特表2016-519053(P2016-519053A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2016-519053ヒドロフルオロオレフィンおよびヒドロクロロフルオロオレフィンを精製し、安定化させるための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-519053(P2016-519053A)
(43)【公表日】2016年6月30日
(54)【発明の名称】ヒドロフルオロオレフィンおよびヒドロクロロフルオロオレフィンを精製し、安定化させるための方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/42 20060101AFI20160603BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20160603BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20160603BHJP
   C09K 3/30 20060101ALI20160603BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20160603BHJP
   C07C 17/389 20060101ALI20160603BHJP
   C09K 21/08 20060101ALI20160603BHJP
【FI】
   C07C17/42
   C09K5/04 F
   C07C21/18
   C09K3/30 J
   F25B1/00 396Z
   C07C17/389
   C09K5/04 C
   C09K21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-500480(P2016-500480)
(86)(22)【出願日】2014年2月28日
(85)【翻訳文提出日】2015年9月11日
(86)【国際出願番号】US2014019186
(87)【国際公開番号】WO2014158663
(87)【国際公開日】20141002
(31)【優先権主張番号】61/778,623
(32)【優先日】2013年3月13日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】マハー・ワイ・エルシェイク
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ボネット
【テーマコード(参考)】
4H006
4H028
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB93
4H006AD17
4H006EA03
4H006EB12
4H006EB14
4H006EB20
4H028AA25
(57)【要約】
酸および/または鉄化合物によって汚染されたヒドロフルオロオレフィンおよびヒドロクロロフルオロオレフィンを、そのハロオレフィンを固体の吸着剤たとえばアルミナと接触させ、次いでその精製されたハロオレフィンを、1種または複数の安定剤たとえばエポキシドと組み合わせることにより、精製および安定化させる。そのようにして得られた、精製され、安定化されたハロオレフィンは、広く各種の末端使用用途において、たとえば、冷媒、噴射剤、発泡剤、火災の抑制または消火剤、および溶媒として有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法であって、
a)ヒドロフルオロオレフィンおよびヒドロクロロフルオロオレフィンからなる群より選択されるハロオレフィンから構成される不純なハロオレフィン組成物を、固体の吸着剤と接触させて、精製されたハロオレフィン組成物を得る工程;および
b)工程a)で得られた、前記精製されたハロオレフィン組成物を、フリーラジカル捕捉剤、酸素捕捉剤、酸捕捉剤、重合禁止剤、および腐食抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種の安定剤と組み合わせて、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物を得る工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記不純なハロオレフィン組成物が、FeCl3、トリフルオロ酢酸、トリフルオロアセトアルデヒド、HF、およびHClからなる群より選択される1種または複数の不純物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体の吸着剤が、高表面積のアルミナ、活性炭およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ハロオレフィンが、一般式Cn2n-a-baClb(式中、nは2、3または4であり、bは0または1であり、かつaは0〜6であるが、aとbの両方が0であることはない)の開鎖ハロオレフィンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ハロオレフィンが、一般式Cn2(n-1)-a-baClb(式中、nは3〜5であり、bは0または1であり、かつaは0〜7であるが、aとbの両方が0であることはない)のC3〜C5環状ヒドロクロロフルオロオレフィンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ハロオレフィンが、1234yf、1234ze、1223xf、t−1233zd、1243zf、1233xf、および1336mzzからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記精製され、安定化されたハロオレフィン組成物を、容器の中で、活性金属との接触状態に置くさらなる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記精製され、安定化されたハロオレフィン組成物を酸素含有化合物と混合するさらなる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記固体の吸着剤が、酸を吸着することが可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記固体の吸着剤が、100〜1000m2/gの表面積および0.1〜