(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-520715(P2016-520715A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(54)【発明の名称】スズ系すべり軸受合金
(51)【国際特許分類】
C22C 13/00 20060101AFI20160617BHJP
C22C 13/02 20060101ALI20160617BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20160617BHJP
C22C 30/04 20060101ALI20160617BHJP
F16C 33/06 20060101ALI20160617BHJP
F16C 33/12 20060101ALI20160617BHJP
【FI】
C22C13/00
C22C13/02
C22C30/02
C22C30/04
F16C33/06
F16C33/12 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-506786(P2016-506786)
(86)(22)【出願日】2014年4月10日
(85)【翻訳文提出日】2015年11月25日
(86)【国際出願番号】DE2014000187
(87)【国際公開番号】WO2014169890
(87)【国際公開日】20141023
(31)【優先権主張番号】102013006388.4
(32)【優先日】2013年4月15日
(33)【優先権主張国】DE
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ
(71)【出願人】
【識別番号】509115410
【氏名又は名称】ツォレルン・ベーハーベー・グライトラガー・ゲーエムベーハー・ウント・コンパニー・カーゲー
【氏名又は名称原語表記】Zollern BHW Gleitlager GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(72)【発明者】
【氏名】グゾフスキー、コスティャンティン
(72)【発明者】
【氏名】ライマー、フランク
(72)【発明者】
【氏名】ヘントシェール、ハンス−ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】グスト、エドガー
【テーマコード(参考)】
3J011
【Fターム(参考)】
3J011DA01
3J011MA02
3J011PA10
3J011QA03
3J011SB03
3J011SB04
3J011SB05
3J011SB15
3J011SB20
(57)【要約】
スズ系すべり軸受合金は、主要合金化元素として亜鉛を2〜14重量%の割合で含み、主要構造要素としてSn-Zn共晶を有する。追加の合金化元素を添加によって、主要合金化元素としての亜鉛の割合を2〜30重量%に拡大することができる。アンチモンおよび/または銅を別の主要合金化元素として追加で使用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造プロセス中にすべり軸受コーティングを生成するのに適し、少なくとも1つの主要合金化元素および25〜98重量%の割合のスズを含むスズ系すべり軸受合金であって、前記主要合金化元素は
0〜25重量%のアンチモン、
0〜20重量%の銅、および
2〜14重量%の亜鉛
を含むことを特徴とするスズ系すべり軸受合金。
【請求項2】
鋳造プロセス中にすべり軸受コーティングを生成するのに適し、少なくとも1つの主要合金化元素および25〜98重量%の割合のスズを含むスズ系すべり軸受合金であって、前記主要合金化元素は
0〜25重量%のアンチモン、
0〜20重量%の銅、および
2〜30重量%の亜鉛、
ならびに以下の群の1以上から選択される少なくとも1つの追加の合金化元素:
群I:
コバルト、マンガン、スカンジウム、ゲルマニウムおよびアルミニウムを、0.001〜2.6重量%の合計割合で、
群II:
マグネシウム、ニッケル、ジルコニウムおよびチタンを、0.005〜1.7重量%の合計割合で、
群III:
ビスマス、インジウム、カドミウムおよび鉛を、各々の場合に最大5重量%の割合で、最大8重量%の合計割合で、
群IV:
