特表2016-520797(P2016-520797A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2016-520797誘電体共振器を使用するマイクロ波プラズマ分光計
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-520797(P2016-520797A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(54)【発明の名称】誘電体共振器を使用するマイクロ波プラズマ分光計
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/68 20060101AFI20160617BHJP
   H01J 49/10 20060101ALI20160617BHJP
   H05H 1/00 20060101ALI20160617BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20160617BHJP
【FI】
   G01N21/68
   H01J49/10
   H05H1/00 A
   G01N27/62 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-501495(P2016-501495)
(86)(22)【出願日】2014年3月12日
(85)【翻訳文提出日】2015年10月26日
(86)【国際出願番号】US2014024312
(87)【国際公開番号】WO2014159590
(87)【国際公開日】20141002
(31)【優先権主張番号】61/779,557
(32)【優先日】2013年3月13日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】515252097
【氏名又は名称】ラドム コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】RADOM CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】ジェヴティック,ジョヴァン
(72)【発明者】
【氏名】メノン,アショク
(72)【発明者】
【氏名】ピケルジャ,ヴェリボー
【テーマコード(参考)】
2G041
2G043
2G084
5C038
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA14
2G043AA01
2G043CA02
2G043EA08
2G084AA01
2G084AA06
2G084AA07
2G084AA11
2G084AA16
2G084AA17
2G084AA18
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2G084AA27
2G084BB05
2G084BB06
2G084BB22
2G084BB24
2G084BB27
2G084BB36
2G084BB37
2G084CC03
2G084CC04
2G084CC05
2G084CC06
2G084CC11
2G084CC25
2G084CC33
2G084CC34
2G084DD01
2G084DD13
2G084DD14
2G084DD41
2G084DD42
2G084DD44
2G084DD53
2G084DD55
2G084DD63
2G084DD68
2G084EE01
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2G084FF14
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2G084GG02
2G084GG08
2G084GG16
2G084GG29
2G084HH05
2G084HH08
2G084HH15
2G084HH23
2G084HH25
2G084HH27
2G084HH29
2G084HH34
2G084HH41
2G084HH42
2G084HH52
5C038GH01
5C038GH08
5C038GH15
5C038GH17
5C038HH02
5C038HH26
5C038HH28
5C038HH30
(57)【要約】
誘電体共振器は、プラズマ発生用の非常に均一な電場を生成するために、その固有共振周波数で励振される。プラズマは、光学分光計内または質量分析計内の脱溶媒装置、アトマイザの励起源およびイオン化源として使用されてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ発生器を備える発光分光計または質量分析計であって、
前記プラズマ発生器が、
中心軸を有する誘電体共振器構造と、
前記軸の周りの前記誘電体共振器構造の固有共振周波数で交流分極電流の流れを促進し、隣接するガス中にプラズマを発生させるために、前記誘電体共振器構造に電気的に結合された無線周波数電源と
を備える、発光分光計または質量分析計。
【請求項2】
前記無線周波数電源が、前記誘電体共振器構造に電磁結合される、請求項1に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項3】
前記誘電体共振器構造が、ごく僅かな容量結合はあるが、実質的には誘導によってのみ前記プラズマに電気的に結合される、請求項1または2に記載の発光分光計もしくは質量分析計。
【請求項4】
前記誘電体共振器が、100より大きい品質係数を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項5】
前記誘電体共振器が、1×1010Ω・cmより大きい電気抵抗率を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項6】
前記誘電体共振器が、銅の融点より高い融点を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項7】
誘電体共振器が、損失正接が0.01未満の誘電率を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項8】
前記誘電体共振器が、5より大きい誘電率を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項9】
前記誘電材料が、アルミナ(Al)およびチタン酸カルシウム(CaTiO)からなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項10】
前記プラズマが、窒素または空気を含有する隣接するガス中で発生する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項11】
前記誘電体共振器が、前記軸に沿った中央開口部を有するリングまたは円筒環である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項12】
前記リングまたは前記円筒環が、直径が少なくとも1ミリメートル、または少なくとも2分の1インチ(0.0127m)の中央開口部を有する、請求項11に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項13】
前記リングまたは前記円筒環が、円形で、かつ直径が15mm〜25mmの中央開口部を有する、請求項11に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項14】
前記リングの軸に沿って前記リング内にガスを導入するガスポートさらに含む、請求項11〜13のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項15】
前記誘電体共振器が負荷される場合、前記無線周波数電源が、前記誘電体共振器構造の前記共振周波数の2つの半値全幅(FWHM)帯域幅内にある周波数で駆動される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項16】
前記無線周波数電源が、前記誘電体共振器構造の前記固有共振周波数で、または実質的に前記固有共振周波数で無線周波数電力を出力するために、前記誘電体共振器構造の前記固有共振周波数を自動的に求める、請求項1〜15のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項17】
前記無線周波数電源が、1つまたは複数のマグネトロン、固体発振器もしくは真空管発振器を備える、請求項1〜16のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項18】
前記無線周波数電源の出力周波数が、20メガヘルツ〜1000メガヘルツの範囲にある、請求項1〜17のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項19】
前記無線周波数電源の前記出力周波数が、1MHz〜10GHz、30MHz〜300MHz、300MHz〜3GHzの範囲のうちの1つにある、請求項1〜18のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項20】