1cm3/gの細孔容積を有する活性アルミナである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記固体の吸着剤が、10〜1000m2/gの表面積および0.01〜1cm3/gの細孔容積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記安定剤が、エポキシドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記安定剤が、α−メチルスチレン、1,2−エポキシブタン、α−ピネンオキシド、β−ピネンオキシド、ヘキサデセンオキシド、またはα−グリシジルイソプロピルエーテルの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記安定剤が、ヒドロキシルアミン、キノン、オキシム、フェノール、ビニル芳香族化合物、エポキシド、ヒドラジン、オレフィン、ニトロアルカン、塩化チオニル、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記精製されたハロオレフィン組成物が、約100〜約1500ppmの安定剤と組み合わされる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法に従って製造された、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物。
【請求項17】
冷媒を含む冷凍、空気調和、またはヒートポンプシステムであって、前記冷媒が、請求項16に記載の、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物を含む、冷媒を含む冷凍、空気調和、またはヒートポンプシステム。
【請求項18】
前記冷媒がさらに、潤滑剤から構成される、請求項17に記載の冷凍、空気調和、またはヒートポンプシステム。
【請求項19】
1種または複数のポリマー前駆体または熱可塑性ポリマーおよび発泡剤から構成される発泡性ポリマー組成物であって、前記発泡剤が、請求項16に記載の、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物から構成される、発泡性ポリマー組成物。
【請求項20】
少なくとも1種の活性成分および噴射剤から構成される、噴射可能な組成物であって、前記噴射剤が、請求項16に記載の、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物から構成される、噴射可能な組成物。
【請求項21】
火災を消火または抑制する方法であって、加圧された放出システムの中に収納された、請求項16に記載の、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物から構成される薬剤を、領域であって前記領域の中の火災を消火または抑制する領域の中に放出する、方法。
【請求項22】
火災または爆発を防止するために、領域を不活化させる方法であって、加圧された放出システムの中に収納された、請求項16に記載の、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物から構成される薬剤を放出して、火災または爆発の発生を防止することを含む、方法。
【請求項23】
物質および溶媒から構成される溶液であって、前記溶媒が、請求項16に記載の、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物を含む、溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロフルオロオレフィンおよびヒドロクロロフルオロオレフィンを精製し、安定化させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾン層の保護のためのモントリオールプロトコール(Montreal Protocol)(1987年10月採択)は,クロロフルオロカーボン(CFC)使用の段階的廃止を義務づけている。オゾン層に対してより「優しい」物質、たとえばヒドロフルオロカーボン(HFC)たとえば、HFC−134aがクロロフルオロカーボンの代替え物となった。しかしながら、これら後者の化合物は、地球温暖化の原因となりうる温室ガスであることが判明し、現在では、気候変動に関する京都プロトコール(Kyoto Protocol on Climate Change)によって規制されている。浮かび上がってきた代替え物質のヒドロフルオロプロペンは、オゾン層破壊係数(ODP)がゼロで、かつ地球温暖化係数(GWP)が(150よりもはるかに下と)低く、環境的に受容可能であることが示された。
【0003】
現在提案されている、HFC−134aのようなヒドロフルオロカーボンに対する代替えの冷媒としては、HFC−152a、純炭化水素たとえばブタンまたはプロパン、さらには「天然の」冷媒たとえばCO2が挙げられる。これら提案されている代替え物質の多くは、可燃性であるか、および/またはエネルギー効率が低い。したがって、それらに代わる新規な冷媒が求められている。HFCの代替え物として、フルオロオレフィン物質、たとえばヒドロフルオロプロペンおよび/またはヒドロクロロフルオロプロペンに関心が寄せられてきている。これらの物質は下層大気中で本来的に化学的に不安定であるために、地球温暖化係数が低く、かつ所望されるオゾン層破壊性能もゼロまたはほとんどゼロとなる。しかしながら、そのような固有の不安定性のために、たとえば空気や水のような酸素含有物質の存在下での貯蔵、取扱いおよび使用の際に、そのような化合物の分解が起きる。分解によって酸性物質が生成し、それが、フルオロオレフィンを貯蔵、取扱いまたは利用するために使用される装置の腐食を招き、そしてそれがさらなる分解のための触媒作用をする可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の工程を含む方法を提供する:
a)ヒドロフルオロオレフィンおよびヒドロクロロフルオロオレフィンからなる群より選択されるハロオレフィンから構成される不純なハロオレフィン組成物を、固体の吸着剤と接触させて、精製されたハロオレフィン組成物を得る工程;および