リチウム、銀、セリウム、イットリウム、サマリウム、金、テルルおよびカルシウムを、各々の場合に2.5重量%まで、4重量%までの合計割合で、
群V:
ヒ素、ニオブ、バナジウム、クロム、タングステン、鉄、ランタンおよびエルビウムを、各々の場合に最大1.0重量%の割合で、最大2.25重量%の合計割合で、
群VI:
リンおよびホウ素を、各々の場合に最大0.1重量%の割合で、最大2.25重量%の合計割合で
含むことを特徴とするスズ系すべり軸受合金。
【請求項3】
前記合金は主要構造要素としてSn−Zn共晶を含むことを特徴とする請求項1または2記載のすべり軸受合金。
【請求項4】
微細構造が50μmまでの最大粒径を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のすべり軸受合金。
【請求項5】
微細構造が30μmの最大粒径を有することを特徴とする請求項4に記載のすべり軸受合金。
【請求項6】
微細構造が10μmの最大粒径を有することを特徴とする請求項5に記載のすべり軸受合金。
【請求項7】
アンチモンの割合が6〜25重量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載のすべり軸受合金。
【請求項8】
銅の割合が3〜20重量%である請求項1〜7のいずれか1項に記載のすべり軸受合金。
【請求項9】
主要合金化元素としてアンチモンが存在しない請求項1〜6または請求項8のいずれか1項に記載のすべり軸受合金。
【請求項10】
唯一の主要合金化元素として亜鉛を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のすべり軸受合金。
【請求項11】
支持構造体と、これに付着した請求項1〜10のいずれか1項に記載のすべり軸受合金からなるすべり軸受コーティングとを有するすべり軸受。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、鋳造プロセス中にすべり軸受コーティングを生成するのに適し、少なくとも1つの主要合金化元素および25〜98重量%の割合のスズを含むスズ系すべり軸受合金に関する。また、本発明はすべり軸受合金の使用に関する。
【0002】
スズ系すべり軸受合金は何十年ものあいだ、たとえば、ホワイトメタルとして知られており、主要合金化元素としてアンチモンおよびスズを含み、合金は他の元素によって補われる。
【0003】
すべり軸受合金を、たとえば鋼からなる、たとえば軸受支持シェルの形態の支持構造の上に均一に鋳造する。すべり軸受合金は、汚れ粒子に対する良好な埋め込み能力、および互いに摺動する要素、たとえば回転軸に対する良好な適合性をもつべきである。スズ系摺動金属合金はこれらの特性を有するが、それらの耐荷重能力の点で限定されている。すべり軸受合金の耐久性に対する要求が増しているので、したがって、高レベルの負荷を受けることができるすべり軸受合金、たとえばアルミニウム−スズをベースとするものがますます用いられるようになっている。しかし、これらのすべり軸受合金は、スズ系すべり軸受合金が与える埋め込み能力および適合性の点で有利な特性を有していない。したがって、負荷耐久能力、すなわち特にそれらの硬度および疲労強度に関してスズ系すべり軸受合金を改善するために、多くの試験が行われてきた。
【0004】
DE 28 18 099 C2により、合金化元素であるアンチモン、銅およびカドミウム、ならびに結晶粒微細化元素としてのクロムおよびコバルト、加えて0.02〜0.08重量%のホウ素および0.1〜0.2重量%の亜鉛を含むスズ系ホワイトメタルが得られることが知られている。ホウ素および亜鉛、ならびにコバルトおよびクロムの複合作用が、強度特性において有意な改善を達成する。亜鉛の結果として生じる鋼支持シェルへの結合の欠陥が、ホウ素の添加によってさらに減少する。
【0005】
GB 2,146,354 Aは、主要合金化元素であるアンチモンおよび銅を含むスズ系すべり軸受合金において、0.005〜0.5重量%のチタンの添加による結晶粒微細化によって強度が増すことを開示している。
【0006】
SU 1 560 596 A1は、主要合金化元素として、7〜8重量%の銅、10〜12重量%のアンチモンおよび15〜20重量%の亜鉛、残部スズを含むスズ系すべり軸受合金を開示している。この合金は高い耐久性および耐摩耗性を有するが、アーク溶射によってのみ鋼基材に付着させることができる。この合金を鋳造によって付着させようとしても、非常に低い靭性のためにすべり軸受合金として使用できないであろう。
