特表2016-523918(P2016-523918A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特表2016-523918神経変性状態の予防および治療のためのアドレナリン受容体拮抗薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-523918(P2016-523918A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(54)【発明の名称】神経変性状態の予防および治療のためのアドレナリン受容体拮抗薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20160715BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20160715BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20160715BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20160715BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20160715BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20160715BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160715BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20160715BHJP
   A61K 31/138 20060101ALI20160715BHJP
   A61K 31/404 20060101ALI20160715BHJP
   A61K 31/403 20060101ALI20160715BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20160715BHJP
   A61K 51/00 20060101ALI20160715BHJP
   A61K 31/27 20060101ALI20160715BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61P25/00
   A61P25/16
   A61P25/28
   A61P25/14
   A61K45/06
   A61P43/00 121
   A61K31/165
   A61K31/138
   A61K31/404
   A61K31/403
   A61K31/5377
   A61K49/02 C
   A61K31/27
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-524264(P2016-524264)
(86)(22)【出願日】2014年6月27日
(85)【翻訳文提出日】2016年2月8日
(86)【国際出願番号】US2014044715
(87)【国際公開番号】WO2014210544
(87)【国際公開日】20141231
(31)【優先権主張番号】61/840,381
(32)【優先日】2013年6月27日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】514135801
【氏名又は名称】シーダーズ−サイナイ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】タリアーティ ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】パガーノ ジェンナーロ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA15
4C084ZA16
4C084ZC75
4C085HH03
4C085KA29
4C085KB44
4C085LL13
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC12
4C086BC13
4C086BC85
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA21
4C206FA23
4C206FA25
4C206GA01
4C206GA31
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZA15
4C206ZA16
4C206ZC75
(57)【要約】
本開示は、アドレナリン受容体拮抗薬を利用することによって、アルツハイマー病(AD)及び特発性パーキンソン病(iPD)を含む、さまざまな神経変性状態及びこれらに関係した症状を、治療する及び予防するための方法を教示する。用いることができるアドレナリン受容体拮抗薬としては、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールなどのβ遮断薬が挙げられる。本開示は、iPDの進行を診断する及び監視するための方法も教示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に治療的有効量のアドレナリン受容体拮抗薬を含む組成物を提供する段階を含む、対象の神経変性状態の症状を軽減する、及び/または前記神経変性状態の進行を減速させる方法。
【請求項2】
前記神経変性状態が、特発性パーキンソン病(iPD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、純粋自律神経不全症(PAF)、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、及びハンチントン病(HD)から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記神経変性状態が特発性パーキンソン病(iPD)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アドレナリン受容体拮抗薬が、α1、α2、β1、β2、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される受容体の拮抗薬である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アドレナリン受容体拮抗薬がβ遮断薬である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物がL型カルシウムチャネル遮断活性を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記対象に治療的有効量のL型カルシウムチャネル遮断薬を提供する段階をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される薬剤を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記対象にドーパミン作動薬を含む組成物を提供する段階をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記対象が哺乳動物である、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記対象がヒトである、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
前記症状のうちの1つが便秘である、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
対象にアドレナリン受容体拮抗薬を含む予防的有効量の組成物を提供する段階を含む、前記対象の神経変性状態を予防する方法。
【請求項14】
前記神経変性状態が、特発性パーキンソン病(iPD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、純粋自律神経不全症(PAF)、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、及びハンチントン病(HD)から成る群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記神経変性状態が特発性パーキンソン病(iPD)である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記アドレナリン受容体拮抗薬が、α1、α2、β1、β2、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される受容体の拮抗薬である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アドレナリン受容体拮抗薬がβ遮断薬である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物がL型カルシウムチャネル遮断活性を有する薬剤を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記対象に治療的有効量のL型カルシウムチャネル遮断薬を提供する段階をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記対象にドーパミン作動薬を提供する段階をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される薬剤を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が哺乳動物である、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記対象がヒトである、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
特発性パーキンソン病(iPD)が対象で進行しているかどうかを明らかにする方法であって、
(1)iPDであると疑われる対象、またはiPDであると診断された対象の、ヨウ素−123−メタヨードベンジルグアニジン(123I−MIBG)の心臓摂取量を測定するために最初の分析を実施する段階、及び
(2)次に、前記対象の123I−MIBGの心臓摂取量を測定するために追加の分析を実施する段階であって、前記追加の分析で前記最初の分析と比べて、123I−MIBGの心臓摂取量が減少した場合、iPDが前記対象で進行していることが明らかになり、前記追加の分析で前記最初の分析と比べて、前記123I−MIBGの心臓摂取量が減少しなかった場合、iPDが前記対象で進行していないことが明らかになる、段階
を含む、方法。
【請求項25】
前記123I−MIBGの心臓摂取量が、123I−MIBGの心筋シンチグラフィーによって測定される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記最初の分析とその次の分析の間に、1つ以上のアドレナリン受容体拮抗薬を含む組成物が前記対象に投与され、前記アドレナリン受容体拮抗薬が、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