b)工程a)で得られた、精製されたハロオレフィン組成物を、フリーラジカル捕捉剤、酸素捕捉剤、酸捕捉剤、水捕捉剤、重合禁止剤、および腐食抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種の安定剤と組み合わせて、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物を得る工程。
【0005】
そのようにして本発明に従って製造されたヒドロフルオロオレフィン(HFO)およびヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)を、通常ならばハロオレフィンの分解に引き金になりうるような(たとえば輸送または貯蔵容器に見いだされるような)活性な金属物質および/または酸素含有物質とそれらが接触していても、長期間にわたる貯蔵または輸送の際に、安定化させることができる。本発明の実施により得られる貯蔵安定性のHFOおよびHCFOは、たとえば冷凍、フォームの製造、エーロゾル噴射剤、および溶媒のような、末端使用用途において有用である。
【0006】
したがって、本発明の一つの態様は、冷媒を含む、冷凍、空気調和、またはヒートポンプシステムを提供するが、ここでその冷媒には、本発明に従って調製された、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物が含まれる。
【0007】
本発明のまた別な態様は、1種または複数のポリマー前駆体または熱可塑性ポリマーおよび発泡剤から構成される発泡性ポリマー組成物を提供するが、ここでその発泡剤は、本発明に従って調製された、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物から構成されている。
【0008】
本発明のさらにまた別な態様は、少なくとも1種の活性成分および噴射剤から構成される噴射可能な組成物を提供するが、ここでその噴射剤は、本発明に従って調製された、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物から構成されている。
【0009】
本発明によって、火災を消火(extinguish)または抑制(suppress)する方法も提供されるが、その方法には、加圧された放出システムの中に収納された、本発明により、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物から構成される薬剤を、領域の中の火災を消火または抑制する領域の中に放出することが含まれる。
【0010】
本発明によってさらに提供されるのが、火災または爆発を防止するために、ある領域を不活化させる方法であって、その方法には、加圧された放出システムの中に収納された、本発明により、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物から構成される薬剤を放出して、火災または爆発が起きることを防止することが含まれる。
【0011】
本発明のさらにまた別な態様は、ある物質とある溶媒とから構成される溶液を提供するが、その溶媒には、本発明により、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物が含まれている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において有用なハロオレフィンは、1分子あたり、炭素−炭素二重結合、少なくとも1個の水素原子、および少なくとも1個のフッ素原子を含み、さらに場合によっては塩素原子が存在していてもよい、オレフィン化合物である。そのハロオレフィンは、非環状もしくは環状、分岐状もしくは直鎖状であってよい。好適な開鎖(非環状)のヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンとしては、一般式Cn2n-a-baClb(ここで、nは2、3または4であり、bは0または1であり、そしてaは、0〜6であるが、aとbが共に0であることはない)のC2、C3、およびC4ハロオレフィンが挙げられる。好適なハロオレフィンとしてはさらに、一般式Cn2(n-1)-a-baClb(ここで、nは、3〜5であり、bは0または1であり、そしてaは、0〜7であるが、aとbが共に0であることはない)のC3〜C5環状ハロオレフィンも挙げられる。ハロオレフィンの具体例としては、1234yf、1234ze、1223xf、t−1233zd、1243zf、1233xf、および1336mzzが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。個々のハロオレフィン、さらには2種以上の異なったハロオレフィンの混合物も、本発明の方法に従って処理することができる。それらのヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンは、異なった複数の立体配置異性体または立体異性体として存在していてもよい。本発明では、すべての単一の立体配置異性体、単一の立体異性体、またはそれらの各種組合せまたは混合物も含まれているものとする。たとえば、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC−1234ze)という名称で、cis−異性体、trans−異性体、または各種の比率の両方の異性体の各種の組合せまたは混合物を意味している。また別な例は、HFC−1225yeであって、これは、そのcis−異性体、trans−異性体、または各種の比率の両方の異性体の各種の組合せまたは混合物を意味している。
【0013】
出発物質として使用される不純なハロオレフィン組成物は、ハロオレフィンを製造するための各種の従来法または公知技術を使用した商業プラントも含めて、各種適切な供給源から得ることができる。本発明のプロセスを使用して、ハロオレフィンが合成された直後に、その不純なハロオレフィン組成物を精製し、安定化させることができる。別な方法として、本発明のプロセスを使用して、不純物を発生または蓄積する可能性のある条件下にある期間貯蔵した、ハロオレフィン組成物を処理することもできる。典型的には、その不純なハロオレフィン組成物は、1種または複数の不純物たとえば、酸(たとえば、HF、HCl、トリフルオロ酢酸)、アルデヒド(たとえば、トリフルオロアセトアルデヒド)および/または鉄化合物(たとえば、FeCl3)で汚染されているであろう。たとえば、本発明において処理するのに適した不純なハロオレフィン組成物には、合計して少なくとも50ppm、少なくとも100ppm、少なくとも250ppm、または少なくとも500ppmの酸、および/または少なくとも1ppm、少なくとも5ppm、または少なくとも10ppmのFeCl3が含まれていてもよい。