【0007】
使用されるすべり軸受合金についてさらに要求されるのは、前記合金を汚染合金化成分がない状態にして、環境にやさしいすべり軸受合金(ホワイトメタル合金)を保証するという要求である。しかし、現在まで、強度に関してより高い要求を満足する、このようなすべり軸受合金を製造することはできていない。したがって、負荷耐久能力についておよび耐摩耗性についての高い要求があれば、たとえこれらの軸受金属の使用がスズ系軸受金属合金の優れた緊急運転特性なしですます必要があることを意味するにしても、アルミニウム系軸受金属が継続して使用されることが多い。
【0008】
WO 2009/108975 A1は、4〜30重量%のアンチモンおよび1〜10重量%の銅を含むホワイトメタルを開示している。この場合の合金はさらに、コバルト、マンガン、スカンジウムおよびゲルマニウムからなる元素の群より選択される元素を0.2〜2.6重量%の合計濃度で、またマグネシウム、ニッケル、ジムコニウムおよびチタンからなる元素の群より選択される少なくとも1つの元素を0.05〜1.7重量%の合計濃度で含み、アンチモンと銅の合計割合は、アンチモン含量が銅含量の少なくとも3倍に相当するとして、最大で35重量%であるべきである。このすべき軸受合金は追加で0.6〜1.8重量%、好ましくは0.7〜0.9重量%の亜鉛を含みうる。亜鉛は、追加の結晶化核の形成により、銅−スズおよびスズ−アンチモン相を微細化するのに役立つ。これは、これらの相の有害なサイズへの成長を防ぐ。0.6重量%の亜鉛という下限は、より少ない添加はもはや正の効果をもたらさないことに起因し、一方上限は、1重量%を超えると、亜鉛がもはやスズ固溶体に固溶せず、約200℃のTmで、スズと亜鉛との間で、低融点共晶層が形成され、これが高温強度および耐食性を低下させることに起因する。
【0009】
本発明は、改善された強度を有し、ある程度の動作温度まで、アルミニウム系すべり軸受合金の使用をなしですますことができるように、スズ系すべり軸受合金の強度を増すことができる、スズ系すべり軸受合金を提供するという目的に基づく。
【0010】
本発明によれば、導入部において言及したタイプのすべり軸受合金を有する本発明の第1の態様によれば、この目的は主要合金化元素
0〜25重量%のアンチモン、
0〜20重量%の銅、および
2〜14重量%の亜鉛
によって達成される。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、この目的は、主要合金化元素
0〜25重量%のアンチモン、
0〜20重量%の銅、および
2〜30重量%の亜鉛、
ならびに以下の群の1以上から選択される少なくとも1つの追加の合金化元素:
群I:
コバルト、マンガン、スカンジウム、ゲルマニウムおよびアルミニウムを、0.001〜2.6重量%の合計割合で、
群II:
マグネシウム、ニッケル、ジルコニウムおよびチタンを、0.005〜1.7重量%の合計割合で、
群III:
ビスマス、インジウム、カドミウムおよび鉛を、各々の場合に最大5重量%の割合で、最大8重量%の合計割合で、
群IV:
リチウム、銀、セリウム、イットリウム、サマリウム、金、テルルおよびカルシウムを、各々の場合に2.5重量%まで、4重量%までの合計割合で、
群V:
ヒ素、ニオブ、バナジウム、クロム、タングステン、鉄、ランタンおよびエルビウムを、各々の場合に最大1.0重量%の割合で、最大2.25重量%の合計割合で、
群VI:
リンおよびホウ素を、各々の場合に最大0.1重量%の割合で、最大2.25重量%の合計割合で
によって達成される。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、すべり軸受合金は、主要合金化元素として2〜14重量%の割合で亜鉛を含む。加えて、銅および/またはアンチモンを主要合金化元素として用いることができる。
【0013】