前記無線周波数電源の近似の前記出力周波数が、27MHz、60MHz、430MHz、915MHz、2450MHzからなる群から選択される、請求項1〜19のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項21】
前記無線周波数電源が、0.5kW〜2kWの電力をプラズマに供給する、請求項1〜20のいずれか一項に記載の発光分光計または質量分析計。
【請求項22】
ガスを導入し、かつ、前記プラズマ発生器によって発生したプラズマ中に、調べるべき材料を導入するためのガスポートと、
前記プラズマによって加熱された時に、前記材料が発した光の周波数を測定するための光センサと
をさらに備える、請求項1〜21のいずれか一項に記載の発光分光計。
【請求項23】
前記光センサが、前記プラズマが発した光を前記光の波長に応じて分散させるための分散素子と、分散した前記光を検出するための光検出器とを備える、請求項22に記載の発光分光計。
【請求項24】
前記分散素子が格子を備える、請求項23に記載の発光分光計。
【請求項25】
1つまたは複数の光学集束素子と、1つまたは複数の光線の方向を変更するためのミラーと、前記分散素子によって分散した光を同時に検出するための複数の検出素子を備え、かつ前記光検出器の少なくとも一部を形成する焦点面アレイ検出器と、前記分光計を制御するための制御部と、前記光検出器の出力を受け取るための制御部とのうちの1つまたは複数をさらに備える、請求項22または23に記載の発光分光計。
【請求項26】
前記プラズマ発生器によって発生した前記プラズマ中に試料材料を送るのに適したガスポートを備えるマニホールドと、
サンプルコーンおよびスキマコーンと、
少なくとも1つのイオン集束素子と、
質量分析素子と、
前記プラズマによってイオン化された試料材料を検出するためのイオン検出器と
をさらに備える、請求項1〜21のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項27】
前記質量分析計を制御するための制御部と、前記イオン検出器の出力を受け取るための制御部とをさらに備える、請求項26に記載の質量分析計。
【請求項28】
物質を分析する方法であって、
誘電体共振器構造と、前記軸の周りの前記誘電体共振器構造の固有共振周波数で交流分極電流の流れを促進し、隣接するガス中にプラズマを発生させるために、前記誘電体共振器構造に電気的に結合された無線周波数電源とを含むプラズマ発生器を使用してプラズマを発生させるステップと、
前記誘電体共振器構造に隣接する領域内にガスを導入するステップと、
導入した前記ガス中にプラズマを発生させるために、固有共振周波数で前記誘電体共振器構造を励振するステップと、
分析すべき物質を前記プラズマ中に導入するステップと、
前記物質が発した光を前記光の波長に応じて分散させ、または前記プラズマによって生成された前記物質のイオンをそれらの質量電荷比に応じて分離するステップと、
前記物質が発した光を前記光の前記波長に応じて、または前記プラズマによって生成された前記物質のイオンをそれらの質量電荷比に応じて検出するステップと、
検出された光の前記波長から、または検出された前記イオンの前記質量電荷比から、前記物質の元素組成を決定するステップと
を含む方法。
【請求項29】
ステップ(c)において、前記プラズマが電場によって、前記導入したガス中で発生し、前記電場が、ごく僅かな容量結合はあるが、実質的には誘導によってのみ結合される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記導入したガスが、窒素または空気を含有する、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(c)において、前記無線周波数電源が、前記誘電体共振器構造の前記固有共振周波数で、または実質的に前記固有共振周波数で無線周波数電力を出力するために、前記誘電体共振器構造の前記固有共振周波数を自動的に求める、請求項28〜30のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年3月13日付けで出願され、かつ本明細書によって援用される米国仮特許出願第61/779,557号明細書の利益を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、電気アンテナ、特に、プラズマ発生などのための効率的かつ均一な電磁場を発生させるアンテナに関する。本発明は特に、分析すべき物質が導入されるプラズマであって、物質の原子化、励起およびイオン化を引き起こし、その結果、物質が次いで発し、もしくは吸収する光、または生成されたイオンが分析され、物質の特性が決定され得るプラズマの発生を対象とする。
【背景技術】
【0003】
その固有の物理的、化学的、光学的、熱的かつ生物学的効果が科学および産業の広い分野で広範囲に使用される気体プラズマの発生には、プラズマ源が使用される。高周波プラズマ源は、無線周波数エネルギーまたはマイクロ波電気エネルギーを利用して、プラズマを維持する。高周波プラズマ源は、典型的には、高強度非電離放射線への人体暴露を最小化し、電磁干渉、および電磁エネルギーの放射による電力損失を低減するために、無線周波数(RF)シールドを含む。プラズマは、典型的にはRFシールド筐体の内部に生成されるが、プラズマの有益な効果は、無線周波数シールドの内部または外部のどちらかに実現され得る。
【0004】
無線周波数エネルギーまたはマイクロ波エネルギーを使用してプラズマを維持するプラズマ源は、容量結合されたもの、または誘導結合されたものの2つの広いカテゴリのうちの1つに属するとして通常分類される。容量結合プラズマ源は、コンデンサプレート上に蓄積された電荷を利用して、プラズマ中の電子およびイオンを加速する電場を生成する。一方、誘導結合プラズマ源は、コイルを流れる電流によって生成された変動磁場を利用して、ファラデーの電磁誘導の法則によって説明されるようにプラズマ中に電場を誘導する。容量結合プラズマ源および誘導結合プラズマ源の両方は、半導体ウェハの処理において広範囲に適用されている。容量結合源は、比較的広い領域にわたって均一な低圧プラズマを生成するのに適しており、一方、誘導結合源は、より小さい容積内でより高密度のプラズマを生成することができる。さらに誘導源は、科学および産業において多くの用途を有する大気圧で超高温プラズマを発生させる大気プラズマトーチ内などの、高導電性プラズマに大量の電力を結合する点でより効率的である。本発明は、誘導結合プラズマ源に関する。プラズマ発生用高周波電場では、メガヘルツからギガヘルツの範囲で振動するAC電流によって駆動される導電性コイル(「電場印加装置」)を使用し得る。コイル内のガスは、ガスをプラズマ状態に励起する誘導結合によって、コイルからエネルギーを受け取る。
【0005】
プラズマを発生させるためのそのような誘導結合技術には、数多くの大きな問題がある。第1に、通常、導電性コイルは複数の「巻き」を有していなければならず、各巻きは、プラズマイオンの不均一な速度、軌道および密度として明示され得る場(ひいてはプラズマ)の不均一性を生じさせるループの隣接する巻きとの相互キャパシタンスを示す。
【0006】
プラズマ中の不均一性は、均一なプラズマが要求される用途(例えば、集積回路産業でのエッチング用)に悪影響を及ぼし得、望ましくないプラズマ工程でエネルギーを浪費し得る。電子密度がより高いプラズマの領域は、電子密度がより低い領域より多くの電力を吸収するため、イオン化が高密度領域ではさらに高まり、低密度領域では抑制され、これにより不安定性を招き得る。電場の均一性が低いほど、局所熱力学平衡からの出発から、フィラメント状放電への収縮までに及ぶ不安定性をプラズマが示す可能性が高い。さらに、通常アンテナの近くに位置する高電場強度領域においてプラズマが不均衡なエネルギーを吸収することによって、プラズマの他の領域に利用可能なエネルギーが制限される。相互キャパシタンスはまた、導電性コイルの巻きの間で誘電破壊せずにコイルに印加され得る電圧を制限する。
【0007】
第2に、導電性コイルに流す必要がある大量の電力ひいては大量の電流は、複雑または嵩高い冷却構造を必要とする著しい抵抗加熱をもたらす。銅などの高導電性材料を使用することで抵抗損失を低減することはできるが、銅および同様の金属を使用することは、そのような高導電性材料がプラズマの過酷な環境で腐食および溶融されやすいことで複雑になる。
【0008】
第3に、導電性ループを効率的に駆動するには、ループが、同調コンデンサをコイル回路内に配置することによって実装される共振構造の一部となる必要がある。
【0009】
この目的に適したコンデンサは高価で嵩高く、同調コンデンサは、まずプラズマを点火する時、および次いで、安定したプラズマが形成された後に、異なる負荷を整合するために自動制御が必要となり、さらにコストおよび複雑さが増し得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の実施形態では、本発明は、プラズマ発生器を備える発光分光計または質量分析計であって、プラズマ発生器が、中心軸を有する誘電体共振器構造と、軸の周りの誘電体共振器構造の固有共振周波数で交流分極電流の流れを促進し、隣接するガス中にプラズマを発生させるために、誘電体共振器構造に電気的に結合された無線周波数電源とを備える、発光分光計または質量分析計を提供する。
