(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-520535(P2016-520535A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(54)【発明の名称】形成されたエチレンの膜による抽出を含むメタセシス法
(51)【国際特許分類】
C07C 253/30 20060101AFI20160617BHJP
C07C 255/23 20060101ALI20160617BHJP
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B01D 69/12 20060101ALI20160617BHJP
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B01D 69/00 20060101ALI20160617BHJP
B01D 71/24 20060101ALI20160617BHJP
B01J 31/22 20060101ALI20160617BHJP
【FI】
C07C253/30
C07C255/23
B01D61/36
B01D69/02
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B01D71/26
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B01D71/34
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B01D71/70
B01D71/32
B01D69/00
B01D71/24
B01J31/22 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-503708(P2016-503708)
(86)(22)【出願日】2014年3月18日
(85)【翻訳文提出日】2015年9月18日
(86)【国際出願番号】FR2014050628
(87)【国際公開番号】WO2014147337
(87)【国際公開日】20140925
(31)【優先権主張番号】1352413
(32)【優先日】2013年3月19日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュボワ,ジャン−リュック
(72)【発明者】
【氏名】クチュリエ,ジャン−リュック
【テーマコード(参考)】
4D006
4G169
4H006
【Fターム(参考)】
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4H006BD82
(57)【要約】
本発明は、エチレンを反応媒体から抽出するために少なくとも1つの膜を使用することを含み、前記膜が気体に対して透過性であり、液体に対して不透過性であることを特徴とする、2種類のα−オレフィン化合物のメタセシスのための方法に関する。本発明は、より詳しくは、前記少なくとも1つの膜によって隔離された2つのゾーン:反応体と触媒が供給され、液相メタセシス反応を開始させ、液状反応媒体を、該膜で構成された壁と接触させて循環させる第1ゾーン、ならびに−該膜および第1ゾーンの反応媒体の構成要素に対して不活性なガス流が、該反応媒体中に溶解しているエチレンの第1ゾーンから第2ゾーンへの拡散による移動が推進されるように、場合により第1ゾーン内の圧力よりわずかに低い圧力下で、または充分な流速のガス流でのパージの形態で供給される第2ゾーンを備えた反応デバイス内で行われる、2種類のα−オレフィン化合物のメタセシスのための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形成されたエチレンを反応媒体から、気体に対して透過性であり、液体に対して不透過性である少なくとも1つの膜によって抽出することを含むことを特徴とする、2種類のα−オレフィン系化合物のメタセシスのための方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記少なくとも1つの膜によって隔離された2つのゾーン:
試薬と触媒が供給され、液相メタセシス反応を開始させ、液状反応媒体を循環状態で、該膜で構成された壁と接触させて入れる第1ゾーン、ならびに
該膜および第1ゾーンの反応媒体の構成要素に対して不活性なガス流が、該反応媒体中に溶解しているエチレンの第1ゾーンから第2ゾーンへの拡散による移動がもたらされるように、場合により第1ゾーン内で優勢な圧力よりもわずかに低い圧力下で、または充分な流速のガス流でのフラッシングの形態で供給される第2ゾーン
を備えた反応デバイス内で行われることを特徴とする、方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの膜が5から1000μm、好ましくは5から700μm、好ましくは5から300μm、好ましくは10から70μmの範囲の厚さを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの膜が少なくとも1種類の高密度ポリマーを含むものである少なくとも1つの層を備えている、好ましくは、前記少なくとも1つの膜が高密度ポリマーで作製された単一の層であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの膜が非対称であり、多孔質層と高密度ポリマー層を備えており、ここで、前記非対称膜の総厚が5から300μm、好ましくは10から70μmの範囲であり、該高密度膜の厚さが0.01から10μm、好ましくは0.1から1μmの範囲であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの膜が中空繊維の形態であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