対象の特発性パーキンソン病(iPD)の存在または非存在を診断する方法であって、iPDであると疑われる対象のヨウ素−123−メタヨードベンジルグアニジン(123I−MIBG)の心臓摂取量を測定するための分析を実施する段階、及び前記123I−MIBGの心臓摂取量がiPDでない対象より少ない場合、前記対象がiPDであると診断すること、及び前記123I−MIBGの心臓摂取量がiPDでない対象より少なくない場合、前記対象がiPDでないと診断する段階を含む、方法。
【請求項28】
前記123I−MIBGの心臓摂取量が、123I−MIBGの心筋シンチグラフィーによって測定される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
アドレナリン受容体拮抗薬を含む組成物、及び
神経変性状態を予防する、治療する、またはその進行を減速させるのにこれを用いるための指示書
を含む、対象の神経変性状態を予防する、治療する、またはその進行を減速させるためのキット。
【請求項30】
前記神経変性状態が、特発性パーキンソン病(iPD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、純粋自律神経不全症(PAF)、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、及びハンチントン病(HD)から成る群から選択される、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記神経変性状態が特発性パーキンソン病(iPD)である、請求項30に記載のキット。
【請求項32】
前記アドレナリン受容体拮抗薬が、α1、α2、β1、β2、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される受容体の拮抗薬である、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
前記アドレナリン受容体拮抗薬がβ遮断薬である、請求項31に記載のキット。
【請求項34】
前記組成物がL型カルシウムチャネル遮断活性を有する、請求項31に記載のキット。
【請求項35】
L型カルシウムチャネル遮断薬をさらに含む、請求項31に記載のキット。
【請求項36】
前記組成物が、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される薬剤を含む、請求項31に記載のキット。
【請求項37】
ドーパミン作動薬をさらに含む、請求項31に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年6月27日に出願された米国仮特許出願第61/840,381号の優先権を米国特許法第119条(e)の下で主張するものであり、全体が参照により組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、概して神経変性状態の予防及び治療に関連する。
【背景技術】
【0003】
背景
以下の説明は、本発明を理解するのに有用であり得る情報を含む。本明細書に提供した情報のいずれも、現にクレームされている発明の先行技術、または関連であると容認していない。
【0004】
特発性パーキンソン病(iPD)は、効果的に疾患の進行を減速させるか、または停止させることができる公知の治療がない進行性障害である。iPDの対症療法は可能であるが、これは、主にドーパミン作用の補充に基づくものであり、一時的に運動障害、及び生活の質を改善するだけである。
【0005】
iPD(及び関連神経変性疾患)のために、その根底にある原因にも対処しながら症状を軽減する新しい治療が明らかに必要である。初期にiPDを診断する方法、及びその進行を監視する方法も必要である。
【発明の概要】
【0006】
種々の実施形態では、本発明は、対象の神経変性状態の症状を軽減する方法、及び/または対象の神経変性状態の進行を減速させる方法を教示する。いくつかの実施形態では、本方法は、アドレナリン受容体拮抗薬を含む治療的有効量の組成物を対象に提供する段階を含む。ある特定の実施形態では、神経変性状態は、特発性パーキンソン病(iPD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、純粋自律神経不全症(PAF)、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、及びハンチントン病(HD)から成る群から選択される。いくつかの実施形態では、神経変性状態は、特発性パーキンソン病(iPD)である。いくつかの実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬は、α1、α2、β1、β2、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される受容体の拮抗薬である。いくつかの実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬は、β遮断薬である。いくつかの実施形態では、組成物は、L型カルシウムチャネル遮断活性を有する。
【0007】
いくつかの実施形態では、本方法は、対象に治療的有効量のL型カルシウムチャネル遮断薬を提供する段階を含む。ある特定の実施形態では、本発明の方法に用いられる組成物は、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される薬剤を含む。いくつかの実施形態では、本方法は、さらに対象にドーパミン作動薬を含む組成物を提供する段階を含む。ある特定の実施形態では、対象は、哺乳動物である。いくつかの実施形態では、対象は、ヒトである。ある特定の実施形態では、症状の1つは、便秘である。
【0008】
種々の実施形態では、本発明は、対象にアドレナリン受容体拮抗薬を含む予防的有効量の組成物を提供する段階を含む、対象の神経変性状態を予防する方法を教示する。ある特定の実施形態では、神経変性状態は、特発性パーキンソン病(iPD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、純粋自律神経不全症(PAF)、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、及びハンチントン病(HD)から成る群から選択される。ある特定の実施形態では、神経変性状態は、特発性パーキンソン病(iPD)である。いくつかの実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬は、α1、α2、β1、β2、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される受容体の拮抗薬である。ある特定の実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬は、β遮断薬である。いくつかの実施形態では、組成物は、L型カルシウムチャネル遮断活性を有する薬剤を含む。いくつかの実施形態では、本発明は、対象に治療的有効量のL型カルシウムチャネル遮断薬を提供する段階を含む。ある特定の実施形態では、本方法は、対象にドーパミン作動薬を提供する段階を含む。いくつかの実施形態では、本方法に用いられる組成物は、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される薬剤を含む。いくつかの実施形態では、対象は、哺乳動物である。ある特定の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0009】
種々の実施形態では、本発明は、(1)iPDであると疑われる対象、またはiPDであると診断された対象のヨウ素−123−メタヨードベンジルグアニジン(123I−MIBG)の心臓摂取量を測定するために最初の分析を実施する段階、及び(2)次に、対象の123I−MIBGの心臓摂取量を測定するために追加の分析を実施する段階であって、追加の分析で最初の分析と比べて、123I−MIBGの心臓摂取量が減少した場合、iPDが対象で進行していることが明らかになり、追加の分析で最初の分析と比べて、123I−MIBGの心臓摂取量が減少しなかった場合、iPDが対象で進行していないことが明らかになる、段階を含む、特発性パーキンソン病(iPD)が対象で進行しているかどうかを明らかにする方法を教示する。いくつかの実施形態では、123I−MIBGの心臓摂取量は、123I−MIBGの心筋シンチグラフィーによって測定される。ある特定の実施形態では、最初の分析とその次の分析の間に、1つ以上のアドレナリン受容体拮抗薬を含む組成物が対象に投与され、アドレナリン受容体拮抗薬は、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される。
【0010】
種々の実施形態では、本発明は、iPDであると疑われる対象のヨウ素−123−メタヨードベンジルグアニジン(123I−MIBG)の心臓摂取量を測定するための分析を実施する段階、及び123I−MIBGの心臓摂取量がiPDでない対象より少ない場合、対象がiPDであると診断する段階、及び123I−MIBGの心臓摂取量がiPDでない対象より少なくない場合、対象がiPDでないと診断する段階を含む、対象の特発性パーキンソン病(iPD)の存在または非存在を診断する方法を教示する。いくつかの実施形態では、123I−MIBGの心臓摂取量は、123I−MIBGの心筋シンチグラフィーによって測定される。
【0011】
種々の実施形態では、本発明は、対象の神経変性状態を予防する、治療する、またはその進行を減速させるためのキットを教示する。ある特定の実施形態では、キットは、アドレナリン受容体拮抗薬を含む組成物、及び神経変性状態を予防する、治療する、またはその進行を減速させるのにこれを用いるための指示書を含む。ある特定の実施形態では、神経変性状態は、特発性パーキンソン病(iPD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、純粋自律神経不全症(PAF)、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、及びハンチントン病(HD)から成る群から選択される。いくつかの実施形態では、神経変性状態は、特発性パーキンソン病(iPD)である。ある特定の実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬は、α1、α2、β1、β2、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される受容体の拮抗薬である。ある特定の実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬は、β遮断薬である。いくつかの実施形態では、組成物は、L型カルシウムチャネル遮断活性を有する。いくつかの実施形態では、キットは、さらにL型カルシウムチャネル遮断薬を含む。ある特定の実施形態では、組成物は、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される薬剤を含む。いくつかの実施形態では、キットは、さらにドーパミン作動薬を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
参照図に例示的な実施形態を図示する。本明細書に開示した実施形態、及び図は、制限するものではなく説明するものであることが意図される。