【0014】
本発明によるHFOおよび/またはHCFOの精製および安定化には、二つの工程プロセスが含まれる。第一の工程においては、固体の吸着剤たとえば、活性炭または金属酸化物たとえば高表面積(HAS)アルミナを用いた、出発物質中の不純物(たとえば、FeCl3および分解反応生成物たとえば、トリフルオロ酢酸、トリフルオロアセトアルデヒド、HF、およびHCl)の吸収が実施される。その吸着剤は、たとえば、10〜1000m2/gの表面積および/または0.01〜1cm3/gの細孔容積を有していてもよい。その固体の吸着剤が、極めて高い酸を吸着するための容量を有しているのが有利である。たとえば、HFOおよび/またはHCFOの中に元々存在していた酸の90%より多く、または99%より多くを除去する能力をそれが有していてもよい。その吸着剤は、HFOおよび/またはHCFOと接触させるより前に、乾燥プロセスにかけて、たとえば真空下に置くか、あるいは加熱(たとえば、任意選択で真空下に100〜200℃に)して、所望のレベルの乾燥度にしておいてもよい。
【0015】
その吸着プロセスは、たとえば、0〜100℃の間のいかなる温度(一つの実施形態においては、ほぼ室温、たとえば約15〜30℃)で実施することも可能である。吸着剤と接触させる工程の際の圧力は、減圧、常圧、または高圧(常圧以上)であってよい。HFOおよび/またはHCFOは、液体の形態で吸着剤と接触させることもできるが、別な方法として、そのような接触工程において、精製するべきHFOまたはHCFOを気体の形態にしておくこともできる。HFOまたはHCFOが液体の形態である場合の接触時間は、たとえば0.1〜5分の間とすることができる。HFOまたはHCFOが気体の形態である場合には、吸着剤との接触時間は、1〜10秒とするのが好適であり得る。精製するべき出発物質は、固体の吸着剤のベッドを通過させてもよい。また別な実施形態においては、HFOまたはHCFOを固体の吸着剤の一部とスラリー化するか、またはそうでなければ混合もしくは撹拌し、次いでその固体の吸着剤から(たとえば濾過によって)分離してもよい。HFOまたはHCFOを、吸収剤との接触操作に繰り返してかけることできる。たとえば、出発物質のストリームを、固体の吸収剤のベッドを通過させ、そのベッドから出てくるHFOまたはHCFOをリサイクルさせて、ベッドにさらに1回または複数回、所望のレベルの純度に到達するまで通過させることもできる。本発明の一つの実施形態においては、吸着剤との接触条件を選択して、酸を合計して1ppm未満、かつFeCl3を0.1ppm未満しか含まない、精製されたHFOおよび/またはHCFOを得る。その精製されたHFOおよび/またはHCFOは次いで、鉄製の容器中、かつ酸素含有気体の存在下に貯蔵することもできるが、ただし一般的には、そのように精製された製品を、以下に示すようにまず安定化させるのが有利であろう。
【0016】
第二の工程においては、その精製されたHFOおよび/またはHCFOを、フリーラジカル捕捉剤、酸素捕捉剤、酸捕捉剤、重合禁止剤、および腐食抑制剤からなる群より選択される少なくとも1種の安定剤と組み合わせる。採用される安定剤の量は、一般的には、組成物に所望される程度の安定性を付与するのに有効であるように選択する。安定剤の濃度は、たとえば、約10〜約2000ppmまたは約100〜約1500ppmの間で変更することが可能である。ある種の安定剤は、複数の機能を果たすことができる。たとえば、特定の化合物は、酸捕捉剤と腐食抑制剤の両方の作用を有することができる。
【0017】
本発明の目的のために好適な安定剤としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:ヒドロキシルアミン(たとえば、ジエチルヒドロキシルアミン)、キノン(たとえば、ヒドロキノン)、オキシム(たとえば、メチルエチルケトオキシム)、フェノール(たとえば、p−メトキシフェノール)、ビニル芳香族化合物(たとえば、アルファ−メチルスチレン)、エポキシド(たとえば、アルファ−ピネンオキシド、ベータ−ピネンオキシド、1,2−エポキシブタン、1,2−ヘキサデセンオキシド、グリシジルメチルエーテル、d,l−リモネンオキシド、アルファ−グリシジルイソプロピルエーテル、1,2−エポキシ−2−メチルプロペン)、ヒドラジン、オレフィンたとえばd,l−リモネンおよびイソプレン、ニトロアルカン(たとえば、ニトロメタン、ニトロエタン)、塩化チオニルなど、ならびにそれらの組合せ。
【0018】
そのような安定剤の存在下では、HFOまたはHCFO製品を、鉄製またはその他の活性金属含有容器の中、酸素含有化合物たとえば空気または水の存在下で長期間輸送または貯蔵することが可能であり、その製品は、受容不能な程の分解を示すことはない。
【0019】
本発明の一つの実施形態においては、その精製および安定化の工程をHFOまたはHCFOを最初に製造したサイトで実施した後に、貯蔵したり、その精製され、安定化されたHFOまたはHCFOが使用される予定の場所へ輸送したりする。
【0020】
本発明に従って得られた、精製され、安定化されたHFO(たとえば、1234yf、t−1234ze、1243zf)およびHCFO(たとえば、t−1233zd、1233xf)は、たとえば以下のような主たる用途で有用である:XPSまたはPURフォームの製造;MAC、チラーおよびヒートポンプなどにおける冷凍;ならびに、溶媒およびエーロゾル噴射剤として。そのような製品は、分解をほとんどまたは全く示さず、使用の際にそれら接触する装置を腐食する傾向も有していないが、これについては後に論ずる。
【0021】
移動体空気調和(MAC=Mobile Air Conditioning)用途およびその他の冷媒用途:
MAC用途においては、その低GWP冷媒の好ましい沸点(bp)は、−10℃〜−40℃の間である。そのような冷媒は、使用時に化学的に安定でなければならない;たとえば、その冷媒は、系内の活性金属たとえばアルミニウムおよび銅とは反応せず、かつ冷媒オイルの中に溶解し、それとの相溶性がある。
【0022】