中空繊維が、50から1000μm、好ましくは150から700μm、より好ましくは250から300μmの範囲の外径および30から300μmの範囲の繊維内径を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項6および7のいずれかに記載の方法であって、メタセシス反応器中に浸漬させた中空繊維束の存在下で行われ、これによって、エチレンをガスのフラッシングによって、好ましくは繊維内部でのガスのフラッシングによって回収および抽出し、前記ガスのフラッシングは好ましくは該反応器の圧力のわずかに下の圧力を有することを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法であって、メタセシス反応が、少なくとも1つのエチレン抽出モジュールを備えた膜分離デバイスに接続した反応器内で行われ、該モジュールによって、反応媒体から誘導される少なくとも1種類の液体流がエチレンの抽出のために該膜分離デバイスに送出され、前記デバイスから排出された少なくとも1種類の液体流が反応の継続のために該反応器内に戻されることを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、2つの熱交換器もまた使用され、第1は、膜分離デバイスの上流において液体流の温度を膜セパレータの動作閾値まで下げるため、および第2は、該膜分離デバイスの下流において排出された液状物体流の温度を反応器の反応媒体の温度レベルまで上げるために使用される、方法。
【請求項11】
請求項1から10うちの1つに記載の方法であって、前記少なくとも1つの膜の組成物に使用され得るポリマーが、撥油性ポリマー、例えば、ポリオレフィン、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−3−メチルブテン−1およびポリ(4−メチル−1−ペンテン)(PMP);ビニル ポリマー、例えば、ポリスチレン、PMMA(ポリメチルメタクリレート);ポリスルホン;フッ素化または塩素化ポリマー、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フルオロビニルエチレン/テトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロプレン(PCP);ポリアミド、例えば、ナイロン6、ナイロン66およびナイロン12;ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブテンテレフタレートおよびポリエチレン−2,6−ナフタレート;ポリカーボネート、例えば、ポリ−4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパンカーボネート;ポリエーテル、例えば、ポリオキシメチレンおよびポリメチレンスルフィド;ポリフェニレンカルコゲニド、例えば、ポリチオエーテル、ポリフェニレンオキシドおよびポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテル ケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン ケトン(cetone)(PEKK)、シリコーン、例えば、ポリビニルトリメチルシロキサン(PVTMS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、パーフルオロアルコキシ(PFA)から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項12】
高密度膜が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびパーフルオロアルコキシ(PFA)ならびにこの混合物から選択される少なくとも1種類のポリマーを含むものであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
メタセシス反応が、液状媒体中、触媒の存在下、20から160℃、好ましくは20から120℃の範囲の温度および1から30バールの範囲、好ましくは1から10バールの範囲の圧力、より好ましくは、関与する試薬の沸点により許容される場合では大気圧で行われることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
反応が、トルエン、キシレンおよびジクロロメタンから選択される少なくとも1種類の溶媒の存在下で行われることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の方法であって、反応がルテニウム−カルベン型のメタセシス触媒の存在下で行われ、前記ルテニウム−カルベン触媒が、好ましくは、一般式:
(X1)a(X2)bRu(カルベンC)(L1)c(L2)d(L3)e
(式中:
a、b、c、dおよびeは整数であり、これらは同一であっても異なっていてもよく、aとbは0、1または2であり;c、dおよびeは0、1、2、3または4であり;
X1およびX2は、同一であっても異なっていてもよく、各々は、荷電または非荷電のモノキレート配位子またはポリキレート配位子を表し;挙げられ得る例としては
フェノキシド、アミド、トシレート、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、ビス(トリフリル)アミド、アルキル、テトラフェニルボレートおよび誘導体が挙げられ;X1またはX2は、L1もしくはL2またはカルベンCに、ルテニウム上に二座配位子またはキレートが形成されるように結合していてもよく;
L1、L2およびL3は、同一であっても異なっていてもよく、電子供与性配位子、例えば、ホスフィン、ホスファイト、ホスホナイト、ホスフィナイト、アルシン、スチルベン、オレフィンもしくは芳香族化合物、カルボニル化合物、エーテル、アルコール、アミン、ピリジンもしくは誘導体、イミン、チオエーテル、または複素環式カルベンであり;L1、L2もしくはL3はカルベンCに、二座配位子もしくはキレート配位子または三座配位子が形成されるように結合していてもよく、
カルベンCは一般式:CR1R2で表され、ここで、R1およびR2は、同一であっても異なっていてもよい基であり、例えば、水素であるか、または飽和型、不飽和、環式、芳香族、分枝型および/または線状型の任意の他の官能化もしくは非官能化炭化水素系の基である。)
の荷電または非荷電の触媒から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、触媒が、アルキリデン、ベンジリデン、ベンジリデンエーテルまたはクミレン(cumylene)ルテニウム錯体、例えば、ビニリデンRu=C=CHRもしくはアレニリデンRu=C=C=CR1R2もしくはインデニリデン、場合により配位子X1、X2、L1、L2のうちの少なくとも1つまたはカルベンC上にグラフトされた官能基(ルテニウム錯体のイオン液体での保持を改善するため)から選択され、この官能基は、場合により、荷電または非荷電のもの、例えば、エステル、エーテル、チオール、酸、アルコール、アミン、含窒素複素環、スルホネート、カルボキシレート、第4級アンモニウム、グアニジニウム、第4級ホスホニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、モルホリニウムまたはスルホニウムであることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に至った研究は、欧州連合からFramework Program 7(FP7/2007−2013)との関連においてプロジェクト番号241718 EUROBIOREFの下で資金援助を受けた。