図1】本発明の実施形態に従って、青斑核及び交感神経系によって媒介される、ストレスに対する交感神経反応の標的器官を示す。
図2】本発明の実施形態に従って、ノルエピネフリン(NE)過刺激によって誘発されるG共役受容体キナーゼ(GRK)の病理的活性化によって媒介される異常なα−シヌクレイン蓄積の機序の略図を示す。
図3】本発明の実施形態に従って、アドレナリン受容体遮断がα−シヌクレイン蓄積、及び疾患の進行に至る病理的機序を減速させることを示す。
図4】本発明の実施形態に従って、パーキンソン病の患者の便秘に関するβ遮断薬治療の影響を示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の説明
本明細書に記載した参考文献は、いずれも、完全に示したように全体が参照により組み入れられる。特に定義しない限り、本明細書に用いられる専門、及び科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じである。March、Advanced Organic Chemistry Reactions、Mechanisms and Structure 5th ed.、及びGuyton and Hall、Textbook of Medical Physiology 12th ed.によって、当業者に本出願に用いられる用語の多くに対する一般的な指針が提供される。
【0014】
当業者であれば、本発明の実施に用いることができる本明細書に記載したものとほぼ同じかまたは同等の、多くの方法及び材料がわかるであろう。実際のところ、本発明は、記載した方法、及び材料に決して限定されるものではない。本発明のために、以下に特定の用語を定義する。
【0015】
本明細書に用いる場合、「NE」は、ノルエピネフリンの頭字語である。
【0016】
本明細書に用いる場合、「E」は、エピネフリンの略語である。
【0017】
本明細書に用いる場合、「SNS」は、交感神経系の略語である。
【0018】
本明細書に用いる場合、「iPD」は、特発性パーキンソン病の頭字語である。
【0019】
本明細書に用いる場合、「DLB」は、レビー小体型認知症の頭字語である。
【0020】
本明細書に用いる場合、「MSA」は、多系統萎縮症の頭字語である。
【0021】
本明細書に用いる場合、「PAF」は、純粋自律神経不全症の頭字語である。
【0022】
本明細書に用いる場合、「AD」は、アルツハイマー病の頭字語である。
【0023】
本明細書に用いる場合、「PSP」は、進行性核上性麻痺の頭字語である。
【0024】
本明細書に用いる場合、「CBD」は、大脳皮質基底核変性症の頭字語である。
【0025】
本明細書に用いる場合、「HD」は、ハンチントン病の頭字語である。
【0026】
本明細書に用いる場合、「有益な結果」は、決して限定されないが、疾患状態またはそれと関係する症状の重症度を緩和するかまたは軽減すること、疾患状態の悪化を予防すること、疾患状態を治療すること、疾患状態の発症を予防すること、対象が疾患状態を発症する確率を下げること、及び対象の生命または余命を延ばすことを含むことができる。
【0027】
「状態」、「疾患状態」、及び「神経変性状態」は、本明細書に用いる場合、決して限定されないが、iPD、DLB、MSA、PAF、AD、PSP、CBD、及びHDを含むことができる。
【0028】
「哺乳動物」は、本明細書に用いる場合、限定せずに、ヒト、及びチンパンジー、及び他の類人猿、及びサル種などの非ヒト霊長類;ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、及びウマなどの家畜;イヌ、及びネコなどの飼い馴らされた哺乳動物;マウス、ラット、及びモルモット等などのげっ歯類を含む実験動物を含む、哺乳綱のいずれかの一員を指す。用語は、特定の年齢または性別を指すものではない。このため、成人、及び新生児の対象が、男性または女性にかかわらずこの用語の範囲に含まれることを意図している。
【0029】
「治療」、及び「治療する」は、本明細書に用いる場合、治療的処置、及び予防または防止の手段の両者を指し、その目的は、神経変性状態を減速させる(緩和する)こと、神経変性状態を予防すること、有益な結果を追求するかまたは得ること、あるいは、治療が最終的にうまくいかなくても、個体が神経変性状態を発症する確率を下げることである。治療が必要であるものは、既に神経変性状態にあるもの、ならびにその状態になりやすいもの、またはその状態を予防しなければならないものを含む。
【0030】
本明細書に記載した実施形態では、治療用組成物に関係して用語「提供すること」が用いられるそれぞれの例で、用語「投与すること」も企図される。換言すれば、組成物が提供されるいずれの例でも、代わりに患者に組成物を直接投与することができ、これは、本発明の範囲内である。
【0031】
背景として、βアドレナリン受容体は、NE、及びエピネフリン(E)によって活性化される。Eを含有する中枢神経系(CNS)の細胞がSNSの活性化を刺激する。実験動物の実験的観察では、SNSを活性化する脳細胞は、相当量の神経伝達物質E(βアドレナリン受容体を強く活性化する可能性がある神経伝達物質)を含有することが明らかになった。
【0032】
SNSが活性化すると、覚醒、注意、及びエネルギーが増すが、過度の活性化が、iPDの典型的な運動症状が出る前の症状(便秘、睡眠障害、不安、心臓自律神経障害、嗅覚脱失症等)に対応する症状を誘発する。発明者らは、慢性的にアドレナリン受容体が活性化すると、α−シヌクレイン凝集の速度が増し、疾患の進行を維持する可能性があることを明らかにした。発明者らは、さらに、βアドレナリン受容体を遮断すると、臨床的症状を緩和すること、及びα−シヌクレイン凝集に至る病態形成機序を弱め、戻すことができることを明らかにした。
【0033】
アドレナリン受容体調節により運動症状も改善する可能性がある。βアドレナリン受容体拮抗薬ナドロールによって、パーキンソン病の、安静時、体位性、及び動作時振戦を減らすことができ、プロプラノロールにより、パーキンソン病を悪化させることなくレボドパ誘発性ジスキネジアを減らせる可能性がある。α2アドレナリン受容体拮抗薬である、イダゾキサン及びフィパメゾールの投与によっても、レボドパの抗パーキンソン病薬の効果を減らすことなく、レボドパ誘発性ジスキネジアを減らせる可能性がある。
【0034】
重要なことには、これらの症状を減らすように作用するβ遮断薬は、血流により血液脳関門を横切って通過することによってCNSへ侵入し、そこでβアドレナリン受容体の過剰活性化を阻止する必要がある。決して限定されないが、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールを含むβ遮断薬が血液脳関門を通過することが示されており、その結果、β遮断薬が本発明の方法に有用である可能性がある。
【0035】
有利には、カルベジロールには、β−1、及びβ−2アドレナリン遮断、α−1アドレナリン遮断、抗酸化活性、L型カルシウムチャネル遮断、及びストレス−活性化プロテインキナーゼの活性化の抑制を含む、アドレナリン受容体に及ぼすいくつかのさまざまな作用がある。このため、早期及び進行iPDで交感神経の過剰活性化障害を阻止するには、カルベジロールが特に好ましい。現在のカルベジロール(経口)配合物の吸収は、一般的に速く完全であり、平均消失半減期が約8時間である。カルベジロールは、通常、肝臓、及び腎臓機序を含む二段階の過程で身体から除去される。いくつかのカルベジロールの肝臓代謝産物が有益な作用に寄与している可能性がある。例えば、カルベジロール代謝産物であるSB209995の抗酸化活性は、カルベジロールの能力の50〜100倍であり、ビタミンEより1000倍強力である。
【0036】
前述の背景及び分析のすべての観点から、発明者らは、多くの神経変性障害、及びこれに関係した症状を治療または予防するために、新しい戦略(以下に詳細をより多く記載した)を打ち立てた。
【0037】
種々の実施形態では、本発明は、対象に1つ以上のアドレナリン受容体拮抗薬を含む治療的有効量の組成物を提供することによって、対象の神経変性状態を、予防する、その進行を減速させる、または症状を治療する方法を教示する。いくつかの実施形態では、2種以上のアドレナリン受容体拮抗薬が別々に提供される。いくつかの実施形態では、神経変性状態は、iPD、AD、及びMSAから成る群から選択される。いくつかの実施形態では、神経変性状態は、本明細書に記載した神経変性状態のうちのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物は、β1/β2及び/またはα1/α2受容体拮抗薬を含む。いくつかの実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬の1つ以上がβ遮断薬である。いくつかの実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬は、決して限定されないが、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、チモロールのうちの1つ以上、及びこれらの組み合わせを含むことができる。1つの実施形態では、本発明の方法に用いられるアドレナリン受容体拮抗薬は、カルベジロールである。好ましい実施形態では、神経変性状態は、iPDであり、少なくとも1つのβ遮断薬が対象に提供される。好ましい実施形態では、iPDの対象に提供される少なくとも1つのβ遮断薬がカルベジロールである。当業者であれば、本発明の方法にラセミ混合物、光学異性体、類似体、誘導体、及び当該物質のそれぞれの塩を用いることができると容易に分かるであろう。さらに、本発明の方法に速放性ならびに持効性製剤を用いることができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、前述の治療用組成物は、本明細書の実施例に記載したものを含む従来のドーパミン治療による治療とともに、治療前または治療後に提供される。本明細書に記載した本発明の方法に用いられる組成物は、本明細書に記載した神経変性疾患のありとあらゆる段階で提供することができる。例えば、本明細書に記載した極めて初期を含む、認識されたiPDのいずれの段階でも1つ以上のアドレナリン受容体拮抗薬を提供することができる。本明細書に記載した状態のいずれかを発症するリスクが平均的な個体と比べて上昇していると考えられる個体に、予防的に本発明の方法に用いられる組成物を提供することもできる。いくつかの実施形態では、個体は、哺乳動物である。いくつかの実施形態では、個体は、ヒトである。
【0039】
種々の実施形態では、治療的有効量の本明細書に記載した1つ以上の化合物または組成物とともに薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物として、本明細書に記載した1つ以上の化合物または組成物を提供することができる。「薬学的に許容される賦形剤」は、一般的に安全で、非毒性で、好ましい医薬組成物を調製するのに有用な賦形剤を意味し、動物用ならびにヒトの薬剤用に許容される賦形剤を含む。このような賦形剤は、固体、液体、半固体とすることができ、またはエアゾール組成物の場合は気体とすることができる。
【0040】