当業者間の既存の知識によれば、主要合金化元素としてこうした割合の亜鉛は避けるべきであった。スズと亜鉛は、亜鉛の割合が8.8重量%であれば、低融点共晶微細構造を形成することが知られている。約200℃の低融点を有する共晶微細構造は、高温強度および耐食性に関して不利だと考えられてきた。対照的に、本発明は、主要構造要素がスズ−亜鉛共晶であるため、高い硬度および疲労強度を有し、198℃の動作温度までの好適な弾性および可塑性を有するすべり軸受合金を製造できるという理解に基づく。当業者は現在まで共晶微細構造の形成を防止するためのあらゆる努力をしてきたが、本発明は主要構造要素として共晶微細構造を用いることを規定する。種々の硬化機構のために、スズおよび亜鉛の共晶微細構造は十分に硬く、耐性のある微細構造を可能にする。8.8重量%の濃度の亜鉛を含むスズは共晶e(βSn+αZn)を形成する。こうして共晶は2つの相であるβSn固溶体とαZn固溶体とからなる。固溶体に固溶した合金化原子は、いわゆる固溶体硬化をもたらす。βSnマトリックスに微細に分散した形態で組み込まれたαZn粒子は移動転移に対する障害も示し、粒子効果をもたらす。さらに、これらは間接強化をもたらす。これらは可塑変形時の転位の強化形成を誘導するためである。
【0014】
8.8重量%の亜鉛を含むスズの共晶組成をもつ合金は、Sn−Zn系におけるすべての可能な合金のうち最低の融点を有する。共晶点において、液相線温度は固相線温度に一致する。したがって、純粋な共晶合金は融点を有し、溶融間隔または固化間隔を有していない。これは、クラッキング、多孔性への、および偏析への傾向の減少をもたらし、したがって合金の工学的および機械的特性の改善が達成される。
【0015】
共晶合金は極度の過冷却への特有の傾向を有することが知られている。過冷却状態においては、正二十面体の短距離秩序が発現し、高い充填密度をもつクラスターが生成する。一方で正二十面体の短距離秩序、他方で固体は、かなり異なる充填を有する。極度の過冷却での充填密度の増大は、結晶化のためのおよび他の相変態のための原子の拡散を阻害する。高度の過冷却の場合、溶融マスは大過剰の自由エネルギーを含み、系は複数の準安定相における平衡をはるかに超える多様な固化経路のためにこれを利用できる。こうして、過飽和混合相からなりうる準安定固体は、結晶粒微細化、秩序のない超格子構造および/または準安定な結晶学的な相を伴う合金を形成することができる。Sn−Zn系の合金における8.8重量%を超える亜鉛の割合は、主要αZn相を伴う構造を形成する。主要αZn相は合金の硬度および強度および耐摩耗性を増すが、可塑性を低下させる傾向がある。本発明によれば、鋳造可能なすべり軸受合金に要求される弾性または可塑性を保持するために、実質的に純粋なSn−Zn系においてZnの割合が高すぎてはならず、したがって14%に限定されることが、このことに起因する。
【0016】
本発明によるスズ含有合金は、固溶硬化によってだけでなく、微細に分散された形態で組み込まれた粒子(αZn)による追加のマトリックス硬化(βSn)、主要αZn相および準安定固体によっても強化される。形成されるのは、共晶e(βSn+αZn)中の粒子(αZn)および主要粒子(αZn)を含む結晶粒微細化を伴うマトリックスである。
【0017】
亜鉛はスズと金属間相を形成しない。亜鉛はマトリックス中に圧密介在物(粒子)の形態で存在する。このため、亜鉛はスズと他の元素との間の相互作用を変えない。したがって、2〜25重量%のアンチモンおよび3〜20重量%の銅という従来の割合にある銅およびアンチモンからなる従来のさらなる主要合金元素を添加することが容易に可能である。
【0018】
本発明による合金と、従来のすべり軸受合金、例えばEcka Granules Germany GmbHによって流通されている、たとえばEvonik Goldschmidt GmbHのTEGOSTARとの微細構造の比較は、本発明によるすべり軸受合金が丸みのある形状をもつ相と結晶粒微細化を伴うマトリックスを含むこと、すなわちTEGOSTAR合金において生じるラメラ相およびアンギュラー相が、丸みのある形状に変わったことを示す。
【0019】
本発明の第2の態様においては、同じ有利な特性を有し主要構造要素として共晶微細構造を有する、30重量%までの比較的高い亜鉛含量でさえ、特に結晶粒微細化のためおよび安定なクラスター形成のための手段を追加した場合、鋳造可能なすべり軸受合金を製造することができる。
【0020】
前述した群IおよびIIからの追加の合金化元素は、特に緻密で安定なクラスターの形成をもたらす。この点で、亜鉛、コバルト、ニッケル、マンガンおよびゲルマニウムは10の配位数をもつクラスターを形成するが、スカンジウム、マグネシウム、チタン、ジルコニウムおよびアルミニウムは12の配位数をもつクラスターを形成する。これらの追加の合金化元素は、結晶化のあいだに極度の過冷却をもたらし、ラメラ形状およびアンギュラー形状から丸みのある形状への相の増強された変化をもたらす。結晶粒微細化を伴うスズマトリックスも形成される。したがって、これらの群からの追加の合金化元素は、スズ系すべり軸受合金の強度、靭性および疲労強度におけるかなりの増大をもたらす。