本発明に従って製造されたヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンは、冷凍、空気調和、およびヒートポンプのシステムにおいて高GWP(地球温暖化係数)冷媒の代替え物として有効であることが見いだされた。そのようなシステムにおいて従来使用されてきた高GWP冷媒としては、たとえば以下の物質が挙げられる:R134a、R22、R245fa、R114、R236fa、R124、R410A、R407C、R417A、R422A、R507A、およびR404A。本発明の、精製され、安定化されたヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンは、従来からの高GWP冷媒を使用しているか、またはそれらを使用するように設計されている各種の冷凍、空気調和、またはヒートポンプ装置において有効な作動流体である。
【0023】
蒸気圧縮冷凍、エアコンディショニング、およびヒートポンプのシステムとしては、蒸発器、圧縮機、凝縮器、および膨張機器が挙げられる。蒸気圧縮サイクルでは、複数の工程で冷媒を再利用し、一つの工程では冷却効果を、別な工程では加熱効果を作り出す。そのサイクルは、簡略化すると次のように記述することができる:液体の冷媒が膨張機器を通過して蒸発器に入り、その液体の冷媒が低温で蒸発器の中で沸騰してガスとなり、冷却効果を作り出す。その定圧のガスが圧縮機に入り、そこで圧縮されて、その圧力と温度が上昇する。より高い圧力の(圧縮された)ガス状の冷媒が次いで凝縮器に入り、その中で冷媒が凝縮して、その熱を周囲環境に放出する。その冷媒が膨張機器に戻り、その中を通過する間に、その液体が膨張して、凝縮器におけるより高い圧力レベルから、蒸発器における低い圧力レベルへと変化し、これでサイクルが繰り返される。
【0024】
本明細書で使用するとき、移動体冷凍装置または移動体空気調和(MAC)装置とは、道路、鉄路、海上、または空中での輸送体の中に組み込まれた各種の冷凍または空気調和装置を指している。本発明は特に、道路輸送における冷凍または空気調和装置、たとえば自動車の空気調和装置または冷凍道路輸送装置において特に有用である。
【0025】
本発明の、精製され、安定化されたHFOおよび/またはHCFOはさらに、定置式の空気調和およびヒートポンプ、たとえば、チラー、高温ヒートポンプ、住居用、軽商用、および商用の空気調和システムにおいても有用である。定置式の冷凍用途においては、本発明の組成物は、たとえば、家庭用冷蔵庫、製氷器、ウォークインおよびリーチイン式のクーラーおよびフリーザー、ならびにスーパーマーケットのシステムのような装置において有用である。
【0026】
冷媒として使用する場合には、本発明のヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンは、典型的には、冷凍潤滑剤、すなわち冷凍、エアコンディショニング、またはヒートポンプ装置で使用するのに適した潤滑剤と共に使用されるであろう。それらの内でも、潤滑剤は、クロロフルオロカーボン冷媒を使用する圧縮冷凍装置において通常使用されているものである。
【0027】
そのような潤滑剤およびそれらの性質は、1990 ASHRAE Handbook,Refrigeration Systems and Applications,第8章,表題「Lubricants In Refrigeration Systems」において論じられている。本発明の、精製され、安定化された製品と組合せると有用な潤滑剤としては、圧縮冷凍潤滑の分野において「鉱油」として一般的に公知のものが挙げられる。鉱油には、以下のものが含まれる:パラフィン(すなわち、直鎖および分岐鎖の飽和炭化水素)、ナフテン(すなわち、環状パラフィン)、および芳香族化合物(すなわち、交互二重結合を特徴とする環を1個以上含む不飽和で、環状の炭化水素)。本発明の、精製され、安定化されたHFOおよびHCFOと組合せると有用な潤滑剤としてはさらに、圧縮冷凍潤滑の分野において「合成油」として一般的に公知のものも挙げられる。合成油としては、以下のものが挙げられる:アルキルアリール(すなわち、直鎖状および分岐状のアルキルアルキルベンゼン)、合成パラフィンおよびナフテン、ならびにポリ(アルファ−オレフィン)。好適な潤滑剤としてはさらに、ヒドロフルオロカーボン冷媒と共に使用するように設計されたものも挙げられ、それらは、圧縮冷凍、エアコンディショニング、またはヒートポンプ装置の運転条件下で本発明の冷媒と混和性を有する。そのような潤滑剤としては以下のものが挙げられる(これらに限定される訳ではない):ポリオールエステル(POE)たとえば、Castrol(登録商標)100(Castrol,英国)、ポリアルキレングリコール(PAG)たとえば、Dow製のRL−488A(Dow Chemical,Midland,Mich.)、およびポリビニルエーテル(PVE)。そのような潤滑剤は、各種の商業ソースから容易に入手することが可能である。
【0028】
本発明において使用するための潤滑剤は、所定の圧縮機の要求性能と、その潤滑剤が曝露されるであろう環境条件とを考慮して選択する。場合によっては、本発明の組成物に対して、潤滑性とシステムの安定性を向上させる目的で、所望に応じて、一般的に使用されている冷凍システムの安定剤を加えてもよい。それらの安定剤は、冷凍圧縮機潤滑の分野では一般的に公知であり、以下のものが挙げられる:摩耗防止剤、極圧潤滑剤、腐食防止剤および酸化防止剤、金属表面不活性化剤、発泡および消泡調節剤、漏洩検知剤など。一般的には、これらの安定剤は、潤滑剤組成物全体に対して、ほんの少量で存在させる。それらは、典型的には、安定剤ごとに、重量で約0.1%未満から、最大で約3%までの濃度で使用される。これらの安定剤は、個々のシステム要件に基づいて選択する。そのような安定剤のいくつかの典型例を以下に挙げる(これらに限定される訳ではない):潤滑性向上安定剤たとえば、リン酸およびチオリン酸のアルキルまたはアリールエステル。さらに、本発明の組成物において、金属ジアルキルジチオホスフェートおよびこの化学物質の系統のその他の化合物を使用してもよい。また別な耐摩耗性安定剤としては、天然物のオイルおよび非対称ポリヒドロキシル潤滑安定剤たとえばSynergol TMS(International Lubricants)が挙げられる。
【0029】
発泡剤用途:
本発明の、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物は、発泡剤としても有用である。たとえば、ハロオレフィン組成物を採用して、ポリマーの系を膨張または発泡させることができるが、そのような系としては、ポリマー前駆体(すなわち、反応してポリマーマトリックスを形成することが可能なモノマーおよび/またはオリゴマー、特にポリウレタンのような熱硬化性樹脂)から構成される配合物、さらには1種または複数の熱可塑性ポリマーから構成される配合物の両方が挙げられる。