【0002】
本発明は、形成されたエチレンを反応媒体から、気体に対して透過性であり、液体に対して不透過性である(impermeable liquids)少なくとも1つの膜によって抽出することを含むメタセシス法に関する。
【背景技術】
【0003】
クロスメタセシス反応はスキームA+B⇔C+Dによる平衡反応であり、この場合、平衡に近づくと逆反応が起こる。一般に、所望の最終生成物であるスキーム内のCまたはDの合成を得るためには、反応の平衡を、一方の試薬を他方に対して過剰に供給すること、または合成された生成物の1つを、形成されるにつれて徐々に除去することのいずれかによってシフトさせる。
【0004】
一方の試薬を過剰に供給することを本質とする経路には制限がある。具体的には、メタセシスは、クロスメタセシス反応に効率的な触媒が、上記のスキームの化合物AおよびBの各々のホモメタセシス反応もまた促進させる触媒反応であり、このホモメタセシス反応は常に主反応に付随する。これにより、反応器内には分離が困難な混合物がもたらされる。
【0005】
メタセシス反応にみられる別の問題は、特定のメタセシス試薬および生成物の作用下における触媒の失活または阻害であり、この触媒は、指摘すべきことには高価である。従って、触媒の急速な失活/阻害を回避するためには、このような試薬および/または生成物を低濃度で用いて作業することが望ましかろう。
【0006】
メタセシス反応は、液相中で、一般的にルテニウム化合物ファミリー(後述する。)に属する触媒の存在下で行われる。反応条件下での液状形態の化合物CまたはDの連続的完全分離は、事実上、反応器内では不可能である。具体的には、生成物は液状形態および/または反応媒体に可溶性の形態で存在し、この沸点は触媒の安定性範囲とは不適合性であり、このため、連続蒸留を想定することが可能でない。ある特定数の場合では、試薬AまたはBと生成物CまたはDの物理化学的特性が比較的類似している。従って、分離の問題に直面しないように、試薬の高い変換を伴うように作業することが好ましい。これとの関連において、業界ではメタセシス反応を、メタセシスによってガス状のオレフィン系化合物を形成し得る共試薬AおよびBを用いて行なうことが選択され、ガス状のオレフィン系化合物は反応媒体から蒸留によって抽出され得る。このようなオレフィン系化合物は、例えば、エチレン、プロピレンまたはブテンであり、沸点が最低であるエチレンが好ましい。
【0007】
化合物CまたはDのうち一方が軽量化合物である場合、これは、一部、総圧を下げること(部分真空下での作業により)(だが、この溶液は、偶発的に酸素が反応器内に導入されるリスクも有する。)、または反応媒体を加熱してこの蒸気圧を上げることのいずれかによる「連続蒸留」によって除去され得る。しかしながら、後者の溶液では、熱による失活によって触媒の寿命が低下し、ホモメタセシス反応に相対するクロスメタセシスの選択性が低下し、二重結合のシフトによる異性化反応が促進される傾向を有する。従って、低温および高温に好ましく同等に適用可能な技術的解決策が追求されている。
【0008】
クロスメタセシス反応を試薬または生成物としてα−オレフィンの存在下で行う場合、触媒はこの活性が経時的に急速に失われ得ることが知られており、これに関しては、Jim Patel et al.による刊行物である標題High conversion and productive catalyst turnovers in cross−metathesis reactions of natural oils with 2−butene published in Green Chem.,2006,8,pp.450−454を参照されたい。エチレンを伴うメタセシス反応の場合、触媒は変換を受け、これによりメタセシスが大きく阻害される。この阻害は、触媒による種、例えばRu=CH
2などの形成に起因するものであり得ると考えられ、このため触媒は非常に急速に非活性化状態になり、従って触媒の大量減損がもたらされる。
【0009】
この問題を解決するためには、液相中において、反応媒体中に溶存する末端二重結合(1つまたは複数)を含む種、特にエチレンの存在を制限することが必要である。
【0010】
試薬自体に末端二重結合が含まれている場合、唯一の可能性は、形成されたエチレンを液状反応媒体から除去することである。エチレンは気体であり、これは、低沸点のため蒸留によって反応液から自然に除去される。しかしながら、液状反応媒体中へのこの溶解度は温度に依存し、反応温度が低いほど比例的に大きくなる。媒体中への溶解度を下げるために反応を高温で行うことが想定され得る。しかしながら、高温では、溶媒、動作圧力、触媒の分解、反応の選択性などの点において、より高価な他の操作条件が強いられる。
【0011】
エチレン除去のための既存の解決策は、エチレンを120℃より上の温度での蒸留によってエントレインメントすること(これは、熱による触媒の分解がもたらされる傾向を有する。)またはエチレンをより急速に除去するために部分真空下で反応媒体を用いて作業すること(だが、この解決策は、真空によって方法のコストがかなり増大するため産業的に好ましくない。)のいずれかを本質とするものである。
【0012】
従って、i)エチレンの低溶解度およびより多くのガス状エチレンのエントレインメントを有することを可能にする高温と、ii)触媒の熱による失活が制限されるのに充分に低い温度の間で妥協案が見出されなければならない。
【0013】
従って、本発明の目的は、エチレンがメタセシス反応中に可能な限り急速に除去されるメタセシス法を提供することである。特に、本発明の目的は、低温および高温で機能を果たし得、メタセシス反応の阻害が抑制され得るかかる方法を提供することである。
【0014】
本出願人は、ここに、完全に驚くべきことに予期せずして、メタセシス反応媒体を、気体に対して透過性の膜システムに循環させることにより、反応媒体の液相中で形成されて一部溶解しているエチレンを回収すること、反応の阻害を制限すること、さらには、メタセシス触媒の必要量を低減させると同時にメタセシス反応の性能を改善することが可能であることを見出した。