種々の実施形態では、本発明に従った医薬組成物は、任意の投与の経路を介した送達のために調剤することができる。「投与の経路」は、限定されないが、エアゾール、経鼻、経口、経粘膜、経皮、または非経口を含む、当技術分野で公知の任意の投与経路を指すことができる。「経皮」投与は、局所用クリーム、もしくは軟膏を用いて、または経皮パッチによって、実行することができる。「非経口」は、一般的に、眼窩内、輸液、動脈内、嚢内、心内、皮内、筋肉内、腹腔内、肺内、脊椎内、胸骨内、髄腔内、子宮内、静脈内、くも膜下、被膜下、皮下、経粘膜、または経気管を含む、注入に関係している投与の経路を指す。非経口経路を介する組成物は、輸液または注入のための、溶液もしくは懸濁液、または凍結乾燥粉末の形態とすることができる。消化管内経路を介する医薬組成物は、錠剤、ゲルカプセル、糖衣錠、シロップ、懸濁液、溶液、粉末、顆粒、乳濁液、制御放出が可能となるマイクロスフェア、またはナノスフェア、または脂質小胞、またはポリマー小胞の形態とすることができる。局所経路を介する、本発明に従った化合物に基づく医薬組成物は、皮膚及び粘膜を治療するために調剤することができ、軟膏、クリーム、ミルク、軟膏、粉末、含浸パッド、溶液、ゲル、スプレー、ローション、懸濁液、または他の化粧品の形態である。この局所経路を介する医薬組成物は、制御放出が可能となるマイクロスフェア、またはナノスフェア、または脂質小胞、またはポリマー小胞、またはポリマーパッチ、及びハイドロゲルの形態とすることもできる。この局所経路の組成物は、臨床的適応に応じて、無水形態または水性形態のいずれかとすることができる。
【0041】
本発明の方法に用いられる医薬組成物は、任意の薬学的に許容される担体を含有することもできる。「薬学的に許容される担体」は、本明細書に用いる場合、1つ以上の対象の組成物または分子を、身体の1つの組織、器官、または一部から、身体の別の組織、器官、または一部へと運ぶまたは輸送することに関与する、薬学的に許容される材料、組成物、またはビヒクルを指す。例えば、担体は、液体もしくは固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、もしくは封入材料、またはこれらの組み合わせとすることができる。担体の各成分は、配合物の他の材料と共存しなければならないという点で「薬学的に許容される」ものでなければならない。担体の各成分は、接触させることができる組織または器官に接触させて用いるのに好適なものでもなければならず、それは、毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、またはその治療的効果より過度に勝る他の併発症のリスクを負ってはならないという意味である。
【0042】
ある特定の好ましい実施形態では、本発明に従った医薬組成物を経口投与のために封入する、錠剤にする、または乳濁液もしくはシロップに調製することもできる。薬学的に許容される固体または液体の担体を添加して、組成物を強化または安定化させる、あるいは組成物の調製を促進することができる。液体の担体としては、シロップ、落花生油、オリーブ油、グリセリン、生理食塩水、アルコール、及び水が挙げられる。固体の担体としては、デンプン、ラクトース、硫酸カルシウム、二水和物、白土、ステアリン酸マグネシウム、またはステアリン酸、タルク、ペクチン、アカシア、寒天、またはゼラチンが挙げられる。担体は、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの持効性物質を、単独でまたはワックスとともに含むこともできる。
【0043】
製剤は、粉砕、混合、粒状化、及び錠剤形態のために必要な場合圧縮、あるいは、硬ゼラチンカプセル形態のために粉砕、混合、及び充填を含む従来の調剤技術に従って作製される。液体の担体が用いられる場合、製剤は、シロップ、エリキシル、乳濁液、または水性もしくは非水性懸濁液の形態となる。このような液体製剤を経口で直接投与する、または軟ゼラチンカプセルに充填することができる。
【0044】
本発明に従った医薬組成物は、治療的有効量で送達することができる。正確な治療的有効量は、所与の対象の治療効果の点で最も効果的な結果を生む組成物の量である。この量は、限定されないが、治療用組成物の特性(活性、薬理動態、薬動力学、及び生物学的利用性を含む)、対象の生理学的条件(年齢、性別、疾患の種類及び段階、一般的な身体的状態、所与の投与量に対する反応性、及び薬物療法の種類を含む)、製剤の薬学的に許容される担体または担体(複数)の性質、及び投与の経路を含む、さまざまな因子に応じて変わる。臨床および薬理分野の当業者であれば、日常試験により、例えば、組成物または分子の投与に対する対象の反応を監視すること、及びそれに応じて用量を調節することによって治療的有効量を決定することができる。補足の手引きとして、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(Gennaro ed 20th edition、Williams&Wilkins PA、USA)(2000)を参照。
【0045】
本明細書に記載した任意のアドレナリン受容体拮抗薬の有効量の典型的な用量は、インビトロ反応または動物モデルの反応によって当業者に示すことができる。このような用量は、典型的には、適切な生物活性を失うことなく、濃度または量の最大約一桁まで減らすことができる。このように、実際の用量は、医師の判断、患者の状態、及び治療法の有効性に依存している。本明細書の以下に記載した特定の用量、及び用量の範囲は、iPDを含む本明細書に記載した神経変性疾患のいずれかの治療、及び予防のためのものである。
【0046】
いくつかの実施形態では、アセブトロールの治療用量の範囲は、本明細書に記載した神経変性状態のいずれかを治療するまたは予防するために消化管内経路を介して投与する場合、10〜12時間毎に100〜200mg/70kgである。好ましい実施形態では、iPDの運動及び非運動症状を治療するまたは予防するために必要なアセブトロールの経口用量は、6時間毎に100mg/70kgである。
【0047】
いくつかの実施形態では、ベタキソロールの治療用量の範囲は、本明細書に記載した神経変性状態のいずれかを治療するまたは予防するために消化管内経路を介して投与される場合、10〜12時間毎に10〜20mg/70kgである。好ましい実施形態では、iPDの運動及び非運動症状を治療するまたは予防するために必要なベタキソロールの経口用量は、6時間毎に5mg/70kgである。
【0048】
いくつかの実施形態では、ビソプロポロールの治療用量の範囲は、本明細書に記載した神経変性状態のいずれかを治療するまたは予防するために消化管内経路を介して投与される場合、10〜12時間毎に5〜10mg/70kgである。好ましい実施形態では、iPDの運動及び非運動症状を治療するまたは予防するために必要なビソプロロールの経口用量は、6時間毎に2.5mg/70kgである。
【0049】
いくつかの実施形態では、カルベジロールの治療用量の範囲は、本明細書に記載した神経変性状態のいずれかを治療するまたは予防するために消化管内経路を介して投与される場合、10〜12時間毎に12.5〜25mg/70kgである。好ましい実施形態では、iPDの運動及び非運動症状を治療するまたは予防するために必要なカルベジロールの経口用量は、6時間毎に6.25mg/70kg、または制御放出形態を用いて10mg/日である。
【0050】
いくつかの実施形態では、酒石酸メトプロロールの治療用量の範囲は、本明細書に記載した神経変性状態のいずれかを治療するまたは予防するために消化管内経路を介して投与される場合、10〜12時間毎に100〜200mg/70kgである。好ましい実施形態では、iPDの運動及び非運動症状を治療するまたは予防するために必要な酒石酸メトプロロールの経口用量は、6時間毎に50mg/70kgである。
【0051】
いくつかの実施形態では、オクスプレノロールの治療用量の範囲は、本明細書に記載した神経変性状態のいずれかを治療するまたは予防するために消化管内経路を介して投与される場合、10〜12時間毎に160〜320mg/70kgである。好ましい実施形態では、iPDの運動及び非運動症状を治療するまたは予防するために必要なオクスプレノロールの経口用量は、6時間毎に80mg/70kgである。
【0052】
いくつかの実施形態では、ピンドロールの治療用量の範囲は、本明細書に記載した神経変性状態のいずれかを治療するまたは予防するために消化管内経路を介して投与される場合、10〜12時間毎に5〜10mg/70kgである。好ましい実施形態では、iPDの運動及び非運動症状を治療するまたは予防するために必要なピンドロールの経口用量は、6時間毎に2.5mg/70kgである。
【0053】
いくつかの実施形態では、プロパノロールの治療用量の範囲は、本明細書に記載した神経変性状態のいずれかを治療するまたは予防するために消化管内経路を介して投与される場合、10〜12時間毎に60〜80mg/70kgである。好ましい実施形態では、iPDの運動及び非運動症状を治療するまたは予防するために必要なプロパノロールの経口用量は、6時間毎に40mg/70kgである。
【0054】
いくつかの実施形態では、チモロールの治療用量の範囲は、本明細書に記載した神経変性状態のいずれかを治療するまたは予防するために消化管内経路を介して投与される場合、10〜12時間毎に10〜20mg/70kgである。好ましい実施形態では、iPDの運動及び非運動症状を治療するまたは予防するために必要なチモロールの経口用量は、6時間毎に5mg/70kgである。
【0055】
いくつかの実施形態では、iPDの対象のための1つ以上のβ遮断薬の治療投与計画は、安静時心拍数が1分当たり約80以下の拍動となるものとする。いくつかの実施形態では、iPDの対象のための治療用量の投与方法は、安静時心拍数が1分当たり約78未満の拍動、または、1分当たり76未満の拍動、または、1分当たり74未満の拍動、または、1分当たり72未満の拍動、または、1分当たり70未満の拍動、または、1分当たり68未満の拍動、または、1分当たり66未満の拍動となるものとする。
【0056】
種々の実施形態では、本発明は、対象でiPDが進行しているかどうかを明らかにする方法を教示する。種々の実施形態では、本方法は、(1)iPDであると疑われる対象、またはiPDであると診断された対象の、ヨウ素−123−メタヨードベンジルグアニジン(123I−MIBG)の心臓摂取量を測定するために最初の分析を実施すること、及び(2)次に、対象の123I−MIBGの心臓摂取量を測定するために追加の分析を実施することによって、追加の分析で最初の分析と比べて123I−MIBGの心臓摂取量が減少した場合、iPDが対象で進行していることが明らかになり、追加の分析で最初の分析と比べて123I−MIBGの心臓摂取量が減少しなかった場合、iPDが対象で進行していないことが明らかになることを含む。いくつかの実施形態では、123I−MIBGの心臓摂取量は、通常当業者によって実施されるように、123I−MIBGの心筋シンチグラフィーによって測定される。適用できる方法の非限定例がCourbon et al.Movement Disorders Vol.18,No.8,2003,pp.890〜897;Oka et al.J Neural Transm(2011)118:1323〜1327、及びNavarro−Otano et al.Parkinsonism and Related Disorders 20(2014)192〜197に記載されている。ある特定の実施形態では、最初の分析とその次の分析の間に、アドレナリン受容体拮抗薬(本明細書に記載した1つ以上のβ遮断薬を含む)を含む組成物が対象に投与される。種々の実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬は、決して限定されないが、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールを含むことができる。