【0011】
さらなる実施形態、本発明は、物質を分析する方法であって、誘電体共振器構造と、軸の周りの誘電体共振器構造の固有共振周波数で交流分極電流の流れを促進し、隣接するガス中にプラズマを発生させるために、誘電体共振器構造に電気的に結合された無線周波数電源とを含むプラズマ発生器を使用してプラズマを発生させるステップと、誘電体共振器構造に隣接する領域内にガスを導入するステップと、導入したガス中にプラズマを発生させるために、固有共振周波数で誘電体共振器構造を励振するステップと、分析すべき物質をプラズマ中に導入するステップと、物質が発した光を光の波長に応じて分散させ、またはプラズマによって生成された物質のイオンをそれらの質量電荷比に応じて分離するステップと、物質が発した光を光の波長に応じて、またはプラズマによって生成された物質のイオンをそれらの質量電荷比に応じて検出するステップと、検出された光の波長から、または検出されたイオンの質量電荷比から、物質の元素組成を決定するステップとを含む方法を提供する。
【0012】
無線周波数電源は、誘電体共振器構造に電磁結合されることが好ましい。誘電体共振器構造は、ごく僅かな容量結合はあるが、実質的には誘導によってのみプラズマに電気的に結合されることが好ましい。
【0013】
誘電体共振器は、100より大きい品質係数を有することが好ましい。誘電体共振器は、1×1010Ω・cmより大きい電気抵抗率を有することが好ましい。誘電体共振器は、銅の融点より高い融点を有することが好ましい。誘電体共振器は、0.01未満の損失正接を有することが好ましい。誘電体共振器は、5より大きい誘電率を有することが好ましい。誘電体共振器は、アルミナ(Al)およびチタン酸カルシウム(CaTiO)からなる群から選択されることが好ましい。誘電体共振器は、軸に沿った中央開口部を有するリングまたは円筒環であることが好ましい。リングまたは円筒環は、円形で、かつ直径が15mm〜25mmの中央開口部を有することが好ましい。
【0014】
隣接するガスは、窒素または空気を含有することが好ましい。
【0015】
無線周波数電源は、プラズマに結合することができる0.5kW〜2kWの電力を供給することが好ましい。無線周波数電源は、誘電体共振器が負荷される場合、誘電体共振器構造の共振周波数の2つの半値全幅(FWHM)帯域幅内にある周波数で駆動されることが好ましい。無線周波数電源は、誘電体共振器構造の固有共振周波数で、または実質的に固有共振周波数で無線周波数電力を出力するために、誘電体共振器構造の固有共振周波数を自動的に求めることが好ましい。
【0016】
本発明は、誘電体アンテナを使用することによってプラズマを発生させるためのアンテナ構造を提供する。本発明者は、そのようなアンテナは、誘電率が高く、誘電損失が低い材料で製造される場合、電力消散が少ない高電場強度を与えるように共振時に操作することができることを明らかにしている。
【0017】
発明者は特定の理論に縛られることを望まないが、本発明によって、従来のコイル中の電子の「伝導」電流が誘電材料中の電子の「分極」電流に取って代わられることを理解する。分極電流は、電場の影響下で誘電材料の分子に束縛された素電荷のわずかな移動に起因する。両方のタイプの電流(伝導電流および分極電流)は、同じ電磁気の法則によって、磁場および誘導電場を生成する。しかしながら、誘電材料は、それ自体のコンデンサであると同時にインダクタでもあるため、誘電体の内部、および誘電体の周りの空間のあらゆるところで電位はちょうど0である。
【0018】
自由電荷も束縛電荷もないため、巨視的なレベルでは、電位は誘電体内、および誘電体の周りでちょうど0であり、電場は、式(1)による磁気ベクトルポテンシャルの変化率のために、誘導のみによって生成される。
【数1】
式中、
【数2】
−電場強度のベクトル
▽−勾配演算子
V−電気スカラポテンシャル(または単に電位、ポテンシャルもしくは電圧)
【数3】
−磁気ベクトルポテンシャル(または単にベクトルポテンシャル)
式(1)は、1962年、J.D.Jackson,John Willey&Sonsによる“Classical Electrodynamics”の179頁の式6.31などの電磁気についての標準テキストに見られ得る。
【0019】
電場の▽V成分は、静電気成分と呼ばれることもあり、
【数4】
成分は、誘導成分と呼ばれることもある。
【0020】
式(1)の右辺の2番目の項は、ファラデーの電磁誘導の法則によるものであり、あらゆるところがV=0の時でさえ存在し得る。従来の誘導結合プラズマ(ICP)コイルでは、コイルに電流が流れるため
【数5】
であり、コイルの端部間に大きな電圧差があり、さらに的確には、コイルの表面上に電荷が蓄積されるためにV≠0である。しかしながら、本発明で使用されるような軸方向に対称な誘電体共振器では、分極電流のため
【数6】
ではあるが、自由電荷も束縛電荷もないためV=0である。
【0021】
したがって、寄生容量結合は完全に除去され、電場は誘導によってのみ生成される。さらに、分極電流とは異なり、伝導電流の流れをリング構造の最外部に集中させる、誘電材料中の「皮膚」効果がないことで改善された電流分布が得られるとさらに考えられている。電場がコンデンサ中の誘電体の断面全体にわたって均一に分布するのとほとんど同じように、分極電流密度は、誘電体の断面全体にわたってほぼ均一である。表皮効果または電磁波が導電性材料に入り込むような電磁波の急激な減衰は、低損失誘電材料には事実上ない。
【0022】
容量結合の除去は、複数巻きのコイルの使用による特に大きい容量結合を受けるICP源に対してかなりの利点である。寄生容量結合を低減する従来方法は、コイルとプラズマとの間に静電シールドまたはファラデーシールドを介在させるものである。固体の導電性シートは、電場の誘導成分および容量成分の両方をブロックするであろうため、静電シールドは通常、コイル中の電流方向に垂直な一連の狭いスロットを有する。静電シールドの欠点は、a)コイルは、静電シールドを収容するために、プラズマからさらに遠ざけて配置されなければならず、b)アンテナ電流と反対の選別電流が、スロットのないシールドの部分に沿って流れ、c)シールドがコイルの近傍にあると、コイル中の電流損失およびオーム損失を増加させる著しい容量負荷が加わるという、いくつかの理由で、静電シールドがコイルとプラズマとの誘導結合を低減することである。さらに、導体間の小さい間隔によって、破壊電圧が低下するために最大電力が制限される。最後に、理想的な誘導場からの電場のずれは、プラズマへの結合が最も著しいスロットの近傍において最大となる。
【0023】
寄生容量結合、および静電シールドによって課される制限に加えて、従来の誘導プラズマ源は、以下の制限を受ける。
【0024】
a)コイル導体中の大電流は、流体マニホールドおよび冷却器を必要とする流体冷却によって除去しなければならない著しい量の熱を放散させる。環境を損なう誘電冷却流体の使用は、半導体用途において珍しくない。冷却システムのさらなる複雑さ、寸法およびコストによって、従来の誘導結合プラズマ源は、設計スケーリング、ポータブル用途、およびプラズマ源に利用可能な空間が制限される設計に適さなくなる。
【0025】
b)ある期間にわたってコイルの表面に生じる腐食は、コイル中のオーム損失を大きく増加させ、コイルの交換を必要とし得る。
【0026】
c)銅などの、比較的低温で溶融する金属からなるコイルは、プラズマスパッタリングによって劣化し、超高真空工程に適合しない。したがって、低圧プラズマ用途では、コイルは真空チャンバの壁でプラズマから分離されなければならず、大気圧プラズマ用途では、コイルはプラズマから十分な距離をとって位置しなければならない。これにより、コイルとプラズマとの誘導結合が低減され、プラズマ源の機械的構造が複雑になる。
【0027】
d)コイルの巻きとコイルとシールドとの電位差は、誘電破壊を引き起こし、処理することができる最大電力を制限し得る。
【0028】
e)プラズマ源の寸法、コストおよび複雑さに加え、コイルのインダクタンスは、同調コンデンサ、典型的には、外部インピーダンス整合ネットワークの一部を形成する、嵩高くて高価な可変真空コンデンサと共振しなければならず、処理することができる最大電力をさらに制限し、インピーダンス整合ネットワークの損失によって効率を低下させる。
【0029】
本発明は、これらの問題をすべて有利に回避し、プラズマの均一性を改善し、イオンの速度および軌道をより良好に制御し、任意のプラズマチャンバの壁の蒸着またはスパッタリングを減らし、電気エネルギーを有用なプラズマ工程に結合する効率を良くし、有用なプラズマ工程に結合することができる電力の制限を高め、かつ、静電シールドまたはファラデーシールドを完全に除去する。
【0030】