【0015】
気体を液体から除去するため、または逆に液体を気体にするために膜またはより一般的には膜システムを使用することは既知の実務である。これとの関連において、FME Transactions vol.31,No.2,pp.91−98(2003)に公開されたMiroslav Stanojevic et al.による論文である標題Review of membrane contactors designs and applications of different modules in industryが挙げられ得る。水性系の脱気または気体化の標準的な適用に加えて、このような手法の他の既知の産業上の利用としては:誘電性またはハイドロリック有機流体の脱気、インクジェットプリンター用インクの脱気および食品産業における多孔質または高密度膜による一連の完全分離が挙げられる。
【0016】
特許US6217634には、誘電性流体の分解(これは変圧器の破壊をもたらし得る。)中に形成されるガスを除去するための膜システムの使用が記載されている。この方法は、一般的に、産業的処理を真空抽出による軽量ガスの除去に適合させる目的で、変圧器の挙動を制御するために使用される。
【0017】
特許US8205977には、印刷時に画素が存在しないという問題を回避するためにインクジェットプリンター用インクを脱気するための同様の方法が記載されている。
【0018】
特許US6402810には、有機ハイドロリック流体の膜媒介性脱気および脱水ための方法が記載されている。
【0019】
特許US6790262には、液状物、より詳しくはインクを脱気するための膜デバイスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第6217634号明細書
【特許文献2】米国特許第8205977号明細書
【特許文献3】米国特許第6402810号明細書
【特許文献4】米国特許第6790262号明細書
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Jim Patel et al.、High conversion and productive catalyst turnovers in cross−metathesis reactions of natural oils with 2−butene published in Green Chem.,2006,8,pp.450−454
【非特許文献2】Miroslav Stanojevic et al.、Review of membrane contactors designs and applications of different modules in industry,FME Transactions vol.31,No.2,pp.91−98(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上記の先行技術は、単に、液状物を精製して一般的にガス状の不純物を抽出することに専念したものである。本発明の方法によって解決される問題は、不純物を除去することではなく、該方法の性能が改善されるように反応媒体から反応中に、生成されたエチレンの全部または一部を抽出することである。この問題に対する解決策は、クロスメタセシス反応デバイスに搭載される膜システムの使用により合格となる。
【0023】
先行技術の上記の目的の用途に使用される膜のほとんどは不適切であることが示されており、多くの理由のため、例えば:
i)単一の過度に厚い高密度膜によるガスの拡散に対する抵抗性
ii)気体に対する不充分な透過性、「目詰まり」の引き起こされ易さ、反応の減速、またはさらにはこの阻止、
iii)不充分な薬品安定性、
iv)高温での膜の膨潤、
v)膜と溶媒、またはさらには試薬もしくは生成物自体との化学的不適合、膜の経年変化および分解の加速の問題に反映される、
vi)変換度の低い反応などが引き起こされる触媒の阻害
のため、本発明の方法によって提示される新たな問題を満足するものではない。
【0024】
既存の膜手法では、最低限でも、操作条件および種々の化学生成物が完全に異なるのため、前述の問題は満足に解決されない。
【0025】
従って、本発明の目的は、エチレンを除去するための系が使用されており、適合された選択的透過性、良好な温度安定性および反応媒体中に存在する種々の生成物に対する薬品安定性を同時に有する新規なメタセシス法を提供することである。
【0026】
次に、本発明を、以下の説明において、より詳細に非限定的な様式で説明する。
【課題を解決するための手段】
【0027】
従って、本発明の主題は、形成されたエチレンを反応媒体から、気体に対して透過性であり、液体に対して不透過性である少なくとも1つの膜によって抽出することを含むことを特徴とする、2種類のα−オレフィン系化合物のメタセシスのための方法である。
【0028】
本発明の方法は、より詳しくは2種類のα−オレフィン系化合物のメタセシスに関し、気体に対して透過性であり、液体に対して不透過性である少なくとも1つの膜によって隔離された2つのゾーン:
試薬と触媒が供給され、液相メタセシス反応を開始させ、液状反応媒体を循環状態で、該膜で構成された壁と接触させて入れる第1ゾーン;ならびに
該膜および第1ゾーンの反応媒体の構成要素に対して不活性なガス流が、該反応媒体中に溶解しているエチレンの第1ゾーンから第2ゾーンへの拡散による移動がもたらされるように、場合により第1ゾーン内で優勢な圧力よりもわずかに低い圧力下で、または充分な流速のガス流でのフラッシングの形態で供給される第2ゾーン
を備えた反応デバイス内で行われることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の方法は、エチレンの形成を伴うメタセシス反応に適用される。本発明の方法は、特に、2種類の官能化または非官能化α−オレフィン系化合物のクロスメタセシスに適用される。
【0030】
本発明の方法は、より詳しくは、ω−不飽和官能性化合物と官能化または非官能化軽α−オレフィンとのクロスメタセシスに適用される。最後に、本発明の方法はまた、官能性α−オレフィン系化合物のホモメタセシスによる対称な二官能性化合物の合成にも使用され得る。
【0031】
本記載において、本発明の解釈上、以下の定義を適用する:
「α−オレフィン系化合物」、式R
1R
2C=CH
2の末端二重結合を有する官能化または非官能化分子、式中、R
1およびR