【0057】
種々の実施形態では、本発明は、iPDであると疑われる対象におけるiPDの存在または非存在を診断する方法を教示する。いくつかの実施形態では、本方法は、iPDであると疑われる対象の123I−MIBGの心臓摂取量を測定するための分析を実施すること、及び123I−MIBGの心臓摂取量がiPDでない対象より少ない場合、対象がiPDであると診断すること、及び123I−MIBGの心臓摂取量がiPDでない対象より少なくない場合、対象がiPDでないと診断することを含む。いくつかの実施形態では、123I−MIBGの心臓摂取量は、通常当業者によって実施されるように123I−MIBGの心筋シンチグラフィーによって測定される。いくつかの実施形態では、対象の123I−MIBGの心臓摂取量の測定値が任意の段階のiPDの対象とほぼ同じである場合、対象はiPDと診断される。いくつかの実施形態では、対象は、123I−MIBGの心臓摂取量の測定値と関係があると知られているiPDの特定の段階と診断される。
【0058】
本発明は、神経変性疾患(例えば、本明細書に記載したものいずれか)を治療すること、抑制すること、その予防を促進すること、その症状を軽減すること、及び神経変性疾患の可能性を減少させることを必要とする哺乳動物において、それらを行うことのうちの1つ以上を対象とするキットも教示する。当該キットは、本明細書に記載した少なくとも1つの本発明の化合物または組成物を含む、材料または構成要素の集合物である。このため、いくつかの実施形態では、当該キットは、1つ以上のアドレナリン受容体拮抗薬を含む組成物を含有する。いくつかの実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬の1つ以上がβ遮断薬である。いくつかの実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬は、決して限定されないが、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、ピンドロール、プロプラノロール、チモロールのうちの1つ以上、及びこれらの組み合わせを含むことができる。1つの実施形態では、本発明のキットに含まれるアドレナリン受容体拮抗薬は、カルベジロールである。当業者であれば、本発明のキットにラセミ混合物、光学異性体、類似体、誘導体、及び当該物質のそれぞれの塩を含むことができると容易に分かるであろう。さらに、本発明のキットに速放性ならびに持効性製剤を含むことができる。
【0059】
本発明のキットに構成される構成要素の正確な性質は、その意図した目的に依存している。非限定例として、iPDを含む本明細書に記載した1つ以上の神経変性状態を治療すること、抑制すること、予防を促進すること、その症状を軽減すること、及び/または神経変性状態の可能性を減少させることから選択される1つ以上の目的のために、いくつかの実施形態が構成される。1つの実施形態では、キットは、特に哺乳動物の対象を治療する目的のために構成される。別の実施形態では、キットは、特にヒトの対象を治療する目的のために構成される。別の実施形態では、キットは、青年、小児、または乳児のヒトの対象を治療するために構成される。さらなる実施形態では、キットは、動物用、限定されないが、家畜、飼育動物、及び実験動物などの対象を治療するために構成される。
【0060】
キットに使用指示書を含むことができる。「使用指示書」は、典型的には、本明細書に記載した好適な組成物及び方法を用いて、iPDを含む本明細書に記載した神経変性状態を治療すること、抑制すること、その予防を促進すること、その症状を軽減すること、及び/または神経変性状態の可能性を減少させること、またはその状態を抑制することなどの所望の転帰をもたらすためにキットの構成要素を用いるのに使用される手法を記載している有形の表現を含む。任意で、キットは、他の有用な構成要素、例えば、希釈剤、緩衝剤、薬学的に許容される担体、シリンジ、カテーテル、アプリケーター、ピペット、もしくは計量器具、または容易に当業者が分かるような他の有用な装置も含有する。
【0061】
キットに集められる材料または構成要素は、操作性及び実用性を保つ、任意の、便利かつ好適な方法で貯蔵され、開業医に提供することができる。例えば、構成要素は、溶解形態、脱水形態、または凍結乾燥形態とすることができ、室温、冷蔵温度、または凍結温度で提供することができる。構成要素は、典型的には、好適な包装材料(単数または複数)に含有される。本明細書に使用する場合、語句「包装材料」は、本発明の組成物、分子等などのキットの内容物を収納するために用いられる1つ以上の物理的構造を指す。包装材料は、好ましくは、滅菌された、汚染のない環境をもたらすように、よく知られている方法によって製造される。本明細書に用いる場合、用語「包装容器」は、個々のキット構成要素を保持することができる、好適な固体のマトリックス、またはガラス、プラスチック、紙、金属箔などの材料を指す。このため、例えば、包装容器は、好適な量の本明細書に開示した発明の組成物を含有するために用いられる、1つ以上のガラスバイアルまたはプラスチック容器とすることができる。包装材料には、一般的に、キット及び/またはその構成要素の、内容物及び/または目的を示す外部ラベルがある。
【0062】
当業者であれば、本発明の実施に用いることができる本明細書に記載したものとほぼ同じ、または同等の多くの方法及び材料がわかるであろう。実際のところ、本発明は、記載した方法、及び材料に決して限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1
背景
追加の背景として、iPDは、病因が不明の非遺伝性、慢性かつ進行性神経変性障害であり、安静時振戦、及び/または筋硬直を伴う運動緩徐(運動の緩慢)の存在を特徴とする。iPDは、典型的には、黒質緻密部(SNpc)でのドーパミン作動性ニューロンの有意な損失に関係している。SNpcは、主に運動の制御に関与している脳構造である線条体に、ドーパミン作動性の神経支配をもたらす。ドーパミン作動性ニューロンの50〜80%を損失するまで、iPDの運動症状の出現は起こらないと推定される。
【0064】
iPDの発症率は、65歳以上の個人のうち約1%である。iPDが米国だけでほぼ150万人に影響を及ぼしていると推定される。特徴的な運動症状に加えて、iPDは、全体的な病状の負担に加わる多くの「非運動」症状を特徴とする。重要なことには、非運動の特徴は、時には、iPDの診断に数年先行する可能性があることである。非運動症状としては、自律(消化管機能異常、起立性低血圧症を伴う心臓血管機能異常、尿及び性的機能異常、及び多汗症)、睡眠(睡眠開始障害、及び睡眠維持障害、急速眼球運動(レム)行動障害、及び日中の過剰な眠気)、感覚(痛覚、嗅覚低下、及び視覚機能異常)、及び/または神経心理学的障害(無快感症、無感情、不安、抑うつ、恐慌発作、認知症、及び精神疾患)が挙げられる。
【0065】
前述の症状は、黒質病変、及びドーパミン作用の欠乏では、十分に説明することができず、一般的にドーパミン作用の補充に対する反応がないことを考慮することが重要である。ほとんどの場合、この疾患の後期に起こる他の黒質外ドーパミン無反応症状は、体位不安定及び歩行障害、認知症及び精神病的症状を含み、一部の患者では、これらの最終の症状がDLBの運動パーキンソン病に先行する可能性もある。
【0066】
発明者らは、広範囲にわたる科学文献を検討し、彼ら自身の臨床的経験を考慮に入れた後、ドーパミン作用の補充に対する無反応は、原発性黒質変性及びドーパミン作用の欠乏と異なる機序が、当該症状の病態生理にある可能性があることを示唆していると結論づけた。特に上に示したように、発明者らは、神経系の別の重要な神経伝達物質回路であるNEの機能異常により、疾患の「非運動」症状の全てでなくてもほとんどを説明することができ、これが古典的な運動症状の発症でも重要な役割を演じると結論づけた。発明者らは、最初は種々の性質のストレスに対する生理学的反応であるアドレナリン受容体の活動亢進の持続により、最初の(可逆的)段階ではα−シヌクレインの蓄積、最終的には神経細胞死に至る可能性があると考えている。重要なことには、診断の「至適基準」として神経病理学を支持する歴史的偏見に基づくとiPDは古典的に原発性変性の疾患と考えられているが、発明者らは、ノルアドレナリン作用系の過活動に関連した数多くの非運動症状によって証明される、長年に渡る可逆的過程であるとiPDを結論づけた。
【0067】
発明者らは、これらのすべてを考慮に入れて、本明細書に記載した診断の方法を用いることによって、または別の方法で1つ以上の上記の初期のiPD症状、及び初期のiPDと診断されるかどうかについて対象を評価することができ、その後、1つ以上の本明細書に記載した本発明の方法に従って対象を治療することができることを明らかにした。
【0068】
実施例2
現在実施されているiPDの運動及び非運動症状の治療
上に示したように、あらゆる進歩にかかわらず、iPDは、相変わらず疾患の進行を変えるための治療がない進行性障害である。現在実施されているiPDの治療は、対症療法的なものにすぎず、一時的に運動障害及び生活の質を改善するドーパミン作用の補充に主に基づくものである。ある特定の実施形態では、1つ以上の本発明の方法と関連して、以下の従来の治療戦略のそれぞれを用いることができる。
【0069】
ドーパミン作用の補充
3つの主要なクラスのドーパミン作動薬である、モノアミンオキシダーゼB(MAO−B)抑制剤、ドーパミン作動薬(DA)、及びレボドパが、対症療法の第一選択と考えられる。MAO−B抑制剤(ラサギリン及びセレギリンともに)が、軽度障害の患者の最初の単剤療法のための第一選択である。MAO−B抑制剤が神経保護となる可能性があるという示唆があるが、利用できる2つのMAO−B抑制剤のいずれでも疾患改善の明白な証拠はない。DAは主に線条体のドーパミン受容体に直接作用し、比較試験は実施されていないが、MAO−B抑制剤よりiPDの眼球運動の特徴に対し有効であると考えられる。さまざまなDAのクラスの中では、エルゴリン系DA(カベルゴリンまたはペルゴリド)は肺及び心臓弁膜性線維症型反応を示すため、非エルゴリン系DA(プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン、及びピリベジル)が好ましい。多くの国内及び国際的指針では、レボドパと比べてDAが運動合併症(例えば、ジスキネジアまたは反応性動揺)を誘発する可能性が低いため、DAが第一選択的治療として、特に若年の患者に推奨される。しかし、運動症状に対するDAの有効性はレボドパより低く、DA単独治療を開始した患者は、結局は疾患が進行し運動症状が重症化すると追加のレボドパを必要とする。DAは、さらに多くの有害作用(例えば、吐き気、頭痛、脚部浮腫、幻覚、昼間嗜眠、及び睡眠発作、または起立性低血圧症)と関係している。さらに、DAで長期治療したiPD患者は、通常、ギャンブル依存症、買い物依存症、性行動依存症、または強迫過食、及び一般に衝動抑制障害と定義されるものを含む、追加の症状(自然のiPDの病歴と関連しない)を発症する。歴史的にレボドパは、iPDの運動特徴を治療するための最も効果的な薬剤と広く考えられており、運動合併症リスクが一般的に低い高齢の患者の第一選択である最初の単独治療として受け入れられている。その有効性にもかかわらず、運動合併症を発症するリスク(実際のところ、長期のレボドパ治療後の全iPD患者に影響を及ぼす)が、iPDの最初の単独治療として代わりのドーパミン作用性の治療を考える主な理由を示している。しかし、長期の運動合併症は、非ドーパミン作用系が疾患の進行と関係しており、疾患修飾治療の良い標的となる可能性があることを示している。