次いで具体的には、本発明は、プラズマ発生器であって、中心軸を有する誘電体共振器構造と、軸の周りの誘電体共振器構造の固有共振周波数で交流分極電流の流れを促進し、隣接するガス中にプラズマを発生させるために、誘電体共振器構造に電気的に結合された無線周波数電源とを有するプラズマ発生器を提供する。無線周波数電源は、誘電体共振器に電気的に結合される。磁場もまた存在するため、無線周波数電源は、誘電体共振器構造に電気的に結合され、かつ磁気結合される。したがって、無線周波数電源は、誘電体共振器構造に電磁結合されると言え得る。この結合によって、誘電体共振器構造の固有共振周波数で交流分極電流の流れが促進される。無線周波数電源は、その固有共振周波数で誘電体共振器構造に少なくともいくらかの電力を結合するのに十分な周波数または周波数範囲(広帯域など)で駆動される。無線周波数電源は、誘電体共振器構造の固有共振周波数に関連する周波数で駆動されることが好ましい。無線周波数電源は、誘電体共振器が負荷される場合、誘電体共振器構造の共振周波数の2つの半値全幅(FWHM)帯域幅内にある周波数で駆動されることがより好ましい。無負荷の誘電体共振器の帯域幅は、非常に狭く、プラズマで負荷された時に100倍広がり得る。
【0031】
したがって、プラズマ生成用の強いが均一な電場を発生させるための改善された無線周波数アンテナを提供することは、本発明の少なくとも1つの実施形態の特徴である。
【0032】
誘電体共振器は、100より大きい品質係数、1×1010Ω・cmより大きい電気抵抗率、損失正接が0.01未満の誘電率、および5より大きい誘電率のうちの任意の1つまたは複数の品質を有し得る。
【0033】
したがって、冷却およびエネルギー損失の問題を最小化するために、無線周波数場での極低損失および高電力レベルをもたらす誘電材料を提供することは、本発明の少なくとも1つの実施形態の特徴である。
【0034】
誘電体共振器は、銅の融点より高い融点を有する材料からなってもよい。
【0035】
したがって、プラズマの超高温に対して頑強な材料を提供することは、本発明の少なくとも1つの実施形態の特徴である。
【0036】
誘電材料は、例えば、アルミナ(Al2O3)またはチタン酸カルシウム(CaTiO)であってもよい。
【0037】
したがって、比較的一般的で製造可能な材料から構成され得る装置を提供することは、本発明の少なくとも1つの実施形態の特徴である。
【0038】
誘電体共振器は、軸に沿った中央開口部を有するリングであってもよい。
【0039】
したがって、製造するのが比較的単純な誘電体共振器を提供することは、本発明の少なくとも1つの実施形態の特徴である。
【0040】
リングは、直径が少なくとも1ミリメートル、または少なくとも2分の1インチの中央開口部を有してもよい。リングは、誘電体共振器を使用する用途分野によって異なる中央開口部を有してもよい。中央開口部は、用途に便利な任意の他の形状であり得る点で、円形であってもよい。中央開口部は、円形であることが好ましい。中央開口部は、円形である場合、その直径である特性寸法を有する。中央開口部が円形でない場合、中央開口部の寸法は、開口部を横切る幅を示す1つまたは複数の特性寸法を有する。光学分光法および質量分析の分野での使用には、中央開口部は1mm〜50mmの特性寸法を有してもよい。レーザの分野での使用には、中央開口部は1mm〜1mの特性寸法を有してもよい。電子サイクロトロン共振プラズマ源の分野での使用には、中央開口部は10mm〜500mmの特性寸法を有してもよい。半導体処理の分野での使用には、中央開口部は10mm〜1mの特性寸法を有してもよい。材料加工および推進の分野での使用には、中央開口部は1mm〜1mの特性寸法を有してもよい。ICR加熱の分野での使用には、中央開口部は1m〜20mの特性寸法を有してもよい。
【0041】
光学分光法および質量分析の分野での使用には、中央開口部は、好ましくは円形で、1mm〜50mm、より好ましくは5mm〜30mm、さらにより好ましくは15mm〜25mmの直径を有する。
【0042】
誘電体共振器は、環の外径と同心の中央開口部を有する円筒環の形をとってもよい。しかしながら、誘電体共振器の他の形状も考えられる。誘電体共振器は、円筒環の外径と同心の中央開口部を有する円筒環の形をとることが好ましい。
【0043】
したがって、流れるガス中でのプラズマ形成に容易に適用可能な誘電体共振器を提供することは、本発明の少なくとも1つの実施形態の特徴である。
【0044】
この目的のために、プラズマ発生器は、リングの軸に沿ってリング内にガスを導入するガスポートを含んでもよい。
【0045】
したがって、分光用途または他の用途にプラズマトーチの要素を提供することは、本発明の少なくとも1つの実施形態の特徴である。
【0046】
無線周波数電源は、誘電体共振器構造の固有共振周波数で無線周波数電力を出力するために、誘電体共振器構造の固有共振周波数を自動的に求めてもよい。これは、検出器として方向性結合器を使用して、増幅器信号と、共振器から反射した波との間に位相ロックを生成することによって容易に達成され得る。
【0047】
したがって、誘電共振材料またはその環境の変化に自動的に適応し得るプラズマ発生器を提供することは、本発明の少なくとも1つの実施形態の特徴である。そのような変化には、本発明が、例えば光学分光法および質量分析の分野に適用される場合、プラズマガス、圧力、試料タイプ(水性または有機)、ならびに、ガスおよび試料の流速の変化などの、変更されたプラズマ条件によって引き起こされる変化が含まれる。さらに、低損失誘電材料の誘電率、およびRFシールドなどの誘電体発振器の環境における外付部品の寸法は、マイクロ波ロケットノズルなどの極端な動作温度を必要とする用途での同調に影響を及ぼし得る温度と共に変わり得る。
【0048】
無線周波数電源は、誘電体共振器構造の固有共振周波数で、または実質的に固有共振周波数で無線周波数電力を出力するために、誘電体共振器構造の固有共振周波数を自動的に求めることが好ましい。
【0049】
無線周波数電源は、マグネトロン、固体発振器または真空管発振器であってもよい。無線周波数電源は、1つまたは複数のマグネトロン、固体発振器もしくは真空管発振器を備えてもよい。
【0050】
誘電体共振器構造は、ごく僅かな容量結合はあるが、実質的には誘導によってのみプラズマに電気的に結合されることが好ましい。
【0051】
したがって、超高周波プラズマの発生を可能にすることは、本発明の少なくとも1つの実施形態の特徴である。本発明は、少なくとも1MHz〜10GHzの範囲、具体的にはVHF範囲(30MHz〜300MHz)およびUHF範囲(300MHz〜3GHz)内で動作する無線周波数電源と共に利用されてもよい。
【0052】
プラズマは、アルゴン、窒素、ヘリウムおよび空気を含むが、それらに限定されない様々なガス中で維持され得る。プラズマは、プラズマ切断、溶接、融解、および材料の表面処理、危険物質の破壊、廃棄物のガラス化、炭化水素燃料の点火のための高温プラズマ、発光分光法および光源のための、励起された原子種および分子種が発した光、質量分析、イオン注入およびイオンスラスタのためのイオン、材料球状化、ナノ物質の合成、および表面コーティングのプラズマ溶射のための小粒子、ガス化および合成ガス生産のための反応性プラズマ種、科学用途および宇宙推進用途のための超音速ガス流、プラズマ効果と、希薄内燃機関および排気ガス無害化のための製品との組合せ、プラズマ支援燃焼、鉱石の還元および加工、炭化水素燃料改質、空気浄化、ならびに、研究施設、病院などにおける空中汚染物質の除去を含む、様々な用途で使用されてもよい。
【0053】
本発明は特に、物質の励起およびイオン化を対象とし、その結果、物質が次いで発する光、または生成されるイオンが分析され、物質の特性を決定し得る。決定され得る重要な特性には、物質の元素組成、および物質の元素成分の相対量が含まれる。本発明は特に、発光分光法(OES)および質量分析(MS)の分野内の用途を対象とし、マイクロ波プラズマ源は、例えば、従来の誘導結合プラズマ(ICP)源に取って代わる。分光法または分光分析を用いて物質が分析され得るように、物質を励起またはイオン化するためにプラズマが使用される場合、分析すべき物質がプラズマ中に導入される。分析すべき物質を励起またはイオン化するのと同様に、プラズマはまた、物質を原子化してもよく、脱溶媒和してもよい。原子化源として、本発明のプラズマ発生器は、原子吸光(AA)分光法に使用されてもよい。
【0054】
本発明の発光分光計は、光センサであって、プラズマが発した光を光の波長に応じて分散させるための分散素子と、分散した光を検出するための光検出器とを備える光センサを備えることが好ましい。したがって、本発明の発光分光計は、プラズマ発生器であって、無線周波数電源および誘電体共振器と、プラズマが発した光を光の波長に応じて分散させるための分散素子と、分散した光を検出するための光検出器とを備えるプラズマ発生器を備えることが好ましい。発光分光計は、レンズまたはミラーであり得る1つまたは複数の光学集束素子と、1つまたは複数の光線の方向を変更するためのミラーと、分散素子によって分散した光を同時に検出するための複数の検出素子を備え、かつ光検出器の少なくとも一部を形成する焦点面アレイ検出器と、分光計を制御するための制御部と、分光計を制御するために使用されるのと同じ制御部であってもよい、光検出器の出力を受け取るための制御部とのうちの、1つまたは複数をさらに備えることが好ましい。好ましい形態では、分散素子は格子を備える。
【0055】
本発明の質量分析計は、プラズマ発生器によって発生したプラズマ中に試料材料を送るのに適したガスポートと、サンプルコーンおよびスキマコーンと、少なくとも1つのイオン集束素子と、質量分析素子と、プラズマによってイオン化された試料材料を検出するためのイオン検出器とを備えることが好ましい。質量分析計は、質量分析計を制御するための制御部と、イオン検出器の出力を受け取るための制御部とをさらに備えることが好ましい。