2は、同一であっても異なっていてもよく、H、1から14個の炭素原子を含み、場合により官能部、例えば:酸、エステル、ニトリル、アルコール、アルデヒドなどを含むアルキル、アルケニルまたはアリール原子団である(R
1とR
2が同時にHであることはないことを指摘しておく。);
「軽α−オレフィン」(または軽オレフィン)、3から5個、好ましくは3から4個の炭素原子を含み、場合により1つ以上の酸官能部、エステル官能部またはニトリル官能部、例えば、アクリロニトリル、アルキルアクリレートなどを有するオレフィン;
「反応デバイス」、この位置に関係なく、液状反応媒体が閉回路内で循環するすべての要素。
【0032】
本発明の方法により、特に、単官能性または二官能性の脂肪酸/エステルの合成が可能である。本発明の方法に使用される出発物質は、好都合には、二重結合(1つまたは複数)が原則的には6、9、10、11、12、13または15位に存在する天然起源の不飽和脂肪酸/エステル/ニトリルである。この脂肪酸エステル/酸/ニトリルは、特に、予備加エチレン分解反応または熱分解(thermal cracking/pyrolysis)に供し、式CH
2=CH−(CH
2)
n−R(式中、RはCOOH、COOR
3またはCNであり、R
3は、1から11個の炭素原子を含むアルキル原子団であり、nは3から13の範囲の整数である。)のω−不飽和脂肪酸/エステル/ニトリル化合物を得ることにより修飾することが必要である。
【0033】
クロスメタセシス反応は、液状媒体中、触媒の存在下、以下の操作条件下で行われる。温度は、一般的に20から160℃、好ましくは20から120℃の範囲である。圧力は、一般的に1から30バールの範囲である。反応は、好ましくは1から10バールの範囲の低圧で、より好ましくは大気圧で、使用する試薬の沸点で可能な場合、行われる。具体的には、エチレンの発生を目的とする限り、低圧、好ましくは大気圧で作業することが好都合である。反応は溶媒なしで行ってもよく、少なくとも1種類の溶媒、例えば、トルエン、キシレン、またはジクロロメタンなどの存在下で行ってもよい。反応は、好ましくは溶媒なしで行われる。
【0034】
一方において、第1ゾーンは、好ましくは、反応媒体上部に形成された気相、特に、生成されたエチレンを抽出するための手段、また、反応終了時に前記反応媒体を抽出するための手段も備えている。他方、第2ゾーンは、エチレンが富化されたガス流を抽出するための手段を備えている。
【0035】
本発明により、メタセシス反応中に形成され、特に反応媒体の液相中に溶解しているエチレンの抽出を可能にすることにより、先行技術のメタセシス法の欠点を解消することが可能である。本発明は、より詳しくは、官能性α−オレフィン系化合物と軽オレフィン、例えば、プロピレンもしくはブテンと、または官能化オレフィン、例えば、アクリロニトリルもしくはメチルアクリレートとのクロスメタセシスにより、直接、これまで慣用的なメタセシス法によって得ることが不可能であった変換度を得るための方法を提供する。
【0036】
好ましくは、本発明の方法は、一方において、気相中に存在するエチレンの連続除去を含み、他方で、気体のみに透過性である膜による拡散により、液状反応媒体中に溶解しているエチレンの同時除去を含む。この二重除去により反応収率を上げることが可能である。
【0037】
好都合には、本発明の方法は、気体に対して透過性であり、液体に対して不透過性である膜によって隔離された少なくとも2つのゾーンを備えた反応デバイス内で行われる。
【0038】
または、産業的には、該方法の実施中、接触面を増大させることが重要であるため、例えば、反応ゾーンとエチレン抽出ゾーンが画定された複数の膜または複数の膜システムが該方法の実施のためにのために好ましく使用される。
【0039】
膜には主に2つの型、一方において種々の型の濾過に使用される多孔質または微多孔質の膜、および選択的透過性が溶液−拡散機構に基づいている高密度膜がある。本発明の方法では、少なくとも1つの高密度膜がエチレンの分離および選択的抽出に使用される。
【0040】
好都合には、本発明に従って使用される膜は少なくとも一部がポリマーで形成されている。液体に対する不透過性は、反応によって生成するエチレンの拡散も許容するはずである少なくとも1種類の「高密度」均一系ポリマーの使用を示す。高密度ポリマー膜は、全体が膜で構成されていてもよく(単層膜)、高密度ポリマーを他の材料と併用する場合(複合膜)は膜の一部だけを構成していてもよく、または、膜システムに機械的強度を付与する多孔質支持体膜上に成膜した薄膜の形態で支持させてもよい(非対称膜)。後者の場合、高密度膜は厚みがずっと小さく、これによっても、ガス拡散抵抗性を低減させることが可能になる。多孔質支持体膜は細孔を備えており、このサイズは、一般的に0.01から50μmの範囲である。
【0041】
任意の形態の膜が使用され得るが、好ましくは、幾つかの技術的要件を累積的に満足するものである:
反応媒体の液状物に対して不透過性であるが、反応から誘導されるガス状の化合物に対しては良好な透過性を有するものでなければならない;
液状物ゾーンとガスゾーンの圧力差に耐えるための充分な機械的強度を有するものでなければならない;
触媒、試薬および反応生成物に対して不活性でなければならず、相関的に、性能の低下をもたらし得るこのような薬剤の物理的または化学的作用(あれば)に対して感受性であってはならない、
反応方法中の変動に耐えるための良好な温度抵抗性を有するものでなければならない。
【0042】
該膜の機械的強度は、この厚さと直接関連する。適切な機械的強度を有する膜の厚さは、一般的に5から1000μm、好ましくは5から700μm、好ましくは5から300μm、好ましくは10から70μmの範囲である。非対称膜を使用する場合、総厚は、好ましくは5から300μm、好ましくは10から70μmの範囲であり、高密度膜の厚さは、一般的に0.01から10μm、好ましくは0.1から1μmの範囲である。
【0043】
先の基準が重んじられるが、本発明の方法における膜の性質の選択は、適切な場合は、膜との相互作用(あれば)が回避されるように反応媒体、触媒、試薬、生成物および溶媒に依存する。最も一般的な結果は、液状反応媒体中に形成される生成物の変換に加えて、液状媒体中でのメタセシス反応が妨害、またはさらには阻止され得る膜の障害である。
【0044】
第1の実施形態によれば、本発明の方法では、少なくとも1つの単層の高密度ポリマー膜、即ち、少なくとも一部が非多孔質の均一系ポリマーからなり、エチレンに対して透過性であるが液体に対しては不透過性である膜が使用される。
【0045】
