液試料保管後の溶血増加(414nmでの吸光度増加)を示す。EDTA、カスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)およびBAとの組み合わせの、0.5%濃度のPEG6000(より高分子量のPEG)と5%濃度のPEG300(より低分子量のPEG)の混合物を含む安定化組成物を用いると、溶血はEDTAリファレンス試料と同様であった。対照的に、0.5%PEG6000と組み合わせたより低い濃度のPEG300(ここでは2.5%)と、EDTAと、カスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)とBAとを使用する本発明による安定化組成物は、6日間の血液保管後の溶血を低減させた。これは、水溶液に溶解したとき高分子量PEGと低分子量PEGとのバランスの取れた組成を含有する安定化組成物で溶血が防止され得ることを実証する。
【0331】
6.13.実施例6.13
真空にした採血チューブ(Alphaチューブ)に予め充填されたPEG6000、BA、EDTAおよびカスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)を含む安定化組成物を、安定剤としてのホルムアルデヒド放出剤の使用に基づく安定化組成物を含む市販のStreck Cell−Free DNA BCTチューブと比較した。
【0332】
採血および血液安定化
8名のドナーからの10mL全血の試料を、10mL噴霧乾燥K2EDTAに、PEG6000、EDTA、カスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)およびBAを含む本発明の安定化組成物量が予め充填されたAlphaチューブに、Streck Cell−Free DNA BCTチューブに採集した。5mLの安定化血液試料または非安定化血液試料から血漿を直接生成した。残りの血液は、さらに3、6および10日間、室温で保管した後、血漿を生成した。ccfDNAを2mL血漿から精製し、18S rDNA遺伝子のコピー数を三重反復でリアルタイムPCRによって決定した。
【0333】
異なるチューブの中の安定化試薬混合物の組成(すべて、10mL採血体積で):
− EDTA−10mL噴霧乾燥EDTA、
− Alpha1−チューブ(PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh):137.5mg PEG6000、55mg BA、165mg K2EDTA、11μL Q−VD−OPh(1mgを388μL DMSOに溶解)、水で全量1.0mL
− Streck Cell−Free DNA BCTチューブ:安定剤としてのホルムアルデヒド放出剤を含む
【0334】
それによって、全血/安定化混合物中の異なる成分の次の最終濃度を得た:
− EDTAチューブ:1.8mg/mL K2EDTA
− Alpha1−チューブ(PEG6000、BA、EDTA、Q−VD−OPh):1.25%(w/v)PEG6000、0.5%(w/v)BA、15mg/mL K2EDTA、5μM Q−VD−OPh
− Streck Cell−Free DNA BCTチューブ:該当する濃度なし
【0335】
結果
結果を
図34および35に示す。
8名の血液ドナーから採血後の時点0(第0日)に対する室温で3、6または10日間保管した8名のドナーからの安定化血液または非安定化血液中の18S rDNA遺伝子の66bp断片(
図34)および500bp断片(
図35)のコピー数の平均変改(x倍変化)を分析した。バーは、8名のドナーからのコピー数の平均倍変化の対応する標準偏差を条件ごとに示すものである。
図34および35に示されるように、PEG6000、EDTA、カスパーゼ阻害剤(Q−VD−OPh)およびBAを含む両方の被験安定化組成物は、血液中の細胞外核酸集団の安定化に関して高度に効率的である。18S rDNAの66bp断片のコピー数の平均倍変化は、試験したすべての時点について、時点ゼロの基礎レベル(約1.0での倍変化)に留まった。
図35は、18S rDNA遺伝子の500bp断片レベルについて同等の結果を示す、すなわち、細胞破壊中に放出される細胞核酸についての試験断片は、試験した時点にわたって時間点ゼロの状態に実質的に留まった。この安定化効果は、Streck Cell−Free DNA BCTチューブを使用した結果に匹敵した。したがって、本発明による安定化組成物は、ホルムアルデヒド放出剤を含むStreck Cell−Free DNA BCTチューブに類似して白血球からの細胞内核酸、例えば特にゲノムDNAの放出を低減させることにより血液試料中の細胞外核酸集団を効率的に安定化する。しかし、上に記載したように、ホルムアルデヒド放出物質の使用には、それらが核酸分子間またはタンパク質と核酸間の架橋の誘導により細胞外核酸単離の効力を弱めるので、欠点がある。それ故、特異的核酸単離方法を用いなければならない。かかる架橋物質の使用を含まない本発明による安定化組成物には、架橋ベースの安定化技術を超える重要な利点がある。