【0021】
第3の群からの元素、具体的にはビスマス、インジウム、カドミウムおよび鉛は、スズマトリックスに容易に固溶して固溶体を形成する。これは固溶硬化をもたらす。低い冷却速度だと共晶が形成される。合金化元素の個々の割合は5重量%を超えてはならない。合計割合は8重量%までに限定すべきである。
【0022】
群IVからの追加の合金化元素、具体的にはリチウム、銀、セリウム、イットリウム、サマリウム、金、テルルおよびカルシウムは、スズと共晶e(βSn+Sn
xM1
y)を形成し、M1は前記群からの元素の1つである。こうして共晶は2つの相、具体的にはβSn固溶体と金属間相Sn
xM1
yとからなる。固溶体に固溶した合金化原子はいわゆる固溶硬化をもたらす。マトリックス(βSn)に微細に分散した形態で組み込まれたSn
xM1
y粒子は、移動転位に対する障害を示し、粒子硬化をもたらす。共晶含量の増加は可塑性の低下に寄与することがあるため、これらの合金化元素の個々の割合は2.5重量%を超えないほうがよい。合計割合の上限は4重量%であるべきである。
【0023】
群Vからの元素、具体的にはヒ素、ニオブ、バナジウム、クロム、タングステン、鉄、ランタンおよびエルビウムは、スズとの包晶反応を生じるか、またはSn
xM2
y相またはM2相の追加の結晶化核の形成をもたらし、M2は前述した金属のうちの1つである。追加の結晶化核はマトリックス(βSn)の微細化をもたらすが、銅−スズ相およびスズ−アンチモン相の、ならびに主要亜鉛相の微細化ももたらす。Sn
xM2
y相またはM2相の増加はこの場合にも可塑性の低下をもたらすことがあるため、これらの合金化元素の個々の割合は1.0重量%を超えないほうがよい。合計割合の上限は2.25重量%であるべきである。
【0024】
群VIからの元素であるPまたはBは主に、追加の結晶化核および追加の準安定相を形成する。追加の結晶化核はSn4P3相またはB相でありうる。前記相の増加は可塑性の低下に寄与することがあるため、これらの合金化元素の個々の割合の上限は0.1重量%である。合計割合の0.2重量%を超えてはならない。
【0025】
また、本発明は、本発明によるすべり軸受合金からなるすべり軸受コーティングを有するすべり軸受に関する。
【0026】
以下、添付の図面に基づいて、上記の記載をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明による合金SnSb10Cu4Zn7の微細構造の概略図を示す。共晶微細構造e(βSn+αZn)が形成され、組み込まれた微細構造粒子SbSn、βSn、Cu
6Sn
5およびαZnをもつ。
【
図2】
図2は、合金SnSb12Cu5Zn14について同様な概略図を示し、相βSn、Cu
6Sn
5、SbSn、αZnを含む微細構造αZn+SbSn+Cu
6Sn
5+e(βSn+αZn)をもつ。
【
図3】
図3は、異なる倍率での、TEGOSTAR(重力ダイキャストしてH
2O+3%HNO
3でエッチング)の微細構造の顕微鏡写真を示す。
【
図4】
図4は、比較で、SnSb10Zn7Cu4CoNi(重力ダイキャストしてH
2O+3%HNO
3でエッチング)の微細構造を示す。 比較は、本発明による微細構造がより微細な結晶粒を有すること、および相がラメラ形状およびアンギュラー形状から丸みのある形状へ変化したことを明確に示している。
【
図5】
図5は、本発明の第2の態様によるすべり軸受合金の微細構造を概略的に示す。この合金はSnSb10Cu4Zn7M1である。共晶微細構造e(βSn+Sn
xM1
y)が形成すること、および相βSn、Cu
6Sn
5、SbSn,βSn
xM1
yまたはM1が生じることが示されている。
【
図6】
図6は、上述したタイプの合金SnSb10Cu4Zn7M2について、クラスターから形成された、対応する微細構造を示す。前記図面は、微細構造M2
xSn
y+βSn+SbSn+Cu
6Sn
5+e(βSn+αZn)のパターンを示す。αZn,βSn、Cu
6Sn
5、SbSn、M2
xSn
yまたはM2が相として示されている。
【
図7】