第2の実施形態(これは、先の実施形態の代替例であるか、または先の実施形態と併用してもよい。)によれば、本発明の方法では、多孔質層(好ましくはポリマーで作製されている。)を備えた少なくとも1つの非対称ポリマー膜が使用され、該多孔質層は、気体および液体に対して透過性であり、連続する(非多孔質の)高密度ポリマー膜の層で被覆されており、該高密度ポリマー膜は、エチレンに対して透過性であるが液体に対しては不透過性であり、好ましくは該多孔質層よりも厚みが小さい。
【0046】
この第2の構成では、ガスは、高密度ポリマーの層の厚みが小さいため拡散に対する抵抗性が小さくなり、これによって、この拡散方法を加速させることが可能になる。従って、この型の混合型非対称膜は本発明の方法に好ましい。
【0047】
また、本発明の方法に使用される膜の形態は、使用される反応器の型および目的の産業上の目的の関数として選択される。膜は、適切な寸法の平坦な膜の形態、管状もしくは円筒型の膜の形態または中空繊維の形態であり得る。
【0048】
単位中空繊維(または管状膜)は、一般的に50から1000μm、好ましくは150から700μm、より好ましくは250から300μmの範囲の外径を有する。該繊維の内径は、一般的に30から300μmの範囲である。中空繊維または管状膜の場合、膜の厚さは好ましくは10から70μmの範囲であり、非対称膜の場合の高密度膜の厚さは好ましくは0.01から10μmの範囲である。
【0049】
用語「モジュール」または「膜モジュール」は、以下、本明細書において1つ以上の膜によって形成されたアセンブリをいう。中空繊維モジュール(1つまたは複数)の使用、程度は低いが、管状膜または円筒型の膜モジュール(1つまたは複数)の使用では、処理される反応媒体の容量に対する交換表面積の比率を増大させること、形成されたエチレンの抽出を加速させること、従って、本発明の方法の有効性をさらに増大させることが可能になるため、平坦な膜よりも特に好都合な解決策が構成される。従って、該方法では、好ましくは中空繊維の形態の1つ以上の膜が使用され、処理される液状物の単位容量あたりの交換表面積の比率を平坦な膜の場合よりも大きくすることが可能になる。
【0050】
本発明の方法の第1の実施形態によれば、中空繊維束の形態のモジュールを反応器中に浸漬させ、該反応器内でメタセシス反応を行い、エチレンを、好ましくは該繊維内部でガスのフラッシングによって回収および抽出する。適切な場合は、該反応器の圧力のわずかに下の圧力をフラッシング時に負荷する。これは、当然、使用される繊維が、メタセシスの温度および圧力操作条件と適合性である熱的/機械的強度を有していることが想定されている。逆の様式で進行させること、即ち、各繊維内部で反応を行い、該繊維周辺(該繊維の周囲)の空間(適切な場合は圧力差が負荷される。)からのガス流によってエチレンの抽出を行うことも可能である。しかしながら、かかる解決策は、特に、繊維内部の圧力低下の問題が起こり得るという理由であまり好ましくない。
【0051】
本発明の方法の第2の実施形態によれば、メタセシス反応は、(例えば、底部で)少なくとも1つのエチレン抽出モジュールを備えた膜分離デバイスに接続された反応器内で行われる。従って、反応媒体からの液体流の一部が膜分離デバイスに、例えばポンプによって送出される。前記デバイスから排出された液体流は反応の継続のために該反応器内に戻される。この型の構成は、膜分離デバイスにに送出された液状反応媒体の温度を制御することができるという利点を有する。具体的には、反応の温度条件が良好な抽出有効性と不適合性である場合、例えば過度に高温の場合、2つの熱交換器を回路内に、第1のものはセパレータの上流に、液体流の温度を動作閾値まで下げるために、および第2のものは下流に、液体流の温度をこの再利用前に反応器の反応媒体の温度レベルまで上げるために挿入する。
【0052】
第2の実施形態では、液状反応媒体が該膜分離デバイスに送出される。該デバイスは、好都合には幾つかの型のモジュールから選択され、従って、最も適切なものは、特に、平坦なモジュール、らせん状のモジュールまたは中空繊維モジュールである。
【0053】
少なくとも1つの管状膜(モジュール)(または中空繊維モジュール)が使用される本発明の方法のまた別の実施形態によれば、反応媒体をモジュール内の膜(繊維)内部で循環させ、該モジュール内で、エチレンが富化される気相を循環させる。また、逆の様式で進行させること、即ち、抽出ガスを繊維内部で循環させ、反応媒体をモジュールの残余の空き空間内に循環させることも可能である。
【0054】
モジュール内部において、エチレンの抽出は、逆流、向流または逆流、好ましくは逆流によって行われ得る。
【0055】
この型のモジュールにより、供給流と抽出流の間の膜の交換表面積をかなり増大させることが可能である。
【0056】
単一の層として単独で、または多孔質膜と併用した非対称形態のいずれかで使用される高密度膜のためのポリマー(1種類または複数種)の選択基準の1つは、この撥油性の性質である。また、該ポリマーは、好ましくは、メタセシス反応の動作温度で、反応媒体に対して熱交換を適用する必要なく使用可能であるように耐熱性である。最後に、メタセシス反応に関与する試薬、生成物または溶媒に対する物理的および化学的不活性さを確認することが重要である。
【0057】
本発明の方法に使用され得る膜の組成物に含められ得るポリマーの例としては、ポリオレフィン、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−3−メチルブテン−1およびポリ(4−メチル−1−ペンテン)(PMP);ビニル ポリマー、例えば、ポリスチレン、PMMA(ポリメチルメタクリレート);ポリスルホン;フッ素化または塩素化ポリマー、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フルオロビニルエチレン/テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール(PDD)、パーフルオロアルコキシ(PFA)、ポリクロロプレン(PCP);ポリアミド、例えば、ナイロン6、ナイロン66およびナイロン12;ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブテンテレフタレートおよびポリエチレン−2,6−ナフタレート;ポリカーボネート、例えば、ポリ−4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパンカーボネート;ポリエーテル、例えば、ポリオキシメチレンおよびポリメチレンスルフィド;ポリフェニレンカルコゲニド、例えば、ポリチオエーテル、ポリフェニレンオキシドおよびポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテル ケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン ケトン(PEKK)、シリコーン、例えば、ポリビニルトリメチルシロキサン(PVTMS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、パーフルオロアルコキシ(PFA)およびポリクロロプレン(PCP)が挙げられ得る。