【0070】
非ドーパミン作動薬
現在の治療指針では、非ドーパミン作用性の治療の役割は小さいかまたは無い。非運動症状は頻繁に起こるだけではなく、患者及び介護者によって過少に報告されることが多い。さらに非運動症状は、頻繁に臨床医の認識不足となるため、その結果治療不足が続く。さらに、症状は、ドーパミン作用の不足に基づく基本的な運動障害に関係した「偶然起こる」特徴と考えられているため、治療は、非iPD患者と同じ方法で単一または複数の症状(例えば、便秘、睡眠障害、気分障害、及び自律性機能異常)に対処するにすぎない。
【0071】
要約すれば、以前より以下のiPDの未解決の医療的ニーズがある:(a)原因不明;(b)運動(振戦、運動緩徐、及び硬直)、及び非運動(自律性機能異常、睡眠障害、抑うつ、倦怠感、無感情、不安、及び進行性認知低下)症状を含む全臨床的特徴の進行性悪化;(c)慢性的なドーパミン作用の補充に関連することが多い進行型運動合併症(ジスキネジアまたはジストニアなどの不随意運動、平衡障害、体位障害、及び予測できない静止などのすくみ現象、または「オフ」状態の持続);及び(d)多くの場合で不適当な、振戦の制御。
【0072】
発明者らは、これらの未解決ニーズのうち全てでなくてもいくつかは、脳のNEの種々の役割と関連があり、NEの神経伝達を遮断するかまたは調節すると、運動及び非運動問題を改善し、iPDを患っている患者または発症しやすい患者の進行を予防する可能性があると考えている。
【0073】
実施例3
治療的アプローチの理論的根拠
上に示したように、iPDは現在、黒質緻密部(SNc)のドーパミン作動性ニューロンの説明不能かつ早期の死によって生じる進行性神経変性疾患と考えられており、レビー小体と呼ばれる、α−シヌクレイン及びユビキチンが豊富である異常なタンパク質凝集物を蓄積することが古典的にわかっている。しかし、iPDの、多くの、しばしば起こる文献で裏付けられた臨床的及び病理的特徴は、SNcの変性を中心とするドーパミン作用理論によっては説明されない。iPDにしばしば起こる多くの非運動症状は、レボドパに対して無反応であり、ドーパミン作用の機序と関連せず、古典的な(ドーパミン作用の)運動症状よりも多くの障害を引き起こすことが多い。重要なことには、いくつかの非運動症状が、運動症状に数年、更には20年以上も、先行して現れる。また、iPDの病理学的マーカーであるレビー小体は、SNCだけの病理学的マーカーではなく、多くの他の脳及び脳外部位にみられ、疾患の進行のマーカーであると考えられるという多くの専門家による知見がある。iPDの病理学的マーカーであるレビー小体の形成の機序は、以前は不明であった。特に、何が、疾患による影響を受けたニューロンを特徴付ける異常なα−シヌクレイン凝集物を導くのかが明確ではない。結局、iPDの運動症状の初期にはドーパミン作用の補充(すなわちレボドパ)に反応するが、運動症状が出る前の症状、及び最も重要なことには、疾患の進行を特徴づける症状(すなわち、体位不安定、認知低下、運動動揺、及びジスキネジア)は、ドーパミン作動薬での治療によって影響を受けない。
【0074】
黒質線条体系に加えて、他の構造がiPDの進行を特徴づける神経変性過程に関与している。剖検試験によって、α−シヌクレインレビー病理が進行的に多くの核で発現することが確認されており、死後に散発性iPDであると診断された患者、ならびに偶発的(前駆期または運動症状が出る前)にレビー小体疾患であるとわかった個体において、青斑核(LC)のNEニューロンの特異的な損失があり、これは年齢及び性別が対応する対照群にはないことを確認した。iPDの異常なノルアドレナリン作用性の機能は、抑うつ、レム睡眠障害、及び自律性機能異常を含むいくつかの非運動症状と相関する可能性がある。実際、iPD機能異常におけるノルアドレナリン作用系の寄与によって疾患の初期の多くの非運動症状を極めてうまく説明できると思われる。
【0075】
実施例4
「運動症状が出る前の」パーキンソン病
ほとんどの臨床医及び研究者は、臨床的、病理的、及び疫学的研究に基づいて、iPDの運動症状が出る前の病期が存在していると思われることに同意するであろう。いわゆる「Braak仮説」によると、中枢神経系でのレビー小体の進行性蓄積に基づいて、時系列で6つの異なるiPDの段階がある。運動性のパーキンソン病の発症の重要な事象と考えられるSNcのシヌクレイン病の関与は、段階3までは明らかにならない。嗅球、迷走神経背側核、及びLCを含む黒質外部位が、SNcになる前に影響を受けると思われる。レビー神経炎によるα−シヌクレイン免疫活性とそれに続く目立つレビー小体が、視床下部、ならびに、壁内神経系、心臓神経叢、及び骨盤神経叢などの節前性及び節後性の交感神経及び副交感神経構造でみられ、何人かの専門家によるとこの過程が開始している可能性すらある。
【0076】
自律性かつノルアドレナリン作用性の構造における異常なα−シヌクレイン凝集及びレビー小体の形成によって、iPDの典型的な非運動症状全てについて説明がつき、本発明の方法を用いることによって、極めて初期の段階で、疾患の進行を減速させかつ阻止する機序を提供する。
【0077】
重要なことには、現在の発明は、ノルアドレナリン作用系の変性ではなく過活動がiPDの最初の症状の原因であるという概念に部分的に基づいている。発明者らは、ノルアドレナリン作用性の活動亢進が非運動症状を誘発し、疾患の進行を持続するようであると考えている。特定の細胞内キナーゼの濃度/活性が増大することにより、ノルアドレナリン作用性の活動亢進が、LC及びSNSの、ドーパミン作用性及び非ドーパミン作用性の全ての遠心性標的ニューロンで、α−シヌクレインの異常なリン酸化及び凝集を引き起こす。実際、「Braak仮説」の進行性段階に関与している全構造が、LCまたはSNSの遠心性標的である。
【0078】
SNS活動亢進と、PDの発現及び進行との間の病理生理学的関連は、標的器官でのβ−1アドレナリン受容体の過度の活性化である。生理的状態では、G共役受容体キナーゼ(GRK)が膜貫通G受容体(β−1アドレナリン受容体を含む)をリン酸化し、アレスチン系を介して受容体を脱感作して下方制御し、最終的には膜密度を減少させる。病理的状態では、過度の受容体刺激が、GRKの濃度及び活性の急激な増加を誘発し、一方ではβ−1アドレナリン受容体の膜密度を減少させるが、他方ではαシヌクレインの異常なリン酸化を引き起こし、その結果、凝集物がレビー小体を形成する。レビー小体が典型的には、(活動亢進が最大となる)SNS軸索突起の先端で蓄積を開始し、その後、細胞体の逆方向に広がり、最終的に変性する。発明者らは、α−シヌクレインの病理的蓄積ならびに結果として起こるiPDの発現及び進行を予防するために、疾患の運動症状が出る前の病期でアドレナリンの過度の活性化を阻止することが有利であると考えている。
【0079】
ノルアドレナリン作用系の重要な役割を確認すると、iPDの初期及び特定の線条体外の兆候は、心臓の交感神経系の障害である。iPDにおける心臓の交感神経の「脱神経」の神経画像の証拠が、初期の疾患の症状及び進行の根底をなす機序の理解の転換点となっている。NEの生理学的類似体である、ヨウ素−123−メタヨードベンジルグアニジン(123I−MIBG)の心臓摂取量の減少が、iPD及びレビー小体型認知症(DLB)の患者において報告されている。これらの画像アプローチは、多系統萎縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)、皮質基底核変性(CBD)、アルツマイマー病(AD)、及びパーキンソン症候群関連PDなどの他の関連障害と、iPD及びDLBを識別する可能性がある、感度のよい診断用ツールである。iPDであると高く予測されると考えられる状態であるレム睡眠行動障害(RBD)では、123I−MIBG心臓摂取量がiPDとほぼ同じである。PD/DLB/RBDのグループ及び他の神経変性疾患(MSA、PSP、CBD)の間の差異についての1つの仮説は、さまざまな種類の神経節神経変性(第1のグループの神経節後及び第2のグループの神経節前)と関連している。この所見は、心臓の交感神経の末梢ニューロンが、PD/DLB患者において影響を及ぼす可能性があることを示唆している。
【0080】
発明者らの結論を支持して、123I−MIBG心筋シンチグラフィーによって測定される交感神経の心臓末梢神経障害は、ノルアドレナリン作用系の過活動と説明される、SNS障害との認められている病理生理学的相関関係を有する他のよくみられる病状の特性でもあることに留意することが重要である。例えば、慢性心不全(CHF)のNEにおける神経性遊離と効果的な再取り込みとの間の不均衡がシナプス裂隙のNEの濃度の増加につながり、心筋のβアドレナリン受容体の下方制御を引き起こす。CHF患者では、123I−MIBG心筋シンチグラフィーがiPD患者にみられるのとほぼ同じ心臓再取り込みの減少を示す。SNS活動亢進に関連した同じシンチグラフィーの結果は、通常、iPDに有意に関係した状態である、高血圧症、糖尿病、及び睡眠時無呼吸にもみられる。また、RBDの患者は、iPDに類似する123I−MIBG心筋シンチグラフィー障害を示し、神経変性の別の例と説明される。しかし、RBD及びSAの患者は、SAでないRBDの患者よりも低い123I−MIBG濃度を示し、よくみられる機序を示唆している。
【0081】
重要なことには、β遮断薬による治療がCHF患者の123I−MIBG障害を改善してきた。発明者らは、β遮断薬による治療が同様にPD患者の心臓自律神経障害を改善する可能性があると考えている。123I−MIBG心筋シンチグラフィーに加えて、発明者らは、β遮断薬が、起立性低血圧症、及び心拍数変動を含む他の心臓血管自律神経障害の症状を改善すると考えている。
【0082】
実施例5
パーキンソン病の他の自律性機能異常:便秘の例
心臓血管自律神経障害に加えて、他の自律性機能異常がiPDの患者に極めてよくみられ、発症率の範囲は14%〜80%である。これらの症状は、ノルアドレナリン作用性のモデルをさらに裏づけており、消化管の、尿の、性的、及び発汗運動機能異常を含むことができる。
【0083】
便秘(1週間に3回未満の便通)は、iPD患者の50%以上にみられる主な消化管の症状であり、運動症状に数年先行し、iPD診断のリスクが少なくとも2倍になる。腸部分の自律神経系は、コリン作用性かつオピオイド作動性の神経節細胞を含有するアウエルバッハ神経叢及びマイスネル神経叢に位置する。これらの細胞はともに、交感神経及び副交感神経に神経支配され、ともに腸管充満によって感作され、腸管粘液分泌及び蠕動輸送を調節する。パーキンソン病では、レビー小体及びα−シヌクレイン付着物が、迷走神経及び仙骨核ならびに腸内神経系だけではなく、中枢副交感神経構造(バリントンの排便中枢)において明示される。
【0084】
腸管充満によって感作されると、アウエルバッハの腸筋神経叢及びマイスネルの粘膜下神経叢(セロトニンによって促進されドーパミンによって抑制される)の副交感神経の、迷走神経(腸管上部)刺激及び骨盤(腸管下部)刺激によって圧力波が開始され、これらの圧力波は、腸管下部で、ノルアドレナリン作用性の交感神経の下腹神経によって抑制される。このため、特に食後、腸内の食物が胃大腸反射を促進する場合に、ノルアドレナリン作用性の活動亢進によって圧力波の減少が説明される。