【0056】
説明する特定の目的および利点は、特許請求の範囲内にあるいくつかの実施形態にのみ適用され得るため、本発明の範囲を定義しない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】本発明の一実施形態における、リング誘電体共振器を使用するプラズマ発生器の部分切欠斜視図である。
図2】分極電流の流れの向きを示す、図1のリング誘電体共振器の上面図である。
図3】リング誘電体共振器内の電場を示すモデルである。
図4】支持構造への熱伝導経路および空気の流れのためのスタンドオフを有するリング誘電体共振器における代替実施形態の斜視図である。
図5】個々のセクタから製造されたリング誘電体共振器の斜視図であり、そのようなセクタを1つ示す。
図6】複数の積層リングから製造された誘電体共振器の斜視図である。
図7】周溝および中心軸方向孔を有するロッドから製造された誘電体共振器の部分切欠斜視図である。
図8】外部プラズマ領域を示す、ディスク誘電体共振器の部分切欠斜視図である。
図9】軸方向円盤状プラズマを生成するために段差面ディスクを提供するディスク誘電体共振器の部分切欠斜視図である。
図10】プラズマ切断および溶接、またはプラズマスラスタで使用するためのノズルの部分切欠斜視図である。
図11】誘電体共振器に電力を誘導結合するための、図1に示すシステムに類似したループ電力結合システムの断片図である。
図12】マイクロ波導波管を使用する結合システムを示す、図11に類似した図である。
図13】同調するために互いに対して移動可能な2つの同一のリング状誘電体共振器の斜視図である。
図14】同調のために、一方の誘電体共振器が他方の誘電体共振器上に嵌合し得る代替同調構造を示す、図13に類似した図である。
図15】本発明の誘電体共振器を組み込む分光計の簡略化された断面図である。
図16】本発明の誘電体共振器を組み込む質量分析計の簡略化された概略断面図である。
図17】本発明の発光分光計によって測定されるような、試験液中に存在する様々な元素の元素濃度に対する信号強度の毎秒カウント数(IR)のプロットを示す。
図18】本発明の発光分光計によって測定されるような、また3%の塩マトリックスを含有した試験液中に存在する様々な元素の元素濃度に対する信号強度の毎秒カウント数(IR)のプロットを示す。
図19A】乃至
図19D】従来のアルゴンICP源、および空気で動作する本発明のプラズマ源についての、多元素標準の測定されたピーク強度と、測定されたブランク(脱イオン水)の背景信号であるベースラインとを示すピークプロフィールプロットである。
図20】誘電体共振器と、誘電体共振器の外表面と直接接触するRFシールドとの部分切欠斜視図である。
図21】2つの同軸セラミックリングの形をした誘電体共振器と、2つのRFシールドとの部分切欠斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
ここで図1を参照すると、本発明のプラズマ発生器10は、本実施形態では軸14を中心とする円筒環である誘電体共振器12を設け得る。
【0059】
当技術分野で理解されるように、誘電材料は、直流に対して実質的に絶縁体であるが(すなわち、誘電体が電場中に配置された時に、電荷は、導体中で流れるように材料中を自由に流れない)、材料中の束縛電子または束縛イオンの平衡位置がわずかに移動することで生じる分極電流を与えることができる。
【0060】
本実施形態では、誘電体共振器12は、アルミナ(Al)からなってもよく、外径が2インチ(0.0508m)、内径が1インチ(0.0254m)、軸14に沿った長さが0.75インチ(0.01905m)で、約2.45ギガヘルツの電気的共振周波数を有する円形環であってもよい。この材料は、品質係数が5000より大きく、比誘電率が9.8であり、摂氏1000度を超える温度でその電気特性および物理的完全性を保持する。
【0061】
誘電体共振器12の代替材料は、外径が3.13インチ(0.0795m)、内径が2.34インチ(0.05944m)、長さが1.12インチ(0.02845m)で、約430メガヘルツで共振するチタン酸カルシウム(CaTiO)であってもよい。このリングは、品質係数が5000を超え、比誘電率が200である。
【0062】
多くのタイプの最新技術セラミックはこれらの要件を満たすが、同様の電気特性を有する他の誘電材料が代わりに使用されてもよい。
【0063】
より一般的には、誘電体共振器12の誘電材料は、(a)0.01未満の損失正接、(b)100より大きい品質係数、(c)5より大きい比誘電率の特性を有し得る。あるいは、品質係数は、1000より大きくなるべきである。
【0064】
誘電材料は、1×1010オームセンチメートルより大きく、典型的には1×1014オームセンチメートルより大きい抵抗率を有し得ることが望ましい。誘電材料は、銅または他の同等の導電性金属より高い融点を有し得ることが望ましい。誘電率は、好ましくは5より大きく、より望ましく9より大きい。これらの例は、限定するものではない。実際には、抵抗率が100オームセンチメートルと低い材料を備える誘電体共振器が使用されてもよく、抵抗率には実際的な上限はあるようには思われない。したがって、誘電体共振器は、100〜1000オームセンチメートル、1000〜10000オームセンチメートル、10〜10オームセンチメートル、10〜10オームセンチメートル、10〜10オームセンチメートル、10〜10オームセンチメートル、10〜10オームセンチメートル、10〜1010オームセンチメートル、1010〜1012オームセンチメートル、1012〜1014オームセンチメートル、1014オームセンチメートルより大きいものの範囲のうちの1つに電気抵抗率を有することが好ましい。
【0065】
誘電体共振器の誘電率は、5〜6、6〜7、7〜8、8〜9、9より大きいものの範囲のうちの1つにあることが好ましい。
【0066】
誘電体共振器は、損失正接が10−4未満、10−4〜10−3、10−3〜10−2の範囲のうちの1つにある誘電率を有することが好ましい。
【0067】
リングの3つの寸法がすべて同じ係数によって変更される場合、リングの共振周波数は、比誘電率の平方根にほぼ反比例し、リングの線形寸法にほぼ反比例し、これらの例を他の寸法に容易に修正することができる。
【0068】
所与の誘電体共振器の正確な共振周波数は、例えば、ANSYS−HFSS電磁場ソルバを使用して達成され得るなど、コンピュータシミュレーションを使用して最も良好に得られ得る。しかしながら、いかなるRFシールドの効果も無視する以下の近似式を使用することによって、一次推定値を得ることができる。
【数7】
式中、
=3・10m/s−自由空間における光速
εγ−誘電体共振器の比誘電率
h−誘電体共振器の長さ[m]
t−誘電体共振器の厚さ、すなわち(外径−内径)/2[m]
R−誘電体共振器の平均半径、すなわち(外径+内径)/4[m]
【0069】
光学分光法または質量分析で使用するのに適した誘電体共振器で式(2)を使用するが、誘電体は外径0.0508m(2インチ)の円筒環からなり、共振器は環の外径と同心で、直径0.0254m(1インチ)の円形中央開口部を有し、誘電体共振器は厚さ(すなわち筒長)0.01905m(0.75インチ)およびεγ=9.8を有し、式(2)から共振周波数f=2.35GHzが得られる。試験を行うと、測定された共振周波数は、予測値より約4%高い2.45GHzであることが分かった。したがって実際的な状況では、有用な精度を備えた共振周波数を予想するために、式(2)が使用され得る。誘電体共振器12は、今度は無線周波電源18に取り付けられた結合アンテナ16の近くに位置付けされ、無線周波電源18は、誘電体共振器12の共振周波数で結合アンテナ16を励振する高周波電流を生成してもよい。無線周波数電源18の周波数出力を誘電体共振器12の共振周波数に整合させることは、周波数設定を調整することによって手動で、または例えば、共振に関連するインピーダンスの変化を検出するフィードバックシステムを使用することによって自動的に行われてもよい。自動同調はまた、感知アンテナ19からのフィードバックを使用して「自己共振」によって施されてもよく、感知アンテナ19の出力は、増幅器として働く無線周波数電源18を駆動する。自己共振は、当技術分野で一般に理解されるような必要なループ移相を確実にすることによって施される。ケーブルの長さの変更によって、または移相器の使用によってなどのループ中の移相の調整によって、振動の条件を作ることができる。ループは、増幅器の入力部におけるリミッタなどの信号制限構成要素を含むべきである。無線周波数電源18は、電力21、例えば、従来の電源からの線電流を受け取る。
【0070】
ここで図1および図14を参照すると、誘電体共振器12の共振周波数は、誘電体共振器12の寸法を変更することだけではなく、第2の誘電体同調素子44を誘電体共振器12に近接して配置することによっても調整され得る。図14のこの例では、同調素子44は、誘電体共振器12の外径より大きい円筒環であり、軸14と位置合わせされる。同調素子44は、機構46(例えば、ラックピニオン親ねじなど)に取り付けられ、移動方向を表す矢印50で示すように、軸に沿って同調素子44を移動させ、同調素子44と誘電体共振器12との誘導結合を変更し、それによって誘電体共振器12の共振周波数を変更することができる。同調素子44は誘電体共振器12の周りに嵌合し得るため、感度の良い同調を得るために密結合が確立され得る。同調素子44の移動は、フィードバック制御に応じて、例えば上で説明したような感知インピーダンスに応じて、手動または自動であってもよい。