【0030】
ポリウレタンの発泡用途では、典型的には、沸点が約−40℃〜約30℃の間で、A液、B液、またはその両方に相溶性のあるように、ハロオレフィン組成物を選択する。典型的には、好適なハロオレフィン組成物は、常圧で約20℃〜50℃、または約30℃〜約40℃の温度範囲では液体であり、良好な寸法安定性を有するフォームが得られるものである。そのハロオレフィン組成物は熱伝導率が低く、低熱伝導率のフォームが得られる。
【0031】
熱可塑性フォームを製造するためには、そのポリマー樹脂の溶融温度および/またはガラス転移温度よりも低い沸点、典型的には約100℃未満、好ましくは約−40℃〜約10℃の間の沸点を有している、本発明の安定化された精製ハロオレフィン組成物を選択してもよい。発泡させた熱可塑性プラスチック製品を調製するためのプロセスは、以下のとおりである:発泡性ポリマー組成物を含む成分を、順序は問わず、共にブレンドして、発泡性ポリマー組成物を調製する。典型的には、ポリマー樹脂を可塑化させてから、初期圧力で(本発明による安定化された精製ハロオレフィン組成物を含めた)発泡剤組成物の成分の中にブレンドすることによって、発泡性ポリマー組成物が調製される。ポリマー樹脂を可塑化させるための一般的なプロセスは、加熱可塑化であって、ポリマー樹脂を加熱して、発泡剤組成物の中にブレンドするに十分になるように、軟化させることが含まれる。一般的に、加熱可塑化には、結晶性ポリマーの場合、熱可塑性ポリマー樹脂を、そのガラス転移温度(Tg)または溶融温度(Tm)の近傍またはそれより高い温度に加熱することが含まれる。
【0032】
発泡性ポリマー組成物には、たとえば次のような1種または複数のさらなる安定剤を含むことができる:成核剤、セル調節剤、染料、顔料、充填剤、抗酸化剤、押出加工助剤、安定化剤、帯電防止剤、難燃剤、IR減衰剤、および断熱性安定剤。
【0033】
成核剤としては、特に、タルク、炭酸カルシウム、安息香酸ナトリウム、ならびに化学的発泡剤たとえばアゾジカルボンアミド、または重炭酸ナトリウムおよびクエン酸のような物質が挙げられる。IR減衰剤および断熱性安定剤としては、特には、たとえばカーボンブラック、グラファイト、二酸化ケイ素、金属のフレークもしくは粉体が挙げられる。難燃剤としては、特に、臭素化物質、たとえばヘキサブロモシクロデカンおよびポリ臭素化ビフェニルエーテルを挙げることができる。好適なフォーム調製プロセスとしては、バッチ、セミバッチ、および連続プロセスが挙げられる。バッチプロセスには、発泡性ポリマー組成物の少なくとも一部を、貯蔵可能な状態で調製し、次いで将来のある時点でフォームを調製するときに、発泡性ポリマー組成物のその一部を使用することが含まれる。セミバッチプロセスには、発泡性ポリマー組成物の少なくとも一部を調製しておき、すべて単一のプロセスで、その発泡性ポリマー組成物を間欠的に膨張させてフォームとすることが含まれる。たとえば、米国特許第4,323,528号明細書(引用することにより、そのすべてを、すべての目的で本明細書に組み込むものとする)には、積層押出プロセス(accumulating extrusion process)を介して、ポリオレフィンフォームを作製することが開示されている。そのプロセスには以下の工程が含まれている:1)熱可塑性プラスチック材料と発泡剤組成物とを混合して発泡性ポリマー組成物を形成させる工程;2)その発泡性ポリマー組成物を発泡させないような温度と圧力に維持されている保持ゾーンの中に、その発泡性ポリマー組成物を押し出す工程(その保持ゾーンは、発泡性ポリマー組成物が発泡する、より低圧のゾーンの中への開口を有するオリフィス規定しているダイと、そのダイオリフィスを閉じている、開口可能なゲートとを有している);3)可動性ラムの手段によって、その発泡性ポリマー組成物に機械的な圧力をかけるのと実質的に同時に、ゲートを周期的に開けて、保持ゾーンから、ダイオリフィスを通過して、より低圧のゾーンへとそれを射出する工程;および、4)射出された発泡性ポリマー組成物を膨張させてフォームを形成させる工程。
【0034】
連続プロセスには、ノンストップのやり方で、発泡性ポリマー組成物を形成させ、次いでその発泡性ポリマー組成物を膨張させることが含まれる。たとえば、押出機の中で、ポリマー樹脂を加熱して溶融樹脂を形成させ、初期圧力で発泡剤組成物をその溶融樹脂の中へブレンドして発泡性ポリマー組成物を形成させることによって発泡性ポリマー組成物を調製し、次いでダイを通してその発泡性ポリマー組成物を、発泡圧力となっているゾーンの中に押し出して、その発泡性ポリマー組成物を膨張させてフォームとしてもよい。フォームの性質を最適化させるためには、発泡剤を添加した後で、かつダイを通過させて押し出すより前に、その発泡性ポリマー組成物を冷却するのが望ましい。発泡性ポリマー組成物は、たとえば熱交換器を用いて冷却することができる。
【0035】
本発明による、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物を使用した製造したフォームは、シート、厚板、棒状物、筒状物、ビーズまたはそれらの各種組合せなど、想像することが可能ないかなる形状とすることもできる。たとえば、そのフォームには、交互に結合された、識別可能な複数の長手方向のフォーム材料を含む積層フォームも含まれてよい。
【0036】
また別な実施形態においては、本発明は、本明細書に記載されたような、精製され、安定化されたヒドロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロクロロフルオロオレフィンを含む発泡剤組成物にも関するが、それらは、フォームの調製に使用するのに有用である。他の実施形態においては、本発明は、本発明に従って製造された、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物から構成される、ポリウレタンフォーム、ポリイソシアネートフォーム、または熱可塑性フォーム組成物のような発泡性組成物を提供し、さらにはそのような発泡性組成物からフォームを調製するための方法も提供する。そのようなフォームの実施形態においては、精製され、1種または複数の安定剤を添加することによって安定化された、1種または複数の本発明のHFOおよび/またはHCFO組成物が、発泡性組成物中の発泡剤として含まれ、その発泡性組成物にはさらに、フォームまたは気泡構造を形成する適切な条件下で、反応および発泡することが可能な1種または複数のさらなる成分が含まれていても良い。本発明のフォームの実施形態において使用するために、当業界において周知の各種の方法を使用したり、適合させたりしてよい。