【0085】
バリントンの排便中枢は、LCに厳密に関連している。LC−ノルアドレナリン作用系は、結腸及び膀胱拡張などの内臓刺激によって活性化される。LC及び腰仙部脊髄の神経節前柱の両者へ投射するバリントンの神経核(橋排尿中枢)のニューロンが特定されている。LC放出率の増大は、前脳脳波の活性化と関係していることが多く、これらの刺激によって生じるLC活性化の大きさは、前脳標的に強い影響を与えるのに十分であることを示している。生理的刺激によるLC活性化がこれらの生理的刺激に対する自律性反応と同時に起きる前脳反応を開始するのに重要である可能性がある。動物モデルでは、結腸拡張がLC発火率を増大させた。イボテン酸によって生じたバリントンの神経核の損傷があるラットでは、結腸拡張によるLC活性化の増大が有意に減少し、この核が脳ノルアドレナリン作用系の過度の活性化を調節するのに中心的役割であることを確認した。
【0086】
野生型(WT)ラットでは、頚部の迷走神経の電気刺激(5〜20Hz)が、中位結腸及び遠位結腸で有意な収縮を誘発したが、近位結腸では明白な収縮がみられたのものは少なかった。副交感神経の骨盤神経刺激が、直腸ならびに中位結腸及び遠位結腸で有意な収縮を誘発した。副交感神経拮抗薬(アトロピン)が、迷走神経及び骨盤神経刺激によって誘導された収縮を止めた。他方、交感神経下腹神経刺激が、直腸、中位結腸、及び遠位結腸で弛緩させ、β遮断薬(プロパノロール)が、下腹神経刺激によって誘導された弛緩を止めた。
【0087】
現時点で、パーキンソン病の便秘の基本的な治療としては、身体運動、及び適切な水分補給と組み合わせた、食物繊維、ポリエチレングリコール(PEG)(17g/日)、またはラクツロース(10〜40g/日)、及びプシリウム調剤などの浸透圧下剤が挙げられる。
【0088】
コリン様作用薬(例えば、臭化ピリドスチグミン)、末梢性ドーパミン拮抗薬(例えば、ドンペリドン)、5−HT−4受容体作動薬(例えば、シサプリドまたはモサプリド)、及びプロスタグランジンミソプロストールも、便秘を治療するのに効果的であると報告されているが、ドーパミン様薬剤が、低下した腸管及び肛門機能に有用である可能性がある。本明細書及び特に次の実施例に示したように、ノルアドレナリン作用性の活動亢進を減少させるβ遮断薬により消化管運動機能異常を改善し、iPD患者の便秘を減少させることができる。
【0089】
実施例6
便秘に関するデータ
以下の1人のパーキンソン病患者の、煩わしい便秘、腹部膨満、及び腹痛の、カルベジロールでの治療による予期しない軽減に関する下の症例報告が、その次の、本明細書に報告した患者データの分析のきっかけとなった。
【0090】
症例報告
感じのよい54歳の左手利きの女性が、右肩の筋肉痛を伴う右手の安静時振戦について12ヵ月の病歴を示した。その後、右脚の引きずり、時にはつまずきが始まった。精密診断には、正常な結果の、脳及びC−脊椎のMRIが含まれた。声、嚥下、及び手書きに影響がなかったが、右手でタイプする能力は緩やかに低下した。着替え及び髪の毛を乾かすことを含むいくつかのADLが、次第に遅くなりぎこちなくなった。非運動症状としては、最初、嗅覚低下、「夢の行動化」、及び不安が挙げられた。最初に受診した時は、便秘、起立性めまい、頻尿、睡眠の分断化、抑うつ、または認知低下は無かった。症状発現前に、軽度脳振とうについて7年の病歴があったが、神経弛緩薬への曝露は無かった。患者は、農場で育ち、農薬に曝露された可能性があった。患者に最初にドーパミン作動薬(最大1.5mgTIDの用量のプラミペキソール)を開始したところ、良好な耐薬性を示し、部分的に振戦が抑えられた。1年後、右側の持続性の運動緩徐及び硬直のため、少用量のレボドパ(シネメット25/100TID)を加え、運動症状がほぼ完全に消散した。この間に、彼女は、便秘、睡眠の分断化、及び不安の悪化も発症した。ベンゾジアゼピンの鎮静作用を回避し、不安を治療するために、少用量のβ遮断薬治療(カルベジロール6.25mgBID)を開始した。彼女の不安、便秘、及び睡眠は、すべて劇的に改善した。しかし彼女は、「自分は多くの薬を飲み過ぎていた」を理由に、初めの1月の治療の完了後にカルベジロールを自ら中断した。次の経過観察で、彼女は、煩わしい腹部膨満及び便秘の再発を報告した。同用量でカルベジロールを再度開始し、実際にGI症状が速やかに消散した。
【0091】
患者データ分析
発明者らは、Movement Disorders clinic of Cedars−Sinai Medical Centerにみられる、2010年10月から2014年3月の治療継続中のiPD患者333例について、遡及的、横断的診療記録分析を実施した。最初の受診時に、バイタルサイン、運動及び非運動症状、ドーパミン作動薬による薬物療法、併存症、及び抗高血圧薬物療法を含む、人口統計学的、及び臨床的データを収集した。Excelデータベースに全データを収集し、SPSSバージョン19.0(SPSS,Inc.、Chicago、Illinois)によって分析した。適宜、連続変数を平均±標準偏差で表し、スチューデントのt検定(正規分布)を用いることによって比較するか、または中央値±四分位範囲値で表し、マン−ホイットニーのU検定(非正規分布)を用いることによって比較した。コルモゴロフ−スミルノフ検定を用いてデータ分布の正規性を評価した。カテゴリー変数を比率で表し、χ2検定を用いることによって比較し、リスク比及び95%信頼区間を示した。便秘の独立予測変数を決定するためにロジスティック回帰分析を実施した。その後、多変量分析に、単変量解析でp<0.1に達する変数を含めた。p<0.05で統計的有意性を認めた。
【0092】
(表1)試験コホートの特性
【0093】
有意に、203/327の患者(62.1%、欠測値6)で、診療記録における便秘の存在、または便秘を治療するための薬剤の使用、またはまれな便通、排便時しぶり腹の自覚症状、不完全な排便、及び腹部膨満に関する患者からの報告、と定義される便秘が報告された。便秘と、ドーパミン作用性の治療には、強い相関がみられた。他方、β遮断薬で治療した患者では、28/63(44.4%)だけが便秘を報告した(表2)。
【0094】
(表2)コホートにおける便秘報告
【0095】
(表3)ロジスティック回帰単変量及び多変量分析
【0096】
年齢、性別、PD持続時間、レボドパの使用、ドーパミン作動薬の使用、及びβ遮断薬の使用を含む便秘に関する多変量ロジスティック分析では、便秘であるオッズ比は、レボドパで2.077(p=0.016)、及びドーパミン作動薬治療で1.763(p=0.048)であったが、β遮断薬で治療した患者では0.326(p=0.0003)に減少した。他の抗高血圧薬剤と、このコホートの便秘の主観的報告には、相関関係はみられなかった。
【0097】
(表4)便秘及び心拍数:ドーパミン作動薬との相互作用
【0098】
(表5)便秘及びβ遮断薬:心拍数との相互作用
【0099】
重要なことには、若年者及びβ遮断薬による治療と、このPDコホートの便秘のリスクの少なさには相関がみられたが、ドーパミン作用性の治療は、便秘のリスクを増大させると思われた。年齢及び薬理学的治療について修正を行った疾患持続時間と、便秘のリスクの増大には、相関がみられなかった。上に記載したように、腸運動性は自律性系によって調節されており、β遮断薬により交感神経入力をうまく調整することができる。
【0100】
患者データを考察して、より初期のiPD患者(iPD診断から約5年以下)では、ONでUPDRS part IIIによって測定したとおり、疾患重症度は、β遮断薬を服用している患者で低かった(β遮断薬なしの患者14.57±7に対して10.29±4、p値=0.04)ことを、発明者らは明らかにした。
【0101】
また、発明者らは、疾患持続時間5年超の患者では、β遮断薬と、健忘の少なさ及び全体的な「非運動」性の負担が少ないと思われることとには、相関があることを見出した。
【0102】
実施例7
結論
本明細書に示したように、β遮断薬はノルアドレナリン作用系の過刺激を減少させ、このため、便秘、膀胱過活動、睡眠障害、不安、高血圧症、及びその他を含むiPD患者の非運動症状に関係した自律性機能異常を改善するために用いることができる。症状軽減をもたらすことに加えて、β遮断薬は、LC/SNS活動亢進によって誘導されたα−シヌクレイン/レビー小体の蓄積を減少させることによって、疾患の進行も減速させることができる。レビー小体の異常なα−シヌクレイン蓄積の減少が、最終的に、神経細胞死及び神経変性の率を経時的に減少させる。
【0103】
上に記載した種々の方法及び技術は、本発明を実施するための多くの方法を提供する。言うまでもなく、本明細書に記載した特定の実施形態に従って、必ずしも記載した目的または利点のすべてを実現することができるわけではない。このため、例えば、当業者は、本方法は、必ずしも本明細書に教示するかまたは示した他の目的または利点を実現しないで、本明細書に教示したように1つの利点または一群の利点を実現するまたは最適化する方法で実施することができると認識するであろう。さまざまな代わりのものが本明細書に記載されている。いくつかの好ましい実施形態が、特に1つの、別の、またはいくつかの特徴を含み、一方で、他の実施形態が、特に1つの、別の、またはいくつかの特徴を除外し、一方で、さらに他の実施形態が、1つの、別の、またはいくつかの有利な特徴を含むことにより特定の特徴を減らすと理解しなければならない。
【0104】
さらに、当業者は、さまざまな実施形態から種々の特徴の適用性を認識するであろう。同様に、当業者が本明細書に記載した原理に従った方法を実施するために、上に記載した種々の要素、特徴、及びステップ、ならびにこのような要素、特徴、またはステップそれぞれの他の公知の均等物を種々の組み合わせで用いることができる。種々の要素、特徴、及びステップの中のうち、いくつかは、特に含まれ、他のものは、異なった実施形態で特に除外される。
【0105】
本出願は、ある特定の実施形態及び実施例の文脈で開示されているが、当業者によって、本出願の実施形態が、特に開示した実施形態を超えて他の代わりの実施形態及び/またはこれらの使用、及び修正、及び均等物に及ぶと理解される。
【0106】
いくつかの実施形態では、用語「一つの(a)」、及び「一つの(an)」、及び「その(the)」、及び本出願の特定の実施形態を記載する文脈で用いられる、ほぼ同じ言及は、(特に以下の請求項の特定の文脈で)単数及び複数の両者に及ぶと解釈することができる。本明細書での値の範囲の使用は、範囲内に入る個々の値のそれぞれを個別に指す簡便な方法として役立つことを単に意図している。本明細書に別段に指示しない限り、個々の値のそれぞれは、あたかも本明細書に個々に記載したように明細書に組み入れられる。本明細書に記載したすべての方法は、本明細書に別段に指示しない限り、または文脈により明確に否定しない限り、任意の好適な順序で実施することができる。任意の実施例、及び全実施例、または本明細書のある特定の実施形態に関して提供される例示的な表現(例えば、「など」)の使用は、本出願をより良く明らかにすることを単に意図しており、別段にクレームされていない限り、本出願の範囲を限定するものではない。本明細書にない表現は、本出願の実施に必須である、任意のクレームされていない要素を示すと解釈しなければならない。
【0107】