【0071】
ここで図13を参照すると、代替実施形態では、2つの同一の誘電体共振器12aおよび12bが使用され得、誘電体共振器12bは同調素子44として働く。2つの同一構成要素を使用すると、同調範囲が非常に広がり、均一な電場の領域が拡張される。誘電体共振器12aおよび誘電体共振器12bのうちの1つまたは両方は、プラズマを発生させる電場を提供し得、これは、所望のプラズマが、ガス流の条件、トーチの形状、発火源の場所および選択された共振モードに応じてリングのうちの1つのみの内部、または両方のリングの内部に形成され得ることを意味する。
【0072】
あるいは、図13および図14に示す上記例のどちらかでは、同様の同調効果を与えるために、同調素子44は、アルミニウム、銅または銀メッキ銅などの金属であり得る。
【0073】
誘電体リングアンテナに対する同調素子44の相対位置によって、共振周波数が変わる。共振周波数は、誘電体リングと同調素子44との結合係数kの関数として表すことができる。結合係数kは、0〜1の数である。RFシールドがない場合、定性的にkは、同調素子を誘電体リングに近づけるにつれ増加する。以下の式は、定性分析のみのものであり、共振周波数のより良好な推定値は、ANSYS−HFSSソフトウェアの使用によってなど、電磁場のコンピュータシミュレーションによって得ることができる。
【0074】
2つの結合共振器の共振周波数についての一般式は、
【数8】
によって与えられる。
式中、
,f−平行モードおよび逆平行モードの共振周波数
k−結合係数(0<k<1)
−誘電体リングの共振周波数
−同調素子の共振周波数(金属の場合、f=0)
【0075】
特に興味深い2つの場合がある。
1.金属からなる同調素子44の場合、誘電体リングと同じ寸法であってもなくても(図13および図14の両方に示すなど)、上記式は
【数9】
に単純化される。
2.2つの同一リングの場合、リングが両方とも誘電性である図13のように、動作周波数に応じて2つの可能な動作モードがある。より低い周波数モードでは、2つのリング中の分極電流は、軸の周りに同じ方向に流れ、すなわち平行または同相である。このモードの周波数は、ほぼ
【数10】
によって与えられる。あるいは、より高い周波数モードの場合には、2つのリング中の分極電流は、軸の周りに反対方向に流れ、すなわち逆平行、または位相が180度ずれている。第2のモードの周波数は、ほぼ
【数11】
によって与えられる。
【0076】
2つの周波数モードは、異なる場分布を有する。より低い周波数モードは、リング間の空間で最も強いが、より高い周波数モードは、リング内部で最も強く、リング間の中点で0である。
【0077】
また図2および図11を参照すると、この例では、結合アンテナ16は、電源18に繋がる同軸ケーブル22で終端し、かつ、軸14に略平行である軸24を有する単一のループ20であり、ループ20と、図1に示す磁束線26を有する誘電体共振器12との間で電力を誘導結合し得る。単一ループ20は、結合度を制御し、かつ軸14と適切に位置合わせするように、図11の回転方向を表す矢印43で示すように調整されてもよい。結果として、誘電体共振器12の共振周波数で軸14の周りを円周方向に振動する誘電体共振器12内に、分極電流の流れ27(図2に示す)ができる。
【0078】
ここで図3を参照すると、所与の瞬間での誘電体共振器12内の電場28は、寄生容量結合が実質的に除去されている純粋な誘導場を示す誘電体共振器12の内周および外周周辺に実質的に接している。誘電体共振器は、それ自体のコンデンサであると同時にインダクタでもあるために、誘電体共振器12の内部、および誘電体共振器12の周りの空間のあらゆるところで電位はちょうど0であるため、電場28はそのように高品質なものであると考えられている。
【0079】
再び図1を参照すると、ガス源32、例えばアルゴン系プラズマ用アルゴンは、レギュレータ34を通って、誘電体共振器12の中心を通る軸14に沿ってガスを方向付けるガスポート36に供給され得る。誘電体共振器12内では、高電場によりガスが、軸14に沿って流れ得るプラズマ40に変わる。流れる距離は、プラズマ励起の寿命によって決定される。自然にバックグラウンド電離放射が起こるため、ガス中に常に自由電子を見ることができる。ガスが高強度電場の領域内に配置されると、電子は加速され、中性分子と衝突し、イオン化によってさらなる電子を生成する。電場が十分に強い場合、イオン化の数は指数関数的に増加し、電子雪崩として知られている工程およびプラズマの形成を導く。低圧ガス中では、プラズマは、電場による電子の継続的な加速、および中性物質との電離衝突によって主に維持される。大気圧での熱プラズマ中では、プラズマを通る電流の流れによってガスが超高温まで加熱され、これもまたプラズマを維持するのに役立つ。
【0080】
誘電体共振器12は、電磁エネルギーの放射による電力損失を低減し、高強度非電離放射線への人体暴露を最小化し、かつ電磁干渉を制御するために、無線周波数シールド42内に配置されてもよい。シールド42は、同軸ケーブル22の戻りに接続されてもよい。
【0081】
増幅器によって直接駆動される伝導性金属の複数または単一ループコイルの代わりに、誘電体共振器12を使用すると、以下を含む複数の利点がもたらされる。
【0082】
誘電体共振器12のエネルギー損失は、従来のコイルの伝導損失より1〜2桁低い。多くの用途では、これによって、流体冷却が完全に不要となり、プラズマ源の寸法、コストおよび複雑さが非常に低減され得る。半導体処理用途では、環境を破壊する誘電冷却流体を不要とすることが可能になり得る。
【0083】
電力がプラズマに吸収されない場合、誘電体共振器12のエネルギー損失が極めて低いことは、プラズマ点火段階中の電場強度が非常に大きいこと意味する。これは、プラズマ放電をより容易、かつより確実に点火するのに役立つ。
【0084】
誘電体共振器12の自己共振の性質によって、誘電体共振器12と電源18との間の外部インピーダンス整合ネットワークが非常に単純化され、または不要となるため、プラズマ源の寸法、コストおよび複雑さが低減される。
【0085】
プラズマへの結合を改善し、またはプラズマ源に利用可能な限られた空間を収容するために、誘電体共振器12内にアルミナなどのセラミック材料を使用することによって、真空チャンバ内部に直接配置することができる超高真空工程に適合するプラズマ発生器が提供される。
【0086】
高い熱伝導率を有するアルミナなどのセラミック材料から誘電体共振器12を作ると、伝導による迅速な熱除去が可能となる。誘電体共振器12がプラズマと直接接触する場合、ガス放電レーザ用途において特に重要な特徴である、プラズマガスの効率的な冷却を可能にすることができる。
【0087】
誘電体共振器用アルミナなどのセラミック材料を使用すると、摂氏1,000度を超える超高温で、良好な機械的および電気的特性が維持され、これにより、誘電体共振器12は、高温大気プラズマに関する用途によく適するようになる。
【0088】
本設計で可能な純粋な誘導場、極低損失、高温動作、および高い熱伝導率のすべてによって、従来の誘導結合プラズマ技術で今日可能なことを大幅に上回る電力レベルでの動作が可能となる。最大極限電力は、冷却されるならば誘電体共振器の寸法に、ならびに、RFシールド内および結合構造内の絶縁破壊に依存する。外径が2インチのリングは、自然対流のみによって冷却される時には2kW、強制空冷では10kW、水冷では100kWの電力レベルで動作することができるであろうと推定される。数十MWで動作することができるであろう大型ICR加熱アンテナを用いると、はるかに大きい電力レベルが実現され得る。
【0089】
ここで図4を参照すると、代替構成では、誘電体共振器12は、例えば、図1に示した管状シールド42などの支持構造に対して誘電体共振器12を支持し得る放射状に延在するスタンドオフ52を設け得る。スタンドオフ54の端部は、金属筐体への熱抵抗を低減し、誘電体共振器12の冷却を助けるために金属でメッキされてもよく、誘電体共振器12は、スタンドオフ52の周りの空気の自然対流または強制流動によって冷却もされ得る。
【0090】
ここで図5を参照すると、特に、より大きい誘電体共振器12の場合、誘電体共振器12は、金属メッキ端部表面62の当接部である継目60に共に配置された複数の環状セクタ58から組み立てられ得る。少量の非誘電材料は、誘電体の利点に著しくは影響を及ぼさない。
【0091】
ここで図6を参照すると、誘電体共振器12は、薄い絶縁スペーサによって離して保持され、かつ共通軸14に沿って位置合わせされた複数の薄いリング64から構成され得る。
【0092】
より小さいリングは、より製造および輸送しやすくなり得、端部表面62同士の間隔によって、軸方向における誘電分極電流の望ましくない流れを防ぎながら、冷却を改善し得る。
【0093】
ここで図7を参照すると、中心軸方向孔70と、軸方向の分極電流を防ぐ役目をする外周切欠部72とを有する細長いチューブ68の形をした誘電体共振器12を製造することによって、同様の結果が達成され得る。
【0094】