図7は、例7で得られた微細構造の顕微鏡写真を示す。
【
図8】
図8は、例8で得られた微細構造の顕微鏡写真を示す。
【0028】
以下、本発明によるすべり軸受合金の多くの代表的な実施形態を説明する。
【0029】
例1
すべり軸受合金を、7.2重量%Zn、10.1重量%Sb、4.0重量%Cu、0.6重量%Ni、0.6重量%Co、0.05重量%Zrおよび0.1重量%Cr、0.05重量%Fe、残部スズから、通常通りに製造する。このすべり軸受合金は、疲労強度に関して良好な工学特性および35 HB 2.5/31.5/30の鋳造硬度および309の相対靱性を示す。
【0030】
例2
すべり軸受合金を、3.4重量%Zn、9.1重量%Sb、4.5重量%Cu、1重量%Ni、1.0重量%Co、0.05重量%In、0.1重量%V、0.1重量%Cr、0.04重量%Pb、残部スズから、通常通りに製造する。このすべり軸受合金は、良好な工学特性および32.0 HB 2.5/31.5/30の鋳造硬度よび502の相対靱性を示した。
【0031】
例3
すべり軸受合金を、20.8重量%Zn、15.1重量%Sb、5.2重量%Cu、0.5重量%Ni、1.0重量%Mnおよび0.15重量%Fe、残部スズから、通常通りに製造する。このすべり軸受合金は、良好な工学特性および42.0 HB 2.5/31.5/30の鋳造硬度および10の相対靱性を示した。
【0032】
例4
すべり軸受合金を、22.3重量%Zn、5.1量%Cu、0.5重量%Ni、1.2重量%Mn、残部スズから、通常通りに製造する。このすべり軸受合金は、良好な工学特性および30.0 HB 2.5/31.5/30の鋳造硬度および8の相対靱性を示した。アンチモンがないため、このすべり軸受合金は汚染合金化元素をまったく含まない。にもかかわらず、本発明によるすべり軸受に好適な工学特性が達成される。
【0033】
例5
すべり軸受合金を、28.2重量%Zn、9.03重量%Sb、4.0重量%Cu、0.25重量%Cr、0.3重量%Ni、0.3重量%Co、0.03重量%Al、残部スズから、通常通りに製造する。このすべり軸受合金は、良好な工学特性および45.0 HB 2.5/31.5/30の鋳造硬度および5の相対靱性を示す。
【0034】
その他の例と比較して劣化した工学特性は、30重量%Znの限度を超える増加がもはや意味がないことを示す。
【0035】
例6(比較例)
例1の通りの本発明によるすべり軸受合金を、ラジアルすべり軸受疲労試験で試験した。この試験は、Pラテラル=39MPaの荷重振幅および約95℃で行った。この試験において、本発明によるすべり軸受は、損傷を受けることなく、すなわち微細構造クラックなしに、荷重の122.8百万回の変化に耐えた。
【0036】
すべり軸受合金TEGOSTARで比較すると、同じ疲労試験中に、微細構造クラックの形態の損傷が生じた。
【0037】
例7(比較例)
18重量%Zn、11重量%Sbおよび7.5重量%Cuを含むSU 1560596 A1によるすべり軸受合金を、同じ測定方法を用いて調べた。鋳造硬度は42 HB 2.5/31.5/30であり、相対靱性は4であった。
図7に、得られた微細構造の顕微鏡写真を示す。
【0038】
例8
例7との比較のために、18重量%Zn、11重量%Sb、7.5重量%Cuを含む本発明による合金を、0.5重量%のCu、0.3重量%のMnおよび0.05重量%のAlを添加し、残部スズで製造し、調べた。
【0039】
46 HB 2.5/31.5/30の鋳造硬度および12の相対靱性が得られた。
【0040】
図8に示すように、この例による微細構造の顕微鏡写真は、
図7と比較して、析出物のかなりの微細化および丸みを示し、改善された工学特性をもたらしている。
【0041】
相対靭性に関する情報はシャルピー衝撃試験に基づく。この試験では、32mm径のシリンダー状試料に、底面から20mmの距離で、2mmの寸法の切り欠きを、前記切り欠きが径方向に本体中に12mmの深さまで達するように設ける。この試料を切り欠きの直下でクランプした後、切り欠きをつけた側から試料の長軸に垂直な所定の衝撃をかける。この過程において、台上に懸垂させた錘を90℃偏向させる。錘が試料の上面上に横から衝撃を与えるような仕方で、落下を行う。試料が割れるまでの衝撃の回数を確定し、相対靭性の基準として特定する。
【0042】
したがって、これは、相対値を決定するためにのみに適した測定方法である。
【国際調査報告】