本出願の好ましい実施形態は、本出願を実施するために発明者らに知られた最も好ましい方法を含んで、本明細書に記載されている。当該説明を読むと、これらの好ましい実施形態の変更は、当業者の変更には明らかである。当業者が適切にこのような変更を用いることができ、特に本明細書に記載したものとは別の方法で本出願を実施することができることが企図される。したがって、本出願の多くの実施形態は、適用法令によって許容されるとおり、本明細書に添付のクレームに記載した発明特定事項の修正及び均等物のすべてを含む。さらに、本明細書に別段に指示しない限り、または文脈により明確に否定しない限り、本出願には、上に記載の要素の可能な変更すべてでこれらの要素の任意の組み合わせが含まれる。
【0108】
本明細書に参照した特許、特許出願、特許出願の公報、及び論文、本、明細書、刊行物、文書、物、及び/または類似のものなどの他の資料のすべてがここで全目的のためにこの参照により全体が本明細書に組み入れられるが、前述のものに関係した出願経過、本文書と一致しないもしくは矛盾する前述のもの、または現在、もしくはのちに本文書に関連したクレームの最も広い範囲に限定する影響がある可能性がある前述のものを除く。実施例として、説明、定義、及び/または組み入れられる資料に関係した、及び本文書に関係した用語の使用の間に不一致または矛盾があっても、本文書の説明、定義、及び/または用語の使用が優先するものとする。
【0109】
最後に、本明細書に開示した本出願の実施形態は、本出願の実施形態の原理の例示であると理解しなければならない。用いることができる他の修正は、本出願の範囲内とすることができる。このため、実施例として、限定するものではないが本明細書の教示に従って本出願の実施形態の代わりの構成を利用することができる。したがって、本出願の実施形態は、示した、及び記載したものと全く同じものに限定されない。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2016年3月3日
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
種々の実施形態では、本発明は、対象の神経変性状態を予防する、治療する、またはその進行を減速させるためのキットを教示する。ある特定の実施形態では、キットは、アドレナリン受容体拮抗薬を含む組成物、及び神経変性状態を予防する、治療する、またはその進行を減速させるのにこれを用いるための指示書を含む。ある特定の実施形態では、神経変性状態は、特発性パーキンソン病(iPD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、純粋自律神経不全症(PAF)、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、及びハンチントン病(HD)から成る群から選択される。いくつかの実施形態では、神経変性状態は、特発性パーキンソン病(iPD)である。ある特定の実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬は、α1、α2、β1、β2、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される受容体の拮抗薬である。ある特定の実施形態では、アドレナリン受容体拮抗薬は、β遮断薬である。いくつかの実施形態では、組成物は、L型カルシウムチャネル遮断活性を有する。いくつかの実施形態では、キットは、さらにL型カルシウムチャネル遮断薬を含む。ある特定の実施形態では、組成物は、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される薬剤を含む。いくつかの実施形態では、キットは、さらにドーパミン作動薬を含む。
[本発明1001]
対象に治療的有効量のアドレナリン受容体拮抗薬を含む組成物を提供する段階を含む、対象の神経変性状態の症状を軽減する、及び/または前記神経変性状態の進行を減速させる方法。
[本発明1002]
前記神経変性状態が、特発性パーキンソン病(iPD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、純粋自律神経不全症(PAF)、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、及びハンチントン病(HD)から成る群から選択される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記神経変性状態が特発性パーキンソン病(iPD)である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
前記アドレナリン受容体拮抗薬が、α1、α2、β1、β2、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される受容体の拮抗薬である、本発明1003の方法。
[本発明1005]
前記アドレナリン受容体拮抗薬がβ遮断薬である、本発明1003の方法。
[本発明1006]
前記組成物がL型カルシウムチャネル遮断活性を有する、本発明1003の方法。
[本発明1007]
前記対象に治療的有効量のL型カルシウムチャネル遮断薬を提供する段階をさらに含む、本発明1003の方法。
[本発明1008]
前記組成物が、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される薬剤を含む、本発明1003の方法。
[本発明1009]
前記対象にドーパミン作動薬を含む組成物を提供する段階をさらに含む、本発明1003の方法。
[本発明1010]
前記対象が哺乳動物である、本発明1003の方法。
[本発明1011]
前記対象がヒトである、本発明1003の方法。
[本発明1012]
前記症状のうちの1つが便秘である、本発明1003の方法。
[本発明1013]
対象にアドレナリン受容体拮抗薬を含む予防的有効量の組成物を提供する段階を含む、前記対象の神経変性状態を予防する方法。
[本発明1014]
前記神経変性状態が、特発性パーキンソン病(iPD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、純粋自律神経不全症(PAF)、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、及びハンチントン病(HD)から成る群から選択される、本発明1013の方法。
[本発明1015]
前記神経変性状態が特発性パーキンソン病(iPD)である、本発明1014の方法。
[本発明1016]
前記アドレナリン受容体拮抗薬が、α1、α2、β1、β2、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される受容体の拮抗薬である、本発明1015の方法。
[本発明1017]
前記アドレナリン受容体拮抗薬がβ遮断薬である、本発明1015の方法。
[本発明1018]
前記組成物がL型カルシウムチャネル遮断活性を有する薬剤を含む、本発明1015の方法。
[本発明1019]
前記対象に治療的有効量のL型カルシウムチャネル遮断薬を提供する段階をさらに含む、本発明1015の方法。
[本発明1020]
前記対象にドーパミン作動薬を提供する段階をさらに含む、本発明1015の方法。
[本発明1021]
前記組成物が、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される薬剤を含む、本発明1015の方法。
[本発明1022]
前記対象が哺乳動物である、本発明1015の方法。
[本発明1023]
前記対象がヒトである、本発明1015の方法。
[本発明1024]
特発性パーキンソン病(iPD)が対象で進行しているかどうかを明らかにする方法であって、
(1)iPDであると疑われる対象、またはiPDであると診断された対象の、ヨウ素−123−メタヨードベンジルグアニジン(123I−MIBG)の心臓摂取量を測定するために最初の分析を実施する段階、及び
(2)次に、前記対象の123I−MIBGの心臓摂取量を測定するために追加の分析を実施する段階であって、前記追加の分析で前記最初の分析と比べて、123I−MIBGの心臓摂取量が減少した場合、iPDが前記対象で進行していることが明らかになり、前記追加の分析で前記最初の分析と比べて、前記123I−MIBGの心臓摂取量が減少しなかった場合、iPDが前記対象で進行していないことが明らかになる、段階
を含む、方法。
[本発明1025]
前記123I−MIBGの心臓摂取量が、123I−MIBGの心筋シンチグラフィーによって測定される、本発明1024の方法。
[本発明1026]
前記最初の分析とその次の分析の間に、1つ以上のアドレナリン受容体拮抗薬を含む組成物が前記対象に投与され、前記アドレナリン受容体拮抗薬が、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される、本発明1024または1025の方法。
[本発明1027]
対象の特発性パーキンソン病(iPD)の存在または非存在を診断する方法であって、iPDであると疑われる対象のヨウ素−123−メタヨードベンジルグアニジン(123I−MIBG)の心臓摂取量を測定するための分析を実施する段階、及び前記123I−MIBGの心臓摂取量がiPDでない対象より少ない場合、前記対象がiPDであると診断すること、及び前記123I−MIBGの心臓摂取量がiPDでない対象より少なくない場合、前記対象がiPDでないと診断する段階を含む、方法。
[本発明1028]
前記123I−MIBGの心臓摂取量が、123I−MIBGの心筋シンチグラフィーによって測定される、本発明1027の方法。
[本発明1029]
アドレナリン受容体拮抗薬を含む組成物、及び
神経変性状態を予防する、治療する、またはその進行を減速させるのにこれを用いるための指示書
を含む、対象の神経変性状態を予防する、治療する、またはその進行を減速させるためのキット。
[本発明1030]
前記神経変性状態が、特発性パーキンソン病(iPD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、純粋自律神経不全症(PAF)、アルツハイマー病(AD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、及びハンチントン病(HD)から成る群から選択される、本発明1029のキット。
[本発明1031]
前記神経変性状態が特発性パーキンソン病(iPD)である、本発明1030のキット。
[本発明1032]
前記アドレナリン受容体拮抗薬が、α1、α2、β1、β2、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される受容体の拮抗薬である、本発明1031のキット。
[本発明1033]
前記アドレナリン受容体拮抗薬がβ遮断薬である、本発明1031のキット。
[本発明1034]
前記組成物がL型カルシウムチャネル遮断活性を有する、本発明1031のキット。
[本発明1035]
L型カルシウムチャネル遮断薬をさらに含む、本発明1031のキット。
[本発明1036]
前記組成物が、アセブトロール、ベタキソロール、ビソプロポロール、ボピンドロール、カルベジロール、メトプロロール、オクスプレノロール、プロプラノロール、及びチモロールから成る群から選択される薬剤を含む、本発明1031のキット。
[本発明1037]
ドーパミン作動薬をさらに含む、本発明1031のキット。
【国際調査報告】