ここで図8を参照すると、誘電体共振器12はリングである必要はなく、トロイダルプラズマ40が、ディスク74の形をした誘電体共振器12の外周の周りに発生し得ることが理解される。プラズマ40の環状体は、ディスク74の対称軸である軸14を中心とし得る。共振モードを適切に選択することによって、ディスク74の共振時における主要な円周方向の電流成分27が確実となる。
【0095】
ここで図9を参照すると、ディスク74の中心に向かって移動するにつれ、高さが増す一連の円形段差76を確立することによって、プラズマ40は、誘電体共振器12のディスク74の対向面に移動し得る。段差76の背後にある考えは、単純なリングまたはディスク中で、電場が軸上では0であり、外半径に向かってほぼ直線的に増加することに対応することである。電場およびプラズマは、リングの近くで最も強い。軸と外半径との間で誘導電場がより均一になるように、段差は、より小さい半径での分極電流を増加させる役目をする(リングの総厚を増加させることによって)。これにより、半径方向のプラズマの均一性が改善され得ると考えられる。プラズマの移動に関する限り、ディスクの反対側のプラズマは、例えば、高真空またはより高いガス圧力によって抑えられなければならないであろう。
【0096】
ここで図10を参照すると、一実施形態では、誘電体共振器12は、プラズマ切断および溶接、またはロケットエンジンなどの用途で、高温亜音速プラズマ流80を超音波プラズマ流82に加速するために、中細ノズル111を設け得る。この場合、誘電体共振器12は、例えば、プラズマ発生位置から下流にラバールノズルを生成するために、より小さい直径84に向かって内側にくびれる中央孔70を含む。
【0097】
上記の図に示すその多くの変形例が様々な方法で組み合わされてもよいことが理解される。例えば、熱除去を容易にするために図4のスタンドオフ52は、図10のロケットノズルと組み合わせることができ、または、所望の電流の流れパターンを促進するために、図7に示す切欠部72を、図8および図9のディスク内に、ディスク74の表面のうちの1つへ下方に切り取られた周溝の形で実装することができる。
【0098】
ここで図12を参照すると、例えば、マイクロ波源によって駆動され、軸14に略垂直に方向付けられた導波管89の端部に誘電体共振器12を配置して、誘電体共振器12を励振して共振させる他の方法が用いられ得る。導波管89の開口部90は、マイクロ波源と誘電体共振器12との結合度を制御するために、矢印92で示す1対の絞り94を開閉し得る絞り機構によって制御されてもよい。
【0099】
本発明は、目的が、未知の化学試料中の原子種および分子種を励起し、光を生成することである、発光分光計(OES)で使用されてもよい。プラズマが発した光の分光分析は、試料中に存在する化学物質のタイプおよび量を決定するために使用される。本発明はまた、目的が、プラズマ中に導入された試料材料のイオンを生成することである、質量分析計(MS)で使用されてもよい。イオンはプラズマから抽出され、真空システム内へ輸送され、質量分析される。プラズマ特性は、プラズマを消滅させることなく水性溶媒または有機溶媒中の試料を処理する能力、安全性および経済性を改善するために様々なプラズマガスで動作する能力、様々な種類の化学物質を検出する能力、非常に広範囲の被分析物濃度を正確に測定する能力、極めて低い濃度の被分析物を検出する能力、多くの試料を短時間で処理する能力、長時間にわたって測定が繰り返される場合に、安定した結果を生む能力などの点において、OESの分析性能に大いに影響を及ぼす。プラズマ特性は、発光分光計の性能に影響を及ぼすのと同様に、MSの分析性能に大いに影響を及ぼす。MSに特有であるが、大気圧プラズマ中に生成されたイオンは、いわゆるMSのインタフェース部を介して質量分析計の高真空環境に移送されなければならない。インタフェースは、異なる圧力の領域を分離する小オリフィスを備えた複数の金属コーンを含む。片側が大気圧プラズマと直接接触しているコーンは、サンプルコーンとして知られている。サンプルコーンの性能は、従来のRFコイルの寄生容量結合によって最も大いに影響を受け、イオン透過、アーク放電が低減され、コーンが浸食される。最も一般的に使用されるMS用誘導結合プラズマ源は、最大40MHzの無線周波数で動作する。
【0100】
プラズマ源はまた、原子吸光(AA)分光法用原子化源として使用されてもよい。
【0101】
本出願の典型的なプラズマ源は、本設計(すなわち本発明)によって実施されるはるかに高い周波数を有する40MHzより高い無線周波数で動作してもよい。あるいは、本設計は、大量のマイクロ波電力源としてマグネトロン装置を使用して、915MHzまたは2,450MHzなどのマイクロ波周波数でプラズマを提供してもよい。
【0102】
マイクロ波プラズマ発生器の既存の設計は、容量結合が支配的であり、または、プラズマ源に深刻な悪影響を及ぼすかなりの量の寄生容量結合を保持し、または、分光計の残りの部分への従来の機械的、光学的、化学的インタフェースを著しく修正する必要があるであろう形状因子を有する。インタフェースは、当分野において長年にわたる無線周波数OESの動作でその能力を証明している(すなわち、ICPプラズマ発生システムで証明されるように)。Surfatron、Beenakkerキャビティ、岡本キャビティ、サーファガイド、マルチヘリックストーチ、TIAトーチなどのような先行技術のマイクロ波プラズマ発生器内に存在する寄生容量結合は、a)プラズマの不均一性、b)イオンの速度および軌道に対する不十分な制御、c)プラズマチャンバの壁の蒸着またはスパッタリング、d)非必須なプラズマ工程での電力消散、およびe)有用なプラズマ工程へ効率的に結合することができる電力量の制限を招く、誘導プラズマ源の性能に深刻な悪影響を及ぼす。
【0103】
対照的に、本設計のプラズマ源は、従来の無線周波数誘導結合プラズマ源の動作をマイクロ波周波数まで広げ、分光計の残りの部分との確立された機械的、光学的、化学的インタフェースを最小限修正する必要があるが、従来の設計を制限している寄生容量結合を実際に排除し得る。さらに、新規な電場印加装置の損失が極めて低いために、流体冷却システムを完全になくすことができるため、分光計の寸法、コストおよび複雑さを低減し、信頼性を向上させることができる。本設計のプラズマ源はまた、窒素または空気を含有するガスを含む一連の様々なプラズマガスを使用することを可能にする。好ましい一実施形態では、プラズマは空気中で維持される。別の好ましい実施形態では、プラズマは窒素中で維持される。
【0104】
ここで図15を参照すると、円形環の形をした高密度アルミナ(Al)セラミックで作られた本発明の誘電体共振器12を使用する発光分光法102用マイクロ波誘導結合プラズマ源。誘電体共振器12は、アルミニウムなどの金属からなる円筒状無線周波数シールド42内に支持されてもよく、それぞれが、アルミニウム管状延長部110、112および114それぞれで囲まれた複数の円形開口部104、106および108を有する。管状延長部110〜114は、シールド42外部のマイクロ波エネルギーの漏れを最小化するため、マイクロ波技術でよく理解されるように、切断部の下方に円筒導波管を形成するのに十分小さい直径、および十分長い長さを有し、延長チューブを通してマイクロ波の伝播を大きく減衰させるように設計される。
【0105】
マグネトロン120と連通している導波管89からのマイクロ波電力118は、2,450MHzの周波数で供給され、カプラ124によってシールド42の矩形開口部122を通して、誘電体共振器12に印加される。誘電体共振器12の共振周波数は、アルミニウムリングの形に作られ、かつ、誘電体共振器12のリングと同軸上に位置付けされた同調素子44の軸方向の場所を変えることによって、微調整することができる。
【0106】
3軸マニホールド125は、開口部104内の中心にあり、かつ誘電体共振器12の内径と位置合わせされた軸14に沿って方向付けられ、石英またはアルミナ管状材料で作られる。3軸マニホールドは、誘導結合プラズマと共に使用されるトーチに類似し得る従来のトーチの形をしている。プラズマ冷却ガス126は3軸マニホールド125の外リングに適用され、一方、プラズマ補助ガス128は次の内リングに適用され、中心孔は、分析すべき試料源132から、溶解された分析試料または固体粒子の試料130を受け取る。試料130は、プラズマ40中に直接導入され得る、ガスに巻き込まれたエアロゾルまたは離散粒子の形をしている。
【0107】
当技術分野において既知の方法による光134の周波数成分を決定し得る分析コンピュータ138に結合された光センサ136によって分析するために、軸14に対して半径方向のプラズマ40から発した光134が、管状延長部112内を通過する。あるいはまたは同時に、いわゆる軸方向OESの目的のために、軸14の軸方向におけるプラズマ40が発した光140は、同様の光センサ136(明瞭には図示せず)によってさらに分光分析を行うために、管状延長部110を通して移送される。管状延長部110はまた、高温プラズマガスおよび化学製品142を排気換気システム(図示せず)に方向付ける。開口部108および管状延長部114は、空気の自然対流または強制流動によってプラズマ発生器12の空気冷却を可能にする。
【0108】
本発明の発光分光計は、プラズマ発生器であって、誘電体共振器と、プラズマが発した光を光の波長に応じて分散させるための分散素子と、分散した光を検出するための光検出器とを備えるプラズマ発生器を備えることが好ましい。