【0058】
上記のポリマーの中でも、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール(PDD)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびパーフルオロアルコキシ(PFA)ならびにこの混合物が、本発明の方法による膜の組成物に好ましい。
【0059】
本発明に特に適切な中空繊維は、高密度膜との組み合わせで、種々の多孔質物質、例えば、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはポリスルホンを用いて製造され得る。一例として、中空繊維の内側および/または外側は、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール(PDD)と種々の量のテトラフルオロエチレン(TFE)の非晶質コポリマーである厚さが0.01から10μmの範囲のであり得る高密度薄層で被覆される。また、他のフルオロポリマーも成功裏に使用され得る。例えば、Teflon(R)AF 2400およびTeflon(R)AF 1600(Pont de Nemours and Co製のEI)は、本発明の方法における使用に適切な2つのコポリマーである。この層は有機反応媒体に対してバリアを構成し、良好な機械的強度を有すると同時に、エチレンに対して充分に透過性であり、ガス状ゾーンにへの急速な拡散を可能にする。
【0060】
メタセシス反応は、少なくとも1種類のメタセシス触媒の存在下で行われる。このような触媒はよく知られており、全範囲の該触媒が存在する。例えば、Schrock et al(J.Am.Chem.Soc.108:2771,1986)またはBasset et al.(Angew.Chem.,Ed.Engl.31:628,1992)によって開発されたタングステン錯体が挙げられ得る。つい最近、均一系触媒反応で作用するルテニウム−ベンジリデン錯体であるグラブス触媒と称される触媒が登場した(Grubbs et al.,Angew.Chem.,Ed.Engl.34:2039,1995およびOrganic Letters 1:953,1999参照)。固定化触媒、即ち、活性成分が均一系触媒のもの、特に、不活性支持体上に定化されたルテニウム−カルベン錯体である触媒を作製するために他の試験も行われている。
【0061】
本発明による方法では、好都合には、ルテニウム−カルベン型の少なくとも1種類のメタセシス触媒が使用される。前記ルテニウム−カルベン触媒は、好ましくは、一般式:
(X
1)
a(X
2)
bRu(カルベンC)(L
1)
c(L
2)
d(L
3)
e
(式中:
a、b、c、dおよびeは整数であり、これらは同一であっても異なっていてもよく、aとbは0、1または2であり;c、dおよびeは0、1、2、3または4であり;
X
1およびX
2は、同一であっても異なっていてもよく、各々は、荷電または非荷電のモノキレート配位子またはポリキレート配位子を表し;一例として、ハライド、スルフェート、カーボネート、カルボキシレート、アルコキシド、フェノキシド、アミド、トシレート、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、ビス(トリフリル)アミド、アルキル、テトラフェニルボレートおよび誘導体が挙げられ得;X
1またはX
2は、L
1もしくはL
2またはカルベンCに、ルテニウム上に二座配位子またはキレート配位子が形成されるように結合していてもよく;
L
1、L
2およびL
3は、同一であっても異なっていてもよく、電子供与性配位子、例えば、ホスフィン、ホスファイト、ホスホナイト、ホスフィナイト、アルシン、スチルベン、オレフィンもしくは芳香族化合物、カルボニル化合物、エーテル、アルコール、アミン、ピリジンもしくは誘導体、イミン、チオエーテル、または複素環式カルベンであり;L
1、L
2またはL
3はカルベンCに、二座配位子もしくはキレート配位子または三座配位子が形成されるように結合していてもよい。)
の荷電または非荷電の触媒から選択される。
【0062】
カルベンCは一般式:CR
1R
2で表され、式中、R
1およびR
2は、同一であっても異なっていてもよい基であり、例えば、水素であるか、または飽和型、不飽和、環式、芳香族、分枝型および/または線状型の任意の他の官能化もしくは非官能化炭化水素系の基である。一例として、ルテニウムアルキリデン、ベンジリデン、ベンジリデンエーテルまたはクミレン(cumylene)錯体、例えば、ビニリデンRu=C=CHRもしくはアレニリデンRu=C=C=CR
1R
2もしくはインデニリデンが挙げられ得る。
【0063】
官能基(ルテニウム錯体のイオン液体での保持が改善されることを可能にする。)を配位子X
1、X
2、L
1、L
2のうちの少なくとも1つ、またはカルベンCにグラフトさせてもよい。この官能基は電荷を有するものであっても電荷を有しないものであってもよく、例えば、好ましくは、エステル、エーテル、チオール、酸、アルコール、アミン、含窒素複素環、スルホネート、カルボキシレート、第4級アンモニウム、グアニジニウム、第4級ホスホニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、モルホリニウムまたはスルホニウムであり得る。
【0064】
メタセシス触媒は、この回収/再利用を容易にするために、場合により支持体上において不均一系にしてもよい。
【0065】
本発明の方法のクロスメタセシス触媒は、好ましくは、例えばAldrichimica Acta,vol.40,no.2,2007,p.45−52に記載されたルテニウムカルベンである。
【0066】
かかる触媒の例はグラブス触媒、ホベイダ−グラブス触媒、ピアーズ(Piers)−グラブス触媒、および同じ型の他のメタセシス触媒(「第1世代」、「第2世代」または「第3世代」触媒のいずれであれ)である。