【0037】
本発明はさらに、フォームを形成させるための方法にも関し、それには以下の工程が含まれる:
(a)発泡性組成物を、本発明による、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物と組み合わせる工程;および
(b)フォームを形成させるのに有効な条件下で、その発泡性組成物を加工する工程。
【0038】
噴射剤:
本発明のまた別な実施形態は、本明細書に記載されたような、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物の、噴射可能な組成物における噴射剤としての使用に関する。さらには、本発明は、少なくとも1種の活性成分と、本明細書に記載に従って調製された、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物とを含む、噴射可能な組成物にも関する。噴射可能なその活性成分は、1種または複数の不活性成分、溶媒、およびその他の物質と組み合わせて存在させてもよい。その噴射可能な組成物がエーロゾルであるのが好ましい。噴射させるのに好適な活性物質としては以下のものが挙げられる(これらに限定される訳ではない):化粧料物質たとえば、消臭剤、芳香剤、ヘアスプレー、清浄剤、ならびにつや出し剤、さらには医薬品物質たとえば、抗喘息用および口臭防止用の薬剤。
【0039】
本発明はさらに、エーロゾル製品を製造するためのプロセスにも関するが、それに含まれるのは、エーロゾル容器の中で、本明細書に記載されたような、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物を1種または複数の活性成分と組み合わせる工程であり、前記組成物は噴射剤として機能する。
【0040】
消火剤:
本発明のさらなる実施形態は、トータルフラッド適用(total−flood application)において火災を消火または抑制する方法も提供するが、それに含まれるのは、以下の工程である:本発明による、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物を含む薬剤を備える工程;その薬剤を加圧された放出システムの中に収納する工程;およびその薬剤を、領域であって当該領域の火災を消火または抑制するべき領域に放出する工程。また別な実施形態では、火災または爆発を防止するためにある領域を不活化する方法が提供されるが、それに含まれるのは、以下の工程である:本発明による、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物を含む薬剤を備える工程;その薬剤を加圧された放出システムの中に収納する工程;およびその薬剤をその領域に放出して、火災または爆発の発生を防止する工程。
【0041】
「消火(extinguishment)」という用語は通常、火災を完全に除去してしまうことを表すのに使用されるが、それに対して「抑制(suppression)」という用語は、多くの場合、火災または爆発を抑えることを表すのに使用され、必ずしも全面的に除去する必要はない。本明細書で使用するとき、「消火」および「抑制」の用語は、相互に言い換え可能として使用されるであろう。ハロカーボンによる火災および爆発防護用途には、一般的に四つのタイプが存在する。トータルフラッド消火および/または抑制の適用においては、薬剤をある空間に放出して、存在している火災を消火または抑制するのに十分な濃度を達成する。トータルフラッドの使用には、密閉されていて、人間が存在している可能性がある空間(potentially occupied space)たとえばコンピュータルーム、さらには特殊な、多くの場合人間が存在していない空間(often unoccupied space)たとえば航空機のエンジン室および車両のエンジンルームを保護することが含まれる。ストリーミング適用(streaming application)においては、薬剤を、火災の上または火災の領域の中に直接適用する。これは通常、手動で操作される車両取り付け式または可搬式ユニットを使用して実施される。ストリーミング適用に含まれる第二の方法では、「局在化(localized)」システムが使用されるが、それでは薬剤を、一つまたは複数の固定ノズルから火災に向けて放出する。局在化システムは、手動、自動いずれで起動させてもよい。爆発の抑制においては、薬剤を放出して、既に開始されてしまっている爆発を抑制する。「抑制(suppression)」という用語は通常、このような適用で使用されるが、その理由は、爆発は通常、自己制御性だからである。しかしながら、この用語を使用したとしても必ずしも、薬剤によって爆発を無くすことがないということを意味している訳ではない。この適用においては、通常検出器を使用して爆発からのファイアボールを検出し、薬剤を迅速に放出して爆発を抑制する。爆発の抑制は、防御的適用において一次的に使用されるが、単独で使用されることはない。インサーション(insertion)法においては、本発明による、精製され、安定化されたハロオレフィンを空間に放出して、爆発または火災が開始されるのを防止する。多くの場合、トータルフラッド消火または火災抑制に使用されるシステムに類似しているか、または同一のシステムが使用される。
【0042】
通常は、危険な状態の存在(たとえば、可燃性または爆発性のガスの危険濃度)を検出してから、薬剤を放出して、爆発または火災の発生を防止し、その状況を解消することができるまで続ける。
【0043】
その消火方法は、本発明に従って製造された組成物を、火災を取り囲んでいる領域の中に導入することによって、実施することができる。導入のために公知のいかなる方法も使用できるが、ただし、その取り囲んでいる領域の中に、その組成物の適切な量を、適切な間隔で計量注入しなければならない。たとえば、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物を次のような方式を使用して導入することが可能である:ストリーミング方式、たとえば慣用される可搬式(または固定式)の消火装置を使用;ミスト方式;フラッディング方式、たとえば、火炎を取り囲む領域の中に(適切な配管、弁、調節器を使用して)その組成物を放出。任意選択で、その組成物を、不活性な噴射剤、たとえば、窒素、アルゴン、グリシジルアジドポリマーの分解反応生成物、または二酸化炭素と組み合わせて、使用するストリーミングまたはフラッディング装置からその組成物を排出する速度を上げることも可能である。