【0109】
図16は、本発明の誘電体共振器を組み込む質量分析計の簡略化された概略断面図である。最も一般的に使用されるMS用誘導結合プラズマ源は、最大40MHzの無線周波数で動作する。MS用プラズマ源の動作を915MHzまたは2,450MHzなどのマイクロ波周波数まで広げることを目的として、いくつかの設計が提案され、試験されており、マグネトロン装置は大量のマイクロ波電力の効率的な源として役立ち得るであろう。既存の分析結果では、マイクロ波励起プラズマは、無線周波数に基づくプラズマ源の分析用電力を補完する特有の利点があることが示されている。しかしながら、マイクロ波周波数で高品質の分析用プラズマを生成する能力における重要な障害のうちの1つは、プラズマへの純粋な誘導結合を生成可能な電場印加装置がないことであった。今日までに提案された設計はすべて、前に概要を述べたように、容量結合が支配的であり、またはプラズマ源性能に深刻な悪影響を及ぼすかなりの量の寄生容量結合を保持する。さらに、従来の設計はすべて、分析計の残りの部分への従来の機械的、光学的、化学的インタフェースを著しく修正する必要がある。インタフェースは、当分野において長年にわたる無線周波数MSの動作でその能力を証明している。
【0110】
対照的に、本発明による電場印加装置に基づくMS用プラズマ源は、従来の無線周波数誘導結合プラズマ源の動作をマイクロ波周波数まで広げ、分析計の残りの部分との確立された機械的、イオン、化学的インタフェースを最小限修正する必要があるが、従来の設計を制限している寄生容量結合を実際に排除する。さらに、新規な電場印加装置の損失が極めて低いために、流体冷却システムを完全になくすことができるため、分析計の寸法、コストおよび複雑さを低減することができる。
【0111】
図16は、質量分析200用マイクロ波誘導結合プラズマ源の簡略化された概略断面図を示し、質量分析200は、リングの形をした高密度アルミナ(Al)セラミックで作られた、本発明の電場印加装置12を使用する。MS200用マイクロ波誘導結合プラズマ源は、図15に示すOES102用マイクロ波誘導結合プラズマ源と共通した多くの構成要素を有し、同様の構成要素は、同じ参照符号を有する。図16に示した追加の構成要素について、ここで説明する。サンプルコーン201は小オリフィス202を有し、スキマコーン203は小オリフィス204を有する。サンプルコーン201とスキマコーン203との間の領域は、真空ポンプ(図示せず)でガス205を排気することによって、低圧で維持される。イオン化された試料206は、オリフィス202を通って、サンプルコーンとスキマコーンとの間の低圧領域に入る。イオン207は、オリフィス204を通って、質量分析計の高真空領域内にさらに移送される。質量分析計は、少なくとも1つのイオン集束素子を備えるイオン集束構成要素209と、質量分析器210と、イオン検出器211とを備える。質量分析計内に配置された2段以上のポンピング(図示せず)があってもよい。質量分析計は、好ましくはコンピュータである制御部(図示せず)によって制御される。イオン検出器211からの検出された信号は、好ましくはまたコンピュータを使用して記録され、このコンピュータは、制御部として使用されるのと同じコンピュータであってもよい。オリフィス202に浸透していない加熱されたプラズマガス208は、RFシールド42とサンプルコーン201との間の環状領域から排気される。
【0112】
発光分光計または質量分析計は、無線周波数電源が0.5kW〜2kWの電力をプラズマに供給する、本発明によるプラズマ発生器を備えることが好ましい。
【0113】
本発明による発光分光計の性能を、半径方向観測モードで動作する従来のICP発光分光計の性能と比較した。従来のICPトーチは、誘電場印加装置の中央開口部内に位置付けし、分光計のガス供給部に接続した。誘電場印加装置およびトーチは、半径方向観測モードの高解像度エシェル分光計によって観測するために、誘電場印加装置の中央開口部内に形成されたプラズマが位置合わせされるように取り付けた。有利には、セラミックリングが、インダクタおよび同調装置の両方として働くという特有の方法のために、また、プラズマへの電気的結合は、ごく僅かな容量結合を有するが実質的には純粋に誘導的であるために、プラズマ発生器は、プラズマ発生器システムを変更することなく、空気および窒素の両方で操作した。
【0114】
図17は、本発明の発光分光計を使用して測定された一連のハード線およびソフト線を利用する、様々な元素の元素濃度に対する信号強度の毎秒カウント数(IR)のプロットを示す。5つの線についてのエネルギー和は、
Ca3968、9.23eV(3.12eVの励起エネルギー、および6.11eVのイオン化エネルギー)、
Cu2165、5.73eV(励起エネルギー)、
Cu3247、3.82eV(励起エネルギー)、
Mg2802、12.07eV(4.42eVの励起エネルギー、および7.65eVのイオン化エネルギー)、
Mn2794、12.25eV(4.82eVの励起エネルギー、および7.42eVのイオン化エネルギー)である。
【0115】
3%の塩マトリックスを含有する溶液についても、直線性を試験した。得られた結果を図18に示すが、塩からの高濃度ナトリウムが存在しても、直線性が維持されることを示し、より容易にイオン化されることによって、検出されるイオン線および原子線の分布、ならびに線発光レベルを修正することができる。
【0116】
図19(a)〜図19(d)は、従来のアルゴンICP源、および空気で動作する本発明のプラズマ源についての、多元素標準の測定されたピーク強度と、測定されたブランク(脱イオン水)の背景信号であるベースラインとを示すピークプロフィールプロットである。多元素標準は、BaおよびMgを0.2ppm、Cuを1ppm、Niを5ppm含有していた。CuおよびNiは、ソフトな原子線であり、従来のアルゴンICPおよび本発明の空気プラズマ源を用いて、ほぼ同じ性能を与える。Baは、よりハードなイオン線であり、従来のアルゴンICPプラズマ中でより良好に機能するが、空気プラズマ中のピーク強度は、アルゴンICPプラズマ中のピーク強度のたった半分弱である。誘電体共振器の他の形態も考えられ、それらのうちの2つの例を図20および図21に示す。
【0117】
図20は、セラミックリング12の形をした誘電体共振器と、誘電体共振器12の外表面と直接接触しているRFシールド42との部分切欠斜視図である。この構成では、寸法が小さくなり、RFシールド42に熱がより良好に伝達されるという利点がある。RFシールド42と接触しているセラミックリング12の表面は、金属でメッキされてもよい。
【0118】
図21は、2つの同軸セラミックリング12cおよび12dの形をした誘電体共振器と、2つの同心RFシールドとの部分切欠斜視図である。大きい方のリング12cの外表面は、外側RFシールド42aaと直接接触している。小さい方のリング12dの内表面は、内側RFシールド42bと直接接触している。プラズマ40は、リング12cと12dとの環状隙間内に形成されてもよい。
【0119】
特定の用語は、参照のみの目的で本明細書において使用され、したがって限定するものではない。例えば、「上部の」、「下部の」、「上方に」「下方に」などの用語は、参照される図面中の方向を指す。「正面の」、「背部の」、「後部の」、「底部の」および「側面の」などの用語は、論じている構成要素を説明する本文および関連図面を参照することによって明らかとなる、一貫しているが任意の基準枠内の構成要素の部分の向きを説明している。そのような用語は、具体的に上で言及した単語、その派生語および同様の輸入語を含んでもよい。同様に、「第1の」、「第2の」という用語、および構造を指す他のそのような数の用語は、文脈で明確に示さない限り、シーケンスまたは順序を示唆しない。
【0120】
本開示および例示的実施形態の要素または特徴を導入する場合、「1つの」および「前記」という冠詞は、そのような要素または特徴が1つまたは複数存在することを意味するものである。「備える」、「含む」および「有する」という用語は、包括的なものであり、具体的に記述するもの以外の追加の要素または特徴が存在し得ることを意味する。本明細書で説明した方法ステップ、工程、および操作は、実行順序として具体的に特定しない限り、議論または説明した特定の順序でそれらの実行を必ず要求するものとして解釈されるべきではないことをさらに理解されるべきである。また、追加または代替のステップを用いてもよいことも理解されるべきである。
【0121】
「リング」という用語は、一般に特質的なトポロジカルな表面を意味し、特に明示しない限り、例えば、円形形状、放射対称、または直径対高さの特定のアスペクト比を要求も排除もしないことを理解されたい。
【0122】
本発明は、本明細書に含まれる実施形態および例示に限定されないことが特に意図され、特許請求の範囲は、以下の特許請求の範囲内にあるような実施形態の一部を含む修正形式の実施形態、および異なる実施形態の要素の組合せを含むことを理解されたい。特許および非特許公報を含む、本明細書で説明した刊行物のすべては、それら全内容が本明細書に援用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図19C
図19D
図20
図21
【国際調査報告】