【0067】
グラブス触媒は、5つの配位子:
2つのアニオン性配位子、例えば、ハライド;
2つの電子供与性配位子、例えば、トリアルキルホスフィンまたは飽和型N−複素環式カルベン(NHC配位子と称される。);
アルキリデン基、例えば、置換または非置換のメチレン基=CR
2
で囲まれたルテニウム原子を基本とするものである。
【0068】
このようなメタセシス触媒は、この電子供与性配位子Lの性質に応じて、2つのカテゴリーに分類され:
2つのホスフィン配位子(飽和型NHC配位子でない。)を含み、最初に開発されたものは第1世代型触媒であり;
飽和型NHC配位子(複素環式カルベン)を含むものは第2世代型触媒である。
【0069】
「ホベイダ−グラブス」触媒として知られている型の触媒は、
電子供与性配位子の中でも、
ベンジリデン−エーテルキレート配位子、およびホスフィン(第1世代)または飽和型NHC配位子(第2世代)のいずれか(通常、フェニルで置換されており、一般的にはメシチル(Mes)基または他にはイソプロピル(iPr)基で置換されている。)を含むものである。
【0070】
「ピアーズ−グラブス」触媒と称される別の型の触媒は四配位子のカチオン錯体を形成しているものであり、これは、反応前の配位子の解離を必要としない。
【0071】
他の型の触媒は「ユミコア」、「ザナン(Zanan)」および「グレラ(Grela)」触媒である。
【0072】
一般的に、触媒の選択は考慮対象の反応に依存する。
【0073】
好都合な一実施形態によれば、触媒はホスフィンを含まないものである。
【0074】
好ましい触媒は以下の触媒である:
(1)「ホベイダ−グラブス2」と表示され、下記の式:
【0075】
【化1】
を有する触媒
(2)「M51」と表示され、下記の式:
【0076】
【化2】
を有する触媒
(3)「M71−SIPr」と表示され、下記の式:
【0077】
【化3】
を有する触媒
(4)「M71−SIMes」と表示され、下記の式:
【0078】
【化4】
を有する触媒
(5)「M72−SIPr」と表示され、下記の式:
【0079】
【化5】
を有する触媒
(6)「M73−SIPr」と表示され、下記の式:
【0080】
【化6】
を有する触媒
(7)「M74−SIPr」と表示され、下記の式:
【0081】
【化7】
を有する触媒
(8)「ニトロ−グレラ−SIMes」と表示され、下記の式:
【0082】
【化8】
を有する触媒
(9)「ニトロ−グレラ−SIPr」と表示され、下記の式:
【0083】
【化9】
を有する触媒
(10)「Apeiron AS2034」と表示され、下記の式:
【0084】
【化10】
を有する触媒
(11)「ザナン44−0082(Strem)」と表示され、下記の式:
【0085】
【化11】
を有する触媒
(12)「M831−SIPr」と表示され、下記の式:
【0086】
【化12】
を有する触媒
(13)「M832−SIPr」と表示され、下記の式:
【0087】
【化13】
を有する触媒
(14)「M853−SIPr」と表示され、下記の式:
【0088】
【化14】
を有する触媒
(15)「M863−SIPr」と表示され、下記の式:
【0089】
【化15】
を有する触媒
(16)「マテリアC711」と表示され、下記の式:
【実施例】
【0091】
以下の実施例により、限定することなく本発明を例示する。
【0092】
以下の実施例において、精製10−ウンデセン酸メチルおよびオレフィン、アクリロニトリルを試薬として使用し、M71SiPr(ユミコアにより販売)を触媒:10.2mgを21.6gのトルエンに溶解させる。5mlのこの溶液を添加する、即ち、2.02mgの触媒として使用する。
【0093】
本発明による実施例1の方法では、DICのPF13Fモジュールを使用する。これは高密度PTFE膜である。
【0094】
比較例2および3の方法では、手順は膜なしで行う。
【0095】
方法は以下のようにして行い、以下の結果が得られる。
【0096】
装置の説明
装置は、窒素供給口、温度プローブ、反応器内での特に溶媒とアクリロニトリルの凝縮および再利用のための冷却器(この冷却器には栓を設置し、排出口は起泡管につながる。)、油浴ならびに試薬の供給口を取り付けた600mL容丸底フラスコで構成し、触媒を連続的に添加する。
【0097】
反応媒体を、熱交換器の下流に配置したポンプによって連続的に回収する。熱交換器は、反応媒体の温度を40℃にするためのものであり、液状物を膜モジュール内に押し進める。また、該モジュールから排出された液状物は、液状物を反応温度にする交換器を通過し、この液状物は反応器内に再循環される。モジュールは60kPaの部分絶対真空下に維持する。液状物の循環速度は200ml/分にする。
【0098】
従う手順:
装置に窒素をパージする。次に、アクリロニトリルの仕込み中に窒素を止める。
【0099】
反応器に150gのトルエンを仕込む。
【0100】
反応器に:
15gの精製(アルミナ上への吸着により)10−ウンデセン酸メチル
2.0gのアクリロニトリル
を仕込む。
【0101】
冷却器の栓を開けたままの状態で110℃まで加熱し、媒体の温度をモニタリングする。(145℃の油浴)
10.2mgの触媒(ユミコアのM71SiPr)をガラスるつぼ内に量り取る。これをSchlenkチューブ内の21.6gのトルエン中で窒素下にて希釈する。5mlの溶液、即ち2.02mgの触媒をシリンジ(これはシリンジポンプ上に配置する。)内に導入し、触媒は、アクリロニトリルを仕込む前に調製する。
【0102】
触媒の調製中は窒素を流したままにし、仕込みの際は止める。シリンジに約2.4gのアクリロニトリルを充填し、第2のシリンジポンプ上に配置する。
【0103】
T=0の試料を採取する。
【0104】
T=0に反応の開始を起こし、触媒とアクリロニトリルを2時間にわたって連続的に添加する。
【0105】
T=10分、20分、30分など、および120分の試料を採取し、試料に対してGC解析を行う。
【0106】
加熱を停止し、冷却器浴および冷却する。
【0107】
[実施例1]
2時間後、
得られたニトリルエステルの収率は75mol%である。
【0108】
[比較例2]
同じ反応を膜モジュールの非存在下で行い、この他の点ではすべての条件を同じにする。
【0109】
2時間の反応後、
収率は68mol%である。
【0110】
[比較例3]
2倍の量の触媒(M71SiPr)を用いて
比較例2の試験を繰り返す。
【0111】
2時間の反応後、収率は74mol%である。
【国際調査報告】