【0044】
一つの実施形態においては、その消火プロセスには、本発明に従って製造された、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物を、火災または火炎に対して、火災または火炎を消火するのに十分な量で導入することが含まれる。当業者ならば認識するであろうが、特定の火災を消火するのに必要な火炎抑制剤の量は、その危険の性質と大きさに依存するであろう。フラッディング法によって火炎抑制剤を導入する場合、特定のタイプおよび大きさの火災を消火するために必要な火炎抑制剤の量または濃度を決定するには、カップバーナー試験のデータが有用である。
【0045】
溶媒:
本発明の、精製され、安定化されたハロオレフィン組成物は、溶媒としても有用であるが、そこでは、1種または複数の物質が、そのハロオレフィン組成物の中に溶解されて、溶液が得られている。溶媒用途に好適なヒドロクロロフルオロオレフィンおよび/またはヒドロフルオロオレフィンは、典型的には、常圧で18〜60℃の沸点を有するように選択される。そのハロオレフィン製品は、金属と接触した際に化学的に安定でなければならず、そして、たとえば以下に記すような各種のプラスチックと接触させたときに、膨潤を起こさせることがあってはならない:アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、PVC、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンHD、ポリエチレンLD、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ポリスチレン結晶、ポリスチレン1160、ポリプロピレン、ポリアミド11、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、およびポリエーテルブロックアミド;またはエラストマー性材料たとえば、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、水素化ニトリルゴム、ポリクロロプレン、ポリアクリレートゴム、ハイパロンゴム、フルオロカーボンdf、ニトリルゴム、シリコーンエラストマー、ポリイソプレン、ポリブタジエン。有用な溶媒適用法としては、脱フラックス剤として表面からオイルまたはその他の残渣を除去したり、潤滑剤を表面に付与または表面から除去したりするためにそれらハロオレフィン製品を使用することが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【実施例】
【0046】
実施例1
活性アルミナと接触させることによる市販の1234yfの精製
この実施例においては、イオンクロマトグラフィー(IC)により定量分析して、150ppmのトリフルオロ酢酸および200ppmのHFを含む市販の1234yfのサンプルを、85gのEngelhard 4028 アルミナ(あらかじめ150℃で約4時間加熱することによって活性化させておいたもの)の上にフィードした。その乾燥させた活性アルミナは、223m2/gの表面積と0.49g/ccの細孔容積を有しており、22℃で、20cc/mの速度であった。その接触時間は約5.3分間であった。精製した1234yfのICによる分析では、5ppm未満のトリフルオロ酢酸、および5ppm未満のHFしか見いだせなかった。
【0047】
実施例2
酸を含まない1234yfの加速エージング試験
実施例1から得られた酸を含まない1234yfを、エーロゾル用ボトルの中に入れた。空気を存在させたままそのボトルに栓をし、Cu、304SS、およびAlから選択される金属試験片の存在下に50℃で18時間エージングさせた。ICによってその1234yfを分析すると、5ppm未満のトリフルオロ酢酸およびHFしか認められなかった。その金属試験片の目視検査では、腐食または変色の痕跡は認められなかった。
【0048】
実施例3
抑制剤の添加による市販の1234yfの安定化
トリフルオロ酢酸(150ppm)およびHF(200ppm)を含む不純な1234yf(20グラム)を500ppmのα−メチルスチレンと共に、50ccのエーロゾル用ガラスボトルの中に入れた。同じ手順を、それぞれ以下の抑制剤の一つを500ppmずつ含むさらなる5本のボトルに繰り返した:1,2−エポキシブタン、α−ピネンオキシド、β−ピネンオキシド、ヘキサデセンオキシド、およびα−グリシジルイソプロピルエーテル。50℃で18時間のエージングの後、IC分析では、トリフルオロ酢酸またはHFのレベルの増加は、いずれのサンプルにおいても認められなかった。
【0049】
実施例4
活性アルミナとの接触による、市販グレードのt−1233zdの安定化。
トリフルオロ酢酸、HFおよびHClのような不純物を低レベルで含む市販製品(それぞれが約200ppmの濃度で存在していた)のt−1233zdを、実施例1で使用したようにして、市販のアルミナと接触させることにより精製した。そのようにして精製したt−1233zdの分析では、その3種の酸のそれぞれが5ppm未満であることが見いだされた。酸を含まないt−1233zdを、エーロゾル用ボトルの中で、たとえばCu、FeまたはAl試験片のような活性金属試験片の存在下に、加速エージング試験にかけた。50℃で18時間加熱した後で、その製品を分析すると、それら3種の酸のレベルの増加は認められなかった。さらに、金属の腐食または変色の痕跡も認められなかった。
【0050】
実施例5
抑制剤の添加による、市販グレードのt−1233zdの安定化
5本の別々の50ccエーロゾル用ボトル中に、たとえばトリフルオロ酢酸(180ppm)、HCl(220ppm)、およびHF(200ppm)のような不純物を含む市販のHFOのt−1233zdを20g入れた。それぞれのボトルには、1000ppmの抑制剤(α−メチルスチレン、1,2−エポキシブタン、α−ピネンオキシド、β−ピネンオキシド、ヘキサデセンオキシド、α−グリシジルイソプロピルエーテル)も加えておいた。次いで、空気を存在させたままそれらのエーロゾル用ボトルに栓をした。50℃で18時間のエージングの後にICによる分析をすると、トリフルオロ酢酸、HCl、またはHFの濃度の増加は認められなかった。
【国際調査報告】